(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090324
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】電動車両
(51)【国際特許分類】
B60K 17/30 20060101AFI20240627BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B60K17/30 Z
B60L15/20 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206147
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】521537852
【氏名又は名称】ダイムラー トラック エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100176946
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 智恵
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 雄一
【テーマコード(参考)】
3D043
5H125
【Fターム(参考)】
3D043AA05
3D043AB01
3D043CA01
5H125AA01
5H125FF01
(57)【要約】
【課題】牽引の際に特殊な治具を必要としない。
【解決手段】ホイールハブ6及びタイヤホイールを介してモータ駆動力を駆動輪に伝えて走行する電動車両であって、ホイールハブ6に締結されたドライブフランジ10を介してモータ駆動力をタイヤホイールへ伝えるドライブシャフト7と、ドライブフランジ10から車両外側へ突出したドライブシャフト7の端部に嵌合されてドライブフランジ10とドライブシャフト7との位置合わせを行うスナップリング12と、ドライブシャフト7の端部及びドライブフランジ10並びにスナップリング12を覆い、ドライブフランジ7に固定可能に取り付けられたキャップ13と、を備える。ドライブシャフト7の端部にはその軸心に雌ねじ部7aが形成され、キャップ13には雌ねじ部7aの軸心と同一軸線上において貫通孔13aが形成され、貫通孔13aからボルト部材15を挿入して雌ねじ部7aに対し螺合可能となっている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータの駆動力を、ホイールハブ及びタイヤホイールを介して駆動輪に伝えて走行する電動車両であって、
前記ホイールハブに締結されたドライブフランジを介して、前記電動モータの駆動力を前記タイヤホイールへ伝えるドライブシャフトと、
前記ドライブフランジから車両外側へ突出した前記ドライブシャフトの端部に嵌合され、前記ドライブフランジと前記ドライブシャフトとの位置合わせを行うスナップリングと、
前記ドライブシャフトの前記端部、前記ドライブフランジ及び前記スナップリングを覆い、前記ドライブフランジに固定可能に取り付けられたキャップと、を備え、
前記ドライブシャフトの前記端部には、その軸心に雌ねじ部が形成されるとともに、
前記キャップには、前記雌ねじ部の軸心と同一軸線上において貫通孔が形成され、
前記貫通孔からボルト部材を挿入し、前記雌ねじ部に対し螺合可能としたことを特徴とする、電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減の観点から、トラック等の商用車の分野においても内燃機関を備えず、電動モータのみによって駆動する電動トラックの開発が行われている。このような電動車両の駆動ユニットとして、例えば、電動モータと、複数のギヤからなる変速機構等の動力伝達機構とを備え、駆動輪が連結されたディファレンシャルギヤに電動モータの駆動力を伝達することができるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動車両の駆動ユニットには、電動モータから駆動輪までにクラッチなどの動力遮断機構がなく、動力直結されるものが存在する。このような電動車両にて電動モータなどに故障が発生した場合、他車両によって牽引されることが考えられるが、駆動輪が接地された状態で牽引されると、駆動輪からドライブシャフト、ディファレンシャルギヤ及び変速機構を介して電動モータへ強制的に動力が伝達されてしまう。電動モータが外部から強制的に駆動されると、電動モータ自身が損傷したり、関連する電装品に悪影響を与えたりする虞がある。そのため、電動車両が牽引される場合、駆動ユニットのどこかで動力伝達を遮断する必要があるが、作業性の観点から、駆動輪のホイールハブとドライブシャフトとの連結部分が切り離されることが多い。ホイールハブとドライブシャフトとは、ドライブフランジを介して互いに連結されているので、牽引の際には、ドライブフランジを外す必要がある。
【0005】
ところで、ドライブシャフトの端部にはスナップリングが嵌合されており、このスナップリングによってドライブシャフトとドライブフランジとの位置合わせが行われている。しかし、ドライブシャフトは、走行によって僅かに車両内側へ引き込まれることがあり、これにより、スナップリングに対してせん断方向の力が作用し、スナップリングがドライブシャフトとドライブフランジとの間に挟まった状態になることがある。この状態では、スナップリングを取り外しにくいので、ドライブシャフトを車両外側へ引き出し、スナップリングに作用しているせん断方向の力をキャンセルする必要がある。ただし、この作業には、特殊な治具を使わなければならないため作業性が悪く、特殊な治具がなければそもそも牽引作業ができない虞がある。
【0006】
本件は、上記のような課題に鑑み創案されたものであり、自車両を他車両に牽引させる場合に、特殊な治具を必要としない電動車両を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本件は、上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現できる。
適用例に係る電動車両は、電動モータの駆動力を、ホイールハブ及びタイヤホイールを介して駆動輪に伝えて走行する電動車両であって、前記ホイールハブに締結されたドライブフランジを介して、前記電動モータの駆動力を前記タイヤホイールへ伝えるドライブシャフトと、前記ドライブフランジから車両外側へ突出した前記ドライブシャフトの端部に嵌合され、前記ドライブフランジと前記ドライブシャフトとの位置合わせを行うスナップリングと、前記ドライブシャフトの前記端部、前記ドライブフランジ及び前記スナップリングを覆い、前記ドライブフランジに固定可能に取り付けられたキャップと、を備え、前記ドライブシャフトの前記端部には、その軸心に雌ねじ部が形成されるとともに、前記キャップには、前記雌ねじ部の軸心と同一軸線上において貫通孔が形成され、前記貫通孔からボルト部材を挿入し、前記雌ねじ部に対し螺合可能としたことを特徴とする。
【0008】
適用例に係る電動車両では、キャップの貫通孔にボルト部材を挿入してドライブシャフト端部の雌ねじ部に螺合し、ボルト部材をさらに締め込んでいくことで、ドライブシャフトをドライブフランジに対して車両外側に引き出すことができる。これによりスナップリングに作用していた応力(せん断方向の力)が緩むため、スナップリングを外し易くできる。スナップリングを外すことで、ドライブフランジを外すことができ、結果として駆動輪と電動モータとの機械的な連結が遮断され、自車両を他車両に牽引させる場合に、電動モータが外部から強制的に駆動されることが無くなる。このように、ドライブシャフトを引き出す機能をキャップに持たせることにより、特殊な治具が不要となり、作業性が向上する。
【発明の効果】
【0009】
適用例に係る電動車両によれば、自車両を他車両に牽引させる場合に、特殊な治具を必要としない電動車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】適用例に係る電動車両の牽引方法にかかる牽引態様を示す模式的な左側面図である。
【
図2】適用例に係る電動車両の通常時の要部拡大断面図である。
【
図3】
図2の電動車両を牽引する場合の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して、本件の適用例に係る電動車両について説明する。以下の適用例はあくまでも例示に過ぎず、この適用例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。下記の適用例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、下記の適用例の各構成は、必要に応じて取捨選択でき、あるいは公知技術に含まれる各種構成と適宜組み合わせられる。
【0012】
[1.構成]
図1は、本実施形態に係る電動車両1(以下、「車両1」とも言う)の牽引方法にかかる牽引態様を示す模式的な左側面図である。車両1は、例えば、トラック,バス,自動車などであり、内燃機関を備えず、電動モータ2の駆動力を、ホイールハブ6及びタイヤホイール5を介して駆動輪3に伝えて走行する電気自動車である。なお、後輪が駆動輪3であり、前輪が操舵輪4である車両1を例示しているが、前輪駆動かつ後輪操舵の車両や四輪駆動の車両であってもよい。なお、車両1は左右で略同様の(左右対称の)構成を有するため、以下では、左側について説明し、右側の詳細な説明は省略する。
【0013】
車両1が故障などして牽引される場合、被牽引車である車両1は、前方に位置する牽引車20に対して牽引ロープ21で連結され、牽引車20の駆動力によって牽引される。この態様では、被牽引車である車両1は、駆動輪3の少なくとも一部が台車の上に固定されず、直接路面に接地して走行する場合を想定している。
【0014】
車両1は、電動モータ2及びインバータ(図示略)を含む駆動ユニットと、電動モータの動力源となるバッテリ(図示略)とを備え、駆動ユニットから駆動輪3までの動力伝達経路上にクラッチなどの動力遮断機構がなく、動力直結されたものである。このため、
図1に示す牽引態様では、牽引時に駆動輪3が回され、この回転が直接電動モータ2に伝わって、電動モータ2が外部から強制的に駆動されてしまう。本実施形態に係る車両1は、この事態を回避するための構造を備える。
【0015】
図2は、車両1の駆動輪3の周囲をドライブシャフト7の軸方向に沿って切断した断面図であり、タイヤホイール5は省略している。車両1には、電動モータ2の駆動力をタイヤホイール5へ伝えるドライブシャフト7と、ドライブシャフト7の車両外側(
図2中の左側)の端部の外周面にスプライン結合されるとともにホイールハブ6に締結されたドライブフランジ10とが設けられる。電動モータ2の駆動力は、ドライブシャフト7からドライブフランジ10を介してホイールハブ6及びタイヤホイール5に伝達される。
【0016】
ドライブフランジ10は、ホイールハブ6に対して複数の締結部材11により固定されるとともにドライブシャフト7にスプライン篏合される。また、ドライブシャフト7は、図示しない懸架装置によりシャシフレームに支持されたハウジング8の内部に所定の間隔をあけた状態で支持されており、ハブベアリング9をハウジング8とホイールハブ6との間に介在させることにより、ドライブシャフト7の回転がホイールハブ6に伝わるようになっている。
【0017】
ドライブシャフト7の端部は、ドライブフランジ10から車両外側へ突出している。ドライブシャフト7のこの端部には、ドライブシャフト7とドライブフランジ10との位置合わせを行うスナップリング12が嵌合される。具体的に言えば、スナップリング12は、ドライブフランジ10の車両外側の端面に凹設された凹部に配置されるとともに、ドライブシャフト7の端部の外周面に凹設された溝に嵌め込まれる。
【0018】
上記のドライブシャフト7の端部、ドライブフランジ10、及び、スナップリング12は、ドライブフランジ10に固定可能に取り付けられるキャップ13によって覆われる。キャップ13は、鋳造または鍛造により成形された高剛性部品であり、ドライブフランジ10の車両外側の端部の外周面に対して、螺合または嵌合されて固定される。
【0019】
ドライブシャフト7の端部には、その軸心に雌ねじ部7aが形成されている。また、キャップ13には、この雌ねじ部7aの軸心と同一軸線上においてキャップ13を貫通した貫通孔13aが形成されている。これにより、キャップ13がドライブフランジ10に固定された状態で、車両外側から貫通孔13aにボルト部材15(
図3参照)を挿入し、ドライブシャフト7の端部の雌ねじ部7aに螺合可能となっている。なお、
図3は、車両1を牽引する場合の作業状態を示した図であり、牽引以外の通常時では、
図2に示すように、キャップ13には、貫通孔13aを塞ぐ栓部材14が取り付けられる。栓部材14は、例えばボルトやゴム栓である。
【0020】
貫通孔13aは、ボルト部材15の太さよりもわずかに大きな内径を持つストレート孔である。また、キャップ13の貫通孔13aは、ボルト部材15が貫通孔13aに挿入されて雌ねじ部7aに螺合されたときに、その頭部がキャップ13の車両外側の面に当接する深さに設定されることが好ましい。言い換えれば、キャップ13の貫通孔13aが形成される部分の軸心方向の寸法(厚み)と、雌ねじ部7aの深さと、ボルト部材15の長さとの関係が、ボルト部材15を雌ねじ部7aに螺合したときにボルト頭部がキャップ13の上記の面に当接するように設定されている。
【0021】
前述した通り、ドライブシャフト7は、走行によって僅かに車両内側へ引き込まれることがある。この場合、ドライブフランジ10に対するドライブシャフト7の位置が、ドライブシャフト7の軸心方向かつ車両内側にずれ、スナップリング12に対してせん断方向の力が作用し、スナップリング12がドライブシャフト7とドライブフランジ10との間に挟まった状態になる。この状態ではスナップリング12を簡単に取り外せないので、ドライブシャフト7を車両外側に少し引っ張る必要がある。
【0022】
そこで、本実施形態に係る車両1では、
図3に示すように、雌ねじ部7aと同サイズのボルト部材15を用いて、キャップ13を治具として使用する。具体的に言えば、キャップ13から栓部材14を取り外し、代わりにボルト部材15を貫通孔13aに挿入し、雌ねじ部7aに螺合して、ボルト部材15をさらにねじ込むことで、ドライブフランジ10に対してドライブシャフト7が車両外側へ引き出される。
【0023】
[2.作用及び効果]
上記の適用例に係る車両1では、キャップ13の貫通孔13aにボルト部材15を挿入してドライブシャフト7の端部の雌ねじ部7aに螺合し、さらにボルト部材15をねじ込むことでボルト部材15の座面がキャップ13との接触面を滑りながら、締結部材11によりホイールハブ6に固定されているドライブフランジ10に対して、ドライブシャフト7を車両外側に引き出す力を加えることができる。これによりスナップリング12に作用していた応力(ドライブシャフト7が車両内側に向かうことで生じるせん断方向の力)が緩むため、スナップリング12を外し易くできる。
【0024】
スナップリング12を外した後は、締結部材11を外せばドライブフランジ10を外すことができる。これにより、ドライブシャフト7とホイール6ハブとの間で動力が伝達されないので、結果として駆動輪3と電動モータ2との機械的な連結が遮断される。このため、自車両1が他車両(例えば牽引車20)に牽引される場合に、電動モータ2が外部から強制的に駆動されることが無くなる。このように、ドライブシャフト7を引き出す機能をキャップ13に持たせることにより、特殊な治具を必要とせず、作業性を向上させることができる。言い換えれば自車両1を他車両に牽引させる場合に、特殊な治具を必要としない電動車両1を提供することができる。
【0025】
[3.その他]
上記の適用例では、被牽引車である車両1が、駆動輪3の少なくとも一部が台車の上に固定されず、直接路面に接地して走行する場合を想定していたが、車両1の牽引方法は特に限られない。仮に、駆動輪3が直接路面に接地しない牽引方法であったとしても、車両1に上記の構成を採用してもよい。
なお、
図2及び
図3に示した各部材の形状は一例であり、図示したものに限らない。また、当然のことではあるが、締結部材11を外した状態でも駆動輪3の操舵装置と制動装置は作動することから、安全に車両1が牽引されるものである。
【符号の説明】
【0026】
1 車両(電動車両,自車両)
2 電動モータ
3 駆動輪
4 操舵輪
5 タイヤホイール
6 ホイールハブ
7 ドライブシャフト
7a 雌ねじ部
8 ハウジング
9 ハブベアリング
10 ドライブフランジ
11 締結部材
12 スナップリング
13 キャップ
13a 貫通孔
14 栓部材
15 ボルト部材
20 牽引車
21 牽引ロープ