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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090083
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20240627BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240627BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20240627BHJP
   H01L 21/56 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J11/06
C09J175/04
H01L21/56 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205740
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100174159
【弁理士】
【氏名又は名称】梅原 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】由藤 拓三
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
5F061
【Fターム(参考)】
4J004AA14
4J004AB01
4J004AC03
4J004EA05
4J004FA08
4J040EF181
4J040EF281
4J040KA37
4J040LA10
4J040MA04
4J040NA20
4J040PA42
5F061AA01
5F061BA07
5F061CB12
(57)【要約】
【課題】被着体に対して良好に密着することが可能であり、かつ被着体からの除去性のよい粘着シートを提供する。
【解決手段】基材と、基材の片側に配置された第1粘着層と、基材の第1粘着層とは反対側に配置された第2粘着層とを備える粘着シートが提供される。第2粘着層の少なくとも表面は、熱膨張性微小球を含有する粘着剤により構成されている。第1粘着層は、A層と、A層に隣接するB層とを含む。A層の厚さは2μm以上であり、B層の厚さは5μm以上である。B層中に存在するカルボキシ基の量は、A層中に存在するカルボキシ基の量よりも多い。第1粘着層は、A1<B1およびA1≦0.050を満たす。A1、B1は、それぞれ測定位置A、BのFT-IRスペクトルにおけるエポキシ系樹脂処理前後のエポキシ系樹脂に由来するピーク強度上昇量である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の片側に配置された第1粘着層と、該基材の該第1粘着層とは反対側に配置された第2粘着層とを備える粘着シートであって、
前記第2粘着層の少なくとも表面は、熱膨張性微小球を含有する粘着剤により構成されており、
前記第1粘着層は、該第1粘着層の表面を構成するA層と、前記A層と前記基材との間に配置されて該A層に隣接するB層と、を含み、
前記A層の厚さは2μm以上であり、前記B層の厚さは5μm以上であり、
前記B層中に存在するカルボキシ基の量は、前記A層中に存在するカルボキシ基の量よりも多く、
前記第1粘着層は、下記条件(1)および(2)を満たす、粘着シート。
(1) A1<B1;および
(2) A1≦0.050
前記A1は、前記第1粘着層の表面から深さ1μmに位置する測定位置AのFT-IRスペクトルにおいて、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度を基準として求められる、該第1粘着層表面に対するエポキシ系樹脂処理前後の該エポキシ系樹脂に由来するピーク強度の上昇量A1であり、
前記B1は、前記第1粘着層の前記基材側から深さ5μmに位置する測定位置BのFT-IRスペクトルにおいて、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度を基準として求められる、該第1粘着層表面に対するエポキシ系樹脂処理前後の該エポキシ系樹脂に由来するピーク強度の上昇量B1であり、
前記エポキシ系樹脂に由来するピーク強度として、1505cm-1~1515cm-1の範囲に存在するピーク強度が用いられる。
【請求項2】
前記第1粘着層は、前記測定位置BのFT-IRスペクトルにおいて、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度に対する1700cm-1~1710cm-1の範囲に存在するピーク強度の比B2が0.15~0.50である、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記第1粘着層は、前記測定位置BのFT-IRスペクトルにおいて、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度に対する2955cm-1~2965cm-1の範囲に存在するピーク強度の比B3が0.1~0.3である、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記第1粘着層は、前記測定位置AのFT-IRスペクトルにおけるピーク強度比A2と、前記測定位置BのFT-IRスペクトルにおけるピーク強度比B2との比(B2/A2)が1.01~3.00である、ここで、前記ピーク強度比A2および前記ピーク強度比B2は、前記各FT-IRスペクトルにおいて、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度に対する1700cm-1~1710cm-1の範囲に存在するピーク強度の比である、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記第1粘着層は、前記測定位置AのFT-IRスペクトルにおけるピーク強度比A3と、前記測定位置BのFT-IRスペクトルにおけるピーク強度比B3との比(B3/A3)が0.75~2.00である、ここで、前記ピーク強度比A3および前記ピーク強度比B3は、前記各FT-IRスペクトルにおいて、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度に対する2955cm-1~2965cm-1の範囲に存在するピーク強度の比である、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項6】
前記A層の厚さが2~30μmであり,前記B層の厚さが5~40μmである、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項7】
前記第1粘着層の厚さは7~70μmである、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項8】
前記第1粘着層は、
該第1粘着層表面に対するエポキシ系樹脂処理後に100℃にて測定されるエポキシ系樹脂に対する密着力が0.01N/10mm以上3.00N/10mm以下であり、かつ、
23℃、50%RHの環境下で測定されるポリエチレンテレフタレートフィルムに対する粘着力が1.00N/20mm以上10.0N/20mm以下である、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項9】
前記B層は、カルボキシ基を有するアクリル系ポリマーと、イソシアネート系架橋剤とを含む、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項10】
前記第1粘着層は、前記測定位置AのFT-IRスペクトルにおいて、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度に対する1700cm-1~1710cm-1の範囲に存在するピーク強度の比A2が0.325以下である、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項11】
半導体チップの樹脂封止工程で用いられる、請求項1または2に記載の粘着シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に粘着剤(感圧接着剤ともいう。以下同じ。)は、室温付近の温度域において柔らかい固体(粘弾性体)の状態を呈し、圧力により被着体に接着する性質を有する。かかる性質を活かして、粘着剤は、典型的には粘着剤層を備える粘着シートの形態で、各種の産業分野において広く利用されている。粘着シートの用途の一例として、被着体である各種物品の製造、加工、搬送等の際に該被着体に一時的に貼り付けられ、その目的を達成した後に被着体から除去される、いわゆる工程材としての用途が挙げられる。例えば、半導体チップを含む半導体部品の製造において、半導体チップの傷つき防止、金属配線の拡張等のために当該半導体チップを樹脂封止する樹脂封止工程において、作業性等の観点から、半導体チップの樹脂封止を粘着シートの上で行うことがある。例えば、仮固定材としての粘着シートの粘着剤層上に複数の半導体チップを配置し、当該粘着剤層上で半導体チップを一括に封止する。その後、所定の後工程において、封止樹脂と半導体チップとを含む構造体から上記粘着シートを剥離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-308116号公報
【特許文献2】特開2001-313350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、工程材として用いられる粘着シートには、所定の工程中、被着体によく密着する性能と、被着体からの除去時に被着体から良好に除去できる性能とが求められる。被着体との密着性に関しては、例えば、上記半導体チップの樹脂封止工程に用いられる粘着シートには、被着体である半導体チップをズレなく固定する性能が求められる。また、被着体からの除去性に関しては、例えば、粘着シートを剥離する際の負荷による被着体の損傷防止に適した軽剥離性や、粘着シートの剥離後に被着体上への粘着剤の残留(糊残り)を生じない性質を有することが望ましい。例えば、上記半導体チップの樹脂封止工程のように、被着体に貼り付けられた状態で該被着体に加熱を伴う加工を施す使用態様が想定される粘着シートでは、加熱後にも上記軽剥離性や糊残り防止性を発揮することが求められる。
【0005】
粘着シートを軽剥離化するための一手法として、粘着剤を適度に硬くすることが挙げられる。粘着剤を硬くすることは、粘着剤の凝集破壊による糊残りを防止する観点からも有利である。しかし、粘着剤を硬くすると、被着体との密着性が低下する傾向にあり、被着体をズレなく固定することが難しくなる傾向にある。例えば、上記半導体チップの樹脂封止工程用途では、被着体に対する密着性が十分でないと、樹脂封止工程時などにおいて、チップシフトと称される数十ミクロン程度の半導体チップの位置ズレを生じることがあり、歩留まり低下や不具合の原因となり得る。また、基材上に粘着剤層を有する形態の粘着シートでは、粘着剤を硬くすると基材と粘着剤層との密着性が低下し、投錨破壊(基材と粘着剤層との界面での剥離)による糊残りが生じやすくなる。
【0006】
本発明者は、上記糊残りの防止に関し、鋭意検討を行った結果、半導体チップの樹脂封止工程に用いられる粘着シートでは、封止樹脂として用いられるエポキシ系樹脂中の成分が粘着剤層に移行することにより、封止樹脂と粘着剤との密着性が上昇し、重剥離化や糊残りが発生しやすくなることを発見した。この知見に基づけば、粘着剤層表面において封止樹脂からの移行成分量を低減することにより、軽剥離性および糊残り防止性を改善できると考えられる。そこで、さらに検討を進めた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、半導体チップの樹脂封止工程で用いられる場合であっても、被着体に対して良好に密着することが可能であり、かつ被着体からの除去性のよい粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この明細書により提供される粘着シートは、基材と、該基材の片側に配置された第1粘着層と、該基材の該第1粘着層とは反対側に配置された第2粘着層とを備える。上記第2粘着層の少なくとも表面は、熱膨張性微小球を含有する粘着剤により構成されている。また、上記第1粘着層は、該第1粘着層の表面を構成するA層と、上記A層と上記基材との間に配置されて該A層に隣接するB層とを含む。上記A層の厚さは2μm以上であり、上記B層の厚さは5μm以上である。上記B層中に存在するカルボキシ基の量は、上記A層中に存在するカルボキシ基の量よりも多い。そして、上記第1粘着層は、下記条件(1)および(2)を満たす。
(1) A1<B1;および
(2) A1≦0.050
ここで、上記A1は、上記第1粘着層の表面から深さ1μmに位置する測定位置AのFT-IRスペクトルにおいて、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度を基準として求められる、該第1粘着層表面に対するエポキシ系樹脂処理前後の該エポキシ系樹脂に由来するピーク強度の上昇量A1である。また、上記B1は、上記第1粘着層の上記基材側から深さ5μmに位置する測定位置BのFT-IRスペクトルにおいて、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度を基準として求められる、該第1粘着層表面に対するエポキシ系樹脂処理前後の該エポキシ系樹脂に由来するピーク強度の上昇量B1である。
【0008】
上記第1粘着層は、上記エポキシ系樹脂処理によって該第1粘着層に移行したエポキシ系樹脂中の成分が、第1粘着層表層部分で所定量以下に抑制されている。具体的には、測定位置A(第1粘着層表面から深さ1μmの位置)のFT-IRスペクトルにおいて、上記エポキシ系樹脂処理の前後のエポキシ系樹脂に由来するピーク強度上昇量A1が0.050以下である。また、上記第1粘着層は、上記エポキシ系樹脂処理によって該第1粘着層に移行したエポキシ系樹脂中の成分が、第1粘着層の表層側よりも基材側において多くなるように構成されている。具体的には、測定位置B(第1粘着層の基材側から深さ5μmの位置)のFT-IRスペクトルにおいて、上記エポキシ系樹脂処理の前後のエポキシ系樹脂に由来するピーク強度上昇量B1が、測定位置Aにおけるエポキシ系樹脂に由来するピーク強度上昇量A1よりも大きい(すなわちA1<B1)。上記ピーク強度上昇量B1が上記ピーク強度上昇量A1よりも大きいことは、エポキシ系樹脂からの移行成分が、第1粘着層の表面から基材側に移行し、保持されていることを意味する。上記構成によると、第1粘着層を被着体に密着させた後、第1粘着層表面において被着体側からの移行成分を原因とする糊残りが生じにくい。上記FT-IRスペクトルのピーク強度特性および該特性に基づく効果は、第1粘着層にA層とB層とを隣接するよう配置し、各層の厚さを所定値以上とし、さらに、B層中に存在するカルボキシ基の量をA層中よりも多くすることにより、好適に実現することができる。上記の糊残り防止性は、A層とB層とを含む第1粘着層において、B層の設計により達成することができるので、第1粘着層表面を構成するA層の設計の自由度は高く、所望の被着体密着性を有する設計とすることができる。要するに、上記構成によると、被着体に対して良好に密着することが可能であり、かつ被着体からの除去性のよい粘着シートが実現される。
また、上記構成の粘着シートは、第2粘着層を有し、上記第2粘着層の少なくとも表面は、熱膨張性微小球を含有する粘着剤により構成されているので、例えば上記第2粘着層を利用して適切な固定対象物(第2被着体)上に固定し、その状態で第1粘着層表面に密着させた第1被着体の加工(例えば上記第1粘着層上での樹脂封止工程)を行うことができるので使い勝手がよい。また、粘着シートを必要に応じて適切なタイミングで加熱して上記熱膨張性微小球を膨張させることにより、上記第2粘着層と第2被着体との接合を容易に解除し得る。
【0009】
いくつかの態様において、上記第1粘着層は、上記測定位置BのFT-IRスペクトルにおいて、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度に対する1700cm-1~1710cm-1の範囲に存在するピーク強度の比B2が0.15~0.50である。上記ピーク強度比B2が0.15以上であることにより、例えば、半導体チップの樹脂封止工程に粘着シートを用いる態様において、封止樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、当該移行成分は、第1粘着層の基材側でより多く保持されやすくなる。そのため、第1粘着層表面における該移行成分量は相対的に低くなり、第1粘着層表面における該移行成分を原因とする糊残りがより生じにくくなる傾向がある。また、上記ピーク強度比B2が0.50以下であることにより、例えば、エポキシ系樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、エポキシ系樹脂からの移行成分量が第1粘着層の基材側で抑制されるので、第1粘着層と基材との密着性(投錨性)が良好に保たれ、投錨破壊がより生じにくくなる傾向がある。
【0010】
いくつかの態様において、上記第1粘着層は、上記測定位置BのFT-IRスペクトルにおいて、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度に対する、2955cm-1~2965cm-1の範囲に存在するピーク強度の比B3が0.1~0.3である。上記ピーク強度比B3が0.10以上であることにより、例えば、半導体チップの樹脂封止工程に粘着シートを用いる態様において、封止樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、第1粘着層の基材側における当該移行成分の保持量が適度に抑制され、第1粘着層と基材との密着性(投錨性)が良好に保たれ、投錨破壊がより生じにくくなる傾向がある。また、上記ピーク強度比B3が0.30以下であることにより、第1粘着層の極性が適度に保持されるため、第1粘着層と基材との密着性が得られやすく、投錨破壊が生じにくい傾向がある。
【0011】
いくつかの態様において、上記第1粘着層は、上記測定位置AのFT-IRスペクトルにおけるピーク強度比A2と、上記測定位置BのFT-IRスペクトルにおけるピーク強度比B2との比(B2/A2)が1.01~3.00である。ここで、上記ピーク強度比A2および上記ピーク強度比B2は、上記各FT-IRスペクトルにおいて、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度に対する1700cm-1~1710cm-1の範囲に存在するピーク強度の比である。上記比(B2/A2)が1.01以上であることにより、例えば、半導体チップの樹脂封止工程に粘着シートを用いる態様において、封止樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、当該移行成分は、第1粘着層の基材側でより多く保持されやすくなる。そのため、第1粘着層表面における該移行成分量は相対的に低くなり、第1粘着層表面において該移行成分を原因とする糊残りがより生じにくくなる傾向がある。また、上記比(B2/A2)が3.00以下であることにより、例えば、エポキシ系樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、エポキシ系樹脂からの移行成分量が基材側で抑制されやすくなり、第1粘着層と基材との密着性(投錨性)が良好に保たれ、投錨破壊がより生じにくくなる傾向がある。
【0012】
いくつかの態様において、上記第1粘着層は、上記測定位置AのFT-IRスペクトルにおけるピーク強度比A3と、上記測定位置BのFT-IRスペクトルにおけるピーク強度比B3との比(B3/A3)が0.75~2.00である。ここで、上記ピーク強度比A3および上記ピーク強度比B3は、上記各FT-IRスペクトルにおいて、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度に対する2955cm-1~2965cm-1の範囲に存在するピーク強度の比である。上記比(B3/A3)が0.75~2.00の範囲内にあることにより、A層とB層との密着性が得られやすく、被着体からの粘着シート除去時にA層とB層との間で層間破壊が生じにくい傾向がある。
【0013】
いくつかの態様において、上記A層の厚さは2~30μmであり、前記B層の厚さは5~40μmである。A層およびB層の厚さをそれぞれ上記の範囲とすることにより、例えば、半導体チップの樹脂封止工程に粘着シートを用いる態様において、封止樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、A層における移行成分濃度を低下させつつ、B層において移行成分を適度に保持しやすくなり、優れた糊残り防止性が得られやすい。
【0014】
いくつかの態様において、上記第1粘着層の厚さは7~70μmである。第1粘着層の厚さを上記範囲内とすることにより、被着体に対する密着性が得られやすく、かつ第1粘着層の凝集破壊による糊残りが生じにくい。
【0015】
いくつかの態様において、上記第1粘着層は、該第1粘着層表面に対するエポキシ系樹脂処理後に100℃にて測定されるエポキシ系樹脂に対する密着力(対エポキシ系樹脂密着力)が0.01N/10mm以上3.00N/10mm以下であり、かつ、23℃、50%RHの環境下で測定されるポリエチレンテレフタレートフィルムに対する粘着力(対PET粘着力)が1.00N/20mm以上10.0N/20mm以下である。第1粘着層の対エポキシ系樹脂密着力が上記範囲内にある粘着シートによると、例えば、半導体チップの樹脂封止工程に粘着シートを用いる態様において、第1粘着層は封止樹脂に対して良好に密着しつつ、封止樹脂からの剥離時に糊残りが生じにくい傾向がある。また、第1粘着層の対PET粘着力が上記範囲内にある粘着シートによると、第1粘着層により被着体(例えば、半導体チップ)を好ましく固定することができ、かつ、粘着シートの第1粘着層側を被着体から剥がす際に被着体に糊残りが生じにくい。半導体チップの樹脂封止工程用途においては、チップ保持性がよく、チップシフトが好ましく防止され得る。
【0016】
いくつかの態様において、上記B層は、カルボキシ基を有するアクリル系ポリマーと、イソシアネート系架橋剤とを含む。このようなB層を備える粘着シートによると、第1粘着層の架橋反応後も、B層に一定量のカルボキシ基が存在し得る。これにより、例えば、半導体チップの樹脂封止工程に粘着シートを用いる態様において、封止樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、当該移行成分は、B層のカルボキシ基に引き付けられて、B層にてより多く保持されやすくなる。そのため、第1粘着層表面における該移行成分量は相対的に低くなり、第1粘着層表面において該移行成分を原因とする糊残りがより生じにくくなる傾向がある。
【0017】
いくつかの態様において、上記第1粘着層は、上記測定位置AのFT-IRスペクトルにおいて、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度に対する1700cm-1~1710cm-1の範囲に存在するピーク強度の比A2が0.325以下である。上記比A2が0.325以下であることにより、例えば、半導体チップの樹脂封止工程に粘着シートを用いる態様において、封止樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、第1粘着層表層部分におけるエポキシ系樹脂からの移行成分量が抑制されやすくなり、第1粘着層表面において該移行成分を原因とする糊残りがより生じにくくなる傾向がある。
【0018】
ここに開示される粘着シートは、半導体チップの樹脂封止工程で用いられる場合に、被着体である半導体チップに対して良好に密着し得るので、チップ保持性がよく、かつ封止樹脂の除去性がよい。したがって、半導体チップの樹脂封止工程に特に好適である。なお、ここに開示される粘着シートの用途は、半導体チップの樹脂封止工程用途に限定されず、種々の用途に適用することができる。例えば、ここに開示される粘着シートは、従来の粘着シートと比べて、比較的低弾性で、糊残り防止性など被着体からの良好な除去性を発揮し得るので、その柔軟性、被着体密着性を活かして、小型のデバイスや表面凹凸を有するデバイス等の各種デバイスを加工する用途に用いられる加工用粘着シートとしても好適である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一実施形態に係る粘着シートの構成を模式的に示す断面図である。
図2】(i)~(iv)は、図1に示す粘着シートを用いて行われる半導体チップ樹脂封止工程の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、本明細書に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて当業者に理解され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際に提供される製品のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0021】
この明細書において、「ベースポリマー」とは、粘着シートを構成する層(例えば粘着剤層)に含まれるゴム状ポリマーの主成分をいい、このこと以外、何ら限定的に解釈されるものではない。上記ゴム状ポリマーとは、室温付近の温度域においてゴム弾性を示すポリマーをいう。また、この明細書において「主成分」とは、特記しない場合、50重量%を超えて含まれる成分を指す。
また、この明細書において「アクリル系ポリマー」とは、該ポリマーを構成するモノマー単位として、1分子中に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマーに由来するモノマー単位を含む重合物をいう。以下、1分子中に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するモノマーを「アクリル系モノマー」ともいう。したがって、この明細書におけるアクリル系ポリマーは、アクリル系モノマーに由来するモノマー単位を含むポリマーとして定義される。アクリル系ポリマーの典型例として、該アクリル系ポリマーの合成に用いられる全モノマーのうちアクリル系モノマーの割合が50重量%超(好ましくは70重量%超、例えば90重量%超)であるポリマーが挙げられる。以下、ポリマーの合成に用いられるモノマーのことを、該ポリマーを構成するモノマー成分ともいう。
また、この明細書において「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよびメタクリロイルを包括的に指す意味である。同様に、「(メタ)アクリレート」とはアクリレートおよびメタクリレートを、「(メタ)アクリル」とはアクリルおよびメタクリルを、それぞれ包括的に指す意味である。したがって、ここでいうアクリル系モノマーの概念には、アクリロイル基を有するモノマー(アクリル系モノマー)とメタクリロイル基を有するモノマー(メタクリル系モノマー)との両方が包含され得る。
【0022】
<粘着シートの概要>
ここに開示される粘着シートは、例えば、被着体である各種物品の製造、加工、搬送等の際に該被着体に一時的に貼り付けられ、その目的を達成した後に被着体から除去される工程材として好適に用いられ得る。かかる用途の一例として、半導体チップを樹脂封止する際の仮固定材としての用途が挙げられる。より詳細には、ここに開示される粘着シートは、該粘着シートの第1粘着層上に半導体チップを配列し、当該半導体チップを封止樹脂(通常、エポキシ系樹脂)で覆い、当該封止樹脂を硬化することによって半導体チップを樹脂封止する際の、当該半導体チップの仮固定材として用いられ得る。半導体チップを樹脂封止した後、所定の後工程(例えば、封止樹脂の裏面研削、パターン形成、バンプ形成、チップ化(切断))の際には、上記粘着シートは、封止樹脂と半導体チップを含んで構成された構造体から剥離され得る。封止樹脂のエポキシ当量は、例えば、50g/eq~500g/eqである。
【0023】
図1は、ここに開示される粘着シートの一実施形態を示す概略断面図である。粘着シート100は、基材10と、基材10の片側に配置された第1粘着層20とを備える。また、第1粘着層20は、第1粘着層20の表面(粘着面)を構成するA層22と、A層22と基材10との間に配置されてA層22に隣接するB層24と、を含む。また、粘着シート100は、基材10の背面側(第1粘着層20とは反対側)に、第2粘着層30をさらに備える。すなわち、粘着シート100は、第1粘着層20と、基材10と、第2粘着層30とをこの順に備える。
【0024】
粘着シート100は、例えば図2に示すようにして半導体チップの樹脂封止に用いられ得る。まず、粘着シート100の第1粘着層上に複数の半導体チップ1を貼着する(工程(i))。次いで、半導体チップ1を封止樹脂の半硬化物2’で覆い(工程(ii))、この半硬化物2’を硬化させることにより半導体チップ1を封止樹脂2で封止する(工程(iii))。上記半硬化物2’は、例えばナフタレン型2官能エポキシ樹脂(エポキシ当量:144)を含む組成物を用いて形成することができる。その後、所定の後工程の際に、半導体チップ1と封止樹脂2とを含む構造体50から粘着シート100を剥離する(工程(iv))。
【0025】
粘着シート100は、後述するFT-IRスペクトル特性のうち少なくとも一つを満たすA層22およびB層24を有することにより、被着体に対して良好に密着することが可能であり、かつ被着体に対して良好な除去性を有するものとなり得る。粘着シート100は、例えば、半導体チップの樹脂封止工程で用いられる場合に、被着体である半導体チップに対して良好に密着することが可能であり、かつ封止樹脂の除去性がよい。したがって、粘着シート100は、半導体チップの樹脂封止工程に特に好適である。また、第2粘着層30を備えることにより、例えば、キャリア上で樹脂封止をする際に、第2粘着層30側を当該キャリアに貼着することにより、粘着シート100をキャリアに容易に固定することができる。さらに、その状態で、例えば上記第1粘着層上での樹脂封止工程を行うことができるので使い勝手がよい。
【0026】
また、第2粘着層の少なくとも表面は、熱膨張性微小球を含む粘着剤により構成されている。このような熱膨張性微小球を含む粘着剤は、所定温度以上に加熱されることで上記熱膨張性微小球を膨張させて上記第2粘着層の表面に凹凸を生じさせ、粘着力を低下または消失させることができる。熱膨張性微小球を含む粘着剤によって第2粘着層の少なくとも表面を構成することにより、該第2粘着層を介して粘着シートを固定(例えば、キャリアに固定)する際には必要な粘着性が発現され、粘着シートを剥離する際(例えば、上記キャリアから剥離する際)には、加熱により粘着力を低下または消失させることで良好な剥離性が発現される。熱膨張性微小球を含む粘着剤と基材との間には、熱膨張性微小球を含まないかその含有量の少ない弾性中間層(粘着剤層であり得る。)が配置されていてもよい。
【0027】
なお、本明細書において、粘着層(第1粘着層および第2粘着層を包含する。)とは、少なくとも表面(粘着面)が粘着剤により構成されている層をいう。したがって、粘着層が多層構造を有する場合、表面(粘着面)を構成する層以外の層は、粘着剤層であってもよく、非粘着層(例えば、非粘着性の粘弾性層)であってもよい。
【0028】
<第1粘着層のFT-IRスペクトル特性>
ここに開示される第1粘着層は、所定のエポキシ系樹脂処理の後に該第1粘着層に移行したエポキシ系樹脂中の成分が、第1粘着層の表層側よりも基材側で多く保持されていることを特徴の一つとする。具体的には、いくつかの態様において、第1粘着層は、所定のエポキシ系樹脂処理後の、基材側に位置する測定位置BのFT-IRスペクトルにおけるエポキシ系樹脂に由来するピーク強度上昇量B1が、表層側に位置する測定位置AのFT-IRスペクトルにおけるエポキシ系樹脂に由来するピーク強度上昇量A1よりも大きい(すなわちA1<B1)ことによって特徴づけられる。上記条件(A1<B1)を満たす第1粘着層によると、第1粘着層を被着体に密着させた後、第1粘着層表面において被着体側からの移行成分を原因とする糊残りが生じにくい。例えば、半導体チップの樹脂封止工程に粘着シートを用いる態様において、封止樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、当該移行成分は、第1粘着層の基材側でより多く保持されるので、第1粘着層表面における該移行成分量は相対的に低くなり、第1粘着層表面における該移行成分を原因とする糊残りが生じにくい。
【0029】
上記ピーク強度上昇量A1は、第1粘着層の表面から深さ1μmに位置する測定位置AのFT-IRスペクトルにおいて、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度を基準として求められる、該第1粘着層表面に対するエポキシ系樹脂処理前後の該エポキシ系樹脂に由来するピーク強度の上昇量A1である。より具体的には、上記A1は、所定のエポキシ系樹脂処理前の第1粘着層の測定位置AのFT-IRスペクトルにおける、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度に対するエポキシ系樹脂に由来するピーク強度の比A10と、所定のエポキシ系樹脂処理後の第1粘着層の測定位置AのFT-IRスペクトルにおける、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度に対するエポキシ系樹脂に由来するピーク強度の比A11とを求め、両者の差分(A11―A10)から算出される。
【0030】
また、上記ピーク強度上昇量B1は、第1粘着層の基材側から深さ5μmに位置する測定位置BのFT-IRスペクトルにおいて、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度を基準として求められる、該第1粘着層表面に対するエポキシ系樹脂処理前後の該エポキシ系樹脂に由来するピーク強度の上昇量B1である。より具体的には、上記B1は、所定のエポキシ系樹脂処理前の第1粘着層の測定位置BのFT-IRスペクトルにおける、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度に対するエポキシ系樹脂に由来するピーク強度の比B10と、所定のエポキシ系樹脂処理後の第1粘着層の測定位置BのFT-IRスペクトルにおける、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度に対するエポキシ系樹脂に由来するピーク強度の比B11とを求め、両者の差分(B11―B10)から算出される。
【0031】
上記測定位置AおよびBは、例えば、図1に示す粘着シート100においては、それぞれ符号AおよびBに示される場所に位置する。
【0032】
上記エポキシ系樹脂に由来するピーク強度としては、エポキシ系樹脂処理に用いられるエポキシ系樹脂が芳香環を含むことから、1505cm-1~1515cm-1の範囲に存在するピーク強度が用いられる。上記FT-IRスペクトルにおいて、1505cm-1~1515cm-1の範囲は芳香族環面内伸縮振動に基づく吸収帯である。また、上記FT-IRスペクトルにおいて、ピーク強度上昇量の算出の基準となるピーク強度の吸収帯である1725cm-1~1750cm-1の範囲は、エステルC=O伸縮振動に基づく吸収帯である。
【0033】
なお、第1粘着層が芳香環を含まないか、あるいは芳香環を少量しか含まない場合、エポキシ系樹脂処理前の測定位置AおよびBのFT-IRスペクトルにおいて、1505cm-1~1515cm-1の範囲にピークは認められないか、あるいは該ピークの高さはピーク強度上昇量A1およびピーク強度上昇量B1に実質的に影響せず、無視してよい程度となり得る。その場合、エポキシ系樹脂処理前の測定位置AおよびBのFT-IRスペクトルにおける、1505cm-1~1515cm-1の範囲に存在するピーク強度(上記ピーク強度比A10、B10)をゼロとみなし、エポキシ系樹脂処理後の測定位置AおよびBのエポキシ系樹脂に由来するピーク強度(上記ピーク強度比A11、B11)を、それぞれピーク強度上昇量A1およびピーク強度上昇量B1とみなしてもよい。
【0034】
上記第1粘着層表面に対するエポキシ系樹脂処理は、芳香環を含む標準エポキシ系樹脂を用いて、温度145℃、加圧条件0.2MPa、加熱加圧時間400秒の条件による加熱成形と、150℃、4時間加熱による封止樹脂硬化を行う処理であり、より具体的には、後述の実施例に記載の方法で実施される。
【0035】
いくつかの好ましい態様において、上記ピーク強度上昇量B1と、上記ピーク強度上昇量A1との差分(B1-A1)は0.010以上であってもよく、0.030以上でもよく、0.050以上でもよく、0.060以上でもよい。差分(B1-A1)が大きいほど、例えば、第1粘着層表面にエポキシ系樹脂封止を行った場合に、第1粘着層に移行したエポキシ系樹脂中の成分が、より多く基材側に移行し、保持されるので、第1粘着層表面において移行成分を原因とする糊残りがより生じにくい。また、いくつかの態様において、上記差分(B1-A1)は、例えば0.090以下が好ましく、0.070以下であってもよく、0.050以下でもよく、0.030以下でもよい。差分(B1-A1)が所定値以下であることにより、例えば、エポキシ系樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、エポキシ系樹脂からの移行成分の保持量が第1粘着層の基材側でも抑制され、第1粘着層と基材との密着性(投錨性)が良好に保たれ、投錨破壊がより生じにくくなる傾向がある。
【0036】
また、いくつかの態様において、上記ピーク強度上昇量A1は0.050以下であることが好ましい(すなわち、A1≦0.050)。上記第1粘着層は、所定のエポキシ系樹脂処理によって該第1粘着層に移行したエポキシ系樹脂中の成分の量が、第1粘着層表層部分で抑制されているので、第1粘着層を被着体に密着させた後、第1粘着層表面において被着体側からの移行成分を原因とする糊残りが生じにくい。例えば、半導体チップの樹脂封止工程に粘着シートを用いる態様において、封止樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、当該移行成分量は、第1粘着層の表層側で抑制されるので、第1粘着層表面における該移行成分を原因とする糊残りが生じにくい。上記ピーク強度上昇量A1は、より好ましくは0.040以下、さらに好ましくは0.030以下、特に好ましくは0.020以下であり、0.010以下であってもよく、0.005以下でもよく、0.003以下でもよい。いくつかの態様において、上記ピーク強度上昇量A1の下限値は、0.000よりも大きく、0.001以上であってもよく、実用上、凡そ0.003以上(例えば0.010以上)でもよい。
【0037】
上記ピーク強度上昇量B1は、上記条件(A1<B1)の範囲で適切に設定され、特定の範囲に限定されない。いくつかの態様において、上記ピーク強度上昇量B1は0.090以下であることが好ましく、0.080以下がより好ましく、0.070以下であってもよく、0.060以下でもよく、0.050以下でもよい。上記ピーク強度上昇量B1が所定値以下に制限されていることにより、例えば、エポキシ系樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、エポキシ系樹脂からの移行成分の保持量が第1粘着層の基材側でも抑制され、第1粘着層と基材との密着性(投錨性)が良好に保たれ、投錨破壊がより生じにくくなる傾向がある。いくつかの態様において、上記ピーク強度上昇量B1の下限値は、0.010以上が適当であり、0.020以上であってもよく、好ましくは0.035以上であり、0.050以上でもよい。上記ピーク強度上昇量B1が所定値以上であることは、エポキシ系樹脂からの移行成分が、第1粘着層の表面から基材側に移行し、保持されていることを意味する。そのため、第1粘着層表面において移行成分を原因とする糊残りが生じにくい。
【0038】
なお、本明細書に開示される粘着シートは、上記ピーク強度上昇量A1、B1、したがってA1<B1の制限のない態様を包含し、そのような態様において、粘着シートは上記特性(ピーク強度上昇量A1、B1またはA1<B1)を有するものに限定されない。
【0039】
いくつかの態様において、第1粘着層は、上記測定位置AのFT-IRスペクトルにおけるピーク強度比A2と、上記測定位置BのFT-IRスペクトルにおけるピーク強度比B2との比(B2/A2)が1.00よりも大きいことが好ましい。上記ピーク強度比A2および上記ピーク強度比B2は、上記各FT-IRスペクトルにおいて、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度に対する1700cm-1~1710cm-1の範囲に存在するピーク強度の比である。1700cm-1~1710cm-1の範囲は、カルボン酸C=O伸縮振動に基づく吸収帯であり、上記範囲に存在するピーク強度は、カルボン酸に由来するピーク強度である。上記比(B2/A2)が1.00よりも大きい、すなわちB2>A2であることにより、例えば、半導体チップの樹脂封止工程に粘着シートを用いる態様において、封止樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、当該移行成分は、カルボン酸(ポリマー中、カルボキシ基の形態であり得る。)がより多く存在する第1粘着層の基材側に引き付けられて、該基材側でより多く保持されやすくなる。そのため、第1粘着層表面における該移行成分量は相対的に低くなり、第1粘着層表面において該移行成分を原因とする糊残りがより生じにくくなる傾向がある。そのような観点から、いくつかの態様において、上記比(B2/A2)は1.01以上であり、好ましくは1.20以上、より好ましくは1.50以上、さらに好ましくは1.80以上、特に好ましくは2.00以上であり、例えば2.20以上であってもよい。いくつかの態様において、上記比(B2/A2)は3.00以下であることが好ましく、2,80以下がより好ましく、2.60以下がさらに好ましく、2.00以下であってもよく、1.50以下でもよい。上記比(B2/A2)が所定値以下であることにより、エポキシ系樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、例えば、エポキシ系樹脂からの移行成分の保持量が基材側で抑制されやすくなり、第1粘着層と基材との密着性(投錨性)が良好に保たれ、投錨破壊がより生じにくくなる傾向がある。
【0040】
いくつかの好ましい態様において、上記ピーク強度比A2は、0.50未満であり、0.40以下が適当であり、0.325以下が好ましく、0.30以下がより好ましく、0.20以下がさらに好ましく、0.15以下であってもよく、0.12以下(例えば0.120以下)でもよい。上記ピーク強度比A2が所定値以下であることにより、例えば、半導体チップの樹脂封止工程に粘着シートを用いる態様において、封止樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、当該移行成分は、カルボン酸(ポリマー中、カルボキシ基の形態であり得る。)量が制限された第1粘着層の表層側に留まりにくくなる。その結果、第1粘着層表面における該移行成分保持量は低くなり、第1粘着層表面における該移行成分を原因とする糊残りが生じにくくなる傾向がある。また、いくつかの態様において、上記ピーク強度比A2は、第1粘着層の表層におけるカルボン酸含有に基づく特性(具体的には粘着特性)を得る観点から、0.01以上であってもよく、0.05以上でもよく、0.10以上でもよい。
【0041】
いくつかの態様において、上記ピーク強度比B2は、0.15以上であることが好ましく、0.18以上でもよく、0.20以上がより好ましく、0.22以上がさらに好ましく、0.25以上が特に好ましい。上記ピーク強度比B2が所定値以上であることにより、例えば、半導体チップの樹脂封止工程に粘着シートを用いる態様において、封止樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、当該移行成分は、カルボン酸(ポリマー中、カルボキシ基の形態であり得る。)が相対的に多く存在する第1粘着層の基材側に引き付けられて、該基材側でより多く保持されやすくなる。そのため、第1粘着層表面における該移行成分量は相対的に低くなり、第1粘着層表面における該移行成分を原因とする糊残りがより生じにくくなる傾向がある。また、いくつかの態様において、上記ピーク強度比B2は、0.70以下であってもよく、0.50以下であることが好ましく、0.40以下であってもよく、0.30以下でもよく、0.25以下でもよい。上記ピーク強度比B2が所定値以下であることにより、例えば、エポキシ系樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、エポキシ系樹脂からの移行成分の保持量が第1粘着層の基材側で抑制されるので、第1粘着層と基材との密着性(投錨性)が良好に保たれ、投錨破壊がより生じにくくなる傾向がある。
【0042】
特に限定するものではないが、いくつかの態様において、第1粘着層は、上記測定位置AのFT-IRスペクトルにおけるピーク強度比A3と、上記測定位置BのFT-IRスペクトルにおけるピーク強度比B3との比(B3/A3)が0.75~2.00であることが好ましい。上記ピーク強度比A3および上記ピーク強度比B3は、上記各FT-IRスペクトルにおいて、1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度に対する2955cm-1~2965cm-1の範囲に存在するピーク強度の比であり、2955cm-1~2965cm-1の範囲はC-H伸縮振動に基づく吸収帯である。上記比(B3/A3)が0.75~2.00の範囲内にあることにより、A層とB層との密着性が得られやすく、被着体からの粘着シート除去時にA層とB層との間で層間破壊が生じにくい傾向がある。そのような観点から、上記比(B3/A3)は、0.90以上であってもよく、1.00以上でもよく、1.10以上でもよく、また、1.80以下であってもよく、1.50以下でもよく、1.20以下でもよい。
【0043】
特に限定するものではないが、いくつかの態様において、上記ピーク強度比A3が0.10以上であってもよい。上記ピーク強度比A3が大きいほど、第1粘着層の表層に存在するポリマーの側鎖が長くなる傾向にある。上記ピーク強度比A3が0.10以上であることにより、例えば、半導体チップの樹脂封止工程に粘着シートを用いる態様において、封止樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、第1粘着層の表層側における当該移行成分の保持量が低くなり、第1粘着層表面における該移行成分を原因とする糊残りが生じにくくなる傾向がある。そのような観点から、いくつかの態様において、上記ピーク強度比A3は、0.12以上でもよく、0.13以上でもよい。また、いくつかの態様において、上記ピーク強度比A3は、0.30以下であってもよく、0.20以下でもよく、0.15以下でもよい。上記ピーク強度比A3が所定値以下であることにより、封止樹脂から第1粘着層表面に移行した成分は、第1粘着層表層の基材側に移行しやすい。
【0044】
いくつかの態様において、上記ピーク強度比B3が0.1~0.3である。上記ピーク強度比B3が0.10以上であることにより、例えば、半導体チップの樹脂封止工程に粘着シートを用いる態様において、封止樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、第1粘着層の基材側における当該移行成分の保持量が適度に抑制され、第1粘着層と基材との密着性(投錨性)が良好に保たれ、投錨破壊がより生じにくくなる傾向がある。そのような観点から、上記ピーク強度比B3は、0.12以上でもよく、0.14以上でもよく、0.15以上でもよい。また、いくつかの好ましい態様において、上記ピーク強度比B3は、0.30以下であってもよく、0.25以下でもよく、0.20以下でもよく、0.18以下でもよい。上記ピーク強度比B3が所定値以下であることにより、第1粘着層の極性が適度に保持されるため、第1粘着層と基材との密着性が得られやすく、投錨破壊が生じにくい傾向がある。
【0045】
上記ピーク強度上昇量A1、B1、ピーク強度比A2、B2、A3およびB3は、第1粘着層の測定位置AおよびBのFT-IR測定から求められる。より具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0046】
上記ピーク強度上昇量A1、B1、ピーク強度比A2、B2、A3およびB3は、第1粘着層にA層とB層とを隣接するよう配置し、各層の厚さを所定値以上とし、さらに、A層およびB層に含まれるポリマーのモノマー組成(例えば、主モノマー種の選定、カルボキシ基含有モノマー種の選定、それらの重合割合等)、A層およびB層の含有成分(架橋剤種等)により調節、設定することができる。
【0047】
<第1粘着層の粘着特性>
特に限定するものではないが、いくつかの態様において、第1粘着層は、該第1粘着層表面に対するエポキシ系樹脂処理後に100℃にて測定されるエポキシ系樹脂に対する密着力(対エポキシ系樹脂密着力)が0.01N/10mm以上3.00N/10mm以下の範囲内である。第1粘着層の対エポキシ系樹脂密着力が上記範囲内にある粘着シートによると、例えば、半導体チップの樹脂封止工程に粘着シートを用いる態様において、第1粘着層は封止樹脂に対して良好に密着しつつ、封止樹脂からの剥離時に糊残りが生じにくい傾向がある。上記対エポキシ系樹脂密着力は、0.10N/10mm以上であることが適当であり、0.30N/10mm以上であることが好ましく、0.50N/10mm以上でもよい。また、上記対エポキシ系樹脂密着力は、糊残り防止の観点から、2.00N/10mm以下であることが好ましく、1.50N/10mm以下であることがより好ましく、1.00N/10mm以下がさらに好ましく、0.80N/10mm以下であってもよく、0.60N/10mm以下でもよい。対エポキシ系樹脂密着力は、後述の実施例の対封止樹脂密着力の記載に基づいて測定される。
【0048】
特に限定するものではないが、いくつかの態様において、第1粘着層は、23℃、50%RHの環境下で測定されるポリエチレンテレフタレートフィルムに対する粘着力(対PET粘着力)が1.00N/20mm以上10.0N/20mm以下である。第1粘着層の対PET粘着力が上記範囲内にある粘着シートによると、第1粘着層により被着体(例えば、半導体チップ)を好ましく固定することができ、かつ、粘着シートの第1粘着層側を被着体から剥がす際に被着体に糊残りが生じにくい。半導体チップの樹脂封止工程用途においては、チップシフトが好ましく防止され得る。上記対PET粘着力は、被着体(例えば、半導体チップ)を好ましく固定する観点から、3.00N/20mm以上であることが適当であり、5.00N/20mm以上(例えば5.00N/20mm超)であることが好ましく、6.00N/20mm以上でもよく、8.00N/20mm以上でもよい。また、いくつかの態様において、粘着シートを剥がす際の負荷による被着体の損傷を防止する観点から、上記対PET粘着力は、9.00N/20mm以下であってもよく、7.00N/20mm以下でもよく、5.00N/20mm以下でもよく、3.00N/20mm以下でもよい。対PET粘着力は、後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0049】
<第1粘着層>
ここに開示される粘着シートにおいて、基材の片側に配置される第1粘着層を構成する粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤を含むことが好ましい。アクリル系粘着剤は、1種または2種以上であってもよい。上記2種以上の粘着剤を含む粘着剤層において、それらの粘着剤は、均一に混じり合っていてもよく、厚さ方向に位置を異ならせて配置(例えば積層)されていてもよく、平面方向に位置を異ならせて配置(例えば、塗り分け)されていてもよく、これらを組み合わせた配置や、これらの中間的な配置であってもよい。
【0050】
第1粘着層の厚さは、好ましくは7μm以上である。第1粘着層の厚さが大きいほど、被着体に対する密着性が得られやすい。また、第1粘着層のFT-IRスペクトル特性(典型的には、上記条件(1):A1<B1、および(2):A1≦0.050)を満たすことの効果が好適に実現され得る。そのような観点から、いくつかの態様において、第1粘着層の厚さは、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上がさらに好ましく、25μm以上であってもよく、40μm以上でもよい。第1粘着層の厚さの上限は特に制限されず、例えば200μm以下でもよく、150μm以下でもよい。いくつかの態様において、第1粘着層の凝集破壊による糊残りの防止等の観点から、第1粘着層の厚さは、100μm以下であることが適当であり、70μm以下であることが好ましく、50μm以下であってもよく、30μm以下でもよく、20μm以下でもよい。
【0051】
<A層>
第1粘着層の少なくとも表面を構成するA層は、アクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系粘着剤を含むことが好ましい。第1粘着層の少なくとも表面をアクリル系粘着剤で構成することにより、ここに開示される発明の効果が好適に発揮され得る。
【0052】
(アクリル系ポリマー)
アクリル系粘着剤のベースポリマーであるアクリル系ポリマーは、好ましくは、アルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとして含み、必要に応じて上記主モノマーと共重合性を有する副モノマーをさらに含み得るモノマー成分の重合物である。ここで主モノマーとは、アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分における主成分、すなわち該モノマー成分に50重量%を超えて含まれる成分をいう。
【0053】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば下記式(A)で表される化合物を好適に用いることができる。
CH=C(R)COOR (A)
ここで、上記式(A)中のRは水素原子またはメチル基である。また、Rは炭素原子数1~20の鎖状アルキル基(以下、このような炭素原子数の範囲を「C1-20」と表すことがある。)である。粘着特性の調節容易性等の観点から、RがC1-18の鎖状アルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、RがC1-12の鎖状アルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。上記アルキル(メタ)アクリレートは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
上記アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル等の(メタ)アクリル酸C1-20アルキルエステルが挙げられる。いくつかの態様において、C1-3(より好ましくはC1-2)の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例えば、(メタ)アクリル酸メチルや(メタ)アクリル酸エチル)を用いることが好ましい。また、いくつかの態様において、C4-20(より好ましくはC4-18、さらに好ましくはC4-12)の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例えば、(メタ)アクリル酸ブチルや(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル)を用いることが好ましい。いくつかの好ましい態様において、C1-3(より好ましくはC1-2)の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、C4-20(より好ましくはC4-18、さらに好ましくはC4-12)の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとは併用される。
【0055】
いくつかの態様において、アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分のうち30重量%以上が、上記式(A)におけるRが炭素数1~20の鎖状アルキル基である構造のアルキル(メタ)アクリレート(すなわち、C1-20の鎖状アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート)である。上記アルキル(メタ)アクリレートを所定量以上用いることにより、目的とする粘着特性(粘着力等)を実現しやすい。そのような観点から、アクリル系ポリマーの合成に用いられるモノマー成分における上記アルキル(メタ)アクリレートの含有量は、50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましく、90重量%以上であってもよい。また、モノマー成分における上記アルキル(メタ)アクリレートの含有量は、副モノマーを共重合することによる作用(例えば凝集力)を効果的に得る観点から、99重量%以下であることが適当であり、95重量%以下であることが好ましい。
【0056】
いくつかの態様において、アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分のうち10重量%以上が、上記式(A)におけるRが炭素数3以下(好ましくは1または2)の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である構造のアルキル(メタ)アクリレート(すなわち、C1-3の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル)である。かかるアルキル(メタ)アクリレートを用いることにより、A層の極性が適度に保持され、良好な被着体密着性が得られやすい。アクリル系ポリマーの合成に用いられるモノマー成分における上記C1-3の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、30重量%以上であることが適当であり、40重量%以上であることが好ましく、いくつかの態様では50重量%以上でもよく、65重量%以上でもよい。モノマー成分における上記C1-3の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、測定位置Aにおけるエポキシ系樹脂に由来するピーク強度上昇量A1を抑制する観点から、99重量%以下であることが適当であり、90重量%以下であることが好ましく、80重量%以下でもよく、70重量%以下でもよく、60重量%以下でもよい。上記C1-3の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを適当量使用することにより、アクリル系ポリマーのガラス転移温度を、被着体密着性と糊残り防止性とを好ましく両立し得る適当な範囲に設定することができる。C1-3の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
いくつかの態様において、アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分のうち10重量%以上が、上記式(A)におけるRが炭素数4以上(例えば8以上。また、好ましくは18以下、例えば12以下、より好ましくは8以下)の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である構造のアルキル(メタ)アクリレート(すなわち、C4以上の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル)である。かかるアルキル(メタ)アクリレートを用いることにより、封止樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、A層における当該移行成分の保持量が低くなる傾向がある。アクリル系ポリマーの合成に用いられるモノマー成分における上記C4以上の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、20重量%以上であることが好ましく、いくつかの態様では30重量%以上でもよく、40重量%以上でもよい。モノマー成分における上記C4以上の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、良好な被着体密着性、糊残り防止性を得る観点から、90重量%以下であることが適当であり、70重量%以下であることが好ましく、50重量%以下でもよく、30重量%以下でもよい。C4以上の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
主モノマーであるアルキル(メタ)アクリレートと共重合性を有する副モノマーは、アクリル系ポリマーに架橋点を導入したり、アクリル系ポリマーの凝集力や耐熱性を高めたりするために役立ち得る。また、封止樹脂からの移行成分の保持量の調節、ひいては第1粘着層のFT-IRスペクトル特性(典型的には、上記条件(1):A1<B1、および(2):A1≦0.050)の充足にも役立ち得る。副モノマーとしては、例えば、以下のような官能基含有モノマーを、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、以下のような官能基含有モノマーを、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等の、カルボキシ基含有モノマー;
無水マレイン酸、無水イコタン酸等の酸無水物モノマー;
(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシラウリル、(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチルメタクリレート等の、ヒドロキシ基含有モノマー;
(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド等の(N-置換)アミド系モノマー;
N-ビニル-2-ピロリドン、N-メチルビニルピロリドン、N-ビニルピリジン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルピリミジン、N-ビニルピペラジン、N-ビニルピラジン、N-ビニルピロール、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルオキサゾール、N-ビニルモルホリン、N-ビニルカプロラクタム、N-(メタ)アクリロイルモルホリン等の、窒素原子含有環を有するモノマー;
(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルアミノエチル等の、アミノ基含有モノマー;
(メタ)アクリル酸グリシジル等の、エポキシ基含有アクリル系モノマー;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の、シアノ基含有モノマー;
スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸等の、スルホン酸基含有モノマー;
N-シクロヘキシルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-ラウリルマレイミド、N-フェニルマレイミド等の、マレイミド系モノマー;
N-メチルイタコンイミド、N-エチルイタコンイミド、N-ブチルイタコンイミド、N-オクチルイタコンイミド、N-2-エチルヘキシルイタコンイミド、N-シクロヘキシルイタコンイミド、N-ラウリルイタコンイミド等の、イタコンイミド系モノマー;
N-(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクルロイル-6-オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N-(メタ)アクリロイル-8-オキシオクタメチレンスクシンイミド等の、スクシンイミド系モノマー;
3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等の、アルコキシシリル基含有モノマー。
【0060】
モノマー成分は、凝集力向上等の目的で、上記で例示したような官能基含有モノマー以外の他の共重合性モノマーの1種または2種以上を、副モノマーとして含んでいてもよい。かかる他の共重合性モノマーの例としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル等のビニルエステル系モノマー;スチレン、置換スチレン(α-メチルスチレン等)、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート;アリール(メタ)アクリレート(例えばフェニル(メタ)アクリレート)、アリールオキシアルキル(メタ)アクリレート(例えばフェノキシエチル(メタ)アクリレート)、アリールアルキル(メタ)アクリレート(例えばベンジル(メタ)アクリレート)等の芳香族性環含有(メタ)アクリレート;エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレン等のオレフィン系モノマー;塩化ビニル、塩化ビニリデン等の塩素含有モノマー;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等のイソシアネート基含有モノマー;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシ基含有モノマー;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル系モノマー;(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコール等のグリコール系モノマー;
その他、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等の複素環含有モノマー、フッ素(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート等;が挙げられる。
【0061】
モノマー成分は、上記他の共重合性モノマーとして、架橋等を目的として多官能性モノマーを含んでいてもよい。そのような多官能性モノマーの非限定的な例には、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、多官能エポキシアクリレート、多官能ポリエステルアクリレート、多官能ウレタンアクリレート等の多官能性モノマー;等が含まれ得る。多官能性モノマーは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0062】
いくつかの態様において、上記アクリル系ポリマーは、カルボキシ基含有モノマー由来の構成単位を含んでもよいが、その含有量は制限されていることが好ましい。カルボキシ基含有モノマー由来の構成単位の含有量は、アクリル系ポリマーを構成する全構成単位に対して10重量%以下とすることが適当であり、好ましくは7重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下であり、さらに好ましくは3重量%以下であり、特に好ましくは1重量%以下である。上記アクリル系ポリマー中、カルボキシ基含有モノマー由来の構成単位が制限されていることにより、第1粘着層のFT-IRスペクトル特性(典型的には、上記条件(1):A1<B1、および(2):A1≦0.050)を好ましく充足することができ、また、上記ピーク強度比A2を所定値以下に調節しやすく、上記比(B2/A2)が1.00よりも大きい構成を好ましく得ることができる。そのような観点から、いくつかの好ましい態様において、カルボキシ基含有モノマー由来の構成単位の含有量は、アクリル系ポリマーを構成する全構成単位に対して1重量%未満であり、0.1重量%未満であってもよく、上記アクリル系ポリマーは、カルボキシ基含有モノマー由来の構成単位を含まなくてもよい。上記アクリル系ポリマーが、カルボキシ基含有モノマー由来の構成単位を含む態様において、カルボキシ基含有モノマー由来の構成単位を含むことの効果(凝集力や接着力等)を得る観点から、カルボキシ基含有モノマー由来の構成単位の含有量は、0.1重量%以上であってもよく、1重量%以上でもよく、3重量%以上でもよい。
【0063】
いくつかの好ましい態様において、上記アクリル系ポリマーは、ヒドロキシ基含有モノマー由来の構成単位を含む。ヒドロキシ基含有モノマー由来の構成単位の含有量は、アクリル系ポリマーを構成する全構成単位に対して、好ましくは0.01重量%以上であり、より好ましくは0.1重量%以上であり、さらに好ましくは1重量%以上であり、例えば3重量%以上であってもよく、また、好ましくは20重量%以下であり、より好ましくは10重量%以下であり、例えば7重量%以下である。
【0064】
アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)としては、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により得られた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、凡そ10×10以上であることが適当であり、好ましくは凡そ30×10以上であり、凡そ45×10以上であってもよく、50×10以上でもよい。また、上記Mwの上限は特に限定されず、例えば凡そ300×10以下であることが適当であり、粘着力や、粘着剤層形成時の塗工性等の観点から、好ましくは凡そ100×10以下であり、凡そ70×10以下でもあってもよい。
【0065】
アクリル系ポリマーのMwは、具体的には、GPC測定装置として商品名「HLC-8220GPC」(東ソー社製)を用いて、下記の条件で測定して求めることができる。後述の実施例においても同様である。
[GPCの測定条件]
サンプル濃度:1.0g/L(テトラヒドロフラン溶液)
サンプル注入量:100μL
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流量(流速):0.5mL/分
カラム温度(測定温度):40℃
カラム:東ソー社製、商品名「TSKgel GMH―H(S)」×2
カラムサイズ:7.8mmI.D.×300mm
検出器:示差屈折計(RI)
標準試料:ポリスチレン
サンプルは、調製後、一晩静置し、0.45μmメンブレンフィルターでろ過したものを使用する。
【0066】
(架橋剤)
いくつかの態様において、上記A層を形成するための粘着剤組成物は、上記ベースポリマーに加えて架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤を含ませることにより、A層の凝集力を向上させ得る。例えば、上記A層に含まれるベースポリマーは、該A層を構成する粘着剤中において架橋剤により架橋されていることが好ましい。例えば、ベースポリマーおよび適切な架橋剤を含む粘着剤組成物を用いることにより、該ベースポリマーが上記架橋剤で架橋された粘着剤により構成されたA層を得ることができる。
【0067】
架橋剤の種類は特に制限されず、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、メラミン系架橋剤、過酸化物系架橋剤の他、尿素系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、アミン系架橋剤等から適宜選択して用いることができる。架橋剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも好ましい架橋剤として、イソシアネート系架橋剤およびエポキシ系架橋剤が挙げられる。
【0068】
イソシアネート系架橋剤の具体例としては、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の低級脂肪族ポリイソシアネート類;シクロペンチレンジイソシアネート、シクロへキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート類;トリレンジイソシアネート(例えば、三井化学社製、商品名「タケネートD-101E」)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート類;トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(東ソー社製、商品名「コロネートL」)、トリメチロールプロパン/へキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(東ソー社製、商品名「コロネートHL」)、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(東ソー社製、商品名「コロネートHX」)等のイソシアネート付加物;等が挙げられる。イソシアネート系架橋剤の使用量は、所望とする粘着力に応じて、任意の適切な量に設定することができる。いくつかの態様において、ベースポリマー100重量部に対するイソシアネート系架橋剤の使用量は、代表的には0.1重量部以上20重量部以下であり、好ましくは1重量部以上10重量部以下である。
【0069】
エポキシ系架橋剤としては、例えば、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン、ジグリシジルアニリン、1,3-ビス(N,N-グリシジルアミノメチル)シクロヘキサン(三菱ガス化学社製、商品名「テトラッドC」)、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(共栄社化学社製、商品名「エポライト1600」)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(共栄社化学社製、商品名「エポライト1500NP」)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(共栄社化学社製、商品名「エポライト40E」)、プロピレングリコールジグリシジルエーテル(共栄社化学社製、商品名「エポライト70P」)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(日本油脂社製、商品名「エピオールE-400」)、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(日本油脂社製、商品名「エピオールP-200」)、ソルビトールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、商品名「デナコールEX-611」)、グリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、商品名「デナコールEX-314」)、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、商品名「デナコールEX-512」)、ソルビタンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、o-フタル酸ジグリシジルエステル、トリグリシジル-トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノール-S-ジグリシジルエーテル、分子内にエポキシ基を2つ以上有するエポキシ系樹脂等が挙げられる。エポキシ系架橋剤の使用量は、目的とする特性に応じて、任意の適切な量に設定され得る。いくつかの態様において、ベースポリマー100重量部に対するエポキシ系架橋剤の使用量は、例えば0.01重量部以上50重量部以下であってよく、好ましくは0.6重量部以上15重量部以下であり、より好ましくは2重量部以上13重量部以下であり、さらに好ましくは3重量部以上10重量部以下である。
【0070】
いくつかの態様において、A層に用いられる架橋剤として、イソシアネート系架橋剤を好ましく採用し得る。イソシアネート系架橋剤を用いることにより、良好な凝集力を有するA層を形成することができ、所望の密着力や粘着力を有しつつ、凝集破壊による糊残り防止を効果的に防止することができる。例えば、A層のベースポリマーとして、ヒドロキシ基を有するアクリル系ポリマーを使用する態様において、イソシアネート系架橋剤が好ましく用いられ得る。
【0071】
他のいくつかの態様において、A層に用いられる架橋剤として、エポキシ系架橋剤を好ましく採用し得る。例えば、A層のベースポリマーとして、カルボキシ基を有するアクリル系ポリマーを用いる態様においては、エポキシ系架橋剤を使用して、A層に所望の架橋構造を形成しつつ、A層中のカルボン酸量を低減することができる。これにより、第1粘着層のFT-IRスペクトル特性(典型的には、上記条件(1):A1<B1、および(2):A1≦0.050)を好ましく充足することができ、また、上記ピーク強度比A2を所定値以下に調節しやすく、上記比(B2/A2)が1.00よりも大きい構成を好ましく得ることができる。ベースポリマーがエポキシ系架橋剤で架橋した架橋構造を有するA層によると、凝集力が高い粘着剤層を形成することができ、凝集破壊による糊残り防止を効果的に防止することができる。
【0072】
いくつかの態様において、上記架橋剤としては、窒素(N)原子を含む架橋剤が好ましく用いられ得る。N原子を含む架橋剤は、該N原子の触媒作用により架橋反応(例えば、ベースポリマー中のカルボキシ基との反応)が促進され、粘着剤のゲル分率を高めやすい点で有利である。N原子を含む架橋剤の具体例としては、上述のようなイソシアネート架橋剤のほか、N原子を含むエポキシ系架橋剤(例えば、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミンや1,3-ビス(N,N-グリシジルアミノメチル)シクロヘキサン等のように、グリシジルアミノ基を有するエポキシ系架橋剤)が挙げられる。N原子を含む架橋剤を用いるいくつかの態様では、後述する窒素ガス発生量が0.06重量%以上1.0重量%以下(より好ましくは0.06重量%以上0.9重量%以下)となるように該架橋剤の使用量を設定することが好ましい。かかる使用量とすることにより、軽剥離性と表面形状追従性(好ましくは、さらに糊残り防止性)とを好適に両立する粘着シートが得られやすい。
【0073】
いくつかの態様において、ベースポリマー(例えばアクリル系ポリマー)の有するカルボキシ基の量に対する架橋剤(好ましくはカルボキシ基との反応により架橋構造を形成する架橋剤。例えばエポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤等)の使用量は、好ましくは0.08モル当量以上2モル当量以下であり、より好ましくは0.1モル当量以上1モル当量以下である。上記使用量の架橋剤をベースポリマー中のカルボキシ基と架橋反応させることにより、A層中の残存カルボキシ基が少ない粘着シートを得ることができる。
【0074】
架橋反応をより効果的に進行させるために、架橋触媒を用いてもよい。架橋触媒の例としては、テトラ-n-ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、ナーセム第二鉄、ブチルスズオキシド、ジオクチルスズジラウレート等の金属系架橋触媒等が挙げられる。架橋触媒の使用量は特に制限されない。いくつかの態様において、架橋反応速度の速さと粘着剤組成物のポットライフの長さとのバランスを考慮して、ベースポリマー100重量部に対する架橋触媒の使用量を、例えば0.0001重量部以上1重量部以下(好ましくは0.001重量部以上0.5重量部以下)とすることができる。上記架橋触媒は、A層に使用されてもよく、A層およびB層の両方に使用されてもよい。
【0075】
(その他の添加剤)
A層を構成する粘着剤には、任意成分として、上記以外の適切な添加剤を必要に応じて含有させ得る。そのような添加剤としては、例えば、粘着付与剤、可塑剤(例えば、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸エステル系可塑剤等)、顔料、染料、充填剤、老化防止剤、導電材、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、剥離調整剤、軟化剤、界面活性剤、難燃剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0076】
上記粘着付与剤としては、任意の適切な粘着付与剤を用いることができる。粘着付与剤としては、例えば粘着付与樹脂が用いられる。該粘着付与樹脂の具体例としては、ロジン系粘着付与樹脂(例えば、未変性ロジン、変性ロジン、ロジンフェノール系樹脂、ロジンエステル系樹脂など)、テルペン系粘着付与樹脂(例えば、テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、スチレン変性テルペン系樹脂、芳香族変性テルペン系樹脂、水素添加テルペン系樹脂)、炭化水素系粘着付与樹脂(例えば、脂肪族系炭化水素樹脂、脂肪族系環状炭化水素樹脂、芳香族系炭化水素樹脂(例えば、スチレン系樹脂、キシレン系樹脂など)、脂肪族・芳香族系石油樹脂、脂肪族・脂環族系石油樹脂、水素添加炭化水素樹脂、クマロン系樹脂、クマロンインデン系樹脂など)、フェノール系粘着付与樹脂(例えば、アルキルフェノール系樹脂、キシレンホルムアルデヒド系樹脂、レゾール、ノボラックなど)、ケトン系粘着付与樹脂、ポリアミド系粘着付与樹脂、エポキシ系粘着付与樹脂、エラストマー系粘着付与樹脂などが挙げられる。なかでも好ましくは、ロジン系粘着付与樹脂、テルペン系粘着付与樹脂または炭化水素系粘着付与樹脂(スチレン系樹脂など)である。粘着付与剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0077】
いくつかの態様では、上記粘着付与樹脂として、軟化点またはガラス転移温度(Tg)の高い樹脂が用いられる。軟化点またはガラス転移温度(Tg)の高い樹脂を用いれば、高温環境下(例えば、半導体チップ封止時の加工等における高温環境下)においても、高い粘着性を発現し得る粘着剤層を形成することができる。粘着付与剤の軟化点は、好ましくは100℃~180℃であり、より好ましくは110℃~180℃であり、さらに好ましくは120℃~180℃である。粘着付与剤のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは100℃~180℃であり、より好ましくは110℃~180℃であり、さらに好ましくは120℃~180℃である。
【0078】
いくつかの態様では、上記粘着付与樹脂として、低極性の粘着付与樹脂が用いられる。低極性の粘着付与樹脂を用いることは、封止材料との親和性が低い粘着剤層を形成する観点から有利である。低極性の粘着付与樹脂としては、例えば、脂肪族系炭化水素樹脂、脂肪族系環状炭化水素樹脂、芳香族系炭化水素樹脂(例えば、スチレン系樹脂、キシレン系樹脂など)、脂肪族・芳香族系石油樹脂(C5/C9系石油樹脂と称されることもある。)、脂肪族・脂環族系石油樹脂、水素添加炭化水素樹脂当の炭化水素系粘着付与樹脂が挙げられる。なかでも脂肪族・芳香族系石油樹脂が好ましい。このような粘着付与樹脂は、低極性であるとともに、アクリル系ポリマーとの相溶性に優れ、広い温度範囲で相分離せず、安定性に優れた粘着剤層を形成することができる。
【0079】
特に限定するものではないが、いくつかの態様において、上記粘着付与樹脂の酸価は、好ましくは40以下であり、より好ましくは20以下であり、さらに好ましくは10以下である。このような範囲であれば、封止材料との親和性が低い粘着剤層を形成することができる。上記粘着付与樹脂の水酸基価は、好ましくは60以下であり、より好ましくは40以下であり、さらに好ましくは20以下である。このような範囲であれば、封止材料との親和性が低く、粘着剤層/封止樹脂間における成分移行の抑制に適した粘着剤層を形成することができる。
【0080】
粘着付与剤の使用量は、ベースポリマー100重量部に対して、例えば5重量部以上100重量部以下であってよく、好ましくは8重量部以上50重量部以下である。適当量の粘着付与剤を使用することにより、被着体に対して良好に密着する粘着剤を好ましく得ることができる。他のいくつかの態様では、被着体からの軽剥離性や糊残り抑制等の観点から、A層を構成する粘着剤のベースポリマー100重量部に対する粘着付与剤の配合量を3重量部未満、1重量部未満または0.5重量部未満とすることが適当であり、A層を構成する粘着剤に粘着付与剤(特に、粘着付与樹脂)を配合しないことが好ましい。
【0081】
上記A層の厚さは2μm以上である。A層の厚さを2μm以上とすることにより、例えば、半導体チップの樹脂封止工程に粘着シートを用いる態様において、封止樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、第1粘着層表面から移行した成分濃度がA層において過度に高くなることが抑制され、糊残りが発生しにくくなる。また、A層の厚さを所定値以上に設定することにより、第1粘着層のFT-IRスペクトル特性(典型的には、上記条件(1):A1<B1、および(2):A1≦0.050)を好ましく満足することができる。いくつかの態様において、上記A層の厚さは、3μm以上であることが好ましく、4μm以上でもよく、5μm以上でもよく、7μm以上でもよく、9μm以上でもよい。他のいくつかの態様において、上記A層の厚さは、10μm以上であってもよく、20μm以上でもよく、25μm以上でもよい。A層の厚さを大きくすることにより、A層の寄与による特性(例えば被着体密着性)が得られやすい。また、いくつかの態様において、上記A層の厚さは30μm以下であることが好ましい。A層の厚さを所定の範囲で制限することにより、剥離の際に凝集破壊が生じにくくなり、糊残り防止性が得られやすい。そのような観点から、上記A層の厚さは、15μm以下であってもよく、10μm以下でもよく、8μm以下でもよく、6μm以下でもよい。A層の厚さを制限することは、軽剥離性の発現の点でも好ましい。
【0082】
<B層>
上記第1粘着層は、上記A層に加えて、該A層と上記基材との間に配置されて該A層に隣接するB層を含む。上記B層中に存在するカルボキシ基の量は、上記A層中に存在するカルボキシ基の量よりも多い。A層およびB層に存在するカルボキシ基の量は、上記ピーク強度比A2、B2により決定される。すなわち、上記比(B2/A2)が1.00よりも大きい場合、B層中に存在するカルボキシ基の量は、上記A層中に存在するカルボキシ基の量よりも多い。第1粘着層にA層とB層とを隣接するよう配置し、B層中に存在するカルボキシ基の量をA層中よりも多くすることにより、第1粘着層のFT-IRスペクトル特性(典型的には、上記条件(1):A1<B1、および(2):A1≦0.050)を好ましく充足することができる。上記第1粘着層のFT-IRスペクトル特性は、A層とB層を含む第1粘着層において、B層の設計により達成することができるので、第1粘着層表面を構成するA層の設計の自由度は高く、所望の被着体密着性を有する設計とすることができる。上記構成によると、被着体に対して良好に密着することが可能であり、かつ被着体からの除去性のよい粘着シートが実現される。なお、B層は、第1粘着層において、該第1粘着層表面からの移行成分(典型的にはエポキシ系樹脂からの移行成分)を吸収し、保持する層として機能することから、移行成分吸収保持層ともいう。
【0083】
B層は、粘着剤層であってもよく、非粘着層(例えば、非粘着性の粘弾性層)であってもよい。いくつかの態様において、B層は粘着剤層である。なお、A層とB層との相違は、上記カルボキシ基の量に加えて、例えば、ベースポリマーの違い(例えば、該ベースポリマーを構成するモノマー成分の組成の違い、重量平均分子量の違い、ポリマー鎖の構造の違い等)、架橋剤の違い(例えば、種類や使用量の違い)、粘着付与樹脂の違い(例えば、含有の有無、含有量、粘着付与樹脂の種類等の違い)、他の添加剤の含有有無、含有量、種類等の違い、等の1または2以上であり得る。
【0084】
上記B層は、例えば、アクリル系粘着剤を含み得る。いくつかの好ましい態様では、上記B層を構成する粘着剤は、アクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系粘着剤である。A層がアクリル系粘着剤により構成されている態様では、第1粘着層に含まれる層の層間密着性を高める観点から、B層を構成する粘着剤としてアクリル系粘着剤を採用することが特に好ましい。
【0085】
B層を構成する粘着剤がアクリル系粘着剤である態様において、該アクリル系粘着剤のベースポリマーであるアクリル系ポリマーは、A層のベースポリマーとして上述したアクリル系ポリマーと同様のものから適切に選択し得る。これにより、上記比(B3/A3)が所定範囲内の構成とすることができ、A層とB層との密着性が得られやすい。例えば、B層のアクリル系ポリマーを構成するモノマー成分として、上記式(A)におけるRがC1-20の鎖状アルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートの使用が好ましく、その含有量の範囲として、A層のアクリル系ポリマーを構成するモノマー成分の含有量について記載した範囲が好ましく採用され得る。また、B層のアクリル系ポリマーを構成するモノマー成分として、C1-3(より好ましくはC1-2)の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルや、C4以上(例えばC8以上、また、好ましくはC18以下、例えばC12以下、より好ましくはC8以下)の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルを使用することが好ましく、C1-3(より好ましくはC1-2)の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量、および、C4以上(例えばC8以上、また、好ましくはC18以下、例えばC12以下、より好ましくはC8以下)の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量の範囲として、A層のアクリル系ポリマーを構成するモノマー成分の含有量について記載した範囲が好ましく採用され得る。
【0086】
A層のベースポリマーであるアクリル系ポリマーと、B層のベースポリマーであるアクリル系ポリマーとは、同一であってもよく、異なっていてもよい。いくつかの好ましい態様において、A層のベースポリマーであるアクリル系ポリマーと、B層のベースポリマーであるアクリル系ポリマーとは、異なるモノマー組成を有する。例えば、B層のベースポリマーであるアクリル系ポリマーとして、カルボキシ基含有モノマー由来の構成単位の含有量がA層のベースポリマーであるアクリル系ポリマーよりも多いものを好ましく採用し得る。これにより、上記B層中に存在するカルボキシ基の量が、上記A層中に存在するカルボキシ基の量よりも多い構成を得ることができる。他のいくつかの態様において、A層およびB層のベースポリマーを同一のアクリル系ポリマーとしてもよい。かかる態様においては、例えば、ベースポリマー以外の材料(架橋剤、粘着付与剤等)の使用、種類、量等の選択によって、上記B層中に存在するカルボキシ基の量が、上記A層中に存在するカルボキシ基の量よりも多い構成を得ることができる。A層およびB層のベースポリマーを同一のアクリル系ポリマーとすることにより、A層とB層とは、高い密着性で積層され得る。
【0087】
いくつかの好ましい態様において、B層に含まれるアクリル系ポリマーは、カルボキシ基含有モノマー由来の構成単位を所定量以上含む。カルボキシ基含有モノマー由来の構成単位の含有量は、B層のアクリル系ポリマーを構成する全構成単位に対して、例えば、0.1重量%超であってもよく、1重量%超でもよく、3重量%超でもよい。より好ましい態様において、カルボキシ基含有モノマー由来の構成単位の含有量は、アクリル系ポリマーを構成する全構成単位に対して5重量%以上(例えば5重量%超)であり、7重量%以上であることがさらに好ましく、9重量%以上であることが特に好ましい。このように構成することにより、第1粘着層のFT-IRスペクトル特性(典型的には、上記条件(1):A1<B1)を好ましく充足することができ、また、上記ピーク強度比B2を所定値以上に調節しやすく、上記比(B2/A2)が1.00よりも大きい構成を好ましく得ることができる。また、いくつかの態様において、カルボキシ基含有モノマー由来の構成単位の含有量は、アクリル系ポリマーを構成する全構成単位に対して20重量%以下であり、15重量%以下であってもよく、12重量%以下でもよく、10重量%以下でもよく、8重量%以下でもよく、6重量%以下でもよい。
【0088】
特に限定するものではないが、いくつかの好ましい態様において、B層のアクリル系ポリマー中のカルボキシ基含有モノマー由来の構成単位の量C[重量%]と、A層のアクリル系ポリマー中のカルボキシ基含有モノマー由来の構成単位の量C[重量%]との差分(C-C)は、0よりも大きく、1以上が適当であり、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、8以上がさらに好ましく、10以上が特に好ましい。これにより、第1粘着層のFT-IRスペクトル特性(典型的には、上記条件(1):A1<B1)を好ましく充足することができ、また、上記比(B2/A2)が1.00よりも大きい構成を好ましく得ることができる。上記差分(C-C)の上限は、例えば20以下であってもよく、15以下でもよく、12以下でもよく、10以下でもよく、7以下でもよく、5以下でもよい。
【0089】
いくつかの態様において、上記B層を形成するための粘着剤組成物は、上記ベースポリマーに加えて架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤を含ませることにより、B層の凝集力を向上させ得る。例えば、上記B層に含まれるベースポリマーは、該B層を構成する粘着剤中において架橋されていることが好ましい。例えば、ベースポリマーおよび適切な架橋剤を含む粘着剤組成物を用いることにより、該ベースポリマーが上記架橋剤で架橋された粘着剤により構成されたB層を得ることができる。B層に用いられる架橋剤の種類は特に制限されず、例えば、A層に用いられ得る架橋剤として上記で例示したものから適切に選択し得る。A層に用いられる架橋剤と、B層に用いられる架橋剤とは、同種の架橋剤(例えば、同一のまたは異なるイソシアネート系架橋剤)であってもよく、異種の架橋剤(例えば、一方がエポキシ系架橋剤、他方がイソシアネート系架橋剤)であってもよい。
【0090】
いくつかの好ましい態様では、B層の架橋剤としてイソシアネート系架橋剤を使用する。これにより、B層に所望の架橋構造を形成しつつ、B層中のカルボン酸量をA層よりも多くすることができ、第1粘着層のFT-IRスペクトル特性(典型的には、上記条件(1):A1<B1)を好ましく充足することができ、また、上記ピーク強度比B2を所定値以上に調節しやすく、上記比(B2/A2)が1.00よりも大きい構成を好ましく得ることができる。具体的には、B層が、カルボキシ基を有するアクリル系ポリマーと、イソシアネート系架橋剤とを含む態様においては、第1粘着層の架橋反応後も、B層に所定量のカルボキシ基が存在し得る。これにより、例えば、半導体チップの樹脂封止工程に粘着シートを用いる態様において、封止樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、当該移行成分は、B層のカルボキシ基に引き付けられて、B層にてより多く保持されやすくなる。そのため、第1粘着層表面における該移行成分量は相対的に低くなり、第1粘着層表面において該移行成分を原因とする糊残りがより生じにくくなる傾向がある。いくつかの態様では、A層、B層ともにイソシアネート系架橋剤を使用することが好ましい。他のいくつかの態様では、A層にはエポキシ系架橋剤、B層にはイソシアネート系架橋剤を使用することが好ましい。
【0091】
B層の架橋剤としてイソシアネート系架橋剤を使用する場合、B層のベースポリマー(例えばアクリル系ポリマー)100重量部に対するイソシアネート系架橋剤の使用量は特に限定されず、所望の特性が得られるように適切に調節し得る。いくつかの態様において、B層のベースポリマー100重量部に対するイソシアネート系架橋剤の使用量は、例えば0.1重量部以上20重量部以下であり、好ましくは1重量部以上10重量部以下であり、より好ましくは1重量部以上7重量部以下であり、1重量部以上5重量部以下でもよく、2重量部以上5重量部以下でもよい。特に限定するものではないが、いくつかの好ましい態様において、B層に含まれるイソシアネート系架橋剤の含有量は、A層に含まれるイソシアネート系架橋剤の含有量よりも多い。
【0092】
B層を構成する粘着剤には、A層の任意成分として例示した各種任意成分を必要に応じて含有させ得る。例えば、B層は、粘着付与剤を含んでもよく、粘着付与剤を含まなくてもよい。いくつか態様において、粘着付与剤を含まないか、あるいは粘着付与剤の含有量が制限されているB層が好ましく採用され得る。かかる態様において、粘着付与剤の使用量は、ベースポリマー100重量部に対して、例えば10重量部未満であってもよく、3重量部未満でもよく、1重量部未満または0.5重量部未満でもよい。
【0093】
上記B層の厚さは5μm以上である。B層の厚さを5μm以上とすることにより、例えば、半導体チップの樹脂封止工程に粘着シートを用いる態様において、封止樹脂から第1粘着層に成分が移行した場合に、第1粘着層表面から移行した成分がB層において十分量保持されやすくなり、これによって、A層における移行成分濃度を低下させて、優れた糊残り防止性が得られやすい。また、B層の厚さを所定値以上に設定することにより、第1粘着層のFT-IRスペクトル特性(典型的には、上記条件(1):A1<B1)を好ましく満足することができる。B層において移行成分を十分保持する観点から、B層の厚さは、7μm以上でもよく、10μm以上でもよく、20μm以上でもよく、30μm以上でもよく、35μm以上でもよい。B層の厚さの上限は特に制限されず、例えば300μm以下であってもよく、100μm以下であることが適当であり、40μm以下であることが好ましく、30μm以下でもよく、20μm以下でもよい。B層の厚さを所定の範囲で制限することにより、剥離の際に凝集破壊が生じにくくなり、糊残り防止性が得られやすい。
【0094】
上記A層の厚さL1[μm]に対する上記B層の厚さL2[μm]の比(L2/L1)は、特に限定されず、例えば0.5~100.0程度であり得る。いくつかの態様において、A層およびB層の各々の機能を効果的に発揮しやすくする観点から、上記比(L2/L1)は、0.5以上であることが適当であり、0.7以上であることが好ましく、0.8以上でもよく、0.9以上でもよく、1.0以上でもよい。また、同様の観点から、上記比(L2/L1)は、50.0以下であることが適当であり、30.0以下であることが好ましく、20.0以下でもよく、15.0以下でもよく、10.0以下でもよく、5.0以下でもよく、3.0以下または2.0以下でもよい。
【0095】
いくつかの好ましい態様において、第1粘着層の外表面(被着体側の表面)はA層により形成され、該第1粘着層の内表面(基材側の表面)はB層により構成されている。すなわち、第1粘着層はA層とB層とからなる。ここに開示される発明の効果は、A層およびB層から実質的に構成される第1粘着層を備える構成において好適に発揮される。他のいくつかの態様において、第1粘着層は、上記A層およびB層に加えて、B層と基材との間に他の層(粘着剤層、非粘着性の粘弾性層、易接着層等)を有してもよい。
【0096】
<基材>
ここに開示される粘着シートの基材は、例えば、樹脂シート、不織布、紙、金属箔、織布、ゴムシート、発泡シート、これらの積層体(特に、樹脂シートを含む積層体)等であり得る。樹脂シートを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリアミド(ナイロン)、全芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリイミド(PI)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、フッ素系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が挙げられる。不織布としては、マニラ麻を含む不織布等の耐熱性を有する天然繊維による不織布;ポリプロピレン樹脂不織布、ポリエチレン樹脂不織布、エステル系樹脂不織布等の合成樹脂不織布等が挙げられる。金属箔としては、銅箔、ステンレス箔、アルミニウム箔等が挙げられる。紙としては、和紙、クラフト紙等が挙げられる。
【0097】
いくつかの態様において、ガラス転移温度(Tg)が25℃以上(好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上)の樹脂から構成される樹脂シートが、基材として好ましく用いられる。このような樹脂シートを用いれば、封止工程時の加熱によっても基材の形状が維持され、半導体チップの粘着シートへの埋まり込みが防止される。このような樹脂シートを構成する樹脂としては、芳香族環を有するポリマーが好ましく、具体例としてはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0098】
上記基材の厚さは、所望とする強度または柔軟性、ならびに使用目的等に応じて、任意の適切な厚みに設定され得る。基材の厚みは、好ましくは1000μm以下であり、より好ましくは25μm以上1000μm以下であり、40μm以上500μm以下であってもよく、60μm以上300μm以下でもよく、80μm以上250μm以下でもよい。1つの実施形態においては、厚みが25μm以上の基材が用いられる。このような厚さの基材は、封止工程時の加圧によっても該基材の形状が維持されやすく、半導体チップの粘着シートへの埋まり込み防止に適している。基材の厚さは、取扱い性等の観点から、150μm以下であってもよく、100μm以下でもよく、50μm以下でもよい。
【0099】
1つの実施形態においては、基材の厚みが、粘着シートの総厚に対して、20%以上90%以下(好ましくは20%以上89%以下、より好ましくは20%以上88%以下)である。このような範囲において、半導体チップの粘着シートへの埋まり込みを好適に防止し得る。
【0100】
上記基材は、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、コロナ処理、クロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、イオン化放射線処理、下塗り剤によるコーティング処理等が挙げられる。
【0101】
上記下塗り剤としては、有機コーティング材料が用いられてもよい。上記有機コーティング材料としては、例えば、シーエムシー出版の「プラスチックハードコート材料II」(2004年出版)に記載される材料が挙げられる。好ましくはウレタン系ポリマー、より好ましくはポリアクリルウレタン、ポリエステルウレタンまたはこれらの前駆体が用いられる。基材への塗工・塗布が簡便であり、かつ、工業的に多種のものが選択でき、安価に入手できるからである。該ウレタン系ポリマーは、例えば、イソシアナートモノマーとアルコール性水酸基含有モノマー(例えば、水酸基含有アクリル化合物又は水酸基含有エステル化合物)との反応混合物からなるポリマーである。有機コーティング材料は、任意の添加剤として、ポリアミンなどの鎖延長剤、老化防止剤、酸化安定剤等を含んでいてもよい。有機コーティング層の厚みは特に限定されないが、例えば、0.1μm~10μm程度が適しており、0.1μm~5μm程度が好ましく、0.5μm~5μm程度がより好ましい。
【0102】
<第2粘着層>
ここに開示される粘着シートは、上記基材と、上記基材の片側に配置された上記第1粘着層と、上記基材の上記第1粘着層とは反対側に配置された第2粘着層とを備える。かかる構成の粘着シート(基材付き両面粘着シート)は、例えば上記第2粘着層を利用して適切なキャリア(例えば、SUS板、ガラス板等)上に固定された形態で上記第1粘着層上での被着体の製造や加工(例えば、半導体チップの樹脂封止工程)等を行うことができるので使い勝手がよい。上記第2粘着層は、任意の適切な粘着剤から構成される粘着剤層であり得る。
【0103】
上記第2粘着層の少なくとも表面は、熱膨張性微小球を含有する粘着剤により構成されている。かかる態様の粘着シートは、必要に応じて適切なタイミングで加熱して上記熱膨張性微小球を膨張させることにより、上記第2粘着層と被着体(例えば上記キャリア)との接合を容易に解除し得るので好ましい。
【0104】
熱膨張性微小球を含有する粘着剤は、硬化型粘着剤(例えば、活性エネルギー線硬化型粘着剤)であってもよく、感圧型粘着剤であってもよい。感圧型粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤等が挙げられる。第2粘着層に含まれる粘着剤の詳細は、例えば特開2018-009050号公報の記載を参照することができる。当該公報は、その全体の記載が本明細書に参考として援用される。
【0105】
上記熱膨張性微小球としては、加熱により膨張または発泡し得る微小球である限りにおいて、任意の適切な熱膨張性微小球を用いることができる。上記熱膨張性微小球としては、例えば、加熱により容易に膨張する物質を、弾性を有する殻内に内包させた微小球が用いられ得る。このような熱膨張性微小球は、任意の適切な方法、例えば、コアセルベーション法、界面重合法等により製造できる。
【0106】
加熱により容易に膨張する物質としては、例えば、プロパン、プロピレン、ブテン、ノルマルブタン、イソブタン、イソペンタン、ネオペンタン、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、ヘプタン、オクタン、石油エーテル、メタンのハロゲン化物、テトラアルキルシラン等の低沸点液体;熱分解によりガス化するアゾジカルボンアミド;等が挙げられる。
【0107】
上記殻を構成する物質としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル、α-エトキシアクリロニトリル、フマロニトリル等のニトリル単量体;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等のカルボン酸単量体;塩化ビニリデン;酢酸ビニル;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチルアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレンモノマー;アクリルアミド、置換アクリルアミド、メタクリルアミド、置換メタクリルアミド等のアミド単量体;等から構成されるポリマーが挙げられる。これらの単量体から構成されるポリマーは、ホモポリマーであってもよく、コポリマーであってもよい。該コポリマーとしては、例えば、塩化ビニリデン‐メタクリル酸メチル-アクリロニトリル共重合体、メタクリル酸メチル-アクリロニトリル-メタクリロニトリル共重合体、メタクリル酸メチル-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-メタクリロニトリル-イタコン酸共重合体等が挙げられる。
【0108】
上記熱膨張性微小球として、無機系発泡剤または有機系発泡剤を用いてもよい。無機系発泡剤としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水酸化ホウ素ナトリウム、各種アジド類等が挙げられる。また、有機系発泡剤としては、例えば、トリクロロモノフルオロメタン、ジクロロモノフルオロメタン等の塩フッ化アルカン系化合物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボンアミド、バリウムアゾジカルボキシレート等のアゾ系化合物;パラトルエンスルホニルヒドラジド、ジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホニルヒドラジド、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、アリルビス(スルホニルヒドラジド)等のヒドラジン系化合物;p-トルイレンスルホニルセミカルバジド、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルセミカルバジド)等のセミカルバジド系化合物;5-モルホリル-1,2,3,4-チアトリアゾール等のトリアゾール系化合物;N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N’-ジメチル-N,N’-ジニトロソテレフタルアミド;等のN-ニトロソ系化合物などが挙げられる。
【0109】
上記熱膨張性微小球は市販品を用いてもよい。市販品の熱膨張性微小球の具体例としては、松本油脂製薬社製の商品名「マツモトマイクロスフェアー」(グレード:F-30、F-30D、F-36D、F-36LV、F-50、F-50D、F-65、F-65D、FN-100SS、FN-100SSD、FN-180SS、FN-180SSD、F-190D、F-260D、F-2800D)、日本フィライト社製の商品名「エクスパンセル」(グレード:053-40、031-40、920-40、909-80、930-120)、呉羽化学工業社製「ダイフォーム」(グレード:H750、H850、H1100、S2320D、S2640D、M330、M430、M520)、積水化学工業社製「アドバンセル」(グレード:EML101、EMH204、EHM301、EHM302、EHM303、EM304、EHM401、EM403、EM501)等が挙げられる。
【0110】
上記熱膨張性微小球の加熱前の粒子径は、好ましくは0.5μm~80μmであり、より好ましくは5μm~45μmであり、さらに好ましくは10μm~20μmであり、特に好ましくは10μm~15μmである。よって、上記熱膨張性微小球の加熱前の粒子サイズを平均粒子径で言えば、好ましくは6μm~45μmであり、より好ましくは15μm~35μmである。上記の粒子径および平均粒子径は、レーザー散乱法における粒度分布測定法によって求められる値である。
【0111】
熱膨張性微小球を含む粘着剤により構成された粘着剤層の厚さ(例えば、第2粘着層の厚さであり得る。特に断りがないかぎり以下同じ。)は特に限定されず、例えば3μm以上とすることができる。熱膨張性微小球を含有することによる粘着面の平滑性低下を抑制する観点から、上記粘着剤層の厚さは、通常、7μm以上であることが適当であり、10μm超であることが好ましく、15μm超でもよく、25μm超でもよく、35μm超でもよい。上記粘着剤層の厚さの上限は特に制限されないが、通常は300μm以下であることが適当であり、200μm以下でもよく、150μm以下でもよく、100μm以下でもよく、70μm以下でもよい。粘着剤層の厚さが大きすぎないことは、熱膨張性微小球の膨張により粘着剤層が凝集破壊することを避ける観点から有利となり得る。いくつかの態様において、粘着剤層の厚さは、60μm以下でもよく、50μm以下でもよく、45μm以下でもよい。
【0112】
上記粘着剤層の厚さTaは、熱膨張性微小球の加熱前の平均粒子径Dより大きいことが好ましい。すなわち、Ta/Dが1.0より大きいことが好ましい。粘着面の平滑性の観点から、いくつかの態様において、Ta/Dは、2.0以上であることが好ましく、3.0以上でもよく、4.0以上でもよい。また、熱膨張性微小球の膨張による剥離効果を発揮しやすくする観点から、Ta/Dは、通常、50以下であることが適当であり、20以下であることが好ましく、15以下でもよく、10以下でもよい。
【0113】
上記熱膨張性微小球は、体積膨張率が好ましくは5倍以上、より好ましくは7倍以上、さらに好ましくは10倍以上となるまで破裂しない適度な強度を有することが好ましい。このような熱膨張性微小球を用いる場合、加熱処理により粘着力を効率よく低下させることができる。
【0114】
熱膨張性微小球を含む粘着剤における該熱膨張性微小球の含有割合は、所望する粘着力の低下性等に応じて適切に設定し得る。熱膨張性微小球の含有割合は、該熱膨張性微小球を含む粘着剤のベースポリマー100重量部に対して、例えば1重量部~150重量部であり、好ましくは10重量部~130重量部であり、さらに好ましくは20重量部~100重量部である。
【0115】
第2粘着層の表面を構成する粘着剤が熱膨張性微小球を含む場合、熱膨張性微小球が膨張する前(すなわち、加熱前)における上記第2粘着層表面の算術平均粗さRaは、好ましくは500nm以下であり、より好ましくは400nm以下であり、さらに好ましくは300nm以下である。このような範囲であれば、上記第2粘着層側において、被着体に対する密着性に優れた粘着シートを得ることができる。このように表面平滑性に優れる第2粘着層は、例えば、粘着剤層の厚みを上記範囲とすること、熱膨張性微小球を含む粘着剤組成物を剥離ライナーに塗布し乾燥させて形成した粘着剤層を基材に直接または該基材上に設けられた中間層(例えば弾性中間層)上に転写すること等により、得ることができる。
【0116】
第2粘着層が熱膨張性微小球を含む場合、上記第2粘着層は、80℃における動的貯蔵弾性率が5kPa~1MPa(より好ましくは10kPa~0.8MPa)の範囲にあるベースポリマーから構成される粘着剤を含むことが好ましい。このような粘着剤層であれば、加熱前に適度な粘着性を有し、加熱により粘着力が低下しやすい粘着シートを形成し得る。なお、動的貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置(例えば、レオメトリックス社製の商品名「ARES」)を用いて、周波数1Hz、昇温速度10℃/minの測定条件により測定され得る。
【0117】
<粘着シートの製造方法>
本発明の粘着シートは、任意の適切な方法により製造することができる。本発明の粘着シートは、例えば、基材上にB層形成材料(例えば粘着剤組成物)を直接塗工、あるいは任意の適切な剥離性工程材(例えば剥離ライナー)上に塗工して該剥離性工程材上にB層を形成した後、これを基材上に転写することにより、基材上にB層を形成し、次いで、A層を形成するための粘着剤組成物を、基材上に設けられたB層に直接塗工して第1粘着層を形成する方法、任意の適切な剥離性工程材(例えば剥離ライナー)上に粘着剤組成物を塗工して該剥離性工程材上にA層を形成し、上記A層を基材上のB層に転写して第1粘着層を形成する方法、これらの組合せ、等により製造することができる。第2粘着層の形成についても、上記第1粘着層の形成方法と同様の方法を採用することができる。例えば、第2粘着層の少なくとも表面を構成する粘着剤を形成するための粘着剤組成物を、基材に直接または該基材上に設けられた中間層に直接塗工して第2粘着層を形成する方法、任意の適切な剥離性工程材(例えば剥離ライナー)上に粘着剤組成物を塗工して該剥離性工程材上に粘着剤層を形成し、上記粘着剤層を基材または該基材上の中間層に転写して第2粘着層を形成する方法、これらの組合せ、等により製造することができる。上記粘着剤組成物は、任意の適切な溶媒を含む溶剤型粘着剤組成物であり得る。
【0118】
熱膨張性微小球を含む粘着剤層を形成する場合、熱膨張性微小球と粘着剤と任意の適切な溶媒とを含む組成物を基材に塗工して、該粘着剤層を形成することができる。あるいは、粘着剤塗工層に、熱膨張性微小球を振りかけた後、ラミネーター等を用いて、該熱膨張性微小球を粘着剤中に埋め込んで、熱膨張性微小球を含む粘着剤層を形成してもよい。
【0119】
上記粘着剤および各組成物の塗工方法としては、任意の適切な塗工方法が採用され得る。例えば、塗布した後に乾燥して各層を形成することができる。塗布方法としては、例えば、マルチコーター、ダイコーター、グラビアコーター、アプリケーター等を用いた塗布方法が挙げられる。乾燥方法としては、例えば、自然乾燥、加熱乾燥等が挙げられる。加熱乾燥する場合の加熱温度は、乾燥対象となる物質の特性に応じて、任意の適切な温度に設定され得る。
【実施例0120】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0121】
<評価方法>
1.FT-IR測定
粘着シートを1cm角程度のサイズに切り出した評価用試料につき、第1粘着層表面側からArガスクラスターイオンでエッチングし、第1粘着層表面から深さ1μmの位置(測定位置A)を表面に露出させた後、所定のGeプリズムを押し付け、顕微FT-IR測定を行った。また、上記評価用試料につき、第1粘着層表面側からArガスクラスターイオンでエッチングし、第1粘着層の基材側の面から深さ5μmの位置(測定位置B)を表面に露出させた後、所定のGeプリズムを押し付け、顕微FT-IR測定を行った。測定位置Bは、例えば第1粘着層の厚さが20μmの場合、第1粘着層表面から深さ15μmの位置に相当するので、第1粘着層表面からArガスクラスターイオンで第1粘着層表面から深さ15μmの位置(測定位置B)までエッチングを行い、露出面に対して測定を実施する。上記FT-IRの測定条件は下記のとおりである。
装置:Thermo Fisher Scientific社製、Nicolet6700/Thunderdome
測定モード:ATR(1回反射)法
入射角:45°
分解能:4cm-1
測定範囲:4000cm-1~675cm-1
積算回数:128回
検出器:MCT
プリズム:顕微IR用Geプリズム
1725cm-1~1750cm-1の範囲に存在するピーク強度を基準として求められる各ピーク強度の比は、解析ソフト「OMNIC ver.9」(Thermo Fisher Scientific社製)を使用して算出した。
また、ピーク強度上昇量A1、B1を測定するための、第1粘着層表面に対するエポキシ系樹脂処理後の測定位置AおよびBのFT-IRスペクトルは、下記のエポキシ系樹脂処理を行った粘着シートにつき、エポキシ系樹脂を剥離した後、上記と同様の方法により評価用試料を得て、Arガスクラスターイオンでエッチングし、測定位置AおよびBにてFT-IR測定を行うことにより得た。
なお、ピーク強度比A2、A3、B2およびB3は、上記エポキシ系樹脂処理前の第1粘着層に対するFT-IR測定により求められる。
【0122】
2.第1粘着層表面に対するエポキシ系樹脂処理
粘着シートを幅40mm、長さ200mmのサイズに裁断し、その第1粘着層表面に型枠(開口サイズ:幅20mm、長さ180mmの長方形、厚み:188μm、材質:ポリエチレンテレフタレート)を貼り合わせた。上記型枠内に顆粒状のエポキシ樹脂系封止材(住友ベークライト社製、G770)を、硬化後の樹脂厚みが0.188mmとなるように散布した後、シリコーン処理された剥離ライナーを被せ、ヒートプレス機(テスター産業社製、型番:TP-701-B HEAT SEAL TESTER)を用いて、温度145℃、加圧条件0.2MPa(300mm角のステージサイズ)、加熱加圧時間400秒の条件で、封止樹脂を第1粘着層上で加熱成形した。これを150℃で4時間加熱して封止樹脂を硬化させ、次いで23℃、50%RHの環境下に24時間静置した。上記エポキシ樹脂系封止材は、芳香環を含むエポキシ系樹脂である。
【0123】
3.対封止樹脂密着力
上記第1粘着層表面に対するエポキシ系樹脂処理後の粘着シートにつき、封止樹脂と第1粘着層とが接触している部分を幅10mm、長さ88mmのサイズにカットして評価用試料を作製した。この評価用試料を100℃の環境下に30分間放置した後、同環境下にて、引張試験機を用いて、剥離角度180度、引張速度300mm/分の条件で封止樹脂から粘着シート(第1粘着層側)を剥離した時の荷重を測定し、その際の平均荷重を粘着シート(第1粘着層)の対封止樹脂密着力とした。上記引張試験機としては、島津製作所製の商品名「オートグラフAG-120kN」を使用した。
【0124】
4.対PET粘着力
粘着シートを幅20mm、長さ140mmのサイズに裁断し、その背面側(第1粘着層が設けられた側とは反対側)の全面を、両面接着テープ(日東電工社製、商品名「No.531」)を介してSUS304板に、2kgのハンドローラーを用いて貼着した。なお、基材の背面側に第2粘着層を有する構成の粘着シートについては、第2粘着層が第1粘着層よりも強い粘着力を有する場合は、上記No.531両面接着テープを使用する代わりに、上記第2粘着層を介して上記粘着シートの背面側をSUS304板に貼着してもよい。
23℃、50%RHの環境下において、上記のように背面側がSUS304板に固定された粘着シートの粘着面(第1粘着層表面)に、被着体としてのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製、商品名「ルミラーS-10」、厚さ25μm、幅30mm)を、2kgのローラーを1往復させて貼着した。これを上記環境下に30分間放置した後、引張試験機を用いて、剥離角度180度、引張速度300mm/分の条件で上記粘着シート(第1粘着層側)から上記PETフィルムを剥離した時の荷重を測定し、その際の平均荷重を粘着シート(第1粘着層)の対PET粘着力とした。上記引張試験機としては、島津製作社製の商品名「オートグラフAG-120kN」を使用した。
【0125】
5. 糊残り防止性
上記第1粘着層表面に対するエポキシ系樹脂処理後の粘着シートにつき、封止樹脂と第1粘着層とが接触している部分を幅10mm、長さ90mmのサイズにカットして評価用試料を作製した。評価用試料を、190℃に加熱したホットプレート上で1分間加熱した後、ホットプレート上で加熱しながら評価用試料の粘着シートを封止樹脂から剥離し、封止樹脂上への糊残りの有無を確認した。剥離条件は、引張速度約1000mm/分、引張角度120°~180°とした。糊残りの有無は、粘着シートを剥がした箇所の封止樹脂面をホットプレート上で加熱した状態でピンセットで表面を擦り、その後の状態を目視観察により確認した。その結果に基づいて、糊残りが認められた場合は糊残り防止性「P」(Poor:糊残り防止性に乏しい)、糊残りが認められなかった場合は糊残り防止性「G」(Good:糊残り防止性良好)と判定した。
【0126】
なお、後述の各例において、上記各評価は、第1粘着層が基材の片面に配置された基材付き片面粘着シートを用いて実施した。
【0127】
<例1>
ポリマーP1(アクリル酸エチル(EA)/アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)/メタクリル酸メチル(MMA)/アクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEA)=70/30/5/5(重量比)のモノマー成分により構成されたアクリル系ポリマー。Mw47万)100部を含むトルエン溶液に、テルペンフェノール系粘着付与樹脂(住友ベークライト社製、商品名「スミライトレジン PR-12603」)10部と、イソシアネート系架橋剤A(東ソー社製、商品名「コロネートL」、表中「イソシアネートA」と表記する。)1.5部と、希釈用のトルエンとを加えて混合し、粘着剤組成物1aを調製した。この粘着剤組成物1aを、片面にシリコーン系剥離処理剤による剥離処理が施されたPETからなる剥離フィルムR1(東レフィルム加工社製、商品名「セラピールMDAR」、厚さ38μm)の剥離処理面に塗布して乾燥させることにより、上記剥離フィルムR1上に粘着剤層1A(厚さ10μm)を形成した。
ポリマーP2(アクリル酸メチル(MA)/2EHA/アクリル酸(AA)=70/30/10(重量比)のモノマー成分により構成されたアクリル系ポリマー)100部を含む酢酸エチル溶液に、イソシアネート系架橋剤A(東ソー社製、商品名「コロネートL」)3部と、希釈用の酢酸エチルとを加えて混合し、粘着剤組成物1bを調製した。この粘着剤組成物1bを、基材としてのPETフィルム(東レ社製、商品名「ルミラーS10」、厚み38μm)の片面に塗布して乾燥させることにより、上記基材の片面上に粘着剤層1B(厚さ10μm)を形成した。
上記剥離フィルムR1上に形成された粘着剤層1Aの粘着面を上記粘着剤層1Bの粘着面に貼り合わせることにより、粘着剤層1Bと粘着剤層1Aとからなる第1粘着層が上記基材の片面に配置された粘着シート(基材/粘着剤層1B(B層)/粘着剤層1A(A層)の構成を有する粘着シート)を得た。
【0128】
<例2~3>
A層、B層の厚さを表1に示すとおりとした他は例1と同様にして、基材/粘着剤層(B層)/粘着剤層(A層)の構成を有する粘着シートを得た。
【0129】
<例4>
ポリマーP3(アクリル酸n-ブチル(BA)/EA/AA=50/50/5(重量比)のモノマー成分により構成されたアクリル系ポリマー。Mw63万)100部を含むトルエン溶液に、イソシアネート系架橋剤A(東ソー社製、商品名「コロネートL」)3部と、希釈用のトルエンとを加えて混合し、粘着剤組成物4bを調製した。この粘着剤組成物4bを、基材としてのPETフィルム(東レ社製、商品名「ルミラーS10」、厚み38μm)の片面に塗布して乾燥させることにより、上記基材の片面上に粘着剤層4B(厚さ10μm)を形成した。
B層を粘着剤層1Bから粘着剤層4Bに変更した他は例1と同様にして、粘着剤層4Bと粘着剤層1Aとからなる第1粘着層が上記基材の片面に配置された粘着シート(基材/粘着剤層4B(B層)/粘着剤層1A(A層)の構成を有する粘着シート)を得た。
【0130】
<例5>
ポリマーP3(BA/EA/AA=50/50/5(重量比)のモノマー成分により構成されたアクリル系ポリマー。Mw63万)100部を含むトルエン溶液に、エポキシ系架橋剤(三菱ガス化学社製、商品名「テトラッドC」)5部と、希釈用のトルエンとを加えて混合し、粘着剤組成物5aを調製した。この粘着剤組成物5aを上記剥離フィルムR1の剥離処理面に塗布して乾燥させることにより、該剥離フィルムR1上に粘着剤層5A(厚さ10μm)を形成した。
ポリマーP4(BA/AA=100/10(重量比)のモノマー成分により構成されたアクリル系ポリマー。Mw62万)100部を含む酢酸エチル溶液に、イソシアネート系架橋剤A(東ソー社製、商品名「コロネートL」)3部と、希釈用の酢酸エチルとを加えて混合し、粘着剤組成物5bを調製した。この粘着剤組成物5bを、基材としてのPETフィルム(東レ社製、商品名「ルミラーS10」、厚み38μm)の片面に塗布して乾燥させることにより、上記基材の片面上に粘着剤層5B(厚さ10μm)を形成した。
上記剥離フィルムR1上に形成された粘着剤層5Aの粘着面を上記粘着剤層5Bの粘着面に貼り合わせることにより、粘着剤層5Bと粘着剤層5Aとからなる第1粘着層が上記基材の片面に配置された粘着シート(基材/粘着剤層5B(B層)/粘着剤層5A(A層)の構成を有する粘着シート)を得た。
【0131】
<例6>
ポリマーP5(BA/AA=100/5(重量比)のモノマー成分により構成されたアクリル系ポリマー。Mw65万)100部を含む酢酸エチル溶液に、イソシアネート系架橋剤A(東ソー社製、商品名「コロネートL」)3部と、希釈用の酢酸エチルとを加えて混合し、粘着剤組成物6bを調製した。この粘着剤組成物6bを、基材としてのPETフィルム(東レ社製、商品名「ルミラーS10」、厚み38μm)の片面に塗布して乾燥させることにより、上記基材の片面上に粘着剤層6B(厚さ10μm)を形成した。
B層を粘着剤層5Bから粘着剤層6Bに変更した他は例5と同様にして、粘着剤層6Bと粘着剤層5Aとからなる第1粘着層が上記基材の片面に配置された粘着シート(基材/粘着剤層6B(B層)/粘着剤層5A(A層)の構成を有する粘着シート)を得た。
【0132】
<例7>
A層およびB層で使用した架橋剤を、イソシアネート系架橋剤Aからイソシアネート系架橋剤B(三井化学社製、商品名「タケネートD-101E」、表中「イソシアネートB」と表記する。)に変更した他は例1と同様にして、基材/粘着剤層(B層)/粘着剤層(A層)の構成を有する粘着シートを得た。
【0133】
<例8>
例1において、粘着剤層1Bを使用せず、粘着剤層1Aを基材としてのPETフィルム(東レ社製、商品名「ルミラーS10」、厚み38μm)の片面に形成することにより、粘着剤層1Aからなる第1粘着層が上記基材の片面に配置された粘着シート(基材/粘着剤層1A(A層)の構成を有する粘着シート)を得た。
【0134】
<例9>
ポリマーP2(MA/2EHA/AA=70/30/10(重量比)のモノマー成分により構成されたアクリル系ポリマー)100部を含む酢酸エチル溶液に、イソシアネート系架橋剤A(東ソー社製、商品名「コロネートL」)3部と、希釈用の酢酸エチルとを加えて混合し、粘着剤組成物9aを調製した。この粘着剤組成物9aを上記剥離フィルムR1の剥離処理面に塗布して乾燥させることにより、該剥離フィルムR1上に粘着剤層9A(厚さ40μm)を形成した。
ポリマーP1(EA/2EHA/MMA/HEA=70/30/5/5(重量比)のモノマー成分により構成されたアクリル系ポリマー。Mw47万)100部を含むトルエン溶液に、テルペンフェノール系粘着付与樹脂(住友ベークライト社製、商品名「スミライトレジン PR-12603」)10部と、イソシアネート系架橋剤A(東ソー社製、商品名「コロネートL」)1.5部と、希釈用のトルエンとを加えて混合し、粘着剤組成物9bを調製した。この粘着剤組成物9bを、基材としてのPETフィルム(東レ社製、商品名「ルミラーS10」、厚み38μm)の片面に塗布して乾燥させることにより、上記基材の片面上に粘着剤層9B(厚さ5μm)を形成した。
A層およびB層をそれぞれ粘着剤層9Aおよび粘着剤層9Bに変更した他は実施例1と同様にして、粘着剤層9Bと粘着剤層9Aとからなる第1粘着層が上記基材の片面に配置された粘着シート(基材/粘着剤層9B(B層)/粘着剤層9A(A層)の構成を有する粘着シート)を得た。
【0135】
<両面粘着シートの作製>
ポリマーP6(EA/2EHA/MMA/HEA=30/70/5/4(重量比)のモノマー成分により構成されたアクリル系ポリマー)100部を含むトルエン溶液に、熱膨張性微小球(松本油脂製薬社製、商品名「マツモトマイクロスフェアー F-190D」)30部と、イソシアネート系架橋剤(東ソー社製、商品名「コロネートL」)1.4部と、粘着付与剤(ヤスハラケミカル社製、商品名「マイティーエースG125」)10部と、希釈用のトルエン(合計100部となる量)とを加えて混合し、粘着剤組成物1cを調製した。この粘着剤組成物1cを上記剥離フィルムR1の剥離処理面に塗布して乾燥させることにより、該剥離フィルムR1上に粘着剤層1C(厚さ45μm)を形成した。
例1~9に係る粘着シートの基材背面に、上記剥離フィルムR1上に形成された粘着剤層1Cの粘着面をそれぞれ貼り合わせることにより、粘着剤層1C(第2粘着層)/基材/第1粘着層の構成を有する両面粘着シートを得た。
【0136】
各例に係る粘着シートの概要と評価結果を表1に示す。
【0137】
【表1】
【0138】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0139】
1:半導体チップ
2:封止樹脂
10:基材
20:第1粘着層
22:A層
24:B層
30:第2粘着層
100:粘着シート
A:測定位置A
B:測定位置B
図1
図2