(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090182
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】釣竿
(51)【国際特許分類】
A01K 87/00 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
A01K87/00 620B
A01K87/00 630C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205901
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(72)【発明者】
【氏名】林 陽葉莉
【テーマコード(参考)】
2B019
【Fターム(参考)】
2B019AA05
2B019AB17
2B019AB32
2B019AB51
2B019AC00
(57)【要約】
【課題】中実状の穂先竿を管状の穂持竿に嵌入した穂先竿杆を有する釣竿において、穂先竿と穂持竿との境界部分で凹凸や皺が生じることなく補強され、撓み性が良好な釣竿を提供する。
【解決手段】本発明の釣竿は、中実状の穂先竿12を管状の穂持竿15に嵌入して構成される穂先竿杆10を有し、穂先竿12と穂持竿15の継合部17を覆うように補強層を形成している。補強層は、ガラスクロスに樹脂フィルムを積層し、樹脂フィルムをガラスクロスに熱溶着することで形成された帯状部材35Aを螺旋状に巻回することで構成されており、帯状部材は、樹脂含浸量が70wt%以上であることを特徴とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中実状の穂先竿を管状の穂持竿に嵌入して構成される穂先竿杆を有し、前記穂先竿と穂持竿の継合部を覆うように補強層を形成した釣竿において、
前記補強層は、ガラスクロスに樹脂フィルムを積層し、前記樹脂フィルムを前記ガラスクロスに熱溶着することで形成された帯状部材を螺旋状に巻回することで構成されており、
前記帯状部材は、樹脂含浸量が70wt%以上であることを特徴とする釣竿。
【請求項2】
前記帯状部材は、ガラス繊維が平織りされたものであることを特徴とする請求項1に記載の釣竿。
【請求項3】
前記ガラス繊維の指向方向は、巻回される穂先竿杆の軸長方向に対して、傾斜する方向であることを特徴とする請求項2に記載の釣竿。
【請求項4】
前記帯状部材は、幅が4mm~6mmであり、重ね代を1mm~2mmにして螺旋状に巻回されていることを特徴とする請求項1に記載の釣竿。
【請求項5】
前記穂持竿の継合部における外径は、1.5mm~2.5mmであることを特徴とする請求項1に記載の釣竿。
【請求項6】
前記継合部の領域は、前記帯状部材が巻回して硬化された後、研磨、塗装によって平滑化されていることを特徴とする請求項1に記載の釣竿。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中実状の穂先竿を管状の穂持竿に嵌入した穂先竿杆を備えた釣竿に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、釣竿の穂先竿杆として、中実状の穂先竿を管状の穂持竿に嵌入し、両者を接着によって固定したものが知られている。前記穂先竿と穂持竿は、両者を接合した際に、必然的に段差が生じると共に大きく撓んだ際に接合部分でクラック等が生じるため、例えば、特許文献1に開示されているように、接合箇所を補強することが行なわれている。
具体的な補強態様として、穂先竿と穂持竿の接合領域に、強化繊維プリプレグ及び/又は強化繊維テープを巻回することで補強層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した補強層は、強化繊維プリプレグによって構成されるが、特許文献1には、その強化繊維プリプレグの構成については具体的に記載されていない。通常、プリプレグの強化繊維は炭素繊維が用いられており、これに樹脂を含浸して一方向に引き揃えたシート状にした汎用性のあるもの(UDシート;樹脂含浸量は20~40wt%)が用いられ、巻回作業がし易いように、前記特許文献1の
図5(F)に見られるように、強化繊維の指向方法は軸方向とされている。
【0005】
しかし、実際に上記したUDシートによる強化繊維プリプレグシートを巻回し、これを硬化させると、樹脂フローして隣接配置された強化繊維間で割れやクラックが生じ、十分な補強効果が得られないことが見出された。また、樹脂含浸量が少ないため、完成した穂先竿杆の接合部分を拡大すると、樹脂未含浸部が生じている個所が存在しており、したがって安定した強度が得られないとともに、表面に凹凸や皺が発生しており(特に、強化繊維プリプレグシートでは、段差部分で凹凸や皺が生じ易い)、外観の低下が見られた。さらに、軸長方向に炭素繊維を引き揃えた強化繊維プリプレグや強化繊維テープでは、弾性が大きすぎてしまい(曲げ剛性が高くなる)、穂先竿杆全体がしなやかに湾曲することが阻害されてしまう。
【0006】
本発明は、上記した問題に基づいてなされたものであり、中実状の穂先竿を管状の穂持竿に嵌入した穂先竿杆を有する釣竿において、穂先竿と穂持竿との境界部分で凹凸や皺が生じることなく補強され、撓み性が良好な釣竿を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明は、中実状の穂先竿を管状の穂持竿に嵌入して構成される穂先竿杆を有し、前記穂先竿と穂持竿の継合部を覆うように補強層を形成した釣竿において、前記補強層は、ガラスクロスに樹脂フィルムを積層し、前記樹脂フィルムを前記ガラスクロスに熱溶着することで形成された帯状部材を螺旋状に巻回することで構成されており、前記帯状部材は、樹脂含浸量が70wt%以上であることを特徴とする。
【0008】
上記した構成の穂先竿杆を備えた釣竿によれば、穂先竿杆に巻回される補強層により、中実状の穂先竿と管状の穂持竿との継合部に対する割れや裂けが防止される。前記補強層は、ガラスクロスに樹脂フィルムを積層し、樹脂フィルムを加熱、圧着することで形成された帯状部材を螺旋状に巻回して構成されるため、穂先竿と穂持竿の継合部分で生じる段差に追従し易くなり、隙間が生じることが抑制される。このため、補強層に凹凸が生じたり、皺が生じることが抑制される。また、帯状部材は、ガラスクロスに樹脂フィルムを積層して熱溶着で一体化することから、樹脂含浸量を70wt%以上に構成し易くなる。この場合、帯状部材の樹脂含浸量が70wt%以上になることで巻回作業がし易くなり、帯状部材を加熱、硬化した際、ガラス繊維が樹脂の内部に埋没し、継合部の領域に樹脂が潤沢に供給されるようになる。これにより、継合部に段差や皺ができ難く、継合部の調子が軟らかい穂先竿杆が得られる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、中実状の穂先竿を管状の穂持竿に嵌入した穂先竿杆を有する釣竿において、穂先竿と穂持竿との境界部分で凹凸や皺が生じることなく補強されて、撓み性が良好な釣竿が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】穂先竿杆の構成を示す図であり、(a)は穂持竿と穂先竿の継合前の状態を示す図、(b)は穂持竿と穂先竿の継合状態を示す図。
【
図3】(a)は、穂持竿と穂先竿の継合領域に巻回される補強層(帯状部材)を構成するガラス繊維強化シートの一例を示す図、(b)は、積層構造を示す断面図。
【
図4】穂持竿と穂先竿の継合領域に帯状部材を巻回する状態を示す図。
【
図5】(a)は、穂持竿と穂先竿の継合領域に帯状部材を巻回した状態を示す図、(b)は、その断面図。
【
図6】(a)は、帯状部材を巻回した後、PPテープを巻回し、帯状部材を加熱硬化した状態を示す図、(b)は、(a)の状態で巻回されたPPテープを剥がした状態を示す図。
【
図8】穂持竿と穂先竿の継合領域に巻回された帯状部材を熱硬化した後に得られる補強層を示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明に係る釣竿の一実施形態を示す図である。
本実施形態の釣竿1は、元竿杆3、中竿杆5、及び穂先竿杆10を備えた構成となっており、各竿杆は、並継式又は振り出し式によって継合されている。この場合、中竿杆5は無い構成であっても良いし、複数本継合されていても良い(
図1では、1本の中竿杆を備えている)。また、本実施形態の釣竿1は、元竿杆3に設けられたリールシート3Aに装着されるリールRからの釣糸を案内する外ガイド8A~8F、及び、トップガイド9が装着されるタイプで構成されているが、そのような外ガイドが装着されず、穂先竿杆10の先端に釣糸を締結する釣糸締結具を取着した構成であっても良い。
【0012】
前記元竿杆3及び中竿杆5は、繊維強化樹脂製の管状体であり、例えば、強化繊維(主に炭素繊維やガラス繊維など)に合成樹脂を含浸した、いわゆるプリプレグシートを芯金に巻回し、加熱工程を経た後、脱芯する等、定法に従って所定の寸法に形成されている。
【0013】
前記穂先竿杆10は、先側となる中実状の穂先竿12と、この穂先竿12の基端側が嵌入、固定される管状の穂持竿15によって構成されている。
以下、
図2から
図6を参照して、穂先竿杆10の構成、及び、その製造方法(穂先竿と穂持竿の継合領域に巻回される補強層の形成方法)について説明する。
【0014】
前記穂先竿杆10を構成する穂先竿12は、撓み性が良好な素材、例えば、炭素繊維やガラス繊維を軸長方向に指向させ、これにエポキシ樹脂等の合成樹脂を含浸した繊維強化樹脂材料、Ni-Ti合金、Fe-Al合金等の金属材料、更には、ガラス繊維強化樹脂で形成される芯材(中実状芯材)に繊維強化樹脂による被覆層を設けた複合素材など、全体として中実状に構成されていれば、特定の材料に限定されることはない。
【0015】
上記した材料によって形成される穂先竿12は、その後端側に、前記管状の穂持竿15の先端開口に嵌入される嵌入部13が形成されている。この嵌入部13は、穂持竿に向けて縮径するテーパ部13Aと、テーパ部から更に穂持竿側に向けて延出する円柱部13Bを有している。
【0016】
また、前記穂先竿杆10を構成する前記穂持竿15は、前記中竿杆や元竿杆と同様、繊維強化樹脂製の管状体であり、例えば、強化繊維(主に炭素繊維やガラス繊維など)に合成樹脂を含浸した、いわゆるプリプレグシートを芯金に巻回し、加熱工程を経た後、脱芯する等、定法に従って所定の寸法に形成されている。この穂持竿15の先端開口部分には、前記穂先竿12の嵌入部13のテーパ部13Aと同程度となるように先端側に向けて拡径するテーパ15Aが形成されている。
【0017】
上記した構成において、穂持竿15の先端開口に、穂先竿12の嵌入部13を嵌入し、両テーパ部13Aと15Aを当て付け、両者の接触面を接着することで、
図2(b)に示すように、継合部17が形成される。この継合部17では、穂先竿12を穂持竿15に嵌入した際、両者が当て付いて固定される境界部分に段差17aを生じさせると共に、穂先竿12と穂持竿15の境界部分に周方向に沿って境界線17bを生じさせるが、これらは以下の補強層によって覆われるようになる。
【0018】
図3(a)(b)は、前記継合部17を含んで所定の範囲を覆うように巻回される補強層を構成するガラス繊維補強シートの一例を示す図である。
本発明において、
図6に示される補強層35は、以下のような手順で作成されたガラス繊維補強シート30を帯状に裁断して帯状部材35Aを形成し、これを継合部17の所定の領域に螺旋状に巻回し、これを熱硬化することで形成される(
図4,
図5参照)。
【0019】
前記帯状部材35A(ガラス繊維補強シート)は、一般的に用いられている補強部材(炭素繊維を用いたプリプレグ)よりも樹脂含浸量が多くなるように形成されており、強化材としては、低弾性のガラス繊維が用いられている。具体的には、ガラス繊維補強シート30は、
図3(a)(b)に示すように、ガラス繊維が平織りされたガラスクロス(ガラス繊維の指向方向が長辺31aに対して0°/90°に編成されたガラス繊維シート)31と、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂によって構成された樹脂フィルム(ホットメルトフィルム)32とを重なるように積層し、これを熱プレス機で加熱しながらプレスする、或いは、前記ガラスクロス31と樹脂フィルム32とを積層した状態で搬送し、これを熱ロール機の加熱、圧着ローラに通過させることで形成されている。
【0020】
この場合、樹脂フィルム32の量(重さ)と、ガラスクロス31の量(重さ)の比率によって、ガラス繊維補強シート30の樹脂含浸量が特定されるため、ガラスクロス31の目付量、樹脂フィルム32の厚さなどを変更することで、樹脂含浸量を調整することが可能である。
本発明では、後述するように、樹脂含浸量が70wt%以上となるように、ガラス繊維補強シート30が形成される。
【0021】
また、本実施形態では、樹脂フィルム32の、ガラスクロス31と反対側に、剥離可能な基材シート33を積層しており、実際の巻回作業時に基材シート33を剥離して、巻回作業が容易に行えるようにしている。このような基材シート33は、例えば、紙によって構成することが可能である。
【0022】
前記ガラスクロス31は、ガラス繊維をランダムに分散した不織布シート、或いは、ガラス繊維を編成した平織りシートを用いることが可能であるが、安定した強度が発揮されるように平織りシートを用いることが好ましい。
このように、ガラスクロス31、樹脂フィルム32、及び、基材シート33を積層して熱圧着されたガラス繊維補強シート30は、帯状部材35Aを形成するように、所定の幅Wで裁断される(
図3(a)参照)。
【0023】
上記したように、帯状部材35Aは、穂先竿12と穂持竿15の継合部17を含んだ継合領域に螺旋状に巻回される。この場合、巻回される帯状部材35Aのガラス繊維の指向方向については、巻回される穂先竿杆の軸長方向Xに対して、傾斜する方向、特に、軸長方向Xに対して略45°となるように巻回することが好ましい。
【0024】
すなわち、
図3(a)に示すように、長辺31aに対して、ガラス繊維が0°/90°の方向となるように編成した矩形のガラスクロス31を、長辺の方向に沿って幅Wで裁断することで帯状部材35Aを形成することが可能である。そして、このように裁断された帯状部材35Aを、
図4に示すように、継合領域において、軸長方向Xに対して、巻回角度αを、例えば、略45°で螺旋状に巻回することで、穂先竿杆に対するガラス繊維の指向方向を傾斜させる(略45°)させることができ、このようなガラス繊維の指向方向によれば、補強層35における強度を向上することが可能となる。
【0025】
なお、
図3では、長辺に対してガラス繊維が0°/90°の方向となるようにガラスクロスを裁断して帯状部材を形成したが、長辺に対してガラス繊維が傾斜する方向で交差するように裁断しても良い。例えば、
図7に示すように、ガラス繊維の方向が45°/45°となるように裁断して帯状部材35Aを形成し、これを螺旋状に巻回する構成であっても良い。
【0026】
また、前記帯状部材35Aについては、幅Wが4mm~6mmに形成しておけば、ある程度の巻回角度(軸長方向Xに対して巻回する巻回角度α)にしても、その幅W内で境界線17bを覆うことが可能となる。なお、継合領域において、帯状部材35Aを螺旋状に巻回するに際しては、重ね代Tを1mm~2mmの範囲内にすれば、重量を増加させることもない。
【0027】
ここで、前記穂先竿12と穂持竿15を継合し、前記帯状部材35Aによって補強層35を形成する穂先竿杆10の作成手順について説明する。
最初に穂先竿12を穂持竿15に嵌合し、両者の継合部を接着剤によって固定する。
次に、上記したように形成された帯状部材35Aの基材シート33を剥離し、継合部17の領域に螺旋状に巻回する。この巻き付けに際しては、巻き始めを穂先竿12側からとし、上記した重ね代Tを確保しながら穂持竿15に向けて所定の巻回角度αで巻回して行く。この巻回に際しては、穂先竿杆10の軸長方向Xに対して、略45°程度の巻回角度にすれば、ガラス繊維補強シート30(帯状部材35A)のガラス繊維の指向方向が、軸長方向Xに対して傾斜する(略45°になる)ため好ましい。また、ガラス繊維補強シート30は、樹脂含浸量が高い(70wt%以上)ことから粘性が高く、上記したようなガラス繊維の方向性と相俟って巻き付け作業が行ない易いと共に、その粘性によって竿杆の表面に密着し易くなる。
【0028】
この場合、巻き付けの終端位置は、上記した円柱部13Bの端部13aよりも後方側にすることが好ましい。すなわち、円柱部13Bの領域では、剛性が急激に変化することから、円柱部13Bの端部13aよりも後方側まで巻回することにより、急激な剛性変化を抑制することが可能になる。
【0029】
上記したように、帯状部材35Aが巻き付けられた後、その表面からPPテープを巻回して状態を安定化し、一定時間加熱する(例えば、95℃程度で2時間)。そして、帯状部材35Aが硬化した後、PPテープを剥離すると、
図5(b)に示すように、表面には、剥離による凹凸が形成されるものの、引き続き、表面を平滑化する処理(平滑化処理)を行なうことで、前記凹凸を平坦化することができる。
【0030】
この平滑化処理は、例えば、PPテープを剥離した後、表面を研磨剤によって研磨処理すると共に脱脂処理を行ない、刷毛塗りなどによって所定の色彩の塗膜を形成した後、乾燥、研磨、水洗い、脱脂処理などの工程が含まれる(このような表面処理工程は、複数回行っても良い)。この場合、研磨処理は、穂先竿杆の穂先部分が柔らかく、研磨する際、穂先部に大きな負荷が掛かり難いようにテープ目の頂点側を研磨することが好ましい。すなわち、研磨処理は、穂先竿側から穂持竿側に向けて行なうことが好ましいことから、表面が平滑化し易いように、帯状部材35Aは、上記したように、穂先竿12側から穂持竿15に向けて巻回することが好ましい。
【0031】
なお、上記したように帯状部材35Aを螺旋状に巻回し、その上からPPテープ36を巻回して加熱硬化処理を行なうと、
図6(a)に示すように、樹脂含浸量を多くした帯状部材35Aから樹脂がフローし、PPテープ36を盛り上げるように変位させる。すなわち、PPテープ36は、加熱硬化時に応力緩和させるように変位するため、硬化した樹脂は、軸方向に連続する凸部35aを形成するようになる(
図6(b)に示すように、PPテープ36を剥がすと硬化した樹脂が連続する凸部35aを形成する)。このような表面状態で、テープ巻方向(矢印方向)で示すように、穂先竿側から穂持竿側に向けて研磨処理を行なうと、盛り上がった樹脂の端面35a´側から研磨され、表面を綺麗に仕上げることができる。
【0032】
上記した構成の穂先竿杆10によれば、穂先竿杆10の継合部17を含んだ継合領域に、帯状部材35Aによる補強層35が形成されるため、中実状の穂先竿12と管状の穂持竿15との継合部17で発生し易い割れや裂けが防止される。また、補強層35は、ガラスクロス31に樹脂フィルム32を積層し、樹脂フィルムを加熱、圧着することで形成されたガラス繊維補強シート30を裁断して帯状部材35Aを作成し、これを螺旋状に巻回して構成されるため、穂先竿12と穂持竿15の継合部分で生じる段差17aに追従し易くなり、隙間が生じることが抑制される。このため、補強層35に凹凸が生じたり、皺が生じることが抑制される。
【0033】
また、帯状部材35Aは、ガラスクロス31に樹脂フィルム32を積層し、これを加熱、加圧することで一体化することから、樹脂含浸量を70wt%以上に構成し易くなる。帯状部材35Aの樹脂含浸量が70wt%以上になることで、帯状部材35Aを加熱、硬化した際、ガラス繊維が樹脂の内部に埋没し、更には、継合部17の領域に樹脂が潤沢に供給されることから、継合部17に段差や皺ができ難く、継合部17の調子が軟らかい穂先竿杆10が得られる。
なお、穂持竿15の継合部における外径については、弾性に対する曲げ強度や調子を考慮して、1.5mm~2.5mmに形成することが好ましい。
【0034】
ここで、補強層35を構成する帯状部材35Aの樹脂含浸量を70wt%以上にした理由について説明する。
まず、本発明で使用される平織りのガラスクロス31は、一般的なガラスクロスとは異なり、非常に薄いスクリムと称される平織りガラスクロスが用いられる。具体的には、ガラス繊維の目付を、10g/m2 ~30g/m2 としたものが用いられ、そのような目付の平織りガラスクロスで樹脂含浸量を70wt%以上にする。このように、平織りでガラス繊維の目付が少ないものを用いると多くの隙間が生じることとなり、この隙間を埋めるために高い樹脂含浸量を達成することができる。そして、このような構成で作成される帯状部材を継合領域に巻回すると、ガラスクロスによる調子への影響を最小限に抑えることができ、厚みも薄い(25~85μm)ことから、平滑性を得ることが容易になる。
【0035】
補強層35を構成する帯状部材35Aについては、従来の炭素繊維を一方向に引き揃えたプリプレグから形成したもの(樹脂含浸量が40wt%のUDシート)と、ガラス繊維を平織りして樹脂含浸量を50wt%、60wt%、70wt%にしたものを、それぞれ上記したような大きさに裁断して複数枚準備し、継合部の領域に螺旋状に巻回し、その硬化後の表面状態について検討をした。
【0036】
従来のプリプレグ(炭素繊維によるUDシート)は、剛性が高く、巻き付け作業がし難いと共に、形成された補強層によって、穂先竿杆としては剛性が高くなりすぎてしまう。また、樹脂含浸量が少ないことから、硬化時の樹脂フローによって樹脂が十分に行き渡らず、継合部17に段差や皺が多く見られた。この段差や皺については、ガラス繊維を平織して樹脂含浸量を50wt%、60wt%にすると、改善が見られたことから、補強層に用いられる強化繊維としては、剛性が高くならないようにガラス繊維を用いることが好ましく、その樹脂含浸量については、多い方が好ましいという結果が得られた。
【0037】
穂先竿と穂持竿の継合部は、上記したように、段差が生じており、剛性差が大きい部分となるが、ここに帯状部材35Aを螺旋状に巻回することで、その段差を効果的に埋めることができ、かつ、低弾性のガラス繊維を用いたことで、曲げ剛性が高まることを抑制できるものと考えられる。特に、樹脂含浸量を多くすることで、継合部における段差を効果的に埋めることができ、割れ、皺の発生を抑制することができる。
【0038】
帯状部材の樹脂含浸量を50wt%、60wt%、70wt%で検証したところ、70wt%のテストピースでは、熱硬化後の表面部分に、割れ、皺の発生が殆ど見られなくなったことから、巻回される帯状部材の樹脂含浸量については、70wt%以上が良好になる結果が得られた。
この場合、樹脂含浸量については、多い方が好ましいが、あまり多すぎると、重量が増加すると共に、加熱工程時に、樹脂がPPテープの隙間から流れてしまい、表面に不要な凹凸や皺が生じ易くなることから、85wt%以下、更には、80wt%以下となるように、ガラス繊維補強シート30(帯状部材35A)を形成することが好ましい。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態の形状に限定されることはなく、種々変形することが可能である。上記したガラスクロス31、樹脂フィルム32の肉厚については、特に限定されることはなく、巻回の作業性、重量増にならないように適宜、設定することが可能である。また、ガラスクロス31は、ガラス繊維が含まれた構成であれば良く、その構成についても適宜変形することが可能である。この場合、ガラスクロス31のガラス繊維を平織りする場合、傾斜する各強化繊維の傾斜方向については限定されることはなく、巻回した状態で、ガラス繊維の指向方向が穂先竿杆10の軸長方向Xに対して傾斜していれば良い。
【符号の説明】
【0040】
1 釣竿
10 穂先竿杆
12 穂先竿
15 穂持竿
17 継合部
30 ガラス繊維補強シート
31 ガラスクロス
32 樹脂フィルム
35 補強層
35A 帯状部材