(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090134
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240627BHJP
H02M 1/00 20070101ALI20240627BHJP
H02M 1/08 20060101ALI20240627BHJP
H02P 29/024 20160101ALI20240627BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/48 E
H02M1/00 H
H02M1/08 A
H02P29/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205819
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マニメルワドゥ サハンドゥラーラ
(72)【発明者】
【氏名】中里 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】稲田 遼一
【テーマコード(参考)】
5H501
5H740
5H770
【Fターム(参考)】
5H501AA20
5H501CC04
5H501HB08
5H501HB16
5H501JJ23
5H501LL22
5H501LL35
5H501MM02
5H501MM09
5H740BB09
5H740MM12
5H770BA01
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA02Y
5H770HA07Z
5H770HA19Y
5H770LA02X
5H770LB05
(57)【要約】
【課題】交流電流における過電流発生を誤検知、不検知を防止しつつ演算により検出することが可能となる、電力変換装置の提供。
【解決手段】電力変換装置は、複数のスイッチング素子により直流電流を交流電流に変換してモータ4に出力する電力変換回路30と、交流電流を検出する交流電流センサ40と、交流電流センサ40で検出された交流電流の電流変化率(di/dt)を検出する電流変化率検出部170と、電流変化率検出部170で検出された電流変化率(di/dt)と変化率閾値とに基づいて過電流を検出する過電流検出部180と、を備え、過電流検出部180は、モータ4の目標トルク演算値Teと回転数演算値Neとに基づいて変化率閾値を設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスイッチング素子により直流電流を交流電流に変換してモータに出力する電力変換回路と、
前記交流電流を検出する電流センサと、
前記電流センサで検出された前記交流電流の電流変化率を検出する電流変化率検出部と、
前記電流変化率検出部で検出された前記電流変化率と変化率閾値とに基づいて過電流を検出する過電流検出部と、を備え、
前記過電流検出部は、前記モータのトルク情報と回転数情報とに基づいて前記変化率閾値を設定する、電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記過電流検出部は、前記交流電流のサンプリング周期毎に前記変化率閾値を更新する、電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記変化率閾値は、前記電流変化率の値が正の場合の上限閾値と、前記電流変化率の値が負の場合の下限閾値とを含む、電力変換装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記変化率閾値は、前記トルク情報および前記回転数情報に応じて変化する第1成分と、過電流と判定される電流変化率の大きさを調整する第2成分とを含む、電力変換装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電力変換装置において、
前記第2成分は、前記回転数情報の回転数が大きいほど大きく設定される、電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータにより走行する電動車両では、一般にバッテリから供給される直流電力を電力変換装置により交流電力に変換してモータを駆動している。モータに供給される交流電流に過電流が発生した場合には、電流値がインバータやモータの絶対定格電流値を超えないようにする必要がある。そのため、従来の電力変換装置では、定格よりも低い値の閾値により過電流を検出する過電流検出機能をハードウェアで実装している。
【0003】
ところで、過電流検出機能のコスト低減の一例として、ハードウェアで実装している過電流検出機能をソフトウェアで代替することが考えられる。その場合、電流値がインバータやモータの絶対定格電流値を超えないように、短時間で過電流を検出する必要がある。過電流を短時間で検出する方法として、例えば、特許文献1には電流の時間変化率di/dtを検出する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、IGBTのエミッタに流れる電流の時間変化率di/dtを検出するものである。エミッタに流れる電流は直流電流であって、特許文献1に記載の技術を、電力変換回路からモータに供給される交流電流にそのまま適用することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様による電力変換装置は、複数のスイッチング素子により直流電流を交流電流に変換してモータに出力する電力変換回路と、前記交流電流を検出する電流センサと、前記電流センサで検出された前記交流電流の電流変化率を検出する電流変化率検出部と、前記電流変化率検出部で検出された前記電流変化率と変化率閾値とに基づいて過電流を検出する過電流検出部と、を備え、前記過電流検出部は、前記モータのトルク情報と回転数情報とに基づいて前記変化率閾値を設定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、交流電流における過電流発生を、誤検知、不検知を防止しつつ演算により容易に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態における電力変換装置の概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、制御回路の機能の詳細を示す制御ブロック図である。
【
図3】
図3は、回転数演算値Ne、目標トルク演算値Teの変化の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、U,V,W層の内の1相分の電流波形を示したものである。
【
図5】
図5は、
図4の電流値に対する電流変化率di/dtを示す図である。
【
図7】
図7は、比較例における電流波形を示す図である。
【
図8】
図8は、
図7の過電流が生じている部分の拡大図である。
【
図9】
図9は、本実施形態における電流変化率と過電流閾値とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。また、以下の説明では、同一または類似の要素および処理には同一の符号を付し、重複説明を省略する場合がある。なお、以下に記載する内容はあくまでも本発明の実施の形態の一例を示すものであって、本発明は下記の実施の形態に限定されるものではなく、他の種々の形態でも実施する事が可能である。
【0010】
図1は、本実施形態における電力変換装置の概略構成を示す図である。電力変換装置1は、上位コントローラである制御装置3から入力される目標トルク値Ts等に基づいて、直流電源2から供給される直流電力を交流電力に変換しモータ4等の回転電機に供給する。また、電力変換装置1は、モータ4の動力を直流電力に変換して直流電源2を充電する機能も有する。直流電源2は、モータ4を駆動させるための電源であり、例えばバッテリなどが該当する。
【0011】
電力変換装置1は、制御回路10、ドライバ回路20、電力変換回路30および交流電流センサ40等を備えている。制御回路10は、制御装置3からの目標トルク値Tsに基づいて、電力変換装置1から出力されるU,V,W相の各相の電流を所定の値に制御するためのPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成する。なお、制御回路10の詳細は後述する。ドライバ回路20は、制御回路10が出力するPWM信号に基づいて、電力変換回路30に設けられた複数のパワー半導体のオン/オフを切り替えるための駆動信号を出力する。
【0012】
電力変換回路30は、ドライバ回路20からの駆動信号を受けて内部のパワー半導体を駆動し、モータ4に流れる電流を制御する。電力変換回路30には、例えば、各相(U相、V相、W相)ごとに、上アームおよび下アームを構成する2つのパワー半導体がそれぞれ設けられている。各相の上下アームの出力端子は、モータ4の各相の巻き線に接続される。モータ4は、モータ4の回転角度を測定するためのロータ角度センサ5を備えている。ロータ角度センサ5により測定されたロータ角度センサ値θmは、電力変換装置1の制御回路10に入力される。
【0013】
交流電流センサ40は、モータ4の各相(U相、V相、W相)に流れる交流電流を測定するセンサである。交流電流センサ40のセンサ信号は制御回路10に入力される。なお、
図1に示す例では、交流電流センサ40は各相に1つずつセンサを備えているが、2相分のみに設けても良い。2相にセンサを設ける構成の場合には、残り1相分は計算により算出される。
【0014】
図2は、制御回路10の機能の詳細を示す制御ブロック図である。制御回路10は内部に不図示のCPU、RAM、ROM、通信回路等を備えている。CPUは、ROMに格納されているプログラムをRAMに展開して実行することにより後述する各部の機能を実現する。
【0015】
制御回路10は、目標トルク演算部110、目標d/q軸電流演算部120、双方向電力変換演算部130、ロータ角度演算部140、ロータ回転数演算部150、電流検出部160、電流変化率検出部170および過電流検出部180を有する。
【0016】
モータ4に設けられたロータ角度センサ5で測定されたロータ角度センサ値θmは、ロータ角度演算部140に入力される。ロータ角度演算部140は、ロータ角度センサ値θmに基づいてロータ角度演算値θeを求め、そのロータ角度演算値θeをロータ回転数演算部150および双方向電力変換演算部130に入力する。ロータ回転数演算部150は、ロータ角度演算値θeに基づいて回転数演算値Neを算出し、回転数演算値Neを目標トルク演算部110、目標d/q軸電流演算部120および過電流検出部180に入力する。
【0017】
目標トルク演算部110は、制御装置3(
図1参照)から入力された目標トルク値Tsとロータ回転数演算部150から入力された回転数演算値Neとに基づいて、目標トルク演算値Teを算出する。算出された目標トルク演算値Teは目標d/q軸電流演算部120に入力される。目標d/q軸電流演算部120は、目標トルク演算値Teと回転数演算値Neとに基づいて目標d/q軸電流演算値I
*d,I
*qを算出する。算出された目標d/q軸電流演算値I
*d,I
*qは、双方向電力変換演算部130に入力される。
【0018】
交流電流センサ40のセンサ信号は電流検出部160に入力される。電流検出部160は、交流電流センサ40からのセンサ信号に基づく電流検出値Iu,Iv,Iwを、双方向電力変換演算部130および電流変化率検出部170へ出力する。双方向電力変換演算部130は、目標d/q軸電流演算値I*d,I*q、ロータ角度演算値θeおよび電流検出値Iu,Iv,Iwに基づいてPWM信号を生成し、ドライバ回路20へ出力する。
【0019】
電流変化率検出部170は、電流検出値Iu,Iv,Iwに基づいて電流変化率di/dtを演算する。電流変化率di/dtは、過電流検出部180に入力される。過電流検出部180は、電流変化率di/dtと変化率閾値とに基づいて過電流を検出する。変化率閾値は、トルクに関する情報(目標トルク演算値Te)と回転数演算値Neとに基づいて設定される。過電流検出部180は、電流変化率di/dtが変化率閾値以上となった場合に過電流と判断し、異常通知Saを双方向電力変換演算部130に入力する。双方向電力変換演算部130は、異常通知Saが入力されると過電流に対する安全動作処理、例えば、過電流になった相の電流の遮断等、を行う。
【0020】
<過電流検出処理>
次に、電流変化率検出部170および過電流検出部180における過電流検出処理について説明する。
図3は、回転数演算値Ne、目標トルク演算値Teの変化の一例を示す図である。ラインL11は回転数演算値Neを示す。回転数演算値Neは一定値(1000rpm)である。一方、ラインL12は目標トルク演算値Teを示す。目標トルク演算値Teは、0sから1sまでは0Nmから500Nmに増加し、1sから2sまでは500Nmから150Nmに減少している。
【0021】
図3に示す回転数演算値Ne、目標トルク演算値Teに対して、
図4に示すような交流電流がモータ4に供給される。
図4は、U、V,W層の内の1相分の電流波形を示したものである。電流値の振幅をA[A]、モータ電気角速度をω[rad/s]、時刻をt[s]とすると、電流値Iは次式(1)で表される。
I=A・sinωt …(1)
【0022】
図4に示すような電流値Iが、
図2の電流検出部160により電流検出値Iu,Iv,Iwとして検出される。電流変化率検出部170は、電流検出部160から入力された電流検出値Iu,Iv,Iwに対して電流変化率di/dtを算出する。電流変化率di/dtは、電流検出値の差(=I(tn)-I(tn-1))をサンプリング周期(tn-tn-1)で割ることによって算出される。サンプリング周期は、例えば、100μs程度に設定される。式(1)の電流値Iを時間tで微分すると、式(2)に示す電流変化率di/dtが得られる。
di/dt=A・ω・cosωt …(2)
【0023】
図5は、
図4の電流値に対する電流変化率di/dtを示す図である。電流値Iの振幅Aは出力トルクTに比例し、トルク定数をkとするとA=kTのように表される。ここで、出力トルクTの代わりに目標トルク演算値Teを用いればA=kTeとなる。
図4,5に示す例ではω=一定であるが、一般的には振幅A(=kTe)およびモータ電気角速度ωは時間的に変化する。そのため、
図5に示すような電流変化率di/dtにおいて、極大値および極小値の高さや、極大値と極小値との間隔が時間的に変化する。すなわち、
図5に示す電流変化率di/dtの全体的な形状は、振幅Aおよびモータ電気角速度ωに依存している。
【0024】
例えば、振動する電流変化率di/dtの全体的な形状は、概略、電流変化率di/dtの極大値を結んだラインL21と極小値を結んだラインL22とで表される。極大値を結ぶラインL21はA・ωで表され、極小値を結ぶラインL22は(-A・ω)で表される。上述のように振幅AはA=kTeと表されるので、ラインL21はkTe・ωとなり、ラインL22は(-kTe・ω)となる。ここでは、ω=一定としているので、極大値を結ぶラインL21は、
図3に示す目標トルク演算値Teを示すラインL12の形状と相似な形状となっている。また、極小値を結ぶラインL22は、目標トルク演算値Teを示すラインL12を上下反転した形状になっている。
【0025】
過電流検出部180では、電流変化率検出部170で算出される電流変化率di/dtが所定の変化率閾値以上となった場合に過電流と判定する。
図6は、過電流判定を説明する図である。
図6では、振幅Aもモータ電気角速度ωも一定である場合を図示している。正常時には、電流変化率di/dtは振幅A・ωのサインカーブと同様の変化を示す。過電流発生により電流値が急激に上昇すると、電流変化率di/dtは、電流上昇の立ち上がりタイミングから急激に大きくなる。そして、電流変化率di/dtが設定された変化率閾値以上となって検知領域に入ると、過電流検出部180は過電流と判定する。
【0026】
<変化率閾値の設定>
過電流検出部180は、過電流判定に用いる変化率閾値を以下のように設定する。式(2)から分かるように、
図5に示す電流変化率di/dtの極値(極大値および極小値)の大きさはA・ωである。そのため、
図6に示す変化率閾値のように一定値とした場合、例えば、モータ4の種々の運転状態を想定して、A・ωが最も大きくなる場合よりも大きな値(余裕値を見込んだ値)に設定する必要がある。しかし、そのような値に設定すると、A・ωが小さな運転状態においては、電流変化率di/dtの大きさと比較して変化率閾値が大き過ぎて、過電流の不検知や検出時間が長くなるという不都合が生じるおそれがある。
【0027】
そこで、本実施形態では、次式(3),(4)のように変化率閾値(di/dt)th1、(di/dt)th2を設定するようにした。
図5の破線で示すラインL31が変化率閾値(di/dt)th1であり、破線で示すラインL32が変化率閾値(di/dt)th2である。ただし、α>0である。
(di/dt)th1=kTe・ω+α …(3)
(di/dt)th2=(-kTe・ω)-α …(4)
【0028】
式(3)の右辺第1項は上述した極大値を結ぶラインL21に対応しており、式(4)の右辺第1項は上述した極小値を結ぶラインL22に対応している。ラインL21,L22は、正常状態における電流変化率di/dtの変化範囲を表している。また、式(3),(4)の右辺第2項のαは、過電流と判定する際の変化率閾値の大きさを調整するための調整値である。
図5に示すように、ラインL21を図示上方に調整値αだけシフトしたものが変化率閾値(di/dt)th1のラインL31である。一方、ラインL22を図示下方に調整値αだけシフトしたものが変化率閾値(di/dt)th2である。
【0029】
式(3),(4)におけるモータ電気角速度ωは、
図2のロータ回転数演算部150から入力された回転数演算値Neに基づいて算出される。そのため、モータ電気角速度ωはω(Ne)のように表され、式(3),(4)における「kTe・ω」は「kTe・(Ne)」のように表すことができる。すなわち、変化率閾値(di/dt)th1、(di/dt)th2は、トルク情報である目標トルク演算値Teと回転数情報である回転数演算値Neとに基づいて設定される。もちろん、ロータ角度センサ値θmに基づいてモータ電気角速度ωを算出しても良い。
【0030】
なお、本実施形態ではトルク情報として目標トルク演算値Teを用いているが、目標トルク演算値Teに限定されない。例えば、上位コントローラである制御装置3では、ロータ角度センサ5で測定されたロータ角度センサ値θm、交流電流センサ40からのセンサ信号およびモータ4の温度情報を用いて実際の出力トルクTmが計算される。そのため、その出力トルクTmを目標トルク演算値Teの代わりに用いることが可能である。
【0031】
調整値αは、過電流の不検知および誤検知を防止できる値に設定される。調整値αを大きくすると、過電流検知の余裕度が大きくなり不検知の可能性が大きくなる。逆に、調整値αを小さくすると、演算条件のバラツキ幅によって誤検知しやすくなる。そのため、調整値αは、正常時のバラツキ幅以上に設定するとともに、過電流発生時の電流値がモータ4や駆動素子(パワー半導体)の定格以下となるように設定する必要がある。
【0032】
図7~10は、過電流が生じた場合の一例を示す図である。
図7,8は、比較例として電流値を用いて過電流を検出する場合を示す。一方、
図9,10は本実施形態の場合を示す図である。
図7は、電流波形すなわち電流値の時間変化を示す図である。なお、目標トルク演算値Teは315Nm、回転数演算値Neは1000rpm、サンプリング周期は100μsである。時刻t=1.0000sとt=1.5000sの間において、過電流閾値=1000Aを超える過電流(電流値の突発的な増加)が生じている。なお、過電流閾値は1000Aに固定されている。
【0033】
図8は、
図7の過電流が生じている部分を拡大して示した図である。t=1.3000sにおいて-300A程度であった電流値は、t=1.3001sには500Aに上昇し、t=1.3004sには電流閾値1000Aを超えている。ところで、電流のノイズの影響で、電流値が過電流閾値を超えることがある。そのようなノイズを過電流と誤検出しないために、閾値以上の電流値(過電流値)を1回検出したならば、その後の所定判定時間(デバウンス時間)内に2回目以降の過電流値を検出した場合に過電流と判定する。
図8に示す例では、デバウンス時間内の時刻t=1.3005sに2回目の過電流を検出しており、t=1.3005sにおいて過電流と判定される。この場合、過電流発生による電流上昇の開始時刻t=1.3000sから過電流が判定される時刻t=1.3005sまでの時間(=500μs)が、過電流の判定に要する検出時間となる。
【0034】
図9は、過電流発生状況における電流変化率di/dtと、過電流閾値のラインL31,L32とを示す図である。
図7の過電流発生と同じ時間範囲において、電流変化率di/dtも大きく増加している。式(3),(4)による変化率閾値(di/dt)th1、(di/dt)th2のラインL31,L32が図示されている。正常時には、電流変化率di/dtはラインL31,L32の間の領域に収まっている。しかし、過電流が発生している時刻t=1.3000s付近においては、電流変化率di/dtはラインL31,L32の外側の範囲(検知領域)に達している。
【0035】
図10は、過電流が発生して電流変化率di/dtが大きく変化している部分の拡大図である。
図9では、縦軸(di/dt)の上限値は800,000A/sであるが、過電流が発生している部分の電流変化率di/dtは800,000A/sを上回っている。下限値についても同様で、電流変化率di/dtは-800,000A/sを下回っている。そのため、拡大図である
図10では、縦軸の上限値を8,000,000A/sとし、下限値を-8,000,000A/sとして図示した。
【0036】
過電流発生による電流変化率di/dtの上昇開始時刻は、
図7,8の電流値の場合と同様にt=1.3000sである。サンプリング時刻t=1.3001sには、すでに電流変化率di/dtは変化率閾値のラインL31を大きく超えており、8,000,000A/s付近にまで達している。次のサンプリング時刻t=1.3002sには、電流変化率di/dtは2,000,000A/sに変化しているが、ラインL31を上回ったままである。そして、過電流検出部180は、変化率閾値(ラインL31)以上の電流変化率di/dtを2回検出したことにより過電流と判定する。この場合、検出時間は200μsとなる。
【0037】
図9,10に示す本実施形態の場合には、電流変化率di/dtが変化率閾値を超えたか否かで過電流を判定している。電流値の時間微分である電流変化率di/dtは、過電流発生時点で電流値の変化傾向が大きく変わると電流変化率di/dtが大きく変化する。そのため、電流値が過電流閾値に達する前に電流変化率di/dtが変化率閾値以上となる。
【0038】
図7,8に示したように電流値が過電流閾値以上となったことで過電流を検出する方法の場合には、検出時間が500μsと長いため、過電流と判定されるまでに過電流閾値(1000A)以上の状態が約150μsも継続することになる。一方、
図9,10に示す本実施形態の場合には検出時間が200μsと短いので、過電流と判定された時点(t=1.3002s)における電流値は約700Aである。その結果、過電流発生時におけるモータ4や駆動素子(パワー半導体)への影響を低く抑えることができる。
【0039】
また、本実施形態では、
図5に示すように、正常状態における電流変化率di/dtの変化範囲を表すラインL21,L22から調整値αだけ離れた位置に、変化率閾値(di/dt)th1、(di/dt)th2のラインL31,L32を設定している。正常状態における電流変化率di/dtの変化範囲、すなわち振幅A・ωは、モータ4のトルク(目標トルク演算値Te)および回転数(回転数演算値Ne)に依存して変化する。しかし、
図5のラインL31とラインL21との差、および、ラインL32とラインL22との差は常に調整値αなので、過電流検出の余裕度を同程度とすることができる。その結果、振幅A・ωが小さい場合でも大きい場合でも、過電流の誤検出や不検出を防止することができ、また、同程度の検出時間で過電流を検出することができる。一方、変化率閾値が
図7の電流閾値のように一定の場合、電流変化率di/dtが小さな領域においては変化率閾値との差が大きくなり、検出時間が大きくなったり過電流の不検出が生じたりという不都合が生じることになる。
【0040】
上述した式(3),(4)で算出される変化率閾値(di/dt)th1、(di/dt)th2を所定時間間隔ごとに更新することで、
図5に示すようなラインL31,L32を得ることができる。更新間隔は短いほど良く、例えば、サンプリング周期で更新するのが望ましい。そうすることで、変化率閾値(di/dt)th1、(di/dt)th2を、振幅A・ωが変化する電流変化率di/dtに対して適切な値に維持することができる。
【0041】
なお、上述した実施形態では、式(3),(4)における調整値αを一定値に設定しているが、モータ4の回転数情報(回転数演算値Ne、モータ電気角速度ω)に応じて変化させるようにしても良い。回転数演算値Neが大きくなるとバラツキが大きくなるので、誤検出を抑制するために調整値αの値を大きく設定するのが好ましい。例えば、調整値αを回転数演算値Neに比例するように設定する。
【0042】
以上説明した本発明の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0043】
(C1)
図1,2等に示すように、電力変換装置1は、複数のスイッチング素子により直流電流を交流電流に変換してモータ4に出力する電力変換回路30と、交流電流を検出する電流センサ(交流電流センサ40)と、交流電流センサ40で検出された交流電流の電流変化率(di/dt)を検出する電流変化率検出部170と、電流変化率検出部170で検出された電流変化率(di/dt)と変化率閾値とに基づいて過電流を検出する過電流検出部180と、を備え、過電流検出部180は、モータ4のトルク情報と回転数情報とに基づいて変化率閾値を設定する。
【0044】
上述のように、交流電流センサ40の検出結果に基づく演算により電流変化率(di/dt)を算出し、電流変化率(di/dt)と変化率閾値とに基づいて過電流を検出する。その結果、過電流検出を演算により容易に行うことができ、かつ、過電流の検出に要する検出時間の短縮を図ることができる。それにより、過電流に対する安全動作処理をより素早く行うことができる。
【0045】
また、変化率閾値はモータ4のトルク情報と回転数情報とに基づいて設定されるので、電流変化率(di/dt)の振幅A・ωがモータ4の回転数および出力トルクに応じて変化しても、振幅A・ωの増減に応じて変化率閾値を適切な値に増減させることができる。それにより、過電流検出の余裕度を、電流変化率(di/dt)の振幅A・ωの変化に関係なく同程度とすることができる。その結果、交流電流における過電流発生を、誤検知や不検知を防止しつつ演算により検出することが可能となる。
【0046】
なお、トルク情報としては、目標トルク演算値Teや制御装置3で算出される出力トルクTmなどを用いることができる。また、回転数情報としては、回転数演算値Neやモータ電気角速度ωなどがある。
【0047】
(C2)上記(C1)において、
図9,10等に示すように、過電流検出部180は、交流電流のサンプリング周期毎に変化率閾値を更新するのが好ましい。変化率閾値の更新をサンプリング周期毎に行うことで、電流変化率(di/dt)の振幅A・ωの変化に追従して変化率閾値を適切に変化させることができ、目標トルク演算値の変動等による過電流の誤検知や不検知を防止することができる。
【0048】
(C3)上記(C1)において、
図5等に示すように、変化率閾値は、電流変化率(di/dt)の値が正の場合の上限閾値(ラインL31で示す変化率閾値(di/dt)th1)と、電流変化率(di/dt)の値が負の場合の下限閾値(ラインL32で示す変化率閾値(di/dt)th2)とを含む。上限閾値および下限閾値を設定することで、正負の電流を監視し、正負の過電流を検出することが可能となる。これによって、過電流が正負のいずれに発生した場合にも、適切に過電流を検出することができる。
【0049】
(C4)上記(C1)において、
図5等や式(3),(4)に示すように、変化率閾値はトルク情報(目標トルク演算値Te)および回転数情報(回転数演算値Ne)に応じて変化する第1成分(
図5のラインL21,L22および式(3),(4)の右辺第1項)と、過電流と判定される電流変化率の大きさを調整する第2成分(
図5の符号αで示す幅、および、式(3),(4)の右辺第2項)とを含む。このように、変化率閾値を、第1成分と第2成分とを含む構成とすることで、目標トルク演算値Teおよび回転数演算値Neの大きさに応じて変化する電流変化率に基づいて、過電流発生による電流変化率の変化を適切に検出することができる。
【0050】
(C5)上記(C4)において、第2成分(
図5の符号αで示す幅、および、式(3),(4)の右辺第2項)は、回転数情報(回転数演算値Ne)の回転数が大きいほど大きく設定される。回転数演算値Neが大きくなると演算バラツキが大きくなるので、第2成分(調整値α)の値を回転数が大きいほど大きく設定することで、誤検出を防止することができる。
【0051】
以上説明した各実施形態や各種変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、過電流検出機能をソフトウェアにより実現しているが、もちろんハードウェアで構成するようにしても構わない。また、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1…電力変換装置、2…直流電源、3…制御装置、4…モータ、5…ロータ角度センサ、10…制御回路、20…ドライバ回路、30…電力変換回路、40…交流電流センサ、110…目標トルク演算部、120…目標d/q軸電流演算部、130…双方向電力変換演算部、140…ロータ角度演算部、150…ロータ回転数演算部、160…電流検出部、170…電流変化率検出部、180…過電流検出部