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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090076
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】電動アシスト台車
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20240627BHJP
   B62B 3/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B60L15/20 J
B62B3/00 G
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205729
(22)【出願日】2022-12-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000106944
【氏名又は名称】シナノケンシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100135622
【弁理士】
【氏名又は名称】菊地 挙人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 春嗣
(72)【発明者】
【氏名】饗場 啓太
【テーマコード(参考)】
3D050
5H125
【Fターム(参考)】
3D050AA01
3D050BB02
3D050DD01
3D050EE08
3D050EE15
3D050HH07
3D050KK14
5H125AA17
5H125AB01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA04
5H125CB01
5H125DD01
5H125EE41
5H125EE52
(57)【要約】
【課題】消費電力を抑制しつつ自然な走行アシストが可能な電動アシスト台車を提供することを課題とする。
【解決手段】台と、前記台に設けられた駆動輪と、台に設けられた操作部と、前記操作部に加えられた操作者入力の度合を検出する入力検出部と、前記台の現在速度を検出する速度検出部と、ギヤを介さずに前記駆動輪を直接駆動するモータと、前記台の走行をアシストするように前記モータを通電する制御部と、を備え、前記制御部は、前記操作者入力の度合が大きいほど速度加算値を大きい値として算出し、前記速度加算値を前記現在速度に加算することにより、前記操作部を操作する操作者が希望する希望走行速度を算出し、前記現在速度が前記希望走行速度にまで上昇すると前記希望走行速度の算出を終了して通電を停止したニュートラル状態に前記モータを制御する、電動アシスト台車。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台と、
前記台に設けられた駆動輪と、
前記台に設けられた操作部と、
前記操作部に加えられた操作者入力の度合を検出する入力検出部と、
前記台の現在速度を検出する速度検出部と、
ギヤを介さずに前記駆動輪を直接駆動するモータと、
前記台の走行をアシストするように前記モータを通電する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記操作者入力の度合が大きいほど速度加算値を大きい値として算出し、前記速度加算値を前記現在速度に加算することにより、前記操作部を操作する操作者が希望する希望走行速度を算出し、前記現在速度が前記希望走行速度にまで上昇すると前記希望走行速度の算出を終了して通電を停止したニュートラル状態に前記モータを制御する、電動アシスト台車。
【請求項2】
前記制御部は、前記現在速度が第1制限速度以上の場合に、前記ニュートラル状態に前記モータを制御する、請求項1の電動アシスト台車。
【請求項3】
前記制御部は、前記現在速度が前記第1制限速度よりも速い第2制限速度以上の場合に、ショートブレーキ状態に前記モータを制御する、請求項2の電動アシスト台車。
【請求項4】
前記制御部は、前記現在速度がゼロであり前記操作者入力がゼロの場合に、ショートブレーキ状態に前記モータを制御する、請求項3の電動アシスト台車。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アシスト台車に関する。
【背景技術】
【0002】
モータによる電動アシスト台車が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/063476号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動アシスト台車の現在速度が目標速度に一致した場合には、モータの通電を停止して消費電力を抑制することが考えられる。ここで、モータと駆動輪との間に例えば減速ギヤなどから構成される減速機構が設けられている場合がある。この場合にモータの通電が停止されて電動アシスト台車が走行している間は、モータの回転方向と反対方向のトルクが減速機構により増幅されて駆動輪に伝達される。これにより、電動アシスト台車が大きく減速してしまい、自然な走行アシストが困難となるおそれがある。
【0005】
そこで本発明は消費電力を抑制しつつ自然な走行アシストが可能な電動アシスト台車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、台と、前記台に設けられた駆動輪と、前記台に設けられた操作部と、前記操作部に加えられた操作者入力の度合を検出する入力検出部と、前記台の現在速度を検出する速度検出部と、ギヤを介さずに前記駆動輪を直接駆動するモータと、前記台の走行をアシストするように前記モータを通電する制御部と、を備え、前記制御部は、前記操作者入力の度合が大きいほど速度加算値を大きい値として算出し、前記速度加算値を前記現在速度に加算することにより、前記操作部を操作する操作者が希望する希望走行速度を算出し、前記現在速度が前記希望走行速度にまで上昇すると前記希望走行速度の算出を終了して通電を停止したニュートラル状態に前記モータを制御する、電動アシスト台車によって達成できる。
【発明の効果】
【0007】
消費電力を抑制しつつ自然な走行アシストが可能な電動アシスト台車を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、電動アシスト台車の説明図である。
図2図2は、電動アシスト台車の説明図である。
図3図3は、加速状態から平衡状態までを示したタイミングチャートである。
図4図4は、平衡状態が崩れる場合のタイミングチャートである。
図5図5は、電動アシスト台車が操作者の手を離れて逸走するような場合のタイミングチャートである。
図6図6は、電動アシスト台車を下り坂で走行させる場合や、操作者が電動アシスト台車を必要以上に加速させた場合のタイミングチャートである。
図7図7は、電動アシスト台車を意図的に減速させた場合や後進させた場合のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1及び図2は、電動アシスト台車1の説明図である。電動アシスト台車1は、台10、従動輪20、駆動輪30、及びハンドル40を備えている。台10は略矩形の板状である。従動輪20は、台10の前方側の下部に、図面奥行き方向に離れて2つ設けられている。駆動輪30は、台10の後方側(台車の進行方向の後方でハンドル40側)の下部に、図面奥行き方向に離れて2つ設けられている。駆動輪30にはインホイールモータ32が設けられている。従って、2つの駆動輪30にはそれぞれインホイールモータ32が設けられている。尚、本明細書では2つのインホイールモータ32は同じ制御が行われるため、一つのインホイールモータ32に対して説明する。インホイールモータ32は、ギヤ等の減速機構を介することなく直接に駆動輪30を駆動する。このため、インホイールモータ32はダイレクトドライブモータ(DDモータ)と呼ばれることもある。詳細には、インホイールモータ32の回転軸が駆動輪30の回転中心に連結されている。これにより、駆動輪30の回転速度は、インホイールモータ32の回転軸の回転速度と一致する。2つのインホイールモータ32の少なくとも一方には、インホイールモータ32の回転数を検出する回転数センサ34が設けられている。回転数センサ34は、速度検出部の一例である。ハンドル40は操作部の一例である。
【0010】
台10の下部には、モータドライバ12及びバッテリ14が設けられている。ハンドル40の上端部には押圧力センサ42が設けられている。押圧力センサ42は、入力検出部の一例である。押圧力センサ42については詳しくは後述する。ハンドル40の下部には、コントローラ44が設けられている。モータドライバ12、バッテリ14、及びコントローラ44が設けられている位置は図1に示した位置に限定されない。
【0011】
コントローラ44は、モータドライバ12、バッテリ14、及び押圧力センサ42に電気的に接続されている。モータドライバ12は、インホイールモータ32及び回転数センサ34に電気的に接続されている。コントローラ44はCPUやROM、RAMで構成される組込コンピュータ回路である。コントローラ44は、バッテリ14からの電力供給を受けて、押圧力センサ42やモータドライバ12等に電力を供給する。コントローラ44は、押圧力センサ42の検出信号を取得する。モータドライバ12は、コントローラ44からの指令を受けてインホイールモータ32の駆動を制御する。コントローラ44はモータドライバ12を介して回転数センサ34の検出信号を取得して、その検出信号に基づいて電動アシスト台車1の現在速度を算出する。コントローラ44は、押圧力センサ42からの信号に基づいて、後述する操作者入力を算出する。コントローラ44及びモータドライバ12は、操作者入力や現在速度に基づいて、インホイールモータ32による走行アシストを制御する。コントローラ44及びモータドライバ12は、制御部の一例である。
【0012】
押圧力センサ42は、ハンドル40に対する操作者の押圧力(前進方向へ押そうとする力)または引張力(後進方向へ引こうとする力)である操作者入力の度合(以下、操作者入力OIと称する)を検出する。操作者入力OIには、不感帯や人感特性カーブが加味されている。操作者入力OIは、前進方向での押圧力は正の値で示され、後進方向での引張力は負の値で示される。操作者入力OIは、+100%~-100%で示すことができる。操作者入力OIが+100%の場合は、前進方向に最大の押圧力が押圧力センサ42に入力された場合を意味する。操作者入力OIが-100%の場合は、後進方向に最大の引張力が押圧力センサ42に入力された場合を意味する。操作者入力OIが0%の場合は、押圧力センサ42への操作者入力がゼロの場合を示している。
【0013】
コントローラ44は、回転数センサ34の検出信号に基づいてある瞬間の現在速度Vcに対して、どの程度の加減速を操作者が希望しているのかを表す速度加算値Vadを算出する。速度加算値Vadは、操作者入力OIに係数αを乗じて算出される。係数αは、アシストレベルや後述の補正などが加味される一定値ではない数値である。操作者入力OIが正の値であれば速度加算値Vadは正の値(加速)であり、操作者入力OIが負の値であれば速度加算値Vadは負の値(減速)である。操作者入力OIがゼロである場合は「操作者に加減速意図が無い」ものとみなす。操作者入力OIの絶対値が大きければ速度加算値Vadの絶対値も大きくなる。
【0014】
コントローラ44は、現在速度Vcと速度加算値Vadに基づいて推定希望速度Vewを導く。推定希望速度Vewは、ある瞬間において「操作者が希望しているであろうと考えられる台車の速度の推定値」という意味である。推定希望速度Vewは、「予定速度」や「加減速後の想定速度」のような意味合いである。前述した「操作者入力OIがゼロである場合は操作者に加減速意図が無いものとみなす」とあるとおり、操作者入力OIがゼロである場合は、コントローラ44は速度加算値Vadと推定希望速度Vewは算出せず、存在しないものと扱う。
【0015】
推定希望速度Vewは以下の式で算出される。
推定希望速度Vew=現在速度Vc+速度加算値Vad
=現在速度Vc+操作者入力OI×係数α
ある時点での現在速度Vcにおいて、操作者入力OIから導かれる速度加算値Vadの分だけ電動アシスト台車1が加減速することが想定されている。この時点における操作者の希望する電動アシスト台車1の速度として推定希望速度Vewが推定される。推定希望速度Vewは、現在速度Vcとの対比に用いられる。係数αは、前述の通り一定値ではない。例えば電動アシスト台車1のパワーアシストの度合の強弱を設定可能とする場合には、アシスト度合を強にするには係数αを大きくし、アシスト度合を弱にするには係数αを小さくすることで実現できる。尚、現在速度Vcと推定希望速度Vewとを比較してのフィードバック制御は行われず、後述する通り推定希望速度Vewはインホイールモータ32を精緻に制御する目的で使用し、目標速度としては使用しない。
【0016】
次に操作者入力OIと現在速度Vcと推定希望速度Vewとの推移について説明する。図3は、加速状態から平衡状態までを示したタイミングチャートである。時刻t0において、電動アシスト台車1は停止しており現在速度Vc0はゼロであり、操作者はハンドル40に触れていないので操作者入力OI0もゼロである。時刻t1において、操作者は電動アシスト台車1を前進させようとしてハンドル40を進行方向前方へ向かって押し、操作者入力OI1となる。この時点の現在速度Vc1と操作者入力OI1に基いて、推定希望速度Vew1を算出する。ここで操作者入力OIが大きい値であるほど推定希望速度Vewは大きな値となる。
【0017】
操作者入力OIがゼロ以外となることで推定希望速度Vewが算出されると、インホイールモータ32が駆動して前進加速アシストが実行され、時刻t1より電動アシスト台車1の加速が開始される。時刻t2における現在速度Vc2は、時刻t1における現在速度Vc1より大きい値となる。電動アシスト台車1が加速されることにより、操作者と電動アシスト台車1の相対的位置関係が変化し、操作者がハンドル40を押す力が弱まる。これに伴い操作者入力OIも減少する。時刻t2における操作者入力OI2は、時刻t1における操作者入力OI1より小さい値となる。これを続けることにより、電動アシスト台車1は徐々に加速して現在速度Vcは漸増し、操作者入力OIは漸減し、推定希望速度Vewと現在速度Vcの差は縮まっていく。その後の時刻t3において、現在速度Vc3は操作者が電動アシスト台車1を押す速度、即ち操作者の歩行速度と一致し、操作者入力OI3はゼロとなる。操作者入力OI3がゼロとなることで推定希望速度Vewの算出は時刻t3において終了する。これにより、前進加速アシストによるインホイールモータ32の駆動も停止し、インホイールモータ32は通電が停止したことにより固定子と回転子との間に電磁力が作用しなくなり、ニュートラル状態となる。この時の現在速度Vc3を平衡速度Vbとする。このようにインホイールモータ32の通電が停止されるため、電力消費が抑制される。また、上述したように、インホイールモータ32は減速機構などを介さずに直接駆動輪30を駆動する。このため、インホイールモータ32がニュートラル状態になると旧来の手押し台車と同じ状態となる。インホイールモータ32による前進加速アシストが漸減してアシストが停止したと同時にニュートラル状態になることで、操作者の感触としてはパワーアシスト台車と旧来の手押し台車が自然に切換る。このように、自然な走行アシストを実現できる。
【0018】
仮に操作者が一定の速度で電動アシスト台車1を押して歩くことができるのであれば、平衡速度Vbは操作者の歩行速度と一致する。また、電動アシスト台車1に機械損失が無ければ、現在速度Vcが平衡速度Vbと等しいまま慣性による等速走行をする。このように本実施例では、操作者の歩行速度で平衡するまでの加速段階において、電動アシスト台車1の現在速度と操作者が電動アシスト台車1を押す力と最終的に操作者が希望するであろうと推測される電動アシスト台車1の希望速度を、操作者入力OIと現在速度Vcとから算出し、電動アシスト台車1の速度増加に伴ってアシスト力を漸減するアシスト制御を実現する。
【0019】
現在速度Vcと操作者入力OIに基づいて推定希望速度Vewを算出する点において、目標速度を設定するフィードバック系を適用した一般的なアシスト制御とは異なっている。本実施例のアシスト制御では、操作者入力OIが常に変動するため現在速度Vcは推定希望速度Vewとは一致せず、操作者入力OIがゼロになった時点で推定希望速度Vewの算出を終了させ、この時点でモータの駆動を停止させるからである。推定希望速度Vewは、走行アシストを行うインホイールモータ32の駆動の精緻な制御のために使用する。具体的には、インホイールモータ32を低速から高速までの広い速度領域で動作させるために、インホイールモータ32の特定の回転数における任意の加減速を行うための制御設定値を規定したテーブルをコントローラ44が保持している。このテーブルを参照するために、推定希望速度Vewは使用される。また、推定希望速度Vewを基準にして上述の係数αを変化させて加減速を調整する目的にも、推定希望速度Vewは使用可能である。速度加算値Vadに応じて単純な出力制御を行うのであれば、推定希望速度Vewを算出する必要は無い。しかしながら、台車のような操作者が直接的に取り扱う器具の補助用動力源としてインホイールモータ32を駆動させる場合、現在速度と最終的に到達するであると推測される希望速度は常に変動する。そのため、低振動や省エネルギーといった観点からインホイールモータ32を制御する場合、ヒステリシスや時定数を伴う精細な駆動制御パラメータを設定する目的で、推定希望速度Vewを用いている。
【0020】
電動アシスト台車1自体には機構的な摩擦損失や空気抵抗がある。このため、現在速度Vcを維持したままの慣性による等速移動を行うことはできず、平坦地を移動している場合でも自然に減速する。また、それ以外の理由で電動アシスト台車1の速度が低下することもある。例えば、電動アシスト台車1が登り坂を走行する場合であったり、向かい風が吹いている場合であったり、未舗装路面や砂地等を走行する場合である。加えて、実際には人間の歩く速度は一定ではなく揺らいでおり、前述の平衡速度Vbそのものが現在速度Vcに対して変動するということもある。このように、平衡状態が崩れる場合がある。図4は、平衡状態が崩れる場合のタイミングチャートである。
【0021】
図4に示すように、時刻t3から現在速度Vc3で平衡状態となっている。時刻t4で現在速度Vc4が減少し始める。操作者は引き続き電動アシスト台車1を押しながら共に歩行しているが、より減速が進んだ時刻t5において電動アシスト台車1と操作者との相対的な位置関係の変動が閾値を超え、操作者入力OIがゼロから操作者入力OI5に変化する。操作者入力OIがゼロでなくなったことより、現在速度Vc5と操作者入力OI5に基づいて推定希望速度Vew5が算出され、前進加速アシストが実行されインホイールモータ32の駆動が開始する。時刻t5より電動アシスト台車1の加速が開始される。
【0022】
時刻t6における現在速度Vc6は、時刻t5における現在速度Vc5より大きい値となる。電動アシスト台車1が加速されることにより、操作者と電動アシスト台車1の相対的位置関係が変化し、操作者がハンドル40を押す力が弱まる。これに伴い操作者入力OIも減少する。時刻t6における操作者入力OI6は、時刻t5における操作者入力OI5より小さい値となる。時間経過に伴い電動アシスト台車1は徐々に加速して、現在速度Vcは漸増し、操作者入力OIは漸減し、推定希望速度Vewと現在速度Vcの差は縮まっていく。その後の時刻t7において、現在速度Vc7は操作者が電動アシスト台車1を押す速度と再び一致し、操作者入力OI7はゼロとなる。操作者入力OI7がゼロとなることで推定希望速度Vewの算出は時刻t6において終了し、前進加速アシストによるインホイールモータ32の駆動も停止してニュートラル状態となる。時刻t7における状態は前述の時刻t3の状態と同じである。
【0023】
引き続き操作者が電動アシスト台車1を押して歩いていく場合、現在速度Vcが少し低下しては操作者入力OIがゼロ以外となって前進加速アシストが実行されてインホイールモータ32が駆動するという動作を繰り返す。一旦平衡状態になった電動アシスト台車1の運動エネルギーのうち摩擦損失や位置エネルギー損失で失われた分が現在速度の低下という形に変換される。それを前進加速アシストで補うことで、連続した電動アシスト台車1の押し歩きが実現される。
【0024】
図5は、電動アシスト台車1が操作者の手を離れて逸走するような場合のタイミングチャートである。時刻t3から現在速度Vc3で平衡状態である。時刻t10において電動アシスト台車1が操作者の手を離れて逸走する。操作者入力OIはゼロのままであるので、時刻t10以降も推定希望速度Vewの算出を行われない。よって走行アシストは実行されずインホイールモータ32は駆動しない。時刻t10より電動アシスト台車1は機械摩擦や空気抵抗により徐々に減速をはじめ、現在速度Vcは漸減する。電動アシスト台車1はそのまま速度を漸減させながら走行し、時刻t11において現在速度Vc11がゼロになる。
【0025】
現在速度Vcがゼロになった際、インホイールモータ32の巻線の接続を切り替えて各相のコイルが短絡するようにし、短絡ブレーキがかかった状態、いわゆるショートブレーキが実行される。このように、現在速度Vcがゼロになった際にはショートブレーキをかけて更なる電動アシスト台車1が移動しないように制御する。再び電動アシスト台車1を動かす場合は、操作者がハンドル40を操作して操作者入力OIをゼロ以外の値にすることで、ショートブレーキがかかった状態を解除できる。改めて電動アシスト台車1を加速させる場合には、前述したように時刻t0からの動作が行われる。
【0026】
図6は、電動アシスト台車1を下り坂で走行させる場合や、操作者が電動アシスト台車1を必要以上に加速させた場合のタイミングチャートである。時刻t3において現在速度Vc3で平衡状態にある。時刻t21において操作者が電動アシスト台車1を更に加速させる。時刻t21において操作者は加速させるためにハンドル40を進行方向前方に向かって押すので、操作者入力OIはゼロではない値であるOI21となり、推定希望速度Vew21が算出され、これに基づき前進加速アシストが実行されインホイールモータ32の駆動が開始する。操作者がハンドル40を進行方向前方へ向かって押す力とインホイールモータ32による前進加速アシストが実行されることにより、電動アシスト台車1は加速を始める。時刻t22において現在速度Vc22は第1制限速度V1に達する。第1制限速度V1とは、台車の速度が上がって危険になったため前進加速アシストを停止する閾値である。時刻t22において操作者入力OIは引き続きゼロでない値OI22であるが、この時点で前進加速アシストを停止するので推定希望速度Vewの算出は時刻t22で終了となり、前進加速アシストは停止してインホイールモータ32はニュートラル状態となる。
【0027】
時刻t22の時点で前進加速アシストは停止するが、操作者による人力での加速は未だ可能であるため、操作者は加速させるためハンドル40を進行方向前方に向かって更に押すことで加速を実行できる。このようにして、現在速度Vcが第1制限速度V1を超えるような加速を行った後、時刻t23において現在速度Vc23は第2制限速度V2に達する。第2制限速度V2とは、電動アシスト台車1の速度が危険域に入ったので非常制動による停止をする閾値である。現在速度Vcが第2制限速度V2に達したら、インホイールモータ32の巻線を切り替えて各相のコイルを短絡し、ショートブレーキ状態とする。尚、この場合には、操作者入力の大きさに関わらずにショートブレーキが実行される。これにより現在速度Vc23から減速を開始し、時刻t24において現在速度Vcはゼロとなる。結果として、電動アシスト台車1の速度の超過に対し2段階で抑制を実行できる。このようにして安全性が確保されている。
【0028】
尚、時刻t21から時刻t22にかけての加速は操作者の意図である前提で説明したが、電動アシスト台車1が下り坂を走行する場合も同様であり、操作者入力OIに基づく前進加速アシストが行われない点が異なる。更に、時刻t22から時刻t23にかけての加速も操作者の意図である前提で説明したが、電動アシスト台車1が下り坂を走行する場合も同様であり、現在速度Vcが第2制限速度を超えればショートブレーキによる減速が実行される。
【0029】
図7は、電動アシスト台車1を意図的に減速させた場合及び後進させた場合のタイミングチャートである。時刻t3では現在速度Vc3で平衡状態である。時刻t30において操作者が電動アシスト台車1を減速させる。時刻t30において操作者は電動アシスト台車1を減速させるためハンドル40を進行方向後方に向かって引くので、操作者入力OIはゼロではない負の値の操作者入力OI30となり、推定希望速度Vew30が算出され、これに基づき前進減速アシストが実行されインホイールモータ32の駆動が開始する。ここでの前進減速アシストは前述の加速を目的としたものではなく、減速を目的としている。より詳細には、現在速度Vcがさらに遅い速度となるよう減速させる負の加速度となるよう制御される。この動作は前述のブレーキとは異なり、例えるなら内燃機関車両におけるエンジンブレーキに相当する動作である。このように、操作者がハンドル40を進行方向後方へ向かって引く力とインホイールモータ32による前進減速アシストが実行されることにより、電動アシスト台車1は減速を始める。現在速度Vcが漸減した結果、時刻t31において、操作者入力OI31はゼロとなり、現在速度Vc31は推定希望速度Vew31と一致し停止する。前進減速アシストはここで停止し、インホイールモータ32の駆動が終了する。時刻t31にて台車が停止したのち、ショートブレーキが実行される。このようにして、時刻t30の平衡状態から時刻t31の停止状態へ遷移させることができる。
【0030】
更に、停止した台車を後進させる方法についても説明する。時刻t32において、操作者は停止した電動アシスト台車1を後進させるべくハンドル40を進行方向後方に向かって引くので、操作者入力OIはゼロではない負の値の操作者入力OI32となり、推定希望速度Vew32が算出され、これに基づき後進加速アシストが実行されインホイールモータ32の駆動が開始する。前述の前進減速アシストと異なり、後進加速アシストはインホイールモータ32の回転方向が逆となる。このように、操作者がハンドル40を進行方向後方へ向かって引く力とインホイールモータ32による後進加速アシストが実行されることにより、電動アシスト台車1は後進を始める。時刻t33において現在速度Vc33が推定希望速度Vew33と一致し、後進加速アシストは停止し、インホイールモータ32の駆動は終了する。正負は逆であるが、時刻t32から時刻t33の動作は、時刻t0から時刻t3の動作と同じである。
【0031】
尚、速度加算値Vadを得る際に操作者入力OIに乗じる係数αは、減速時や後進時は前進時と異なった値を採用してもよい。特に、電動アシスト台車1の後進時は操作者が後ろ向きに歩行するので、安全を考慮して係数αを小さめの値にしてもよい。
【0032】
インホイールモータ32が減速機構を介さず直接に駆動輪30を駆動する効果について、ここで補足する。従来の電動アシスト台車では、モータの制御性やトルクの増幅を考慮して減速機構を採用している。減速機構を採用すると、仮にモータをニュートラル状態(回転子と固定子の間に電磁気的な作用が無い状態)にしたとしても、台車の持つ走行機械損失(モータの回転子の空気抵抗、ベアリングの摩擦、減速機構の歯車噛合摩擦、車輪の転がり摩擦、など)が減速機構の減速比の大きさに応じて増幅され、旧来の手押し台車のように操作者が簡便に押し歩くことが難しい場合がある。モータがニュートラル状態となった従来の電動アシスト台車を操作者が押し歩く際に必要な力は軽いものではない。また、減速機構の減速比と台車の持つ走行機械損失の選択によっては、モータがニュートラル状態であっても操作者が台車を動かすことができない場合もある。このような事情があり、減速機構を採用した従来の電動アシスト台車は、操作者が台車を移動させている間はモータを止めることができず、常に電力を消費してしまうという問題があった。本実施例では、減速機構を介さず直接にインホイールモータ32が駆動輪30を駆動しているため、操作者が電動アシスト台車1を移動させている間であってもインホイールモータ32をニュートラル状態にすることができ、インホイールモータ32がニュートラル状態であるときは電動アシスト台車1を旧来の手押し台車のように取扱うことを可能にしつつ制限速度の照査を行って安全を確保できる。また、インホイールモータ32をニュートラル状態にしている間は消費電力を削減することができる。更に、前述のように電動アシスト台車1をパワーアシスト状態とニュートラル状態(=手押し台車状態)を自然に切り替えることができる制御上の工夫がある。このような特徴により、操作者にとって自然な感触のパワーアシストと低消費電力とを両立できるのである。
【0033】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 電動アシスト台車
10 台
12 モータドライバ(制御部)
30 駆動輪
32 インホイールモータ
34 回転数センサ(速度検出部)
40 ハンドル(操作部)
42 押圧力センサ(入力検出部)
44 コントローラ(制御部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2024-03-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
台と、
前記台に設けられた駆動輪と、
前記台に設けられた操作部と、
前記操作部に加えられた操作者入力の度合を検出する入力検出部と、
前記台の現在速度を検出する速度検出部と、
ギヤを介さずに前記駆動輪を直接駆動するモータと、
前記台の走行をアシストするように前記モータを通電する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記操作者入力がゼロではない場合、前記操作者入力を前記操作部と前記操作部を操作する操作者との相対的位置関係に基づくものとして検出し、前記操作者入力の大きさおよび向きに応じて速度加算値を算出し、前記速度加算値を前記現在速度に加算することにより、前記操作部を操作する操作者が希望すると推定される推定希望速度を算出し、前記速度加算値に基づいて加減速を行うよう前記モータを制御し、前記相対的位置関係が変化した結果、前記操作者入力がゼロになった場合には、前記推定希望速度の算出を終了して通電を停止したニュートラル状態に前記モータを制御する、電動アシスト台車。
【請求項2】
前記制御部は、前記現在速度が第1制限速度以上の場合に、前記ニュートラル状態に前記モータを制御する、請求項1の電動アシスト台車。
【請求項3】
前記制御部は、前記現在速度が前記第1制限速度よりも速い第2制限速度以上の場合に、ショートブレーキ状態に前記モータを制御する、請求項2の電動アシスト台車。
【請求項4】
前記制御部は、前記現在速度がゼロであり前記操作者入力がゼロの場合に、ショートブレーキ状態に前記モータを制御する、請求項3の電動アシスト台車。