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特開2024-90293ランナ、水力機械、および水力発電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090293
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】ランナ、水力機械、および水力発電装置
(51)【国際特許分類】
   F03B 3/14 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
F03B3/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206093
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】520219508
【氏名又は名称】株式会社ユームズ・フロンティア
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100224661
【弁理士】
【氏名又は名称】牧内 直征
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】林 優
【テーマコード(参考)】
3H072
【Fターム(参考)】
3H072AA07
3H072BB31
3H072CC42
3H072CC49
3H072CC92
(57)【要約】
【課題】発電性能に優れるランナ、水力機械、および水力発電装置を提供する。
【解決手段】ランナ5は、水力機械2の内部で回転し、流入する水からの力を受ける樹脂製の本体6と、本体6と発電機の主軸8を接続する接続部材7と、を有し、本体6は、接続部材7を介して主軸8と接続されるクラウン61を有し、接続部材7は、クラウン61の中心を回転軸O方向に貫通する貫通孔61bを挿通するとともにクラウン61を挟持する部材であり、接続部材7の材質が無機材料である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水力機械の内部で回転するランナであって、
前記ランナは、流入する水からの力を受ける樹脂製の本体と、該本体と発電機の主軸を接続する接続部材と、を有し、
前記本体は、前記接続部材を介して前記主軸と接続されるクラウンを有し、
前記接続部材は、前記クラウンの中心を回転軸方向に貫通する貫通孔を挿通するとともに該クラウンを挟持する部材であることを特徴とするランナ。
【請求項2】
前記接続部材の材質が、無機材料であることを特徴とする請求項1記載のランナ。
【請求項3】
前記接続部材は、前記本体が前記接続部材に対して周方向に独立して回転することを止める回り止め部を有し、
前記回り止め部は、前記貫通孔と相補的に嵌合することを特徴とする請求項1または請求項2記載のランナ。
【請求項4】
前記接続部材は、前記貫通孔に挿通されるフランジブッシュと、前記フランジブッシュが前記貫通孔から抜けることを防止する抜け止め部材と、前記フランジブッシュの挿入方向の側の端部に形成された雌ネジ部へ螺合するボルトとを有し、
前記クラウンは、前記フランジブッシュと前記抜け止め部材との間に挟持された状態で前記ボルトにより締結されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載のランナ。
【請求項5】
ケーシングと、前記ケーシングの中心部に回転可能に配置されたランナとを備えた水力機械であって、
前記ランナが、請求項1または請求項2記載のランナであることを特徴とする水力機械。
【請求項6】
水力機械と、前記水力機械から伝達される回転力により発電する発電機とを備えた水力発電装置であって、
前記水力機械が、請求項5記載の水力機械であることを特徴とする水力発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電性能に優れるランナ、水力機械、および水力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素排出量の削減が世界的な課題となっている。例えば、世界の発電量の大半は火力発電により賄われているが、二酸化炭素排出量削減のために、火力から、水力、地熱、太陽光などの自然エネルギーを用いた発電の比率を増大させることが期待されている。
【0003】
大型ダムに付随する水力発電所や、地熱発電所のような自然エネルギーを用いた大規模発電所は、主な電力消費地である都市圏から離れた場所にあることが多く、発電所から消費地までの長距離送電による電力損失が大きい。また、エネルギー源が自然エネルギーであっても、山間部に大型ダムや大規模発電所を建設することは、生態系や自然を破壊するおそれがあり、環境負荷が大きい場合がある。
【0004】
上述の理由から、電力消費地の近くで小規模に発電することが検討されている。例えば、用水路、工場排水、家庭用排水、浄水場などからの流水を利用した水力発電の技術開発が行われている。このような水力発電は、従来の大型ダムに併設した水力発電に比べ山間部での大規模な工事を必要とせず環境負荷が小さいことから、環境調和型の発電方法として注目を集めている。
【0005】
用水路、工場排水などを利用した発電は、地域での電力の地産地消が可能なため、大型ダムでの水力発電の場合に問題となる長距離送電による電力損失への解決策となる。特に、流量100L/s未満、有効落差200m以下の条件、または発電出力10,000kW以下の水力発電(いわゆる小水力発電)の利用事例は非常に少なく、将来的なエネルギー利用余地が大きいことからも、その普及が期待されている。
【0006】
水力発電装置としては、スクリュー状の羽根を水の流れの中で回転させる方式や、回転する流水の流圧で回転エネルギーを得る方式などの様々な方式が提案されている。
【0007】
特許文献1には、周方向に亘って配置された複数のステーベーン、各ステーベーンの上流側に配置されて各ステーベーンに流入する水の流入方向を定める複数の流入方向調整ベーン、および、ステーベーンを通過した水が導かれる複数のガイドベーンを有するケーシングと、複数のランナベーンを有してガイドベーンを通過した水によって回動駆動されるランナとを備えた水力機械が開示されている。
【0008】
特許文献2には、ケーシングと、ケーシングの中心部に回転可能に配置されたランナとを備えた水力機械であって、ケーシングは、外側に配置される渦巻き形状の流路であって渦巻きの中心方向へ進むにつれて内径が縮径する主流路と、内側に配置され主流路からの水をランナへと導入する固定流路とを内部に有し、主流路は、その流路において最大内径の流入部と、最小内径の終端部とを有し、終端部が、主流路において流入部と直接的に繋がっていないことを特徴とする水力機械が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013-72304号公報
【特許文献2】特開2022-175996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1には、水力機械の発電効率を上げるために、ケーシングの内部に流入方向調整ベーンおよびガイドベーンを設け、流入方向調整ベーンの配置位置や配置方向を調整したり、ガイドベーンの開度を調整したりすることが記載されている。しかし、このようにケーシング内部の羽根の種類を増やしたり、形状を複雑化したりすることは、製造コストやメンテナンス負担が増大したり、装置を小型化しにくくなったりするおそれがある。
【0011】
上記理由から、ダムなどで用いられる従来の大型水力発電装置よりも小型であっても発電効率に優れる小水力発電装置や、当該装置に用いられる水力機械の開発が望まれている。
【0012】
特許文献2に記載の水力機械は、例えば、都市の中の用水路などから排出される比較的少量の流水で発電する小水力発電装置などにも用いることができる旨が記載されている。また、ケーシングおよびランナが、炭素鋼などにより構成される旨が記載されている。
【0013】
ここで、小水力発電が行われる環境では流量の変化が起こりやすく、それに伴いランナの回転数も変動しやすい。特に、流量の変化によりランナが停止と回転を繰り返す場合、ランナを停止状態から回転状態へ移行させるためには、回転状態を維持するための力よりも大きな力が必要となる。これは、動かそうとする対象物の重量に比例する慣性力によるものである。
【0014】
そのため、比較的慣性力が大きいランナを有する水力機械で発電しようとした場合、流入する水の流量や有効落差が特に小さいと、流入する水からランナが受ける力が小さくランナが回転(発電)しなかったり、エネルギーロスが大きくなってしまったり(発電効率が低下)することが考えられる。
【0015】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、発電性能に優れるランナ、水力機械、および水力発電装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のランナは、水力機械の内部で回転するランナであって、上記ランナは、流入する水からの力を受ける樹脂製の本体と、該本体と発電機の主軸を接続する接続部材と、を有し、上記本体は、上記接続部材を介して上記主軸と接続されるクラウンを有し、上記接続部材は、上記クラウンの中心を回転軸方向に貫通する貫通孔を挿通するとともに該クラウンを挟持する部材であることを特徴とする。
【0017】
上記接続部材の材質が、無機材料であることを特徴とする。
【0018】
上記接続部材は、上記本体が上記接続部材に対して周方向に独立して回転することを止める回り止め部を有し、上記回り止め部は、上記貫通孔と相補的に嵌合することを特徴とする。
【0019】
上記接続部材は、上記貫通孔に挿通されるフランジブッシュと、上記フランジブッシュが上記貫通孔から抜けることを防止する抜け止め部材と、上記フランジブッシュの挿入方向の側の端部に形成された雌ネジ部へ螺合するボルトとを有し、上記クラウンは、上記フランジブッシュと上記抜け止め部材との間に挟持された状態で上記ボルトにより締結されていることを特徴とする。
【0020】
本発明の水力機械は、ケーシングと、上記ケーシングの中心部に回転可能に配置されたランナとを備えた水力機械であって、上記ランナが、上述したランナであることを特徴とする。
【0021】
本発明の水力発電装置は、水力機械と、上記水力機械から伝達される回転力により発電する発電機とを備えた水力発電装置であって、上記水力機械が、上述した水力機械であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明のランナは、流入する水からの力を受ける樹脂製の本体と、該本体と発電機の主軸を接続する接続部材と、を有し、本体は、接続部材を介して主軸と接続されるクラウンを有し、接続部材は、クラウンの中心を回転軸方向に貫通する貫通孔を挿通するとともに該クラウンを挟持する部材であるので、ランナが軽量で回転しやすく、発電性能に優れる。
【0023】
接続部材の材質が、無機材料であるので、力が集中しやすい主軸と接続部材との間での不具合が起こりにくいと考えられる。
【0024】
接続部材は、本体が接続部材に対して周方向に独立して回転することを止める回り止め部を有し、回り止め部は、貫通孔と相補的に嵌合するので、本体の回転力をより効率的に発電機へと伝達できる。
【0025】
接続部材は、貫通孔に挿通されるフランジブッシュと、フランジブッシュが貫通孔から抜けることを防止する抜け止め部材と、フランジブッシュの挿入方向の側の端部に形成された雌ネジ部へ螺合するボルトとを有し、クラウンは、フランジブッシュと抜け止め部材との間に挟持された状態でボルトにより締結されているので、使用環境に応じて容易に本体を交換できるとともに、本体と接続部材との強固な固定が可能である。
【0026】
本発明の水力機械は、ケーシングと、ケーシングの中心部に回転可能に配置されたランナとを備えた水力機械であって、ランナが、上述したランナであるので、ランナが軽量で回転しやすく、発電性能に優れる。
【0027】
本発明の水力発電装置は、水力機械と、水力機械から伝達される回転力により発電する発電機とを備えた水力発電装置であって、水力機械が、上述した水力機械であるので、ランナが軽量で回転しやすく、また、主軸を介した回転力の伝達も効率的に行われやすい。その結果、本発明の水力発電装置は、発電性能に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の水力発電装置の側面図である。
図2】本発明の水力機械の水平方向断面図である。
図3】本発明の水力機械が備えるケーシングの斜視図である。
図4】本発明のランナの斜視図である。
図5】本発明の水力機械の回転軸方向断面図である。
図6】フランジブッシュの一例を示す図である。
図7】フランジブッシュと抜け止め部材との関係性を示す図である。
図8】従来の水力機械の回転軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の水力発電装置の一例について、全体的な構造を図1に基づいて説明する。図1は水力発電装置の側面図である。
【0030】
図1に示すように、水力発電装置1は、流水から回転力を得る水力機械2と、水力機械2で発生し主軸を介して伝達される回転力により発電する発電機3とを備えている。本発明の水力機械2は、後述するようにケーシング4と、ケーシング4の中心部に回転可能に配置されるランナ5とを備える(図2参照)。
【0031】
本発明の水力機械は、種々の水力発電装置に用いることができる。例えば、都市の中の用水路、工場排水、家庭用排水、浄水場などから排出される比較的少量の流水で発電する小水力発電装置や、山間部に配置される中型から大型の水力発電装置に用いることができる。特に、本発明の水力機械は、発電効率に優れ、小型化しても実用上必要な電力を発生できるので、設置場所の自由度の観点から小水力発電装置に用いることが好ましい。上記小水力発電装置は、流量100L/s未満、および/または、有効落差200m以下の条件下で使用されることが好ましい。さらに、上記小水力発電装置は、流量50L/s未満、および/または、有効落差100m以下の条件下で使用されることが好ましく、流量30L/s未満、および/または、有効落差30m以下の条件下で使用されることがより好ましく、流量20L/s未満、および/または、有効落差20m以下の条件下で使用されることが一層好ましい。なお、本発明の水力機械は、小水力発電以外の水力発電装置に用いてもよい。
【0032】
また、上記小水力発電装置は、発電出力が10,000kW以下の水力発電装置であることが好ましい。さらに、上記小水力発電装置は、発電出力が1,000kW以下の水力発電装置であることが好ましく、発電出力が100kW以下の水力発電装置であることがより好ましく、発電出力が10kW以下の水力発電装置であることが一層好ましい。
【0033】
本発明の水力機械の一例について、図2に基づいて説明する。図2は水力機械が備えるランナの回転軸に対して直交する方向(水平方向)での断面図である。ここで、図2(a)は、水力機械を水が排出される方向に沿って見た図である。図2(b)は、水力機械を水が排出される方向から向かって見た図である。図面において、水の流入方向を黒矢印で示す。
【0034】
図2(a)および(b)に示すように、水力機械2は、渦巻き形状を有するケーシング4と、ケーシング4の中心部に回転可能に配置されたランナ5とを備える。ケーシング4は、ケーシング4の外周側に配置される渦巻き形状の流路であって渦巻きの中心方向へ進むにつれて内径が縮径する主流路41と、ケーシング4の内周側に配置され主流路41からの水をランナ5へと導入する固定流路42とを内部に備える。主流路41は、その流路において最大内径の流入部43と、最小内径の終端部44とを有する。固定流路42は、同心円上に離間して配置された複数のステーベーン45によって形成される。図2において、主流路41の終端部44と流入部43との間の空間は、流入部43から延出するステーベーン45によって仕切られ、終端部44と流入部43とは連通しておらず、各部は直接的に繋がっていない(非貫通構造)。なお、ケーシング4の構造は、終端部44と流入部43とが連通した貫通構造であってもよい。
【0035】
ランナ5は、ランナ5の回転軸Oに沿った主軸(図示省略)に接続される。ここで、主軸は、ランナ5の回転力を発電機へと伝達する棒状の部材である。なお、主軸の材質として、例えば、金属、繊維強化樹脂材料など所定の機械的強度を有する材料が用いられる。図2(b)に示すように、ランナ5の本体は、主軸側に配置されるクラウン61と、クラウン61から離間して配置されたバンド62と、クラウン61とバンド62との間に周方向に亘って離間して配置された複数のランナベーン63とを備える。ランナ5は、図2に示すような長さの異なる羽根を有するいわゆるスプリッタランナに限らず、全て同じ長さの羽根からなるランナであってもよい。
【0036】
本発明の水力機械2において、水は水力機械2の配置される位置よりも高い位置から、重力に従って配管を流れ、ケーシング4の流入部43へ流入する。流入部43は、円筒状の直管構造を有する。水は、その後主流路41を回転しながら複数のステーベーン45の間の固定流路42を通って、ランナ5へと導かれる。水はさらに、ランナベーン63の間のランナ流路を通り、ランナ5の中心部に回転軸Oの方向に開口して配置されるランナ5の開口部から排出される。
【0037】
図3には、本発明の水力機械が備えるケーシングを示す。図3(a)はケーシングを水が流入する側から見た斜視図であり、図3(b)はケーシングを水が排出される側から見た斜視図である。
【0038】
図3に示すように、ケーシング4はランナ(図示省略)の開口部から排出される水を排水管へと導く円筒状の排水部46を有する。排水部46の中心軸と、ランナの回転軸は一致する。ランナは、ケーシング4の中心部のランナ配置部47へ配置できる。ケーシング4の外径は自由に選択でき、例えば、10cm~100cmとすることができる。設置場所の自由度の観点から、ケーシング4の外径は20cm~60cmであることが好ましい。
【0039】
ケーシングは、例えば、炭素鋼、ステンレス、鉄などの金属により構成される。ケーシングは、金属のほか、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミドなどのエンジニアリングプラスチック、ポリ乳酸、ABS樹脂、ナイロン、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などの樹脂材料により構成されてもよい。また、ケーシングが樹脂材料により構成される場合は、炭素繊維、ガラス繊維、無機微粒子などの充填剤を含んでもよい。
【0040】
図4には、本発明のランナの斜視図を示す。図4(a)はランナを主軸(図示省略)が取り付けられるクラウン側から見た斜視図であり、図4(b)はランナをバンド側から見た斜視図である。
【0041】
図4(a)に示すように、ランナ5は、流入する水からの力を受ける樹脂製の本体6と、本体6と発電機の主軸を接続する接続部材7と、を有する。本体6は、接続部材7を介して主軸と接続される円盤状のクラウン61を有する。後述するように、接続部材7は、クラウン61の中心を回転軸方向に貫通する貫通孔を挿通しており、クラウン61を上下方向から挟持して本体6に固定されている。
【0042】
図4(b)に示すように、バンド62は水が排出される開口部62aと、当該開口部が接続した円盤状の下側円盤部62bとを有する。ランナ5の直径は自由に選択でき、例えば、4cm~40cmとすることができる。設置場所の自由度の観点から、ランナ5の直径は8cm~20cmであることが好ましい。
【0043】
ランナ5は、その構造のうち少なくとも一部が、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミドなどのエンジニアリングプラスチック、熱可塑性樹脂、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などの樹脂材料により構成される。樹脂材料には、炭素繊維、ガラス繊維、無機微粒子などの充填剤を含んでもよい。
【0044】
上述したように、本発明のランナ5において本体の材質は、樹脂材料である。これにより、ランナ5が軽量となることで、回転開始時の慣性力を低減でき、停止状態から回転状態へと移行する際などに必要なエネルギーを低減できる。その結果、本発明のランナ5を有する水力機械を備えた水力発電装置は、幅広い使用条件において、発電性能に優れる。特に、本発明のランナ5は、水量の変動が頻繁に起こりやすい小水力発電に用いた場合、金属製の比較的重量の大きいランナ5よりも回転しやすいことに加え、ランナ5が受ける水の力も比較的弱いため、樹脂材料の成形体であっても破損しにくく、長期耐久性にも優れる。
【0045】
本体6を構成するクラウン61と、バンド62と、ランナベーン63とは、それぞれ別の部材から構成されていてもよいし、一体的に成形(製造)されていてもよい。本体6は、機械的強度の観点から、各部材が一体的に成形されていることが好ましい。本体6がそれぞれ別の部材から構成される場合、各部材同士をネジや接着剤などで固定することができる。
【0046】
本体を一体的に製造する場合、生産効率および機械的強度の観点から、積層造形法、射出成形法などの方法により製造することが好ましく、設計変更の自由度が高い積層造形法が特に好ましい。積層造形法で製造する場合、熱溶解積層方式、光造形方式、粉末焼結方式などの種々の方法を選択できる。本体は、造形体の機械的強度や造形精度などの観点から、粉末焼結方式で製造することが好ましい。本体を積層造形法で製造する場合、樹脂粉末として、例えば、ポリ乳酸、ABS樹脂、ナイロン樹脂(ポリアミド樹脂)、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリウレタンなどを使用できる。樹脂粉末は、機械的強度および長期耐久性の観点から、ABS樹脂、ナイロン樹脂、無機系の充填材を含む複合材料などが好ましい。
【0047】
本体を積層造形法で製造する場合、積層方向が回転軸の方向と一致するように造形することが好ましい。この場合、積層造形体の表面に形成される微細な層の方向が回転方向と平行になるため、回転時にランナが水から受ける抵抗を低減でき、発電効率の向上に寄与すると考えられる。
【0048】
次に、図5および図8を用いて本発明のランナについて説明する。図5(a)は本発明の水力機械の回転軸方向断面図であり、図5(b)は接続部材周辺の拡大図である。図8は従来の水力機械の回転軸方向断面図である。なお、図5図8ともに、ケーシングの上部を覆う蓋部材については図示を省略している。図8に示すように、従来の水力機械2’では、主軸8は、先端の雄ネジ部81をクラウン61’の中心の主軸用雌ネジ部に直接螺合してランナ5’に固定されている。これに対し、図5に示す水力機械2では、主軸8は、先端の雄ネジ部81が接続部材7の主軸用雌ネジ部71aへ螺合して固定され、接続部材7がさらにクラウン61に固定されることによりランナ5へと固定されている。
【0049】
なお、主軸の接続部材への固定は、螺合以外の方法によって行われてもよい。主軸の接続部材への固定は、例えば、接続部材および主軸へ棒状の部材を挿通させることによるピン止めや、接着、溶接、圧入など種々の方法によって行うことができる。
【0050】
図5(b)に示すように、接続部材7は、クラウン61の貫通孔61bに挿通されるフランジブッシュ71と、フランジブッシュ71が貫通孔61bから抜けることを防止する抜け止め部材72と、フランジブッシュ71の挿入方向の側の端部に形成された挟持用雌ネジ部71bへ螺合するボルト73とを有している。抜け止め部材72は、フランジブッシュ71の挿入方向の側の端部を覆っている。図5において、フランジブッシュ71は、回転中心が同一で孔径が異なる2つの雌ネジ部71a、71bを有している。2つの雌ネジ部71a、71bのうち、孔径が大きい方の主軸用雌ネジ部71aには上述のように主軸8の端部が螺合され、孔径が小さい方の挟持用雌ネジ部71bには六角穴付きのボルト73が螺合されている。接続部材7はさらに、抜け止め部材72と、ボルト73との間にワッシャ74を有している。クラウン61は、フランジブッシュ71と抜け止め部材72との間で上下方向から挟持された状態でボルト73により締結されることで、接続部材7と本体6とが一体化されている。これにより、使用環境に応じて容易に本体6を交換できるとともに、本体6と接続部材7との強固な固定が可能である。なお、ボルト73は、頭部が六角形の六角ボルトであってもよい。ボルト73は、強い締結力、狭いスペースでも締め上げることができる点から六角穴付きのボルト73であることが好ましい。なお、接続部材7がクラウン61を挟持する力は、ランナ5の回転力を主軸8へ伝達できる範囲で適切に設定できる。
【0051】
接続部材の材質は、樹脂材料や、無機材料から自由に選択できる。接続部材の材質は、機械的強度および耐久性の観点から、無機材料であることが好ましい。無機材料としては、例えば、ステンレス、炭素鋼、鉄、マグネシウム、チタンなどの金属やセラミックスを挙げることができ、加工性および機械的強度の観点から、接続部材は金属製であることが好ましい。
【0052】
従来の水力機械の構成では、金属製の主軸が樹脂製のランナに螺合により固定されている場合、主軸の雄ネジ部とクラウンの雌ネジ部との境界に回転力が集中することによる不具合の発生が考えられる。これに対し、本発明のランナにおいて、接続部材の材質が無機材料である場合、力が集中しやすい主軸と接続部材との間の不具合が起こりにくいと考えられる。そして、ランナに大きな力が掛かってクラウンと接続部材との境界に回転力が集中した場合、ランナが主軸および接続部材に対して空転しても、破損などの不具合は起こりにくい。長期の使用により本体の主軸への固定が緩まった際には、ボルトの締結により再度固定化できる。
【0053】
また、ランナ本体の材質が樹脂材料で、接続部材の材質が金属材料である場合、ランナ中心部の機械的強度が高まるとともに、ランナの重量が中心部に集中することで回転時の主軸のブレを低減し、回転の安定性向上に寄与すると考えられる。
【0054】
接続部材を構成するフランジブッシュについて図6を用いて説明する。図6は、フランジブッシュの一例を示す図である。図6(a)はフランジブッシュの斜視図であり、図6(b)は側面図であり、図6(c)は挿入方向の側から平面視した平面図である。図6に示すように、フランジブッシュ71は、ランナの本体が接続部材に対して周方向に独立して回転することを止める回り止め部71cを有している。回り止め部71cは、平面加工されており、クラウンの貫通孔の少なくとも一部と相補的に嵌合する。図6に示すフランジブッシュ71の場合、クラウンへ挿入する挿入部には、2か所が面取り加工された略円筒形状の回り止め部71cを有している。
【0055】
これにより、ボルトの締結によってクラウンをフランジブッシュと抜け止め部材との間で強く挟持しなくても、本体の回転力を効率よく、接続部材、主軸へと伝達できる。なお、クラウン貫通孔の内周形状および回り止め部の外周形状は、本体の回転力が接続部材を介して主軸へ伝達されれば、平面視で多角形、楕円形、波形、歯車形状などの非円形状であってもよい。クラウン貫通孔の内周形状および回り止め部の外周形状は、頂点の角が曲面化された略多角形でもよい。なお、回り止め部は、貫通孔内周面の一部と接触していてもよい。
【0056】
フランジブッシュは、回り止め部として、クラウン(ランナ本体)がフランジブッシュに対して周方向に独立して回転することを止める部分(例えば、クラウンとフランジブッシュとを挿通するピンやネジによる両者の固定を可能とする回り止め用の孔など)を有していれば、その形態は上記に限られない。回り止め部は、クラウンの貫通孔と相補的に嵌合することが好ましく、これにより、本体と接続部材とが、より一体的に動きやすくなる。
【0057】
図6において、フランジブッシュ71の挿入方向の側の端部は平面視で六角形となっている。この端部は、フランジブッシュ71を主軸へ螺合して固定する際にラチェットなどの工具を嵌合させる部位として用いることができる。なお、フランジブッシュ71の端部の形状は、平面視で六角形以外の多角形や、略多角形でもよい。
【0058】
接続部材の抜け止め構造について図7を用いて説明する。図7は、フランジブッシュおよび抜け止め部材の関係性を示す図である。図7に示すように、抜け止め部材72は、クラウン61の貫通孔61bの内径Diよりも大きい外径Doを有している。抜け止め部材72の外径Doは、フランジブッシュの抜け防止と固定力確保の観点から、貫通孔61bの内径Diに対して、1.10~2.00倍であることが好ましく、1.20~2.00倍であることがより好ましく、1.20~1.50倍であることがさらに好ましい。
【0059】
抜け止め部材72は、フランジブッシュ71の挿入方向の側の端部71dを覆うように断面コの字形状となっている。端部71dのクラウンからの突出部分を覆う抜け止め部材72のカバー部72aの長さLは、端部71dの突出部分の長さLよりも長い。これにより、抜け止め部材72は、フランジブッシュ71が貫通孔61bから抜けることを防止するとともに、ボルトの締結によってクラウン61をフランジブッシュ71と抜け止め部材72との間で挟持できる。カバー部72aの長さLは、ランナ内部の水の流れへの影響を低減することと固定力確保の観点から、端部71dの突出部分の長さLに対して、1.01~2.00倍であることが好ましく、1.01~1.50倍であることがより好ましく、1.01~1.20倍であることがさらに好ましい。
【0060】
図6に示したフランジブッシュを用いてランナに主軸が固定されたランナユニットを製造する際の手順の一例について以下に説明する。
(1)フランジブッシュの本体への固定
フランジブッシュを本体の貫通孔に挿通し接着剤で固定する。接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、シリコーン樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤などを用いることができる。
(2)主軸と本体との接続
主軸先端の雄ネジ部を、本体へ固定されたフランジブッシュの主軸用雌ネジ部へ螺合して、主軸を本体と接続する。この際、フランジブッシュ端部の六角部分をラチェットなどに嵌合させて回転させることで主軸の雄ネジ部が主軸用雌ネジ部と緩みなく強固に固定される。雄ネジ部を主軸用雌ネジ部の奥まで十分に螺合することで、水力機械とした際にランナユニットに上下方向の寸法誤差が生じず、ランナとケーシングとが接触することを防止できる。
(3)フランジブッシュからの本体の抜け止め
クラウンからのフランジブッシュの突出部分へ抜け止め部材を被せ、フランジブッシュの挟持用雌ネジ部へボルトを螺合する。これにより、フランジブッシュと抜け止め部材の間でクラウンが挟まれるとともに、本体がフランジブッシュから抜けて下方向に落下することを防止できる。
【0061】
以上、本発明のランナ、水力機械、および水力発電装置について、各図を用いて説明したが上述の構成に限られない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のランナは、軽量で回転しやすいので、このランナを有する水力機械および水力発電装置は、発電性能に優れる。そのため、本発明のランナ、水力機械、および水力発電装置は、用水路、工場排水、家庭用排水、浄水場などからの流水を利用した発電用途に広く利用できる。
【符号の説明】
【0063】
1 水力発電装置
2、2’ 水力機械
3 発電機
4 ケーシング
41 主流路
42 固定流路
43 流入部
44 終端部
45 ステーベーン
46 排水部
47 ランナ配置部
5、5’ ランナ
6 本体
61、61’ クラウン
61a 上側円盤部
61b 貫通孔
62 バンド
62a 開口部
62b 下側円盤部
62c 凸部
63 ランナベーン
7 接続部材
71 フランジブッシュ
71a 主軸用雌ネジ部
71b 挟持用雌ネジ部
71c 回り止め部
71d 端部
72 抜け止め部材
72a カバー部
73 ボルト
74 ワッシャ
8 主軸
81 雄ネジ部
O 回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8