(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090064
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】光学デバイスおよび光学装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20240627BHJP
G02F 1/31 20060101ALI20240627BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
G02F1/01 D
G02F1/31
G02F1/13 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205708
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】酒井 寛人
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 翼
(72)【発明者】
【氏名】田中 博
【テーマコード(参考)】
2H088
2K102
【Fターム(参考)】
2H088EA47
2H088HA22
2H088HA24
2H088HA28
2H088MA20
2K102AA21
2K102BA05
2K102BA08
2K102BB04
2K102BC04
2K102CA18
2K102DA01
2K102DA08
2K102DC08
2K102DD05
2K102DD10
2K102EA09
2K102EA12
2K102EA18
2K102EA23
2K102EB02
2K102EB04
2K102EB10
2K102EB20
(57)【要約】
【課題】光軸に垂直な面内における平行光の配置パターンを高速かつ自在に切り替え可能な光学デバイスを提供する。
【解決手段】光学デバイス1は、電気光学結晶体10と、複数の電界形成部20と、第1レンズアレイ30と、光遮蔽部材40と、第2レンズアレイ50と、を備える。電気光学結晶体10は、主面11に第1平行光L1を受け、裏面12から第1平行光L1を出力する。複数の電界形成部20は、一次元状または二次元状に並んで配置される。複数の電界形成部20は、強さが周期的に変化する電界を電気光学結晶体10内に形成し、その電界の状態をそれぞれ独立して制御可能である。第1レンズアレイ30は、電気光学結晶体10から出力された第1平行光L1を複数の第1レンズ31それぞれにおいて集光する。光遮蔽部材40は、集光された光L2を、電界形成部20の電界の状態に応じて、複数の領域41それぞれにおいて通過させ又は遮蔽する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面および裏面を有し、前記主面に第1平行光を受け、前記裏面から前記第1平行光を出力する板状の電気光学結晶体と、
前記電気光学結晶体の前記主面または前記裏面に沿った面内において一次元状または二次元状に並んで配置され、前記主面または前記裏面に沿った方向において強さが周期的に変化する電界を前記電気光学結晶体内に形成し、前記電界の状態をそれぞれ独立して制御可能である複数の電界形成部と、
複数の電界形成部とそれぞれ対応する複数の第1レンズを有し、前記電気光学結晶体の前記裏面から出力された前記第1平行光を前記複数の第1レンズそれぞれにおいて集光する第1レンズアレイと、
前記複数の電界形成部とそれぞれ対応する複数の領域を有し、前記複数の第1レンズそれぞれによって集光された光を、対応する前記電界形成部の前記電界の状態に応じて、前記複数の領域それぞれにおいて通過させ又は遮蔽するように構成された光遮蔽部材と、
前記複数の領域とそれぞれ対応する複数の第2レンズを有し、前記光遮蔽部材を通過した前記光を前記複数の第2レンズそれぞれにおいて第2平行光に変換する第2レンズアレイと、
を備える、光学デバイス。
【請求項2】
前記複数の電界形成部それぞれは、
前記主面に設けられた第1透明電極と、
前記裏面に設けられた第2透明電極と、
を有し、
前記第1透明電極および前記第2透明電極のうち一方または双方が、前記方向において周期的である構造を含む、請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項3】
前記第1透明電極および前記第2透明電極のうち一方または双方は櫛形である、請求項2に記載の光学デバイス。
【請求項4】
前記複数の領域それぞれは、前記複数の第1レンズそれぞれによって集光された光を、対応する前記電界形成部の前記電界がオフ状態であるときに通過させ、対応する前記電界形成部の前記電界がオン状態であるときに遮蔽するように構成されている、請求項1または2に記載の光学デバイス。
【請求項5】
前記複数の第1レンズそれぞれは、主に前記方向において屈折力を有するシリンドリカルレンズであり、
前記複数の領域それぞれは、前記シリンドリカルレンズの延在方向に沿って延在するスリットを含む、請求項1または2に記載の光学デバイス。
【請求項6】
前記電気光学結晶体を搭載する配線基板を更に備え、
前記配線基板は、前記複数の電界形成部とそれぞれ電気的に接続され、前記複数の電界形成部に駆動電圧をそれぞれ供給する複数の端子を有する、請求項1または2に記載の光学デバイス。
【請求項7】
前記電気光学結晶体はKTN結晶を含む、請求項1または2に記載の光学デバイス。
【請求項8】
請求項1または2に記載の光学デバイスと、
前記光学デバイスの前記第2レンズアレイから出力された前記第2平行光を受けて、前記第2平行光の位相を画素毎に変調する液晶型の空間光変調器と、
を備え、
前記空間光変調器は、前記光学デバイスの前記複数の電界形成部にそれぞれ対応する複数の変調領域を有する、光学装置。
【請求項9】
前記複数の電界形成部の前記電界の状態、および前記空間光変調器の変調パターンを制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記複数の変調領域に前記第2平行光が順次入射するように前記複数の電界形成部を制御するとともに、前記複数の変調領域に前記第2平行光が入射し終えたのちに前記変調パターンを更新する、請求項8に記載の光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学デバイスおよび光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~7は、光変調器を開示する。それらの光変調器は、電気光学結晶と、電気光学結晶内部に個別に電界を形成する複数の電極と、を有する。電気光学結晶は、例えば、比誘電率が1000以上であるペロブスカイト型の電気光学結晶である。電気光学結晶は、例えば、KTN結晶、KLTN結晶、又はPLZT結晶である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/213098号
【特許文献2】国際公開第2017/213099号
【特許文献3】国際公開第2017/213100号
【特許文献4】国際公開第2017/213101号
【特許文献5】国際公開第2019/111332号
【特許文献6】国際公開第2019/111333号
【特許文献7】国際公開第2019/111334号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光軸に垂直な面内における平行光の配置パターンを高速かつ自在に切り替え可能な結晶を用いた光学デバイスは有用である。一例として、そのような光学デバイスと空間光変調器との組み合わせが挙げられる。すなわち、空間的に光の位相を変調する際には、空間光変調器が用いられる。空間光変調器には、特許文献1~7に挙げられたような電気光学結晶を備えるものの他に、液晶層を備えるもの(液晶型空間光変調器)がある。液晶型空間光変調器では、複数の電極のそれぞれによって液晶層内部に個別に電界を形成する。しかし、液晶型空間光変調器では、液晶層内部における電界の時間変化に対して液晶の応答が遅延するので、変調パターンの切り替えの高速性が損なわれるという問題がある。そこで、例えば、液晶型空間光変調器の変調領域を複数の領域に分割し、上述したような光学デバイスを用いて複数の領域それぞれに平行光を順次入力させることにより、解像度を犠牲にしつつ、変調パターンの切り替えを高速化することができる。
【0005】
本開示は、光軸に垂直な面内における平行光の配置パターンを高速かつ自在に切り替え可能な光学デバイス、および、変調パターンの切り替えを高速化することができる光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本開示による光学デバイスは、板状の電気光学結晶体と、複数の電界形成部と、第1レンズアレイと、光遮蔽部材と、第2レンズアレイと、を備える。電気光学結晶体は、主面および裏面を有し、主面に第1平行光を受け、裏面から第1平行光を出力する。複数の電界形成部は、電気光学結晶体の主面または裏面に沿った面内において一次元状または二次元状に並んで配置される。複数の電界形成部は、電気光学結晶体の主面または裏面に沿った方向において強さが周期的に変化する電界を電気光学結晶体内に形成し、その電界の状態をそれぞれ独立して制御可能である。第1レンズアレイは、複数の電界形成部とそれぞれ対応する複数の第1レンズを有し、電気光学結晶体の裏面から出力された第1平行光を複数の第1レンズそれぞれにおいて集光する。光遮蔽部材は、複数の電界形成部とそれぞれ対応する複数の領域を有し、複数の第1レンズそれぞれによって集光された光を、対応する電界形成部の電界の状態に応じて、複数の領域それぞれにおいて通過させ又は遮蔽するように構成されている。第2レンズアレイは、複数の領域とそれぞれ対応する複数の第2レンズを有し、光遮蔽部材を通過した光を複数の第2レンズそれぞれにおいて第2平行光に変換する。
【0007】
上記[1]の光学デバイスでは、或る電界形成部により電気光学結晶体内部に電界が形成されると、その電界形成部に対応する電気光学結晶体内部の領域において、屈折率の周期的な変化が瞬時に生じる。屈折率に周期的な変化が生じている電気光学結晶体を第1平行光が通過すると、第1平行光の位相分布が変化する。よって、第1平行光が第1レンズによって集光されたときには、互いに分離した複数の集光点に光が集光される。これに対し、複数の電界形成部それぞれにより電気光学結晶体内部に電界が形成されないときには、電気光学結晶体内部には屈折率の周期的な変化は生じない。そのような電気光学結晶体を第1平行光が通過しても、第1平行光の位相分布に変化は生じない。よって、第1平行光が第1レンズによって集光されたときには、単一の集光点に光が集光される。
【0008】
光遮蔽部材の各領域は、対応する第1レンズによって集光された光を、対応する電界形成部の電界の状態に応じて、通過させるか又は遮蔽する。一例では、光遮蔽部材の各領域は、互いに分離した複数の集光点に光が集光されるときにその光を遮蔽し、単一の集光点に光が集光されるときにその光を通過させる。別の例では、光遮蔽部材の各領域は、互いに分離した複数の集光点に光が集光されるときにその光を通過させ、単一の集光点に光が集光されるときにその光を遮蔽する。従って、第1平行光において複数の電界形成部にそれぞれ対応する複数の部分が光遮蔽部材を通過するか否かを、部分毎に自在に決定することができる。第1レンズアレイによって集光された光のうち光遮蔽部材を通過した光は、対応する第2レンズによって第2平行光に変換され、光学デバイスの外部へ出力される。そして、電界を形成する電界形成部を切り替えることによって、光軸に垂直な面内における平行光の配置パターンを、高速かつ自在に切り替えることができる。
【0009】
[2]上記[1]の光学デバイスにおいて、複数の電界形成部それぞれは、主面に設けられた第1透明電極と、裏面に設けられた第2透明電極と、を有してもよい。第1透明電極および第2透明電極のうち一方または双方は、上記方向において周期的である構造を含んでもよい。その場合、電気光学結晶体内に周期的な電界を形成しつつ、電気光学結晶体を第1平行光が通過する構成を、簡易に実現することができる。
【0010】
[3]上記[2]の光学デバイスにおいて、第1透明電極および第2透明電極のうち一方または双方は櫛形であってもよい。その場合、周期的な構造を含む第1透明電極および/または第2透明電極と、透明電極に電圧を印加するための配線との接続点の数が少なくて済むので、透明電極に電圧を印加するための構造を単純化することができる。
【0011】
[4]上記[1]~[3]のいずれか一つの光学デバイスにおいて、複数の領域それぞれは、複数の第1レンズそれぞれによって集光された光を、対応する電界形成部の電界がオフ状態であるときに通過させ、対応する電界形成部の電界がオン状態であるときに遮蔽するように構成されてもよい。電界形成部の電界がオン状態であるとき、電気光学結晶体内に周期的な屈折率分布が生じ、第1平行光の位相分布が変化する。その第1平行光が光遮蔽部材を通過すると、その位相分布が第2平行光にも残留し、光学デバイスの後段に配置される光学要素がその位相分布の影響を受けてしまう。これに対し、電界形成部の電界がオフ状態であるときには、電気光学結晶体内の屈折率分布は変化せず、第1平行光の位相分布は変化しない。よって、第1レンズによって集光された光を、電界形成部の電界がオフ状態であるときに通過させることにより、光学デバイスの後段に配置される光学要素への影響を低減できる。
【0012】
[5]上記[1]~[4]のいずれか一つの光学デバイスにおいて、複数の第1レンズそれぞれは、電界の強さが周期的に変化する方向において主に屈折力を有するシリンドリカルレンズであり、複数の領域それぞれは、シリンドリカルレンズの延在方向に沿って延在するスリットを含んでもよい。その場合、シリンドリカルレンズの集光位置とスリットとの位置合わせを、シリンドリカルレンズが主に屈折力を有する方向においてのみ行えば足りる。よって、光学デバイスの製造を簡易化することができる。
【0013】
[6]上記[1]~[5]のいずれか一つの光学デバイスは、電気光学結晶体を搭載する配線基板を更に備えてもよい。配線基板は、複数の電界形成部とそれぞれ電気的に接続され、複数の電界形成部に駆動電圧をそれぞれ供給する複数の端子を有してもよい。その場合、配線基板を通じて、複数の電界形成部に駆動電圧を容易に供給することができる。
【0014】
[7]上記[1]~[6]のいずれか一つの光学デバイスにおいて、電気光学結晶体はKTN結晶を含んでもよい。
【0015】
[8]本開示による光学装置は、上記[1]~[7]のいずれか一つの光学デバイスと、光学デバイスの第2レンズアレイから出力された第2平行光を受けて、第2平行光の位相を画素毎に変調する液晶型の空間光変調器と、を備えてもよい。空間光変調器は、光学デバイスの複数の電界形成部にそれぞれ対応する複数の変調領域を有してもよい。この光学装置によれば、解像度を犠牲にしつつ、変調パターンの切り替えを高速化することができる。
【0016】
[9]上記[8]の光学装置は、複数の電界形成部の電界の状態、および空間光変調器の変調パターンを制御する制御部を更に備えてもよい。制御部は、複数の変調領域に第2平行光が順次入射するように複数の電界形成部を制御するとともに、複数の変調領域に第2平行光が入射し終えたのちに変調パターンを更新してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、光軸に垂直な面内における平行光の配置パターンを高速かつ自在に切り替え可能な光学デバイス、および、変調パターンの切り替えを高速化することができる光学装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本開示の第1実施形態に係る光学デバイスの構成を示す断面図である。
【
図2】
図2の(a)および(b)は、電気光学結晶体および複数の電界形成部を拡大して示す斜視図である。
【
図3】
図3の(a)は、電界が形成されないときの電気光学結晶体内の状態を示す模式図である。
図3の(b)は、電界が形成されているときの電気光学結晶体内の状態を示す模式図である。
【
図4】
図4の(a)、(b)および(c)は、第2平行光の切り替えの例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、第1透明電極および第2透明電極へ電圧を供給する方式の例を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、第1透明電極および第2透明電極へ電圧を供給する方式の別の例を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、本開示の第2実施形態に係る光学装置の構成を概略的に示す図である。
【
図8】
図8は、本開示の第3実施形態に係る光学装置の構成を概略的に示す図である。
【
図10】
図10は、光学装置の動作を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、光学装置の動作の例を示すタイミングチャートである。
【
図12】
図12は、本開示の第4実施形態に係る光学装置の構成を概略的に示す図である。
【
図13】
図13は、第1透明電極および第2透明電極の双方が周期的構造を含む形態における、(a)電界が形成されないときおよび(b)電界が形成されているときの電気光学結晶体内の状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本開示による光学デバイスおよび光学装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
(第1実施形態)
【0020】
図1は、本開示の第1実施形態に係る光学デバイス1の構成を示す断面図である。
図1に示されるように、本実施形態の光学デバイス1は、板状の電気光学結晶体10と、複数の電界形成部20と、第1レンズアレイ30と、光遮蔽部材40と、第2レンズアレイ50と、を備える。
【0021】
電気光学結晶体10は、例えばKTN結晶、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸カリウム、タンタル酸リチウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二カリウム、およびチタン酸バリウムのうち少なくとも一つの結晶を含む。KTN結晶は、ニオブ酸カリウムおよびタンタル酸カリウムの混合結晶であり、電気光学効果として光カー効果を示す。一例では、電気光学結晶体10はKTN結晶からなる。電気光学結晶体10は、主面11および裏面12を有する。一例では、主面11および裏面12は互いに平行である。電気光学結晶体10の厚み方向は、主面11および裏面12の法線方向と一致する。電気光学結晶体10は、主面11の法線方向に沿った光軸を有する第1平行光L1を主面11に受ける。第1平行光L1は、例えばレーザダイオード、SLD(Super Luminescent Diode)、または固体レーザから出力されたレーザ光である。第1平行光L1の波長は、例えば300nm以上3000nm以下である。この第1平行光L1は、電気光学結晶体10の厚み方向に電気光学結晶体10を透過する。電気光学結晶体10は、透過した第1平行光L1を裏面12から出力する。第1平行光L1の透過率を最大化するため、主面11および裏面12は研磨されている。
【0022】
複数の電界形成部20は、主面11および/または裏面12に沿った面内において、一次元状または二次元状に並んで配置されている。
図1には、3つの電界形成部20が一列に並んでいる例が示されているが、電界形成部20の個数および列数はこれに限られない。複数の電界形成部20は、電気光学結晶体10の主面11および/または裏面12に沿った方向D1において強さが周期的に変化する電界を、電気光学結晶体10内に形成する。複数の電界形成部20は、その電界の状態をそれぞれ独立して制御可能に構成されている。
【0023】
図2の(a)および(b)は、電気光学結晶体10および複数の電界形成部20を拡大して示す斜視図である。
図2の(a)は電気光学結晶体10を主面11側から見た斜視図であり、
図2の(b)は電気光学結晶体10を裏面12側から見た斜視図である。
図2の(a)に示されるように、電気光学結晶体10の主面11上には複数の(図示例では3つの)第1透明電極21が設けられている。図中において、第1透明電極21が存在する領域は網点で示されている。
図2の(b)に示されるように、電気光学結晶体10の裏面12の全面上には第2透明電極22が設けられている。図中において、第2透明電極22が存在する領域は網点で示されている。第1透明電極21および第2透明電極22の構成材料は、例えば、酸化スズなどのスズ添加酸化インジウム、またはフッ素添加酸化スズである。第1透明電極21および第2透明電極22は、例えば真空蒸着によって電気光学結晶体10の表面に形成される。
【0024】
複数の第1透明電極21それぞれは、方向D1において周期的である構造を含む。周期的である構造とは、例えば、第1透明電極21の部分が存在する領域と、第1透明電極21の部分が存在しない領域とが周期的に交互に並ぶ構造である。一例では、第1透明電極21は、方向D1において複数の櫛歯が並ぶ櫛形である。
【0025】
複数の電界形成部20それぞれは、一つの第1透明電極21と、第2透明電極22のうち該第1透明電極21に対向する領域とによって構成される。電気光学結晶体10は二次の電気光学効果である光カー効果を有しており、一つの第1透明電極21と第2透明電極22との間に電圧が印加されると、それらの間における電気光学結晶体10内の部分に、該電圧の大きさに応じた電界が形成される。
図3の(a)は、電界が形成されないときの電気光学結晶体10内の状態を示す模式図である。
図3の(b)は、電界が形成されているときの電気光学結晶体10内の状態を示す模式図である。
図3の(a)に示されるように、第1透明電極21と第2透明電極22との間に電界が形成されないときには、電気光学結晶体10内の屈折率分布は方向D1において一様である。これに対し、
図3の(b)に示されるように、第1透明電極21と第2透明電極22との間に電界が形成されると、電気光学結晶体10内において、電界が形成される領域A1の屈折率が他の領域に対して瞬時に変化する。その結果、その電界形成部20に対応する電気光学結晶体10内部の領域において、屈折率が方向D1に沿って周期的に且つ瞬時に変化し、屈折率分布が二値の回折格子を形成する。
【0026】
再び
図1を参照する。第1レンズアレイ30は、マイクロレンズアレイであって、電気光学結晶体10の裏面12と対向して配置されている。第1レンズアレイ30の光軸は、第1平行光L1の光軸と平行である。第1レンズアレイ30は、複数の(図示例では3つの)第1レンズ31を有する。複数の第1レンズ31は、複数の電界形成部20とそれぞれ対応している。第1レンズアレイ30は、電気光学結晶体10の裏面12から出力された第1平行光L1を、複数の第1レンズ31それぞれにおいて集光する。複数の第1レンズ31それぞれは、例えば凸レンズである。複数の第1レンズ31それぞれは、主に第1透明電極21の周期構造の方向(図示例では方向D1)において屈折力を有するシリンドリカルレンズであってもよい。
【0027】
屈折率に周期的な変化が生じている電気光学結晶体10の領域を第1平行光L1が通過すると、第1平行光L1の位相分布が変化する。よって、第1平行光L1が第1レンズ31によって集光されたときには、第1レンズ31を通過後の光L2は、第1透明電極21の周期構造の方向(図示例では方向D1)において互いに分離した複数の集光点P1に集光される。これに対し、屈折率の周期的な変化が生じていない電気光学結晶体10の領域を第1平行光L1が通過しても、第1平行光L1の位相分布に変化は生じない。よって、第1平行光L1が第1レンズ31によって集光されたときには、第1レンズ31を通過後の光L2は、単一の集光点P2に集光される。図示例では、方向D1に沿って並ぶ3つの電界形成部20のうち両端に位置する2つの電界形成部20のみが電界を形成し、中央に位置する電界形成部20は電界を形成していない。なお、第1レンズ31がシリンドリカルレンズである場合、集光点P1,P2は、シリンドリカルレンズの延在方向(言い換えると、第1透明電極21の周期構造の方向および第1平行光L1の光軸方向の双方と交差する方向)に沿って線状に延びた形状を有する。
【0028】
光遮蔽部材40は、第1レンズアレイ30を挟んで電気光学結晶体10の裏面12と対向して配置されている。光遮蔽部材40は、例えばメタルマスクである。光遮蔽部材40は、複数の電界形成部20とそれぞれ対応する複数の領域41を有する。複数の領域41は、複数の第1レンズ31とそれぞれ対応しており、複数の第1レンズ31とそれぞれ光学的に結合されている。光遮蔽部材40は、複数の第1レンズ31それぞれによって集光された光L2を、対応する電界形成部20の電界の状態に応じて、複数の領域41それぞれにおいて通過させ又は遮蔽するように構成されている。
【0029】
図示例では、光遮蔽部材40の各領域41は、互いに分離した複数の集光点P1に光L2が集光されるとき、言い換えると、対応する電界形成部20の電界がオン状態であるときにその光L2を遮蔽し、単一の集光点P2に光L2が集光されるとき、言い換えると、対応する電界形成部20の電界がオフ状態であるときにその光L2を通過させる。そのため、図示例の光遮蔽部材40の各領域41は、単一の集光点P2に対応する単一の光学開口42を有する。単一の集光点P2に光L2が集光されるとき、光L2は光学開口42を通過する。また、互いに分離した複数の集光点P1に光L2が集光されるとき、光L2は光学開口42の外側において光遮蔽部材40によって遮蔽される。光学開口42は、光遮蔽部材40に形成された開口であってもよく、ガラスなどの透明な材料によって構成されてもよい。或いは、ガラスなどの透明な板の表面の光学開口42を除く領域に遮光性の膜が設けられることによって、光遮蔽部材40が構成されてもよい。第1レンズ31がシリンドリカルレンズである場合、光学開口42は、そのシリンドリカルレンズの延在方向に沿って延在するスリットであってもよい。第1平行光L1の波長をλ、電界形成部20が形成する電界の周期をXとすると、光学開口42の幅は例えば(λF)/Xである。但し、実際には第1平行光L1の光強度分布およびモードの影響などにより、光学開口42の幅は(λF)/Xと異なってもよい。
【0030】
別の例では、光遮蔽部材40の各領域41は、互いに分離した複数の集光点P1に光L2が集光されるときにその光L2を通過させ、単一の集光点P2に光L2が集光されるときにその光L2を遮蔽してもよい。その場合、光遮蔽部材40の各領域41は、複数の集光点P1に対応する光学開口を有する。その場合の光学開口の構成は、上述した光学開口42と同様であってもよい。
【0031】
第2レンズアレイ50は、マイクロレンズアレイであって、光遮蔽部材40の第1レンズアレイ30と対向する面とは反対側の面と対向して配置されている。言い換えると、光遮蔽部材40は、第1レンズアレイ30と第2レンズアレイ50との間に位置する。第2レンズアレイ50の光軸は、光L2の光軸と平行である。第2レンズアレイ50は、複数の(図示例では3つの)第2レンズ51を有する。複数の第2レンズ51は、光遮蔽部材40の複数の領域41とそれぞれ対応しており、複数の領域41の光学開口42とそれぞれ光学的に結合されている。第2レンズアレイ50は、光遮蔽部材40を通過した光L2を、複数の第2レンズ51それぞれにおいて第2平行光L3に変換する。第1レンズアレイ30により集光された光L2のうち光遮蔽部材40を通過した光L2は、対応する第2レンズ51によって第2平行光L3に変換され、光学デバイス1の外部へ出力される。複数の第2レンズ51それぞれは、例えば凸レンズである。複数の第1レンズ31それぞれがシリンドリカルレンズである場合、複数の第2レンズ51それぞれもまた、主に第1透明電極21の周期構造の方向(図示例では方向D1)において屈折力を有するシリンドリカルレンズである。
【0032】
電気光学結晶体10、第1レンズアレイ30、光遮蔽部材40、および第2レンズアレイ50それぞれの間隔は、第1レンズアレイ30および第2レンズアレイ50の焦点距離と等しくてもよく、或いは異なっていてもよい。
【0033】
以上に説明した本実施形態の光学デバイス1によれば、複数の電界形成部20それぞれが電気光学結晶体10内に電界を形成するか否かを電界形成部20毎に独立して制御することにより、複数の電界形成部20にそれぞれ対応する第1平行光L1の複数の部分が光遮蔽部材40を通過するか否かを、部分毎に自在に決定することができる。そして、電界を形成する電界形成部20を切り替えることによって、光軸に垂直な面内における第2平行光L3の配置パターンを、例えばkHzオーダーといった高速で、自在に切り替えることができる。
【0034】
図4の(a)、(b)および(c)は、第2平行光L3の切り替えの例を示す模式図である。
図4の(a)は、
図1に示された3つの領域41のうち最も端に位置する領域41のみを光L2が通過し、他の2つの領域41において光L2が遮蔽されたときの第2平行光L3の出射位置を示す。
図4の(b)は、
図1に示された3つの領域41のうち中央に位置する領域41のみを光L2が通過し、他の2つの領域41において光L2が遮蔽されたときの第2平行光L3の出射位置を示す。
図4の(c)は、
図1に示された3つの領域41のうち中央に位置する領域41のみにおいて光L2が遮蔽され、他の2つの領域41を光L2が通過したときの第2平行光L3の出射位置を示す。なお、複数の領域41の全てに光L2を通過させてもよい。このように、本実施形態の光学デバイス1によれば、光軸に垂直な面内における第2平行光L3の配置パターンを、自在に切り替えることができる。
【0035】
図示例のように電界形成部20の個数が3である場合、一つの領域41のみを通過させる3通りの第2平行光L3の配置パターン、2つの領域41を通過させる3通りの第2平行光L3の配置パターン、および全ての領域41を通過させる1通りの第2平行光L3の配置パターンといった計7つの配置パターンが実現可能である。電界形成部20の個数がmである場合、実現可能な配置パターンの数は下記の数式(1)で表される。
【数1】
【0036】
本実施形態のように、複数の電界形成部20それぞれは、主面11に設けられた第1透明電極21と、裏面12に設けられた第2透明電極22と、を有してもよい。第1透明電極21および第2透明電極22のうち一方または双方は、周期的構造を含んでもよい。その場合、電気光学結晶体10内に周期的な電界を形成しつつ、電気光学結晶体10を第1平行光L1が通過する構成を、簡易に実現することができる。
【0037】
本実施形態のように、第1透明電極21および第2透明電極22のうち一方または双方は櫛形であってもよい。その場合、周期的な構造を含む第1透明電極21および/または第2透明電極22と、これらの透明電極に電圧を印加するための配線(例えば
図5に示される端子62)との接続点の数が少なくて済むので、透明電極に電圧を印加するための構造を単純化することができる。
【0038】
本実施形態のように、光遮蔽部材40の複数の領域41それぞれは、複数の第1レンズ31それぞれによって集光された光L2を、対応する電界形成部20の電界がオフ状態であるときに通過させ、対応する電界形成部20の電界がオン状態であるときに遮蔽するように構成されてもよい。電界形成部20の電界がオン状態であるとき、電気光学結晶体10内に周期的な屈折率分布が生じ、第1平行光L1の位相分布が変化する。その第1平行光L1が集光されてなる光L2が光遮蔽部材40を通過すると、その位相分布が第2平行光L3にも残留し、光学デバイス1の後段に配置される光学要素がその位相分布の影響を受けてしまう。これに対し、電界形成部20の電界がオフ状態であるときには、電気光学結晶体10内の屈折率分布は変化せず、第1平行光L1の位相分布は変化しない。よって、光遮蔽部材40の複数の領域41それぞれが、第1レンズ31によって集光された光L2を、電界形成部20の電界がオフ状態であるときに通過させるように構成されることにより、光学デバイス1の後段に配置される光学要素への影響を低減できる。
【0039】
前述したように、複数の第1レンズ31それぞれは、電界の強さが周期的に変化する方向において主に屈折力を有するシリンドリカルレンズであってもよく、複数の領域41それぞれは、シリンドリカルレンズの延在方向に沿って延在するスリットを含んでもよい。その場合、シリンドリカルレンズの集光位置とスリットとの位置合わせを、シリンドリカルレンズが主に屈折力を有する方向においてのみ行えば足りる。よって、光学デバイス1の製造を簡易化することができる。
【0040】
なお、本実施形態の光学デバイス1と同様の機能を有するデバイスとして、音響光学素子である光偏向器AOD(Acoustic optic deflector)がある。しかし、光偏向器AODでは、光学系が複雑になり、また光軸が変化するため高い調整技術が要求される。本実施形態の光学デバイス1は、第1平行光L1の光軸に対して電気光学結晶体10の主面11が垂直になるように配置すれば良く、また光軸が変化しないので、他のデバイス(例えば空間光変調器)との組み合わせに有用である。
【0041】
ここで、
図5は、第1透明電極21および第2透明電極22へ電圧を供給する方式の例を示す斜視図である。
図5に示されるように、光学デバイス1は、電気光学結晶体10を搭載する配線基板60を更に備えてもよい。図示例では、配線基板60は電気光学結晶体10の主面11と対向している。なお、簡略化のため、
図5において第1レンズアレイ30、光遮蔽部材40、及び第2レンズアレイ50は図示を省略されている。
【0042】
配線基板60は、光学開口61と、複数の端子62と、端子63とを有する。光学開口61は、電気光学結晶体10と対向する位置に形成され、第1平行光L1を通過させる。光学開口61は、配線基板60に形成された開口であってもよく、ガラスなどの透明な材料によって構成されてもよい。或いは、配線基板60自体がガラスなどの透明な材料によって構成されてもよい。その場合、光学開口61は不要である。複数の端子62それぞれは、複数の第1透明電極21それぞれと電気的に接続される。図示例では、複数の端子62それぞれは、導電ペースト64によって、複数の第1透明電極21それぞれと導電接合されている。導電ペースト64に代えて、半田などの導電性接着材が用いられてもよい。複数の端子62は、複数の第1透明電極21に駆動電圧をそれぞれ供給する。端子63は、第2透明電極22と電気的に接続されている。図示例では、端子63は、ボンディングワイヤ65を介して、第2透明電極22と電気的に接続されている。端子63は、例えば基準電位(グランド電位)に設定される。
【0043】
配線基板60は、コネクタ付き配線66Aを介して別の配線基板67と接続されている。配線基板67は、複数の電界形成部20とそれぞれ対応する複数のスイッチング素子68を搭載する。また、配線基板67には、コネクタ付き配線66Bを介してコンピュータのI/O接続端子(不図示)が接続される。コンピュータからは、複数のスイッチング素子68の動作を制御する信号S1が入力される。また、配線基板67には、コネクタ付き配線66Cを介して直流電源(不図示)が接続される。直流電源からは、複数の電界形成部20に印加される直流電源電圧V1が供給される。各スイッチング素子68は、対応する端子62とコネクタ付き配線66Aを介して接続されている。各スイッチング素子68は、コンピュータから信号S1を受けると、直流電源電圧V1を対応する端子62に供給する。この直流電源電圧V1は、その端子62に接続された第1透明電極21に印加される。
【0044】
図5に示される例では配線基板60が単一の電気光学結晶体10を搭載しているが、
図6に示されるように、配線基板60は複数の電気光学結晶体10を搭載してもよい。その場合、各電気光学結晶体10における複数の電界形成部20の並び方向(方向D1)と交差する方向に複数の電気光学結晶体10を並べることにより、複数の電界形成部20を二次元状に配列することができる。
【0045】
上述したように、光学デバイス1は、電気光学結晶体10を搭載する配線基板60を更に備えてもよい。その場合、配線基板60を通じて、複数の電界形成部20に駆動電圧を容易に供給することができる。
(第2実施形態)
【0046】
図7は、本開示の第2実施形態に係る光学装置70Aの構成を概略的に示す図である。本実施形態の光学装置70Aは、第1実施形態の光学デバイス1と、光源71と、ミラー72と、対物レンズ73と、ミラー74と、集光レンズ75と、撮像部76と、制御部77と、I/Oコントローラ78とを備える。
【0047】
光学デバイス1は、光源71と光学的に結合され、光源71から第1平行光L1を受ける。光源71は、例えばレーザダイオード、SLD、または固体レーザを含む。ミラー72は、例えばハーフミラーまたは誘電体ミラーであり、光学デバイス1から出力された第2平行光L3を透過させる。対物レンズ73は、ミラー72を透過した第2平行光L3を対象物Bの照射対象面B1に向けて集光する。照射対象面B1は、対物レンズ73によって集光された光L4を受けて、光L5を発生する。例えば、光L5は照射対象面B1における散乱光である。或いは、第2平行光L3および光L4が励起光である場合、光L5は、励起された対象物Bから出力された蛍光である。光L5は、対物レンズ73によって平行光L6とされる。平行光L6は、ミラー72において反射されることにより、第2平行光L3から分離される。平行光L6は、ミラー74によって反射されたのち、集光レンズ75によって撮像部76に向けて集光される。撮像部76は、集光レンズ75によって集光された光L7を撮像して撮像データを生成する。
【0048】
図示例では、2本の第2平行光L3が集光されて照射対象面B1に照射されている。この場合、集光面である照射対象面B1を除く他の面では、2本の光L4が互いに干渉することによって干渉縞が形成される。この干渉縞は構造化照明として活用され得る。或いは、一列に並んでいない3本の第2平行光L3が集光されて照射対象面B1に照射されてもよい。その場合、3本の光L4が互いに干渉し、格子状の光点が形成される。この格子状の光点が構造化照明として活用されてもよい。
【0049】
I/Oコントローラ78は、光学デバイス1と電気的に接続され、光学デバイス1の複数の電界形成部20に駆動電圧を印加する。I/Oコントローラ78は、制御部77と電気的に接続され、制御部77によって制御される。I/Oコントローラ78は、例えば
図5に示された配線基板67および複数のスイッチング素子68を備える。制御部77は、例えば
図5に示された信号S1をI/Oコントローラ78に与える。制御部77は、パーソナルコンピュータ、スマートフォンまたはタブレット端末といったスマートデバイス、あるいはクラウドサーバといったコンピュータである。制御部77としてのコンピュータは、HDDと、フラッシュメモリまたはRAM等の記憶装置と、プロセッサ(CPU)とを有する。制御部77は、マイコンまたはFPGA(Field-Programmable Gate Array)によって構成されていてもよい。
【0050】
本実施形態の光学装置70Aによれば、光学デバイス1を備えることにより、光軸に垂直な面内における第2平行光L3の配置パターンを高速かつ自在に切り替えることができる。よって、照射対象面B1に対して照射される光L4の照射領域の形状を高速かつ自在に切り替えることができる。
(第3実施形態)
【0051】
図8は、本開示の第3実施形態に係る光学装置70Bの構成を概略的に示す図である。本実施形態の光学装置70Bは、第1実施形態の光学デバイス1と、光源71と、ミラー72と、対物レンズ73と、ミラー74a、74bおよび74cと、集光レンズ75と、撮像部76と、制御部79と、SLMコントローラ80と、空間光変調器(SLM)81と、を備える。
【0052】
光源71から出力される第1平行光L1は、空間的に位相が揃ったコヒーレントなレーザ光である。光学デバイス1は、光源71と光学的に結合され、光源71から第1平行光L1を受ける。ミラー74aおよび74bは、光学デバイス1から出力された第2平行光L3を反射することにより第2平行光L3をSLM81へ導く。SLM81は、液晶型のSLMである。SLM81は、複数の画素を有し、第2平行光L3を受けて、第2平行光L3の位相を画素毎に変調する。SLM81は、反射型であってもよく、透過型であってもよい。ミラー72は、例えばハーフミラーまたは誘電体ミラーであり、SLM81から出力された変調後の第2平行光L3を透過させる。対物レンズ73は、ミラー72を透過した第2平行光L3を対象物Bの照射対象面B1に向けて集光する。照射対象面B1は、対物レンズ73によって集光された光L4を受けて、光L5を発生する。例えば、第2平行光L3および光L4が励起光である場合、光L5は、励起された対象物Bから出力された蛍光である。光L5は、対物レンズ73によって平行光L6とされる。平行光L6は、ミラー74によって反射されたのち、集光レンズ75によって撮像部76に向けて集光される。撮像部76は、集光レンズ75によって集光された光L7を撮像して撮像データを生成する。
【0053】
SLMコントローラ80は、SLM81と電気的に接続され、SLM81に変調パターンを示す信号を与える。また、SLMコントローラ80は、光学デバイス1と電気的に接続され、光学デバイス1の複数の電界形成部20に駆動電圧を印加する。更に、SLMコントローラ80は、撮像部76と電気的に接続され、撮像タイミングを示すトリガ信号を撮像部76に提供する。SLMコントローラ80は、制御部79と電気的に接続され、制御部79によって制御される。SLMコントローラ80は、例えば
図5に示された配線基板67および複数のスイッチング素子68を備える。制御部79は、複数の電界形成部20の電界の状態、およびSLM81の変調パターンを制御する。制御部79は、例えば
図5に示された信号S1をSLMコントローラ80に与える。制御部79は、パーソナルコンピュータ、スマートフォンまたはタブレット端末といったスマートデバイス、あるいはクラウドサーバといったコンピュータである。制御部79としてのコンピュータは、HDDと、フラッシュメモリまたはRAM等の記憶装置と、プロセッサ(CPU)とを有する。制御部79は、マイコンまたはFPGA(Field-Programmable Gate Array)によって構成されていてもよい。
【0054】
SLM81は、光学デバイス1の複数の電界形成部20にそれぞれ対応する複数の変調領域を有する。そして、各変調領域において個別の変調パターンが呈示される。変調パターンは、例えば、構造化照明に必要な二光束干渉パターン、または格子パターンを示す多光束干渉パターンであってもよい。その場合、照射対象面B1には、二次元状に分布する複数(例えば5×5もしくは1×5)の光点が形成される。形成される光点の配置及び個数は、変調領域毎に異なってもよい。このように、各変調領域において個別の変調パターンが呈示されることにより、第2平行光L3の配置パターンの切り替えに応じて照射対象面B1における照射パターンが変化する。
【0055】
ここで、説明のため、光学デバイス1が3行3列(計9個)の電界形成部20を備えるものとする。
図9は、そのときのSLM81の光変調面を示す図である。
図9に示されるように、SLM81は、電界形成部20と同数の9個の変調領域M(1)~M(9)を有する。変調領域M(1)~M(9)は、電界形成部20と同様に、3行3列に配列されている。変調領域M(1)~M(9)は、9個の電界形成部20と一対一で対応する。9個の変調領域M(1)~M(9)のそれぞれには、対応する電界形成部20を通過し、光学デバイス1から出力された第2平行光L3が入射して変調される。9個の電界形成部20への印加電圧を制御部79が制御することにより、変調領域M(1)~M(9)に第2平行光L3が順次入射して変調される。そして、制御部79は、変調領域M(1)~M(9)に第2平行光L3が入射し終えたのちに、SLMコントローラ80を通じてSLM81の変調パターンを更新する。その後、再び9個の電界形成部20への印加電圧を制御部79が制御することにより、変調領域M(1)~M(9)に第2平行光L3が順次入射して変調される。光学装置70Bは、このような動作を繰り返す。
【0056】
図10は、光学装置70Bの動作を示すフローチャートである。
図10に示されるように、まず、制御部79がSLMコントローラ80を通じてSLM81の変調パターンを設定する(ステップST1)。この変調パターンには、複数の変調領域M(1)~M(9)それぞれにおける個別の変調パターンが含まれる。次に、制御部79がSLMコントローラ80を通じて9個の電界形成部20を制御することにより、変調領域M(1)に第2平行光L3を入射させる(ステップST2)。そして、制御部79がSLMコントローラ80を通じて、撮像部76に撮像タイミングを示すトリガ信号を提供する(ステップST3)。その後、ステップST2に戻り、変調領域M(2)に第2平行光L3を入射させ、ステップST3を再び行う。このように、全ての変調領域M(1)~M(9)に第2平行光L3を順次入射させつつ、その都度ステップST3を行う。全ての変調領域M(1)~M(9)に第2平行光L3を入射し終えたのち(ステップST4:YES)、ステップST1に戻り、SLM81の変調パターンを更新する。この変調パターンには、複数の変調領域M(1)~M(9)それぞれにおける個別の変調パターンが含まれる。そして、ステップST2~ST4を再び繰り返す。予め用意された全ての変調パターンを呈示し終えたのち(ステップST5:YES)、光学装置70Bは動作を終了する。
【0057】
本実施形態の光学装置70Bによって得られる効果は次の通りである。液晶型のSLM81では、複数の電極のそれぞれによって液晶層内部に個別に電界を形成する。しかし、液晶層内部における電界の時間変化に対して液晶の応答が遅延するので、変調パターンの切り替えの高速性が損なわれるという問題がある。本実施形態では、SLM81の光変調面を複数の変調領域M(1)~M(9)に分割し、光学デバイス1を用いて複数の変調領域M(1)~M(9)それぞれに第2平行光L3を順次入力させる。これにより、解像度を犠牲にしつつ、変調パターンの切り替えを高速化することができる。これにより、光学装置70Bは、高速レートでのホログラフィックな光制御によって、高速現象の観察、または高速なフレームレートが要求される光ピンセット技術もしくは原子トラップ技術に適用され得る。
【0058】
上記の説明では全ての変調領域M(1)~M(9)に第2平行光L3を入射し終えたのちにSLM81の変調パターンを更新しているが、SLM81の変調パターンを二つ以上の領域(例えば三つの領域)に分割し、領域毎に変調パターンを更新してもよい。
図11は、そのような動作の例を示すタイミングチャートである。
図11において、線G1は、変調領域M(1)~M(9)への第2平行光L3の入射期間を表す。線G1がハイレベルである区間ではいずれかの変調領域へ第2平行光L3が入射されており、線G1の近傍に付された数字は第2平行光L3が入射される変調領域M(i)の番号iを表す。線G2は、変調領域M(1)~M(3)の変調パターンを呈示する期間を表す。線G2がハイレベルである区間T1では変調領域M(1)~M(3)の変調パターンが呈示される。線G3は、変調領域M(4)~M(6)の変調パターンを呈示する期間を表す。線G3がハイレベルである区間T2では変調領域M(4)~M(6)の変調パターンが呈示される。線G4は、変調領域M(7)~M(9)の変調パターンを呈示する期間を表す。線G4がハイレベルである区間T3では変調領域M(7)~M(9)の変調パターンが呈示される。
【0059】
なお、液晶層の応答が遅延するため、例えば区間T1において変調領域M(1)~M(3)の変調パターンを呈示する場合、区間T1より前のタイミングt1において変調領域M(1)~M(3)の電極への電圧印加を開始する。そして、区間T1の終端において電極への電圧印加を終了した後、変調パターンの呈示状態が完全に終了するのは区間T1の後のタイミングt2である。区間T2において変調領域M(4)~M(6)の変調パターンを呈示する場合、および区間T3において変調領域M(7)~M(9)の変調パターンを呈示する場合に関しても同様である。
【0060】
このように、SLM81の変調パターンを二つ以上の領域に分割し、領域毎に変調パターンを更新することによって、
図11のタイミングチャートに示されるように、液晶層の応答時間に影響されずに変調領域M(1)~M(9)への第2平行光L3の入射を繰り返すことが可能となる。従って、変調パターンの切り替えを更に高速化することができる。
(第4実施形態)
【0061】
図12は、本開示の第4実施形態に係る光学装置70Cの構成を概略的に示す図である。本実施形態の光学装置70Cは、第3実施形態の光学装置70Bの構成に加えて、SLMコントローラ82と、SLM83とを更に備える。また、本実施形態の撮像部76は、一方向に並ぶ複数の光入射領域の光を順次検出するローリングシャッタ方式を有する。
【0062】
SLMコントローラ82は、SLM83と電気的に接続され、SLM83に変調パターンを示す信号を与える。SLMコントローラ82は、制御部79と電気的に接続され、制御部79によって制御される。制御部79は、SLMコントローラ82を通じて、SLM83に呈示される変調パターンを制御する。SLM83に呈示される変調パターンは、集光レンズ75による光L7の集光像を複数の位置に形成させる。各位置における光L7の集光像は互いに同一像である。撮像部76がローリングシャッタ方式を有するので、撮像部76は、各位置に形成された光L7の集光像を、等間隔の時間差を設けつつ順次撮像する。これにより、光L7の集光像を撮像部76の本来のフレームレートよりも速いレートで撮像することができる。
【0063】
本開示による光学デバイスおよび光学装置は、上述した各実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上述した第1実施形態では、第1透明電極21が方向D1において周期的である構造を含み、第2透明電極22が裏面12の全面にわたって形成されている。この形態に限られず、第1透明電極21が主面11の全面にわたって形成され、第2透明電極22が方向D1において周期的である構造を含んでもよい。その場合、第2透明電極22は櫛形であってもよい。
【0064】
或いは、第1透明電極21および第2透明電極22の双方が方向D1において周期的である構造を含んでもよい。その場合、第1透明電極21および第2透明電極22の双方が櫛形であってもよい。
図13は、そのような形態において(a)電界が形成されないときおよび(b)電界が形成されているときの電気光学結晶体10内の状態を示す模式図である。
図13の(b)に示されるように、そのような形態においても、第1透明電極21と第2透明電極22との間に電界が形成されると、電気光学結晶体10内において、電界が形成される領域A1の屈折率が他の領域に対して瞬時に変化する。その結果、その電界形成部20に対応する電気光学結晶体10内部の領域において、屈折率が方向D1に沿って周期的に且つ瞬時に変化する。また、第1透明電極21および第2透明電極22の双方が方向D1において周期的である構造を含む場合には、第1透明電極21または第2透明電極22が主面11または裏面12の全面にわたって形成されている場合と比較して、方向D1における電界の拡がりを抑えることができる。よって、周期的な屈折率分布をより整った形で形成することができる。
【0065】
また、上記実施形態では、複数の第1透明電極21の周期的構造における周期の方向が、複数の第1透明電極21間において互いに一致している。この形態に限られず、少なくとも一つの第1透明電極21の周期的構造における周期の方向は、他の第1透明電極21の周期的構造における周期の方向と異なってもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、第1透明電極21および/または第2透明電極22の形状として櫛形を例示している。強さが周期的に変化する電界を電気光学結晶体10内に形成する電界形成部は、この形態に限られない。例えば、電界形成部は、二次元状に配列された複数の透明電極を有してもよく、その場合、強さが周期的に変化する電界を形成するように、該複数の透明電極の一部に対して選択的に電圧が印加されてもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、電界形成部が透明電極により構成される形態を例示したが、電界形成部は不透明な電極(例えば金属電極)によって構成されてもよい。その場合、電極は、第1平行光L1が通過するための構造(例えば開口部)を有するとよい。
【符号の説明】
【0068】
1…光学デバイス、10…電気光学結晶体、11…主面、12…裏面、20…電界形成部、21…第1透明電極、22…第2透明電極、30…第1レンズアレイ、31…第1レンズ、40…光遮蔽部材、41…領域、42…光学開口、50…第2レンズアレイ、51…第2レンズ、60…配線基板、61…光学開口、62,63…端子、64…導電ペースト、65…ボンディングワイヤ、66A,66B,66C…コネクタ付き配線、67…配線基板、68…スイッチング素子、70A,70B,70C…光学装置、71…光源、72…ミラー、73…対物レンズ、74,74a,74b,74c…ミラー、75…集光レンズ、76…撮像部、77,79…制御部、78…I/Oコントローラ、80,82…SLMコントローラ、81,83…空間光変調器(SLM)、A1…領域、B…対象物、B1…照射対象面、D1…方向、L1…第1平行光、L2,L4,L5,L7…光、L3…第2平行光、L6…平行光、M(1)~M(9),M(i)…変調領域、P1,P2…集光点、S1…信号、V1…直流電源電圧。