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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090200
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】溶剤系接着剤組成物及び継手構造
(51)【国際特許分類】
   C09J 201/00 20060101AFI20240627BHJP
   F16L 13/10 20060101ALI20240627BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C09J201/00
F16L13/10
C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205926
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】505142964
【氏名又は名称】株式会社クボタケミックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶原 稜介
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 陸生
【テーマコード(参考)】
3H013
4J040
【Fターム(参考)】
3H013DA04
3H013DA06
4J040DC021
4J040HB18
4J040KA23
4J040KA35
4J040MA10
4J040MB06
4J040MB12
4J040NA12
(57)【要約】
【課題】本発明は、樹脂管と透明樹脂継手の接合に好適であり、接合部の色むらを抑えることのできる溶剤系接着剤組成物及び当該溶剤系接着剤組成物により接合された継手構造を提供する。
【解決手段】本発明の溶剤系接着剤組成物は、樹脂、有機溶剤及び着色剤を含む溶剤系接着剤組成物であって、前記着色剤は、顔料と染料の両方を含む。また、本発明の継手構造は、樹脂管と透明樹脂継手を上記した溶剤系接着剤組成物により接合してなる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂、有機溶剤及び着色剤を含む溶剤系接着剤組成物であって、
前記着色剤は、顔料と染料の両方を含む、
溶剤系接着剤組成物。
【請求項2】
前記着色剤は、0.05質量%~4.0質量%である、
請求項1に記載の溶剤系接着剤組成物。
【請求項3】
前記顔料と前記染料は、質量比で90:10~40:60である、
請求項1に記載の溶剤系接着剤組成物。
【請求項4】
前記顔料の平均粒子径は、125nm~500nmである、
請求項1に記載の溶剤系接着剤組成物。
【請求項5】
管と透明継手との接合に前記溶剤系接着剤組成物が使用され、硬化した前記溶剤系接着剤組成物は、前記継手の端縁側の継手端側領域に対する、前記管の端縁が位置する管端側領域の拡散光線反射SCE方式によるL色空間の色差ΔEが5.0以下である、
請求項1に記載の溶剤系接着剤組成物。
【請求項6】
管と透明継手との接合に前記溶剤系接着剤組成物が使用され、硬化した前記溶剤系接着剤組成物は、前記継手の端縁側の継手端側領域に対する、前記管の端縁が位置する管端側領域の全光線反射SCI方式によるL色空間の色差ΔEが5.0以下である、
請求項1に記載の溶剤系接着剤組成物。
【請求項7】
管と透明継手との接合に前記溶剤系接着剤組成物が使用され、硬化した前記溶剤系接着剤組成物は、前記継手の端縁側の継手端側領域に対する、前記管の端縁が位置する管端側領域の拡散光線反射SCE方式、又は、全光線反射SCI方式によるL色空間における差Δa及びΔbが3.5以下である、
請求項1に記載の溶剤系接着剤組成物。
【請求項8】
樹脂管と透明樹脂継手を請求項1乃至請求項7の何れかに記載の溶剤系接着剤組成物により接合してなる、
継手構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂管と樹脂継手の接続に用いられる溶剤系接着剤組成物と当該溶剤系接着剤組成物により接合された継手構造に関するものであり、より具体的には、樹脂管と透明樹脂継手との接合に好適な溶剤系接着剤組成物とその継手構造に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル管などの樹脂管と、塩化ビニル継手などの樹脂継手の接合に溶剤系接着剤組成物(以下、単に「接着剤」という)が使用される。一般的には、管端の外面と継手の受口内面に接着剤を塗布し、受口に管を差し込むことで接合が行なわれる。
【0003】
管と継手に接着剤が塗布されているかどうかは、継手の端縁から接着剤がはみ出しているかどうかを視認することで確認できる。接着剤のはみ出しがある場合には接着剤塗布あり、はみ出しがない場合には接着剤塗布なしと判断できる。接着剤の視認性を高めるため、接着剤は透明ではなく、有色となるように着色剤が添加されている。
【0004】
着色剤として染料が使用されている。しかしながら、接合作業の際に、接着剤が床面にこぼれると、その上からフロアシートなどの床材を敷設したときに、経時により染料が床材を透過して表面に染み出してしまう。染み出しは、染料が有機溶剤に可溶な着色剤であるためである。
【0005】
そこで、特許文献1では、着色剤として有機溶剤に不溶であり、粒子径のある顔料を使用している。これにより、接着剤がこぼれた床面にフロアシートなどの床材を敷設しても、粒子状の顔料はフロアシートを透過しないから、染み出しを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6737976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、継手として透明塩化ビニル継手などの透明樹脂継手の普及がある。透明継手は、接着剤の塗布状態だけでなく、管が継手の正しい位置まで挿入されているかを視認するのに好適である。
【0008】
管の外径と透明継手の内径のクリアランスは小さいから、管と透明継手の接合に顔料入りの接着剤を使用した場合、顔料はその粒子径が大きい為、顔料成分だけが継手端側に押し出されてしまうことがある。もちろん、接着剤の樹脂成分は継手の奥まで届くため、接合効果には問題はない。
【0009】
顔料が継手端側領域に押し出される結果、継手奥側となる管端側領域の顔料が少なくなり、継手端側領域は濃色、管端側領域は淡色となって接合部に色むらが生じてしまう。透明継手を通して視認により接合部に接着剤が正しく塗布されているか確認する際に、この色むらにより接着剤の塗りむらがあるように見え、正しく判断ができないことがある。
【0010】
本発明は、樹脂管と透明樹脂継手の接合に好適であり、接合部の色むらを抑えることのできる溶剤系接着剤組成物及び当該溶剤系接着剤組成物により接合された継手構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の溶剤系接着剤組成物は、
樹脂、有機溶剤及び着色剤を含む溶剤系接着剤組成物であって、
前記着色剤は、顔料と染料の両方を含む。
【0012】
前記着色剤は、0.05質量%~4.0質量%とすることが望ましい。
【0013】
前記顔料と前記染料は、質量比で90:10~40:60とすることが望ましい。
【0014】
前記顔料の平均粒子径は、125nm~250nmとすることが望ましい。
【0015】
管と透明継手との接合に前記溶剤系接着剤組成物が使用され、硬化した前記溶剤系接着剤組成物は、前記継手の端縁側の継手端側領域に対する、前記管の端縁が位置する管端側領域の拡散光線反射SCE方式によるL色空間の色差ΔEが5.0以下であることが望ましい。
【0016】
管と透明継手との接合に前記溶剤系接着剤組成物が使用され、硬化した前記溶剤系接着剤組成物は、前記継手の端縁側の継手端側領域に対する、前記管の端縁が位置する管端側領域の全光線反射SCI方式によるL色空間の色差ΔEが5.0以下であることが望ましい。
【0017】
管と透明継手との接合に前記溶剤系接着剤組成物が使用され、硬化した前記溶剤系接着剤組成物は、前記継手の端縁側の継手端側領域に対する、前記管の端縁が位置する管端側領域の拡散光線反射SCE方式、又は、全光線反射SCI方式によるL色空間における差Δa又はΔbが3.5以下であることが望ましい。
【0018】
また、本発明の継手構造は、
樹脂管と透明樹脂継手を上記した溶剤系接着剤組成物により接合してなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の溶剤系接着剤組成物は、着色剤として顔料と染料を含有している。管と継手を接合したときに、粒子径のある顔料は、管と継手のクリアランスにより継手端側領域に移動して発色する。一方、有機溶剤に溶けている染料は、管端側領域に残って発色する。このため、管と継手を本発明の溶剤系接着剤組成物で接合してなる継手構造は、継手端側領域と管端側領域の色むらを抑えることができる。故に、継手として透明樹脂継手を使用した場合、透明継手を通して視認により接合部に接着剤が正しく塗布されているかを視認容易となる。
【0020】
また、本発明の溶剤系接着剤組成物は、着色剤は、顔料と染料を含有するため、染料単独の場合に比べて染料の量を減らすことができる。染料の量が少ないことで、接着剤が床面にこぼれた場合でも、その上に敷設されるフロアシートなどの床材への経時による染料の染み出しを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、樹脂管と透明樹脂継手を示す斜視図である。
図2図2は、樹脂管と透明樹脂継手を溶剤系接着剤組成物によって接合した継手構造を示す斜視図である。
図3図3は、接着剤硬化後の発明例2~5、比較例7の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の溶剤系接着剤組成物の一実施形態について説明する。
【0023】
本発明の溶剤系接着剤組成物は、樹脂と、有機溶剤と、着色剤を含む組成物であり、着色剤は、顔料と染料の両方を含んでいる。
【0024】
<樹脂>
本発明の溶剤系接着剤組成物に含まれる樹脂は、有機溶剤に可溶な樹脂が採用される。樹脂として、たとえば、塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂などのビニル系樹脂を例示できる。樹脂は、1種に限らず、複数種類を採用しても構わない。
【0025】
樹脂は、接着剤の接合度を確保するため、溶剤系接着剤組成物に5.0質量%以上含有させることが好適であり、望ましくは10質量%以上含有させる。樹脂の上限は、30質量%以下が好適であり、20質量%以下が望ましい。
【0026】
<溶剤>
本発明の溶剤系接着剤組成物に含まれる有機溶剤は、樹脂を可溶な溶剤が採用される。有機溶剤として、アルコール系有機溶剤、エステル系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、脂肪族炭化水素系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、塩素系有機溶剤、芳香族炭化水素系有機溶剤、アミド系有機溶剤、グリコールエーテル系有機溶剤などの有機溶剤を例示できるが、これに限定されるものではない。有機溶剤は、1種に限らず、複数種類を混合した混合有機溶剤であってもよい。
【0027】
溶剤は、接着剤の粘性を調整し、塗布性を具備して、管を継手受口に差し込みやすくするために、溶剤系接着剤組成物に70質量%以上含有させることが好適であり、望ましくは80質量%以上含有させる。溶剤の上限は、95質量%以下が好適であり、90質量%以下が望ましい。
【0028】
<着色剤>
本発明の溶剤系接着剤組成物に含まれる着色剤は、顔料と染料の両方である。本発明において、顔料は、有機溶剤に対して不溶性であり、染料は、有機溶剤に対して可溶性の着色剤を意味する。
【0029】
-顔料-
顔料は、無機顔料、有機顔料の何れも採用できる。
【0030】
無機顔料として、たとえば、黄土類などの天然顔料、黄鉛、ジンクイエロー、バリウムイエローなどのクロム酸塩、紺青などのフェロシアン化物、チタン白、弁柄、亜鉛華、鉄黒などの酸化物、カドミウムイエロー、カドミウムレッドなどの硫化物、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ケイ酸カルシウムや群青などのケイ酸塩、ブロンズ粉、アルミニウム粉などの金属粉、クロムグリーンなどを例示できる。
【0031】
有機顔料として、マダレーキなどの天然染料レーキ、ナフトールグリーンなどのニトロソ系顔料、カーミン6B、ウォッチャングレッド、ピラロゾンレッド、ベンチジンイエロー、ハンザイエローなどのアゾ系顔料、ローダミンレーキ、マラカイトグリーンレーキなどの塩基性染料レーキ、アリザリンレーキなどの媒染染料系顔料、インダンスレンブルー、インジゴブルーなどの建染染料系顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料、蛍光顔料、アジン系顔料を例示できる。
【0032】
顔料の平均粒子径の下限は、125nm以上が好ましく、140nm以上がより好ましく、150nm以上が望ましい。上限は、250nm以下が好ましく、190nm以下がより好ましく、170nm以下が望ましい。顔料の平均粒子径が小さくなると溶剤への分散性が悪くなり、顔料が凝集しやすく、色ムラが発生しやすくなり、平均粒子径が大きくなると保存安定性が悪くなり、顔料が沈殿して色調が乱れてしまうとなるため、上記数値範囲が好適である。なお、平均粒子径は、日本工業規格(JIS Z8901)に示される、「光散乱法による球相当径」で定義されている、体積平均粒子径(D50)である。
【0033】
顔料が溶剤中での沈殿や分離することを防ぐため、顔料の比重の下限は、1.3以上が好ましく、1.4以上がより好ましく、1.6以上が望ましい。上限は、2.0以下が好ましく、1.8以下がより好ましく、1.7以下が望ましい。比重の測定は、JIS Z8807による。
【0034】
顔料は、1種又は複数種類を混合して使用することができる。
【0035】
-染料-
染料は、油溶性、水溶性の何れも採用できる。
【0036】
油溶性の染料として、たとえば、ファストオレンジR、オイルレッド、オイルイエロー(ソルベントイエロー163)、オイルブルー(ソルベントブルー35、ソルベントブルー97)などのモノアゾ系染料、アンスラキノンブルー、アンスラキノンバイオレットなどのアンスラキノン系染料、ニグロシン、インジュリンなどのアジン系染料、その他塩基性染料、酸性染料、金属錯化合物系染料を例示できる。
【0037】
水溶性の染料として、ローダミンBなどの塩基性染料、オレンジIIなどの酸性染料、その他、蛍光染料などを例示できる。
【0038】
溶剤系接着剤組成物中の顔料と染料を含む着色剤の含有量はとくに限定されるものではないが、視認性を確保するために、下限は、溶剤系接着剤組成物の0.05質量%以上、好ましくは0.1質量%、望ましくは0.15質量%とし、上限は、4.0質量%以下、好ましくは2.0質量%以下、望ましくは1.0質量%以下とする。
【0039】
1の溶剤系接着剤組成物では、顔料と染料は、同系統の色調のものを使用することが好ましい。たとえば、顔料として青系統のフタロシアニンブルーを採用する場合、染料も青系統のソルベントブルー35を採用する。顔料と染料で異系統の色調のものを使用すると、接合部で万遍なく分散する染料に対し、継手端側領域に移動する顔料により色むらが発生するためである。
【0040】
着色剤中の顔料と染料の質量比もとくに限定されるものではないが、顔料が多くなると接合部の色むら(色差)を招き、また、染料が多くなると、フロアシートへの染み出しの発生を招く。このため、顔料と染料は、質量比で90:10~40:60とすることが好適であり、80:20~50:50が好ましく、70:30~60:40とすることがより望ましい。
【0041】
また、同系統の色相の顔料と染料を含有する溶剤系接着剤組成物により樹脂管と透明樹脂継手を接合し、当該接着剤が硬化したときに、接合部における色むらを抑えるために、接合部は、継手の端縁側の継手端側領域に対する、管の端縁が位置する管端側領域の拡散光線反射SCE方式によるL色空間の色差ΔEを5.0以下とすることが好適であり、色差ΔEを3.0以下とすることが望ましい。色差ΔEが5.0以下であれば、視認者が経時比較してもほぼ同一の色と認めることができるから、接合部の色むらの判定が容易になる。
【0042】
なお、本発明では、継手端側領域、管端側領域は、次のように定義している。図2に示すように、管20と継手30を接着剤によって接合した接合部40において、継手端側領域は、符号41示すように、継手30の先端面から奥側の接合部長さの40%以内の領域を意味する。管端側領域は、符号42で示すように、継手30内にある管20の先端面から手前(継手端側領域41)側の接合部長さの40%以内の領域を意味する。
【0043】
また、同系統の色相の顔料と染料を含有する溶剤系接着剤組成物により樹脂管と透明樹脂継手を接合し、当該接着剤が硬化したときに、接合部における色むらを抑えるために、接合部は、継手の端縁側の継手端側領域に対する、管の端縁が位置する管端側領域の全光線反射SCI方式によるL色空間の色差ΔEを5.0以下とすることが好適であり、色差ΔEを3.0以下とすることが望ましい。色差ΔEが5.0以下であれば、視認者が経時比較してもほぼ同一の色と認めることができるから、接合部の色むらの判定が容易になる。
【0044】
なお、上記に代えて、継手端側領域と管端側領域について、L色空間の拡散光線反射SCE方式、又は、全光線反射SCI方式における座標a又はbの差Δa又はΔbを3.5以下とすることが好適であり、3.0以下とすることが望ましい。顔料と染料の色相に応じて、Δa又はΔbの一方だけを測定し、他方の測定を省略できる。すなわち、顔料と染料が赤色又は緑色の場合には、Δaを測定し、顔料と染料が青色又は黄色の場合には、Δbを測定すればよい。他方は、小さい値となるためである。そして、色差Δa又はΔbが3.5以下であれば、視認者が経時比較してもほぼ同一の色と認めることができるから、接合部の色むらの判定が容易になる。
【0045】
<その他>
本発明の溶剤系接着剤組成物は、上記成分の他、安定剤や増粘剤などの含有を許容する。安定剤として、鉛系安定剤、有機スズ系安定剤、カドミウム系安定剤を例示できる。また、増粘剤として、無機珪酸物、有機系ベントナイト、無機系ベントナイト、脂肪酸ビスアミド、水添ヒマシ油を例示できる。
【0046】
<溶剤系接着剤組成物>
上記した樹脂、有機溶剤、顔料と染料からなる着色剤、また、必要に応じて安定剤や増粘剤を計量して混合することで、溶剤系接着剤組成物が調製される。
【0047】
<接合される樹脂管と樹脂継手>
上記溶剤系接着剤組成物により、樹脂管と樹脂継手が接合される。樹脂管と樹脂継手は、少なくとも一方、より望ましくは両方が接着剤に含まれる有機溶剤に溶ける樹脂から作製する。その種の樹脂として、塩化ビニル系樹脂及び(メタ)アクリル系樹脂が挙げられ、これらは単独で用いられても2種以上が併用されてもよい。塩化ビニル系樹脂としては、例えば、塩化ビニル単独重合体;塩化ビニルモノマー、塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有する重合性モノマーとの共重合体;重合体に塩化ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト共重合体、等が挙げられる。これらは単独で用いられても2種以上が併用されてもよい。
【0048】
本発明の溶剤系接着剤組成物は、管と継手の接合部が継手端側領域から管端側領域までの領域において、色むらを抑えることができるという効果を有する。この効果を好適に発揮するために、接合部の外側を覆う継手は、接合部を視認できるように透明樹脂、たとえば、透明ポリ塩化ビニルを採用することが望ましい。管は、一般的に使用されているグレー系のものであってよい。もちろん、管も透明樹脂から作製しても構わない。
【0049】
<継手構造>
樹脂管と樹脂継手、望ましくは透明樹脂継手を、本発明の溶剤系接着剤組成物により接合する。接着剤を管の外面と継手の受口内面に万遍なく塗布し、受口に管を差し込んで乾燥させること管と継手の接合が完了し、継手構造を得る。接着剤は、管を受口に差し込んだときに、継手端からはみ出す程度の量を塗布することが好適である。
【0050】
本発明の溶剤系接着剤組成物は、着色剤として顔料と染料の両方を含有している。従って、管を継手の受口に差し込んだときに、管と継手のクリアランスにより管端側領域の顔料が継手端側領域に移動しても、染料は管端側領域に残るため、色むらの発生を抑えることができる。従って、本発明の継手構造では、視認により接合部に接着剤が正しく塗布されているかどうかを容易に確認できる。
【0051】
また、着色剤は、顔料と染料を含有するから、染料を単独で溶剤系接着剤組成物に含有させる場合に比べて染料の量を減らすことができる。溶剤系接着剤組成物に含まれる染料の量を少なくできたことで、接着剤が床面にこぼれた状態で、その上にフロアシートなどの床材を敷設しても、経時による染料の染み出しを抑えることができる。
【実施例0052】
表1に示す組成の発明例と比較例の溶剤系接着剤組成物を調製した。着色剤は、顔料と染料を質量比で示している。
【0053】
【表1】
【0054】
溶剤系接着剤組成物に使用された塩ビ系樹脂は、平均重合度800のポリ塩化ビニル単独重合体であり、有機溶剤は、沸点50~150℃の有機溶剤の混合物(シクロヘキサノン:メチルエチルケトン:アセトン=45:30:20(質量比))である。着色剤は、フタロシアニンブルー(青色・有機顔料)、染料はソルベントブルー35(青色)を表1に示す重量比で添加した。なお、フタロシアニンブルーの平均粒子径は50nmである。また、着色剤は、調製された溶剤系接着剤組成物の0.4質量%となるように添加している。
【0055】
表1では、発明例と比較例は、顔料の質量比が大きいものから順にならべている。具体的には、顔料のみの実施例を比較例1、顔料:染料が80:20~40:60の実施例を発明例2~6、染料のみの実施例を比較例7としている。
【0056】
上記発明例と比較例の溶剤系接着剤組成物について、下記する評価試験を実施した。
【0057】
<保存安定性>
各実施例の溶剤系接着剤組成物の保存安定性を評価した。保存安定性は、溶剤系接着剤組成物100gをUMサンプル瓶(型番5-128-03)に入れ、蓋をして40℃の環境下で2ヶ月保存した。その結果、何れの実施例についても着色剤の沈降や分離は観察されなかった(評価○)。
【0058】
<塩ビシート染み出し性>
軟質ポリ塩化ビニルシート(東リ株式会社製、型番TS2118、厚さ2.0mm)の裏面に、各実施例の溶剤型接着剤組成物1gを塗布し、乾燥させて試験片を得た。当該試験片に対し、常圧、60℃の環境下で24~120時間静置し、シートの表面及び断面の色の変化の有無を24時間毎に目視により評価した。結果を表2に示している。表2では、シート表面及び断面に色の変化がなかったものに「○」、シート表面に色の変化は視認されないが、断面に色が拡散していたものを「△」、シート表面に色の変化(染み出し)が視認されたものを「×」とした。
【0059】
【表2】
【0060】
表2を参照すると、顔料のみの比較例1は120時間経過してもシート表面及び断面に色の変化はなかった。発明例2~5は、24~48時間はシート表面及び断面に色の変化はなかったが、その後の24~48時間で、シート断面への色の拡散が確認され、さらにその後にシート表面までの色の染み出しが確認された。発明例6は24時間でシート断面への色の拡散が確認され、その後、シート表面までの色の染み出しが確認された。一方、染料のみの比較例7は、24時間経過の時点でシート表面までの色の染み出しが確認された。
【0061】
これら実施例を比較すると、着色剤中の染料の割合が高くなるにつれて、シート表面までの色の染み出しが進行することがわかった。
【0062】
この表2の結果に基づいて、実施例の塩ビシート染み出し性を4段階で評価した。評価の基準は、48時間の時点でシートの表面と断面に色の変化がないもの(何れも「○」の実施例)を「◎」とした。また、24時間の時点でシートの表面と断面に色の変化がないもの(24時間の時点で「○」の実施例)を「○」、24時間の時点でシートの断面への色の拡散があるもの(24時間の時点で「△」の実施例)を「△」、24時間の時点でシート表面まで色の染み出しがあるもの(24時間の時点で「×」の実施例)を「×」とした。結果を上記した表1と表2に示している。
【0063】
表1、表2を参照すると、比較例1、発明例2、3は、評価「◎」、発明例3~5は、評価「○」、発明例6は、評価「△」、比較例7は、評価「×」であった。塩ビシート染み出し性に関しては、染料が少ない方が良好な結果を得られることがわかる。
【0064】
<視認性>
各実施例の溶剤系接着剤組成物により、図1に示す硬質ポリ塩化ビニル系樹脂管20(VP)と、排水用硬質ポリ塩化ビニル系透明継手30(透明DS)を接合して継手構造10を作製し、継手30を通して接合部40を視認し、図2に示す継手30の端縁側の継手端側領域41に対する、管20の端縁が位置する管端側領域42の色差ΔEを測定した。
【0065】
接着剤は、図1に示す継手30の受口31の内面に塗布し、図2に示すように管20を受口31に差し込み、硬化させた。
【0066】
接着剤硬化後の発明例2~5、比較例7の写真を図3に示す。図3を参照すると、比較例7は、接合部40の色むらがほとんど確認されなかった。また、発明例2~5も目視では、色むらはほとんど確認されなかった。
【0067】
発明例2~6について、コニカミノルタ株式会社製CM-2500cを用いて、継手端側領域41と管端側領域42のL色空間におけるL値を拡散光線反射SCE方式と全光線反射SCI方式により測定し、両者の色差ΔE(=√(ΔL+(Δa+(Δb)を算出した。
【0068】
なお、管のL値は、明度L値:43、色度a値:-2、色度b値:-2であった。
【0069】
なお、SCE、SCIの色差ΔEは何れも一般的に5以下であれば、視認者が経時比較してもほぼ同一の色と認めることができる。一方、色差ΔEが5.0を超えると、視認者がある程度判別可能となる(色彩科学協会、色紙科学ハンドブック)。そこで、接合部40の色むらの判定基準となる閾値を色差ΔE=5.0とした。
【0070】
結果を表3に示す。表3を参照すると、発明例2~6及び比較例7は、SCEとSCIの何れの色差ΔEも5.0以下であった(評価「○」)。これは、着色剤中の染料の割合が増えて、粒子径のある顔料の割合が減ることで、接合部40に万遍なく染料が残ったこと、また、継手端側領域41に押し出される顔料が減ったことによる。一方、顔料のみの比較例1は、SCEとSCIの何れの色差ΔEも8.0を超える値であり、視認しても色むらが容易に判別できた(評価「×」)。これは、顔料が継手端側領域41に押し出された一方、他の実施例のように管端側領域42に留まり、色むらを抑える染料を含まないためである。
【0071】
【表3】
【0072】
また、本実施例で使用している顔料及び染料は何れも青色であるため、各実施例について、全光線反射SCI方式により継手端側領域41と管端側領域42のb値を測定し、差分Δbを算出した。結果を表4に示す。
【0073】
【表4】
【0074】
差分Δbは、3.5以下であれば、視認者が経時比較してもほぼ同一の色と認めることができる。一方、差分Δbが3.5を超えると、視認者がある程度判別可能となる(色彩科学協会、色紙科学ハンドブック)。そこで、接合部40の色むらの判定基準となる閾値を差分Δb=3.5とした。
【0075】
表4を参照すると、発明例2~6及び比較例7は、継手端側領域41と管端側領域のb値の差分Δbが何れも3.5以下であった(評価「○」)。これは、色差ΔEと同様に、着色剤中の染料の割合が増えて、粒子径のある顔料の割合が減ることで、接合部40に万遍なく染料が残ったこと、また、継手端側領域41に押し出される顔料が減ったことによる。一方、顔料のみの比較例1は、b値の差分Δbが3.5を超える値であった(評価「×」)。これは、顔料が継手端側領域41に押し出された一方、他の実施例のように管端側領域42に留まり、色むらを抑える染料を含まないためである。
【0076】
上記のように、本実施例では、顔料と染料に青色を用いているため、SCEとSCIによる色差ΔE、b値による差分Δbは、何れも同じ結果であった。この結果を合わせて表1の「視認性」に示している。
【0077】
なお、顔料及び染料が、黄色の場合もb値による差分Δbが3.5となることが望ましく、顔料及び染料が、赤色又は緑色の場合は、a値による差分Δaが3.5となることが望ましい。
【0078】
<接着性評価>
上記接合した管20と透明継手30に対し、水道管硬質ポリ塩化ビニル管の接着剤JWWA S101-2006の規格に基づいて、15分後と2時間後の接着力(MPa)を測定した。本規格では、15分後の接着力が1.25MPa以上、2時間後の接着力が2.5MPa以上で合格とした。
【0079】
測定の結果、何れの実施例も上記接着力を満たしていた。従って、結果は表1に示すように評価「○」であった。
【0080】
<まとめ>
上記評価試験の結果を参照すると、着色剤として顔料と染料の両方を含む発明例2~6は、塩ビシート染み出し性で、染料のみの比較例7に比べてすぐれている。また、発明例2~6は、視認性の点で、顔料のみの比較例1に比べてすぐれていることがわかる。
【0081】
また、発明例どうしを比較すると、顔料の割合が多くなるほど、塩ビシート染み出し性にすぐれ、また、染料の割合が多くなるほど、視認性にすぐれることがわかる。これら両方の特性を具備するには、顔料と染料は、質量比で80:20~50:50とすることが好適であることがわかる。
【0082】
上記実施例の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0083】
10 継手構造
20 樹脂管
30 透明継手
31 受口
40 接合部
41 継手端側領域
42 管端側領域
図1
図2
図3