(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090208
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】ガス発生器、及びガス発生器の固定構造
(51)【国際特許分類】
B60R 22/46 20060101AFI20240627BHJP
B01J 7/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B60R22/46 142
B01J7/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022205944
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 真也
(72)【発明者】
【氏名】福島 彬
(72)【発明者】
【氏名】水田 成海
【テーマコード(参考)】
3D018
4G068
【Fターム(参考)】
3D018MA02
4G068DA08
4G068DB14
(57)【要約】
【課題】確実かつ再現性の高い開口が可能なガス発生器を提供する。
【解決手段】前記点火器を取り囲んだ状態で保持する点火器保持部と、を有する点火装置と、前記点火装置の作動により燃焼するガス発生剤を収容する有底筒状のケースであって、基端側の開口部が前記点火器保持部に接続される側壁部と、前記側壁部の先端側を閉塞する閉塞部と、を有するケースと、を備え、前記閉塞部は、前記側壁部の先端側に接続され、基端側から先端側に向かって前記ケースの径方向内側へ収束するように傾斜する漏斗状に形成された環状傾斜部と、前記環状傾斜部の先端側と接続され、前記ケースの軸方向と直交し前記環状傾斜部の先端側を閉塞する蓋部と、を有し、前記閉塞部において、前記環状傾斜部と前記蓋部とが一体に形成され、前記蓋部は、前記環状傾斜部と接続される端部を除いた部分の厚さが、前記環状傾斜部の厚さよりも薄く形成されるように、構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火器と、前記点火器を取り囲んだ状態で保持する点火器保持部と、を有する点火装置と、
前記点火装置の作動により燃焼するガス発生剤を収容する有底筒状のケースであって、基端側の開口部が前記点火器保持部に接続される側壁部と、前記側壁部の先端側を閉塞する閉塞部と、を有するケースと、
を備え、
前記閉塞部は、
前記側壁部の先端側に接続され、基端側から先端側に向かって前記ケースの径方向内側へ収束するように傾斜する漏斗状に形成された環状傾斜部と、
前記環状傾斜部の先端側と接続され、前記ケースの軸方向と直交し前記環状傾斜部の先端側を閉塞する蓋部と、を有し、
前記閉塞部において、前記環状傾斜部と前記蓋部とが一体に形成され、
前記蓋部は、前記環状傾斜部と接続される端部を除いた部分の厚さが、前記環状傾斜部の厚さよりも薄く形成される、
ガス発生器。
【請求項2】
前記環状傾斜部は、前記ケースの径方向内側に位置する内面と、前記ケースの径方向外側に位置する外面と、を有し、
前記環状傾斜部の内面は、前記側壁部の側に接続され基端側に位置する内面基端部と、前記蓋部の側に接続され先端側に位置する内面先端部を有し、
前記環状傾斜部の外面は、前記側壁部の側に接続され基端側に位置する外面基端部と、前記蓋部の側に接続され先端側に位置する外面先端部を有し、
前記ケースの中心軸に沿う断面において、
前記中心軸と、前記環状傾斜部の前記内面基端部と前記内面先端部とを通る内面仮想直線と、が成す角度が、
前記中心軸と、前記環状傾斜部の前記外面基端部と前記外面先端部とを通る外面仮想直線と、が成す角度未満に構成される、
請求項1に記載のガス発生器。
【請求項3】
前記蓋部の体積が、前記環状傾斜部の体積以下である、
請求項1又は2に記載のガス発生器。
【請求項4】
前記蓋部は、基端側に位置する内面と、先端側に位置する外面と、を有し、
前記環状傾斜部は、前記ケースの径方向内側に位置する内面と、前記ケースの径方向外側に位置する外面と、を有し、
前記蓋部の内面と、前記環状傾斜部の内面と、前記蓋部の内面と前記環状傾斜部の内面との境界線と、で角が形成される、
請求項1又は2に記載のガス発生器。
【請求項5】
前記ケース全体が樹脂で形成されている、
請求項1又は2に記載のガス発生器。
【請求項6】
前記点火器保持部は、
前記点火器の外側を囲む金属製のカラーと、
前記カラーと前記点火器とに介在し、前記点火器を前記カラーに固定する樹脂製の固定部と、を含み、
前記ケースの基端側が、前記固定部に溶接されている、
請求項5に記載のガス発生器。
【請求項7】
前記環状傾斜部の内面は、前記側壁部と接続された基端側から前記蓋部と接続された先端側へ向かって、前記ケースの径方向内側に収束すると共に前記ケースの外側に向かって膨らんだドーム状の曲面を形成している、
請求項1又は2に記載のガス発生器。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のガス発生器と、前記ガス発生器の取付対象となる筒状部と、を備え、
前記筒状部は、前記ガス発生器が挿入される挿入口を有し、
前記ガス発生器は、前記ケースの前記側壁部と前記環状傾斜部とが前記筒状部の内壁面に対向し、且つ、前記蓋部が前記筒状部の内壁面とは対向しないように、前記挿入口に固定されており、
前記ガス発生器は、前記筒状部に取り付けて作動させた際に、前記ケースのうち前記蓋部のみが、前記ケース内に発生する圧力によって変形、開裂、焼尽、溶融の何れかを呈するように構成されている、
固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カップ形状の受容部分と、受容部分を閉じるカバーとを有する外部ハウジングを備え、作動時にカバー内のガス発生剤が燃焼することでカバー内の圧力が上昇し、カバーの一部が開裂することで燃焼ガスを排出するガス発生器が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガス発生器において、ガス発生器の作動により発生した燃焼ガスを排出する際に、カップの特定部位を開口させ燃焼ガスを排出する方法がある。上記の特許文献1には、カップに破裂線を設けることで、破裂線からカップを開口させ燃焼ガスを排出する構造が開示されているが、カップの厚みが一様であるためカップの破断時に破片が形成されやすかったり、燃焼ガスを開口する部分へ集中させにくいという問題がある。
【0005】
本開示の技術は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、確実かつ再現性の高い開口が可能なガス発生器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の技術は以下の構成を採用した。本開示のガス発生器は、点火器と、前記点火器を取り囲んだ状態で保持する点火器保持部と、を有する点火装置と、前記点火装置の作動により燃焼するガス発生剤を収容する有底筒状のケースであって、基端側の開口部が前記点火器保持部に接続される側壁部と、前記側壁部の先端側を閉塞する閉塞部と、を有するケースと、を備え、前記閉塞部は、前記側壁部の先端側に接続され、基端側から先端側に向かって前記ケースの径方向内側へ収束するように傾斜する漏斗状に形成された環状傾斜部と、前記環状傾斜部の先端側と接続され、前記ケースの軸方向と直交し前記環状傾斜部の先端側を閉塞する蓋部と、を有し、前記閉塞部において、前記環状傾斜部と前記蓋部とが一体に形成され、前記蓋部は、前記環状傾斜部と接続される端部を除いた部分の厚さが、前記環状傾斜部の厚さよりも薄く形成されるように、構成されている。
【0007】
また、上記のガス発生器において、前記環状傾斜部は、前記ケースの径方向内側に位置する内面と、前記ケースの径方向外側に位置する外面と、を有し、前記環状傾斜部の内面は、前記側壁部の側に接続され基端側に位置する内面基端部と、前記蓋部の側に接続され先端側に位置する内面先端部を有し、前記環状傾斜部の外面は、前記側壁部の側に接続され基端側に位置する外面基端部と、前記蓋部の側に接続され先端側に位置する外面先端部を有し、前記ケースの中心軸に沿う断面において、前記中心軸と、前記環状傾斜部の前記内面基端部と前記内面先端部とを通る内面仮想直線と、が成す角度が、前記中心軸と、前記環状傾斜部の前記外面基端部と前記外面先端部とを通る外面仮想直線と、が成す角度未満に構成されてもよい。
【0008】
また、上記のガス発生器において、前記蓋部の体積が、前記環状傾斜部の体積以下であってもよい。
【0009】
また、上記のガス発生器において、前記蓋部は、基端側に位置する内面と、先端側に位置する外面と、を有し、前記環状傾斜部は、前記ケースの径方向内側に位置する内面と、前記ケースの径方向外側に位置する外面と、を有し、前記蓋部の内面と、前記環状傾斜部の内面と、前記蓋部の内面と前記環状傾斜部の内面との境界線と、で角が形成されてもよい。
【0010】
また、上記のガス発生器において、前記ケース全体が樹脂で形成されてもよい。
【0011】
また、上記のガス発生器において、前記点火器保持部は、前記点火器の外側を囲む金属製のカラーと、前記カラーと前記点火器とに介在し、前記点火器を前記カラーに固定する樹脂製の固定部と、を含み、前記ケースの基端側が、前記固定部に溶接されていてもよい。
【0012】
また、上記のガス発生器において、前記環状傾斜部の内面は、前記側壁部と接続された基端側から前記蓋部と接続された先端側へ向かって、前記ケースの径方向内側に収束すると共に前記ケースの外側に向かって膨らんだドーム状の曲面を形成してもよい。
【0013】
また、本開示に係る技術は、上記までのガス発生器と、前記ガス発生器の取付対象となる筒状部と、を備え、前記筒状部は、前記ガス発生器が挿入される挿入口を有し、前記ガス発生器は、前記ケースの前記側壁部と前記環状傾斜部とが前記筒状部の内壁面に対向し、且つ、前記蓋部が前記筒状部の内壁面とは対向しないように、前記挿入口に固定されており、前記ガス発生器は、前記筒状部材に取り付けて作動させた際に、前記ケースのうち前記蓋部のみが、前記ケース内に発生する圧力によって変形、開裂、焼尽、溶融の何れかを呈するように構成されている、ガス発生器の固定構造であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、確実かつ再現性の高い開口が可能なガス発生器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施形態1に係るガス発生器の斜視図である。
【
図2】
図2は、取付対象に取り付けられた実施形態1に係るガス発生器の軸方向に沿った概略断面図である。
【
図5】
図5は、実施形態1に係るガス発生器の正常作動後の状態を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、実施形態1の変形例に係るガス発生器の斜視図である。
【
図7】
図7は、取付対象に取り付けられた実施形態1の変形例に係るガス発生器の軸方向に沿った概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本開示の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0017】
<実施形態1>
[装置構成]
図1は、実施形態1に係るガス発生器1の斜視図である。
図1は、ガス発生器1の作動前の状態を示している。また、
図2は、取付対象の筒状部100に取り付けられたガス発生器1の軸方向に沿った概略断面図である。軸に沿う方向をガス発生器1の高さ方向(上下方向)とする。更に、ガス発生器1の高さ方向において、点火装置2側を基端側(下側)とし、ケース3側を先端側(上側)とする。ガス発生器1は、作動すると内部のガス発生剤4を燃焼させ、生成された燃焼ガスを外部に放出する。
図2に示すように、ガス発生器1は、例えば自動車のシートベルトリトラクター(プリテンショナ)10に組み込まれ、自動車の衝突時にシートベルトを巻き取るために用いられる。また、ガス発生器1は、点火装置2と、ケース3とを備え、内部にガス発生剤4を収容する。但し、本明細書においてガス発生器1の高さ方向(上下方向)、基端側(下側)、先端側(上側)、径方向外側、径方向内側とは、実施形態の説明の便宜上、ガス発生器1における各要素における相対的な位置関係を示すものに過ぎない。
【0018】
[点火装置]
点火装置2は、点火電流により着火する点火器21と、点火器21を支持する点火器保持部22と、点火器21及び点火器保持部22の間に介装される固定部23とを含む。
【0019】
点火器21は、例えば一端が開口した有底筒状のカップ体211と、絶縁層212と、カップ体211の開口部を閉塞する封止部材213と、カップ体211及び封止部材213によって形成される点火室に収容される点火薬214と、外部から電流の供給を受けるための2つの導電ピン215とを有する。なお、本実施形態では、便宜上、カップ体211側を上、導電ピン215側を下として説明する。2つの導電ピン215は、点火室内においてブリッジワイヤー(図示せず)を介して接続されている。導電ピン215が外部から電流の供給を受けると、抵抗体であるブリッジワイヤーが発熱して点火薬214を燃焼させる。なお、点火薬214は、一般的なガス発生器に用いられる既存のものを採用することができる。カップ体211は、例えば樹脂製の絶縁層212で覆われた金属製の部材である。また、封止部材213も例えば金属製であり、一対の導電ピン215の間は絶縁されているものとする。カップ体211は、上面に例えば放射状のノッチ(図示せず)を有し、点火器21の作動時においては、点火薬214の燃焼生成物により開裂して上方へ火炎や燃焼ガス等の燃焼生成物が放出される。
【0020】
点火器保持部22は、本実施形態では、点火器21の側方を支持する金属製カラーである。すなわち、点火器保持部22は、筒状に形成されており、その内側に点火器21を保持する。なお、点火器保持部22に対する固定部23の周方向の回転を抑制するために、固定部23と接触する点火器保持部22の内周面には凹凸が設けられていてもよい。また、点火器保持部22は、例えばシートベルトリトラクター本体である取付対象の筒状部100に対してかしめによって固定される。筒状部100は、ガス発生器1を挿入可能な挿入孔を有する筒状の部材である。但し、点火器保持部22の部材は限定されず、例えば材料が金属以外であってもよい。
【0021】
固定部23は、点火器21と点火器保持部22との間に射出成形にて介装され、点火器保持部22に対して点火器21を固定する樹脂製の固定部である。固定部23の材料としては、硬化後において耐熱性や耐久性、耐腐食性等に優れた樹脂材料を好適に利用することができる。
図2の例では、固定部23は、上側に位置し点火器21のカップ体211等を固定する第1固定部231と、下側に位置し主として一対の導電ピン215を取り囲む第2固定部232とを含む。固定部23は、例えばカップ体211又は絶縁層212の一部が固定部23から露出した状態となるように、点火器21の側方の周囲を覆う。なお、絶縁層212を省略して固定部23によってカップ体211全体がオーバーモールドされ
ていてもよい。また、固定部23は、点火器保持部22の内側と係合することで、点火器保持部22に対して点火器21を固定する。また、第2固定部232は、点火器保持部22の内側に、一対の導電ピン215に外部電源からの電力を供給するためのコネクタ5を導電ピン215と接続した状態で固定するようにしてもよい。
【0022】
[ケース]
ケース3は、点火装置2の上部を取り囲むようにして基端側から先端側に向かって延在する有底筒状の部材である。実施形態1に係るケース3の材料は樹脂である。ケース3は、上端を閉塞する閉塞部31と、上下に延在する筒状の側壁部32と、を含む。また、ケース3と点火器21との間には、ガス発生剤4を収容する燃焼室6が形成される。ガス発生剤4は、点火器21の作動により着火され、燃焼して燃焼ガス等の燃焼生成物を発生させる。但し、ケース3の材料は樹脂に限定されるものではなく、アルミ部材などの金属であってもよく、またこれらに限定されるものではない。
【0023】
閉塞部31は、小径円の部分が閉塞された円錐台形状(漏斗状)に形成されている。詳しくは、閉塞部31は、上下方向に延在する側壁部32の先端側に接続され、基端側から先端側に向かってケース3の径方向の内側へ向かって収束するように傾斜する環状傾斜部311と、環状傾斜部311の先端側と接続されケース3の軸方向と直交し環状傾斜部311の先端側を閉塞する蓋部312と、を有する。また、環状傾斜部311と蓋部312は一体に形成されている。
【0024】
図3は、実施形態1に係るガス発生器1の閉塞部31の近傍を説明する
図2の部分拡大図を示している。環状傾斜部311は、ケース3の径方向外側に位置する外面311Fと、ケース3の径方向内側に位置する内面311Bと、で構成されている。また、蓋部312は、先端側に位置する外面312Fと、基端側に位置する内面312Bと、で構成されている。また、
図3にはケース3の中心軸Cを示している。本実施形態では、環状傾斜部311の外面311Fの先端部を外面先端部311FNと称し、基端部を外面基端部311FEと称する。また、環状傾斜部311の内面311Bの先端部を内面先端部311BNと称し、基端部を内面基端部311BEと称する。環状傾斜部311は円錐台形状であり、外面先端部311FN、外面基端部311FE、内面先端部311BN、内面基端部311BEの何れも中心軸Cを中心とした円形状である。また、先述の外面先端部311FNと外面基端部311FEとを通る仮想直線である外面仮想直線FLと、中心軸Cと、によって角度dFが成されている。また、内面先端部311BNと内面基端部311BEとを通る仮想直線である内面仮想直線BLと、中心軸Cと、によって角度dBが成されている。本実施形態ではdBがdF未満となるように構成されており、基端側から先端側へ向かって環状傾斜部311の厚さが減少する構成となっている。これにより、ケース3内部の容積を増やすことができ、ガス発生剤4の効率的な充填や燃焼に寄与できる。また、点火装置2の作動によって燃焼したガス発生剤4から発生する燃焼ガスの移動経路において、環状傾斜部の内面311Bに沿った直線的なガスの流れを円周方向の何れの部分においても促すことになり、内面先端部311BN側や蓋部の内面312Bへ燃焼ガスをスムーズに導き、蓋部312以外の箇所の割れを防止することや、蓋部312が開裂する際の確実性向上や再現性向上に寄与することができる。なお、本実施形態では、環状傾斜部311は、蓋部312に近くなるほど徐々に厚みが薄くなる実施形態を示したが、蓋部312の厚さが、環状傾斜部311の何れの部分よりも薄い構成であれば、環状傾斜部311は一定の厚みでもよい。
【0025】
蓋部312は円形平板で構成されている。
図3では、蓋部312が、環状傾斜部311と接続された端部を除いて、均一な厚さt1の円形平板で構成されている態様を示している。また、環状傾斜部311は、基端側から先端側に向かってケース3の径方向の内側へ向かって収束するように傾斜する漏斗形状で構成されている。環状傾斜部311は、先述
のように基端側から先端側へ向かって厚さが減少する構成となっている。実施形態1での環状傾斜部311の最薄部分である、環状傾斜部の外面先端部311FNと、環状傾斜部の内面先端部311BNとの間の厚さは、厚さt2で示されている。また、蓋部312の厚さt1は環状傾斜部311の厚さt2よりも薄く(つまり、t1<t2)形成されている。そのため、蓋部312の方が環状傾斜部311よりも強度が低くなっており、ガス発生器1の作動時に蓋部312が優先的に開裂する。蓋部312は、ケース3の内圧の上昇により、又はガス発生剤4の燃焼により生じる燃焼生成物の温度により開裂する。これによって、ケース3は、ガス発生剤の燃焼時に閉塞部31の最も先端側である蓋部312が開裂して、発生したガスを蓋部312から外部へ排出する。但し、蓋部312の厚さt1を、ケース3における側壁部32の厚さよりも薄くして、蓋部312をケース3における最も脆弱な部位としてもよい。
【0026】
閉塞部31は、蓋部312の体積が環状傾斜部311の体積以下となるように形成されている。
図4は
図2の拡大図であって、体積の計算に用いる寸法を図示している。実施形態1では、以下のように体積を求めている。蓋部312の体積をV1とすると、体積V1は、例えば蓋部の外面312Fの表面積に厚さt1を掛けた値として算出できる。蓋部の外面312Fの面積は中心軸Cから蓋部312の円周縁部までの距離b1(つまり、蓋部の外面312Fの半径)を用いて計算する。V1は、以下の数式(1)により表すことができる。但し、上記の計算では、蓋部の外面312Fの代わりに内面312Bの値を求めてもよい。
【数1】
また、環状傾斜部311の体積V4は、環状傾斜部の外面311Fによって形成される円錐台の体積V2から、環状傾斜部311の内面311Bによって形成される円錐台の体積V3を引くことで計算される。V4は以下の数式(2)により表すことができる。
【数2】
環状傾斜部の外面311Fによって形成される円錐台の体積V2は、中心軸Cから環状傾斜部311の外面基端部311FEまでの距離a2と、中心軸Cから環状傾斜部311の外面先端部311FNの距離b2を用いて計算する。V2は、以下の数式(3)により表すことができる。
【数3】
また、環状傾斜部311の内面311Bによって形成される円錐台の体積V3は、中心軸Cから環状傾斜部311の内面基端部311BEまでの距離a3と、中心軸Cから環状傾斜部311の内面先端部311BNの距離b3を用いて計算する。V3は、以下の数式(4)により表すことができる。
【数4】
以上の計算より環状傾斜部311の体積V4が求められる。本開示では、蓋部312の体積V1が環状傾斜部311の体積V4以下になるように構成されている。
【0027】
蓋部312と環状傾斜部311では、蓋部312の内面312Bと、環状傾斜部311の内面311Bと、蓋部の内面312Bと環状傾斜部の内面311Bとの境界線と、で角が形成されている。角が形成されているとは、互いに接続される二面の境界で線が形成されることを意味する。本実施形態では、当該境界線は、内面先端部311BNと蓋部の内面312Bが接続された円周部として形成されている。これにより、ガス発生器1の作動時に発生した燃焼ガスによる応力を当該境界線に集中させ、蓋部312の開裂を促すことができる。更に、環状傾斜部311の内面311Bと、蓋部の内面312Bと環状傾斜部の内面311Bとの境界線と、に燃焼ガスによる応力を集中させる場合、当該境界線部分の厚さを先述の厚さt1及び厚さt2よりも薄くなるように形成してもよい。
【0028】
側壁部32は、筒状部材によって構成されている。実施形態1では側壁部32の外側に取付対象の筒状部100に対する後述する位置決めの段差を構成するために、第1側壁部321の外径よりも第2側壁部322の外径が大きく構成されている。また、側壁部32の基端側は、例えば全周溶接により、固定部23に接続される。全周溶接とは、周方向に連続した環状の溶接であり、溶接対象の2つの部材間を隙間なく閉塞させることをいう。
【0029】
また、ケース3の側面は、取付対象の筒状部100の径方向内側に沿った形状になっている。また、筒状部100の径方向内側の形状は、先述のケース3の側壁部32における第1側壁部321と第2側壁部322の外形の差によって形成された位置決めの段差と対応する形状となっており、ガス発生器1を筒状部100の挿入口101へ挿入される際に、筒状部100の内部でガス発生器1が必要以上に先端側へ押し込まれることを抑制している。また、図示していないが、ガス発生器1を筒状部100に対して取り付ける際の位置決め構造や、ガス発生器1を筒状部100に対して取り付けた後のガス発生器1の回転防止構造を設けてもよい。当該位置決め構造や回転防止構造をより詳しく述べると、ガス発生器1の何れかの部分(例えば、筒状部100と対向する点火器保持部22や、ケース3の側壁部32)に形成された凹凸と、筒状部100の内周面の何れかの部分に形成された凹凸と、が互いに嵌合する構造であってもよい。これによって、ケース3は、ガス発生器1の取付対象の筒状部100に嵌合する。本実施形態では、ケース3の側壁部32、及びケース3の閉塞部31の環状傾斜部311は、取付対象の筒状部100の内壁面に対向し周囲を包囲されているが、蓋部312は筒状部100の内壁面に対向しないように取付対象の筒状部100の挿入口101に固定されている。また、取付対象の筒状部100の内側はケース3の外側の形状に対応する形状になっているため、ケース3の内圧が上昇した場合であってもケース3の側面である側壁部32や、環状傾斜部311は開裂が抑止される。また、ケース3には先述の位置決めの段差が形成されているため、ケース3の内圧が上昇した場合にガス発生器1やケース3の全体が上方に射出されることが抑止される。
【0030】
ガス発生器1を筒状部100に取り付けた状態では、筒状部100の内壁面とケース3の側壁部32及び環状傾斜部311は、互いに隙間なく当接していてもよい。しかし、クリアランスの観点からそのような設計は難しいため、筒状部100の内壁面とケース3の側壁部32、及び環状傾斜部311の間に例えば0.5mmや1mm程のわずかな隙間を形成した状態で配置させておいてもよい。これにより、作動時に燃焼ガスによる圧力でケース3の変形が発生した場合でも、当該隙間以上の変形を阻止できる。この場合、ガス発生器1の作動時にケース3の変形によって側壁部32が筒状部100の内壁面に当接してそれ以上の変形が阻止される一方で、筒状部100の内壁面で規制されていない蓋部312のみに荷重がかかり、蓋部312が開裂しやすくもなる。
【0031】
[ガス発生剤]
ガス発生剤4には、所定のガス発生剤が用いられる。ガス発生剤4の燃焼温度は、例えば1000~1700℃である。ガス発生剤4は、例えば、硝酸グアニジン(41重量%)、塩基性硝酸銅(49重量%)及びバインダーや添加物によって形成される。ガス発生剤4の個々の形状は、単孔円柱状のものを用いることができる。なお、ガス発生剤4は上記のものに限定されず、ガス発生剤4にニトロセルロース系の組成を使用することもできる。
【0032】
[動作]
ガス発生器1が例えば自動車のシートベルトリトラクター10に組み付けられた状態では、コネクタ5(導線は図示せず)が2つの導電ピン215と接続されており、点火器21に対して給電可能になっている。この状態で、自動車等に搭載されたセンサ(図示せず)が衝撃を感知すると、導電ピン215に着火電流が供給され、点火器21が作動する。点火器21は、カップ体211内の点火薬214を燃焼させ、その燃焼生成物をカップ体211の外部に放出させる。また、点火薬214の燃焼生成物である火炎や燃焼ガスにより、燃焼室6に充填されたガス発生剤4が着火する。ガス発生剤4は、燃焼することで燃焼生成物として燃焼ガス等を生成する。
【0033】
ケース3の側面(側壁部32)は取付対象の筒状部100によって全周にわたり包囲されており、取付対象の内面はケース3の側面に対応する形状になっているため、ケース3の内圧が上昇した場合であってもケース3の側面は開裂が抑止される。また、ケース3の外径が基端側よりも先端側が小さくなった部分を含むため、ケース3の内圧が上昇した場合にケース3の全体が上方に射出されることが抑止される。よって、ケース3の内圧が上昇した場合、専ら閉塞部31の蓋部312が開裂し開口が形成される。また燃焼生成物の温度によってケース3の溶融が発生しても、優先的に溶融する部位は強度が低い蓋部312又はその一部に限られる。このため、ケース3のうち蓋部312以外の部分が小片となって飛散することは抑止される。つまり、開裂部分である蓋部312(開裂部分である蓋部312の体積)を小さく抑えることで、作動時の破片の発生を抑制すると共に、仮に破片が発生したときであってもその大きさを小さくすることができる。
【0034】
また、開口からは、燃焼ガスが、例えば取付対象であるシートベルトリトラクター10の内部へ排出される。そして、排出された燃焼ガスは、シートベルトリトラクター10が有する所定の機構を動作させる。なお、シートベルトリトラクター10は既存の構成を採用することができる。例えば、ガス発生器1はシートベルトリトラクター10の一部であるパイプの一端に接続され、燃焼ガスの圧力によりパイプ内の鋼球を移動させる。また、移動する鋼球によってギアを回転させ、ギアの回転を動力にしてシートベルトを巻き取ることでシートベルトリトラクター10はシートベルトにプリテンションをかける。このとき、ガス発生器1は、パイプが延在する閉塞部31の先端側に蓋部312を有し、側壁部32及び環状傾斜部の内面311Bが蓋部312側へ発生したガスを誘導する形状になっているため、蓋部312の方向に向けて排出するガスの流れを集中させることができ、効率的にシートベルトリトラクター10へ力を伝達させることができる。
【0035】
図5では、ガス発生器1を筒状部100に取り付けて正常に動作した後のガス発生器1を示している。ガス発生器1を筒状部100に取り付けて正常作動させた場合、ケース3は、蓋部312が開裂した後、燃焼ガスをシートベルトリトラクター10に排出する。本実施形態に係る蓋部312は、ケース3内に発生した圧力によって蓋部312のみが開裂するように構成されている。また、ガス発生器1を筒状部100に装着せずに作動させた場合、ケース3の材質や強度によっては環状傾斜部311や側壁部32等の部分が作動圧力に耐えられない場合が考えられる。しかし、そのような場合であっても本開示の技術を有するガス発生器を筒状部材と組み合わせることで、開裂時のケース3の飛散を抑制でき
る。本実施形態ではケース3内に発生した圧力によって蓋部312が開裂したが、本開示に係る技術はこれに限定されない。本開示に係る技術は、ケース内に発生した圧力によって蓋部312のみが変形、開裂、焼尽、溶融の何れかを呈するように構成されてもよい。いずれの場合も環状傾斜部311を有することで、蓋部312の開裂が促進される。
【0036】
<実施形態1の変形例>
図6は、実施形態1の変形例に係るガス発生器1Aの斜視図である。
図6は、ガス発生器1Aの作動前の状態を示している。また、
図7は、取付対象の筒状部100Aに取り付けられたガス発生器1Aの軸方向に沿った概略断面図である。本変形例では、閉塞部31Aにおいて、環状傾斜部311Aが、側壁部32と接続された基端側から蓋部312Aと接続された先端側に向かって、ケース3Aの径方向内側に収束すると共にケース3Aの外側に向かって膨らんでいるドーム状の曲面を形成している。また、ガス発生器1Aを構成する部材のうち、ガス発生器1と共通する部材については同一の符号を付すことで、詳細な説明は割愛する。
【0037】
ケース3Aは、点火装置2の上部を取り囲むようにして基端側から先端側に向かって延在する有底筒状の部材である。実施形態1の変形例に係るケース3Aの材料は樹脂である。但し、ケース3Aの材料は樹脂に限定されるものではなく、アルミ部材などの金属であってもよく、またこれらに限定されるものではない。
【0038】
閉塞部31Aは、小径円の部分が閉塞されたドーム形状に形成されている。詳しくは、閉塞部31Aは、上下方向に延在する側壁部32の先端側に接続され、基端側から先端側に向かってケース3Aの径方向の内側へ向かって収束するすると共にケース3Aの外側に向かって膨らんでいるドーム状の曲面を形成している環状傾斜部311Aと、環状傾斜部311Aの先端側と接続されケース3の軸方向と直交し環状傾斜部311Aの先端側を閉塞する蓋部312Aと、を有する。また、環状傾斜部311Aと蓋部312Aは一体に形成されている。
【0039】
図8には、実施形態1の変形例に係るガス発生器の閉塞部31A近傍を説明する
図7の部分拡大図を示している。環状傾斜部311Aは、ケース3Aの径方向外側に位置する外面311FAと、ケース3の径方向内側に位置する内面311BAと、で構成されている。また、蓋部312Aは、先端側に位置する外面312FAと、基端側に位置する内面312BAと、で構成されている。本実施形態では、環状傾斜部311Aの外面311FAの先端部を外面先端部311FNAと称し、基端部を外面基端部311FEAと称する。また、環状傾斜部311Aの内面311BAの先端部を内面先端部311BNAと称し、基端部を内面基端部311BEAと称する。環状傾斜部311Aはドーム形状であり、外面先端部311FNA、外面基端部311FEA、内面先端部311BNA、内面基端部311BEAの何れも中心軸Cを中心とした円形状である。また、先述の外面先端部311FNAと外面基端部311FEAとを通る仮想直線である外面仮想直線FLAと、中心軸Cと、によって角度dFAが成されている。また、内面先端部311BNAと内面基端部311BEAとを通る仮想直線である内面仮想直線BLAと、中心軸Cと、によって角度dBAが成されている。本実施形態ではdBAがdFA未満となるように構成されており、環状傾斜部311Aは、基端側から先端側へ向かって厚さが減少する構成となっている。これにより、ケース3A内部の容積を増やすことができ、ガス発生剤4の効率的な充填や燃焼に寄与できる。また、点火装置2の作動によって燃焼したガス発生剤4から発生する燃焼ガスの移動経路において、環状傾斜部の内面311BAに沿った、なだらかなガスの流れを促すことになり、内面先端部311BNA側や蓋部の内面312BAへスムーズに導き、蓋部312A以外の箇所の割れを防止することや、蓋部312Aが開裂する際の確実性向上や再現性向上に寄与することができる。なお、本実施形態の変形例では、環状傾斜部311Aは、蓋部312Aに近くなるほど徐々に厚みが薄くなる実施形態を示し
たが、蓋部312Aの厚さが、環状傾斜部311Aの何れの部分よりも薄い構成であれば、環状傾斜部311Aは一定の厚みでもよい。
【0040】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0041】
1、1A :ガス発生器
2 :点火装置
21 :点火器
211 :カップ体
212 :絶縁層
213 :封止部材
214 :点火薬
215 :導電ピン
22 :点火器保持部
23 :固定部
231 :第1固定部
232 :第2固定部
3 :ケース
31 :閉塞部
311、311A :環状傾斜部
312、312A :蓋部
32 :側壁部
321 :第1側壁部
322 :第2側壁部
4 :ガス発生剤
5 :コネクタ
6 :燃焼室
10 :シートベルトリトラクター
100、100A :筒状部(取付対象)