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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090282
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】最適化方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/20 20200101AFI20240627BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20240627BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F30/10 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206071
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 ▲琢▼也
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146DC01
5B146DC04
5B146DJ02
5B146DJ11
5B146EA11
(57)【要約】
【課題】目標となる荷重変位関係を満たす構造物のトポロジーを得る。
【解決手段】最適化装置10は、参照点との間の距離が表す範囲内に構造物の要素が存在していることを表す存在範囲距離ベクトルを設定する。最適化装置10は、存在範囲距離ベクトルの初期値又は更新された存在範囲距離ベクトルの各成分が表す距離に基づいて構造物のトポロジーの候補を決定する。最適化装置10は、構造物のトポロジーの候補に基づいて、構造解析シミュレーションを実行することにより、構造物のトポロジーの候補の荷重変位関係ベクトルを計算する。最適化装置10は、荷重変位関係ベクトルと目標荷重変位関係ベクトルとの間の誤差ベクトルを計算する。最適化装置10は、誤差ベクトルが小さくなるように、存在範囲距離ベクトルを更新する。最適化装置10は、構造物のトポロジーの候補の決定、誤差ベクトルの計算、及び新たな存在範囲距離ベクトルの計算を繰り返し、構造物のトポロジーを取得する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標となる荷重変位関係を満たす構造物のトポロジーを最適化する最適化方法であって、
対象となる設計空間内において複数の参照点を設定し、
前記複数の参照点の各々との間の距離を表す変数を各成分として持ち、かつ前記参照点との間の距離が表す範囲内に前記構造物の要素が存在していることを表す存在範囲距離ベクトルの初期値を設定し、
前記存在範囲距離ベクトルの初期値又は更新された前記存在範囲距離ベクトルの各成分が表す前記距離に基づいて、前記構造物のトポロジーの候補を決定し、
前記構造物のトポロジーの候補に基づいて、所定の構造解析シミュレーションを実行することにより、前記構造物のトポロジーの候補の荷重変位関係を表すベクトルであって、かつ変位に対応する荷重を各成分として持つ荷重変位関係ベクトルを計算し、
前記荷重変位関係ベクトルと、目標となる荷重変位関係を表す目標荷重変位関係ベクトルとの間の誤差ベクトルを計算し、
前記誤差ベクトルが小さくなるように、前記存在範囲距離ベクトルを更新することにより、新たな前記存在範囲距離ベクトルを計算し、
前記構造物のトポロジーの候補の決定、前記誤差ベクトルの計算、及び新たな前記存在範囲距離ベクトルの計算を繰り返し、
所定の条件が満たされた場合に、前記存在範囲距離ベクトルの各成分が表す前記参照点からの前記距離の範囲内に前記構造物の要素が存在している前記構造物のトポロジーを取得する、
処理をコンピュータが実行する最適化方法。
【請求項2】
前記誤差ベクトルが小さくなるように新たな前記存在範囲距離ベクトルを更新する際に、
前記誤差ベクトルの前記存在範囲距離ベクトルに対する偏微分行列を生成し、
前記偏微分行列の特異値分解を実行することにより、特異値分解結果を生成し、
前記特異値分解結果のうちの部分行列から所定の低次モードに対応する部分行列を生成し、
生成された前記部分行列と前記誤差ベクトルとに基づいて、誤差縮小のための前記存在範囲距離ベクトルに対する第1修正ベクトルを生成し、
前記特異値分解結果のうちの部分行列から所定の高次モードに対応する部分行列を生成し、
生成された前記部分行列と前記存在範囲距離ベクトルとに基づいて、ノイズ除去のための前記存在範囲距離ベクトルに対する第2修正ベクトルを生成し、
前記存在範囲距離ベクトルと前記第1修正ベクトルと前記第2修正ベクトルとに基づいて、新たな前記存在範囲距離ベクトルを計算する、
請求項1に記載の最適化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最適化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、材料ヤード縮減級数展開に基づく構造トポロジー最適化に関する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。この方法は、従来の密度方法によるトポロジー最適化は設計変数が多すぎることによる、相対的密度や感度フィルタリング措置などが必要となることによる計算効率の低下の問題を解決する。
【0003】
また、構造設計のトポロジー進化最適化演算法が知られている(例えば、特許文献2を参照)。この方法は、公知の最適化構造設計に存在するメッシュ依頼性の問題を克服可能であり、しかも最適化された構造は平滑な幾何学境界を備えている。
【0004】
また、表面展開可能性制約を使用して、展開可能表面を有する構造を設計するための方法が知られている(例えば、特許文献3を参照)。
【0005】
また、トポロジー最適化技術として、均質化法に基づくトポロジー最適化(例えば、非特許文献1を参照。)、密度法に基づくトポロジー最適化(例えば、非特許文献2を参照。)、及びレベルセット法に基づくトポロジー最適化(例えば、非特許文献3を参照。)が知られている。
【0006】
また、荷重変位関係を目標とするダンパーの寸法最適化及びダンパーの形状最適化に関する技術が知られている(例えば、非特許文献4,5を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2021-516801号公報
【特許文献2】特開2008-186440号公報
【特許文献3】特開2021-125257号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Bendsoe, Martin Philip, Kikuchi, Noboru Generating optimal topologies in structural design using a homogenization method, Computer Methods in Applied Mechanics and Engineering Open Access Volume 71, Issue 2, Pages 197 - 224November 1988
【非特許文献2】Bendsoe, Martin Philip: Optimal shape design as a material distribution problem; Structural Optimization, Vol.1, No.4, pp.193-202, 1989
【非特許文献3】J. A. Sethian, A. Wiegmann: Structural boundary design via level-set and immersed interface methods; Journal of Computational Physics, Vol.163, No.2, pp.489-528, 2000
【非特許文献4】稲葉澄,鈴木琢也,「ウェブ開口の導入によるせん断パネル型ダンパーの塑性変形性能の制御」,日本建築学会学術講演会梗概集,pp329-330,2021
【非特許文献5】鈴木琢也,「ウェブ面外不整形状の導入によるせん断パネル型ダンパーの力学特性の制御に関する解析的検討」,日本建築学会構造系論文集,Vol.84, No.765, pp.1401-1409, 2019.11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
構造物の形状を設計する際には、その構造物の性能を最大限に高めるような最適な形状を探索する必要がある。構造物の形状を探索する方法としては、上記特許文献1~3に開示されているようなトポロジー最適化が知られている。
【0010】
このトポロジー最適化は、部材の幅等を表す寸法自体を設計変数とする「寸法最適化」又は部材の外形線を設計変数とする「形状最適化」とは異なり、設計対象とする空間における要素の分布を設計変数とする自由度の高い最適化手法である。
【0011】
図11は、寸法最適化と形状最適化とトポロジー最適化との間の差異を説明するための図である。
【0012】
図11(A)に示されるように、寸法最適化では、構造物の部材B1の寸法が設計変数とされ、その設計変数が調整されることにより、構造物が備える部材B1の寸法が最適化される。
【0013】
また、図11(B)に示されるように、形状最適化では、部材B2の形状を表すパラメータが設計変数とされ、その設計変数が調整されることにより、構造物が備える部材B2の形状が最適化される。
【0014】
一方、図11(C)に示されるように、トポロジー最適化では、構造物の部材B3を構成している要素の分布そのものが探索され、部材B3の中に穴又は空隙を設けるといった形状の探索も可能となる。このため、近年、トポロジー最適化は、部材の軽量化等に多く利用されている。
【0015】
その一方で、トポロジー最適化の目的関数は、剛性の最大化又は材料効率の最大化など単一の目標値であることが多い。これは、部材が弾性範囲内であることを前提にした最適化といえる。しかしながら、ダンパー等の塑性化を許容した部材設計では剛性だけではなく、荷重変位関係についても設計的な要求があり、これを満たした上での効率的な形状探索が必要となる。
【0016】
特許文献1-2及び非特許文献1-3の技術は、トポロジー最適化に関する技術であるものの、荷重変位関係については考慮されていない。また、非特許文献4-5の技術は、荷重変位関係を考慮した形状最適化に関する技術であり、トポロジー最適化に関する技術ではない。
【0017】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、目標となる荷重変位関係を満たす構造物のトポロジーを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明の最適化方法は、目標となる荷重変位関係を満たす構造物のトポロジーを最適化する最適化方法であって、対象となる設計空間内において複数の参照点を設定し、前記複数の参照点の各々との間の距離を表す変数を各成分として持ち、かつ前記参照点との間の距離が表す範囲内に前記構造物の要素が存在していることを表す存在範囲距離ベクトルの初期値を設定し、前記存在範囲距離ベクトルの初期値又は更新された前記存在範囲距離ベクトルの各成分が表す前記距離に基づいて、前記構造物のトポロジーの候補を決定し、前記構造物のトポロジーの候補に基づいて、所定の構造解析シミュレーションを実行することにより、前記構造物のトポロジーの候補の荷重変位関係を表すベクトルであって、かつ変位に対応する荷重を各成分として持つ荷重変位関係ベクトルを計算し、前記荷重変位関係ベクトルと、目標となる荷重変位関係を表す目標荷重変位関係ベクトルとの間の誤差ベクトルを計算し、前記誤差ベクトルが小さくなるように、前記存在範囲距離ベクトルを更新することにより、新たな前記存在範囲距離ベクトルを計算し、前記構造物のトポロジーの候補の決定、前記誤差ベクトルの計算、及び新たな前記存在範囲距離ベクトルの計算を繰り返し、所定の条件が満たされた場合に、前記存在範囲距離ベクトルの各成分が表す前記参照点からの前記距離の範囲内に前記構造物の要素が存在している前記構造物のトポロジーを取得する、処理をコンピュータが実行する最適化方法である。これにより、目標となる荷重変位関係を満たす構造物のトポロジーを得ることができる。
【0019】
本発明では、前記誤差ベクトルが小さくなるように新たな前記存在範囲距離ベクトルを更新する際に、前記誤差ベクトルの前記存在範囲距離ベクトルに対する偏微分行列を生成し、前記偏微分行列の特異値分解を実行することにより、特異値分解結果を生成し、前記特異値分解結果のうちの部分行列から所定の低次モードに対応する部分行列を生成し、生成された前記部分行列と前記誤差ベクトルとに基づいて、誤差縮小のための前記存在範囲距離ベクトルに対する第1修正ベクトルを生成し、前記特異値分解結果のうちの部分行列から所定の高次モードに対応する部分行列を生成し、生成された前記部分行列と前記存在範囲距離ベクトルとに基づいて、ノイズ除去のための前記存在範囲距離ベクトルに対する第2修正ベクトルを生成し、前記存在範囲距離ベクトルと前記第1修正ベクトルと前記第2修正ベクトルとに基づいて、新たな前記存在範囲距離ベクトルを計算する、ようにしてもよい。これにより、構造物のトポロジー候補に含まれるノイズを除去しつつ、目標となる荷重変位関係を満たす構造物のトポロジーを得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、目標となる荷重変位関係を満たす構造物のトポロジーを得ることができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態に係る最適化装置の構成の一例を示すブロック図である。
図2】本実施形態の最適化装置のコンピュータの構成例を示す図である。
図3】本実施形態における設計空間と存在範囲距離ベクトルとを説明するための図である。
図4】本実施形態の処理の流れを説明するための図である。
図5】本実施形態に係る最適化処理ルーチンの一例を示す図である。
図6】シミュレーション実験の内容を説明するための図である。
図7】シミュレーション実験の結果を表す図である。
図8】シミュレーション実験の結果を表す図である。
図9】シミュレーション実験の結果を表す図である。
図10】シミュレーション実験の結果を表す図である。
図11】寸法最適化と形状最適化とトポロジー最適化との間の差異を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0023】
<本実施形態に係る最適化装置の構成>
【0024】
図1に、本発明の実施形態に係る最適化装置10の構成の一例を示す。最適化装置10は、機能的には、図1に示されるように、データ受付部12、コンピュータ14、及び出力部16を含んだ構成で表すことができる。
【0025】
本実施形態の最適化装置10は、構造物のトポロジー最適化を実行することにより、設計者による構造物の設計を支援する。
【0026】
なお、本実施形態において、「最適化する」、「最適化された設計変数」、又は「最適解」等の表現が用いられている場合には、これら「最適」の表現は、最適な状態に近づけることにより得られるものを意味することに留意されたい。このため、ある誤差が最小となるようなパラメータを得ようとする場合、最適化により得られたパラメータは、当該誤差が最小となるような大局解ではなく、局所解である場合も想定されることに留意されたい。
【0027】
以下、具体的に説明する。
【0028】
データ受付部12は、各種データを受け付ける。具体的には、データ受付部12は、構造物に関するデータ、構造シミュレーションを実行するための構造シミュレーションモデルを表すデータ、及び目標となる荷重変位関係を表すデータ等を受け付ける。これらのデータは、ユーザによって予め設定される。
【0029】
コンピュータ14は、CPU(Central Processing Unit)、各処理ルーチンを実現するためのプログラム等を記憶したROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)、記憶手段としてのメモリ、ネットワークインタフェース等を含んで構成されている。コンピュータ14は、図2に示されるように、CPU51、一時記憶領域としてのメモリ52、及び不揮発性の記憶部53を備える。また、コンピュータ14は、入出力装置等(図示省略)であるデータ受付部12及び出力部16が接続される入出力interface(I/F)54、及び記録媒体59に対するデータの読み込み及び書き込みを制御するread/write(R/W)部55を備える。また、コンピュータ14は、インターネット等のネットワークに接続されるネットワークI/F56を備える。CPU51、メモリ52、記憶部53、入出力I/F54、R/W部55、及びネットワークI/F56は、バス57を介して互いに接続される。
【0030】
記憶部53は、Hard Disk Drive(HDD)、Solid State Drive(SSD)、フラッシュメモリ等によって実現できる。記憶媒体としての記憶部53には、コンピュータを機能させるためのプログラムが記憶されている。CPU51は、プログラムを記憶部53から読み出してメモリ52に展開し、プログラムが有するプロセスを順次実行する。
【0031】
コンピュータ14は、図1に示されるように、機能的には、データ記憶部20と、設定部24と、計算部26と、結果取得部28とを備えている。
【0032】
データ記憶部20には、データ受付部12によって受け付けられた各種データが格納される。具体的には、データ記憶部20には、構造物に関するデータ、構造シミュレーションを実行するための構造シミュレーションモデルを表すデータ、及び目標となる荷重変位関係を表す目標荷重変位関係ベクトルのデータ等が格納される。
【0033】
図3は、本実施形態における設計空間と存在範囲距離ベクトルとを説明するための図である。図3(A)には、構造物の設計空間が示されている。図3(A)の四角部分が構造物の要素を表す。本実施形態では、構造物の要素が存在しているか否かを表す存在範囲距離ベクトルが最適化される。図3(A)に示される設計空間上に複数の参照点が設定され、参照点毎に設定された構造物の存在範囲距離に応じて構造物モデルが設定される。本実施形態では、格子型の要素メッシュを設定する。
【0034】
図3(B)は、本実施形態の存在範囲距離ベクトルを説明するための図である。図3(B)に示されるように、本実施形態では、設計空間内において複数の参照点S1,S2,S3,S4,・・・が設定される。なお、これらの参照点は、設計空間内において規則的に設定されてもよいし、ランダムに設定されてもよい。本実施形態では、この複数の参照点S1,S2,S3,S4,・・・からの距離L1,L2,L3,L4,・・・が設定される。そして、本実施形態では、これら参照点からの距離L1,L2,L3,L4が表す範囲内には構造物の要素が存在しているものとして扱われる。なお、構造物の要素が存在するものと判定する方法は様々な方法が採用され得る。例えば、図3(B)に示されるように、要素の中心位置(図示省略)が参照点からの存在範囲距離の範囲内にある要素については、存在する要素としてモデル化される。
【0035】
具体的には、図3(B)に示されるように、参照点S1からの距離L1内に中心がある要素E1は存在しているものとして扱われる。また、図3(B)に示されるように、参照点S2からの距離L2内に中心がある要素E2,E3,E4,E5,E6,E7は存在しているものとして扱われる。また、図3(B)に示されるように、参照点S3からの距離L3内に中心がある要素E8,E9,E10,E11,E12は存在しているものとして扱われる。また、図3(B)に示されるように、参照点S4からの距離L4内に中心がある要素E13,E14は存在しているものとして扱われる。一方、上記の設計空間内のうち、参照点から所定距離以内に中心がない要素は存在していないものとして扱われる。
【0036】
本実施形態では、上記の距離L1,L2,L3,L4,・・・を各成分として持つ存在範囲距離ベクトル{L1,L2,L3,L4,・・・}を設定する。そして、後述する各処理によって、この存在範囲距離ベクトル{L1,L2,L3,L4,・・・}が最適化される。
【0037】
図4は、本実施形態の処理の概要を説明するための図である。図4に示されるように、本実施形態では、まず、存在範囲距離ベクトル{Li}が設定される。次に、その存在範囲距離ベクトル{Li}の各成分が表す距離に応じて、構造物を構成する要素の有無が設定される。次に、構造物を構成する要素の有無に応じて、構造物のトポロジーの候補が設定される。この構造物のトポロジーの候補が構造物モデルとして設定され、構造解析シミュレーションが実行される。そして、その構造解析シミュレーションの結果として、構造物のトポロジーの候補の荷重変位関係ベクトル{Pj}が出力される。この荷重変位関係ベクトル{Pj}は、変位に対応する荷重を各成分として持つベクトルである。具体的には、荷重変位関係ベクトル{Pj}は、図4に示される各変位「disp」に応じた荷重「load」(図4の黒丸のプロット点の値)を各成分として持つ。
【0038】
設定部24は、データ記憶部20に格納されている構造物に関するデータを参照し、設計空間を設定する。
【0039】
次に、設定部24は、対象となる設計空間内において複数の参照点を設定する。
【0040】
次に、設定部24は、存在範囲距離ベクトルの初期値を設定する。上述したように、存在範囲距離ベクトルは、複数の参照点の各々との間の距離を表す変数を各成分として持ち、かつ参照点との間の距離が表す範囲内に構造物の要素が存在していることを表すベクトルである。
【0041】
計算部26は、設定部24によって設定された存在範囲距離ベクトルの初期値又は前回の処理で更新された存在範囲距離ベクトルに基づいて、構造物のトポロジーの候補を決定する。具体的には、計算部26は、図3(B)に示されるように、存在範囲距離ベクトル{L1,L2,L3,L4,・・・}に応じて、複数の参照点S1,S2,S3,S4,・・・からの距離L1,L2,L3,L4,・・・が表す範囲内には、構造物の要素が存在しているものとして構造物のトポロジーの候補を決定する。
【0042】
次に、計算部26は、構造物のトポロジーの候補に基づいて、所定の構造解析シミュレーションを実行することにより、構造物のトポロジーの候補の荷重変位関係ベクトルを計算する。なお、ここでの構造解析シミュレーションは、既知の手法が採用され得る。
【0043】
次に、計算部26は、構造解析シミュレーションによって得られた荷重変位関係ベクトルと、目標となる荷重変位関係を表す目標荷重変位関係ベクトルとの間の誤差ベクトルを計算する。具体的には、計算部26は、構造解析シミュレーションによって得られた荷重変位関係ベクトルと、データ記憶部20に格納されている目標荷重変位関係ベクトルとの間の誤差を表す誤差ベクトルを計算する。
【0044】
計算部26は、誤差ベクトルが小さくなるように、存在範囲距離ベクトルを更新することにより、新たな存在範囲距離ベクトルを計算する。
【0045】
例えば、誤差修正法の一例であるMIEC(Modal Iterative Error Correction)(登録商標)法を用いて、誤差ベクトルが小さくなるように存在範囲距離ベクトルを更新することができる。MIEC(登録商標)法は、例えば、以下の参考文献1-2に開示されている。
【0046】
参考文献1:鈴木琢也、「モーダル反復誤差修正法を用いた弾塑性地盤モデルにおける基盤入力動インバージョン」、日本建築学会構造系論文集、2018 年 83 巻 749 号 p. 1021-1029、https://doi.org/10.3130/aijs.83.1021
参考文献2:鈴木琢也、「モーダル反復誤差修正法を用いた関数同定」、一般社団法人 人工知能学会、会議名: 2021年度人工知能学会全国大会(第35回)、https://doi.org/10.11517/pjsai.JSAI2021.0_4G3GS2l05
【0047】
例えば、参考文献1,2に開示されているMIEC(登録商標)法を用いて、誤差ベクトルが小さくなるように存在範囲距離ベクトルを更新する場合について以下説明する。
【0048】
まず、計算部26は、誤差ベクトルの存在範囲距離ベクトルに対する偏微分行列を生成する。次に、計算部26は、生成した偏微分行列の特異値分解を実行することにより、特異値分解結果を生成する。計算部26は、特異値分解結果のうちの部分行列から所定の低次モードに対応する部分行列を生成する。
【0049】
計算部26は、生成された部分行列と誤差ベクトルとに基づいて、参考文献2に開示されている、誤差縮小のための存在範囲距離ベクトルに対する第1修正ベクトルを生成する。
【0050】
また、計算部26は、特異値分解結果のうちの部分行列から所定の高次モードに対応する部分行列を生成し、生成された部分行列と存在範囲距離ベクトルとに基づいて、参考文献2に開示されている、ノイズ除去のための存在範囲距離ベクトルに対する第2修正ベクトルを生成する。
【0051】
そして、計算部26は、存在範囲距離ベクトルと第1修正ベクトルと第2修正ベクトルとに基づいて、新たな存在範囲距離ベクトルを計算する。
【0052】
なお、誤差ベクトルに関連する所定条件が満たされるまで、構造物のトポロジーの候補の決定、誤差ベクトルの計算、及び新たな存在範囲距離ベクトルの計算が繰り返される。
【0053】
誤差ベクトルに関連する所定条件としては、例えば、修正回数が所定回数に達したか、誤差ベクトルの各成分の値が所定閾値未満となったか、又は誤差ベクトルのノルムが所定閾値未満となったか等が採用される。
【0054】
結果取得部28は、繰り返しに関する所定の条件が満たされた場合に、存在範囲距離ベクトルの各成分が表す参照点からの距離の範囲内に構造物の要素が存在している、構造物のトポロジーを取得する。具体的には、結果取得部28は、誤差ベクトルが、誤差ベクトルに関連する所定条件を満たしたか否かを判定する。誤差ベクトルに関連する所定条件が満たされている場合には、存在範囲距離ベクトルの修正は終了する。誤差ベクトルに関連する所定条件が満たされていない場合には、存在範囲距離ベクトルの修正が繰り返される。
【0055】
そして、結果取得部28は、存在範囲距離ベクトルの各成分を修正することにより得られた存在範囲距離ベクトル{L1,L2,L3,L4,・・・}に対応する構造物のトポロジーを結果として出力する。
【0056】
出力部16は、結果取得部28によって出力された構造物のトポロジーを結果として出力する。なお、例えば、出力部16は、ディスプレイによって実現される。
【0057】
<最適化装置10の作用>
【0058】
次に、最適化装置10の作用を説明する。最適化装置10のデータ受付部12が、各種データの入力を受け付けると、データ記憶部20へ格納する。そして、最適化装置10のコンピュータ14は、処理実行の指示信号を受け付けると、図5に示す最適化処理ルーチンを実行する。
【0059】
ステップS100において、設定部24は、データ記憶部20に格納されている構造物に関するデータを参照し、設計空間を設定する。
【0060】
ステップS102において、設定部24は、ステップS100で設定された対象となる設計空間内において複数の参照点を設定する。
【0061】
ステップS104において、設定部24は、存在範囲距離ベクトルの初期値を設定する。例えば、設定部24は、存在範囲距離ベクトルの各成分を0に設定することにより、存在範囲距離ベクトルの初期値を設定する。
【0062】
ステップS106において、計算部26は、ステップS104で設定された存在範囲距離ベクトルの初期値又は前回のステップS114で更新された新たな存在範囲距離ベクトルに基づいて、構造物のトポロジーの候補を決定する。
【0063】
ステップS108において、計算部26は、データ記憶部20に格納されている構造シミュレーションモデルを読み出し、構造シミュレーションモデルとステップS106で決定された構造物のトポロジーの候補とに基づいて、既知の構造シミュレーションを実行する。この構造シミュレーションにより、構造物のトポロジーの候補についての荷重変位関係ベクトル{Pc1,Pc2,Pc3,・・・}が得られる。
【0064】
ステップS110において、計算部26は、ステップS108で得られた荷重変位関係ベクトル{Pc1,Pc2,Pc3,・・・}と、データ記憶部20に格納されている目標荷重変位関係ベクトル{PT1,PT2,PT3,・・・}との間の誤差ベクトル{Pc1-PT1,Pc2-PT2,Pc3-PT3,・・・}を計算する。
【0065】
ステップS112において、計算部26は、ステップS110で計算された誤差ベクトル{Pc1-PT1,Pc2-PT2,Pc3-PT3,・・・}が、誤差ベクトルに関連する所定条件を満たしているか否かを判定する。誤差ベクトルに関連する所定条件が満たされている場合には、ステップS116へ移行する。一方、誤差ベクトルに関連する所定条件が満たされていない場合には、ステップS114へ進む。
【0066】
ステップS114において、計算部26は、ステップS110で計算された誤差ベクトル{Pc1-PT1,Pc2-PT2,Pc3-PT3,・・・}が小さくなるように、存在範囲距離ベクトルを更新することにより、新たな存在範囲距離ベクトルを計算し、ステップS106へ進む。
【0067】
例えば、計算部26は、上述したようなMIEC(登録商標)法を用いて、誤差ベクトル{Pc1-PT1,Pc2-PT2,Pc3-PT3,・・・}が小さくなるように、存在範囲距離ベクトルを更新することにより、新たな存在範囲距離ベクトルを計算する。
【0068】
ステップS116において、結果取得部28は、存在範囲距離ベクトルの各成分が表す参照点からの距離の範囲内に構造物の要素が存在している、構造物のトポロジーを取得する。そして、結果取得部28は、最終的な構造物のトポロジーを出力する。
【0069】
出力部16は、結果取得部28によって取得された最終的な構造物のトポロジーを結果として出力する。
【0070】
以上詳細に説明したように、本実施形態の最適化装置は、目標となる荷重変位関係を満たす構造物のトポロジーを最適化する。具体的には、最適化装置は、対象となる設計空間内において複数の参照点を設定する。最適化装置は、複数の参照点の各々との間の距離を表す変数を各成分として持ち、かつ参照点との間の距離が表す範囲内に構造物の要素が存在していることを表す存在範囲距離ベクトルの初期値を設定する。最適化装置は、存在範囲距離ベクトルの初期値又は更新された存在範囲距離ベクトルの各成分が表す距離に基づいて、構造物のトポロジーの候補を決定する。最適化装置は、構造物のトポロジーの候補に基づいて、所定の構造解析シミュレーションを実行することにより、構造物のトポロジーの候補の荷重変位関係を表すベクトルであって、かつ変位に対応する荷重を各成分として持つ荷重変位関係ベクトルを計算する。最適化装置は、荷重変位関係ベクトルと、目標となる荷重変位関係を表す目標荷重変位関係ベクトルとの間の誤差ベクトルを計算する。最適化装置は、誤差ベクトルが小さくなるように、存在範囲距離ベクトルを更新することにより、新たな存在範囲距離ベクトルを計算する。そして、最適化装置は、構造物のトポロジーの候補の決定、誤差ベクトルの計算、及び新たな存在範囲距離ベクトルの計算を繰り返す。最適化装置は、所定の条件が満たされた場合に、存在範囲距離ベクトルの各成分が表す参照点からの距離の範囲内に構造物の要素が存在している構造物のトポロジーを取得する。これにより、目標となる荷重変位関係を満たす構造物のトポロジーを得ることができる。
【0071】
また、本実施形態の最適化装置では、誤差修正法の一例であるMIEC(登録商標)法を用いることもできる。具体的には、最適化装置は、誤差ベクトルが小さくなるように新たな存在範囲距離ベクトルを更新する際に、誤差ベクトルの存在範囲距離ベクトルに対する偏微分行列を生成し、偏微分行列の特異値分解を実行することにより、特異値分解結果を生成し、特異値分解結果のうちの部分行列から所定の低次モードに対応する部分行列を生成する。最適化装置は、生成された部分行列と誤差ベクトルとに基づいて、誤差縮小のための存在範囲距離ベクトルに対する第1修正ベクトルを生成し、特異値分解結果のうちの部分行列から所定の高次モードに対応する部分行列を生成し、生成された部分行列と存在範囲距離ベクトルとに基づいて、ノイズ除去のための存在範囲距離ベクトルに対する第2修正ベクトルを生成する。そして、最適化装置は、存在範囲距離ベクトルと第1修正ベクトルと第2修正ベクトルとに基づいて、新たな存在範囲距離ベクトルを計算する。これにより、構造物のトポロジー候補に含まれるノイズを除去しつつ、目標となる荷重変位関係を満たす構造物のトポロジーを得ることができる。
【0072】
<シミュレーション実験>
【0073】
次に、例題を設定し、その例題のシミュレーション実験を行うことにより、本実施形態に係る最適化方法の効果を確認した。シミュレーション実験では、梁の構造最適化問題を例題とした。図6は、シミュレーション実験の例題とした梁の設計空間である。図6に示されるように、本シミュレーション実験では、両端下部をピン支持された梁の中央上部に強制変位荷重が作用した場合を考える。本シミュレーション実験では、設計空間を破線で囲んだ梁全体として、この空間のどこに要素を配置するのかを探索した。なお、梁の解析モデルには2次元モデルを用いている。
【0074】
本シミュレーション実験では、上述した実施形態と同様に、まず、入力として設定した参照点毎の存在範囲距離に応じて構造物の要素の有無が設定される。その後、要素の有無に基づいて構造物を表すモデルが作成され、数値解析が実施され、結果である荷重変位関係ベクトルが出力される。この逆問題を解くことで目標荷重変位関係ベクトルを満足するような存在範囲距離ベクトルが探索される。今回の例題では、誤差修正手法にとしてMIEC(登録商標)法を用いた。
【0075】
図7図10は、シミュレーション実験の結果を表す図である。図中の(A)のグラフの横軸は繰り返し回数(Iteration Number(times))を表し、縦軸は誤差ベクトルのノルム(RSS Error(kN))を表す。図中の(B)のグラフの横軸は変位(Disp(mm))を表し、縦軸は荷重(RF(kN))を表す。また、図中の(B)のTは目標荷重関係を表し、Iは構造物のトポロジーの候補の荷重変位関係を表す。図中の(C)は、設計空間内において表現される構造物のトポロジーの候補を表す。
【0076】
図7図10に示されるように、誤差ベクトルのノルムが小さい箇所においては、構造物のトポロジーの候補の荷重変位関係Iが、目標荷重関係Tに近づいていることがわかる。図10(C)に示される最終的に得られたトポロジーは、不要と考えられる要素が排除されつつ、目標とする荷重変位関係を満足していることが確認できる。以上のことから、本実施形態によれば、目標となる荷重変位関係を満足するトポロジー最適化を実施できるということが確認できた。
【0077】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0078】
例えば、上記実施形態では、誤差修正法としてMIEC(登録商標)法を用いる場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、その他の誤差修正法として、非線形最小二乗法、Newton法、又は最急降下法を用いてもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、2次元空間上の構造物のトポロジーを最適化する場合を例に説明したがこれに限定されるものではない。上記実施形態に係る最適化方法は、構造物のトポロジーを3次元に拡張することも可能である。このため、3次元空間上の構造物のトポロジーを最適化する際に、上記実施形態に係る最適化方法を用いるようにしてもよい。
【0080】
また、上記ではプログラムが記憶部(図示省略)に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、プログラムは、CD-ROM、DVD-ROM及びマイクロSDカード等の記録媒体の何れかに記録されている形態で提供することも可能である。
【符号の説明】
【0081】
10 最適化装置
12 データ受付部
14 コンピュータ
16 出力部
20 データ記憶部
24 設定部
26 計算部
28 結果取得部
図1
図2
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図5
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図11