(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090142
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】制振構造及び建物
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240627BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
E04H9/02 321B
F16F15/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205833
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二木 秀也
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC67
2E139AC68
2E139AC69
2E139AD03
2E139BA12
2E139BA17
2E139BD07
3J048AA02
3J048BD08
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】梁の変形による制振間柱の制振効果の低減を抑制する。
【解決手段】制振構造12は、外周柱50と第一梁100とが接合された上下の仕口部60から突出するブラケット90と、上側のブラケット90に接合された上側間柱210と、下側のブラケッ90トに接合された下側間柱220と、上側間柱210と下側間柱220との間に設けられ第一梁100の軸方向にせん断変形する制振部材250と、を有する制振間柱200と、を備えている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱と梁とが接合された上下の仕口部から突出するブラケットと、
上側の前記ブラケットに接合された上側間柱と、下側の前記ブラケットに接合された下側間柱と、前記上側間柱と前記下側間柱との間に設けられ前記梁の軸方向にせん断変形又は伸縮することで制振効果を発揮する制振部材と、を有する制振間柱と、
を備えた制振構造。
【請求項2】
前記ブラケットには、前記梁と直交する他の梁が接合されている、
請求項1に記載の制振構造。
【請求項3】
複数階に亘るコア部と、
前記コア部の周囲の周縁部と、
前記周縁部の外周柱と、前記外周柱に接合された梁と、に適用された請求項1又は請求項2の制振構造と、
を備えた建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振構造及び建物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、主に鋼構造建物において、外周の開口部をさほど狭くすることなく地震エネルギーの吸収効果を上げることのできる建物の地震エネルギー吸収構造に関する技術が開示されている。この先行技術では、左右の柱と上下の梁で囲まれる開口部の左右の柱の近傍に、柱に沿って上下方向に延び且つ上下端が上下の梁に締結部材で接合されたエネルギー吸収部材を設けている。エネルギー吸収部材は、開口部の面に沿った帯状の金属板よりなり、高さ方向の任意の横断面での塑性変形時の曲げ応力が略一定となるように、幅方向の側縁の輪郭が設定されている。
【0003】
特許文献2には、鉄骨構造等からなる建物架構に設置される制振間柱に関する技術が開示されている。この先行技術では、制振間柱は、上部間柱および下部間柱が同一断面のH形鋼により形成されて、そのウェブの幅方向における中心線上に、複数か所ずつの孔部が形成されている。その孔部は、H形鋼の両フランジの板厚中心間寸法の0.4~0.6倍
【0004】
の寸法を直径とする円形の孔部である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-221853号公報
【特許文献2】特開2018-31158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
梁における柱と柱との間の中間部分に制振間柱が設けられた場合、制振間柱の反力によって梁が変形し、制振効果が低減することがある。
【0007】
本発明は、上記事実を鑑み、梁の変形による制振間柱の制振効果の低減を抑制することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一態様は、柱と梁とが接合された上下の仕口部から突出するブラケットと、上側の前記ブラケットに接合された上側間柱と、下側の前記ブラケットに接合された下側間柱と、前記上側間柱と前記下側間柱との間に設けられ前記梁の軸方向にせん断変形又は伸縮することで制振効果を発揮する制振部材と、を有する制振間柱と、を備えた制振構造である。
【0009】
第一態様の制振構造では、制振間柱は仕口部から突出するブラケットに接合しているので、制振間柱を梁における柱と柱との間の中間部分に接合した場合と比較し、梁の変形の影響を受けない又は影響が小さいので、梁の変形による制振間柱の制振効果の低減が抑制され、地震時の制振間柱の効きが向上する。
【0010】
第二態様は、前記ブラケットに、前記梁と直交する他の梁が接合されている、第一態様に記載の制振構造である。
【0011】
第二態様の制振構造では、仕口部から突出するブラケットに他の梁が接合されているので、ブラケットの変形が抑制され、地震時の制振間柱の効きが向上する。また、仕口部にブラケットを設けることによる意匠性の低下が低減される。
【0012】
第三態様は、複数階に亘るコア部と、前記コア部の周囲の周縁部と、前記周縁部の外周柱と、前記外周柱に接合された梁と、に適用された第一態様又は第二態様の制振構造と、を備えた建物である。
【0013】
第三態様の建物では、捻じれが大きい外周部の減衰を制振間柱で吸収させつつ、外周柱と外周柱との間の開口部を広くすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、梁の変形による制振間柱の制振効果の低減を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】建物の内部構造を模式的に示す平面図である。
【
図4】制振間柱の制振効果を説明する説明図である。
【
図6】変形例の制振構造の
図3に対応する側面図である。
【
図7】第一梁の軸方向に伸縮する制振部材を用いた場合の
図2に対応する正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態>
本発明の一実施形態の制振構造及びこの制振構造が適用された建物について説明する。
なお、水平方向の直交する二方向をX方向及びY方向とし、それぞれ矢印X及び矢印Yで示す。X方向及びY方向と直交する鉛直方向をZ方向として、矢印Zで示す。
【0017】
[構造]
建物及び制振構造の構造について説明する。
【0018】
図1に示すように、建物10は、内部に複数階に亘ってコア部20が設けられている。コア部20は、耐力壁等が集中した構造骨組みの中核となる部分である。本実施形態のコア部20は、平面視において、建物10の重心位置よりもY方向の一方側(
図1の下側)に片寄った片寄コア(偏心コア)となっている。なお、平面視において、建物10におけるコア部20の周囲を周縁部30とする。本実施形態では、周縁部30は、平面視において、略U字形状をなしている。
【0019】
建物10の周縁部30の外周部32には外周柱50及び外周柱51が設けられている。外周柱51は、外周部32のX方向の両側にY方向に沿って設けられている。外周柱50は、
図1におけるY方向の他方側(
図1の上側)のX方向に沿って間隔をあけて配置されている。本実施形態の外周柱50は、角形鋼管で構成されているが、これに限定されるものではない。
【0020】
外周柱50が設けられている建物10の外壁15には、図示されていない窓等の開口部が設けられている。窓は、外壁15における外周柱50と外周柱50との間に設けられている。
【0021】
X方向に隣り合う外周柱50間には、
図2に示すように、X方向に沿った第一梁100が架設されている。本実施形態の制振構造12は、外周柱50と第一梁100とに適用される。なお、本実施形態では、第一梁100は、H形鋼で構成された鉄骨梁であるが、これに限定されるものではない。
【0022】
図2及び
図3に示すように、各外周柱50における第一梁100が接合された仕口部60(
図3参照)には、上下に間隔をあけて鋼製の通しダイアフラム70(
図3参照)が設けられている。通しダイアフラム70(
図3参照)は端部に、前述した第一梁100の端部の上下のフランジ102が接合されている。
【0023】
角型鋼管で構成された外周柱50の仕口部60(
図3参照)における室内側(建物10内側)の周面52には、ブラケット90が接合されている。ブラケット90は、H形鋼で構成された本体部92と鋼製の補強リブ98とを有している。ブラケット90の上下のフランジ94は、通しダイアフラム70(
図3参照)の端部に接合されている。また、補強リブ98は、上下のフランジ94とウェブ96とに接合されている。ブラケット90には、Y方向に沿った第二梁150が接合されている。なお、本実施形態では、第二梁150は、H形鋼で構成された鉄骨梁であるが、これに限定されるものではない。
【0024】
上下のブラケット90の間には、制振間柱200が設けられている制振間柱200は、上側間柱210と下側間柱220と制振部材250とを有している。上側間柱210の上端部212は、上側のブラケット90のフランジ152に接合されている。同様に下側間柱220の下端部222は、下側のブラケット90のフランジ152に接合されている。制振部材250は、上側間柱210の下端部214と下側間柱220の上端部224との間に設けられて接合されている。なお、本実施形態では、上側間柱210及び下側間柱220は、H形鋼で構成されているが、これに限定されるものではない。また、
図3では、制振間柱200は、断面で図示している。
【0025】
また、
図2に示すように、本実施形態では、Y方向から見た場合、外周柱50の幅内に制振間柱200が収まっている。別の観点から説明すると、制振間柱200のX方向の最大幅は、外周柱50のX方向の幅以下となっている。
【0026】
図4に示す制振部材250は、第一梁100の軸方向であるX方向にせん断変形して制振効果を発揮する粘弾性ダンパーである。本実施形態の制振部材250は、板状の高減衰ゴム252と鋼板254、256とが積層されて構成されている。中心部の鋼板254は、高減衰ゴム252及び鋼板256よりも下側に突出している。なお、この突出した部位を下側突出部255とする。また、両外側の鋼板256は、高減衰ゴム252及び鋼板254よりも上側に突出している。なお、この突出した部位を上側突出部257とする。両側の上側突出部257と上側突出部257との間には、スペーサ262を挟んで接続板260がボルト締結されている。
【0027】
接続板260は上側間柱210の下端部214のウェブ215に接合部材270によってボルト締結され、下側突出部255は下側間柱220の上端部224のウェブ225に接合部材270によってボルト締結されている(
図2及び
図3も参照)。
【0028】
なお、制振部材250は、第一梁100の軸方向であるY方向にせん断変形して制振効果を発揮する構造であれば、どのようなものであってもよい。また、制振部材250と、上側間柱210及び下側間柱220との接合構造もどのような構成であってもよい。
【0029】
[作用及び効果]
次に本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0030】
X方向にせん断変形して制振効果を発揮する制振間柱200は、外周柱50における仕口部60からY方向の室内側に突出するブラケット90に接合しているので、外壁15に沿ってX方向を軸方向とする第一梁100の変形の影響を受けない又は影響が小さい。よって、地震時における制振間柱200の制振部材250の効きが確保される。
【0031】
ここで、
図4は、第一梁100の軸方向の中間部120に制振間柱200が接合された比較例において、外周柱50と第一梁100とで構成された架構が地震時にX方向に水平変形した状態を数値解析した結果の模式図である。
【0032】
K1は上側の第一梁100の中間部120の変形後の位置を示し、K2は下側の第一梁100の中間部120の変形後の位置を示している。また、T1は上側の仕口部60の変形後の位置を示し、T2は下側の仕口部60の変形後の位置を示している。そして、各数値は下記となっている。
【0033】
K1:7.06
K2:1.39
T1:7.29
T2:1.17
【0034】
上下の第一梁100の中間部120間の変位差ΔKはK1からK1を引いた5.67であり、上下の仕口部60間の変位差ΔTはT1からT2を引いた6.12である。このようにΔKはΔTよりも小さくなっている。これは、制振間柱200を第一梁100の中間部120に取り付けた比較例の場合、制振部材250の反力によって第一梁100が撓んで変形するためである。
【0035】
地震時において、制振間柱200の上下の接合部位の水平方向の変位差が大きいほど、制振部材250のせん断方向の変位量が大きくなり制振効果が大きくなる。よって、制振間柱200を第一梁100の中間部120に取り付けるよりも外周柱50の仕口部60に取り付ける方が制振部材250の効きが良くなる。なお、制振間柱200を仕口部60に取り付けても外周柱50の変形は極めて小さいので、変位差ΔTは上記と略同じと考えられる。
【0036】
したがって、前述したように、制振間柱200は仕口部60からY方向に突出するブラケット90に接合することで、第一梁100の変形の影響を受けない又は影響が小さくなる。よって、第一梁100に制振間柱200を取り付ける場合と比較し、制振間柱200の制振部材250の効きが向上する。
【0037】
また、外周柱50の仕口部60から突出するブラケット90に第二梁150が接合されているので、ブラケット90の変形が抑制され、制振間柱200の効きが更に向上する。また、仕口部60にブラケット90を設けることによる意匠性の低下が低減される。
【0038】
また、Y方向から見た場合、外周柱50の幅内に制振間柱200が収まっている。このように、制振間柱200は、外周柱50から横にはみ出ていないので、室内を広く使用できると共に意匠性が向上する。
【0039】
また、制振間柱200は、外周柱50の仕口部60から室内側に突出したブラケット90に取り付けられている。よって、外周部32における外周柱50と外周柱50との間の窓等の開口部を制振間柱200が遮らない。したがって、捻じれが大きい建物10の外周部32の減衰を効果的に制振間柱200で吸収させつつ、外周部32における外周柱50と外周柱50との間の開口部を広くすることができる。
【0040】
なお、本実施形態では、建物10のコア部10は、Y方向の一方側に片寄った片寄コア(偏心コア)となっているので、外周部32のY方向の他方側の捩じれが大きくなる。しかし、外周柱50の仕口部60にブラケット90を介して制振間柱200を取り付けているので、捻じれが効果的に抑制される。
【0041】
<変形例>
次に本実施形態の変形例の制振構造について説明する。
【0042】
図5に示す変形例の制振構造14では、角型鋼管で構成された外周柱50の仕口部60における室外側(建物10外側)の周面55に、ブラケット90が接合されている。上下のブラケット90の間には、制振間柱200が設けられている。
【0043】
また外周柱50の仕口部60における室内側(建物10内側)の周面52に、第二梁150が接合されている。具体的には、第二梁150の上下の152が通しダイアフラム70の端部に接合されている。
【0044】
本変形例においても、制振間柱200は仕口部60からX方向に突出するブラケット90に取り付けられており、外壁15に沿ってY方向を軸方向とする第一梁100の変形の影響を受けない又は影響が小さい。よって、第一梁100に制振間柱200を取り付ける場合と比較し、制振間柱200の制振部材250の効きが向上する。
【0045】
また、室内に制振間柱200が設置されないので、室内を広く使用できると共に意匠性が向上する。
【0046】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0047】
例えば、上記実施形態及び変形例では、外周柱50の仕口部60に接合したブラケット90に第二梁150を接合したが、これに限定されるものではない。例えば、外周柱50の仕口部60に第二梁150を接合し、上下の第二梁150の端部に制振間柱200を接合し取り付けてもよい。つまり、第二梁150の端部が、ブラケットの機能を有する構造としてもよい。
【0048】
また、例えば、上記実施形態及び変形例では、外周柱50と第一梁100とに本発明を適用したが、これに限定されるものではない。建物10内の柱と梁とに本発明を適用してもよい。
【0049】
また、例えば、上記実施形態及び変形例では、制振間柱200における制振部材250は、第一梁100の軸方向であるY方向にせん断変形して制振効果を発揮したが、これに限定されるものではない。
図7に示す制振間柱202のように、Y方向に伸縮することで制振効果を発揮するオイルダンパー等の制振部材500であってもよい。具体的には、制振間柱202は、上側間柱210の下端部214に設けられたブラケット510と下側間柱220の上端部224に設けられたブラケット520との間に制振部材500の軸方向の両端部が接続されている。ブラケット510、520は、L字状で鋼製の本体部512、522に直角三角形状で鋼製の補強板514、524が接合された構造となっている。そして、制振部材500の軸方向の両端部が、ブラケット510、520の本体部512、522の縦壁部に接続されている。
【0050】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。複数の実施形態及び変形例等は、適宜、組み合わされて実施可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 建物
12 制振構造
14 制振構造
20 コア部
30 周縁部
32 外周部
50 外周柱
60 仕口部
90 ブラケット
100 第一梁(梁の一例)
200 制振間柱
210 上側間柱
220 下側間柱
250 制振部材
500 制振部材