(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090189
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】塗工方法および積層フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B05D 7/24 20060101AFI20240627BHJP
B05D 3/10 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B05D7/24 302L
B05D7/24 302Y
B05D3/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205912
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄三
【テーマコード(参考)】
4D075
【Fターム(参考)】
4D075AC25
4D075BB24Z
4D075BB79Z
4D075CA34
4D075DA04
4D075DB01
4D075DB18
4D075DB20
4D075DB33
4D075DB34
4D075DB36
4D075DB43
4D075DB48
4D075DB53
4D075DC24
4D075EA07
4D075EB16
4D075EB43
(57)【要約】
【課題】耐擦傷性および外観性に優れた積層フィルムを提供できる、塗工方法および積層フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る塗工方法は、基材フィルムに特定の組成物を塗布する塗工工程、前記基材フィルムに対して、さらに水分を塗布する水分塗工工程、塗布された水分を液切りする水分除去工程、および、水分が除去された基材フィルムを加熱乾燥して、塗工膜を形成する乾燥工程、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム上に、分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物を塗布する塗工工程、
前記塗工工程において前記組成物が塗布された基材フィルムに対して、さらに水分を塗布する水分塗工工程、
前記水分塗工工程において塗布された水分を液切りする水分除去工程、および、
前記水分除去工程において、水分が除去された後の前記組成物が塗布された基材フィルムを加熱乾燥して、塗工膜を形成する乾燥工程、を含む塗工方法。
【請求項2】
前記水分塗工工程が、ミストを吹き付ける方式、液中通過方式、および毛細管塗工方式からなる群より選択される、少なくともいずれかの方式で水分を塗布する工程を含む、請求項1に記載の塗工方法。
【請求項3】
前記水分除去工程が、エアナイフ、液切りバー、および液切りブレードからなる群より選択される、少なくともいずれかを使用して水分を除去する工程を含む、請求項1に記載の塗工方法。
【請求項4】
前記塗工膜は耐指紋層である、請求項1に記載の塗工方法。
【請求項5】
基材フィルム上に、分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物を塗布する塗工工程、を有し、
前記塗工工程は、塗工部にて実施され、
前記塗工部は、前記組成物を含む塗工液を貯める塗工液槽、および、前記塗工液を前記基材フィルムに転写するロールを備え、
前記塗工部は、水蒸気量が20.0g/m3~27.0g/m3、かつ、湿度が95%未満に調整されている、塗工方法。
【請求項6】
前記ロールがマイクログラビアロールである、請求項5に記載の塗工方法。
【請求項7】
請求項1および/または請求項5に記載の塗工方法を一工程として含む、基材フィルム上に塗工膜が形成されてなる積層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工方法および積層フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器のディスプレイのフレキシブル化が求められており、ディスプレイのカバーウインドウや基板等に用いられてきたガラス材料を、柔軟性に優れたプラスチックフィルム材料に置き換える検討がなされている。フレキシブルディスプレイの中でも、折り畳み可能なディスプレイであるフォルダブルディスプレイは、スマートフォンやPCといったモバイル端末用途で採用が進んでいる。
【0003】
フォルダブルディスプレイをはじめとするフレキシブルディスプレイのカバーウインドウにおけるガラス代替材料として、基材である透明樹脂フィルムにハードコート層等の層を形成し、所望の物性を付与した積層フィルムが検討されている。
【0004】
基材上に層を形成する技術として、例えば、特許文献1には、印刷用の版胴等の基材に、エポキシ基含有トリアルコキシシラン加水分解縮合物とポリアミン類を含む組成物の希薄溶液を塗工し、下地層を形成することで、当該基材の撥液性能を向上する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ディスプレイのカバーウインドウ用途のハードコートフィルムには、モバイル端末でカバーウインドウが接触する機会が多いタッチペン、爪、衣類などの接触に対する傷つきにくさである耐擦傷性と、ガラス材料に代替し得る程度の外観性(透明性)と、が要求される。
【0007】
基材上に層を形成する技術としては、例えば、特許文献1に開示されているように、基材上に特定のポリマーを含む組成物(塗工液)を塗布し、当該組成物を乾燥させ、塗工膜を形成する方法が知られている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された方法は、ディスプレイ等のフィルムに適用することを考慮された方法ではない。そのため、当該技術を用いて基材フィルム上に層(塗工膜)を形成(塗工)してなる積層フィルムは、耐擦傷性および外観性の両面において、カバーウインドウ用途のフィルムとして十分な物性を実現することはできなかった。
【0009】
このような状況にあって、本発明の一態様は、耐擦傷性および外観性に優れる積層フィルムを提供できる、塗工方法および積層フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様は、以下の構成を含む。
〔1〕基材フィルム上に、分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物を塗布する塗工工程、前記塗工工程において前記組成物が塗布された基材フィルムに対して、さらに水分を塗布する水分塗工工程、前記水分塗工工程において塗布された水分を液切りする水分除去工程、および、前記水分除去工程において、水分が除去された後の前記組成物が塗布された基材フィルムを加熱乾燥して、塗工膜を形成する乾燥工程、を含む塗工方法。
〔2〕前記水分塗工工程が、ミストを吹き付ける方式、液中通過方式、および毛細管塗工方式からなる群より選択される、少なくともいずれかの方式で水分を塗布する工程を含む、〔1〕に記載の塗工方法。
〔3〕前記水分除去工程が、エアナイフ、液切りバー、および液切りブレードからなる群より選択される、少なくともいずれかを使用して水分を除去する工程を含む、〔1〕または〔2〕に記載の塗工方法。
〔4〕前記塗工膜は耐指紋層である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の塗工方法。
〔5〕基材フィルム上に、分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物を塗布する塗工工程、を有し、前記塗工工程は、塗工部にて実施され、前記塗工部は、前記組成物を含む塗工液を貯める塗工液槽、および、前記塗工液を前記基材フィルムに転写するロールを備え、前記塗工部は、水蒸気量が20.0g/m3~27.0g/m3、かつ、湿度が95%未満に調整されている、塗工方法。
〔6〕前記ロールがマイクログラビアロールである、〔5〕に記載の塗工方法。
〔7〕〔1〕および/または〔2〕に記載の塗工方法を一工程として含む、基材フィルム上に塗工膜が形成されてなる積層フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、耐擦傷性および外観性に優れる積層フィルムを提供できる、塗工方法および積層フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る塗工方法において、塗工工程にて使用される塗工装置の構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。尚、本明細書においては特記しない限り、数値範囲を表わす「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)、B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0014】
〔1.本発明の技術的思想〕
スマートフォン等のディスプレイのフレキシブル化のため、リジットなガラス材料の代替としてフレキシブルなフィルム材料が検討されている。さらに、フィルム材料の諸物性を向上させる観点から、基材フィルム上(基材フィルムの最表面)にハードコート層、耐指紋層といった特定の層を形成してなる積層フィルムを使用することも検討されている。
【0015】
基材フィルム上に層を形成する方法として、基材フィルム上に、上記の層の原料となるポリマーを含む塗工液を塗布し、当該ポリマーと、基材フィルムとを結合させることで塗工膜を形成する方法(塗工方法)が提案されている。
【0016】
このような基材フィルムへの層の塗工においては、フレキシブル性とのバランスに起因した基材フィルム自体の硬度の低さや、基材フィルム表面の凹凸に起因して、得られる積層フィルムにおいて、耐擦傷性および/またはガラス代替レベルの外観性が十分に発現しないことが課題となる。
【0017】
上記のような状況にあって、本発明者らは、基材フィルム上に特定の層を形成してなる積層フィルムについて鋭意検討を進めるうちに、塗工膜(層)の原料となる塗工液の塗工の前後において、塗工液に適度な水分を供給することで、塗工液中のポリマーと基材フィルムとの間での結合に加えて、塗工液中のポリマー同士での結合を促進できることを見出した。そして、塗工液の塗工の前後において、塗工液中のポリマー同士での結合を促進することで、塗工膜の強度を向上することができ、耐擦傷性に優れる塗工膜を形成できるとの新規の知見を得た。
【0018】
本発明者らは、上記の塗工液に適度な水分を供給し、塗工液中のポリマー同士での結合を促進する方法についてさらに鋭意検討を進めるうちに、当該方法における塗工液への水分供給手段、水分供給後の保持時間、温度、および、湿度などの塗工条件を調整することにより、耐擦傷性に加えて、さらに、外観性にも優れる塗工膜を形成できるとの新規の知見を得た。
【0019】
これらの新規知見に基づきさらに鋭意検討を行った結果、本発明者らは、(1)基材フィルムに、特定のポリマーを含む組成物(塗工液)を塗布する塗工工程と、前記塗工工程において前記組成物が塗布された基材フィルムに対して、さらに水分を塗布する水分塗工工程と、前記水分塗工工程において塗布された水分を液切りする水分除去工程と、前記水分除去工程において、水分が除去された後の前記組成物が塗布された基材フィルムを加熱乾燥して、塗工膜を形成する乾燥工程、を含む塗工方法;および/または、(2)基材フィルムに、特定のポリマーを含む組成物(塗工液)を塗布する塗工工程、を有し、前記塗工工程は、塗工部にて実施され、前記塗工部は、前記組成物を含む塗工液を貯める塗工液槽、および、前記塗工液を前記基材フィルムに転写するロールを備え、前記塗工部は、水蒸気量および湿度特定の値に調整されている、塗工方法;により、耐擦傷性および外観性の両面に優れる塗工膜(すなわち、積層フィルム)を提供できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0020】
ここで、上記(1)の塗工方法は、塗工液の塗工の後に、塗工液に水分を供給することで、塗工液中のポリマー同士での結合を促進する方法である。また、上記(2)の塗工方法は、塗工液の塗工の前に、塗工液に水分を供給することで、塗工液中のポリマー同士での結合を促進する方法である。
【0021】
本発明の一実施形態に係る塗工方法においては、塗工液に水分を供給することで、塗工液中のポリマー同士での結合を促進することが出来る限り、塗工液に水分を供給するタイミングは限定されない。本発明の一実施形態に係る塗工方法においては、(i)塗工液の塗工前に水分を供給してもよく、(ii)塗工液の塗工後に水分を供給してもよく、(iii)塗工液の塗工前および塗工後の両方において、塗工液に水分を供給してもよい。すなわち、本発明の一実施形態に係る塗工方法としては、上記(1)の方法のみを適用してもよく、上記(2)の方法のみを適用してもよく、上記(1)および(2)の方法を組み合わせて適用してもよい。
【0022】
〔2.塗工方法〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0023】
<2-1.第一の塗工方法>
本発明の一実施形態に係る第一の塗工方法(以下、本第一の塗工方法と称する場合がある)は、基材フィルム上に、分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物を塗布する塗工工程、前記塗工工程において前記組成物が塗布された基材フィルムに対して、さらに水分を塗布する水分塗工工程、前記水分塗工工程において塗布された水分を液切りする水分除去工程、および、前記水分除去工程において、水分が除去された後の前記組成物が塗布された基材フィルムを加熱乾燥して、塗工膜を形成する乾燥工程、を含む。本第一の塗工方法は、上記の構成を有するために、耐擦傷性および外観性の両面に優れる積層フィルムを提供できる。このような耐擦傷性および外観性の両面に優れる積層フィルムは、特に、スマートフォン等のディスプレイ用途に好適に利用できるが、係る用途に限定されるものではない。なお、積層フィルムの耐擦傷性および外観性は、実施例に記載の方法で評価することができる。
【0024】
(塗工工程)
本第一の塗工方法における塗工工程は、基材フィルム上(表面)に、分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物を塗布(塗工)する工程である。したがって、分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物は、塗工液であるとも言える。本明細書において、「塗工液」とは、特に指定しない限り、分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物を意図する。
【0025】
塗工工程において、前記塗工液を基材フィルム上に塗布する方法は特に限定されないが、グラビアロールを用いて塗工液を塗布する方法が好ましい。
【0026】
以下、グラビアロールを用いて塗工液を塗布する方法を例に挙げて、本発明の一実施形態に係る塗工工程についてより詳細に説明する。
【0027】
塗工工程では、帯状の基材フィルムを搬送ロールにより連続的に搬送しながら、グラビアロールを用いて基材フィルム表面に連続的に塗工液の塗工を施すことが好ましい。グラビアロールは、その周面に塗工液を付着(保持)させて回転する回転体である。グラビアロールが基材フィルム表面に接触することによって、グラビアロールに付着した塗工液は、基材フィルム表面に転移する。
【0028】
図1は、本第一の塗工方法における塗工工程にて使用される塗工装置の構成の一例を示す断面図である。
【0029】
図1に示されるように、塗工装置10は、搬送ロールF1およびF2と、塗工液槽Hと、グラビアロール3と、押圧ロール5Aおよび5Bと、ブレード6と、を備えている。また、塗工装置10においては、少なくともグラビアロール3、およびグラビアロール3に接触する基材フィルム1が収容されるチャンバー7が設けられている。チャンバー7は、塗工装置10における塗工部を構成する。
【0030】
グラビアロール3は、回転軸3Aを有し、塗工液槽H内の塗工液2に接触して回転する回転体である。また、グラビアロール3と搬送ロールF1およびF2とは、互いに回転方向が異なる。すなわち、グラビアロール3は、搬送ロールF1およびF2による基材フィルム1の搬送方向に対して、リバース回転する。また、グラビアロール3の表面には、微細な液溜め用凹部が形成されている。塗工装置10では、搬送ロールF1およびF2により連続的に搬送される基材フィルム1に対して、グラビアロール3から塗工液2が転移し、基材フィルム1の裏面に塗工膜4が形成される。グラビアロール3の幅は、基材フィルム1の幅よりも大きい。このため、グラビアロール3は、基材フィルム1の全幅に接触する。それゆえ、グラビアロール3により、基材フィルム1の全幅に塗工液2を転移させることができる。
【0031】
押圧ロール5Aおよび5Bは、その位置調整により、基材フィルム1におけるグラビアロール3が接触する面の裏面を、グラビアロール3へ向けて押圧するように構成されている。押圧ロール5Aおよび5Bにより、連続搬送される基材フィルム1とグラビアロール3との接触状態が維持される。
【0032】
ブレード6は、その先端が、基材フィルム1に転移する前の塗工液2が付着しているグラビアロール3の表面に向けて配置されている。ブレード6の先端部は、グラビアロール3の表面に接触している。また、ブレード6の先端部の幅は、基材フィルム1の幅よりも大きい。ブレード6の先端部が、基材フィルム1の幅以上の幅に亘ってグラビアロール3の表面に付着している塗工液2に接触することにより、グラビアロール3表面にある塗工液2の膜の厚みを均すことができる。
【0033】
また、塗工装置10では、チャンバー7内に水蒸気が供給されてもよい。チャンバー7に供給される水蒸気の量を調節することにより、塗工工程での水蒸気量を調節することができる。塗工工程での水蒸気量は、チャンバー7内の水蒸気量であるともいえる。
【0034】
本第一の塗工方法では、例えば、塗工装置10を稼働させることにより前記塗工工程を実施することができる。当該塗工工程では、搬送ロールF1およびF2により帯状の基材フィルム1を連続的に搬送しながら、グラビアロール3によって、基材フィルム1の表面に連続的に塗工液2の塗工を施す。具体的には、当該塗工工程では、次の段階(i)~(iii)が、連続的に行われる。塗工液槽Hから塗工液2をグラビアロール3に供給し、グラビアロール3の表面に塗工液2を付着させてグラビアロール3を回転させる段階(i)。回転しているグラビアロール3の表面に付着している塗工液2をブレード6に接触させることによって、塗工液2の膜の厚みを均一化する段階(ii)。グラビアロール3をさらに回転させて基材フィルム1に接触させることによって、段階(ii)にて厚みが均一化した塗工液2の膜を基材フィルム1へ転移させる段階(iii)。
【0035】
上述のように、押圧ロール5Aおよび5Bにより、連続搬送される基材フィルム1とグラビアロール3との接触状態が維持される。それゆえ、前記段階(i)~(iii)を行うことにより、基材フィルム1とグラビアロール3との間に挟まれた塗工液2は、基材フィルム1とグラビアロール3との間で回転しながらビード部2A(液溜まり)を形成し、安定した状態を保つ。このようにビード部2Aが安定な状態に保たれることによって、基材フィルム1に対して、安定した塗工膜4を形成できる。
【0036】
なお、前記塗工工程にて使用される塗工装置は、
図1に示す構成に限定されず、グラビアロールを用いて塗工可能な構成であればよい。例えば、前記塗工工程では、グラビアロールと搬送ロールとが、互いに回転方向が同じであってもよい。ビード部を安定な状態に保つ観点では、グラビアロールと搬送ロールとは、互いに回転方向が異なることが好ましい。
【0037】
本第一の塗工方法では、上述の塗工装置、特に
図1に示す塗工装置を用いた塗工工程において、グラビアロールの回転速度(Vr)は、3~100m/minであり、好ましくは10~70m/minであり、さらに好ましくは15~30m/minである。また、基材フィルムの搬送速度(Vf)は、0.1~10m/minであり、好ましくは0.3~5m/minであり、さらに好ましくは0.5~2m/minである。また、グラビアロールの回転速度(Vr)と、基材フィルムの搬送速度(Vf)との比(Vr/Vf)は、好ましくは30~60であり、より好ましくは32~55であり、さらに好ましくは34~50である。グラビアロールの回転速度(Vr)および基材フィルムの搬送速度(Vf)が前記数値範囲内であることによって、塗工膜に高いせん断力を与え、外観性等に優れた高精度均一な塗工膜を連続的に製膜することができる。
【0038】
本第一の塗工方法における、塗工工程での水蒸気量は、例えば、15.0g/m3~27.0g/m3であり、18.0g/m3~27.0g/m3であることが好ましく、20.0g/m3~27.0g/m3であることがより好ましい。また、塗工工程における湿度は、95%未満であることが好ましい。塗工工程における湿度の下限値は特に限定されないが、例えば、70%以上であることが好ましい。塗工工程での水蒸気量を15.0g/m3以上に制御することにより、塗工時の基材フィルムの帯電を抑制することができ、得られる塗工膜の外観性を向上することができる。また、水蒸気量を27.0g/m3以下に制御することにより、塗工液中の分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物が過剰に結合することを抑制でき、得られる塗工膜の外観性を向上することができる。という利点がある。また、特に塗工工程における水蒸気量を20.0g/m3~27.0g/m3、かつ、湿度を95%未満に調整することにより、塗工前に塗工液2に含まれるポリマー同士を適度に結合させることができる。その結果、より耐擦傷性および外観性に優れた塗工膜を形成できる。
【0039】
なお、本明細書における「湿度」は、相対湿度(Relative Humidity、RH)を意味する。相対湿度とは、所定の温度における気体の水蒸気圧と、当該所定の温度における飽和水蒸気圧との比率を表す。
【0040】
(基材フィルム)
本第一の塗工方法にて使用される基材フィルムは、厚さが均一であり、かつ可撓性があるフィルムまたはシート状の基材を長尺帯状に形成したものであり得る。前記基材を構成する材料は、特に限定されないが、例えば、樹脂、紙、布、金属などが挙げられ、用途に応じて適宜選択され得る。基材フィルムを構成する材料が樹脂である場合、当該材料として、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ環状オレフィン等のポリオレフィン系樹脂;アクリル系樹脂;セルロース系樹脂;ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリカーボネート;ポリイミド;これら樹脂の混合物等が挙げられる。本第一の塗工方法により得られる積層フィルムの用途がスマートフォン等のディスプレイである場合、これら樹脂の中でも、基材フィルムの材料は、ポリイミド系樹脂であることが好ましい。
【0041】
また、基材フィルムとしては、上記の基材フィルム上に、予め特定の層(例えば、ハードコート層)が形成された多層フィルムを使用することもできる。このような層構造は、当該層の原料となる組成物を、リバースコート法、グラビアコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法、キスコート法、ワイヤーバーコート法、カーテンコート法などの公知の塗工方法により基材フィルム上に塗布することで形成されたものであってもよい。本第一の塗工方法にて使用される基材フィルムとしては、光学特性、機械特性および柔軟性に優れることから、透明なポリイミド系樹脂を材料とするフィルム(ポリイミドフィルム)上に、ハードコート層が形成された多層フィルム(ハードコート層付き透明樹脂フィルム)を使用することが好ましい。
【0042】
(分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物(塗工液))
本第一の塗工方法にて使用される分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物(以下、組成物と称する場合がある、また、組成物は、塗工液であるともいえる)は、分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物と、溶剤と、任意で、添加剤等と、を含む組成物である。分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物としては、ハードコート層への密着性の向上、耐擦傷性の向上といった、添加剤に由来する所望の効果を積層フィルムに付与できることから、添加剤を含むことが好ましい。
【0043】
本第一の塗工方法においては、塗工液として分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物を使用する。パーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物は、耐指紋性を有する塗工膜(耐指紋層、AF層ともいう)を形成することができる。したがって、本第一の塗工方法において形成される塗工膜は、耐指紋層であるといえ、得られる積層フィルムは、耐指紋層を備える積層フィルムであるといえる。
【0044】
(分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物)
分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物は、分子内にアルコキシシリル基と、パーフルオロアルキル基と、を含む化合物である。
【0045】
分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物に含まれるパーフルオロアルキル基は、アルキル鎖の水素原子を全てフッ素原子に置き換えた構造、すなわち、CF3(CF2)n-で表される構造であることが好ましく、以下に示すフルオロアルキルエーテル構造であることがより好ましく、フルオロアルキルエーテルの繰り返し単位を有するオリゴマーであることがさらに好ましい。分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物が、フルオロアルキルエーテル構造を有する場合、低温においても優れた耐擦傷性を発揮できる傾向がある。また、特に、フルオロアルキルエーテル構造がオリゴマーである場合、塗工膜の厚みがより厚くなるため、得られる積層フィルムの耐擦傷性と防汚性とが向上して好ましい。
【0046】
フルオロアルキルエーテル構造としては、-(OC4F8)-、-(OC3F6)-、-(OC2F4)-、-(OC1F2)-などが例示できる。なかでもフッ素割合が高くなることから、-(OC4F8)-、-(OC3F6)-が好ましく、-(OC3F6)-が好ましい。-(OC4F8)-としては、-(OCF2CF2CF2CF2)-、-(OCF(CF3)CF2CF2)-、-(OCF2CF(CF3)CF2)-、-(OCF2CF2CF(CF3))-、-(OC(CF3)2CF2)-、-(OCF2C(CF3)2)-、-(OCF(CF3)CF(CF3))-、-(OCF(C2F5)CF2)-、-(OCF2CF(C2F5))-などが例示できるが、直鎖状の-(OCF2CF2CF2CF2)-が耐擦傷性の観点から好ましい。-(OC3F6)-としては、-(OCF2CF2CF2)-、-(OCF(CF3)CF2)-、-(OCF2CF(CF3))-などが例示できるが、直鎖状の-(OCF2CF2CF2)-が耐擦傷性の観点から好ましい。-(OC2F4)-としては、-(OCF2CF2)-、-(OCF(CF3))-が例示できるが、直鎖状の-(OCF2CF2)-が好ましい。
【0047】
分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物に含まれるアルコキシシリル基としては特に限定されないが、縮合反応性の観点からトリアルコキシシリル基が好ましい。なかでも、反応性の観点から、トリエトキシシリル基とトリメトキシシリル基が好ましく、トリメトキシシリル基が特に好ましい。また、分子中のアルコキシシリル基の数は少なくとも1個以上である限り特に限定されず、例えば、1個~3個であることが好ましく、2個~3個であることがより好ましい。
【0048】
パーフルオロアルキル基含有化合物は上記のパーフルオロアルキル基およびアルコキシシリル基以外の置換基、繰り返し単位および/またはアルキル鎖の水素原子の一部のみをフッ素原子に置き換えたフルオロアルキル基をパーフルオロアルキル基の繰り返し単位数を超えない範囲で分子内に有していてもよい。耐擦傷性の観点から、パーフルオロアルキル基含有化合物はアルキル基のフッ素への置換割合が高い方が好ましく、全てが置換されたパーフルオロアルキル構造であることが好ましい。これらの分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物は、単独で、または、2種以上を混合して用いることができる。
【0049】
分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物のパーフルオロアルキル基の分子量は特に限定されないが、数平均分子量が1000~50000が好ましく、3000~20000が好ましく、5000~10000が特に好ましい。数平均分子量が1000以上である場合、得られる塗工膜の耐擦傷性が向上する傾向があり、50000以下である場合、塗工液を容易かつ効率的に塗布することができる。
【0050】
(溶剤)
分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物は、溶剤を含む。溶剤としては、分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物を溶解または分散できるものである限り特に限定されない。換言すると、分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物中で、分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物は、溶剤により溶解されていても、固形分として分散されていてもよい。溶剤としては、より具体的には、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;フェノール、p-クロロフェノール等のフェノール類;メタノール、エタノール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;アセトン;酢酸エチル;エチレングリコールモノメチルエーテル;ジエチレングリコールジメチルエーテル;メチルイソブチルケトン;メチルエーテルケトン;シクロヘキサン;シクロペンタノン;ハイドロフルオロエーテル等が挙げられる。これらの溶剤は、1種で使用してもよく、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。特に、分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物の溶解性に優れるという利点があることから、溶剤としては、ハイドロフルオロエーテルが好ましい。
【0051】
(添加剤)
分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物は、分子内にアルコキシシリル基を有さないフルオロアルキルエーテルオリゴマーに代表されるパーフルオロアルキル基含有化合物、フッ素系オイルや、シリコーン系オイルなど他の添加剤を含んでいてもよい。特に、フッ素系オイル、または、シリコーン系オイルを含むことで耐擦傷性や防汚性が向上する。
【0052】
分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物を含む組成物は、添加剤として、酸、塩基、金属有機化合物などの触媒を含んでいてもよい。組成物が触媒を含む場合、アルコキシシリル基とハードコート層表面の官能基との反応が促進され、パーフルオロアルキル基含有化合物のハードコート層への密着性が向上する。
【0053】
分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物を含む組成物としては、市販品を使用することもできる。当該組成物の市販品としては、OPTOOL UD509、OPTOOL DSX-E(何れもダイキン工業社)等が挙げられる。
【0054】
また、分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物の固形分濃度は、特に限定されないが、0.05~0.5%であることが好ましく、0.1~0.3%であることがより好ましい。塗工液の固形分濃度が前記数値範囲内であることによって、塗工後の未乾燥の塗工膜が、乾燥前に大きく流動することを抑制ができ、また乾燥前のレベリング効果を十分に得ることができる。
【0055】
分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物の粘度は、特に限定されないが、0.1~100mPa・sであることが好ましく、0.3~50mPa・sであることがより好ましく、0.5~20mPa・sであることがさらに好ましい。分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物の粘度を前記範囲内とすることによって、塗工工程において、塗工膜の欠陥(例えば、スジ、横段など)の発生を抑制することができ、また乾燥前のレベリング効果を十分に得ることができるという利点がある。
【0056】
また、塗工工程にて形成される塗工膜の膜厚は、特に限定されないが、5~50nmであることが好ましく、10~30nmであることがより好ましい。塗工工程にて形成される塗工膜の膜厚を前記範囲内とすることによって、より耐擦傷性および外観性に優れる塗工膜を得ることができる。なお、本明細書において、塗工工程にて形成される塗工膜の膜厚とは、後述する乾燥工程を経た後の、すなわち、乾燥後の塗工膜の膜厚を意図する。塗工工程においては、乾燥後の塗工膜の膜厚が上記の範囲となるように、基材フィルム上に塗工液を塗布することが好ましい。
【0057】
(水分塗工工程)
本第一の塗工方法における水分塗工工程は、前記塗工工程において前記組成物が塗布された基材フィルムに対して、さらに水分(水)を塗布する工程である。水分塗工工程は、前記組成物が塗布された基材フィルムに対して、水分からなる水膜を形成する工程であるとも言える。
【0058】
本第一の塗工方法は、水分塗工工程において、前記組成物が塗布された基材フィルムに水分を添加することにより、前記組成物に含まれるポリマー同士を適度に結合させることができる。その結果、より耐擦傷性および外観性に優れた塗工膜を形成できる。
【0059】
水分塗工工程において、前記組成物が塗布された基材フィルムに対して水分を塗布する方法は特に限定されないが、前記組成物が塗布された基材フィルムに対して均一に水分を塗布できる方法が好ましい。
【0060】
本明細書において、「均一に水分を塗布する」とは、水分を塗布した後の、前記組成物が塗布された基材フィルムの表面(水分を塗布する面)の全面に水分が供給されるように(全面が水膜によって被覆されるように)、かつ、形成される水膜の厚さが均一なるように水分を塗布することを意図する。
【0061】
水分塗工工程において、前記組成物が塗布された基材フィルムに対して不均一に水分を塗布した場合(例えば、ワイヤーバー等を使用して、膜厚が不均一な水膜を形成した場合、あるいは、水分が塗布されない箇所が存在する場合)、前記組成物中のポリマー同士が局所的に反応してしまい、得られる塗工膜に白濁痕が生じる虞がある。前記組成物が塗布された基材フィルムに対して均一に水分を塗布することで、前記組成物中のポリマー同士の局所的な反応を抑制することができ、前記組成物中のポリマー同士を均一に反応させることができる。その結果、耐擦傷性および外観性の両面に優れる塗工膜(すなわち、積層フィルム)を提供できる。
【0062】
具体的な、前記組成物が塗布された基材フィルムに対して均一に水分を塗布できる水分の塗布方法としては、ミスト(例えば、ドライフォグ)を吹き付ける方法、液中通過方法、および毛細管塗工による方法等を挙げることができる。これらの方法は、単独で、または、2種以上を組み合わせて適用することができる。したがって、本第一の塗工方法における水分塗工工程は、ミスト(例えば、ドライフォグ)を吹き付ける方式、液中通過方式、および毛細管塗工方式からなる群より選択される、少なくともいずれかの方式で水分を塗布する工程を含むことが好ましい。
【0063】
本第一の塗工方法における水分塗工工程においては、水分が塗布された基材フィルム(塗工工程にて組成物が塗布された基材フィルム)を、水分を含んだ状態で、換言すると、水膜が形成された状態で、維持することが好ましい。
【0064】
水分塗工工程において、水分(水膜)を保持する時間(保持時間)は、例えば、1~20分間であることが好ましく、1~10分間であることがより好ましく、1~5分間であることがさらに好ましい。保持時間を1分以上とすることで、前記組成物中のポリマー同士を十分に反応させることができ、耐擦傷性に優れた塗工膜を提供することができる。一方で、保持時間を20分以下とすることで、前記組成物中のポリマー同士が過度に反応することを抑制でき、外観性に優れる塗工膜を提供することができる。
【0065】
なお、本明細書において、「液中通過方法」とは、前記組成物が塗布された基材フィルムを20分以内の比較的短い時間、水中で維持することを意図し、20分を超えて維持する場合は、当該操作を「浸漬」と呼称する。
【0066】
水分塗工工程において、水分を保持する際の温度は、前記組成物に含まれるポリマー同士の過剰な反応を抑制し、より外観性に優れる塗工膜を提供する観点から、20℃~30℃であることが好ましい。
【0067】
水分塗工工程における保持時間は、前記組成物が塗布された基材フィルムに水分を塗布した時点から、続く水分除去工程に当該基材フィルムを供するまでの時間であるとも言える。
【0068】
(水分除去工程)
本第一の塗工方法における水分塗工工程は、前記水分塗工工程において塗布された水分を液切りする工程である。
【0069】
水分除去工程において、前記水分塗工工程において塗布された水分を、前記水分が塗布された基材フィルム(塗工工程にて組成物が塗布された基材フィルム)から液切りする方法は特に限定されないが、前記水分塗工工程において塗布された水分を完全に、あるいは、略完全に液切り(除去)できる方法が好ましい。ここで、「略完全に液切りする」とは、少なくとも目視において水分が確認できなくなるように、基材フィルムの表面から水分を液切りすることを意図する。換言すると、水分除去工程においては、必ずしも、目視できない程度の極微量の水分までをも液切りする必要はない。
【0070】
水分除去工程において、前記水分が塗布された基材フィルム(塗工工程にて組成物が塗布された基材フィルム)から水分を完全(ないし略完全)に除去しなかった場合、水分が除去されなかった箇所において前記組成物中のポリマー同士が過度に反応してしまい、得られる塗工膜に白濁痕が生じる虞がある。前記水分が塗布された基材フィルム(塗工工程にて組成物が塗布された基材フィルム)から水分を完全(ないし略完全)に除去することで、このような過度なポリマー同士な反応を抑制することができる。その結果、外観性に優れる塗工膜(すなわち、積層フィルム)を提供できる。
【0071】
具体的な、前記水分が塗布された基材フィルム(塗工工程にて組成物が塗布された基材フィルム)から水分を完全(ないし略完全)に除去できる液切り方法としては、エアナイフを使用する方法、液切りバーを使用する方法、および液切りブレードを使用する方法等を挙げることができる。これらの方法は、単独で、または、2種以上を組み合わせて適用することができる。したがって、本第一の塗工方法における水分除去工程は、エアナイフ、液切りバー、および液切りブレードからなる群より選択される、少なくともいずれかを使用して、水分を除去する工程を含むことが好ましい。
【0072】
水分除去工程において、エアナイフを使用して水分を除去する場合、エアナイフの風速(塗膜へ衝突する空気の速度)は、15~30m/sであることが好ましく、20~30m/sであることがより好ましい。エアナイフの風速を上記範囲に設定することにより、水分が塗布された基材フィルムから水分を完全(ないし略完全)に除去することができ、かつ、過剰な風圧により水分以外(例えば、塗工膜)が除去されることを抑制できる。その結果、外観性に優れる塗工膜を提供できる。
【0073】
水分除去工程において、液切りバーを使用して水分を除去する場合、液切りバーを水分が塗布された基材フィルムに対して、1~2mm押込むことが好ましい。液切りバーの押込みを上記範囲に設定することにより、水分が塗布された基材フィルムから水分を完全(ないし略完全)に除去することができ、かつ、過剰な押込みにより水分以外(例えば、塗工膜)が除去されることを抑制できる。その結果、外観性に優れる塗工膜を提供できる。
【0074】
(乾燥工程)
本第一の塗工方法は、前記水分除去工程において、水分が除去された後の前記組成物が塗布された基材フィルムを加熱乾燥して、塗工膜を形成する乾燥工程を含む。乾燥工程は、前記組成物中の溶媒および残存水分を除去し、前記組成物を乾燥および硬化させることで、塗工膜を形成する工程であるとも言える。前記乾燥工程での塗工膜の乾燥および硬化方法は、塗工膜中の溶媒を除去し塗工膜を乾燥および硬化させることができれば、特に限定されず、熱風乾燥、赤外線加熱、遠赤外線加熱法等のグラビア塗工技術にて使用される公知の乾燥方法を採用することができる。
【0075】
乾燥工程における乾燥条件は、前記組成物中の溶媒および残存水分を除去できる限り特に限定されないが、例えば熱風乾燥を用いて、130℃で2分間、加熱することが好ましい。
【0076】
<2-2.第二の塗工方法>
本発明の別の一実施形態に係る第二の塗工方法(以下、本第二の塗工方法と称する場合がある)は、基材フィルム上に、分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物を塗布する塗工工程、を有し、前記塗工工程は、塗工部にて実施され、前記塗工部は、前記組成物を含む塗工液を貯める塗工液槽、および、前記塗工液を前記基材フィルムに転写するロールを備え、前記塗工部は、水蒸気量が20.0g/m3~27.0g/m3、かつ、湿度が95%未満に調整されている、塗工方法を含む。本第二の塗工方法は、上記の構成を有するために、耐擦傷性および外観性の両面に優れる積層フィルムを提供できる。
【0077】
(塗工工程)
本第二の塗工方法における塗工工程は、基材フィルム上(表面)に、分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物を塗布(塗工)する工程である。
【0078】
本第二の塗工方法における基材フィルムおよび分子内にパーフルオロアルキル基とアルコキシランを有する組成物の具体的な態様としては、上記<2-1.第一の塗工方法>項に記載の態様を適宜援用する。
【0079】
本第二の塗工方法における塗工工程において、前記塗工液を前記基材フィルムに転写するロールとしては、特に限定されず、例えば、マイクログラビアロール、ゴムロール等を使用することができるが、得られる塗工膜の面内膜厚精度を向上できることから、マイクログラビアロールが好ましい。すなわち、本第二の塗工方法における塗工工程において、前記塗工液を基材フィルム上に塗布する方法は特に限定されないが、マイクログラビアロールを用いて塗工液を塗布する方法が好ましい。
【0080】
本第二の塗工方法における塗工工程は、例えば、
図1に示される、塗工液槽(塗工液槽H)と、前記塗工液を前記基材フィルムに転写するロールであるグラビアロール(グラビアロール3)と、を備える塗工装置(塗工装置10)を用いて実施することができる。
【0081】
塗工装置10および当該塗工装置を利用した塗工液の塗工方法の具体的な態様としては、上記<2-1.第一の塗工方法>項に記載の態様を適宜援用する。
【0082】
本第二の塗工方法における、塗工工程における塗工部の水蒸気量は、20.0g/m3~27.0g/m3であり、22.0g/m3~26.5g/m3であることが好ましく、22.5g/m3~26.0g/m3であることがより好ましい。また、塗工工程における湿度は、95%未満であり、90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましい。塗工工程における湿度の下限値は特に限定されないが、例えば、70%以上であることが好ましい。本第二の塗工方法においては、塗工部における水蒸気量を20.0g/m3~27.0g/m3、かつ、湿度を95%未満に調整することにより、塗工液に含まれるポリマー同士を、塗工前に適度に結合させることができる。その結果、耐擦傷性および外観性に優れた塗工膜を形成できる。
【0083】
(その他の工程)
本第二の塗工方法は、上記の塗工工程に加えて、水分塗工工程、水分除去工程、および/または乾燥工程等のその他工程を含むものであってもよい。
【0084】
水分塗工工程、水分除去工程および乾燥工程の具体的な態様としては、上記<2-1.第一の塗工方法>項に記載の態様を適宜援用する。
【0085】
<2-3.積層フィルムの製造方法>
本第一の塗工方法および本第二の塗工方法によれば、基材フィルム上に、耐擦傷性および外観性に優れた塗工膜を形成することができる。すなわち、本第一の塗工方法および本第二の塗工方法は、基材フィルム上に塗工膜が形成されてなる積層フィルムの製造に好適に利用することができる。本発明の一実施形態において、本第一の塗工方法および/または本第二の塗工方法を一工程として含む、基材フィルム上に塗工膜が形成されてなる積層フィルムの製造方法を提供する。
【0086】
このような基材フィルム上に、耐擦傷性および外観性に優れた塗工膜(層)が形成されてなる積層フィルムは、特に、スマートフォン等のディスプレイ用途に好適に利用することができる。
【実施例0087】
以下に実施例、比較例および参考例を挙げるが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0088】
(1)ポリアミド酸溶液の調製
反応容器に、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を383重量部投入し、窒素雰囲気下で撹拌した。そこに、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンを31.8重量部、3,3’-ジアミノジフェニルスルホンを10.5重量部投入し、窒素雰囲気化で撹拌してジアミン溶液を得た。当該ジアミン溶液に、p-フェニレンビス(トリメリット酸無水物)を15.9重量部、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン酸無水物を37.4重量部、および3,3’、4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を10.4重量部加え、窒素雰囲気下で撹拌してポリアミド酸溶液を得た。
【0089】
(2)イミド化およびポリイミド樹脂の抽出
(1)にて得られたポリアミド酸溶液(ポリアミド酸の固形分100重量部)に、イミド化触媒としてピリジン38.4重量部を添加し、撹拌した。その後、無水酢酸49.5重量部を添加し、120℃で2時間撹拌後、室温まで冷却してポリイミド溶液を得た。当該ポリイミド溶液を撹拌しながら、1Lのイソプロピルアルコールを滴下して、ポリイミド樹脂を析出させた。その後、濾別したポリイミド樹脂をイソプロピルアルコールで3回洗浄した後、120℃で12時間乾燥させてポリイミド樹脂の粉体を得た。
【0090】
(3)ポリイミドフィルムの作製
(2)にて得られたポリイミド樹脂を塩化メチレンに溶解し、固形分濃度10%のポリイミド溶液を得た。コンマコーターを用いて、ポリイミド溶液を基材上に塗布した。40℃で10分、80℃で10分、150℃で10分、180℃で10分の順番で、大気圧雰囲気下でポリイミド溶液を乾燥した後、基材から剥離して、厚み50μmの透明ポリイミドフィルムを得た。
【0091】
(4)ハードコート組成物の調製
反応容器に、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン100重量部、塩化マグネシウム0.12重量部、水11重量部およびプロピレングリコールモノメチルエーテル11重量部を仕込み、130℃で3時間攪拌後、60℃で減圧脱気してシロキサン樹脂を得た。そして、前記シロキサン系樹脂100重量部、トリアリールスルホニウム・SbF6塩のプロピレンカーボネート溶液2重量部、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンのキシレン/イソブタノール溶液0.2重量部、およびプロピレングリコールモノメチルエーテル100重量部を配合し、ハードコート組成物を得た。
【0092】
(5)分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物を含む組成物の調製
溶液I:分子内にトリアルコキシシリル基を有するフルオロアルキルエーテルオリゴマーのハイドロフルオロエーテル20%溶液(ダイキン工業社製;OPTOOL UD509)、および溶液II:ハイドロフルオロエーテル(スリーエム社製;Novec7200)を使用して分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物を含む組成物を調製した。具体的には、溶液Iを溶液IIで希釈することで、固形分濃度0.1%の、分子内にアルコキシシリル基を有するパーフルオロアルキル基含有化合物を含む組成物(以下、塗工液Aと称する場合がある)を得た。当該組成物の粘度は、0.6mPa・sであった。
【0093】
(実施例1)
透明樹脂フィルム層としての厚さ50μmの透明ポリイミドフィルムの上に、乾燥膜厚が20μmとなるようにダイコーター用いてハードコート組成物を塗布し、120℃に加熱して溶媒を除去した。その後、高圧水銀ランプを用いて、積算光量が1950mJ/cm2となるように紫外線を照射し、ハードコート組成物を硬化させて、ハードコート層付き透明樹脂フィルム(以下、基材フィルムAと称する場合がある)を得た。
【0094】
コロナ処理機を用いて、基材フィルムAのハードコート層の表面に対して処理密度40W・min/m
2のコロナ処理を行った後に、基材フィルムAに対して(5)にて得られた塗工液Aを塗工する塗工工程を行った。当該塗工工程では、
図1に示す塗工装置10を使用して、次の条件において、基材フィルムAに対して塗工液Aを塗工し、膜厚10nmの塗膜を形成することで、塗工フィルム(基材フィルムA上に、塗工液Aが積層されてなるフィルム)を得た。(i)グラビアロール3の回転速度(Vr)と、基材フィルムAの搬送速度(Vf)との比(Vr/Vf)を34とした。(ii)塗工部を構成するチャンバー7内の水蒸気量を17.3g/m
3とした。また、基材フィルムAの搬送速度(Vf)は0.5m/minとした。
【0095】
塗工フィルムの塗工液Aからなる層へドライフォグを用いて水分を供給した。その状態で2分間水分を保持した(水分塗工工程)。
【0096】
水分塗工工程の完了後、塗膜へ衝突する風速が25m/sであるエアナイフを用いて余剰な水分を除去した(水分除去工程)。
【0097】
水分除去工程後、塗工フィルムを130℃にて2分間加熱することで、塗工フィルムの塗工液Aからなる層中の溶剤および水分を除去し(乾燥工程)、基材フィルムAのハードコート層上に、塗工液Aからなる塗工膜が積層されてなる積層フィルムを得た。当該積層フィルムは、基材フィルムAのハードコート層上に、耐指紋層として塗工液Aからなる塗工膜が積層されている積層フィルムである。したがって、当該積層フィルムは、耐指紋層付きハードコートフィルムであるともいえる。
【0098】
(比較例1)
塗工液A(耐指紋性層)の積層後、水分塗工工程および水分除去工程を実施しないこと以外は、実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。
【0099】
(実施例2)
前記水分供給後、余剰な水分の除去方法を液切りバーとし、塗膜に対して1mm押し込んで液切りした以外は、実施例1と同様の方法で積層フィルム(耐指紋層付きハードコートフィルム)を得た。
【0100】
(比較例2)
水分塗工工程後、水分除去工程を実施せずに、乾燥工程を実施したこと以外は、実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。
【0101】
(比較例3)
水分塗工工程後、水分除去工程および乾燥工程を実施せずに、自然乾燥したこと以外は、実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。
【0102】
(比較例4)
塗工工程後、ワイヤーバーを用いて水膜を形成し、塗膜へ水分を塗布しとこと、および、水分塗工工程後に水分除去工程を実施せずに乾燥工程を実施したこと以外は、実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。
【0103】
(比較例5)
塗工工程後、塗工フィルムを水中へ30分間浸漬することで塗工フィルムに水分を添加し、さらに、水分除去工程後に乾燥工程を実施なかったこと以外は、実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。
【0104】
(実施例3、4、比較例6~10)
塗工装置への熱風発生機およびドライフォグの接続により、塗工部(チャンバー内)の気相を調温調湿したこと以外は比較例1と同様の方法で積層フィルム(耐指紋層付きハードコートフィルム)を得た。
【0105】
(評価方法)
実施例1~4および比較例1~10で得られた積層フィルム(耐指紋層付きハードコートフィルム)について、以下の評価基準に基づき、外観性および耐擦傷性を評価した。
【0106】
<外観性>
得られた積層フィルムの外観性は、光源を用いた反射及び投影による目視により評価した。耐指紋層(塗工膜)の形成前の基材フィルムと同等の外観を保つものを○(良好)、白濁が生じるものを×(不良)とした。
【0107】
<耐擦傷性>
耐擦傷性試験後の接触角に基づき、積層フィルムの耐擦傷性を評価した。具体的には、Minoan社製の直径6mmの消しゴムを圧子にセットして、往復摩耗試験機(新東科学社製TYPE:30S)を用いて50mmストロークで1サイクル/秒の条件で、積層フィルムの耐指紋層側表面の耐擦傷性試験を行った。荷重は500gとし、回数は1500回とした。協和界面化学製接触角計PCA-11を用いて、耐擦傷性試験後のサンプルの水接触角を測定した。当該測定には純水を用い、液滴量は2μLとした。耐擦傷性試験後の接触角が100°以上であるものを○(良好)、接触角が100°以下あるものを×(不良)とした。
【0108】
実施例1~4および比較例1~10における各物性の評価結果を表1および表2に示す。
【0109】
【0110】
【0111】
表1および2に示す評価結果から、塗工液Aの塗工後(実施例1および2)または塗工前(実施例3および4)に、塗工液に適度な水分を添加した(すなわち、水分塗工工程および水分除去工程を実施した場合)場合、得られる積層フィルムの外観性が良好であり、また、耐擦傷性も良好であることが確認できた。
【0112】
一方で、比較例1のように水分塗工工程を実施しなかった場合、得られる積層フィルムの耐擦傷性が不良となることが分かる。また、比較例2~4のように、水分塗工工程を実施した場合であっても、水分を除去する前に乾燥した場合、すなわち、水分除去工程を実施しなかった場合、局所的にシラノール基が水分により過剰に反応する部分ができ、当該部分において白濁が発生することで、得られる積層フィルムの外観性が不良となることが分かる。また、水分塗工工程および水分除去工程を実施した場合であっても、乾燥工程を実施しなかった場合、比較例5のように得られる積層フィルムの外観性が不良となることが分かる。さらに、比較例3および5の結果より乾燥工程を実施しなかった場合、耐擦傷性も不良となることが分かる。
【0113】
また、比較例6のように塗工部の水蒸気量および湿度が一定以下の場合、塗工液の樹脂成分のシラノール基を十分に反応させることができず、得られる積層フィルムの外観性および耐擦傷性を向上できないことが分かる。また、比較例7~10のように水蒸気量もしくは、湿度が一定以上の場合、シラノール基が水分により過剰に反応してしまい、得られる積層フィルムの外観性が不良となることが分かる。