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特開2024-90343非水電解質二次電池用電極、及び非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090343
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用電極、及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20240627BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240627BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206188
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 沙也加
(72)【発明者】
【氏名】渡部 寛人
(72)【発明者】
【氏名】上野 敦
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA20
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB20
5H050DA10
5H050EA10
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、充放電の前後で構造を維持できる電極を提供し、サイクル特性の高い非水電解質二次電池を提供することである。
【課題手段】
上記課題は、電極活物質と導電助剤とセルロースナノファイバーとを含み、導電助剤は平均外径が100nm以下のカーボンナノチューブを含み、セルロースナノファイバーの含有量は、電極合材層の全固形分100質量部に対して5質量部以下である電極合材層を含む非水電解質二次電池用電極により解決できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質と導電助剤とセルロースナノファイバーとを含み、導電助剤は平均外径が100nm以下のカーボンナノチューブを含み、セルロースナノファイバーの含有量は、電極合材層の全固形分100質量部に対して5質量部以下である電極合材層を含む非水電解質二次電池用電極。
【請求項2】
前記合材層は、微小硬さ試験による押し込み弾性率が250MPa以上である請求項1に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項3】
前記活物質は、シリコン系活物質を含む請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項4】
請求項1または2記載の非水電解質二次電池用電極を備える、非水電解質二次電池。
【請求項5】
請求項4に記載の非水電解質二次電池を備えた車両またはデバイス。
【請求項6】
電極活物質と導電助剤とセルロースナノファイバーとを含み、導電助剤は平均外径が100nm以下のカーボンナノチューブを含み、セルロースナノファイバーの含有量は、全固形分100質量部に対して5質量部以下である非水電解質二次電池電極用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用電極、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の普及や携帯機器の小型軽量化及び高性能化に伴い、高いエネルギー密度を有する二次電池、さらに、その二次電池の高容量化が求められている。このような背景の下で高エネルギー密度、高電圧という特徴から非水系電解液を用いる非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池が多くの機器に使用されている。
【0003】
これらリチウムイオン二次電池に用いられる負極材料としては、リチウム(Li)に近い卑な電位で単位質量あたりの充放電容量の大きい黒鉛に代表される炭素材料が用いられている。黒鉛の理論容量は、372mAhg-1であり、理論値に近いところまで使われている。これに対し、黒鉛を上回る容量を示す活物質として、SiやSiOなどの合金系負極材料が近年注目されている。Siの理論容量は、4200mAhg-1であり、黒鉛の11倍もの高容量を示す。しかしながら、Siは、充放電に伴う大きな体積変化から、電極の導電パスの切断や、集電体と合剤層の剥離等の恐れがある。このことは、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を低下させる要因となる。
【0004】
近年、特許文献1のようにリチウムイオンバッテリーのサイクル特性を維持する方法としてカーボンナノチューブが有効であることが知られている。しかし、導電ネットワークの形成・維持の観点から、性能としては不十分である。
【0005】
また、特許文献2、3、4のようにセルロースナノファイバーを添加することで、集電体と合材層との剥離が改善され、合わせてサイクル特性も改善することが近年報告されているが、いずれも近年サイクル特性の要求レベルに対しては性能が不足している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2017/043818号
【特許文献2】特開2018-116819号公報
【特許文献3】特開2018-116818号公報
【特許文献4】国際公開第2014/133067号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、充放電の前後で導電ネットワークを維持できる電極を提供し、サイクル特性およびレート特性の高い非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。発明者らは、合材層が、導電助剤およびセルロースナノファイバーを含み、導電助剤は平均外径が100nm以下のカーボンナノチューブであり、セルロースナノファイバーの含有量は、電極合材層の全固形分100重量部に対して5重量部以下であることにより、充放電の前後で構造を維持できる電極が得られること、優れたサイクル特性およびレート特性を有する非水電解質二次電池が得られることを見出した。
【0009】
本発明は、電極活物質と導電助剤とセルロースナノファイバーとを含み、導電助剤は平均外径が100nm以下のカーボンナノチューブを含み、セルロースナノファイバーの含有量は、電極合材層の全固形分100重量部に対して5重量部以下である非水電解質二次電池用電極に関する。
【0010】
本発明は、前記合材層が、微小硬さ試験による押し込み弾性率が250MPa以上である前記非水電解質二次電池用電極に関する。
【0011】
本発明は、前記活物質は、シリコン系活物質を含む前記非水電解質二次電池用電極に関する。
【0012】
本発明は、前記非水電解質二次電池用電極を備える、非水電解質二次電池に関する。
【0013】
本発明は、前記非水電解質二次電池を備える、車両またはデバイスに関する。
【0014】
本発明は、電極活物質と導電助剤とセルロースナノファイバーとを含み、導電助剤は平均外径が100nm以下のカーボンナノチューブを含み、セルロースナノファイバーの含有量は、電極活物質100重量部に対して5重量部以下である非水電解質二次電池用組成物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
( 1 ) 合材層
非水電解質二次電池用電極の電極膜は、合材層を少なくとも含み、例えば、集電体上に合材層を有する構成が挙げられる。合材層は、電極活物質と導電助剤とセルロースナノファイバーとを含み、任意でバインダーを含むことが好ましい。合材層は、例えば、合材スラリーを層状に形成して得られる。
【0016】
電極膜に使用する集電体の材質や形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。例えば、集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、又はステンレス等の金属や合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したものや、穴あき箔状のもの、及びメッシュ状の集電体も使用できる。
【0017】
集電体上に合材スラリーを塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等が挙げる事ができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0018】
また、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行っても良い。電極合材層の厚みは、一般的には1μm以上、500μm以下であり、好ましくは10μm以上、300μm以下である。
【0019】
( 2 )導電助剤
導電助剤は、少なくとも平均外径が100nm以下のカーボンナノチューブを含む。カーボンナノチューブにより電極膜中に良好な導電パスが形成される。カーボンナノチューブ以外の導電助剤として、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等を併用してもよい。
カーボンナノチューブは、導電パス形成効果及びコスト等の観点から、前記合材層100質量部に対して0.025質量部以上2.0質量部以下であることが好ましい。
【0020】
カーボンナノチューブは、平面的なグラファイトを円筒状に巻いた形状を有している。カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブが混在するものであってもよい。単層カーボンナノチューブは一層のグラファイトが巻かれた構造を有する。多層カーボンナノチューブは、二又は三以上の層のグラファイトが巻かれた構造を有する。また、カーボンナノチューブの側壁はグラファイト構造でなくともよい。例えば、アモルファス構造を有する側壁を備えるカーボンナノチューブをカーボンナノチューブとして用いることもできる。
【0021】
カーボンナノチューブの形状は限定されない。かかる形状としては、針状、円筒チューブ状、魚骨状( フィッシュボーン又はカップ積層型) 、及びコイル状を含む様々な形状が挙げられる。また、円筒チューブ状のカーボンナノチューブを乾式処理を行って得られた、板状またはプレートレット状の2次凝集体であってもよい。本実施形態においてカーボンナノチューブの形状は、中でも、針状、又は、円筒チューブ状であるこが好ましい。カーボンナノチューブは、単独の形状、または2 種以上の形状の組合せであってもよい。
【0022】
カーボンナノチューブの形態は、例えば、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ及びカーボンナノファイバーを挙げることができるが、これらに限定されない。カーボンナノチューブは、これらの単独の形態又は二種以上を組み合わせられた形態を有していてもよい。
【0023】
カーボンナノチューブの平均外径は、1nm以上25nm以下であることが好ましく、1nm以上20nm以下であることがより好ましく、1nm以上15nm以下であることがさらに好ましい。カーボンナノチューブの平均外径が上記範囲であると、後述する活物質の表面がカーボンナノチューブで被覆されやすくなり、電極膜の導電性や密着性が向上する。
【0024】
カーボンナノチューブの外径および平均外径は次のように求められる。まず透過型電子顕微鏡によって、カーボンナノチューブを観測するとともに撮像する。次に観測写真において、任意の300本のカーボンナノチューブを選び、それぞれの外径を計測する。次に外径の数平均としてカーボンナノチューブの平均外径(nm) を算出する。
【0025】
カーボンナノチューブのBET比表面積は150~1500m/gであることが好ましく、200 ~ 1300m/gであるものがより好ましい。
【0026】
カーボンナノチューブは、通常二次粒子として存在している。この二次粒子の形状は、例えば一般的な一次粒子であるカーボンナノチューブが複雑に絡み合っている状態でもよい。カーボンナノチューブを直線状にしたものの集合体であってもよい。直線状のカーボンナノチューブの集合体である二次粒子は、絡み合っているものと比べるとほぐれ易い。また直線状のものは、絡み合っているものに比べると分散性が良いのでカーボンナノチューブとして好適に利用できる。
【0027】
カーボンナノチューブは、表面処理を行ったカーボンナノチューブでもよい。またカーボンナノチューブは、カルボキシル基に代表される官能基を付与させたカーボンナノチューブ誘導体であってもよい。また、有機化合物、金属原子、又はフラーレンに代表される物質を内包させたカーボンナノナノチューブも用いることができる。
【0028】
カーボンナノチューブはどのような方法で製造したカーボンナノチューブでも構わない。カーボンナノチューブは一般にレーザーアブレーション法、アーク放電法、熱CVD法、プラズマCVD法及び燃焼法で製造できるが、これらに限定されない。例えば、酸素濃度が1体積% 以下の雰囲気中、500~1000 ℃ にて、炭素源を触媒と接触反応させることでカーボンナノチューブを製造することができる。
【0029】
カーボンナノチューブの炭素源となる原料ガスは、従来公知の任意のものを使用できる。例えば、炭素を含む原料ガスとしてメタン、エチレン、プロパン、ブタン及びアセチレンに代表される炭化水素、一酸化炭素、並びにアルコールを用いることができるが、これらに限定されない。特に使いやすさの観点から、炭化水素及びアルコールの少なくともいずれか一方を原料ガスとして用いることが望ましい。
【0030】
市販のカーボンナノチューブとしては、例えば、昭和電工社製VGCF-X等;名城ナノカーボン社製カーボンナノチューブ;NTP社製NTP3003、NTP3021、NTP3121、NTP8012、NTP8022、NTP9012、NTP9112等;JEIO社製10B、6A;OCSiAl社製TUBALL等;が挙げられる。
【0031】
( 3 )セルロースナノファイバー
本発明の電極合材層はセルロースナノファイバーを含み、繊維状のセルロースファイバーが線接着又は線接触によって電極活物質を接合(隣接する電極活物質間を繊維状結着剤で架橋して接着)できるためか、電極活物質同士、および電極活物質の集電体に対する密着性を向上できる。更に、同じく繊維状であるカーボンナノチューブとセルロースファイバーが絡み合った状態で電極活物質を被覆するためか、導電ネットワークを維持したまま電極活物質の膨張収縮を抑制でき、サイクル特性が向上する。
セルロースナノファイバーは、リチウムイオンの伝導を妨げ、レート特性やエネルギー密度の低下を招くおそれがあることから、その含有量は前記合材層100質量部に対し5質量部以下であることが好ましく、コストの観点から3質量部以下であることがより好ましい。また、効果を得るためには合材層100質量部に対し0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましい。
【0032】
セルロースファイバーの平均繊維長は、0.1~1000μmの範囲から選択でき、好ましくは1μm程度以上である。繊維長が短すぎると、繊維同士がうまく絡み合わないため、電極活物質の膨張収縮およびカーボンナノチューブによる導電パスを維持できず、サイクル特性が低下するおそれがある。
【0033】
本発明で使用するセルロースナノファイバーは、特に限定されず、市販品や、公知の製造方法により製造したものを用いることができる。一般的には、セルロース繊維含有材料をリファイナー、高圧ホモジナイザー、媒体攪拌ミル、石臼、グラインダー等により磨砕及び/又は叩解することによって解繊又は微細化して製造されるが、例えば特開2005-42283号公報に記載の方法等の公知の方法で製造することもできる。また、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))を利用して製造することもできる。さらに、市販品を利用することも可能である。セルロース繊維含有材料は、植物(例えば木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農作物残廃物、布、パルプ、再生パルプ、古紙)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするものが知れているが、本発明ではそのいずれも使用できる。好ましくは植物又は微生物由来のセルロースナノファイバーであり、より好ましくは植物由来のセルロースナノファイバーである。
【0034】
本発明で使用するセルロースナノファイバーは、例えば、特開2013-181167号公報や特開2010-216021号公報記載のような何らかの化学修飾を施したいわゆる変性セルロースナノファイバーや、市販されている変性セルロースナノファイバー、例えば特開2011-56456号公報記載の方法で製造されたいわゆる未変性セルロースナノファイバーや、市販されている未変性セルロースナノファイバーを用いることもできる。変性セルロースナノファイバーの市販品としては、日本製紙株式会社の「セレンピア」シリーズがある。未変性セルロースナノファイバーの市販品としては、スギノマシン株式会社のバイオナノファイバー「BiNFi-s」シリーズ、ダイセルファインケム株式会社の「セリッシュ」シリーズおよび中越パルプの「CNF」シリーズがある。これらのセルロースナノファイバーは、単独で用いることもでき、又2種類以上を混合して用いることもできる。
【0035】
本発明で使用するセルロースナノファイバーの結晶形に、特に制限はない。セルロースナノファイバーの結晶形は、Iα型、Iβ型のセルロースの両方が好適に使用できる。木綿などの高等植物由来セルロースはIβ型結晶成分が多いが、バクテリアセルロースの場合はIα型結晶成分が多い。経済的な観点から適宜選択可能である。
【0036】
本発明に用いられる微細化されたセルロースファイバーは、繊維径について特に制限するものでは無いが、0.001~10μmが好ましい。
【0037】
また本発明に用いられる微細化されたセルロースファイバーは、前述の湿式粉砕法よって得られたセルロースファイバーの水分散液の形態にて、スラリー組成物の調製に用いることができる。
【0038】
( 4 )押込み弾性率
電極合材層は、微小硬さ試験による押込み弾性率が250MPa以上であることが好ましい。押込み弾性率は300以上がより好ましい。
【0039】
上記のような押込み弾性率の合材層を採用することで、充放電時にイオンの授受が盛んで電極活物質の膨張収縮がより激しい電極表面の構造変化を抑制することができる。すなわち、合材層表面の粒子間の密着状態、および導電助剤による導電パスが維持されるため、優れたサイクル特性およびレート特性を有する非水電解質二次電池が得られる。
【0040】
本明細書において、合材層の押し込み弾性率は、微小硬さ試験機(フィッシャー・インストルメンツ社製、FISCHERSCOPE H100)を用いて測定することにより求められる。測定方法としては、合材層側を上にして電極膜を土台に固定し、合材層に対して押し込み試験を行う。圧子は丸圧子(直径400μm)を使用し、荷重1mN、負荷速度0.2mN/s、クリープ時間5sにて100個所測定し、平均値を押し込み弾性率とする。
【0041】
押し込み弾性率を上記範囲に調整する方法としては、バインダーの種類や添加量を変更する方法、セルロースナノファイバーの種類・添加量・分散状態を変更する方法等が挙げられる。
バインダーの種類や添加量を変更する方法としては、バインダーの主鎖を変更する方法や、バインダーの側鎖や架橋構造を変更する方法、添加量を増減させる方法、バインダーの組み合わせや比率を変更する方法等が挙げられる。例えば、バインダーの量を増やすと押し込み弾性率は上昇する傾向にある。
セルロースナノファイバーの種類や添加量を変更する方法としては、セルロースナノファイバーの平均繊維長、平均外径、比表面積、変性の有無を変更する方法、添加量を増減させる方法等が挙げられる。セルロースナノファイバーの分散状態を変更する方法としては、セルロースナノファイバーの分散方法、分散条件を変更する方法等が挙げられる。例えば、セルロースナノファイバーの含有量を多くすると、押し込み弾性率は上昇する傾向にある。
その他にも、電極密度を変更する方法、カーボンナノチューブの種類・添加量・分散状態を変更することでも、押し込み弾性率は調整することができる。
【0042】
ただし、電極の密度やバインダーの種類や添加量を適正値から変更した場合、押し込み弾性率を上記範囲に調整しても、他の要因により、エネルギー密度、サイクル特性、レート特性が低下する恐れがある。例えば、バインダーの大量添加は、リチウムイオンの伝導を妨げ、レート特性やエネルギー密度の低下を招くおそれがある。一方、セルロースナノファイバーはバインダーと比較して少量添加で押し込み弾性率を調整することが可能である。
( 5 )分散剤
カーボンナノチューブは、分散剤によって分散されたカーボンナノチューブの形態で合材層中に含まれることが好ましい。例えば、カーボンナノチューブと分散剤と溶媒とを含むカーボンナノチューブ分散液を調整し、このカーボンナノチューブ分散液を用いて合材スラリーを調整することで、分散剤によって分散されたカーボンナノチューブを合材層中に含み、良好な導電パスを形成できる。
分散剤は、100質量部のカーボンナノチューブに対して10質量部以上100質量部以下であることが好ましい。20質量部以上100質量部以下であることがより好ましく、20質量部以上80質量部以下であることがさらに好ましい。
【0043】
分散剤は、カーボンナノチューブを分散安定化できる範囲で特に限定されず、界面活性剤樹脂型分散剤を使用することができる。界面活性剤は主にアニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性に分類される。カーボンナノチューブの分散に要求される特性に応じて適宜好適な種類の分散剤を、好適な配合量で使用することができる。
【0044】
アニオン性界面活性剤を選択する場合、その種類は特に限定されない。具体的には脂肪酸塩、ポリスルホン酸塩、ポリカルボン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸スルホン酸塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステル及びポリオキシエチレングリセロール脂肪酸エステルが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、具体的にはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル酸硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステル塩及びβ - ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
またカチオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩類及び第四級アンモニウム塩類がある。具体的にはステアリルアミンアセテート、トリメチルヤシアンモニウムクロリド、トリメチル牛脂アンモニウムクロリド、ジメチルジオレイルアンモニウムクロリド、メチルオレイルジエタノールクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、ラウリルピリジニウムクロリド、ラウリルピリジニウムブロマイド、ラウリルピリジニウムジサルフェート、セチルピリジニウムブロマイド、4 - アルキルメルカプトピリジン、ポリ( ビニルピリジン) - ドデシルブロマイド及びドデシルベンジルトリエチルアンモニウムクロリドが挙げられるが、これらに限定されない。また両性界面活性剤としては、アミノカルボン酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
またノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン誘導体、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及びアルキルアリルエーテルが挙げられるが、これらに限定されない。具体的にはポリオキシエチレンラウリルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
選択される界面活性剤は単独の界面活性剤に限定されない。このため二種以上の界面活性剤を組み合わせて使用することも可能である。例えばアニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせ、又はカチオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせが利用できる。その際の配合量は、それぞれの界面活性剤成分に対して好適な配合量とすることが好ましい。組み合わせとしてはアニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の組み合わせが好ましい。アニオン性界面活性剤はポリカルボン酸塩であることが好ましい。ノニオン性界面活性剤はポリオキシエチレンフェニルエーテルであることが好ましい。
【0048】
また樹脂型分散剤として具体的には、セルロース誘導体( セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースブチレート、シアノエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなど) 、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル系重合体等が挙げられる。分散剤は、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル系重合体が好ましい。
【0049】
カルボキシメチルセルロースは、カルボキシメチルセルロースのヒドロキシ基をカルボキシメチルナトリウム基で置換したカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩等の塩の形態で使用することができる。
【0050】
また、分散剤は、セルロース誘導体がより好ましく、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースやそれらの塩がより好ましい。
【0051】
分散剤は、プルラン換算の重量平均分子量で、5,000以上300,000 以下が好ましく、10,000 以上100,000 以下がより好ましく、10,000以上50,000以下がさらに好ましい。適度な重量平均分子量を有する分散剤を使用するとCNTへの吸着性が向上し、カーボンナノチューブ分散液の安定性がより向上する。また、上記範囲を超える分散剤を使用する場合、カーボンナノチューブ分散液の粘度が高くなり、ノズル式の高圧ホモジナイザーなどの狭い流路を被分散液が通過する分散機を用いた場合、分散効率が低下する場合がある。
【0052】
( 6 )カーボンナノチューブ分散液
カーボンナノチューブ分散液を調整するための分散装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機を使用することができる。
例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(BRANSON社製AdvancedDigitalSonifer(登録商標)、MODEL450DA、エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」等、シルバーソン社製「アブラミックス」等) 類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、コロイドミル(PUC社製「PUCコロイドミル」、IKA社製「コロイドミルMK」)類、コーンミル(IKA社製「コーンミルMKO」等) 、ボールミル、サンドミル( シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等) 、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等) 、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等) 、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
カーボンナノチューブ分散液のカーボンナノチューブの量は、カーボンナノチューブ分散液100質量部に対して、0.2~20質量部が好ましく、0.5~10質量部が好ましく、0 .5~7.0質量部がより好ましい。
【0054】
カーボンナノチューブ分散液のpHは6~11であることが好ましく、7~11であることがより好ましく、8~11であることがさらに好ましく、9~11であることが特に好ましい。カーボンナノチューブ分散液のpHはpH計(株式会社堀場製作所社製、pHMETERF-52) を用いて測定することができる。
【0055】
また、分散剤に加えて、無機塩基および無金属塩を含んでも良い。無機塩基および無機金属塩としては、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属の少なくとも一方を有する化合物であることが好ましく、詳しくは、アルカリ金属、およびアルカリ土類金属の、塩化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、ニオブ酸塩、ならびにホウ酸塩等が挙げられる。また、これらの中でも容易にカチオンを供給できる面でアルカリ金属、アルカリ土類金属の塩化物、
水酸化物、炭酸塩が好ましい。アルカリ金属の水酸化物は、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の水酸化物は、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。アルカリ金属の炭酸塩は、例えば、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の炭酸塩は、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムが挙げられる。これらの中でも水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムがより好ましい。
【0056】
また、分散剤に加えて、消泡剤を含んでも良い。消泡剤は、市販の消泡剤、湿潤剤、親水性有機溶剤水溶性有機溶剤等、消泡効果を有するものであれば任意に用いることができ、1種類でも、複数を組み合わせて用いてもよい。
例えば、アルコール系; エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、オクチルアルコール、ヘキサデシルアルコール、アセチレンアルコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アセチレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、プロピレングリコール、その他グリコール類等、
脂肪酸エステル系; ジエチレングリコールラウレート、グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエートポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノラウレート、天然ワックス等、
アミド系; ポリオキシアルキレンアミド、アクリレートポリアミン等、
リン酸エステル系; リン酸トリブチル、ナトリウムオクチルホスフェート等、
金属セッケン系; アルミニウムステアレート、カルシウムオレエート等、
油脂系; 動植物油、胡麻油、ひまし油等、
鉱油系: 灯油、パラフィン等、
シリコーン系; ジメチルシリコーン油、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン、フルオロシリコーン油等が挙げられる。
【0057】
溶媒は、カーボンナノチューブが分散可能な範囲であれば特に限定されないが、水、及びまたは、水溶性有機溶媒のいずれか一種、若しくは二種以上からなる混合溶媒であることが好ましく、水を含むことがより好ましい。水を含む場合は、溶媒全体に対して95質量部以上であることが好ましく、98質量部以上であることがさらに好ましい。
【0058】
水溶性有機溶媒としては、アルコール系( メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール、ベンジルアルコールなど) 、多価アルコール系( エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコールなど) 、多価アルコールエーテル系( エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルなど) 、アミン系( エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミンなど) 、アミド系(N-メチル-2-ピロリドン( NMP)、N-エチル-2-ピロリドン(NEP) 、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタムなど) 、複素環系( シクロヘキシルピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトンなど)、スルホキシド系(ジメチルスルホキシドなど) 、スルホン系(ヘキサメチルホスホロトリアミド、スルホランなど)、低級ケトン系(アセトン、メチルエチルケトンなど)、その他、テトラヒドロフラン、尿素、アセトニトリルなどを使用することができる。
( 7 )活物質
活物質とは、電池反応の基となる材料のことである。活物質は起電力から正極活物質と負極活物質に分けられる。
【0059】
正極活物質としては、特に限定はされないが、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物、金属硫化物等の金属化合物、および導電性高分子等を使用することができる。例えば、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属の酸化物、リチウムとの複合酸化物、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられる。具体的には、MnO、V25、V613、TiO2等の遷移金属酸化物粉末、層状構造のニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル構造のマンガン酸リチウムなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造のリン酸化合物であるリン酸鉄リチウム系材料、TiS2、FeSなどの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。また、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子を使用することもできる。また、上記の無機化合物や有機化合物を混合して用いてもよい。
【0060】
負極活物質としては、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能なものであれば特に限定されない。例えば、金属Li、その合金であるスズ合金、シリコン合金、鉛合金等の合金系、LixFe23、LiFe34、LiWO2(xは0<x<1の数である。)、チタン酸リチウム、バナジウム酸リチウム、ケイ素酸リチウム等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性高分子系、ソフトカーボンやハードカーボンといった、アモルファス系炭素質材料や、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、カーボンブラック、メソフェーズカーボンブラック、樹脂焼成炭素材料、気層成長炭素繊維、炭素繊維などの炭素系材料が挙げられる。これら負極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。
【0061】
負極活物質としては、シリコン系負極活物質が好ましく、シリコン、シリコン合金、ケイ素酸リチウム等が挙げられる。
【0062】
シリコンとしては、例えば、二酸化珪素を炭素で還元して作製される所謂冶金グレードシリコンや、冶金グレードシリコンを酸処理や一方向凝固などで不純物を低減した工業グレードシリコン、そしてシリコンを反応させて得られたシランから作製される高純度の単結晶、多結晶、アモルファスなど結晶状態の異なる高純度シリコンや、工業グレードシリコンをスパッタ法やEB蒸着(電子ビーム蒸着)法などで高純度にすると同時に、結晶状態や析出状態を調整したシリコンなどが挙げられる。
【0063】
また、シリコンと酸素の化合物である酸化珪素や、シリコンと各種合金及びそれらの結晶状態を急冷法などで調整したシリコン化合物も挙げられる。中でも、外側がカーボン皮膜で被覆された、珪素ナノ粒子が酸化珪素中に分散した構造を有するシリコン系負極活物質が好ましい。
【0064】
負極活物質は、シリコン系負極活物質に加えて、ソフトカーボンやハードカーボンといった、アモルファス系炭素質材料や、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末を使用することが好ましい。その中でも、人造黒鉛や天然黒鉛等の炭素質粉末を使用することが好ましい。
【0065】
シリコン系負極活物質の量は、人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末100質量%とした場合、3~50質量%であることが好ましく、5~25質量%であることがより好ましい。
【0066】
活物質のBET比表面積は0.1~10m2/gのものが好ましく、0.2 ~5m2/gのものがより好ましく、0.3~ 3m2/gのものがさらに好ましい。
【0067】
活物質の平均粒子径は0.5~50μmの範囲内であることが好ましく、2~20μmであることがより好ましい。本明細書でいう活物質の平均粒子径とは、活物質を電子顕微鏡で測定した粒子径の平均値である。
【0068】
( 8 ) バインダー
バインダーとは、活物質やカーボンナノチューブなどの物質間を結着するための樹脂である。
【0069】
バインダーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構成単位として含む重合体または共重合体; ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂;カルボキシメチルセルロースのようなセルロース樹脂; スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなゴム類; ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂の変性体や混合物、および共重合体でも良い。この中でも、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸が好ましい。
【0070】
バインダーの種類や量比は、カーボンナノチューブ、活物質など共存する物質の性状に合わせて、適宜選択される。例えば、カルボキシメチルセルロースを使用する量については、活物質の質量を100質量%とした場合、カルボキシメチルセルロースの割合が0.5~3.0質量% が好ましく、1.0~2.0質量% がさらに好ましい。
【0071】
カルボキシメチルセルロースは、カルボキシメチルセルロースのヒドロキシ基をカルボキシメチルナトリウム基で置換したカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩であることが好ましい。
【0072】
カルボキシメチルセルロースは、1%水溶液を作製した際の粘度が500~6000mPa・sであることが好ましく、1000~3000mPa・sであることがさらに好ましい。カルボキシメチルセルロース1%水溶液の粘度は25℃の条件下で、B型粘度計ローター回転速度60rpmで測定することができる。
【0073】
カルボキシメチルセルロースのエーテル化度は0.6~1.5であることが好ましく、0.8~1.2であることがさらに好ましい。
【0074】
スチレンブタジエンゴムは、水中油滴エマルションであれば、一般に電極の結着材として用いられているものを使用することができる。スチレンブタジエンゴムを使用する量については、活物質の質量を100質量%とした場合、スチレンブタジエンゴムの割合が0.5~3.0質量%が好ましく、1.0~2.0質量% がさらに好ましい。
【0075】
( 9 ) 合材スラリー
合材スラリーとは、活物質と導電助剤とセルロースナノファイバーと溶媒とを少なくとも含み、本発明の非水電解質二次電池電極用組成物の一実施形態である。さらにバインダー樹脂を含むことが好ましい。
【0076】
合材スラリーは従来公知の様々な方法で作製することができる。好ましくは、カーボンナノチューブ分散液と、とを混合する方法であるが、これらを混合する順序は特に限定されず、それぞれを順次添加してもよいし、いずれか2つ以上を同時に添加してもよい。例えば、カーボンナノチューブ分散液にセルロースナノファイバーおよびバインダーを添加してカーボンナノチューブ樹脂組成物を作製した後、活物質を添加してもよいし、カーボンナノチューブ分散液にセルロースナノファイバーおよび活物質を添加した後、バインダーを添加して作製してもよい。
【0077】
合材スラリーを得るには、カーボンナノチューブ樹脂組成物に活物質を加えた後、分散させる処理を行うことが好ましい。かかる処理を行うために使用される分散装置は特に限定されない。合材スラリーは前記カーボンナノチューブ分散液で説明した分散装置を用いて、合材スラリーを得ることができる。
【0078】
合材スラリー中の活物質の量は合材スラリー100質量%に対して、20~85質量%であることが好ましく、30~80質量%であることがより好ましく、30~70質量%であることがさらに好ましい。
【0079】
合材スラリー中のカーボンナノチューブの量は活物質100質量%に対して、0.01~10質量%であることが好ましく、0.02~5質量%であることがより好ましく、0 .02~3質量%であることがさらに好ましい。
【0080】
合材スラリー中のバインダーの量は活物質100質量%に対して、0.5~30質量% であることが好ましく、1~25質量% であることがより好ましく、1~20質量% であることがさらに好ましい。
【0081】
合材スラリーの固形分の量は、合材スラリー100質量% に対して、30~90質量% であることが好ましく、35~85質量% であることがより好ましく、35~75質量% であることがさらに好ましい。
【0082】
( 10 ) 非水電解質二次電池
非水電解質二次電池とは正極と、負極と、電解質とを含むものである。
【0083】
正極としては、集電体上に正極活物質を含む合材スラリーを塗工乾燥して電極膜を作製したものを使用することができる。
【0084】
負極としては、集電体上負極活物質を含む合材スラリーを塗工乾燥して電極膜を作製したものを使用することができる。
【0085】
電解質としては、イオンが移動可能な従来公知の様々なものを使用することができる。
例えば、LiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiCFSO、Li(CFSON、LiCSO、Li(CFSOC、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF、LiSCN、又はLiBPh( ただし、Phはフェニル基である)等リチウム塩を含むものが挙げられるが、これらに限定されず、ナトリウム塩やカルシウム塩を含むものも使用できる。電解質は非水
系の溶媒に溶解して、電解液として使用することが好ましい。
【0086】
非水系の溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、及びγ-オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,2-メトキシエタン、1,2-エトキシエタン、及び1,2-ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用しても良いが、2種以上を混合して使用しても良い。
【0087】
非水電解質二次電池には、セパレーターを含むことが好ましい。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びこれらに親水性処理を施したものが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0088】
非水電解質二次電池の構造は特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとから構成され、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【0089】
本発明の非水電解質二次電池は、自動車等の車両や、パソコンやスマートフォンなどの携帯電子機器等のバッテリーとして好適に用いることができる。
【実施例0090】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。例中、「カーボンナノチューブ」を「CNT」、セルロースナノファイバー」を「CeNF」と略記することがある。
【0091】
カーボン分散液の製造例で用いた化合物を以下に示す。
<導電助剤>
[導電助剤A-1]
市販のCNT「TUBALL SWCNT 93%」(OCSiAL社製、平均外径1.6nm)を用いた。
[導電助剤A-2]
市販のCNT「JENOTUBE 6A」(JEIO社製、平均外径6nm)を用いた。
[導電助剤A-3]
市販のCNT「JENOTUBE 10B」(JEIO社製、平均外径10nm)を用いた。
[導電助剤A-4]
市販のCNT「VGCF-H」(昭和電工製、平均外径径150nm)を用いた。
[導電助剤A-5]
市販のアセチレンブラック「デンカブラック HS-100」(デンカ社製)を用いた。
【0092】
<分散剤>
[分散剤P―1]
市販の樹脂型分散剤「サンローズ APP-84:カルボキシメチルセルロース」(日本製紙社製)を用いた。
【0093】
[分散剤P-2]
市販の樹脂型分散剤「ジュリマー AC-10LP」(東亞合成社製)を用いた。
【0094】
[分散剤P-3の製造]
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、アセトニトリル100部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を70℃に加熱して、アクリロニトリル75.0部、アクリル酸25.0部、および及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)を(日油社製;V-65)5.0部の混合物を3時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに70℃で1時間反応させた後、V-65を0.5部添加し、さらに70℃で1時間反応を続けた。その後、不揮発分測定にて転化率が98%超えたことを確認し、減圧濃縮して分散媒を完全に除去し、分散剤P-3を得た。分散剤P-3の重量平均分子量(Mw)は15,000であった。
【0095】
<添加剤>
無水炭酸ナトリウム(キシダ化学社製)を用いた。
【0096】
<カーボン分散液の製造>
[製造例1]
(カーボン分散液CD―1の製造)
プラスチック容器に、イオン交換水を99.12部、分散剤P-1を0.38部入れ、充分に混合溶解した後、導電助剤A-1を0.50部加え、PRIMIX社製ホモディスパーを用いて3000rpmで2時間混合撹拌した。次いで、φ0.5mmのジルコニアビーズと共に、ピコミル(浅田鉄工)に仕込み、充填率80%、周速10m/秒、吐出量150~250g/分、滞留時間40分間分散して、カーボン分散液(CD-1)を得た。
【0097】
[製造例2]
(カーボン分散液CD―2の製造)
プラスチック容器に、イオン交換水を99.18部、分散剤P-2を0.31部、炭酸ナトリウムを0.01部入れ、充分に混合溶解した後、導電助剤A-1を0.50部加え、PRIMIX社製ホモディスパーを用いて3000rpmで2時間混合撹拌した。次いで、φ0.5mmのジルコニアビーズと共に、ピコミル(浅田鉄工)に仕込み、充填率80%、周速10m/秒、吐出量150~250g/分、滞留時間40分間分散して、カーボン分散液(CD-2)を得た。
【0098】
[製造例4、7、10、11]
表1に示す組成に変更した以外はCD-1と同様に行い、カーボン分散液CD-4、7、10、11を得た。
【0099】
[製造例3、5、6、8、9]
表1に示す組成に変更した以外はCD-2と同様に行い、カーボン分散液CD-3、5、6、8、9を得た。
【0100】
【表1】
【0101】
<電極膜の作製>
実施例及び比較例で用いた化合物を以下に示す。
<バインダー樹脂>
・CMC #1190:カルボキシメチルセルロースナトリウム(ダイセルミライズ社製)
・スチレンブタジエンエマルション(JSR株式会社製、TRD2001、固形分48%水溶液)
<負極活物質>
・天然黒鉛( 日本黒鉛工業株式会社製、CGB-20)
・SiO:一酸化珪素(株式会社大阪チタニウムテクノロジー社製、SILICONMONOOXIDE)
<セルロースナノファイバー>
[セルロースナノファイバーB-1]
市販のCeNF「BiNFi-s WFo-10002」(スギノマシン社製、固形分2%水溶液)を用いた。
【0102】
[セルロースナノファイバーB-2]
市販のCeNF「BiNFi-s IMa-10002」(スギノマシン社製、固形分2%水溶液)を用いた。
【0103】
[セルロースナノファイバーB-3]
市販のCeNF「セレンピア TC-02X」(日本製紙社製、固形分5%水溶液)を用いた。
【0104】
[実施例1]
(電極膜EL-1の作製)
プラスチック容器にカーボン分散液(CD-1)2.50質量部、カルボキシメチルセルロースナトリウムを2質量%溶解した水溶液を24.99質量部、セルロースナノファイバー(B-1)7.50質量部、イオン交換水14.91質量部計量した。その後、自転・公転ミキサー(シンキー社製あわとり練太郎、ARE-310)を用いて、2000rpmで1分間撹拌し、カーボン樹脂組成物を得た。その後、負極活物質である一酸化珪素(大阪チタニウムテクノロジー社製、SILICONMONOOXIDE、SiO 1.3C 5μm) を4.85質量部添加し、前記自転・公転ミキサーを用いて、2000rpmで5分間撹拌した。さらに、天然黒鉛( 日本黒鉛工業株式会社製、CGB-20)を43.68質量部添加し、前記自転・公転ミキサーを用いて、2000rpmで5分間撹拌した。その後、スチレンブタジエンエマルション(JSR株式会社製、TRD2001)1.56質量部を加えて、前記自転・公転ミキサーを用いて、2000rpmで30秒間撹拌し、負極用合材スラリーを得た。
負極用合材スラリーを、アプリケーターを用いて、電極の単位当たりの目付量が8mg/cmとなるように銅箔上に塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃ で30分間、塗膜を乾燥させた。次いで、塗膜をロールプレス(株式会社サンクメタル社製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、合材層の密度が1.6g/cmとなる電極膜EL-1を得た。
【0105】
[実施例2~21]
表2に示す合材層組成(固形分比率)に変更した以外はEL-1同様に行い、電極膜EL-2~21を得た。
【0106】
[比較例1~5]
表2に示す組成に変更した以外はEL-1同様に行い、電極膜EL-22~26を得た。
【0107】
<微小硬さ試験>
微小硬さ試験機(フィッシャー・インストルメンツ社製、FISCHERSCOPE H100)を用いて、電極膜の合材層部分の押し込み弾性率を測定した。測定方法としては、合材層側を上にして電極膜を土台に固定し、合材層に対して押し込み試験を行った。圧子は丸圧子(直径400μm)を使用し、荷重1mN、負荷速度0.2mN/s、クリープ時間5sにて100個所測定し、平均値を押し込み弾性率とした。
【0108】
<リチウムイオン二次電池負極評価用セルの組み立て>
先に作製した電極膜(実施例1~21、比較例1~5)をφ16mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極および対極の間にセパレーター(多孔質ポリプロピレンフィルム)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネートを3:5:2(体積比)の割合で混合した混合溶媒を作製し、さらに添加剤として、VC(ビニレンカーボネート)とFEC(フルオロエチレンカーボネート)を混合溶媒100質量部に対してそれぞれ1質量部加えた後、LiPFを1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝泉社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立ては、アルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。
【0109】
<リチウムイオン二次電池負極のサイクル特性評価>
作製したリチウムイオン二次電池負極評価用セルを25℃ の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工社製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電レート0.2Cにて充電終止電圧0.05Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流:0.02C電流 )を行った後、放電レート0.2Cにて放電終止電圧1.5Vで定電流放電を行った。この操作を25回繰り返した。1Cは負極の理論容量を1時間で充電または放電する電流値とした。サイクル特性は、3回目の0.2C放電容量と25回目の0.2C放電容量の比、以下の式1で表すことができる。
(式1)サイクル特性=3回目の0.2C放電容量/25回目の0.2C放電容量×100(%)
◎:95.0%以上
○:90.0%以上95.0%未満
△:80.0%以上90.0%未満
×:80.0%未満
【0110】
<リチウムイオン二次電池負極のレート特性評価>
作製したリチウムイオン二次電池負極評価用セルを25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工社製、SM-8)を用いて充放電測定を行った。充電レート0.2Cにて充電終止電圧0.05Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流:0.02C電流 )を行った後、放電レート0.2Cにて放電終止電圧1.5Vで定電流放電を行った。この操作を3回繰り返した後、充電レート0.2Cにて充電終止電圧0.05Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流:0.02C電流 )を行い、放電レート3Cにて放電終止電圧1.5Vで定電流放電を行った。1Cは負極の理論容量を1時間で充電または放電する電流値とした。レート特性は、0.2C放電容量と3C放電容量の比、以下の式2で表すことができる。
(式2)レート特性=3C放電容量/3回目の0.2C放電容量×100(%)
◎:80.0%以上
○:65.0%以上80.0%未満
△:50.0%以上65.0%未満
×:50.0%未満
【0111】
表2に実施例1~21、比較例1~5で作製した電極膜およびリチウムイオン二次電池の評価結果を示す。
【0112】
【表2】
【0113】
表2より、実施例では、比較例と比ベて、サイクル特性およびレート特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られた。これはカーボンナノチューブとセルロースナノファイバーを併用することにより電極膜に導電ネットワークが形成され、かつ、充放電の前後で電極構造が維持されたためと考えられる。