(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090117
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】機器性能予測方法、機器性能予測装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06N 20/00 20190101AFI20240627BHJP
F24F 11/62 20180101ALI20240627BHJP
【FI】
G06N20/00 130
F24F11/62
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205787
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 葵
(72)【発明者】
【氏名】岡本 昌和
(72)【発明者】
【氏名】由良 嘉紀
(72)【発明者】
【氏名】藤本 修二
(72)【発明者】
【氏名】定井 静香
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260BA75
3L260CA12
3L260CA13
3L260CA32
3L260CA33
3L260CB04
3L260CB15
3L260CB16
3L260CB18
3L260CB19
3L260CB23
3L260CB24
3L260CB26
3L260CB79
3L260CB86
3L260EA03
3L260EA22
(57)【要約】
【課題】機器の性能を予測する精度を向上させる。
【解決手段】本開示の一実施形態に係る方法は、機器性能予測装置の制御部が実行する方法であって、機器の運転状態データと環境状態データを取得するステップと、予測対象の運転における前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を機器性能予測モデルに説明変数として入力して、前記機器の性能を予測するステップと、を含み、前記機器性能予測モデルは、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を説明変数にし、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部から作成された前記機器の性能に関するデータもしくは実測された前記機器の性能に関するデータを目的変数にして学習されたモデルであり、前記要素部品の特性データは、前記機器の運転状態データと環境状態データから作成されたデータと、別途設定されたデータと、の少なくとも一方である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器性能予測装置の制御部が実行する方法であって、
機器の運転状態データと環境状態データを取得するステップと、
予測対象の運転における前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を機器性能予測モデルに説明変数として入力して、前記機器の性能を予測するステップと、を含み、
前記機器性能予測モデルは、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を説明変数にし、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部から作成された前記機器の性能に関するデータもしくは実測された前記機器の性能に関するデータを目的変数にして学習されたモデルであり、
前記要素部品の特性データは、前記機器の運転状態データと環境状態データから作成されたデータと、別途設定されたデータと、の少なくとも一方である、
方法。
【請求項2】
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、前記予測対象の運転における前記機器の運転状態データと環境状態データから作成されたものではなく、所望の時点で用意されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記予測対象の運転における前記機器の運転状態データと環境状態データの全部または一部から作成された前記機器の性能に関する実測データと、所望の時点で用意された要素部品の特性データを利用して予測された前記機器の性能に関する予測データと、を比較し、
前記要素部品の特性データを用意した前記所望の時点からの前記機器の性能に関する劣化を推定する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記機器の性能に関する劣化を推定した結果をもとに前記機器の性能の劣化を通知する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記要素部品の特性データの作成に利用される機器の運転状態データと環境状態データとの一部のデータは、前記機器性能予測モデルに説明変数として入力される機器の運転状態データおよび環境状態データに含まれない、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記機器性能予測モデルに説明変数として入力される機器の運転状態データおよび環境状態データに含まれるデータから作成できる前記要素部品の特性データは、前記機器性能予測モデルに説明変数として入力される要素部品の特性データ、機器の運転状態データおよび環境状態データに含まれない、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、前記機器の冷媒充填量に関係する指標と、前記機器の熱交換器性能に関係する指標と、前記機器の圧縮機性能に関係する指標と、前記機器の連絡配管長に関係する指標と、のうちのいずれか1つの指標、あるいは、前記機器の冷媒充填量に関係する指標と、前記機器の熱交換器性能に関係する指標と、前記機器の圧縮機性能に関係する指標と、前記機器の連絡配管長に関係する指標と、のうちのいずれか1つの指標と他の指標とを含む2つ以上の指標に関係する値である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、SC、記録値である初期充填量、SH、EV開度、凝縮器KA、蒸発器KA、圧縮機電流、吸入圧損、高低差圧、記録値である連絡配管長、のうちのいずれか1つの指標と他の指標とを含む2つ以上の指標である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
前記性能に関するデータは、前記機器の冷房能力に関係する指標と、前記機器の暖房能力に関係する指標と、前記機器の消費電力に関係する指標と、前記機器のCOPに関係する指標と、のうちのいずれか1つの指標に関係する値である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、所望の時点で用意された定数である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項11】
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、前記運転状態データまたは前記環境状態データに伴う、所望の時点で用意された変数である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項12】
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、四則演算を用いて算出される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項13】
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、統計モデルを用いて算出される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項14】
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、物理モデルを用いて算出される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項15】
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、機械学習モデルを用いて算出される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項16】
機器の性能を予測する、制御部を備えた機器性能予測装置であって、
前記制御部は、
機器の運転状態データと環境状態データを取得し、
予測対象の運転における前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を機器性能予測モデルに説明変数として入力して、前記機器の性能を予測し、
前記機器性能予測モデルは、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を説明変数にし、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部から作成された前記機器の性能に関するデータもしくは実測された前記機器の性能に関するデータを目的変数にして学習されたモデルであり、
前記要素部品の特性データは、前記機器の運転状態データと環境状態データから作成されたデータと、別途設定されたデータと、の少なくとも一方である、機器性能予測装置。
【請求項17】
機器の性能を予測する機器性能予測装置に、
機器の運転状態データと環境状態データを取得することと、
予測対象の運転における前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を機器性能予測モデルに説明変数として入力して、前記機器の性能を予測することとを実行させるためのプログラムであって、
前記機器性能予測モデルは、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を説明変数にし、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部から作成された前記機器の性能に関するデータもしくは実測された前記機器の性能に関するデータを目的変数にして学習されたモデルであり、
前記要素部品の特性データは、前記機器の運転状態データと環境状態データから作成されたデータと、別途設定されたデータと、の少なくとも一方である、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、機器性能予測方法、機器性能予測装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気調和機等のCOP(Coefficient of Performance)等の性能値を用いて機器を診断することが知られている(特許文献1)。
【0003】
機械学習モデルを用いて機器を診断する場合には、
図1に示すように、機種単位の基準の性能値を予測するモデル(つまり、機器の機種ごとに生成された機械学習モデル)を用いる場合、あるいは、物件単位の個別の性能値を予測するモデル(つまり、機器が設置される物件ごとに生成された機械学習モデル)を用いる場合が考えられる。例えば、
図1の各モデルで予測された正常時の性能値と実際の性能値とを比較して、機器の異常を検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、機種単位の基準の性能値を予測するモデルの場合も物件単位の個別の性能値を予測するモデルの場合も以下のような課題がある。
【0006】
各物件における性能値には、ばらつきがあり、機種単位の基準の性能値を予測するモデルの場合、機種単位の基準の性能値(
図2の基準性能値)と各物件における性能値(
図2の物件Aの性能値および物件Bの性能値)の乖離が反映されない。同様に、物件単位の個別の性能値を予測するモデルの場合も、機器の性能値のばらつきを考慮して、機器の性能を予測することができない。このように、正常時の機器の要素部品の特性データ(機器を構成する要素部品に関する性能値)を考慮して、機器の性能を予測することができなかった。
【0007】
本開示では、機器の性能を予測する精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1の態様による方法は、
機器性能診断システムの制御部が実行する方法であって、
機器の運転状態データと環境状態データを取得するステップと、
予測対象の運転における前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を機器性能予測モデルに説明変数として入力して、前記機器の性能を予測するステップと、を含み、
前記機器性能予測モデルは、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を説明変数にし、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部から作成された前記機器の性能に関するデータもしくは実測された前記機器の性能に関するデータを目的変数にして学習されたモデルであり、
前記要素部品の特性データは、前記機器の運転状態データと環境状態データから作成されたデータと、別途設定されたデータと、の少なくとも一方である。
【0009】
本開示の第1の態様によれば、機器の性能値のばらつきを考慮して、機器の性能を予測することができる。
【0010】
本開示の第2の態様による方法は、第1の態様に記載の方法であって、
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、前記予測対象の運転における前記機器の運転状態データと環境状態データから作成されたものではなく、所望の時点で用意されたものである。
【0011】
本開示の第2の態様によれば、所望の時点で用意された要素部品の特性データを用いて、機器の性能値のばらつきを考慮して、機器の性能を予測することができる。
【0012】
本開示の第3の態様による方法は、第1の態様または第2の態様に記載の方法であって、
前記予測対象の運転における前記機器の運転状態データと環境状態データの全部または一部から作成された前記機器の性能に関する実測データと、所望の時点で用意された要素部品の特性データを利用して予測された前記機器の性能に関する予測データと、を比較し、
前記要素部品の特性データを用意した前記所望の時点からの前記機器の性能に関する劣化を推定する。
【0013】
本開示の第3の態様によれば、機器の性能値のばらつきを考慮して、機器の性能の劣化を推定することができる。
【0014】
本開示の第4の態様による方法は、第3の態様に記載の方法であって、
前記機器の性能に関する劣化を推定した結果をもとに前記機器の性能の劣化を通知する。
【0015】
本開示の第4の態様によれば、機器の管理者等は、機器の性能の劣化を知ることができる。
【0016】
本開示の第5の態様による方法は、第1の態様から第4の態様のいずれかに記載の方法であって、
前記要素部品の特性データの作成に利用される機器の運転状態データと環境状態データとの一部のデータは、前記機器性能予測モデルに説明変数として入力される機器の運転状態データおよび環境状態データに含まれない。
【0017】
本開示の第5の態様によれば、機器性能予測モデルの説明変数ではないデータを利用して要素部品の特性データを作成するので、機器性能予測モデルの説明変数だけでは予測(説明)が不充分な場合も機器の性能を予測でき、機器の性能を予測する精度を向上させることができる。
【0018】
本開示の第6の態様による方法は、第1の態様から第4の態様のいずれかに記載の方法であって、
前記機器性能予測モデルに説明変数として入力される機器の運転状態データおよび環境状態データに含まれるデータから作成できる前記要素部品の特性データは、前記機器性能予測モデルに説明変数として入力される要素部品の特性データ、機器の運転状態データおよび環境状態データに含まれない。
【0019】
本開示の第6の態様によれば、機器性能予測モデルの説明変数であるデータを利用して作成できる要素部品の特性データを説明変数として用いないので、機器性能予測モデルの説明変数だけでは予測(説明)が不充分な場合も機器の性能を予測でき、機器の性能を予測する精度を向上させることができる。
【0020】
本開示の第7の態様による方法は、第1の態様から第6の態様のいずれかに記載の方法であって、
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、前記機器の冷媒充填量に関係する指標と、前記機器の熱交換器性能に関係する指標と、前記機器の圧縮機性能に関係する指標と、前記機器の連絡配管長に関係する指標と、のうちのいずれか1つの指標、あるいは、前記機器の冷媒充填量に関係する指標と、前記機器の熱交換器性能に関係する指標と、前記機器の圧縮機性能に関係する指標と、前記機器の連絡配管長に関係する指標と、のうちのいずれか1つの指標と他の指標とを含む2つ以上の指標に関係する値である。
【0021】
本開示の第7の態様によれば、種々の要素部品の特性データを用いて、機器の性能値のばらつきを考慮することができる。
【0022】
本開示の第8の態様による方法は、第1の態様から第6の態様のいずれかに記載の方法であって、
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、SC、記録値である初期充填量、SH、EV開度、凝縮器KA、蒸発器KA、圧縮機電流、吸入圧損、高低差圧、記録値である連絡配管長、のうちのいずれか1つの指標と他の指標とを含む2つ以上の指標である。
【0023】
本開示の第8の態様によれば、種々の要素部品の特性データを用いて、機器の性能値のばらつきを考慮することができる。
【0024】
本開示の第9の態様による方法は、第1の態様から第8の態様のいずれかに記載の方法であって、
前記性能に関するデータは、前記機器の冷房能力に関係する指標と、前記機器の暖房能力に関係する指標と、前記機器の消費電力に関係する指標と、前記機器のCOPに関係する指標と、のうちのいずれか1つの指標に関係する値である。
【0025】
本開示の第9の態様によれば、種々の機器の性能を予測することができる。
【0026】
本開示の第10の態様による方法は、第1の態様から第9の態様のいずれかに記載の方法であって、
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、所望の時点で用意された定数である。
【0027】
本開示の第10の態様によれば、所望の時点での定数である要素部品の特性データを用いて、機器の性能値のばらつきを考慮することができる。
【0028】
本開示の第11の態様による方法は、第1の態様から第9の態様のいずれかに記載の方法であって、
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、前記運転状態データまたは前記環境状態データに伴う、所望の時点で用意された変数である。
【0029】
本開示の第11の態様によれば、運転状態データおよび環境状態データに伴う変数である要素部品の特性データを用いて、機器の性能値のばらつきを考慮することができる。
【0030】
本開示の第12の態様による方法は、第1の態様から第11の態様のいずれかに記載の方法であって、
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、四則演算を用いて算出される。
【0031】
本開示の第12の態様によれば、要素部品の特性データを正確に算出することができる。
【0032】
本開示の第13の態様による方法は、第1の態様から第11の態様のいずれかに記載の方法であって、
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、統計モデルを用いて算出される。
【0033】
本開示の第13の態様によれば、要素部品の特性データを正確に算出することができる。
【0034】
本開示の第14の態様による方法は、第1の態様から第11の態様のいずれかに記載の方法であって、
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、物理モデルを用いて算出される。
【0035】
本開示の第14の態様によれば、要素部品の特性データを正確に算出することができる。
【0036】
本開示の第15の態様による方法は、第1の態様から第11の態様のいずれかに記載の方法であって、
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、機械学習モデルを用いて算出される。
【0037】
本開示の第15の態様によれば、要素部品の特性データを正確に算出することができる。
【0038】
本開示の第16の態様による機器性能予測装置は、
機器の性能を予測する、制御部を備えた機器性能予測装置であって、
前記制御部は、
機器の運転状態データと環境状態データを取得し、
予測対象の運転における前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を機器性能予測モデルに説明変数として入力して、前記機器の性能を予測し、
前記機器性能予測モデルは、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を説明変数にし、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部から作成された前記機器の性能に関するデータもしくは実測された前記機器の性能に関するデータを目的変数にして学習されたモデルであり、
前記要素部品の特性データは、前記機器の運転状態データと環境状態データから作成されたデータと、別途設定されたデータと、の少なくとも一方である。
【0039】
本開示の第17の態様によるプログラムは、
機器の性能を予測する機器性能予測装置に、
機器の運転状態データと環境状態データを取得することと、
予測対象の運転における前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を機器性能予測モデルに説明変数として入力して、前記機器の性能を予測することとを実行させるためのプログラムであって、
前記機器性能予測モデルは、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を説明変数にし、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部から作成された前記機器の性能に関するデータもしくは実測された前記機器の性能に関するデータを目的変数にして学習されたモデルであり、
前記要素部品の特性データは、前記機器の運転状態データと環境状態データから作成されたデータと、別途設定されたデータと、の少なくとも一方である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】性能値の予測の手法について説明するための図である。
【
図2】性能値の予測の手法について説明するための図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係る全体の構成例である。
【
図4】本開示の一実施形態に係る機器性能予測装置および機器性能劣化推定装置のハードウェア構成図である。
【
図5】本開示の一実施形態に係る制御部の機能ブロック図である。
【
図6】本開示の一実施形態に係る制御部の機能ブロック図である。
【
図7】本開示の一実施形態に係る制御部の機能ブロック図である。
【
図8】本開示の一実施形態に係る制御部の機能ブロック図である。
【
図9】本開示の一実施形態に係る空気調和機のハードウェア構成図である。
【
図10】本開示の一実施形態に係る過冷却度(SC)について説明するための図である。
【
図11】本開示の一実施形態に係る過熱度(SH)について説明するための図である。
【
図12】本開示の一実施形態に係る熱貫流率(KA)について説明するための図である。
【
図13】本開示の一実施形態に係る学習処理のフローチャートである。
【
図14】本開示の一実施形態に係る予測処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面に基づいて本開示の実施の形態を説明する。
【0042】
<全体の構成例>
図3は、本開示の全体の構成例である。機器性能診断システム1は、機器性能予測装置10と、機器性能劣化推定装置11と、機器20と、を含む。
【0043】
機器性能予測装置10と機器性能劣化推定装置11は、任意のネットワークを介して機器20とデータを送受信することができる。機器性能予測装置10と機器性能劣化推定装置11は、任意のネットワークを介して互いにデータを送受信することができる。なお、
図3では、機器性能予測装置10と機器性能劣化推定装置11を別々の装置として説明するが、機器性能予測装置10と機器性能劣化推定装置11を1つの装置で実装してもよい。
【0044】
機器性能予測装置10は、機器20の正常時の性能値を予測する装置である。具体的には、機器性能予測装置10は、機器20の運転状態データと環境状態データを取得する。また、機器性能予測装置10は、予測対象の運転における(つまり、機器20の性能を予測する時点の運転における)当該機器20の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、当該機器20の要素部品の特性データと、を機器性能予測モデルに説明変数として入力して、当該機器20の性能を予測する。
【0045】
機器性能予測モデルは、機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、当該機器20の要素部品の特性データと、を説明変数にし、当該機器20の運転状態データと環境状態データとの全部または一部から作成された当該機器20の性能に関するデータ(性能値)もしくは実測された当該機器20の性能に関するデータ(性能値)を目的変数にして学習されたモデルである。要素部品の特性データは、機器の運転状態データと環境状態データから作成されたデータと、別途設定されたデータ(つまり、予測対象の運転における機器の運転状態データと環境状態データから作成されたものではなく、所望の時点(例えば、機器20が正常であるとき(例えば、新品の時点、機器20の設置から1年目など))で用意されたものである)と、の少なくとも一方である。
【0046】
機器性能劣化推定装置11は、機器20の性能の劣化を推定して通知する装置である。具体的には、機器性能劣化推定装置11は、予測対象の運転における機器20の運転状態データと環境状態データの全部または一部から作成された当該機器20の性能に関する実測データと、所望の時点で用意された要素部品の特性データを利用して予測された当該機器20の性能に関する予測データ(つまり、"所望の時点で用意された要素部品の特性データ"と"予測対象の運転における機器20の運転状態データと環境状態データとの全部または一部"を機器性能予測モデルに入力することで得られる予測データ)と、を比較して、当該要素部品の特性データを用意した当該所望の時点からの当該機器20の性能に関する劣化を推定する。また、機器性能劣化推定装置11は、機器20の性能に関する劣化を推定した結果をもとに当該機器20の性能の劣化を通知する(例えば、当該機器20の管理者等の端末へ、当該機器20の性能の劣化の情報を送信する)。
【0047】
機器20は、任意の機器であってよい。例えば、機器20は、空気調和機である。機器20は、複数の機種の機器(例えば、
図3では、機種Xの機器と機種Yの機器)を含むことができる。また、機器20が設置される建物、フロア等(以下、物件ともいう)は、複数の物件(例えば、
図3では、物件A、物件B、物件C)を含むことができる。例えば、
図3では、物件Aには機種Xの機器と機種Yの機器が設置されており、物件Bには機種Xの機器が設置されており、物件Cには機種Yの機器が設置されている。
【0048】
なお、
図3では、機器性能予測装置10および機器性能劣化推定装置11が機器20から離れた遠隔にある(例えば、クラウドサーバである)場合を説明したが、機器性能予測装置10と機器性能劣化推定装置11との少なくとも一方が機器20の内部にあってもよいし、あるいは、機器20が設置されている物件内に設置されてもよい。
【0049】
<機器性能予測装置、機器性能劣化推定装置>
図4は、本開示の一実施形態に係る機器性能予測装置10、機器性能劣化推定装置11のハードウェア構成図である。機器性能予測装置10、機器性能劣化推定装置11は、制御部1001と、主記憶部1002と、補助記憶部1003と、入力部1004と、出力部1005と、インタフェース部1006と、を備えることができる。以下、それぞれについて説明する。
【0050】
制御部1001は、補助記憶部1003にインストールされている各種プログラムを実行するプロセッサ(例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等)である。
【0051】
主記憶部1002は、不揮発性メモリ(ROM(Read Only Memory))および揮発性メモリ(RAM(Random Access Memory))を含む。ROMは、補助記憶部1003にインストールされている各種プログラムを制御部1001が実行するために必要な各種プログラム、データ等を格納する。RAMは、補助記憶部1003にインストールされている各種プログラムが制御部1001によって実行される際に展開される作業領域を提供する。
【0052】
補助記憶部1003は、各種プログラムや、各種プログラムが実行される際に用いられる情報を格納する補助記憶デバイスである。
【0053】
入力部1004は、機器性能予測装置10、機器性能劣化推定装置11の操作者が機器性能予測装置10、機器性能劣化推定装置11に対して各種指示を入力する入力デバイスである。
【0054】
出力部1005は、機器性能予測装置10、機器性能劣化推定装置11の内部状態等を出力する出力デバイスである。
【0055】
インタフェース部1006は、各種センサやネットワークに接続し、各種センサや他の装置と通信を行うための通信デバイスである。
【0056】
<機能ブロック>
以下、
図5-
図8を参照しながら制御部1001の機能ブロックについて説明する。
【0057】
[学習]
図5は、本開示の一実施形態に係る制御部1001の機能ブロック図である。
図5は、学習の処理を示す。制御部1001は、予測モデル学習部101を備える。また、制御部1001は、プログラムを実行することによって、予測モデル学習部101として機能する。以下、詳細に説明する。
【0058】
予測モデル学習部101は、機器性能予測モデルを生成して、生成した機器性能予測モデルを任意の記憶部に記憶させる。
【0059】
具体的には、予測モデル学習部101は、教師データを取得する。予測モデル学習部101は、取得した教師データを用いて学習して機器性能予測モデルを生成する。予測モデル学習部101は、ニューラルネットワーク等を用いてバックプロパゲーション(誤差逆伝播法)により学習を行う。機器性能予測モデルは、予測対象の運転における機器20の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、当該機器20の要素部品の特性データと、が入力されると、当該機器20の性能値が出力されるモデルである。
【0060】
機器性能予測モデルの教師データは、機器20の運転状態データ(詳細については後述する)と環境状態データ(詳細については後述する)との全部または一部と、当該機器20の要素部品の特性データ(詳細については後述する)と、を説明変数にし、当該機器20の運転状態データと環境状態データとの全部または一部から作成された当該機器20の性能に関するデータ(詳細については後述する)もしくは実測された当該機器20の性能に関するデータ(詳細については後述する)を目的変数にするデータである。
【0061】
機器性能予測モデルの教師データは、機器20が正常であるときのデータである。例えば、機器性能予測モデルの教師データは、試験データ(機器20の開発や研究時の試験で収集されたデータ)、フィールドデータ(現場で収集されたデータ(例えば、実際に設置された環境で収集されたログデータやクラウドデータ))、シミュレーションデータ(コンピュータがシミュレーションしたデータ)のいずれかである。
【0062】
[予測]
図6は、本開示の一実施形態に係る制御部1001の機能ブロック図である。
図6は、予測の処理を示す。制御部1001は、運転状態データ・環境状態データ取得部111と、要素部品特性データ取得部112と、予測部113と、を備える。また、制御部1001は、プログラムを実行することによって、運転状態データ・環境状態データ取得部111、要素部品特性データ取得部112、予測部113、として機能する。以下、それぞれについて説明する。
【0063】
運転状態データ・環境状態データ取得部111は、機器20の運転状態データおよび環境状態データを取得する。
【0064】
要素部品特性データ取得部112は、機器20の要素部品の特性データを取得する。
【0065】
予測部113は、予測対象の運転における機器20の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、当該機器20の要素部品の特性データと、を機器性能予測モデルに説明変数として入力して、当該機器20の性能を予測する(つまり、機器性能予測モデルから当該機器20の性能値を出力させる)。
【0066】
このように、機器20の製造時の個体のばらつきまたは据付時の状態のばらつき(例えば、機器20が設置される物件ごとのばらつき)を考慮した性能値を得ることができる。
【0067】
[診断]
図7は、本開示の一実施形態に係る制御部1001の機能ブロック図である。
図7は、診断の処理を示す。制御部1001は、実測性能値算出部121と、診断部122と、通知部123と、を備える。また、制御部1001は、プログラムを実行することによって、実測性能値算出部121、診断部122、通知部123として機能する。以下、それぞれについて説明する。
【0068】
実測性能値算出部121は、予測対象の運転における機器20の運転状態データと環境状態データの全部または一部から、当該機器20の性能に関する実測データ(実際の性能値(実測性能値))を算出する。
【0069】
診断部122は、機器20の性能値を診断する。例えば、診断部122は、予測対象の運転における機器20の運転状態データと環境状態データの全部または一部から作成された当該機器20の性能に関する実測データ(実際の性能値(実測性能値))と、所望の時点で用意された要素部品の特性データを利用して予測された当該機器20の性能に関する予測データ(予測された性能値(予測性能値))と、を比較し、当該要素部品の特性データを用意した当該所望の時点からの当該機器20の性能に関する劣化を推定する。
【0070】
例えば、診断部122は、実測性能値算出部121が作成した機器20の実測性能値と、予測部113が予測した機器20の予測性能値と、が乖離しているほど、機器20の性能が劣化していると診断することができる。
【0071】
通知部123は、診断部122が診断した結果を通知する(例えば、機器20の管理者または使用者の端末に診断の結果を送信する)。例えば、通知部123は、機器20の性能に関する劣化を推定した結果をもとに当該機器20の性能の劣化を通知する。例えば、通知部123は、機器20の劣化の有無、機器20の劣化の度合いを通知することができる。
【0072】
このように、高い精度で得られた機器20の性能値を用いて、機器20を診断することができる。
【0073】
[要素部品特性データ算出]
図8は、本開示の一実施形態に係る制御部1001の機能ブロック図である。
図8は、要素部品の特性データの算出の処理を示す。制御部1001は、要素部品特性データ算出部131を備える。また、制御部1001は、プログラムを実行することによって、要素部品特性データ算出部131として機能する。
【0074】
要素部品特性データ算出部131は、機器20の運転状態データと環境状態データを取得する。要素部品特性データ算出部131は、機器20の運転状態データと環境状態データを用いて、機器20の要素部品の特性データを作成する。
【0075】
例えば、予測対象の予測に利用される要素部品の特性データは、四則演算を用いて算出される。例えば、予測対象の予測に利用される要素部品の特性データは、統計モデル(統計の公式を用いたモデル)を用いて算出される。例えば、予測対象の予測に利用される要素部品の特性データは、物理モデル(物理の公式を用いたモデル)を用いて算出される。例えば、予測対象の予測に利用される要素部品の特性データは、機械学習モデルを用いて算出される。
【0076】
このように、機器20の運転状態データや環境状態データそのものではなく、機器20の運転状態データや環境状態データから算出した要素部品の特性データを用いて学習することにより、学習が早く収束する。
【0077】
ここで、機器20の運転状態データと環境状態データと、機器20の要素部品の特性データと、について説明する。
【0078】
要素部品の特性データの作成に利用される機器20の運転状態データと環境状態データとの一部のデータは、機器性能予測モデルに説明変数として入力される機器20の運転状態データおよび環境状態データに含まれない。つまり、要素部品の特性データは、機器性能予測モデルには入力しない運転状態データと環境状態データを少なくとも用いて(なお、機器性能予測モデルに入力する運転状態データと環境状態データも用いてもよいし用いなくてもよい)作成される。
【0079】
機器性能予測モデルに説明変数として入力される機器20の運転状態データおよび環境状態データに含まれるデータから作成できる要素部品の特性データは、機器性能予測モデルに説明変数として入力される要素部品の特性データ、機器20の運転状態データおよび環境状態データに含まれない。つまり、機器性能予測モデルの説明変数から作成されうる要素部品の特性データは、説明変数として用いられない。
【0080】
<空気調和機>
ここで、機器20の一例である空気調和機について説明する。なお、空気調和機は、ルームエアコン、パッケージエアコン、マルチエアコン、セントラル空調方式の空気調和機等であってもよいし、冷暖房用途のみならず冷蔵・冷凍システムであってもよい。
【0081】
図9は、本開示の一実施形態に係る空気調和機2000のハードウェア構成図である。空気調和機2000は、室内機2001および室外機2002を有する。室内機2001と室外機2002は、連絡配管で接続されている。なお、
図9では、空気調和機2000の冷房時の冷凍サイクルを示している。
【0082】
室内機2001は、膨張弁3001および熱交換器(蒸発器)3002を有する。室外機2002は、圧縮機3003および熱交換器(凝縮器)3004を有する。
【0083】
冷媒の流れについて説明する。高温・高圧の液体は、膨張弁3001で減圧されて、低温・低圧の液体となる。蒸発器3002において、冷媒は、吸熱により液体から気体に変化する。低温・低圧の気体は、圧縮機3003で加圧されて、高温・高圧の気体となる。凝縮器3004において、冷媒は、放熱により気体から液体に変化する。
【0084】
なお、暖房時には、室内機2001の熱交換器が凝縮器となり、室外機2002の熱交換器が蒸発器となり、冷媒は
図9とは反対方向に流れる。
【0085】
<性能に関するデータ>
ここで、機器20の性能に関するデータ(機器20の性能値)について説明する。例えば、性能に関するデータは、機器(例えば、空気調和機)20の冷房能力に関係する指標と、機器20の暖房能力に関係する指標と、機器20の消費電力に関係する指標と、機器20のCOP(Coefficient of Performance)に関係する指標と、のうちのいずれか1つの指標に関係する値である。以下、それぞれについて説明する。
【0086】
冷房能力は、冷房時の空気調和機の性能である。
【0087】
暖房能力は、暖房時の空気調和機の性能である。
【0088】
消費電力は、空気調和機の消費電力である。
【0089】
COPは、空気調和機の消費電力1kW当たりの能力である。
【0090】
<運転状態データ・環境状態データ>
ここで、機器20の運転状態データと環境状態データについて説明する。
【0091】
機器20の運転状態データは、機器20の制御に関するデータである。例えば、機器20の運転状態データは、圧縮機回転数、室外ファン回転数、膨張弁開度、室内ファン回転数等である。
【0092】
機器20の環境状態データは、機器20の環境に関するデータである。例えば、機器20の環境状態データは、室外温度、室外湿度、室内温度、室内湿度等である。
【0093】
<要素部品の特性データ>
要素部品の特性データについて説明する。例えば、要素部品の特性データは、機器20(例えば、空気調和機)を構成する要素部品に関する性能値である。要素部品の特性データは、機器20の製造時の個体または据付時の状態によりばらつきが生じる値である。
【0094】
例えば、要素部品の特性データは、所望の時点で用意された定数である。
【0095】
例えば、要素部品の特性データは、機器20の運転状態データまたは環境状態データに伴う、所望の時点で用意された変数である。
【0096】
例えば、要素部品の特性データは、機器(例えば、空気調和機)20の冷媒充填量に関係する指標と、機器20の熱交換器性能に関係する指標と、機器20の圧縮機性能に関係する指標と、機器20の連絡配管長に関係する指標と、のうちのいずれか1つの指標、あるいは、機器20の冷媒充填量に関係する指標と、機器20の熱交換器性能に関係する指標と、機器20の圧縮機性能に関係する指標と、機器20の連絡配管長に関係する指標と、のうちのいずれか1つの指標と他の指標とを含む2つ以上の指標に関係する値である。
【0097】
例えば、要素部品の特性データは、空気調和機の過冷却度(SC)、記録値である初期充填量、過熱度(SH)、膨張弁開度(EV開度)、凝縮器熱貫流率(凝縮器KA)、蒸発器熱貫流率(蒸発器KA)、圧縮機電流、吸入圧損、高低差圧、記録値である連絡配管長、のうちのいずれか1つの指標と他の指標とを含む2つ以上の指標である。以下、それぞれについて説明する。
【0098】
過冷却度(SC)は、空気調和機の冷媒の充填量に関係する値である。過冷却度(SC)は、冷房時に冷媒の充填量によって変化する値である。後段で、
図10を参照しながら詳細に説明する。
【0099】
記録値である初期充填量は、何kgの冷媒を充填した等の記録されたデータである。
【0100】
過熱度(SH)は、空気調和機の冷媒の充填量に関係する値である。過熱度(SH)は、暖房時に冷媒の充填量によって変化する値である。後段で、
図11を参照しながら詳細に説明する。
【0101】
膨張弁開度(EV開度)は、空気調和機の冷媒の充填量に関係する値である。膨張弁開度(EV開度)は、同じ運転条件でも冷媒の充填量によって変化する値である。
【0102】
凝縮器熱貫流率(凝縮器KA)は、凝縮器の性能に関係する値である。凝縮器とは、冷房時の室外機の熱交換器、および、暖房時の室内機の熱交換器である。凝縮器熱貫流率(凝縮器KA)は、同じ運転条件でも熱交換器の形状や設置された環境によって変化する値である。後段で、
図12を参照しながら詳細に説明する。
【0103】
蒸発器熱貫流率(蒸発器KA)は、蒸発器の性能に関係する値である。蒸発器とは、冷房時の室内機の熱交換器、および、暖房時の室外機の熱交換器である。蒸発器熱貫流率(蒸発器KA)は、同じ運転条件でも熱交換器の形状や設置された環境によって変化する値である。後段で、
図12を参照しながら詳細に説明する。
【0104】
圧縮機電流は、圧縮機の入力(電流)である。圧縮機電流は、圧縮機の効率によって変化する消費電流を表す。
【0105】
吸入圧損は、吸入の圧力損失である。吸入圧損は、連絡配管長によって変化する。吸入圧損は、同じ運転条件でも連絡配管長によって変化する値である。
【0106】
高低差圧は、高圧と低圧の差である。高低差圧は、同じ運転条件でも連絡配管長によって変化する値である。
【0107】
記録値である連絡配管長は、何mの配管を連絡した等の記録されたデータである。
【0108】
その他、要素部品の特性データは、空気調和機の冷媒の種類、空気調和機のファン、連絡配管の内径、連絡配管の曲管、ショートサーキットに関係する値等であってもよい。
【0109】
[過冷却度(SC)]
図10は、本開示の一実施形態に係る過冷却度(SC)について説明するための図である。凝縮器内の冷媒は放熱により気相から液相に変化するが、相変化中(飽和状態)の圧力と温度は一定になる。しかし、圧力が同じでも、冷媒が液体だけになると、液体の温度は下降する。冷媒温度が飽和温度より下降した状態を過冷却(
図10参照)と言い、この時の温度差を過冷却度と言う。
【0110】
[過熱度(SH)]
図11は、本開示の一実施形態に係る過熱度(SH)について説明するための図である。蒸発器内の冷媒は吸熱により液相から気相に変化するが、相変化中(飽和状態)の圧力と温度は一定になる。しかし、圧力が同じでも、冷媒が気体だけになると、気体の温度は上昇する。冷媒温度が飽和温度より上昇した状態を過熱(
図11参照)と言い、この時の温度差を過熱度と言う。
【0111】
[熱貫流率(KA)]
図12は、本開示の一実施形態に係る熱貫流率(KA)について説明するための図である。熱交換器の外面と内面間を熱が移動することを熱通過と言う。1mm
2かつ1時間当たりの熱通過率をK、熱交換器の面積をAと表し、熱交換器の性能を表す。
【0112】
<方法>
以下、
図13を参照しながら学習処理について説明し、
図14を参照しながら予測処理について説明する。
【0113】
図13は、本開示の一実施形態に係る学習処理のフローチャートである。
【0114】
ステップ101(S101)において、機器性能予測装置10は、教師データを取得する。教師データは、機器20の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、当該機器20の要素部品の特性データと、を説明変数にし、当該機器20の運転状態データと環境状態データとの全部または一部から作成された当該機器20の性能に関するデータもしくは実測された当該機器20の性能に関するデータを目的変数にするデータである。
【0115】
ステップ102(S102)において、機器性能予測装置10は、S101で取得した教師データを用いて学習して機器性能予測モデルを生成する。機器性能予測モデルは、機器20の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、当該機器20の要素部品の特性データと、を説明変数にし、当該機器20の運転状態データと環境状態データとの全部または一部から作成された当該機器20の性能に関するデータもしくは実測された当該機器20の性能に関するデータを目的変数にして学習されたモデルである。要素部品の特性データは、機器20の運転状態データと環境状態データから作成されたデータと、別途設定されたデータと、の少なくとも一方である。
【0116】
図14は、本開示の一実施形態に係る予測処理のフローチャートである。
【0117】
ステップ201(S201)において、機器性能予測装置10は、機器20の運転状態データおよび環境状態データを取得する。
【0118】
ステップ202(S202)において、機器性能予測装置10は、機器20の要素部品の特性データを取得する。
【0119】
なお、S201とS202は、同時に実行されてもよいし、順序が逆であってもよい。
【0120】
ステップ203(S203)において、機器性能予測装置10は、予測対象の運転における機器20の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、当該機器20の要素部品の特性データと、を機器性能予測モデルに説明変数として入力して、機器20の性能を予測する(つまり、機器性能予測モデルから当該機器20の性能値を出力させる)。
【0121】
ステップ204(S204)において、機器性能劣化推定装置11は、機器20の性能に関する実測データ(実際の性能値(実測性能値))を算出する。例えば、機器性能劣化推定装置11は、予測対象の運転における機器20の運転状態データと環境状態データの全部または一部から、当該機器20の性能値の実測データ(実際の性能値(実測性能値))を作成する。
【0122】
ステップ205(S205)において、機器性能劣化推定装置11は、機器20を診断する。例えば、機器性能劣化推定装置11は、予測対象の運転における機器20の運転状態データと環境状態データの全部または一部から作成された当該機器20の性能に関する実測データと、所望の時点で用意された要素部品の特性データを利用して予測された当該機器20の性能に関する予測データと、を比較し、当該要素部品の特性データを用意した当該所望の時点からの当該機器20の性能に関する劣化を推定する。
【0123】
ステップ206(S206)において、機器性能劣化推定装置11は、S205の診断の結果を通知する(例えば、機器20の管理者または使用者の端末に診断の結果を送信する)。例えば、機器性能劣化推定装置11は、S205で機器20の性能に関する劣化を推定した結果をもとに当該機器20の性能の劣化を通知する。例えば、機器性能劣化推定装置11は、機器20の劣化の有無、機器20の劣化の度合いを通知することができる。
【0124】
このように、本開示の一実施形態では、機器20の性能値のばらつきが大きい物件の場合であっても、機器の異常を正しく検知することができる。また、物件ごとの機器20の性能値のばらつきの傾向を詳しく分析することができる。
【0125】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0126】
1 機器性能診断システム
10 機器性能予測装置
11 機器性能劣化推定装置
20 機器
101 予測モデル学習部
111 運転状態データ・環境状態データ取得部
112 要素部品特性データ取得部
113 予測部
121 実測性能値算出部
122 診断部
123 通知部
131 要素部品特性データ算出部
1001 制御部
1002 主記憶部
1003 補助記憶部
1004 入力部
1005 出力部
1006 インタフェース部
2000 空気調和機
2001 室内機
2002 室外機
3001 膨張弁
3002 蒸発器
3003 圧縮機
3004 凝縮器
【手続補正書】
【提出日】2024-04-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器性能予測装置の制御部が実行する方法であって、
機器の運転状態データと環境状態データを取得するステップと、
予測対象の運転における前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を機器性能予測モデルに説明変数として入力して、前記機器の性能を予測するステップと、を含み、
前記機器性能予測モデルは、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を説明変数にし、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部から作成された前記機器の性能に関するデータもしくは実測された前記機器の性能に関するデータを目的変数にして学習されたモデルであり、
前記要素部品の特性データは、前記機器の運転状態データと環境状態データから作成されたデータと、所望の時点で用意されたデータと、の少なくとも一方であり、
前記要素部品の特性データの作成に利用される機器の運転状態データと環境状態データとの一部のデータは、前記機器性能予測モデルに説明変数として入力される機器の運転状態データおよび環境状態データに含まれない、方法。
【請求項2】
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、前記予測対象の運転における前記機器の運転状態データと環境状態データから作成されたものではなく、所望の時点で用意されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記予測対象の運転における前記機器の運転状態データと環境状態データの全部または一部から作成された前記機器の性能に関する実測データと、所望の時点で用意された要素部品の特性データを利用して予測された前記機器の性能に関する予測データと、を比較し、
前記要素部品の特性データを用意した前記所望の時点からの前記機器の性能に関する劣化を推定する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記機器の性能に関する劣化を推定した結果をもとに前記機器の性能の劣化を通知する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記機器性能予測モデルに説明変数として入力される機器の運転状態データおよび環境状態データに含まれるデータから作成できる前記要素部品の特性データは、前記機器性能予測モデルに説明変数として入力される要素部品の特性データ、機器の運転状態データおよび環境状態データに含まれない、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、前記機器の冷媒充填量に関係する指標と、前記機器の熱交換器性能に関係する指標と、前記機器の圧縮機性能に関係する指標と、前記機器の連絡配管長に関係する指標と、のうちのいずれか1つの指標、あるいは、前記機器の冷媒充填量に関係する指標と、前記機器の熱交換器性能に関係する指標と、前記機器の圧縮機性能に関係する指標と、前記機器の連絡配管長に関係する指標と、のうちのいずれか1つの指標と他の指標とを含む2つ以上の指標に関係する値である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、SC、記録値である初期充填量、SH、EV開度、凝縮器KA、蒸発器KA、圧縮機電流、吸入圧損、高低差圧、記録値である連絡配管長、のうちのいずれか1つの指標と他の指標とを含む2つ以上の指標である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記性能に関するデータは、前記機器の冷房能力に関係する指標と、前記機器の暖房能力に関係する指標と、前記機器の消費電力に関係する指標と、前記機器のCOPに関係する指標と、のうちのいずれか1つの指標に関係する値である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、所望の時点で用意された定数である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
前記予測対象の予測に利用される前記要素部品の特性データは、前記運転状態データまたは前記環境状態データに伴う、所望の時点で用意された変数である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項11】
機器の性能を予測する、制御部を備えた機器性能予測装置であって、
前記制御部は、
機器の運転状態データと環境状態データを取得し、
予測対象の運転における前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を機器性能予測モデルに説明変数として入力して、前記機器の性能を予測し、
前記機器性能予測モデルは、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を説明変数にし、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部から作成された前記機器の性能に関するデータもしくは実測された前記機器の性能に関するデータを目的変数にして学習されたモデルであり、
前記要素部品の特性データは、前記機器の運転状態データと環境状態データから作成されたデータと、所望の時点で用意されたデータと、の少なくとも一方であり、
前記要素部品の特性データの作成に利用される機器の運転状態データと環境状態データとの一部のデータは、前記機器性能予測モデルに説明変数として入力される機器の運転状態データおよび環境状態データに含まれない、機器性能予測装置。
【請求項12】
機器の性能を予測する機器性能予測装置に、
機器の運転状態データと環境状態データを取得することと、
予測対象の運転における前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を機器性能予測モデルに説明変数として入力して、前記機器の性能を予測することとを実行させるためのプログラムであって、
前記機器性能予測モデルは、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部と、前記機器の要素部品の特性データと、を説明変数にし、前記機器の運転状態データと環境状態データとの全部または一部から作成された前記機器の性能に関するデータもしくは実測された前記機器の性能に関するデータを目的変数にして学習されたモデルであり、
前記要素部品の特性データは、前記機器の運転状態データと環境状態データから作成されたデータと、所望の時点で用意されたデータと、の少なくとも一方であり、
前記要素部品の特性データの作成に利用される機器の運転状態データと環境状態データとの一部のデータは、前記機器性能予測モデルに説明変数として入力される機器の運転状態データおよび環境状態データに含まれない、プログラム。