(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090068
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】地熱流体流量の測定方法及び測定システム
(51)【国際特許分類】
G01F 1/00 20220101AFI20240627BHJP
G01F 1/704 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
G01F1/00 H
G01F1/00 M
G01F1/704
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205713
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(72)【発明者】
【氏名】宇井 慎弥
(72)【発明者】
【氏名】加藤 太一郎
(72)【発明者】
【氏名】和田 梓
(72)【発明者】
【氏名】姜 天龍
(72)【発明者】
【氏名】宇井 ふみ
(72)【発明者】
【氏名】福田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 雅人
【テーマコード(参考)】
2F030
2F035
【Fターム(参考)】
2F030CC17
2F030CE04
2F035AA06
2F035FA08
2F035FB05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い精度で地熱流体の流量の測定する方法及びシステム。
【解決手段】a)地熱流体流路の第1測定地点で、地熱流体のシリカ濃度C
1、温度T
1、及び圧力P
1を測定する工程と、b)地熱流体流路の第2測定地点で、地熱流体のシリカ濃度C
2、温度T
2、及び圧力P
2を測定する工程と、c)地熱流体のpHを測定する工程とd)予め得られた地熱流体の組成と、前記工程a)、b)、及びc)に基づき、シリカ重合速度予測式を決定する工程と、e)前記工程d)と、前記工程a)及びb)で得られたシリカ濃度C
1、C
2から、前記第1測定地点から前記第2測定地点までの流体滞留時間Δtを予測する工程と、f)前記工程e)と、前記第1測定地点と前記第2測定地点との間の流路容積とに基づいて、流体の体積流量を得る工程とを含む、地熱流体流量の測定方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)地熱流体流路の第1測定地点で、地熱流体のシリカ濃度C1、温度T1、及び圧力P1を測定する工程と、
b)地熱流体流路の第2測定地点で、地熱流体のシリカ濃度C2、温度T2、及び圧力P2を測定する工程と、
c)地熱流体のpHを測定する工程と
d)予め得られた地熱流体中の総シリカ濃度と、前記工程a)、b)、及びc)に基づき、シリカ重合速度予測式を決定する工程と、
e)前記工程d)で得られたシリカ重合速度予測式と、前記工程a)及びb)で得られたシリカ濃度C1、C2から、前記第1測定地点から前記第2測定地点までの流体滞留時間Δtを予測する工程と、
f)前記工程e)で得られた流体滞留時間Δtと、前記第1測定地点と前記第2測定地点との間の流路容積とに基づいて、流体の体積流量を得る工程と
を含む、地熱流体流量の測定方法。
【請求項2】
g)前記工程a)及びb)で得られた温度T1、T2、及び圧力P1、P2に基づき、地熱流体の密度を算出する工程と、
h)前記工程g)で得られた密度と、前記f)で得られた流体の体積流量から、流体の質量流量を得る工程と
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程d)が、前記地熱流体中の総シリカ濃度をシリカ初期濃度C0として、時間tに対するシリカの溶存濃度Cの曲線を得る工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1測定地点と、前記第2測定地点との距離が、300m以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記流路が、バイナリーサイクル式発電設備の流路であり、
前記第1測定地点が当該設備の地熱流体入口であり、前記第2測定地点が当該設備の地熱流体出口である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
地熱流体が流れる流路と、
前記流路の第1測定地点に配置された、地熱流体の第1シリカ濃度C1測定部、第1温度T1測定部、及び第1圧力P1測定部を含む第1測定部と、
前記流路の第2測定地点に配置された、地熱流体の第2シリカ濃度C2測定部、第2温度T2測定部、及び第2圧力P2測定部を含む第2測定部と、
地熱流体のpHを測定するpH測定部と、
前記第1測定部、第2測定装置、及びpH測定部の測定結果と、予め得られた地熱流体の組成に基づいて地熱流体流量を演算する演算部と
を含む、地熱流体流量の測定システム。
【請求項7】
前記演算部が、請求項1に記載の工程d)からf)を実施する、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記演算部による演算結果を表示・出力する、表示・出力部をさらに含む、請求項6に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地熱流体流量の測定方法及び測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地熱熱水の流量を測定する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1は、前記地熱熱水の温度と異なる温度の希釈水を前記熱水と混合させて熱水-希釈水混合体を得、前記希釈水の流量F0及び温度T0を測定し、前記地熱熱水の温度T1を測定し、前記熱水-希釈水混合体の温度T2を測定して、前記流量F0並びに温度T0、T1及びT2に基づき熱量計算を行うことにより前記地熱熱水の流量Fxを算出することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高い精度で地熱流体の流量の測定する方法及びシステムが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、地熱発電設備内の異なる2以上の地点における地熱流体中の溶存シリカ濃度の変化に着目し、これに基づいて地熱流体の流量を計算し、課題を解決可能であることに想到し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、一実施形態によれば、地熱流体流量の測定方法であって、
a)地熱流体流路の第1測定地点で、地熱流体のシリカ濃度C1、温度T1、及び圧力P1を測定する工程と、
b)地熱流体流路の第2測定地点で、地熱流体のシリカ濃度C2、温度T2、及び圧力P2を測定する工程と、
c)地熱流体のpHを測定する工程と
d)予め得られた地熱流体中の総シリカ濃度と、前記工程a)、b)、及びc)に基づき、シリカ重合速度予測式を決定する工程と、
e)前記工程d)で得られたシリカ重合速度予測式と、前記工程a)及びb)で得られたシリカ濃度C1、C2から、前記第1測定地点から前記第2測定地点までの流体滞留時間Δtを予測する工程と、
f)前記工程e)で得られた流体滞留時間Δtと、前記第1測定地点と前記第2測定地点との間の流路容積とに基づいて、流体の体積流量を得る工程と
を含む、地熱流体流量の測定方法に関する。
【0007】
前記地熱流体流量の測定方法において、
g)前記工程a)及びb)で得られた温度T1、T2、及び圧力P1、P2に基づき、地熱流体の密度を算出する工程と、
h)前記工程g)で得られた密度と、前記f)で得られた流体の体積流量から、流体の質量流量を得る工程と
をさらに含むことが好ましい。
【0008】
前記地熱流体流量の測定方法において、前記工程d)が、前記地熱流体中の総シリカ濃度をシリカ初期濃度C0として、時間tに対するシリカの溶存濃度Cの曲線を得る工程を含むことが好ましい。
【0009】
前記地熱流体流量の測定方法において、前記第1測定地点と、前記第2測定地点との距離が、300m以上であることが好ましい。
【0010】
前記地熱流体流量の測定方法において、前記流路が、バイナリーサイクル式発電設備の流路であり、前記第1測定地点が当該設備の地熱流体入口であり、前記第2測定地点が当該設備の地熱流体出口であることが好ましい。
【0011】
本発明は、別の実施形態によれば、地熱流体流量の測定システムであって、
地熱流体が流れる流路と、
前記流路の第1測定地点に配置された、地熱流体の第1シリカ濃度C1測定部、第1温度T1測定部、及び第1圧力P1測定部を含む第1測定部と、
前記流路の第2測定地点に配置された、地熱流体の第2シリカ濃度C2測定部、第2温度T2測定部、及び第2圧力P2測定部を含む第2測定部と、
地熱流体のpHを測定するpH測定部と、
前記第1測定部、第2測定装置、及びpH測定部の測定結果と、予め得られた地熱流体の組成に基づいて地熱流体流量を演算する演算部と
を含む、地熱流体流量の測定システムに関する。
【0012】
前記地熱流体流量の測定システムにおいて、前記演算部が、前述の工程d)からf)を実施することが好ましい。
【0013】
前記地熱流体流量の測定システムにおいて、前記演算部による演算結果を表示・出力する、表示・出力部をさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る地熱流体流量の測定方法及び測定システムによれば、従来知られているトレーサ希釈法と異なり、バッチ処理を行うことなく高精度で流体流量を得ることができる。本発明に係る地熱流体流量の測定方法及び測定システムは、地熱発電設備のモニタリング及び制御に好適であり、精確性と簡便性を両立する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る地熱流体流量の測定方法及び測定システムを概念的に示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る地熱流体流量の測定方法及び測定システムにおける、第1演算部で算出されるシリカ重合速度予測式の概要を示す図である。
【
図3】
図3は、シリカ重合反応の初期段階における溶存濃度を正確に予測するためのフィッティングにおいて用いられる頻度因子Aの予測曲線を示す片対数グラフであり、縦軸は対数スケール(logarithmic scale)である。頻度因子Aを用いることで、5minの時間点で、各温度における実験値を再現することができる。
【
図4】
図4は、pHが7~14の領域における実効反応係数Jの変化を示すグラフである。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係る地熱流体流量の測定方法及び測定システムにおける、第3演算部で算出される地熱流体の滞留時間算定の概要を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る地熱流体流量の測定方法及び測定システムが適用される地熱発電設備の一例を概念的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0017】
本発明は一実施形態によれば、地熱流体流量の測定方法及びシステムに関する。本実施形態による地熱流体流量の測定方法とは、地熱流体のpH、及び流路の少なくとも2カ所における、地熱流体の温度、圧力、及び地熱流体中のシリカ濃度を実測し、これらの実測値と、地熱流体の組成、流路情報から、計算により地熱流体流量を得る方法であって、流量計等を用いることなく流量を得る方法である。本実施形態による地熱流体流量の測定方法及びシステムは、地熱流体が流通する流路を備える機器に適用され、好ましくは地熱発電設備に適用される。
【0018】
本実施形態において測定対象となる地熱流体とは、地熱貯留層に形成された坑井(生産井)から採取された蒸気及び熱水に由来する流体であって、地熱発電設備を流れるケイ酸を含む流体である。ケイ酸を含む流体とは、例えば、Si(OH)4、Si(OH)3O-、SiO2(OH)2
2-、Si2O2(OH)5
-、及び/またはSi2O3(OH)4
2-を含むがこれらには限定されない、SiとOHを含む化学種を含む流体をいう。ケイ酸を含む流体は、液体であってもよく、気液二相流であってもよい。本実施形態による方法では、液体でも、気体を含む流体でも同様に、精確な流量測定が可能である。
【0019】
本実施形態に係る測定方法により得られる地熱流体流量とは、単位時間当たりの地熱流体の体積(体積流量(m3/h))、及び/または質量(質量流量(ton/h))をいうものとする。
【0020】
図1は、本発明の地熱流体流量の測定方法を実施可能な、地熱流体流量の測定システムの一例を示す概念的な説明図である。なお、
図1は、発明を説明するための概念図であって、発明を構成する複数の装置間の配置や相対的な距離は、図示された実施形態に限定されるものではない。
図1を参照すると、本実施形態によるシステムは、地熱流体Fが流れる流路1を備える。流路1には、流体の流れ方向の上流側に位置する第1測定地点と、下流側に位置する第2測定地点が設けられる。
【0021】
図中、第1測定地点に対応して第1バルブB1が設けられる。第1バルブB1近傍には、pH測定部2、第1圧力測定部3、第1温度測定部4が設けられる。流路1には第1バルブB1の開閉により接続可能な分岐流路が設けられ、分岐流路は、第1冷却部7を介して第1シリカ濃度C1測定部8に接続される。第1圧力測定部3、第1温度測定部4及び第1シリカ濃度C1測定部8を含む複数の測定部を、第1測定部と指称する場合がある。また、第2測定地点に対応して第2バルブB2が設けられる。第2バルブB2近傍には、第2圧力測定部5、第2温度測定部6が設けられる。流路1には第2バルブB2の開閉により接続可能な分岐流路が設けられ、分岐流路は、第2冷却部9を介して第2シリカ濃度C2測定部10が接続される。第2圧力測定部5、第2温度測定部6及び第2シリカ濃度C2測定部10を含む複数の測定部を、第2測定部と指称する場合がある。第1バルブB1と、第2バルブB2は、離間して配置され、これらのバルブ間の距離をLとする。また、第1バルブB1と、第2バルブB2の間の流路径をφとする。
【0022】
なお、図示はしないが、3点、またはそれ以上の測定地点があってもよい。この場合、各測定地点に、少なくとも、流体の圧力測定部、温度測定部、及び流体を冷却する冷却部を介して接続されたシリカ濃度測定部を有することが好ましい。3点、またはそれ以上の測定地点は、第1測定地点と第2測定地点の間にあってもよく、第2測定地点よりも下流にあってもよい。複数の測定地点のうち少なくとも2点間の距離Lが、後述する条件を満たしていることが好ましい。
【0023】
流路1には、サンプリングバルブB0がさらに設けられる。サンプリング用バルブB0の設けられる位置は特には限定されないが、例えば、第1測定地点よりも上流側とすることができる。サンプリング用バルブB0には、サンプリング部11が接続される。サンプリング部11は、地熱流体の組成分析部D1にサンプルを移送可能に構成することができる。
【0024】
これらのpH測定部2、第1圧力測定部3、第1温度測定部4、第2圧力測定部5、第2温度測定部6、第1シリカ濃度C1測定部8及び第2シリカ濃度C2測定部10、及び組成分析部D1は、各測定部の測定結果または分析部の分析結果を演算部に送信可能に構成される。演算部は、第1演算部C1、第2演算部C2、第3演算部C3、第4演算部C4、及び第5演算部C5を備える。第5演算部C5は、演算結果を表示・出力部E1に送信可能に構成される。
【0025】
次に、各構成要素について説明する。流路1は、地熱流体が流れる配管であってよい。ただし、第1バルブB1と、第2バルブB2との間に、分岐やバルブが存在せず、第1バルブB1と、第2バルブB2の間で、地熱流体の流入や流出がない配管とする。流路1は一般的に、断面が直径φの円形状の配管であってよいが、直径φは、第1バルブB1と、第2バルブB2の間で一定である必要はない。第1バルブB1と、第2バルブB2との間の距離Lは、一般的に長いほどよく、フラッシュ式の発電設備では、例えば、Lは300m以上であってよく、600m以上とすることが好ましい。バイナリーサイクル式の発電設備では、例えば、地熱流体の入口に第1バルブB1を設け、出口に第2バルブB2を設けることができる。
【0026】
pH測定部2は、流体のpHを測定可能な装置であってよく、一般的に用いられるガラス電極pHメータであってよい。あるいは、pH測定部2は、流体の温度や組成に基づいてシミュレーションによりpHを算出する装置であってもよい。pH測定部2は、第1測定部の近傍に配置することが好ましいが、地熱流体に他の流体が混合する場合にはその直下にて混合後の流体のpHが測定可能な態様でpH測定部を配置することができ、第1測定部と第2測定部の中間、第2測定部の近傍などにpH測定部を配置することも可能である。
【0027】
第1圧力測定部3は、流路1を流れる流体の圧力を測定可能な装置であればよく、通常の圧力計であってよい。第1温度測定部4は、流路1を流れる流体の温度を測定可能な装置であればよく、接触式の温度計であってもよく、非接触式で温度を測定可能な装置であってもよい。第1圧力測定部3及び第1温度測定部4は、第1シリカ濃度C1測定部8で測定される試料の圧力及び温度を測定することを目的とする。したがって、第1圧力測定部3及び第1温度測定部4の配置は、第1バルブB1の上流であって、第1バルブB1の近傍とすることが好ましい。
【0028】
第2圧力測定部5及び第2温度測定部5は、先の第1圧力測定部3及び第1温度測定部4と同様の装置を用いることができる。また、第2圧力測定部5及び第2温度測定部5の配置は、第2バルブB2の上流であって、第2バルブB2の近傍とすることが好ましい。
【0029】
第1冷却部7は、第1バルブB1から分岐する分岐流路を流れる100℃程度の流体を冷却し、気体と液体が混在しうる流体を、短時間で、完全に液化する程度まで冷却可能な装置あればよく、例えば、流体を50~80℃程度まで冷却可能な装置であればよく、一般的な冷却装置を用いることができる。第1シリカ濃度C1測定部8は、流体中のシリカの濃度を測定可能な装置であればよい。例えば、モリブデンイエロー吸光光度法やモリブデンブルー吸光光度法に基づいて、流体中のシリカ濃度を測定することができる装置であってよいが特定の装置には限定されない。第1冷却部7及び第1シリカ濃度C1測定部8は、濃度の測定対象となる流体が分岐流路に流入後、短時間で測定個所に到達するように構成されていることが好ましく、短い配管で冷却、測定サンプルの調製が可能に構成されていることが好ましい。
【0030】
サンプリング部11は、組成分析に必要な量の地熱流体を採取可能に構成される。組成分析部D1は、流体中に含まれる総シリカ濃度Ctを測定可能な装置であればよい。総シリカ濃度Ctの定義については、後述する。組成分析部D1は、地熱発電設備に付帯してオンサイトで測定可能な装置であってもよいが、地熱流体中に含まれるSiの定量分析が可能な外部の分析機関であってもよい。地熱流体の流量測定に先立って、地熱流体に含まれる総シリカ濃度Ctが測定できればよい。
【0031】
第1演算部C1、第2演算部C2、第3演算部C3、第4演算部C4、及び第5演算部C5は、いずれも後述の各工程において詳述する演算(計算)が可能な装置であればよく、コンピュータであってよい。また、便宜上、これらの演算部を別個の要素として説明したが、これらの演算部は、いずれも、同一のコンピュータであってもよく、同一のコンピュータにそれぞれの演算を行わせることができる。
【0032】
次に、本発明に係る地熱流体流量の測定方法を説明する。地熱流体流量の測定方法は以下の工程を含む。
a)地熱流体流路の第1測定地点で、地熱流体のシリカ濃度C1、温度T1、及び圧力P1を測定する工程
b)地熱流体流路の第2測定地点で、地熱流体のシリカ濃度C2、温度T2、及び圧力P2を測定する工程
c)地熱流体のpHを測定する工程と
d)予め得られた地熱流体の組成と、前記工程a)、b)、及びc)に基づき、シリカ重合速度予測式を決定する工程
e)前記工程d)で得られたシリカ重合速度予測式と、前記工程a)及びb)で得られたシリカ濃度C1、C2から、前記第1測定地点から前記第2測定地点までの流体滞留時間Δtを予測する工程
f)前記工程e)で得られた流体滞留時間Δtと、前記第1測定地点と前記第2測定地点との間の流路容積とに基づいて、流体の体積流量を得る工程
地熱流体流量の測定方法は、任意選択的に、以下の工程を含んでもよい。
g)前記工程a)及びb)で得られた温度T1、T2、及び圧力P1、P2に基づき、地熱流体の密度を算出する工程
h)前記工程g)で得られた密度と、前記f)で得られた流体の体積流量から、流体の質量流量を得る工程
【0033】
測定方法の各工程を実施するに先立って、予め、測定対象となる地熱発電設備の地熱流体の組成を分析する工程を実施する。地熱流体の組成分析は、流体中の総シリカ濃度Ctを得る目的で実施する。本明細書において、流体中の総シリカ濃度Ctとは、測定対象となる流体中に存在するシリカのtotal濃度である。計算上は、流体中に存在する全てのSi原子の量に基づいて計算したシリカ単量体(Si(OH)4)の、流体中における重量%濃度(ppm)を総シリカ濃度Ctとする。地熱流体においては、総シリカ濃度Ctのうち、飽和濃度を超えた部分が、シリカスケールとして析出する。地熱流体の組成分析は、例えば、1年に1回から10回程度の頻度で実施することができる。また、例えば、複数の生産井から地熱流体を得る場合には、地熱流体を噴出する生産井を変更したり、複数の生産井からの地熱流体の流量比を意図的に変更したりするタイミングで、実施することが好ましい。地熱流体の組成分析により流体中のSi原子の質量もしくはモル量を得た後、当該Si原子が全てシリカ単量体(Si(OH)4)を形成していると仮定し、地熱流体中のシリカ単量体の重量%濃度を計算により求めることができる。組成分析は、流路1に設けられたサンプリングバルブB0からサンプリング部11に抽出した流体を試料とする。試料は、組成分析部D1で分析し、結果は、組成分析部D1から第1演算部C1に送信することができる。
【0034】
測定方法の各工程を実施するに先立って、予め、第1測定地点と前記第2測定地点との間の流路容積を得る工程を実施する。流路容積は、流路1となる配管の径φが一定であれば、径φと第1測定地点と前記第2測定地点との距離Lから計算することができる。配管の径φが一定でない場合も、測定対象となる第1測定地点と前記第2測定地点との流路の設計仕様に合わせて、流路容積を得ることができる。流路容積は、入力部D2において入力し、第4演算部C4に送信することができる。
【0035】
工程a)では、地熱流体流路の第1測定地点で、地熱流体のシリカ濃度C1、温度T1、及び圧力P1を測定する。地熱流体のシリカ濃度C1、温度T1、及び圧力P1は、先に説明した第1シリカ濃度C1測定部8、第1温度測定部4、及び第1圧力測定部3でそれぞれ測定することができる。温度T1、及び圧力P1の測定値は、第1演算部C1及び任意選択的に第2演算部C2に送信する。シリカ濃度C1の測定値は、第3演算部C3に送信する。地熱流体のシリカ濃度C1は、第1バルブB1をとって分取した流体を、可能な限り短時間で冷却し、分析することが好ましい。長くとも1分以内、例えば10秒以内で、配管から分取した流体に対し、例えば、モリブデンイエロー法に準じた希釈と塩酸注入を行うことが好ましい。
【0036】
工程b)では、地熱流体流路の第2測定地点で、地熱流体のシリカ濃度C2、温度T2、及び圧力P2を測定する。地熱流体のシリカ濃度C2、温度T2、及び圧力P2は、先に説明した第2シリカ濃度C2測定部10、第2温度測定部6、及び第2圧力測定部5でそれぞれ測定することができる。温度T2、及び圧力P2の測定値は、第1演算部C1及び任意選択的に第2演算部C2に送信する。シリカ濃度C2の測定値は、第3演算部C3に送信する。
【0037】
工程b)の測定時点は、工程a)の測定時点と、同時であってもよく、異なってもよい。好ましい実施形態においては、工程a)及びb)の測定は、連続的にトレンドデータを得る形式で実施することができる。「連続的」には、短周期的にトレンドデータを得ることも含まれ、例えば、1時間ごとであってよいが、特定の時間には限定されない。後述する工程e)の流体滞留時間Δtの予測においては、第1測定地点と、第2測定地点のトレンドデータを時間的に同期して、そのシリカ濃度差から滞留時間を演算することができる。したがって、例えば、トレンドデータの取得が1時間ごとである場合、測定時間の相違は、1~59分以内とすることができる。
【0038】
工程c)では、地熱流体のpHを測定する。地熱流体のpHは、pH測定部2により測定することができる。工程c)の測定時点は、工程a)、b)の測定時点と、同時であってもよく、異なってもよい。工程c)の測定も、連続的にトレンドデータを得る形式で実施することができ、工程a)、b)の測定と同期することができる。例えば、トレンドデータの取得が1時間ごとである場合、測定時間の相違は、1~59分以内とすることができる。pHの測定値は、第1演算部C1に送信する。
図1に示すシステムでは、pH測定部2は1カ所のみに設けられているが、2カ所以上にpH測定部を設けることも可能である。
【0039】
工程d)では、予め得られた地熱流体の組成と、前記工程a)、b)、及びc)に基づき、シリカ重合速度予測式を決定する。シリカ重合速度予測式は、下記式(i)により表されることが、本発明者らにより、理論的かつ実験的に確認されている。
ΔC/Δt=-k(C-Ce)2 (i)
(式(i)中、kは反応速度定数であり、Cは任意の時間におけるシリカ濃度であり、Ceはシリカ飽和濃度である)
【0040】
図2は、流体中の溶存シリカ濃度の時間変化を模式的に示すグラフである。本明細書において、このグラフをシリカの溶存濃度曲線ともいう。流路を流れる流体中のシリカは、シリカ初期濃度をC0とすると、時間と共に重合反応が進行し、水不溶性のシリカスケールとして析出するため、溶存シリカ濃度が経時的に減少し、飽和濃度Ceとなる。このシリカ濃度の減少速度が、式(i)により表される。溶存シリカ濃度変化のグラフは、流体の温度及びpHに依存する。ここで、シリカ初期濃度C0は、本実施形態による各工程の実施前に予め求めた総シリカ濃度Ctに等しい。kは、シリカ重合反応の反応速度定数であり、Aexp(-Ea/RT)で表すことができる。式中、Aは後述する頻度因子、Eaは活性化エネルギー、Rは気体定数、Tはシリカ重合反応温度(絶対温度)である。kの値は、組成分析結果と工程a)で得られた温度T
1、圧力P
2、工程b)で得られた温度T
2、圧力P
2、工程c)で得られたpH測定値に基づき、得ることができる。Ceはシリカ飽和濃度であり、工程a)で得られた温度T
1、圧力P
2、工程b)で得られた温度T
2、圧力P
2、工程c)で得られたpH測定値に基づき、データベースより引用する。Cは任意の時間におけるシリカ濃度であり、初期はC0、平衡到達時は飽和濃度Ceの値となる予測式から算出される値である。時間tとシリカ溶存濃度Cの関係を示す予測曲線を得るにあたって求める複数点のシリカ溶存濃度の予測データを反応速度論(アレニウスの式)で正規化した際に、上式を満たすkとして算出することができる。
【0041】
時間tに依存したシリカ溶存濃度Cの予測曲線は、以下の式(1)で表される3段階沈殿平衡反応モデルにおける、k
1、k
2、k
B、k
aに基づいて得られる。
【化1】
(式(1)中、
k
1は、Si(OH)
4とSiOSi(OH)
6との間の反応平衡定数であり、
k
2は、SiOSi(OH)
6と(SiO)
3OSi(OH)
10との間の反応平衡定数であり、
k
Bは、SiOSi(OH)
6と(SiO)
3Si(OH)
9O
-との間のイオン化平衡定数であり、
k
aは、(SiO)
3Si(OH)
9O
-と(SiO)
3OSi(OH)
10との間のシリカ酸解離定数である)
【0042】
従来、シリカ重合反応は、Si(OH)4からSiOSi(OH)6を生成する可逆反応と、SiOSi(OH)6から(SiO)3OSi(OH)10を生成する不可逆反応との2段階モデルに基づいて計算が行われてきた。本実施形態で用いる、シリカ溶存濃度曲線は、この2段階モデルではなく、沈殿平衡反応をさらに考慮した上記式(1)のモデルを採用し、従来、考慮されてこなかった(SiO)3Si(OH)9O-で表される化学種の動態を含めて流体中のシリカ濃度(シリカ溶存濃度)を予測し、これに基づいて地熱流体の流量を測定することができる。
【0043】
シリカ溶存濃度曲線は、温度及びpHに依存する曲線である。本発明においては、下記の計算方法にて導出可能なシリカ溶存濃度曲線をデータベースに格納し、工程a)、b)、及びc)にて測定した温度条件、pH条件に合わせて、データベースから必要な溶存濃度曲線を抽出することができる。シリカ溶存濃度曲線は、特に、pHが7の中性の場合と、7未満の酸性の場合、7を超える塩基性の場合で、計算・導出方法が異なる。以下に計算・導出方法の概要を述べる。
【0044】
表1は、流体のpHが7の場合のシリカ溶存濃度C計算のフローチャートである。
【表1】
【0045】
本手法ではまず、式(1)に表される4つの化学種、及びケイ酸が溶解している流体(例えば、水)の自由エネルギーから、式(1)の各段階の反応における自由エネルギー変化ΔGを得る。また、自由エネルギー変化ΔGの値から、k1、k2を得る。シリカ重合反応の平衡定数の計算式において用いる温度Tは重合反応温度であり、先の工程a)、b)において測定した温度T1、T2に対応する。温度T1とT2が異なる場合には、それぞれの温度で計算を行うことができる。酸解離定数kaは、自由エネルギー変化ΔGから、量子化学計算及び線形フィッティング補正法により計算した以下の値を用いることができる。
pka=pΔG+q (ii)
式(ii)中、p、qは定数であり、ΔGは、(SiO)3Si(OH)9O-と(SiO)3OSi(OH)10との平衡反応における自由エネルギー変化の値である。より具体的には、pが、0.19~0.24であり、qが、-56~-51であってよい。好ましくは、pが、0.21~0.22であり、qが、-54~-52であってよい。
【0046】
時間tにおけるシリカ溶存濃度Cとは、重合開始時点をゼロとした場合の、時間t(min)において、流体中に溶存しているシリカの濃度である。ここでいうシリカ濃度は、先の総シリカ濃度Ctについて説明したのと同様に、流体中に溶解しているSi原子の量に基づいて計算したシリカ単量体(Si(OH)4)の、流体中における重量%濃度(ppm)である。シリカ初期濃度C0とは、重合開始時点(t=0)において流体中に溶存しているシリカの濃度である。シリカ初期濃度C0も、流体中に溶解しているSi原子の量に基づいて計算したシリカ単量体(Si(OH)4)の、流体中における重量%濃度(ppm)で表される。また、時間tは、式(i)で表される3段階沈殿平衡反応モデルではSi(OH)4を流体に溶解した時点を0とした時間(min)である。本実施形態に係る測定方法においては、実際の地熱発電設備における重合反応開始時点と認められる時点を0として予測計算に使用することができ、地熱流体が生産井から噴出した時点を0とすることができる。
【0047】
時間tとシリカ溶存濃度Cの関係を示す予測曲線の取得方法は、以下の工程i)からiii)を含む。
i)シリカ初期濃度C0を取得する工程
ii)式(1)の3段階沈殿平衡反応モデルにおける、k1、k2、kB、kaを計算し、シリカ初期濃度C0とk1、k2、kB、kaから、シリカ溶存濃度Cの予測値を計算する工程と、
iii)時間tに対する、シリカ溶存濃度Cをプロットし、プロット結果に基づいてカーブフィッティングすることにより、シリカ溶存濃度Cの予測曲線を得る工程
【0048】
工程i)は、シリカ初期濃度C0を取得する工程である。シリカ初期濃度C0は、計算上は総シリカ濃度Ctに等しいと仮定することができる。よって、予め組成分析結果に基づいて得た総シリカ濃度Ctを、シリカ初期濃度C0とすることができる。
【0049】
工程ii)では、
図1のフローチャートに従って、k
1、k
2、k
B、k
aを計算する。また、シリカ初期濃度C0とk
1、k
2、k
B、k
aから、シリカ溶存濃度Cの予測値を計算する。シリカ溶存濃度Cの予測値は、複数の異なる時間tにおいて計算し、取得することが好ましく、例えば10点以上、好ましくは50点以上、さらに好ましくは100点以上の異なる時間tにおいて、シリカ溶存濃度Cの予測値を計算することができる。tが十分に大きく、シリカの水への溶解反応が平衡に達したときのCが、先の式(i)におけるCeである。pHが7の場合のCeをCe
1とすると、Ce
1は下記の式(iii)で表すことができる。
Ce
1=a
1[exp(b
1T)] (iii)
式(iii)中、a
1、b
1は定数であり、フローチャートに記載の計算により、k
1、k
2、k
B、k
aに基づいて得られる値である。T(K)は重合反応温度を表す。Tの温度範囲は、約250Kから500Kであってよい。より具体的には、a
1が、18~32であり、b
1が、0.005~0.010であってよい。好ましくは、a
1が、20~30であり、b
1が、0.006~0.009であってよい。
【0050】
工程iii)では、時間tに対する、シリカ溶存濃度C1をプロットし、プロット結果に基づいてシリカ溶存濃度C0の予測曲線を得る。
【0051】
重合温度Tと、反応の初期段階におけるシリカの溶存濃度Cの予測値をフィッティングするためには、頻度因子Aが必要である。ここで、反応の初期段階とは、反応装置、条件等によっても異なるが、反応開始から約5~10minの段階をいうものとする。重合温度Tと頻度因子Aとの関係は以下の式(iv)で表される。
A=m[exp(nT)] (iv)
式(iv)中、m、nは定数であり、上記フローチャートに記載の計算により得られる値である。T(K)は重合反応温度を表す。Tの温度範囲は、約250Kから500Kである。より具体的には、mが、2.0~3.1であり、nが、0.083~0.085であってよい。好ましくは、mが、2.3~2.8であり、nが、0.0835~0.0845であってよい。
【0052】
図3は、頻度因子Aの予測曲線を示す片対数グラフであり、縦軸は対数スケール(logarithmic scale)である。頻度因子Aを用いることで、反応の初期段階、例えば5~10minの時間点で、各温度における実験値を再現することができる。
【0053】
これらの工程i)~iii)により導出されるシリカの溶存濃度曲線の概形は
図2のとおりであり、シリカの溶存濃度曲線は、同じpH7であっても、温度により異なる。
【0054】
次に、流体のpHが酸性(0以上であって7未満)の場合のシリカ溶存濃度Cの導出について説明する。表2は、流体のpHが酸性の場合のシリカ溶存濃度C計算のフローチャートである。
【表2】
【0055】
流体のpHが酸性の場合は、シリカ溶存濃度Cの計算、及びtが十分に大きく、平衡に達した場合のシリカ溶存濃度であるシリカ飽和濃度Ceの計算において、実効活量係数Rを用いる。流体のpHが酸性領域の飽和濃度CeをCe2とすると、Ce2は下記の式(V)で表すことができる。
Ce2=R{a2[exp(b2T)]} (V)
式(V)中、a2、b2は定数であり、フローチャートに記載の計算により、k1、k2、kB、kaに基づいて得られる値である。T(K)は重合反応温度を表す。Rは実効活量係数であり、pHに基づいて計算される値である。具体的な計算結果に基づけば、例えば、a2が、16~36であり、b2が、0.003~0.015であってよい。好ましくは、a2が、18~35であり、b2が、0.005~0.012であってよい。最も好ましくは、a2が、20~33であり、b2が、0.006~0.010であってよい。Tの温度範囲は、約250Kから500Kであってよい。
【0056】
実効活量係数Rは、以下の計算式に基づいて算出することができ、酸性領域のpH(pH0以上であって7未満)による、シリカ飽和濃度への影響を決定する係数である。
-logR= ARZ2{E/(1+BRcE)} (VI)
式(VI)中、AR、BRは、Debye-Huckel理論に基づき、シリカ重合反応系の温度Tと、シリカの重合反応溶媒である水の誘電率εから計算される値であって、
電荷数Zは1または2であり、有効径係数cは4であり、
Eが、以下の式(VII)で表される実効イオン強度であり、以下の式で表すことができる。
E={I+(水素イオン濃度)}/[1+BRc[I+(水素イオン濃度)](VII)
(式(VII)中、Iは溶質イオン強度である)}
【0057】
より具体的には、AR、BRは、以下の式で表すことができる。
AR=1.825*106(εT)-3/2
BR=50.3*(εT)-1/2
εは温度Tにおける水の誘電率を表し、T(K)は重合反応温度を表す。
【0058】
電荷数Zは、1または2であり、シリカ1量体と2量体の1価イオンの場合(SiO(OH)3
-、Si2O(OH)7
-)の場合は1、シリカ1量体と2量体の2価イオンの場合(SiO2(OH)2
2-、Si2O2(OH)6
2-)の場合は2である。有効径係数cは、シリカの重合反応においては定数4である。
【0059】
溶質イオン強度Iは、以下の式から決定する。
I=1/2*(Ct+(水素イオン濃度))*Z2
式中、Ctは、シリカの総濃度(単位はmol/L)であって、Zは溶質の電荷数を表す。
【0060】
水素イオン濃度は、0以上であって7未満の所定のpHから計算することができ、例えば、pHが5.5の場合には、10^(-5.5)である。
【0061】
流体のpHが酸性の場合も、シリカ溶存濃度曲線の導出方法は、流体のpHが中性の場合と概ね同様に工程i)~iii)を実施する。ただし、工程ii)において、シリカ溶存濃度Cの予測値を計算する際に、実効活量係数Rを考慮して計算する必要がある。それ以外は、先に説明したとおりとすることができる。
【0062】
次に、流体のpHが塩基性(7を超えて14以下)の場合のシリカ溶存濃度Cの導出について説明する。表3は、流体のpHが塩基の場合のシリカ溶存濃度C計算のフローチャートである。
【表3】
【0063】
流体のpHが塩基性の場合は、シリカ溶存濃度Cの計算、及びtが十分に大きく、平衡に達した場合のシリカ溶存濃度であるシリカ飽和濃度Ceの計算において、実効反応係数Jを用いる。流体のpHが塩基性領域の飽和濃度CeをCe3とすると、Ce3は下記の式(VIII)で表すことができる。
Ce3=(1-J)[a3{exp(b3T)}] (VIII)
式(VIII)中、a3、b3は定数であり、フローチャートに記載の計算により、k1、k2、kB、kaに基づいて得られる値である。T(K)は重合反応温度を表す。Jは実効反応係数であり、シリカ単量体イオンとシリカ2量体イオンの存在分率に基づいて計算される値である。具体的な計算結果に基づけば、例えば、a3が、6~34であり、b3が、0.005~0.015であってよい。好ましくは、a3が、8~32であり、b3が、0.005~0.015であってよい。最も好ましくは、a3が、10~30であり、b3が、0.006~0.009であってよく、Tの温度範囲は、約250Kから500Kであってよい。
【0064】
実効反応係数Jは、以下の計算式に基づいて算出することができ、塩基性領域のpHによる、シリカ飽和濃度への影響を決定する係数である。塩基性領域では、イオンはシリカの重合反応には直接関与せず、イオン化していない分子状態のシリカの存在分率によって決定されるという本発明者らの発見に基づく。実効反応係数Jは、以下の式(IX)で表すことができる。
J=(X-Xi1-Xi2)/X (IX)
式(IX)中、Xは、シリカの総量(モル量、100%)であり、Xi1、Xi2は、シリカ単量体イオンとシリカ2量体イオンの存在分率(モル分率%)であり、酸解離定数kaから計算することができる。シリカ単量体イオンとは、Si(OH)3O-、シリカ2量体イオンとは、Si2(OH)7O-をいうものとする。酸解離定数kajは、シリカ単量体、シリカ2量体及びシリカ4量体分子から、プロトン(水素イオン)が放出される解離反応を考えた場合の平衡定数である。
【0065】
Jは、0~1までの間の数であり、pHが7から14の間で変化する。pHに対するJの変化のグラフは、
図4に示す。
図4のグラフに基づいて、塩基性領域の特定のpHにおける実効反応係数Jを得ることができる。
【0066】
流体のpHが塩基性の場合も、シリカ溶存濃度曲線の導出方法は、流体のpHが中性の場合と概ね同様に工程i)~iii)を実施する。ただし、工程ii)において、シリカ溶存濃度Cの予測値を計算する際に、実効反応係数Jを考慮して計算する必要がある。それ以外は、先に説明したとおりとすることができる。
【0067】
シリカ重合速度予測式を決定し、シリカの溶存濃度曲線を得るための演算は、第1演算部C1において行うことができる。第1演算部C1は、上記の計算・演算を実施可能な計算機器であってよく、例えば、COMSOL Multiphysics(登録商標)モデリングソフトウェアなどの演算に使用可能なソフトウェアを備えたコンピュータであってよい。
【0068】
工程e)では、前記工程d)で得られたシリカ重合速度予測式と、前記工程a)及びb)で得られたシリカ濃度C
1、C
2から、前記第1測定地点から前記第2測定地点までの流体滞留時間Δtを予測する。
図5は、工程a)、b)、c)において測定された温度、pH条件における、工程d)で得られたシリカ重合速度予測式に基づく溶存濃度曲線の一例を示す。測定対象となる流体の、温度、pH条件における、流体中の少なくとも2点におけるシリカ濃度が得られれば、溶存濃度曲線から、シリカ濃度C
1を示す時間t
1、シリカ濃度C
2を示す時間t
2を特定することができ、t
2-t
1から、Δtを算出することができる。Δtは、本明細書において流体の滞留時間といい、流体中のシリカ濃度がC
1からC
2に減少するのに要する時間といいかえることもできる。
【0069】
滞留時間Δtを予測するための演算は、第3演算部C3において行うことができる。第3演算部C3は、第1演算部C1で得られたシリカ溶存濃度曲線の情報にアクセス可能な計算機器であってよく、コンピュータであってよい。
【0070】
工程f)では、前記工程e)で得られた流体滞留時間Δtと、前記第1測定地点と前記第2測定地点との間の流路容積Vとに基づいて、流体の体積流量を得る。体積流量(m3/h)は、以下の式に基づいて算出することができる。
体積流量=V/Δt
流路容積Vは、配管径φが長さLにわたって一定の場合にはV=π(φ/2)2Lにより算出することができる。
【0071】
流体の体積流量を得るための演算は、第4演算部C4において行うことができる。流路容積Vの情報は、入力部D2により入力することができる。第4演算部C4は、上記計算式を格納した計算機器であってよく、入力部D2及び第4演算部C4は、コンピュータであってよい。
【0072】
以上の工程a)~f)により、地熱流体の体積流量を得ることができる。体積流量情報を主として用いて機器制御、モニタリング、遠隔監視、予兆検知を行う場合は、工程f)で終了し、得られた情報をさらなる別の機器に送信することができる。任意選択的に、測定結果を出力、表示する工程を実施することもでき、第4演算部C4に、図示しない出力・表示部を接続することもできる。さらに任意選択的な工程として、体積流量情報と、密度情報に基づいて、質量流量を得ることもできる。その場合、工程a)~f)に続いて、工程g)及びh)を実施することができる。
【0073】
工程g)では、前記工程a)及びb)で得られた温度T1、T2、及び圧力P1、P2に基づき、地熱流体の密度を算出する。地熱流体の密度は、平均密度であってよく、下記の式に基づいて密度を計算することができる。より具体的には、例えば、日本機械学会から発行されている蒸気表(Steam97.dll)に基づき、各測定部における密度を算出し、算出した密度の平均値を計算することができる。
【0074】
流体の密度を得るための演算は、第2演算部C2において行うことができる。第2演算部C2は、第1圧力測定部3、第1温度測定部4、第2圧力測定部5、及び第2温度測定部6からの測定結果を受信し、これらの情報から流体密度を計算可能に構成された計算機器であってよく、コンピュータであってよい。
【0075】
工程h)では、前記工程g)で得られた密度と、前記f)で得られた流体の体積流量から、流体の質量流量を得る。流体の質量流量を得るための演算は、第5演算部C5において行うことができる。第5演算部C5は、第2演算部C2の演算結果及び第4演算部の演算結果を受信し、これらの情報から流体の質量流量を計算可能に構成された計算機器であってよく、コンピュータであってよい。
【0076】
工程h)で得られた質量流量情報は、機器制御、モニタリング、遠隔監視、予兆検知のために用いることができる。また、任意選択的に、測定結果を出力、表示する工程を実施することもできる。これらの工程は、出力・表示部E1にて実施することができる。出力・表示部E1は、コンピュータやモニタ、プリンタであってよい。
【0077】
本実施形態に係る地熱流体流量の測定方法は、例えば、1~2時間に1回の頻度、1~2日に一回の頻度、または2~3か月に1回の頻度で実施することができるが、これらには限定されず、地熱流体の流量情報の使用目的に合わせて、適宜実施することができる。
【0078】
次に、本発明の方法及びシステムを適用可能な地熱発電設備について、
図6を参照して説明する。
【0079】
図6は、バイナリーサイクル式の地熱発電設備の一例を示す概念的なフロー図である。バイナリーサイクル式の地熱発電設備は、乾湿交番部が発生しやすいため、本実施形態によるシステム及び方法が好ましく適用されうる。地熱発電設備は、生産井31と、第1の気液分離器32と、第1のタービン・発電機33と、熱水タンク34と、第2の気液分離器35と、蒸発器36と、セパレータ37と、第2のタービン・発電機38と、給液加熱器39と、空冷式復水器40と、予熱器41と、フラッシュタンク42と、熱水ピット43と、還元ポンプ44と、還元井45から構成することができる。任意選択的に、後段熱利用を行う施設46を含んでいてもよい。
図6中、地熱水の流れを実線矢印で、低沸点媒体の流れを破線矢印で示す。また、破線で囲んだ領域は、フラッシュ発電領域を示す。
【0080】
地熱発電設備における物質の流れについて簡単に説明する。生産井31は、地中の地熱貯留層にある熱水、蒸気、またはそれらの混合物(地熱水)が地上に噴出する井戸である。生産井31から噴出した地熱水は、第1の気液分離器32にて気体成分である蒸気と、液体成分である熱水に分離される。分離された蒸気は第1のタービン・発電機33に導かれ、タービンの回転に使用されて、発電機にて電気を生産する。第1のタービン・発電機33を通過した蒸気は、図示しない復水器にて冷却され、図示しない輸送配管を通って還元井45に導かれる。一方、第1の気液分離器32にて分離された熱水は、熱水タンク34を経て、第2の気液分離器35に導かれる。第2の気液分離器35にて分離された気体成分は蒸発器56に導かれ、蒸発器56において低沸点溶媒の加熱に用いられる。低沸点溶媒の加熱により再び液化された熱水は、次いで、フラッシュタンク42に導かれる。第2の気液分離器35にて分離された液体成分は、低沸点媒体を加熱するために予熱器41に導かれた後、フラッシュタンク42に導かれる。フラッシュタンク42では、熱水が減圧され、発生する水蒸気は大気中に放散される。減圧後に残存する液体成分は、熱水ピット43に導かれ、還元ポンプ44により、一部は還元井45に返送され、一部は、温泉施設などの後段熱利用を行う施設46に導かれる。
【0081】
一方、低沸点媒体は、破線矢印で示すように、設備内を循環している。低沸点媒体は、蒸発器56において、地熱蒸気により加熱され、二相流の低沸点媒体は、セパレータ37で、気相と液相に分離される。気相の低沸点媒体は、第2のタービン・発電機38に導かれる。第2のタービン・発電機38の回転に使用した低沸点媒体は、給液加熱器39で凝縮されて液化し、復水器40で放熱され、予熱器41に導かれる。予熱器41では、液化された低沸点媒体が、地熱水により再び加熱され、蒸発器56に循環される。
【0082】
図1に示したpH測定部2、第1圧力測定部3、第1温度測定部4、及び第1バルブB1は、
図6中、例えば、生産井31と第1の気液分離器32の間に配置することができる。第2圧力測定部5、第2温度測定部6、及び第2バルブB2は、
図6中、例えば、気液分離器42と熱水ピット43の間に配置することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 流路、 2 pH測定部、3 第1圧力測定部、4 第1温度測定部
5 第2圧力測定部、6 第2温度測定部、7 第1冷却部、
8 第1シリカ濃度C1測定部、9 第2冷却部、10 第2シリカ濃度C2測定部
11 サンプリング部
F 地熱流体、B0 サンプリングバルブ、B1 第1バルブ、B2 第2バルブ
C1 第1演算部、C2 第2演算部、C3 第3演算部、C4 第4演算部、
C5 第5演算部、D1 組成分析部、D2 入力部、E1 表示・出力部