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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090105
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】遊泳動物用人工ひれ
(51)【国際特許分類】
   A61D 7/00 20060101AFI20240627BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20240627BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20240627BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20240627BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240627BHJP
【FI】
A61D7/00 Z
C08L7/00
C08L9/00
C08L23/16
C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205771
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】梅山 裕史
(72)【発明者】
【氏名】栃木 和真
(72)【発明者】
【氏名】中北 行紀
(72)【発明者】
【氏名】山元 一史
(72)【発明者】
【氏名】香川 太平
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC01W
4J002AC03X
4J002AC06W
4J002BB15Y
4J002DA036
4J002DJ016
4J002FD016
4J002GC00
(57)【要約】
【課題】ヒステリシスロスを低く維持しつつ、耐久性を向上させた遊泳動物用人工ひれを提供する。
【解決手段】遊泳動物のひれ部分を模倣した形状を有する可撓性の材料にて形成された遊泳動物用人工ひれにおいて、前記人工ひれにおけるひれ本体に、天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムを40質量%以上含有するゴム成分と、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンと、を含み、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの結晶量が7~40J/gで且つ数平均分子量が3.0×10以上である、ゴム組成物を用いたことを特徴とする、遊泳動物用人工ひれである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊泳動物のひれ部分を模倣した形状を有する可撓性の材料にて形成された遊泳動物用人工ひれにおいて、
前記人工ひれにおけるひれ本体に、天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムを40質量%以上含有するゴム成分と、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンと、を含み、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの結晶量が7~40J/gで且つ数平均分子量が3.0×10以上である、ゴム組成物を用いたことを特徴とする、遊泳動物用人工ひれ。
【請求項2】
前記ゴム成分が、更にエチレン-プロピレン-ジエンゴムを含む、請求項1に記載の遊泳動物用人工ひれ。
【請求項3】
前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、5~40質量部である、請求項1に記載の遊泳動物用人工ひれ。
【請求項4】
前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンは、結晶量が15~40J/gで且つ数平均分子量が5.0×10以上である、請求項1に記載の遊泳動物用人工ひれ。
【請求項5】
前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの融点が、85~180℃である、請求項1に記載の遊泳動物用人工ひれ。
【請求項6】
前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの1,2-結合含有量が、80質量%以上である、請求項1に記載の遊泳動物用人工ひれ。
【請求項7】
前記ゴム組成物が、更に充填剤を含む、請求項1に記載の遊泳動物用人工ひれ。
【請求項8】
前記充填剤が、少なくともカーボンブラックを含む、請求項7に記載の遊泳動物用人工ひれ。
【請求項9】
前記ゴム組成物における前記カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して10~70質量部である、請求項8に記載の遊泳動物用人工ひれ。
【請求項10】
前記充填剤が、シリカを含む、請求項7に記載の遊泳動物用人工ひれ。
【請求項11】
前記ゴム組成物は、加硫後、前記ゴム成分のマトリクス中に網目状の3次元ネットワークが形成され、該網目状の3次元ネットワークが、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの結晶からなる部分、及び、前記ゴム成分と前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンとが相溶した部分を有する、請求項1に記載の遊泳動物用人工ひれ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊泳動物用人工ひれに関するものである。
【背景技術】
【0002】
イルカやアザラシ等の水中を遊泳する動物は、水中を自在に泳ぐための、ひれを具えているが、該ひれは、体から突出している器官であることから、衝突事故を起こして欠損し易く、また、病気によっても失われることがある。ひれが失われると、そのひれのある部位にもよるが、遊泳に支障を来たすことが多い。また、遊泳動物の本来の泳ぎが阻害されると、該動物の体調に悪影響を与えたり、更には食物の取得が困難になることもある。
人に飼育されている遊泳動物、例えば、水族館で飼育されているイルカについては、病気によって失われた尾びれを人工尾びれによって再現し、本来の泳ぎを取り戻し、健康体に復帰した事例があり、この人工尾びれに関する提案が、下記特許文献1に記載されている。該特許文献1に記載の人工尾びれは、イルカの尾びれを模倣した形状の尾びれ本体部に、イルカの尾びれの残存部に装着するための装着手段を具えるものであって、生体適合性及び耐候性の観点から、前記尾びれ本体部にシリコーンゴム製の弾性材が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-212163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1においては、尾びれ本体部にシリコーンゴム製の弾性材を用いているため、引張強さや引裂強さが小さく、耐久性を確保することが困難であった。このため、例えば、水族館で飼育されているイルカについて、人工尾びれを適用した場合、水槽中でのイルカの運動により、人工尾びれに傷が付き易く、人工尾びれが裂ける原因となっていた。
【0005】
また、遊泳動物用の人工ひれの開発に当たっては、該人工ひれを装着した遊泳動物の運動を無駄なく推進力に変換できるように、人工ひれ自体のヒステリシスロス(エネルギーロス)を低減することも求められる。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、ヒステリシスロスを低く維持しつつ、耐久性を向上させた遊泳動物用人工ひれを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の遊泳動物用人工ひれの要旨構成は、以下の通りである。
【0008】
[1] 遊泳動物のひれ部分を模倣した形状を有する可撓性の材料にて形成された遊泳動物用人工ひれにおいて、
前記人工ひれにおけるひれ本体に、天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムを40質量%以上含有するゴム成分と、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンと、を含み、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの結晶量が7~40J/gで且つ数平均分子量が3.0×10以上である、ゴム組成物を用いたことを特徴とする、遊泳動物用人工ひれ。
上記[1]に記載の本発明の遊泳動物用人工ひれは、ヒステリシスロスの上昇が抑制されており、また、耐久性が向上している。
【0009】
[2] 前記ゴム成分が、更にエチレン-プロピレン-ジエンゴムを含む、[1]に記載の遊泳動物用人工ひれ。
上記[2]に記載の遊泳動物用人工ひれは、耐久性が更に向上している。
【0010】
[3] 前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、5~40質量部である、[1]又は[2]に記載の遊泳動物用人工ひれ。
上記[3]に記載の遊泳動物用人工ひれは、ヒステリシスロスが更に低く、また、耐久性が更に向上している。
【0011】
[4] 前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンは、結晶量が15~40J/gで且つ数平均分子量が5.0×10以上である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の遊泳動物用人工ひれ。
上記[4]に記載の遊泳動物用人工ひれは、ヒステリシスロスが更に低く、また、耐久性が更に向上している。
【0012】
[5] 前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの融点が、85~180℃である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の遊泳動物用人工ひれ。
上記[5]に記載の遊泳動物用人工ひれは、耐久性が更に向上している。
【0013】
[6] 前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの1,2-結合含有量が、80質量%以上である、[1]~[5]のいずれか一つに記載の遊泳動物用人工ひれ。
上記[6]に記載の遊泳動物用人工ひれは、ヒステリシスロスが更に低く、また、耐久性が更に向上している。
【0014】
[7] 前記ゴム組成物が、更に充填剤を含む、[1]~[6]のいずれか一つに記載の遊泳動物用人工ひれ。
上記[7]に記載の遊泳動物用人工ひれは、耐久性が更に向上している。
【0015】
[8] 前記充填剤が、少なくともカーボンブラックを含む、[7]に記載の遊泳動物用人工ひれ。
上記[8]に記載の遊泳動物用人工ひれは、耐久性がより一層向上している。
【0016】
[9] 前記ゴム組成物における前記カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して10~70質量部である、[8]に記載の遊泳動物用人工ひれ。
上記[9]に記載の遊泳動物用人工ひれは、ヒステリシスロスが低く維持されており、また、耐久性が更に向上している。
【0017】
[10] 前記充填剤が、シリカを含む、[7]~[9]のいずれか一つに記載の遊泳動物用人工ひれ。
上記[10]に記載の遊泳動物用人工ひれは、ヒステリシスロスが低く維持されており、また、耐久性が更に向上している。
【0018】
[11] 前記ゴム組成物は、加硫後、前記ゴム成分のマトリクス中に網目状の3次元ネットワークが形成され、該網目状の3次元ネットワークが、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの結晶からなる部分、及び、前記ゴム成分と前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンとが相溶した部分を有する、[1]~[10]のいずれか一つに記載の遊泳動物用人工ひれ。
上記[11]に記載の遊泳動物用人工ひれは、ヒステリシスロスが低減されており、また、耐久性が更に向上している。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ヒステリシスロスを低く維持しつつ、耐久性を向上させた遊泳動物用人工ひれを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の遊泳動物用人工ひれを、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0021】
<定義>
本明細書に記載されている化合物は、部分的に、又は全てが化石資源由来であってもよく、植物資源等の生物資源由来であってもよく、使用済タイヤ等の再生資源由来であってもよい。また、化石資源、生物資源、再生資源のいずれか2つ以上の混合物由来であってもよい。
【0022】
<遊泳動物用人工ひれ>
本実施形態の遊泳動物用人工ひれは、遊泳動物のひれ部分を模倣した形状を有する可撓性の材料にて形成されている。そして、本実施形態の遊泳動物用人工ひれにおいては、該人工ひれにおけるひれ本体に、天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムを40質量%以上含有するゴム成分と、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンと、を含み、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの結晶量が7~40J/gで且つ数平均分子量が3.0×10以上である、ゴム組成物を用いたことを特徴とする。
【0023】
上述のゴム組成物においては、好適には加硫後、天然ゴムや合成イソプレンゴムのゴム成分マトリクス中に、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン(以下、「sPB」と呼ぶことがある。)が網目状の3次元ネットワークを形成した構造(所謂、ダブルネットワーク構造)が形成される。前記sPBは、結晶性高分子の一種であり、高歪み下でその結晶が犠牲破壊することで入力エネルギーを散逸する効果が得られ、更に、前記sPBは天然ゴムや合成イソプレンゴムと相溶する特性も有するため、sPBを天然ゴムや合成イソプレンゴムを含むゴム成分中に一部固定化させることが可能となり、加硫ゴム中に、sPBの結晶部分とゴム成分/sPB相溶部分とからなる3次元ネットワーク(ダブルネットワーク)を形成することができる。
そして、このダブルネットワーク構造によって、前記sPBの結晶部分に起因した高いエネルギー散逸効果、及び、ゴム成分/sPB相溶部分に起因した柔軟性が得られるため、前記ゴム組成物を用いた遊泳動物用人工ひれは、優れた耐亀裂性及び耐亀裂成長性を実現でき、耐久性に優れる。また、前記ゴム組成物では、sPBとして、高い結晶性を有し、分子量が大きなものを用いているため、ヒステリシスロス(tanδ)に寄与するような低歪みの入力において結晶崩壊が起こらず、更に他の汎用樹脂と比べて分子量が大きく末端鎖の運動も少ないため、ヒステリシスロスの上昇も抑えることができる。
従って、本実施形態の遊泳動物用人工ひれは、ヒステリシスロスが低く維持されており、耐久性が向上している。
【0024】
なお、上述した網目状の3次元ネットワーク(ダブルネットワーク)構造が形成されているか否かの確認方法については、特に限定はされない。例えば、原子間力顕微鏡(AFM)の位相像から、マトリックスポリマーである天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴム中で、前記sPBがネットワーク共連続構造を形成していることを確認することによって、ダブルネットワークの形成を確認することができる。また、加硫前のゴム組成物の組成や、加硫温度等の製造条件によっても、ダブルネットワークの形成の有無を推測できる。
【0025】
前記ゴム組成物は、加硫後、前記ゴム成分のマトリクス中に網目状の3次元ネットワークが形成され、該網目状の3次元ネットワークが、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの結晶からなる部分、及び、前記ゴム成分と前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンとが相溶した部分を有することが好ましい。かかるゴム組成物を適用した遊泳動物用人工ひれは、ヒステリシスロスが低減されており、また、耐久性が更に向上している。
【0026】
前記遊泳動物用人工ひれとしては、特に限定されるものではないが、特開2008-295762号公報に開示されている図が例として挙げられる。
【0027】
更に、本実施形態の遊泳動物用人工ひれにおいては、ひれ本体に、天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムを40質量%以上含有するゴム成分と、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンと、を含み、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの結晶量が7~40J/gで且つ数平均分子量が3.0×10以上である、ゴム組成物を用いることを要する。
【0028】
(ゴム成分)
前記ゴム組成物は、ゴム成分として、天然ゴム(NR)及び/又は合成イソプレンゴム(IR)を40質量%以上含有する。天然ゴム及び合成イソプレンゴムは、イソプレンをモノマーとし、cis-1,4-ポリイソプレン構造を主な成分とする。前記ゴム成分が天然ゴム及び合成イソプレンゴムのうちの一種以上を40質量%以上含有することによって、加硫後のゴム組成物中に上述したsPBによるダブルネットワークが形成されるため、該ゴム組成物を遊泳動物用人工ひれに適用した際に、ヒステリシスロスを低く維持しつつ、耐久性を向上させることができる。また、同様の観点から、天然ゴム(NR)及び/又は合成イソプレンゴム(IR)の含有率(総含有率)は、前記ゴム成分の45質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、55質量%以上であることが特に好ましい。また、ゴム成分中の天然ゴム(NR)及び/又は合成イソプレンゴム(IR)の含有率(総含有率)の上限は、特に限定されず、100質量%でもよいが、75質量%以下が好ましく、70質量%以下が更に好ましい。
【0029】
前記天然ゴム(NR)は、ゴムノキ由来(例えば、パラゴムノキ由来)であってもよいし、他の植物資源由来であってもよい。他の植物資源由来の天然ゴムとしては、グアユール由来の天然ゴムが挙げられる。
【0030】
前記合成イソプレンゴム(IR)を合成するためのイソプレンモノマーは、石油由来の他、バイオマス由来のイソプレンを使用することもできる。
【0031】
前記ゴム成分は、更にエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)を含むことが好ましい。天然ゴム(NR)及び/又は合成イソプレンゴム(IR)と、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)とのブレンドにおいて、天然ゴム(NR)及び合成イソプレンゴム(IR)は、引張強さや引裂強さが高く、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)は、耐候性が高いことから、かかるブレンドをゴム成分として用いたゴム組成物は、強度及び耐候性が高度にバランスされており、かかるゴム組成物を適用した遊泳動物用人工ひれは、耐久性が更に向上している。また、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)は、いずれも分子中に塩素を含まないことから、環境に優しく、また、比重も軽いため、遊泳動物用人工ひれの重量を低減することができる。なお、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)は、エチレンとプロピレンに第3成分としてジエン成分を三元重合したターポリマーであるが、該ジエン成分としては、特に制限されるものではなく、例えば、1,4-ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等が挙げられる。
【0032】
前記遊泳動物用人工ひれにおいて、ひれ本体の形成に用いるゴム組成物のゴム成分として、天然ゴム(NR)及び/又は合成イソプレンゴム(IR)と、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)とのブレンドを用いる場合、天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴム(A)とエチレン-プロピレン-ジエンゴム(B)との質量比(A/B)は、75/25~55/45の範囲であることが好ましく、70/30~60/40の範囲であることが更に好ましい。ここで、NRとIRとEPDMとの合計中のNRとIRの合計含有率が75質量%以下(即ち、NRとIRとEPDMとの合計中のEPDMの含有率が25質量以上)であると、耐候性が十分に得られ、オゾンクラックの発生を十分に抑制でき、また、NRとIRの合計含有率が55質量%以上(即ち、EPDMの含有率が45質量%以下)であると、強度が十分となり、遊泳動物用人工ひれの表面に傷が生じ難く、また、十分な反発弾性を確保することができる。
【0033】
前記ゴム組成物では、本発明の効果を害しない範囲で、ゴム成分として、他の種類のゴムを含有することもできる。
【0034】
(シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン)
前記ゴム組成物は、結晶量が7~40J/gで且つ数平均分子量が3.0×10以上であるシンジオタクチック1,2-ポリブタジエン(sPB)を含む。このsPBを、前記天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムと共に含むことによって、加硫後のゴム組成物中に上述したダブルネットワークを形成でき、遊泳動物用人工ひれに適用した際に、ヒステリシスロスを低く維持しつつ、耐久性(耐亀裂性及び耐亀裂成長性)を向上させることができる。
【0035】
前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの結晶量は、7~40J/gである。前記sPBの結晶量を7J/g以上とすることで、加硫後のゴム組成物中に上述したダブルネットワークを確実に形成でき、遊泳動物用人工ひれに適用した際のヒステリシスロスを低減しつつ、耐久性をより向上させることができる。同様の観点から、前記sPBの結晶量は、15J/g以上であることが好ましく、17J/g以上であることがより好ましい。一方、sPBの結晶量が大き過ぎると、sPBの融点が高くなり過ぎてダブルネットワークを形成するための加硫温度とすることが難しくなる場合や、結晶量が大きくなり過ぎると結晶が破壊核となることでゴムの破断伸度が低下傾向となる場合があり、この観点から40J/g以下、好ましくは36J/g以下、より好ましくは31J/g以下とする。
なお、前記sPBの結晶量とは、融解熱量のことであり、sPBがどれくらいの割合で結晶化しているかを示す指標である。sPBの結晶量は、示差走査熱量計で測定される融解ピークから導出することができる。
【0036】
また、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの数平均分子量(Mn)は、加硫後のゴム組成物中に上述したダブルネットワークを確実に形成でき、遊泳動物用人工ひれに適用した際のヒステリシスロスを低減しつつ、耐久性を向上させる観点から、3.0×10以上であることを要する。また、同様の観点から、前記sPBの数平均分子量は、5.0×10以上、6.5×10以上、8.9×10以上、10.0×10以上、11.0×10以上、12.0×10以上、13.0×10以上、14.0×10以上、15.0×10以上、16.0×10以上、17.0×10以上、17.9×10以上、18.0×10以上、19.0×10以上、20.0×10以上とすることができる。
一方、前記sPBの数平均分子量(Mn)は、耐亀裂成長性や、遊泳動物用人工ひれの装着感の悪化を抑制する観点から、50.0×10以下とすることが好ましい。同様の観点から、前記sPBの数平均分子量は、40.0×10以下、39.0×10以下、38.0×10以下、37.0×10以下、36.0×10以下、35.0×10以下、34.7×10以下、34.0×10以下、33.0×10以下、32.0×10以下、31.0×10以下、30.0×10以下とすることができる。
【0037】
前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンは、結晶量が15~40J/gで且つ数平均分子量が5.0×10以上であることが好ましい。かかる物性のシンジオタクチック1,2-ポリブタジエンを含むゴム組成物を適用した遊泳動物用人工ひれは、ヒステリシスロスが更に低く、また、耐久性が更に向上している。
【0038】
前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンは、1,2-結合含有量(sPBのミクロ構造における1,2-結合の量)が、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましい。sPBの1,2-結合含有量が80質量%以上であると、加硫後のゴム組成物中に上述したダブルネットワークをより確実に形成でき、遊泳動物用人工ひれに適用した際のヒステリシスロスを低減しつつ、耐久性をより向上させることができる。同様の観点から、sPBの1,2-結合含有量は、90質量%以上、91質量%以上、92質量%以上、93質量%以上、94質量%以上又は95質量%以上とすることもできる。
なお、本明細書では、sPBの1,2-結合含有量を、H及び13C核磁気共鳴(NMR)分析によって求めることができる。
【0039】
前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンは、sPBの1,2-結合におけるシンジオタクチシティが、60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。sPBの1,2-結合におけるシンジオタクチシティが60%以上であると、加硫後のゴム組成物中に上述したダブルネットワークをより確実に形成でき、遊泳動物用人工ひれに適用した際のヒステリシスロスを低減しつつ、耐久性をより向上させることができる。同様の観点から、sPBの1,2-結合におけるシンジオタクチシティは、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上又は100%とすることができる。
なお、本明細書では、sPBの1,2-結合におけるシンジオタクチシティを、H及び13C核磁気共鳴(NMR)分析によって求めることができる。
【0040】
前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンは、1,3-ブタジエンの他に、1,3-ペンタジエン、1-ペンチル-1,3-ブタジエン等の共役ジエンが少量、共重合した共重合体であってもよいし、1,3-ブタジエンの単独重合体であってもよい。
前記sPBが、1,3-ブタジエン以外の共役ジエン由来の単位を含む場合、一実施形態では、sPBの全繰り返し単位中の1,3-ブタジエン由来の単位の割合は、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上とすることができる。
【0041】
前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの融点は、特に限定されないが、ゴム組成物及びそれを適用した遊泳動物用人工ひれの耐久性(耐亀裂性、耐亀裂成長性)をより向上させる観点から、85~180℃であることが好ましい。前記sPBの融点を180℃以下とすることで、ゴム組成物の加硫時に前記sPBの結晶化が進み易くなり、加硫後のゴム組成物中に上述したダブルネットワークをより確実に形成できる。同様の観点から、前記sPBの融点を、170℃以下、160℃以下とすることができる。一方、前記sPBの融点を85℃以上とすることで、加硫ゴムの耐熱性や強度が低下するのを抑えることができる。同様の観点から、前記sPBの融点を、90℃以上、100℃以上とすることができる。
【0042】
前記ゴム組成物における前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンの含有量については、特に限定されず、要求される耐久性やその他の性能に応じて適宜変更することができる。例えば、遊泳動物用人工ひれのヒステリシスロスを低減しつつ、耐久性をより向上させる観点からは、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン(sPB)の含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して、5~40質量部とすることが好ましい。前記sPBの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して5質量部以上であることで、エネルギー散逸効果が高まり、より優れた耐久性が得られる。同様の観点から、前記sPBの含有量は、前記ゴム成分100質量部に対して10質量部以上、20質量部以上とすることができる。一方、前記sPBの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して40質量部以下であることで、ヒステリシスロスの上昇をより確実に抑えることができる。
【0043】
前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンを得る方法としては、特に限定されず、自ら製造することもできるし、市販のものを用いることも可能である。
例えば、1,3-ブタジエンモノマーを、脂肪族系溶媒を含む有機溶媒中で、鉄系触媒組成物、クロム系触媒組成物、コバルト系触媒組成物等を用いて重合して得ることができる。具体的には、特開2006-063183号公報、特開2000-119324号公報、特表2004-528410号公報、特表2005-518467号公報、特表2005-527641号公報、特開2009-108330号公報、特開平7-25212号公報、特開平6-306207号公報、特開平6-199103号公報、特開平6-92108号公報、特開平6-87975号公報等に記載された重合方法により調製することができる。これらの触媒組成物の中でも、前記sPBの結晶量を7~40J/g、数平均分子量を3.0×10以上の範囲に、より確実に制御できる点からは、前記鉄系触媒組成物を用いることが好ましい。
【0044】
前記鉄系触媒組成物としては、例えば、(a)鉄含有化合物、(b)α-アシルホスホン酸ジエステル及び(c)有機アルミニウム化合物を混合してなる触媒組成物、(a)鉄含有化合物、(b)α-アシルホスホン酸ジエステル、(c)有機アルミニウム化合物及び他の有機金属化合物又はルイス塩基を混合してなる触媒組成物、又は(a)鉄含有化合物と(b)ジヒドロカルビル水素ホスファイトと(c)有機アルミニウム化合物を含んで成る触媒組成物等が挙げられる。
なお、前記(a)鉄含有化合物としては、特に限定されるものではないが、好適な例としては、カルボン酸鉄、有機リン酸鉄、有機ホスホン酸鉄、有機ホスフィン酸鉄、カルバミン酸鉄、ジチオカルバミン酸鉄、キサントゲン酸鉄、鉄α-ジケトネート、鉄アルコキシド又はアリールオキシド、及び有機鉄化合物等が挙げられる。また、これらの化合物の中でも、sPBの結晶量を7~40J/g、数平均分子量を3.0×10以上の範囲に、より確実に制御できる点からは、前記鉄系触媒組成物が、トリス(2-エチルヘキサン酸)鉄(III)、亜りん酸ビス(2-エチルヘキシル)、トリイソブチルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウム及びトリ-n-オクチルアルミニウムを含むことがより好ましい。
【0045】
前記クロム系触媒組成物としては、(a)クロム含有化合物、(b)水素化アルキルアルミニウム化合物及び(c)亜リン酸水素エステルを含んで成る3成分触媒系が例示される。前記クロム系触媒組成物の成分(a)としては、種々のクロム含有化合物を用いることができる。一般的には、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素又は脂環族炭化水素のような炭化水素溶媒に可溶なクロム含有化合物を用いるのが有利であるが、重合媒体中に単に分散した不溶性のクロム含有化合物から触媒活性種を生成させることも可能である。従って、溶解性を確保するために、クロム含有化合物に何らかの限定を設けるべきではない。また、(a)クロム含有化合物の例として、特に限定されないが、カルボン酸クロム、クロムβ-ジケトナート、クロムアルコキシド又はアリーロキシド、ハロゲン化クロム、疑似ハロゲン化クロム、及び有機クロム化合物が挙げられる。
【0046】
前記コバルト系触媒組成物としては、可溶性コバルト、例えばコバルトオクトエート、コバルト1-ナフテート、コバルトベンゾエート等と、有機アルミニウム化合物、例えばトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリフェニルアルミニウム等と、二硫化炭素とからなる触媒系等が挙げられる。
【0047】
また、sPBの市販品としては、例えば、JSR社のJSR RB(登録商標)810、820、830、840等のJSR RB(登録商標)シリーズ等を、用いることも可能である。
【0048】
(充填剤)
前記ゴム組成物は、上述したゴム成分及びシンジオタクチック1,2-ポリブタジエンに加えて、更に充填剤を含むことが好ましい。前記充填剤を含むことによって、ゴム組成物及びそれを適用した遊泳動物用人工ひれの耐亀裂性、耐亀裂成長性等の耐久性をより向上させることができる。
【0049】
前記充填剤については、特に制限はなく、カーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム、クレー、アルミナ、タルク、マイカ、カオリン、ガラスバルーン、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、チタン酸カリウム、硫酸バリウム等が挙げられる。これらの中でも、遊泳動物用人工ひれの耐久性をより一層向上させる観点から、前記充填剤は、少なくともカーボンブラックを含むことが好ましい。これらの充填剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、これらの充填剤としてカーボンブラックのみを有していてもよい。
また、前記充填剤の含有量については、例えば、ゴム成分100質量部に対して10~160質量部であることが好ましく、15~140質量部であることがより好ましく、15~120質量部であることが更に好ましく、20~120質量部であることが特に好ましい。
【0050】
前記カーボンブラックとしては、特に制限はなく、例えば、SAF、ISAF、IISAF、N339、HAF、FEF、GPFグレードのカーボンブラック等を用いることができる。また、前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA、JIS K 6217-2:2001に準拠して測定する)は、20~160m/gであることが好ましく、より好ましくは25~160m/g、更に好ましくは25~150m/g、特に好ましくは30~150m/gである。また、前記カーボンブラックのジブチルフタレート吸油量(DBP、JIS K 6217-4:2008に準拠して測定する)は、40~160ml/100gであることが好ましく、40~150ml/100gであることがより好ましく、50~150ml/100gであることが更に好ましく、60~150ml/100gがより一層好ましく、60~140ml/100gが特に好ましい。なお、カーボンブラックは、1種類を用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
前記カーボンブラックは、化石資源由来であってもよいが、再生可能資源由来であってもよい。カーボンブラックが再生可能資源由来であると、サステナブルな社会の実現に寄与できる。
【0052】
前記ゴム組成物における前記カーボンブラックの含有量は、ゴム組成物及びそれを適用した遊泳動物用人工ひれの耐久性をより高める観点から、前記ゴム成分100質量部に対して10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることが特に好ましい。一方、前記ゴム組成物における前記カーボンブラックの含有量は、ゴム組成物及びそれを適用した遊泳動物用人工ひれのヒステリシスロスの上昇をより確実に抑制する観点から、前記ゴム成分100質量部に対して70質量部以下であることが好ましく、60質量部以下であることがより好ましい。また、カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して10~70質量部であるゴム組成物を適用した遊泳動物用人工ひれは、ヒステリシスロスが低く維持されており、また、耐久性が更に向上している。
【0053】
前記充填剤は、シリカを含むことが好ましく、カーボンブラックとシリカの両方を含むことが更に好ましい。シリカを含むゴム組成物を適用した遊泳動物用人工ひれは、ヒステリシスロスが低く維持されており、また、耐久性が更に向上している。
前記シリカとしては、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられるが、中でも湿式シリカを用いることが好ましい。
また、前記湿式シリカのBET比表面積(ISO 5794/1に基づき測定する)は40~350m/gであるのが好ましい。BET比表面積がこの範囲であるシリカは、ゴム補強性とゴム成分中への分散性とを両立できるという利点がある。この観点から、BET比表面積が80~300m/gの範囲にあるシリカが更に好ましい。このようなシリカとしては東ソー・シリカ(株)社製「ニプシルAQ」、「ニプシルKQ」、エボニック社製「Ultrasil VN3」等の市販品を用いることができる。なお、前記シリカは、1種類を用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、前記充填剤としてカーボンブラックを含むものの、シリカを含まない配合とすることもできる。この場合、ヒステリシスロスの低減効果がより大きくなる点で好ましい。
【0054】
更に、前記充填剤としてシリカを用いる場合には、加硫前のゴム組成物中に、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド及び3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアジルテトラスルフィド等のシランカップリング剤を更に含むことが好ましい。加硫前のゴム組成物における前記シランカップリング剤の配合量は、シランカップリング剤の種類等により異なるが、前記シリカ100質量部に対して、好ましくは2~20質量部の範囲で選定される。
【0055】
(その他の成分)
前記ゴム組成物は、上述したゴム成分、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン及び充填剤以外にも、要求される性能に応じて、通常ゴム工業界で用いられるその他の成分を適宜含むことができる。
前記その他の成分としては、加硫前のゴム組成物中に、加硫剤(架橋剤)、加硫促進剤、加硫遅延剤、老化防止剤、補強剤、軟化剤、加硫助剤、着色剤、難燃剤、滑剤、発泡剤、可塑剤、加工助剤、酸化防止剤、スコーチ防止剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、着色防止剤、オイル等を含むことができる。これらは、それぞれ、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
前記加硫剤としては、硫黄架橋の場合は、硫黄(粉末硫黄等)、モルホリン・ジスルフィド、高分子多硫化物等の含硫黄架橋剤等が挙げられる。非硫黄架橋(パーオキサイド架橋等)の場合は、tert-ブチルヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、di-tert-ブチルペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、tert-ブチルクミルペルオキシド等のパーオキサイド架橋剤が挙げられる。
【0057】
前記加硫促進剤としては、スルフェンアミド系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、ジチオカルバミン系加硫促進剤、キサントゲン酸塩系加硫促進剤等が挙げられる。
【0058】
また、前記パーオキサイド架橋における共架橋剤としては、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、メタクリル酸亜鉛、メタクリル酸マグネシウム等が挙げられる。
【0059】
なお、加硫前のゴム組成物の調製方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、各配合成分を、同時又は任意の順序で添加して、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサー等の混練り機を用いて混練りすることによって、ゴム組成物が得られる。
【0060】
前記ゴム組成物は、上記の通り、オイルを含んでもよいが、オイルを含まなくても良い。
【0061】
また、前記ゴム組成物は、上記の通り、老化防止剤を含んでもよいが、老化防止剤を含まなくても良い。
【0062】
(ゴム組成物の製造方法)
前記ゴム組成物(以下、「未加硫のゴム組成物」ということがある。)及び前記加硫ゴム組成物(以下、「加硫後のゴム組成物」ということがある。)を得る方法については、特に限定はされない。
例えば、加硫後のゴム組成物中に上述したダブルネットワークを確実に形成できる観点からは、未加硫のゴム組成物の調製において、前記シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンと天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムとを混練する際(マスターバッチ練り段階の混練時)の温度を、前記sPBの融点より10~100℃高い温度に設定し、各成分を混練する工程と、得られた未加硫ゴム組成物を、前記sPBの融点以上の温度で加硫する工程と、を具える製造条件を用いることができる。
【0063】
前記製造条件において、前記sPBと天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムとの混練時の温度を設定する理由としては、前記混錬時の温度を、前記sPBの融点より10~100℃高い温度、好ましくは10~50℃高い温度、より好ましくは12~50℃高い温度で混練することによって、前記sPBをゴム成分に相溶させることができるためである。
【0064】
更に、その後、前記製造条件において、上述したダブルネットワークを形成するためには、前記sPBの融点以上の温度で加硫することが重要と考えられる。得られた未加硫のゴム組成物を、前記sPBの融点以上の温度で加硫することによって、前記sPBが前記ゴム成分に半相溶状態となり、ゴム成分中のネットワークとして固定化される結果、加硫ゴム組成物中に上述したダブルネットワークを形成できる、と考えられるためである。但し、このことは、前記sPBの融点未満の温度で加硫した場合には、全くダブルネットワークを形成しないという意味ではない。sPBの融点未満の温度で加硫した場合であっても、sPBの一部が溶解しダブルネットワークを少なくとも部分的には形成しうるためであり、例えば、融点より-15℃の温度以上かつ融点未満であっても、少なくとも部分的にはダブルネットワークを形成しうると考えられる。
その結果、得られた加硫後のゴム組成物は、ヒステリシスロスを上昇させることなく、耐亀裂性、耐亀裂成長性等の耐久性に優れたものとなる。
【0065】
前記製造条件における、前記sPBと前記天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムとの混練時(マスターバッチ練り段階の混練時)において、混練時の温度が前記sPBの融点より10℃高い温度に達することで、前記sPBを前記天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムに相溶させることがより確実にできる。
一方、前記製造方法における、前記sPBと前記天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムとの混練時(マスターバッチ練り段階の混練時)において、混練時の温度が前記sPBの融点より100℃高い温度以下、好ましくは50℃高い温度以下であれば、前記ゴム成分及び前記sPBが熱劣化することを好適に防止することができる結果、得られた加硫ゴム組成物の耐久性の向上に寄与できる。
なお、前記製造方法における、前記sPBと前記天然ゴム及び/又は合成イソプレンゴムとの混練は、バンバリーミキサー、ロール、インターナルミキサー等の混練り機等を用いることができる。
【0066】
なお、前記製造条件における混練時の温度とは、未加硫のゴム組成物のマスターバッチが混練装置から排出される時点でのマスターバッチの温度をいい、具体的には、マスターバッチ練りにおいて、混練装置から排出された直後のマスターバッチの内部温度を温度センサー等で測定した温度である。但し、混練装置内に未加硫のゴム組成物の温度測定手段がある場合は、排出される時点のマスターバッチの温度を測定してもよい。
ここで、マスターバッチとは、架橋剤及び加硫促進剤を配合しない混練段階で、前記ゴム成分と、前記sPBとを混練する段階で得られるゴム組成物のことである。
【0067】
前記製造条件における加硫温度は、前記sPBの融点以上の温度であることが好ましい。前記加硫温度が、前記sPBの融点以上であれば、熱力学的に前記ゴム成分中の前記sPBが結晶状態となったドメイン構造を取り難くなり、上述したダブルネットワークをより確実に形成できるためである。
なお、前記製造条件における加硫時の温度とは、加硫開始から加硫が進行し、到達した最高温度(通常は、加硫装置の設定温度である。)のことである。
また、前記製造方法における加硫は、公知の加硫系を用いることができ、硫黄加硫系でもよいし、非硫黄加硫系でもよい。
【0068】
(遊泳動物用人工ひれの製造方法)
本実施形態の遊泳動物用人工ひれは、例えば、遊泳動物の失われたひれ部分を模倣した形状のモールドに、前記ゴム組成物を、必要に応じて補強繊維からなる補強層を組み込んだ状態で成形し、加熱・加圧して加硫等することにより製造することができる。
【実施例0069】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0070】
<sPB>
実施例においては、シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンとして、JSR社製の「JSR RB(登録商標)840」を用いた。このsPBの、結晶量は21J/g、数平均分子量は6.6×10、融点は122℃、1,2-結合含有量は84質量%、1,2-結合中のシンジオタクティシティは68%であった。
【0071】
なお、前記sPBの結晶量、数平均分子量(Mn)、融点、1,2-結合含有量及び1,2-結合中のシンジオタクチシティについては、以下の方法によって測定した。
【0072】
(結晶量)
示差走査熱量測定(TAインスツルメント製)を用い、融点測定時に得られる、-100℃~200℃までに観測された融解ピークの面積を算出することで、結晶量(J/g)を得た。
【0073】
(数平均分子量(Mn))
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC:東ソー製、HLC-8220/HT]により検出器として示差屈折計を用いて測定し、単分散ポリスチレンを標準としたポリスチレン換算で示した。なお、カラムはGMHHR-H(S)HT[東ソー製]で、溶離液はトリクロロベンゼン、測定温度は140℃である。
【0074】
(融点)
示差走査熱量測定(DSC)装置内にシンジオタクチック1,2-ポリブタジエンのサンプルを入れ、10℃/分の昇温速度で昇温した時のDSC曲線の融解ピーク温度を融点とする方法で測定した。
【0075】
(1,2-結合含有量、及び1,2-結合中のシンジオタクチシティ)
シンジオタクチック1,2-ポリブタジエンのH及び13C核磁気共鳴(NMR)分析によって求めた。
【0076】
<実施例1、比較例1>
表1に示す配合(加硫系薬品に関しては、小数点以下第一位まで表記)において、加硫系薬品(硫黄と加硫促進剤)を除いて、非生産混練工程(混練時の温度:145℃)を行い、マスターバッチを得た。
次いで、非生産混練工程から得られたマスターバッチに加硫系薬品(硫黄と加硫促進剤)を加えて、生産混練工程(混練時の温度:105℃)を行い、ゴム組成物を得た。
次いで、生産混練工程から得られたゴム組成物を160℃で加硫して、加硫ゴム組成物の各サンプルを得た。
ここで、加硫ゴム組成物の各サンプルについては、sPBの含有の有無及び融点、並びに、加硫温度の条件から、実施例1のサンプルについては、加硫ゴム中に、sPBの結晶からなる部分及びゴム成分と前記sPBとが相溶した部分を有する網目状の3次元ネットワーク(ダブルネットワーク)が形成されていると考えられる。
なお、表1に示す配合は、ゴム成分100質量部に対する量(質量部)で示している。
【0077】
<評価>
得られた加硫ゴム組成物の各サンプルに対して、下記の方法で、ヒステリシスロス(tanδ)、耐亀裂性及び耐亀裂成長性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
(1)ヒステリシスロス(tanδ)
加硫ゴム組成物の各サンプルについて、粘弾性測定装置(上島製作所製)を使用して、周波数15Hz、引張歪み2%、室温の条件で、損失正接(tanδ)を測定した。
評価については、比較例1のtanδを100としたときの指数として表示した。指数値が小さい程、tanδが小さく(即ち、ヒステリシスロスが低く)、良好であることを示す。
【0079】
(2)耐亀裂性
各加硫ゴム組成物のサンプルについて、引張試験装置(株式会社島津製作所)を使用し、pure shear型の試験片を引張した状態で切り込みを入れて亀裂が進展する様子を観察する試験を行い、エネルギー解放率の常用対数を取った値が4.8のときの亀裂進展速度を測定した。なお、耐亀裂性の評価については、比較例1における亀裂進展速度を100としたときの指数値として表示し、指数値が大きいほど、耐亀裂性に優れることを示す。
【0080】
(3)耐亀裂成長性
各加硫ゴム組成物からなるJIS 3号試験片の中心部に0.5mmの亀裂を試験片長さ方向に入れ、80℃で10~90%の歪みで繰り返し疲労を与え、サンプルが切断するまでの回数を測定した。
評価については、比較例1の結果を100としたときの指数として表示した。
耐亀裂成長性(指数)={(供試サンプルの切断するまでの回数)/(比較例1の切断するまでの回数)}×100
指数値が大きい程、耐亀裂成長性が良好であることを示す。
【0081】
【表1】
【0082】
*1 EPDM: エチレン-プロピレン-ジエンゴム、JSR社製、商品名「EP35」
*2 sPB: シンジオタクチック1,2-ポリブタジエン、JSR社製、商品名「JSR RB(登録商標)840」
*3 シリカ: 東ソー・シリカ株式会社製、商品名「ニップシールAQ」
*4 その他薬品: 亜鉛華・オイル・老化防止剤の合計量
*5 シランカップリング剤: 株式会社大阪ソーダ製、商品名「CABRUS-SA」
【0083】
表1の結果から、本発明に従う実施例の加硫ゴム組成物は、ヒステリシスロスが低く、耐亀裂性及び耐亀裂成長性に優れ、耐久性が向上していることが分かる。
【0084】
[国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)への貢献]
持続可能な社会の実現に向けて、SDGsが提唱されている。本発明の一実施形態は、「No.7_エネルギーをみんなに。そしてクリーンに」、「No.12_つくる責任、つかう責任」及び「No.13_気候変動に具体的な対策を」などに貢献する技術となり得ると考えられる。