(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090335
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】マグネシウム合金を用いた鋳造構造部材
(51)【国際特許分類】
C22C 23/02 20060101AFI20240627BHJP
C22F 1/06 20060101ALI20240627BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
C22C23/02
C22F1/06
C22F1/00 611
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 630B
C22F1/00 681
C22F1/00 602
C22F1/00 630C
C22F1/00 640A
C22F1/00 651B
C22F1/00 631A
C22F1/00 631B
C22F1/00 631Z
C22F1/00 661Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206169
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000142872
【氏名又は名称】株式会社戸畑製作所
(71)【出願人】
【識別番号】519087941
【氏名又は名称】株式会社グローバルマグネシウムコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100126712
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 督生
(72)【発明者】
【氏名】松本 敏治
(72)【発明者】
【氏名】松林 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】野坂 洋一
(57)【要約】
【課題】鋳造製造に適しており、難燃性、機械的特性の適切なレベルとバランスが取れたマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材を提供する。
【解決手段】本発明のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材は、マグネシウム合金を用いた鋳造構造部材であって、前記マグネシウム合金は、全体に対して、6.0質量%~8.0質量%のアルミニウム(Al)と、全体に対して、0.2質量%~0.5質量%のカルシウム(Ca)と、全体に対して、0.1質量%~0.6質量%のマンガン(Mn)と、全体に対して、0.2質量%~0.8質量%のミッシュメタル(Mm)と、残部のマグネシウムおよび不可避不純物とからなり、鋳造による製造により得られる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金を用いた鋳造構造部材であって、
前記マグネシウム合金は、
全体に対して、6.0質量%~8.0質量%のアルミニウム(Al)と、
全体に対して、0.2質量%~0.5質量%のカルシウム(Ca)と、
全体に対して、0.1質量%~0.6質量%のマンガン(Mn)と、
全体に対して、0.2質量%~0.8質量%のミッシュメタル(Mm)と、
残部のマグネシウムおよび不可避不純物とからなり、
鋳造による製造により得られるマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材。
【請求項2】
引張強度が200MPa以上である、請求項1記載のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材。
【請求項3】
伸びが5.0%以上である、請求項1記載のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材。
【請求項4】
前記ミッシュメタルは、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)ルテチウム(Lu)の少なくとも一つ以上の組み合わせである、請求項1記載のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材。
【請求項5】
前記鋳造構造部材は、前記マグネシウム合金の溶体化処理および時効処理を経て得られる、請求項1記載のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材。
【請求項6】
前記溶体化処理では、溶体化処理温度が430℃~450℃であり、溶体化処理時間が24時間~96時間である、請求項5記載のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材。
【請求項7】
前記時効処理では、時効処理温度が168℃~216℃であり、時効処理時間が4時間~16時間である、請求項5記載のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材。
【請求項8】
前記マグネシウム合金を用いた鋳造構造部材は、
自動車、二輪車、航空機、船舶、鉄道車両のいずれかにおける、
車両用ホイール、パワートレイン、トラクションモータ、インバータ、減速機、伝達機関、ピストン、シャフト、コンロッド、カバー部、シリンダ、シリンダブロック、アーム、ナックル、ピラー、ホイール、コンプレッサ筐体、ステアリング、内部筺体、エンジンマウント、オイルパン、ギア、ギアケース、ナット、ねじ、ボルト、LED照明装置のヒートシンク、空圧・電動工具、およびそれらを構成する部材および筐体の少なくとも一つに適用される、請求項1から7のいずれか記載のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材。
【請求項9】
鋳造製造での構造部材に用いられるマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材の製造方法であって、
所定組成のアルミニウム、カルシウム、マンガン、ミッシュメタルおよびマグネシウムを秤量する秤量工程と、
前記秤量工程で秤量されたアルミニウム、カルシウム、マンガン、ミッシュメタルおよびマグネシウムを溶解させる溶解工程と、
前記溶解工程で得られた合金溶湯を鋳型において鋳造する鋳造工程と、
前記鋳造工程で得られた鋳造素材を、所定温度範囲、所定時間で溶体化処理する溶体化処理工程と、
前記溶体化処理工程の後で、所定時間で時効処理する時効処理工程と、を備え、 前記アルミニウムは、全体に対して6.0質量%~8.0質量%であり、
前記カルシウムは、全体に対して0.2質量%~0.5質量%であり、
前記マンガンは、全体に対して0.1質量%~0.6質量%であり、
前記ミッシュメタルは、全体に対して0.2質量%~0.8質量%であり、
前記マグネシウムは残部の分量である、
マグネシウム合金を用いた鋳造構造部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造による構造部材を製造するのに適した、難燃性と機械的特性を向上させたマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器や精密機器、自動車や航空機などの輸送機器、製造機械など、様々な機器や装置において筐体や各種部品などを構成するために鉄やアルミニウムなどの様々な金属素材が用いられる。
【0003】
電子機器や精密機器は、作業性や持ち運び容易性などの観点から、軽量化を必要としている。軽量でありながら、十分な耐久性や強度を必要としている。このような観点から、電子機器や精密機器の筐体や各種部品など(部材)を構成する素材として、軽量性のある金属素材が使われるようになってきている。
【0004】
ここで、輸送機器には、燃費向上や輸送性能向上のために特に軽量化が求められている。輸送機器の軽量化が図られれば、輸送機器の走行性能や飛行性能が高まる。さらには、輸送機器の軽量化が図られれば、必要となる燃料を削減することができ、燃費性能が向上するからである。近年は輸送機器の電動化、特に自動車の電動化、電動自動車(EV)化が急激に進められており、その電池重量、電力消費および航続距離の観点から軽量化ニーズが非常に高くなっている。もちろん、軽量化に伴うメリットはほかにも多々ある。
【0005】
このような観点から、軽量性のある金属素材としてアルミニウムなどの軽金属やその合金が用いられるようになってきている。このような軽金属の素材において、ダイカストなどを含む広義の鋳造による成形工程に適した軽金属の合金が求められるようになっている。また、輸送機器に用いられる構造部材では、軽量化に加えて強度などの機械的特性の高さも併せて求められる。
【0006】
例えば、二輪車を含む自動車のホイールなど足回り部材の軽量化は、ばね下重量の低減に直結するため、燃費および操舵性の向上に貢献する。一方で、荷重や動作負荷がかかる。あるいは物理的衝突などの負荷も加わる。このような負荷に耐えるだけの強度などが必要である。
【0007】
これは、製造機械などにおいても同様である。多くの機器や装置は、作業の容易性、運搬の容易性、低燃費性、エコロジー性などを必要としており、これを実現する基準の一つとして、軽量化が求められている。この軽量化を実現するために、軽金属の素材が用いられている。あるいは開発されている。
【0008】
上述した自動車のホイールの軽量化には、最初においては鉄系金属が用いられ、次いでアルミニウムを主成分とするアルミニウム合金が用いられている。このアルミニウムよりもマグネシウムは元素として軽量である。マグネシウムの室温における密度は、1.7g/cm3であり、この密度は鉄の密度の約1/4であり、アルミニウムの密度の約2/3である。
【0009】
このため、自動車のホイールの軽量化のために、アルミニウム合金ではなくマグネシウム合金の利用が求められている。また、アルミニウム合金における自動車ホイールの製造方法は重力鋳造および低圧鋳造が用いられており、マグネシウムにおいては大半が鍛造、一部で重力鋳造が用いられている。一方で構造部材全般においてはその大半がダイカストにより製造されている。
【0010】
ダイカストによる製造は、同じ形状・構造の構造部材を大量生産するのに適している。しかしながら、構造部材においてひけ巣やガス欠陥が生じるなどの内部欠陥が生じやすい問題がある。また、金型コストが高く、製造量が少ない場合には、製造コストが増加する問題がある。ダイカストによる製造は、加圧を伴う射出成形による製造であるので、凝固速度は速く、凝固時間は短くなるため、この短い凝固時間に起因してこれらの内部欠陥が生じうるからである。
【0011】
これに対して、一般的な鋳造による製造は、ダイカストによる製造と異なり凝固時間が長くなる。ここでの鋳造には、重力鋳造、低圧鋳造、差圧鋳造などが含まれる。凝固時間が長いことにより、構造部材での内部欠陥が生じにくいメリットがある。また、少量製造であればダイカストよりもコストメリットが高い。加えてPF法(無孔性ダイカスト法)等の例外を除きダイカストでは、熱処理ができないことによる強度不足などが生じ得る。これに対して、鋳造による製造であれば、熱処理ができるので、得られる構造部材の強度などの向上を実現できる。加えて、既に量産されているアルミニウム合金におけるホイールの製造設備に適用可能であることが望ましい。
【0012】
このため、鋳造による製造に適しているマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材が求められている。
【0013】
このため、AZ81というマグネシウム合金が採用されている。このAZ81合金は、アルミニウムが8質量%程度、亜鉛が0.7質量%程度、マンガンが0.3質量%程度、残りがマグネシウムと不可避不純物である合金である。このAZ81合金が、鋳造により車両用ホイールの製造原料として用いられている状況がある。
【0014】
ここで、AZ81合金はJIS H 5203に定められるAZ91合金と合金組成および特性が重複・類似していることが知られている。このAZ91合金は、アルミニウムが9質量%程度、亜鉛が0.7質量%程度、マンガンが0.3質量%程度、残りがマグネシウムと不可避不純物である合金である。
【0015】
しかしながら、AZ81合金は発火温度が低く燃えやすいという問題がある。元素としてのマグネシウムは発火温度が低く、このためマグネシウム合金も発火温度が低く燃えやすい。すなわち、難燃性が低い。難燃性が低ければ、製造されたホイールやその他の構造部材の耐熱性や耐久性が不十分である。また、製造段階で熱が生じる場合の、製造耐久性が不足することも生じる。
【0016】
このため、AZ81のようなマグネシウム合金は、車両用ホイールなどの構造部材を鋳造により製造するためにはカバーガスやフラックス等が不可欠である特殊な工程が必要となる。このため、AZ81合金はアルミニウム合金におけるホイールの製造設備に適用することができない。
【0017】
AZ81のようなマグネシウム合金の難燃性の低い問題に対応するために、AZX912というカルシウムを添加したマグネシウム合金も提案されている。AZX912合金は、カルシウムを添加することで、マグネシウム合金の難燃性を向上させることを企図している。
【0018】
また、難燃性を考慮したマグネシウム合金についてもいくつかの技術が提案されている。このような難燃性を向上させることで、車両用ホイールに適したマグネシウム合金が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特表2013-512338号公報
【特許文献2】WO2020/054880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
特許文献1は、難燃性を向上させることを目的としたマグネシウム合金を開示する。特許文献2は、難燃性の向上と高靭性を両立させることを目的としたマグネシウム合金を開示する。
【0021】
特許文献1,2のマグネシウム合金は、カルシウムを添加することで、難燃性を向上させることを企図している。
【0022】
しかしながら、カルシウムを添加することで難燃性を向上させようとした場合に、難燃性を上げるためにカルシウムの添加量を増加させることが行われる。しかしながら、カルシウムの添加量が増えると、得られるマグネシウム合金の機械的特性が低下する問題が生じる。機械的特性が下がると、このマグネシウム合金から製造される構造部材の耐久性や強度が不足する問題につながる。
【0023】
特許文献1では、製造工程においてスラッジが生じてしまい、機械的特性が低下する問題もある。すなわち、機械的特性の不十分さがある。
【0024】
また、特許文献2のマグネシウム合金は、ダイカストによる製造に特化したマグネシウム合金であり、重力鋳造(低圧鋳造、差圧鋳造など)を始めとした鋳造での構造部材の製造に適していない。鋳造における成形性が不足しており、さらに効果的な熱処理を行うことができないために、機械的特性(耐久性や強度など)を向上させることができず、機械的特性が不足する問題がある。
【0025】
機械的特性が低下すると、製造された構造部材(構造部品)の強度が不足するなどの問題がある。ここで、車両用ホイールなどの輸送機器の構造部材などにおいては、設計段階での強度の指標としての引張強度が重要となる。また、伸びが適度にあることも必要である(使用における負荷への対応のため)。
【0026】
このように、従来技術のマグネシウム合金では、難燃性および機械的特性をバランスよく実現しつつ、鋳造による製造で構造部材を製造できるマグネシウム合金を実現できていない問題があった。
【0027】
本発明は、上記課題に鑑み、鋳造による製造に適しており、難燃性、機械的特性、それぞれの適切なレベルとバランスが取れたマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記課題に鑑み、本発明のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材は、マグネシウム合金を用いた鋳造構造部材であって、
前記マグネシウム合金は、
全体に対して、6.0質量%~8.0質量%のアルミニウム(Al)と、
全体に対して、0.2質量%~0.5質量%のカルシウム(Ca)と、
全体に対して、0.1質量%~0.6質量%のマンガン(Mn)と、
全体に対して、0.2質量%~0.8質量%のミッシュメタル(Mm)と、
残部のマグネシウムおよび不可避不純物とからなり、
鋳造による製造により得られるマグネシウム合金を用いた。
【発明の効果】
【0029】
本発明のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材は、従来のアルミニウム合金を用いた構造部材よりも軽量である。このため、車両用ホイールなど従来はアルミニウム合金が通常と考えられていた分野の構造部材の材料としての置き換えが可能となる。従来のアルミニウム合金より軽量であることで、例えば車両用ホイールのような輸送機器の構造部材に適用される。結果として、輸送機器の燃費向上などに繋がる。
【0030】
また、難燃性に優れており、製造時や構造部材としての使用時での、高温環境に対しても対応できる。結果として、製造の容易性向上や、構造部材の適用範囲の拡大につながる。また、既に量産されているアルミニウム合金におけるホイールの製造設備に適用することが可能となる。
【0031】
加えて、引張強度や伸びも鋳造用のJIS H 5203に定められるアルミニウム合金鋳物AC4CH T-6を基準として十分なレベルのマグネシウム合金による構造部材(構造部品)を製造することができる。また、鋳造による製造に用いることができるので、少量の構造部品製造に適している。
【0032】
これらの結果、マグネシウム合金の適用範囲を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の鋳造構造部材を製造するマグネシウム合金の製造工程を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施の形態における溶解工程を示す模式図である。
【
図3】測定された引張強度の平均値を、アルミニウムとミッシュメタルの組成比率での値をクロス表にした表である。
【
図4】測定された伸びの平均値を、アルミニウムとミッシュメタルの組成比率での値をクロス表にした表である。
【
図6】溶体化処理温度を検討した実験結果を示す表である。
【
図7】本発明の溶体化処理時間に関する測定結果を示す表である。
【
図8】時効処理時間を変えて時効処理を行った場合の、ビッカース硬度の上昇を確認した測定結果の表である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の第1の発明に係るマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材は、マグネシウム合金を用いた鋳造構造部材であって、
前記マグネシウム合金は、
全体に対して、6.0質量%~8.0質量%のアルミニウム(Al)と、
全体に対して、0.2質量%~0.5質量%のカルシウム(Ca)と、
全体に対して、0.1質量%~0.6質量%のマンガン(Mn)と、
全体に対して、0.2質量%~0.8質量%のミッシュメタル(Mm)と、
残部のマグネシウムおよび不可避不純物とからなり、
鋳造による製造により得られる。
【0035】
この構成により、引張強度、伸びに優れて、軽量化が求められる用途に適したマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材が得られる。
【0036】
本発明の第2の発明に係るマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材では、第1の発明に加えて、引張強度が200MPa以上である。
【0037】
この構成により、荷重や負荷への高い耐久性が求められる構造部材などへの適用ができる。
【0038】
本発明の第3の発明に係るマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材では、第1の発明に加えて、伸びが5.0%以上である。
【0039】
この構成により、構造部材に過剰な荷重や負荷がかかる際にも直ちに破損せず、変形することで高い安全性が求められる構造部材などへの適用ができる。
【0040】
本発明の第4の発明に係るマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材では、第1の発明に加えて、前記ミッシュメタルは、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)ルテチウム(Lu)の少なくとも一つ以上の組み合わせである。
【0041】
この構成により、引張強度、伸びに優れたマグネシウム合金を得ることができる。また、耐食性も向上する。
【0042】
本発明の第5の発明に係るマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材では、第1の発明に加えて、前記鋳造構造部材は、前記マグネシウム合金の溶体化処理および時効処理を経て得られる。
【0043】
この構成により、機械的特性を向上させることができる。
【0044】
本発明の第6の発明に係るマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材では、第5の発明に加えて、前記溶体化処理では、溶体化処理温度が430℃~450℃であり、溶体化処理時間が24時間~96時間である。
【0045】
この構成により、機械的特性の向上を最適に行える。
【0046】
本発明の第7の発明に係るマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材では、第5の発明に加えて、前記時効処理では、時効処理温度が168℃~216℃であり、時効処理時間が4時間~16時間である。
【0047】
この構成により、機械的特性の向上を最適に行える。
【0048】
本発明の第8の発明に係るマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材では、第1から第7のいずれかの発明に加えて、前記マグネシウム合金を用いた鋳造構造部材は、
自動車、二輪車、航空機、船舶、鉄道車両のいずれかにおける、
車両用ホイール、パワートレイン、トラクションモータ、インバータ、減速機、伝達機関、ピストン、シャフト、コンロッド、カバー部、シリンダ、シリンダブロック、アーム、ナックル、ピラー、ホイール、コンプレッサ筐体、ステアリング、内部筺体、エンジンマウント、オイルパン、ギア、ギアケース、ナット、ねじ、ボルト、LED照明装置のヒートシンク、空圧・電動工具、およびそれらを構成する部材および筐体の少なくとも一つに適用される。
【0049】
この構成により、荷重や負荷、変形、衝撃などへの耐性に優れた部材が得られる。
【0050】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0051】
(実施の形態1)
【0052】
(マグネシウム合金)
【0053】
本発明のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材は、次の構成を有する。
マグネシウム合金を用いた鋳造構造部材であって、
前記マグネシウム合金は、
全体に対して、6.0質量%~8.0質量%のアルミニウム(Al)と、
全体に対して、0.2質量%~0.5質量%のカルシウム(Ca)と、
全体に対して、0.1質量%~0.6質量%のマンガン(Mn)と、
全体に対して、0.2質量%~0.8質量%のミッシュメタル(Mm)と、
残部のマグネシウムおよび不可避不純物とからなり、
鋳造による製造により得られるマグネシウム合金を用いている。
【0054】
マグネシウム合金が含む組成として、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、マンガン、ミッシュメタルである。ここで、このとき、原料の由来、製造工程などにおいて不可避に混じってしまう不可避混合物が、マグネシウム合金に含まれることは除外しない。
【0055】
加えて、マグネシウム合金の特性や性質を損なうものでない成分が添加されることを除外しない。同様に、発明の意図を阻害しない成分が添加されることを除外しない。例えば、上述した成分以外の成分が添加されるが、本発明でのマグネシウム合金の性質や意図を阻害しない場合である。
【0056】
図1は、本発明の鋳造構造部材を製造するマグネシウム合金の製造工程を示す模式図である。
【0057】
原料であるアルミニウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、ミッシュメタルのそれぞれを、上述の組成範囲に対応して溶解容器100に投入する。溶解容器100が加熱されることで、これら原料が溶解して合金溶湯が得られる。
図1は、この合金溶湯を得るところまで示されている。
【0058】
合金溶湯は、鋳造で用いられる鋳型に注湯される。この鋳造工程により鋳造素材が得られる。この後で、鋳造素材には、所定温度、所定時間で溶体化処理がなされる。溶体化処理の後に所定時間において時効処理が行われる。
【0059】
このような工程を経て、本発明のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材が得られる。
【0060】
本発明の鋳造構造部材をなすマグネシウム合金は、鋳造による製造に用いられる。このため、鋳造工程および溶体化処理と時効処理を含めて、最終的なマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材が、難燃性と機械的特性に優れていることが必要である。鋳造構造部材は、例えば輸送機器の車輪ホイールや構造品などに用いられるので、難燃性が重要である。同様に、成形方法などへの対応力がありつつ負荷への耐久性が高い機械的特性の高さも必要である。
【0061】
機械的特性として、引張強度と伸びが一定以上であることが求められる。
【0062】
本発明のマグネシウム合金においては、引張強度、伸びが求められる。例えば、本発明のマグネシウム合金は、輸送機器や設備機器の構造部材などに使用される。一例としては、車両用ホイールに使用される。
【0063】
このような用途であるマグネシウム合金では、車両用ホイールなどの構造部材となった場合での荷重や負荷への耐性が求められる。十分な引張強度は、この荷重や負荷への耐性を実現するために求められる。
【0064】
同時に、車両用ホイールなどの構造部材には、加えた荷重や負荷に応じて変形やひずみが生じる。このため、これらに使用されるマグネシウム合金には、特性として十分な伸びが求められる。また、特性として伸びを有していることは、塑性加工などにも好適である。
【0065】
ここで、本発明のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材は、引張強度として200MPa以上であり、伸びが5.0%以上である。
【0066】
これを基準とするのは以下の理由による。車両用ホイールに使用されるアルミニウム合金鋳物AC4CH T-6において、JIS H 5202に定められる機械的特性は引張強度250MPa以上、伸び5%以上とされている。アルミニウム合金とマグネシウム合金の比重差が約2/3であることを考慮すると、引張強度250MPaは170MPa程度に換算される。一方で部材の剛性設計およびヤング率を考慮すると、軽量化効果は20%程度となるため、これらを踏まえると200MPa以上であることが適切である。
【0067】
伸びについては、AC4CH T-6と同等以上であることが望ましい。
【0068】
上述した組成比率を有する本発明のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材は、これらの用途に適する引張強度、伸びを有する。
【0069】
この鋳造構造部材をなすマグネシウム合金の組成と組成比率が次の通りである。
【0070】
アルミニウム(以下、必要に応じて「Al」という)の組成比率は、全体に対して、6.0mass%~8.0質量(mass)%である。カルシウム(以下、必要に応じて「Ca」という)の組成比率は、全体に対して、0.2質量%~0.5質量%である。マンガン(以下、必要に応じて「Mn」という)の組成比率は、0.1質量%~0.6質量%である。ミッシュメタル(以下、必要に応じて「Mm」という)の組成比率は、0.2質量%~0.8質量%である。
【0071】
ここで、マグネシウムは発火温度が低くそのままの合金では難燃性が低い。このため、カルシウムを添加することで難燃性を向上させることができる。しかしながらカルシウムの添加量が多すぎると機械的特性が下がる。これに対応してミッシュメタルを複合して添加することで、難燃性を生じさせつつ機械的特性を維持することができる。また、アルミニウムを含むことで、強度や鋳造性を上げることができる。
【0072】
ミッシュメタルは、次の通りである。
【0073】
ミッシュメタルは、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジウム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)ルテチウム(Lu)の少なくとも一つ以上の組み合わせである。
【0074】
ミッシュメタルを含むことで、強度特性や難燃性が向上する。加えて、耐食性の向上をもたらす。耐食性が低いと、マグネシウム合金および構造部材の耐久性や耐候性が低くなる問題につながる。ミッシュメタルを含むことで、耐食性の向上が図られる。
【0075】
(製造方法)
【0076】
マグネシウム合金を用いた鋳造構造部材は、上述した組成比率に基づく原料をスタートとして製造される。以下に製造方法について説明する。
【0077】
図1は、本発明の実施の形態1におけるマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材の製造方法を示すフローチャートである。
【0078】
図1のフローチャートに示される通り、マグネシウム合金を用いた鋳造部材は、秤量工程ST1、溶解工程ST2、鋳造工程ST3、溶体化処理工程ST4、時効処理工程ST5を経て、製造される。もちろん、
図2では、製造方法における主だった工程を示しており、他の工程が追加されて製造されても問題ない。あるいは、それぞれの工程に追加的な補助工程が取り込まれてもよい。
【0079】
秤量工程ST1では、上述したような組成比率になるように、アルミニウム、カルシウム、ミッシュメタル、マンガン、マグネシウムが秤量される。不可避混合物は、原料であるアルミニウムなどの純度などによって含まれうるし、秤量工程ST1などにおいて混合してしまうことで含まれうる。
【0080】
溶解工程ST2では、秤量されたそれぞれの原料が溶解容器にて溶解される。
図2は、本発明の実施の形態における溶解工程を示す模式図である。秤量された原料である、アルミニウム、カルシウム、マンガン、ミッシュメタル、マグネシムが溶解容器100に投入される。溶解容器100に投入されたこれらの原料は、加熱によって溶解される。
【0081】
溶解工程ST2を経て得られる合金溶湯は、鋳造用の型に注湯される。重力鋳造などの手法での鋳造である。これが鋳造工程ST3である。これにより、鋳型に合わせた形状を有する鋳造素材が得られる。
【0082】
次いで、溶体化処理工程ST4が、実施される。溶体化処理工程ST4では、所定温度(所定温度は範囲を有する)、所定時間での加熱、保持を通じて、鋳造素材の溶体化処理が行われる。溶体化処理により、鋳造で得られたマグネシウム合金素材内部の金属化合物を固溶させる(溶け込ませる)ことで後述の時効処理が効果的になるため、機械的特性の向上につながる。
【0083】
溶体化処理工程ST4の後で、時効処理工程ST5が行われる。時効処理工程ST5においては、所定温度(所定温度は範囲を有する)、所定時間での加熱、保持を通じて、鋳造素材の時効処理が行われる。時効処理により、溶体化処理で固溶体化(溶け込んだ)したマグネシウム合金中の金属間化合物を析出させることで硬度、強度等の機械的特性が向上する。
【0084】
この時効処理工程ST5が終了することで、本発明のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材が得られる。この鋳造構造部材が、下記に示す引張強度と伸びを有する機械的特性を有する。また、難燃性も有する。当然ながら、主成分がマグネシウムであることで、アルミニウムを主成分とするアルミニウム合金よりも軽量である。車両用ホイールを始めとした、輸送機器や設備機器の構造部材に適したマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材が得られる。
【0085】
なお、この製造工程においては、秤量工程ST1で秤量されるマグネシウム合金の組成および組成比率は、次の通りである。
【0086】
アルミニウム(以下、必要に応じて「Al」という)の組成比率は、全体に対して、6.0mass%~8.0質量(mass)%である。カルシウム(以下、必要に応じて「Ca」という)の組成比率は、全体に対して、0.2質量%~0.5質量%である。マンガン(以下、必要に応じて「Mn」という)の組成比率は、0.1質量%~0.6質量%である。ミッシュメタル(以下、必要に応じて「Mm」という)の組成比率は、0.2質量%~0.8質量%である。
【0087】
また、溶体化処理工程と時効処理工程での各種条件は、後述する通りである。このような製造工程が、マグネシウム合金を用いた鋳造構造部材の製造方法である。
【0088】
(マグネシウム合金を用いた鋳造構造部材の特性)
【0089】
本発明のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材の特性の基準を、次のように設定した。
【0090】
(1)引張強さ:マグネシウム合金の試験片における引張強度が、200MPa以上である。
【0091】
(2)伸び:マグネシウム合金の試験片における伸びが、5.0%以上である。
【0092】
上述した組成および組成比率を備える本発明のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材は、これら(1)~(2)の特性を備えている。これらの特性を備えることで、上述した車両用ホイールなどの輸送機器の構造部材や、設備機器の構造部材に好適に使用できる。マグネシウムを主成分とすることで、非常に軽量であり、成形加工や使用された構造部材の十分な品質を実現できる。
【0093】
(測定方法)
上述の組成範囲および製造工程で製造されたマグネシウム合金について、(1)引張強度、(2)伸びについて測定した。それぞれの測定方法は次の通りである。マグネシウム合金の組成比率を変えながら測定し、マグネシウム合金の最適な組成範囲も確認した。
【0094】
(1)引張強度
上述した組成範囲の中で、組成比率を変更した複数の種類のマグネシウム合金を用いた試験片を製作した。これらの試験片について、株式会社東京試験機製の試験機器である「AY-300P」を用いてJIS Z 2241にて規定される測定方法に基づいて、引張強度を測定した。
【0095】
(2)伸び
引張強度と同様にJIS Z 2241にて規定される測定方法に基づいて、伸びを測定した。
【0096】
(測定結果)
【0097】
発明者は、マグネシウム合金の組成であるアルミニウム、カルシウム、マンガン、ミッシュメタル、マグネシウムの組成比率を変更した試験片を製作して引張強度、伸びを測定した。このとき、測定結果の信頼性を高めるために、同じ組成比率の複数の試験片を製作し、複数の試験片の測定を行って、それぞれの測定結果から平均値を得ることで、ある組成比率の鋳造構造部材の引張強度と伸びの結果とした。
【0098】
ここで、カルシウムとマンガンのそれぞれについては、0.3質量%に固定して、アルミニウムとミッシュメタルの組成比率を変化させた試験片のそれぞれで引張強度と伸びを測定した。アルミニウムについては、5.0質量%~9.0質量%までの範囲で、ミッシュメタルについては、0.2質量%~1.0質量%までの範囲である(ミッシュメタルについては、後述するように0.0質量%でも測定した)。
【0099】
図3は、測定された引張強度の平均値を、アルミニウムとミッシュメタルの組成比率での値をクロス表にした表である。マグネシウム合金の組成比率を変更したマグネシウム合金での試験片の引張強度をそれぞれ測定し、その平均値をクロス表に反映した表である。それぞれの組成比率において、複数の試験片を製作して引張強度を上述の測定方法で測定し、その平均値を算出した。この平均値を、
図3の表に記載したものである。
【0100】
図4は、測定された伸びの平均値を、アルミニウムとミッシュメタルの組成比率での値をクロス表にした表である。マグネシウム合金の組成比率を変更したマグネシウム合金での試験片の伸びをそれぞれ測定し、その平均値をクロス表に反映した表である。それぞれの組成比率において、複数の試験片を製作して伸びを上述の測定方法で測定し、その平均値を算出した。この平均値を、
図4の表に記載したものである。
【0101】
図3,
図4において、機械的特性としての基準である、引張強度が200MPa、伸びが5%以上となる組成範囲が決定された。
【0102】
(Al:5.0質量%、Mm:0.2質量%)
引張強度の平均値は179.6MPaであり、伸びは5.4%である。すなわち、引張強度が不足している。Alの組成比率が低いことで、引張強度が不十分であることが分かる。
【0103】
(Al;5.0質量%、Mm:0.8質量%)
引張強度の平均値は154.9MPaであり、伸びの平均値は5.4%である。やはり、引張強度が不十分である。
【0104】
(Al;5.0質量%、Mm:1.0質量%)
他の測定結果において、Mmが1.0質量%となると、強度や伸びに不足が出ることが分かったので、これについては測定を行っていない。
【0105】
(Al:6.0質量%、Mm:0.2質量%)
引張強度の平均値は201.0MPaであり、伸びは8.9%である。これにより、この組成比率であれば、引張強度と伸びが目標を満たしており、適正であると考えられる。
【0106】
(Al:6.0質量%、Mm:0.8質量%)
引張強度の平均値は201.2MPaであり、伸びは8.3%である。これにより、この組成比率であれば、引張強度と伸びが目標を満たしており、適正であると考えられる。
【0107】
(Al:6.0質量%、Mm:1.0質量%)
引張強度の平均値は194.8MPaであり、伸びは7.2%である。Mmが1.0質量%になると、引張強度が低下して目標を満たすことができない。他の測定結果も考慮して、後述するが、Mmの上限は0.8質量%が適切であると考えられる。
【0108】
(Al:6.5質量%、Mm:0.2質量%)
引張強度の平均値は208.5MPaであり、伸びは6.9%である。これにより、この組成比率であれば、引張強度と伸びが目標を満たしており、適正であると考えられる。また、上述と合わせて、Alの組成比率の下限値は6.0質量%が適当であると考えられる。
【0109】
(Al:6.5質量%、Mm:0.8質量%)
引張強度の平均値は203.4MPaであり、伸びは6.0%である。これにより、この組成比率であれば、引張強度と伸びが目標を満たしており、適正であると考えられる。
【0110】
(Al:6.5質量%、Mm:1.0質量%)
引張強度の平均値は195.7MPaであり、伸びは6.3%である。Mmが1.0質量%になると、引張強度が低下して目標を満たすことができない。やはり、Mmの上限は0.8質量%が適切であると考えられる。
【0111】
(Al:7.0質量%、Mm:0.2質量%)
引張強度の平均値は211.7MPaであり、伸びは8.7%である。これにより、この組成比率であれば、引張強度と伸びが目標を満たしており、適正であると考えられる。
【0112】
(Al:7.0質量%、Mm:0.8質量%)
引張強度の平均値は201.5MPaであり、伸びは6.7%である。これにより、この組成比率であれば、引張強度と伸びが目標を満たしており、適正であると考えられる。
【0113】
(Al:7.0質量%、Mm:1.0質量%)
引張強度の平均値は194.1MPaであり、伸びは6.2%である。Mmが1.0質量%になると、引張強度が低下して目標を満たすことができない。やはり、Mmの上限は0.8質量%が適切であると考えられる。
【0114】
(Al:8.0質量%、Mm:0.2質量%)
引張強度の平均値は214.1MPaであり、伸びは7.5%である。これにより、この組成比率であれば、引張強度と伸びが目標を満たしており、適正であると考えられる。
【0115】
(Al:8.0質量%、Mm:0.8質量%)
引張強度の平均値は207.3MPaであり、伸びは5.8%である。これにより、この組成比率であれば、引張強度と伸びが目標を満たしており、適正であると考えられる。
【0116】
(Al:8.0質量%、Mm:1.0質量%)
引張強度の平均値は202.0MPaであり、伸びは5.2%である。引張強度および伸びは目標を満足しているが、他の組成比率での結果(強度不足)を考慮すると、Mmは0.8質量%を上限とすることが適当と考えられる。
【0117】
(Al:9.0質量%、Mm:0.5質量%)
引張強度の平均値は193.2MPaであり、伸びは2.1%である。引張強度も伸びも不十分であり、アルミニウムの上限は8.0質量%が適当であると考えられる。
【0118】
(実験結果のまとめ)
【0119】
図3の引張強度が示す結果および
図4の伸びの結果が示す通り、引張強度が200MPa以上であり伸びが5.0%以上であるのは、アルミニウムが6.0質量%~8.0質量%であることが好ましい。アルミニウムが6.0質量%を下回って5.0質量%となると、引張強度が低下する。アルミニウムが8.0質量%を超えて9.0質量%となると伸びが5.0%より低くなってしまう。
【0120】
よって、アルミニウムの下限は6.0質量%であり、上限は8.0質量%であることが適切である。
【0121】
同様に、ミッシュメタルも0.2質量%~0.8質量%であることが適切である。引張強度および伸びの両方の目標を満たすのが、この範囲だからである。ミッシュメタルが1.0質量%となると引張強度が200MPaを下回ってしまう。また、ミッシュメタルが0.0質量%である場合も同様である(Al:6.5質量%、Mm:0.0質量%のときの引張強度は183.5MPaである)。
【0122】
よって、ミッシュメタルの下限は0.2質量%であり、上限は0.8質量%である。
【0123】
図5は、組成比率の最適範囲を示す模式図である。このように、アルミニウムが6.0質量%~8.0質量%であり、ミッシュメタルが0.2質量%~0.8質量%であることが適切である。
【0124】
(カルシウムとマンガンの含有量)
また、カルシウムは、0.2質量%~0.5質量%であることが適切である。カルシウムの含有量は、0.2質量%以上である必要がある。カルシウムはマグネシウム合金を得る際に、溶湯表面に強固な保護膜を形成して、この保護膜により難燃性が向上する。0.2質量%未満では、この保護膜形成が不十分となって、難燃性向上の効果も不十分となってしまう。一方で、カルシウムを大量に添加すると伸びが低下する傾向があり、0.5質量%を超えると、特にその傾向が顕著になる。また、カルシウムの添加量が多すぎると溶湯の濡れ性が上がって、溶解容器への親和性が上がって発火しやすくなる問題もある。
【0125】
以上から、カルシウムは、0.2質量%~0.5質量%であることが適切である。
【0126】
マンガンは、0.1質量%~0.6質量%であることが適切である。
【0127】
マグネシウム合金を製造する工程での溶解工程においては、鉄(Fe)るつぼが溶解容器として用いられる。この溶解容器で原料となる各金属を溶解して溶湯を得る際に、どうしても溶解容器に含まれる鉄分が溶出してしまうことがある。また、原料に不純物として含まれる鉄分が溶出することもある。マンガンが含有されると、このマンガンが溶出する鉄分とが金属間化合物を析出して、溶湯の底に沈殿する。溶湯の底を使用しないことで、鉄分の除去が行える。
【0128】
ここで、マンガンの含有量が0.1質量%未満であると、このような鉄分との金属間化合物の生成が不十分となって、鉄分除去が不十分となる。マグネシウム合金の中に鉄分が残存して、耐食性が低下する問題がある。一方で、マンガンが多すぎると、アルミニウムとマンガンとの金属間化合物が析出したり、マンガンの単体が析出したりしやすくなり、これらが溶湯中に残って好ましくない。マンガンの含有量が0.6質量%以上となるとこの問題が顕著になる。
【0129】
これらから、マンガンの含有量は0.1質量%~0.6質量%であることが適切である。
【0130】
以上から、本発明の鋳造構造部材のベースとなるマグネシウム合金の組成比率は次の通りが適切であることが確認された。
【0131】
前記マグネシウム合金は、
全体に対して、6.0質量%~8.0質量%のアルミニウム(Al)と、
全体に対して、0.2質量%~0.5質量%のカルシウム(Ca)と、
全体に対して、0.1質量%~0.6質量%のマンガン(Mn)と、
全体に対して、0.2質量%~0.8質量%のミッシュメタル(Mm)と、
残部のマグネシウムおよび不可避不純物とからなる。
【0132】
もちろん、不可避不純物は、積極的に含まれる意図ではなく、含まれてしまった場合のことである。
【0133】
以上のように、本発明のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材は、引張強度および伸びの点で高い機械的特性を有し、難燃性も有する。また、マンガンおよびミッシュメタルを含むことで、耐食性も向上している。
【0134】
(溶体化処理)
【0135】
本発明のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材は、
図1に示すように「溶体化処理」工程を含んで製造される。
【0136】
溶体化処理は、鋳造素材を所定温度において所定時間で保持することで、素材内部の金属間化合物を固溶させることができる。ここで、溶体化処理の所定温度である溶体化処理温度は、430℃~450℃であることが好ましい。
【0137】
図6は、溶体化処理温度を検討した実験結果を示す表である。溶体化処理温度を、415℃、430℃、450℃の3種類として溶体化処理を実行した(溶体化処理時間は、24時間)。更に、溶体化処理の後で、180℃の温度で16時間の時効処理を実行した。
【0138】
この時効処理後の鋳造素材のビッカース硬度の変化を測定した。上述の通り、溶体化処理は合金中における金属間化合物の固溶を促進することで、時効処理における析出硬化を効果的なものとする。このため、溶体化処理条件が適切であれば時効処理後に硬度が上昇する。すなわち、ビッカース硬度が溶体化処理前よりも上昇していれば、溶体化処理条件が適切であることが分かる。
【0139】
ここで、415℃の場合には、ビッカース硬度の上昇がみられない。430℃、450℃の場合には、ビッカース硬度の上昇がみられる。また、470℃の温度で溶体化処理を行ったところ、部分的な融解や燃焼が生じたので、470℃では温度が高すぎることが確認された。
【0140】
これらの測定結果から、溶体化処理温度は、430℃~450℃であることが好ましい。
【0141】
図7は、本発明の溶体化処理時間に関する測定結果を示す表である。
【0142】
また溶体化処理時間は、
図7の測定結果などを含めて、24時間~96時間であることが好ましい。
図7においては、溶体化処理温度を450℃として、溶体化処理時間を、24時間、32時間、48時間、96時間のそれぞれで溶体化処理を実施した。その後、180℃の温度で16時間の時効処理を行って、鋳造構造部材を得た。この時効処理の後で、ビッカース硬度の上昇を測定した。
【0143】
ビッカース硬度が上昇していることで、溶体化処理の効果が生じていることについては、上述した通りである。
【0144】
図7の測定結果の通り、24時間、32時間、48時間、96時間のいずれでもビッカース硬度は上昇している。一般的には、マグネシウム‐アルミニウム系合金では、溶体化処理は16~24時間である。しかし、カルシウムを含有する場合には、溶体化処理時間を長くすることが求められる。このため、24時間を下限とする。一方で、溶体化処理時間が長くなりすぎると、製造時間、製造コストなどが高まるデメリットも生じる。
【0145】
測定結果およびこれらの知見から、溶体化処理時間は、24時間~96時間であることが好ましい。
【0146】
(時効処理)
【0147】
図1で説明した通り、溶体化処理の後で、時効処理が施される。時効処理は、所定の温度で所定の時間保持される処理である。
【0148】
時効処理温度については、一例として180℃であることでもよい。例えば、JIS H 5203の鋳物2種(AZ91)での時効処理温度から、180℃が一例として検討される。また、このJIS H 5203の鋳物2種(AZ91)に基づいて、時効処理温度は、168℃~216℃の範囲であればよいと考えられる。
図8に示されるように、実際に時効処理温度を168℃~216℃の範囲において実施し、ビッカース硬度が上昇したことが確かめられた。よって、168℃~216℃の範囲が時効処理温度として適当である。
【0149】
この時効処理での時効処理時間は、4時間~16時間であることが好ましい。
【0150】
図8は、時効処理時間を変えて時効処理を行った場合の、ビッカース硬度の上昇を確認した測定結果の表である。この測定結果から分かる通り、4時間~16時間が適当である。これらから、時効処理温度は、168℃~216℃であり、時効処理時間は、4時間~16時間が適当である。
【0151】
このような条件での溶体化処理と時効処理が工程に含まれることで、従来のアルミニウム合金やマグネシウム合金にそん色ない引張強度と伸びを有するマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材が実現できる。
【0152】
また、この鋳造構造部材は、軽量であるマグネシウムを主成分としているので、軽量であり、難燃性についても解決している。また、同合金は鋳造において最適に使用できるので、鋳造による製造のメリットを活かして、鋳造構造部材を実現できる。
【0153】
また、既に使用されているアルミニウム合金と同じ製造設備を用いた構造部材を製造できるメリットもある。このため、設備投資のコストを低減でき、本発明のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材の普及に繋がる。
【0154】
(実施の形態2)
【0155】
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2では、マグネシウム合金を用いた鋳造構造部材の具体例について説明する。
【0156】
本発明のマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材としては次のようなものがあり得る。
【0157】
自動車、二輪車、航空機、船舶、鉄道車両のいずれかにおける、内燃機関および電動によるパワートレイン、トラクションモータ、インバータ、減速機、伝達機関、ピストン、シャフト、コンロッド、カバー部、シリンダ、シリンダブロック、アーム、ナックル、ピラー、ホイール、コンプレッサ筐体、ステアリング、内部筺体、エンジンマウント、オイルパン、ギア、ギアケース、ナット、ねじ、ボルト、LED照明装置のヒートシンク、空圧・電動工具、およびそれらを構成する部材および筐体の少なくとも一つに適用される。
【0158】
このような分野として使用される。
【0159】
マグネシウム合金は非常に軽量であり、これらに例示した構造部材に使用されると、構造部材の軽量化を実現できる。また、適した引張強度、伸びを有することで、構造部材の成形加工や構造部材の実使用において、より適した状態とできる。
【0160】
また、本発明のマグネシウム合金が、これらの鋳造構造部材に用いられることで、鋳造構造部材の固定時に発生する応力に耐えることができる十分な強度をもつことができる。
【0161】
車両用ホイールに適用される場合には、ホイール締結部の応力、振動、衝撃に耐えることができる。
【0162】
なお、実施の形態1~2で説明されたマグネシウム合金を用いた鋳造構造部材は、本発明の趣旨を説明する一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変形や改造を含む。
【符号の説明】
【0163】
100 溶解容器