(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090336
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】プレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D22/26 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206173
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕之
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA05
4E137AA08
4E137AA10
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA09
4E137CA21
4E137CA24
4E137CB01
4E137EA02
4E137EA03
4E137GA03
4E137GA06
4E137GB03
(57)【要約】
【課題】自動車の車体部品のプレス成形で生じるスプリングバックを抑制して、外観も良好なプレス成形品を効率よく得ることができるプレス成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るプレス成形品の製造方法は、天板部1と天板部1に稜線部3を介して連続する縦壁部5とを有するプレス成形品を製造する方法であって、中間天板部21と中間天板部21に中間稜線部23を介して連続する中間縦壁部25とを有し、中間天板部21に凸形状部29又は凹形状部を付与した中間成形品17を成形する第1工程と、中間成形品17の凸形状部29又は凹形状部を押し潰して前記プレス成形品を成形する第2工程とを備え、該第2工程では、凸形状部29又は凹形状部を押し潰すことで発生する材料流れにより、中間稜線部23の材料を縦壁部5側に押し出して中間稜線部23であった部位に曲げ戻しを付与するようにしたことを特徴とするものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板部と該天板部に稜線部を介して連続する縦壁部とを有するプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法であって、
中間天板部と該中間天板部に中間稜線部を介して連続する中間縦壁部とを有し、前記中間天板部に前記中間稜線部の延在方向と同じ方向に延在し、稜線部直交断面が凸形状又は凹形状を有する凸形状部又は凹形状部を付与した中間成形品を成形する第1工程と、
前記中間成形品の前記凸形状部又は前記凹形状部を押し潰して前記プレス成形品を成形する第2工程とを備え、
該第2工程では、前記凸形状部又は前記凹形状部を押し潰すことで発生する材料流れにより、前記中間稜線部の材料を前記縦壁部側に押し出して前記中間稜線部であった部位に曲げ戻しを付与するようにしたことを特徴とするプレス成形品の製造方法。
【請求項2】
前記プレス成形品は、前記天板部の両側に一対の縦壁部を有するハット断面形状部品又はコ字断面形状部品であることを特徴とする請求項1記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程で成形したハット断面形状部品又はコ字断面形状部品の前記天板部を前記稜線部の延在方向に切断して分割し、2個のZ字断面形状部品又は2個のL字断面形状部品を取得する分割工程をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項4】
前記天板部における前記凸形状部又は前記凹形状部が付与される部位の稜線部方向片側又は両側が切り欠かれており、
前記分割工程は、前記天板部の切り欠かれた部位を切除することで前記天板部を分割するようにしたことを特徴とする請求項3記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項5】
前記プレス成形品は、前記天板部の片側にのみ縦壁部を有するZ字断面形状部品又はL字断面形状部品であり、
前記第2工程は、前記中間成形品の前記中間天板部における前記中間縦壁部を有さない側の端部を拘束して成形を行うことを特徴とする請求項1記載のプレス成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体部品等のプレス成形において、離型後の天板部と縦壁部とがなす角度が増大するスプリングバックを抑制し、目標に近い良好な形状を有するプレス成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突安全性基準の厳格化により、車体の衝突安全性の向上が進展する中で、昨今の二酸化炭素排出規制を受けて、車体の軽量化も必要である。これら車体の衝突安全性能と軽量化を両立するため、従来に比べてさらに高強度な金属板が車体に採用されつつある。至近では、1.5GPa級以上の超高張力鋼板の適用が図られている。
【0003】
これら鋼板は、強度が著しく大きいため、プレス成形時に発生する応力が大きくて、離型すると大きなスプリングバックが生じて、目標形状から大きく乖離しやすい。
そこで、従来から、スプリングバックを抑制する数多くの手段が採られてきた。
特に、パンチ肩内角が開く(天板部と縦壁部とがなす角度が大きくなる)スプリングバックに対しては、特許文献1、2のようなプレス成形方法が開示されている。
【0004】
特許文献1には、1回目のプレス成形におけるパンチ幅よりも2回目のプレス成形におけるパンチ幅を広くする方法が記載されている。2回目のプレス成形のパンチ幅を広くすることにより、1回目のプレス成形で得られた成形品の壁部に逆曲げ変形を付与できるので、スプリングバックによるパンチ肩内角の開きを低減できるとされる。
特許文献2には、パンチ側パッドが外側(ダイ側)に突出された状態で、ダイ側パッドを被加工材に押し当てながら被加工材をプレス成形する方法が記載されている。この方法では、被加工材を弛ませながら成形し、成形下死点で該弛みを押し潰すので、被加工材のスプリングバックとスプリングゴーをバランスさせることができ、スプリングバックによるパンチ肩内角の開きを防止できるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-111725号公報
【特許文献2】特開2010-082660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの方法を用いると、スプリングバックを十分抑制できないだけでなく、外観が不良な成形品となって問題であった。
特に特許文献1の場合、プレス成形2回目のパンチ幅をプレス成形1回目のパンチ幅よりも広くするので、1回目のプレス成形で得られた成形品における天板部と縦壁部の稜線部の成形痕が目標成形品の天板部に残留しやすく、目標成形品の外観が不良であった。
また、特許文献2でも、被加工材の断面線長が目標形状より長すぎると、パンチ肩部で折れが発生しやすくなり、短いとパンチ肩部の角度が目標形状にならず、問題であった。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、自動車の車体部品のプレス成形で生じるスプリングバックを抑制して、外観も良好なプレス成形品を効率よく得ることができるプレス成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係るプレス成形品の製造方法は、天板部と該天板部に稜線部を介して連続する縦壁部とを有するプレス成形品を製造する方法であって、
中間天板部と該中間天板部に中間稜線部を介して連続する中間縦壁部とを有し、前記中間天板部に前記中間稜線部の延在方向と同じ方向に延在し、稜線部直交断面が凸形状又は凹形状を有する凸形状部又は凹形状部を付与した中間成形品を成形する第1工程と、
前記中間成形品の前記凸形状部又は前記凹形状部を押し潰して前記プレス成形品を成形する第2工程とを備え、
該第2工程では、前記凸形状部又は前記凹形状部を押し潰すことで発生する材料流れにより、前記中間稜線部の材料を前記縦壁部側に押し出して前記中間稜線部であった部位に曲げ戻しを付与するようにしたことを特徴とするものである。
【0009】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記プレス成形品は、前記天板部の両側に一対の縦壁部を有するハット断面形状部品又はコ字断面形状部品であることを特徴とするものである。
【0010】
(3)また、上記(2)に記載のものにおいて、前記第2工程で成形したハット断面形状部品又はコ字断面形状部品の前記天板部を前記稜線部の延在方向に切断して分割し、2個のZ字断面形状部品又は2個のL字断面形状部品を取得する分割工程をさらに備えたことを特徴とするものである。
【0011】
(4)また、上記(3)に記載のものにおいて、前記天板部における前記凸形状部又は前記凹形状部が付与される部位の稜線部方向片側又は両側が切り欠かれており、
前記分割工程は、前記天板部の切り欠かれた部位を切除することで前記天板部を分割するようにしたことを特徴とするものである。
【0012】
(5)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記プレス成形品は、前記天板部の片側にのみ縦壁部を有するZ字断面形状部品又はL字断面形状部品であり、
前記第2工程は、前記中間成形品の前記中間天板部における前記中間縦壁部を有さない側の端部を拘束して成形を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高強度な金属板からなるプレス成形品の外観を損ねることなく、スプリングバックを抑制した寸法精度の良好なプレス成形品を製造することができる。
また、該プレス成形品を用いて車体を製造することにより、衝突安全性能と車体重量軽量化との両立が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態1にかかるプレス成形品の製造方法の説明図である。
【
図2】本発明の対象とするプレス成形品の例を示す図である。
【
図3】
図3(a)は、第1工程の成形下死点における中間稜線部近傍の稜線部直交断面図であり、図中グレーで示す部位に生じる応力を説明する図である。
図3(b)は、第2工程の成形下死点における稜線部近傍の断面図であり、第2工程における材料流れと図中グレーで示す部位に生じる応力を説明する図である。
【
図4】実施の形態1の製造方法をFEM解析して得た第2工程の成形下死点における目標成形品外側の応力分布と、離型後の目標成形品の稜線部直交断面形状を示す図である。
【
図5】実施の形態2にかかるプレス成形品の製造方法の説明図であり、L字断面形状部品を目標形状とした場合の中間成形品と目標成形品の斜視図である。
【
図6】実施の形態2の第2工程で
図5(a)の中間成形品を
図5(b)のL字断面形状部品に成形する際の成形方法を説明する図である。
【
図7】実施の形態2においてZ字断面形状部品を目標形状とした場合の中間成形品と目標成形品の斜視図である。
【
図8】実施の形態2の製造方法をFEM解析して得た第2工程の成形下死点における目標成形品外側の応力分布と、離型後の目標成形品の稜線部直交断面形状を示す図である。
【
図9】従来の製造方法をFEM解析して得た成形下死点における目標成形品外側の応力分布と、離型後の目標成形品の稜線部直交断面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態1]
本発明の実施の形態1に係るプレス成形品の製造方法は、天板部と天板部に稜線部を介して連続する縦壁部とを有するプレス成形品を製造する方法である。本発明が対象とするプレス成形品の例を
図2に示す。
【0016】
図2(a)、
図2(b)は、天板部1と、天板部1の両側に稜線部3を介して連続する一対の縦壁部5を有し、縦壁部5の下端にフランジ部7を有するハット断面形状部品9、縦壁部5の下端にフランジ部7を有さないコ字断面形状部品11の例である。
【0017】
図2(c)、
図2(d)は、天板部1と、天板部1の片側に稜線部3を介して連続する一つの縦壁部5を有するプレス成形品として、それぞれZ字断面形状部品13、L字断面形状部品15の例である。
本発明のプレス成形品の製造方法は、
図2(a)~
図2(d)のいずれのプレス成形品を製造する場合にも適用できる。
【0018】
本実施の形態の説明に先立ち、
図2に示した各プレス成形品を製造する場合の問題点について、
図9に基づき説明する。
図9はいずれも、ハット断面形状部品9又はコ字断面形状部品11の天板部1を稜線部3の延在方向に沿って2分した片側半分のみを図示している。
図9(a-1)は、
図2(a)に示すハット断面形状部品9のプレス成形をFEM解析し、成形下死点における外側の応力分布を示している。また、
図9(a-2)は、
図9(a-1)のハット断面形状部品9の離型後の稜線部直交断面形状を実線で、成形下死点の稜線部直交断面形状を破線で示したものである。
【0019】
同様に、
図9(b-1)は、
図2(b)に示すコ字断面形状部品11のプレス成形をFEM解析し、成形下死点における外側の応力分布を示すものである。また、
図9(b-2)は、コ字断面形状部品11の離型後の稜線部直交断面形状を実線で、成形下死点における稜線部直交断面形状を破線で示したものである。
【0020】
図9(a-1)、
図9(b-1)において、色が薄い部分は引張応力が生じ、色が濃い部分は圧縮応力が生じている。
図9(a-1)、
図9(b-1)に示すように、ハット断面形状部品9やコ字断面形状部品11をプレス成形すると、稜線部3では、曲げ変形に伴って外側に引張応力が生じ、内側に圧縮応力が生じる。
【0021】
したがって、プレス成形して離型すると、稜線部3の外側に生じた引張応力と内側に生じた圧縮応力が作用してスプリングバックが生じ、
図9(a-2)、
図9(b-2)に示すように、離型後の稜線部3の内角θ
2が目標角度θ
1よりも大きくなる。
【0022】
そこで、本発明者は、離型後の稜線部3の内角θ2を目標角度θ1に近づけるため、稜線部3の曲げ変形により生じる応力に対して、該応力に匹敵して相殺する応力を稜線部3の近傍に付与することを検討した。
そして、稜線部3の近傍の外側に圧縮応力、内側に引張応力を加えることができれば、曲げ成形による外側の引張応力、内側の圧縮応力と相殺して、スプリングバックを抑制できると考えた。
そのために、曲げ成形した稜線部3の材料を縦壁部5側に押し出すことができれば、当該押し出した部位に上記のような応力を生じさせることができると発想した。
【0023】
即ち、曲げ成形した後の稜線部3の材料を平坦な縦壁部5に押し出すことで、曲げ成形された部位が曲げ戻される。この曲げ戻しされた部位は、外側に圧縮応力、内側に引張応力が生じる。したがって、稜線部3の近傍(縦壁部5の上部)に、稜線部3に生じる応力(外側に引張応力、内側に圧縮応力)と反対の応力を生じさせることができるので、両応力が相殺してスプリングバックが生じにくくなる。
【0024】
そこで、ハット断面形状部品又はコ字断面形状部品をプレス成形して製造する方法について説明する。
図1(a)及び
図1(b)に、ハット断面形状部品をプレス成形する場合の製造過程の例を示す。
【0025】
本実施の形態1のプレス成形品の製造方法は、
図1(a)及び
図1(b)に示すように、中間成形品17を成形する第1工程と、中間成形品17をハット断面形状部品19に成形する第2工程を備えている。
【0026】
<第1工程>
第1工程は、
図1(a)に示すように、中間天板部21と、中間天板部21に中間稜線部23を介して連続する中間縦壁部25と、中間縦壁部25に連続する中間フランジ部27を有する中間成形品17を成形する工程である。
【0027】
中間成形品17の中間天板部21には、稜線部直交断面が上方向に凸となるように湾曲した形状の凸形状部29が中間稜線部23の延在方向と同じ方向に延在するように形成されている。
中間成形品17の全体形状は、中間天板部21に凸形状部29が付与されている点を除き、第2工程の目標形状であるハット断面形状部品19と同じである。
【0028】
図1の例では、凸形状部29は、中間天板部21の中間位置に形成されている。
凸形状部29を中間天板部21の中間位置に形成することにより、後述する第2工程で凸形状部29を押し潰した際、材料流れが両側に均等に生じやすくてよい。
【0029】
また、
図1の中間成形品17の中間天板部21は、目標形状に従って、凸形状部29が付与される部位において中間稜線部23の延在方向両側が切り欠かれているものであったが、片側のみが切り欠かれてもよいし、切り欠かれていなくてもよい。
【0030】
<第2工程>
第2工程は、
図1(b)に示すように、第1工程で成形した中間成形品17の凸形状部29を押し潰してハット断面形状部品19を成形する工程である。
【0031】
前述したように中間成形品17の全体形状は、押し潰す凸形状部29を除き、第2工程の目標形状であるハット断面形状部品19と同じである。したがって、第2工程では、第1工程に用いる金型の天板部を平坦にした金型を用いるとよい。
【0032】
上記のような金型を用いて中間成形品17をプレス成形すると、外形を維持したまま凸形状部29が潰され、
図1(b)の破線矢印に示すように、凸形状部29から両側の中間縦壁部25へ向かう材料流れが発生する。上記のような材料流れが生じると、中間稜線部23の材料が縦壁部5側に押し出される。これにより、中間稜線部23であった部位又はその一部が、曲げ形状から平坦な形状に曲げ戻される。この際の中間稜線部23の材料の動きと、当該部位に生じる応力について、
図3に基づいて説明する。
【0033】
図3(a)は、第1工程の成形下死点における中間稜線部23及びその近傍の稜線部直交断面図であり、
図3(b)は、第2工程の成形下死点における稜線部3及びその近傍の稜線部直交断面図である。
第1工程で中間成形品17をプレス成形すると、
図3(a)に示すように、曲げ成形された中間稜線部23(図中グレーで示す部分)には、外側に引張応力が生じ、内側に圧縮応力が生じる。
【0034】
そして、第2工程で中間成形品17の凸形状部29を押し潰すと、
図3(b)の白抜き矢印に示すような材料流れが発生し、中間稜線部23の一部又は全部の材料が縦壁部5側に押し出される(図中グレーで示す部分)。
上記のように、中間稜線部23であった部位が縦壁部5側に押し出されることにより、曲げ成形された部位又はその一部が平坦に曲げ戻されるため、当該部位の外側に圧縮応力が生じ、内側に引張応力が生じる。
上記応力は、ハット断面形状部品19の稜線部3に生じる応力と反対の応力であるため、両応力が相殺され、離型時に作用する応力が低減する。この点について、
図4を用いて説明する。
【0035】
図4(a-1)に、第2工程の成形下死点におけるハット断面形状部品19の外側の応力分布を示す。なお、
図4(a-1)はハット断面形状部品19の天板部1を稜線部3の延在方向に沿って2分した片側半分のみを図示している。
図4(a-2)は、
図4(a-1)のハット断面形状部品19の離型後の稜線部直交断面形状を実線、成形下死点での稜線部直交断面形状を破線で示したものである。
【0036】
前述したように第2工程では、凸形状部29を押し潰すことで生じる材料流れによって、中間天板部21であった部位の材料が稜線部3に流入し、稜線部3に流入した材料によって中間稜線部23であった部位の材料が縦壁部5に押し出される。
したがって、平坦であった中間天板部21の一部が稜線部3に曲げ成形されるので、稜線部3の外側には
図4(a-1)に示すように引張応力が生じる。また、図示されていないが、稜線部3の内側には曲げ成形による圧縮応力が生じる。
一方、縦壁部5の上端部には、中間稜線部23であった部位が流れ込み、曲げ成形された部位が曲げ戻されるので、縦壁部5の上端部外側には
図4(a-1)に示すように圧縮応力が生じる。また、図示されていないが、縦壁部5の上端部内側には、曲げ戻しによる引張応力が生じる。
【0037】
このように、第2工程の成形下死点において、ハット断面形状部品19の稜線部3には、離型時に稜線部3の内角を増大させようとする応力が生じるが、稜線部3の近傍(縦壁部5の上端部)には上記応力と反対の応力が生じる。
したがって、離型時に両応力が相殺されて離型時に作用する応力が低減し、
図4(a-2)に示すように、離型後の稜線部3の内角θ
2を
図9の従来の場合に比べて目標角度θ
1に近づけることができる。
【0038】
なお、上記はハット断面形状部品19を成形した場合の例であるが、縦壁部5の下端にフランジ部7を有さないコ字断面形状部品でも同様の効果を得られる。
図4(b-1)はコ字断面形状部品31の天板部1を稜線部3の延在方向に沿って2分した片側半分のみを図示している。
図4(b-1)に、第2工程の目標成形品をコ字断面形状部品31とした場合の成形下死点における板外側の応力分布を示す。また、
図4(b-2)に、コ字断面形状部品31の離型後の稜線部直交断面形状を実線で、成形下死点における稜線部直交断面形状を破線で示す。
【0039】
第2工程の目標成形品をコ字断面形状部品31とした場合も、前述の
図3で説明した作用によって、
図4(b-1)に示すように、稜線部3の外側に引張応力、内側に圧縮応力が生じ、縦壁部5の上端部外側に圧縮応力、内側に引張応力が生じる。
したがって、稜線部3に生じる応力と縦壁部5の上端部に生じる応力が互いに相殺されて離型時に作用する応力が低減し、
図4(b-2)に示すように、離型時のスプリングバックが抑制され、離型後の稜線部3の内角θ
2が目標角度θ
1に近くなる。
【0040】
<分割工程>
部品の製造能率を向上するため、
図2(a)のハット断面形状部品9をプレス成形し、ハット断面形状部品9の天板部1を稜線部延在方向に切断して分割することで、2個のZ字断面形状部品13を製造するようにしてもよい。また、
図2(b)のコ字断面形状部品11をプレス成形し、コ字断面形状部品11の天板部1を稜線部延在方向に切断して分割することで、2個のL字断面形状部品15を製造するようにしてもよい。
分割工程は、
図1(c)に示すように、第2工程で成形したハット断面形状部品19の天板部1を切断して分割し、2個のZ字断面形状部品13を取得する工程である。
例えば、
図1(c)の破線で示す2箇所を切断し、天板部1の切り欠かれた部分を取り除いて、
図1(d)のような2個のZ字断面形状部品13にするとよい。
【0041】
なお、分割工程における分割方法はこの限りではない。
例えば、
図2(a)のような、天板部1が切り欠かれていないハット断面形状部品9を成形し、天板部1の中央を稜線部3の延在方向に沿って1箇所切断してハット断面形状部品9を2分割し、2個のZ字断面形状部品13を取得してもよい。
【0042】
前述したように、第1工程、第2工程を経て成形したハット断面形状部品19は、スプリングバックが低減され、稜線部3の内角(天板部1と縦壁部5がなす角)θ2が目標角度θ1に近い良好な形状である。したがって、これを分割することで、良好な形状のZ字断面形状部品13を2個取得できる。
【0043】
また、
図1で説明したハット断面形状部品19と同様の方法で第1工程、第2工程でコ字断面形状部品11をプレス成形し、その後コ字断面形状部品11を分割すれば、2個のL字断面形状部品15(
図2(d))を製造できる。
【0044】
上記のように、本実施の形態によれば、プレス成形品の稜線部3に生じる応力と反対の応力を稜線部3の近傍に生じさせ、両応力の相殺によって離型時のスプリングバックを低減できる。これにより、目標形状に近い良好な形状のハット断面形状部品9又は19、コ字断面形状部品11を製造できる。
また、良好な形状のハット断面形状部品9又は19、コ字断面形状部品11を分割することで、良好な形状のZ字断面形状部品13(
図2(c))又はL字断面形状部品15を製造することができる。
【0045】
なお、上述した実施の形態では、中間成形品17の中間天板部21に稜線部直交断面が上方向に凸となる湾曲形状の凸形状部29を付与する例を挙げたが、本発明はこの限りではない。
例えば、凸形状部29に代えて、下方向に湾曲形状の凹形状部を付与するようにしてもよい。この場合も、第2工程で凹形状部を押し潰すことにより、実施の形態1と同様の作用が生じてスプリングバックを低減できる。
【0046】
[実施の形態2]
実施の形態2では、第1工程及び第2工程でZ字断面形状部品又はL字断面形状部品を単体で製造する方法について説明する。
以下、L字断面形状部品を単体で製造する例をあげて本実施の形態の製造方法を説明する。
【0047】
実施の形態2のプレス成形品の製造方法は、
図5(a)に示すような中間成形品を成形する第1工程と、中間成形品を
図5(b)に示すようなL字断面形状部品に成形する第2工程とを備えたものである。なお、
図5(a)、
図5(b)において、
図1(a)、
図1(b)に対応する部位については同一の符号を付している。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0048】
<第1工程>
第1工程は、
図5(a)に示すように、中間天板部21と、中間天板部21の片側に中間稜線部23を介して連続する一つの中間縦壁部25を有する中間成形品33を成形する工程である。
中間成形品33の中間天板部21には、稜線部直交断面が上方向に凸となる湾曲形状の凸形状部29が中間稜線部23の延在方向に延在するように形成されている。
中間成形品33の全体形状は、中間天板部21に凸形状部29が付与されている点を除き、第2工程の目標形状であるL字断面形状部品35と同じである。
【0049】
<第2工程>
第2工程は、
図5(b)に示すように、第1工程で成形した中間成形品33の凸形状部29を押し潰してL字断面形状部品35を成形する工程である。
実施の形態2の第2工程における成形方法について、
図6を用いて説明する。
【0050】
図6は、第2工程の成形途中の状態を示す断面図である。
図6に示すように、第2工程では、パンチ37と、ダイ39と、パッド41を用いて中間成形品33をL字断面形状部品35に成形する。
【0051】
実施の形態1で説明したように、本発明は、凸形状部を押し潰すことで発生する材料流れによって中間稜線部の材料を縦壁部に押し出し、該押し出された部位が曲げ戻しされることで、スプリングバックの要因となる応力を低減するものである。
したがって、本実施の形態のL字断面形状部品35のように目標形状が片側にのみ縦壁部5を有する場合、上記材料流れが中間縦壁部25を有する側に向かうように第2工程を行うのが好ましい。
【0052】
そこで、本実施の形態の第2工程では、
図6に示すように、パンチ37に拘束部37aを設け、中間天板部21の端部を拘束した状態で成形を行う。
上記のように第2工程を行うことで、中間稜線部23の一部を縦壁部5側に押し出しやすくなる。
なお、中間天板部21の一方の端部を拘束する方法は
図6の例に限らず、該端部をピンなどで固定して行ってもよい。
【0053】
また、上記の説明は、L字断面形状部品35を単体で製造する場合であったが、Z字断面形状部品を単体で製造する場合も同様である。
この場合は、第1工程で
図7(a)に示す凸形状部29を有する中間成形品43を成形し、第2工程で凸形状部29を押し潰して
図7(b)に示すZ字断面形状部品45に成形するとよい。
【0054】
上記実施の形態2の製造方法によるZ字断面形状部品45又はL字断面形状部品35の第2工程の成形下死点における応力分布を
図8(a-1)、
図8(b-1)に示す。また、
図8(a-2)、
図8(b-2)に、Z字断面形状部品45、L字断面形状部品35の離型後の稜線部直交断面形状を実線で、成形下死点における稜線部直交断面形状を破線で示す。
【0055】
図8(a-1)、
図8(b-1)に示すように、本実施の形態の製造方法で製造したZ字断面形状部品45及びL字断面形状部品35は、実施の形態1と同様に、第2工程の成形下死点で稜線部3の外側に引張応力が生じ、縦壁部5の上端部外側に圧縮応力が生じる。
また、図示されていないが、Z字断面形状部品45及びL字断面形状部品35の稜線部3の内側に圧縮応力が生じ、縦壁部5の上端部内側に引張応力が生じる。
【0056】
上記のように本実施の形態の製造方法においても、実施の形態1と同様に、稜線部3の近傍に稜線部3の応力と反対の応力が生じ、両応力が相殺されて離型時に作用する応力が低減する。これによって、
図8(a-2)、
図8(b-2)に示すように、離型時のスプリングバックが抑制され、離型後の稜線部3の内角θ
2が目標角度θ
1に近くなる。
【実施例0057】
本発明のプレス成形品の製造方法によるスプリングバックの低減効果について、具体的な実施例に基づいて説明する。
本実施例では、板厚1.0mmの1470MPa級鋼板をブランクとして用い、ハット断面形状部品又はコ字断面形状部品をプレス成形し、該プレス成形した部品の天板部を切断して、2個のZ字断面形状部品又はL字断面形状部品を製造した。
上記Z字断面形状部品又はL字断面形状部品における稜線部の内角の目標角度θ1は100°とした。
【0058】
従来例として、上記ブランクをハット断面形状部品又はコ字断面形状部品にプレス成形する際、天板成形面部が平坦なパンチ及びダイを用いて1工程でプレス成形した。
【0059】
また、発明例として、上記ブランクをハット断面形状部品又はコ字断面形状部品にプレス成形する際、
図1で説明した実施の形態1のように、2工程でプレス成形しその後に分割して2部品とした。具体的には、第1工程で中間天板部に凸形状部又は凹形状部を付与した中間成形品を成形し、第2工程で該凸形状部又は凹形状部を押し潰してハット断面形状部品又はコ字断面形状部品を成形した。なお、中間天板部に付与する凸形状部又は凹形状部は、中間成形品の稜線部方向中央であって、中間天板部全長の1/5の長さとした。また、その後に分割して2部品とした。
【0060】
上記従来例及び発明例で製造したZ字断面形状部品又はL字断面形状部品の離型後の稜線部の内角θ2を測定し、比較したものを表1に示す。
【0061】
【0062】
表1において、「部品断面形状」は、製造した部品がZ字断面形状部品であるか、L字断面形状部品であるかを示している。
また、「第1工程での天板部付与形状」は、発明例において中間成形品の中間天板部に付与したのが凸形状部であるか、凹形状部であるかを示している。
また、「凹凸高さ」は、中間天板部外面からの凸形状部の頂部高さ又は凹形状部の谷底部深さを示している。
そして、「第2工程後の天板部と縦壁部との内角」は、離型後のハット断面形状部品又はコ字断面形状部品を分割して得たZ字断面形状部品又はL字断面形状部品の稜線部の内角θ2を示している。
【0063】
No.1の従来例は、1工程でハット断面形状部品を成形し、これを分割してZ字断面形状部品を製造した例であり、製造したZ字断面形状部品の稜線部の内角θ2は115°であった。従来の製造方法でZ字断面形状部品を製造すると、目標角度θ1である100°に対して稜線部の内角の開きが大きく、スプリングバックが大きかった。
【0064】
これに対し、No.2及びNo.3の発明例は、中間天板部に凸形状部又は凹形状部を付与した中間成形品を成形して、該凸形状部又は凹形状部を押し潰してハット断面形状部品を成形し、これを分割してZ字断面形状部品を製造した例である。No.2及びNo.3の発明例では、製造したZ字断面形状部品の稜線部の内角θ2はどちらも105°であり、No.1の従来例に比べてスプリングバックが低減した。
【0065】
No.4の従来例は、1工程でコ字断面形状部品を成形し、これを分割してL字断面形状部品を製造した例であり、製造したL字断面形状部品の稜線部の内角θ2は111°であった。従来の製造方法でL字断面形状部品を製造すると、Z字断面形状部品の場合と同様に、目標角度θ1である100°に対して稜線部の内角の開きが大きく、スプリングバックが大きかった。
【0066】
これに対し、No.5及びNo.6の発明例は、中間天板部に凸形状部又は凹形状部を付与した中間成形品を成形し、該凸形状部又は凹形状部を押し潰してコ字断面形状部品を成形し、これを分割してL字断面形状部品を製造した例である。No.5及びNo.6の発明例では、製造したL字断面形状部品の稜線部の内角θ2は101°、102°であり、No.4の従来例に比べてスプリングバックが低減した。
【0067】
上記のように本実施例では、本発明のプレス成形品の製造方法を用いることで、稜線部の内角(天板部と縦壁部がなす内角)が開くスプリングバックを低減できることが確認できた。