(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090157
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
H02M3/28 E
H02M3/28 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205861
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】大荒田 直樹
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA02
5H730AS05
5H730BB23
5H730DD04
5H730EE08
5H730FD01
5H730FF09
5H730FG12
5H730XX03
5H730XX18
5H730XX23
(57)【要約】
【課題】ノイズの低減と供給電圧の安定性との両立が可能な制御装置を提供する。
【解決手段】制御装置は、電源電圧を変更して車載機器へ供給する供給電圧をスイッチング周波数に応じて生成するスイッチングコンバータを制御する。制御装置は、供給電圧の時間変動量を監視する監視部を備える。制御装置は、スイッチングコンバータにおける電圧変動の立ち上がり時間及び立ち下がり時間の少なくとも一方を、供給電圧の時間変動量に基づき制御する電圧制御を実行する電圧制御部を備える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源電圧を変更して車載機器(6)へ供給する供給電圧をスイッチング周波数に応じて生成するスイッチングコンバータ(3)を制御する制御装置であって、
前記供給電圧の時間変動量を監視する監視部(110)と、
前記スイッチングコンバータにおける電圧変動の立ち上がり時間及び立ち下がり時間の少なくとも一方を、前記供給電圧の前記時間変動量に基づき制御する電圧制御を実行する電圧制御部(120)と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記電圧制御部は、前記スイッチングコンバータにおけるスイッチング素子(31)のゲート抵抗値を制御することで、前記電圧制御を実行する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
電源電圧を変更して車載機器(6)へ供給する供給電圧をスイッチング周波数に応じて生成するスイッチングコンバータ(3)を制御する制御装置であって、
前記供給電圧の時間変動量を監視する監視部(110)と、
前記スイッチングコンバータにおける電圧のスイッチング周波数を、前記供給電圧の前記時間変動量に基づき制御する電圧制御を実行する電圧制御部(120)と、
を備える制御装置。
【請求項4】
前記電圧制御部は、前記時間変動量が前記車載機器における許容変動範囲内となる場合に、前記電圧制御を実行する請求項1又は請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記電圧制御部は、前記車載機器が複数の場合、前記許容変動範囲が最小である前記車載機器に対する前記供給電圧の前記時間変動量に基づき、前記電圧制御を実行する請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記電圧制御部は、前記スイッチングコンバータにおける電圧の一次成分でのノイズの大きさが許容ノイズ範囲外である場合に、前記電圧制御を実行する請求項1又は請求項3に記載の制御装置。
【請求項7】
前記電圧制御部は、車両における負荷電流の変動が許容範囲内となる負荷安定条件が成立する場合に、前記電圧制御を実行する請求項1又は請求項3に記載の制御装置。
【請求項8】
前記監視部は、前記車載機器への入力電圧を、前記供給電圧として監視する請求項1又は請求項3に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スイッチングコンバータを制御する制御技術に、関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、パワースイッチング素子のオン操作及びオフ操作を繰り返すスイッチング制御を行うスイッチング装置が開示されている。このスイッチング装置は、オン操作の開始タイミングを、基本となる周期に対し、互いに異なる複数のシフト量からなる基本パターンを繰り返すことでシフトさせるとともに、基本パターンの繰り返しの周期の逆数である拡散周波数を可聴周波数以上に設定する。これにより、スイッチング周波数が拡散される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、スイッチング周波数の拡散により、ノイズが低減され得る。しかし、スイッチング周波数を拡散すると、スイッチング装置からの供給電圧の安定性が低下する虞がある。特許文献1には、ノイズの低減と供給電圧の安定性との両立について開示されていない。
【0005】
本開示の課題は、ノイズの低減と供給電圧の安定性との両立が可能な制御装置を、提供することにある。本開示の別の課題は、制御装置を、提供することにある。本開示の又別の課題は、制御方法を、提供することにある。本開示のさらに別の課題は、制御プログラムを、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、課題を解決するための本開示の技術的手段について、説明する。尚、特許請求の範囲及び本欄に記載された括弧内の符号は、後に詳述する実施形態に記載された具体的手段との対応関係を示すものであり、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
本開示の第一態様は、電源電圧を変更して車載機器(6)へ供給する供給電圧をスイッチング周波数に応じて生成するスイッチングコンバータ(3)を制御する制御装置であって、
供給電圧の時間変動量を監視する監視部(110)と、
スイッチングコンバータにおける電圧変動の立ち上がり時間及び立ち下がり時間の少なくとも一方を、供給電圧の時間変動量に基づき制御する電圧制御を実行する電圧制御部(120)と、
を備える。
【0008】
この態様によると、スイッチングコンバータにおける電圧変動の立ち上がり時間及び立ち下がり時間の少なくとも一方を、供給電圧の時間変動量に基づき制御される。故に、立ち上がり時間及び立ち下がり時間の少なくとも一方を制御することによるノイズ低減制御が、車載機器へと供給される電圧の時間変動量を考慮して実行され得る。したがって、ノイズの低減と供給電圧の安定性との両立が可能となり得る。
【0009】
本開示の第二態様は、電源電圧を変更して車載機器(6)へ供給する供給電圧をスイッチング周波数に応じて生成するスイッチングコンバータ(3)を制御する制御装置であって、
供給電圧の時間変動量を監視する監視部(110)と、
スイッチングコンバータにおける電圧のスイッチング周波数を、供給電圧の時間変動量に基づき制御する電圧制御を実行する電圧制御部(120)と、
を備える。
【0010】
この態様によると、スイッチングコンバータにおける電圧変動の立ち上がり時間及び立ち下がり時間の少なくとも一方を、供給電圧の時間変動量に基づき制御される。故に、スイッチング周波数を制御することによるノイズ低減制御が、車載機器へと供給される電圧の時間変動量を考慮して実行され得る。したがって、ノイズの低減と供給電圧の安定性との両立が可能となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第一実施形態の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】第一実施形態におけるDCDCコンバータの一例を示す模式図である。
【
図3】第一実施形態におけるゲート抵抗回路の構成を示す模式図である。
【
図4】ゲート抵抗回路の状態とゲート抵抗値の大小の一例を示す表である。
【
図5】一次回路側の電圧の一例を示すグラフである。
【
図7】第一実施形態による制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図8】第一実施形態による制御フローを示すフローチャートである。
【
図9】第一実施形態による制御フローを示すフローチャートである。
【
図10】第一実施形態による制御フローを示すフローチャートである。
【
図11】第一実施形態による制御フローを示すフローチャートである。
【
図12】第二実施形態による制御フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態を図面に基づき複数説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことで、重複する説明を省略する場合がある。又、各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。さらに、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合わせることができる。
【0013】
(第一実施形態)
図1に示す第一実施形態の車両システム1は、車両に搭載されている。車両は、走行路を走行可能な、例えば自動車等の移動体である。車両システム1は、電源2、DCDCコンバータ3、ピークホールド回路4、複数の車載機器6、車両監視ECU7、センサ系8、制御装置5を含んでいる。さらに、車両システム1は、第一通信バス9a及び第二通信バス9bは、車両システム1における構成同士を通信可能に接続する。これにより第一通信バス9a及び第二通信バス9bは、例えばCAN(登録商標)の通信プロトコルに準拠したCANネットワークによる通信を提供する。又は、第一通信バス9a及び第二通信バス9bは、Ethernet(登録商標)等の他の通信プロトコルに準拠したネットワークによる通信を提供してもよい。第一通信バス9aには、DCDCコンバータ3、制御装置5、及び複数の車載機器6が接続されている。第二通信バス9bには、制御装置5及び車両監視ECU7が接続されている。
【0014】
電源2は、複数の車載機器6に対する電力の供給源である。電源2は、例えば充放電可能な車載バッテリである。電源2は、ワイヤハーネス等を介してDCDCコンバータ3と電気的に接続されており、DCDCコンバータ3に対して直流電力を供給する。
【0015】
DCDCコンバータ3は、入力された直流電圧をスイッチングすることで生成したパルス波形の電圧を平滑化することで、異なる大きさの直流電圧に変換する。DCDCコンバータ3は、電源2及び複数の車載機器6と電気的に接続されている。本実施形態におけるDCDCコンバータ3は、電源2からの入力電圧を降圧して各車載機器6に供給する降圧コンバータである。DCDCコンバータ3は、「スイッチングコンバータ」の一例である。
【0016】
DCDCコンバータ3は、電源2からの電圧が入力される一次側回路3aと、複数の車載機器6への供給電圧を出力する二次側回路3bと、を備えている。本実施形態におけるDCDCコンバータ3は、一次側回路3aと二次側回路3bとがトランス30により絶縁された絶縁型である。尚、
図2に示すように、本実施形態におけるDCDCコンバータ3はフォワード方式であるが、例えばフライバック方式等、他の回路方式により構成されていてもよい。
【0017】
一次側回路3aには、トランス30の一次巻線30aと、スイッチング素子31と、ゲート抵抗回路32と、が含まれている。スイッチング素子31は、一次側回路3aにおける電源2からの電流の通電及び遮断を切り替える。スイッチング素子31は、例えばMOS‐FETである。スイッチング素子31は、ゲート側がゲート抵抗回路32を介して制御装置5に接続されている。
【0018】
ゲート抵抗回路32は、
図3に示すように、複数の抵抗R1,R2,R3,R4と、通電及び遮断を切り替え可能な複数のスイッチSW1,SW2,SW3,SW4と、を備えている。具体的には、ゲート抵抗回路32は、互いに並列接続された第一抵抗R1、第二抵抗R2、第三抵抗R3、第四抵抗R4を備えている。そして、ゲート抵抗回路32は、第一スイッチSW1、第二スイッチSW2、第三スイッチSW3、及び第四スイッチSW4を備えている。第一スイッチSW1は、第一抵抗R1と並列接続され且つ他の抵抗R2,R3,R4と直列接続されている。第二スイッチSW2は、第二抵抗R2と直列接続され且つ他の抵抗R1,R3,R4と並列接続されている。第三スイッチSW3は、第三抵抗R3と直列接続され且つ他の抵抗R1,R2,R4と並列接続されている。第四スイッチSW4は、第四抵抗R4と直列接続され且つ他の抵抗R1,R2,R3と並列接続されている。
【0019】
各スイッチSW1,SW2,SW3,SW4の通電及び遮断状態の組み合わせにより、ゲート抵抗回路全体としての合成抵抗値、すなわちゲート抵抗値が決定される。各抵抗R1,R2,R3,R4における抵抗値の大きさは、各スイッチSW1,SW2,SW3,SW4の通電及び遮断状態の全組み合わせ数に応じた段階数ゲート抵抗が調整できるように設定されている。例えば、
図4に示すような、スイッチSW1,SW2,SW3,SW4の通電及び遮断状態の組み合わせに応じた7段階のゲート抵抗値を実現可能に、各抵抗R1,R2,R3,R4の抵抗値が規定されている。尚、
図4の表では、「0」が各スイッチSW1,SW2,SW3,SW4の遮断状態、「1」が通電状態を示している。
【0020】
ゲート抵抗回路32にてゲート抵抗値が段階的に調整されると、スイッチング素子31におけるゲート容量への充電時間が、ゲート抵抗値に応じて変更される。このため、ゲート電圧の上昇速度が変更されることになる。そして、ゲート電圧の上昇速度に応じてスイッチング素子31のターンオン速度が制御され、これによりスイッチング素子31による一次側回路3aにおける電圧の立ち上がり時間tr及び立ち下がり時間tfが制御可能となる。
【0021】
尚、ここで立ち上がり時間trは、
図5に示すように、一次側回路3aにおける電圧(例えばドレイン電圧)が、最大電圧の10%から90%まで上昇するまでの時間である。又、立ち下がり時間tfは、一次側回路3aにおける電圧が、最大電圧の90%から10%まで下降するまでの時間とされる。こうした立ち上がり時間tr及び立ち下がり時間tfは、スルーレートと呼称することもできる。
【0022】
二次側回路3bは、トランス30の二次巻線30b、第一ダイオード33、第二ダイオード34、チョークコイル35及び出力コンデンサ36を含んでいる。一次側回路3aにおいてスイッチング素子31がオン、すなわち通電状態となった場合、二次側回路3bでは、トランス30の二次側に誘導起電力が発生する。これにより、二次巻線30bから第一ダイオード33、チョークコイル35を経由して出力コンデンサ36及び外部出力へと電流が流れる。そして、この電流によりチョークコイル35にてエネルギーが蓄えられる。一次側回路3aにおいてスイッチング素子31がオフ、すなわち遮断状態となった場合、二次側回路3bでは、チョークコイル35から出力コンデンサ36及び外部出力、そして第二ダイオード34へと電流が流れる。以上により、一次側回路3aにて生じたパルス電圧が、二次側回路3bにて平滑化、降圧され、外部へと供給電圧として出力される。
【0023】
ピークホールド回路4は、所定期間におけるDCDCコンバータ3における電圧の最大値を保持する回路である。本実施形態において、ピークホールド回路4は、一次側回路3aにおける電圧を、取得する。ピークホールド回路4は、取得した電圧の最大値を、制御装置5へと出力する。
【0024】
複数の車載機器6は、電源2からDCDCコンバータ3を介して供給された電力を入力電力として取得し、駆動される。各車載機器6は、それぞれに対して入力された供給電圧を検出し、第一通信バス9aへと出力する。各車載機器6には、それぞれ入力される供給電圧について、許容される時間変動量が規定されている。
【0025】
車両監視ECU7は、センサ系8からのセンサ情報を収集することで、車両の状態を監視する。車両監視ECU7は、収集したセンサ情報又はセンサ情報に基づき生成した車両情報等を、第二通信バス9bを介して制御装置5に対して提供可能である。
【0026】
センサ系8は、制御装置5により利用可能なセンサ情報を、車両の外界と内界とに対して取得する。センサ系8は、外界センサ81と内界センサ82とを含んで構成される。
【0027】
外界センサ81は、車両の周辺環境となる外界から、センサ情報としての外界情報を取得する。外界センサ81は、車両の外界に存在する物標を検知する、物標検知タイプであってもよい。物標検知タイプの外界センサ81は、例えばカメラ、LiDAR(Light Detection and Ranging / Laser Imaging Detection and Ranging)、レーダ、及びソナー等のうち、少なくとも一種類である。外界センサ81は、車両の外界に存在するGNSS(Global Navigation Satellite System)の人工衛星から測位信号を受信する、測位タイプであってもよい。測位タイプの外界センサ81は、例えばGNSS受信機等である。外界センサ81は、車両の外界に存在するV2Xシステムとの間において通信信号を送受信する、通信タイプであってもよい。通信タイプの外界センサ81は、例えばDSRC(Dedicated Short Range Communications)通信機、セルラV2X(C-V2X)通信機、Bluetooth(登録商標)機器、Wi-Fi(登録商標)機器、及び赤外線通信機器等のうち、少なくとも一種類である。
【0028】
内界センサ82は、車両の内部環境となる内界から、センサ情報としての内界情報を取得する。内界センサ82は、車両の内界において特定の運動物理量を検知する、物理量検知タイプであってもよい。物理量検知タイプの内界センサ82は、例えば走行速度センサ、加速度センサ、及びジャイロセンサ等のうち、少なくとも一種類である。
【0029】
制御装置5は、例えばLAN(Local Area Network)回線、ワイヤハーネス、内部バス、及び無線通信回線等のうち、少なくとも一種類を介してDCDCコンバータ3、ピークホールド回路4、複数の車載機器6及び車載ECUに接続されている。制御装置5は、少なくとも一つの専用コンピュータを含んで構成されている。
【0030】
制御装置5を構成する専用コンピュータは、メモリ101とプロセッサ102とを、少なくとも一つずつ有している。メモリ101は、コンピュータにより読み取り可能なプログラム及びデータ等を非一時的に記憶する、例えば半導体メモリ、磁気媒体、及び光学媒体等のうち、少なくとも一種類の非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。ここで記憶とは、車両の起動オフによってもデータが保持される蓄積であってもよいし、車両の起動オフによりデータが消去される一時的な格納であってもよい。プロセッサ102は、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、RISC(Reduced Instruction Set Computer)-CPU、DFP(Data Flow Processor)、及びGSP(Graph Streaming Processor)等のうち、少なくとも一種類をコアとして含んでいる。
【0031】
制御装置5においてプロセッサ102は、DCDCコンバータ3を制御するためにメモリ101に記憶された、制御プログラムに含まれる複数の命令を実行する。これにより制御装置5は、DCDCコンバータ3を制御するための機能ブロックを、複数構築する。制御装置5において構築される複数の機能ブロックには、
図7に示すように監視ブロック110、及び出力ブロック120が含まれている。監視ブロック110及び出力ブロック120は、それぞれ「監視部」及び「電圧制御部」の一例である。
【0032】
これらのブロック110,120の共同により、制御装置5がDCDCコンバータ3を制御する制御方法は、
図8~11に示す制御フローに従って実行される。本制御フローは、車両の起動中に繰り返し実行される。尚、本制御フローにおける各「S」は、制御プログラムに含まれた複数命令によって実行される複数ステップを、それぞれ意味している。
【0033】
まず、
図8のS10では、電圧安定フラグ処理を実行する。S10の処理について
図9のサブフローにて詳記すると、まずS11にて、監視ブロック110が、DCDCコンバータ3と接続された車載機器6がDCDCコンバータ3から供給される供給電圧を、取得する。例えば、監視ブロック110は、車載機器6への入力電圧を、取得してもよい。又は、監視ブロック110は、車載機器6におけるICチップへの入力電圧を、取得してもよい。監視ブロック110は、複数の車載機器6からそれぞれ供給電圧を取得する。
【0034】
続くS12では、監視ブロック110が、供給電圧の時間変動量を取得する。
図6に示す例では、供給電圧において、ノイズ発生期間tvにてスパイクノイズが発生している。このスパイクノイズは、供給電圧の基準値(例えば12V)に対してΔV(例えば4V)分の電圧上昇及び電圧低下を、ノイズ発生期間tvにおいて生じる瞬時的なノイズである。この供給電圧におけるノイズは、例えばDCDCコンバータ3での一次側回路3aにおけるスパイクノイズに起因するものである。こうしたノイズの検出のために、監視ブロック110は、周期的に供給電圧の時間微分値を算出することで、当該微分値を時間変動量として取得する。監視ブロック110は、例えば供給電圧が対応する車載機器6について保証されている最低入力電圧の時間幅を基準として、供給電圧の時間微分を実施することで、時間微分値を算出すればよい。監視ブロック110は、複数の車載機器6ごとに時間変動量を取得する。
【0035】
そしてS13では、監視ブロック110が、取得した時間変動量が許容変動範囲内であるか否かを判定する。許容変動範囲は、対応する車載機器6について保証されている時間変動量の閾値未満又は以下となる範囲とされる。監視ブロック110は、車載機器6ごとに取得された時間変動量のうち、許容変動範囲が最小となる車載機器6の時間変動量について、判定を実行する。
【0036】
時間変動量が許容変動範囲内であると判定されると、S14にて監視ブロック110が、電圧安定フラグをオンに設定する。一方で時間変動量が許容変動範囲外であると判定されると、S14をスキップし、電圧安定フラグがオフの状態で本サブフローを終了する。
【0037】
図8に戻りS20では、車両負荷安定フラグ処理を実行する。このフラグ処理について
図10のサブフローにて詳記すると、まずS21にて、監視ブロック110が、車両情報を取得する。S22では、監視ブロック110が、車両情報に基づいて現在が車両負荷の安定シーンに該当するか否かを判定する。車両負荷の安定シーンは、車両における負荷電流の変動が許容範囲内となる負荷安定条件が成立するシーンである。車両負荷の安定シーンは、例えば、信号待ち停車シーンや、長時間アイドル停車シーン等である。監視ブロック110は、例えば車両の速度センサからの速度情報及び外界センサ81からの外界情報等に基づいて、現在シーンがこうした安定シーンに該当するか否かを判定する。
【0038】
安定シーンに該当すると判定されると、S23にて監視ブロック110が、車両負荷安定フラグをオンに設定する。一方で安定シーンに該当しないと判定されると、S23をスキップし、車両負荷安定フラグがオフの状態で本サブフローを終了する。
【0039】
図8に戻りS20に続くS30では、ノイズフラグ処理が実行される。このフラグ処理について
図11のサブフローにて詳記すると、まずS31にて、監視ブロック110がピークホールド回路4からピーク情報を取得する。詳記すると、監視ブロック110は、DCDCコンバータ3における一次側回路3a側からの電圧値、すなわちDCDCコンバータ3における電圧の一次成分を取得する。例えば監視ブロック110は、
図5に示すように、ピークホールド回路4から一次側回路3a側の最大電圧値Vmaxを、ピーク情報として取得する。続くS32では、監視ブロック110が、ノイズ差分値を取得する。具体的には、監視ブロック110は、前のステップで取得した最大電圧値Vmaxと、入力電圧値Vinとの差分を、ノイズ差分値として算出、取得する。このノイズ差分値は、ノイズの大きさを示すパラメータの一例である。
【0040】
そして、S33では、監視ブロック110が、取得したノイズ差分値が許容ノイズ範囲外か否かを判定する。ここで、許容ノイズ範囲は、所定の閾値未満又は以下となるノイズ差分値の範囲である。許容ノイズ範囲外であると判定されると、S34にて監視ブロック110が、ノイズフラグをオンに設定する。一方で許容ノイズ範囲内であると判定されると、S34をスキップし、ノイズフラグがオフの状態の本サブフローを終了する。尚、以上のS10,S20,S30の処理は、異なる順番で実行されてもよく、並列に実行されてもよい。
【0041】
図8に戻り、S40では、出力ブロック120が、S10,S20,S30における全フラグがオンに設定されたか否かを判定する。出力ブロック120は、全フラグがオンであった場合、S50にて後述のスルーレート制御をノイズ低減制御として実行する。一方で、出力ブロック120は、少なくとも一つのフラグがオフであると判定されると、ノイズ低減制御をスキップして本フローを終了する。
【0042】
ノイズ低減制御について詳記すると、出力ブロック120は、DCDCコンバータ3における電圧変動のスルーレートを調整する。スイッチングにより発生するスパイクノイズは、スルーレートが速いほど大きくなり易い。したがって、出力ブロック120は、ゲート抵抗値を高くするように、ゲート抵抗回路32における各スイッチのオン/オフの組み合わせを設定することで、スルーレートを遅くする。出力ブロック120は、ゲート抵抗値の大きさを、例えばS32にて取得されたノイズ差分値の大きさに応じて設定すればよい。
【0043】
以上の第一実施形態によれば、DCDCコンバータ3における電圧変動の立ち上がり時間tr及び立ち下がり時間tfの少なくとも一方が、供給電圧の時間変動量に基づき制御される。故に、立ち上がり時間tr及び立ち下がり時間tfの少なくとも一方を制御することによるノイズ低減制御が、車載機器6へと供給される電圧の時間変動量を考慮して実行され得る。したがって、ノイズの低減と供給電圧の安定性との両立が可能となり得る。
【0044】
(第二実施形態)
図12に示すように、第二実施形態は、第一実施形態の変形例である。
【0045】
第二実施形態において、S40にて全フラグがオンであった場合、本フローはS51へと移行する。S51では、スペクトラム拡散制御をノイズ低減制御として実行する。具体的には、出力ブロック120は、一次側回路3aにおけるスイッチング素子31のスイッチング周波数を、S40にて少なくとも一つのフラグがオフであった場合よりも、拡散する。
【0046】
以上の第二実施形態によると、DCDCコンバータ3における電圧変動の立ち上がり時間tr及び立ち下がり時間tfの少なくとも一方が、供給電圧の時間変動量に基づき制御される。故に、スイッチング周波数を制御することによるノイズ低減制御が、車載機器6へと供給される電圧の時間変動量を考慮して実行され得る。したがって、ノイズの低減と供給電圧の安定性との両立が可能となり得る。
【0047】
(他の実施形態)
以上、複数の実施形態について説明したが、本開示は、それらの実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0048】
変形例において、監視ブロック110は、S31にて、DCDCコンバータ3における二次側回路3bからの電圧値を、ピーク情報として取得してもよい。換言すれば、この変形例において、ピークホールド回路4は、二次側回路3bに接続されている。そして続くS32では、監視ブロック110は、前のステップで取得した二次側回路3bにおける最大電圧値Vmaxと、設定電圧値との差分を、ノイズ差分値として算出、取得してもよい。
【0049】
変形例において、監視ブロック110は、車載機器6に供給される前の、DCDCコンバータ3からの出力直後の電圧を、供給電圧として監視してもよい。
【0050】
変形例において、DCDCコンバータ3は、非絶縁型であってもよい。
【0051】
変形例において、車両システム1はDCDCコンバータ3を複数備えていてもよい。具体的には、複数のDCDCコンバータ3が、それぞれ別の車載機器6群に対して供給電圧を出力する構成であってもよい。この場合、一つの専用コンピュータを備えた制御装置5が、各DCDCコンバータ3を統括的に制御してもよい。又は、複数の専用コンピュータを備えた制御装置5において、各専用コンピュータがそれぞれ異なるDCDCコンバータ3を個別に制御してもよい。
【0052】
変形例において、制御装置5を構成する専用コンピュータは、車両の運転制御を統合する、統合ECU(Electronic Control Unit)であってもよい。制御装置5を構成する専用コンピュータは、車両の運転制御における運転タスクを判断する、判断ECUであってもよい。制御装置5を構成する専用コンピュータは、車両の運転制御を監視する、監視ECUであってもよい。制御装置5を構成する専用コンピュータは、車両の運転制御を評価する、評価ECUであってもよい。
【0053】
制御装置5を構成する専用コンピュータは、車両の走行経路をナビゲートする、ナビゲーションECUであってもよい。制御装置5を構成する専用コンピュータは、車両の自己状態量を推定する、ロケータECUであってもよい。制御装置5を構成する専用コンピュータは、車両の走行アクチュエータを制御する、アクチュエータECUであってもよい。制御装置5を構成する専用コンピュータは、車両において情報提示を制御する、HCU(HMI(Human Machine Interface) Control Unit)であってもよい。制御装置5を構成する専用コンピュータは、例えば車両との間で通信可能な外部センタ又はモバイル端末等を構築する、車両以外のコンピュータであってもよい。
【0054】
変形例において制御装置5を構成する専用コンピュータは、デジタル回路及びアナログ回路のうち、少なくとも一方をプロセッサとして有していてもよい。ここでデジタル回路とは、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、SOC(System on a Chip)、PGA(Programmable Gate Array)、及びCPLD(Complex Programmable Logic Device)等のうち、少なくとも一種類である。又こうしたデジタル回路は、プログラムを記憶したメモリを、有していてもよい。
【0055】
変形例において制御装置5の適用される車両は、例えば自律走行又はリモート走行により荷物搬送若しくは情報収集等の可能な自律走行ロボットであってもよい。ここまでの説明形態の他に上述の実施形態及び変形例は、ホスト移動体に搭載可能に構成されてプロセッサ102及びメモリ101を少なくとも一つずつ有する制御装置5として実施されてもよい。具体的には、制御装置5は、処理回路(例えば処理ECU等)又は半導体装置(例えば半導体チップ等)の形態で実施されてもよい。
【0056】
(技術的思想の開示)
この明細書は、以下に列挙する複数の項に記載された複数の技術的思想を開示している。いくつかの項は、後続の項において先行する項を択一的に引用する多項従属形式(a multiple dependent form)により記載されている場合がある。さらに、いくつかの項は、他の多項従属形式の項を引用する多項従属形式(a multiple dependent form referring to another multiple dependent form)により記載されている場合がある。これらの多項従属形式で記載された項は、複数の技術的思想を定義している。
【0057】
(技術的思想1)
電源電圧を変更して車載機器(6)へ供給する供給電圧をスイッチング周波数に応じて生成するスイッチングコンバータ(3)を制御する制御装置であって、
前記供給電圧の時間変動量を監視する監視部(110)と、
前記スイッチングコンバータにおける電圧変動の立ち上がり時間及び立ち下がり時間の少なくとも一方を、前記供給電圧の前記時間変動量に基づき制御する電圧制御を実行する電圧制御部(120)と、
を備える制御装置。
【0058】
(技術的思想2)
前記電圧制御部は、前記スイッチングコンバータにおけるスイッチング素子(31)のゲート抵抗値を制御することで、前記電圧制御を実行する技術的思想1に記載の制御装置。
【0059】
(技術的思想3)
電源電圧を変更して車載機器(6)へ供給する供給電圧をスイッチング周波数に応じて生成するスイッチングコンバータ(3)を制御する制御装置であって、
前記供給電圧の時間変動量を監視する監視部(110)と、
前記スイッチングコンバータにおける電圧のスイッチング周波数を、前記供給電圧の前記時間変動量に基づき制御する電圧制御を実行する電圧制御部(120)と、
を備える制御装置。
【0060】
(技術的思想4)
前記電圧制御部は、前記時間変動量が前記車載機器における許容変動範囲内となる場合に、前記電圧制御を実行する技術的思想1から技術的思想3のいずれか1項に記載の制御装置。
【0061】
(技術的思想5)
前記電圧制御部は、前記車載機器が複数の場合、前記許容範囲が最小である前記車載機器に対する前記供給電圧の前記時間変動量に基づき、前記電圧制御を実行する技術的思想4に記載の制御装置。
【0062】
(技術的思想6)
前記電圧制御部は、前記スイッチングコンバータにおける電圧の一次成分でのノイズの大きさが許容ノイズ範囲外である場合に、前記電圧制御を実行する技術的思想1から技術的思想5のいずれか1項に記載の制御装置。
【0063】
(技術的思想7)
前記電圧制御部は、車両における負荷電流の変動が許容範囲内となる負荷安定条件が成立する場合に、前記電圧制御を実行する技術的思想1から技術的思想6のいずれか1項に記載の制御装置。
【0064】
(技術的思想8)
前記監視部は、前記車載機器への入力電圧を、前記供給電圧として監視する技術的思想1から技術的思想7のいずれか1項に記載の制御装置。
【符号の説明】
【0065】
110 監視ブロック(監視部)、 120 出力ブロック(電圧制御部)、 3 DCDCコンバータ(スイッチングコンバータ)、 31 スイッチング素子、 6 車載機器。