(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009032
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】温度制御剤ならびにそれを用いた発熱組成物及び温熱材
(51)【国際特許分類】
C09K 5/06 20060101AFI20240112BHJP
A61F 7/03 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C09K5/06 L ZAB
A61F7/08 334R
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023190226
(22)【出願日】2023-11-07
(62)【分割の表示】P 2019569606の分割
【原出願日】2019-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2018018047
(32)【優先日】2018-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000112509
【氏名又は名称】フェリック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113402
【弁理士】
【氏名又は名称】前 直美
(72)【発明者】
【氏名】池澤 正義
(72)【発明者】
【氏名】岡村 佑季
(72)【発明者】
【氏名】宮下 洋一
(72)【発明者】
【氏名】宮下 永二
(57)【要約】
【課題】 従来の温度制御の代わりに、あるいはそれと併用して利用できる、より低コストで簡便に温熱材の温度制御(特に最高発熱温度の制御)を実現するとともに、温熱材の経年劣化及び高温下保存影響による発熱温度の低下を防止又は低減する手段及びそれを用いた温熱材を提供することを目的とする。また、本発明は、医療用途の温熱材のために利用可能な、より高度な温度制御手段を提供すること、及びより安全性及び有効性の高い改善された医療用途の温熱材を提供することを目的とする。
【解決手段】 35℃以上65℃以下の融点を有し、20℃での水溶解度(g/100mL)が5以下の脂肪族化合物を、ふるい分けし、16メッシュ標準ふるい(JIS Z8801-1による基準寸法:1000μm)を通過し、かつ60メッシュ標準ふるい(JIS Z8801-1による基準寸法:250μm)を通過しない粒子状形態の粉末を得る工程を含む、酸素と反応して発熱する発熱組成物を含む温熱材の最高温度を制御するための温度制御剤の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
35℃以上65℃以下の融点を有し、20℃での水溶解度(g/100mL)が5以下の脂肪族化合物を、ふるい分けし、16メッシュ標準ふるい(JIS Z8801-1による基準寸法:1000μm)を通過し、かつ60メッシュ標準ふるい(JIS Z8801-1による基準寸法:250μm)を通過しない粒子状形態の粉末を得る工程を含む、酸素と反応して発熱する発熱組成物を含む温熱材の最高温度を制御するための温度制御剤の製造方法。
【請求項2】
酸素と反応して発熱する発熱組成物を含む温熱材の最高温度を制御するための温度制御剤であって、60メッシュ標準ふるい(JIS Z8801-1による基準寸法:250μm)を通過しない粒子状形態であり、かつ、16メッシュ標準ふるい(JIS Z8801-1による基準寸法:1000μm)を通過する粒子状形態である、35℃以上65℃以下の融点を有し、20℃での水溶解度(g/100mL)が5以下の脂肪族化合物を一種以上含有する、温度制御剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素と反応して発熱する化学懐炉(カイロ)、温湿布構造物などの温熱材の製造に使用される温度制御剤、それを用いた発熱組成物及び包材、及びこれらを用いた温熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素又は空気と接触して発熱する発熱組成物を使用した温熱材は、温熱により疼痛を軽減するための温湿布や経絡刺激用温熱具のような医療機器として、あるいは防寒のためのカイロその他の加温具のような日用品などとして、一般に広く用いられている。
【0003】
このような温熱材に使用される発熱組成物は、最も一般的には、鉄粉などの金属粉、食塩などの塩類、水、及び活性炭などの保水剤などを構成成分として含み、金属が酸素と反応して生じる酸化熱によって発熱する。したがって、従来、発熱組成物を収容する袋体の通気性包材、特に通気性(多孔質)フィルム、の通気性、透湿度、材質などによって酸素の流入量をコントロールすることにより、温熱材の目的に合わせて所望の範囲内になるように、発熱特性が調節されてきた。
【0004】
このような方法によって調節できるのは、発熱の最高温度や立ち上がり時間、持続時間などであり、それらが、ある条件下で使用された場合に最適になるように製品が設計される。しかし、包材の性能を厳密に管理することは製造コストの面で負担になる。さらに、いかに高性能の通気性包材を使用しても、使用態様や袋体のピンホールなどにより実際の使用における通気量が設計どおりでない場合には、本来予定された性能が発揮されなかったり、安全上の問題が生じたりすることがある。
【0005】
たとえば、一般的な使い捨てカイロは、屋内外の移動やコートの着脱等によって環境温度やカイロに供給される空気量の変化の影響を受け、発熱温度が変動することがある。このようなカイロは、就寝時の使用が禁じられることが多い。これは、布団などで覆われることにより放熱が低減し、温度上昇が起こる結果、低温やけどの危険性が生じるためである。また、靴用の使い捨てカイロは、空気の流入が制限された環境での使用が予定されており、比較的通気性の高い包材を用いて製造される。しかし、実際の使用の際は、靴の種類毎に供給される空気量が異なるために温度のばらつきが生じたり、靴を脱いだ際に急激な温度上昇をすることがある。
【0006】
また、より正確な温度制御が要求される医療用途の温熱材においても同様の問題がある。たとえば、発熱体と薬剤とを組み合わせた経皮吸収型医療用温湿布は、熱による経皮吸収の効率化により効果の増大や薬剤量の低減といったメリットが謳われているが、上記のように、従来の温度調節では発熱温度の安定性が不完全であるため、実際には温度が安定しないことにより薬剤の投与量が安定しない問題点があった。さらに、火を使わないお灸の代替品として、短時間使用の発熱体のニーズもあるが、お灸は高温度帯を使用するため、温度安定性に欠ける使い捨てカイロ技術ではリスクが大きく、普及していない。
【0007】
そこで、本発明者らは、特定の温度制御剤を、発熱組成物又はそれを収容する袋体の包材に混合することにより、温熱材の温度安定性を高めることができることを見出した(特許文献3)。
【0008】
また、温熱材は、比較的安定な成分から構成されており、酸素を遮断して常温である程度の期間保存することができるが、保存中の温度変化、特に高温環境に曝されると保存性が低減し、最高温度が低下する場合がある。温度制御剤を用いた温熱材について、この点は検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開公報WO1999/000078
【特許文献2】特開2001-170099号公報
【特許文献3】国際公開公報WO2016/063815
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、通気性フィルムなどにより酸素ないし空気の供給量を制御することによる従来の温度制御の代わりに、あるいはそれと併用して利用できる、より低コストで簡便に温熱材の温度制御(特に最高発熱温度の制御)を実現するとともに、温熱材の経年劣化及び高温下保存影響による発熱温度の低下を防止又は低減する手段及びそれを用いた温熱材を提供することを目的とする。また、本発明は、医療用途の温熱材のために利用可能な、より高度な温度制御手段を提供すること、及びより安全性及び有効性の高い改善された医療用途の温熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、
〔1〕 酸素と反応して発熱する発熱組成物を含む温熱材の最高温度を制御するための温度制御剤であって、60メッシュ標準ふるい(JIS Z8801-1による基準寸法:250μm)を通過しない粒子状形態であり、35℃以上65℃以下の融点を有し、20℃での水溶解度(g/100mL)が5以下の脂肪族化合物を、一種以上含有することを特徴とする温度制御剤;
〔2〕 前記脂肪族化合物が、16メッシュ標準ふるい(JIS Z8801-1による基準寸法:1000μm)を通過する粒子状形態である、前記〔1〕記載の温度制御剤;
〔3〕 前記温度制御剤が、高級α-オレフィン重合体、パラフィンワックス、ミリスチン酸ミリスチル、ポリエステルポリオール、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルからなる群から選択される一種以上の化合物を含有する、前記〔1〕又は〔2〕記載の温度制御剤;
〔4〕 金属粉、塩類、水及び活性炭を含有し酸素と反応して発熱する発熱組成物であって、さらに前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の温度制御剤を含有することを特徴とする発熱組成物;
〔5〕 発熱組成物が固形形態である、前記〔3〕記載の発熱組成物;
〔6〕 前記〔4〕又は〔5〕記載の発熱組成物が収容された少なくとも一部が通気性を有する袋体又は容器を含む、温熱材;
〔7〕 少なくとも前記袋体又は容器が、実質的に酸素を遮断する気密性外袋に収容されている、前記〔6〕記載の温熱材;
〔8〕 使い捨てカイロ又は医療機器のいずれかとして使用される、前記〔6〕又は〔7〕記載の温熱材;
〔9〕 前記医療機器が、温湿布又は経絡刺激用温熱具のいずれかである、前記〔8〕記載の温熱材
が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、温熱材において、通気性フィルムによる温度制御の代わりとして、又はそれに加えて利用できる、簡便かつ低コストで確実な温度制御手段が提供され、長期間保存後も最高発熱温度が安定しており、より温度安定性が優れた安全性の高い温熱材を実現することができる。特に、本発明は、たとえば非常用の長期備蓄等にも適しており、睡眠中に使用しても低温熱傷の危険性が低い温熱材を提供する。具体的には、たとえば、
- 布団の被覆による低温火傷のリスクが低減された、就寝時も安全に使用できる温熱材;
- 靴の種類によらず安定した発熱が得られ、靴を脱いだ際も急激な温度上昇をすることのない、安全性の高い靴用使い捨てカイロ;
- 高度な温度安定性を有し、安全性及び有効性の高い経皮吸収型医療用温湿布;
- 高温度帯でも最高温度を制御することで安全に使用できるお灸などの経絡刺激用温熱具としての温熱材
などが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、温度調節剤としてα-オレフィン(融点58℃)を含む温熱体を50℃で保存した経時劣化試験の結果を示す図である。「60mesh↓」は60メッシュ標準ふるい(JIS Z8801-1による基準寸法:250μm)を通過するサンプル、「16~60mesh」は16メッシュ標準ふるい(JIS Z8801-1による基準寸法:1000μm)を通過し60メッシュ標準ふるい(JIS Z8801-1による基準寸法:250μm)を通過しないサンプルを使用したことを表す(以下の図においても同じ)。パネル(A)は製造直後;(B)は2週間保存後;(C)は4週間保存後;(D)は6週間保存後の発熱パターンをそれぞれ表す。
【
図2】
図2は、
図1に示す結果について経時的な最高温度の変化を表す図である。
【
図3】
図3は、温度調節剤としてα-オレフィン(融点62℃)を含む温熱体を50℃で保存した経時劣化試験の結果を示す図である。パネル(A)は製造直後;(B)は2週間保存後;(C)は4週間保存後;(D)は6週間保存後の発熱パターンをそれぞれ表す。
【
図4】
図4は、
図3に示す結果について経時的な最高温度の変化を表す図である。
【
図5】
図5は、温度調節剤としてパラフィンワックス(P)を含む温熱体を50℃で保存した経時劣化試験の結果を示す図である。パネル(A)は製造直後;(B)は2週間保存後;(C)は4週間保存後;(D)は6週間保存後の発熱パターンをそれぞれ表す。
【
図6】
図6は、
図5に示す結果について経時的な最高温度の変化を表す図である。
【
図7】
図7は、本発明の経絡刺激用温熱具(灸具)の構造の例を示す図である。パネルAは灸具の断面図、パネルBは発熱組成物錠剤(1)の斜視図、パネルCは発熱組成物錠剤(1)を容器本体(2)に入れた状態の斜視図、及びパネルDは発熱組成物錠剤(1)を入れた容器本体(2)を、それに付加する粘着剤加工されたトップ材(粘着テープ)(3)とともに示す斜視図である。なお、
図7における発熱組成物錠剤(1)は、水(又は塩水)を添加する前(膨潤する前)の形態で模式的に示されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
温度制御剤
本発明の温度制御剤は、35℃以上65℃以下の融点を有し20℃での水溶解度(g/100mL)が5以下の脂肪族化合物を一種以上含有することを特徴とする。上記の溶解度は、好ましくは3以下、さらに好ましくは1以下である。好ましい融点は、温熱材の用途により変動するが、一般的には好ましくは38℃以上60℃以下である。なお、本明細書において「脂肪族化合物」とは、有機化合物のうち分子内のすべての炭素原子が一列の鎖状につながっているもの、又は炭素原子の鎖に枝分れ構造があっても環式構造を含まないものを意味し、鎖式ジカルボン酸の無水物、イミド、オキシ酸のラクトン、環状エーテルなど、酸素や窒素を含む環式構造をもつが、その母体となる鎖式化合物と密接な関係があり、また容易に環が開いて鎖式化合物になるものを含む。
【0015】
このような特性を有する脂肪族化合物としては、高級α-オレフィン重合体、植物性、動物性又は石油系などの各種パラフィンワックス、ミリスチン酸ミリスチル、ポリエステルポリオール、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルなどの中から選択することができる。本明細書において、高級α-オレフィン重合体は、炭素数10~35のα-オレフィン二種以上を、又は炭素数10~35のα-オレフィン一種以上と他のオレフィン一種以上と共重合したものを指す。すなわち、高級α-オレフィン重合体は、炭素数10~35のα-オレフィン二種以上を共重合したもの、又は炭素数10~35のα-オレフィン一種以上と他のオレフィン一種以上とを共重合したものである。
【0016】
本発明において使用される高級α-オレフィン重合体としては、主鎖が折りたたまれて結晶化する主鎖結晶性ポリオレフィンであってもよいが、一定の長鎖α-オレフィンを側鎖に有する側鎖結晶性ポリオレフィンが好ましい。側鎖結晶性ポリオレフィンは、溶融挙動がシャープである。溶融していないときはべたつきがなく、都合がよい。このような側鎖結晶性ポリオレフィンは、たとえば「HSクリスタ」(豊国製油)等の商品名で製造販売されており、商業的に入手可能である。同様に、パラフィンワックス(たとえば日本精蝋)、ミリスチン酸ミリスチル(たとえばクローダジャパン)、ポリエステルポリオール(たとえばDIC、豊国製油)、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル(たとえば三洋化成)、高級α-オレフィン重合体も、それぞれ商業的に入手可能である。
【0017】
融点の測定は、示差走査熱量計を用いて以下のようにして行う。アルミニウム(Al)容器にサンプル5mg~15mgを投入し、その上からAl製クリンプカバーを被せ、一定の圧力を加えて密閉する。Al容器+クランプカバーをリファレンスとし、5℃/min.の昇温速度にて、推定融点の-50℃から、推定融点の+30℃まで昇温する。5分間保持した後、同速度にて冷却し、推定融点-50℃にて5分間保持する。これを2度繰り返し、2度目のサイクル(2nd-run)のDSC曲線を測定する。サンプルの融解に伴う吸熱によりDSCカーブに現れる吸熱主ピークから、融点を読み取る。
【0018】
20℃での水溶解度は、20℃で、水100g(100ml)にサンプルを溶かしていき、溶けなくなる限界量(溶解した最大量)の質量を読み取ることにより測定することができる。
【0019】
本発明の温度制御剤に含まれる脂肪族化合物は、常温でペレット、粉末、ブロックなどの形態であることができるが、ペレット、ブロックなどの形態のものは、混合前に粉砕(たとえば冷凍粉砕)して使用する。粉砕後、粒径が所定の範囲内となるように制御する。本明細書においては、脂肪族化合物の粒子のサイズは、標準ふるい(Tyler篩)による分別によって示す。ふるいの目のサイズは、一般に「メッシュ」又は「μm」(JIS Z8801-1(2006)における金属製ふるいの目開きの基準寸法(μm)であり、呼び寸法ともいう)で示され、それらの対応関係は公知である。本発明の温度制御剤には、市販の脂肪族化合物を適宜選択してそのまま使用することもでき、また、各種の標準ふるいを用いて通過する粒子と通過しない粒子とに篩い分け(分級)して、所望の発熱パターンを示すように適宜選択して配合することができる。本発明の温度制御剤に含まれる脂肪族化合物は、60メッシュ標準ふるい(目開き250μm)を通過しない粒子状形態であることを必要とする。脂肪族化合物は、さらに、16メッシュ標準ふるい(目開き1000μm)を通過する粒子状形態を含有することが望ましい。
この範囲の粒径のものであれば、完全に均一の粒径のものであることもでき、分布については特に制限はない。また、粒子の形態は問わない。
【0020】
本明細書において、ある目開きのふるいを「通過しない」とは、そのふるいを通過しないものが全体の60%以上であることを意味し、好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上であることを意味する。最も好ましくは100%である。同様に、ある目開きのふるいを「通過する」とは、そのふるいを通過するものが全体の60%以上であることを意味し、好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上であることを意味する。最も好ましくは100%である。
【0021】
本発明の温度制御剤を使用することによって発熱特性の安定性が生じるメカニズムは、特定の理論に拘束されるものではないが、概ね以下のように考えられる。温度制御剤を発熱組成物に添加した場合、温度制御剤の融点付近に発熱温度が到達したときに温度制御剤が溶融し、鉄粉の周辺を覆うことにより、酸化反応が阻害され、温度上昇が抑制される。
また、60メッシュ標準ふるい(目開き250μm)を通過しない粒子を用いると、それより細かい粒子を用いる場合と比較して、保存中の一時的な環境温度の変化に影響を受けることが少なくなり、偶発的な温度制御剤の溶融(及び最高発熱温度の低下)が起こりにくいと考えられる。一方、16メッシュ標準ふるい(目開き1000μm)を通過しない粒子は、溶解に時間がかかり、反応停止が遅れる傾向があるため、最高温度が高くなると考えられる。特に、錠剤のような形態の発熱組成物に用いる場合、分散状態に偏りが起こりやすく、そのため、最高温度に達する時間にばらつきが生じやすくなると考えられる。
【0022】
なお、温熱材の用途に応じて達成すべき最高温度と発熱パターンは異なる。したがって、要求される発熱性能を達成するように、温度制御剤の種類及び含有量を選択する。
【0023】
たとえば、肌に直接貼る温湿布カイロは、40℃前後の発熱温度が好ましいが、43℃を超えるとタンパク質の変性が起こり低温火傷のリスクが高まるといわれている。そのため、43℃を超えない設計とし、発熱温度が43℃以上になる可能性が生じた場合は、速やかに好適な40℃前後まで温度上昇を抑制することが望ましい。一方、抑制後に温度が下降し続けるのは温熱効果が低減するため望ましくない。また、肌に直接貼る温湿布カイロでも生理痛緩和目的のデリケートな女性の腹部に貼るものの場合は、40℃以下のマイルドな発熱が好ましい。
【0024】
一方、衣類に貼るタイプの使い捨てカイロは、肌が衣類で保護されるため、最高温度55℃付近で使用されている。お灸代替使い捨てカイロの場合は、比較的高温で短時間で使用されるが、肌に直接触れるため、55℃付近を超えない設計が望ましい。そして、お灸代替物の場合は温度上昇の抑制後に速やかに温度が下降した方が望ましい。
【0025】
このように、種々の温熱材のそれぞれに適した最高温度及び発熱パターンが存在するので、それが実現されるように、温度制御剤として、所望の最高温度と近い融点(たとえば、最高温度の-約20℃~+約10℃の融点(すなわち最高温度が融点の+約20℃から-10℃以内)、好ましくは最高温度との差が±約8℃以内の融点、さらに好ましくは最高温度との差が±約5℃以内の融点)を有する一種又は二種以上の脂肪族化合物を適宜選択して、添加量、添加方法、任意成分の添加などを設計することができる。たとえば、最高温度を55℃程度に制御するためには、融点58℃のα-オレフィンを選択することができる。
【0026】
発熱組成物
本発明の発熱組成物は、少なくとも金属粉、塩類、水及び活性炭を含有し、さらに本発明の温度制御剤を含有する。温度制御剤は、上述のとおりである。
【0027】
金属粉としては、一般的には鉄粉が使用されるが、酸化熱を生じるものであれば、それ以外のものであってもよい。塩類としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム等の無機塩類が一般に使用される。本発明の発熱組成物は、活性炭を含むが、活性炭以外の保水剤(たとえば吸水性重合体、バーミキュライト、おが屑、シリカ系物質など)をさらに含んでいてもよい。また、必要に応じて従来公知のその他の種々の成分を添加することができる。
【0028】
これらの成分の配合例としては、たとえば、発熱組成物の重量を100%として、鉄35~80重量%、活性炭1~20重量%、塩類1~10重量%、水5~45重量%、活性炭以外の保水剤0~45重量%からなるものが挙げられる。本発明の発熱組成物においては、鉄30~70重量%、活性炭1~15重量%、塩類12~5重量%、水20~30重量%、活性炭以外の保水剤1~25重量%、また賦形剤を5~30重量部、好ましくは10~30重量部の範囲のものが好ましい。温度制御剤の配合量は、上記のように温熱材の使用目的や達成すべき最高温度などに応じて、適宜選択することができる。たとえば、このような配合の発熱組成物100重量部に対し、本発明の温度制御剤を3~40重量部、好ましくは3~30重量部の量で添加し、混合する。
【0029】
発熱組成物は、上記のような必須成分及び必要に応じて選択した任意の成分を、公知の方法で、あらかじめ塩及び水を添加する場合は低酸素又は無酸素の条件下で、混合することにより製造することができる。発熱組成物は、粉体であってもよく、これを公知の方法でさらに加工してもよく、たとえば打錠によるキューブ状、圧延によるシート状などの態様に形成してもよい。発熱組成物を固形形態に成形する場合は、セルロース(たとえば結晶セルロース)、乳糖、でんぷん、デキストリン、ショ糖エステル、テフロン(登録商標)、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースなどの結合剤を添加してもよい。たとえば、打錠成形して錠剤型の固形とするには、発熱組成物100重量部に対し、結晶セルロースなどの結合剤を10重量部以上、好ましくは10~30重量部の範囲で添加することにより、所望の適切な硬度を有する錠剤とすることができる。このような固形形態の発熱組成物は、封入時に袋体又は容器のシール部分に粉が付着することによるシール不良を防止し、発熱温度のばらつきをなくすために好ましい。なお、発熱組成物については、粉末原料を混合する時点で塩類を同時に混合してもよいが、塩水として添加してもよい。
【0030】
このような温度制御剤を含有する本発明の発熱組成物は、JIS S4100発熱試験により、これを収容するための発熱組成物収容用袋に使用する通気性の包材(たとえば17,000~18,000秒/100cc(JIS P8117法(ガーレー法))を介して空気中の酸素と反応させた場合の温度変化を経時的に測定することにより、所望の最高温度を達成できているかどうかを確認することができる。なお、この目的で行う発熱試験は、想定される実際の使用状態を反映するように実験条件を適宜改変して行ってもよい。
【0031】
包材
発熱組成物は、発熱組成物収容用袋体に充填される。この発熱組成物が充填された袋体は、そのまま温熱材(たとえば、いわゆる貼らないタイプのカイロなど)として使用することもできる。一般に、発熱組成物収容用袋体は、少なくとも一部分が通気性を有するように形成されている。
【0032】
発熱組成物収容用袋体を構成する通気性包材は、その選択により発熱材の発熱特性(発熱の立ち上がり速度、発熱持続時間、人体や衣類などの加温対象への伝熱性など)が変化するので、使用目的に合わせてそれらが所望の範囲になるように、公知のものを適宜選択して使用することができる。
【0033】
一般的な人体用のカイロ等には、10,000~40,000秒/100cc(JIS P8117)の通気性包材が使用される。また、たとえば靴用カイロでは2,000~7,000秒/100ccが使用される。したがって、発熱組成物収容用袋の通気性包材として、一般には、通気度は、2,000~40,000秒/100ccの包材が使用される。経絡刺激用温熱具のように高温及び/又は短時間で使用するように設計する温熱材の場合は、0~10,000秒/100ccの包材を使用することができる。本発明の温度制御剤を使用することにより、温熱材の用途によっては精密な通気度管理が不要となり、使用できる通気性包材の許容範囲が広がる。
【0034】
本発明において袋体に用いられる通気性包材としては、全面又は部分的に通気性を有するフィルム又はシートであればよい。一般に、通気性包材としては、単層又は積層の多孔質フィルム又はシートが、単独で、又は織布もしくは不織布などと組み合わせて用いられたり、単層又は積層の無孔フィルム又はシートを、単独で、又は織布もしくは不織布などと組み合わせたものに針孔を開けたものが用いられる。なお、本発明において「フィルム」は主として単体(単層及び積層を含む;以下同じ)又は比較的薄いもの、「シート」は主として単体もしくは2以上の単体の積層体又は比較的厚いものを指すが、厳密には区別しないものとする。
【0035】
フィルムを構成する樹脂としては、一般に、熱可塑性合成樹脂等が使用される。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタン、ポリスチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリカーボネート等が単独で又は組み合わせで好適に用いられる。目的に応じて、また、適切な必要発熱量、温度、用いる発熱組成物等に合わせて、適宜選択することができる。
【0036】
本発明においては、通気性フィルム又はシートとしては、延伸フィルム、好ましくは延伸された多孔質フィルム又はそれを含むシートが好適に使用される。延伸多孔質フィルムは、一般に無機質充填剤を含み、延伸によって連通孔が形成されることにより通気性が発現するが、この孔径等を制御することにより通気度が制御できる。
【0037】
積層する場合は、通常は、ラミネート法によって行われるがそれに限らない。ラミネートは従来公知の任意の方法を適用することができる。たとえば、熱接合あるいはホットメルト接着剤又はアクリル系もしくはウレタン系接着剤等の接着剤で積層する方法でもよく、また全面接合であっても、柔軟性を保つために部分接合であってもよい。好ましくはカーテンスプレー法又はドライラミネート法が用いられる。
【0038】
不織布は、通気性包材において、包材強度の補強、機械適性の改善などの観点から使用される。上記のフィルムと積層されていてもよい不織布としては、従来、発熱体及び医療用温熱用具等の技術分野で用いられるものが好適に使用できる。ナイロン、ビニロン、ポリエステル、レーヨン、アセテート、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の人工繊維、綿、麻、絹等の天然繊維を含むものが挙げられ、スパンボンド、サーマルボンド、スパンレース等の形態の不織布が挙げられる。不織布の目付けは、不織布材質の比重や交絡法の違いによる嵩高さにより変わってくるが、一般に約10g/m2~約200g/m2程度のものが適しており、特に約20g/m2~約100g/m2が好ましい。
【0039】
特に、熱可塑性合成樹脂の延伸多孔質フィルムにナイロン、ポリエステル繊維等の不織布をラミネートした通気性シートが一般に多く使用されている。
【0040】
袋体の一部、たとえば扁平状袋体の裏側包材は、上記のような通気性包材でもよく、非通気性包材であってもよい。非通気性包材は、上記のような樹脂の単層又は積層フィルム又はシートであることができ、発熱組成物収容袋体の形成に適している限りにおいて、材質、厚さ、構成等に関し特に限定はない。
【0041】
発熱組成物収容用袋体は、上記のような包材を用いて、この技術分野において通常用いられる方法により周縁部を接着することにより製造することができる。温熱材は、この袋体に本発明の発熱組成物を封入することにより、基本的に製造することができる。一般的には、袋体の製造及び発熱材の製造は連続しており、まず重ねた包材の周縁部を、一部を残してヒートシール又は粘着剤で接着し、開いている部分から発熱組成物を投入した後、この開口部も接着し、発熱組成物を封入することが行われる。
【0042】
また、灸具のように、適用面積が狭い、及び/又は使用時間が短いものは、扁平状袋体ではなく、たとえば数mm~数cm程度の厚さのある容器に収容して使用してもよい。この場合も、蓋(トップ材)及び容器本体の製造には、上記のような各種の材質の包材を適宜用いることができる。たとえば、トップ材(
図7)は、シーラント材(3a)、不織布(3b)、粘着剤(3c)、剥離紙(3d)などの層を必要に応じて任意に含んでいることができ、 具体的な一例としては、3aから順に、LLDPE(30μm)/PETスパンレース不織布(30g/m
2)/SIS系ホットメルト粘着剤/PETセパレーター(38μm)とすることができる。なお、上記のとおり、灸具のような高温及び/又は短時間の発熱を利用するものの場合には通気性が非常に高い包材を用いることができるので、トップ材及び/又は容器本体に不織布を単体で使用してもよい。
【0043】
温熱材
温熱材は、上記のように本発明の発熱組成物を充填した袋体のみ(たとえば貼らない使い捨てカイロ)又は容器のみ(たとえば灸具)であることができるが、必要に応じて、さらに付加的な要素を追加することができる。これらの各種の要素は公知であり、袋体に一体化されていてもよく、あるいは、使用時に組み合わせるように別部材として提供されてもよい。付加的な要素の例としては、各種の固定手段や、使用時に組み合わせるべき各種のパーツ(たとえば、香料や薬剤を含む容器、水や化粧料を含有するシートなど、温熱材の用途に応じて使用されるもの)がある。固定手段としては、たとえば、温熱材を貼付可能とするように発熱組成物収容用袋体又は容器の一部の表面上に形成した粘着剤層や湿布剤層、加温対象に巻きつけて固定するためのバンド状の部材、発熱材を収容するポケットを設けたマスクやサポーターやリストバンドなどが挙げられる。また、温度調節などの目的で、容器と粘着剤層との間に台座を設けて、適用部位と温熱材との間の距離及び/又は空間を調節するようにしてもよい。なお、本発明の温熱材は、カンフル、メントールなどの各種薬剤又は香料を、粘着剤層、湿布剤層その他の構成要素、あるいは発熱組成物、及び/又は包材もしくは容器などに組み合わせて使用してもよい。たとえば、温感受容体として、トウガラシチンキ、トウガラシエキス、トウガラシ末、ショウキョウチンキ、ショウキョウエキス、ショウキョウ末、ウイキョウチンキ、ウイキョウエキス、ウイキョウ末、カプサイシン、カプサイシン誘導体、バニリルブチルエーテル、バニリルアルキルエーテル、ノニル酸ワニリルアミド等を粘着剤に添加することができる。冷感受容体として、l―メントール、薄荷、dl―カンフル、ペパーミント油、サイモール(チモール)、シュウ酸メンチルエチルアミド等を粘着剤に添加することができる。
【0044】
温熱材の、少なくとも発熱組成物を含む袋体又は容器は、酸素を遮断する外袋に密閉して使用時まで保存される。このような外袋も公知である。長期保存のための外袋としては、保存中の鉄の酸化反応を少なく抑えるため酸素透過度が低い、また、水蒸気の外袋からの放出を少なく抑えるため水蒸気透過度が低いアルミ層を含むものが、特に好ましい。
【実施例0045】
<灸具の製造>
図7に示す例と同様の、発熱組成物錠剤(1)を入れた容器本体(2)とトップ材(3)からなる灸具を以下のようにして製造した。発熱組成物の原料として、鉄粉(パウダーテック株式会社、還元鉄粉「RDH-3M」)、活性炭(大阪ガスケミカル株式会社 木粉活性炭「白鷺 S5」)、吸水性ポリマー(三洋化成株式会社 ポリアクリル酸系樹脂「ST-500D」)、結晶セルロース(旭化成ケミカルズ株式会社 結晶セルロース 「セオラスTG-101」)、塩(日本海水株式会社 粉末塩「EF-300」)及び以下で説明する脂肪族化合物(α-オレフィン:豊国製油株式会社 「HSクリスタ-6100」、パラフィンワックス:日本精蝋株式会社「SP-0145」)を使用した。発熱組成物の組成は、鉄粉45部、活性炭3.5部、吸水性ポリマー5部、結晶セルロース20部、塩3.5部及び温度制御剤として脂肪族化合物25部であった(「部」はすべて重量部である)。
【0046】
脂肪族化合物の粉砕及びふるい分けは以下のようにして行った。株式会社いすゞ製作所低温乾燥器中で100℃に溶融した各脂肪族化合物を、PETフィルムに厚さ約2mmに板状に流し、室温冷却した。完全固化した板を手作業で約10mm角に粗粉砕した。この粗粉砕物を、ステンレスコーヒーミル(品番HG6063 販売元株式会社ユノックス)で粉砕した。
粉砕品を、JIS規格ステンレス篩(東京スクリーン株式会社 枠寸法直径200×60mm 仕様JIS Z8801-1:2000)で手作業でふるい分けし、温度制御剤の試験サンプルとした。
【0047】
まず、かさ比重や粒径を考慮して、セルロース、脂肪族化合物、吸水性ポリマー、活性炭、塩、鉄の順に、ビーカーに計量して加えた。薬さじでまんべんなくかき混ぜ、各原料の偏在を無くした。この混合原料を2g計量し、(株)富士薬品機械「卓上型試作打錠機クイックミニFY-TQM-30」で打錠した(打錠圧15KN)。押す型金型は直径16.9mm、受け側金型内径は17mmを使用し、直径17mm、厚み7mmの円筒形の錠剤を製造した。
【0048】
発熱組成物錠剤を収容する容器は以下のように製造した。まず、木製の試作型(上:円筒状の棒、下:穴を開けた受け用の木型)を用意し、円筒状の棒の押す面を、実験用ホットスターラー又はホットプレートで200℃に加熱した。受け用の木型に載せた成形性不織布(旭化成株式会社 熱成形性不織布スマッシュ「Y15200 200g/m2」)を加熱した棒で加圧し、カップ状成形物を製造した。
【0049】
成形不織布容器本体に錠剤を入れ、容器上部に家庭用のアイロンでトップ材(OPP20μm/LLDPE30μm(トーホー加工株式会社))を貼りつけた。トップ材から注射器を用いて、2gの錠剤に対し0.8gの水を加えた。
気密性外袋(PET12μm/アルミ箔7μm/LLDPE50μm(トーホー加工株式会社)中に密封した。
【0050】
ただし、パラフィンワックスを用いた場合は、押す型金型は直径13.9mm、受け側金型内径は14mmを使用し、直径14mm、厚み4mmの円筒形の錠剤(1gの錠剤)を製造した。1gの錠剤に対し0.3gの水を加えた。
【0051】
<融点及び溶解度の測定>
各脂肪族化合物の融点を、示差走査熱量計を用いて測定した。測定装置としては、全自動冷却ユニット、解析システム(EXSTAR6000熱分析レオロジーシステム、ソフトはDSC Muse 測定ソフト及びDSC Muse 標準解析ソフト)と接続した示差走査熱量計(DSC6220、以上測定機器は全てセイコーインスツルメンツ社製)を使用し、サンプル容器として、オープン型試料容器 Al製 φ5.2 H2.5(50μl)、及びオープン型試料容器 Al製(クリンプカバー)を使用した。
【0052】
Al容器にサンプル5mg~15mgを投入し、その上からAl製クリンプカバーを被せ、一定の圧力を加えて密閉した。Al容器+クランプカバーをリファレンスとし、5℃/min.の昇温速度にて、推定融点の-50℃から、推定融点の+30℃まで昇温させた。5分間保持した後、同速度にて冷却し、推定融点-50℃にて5分間保持した。これを2度繰り返し、2度目のサイクル(2nd-run)のDSC曲線を測定した。サンプルの融解に伴う吸熱によりDSCカーブに現れる吸熱ピークから、上記で説明したとおりに融点を決定した。
【0053】
各脂肪族化合物の粉末を、20℃で、水100g(100ml)に溶かしていき、溶けなくなった限界量の質量を読み取ることにより、水への溶解度を測定した。
【0054】
融点は、α-オレフィン(融点58℃)は57℃、α-オレフィン(融点62℃)は59.5℃、パラフィンワックスは62.3℃であった。溶解度はいずれも1g/100ml未満であった。
【0055】
保存試験は、アドバンテック東洋(株)低温恒温恒湿器THE051FAで50℃、湿度35%条件で行った。50℃で2週間の保存は、常温で1年の保存に相当する。同様に、50℃で4週間は常温で2年、6週間は3年に相当すると考えられる。なお、50℃の温度設定は、アレニウスプロットでの室温との換算や倉庫保管時、海上コンテナ輸送を勘案しおこなった。
【0056】
<灸具の発熱試験>
発熱試験は、JIS S4100「使いすてかいろ」の方法に倣って、周囲温度20±1℃、風速0.5m/s以下(無風状態)、周囲湿度55~70%、温熱器と循環式恒温水槽からなる温熱装置の温熱部30±1℃の条件で、灸具の使用時には皮膚に直接貼付することから、温熱器表面に直接貼り付け、測定した。
【0057】
発熱試験は、室温20℃、湿度65%の恒温室に設置した、W615×D410×H60mm(8mm厚の塩化ビニル板を使用)のタンク状温熱器と、併設した循環式恒温水槽から8L/minの温水を循環させ、温熱器(塩化ビニル板)表面温度30℃に制御した上に、灸具サンプルを、容器本体を下にし、その底面のほぼ中央に温度測定用のセンサーを両面テープで貼って、温熱器表面の塩化ビニル板に貼りつけて行なった(温度測定機は(株)チノーグラフィックレコーダKR2S00、センサーは安立計器(株)、「ST-22E-005」)。
【0058】
【0059】
以上の結果から、本発明の温度制御剤を含有する発熱組成物を用いた温熱材は、最高発熱温度に関して、長期保存の影響をほとんど受けないことが明らかになった。したがって、本発明の温度制御材を含有する発熱組成物を用いた温熱材は、温度安定性が高く安全性が高いうえ、設計された発熱性能を長期間維持できるものである。
【0060】
この出願は、平成30年2月5日出願の日本特許出願、特願2018-018047に基づくものであり、特願2018-018047の明細書及び特許請求の範囲に記載された内容は、すべてこの出願明細書に包含される。