(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090365
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20240627BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20240627BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
H01L29/78 652J
H01L29/78 653A
H01L29/78 652M
H01L29/78 652D
H01L29/78 652C
H01L29/78 655B
H01L29/78 652Q
H01L29/78 655G
H01L29/78 658A
H01L29/78 658G
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206230
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 朋弘
(72)【発明者】
【氏名】中沢 芳人
(57)【要約】
【課題】半導体装置の性能を向上させる。
【解決手段】フローティング領域PFは、アクティブセルACのトレンチTRの底面BS2を覆っている。また、フローティング領域PFは、インアクティブセルIACの一対のトレンチTRの間の半導体基板SUBに達するように、インアクティブセルIACのトレンチTRの底面BS3を覆っている。インアクティブセルIACにおけるベース領域PBとフローティング領域PFとの間の距離Diacは、アクティブセルACにおけるベース領域PBとフローティング領域PFとの間の距離Dacよりも短い。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面および下面を有する第1導電型の半導体基板と、
前記半導体基板の前記上面側において、前記半導体基板中に形成された第1トレンチ、第2トレンチ、第3トレンチおよび第4トレンチと、
第1ゲート絶縁膜を介して前記第1トレンチの内部に形成された第1ゲート電極と、
第2ゲート絶縁膜を介して前記第2トレンチの内部に形成された第2ゲート電極と、
第3ゲート絶縁膜を介して前記第3トレンチの内部に形成された第3ゲート電極と、
第4ゲート絶縁膜を介して前記第4トレンチの内部に形成された第4ゲート電極と、
前記半導体基板の前記上面側において、前記第1トレンチと前記第2トレンチとの間の前記半導体基板中に形成された前記第1導電型の第1ホールバリア領域と、
前記第1ホールバリア領域内に形成された、前記第1導電型と反対の第2導電型の第1ベース領域と、
前記第1ベース領域内に形成された前記第1導電型のエミッタ領域と、
前記半導体基板の前記上面側において、前記第3トレンチと前記第4トレンチとの間の前記半導体基板中に形成された前記第1導電型の第2ホールバリア領域と、
前記第2ホールバリア領域内に形成された前記第2導電型の第2ベース領域と、
前記半導体基板の前記上面側において、前記第2トレンチと前記第3トレンチとの間の前記半導体基板中に形成された前記第2導電型の第1フローティング領域と、
を備え、
前記第1フローティング領域は、前記第2トレンチの第2底面を覆い、且つ、前記第3トレンチと前記第4トレンチとの間の前記半導体基板に達するように、前記第3トレンチの第3底面を覆い、
前記第2ベース領域と前記第1フローティング領域との間の第1距離は、前記第1ベース領域と前記第1フローティング領域との間の第2距離よりも短い、半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第2ホールバリア領域のうち前記第1フローティング領域と前記第2ホールバリア領域との境界付近の第1箇所における前記第2ホールバリア領域の不純物濃度は、前記第1箇所と同じ深さにおける前記第1ホールバリア領域の不純物濃度よりも薄い、半導体装置。
【請求項3】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1トレンチは、第1側面、前記第1側面に対向する第2側面、および、前記第1側面と前記第2側面とを繋ぐ第1底面を有し、
前記第2トレンチは、第3側面、前記第3側面に対向する第4側面、および、前記第3側面と前記第4側面とを繋ぐ前記第2底面を有し、
前記第3トレンチは、第5側面、前記第5側面に対向する第6側面、および、前記第5側面と前記第6側面とを繋ぐ前記第3底面を有し、
前記第4トレンチは、第7側面、前記第7側面に対向する第8側面、および、前記第7側面と前記第8側面とを繋ぐ第4底面を有し、
前記第1トレンチおよび前記第2トレンチは、前記第2側面と前記第3側面とが隣接するように、離間して設けられ、
前記第3トレンチおよび前記第4トレンチは、前記第6側面と前記第7側面とが隣接するように、離間して設けられ、
前記第1フローティング領域は、前記第4側面と前記第5側面との間の前記半導体基板中に形成され、且つ、前記第6側面を越えるように前記第3底面を覆い、
前記第2距離は、前記第3側面に沿った距離であり、
前記第1距離は、前記第6側面に沿った距離である、半導体装置。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体装置において、
前記半導体基板の前記上面側において、前記第8側面側の前記半導体基板中に形成された前記第2導電型の第2フローティング領域と、
前記半導体基板の前記上面側において、前記第1側面側の前記半導体基板中に形成された前記第2導電型の第3フローティング領域と、
を更に備え、
前記第3フローティング領域は、前記第1底面を覆い、
前記第2フローティング領域は、前記第7側面を越えるように前記第4底面を覆い、
前記第1フローティング領域および前記第3フローティング領域は、互いに離間し、
前記第1フローティング領域および前記第2フローティング領域は、接触している、半導体装置。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体装置において、
前記第6側面と前記第7側面との間の距離は、前記第2側面と前記第3側面との間の距離よりも短い、半導体装置。
【請求項6】
請求項4に記載の半導体装置において、
前記第6側面と前記第7側面との間の距離は、前記第2側面と前記第3側面との間の距離と同じである、半導体装置。
【請求項7】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記第1トレンチ、前記第2トレンチ、前記第3トレンチおよび前記第4トレンチを覆うように、前記半導体基板の前記上面上に形成された層間絶縁膜と、
前記層間絶縁膜上に形成されたゲート配線およびエミッタ電極と、
前記半導体基板の前記下面側において、前記半導体基板中に形成された前記第2導電型のコレクタ領域と、
前記半導体基板の前記下面下に形成されたコレクタ電極と、
を更に備え、
前記第1ゲート電極は、前記ゲート配線に電気的に接続され、
前記エミッタ領域、前記第1ベース領域、前記第2ゲート電極および前記第2ベース領域は、前記エミッタ電極に電気的に接続され、
前記コレクタ領域は、前記コレクタ電極に電気的に接続されている、半導体装置。
【請求項8】
(a)上面および下面を有する第1導電型の半導体基板を用意する工程、
(b)前記半導体基板の前記上面側において、前記半導体基板中に、前記第1導電型の第1ホールバリア領域および前記第1導電型の第2ホールバリア領域を形成する工程、
(c)前記半導体基板の前記上面側において、前記半導体基板中に、前記第1導電型と反対の第2導電型の第1フローティング領域を形成する工程、
(d)前記半導体基板の前記上面側において、前記半導体基板中に、第1トレンチ、第2トレンチ、第3トレンチおよび第4トレンチを形成する工程、
(e)前記(d)工程後、前記第1トレンチの内部に第1ゲート絶縁膜を形成し、前記第2トレンチの内部に第2ゲート絶縁膜を形成し、前記第3トレンチの内部に第3ゲート絶縁膜を形成し、前記第4トレンチの内部に第4ゲート絶縁膜を形成する工程、
(f)前記(e)工程後、前記第1ゲート絶縁膜を介して前記第1トレンチの内部に第1ゲート電極を形成し、前記第2ゲート絶縁膜を介して前記第2トレンチの内部に第2ゲート電極を形成し、前記第3ゲート絶縁膜を介して前記第3トレンチの内部に第3ゲート電極を形成し、前記第4ゲート絶縁膜を介して前記第4トレンチの内部に第4ゲート電極を形成する工程、
(g)前記(f)工程後、前記第1ホールバリア領域内に前記第2導電型の第1ベース領域を形成し、前記第2ホールバリア領域内に前記第2導電型の第2ベース領域を形成する工程、
(h)前記(g)工程後、前記第1ベース領域内に前記第1導電型のエミッタ領域を形成する工程、
を備え、
前記第1トレンチは、第1側面、前記第1側面に対向する第2側面、および、前記第1側面と前記第2側面とを繋ぐ第1底面を有し、
前記第2トレンチは、第3側面、前記第3側面に対向する第4側面、および、前記第3側面と前記第4側面とを繋ぐ第2底面を有し、
前記第3トレンチは、第5側面、前記第5側面に対向する第6側面、および、前記第5側面と前記第6側面とを繋ぐ第3底面を有し、
前記第4トレンチは、第7側面、前記第7側面に対向する第8側面、および、前記第7側面と前記第8側面とを繋ぐ第4底面を有し、
前記第1トレンチおよび前記第2トレンチは、前記第2側面と前記第3側面とが隣接するように、離間して設けられ、
前記第3トレンチおよび前記第4トレンチは、前記第6側面と前記第7側面とが隣接するように、離間して設けられ、
前記第1ホールバリア領域は、前記第2側面と前記第3側面との間の前記半導体基板中に形成され、
前記第2ホールバリア領域は、前記第6側面と前記第7側面との間の前記半導体基板中に形成され、
前記第1フローティング領域は、前記第4側面と前記第5側面との間の前記半導体基板中に形成され、前記第2底面を覆い、且つ、前記第6側面を越えるように前記第3底面を覆い、
前記第2ベース領域と前記第1フローティング領域との間の第1距離は、前記第1ベース領域と前記第1フローティング領域との間の第2距離よりも短い、半導体装置の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第2距離は、前記第3側面に沿った距離であり、
前記第1距離は、前記第6側面に沿った距離である、半導体装置の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(c)工程では、前記第8側面側の前記半導体基板中に前記第2導電型の第2フローティング領域が形成され、且つ、前記第1側面側の前記半導体基板中に前記第2導電型の第3フローティング領域が形成され、
前記第3フローティング領域は、前記第1底面を覆い、
前記第2フローティング領域は、前記第7側面を越えるように前記第4底面を覆い、
前記第1フローティング領域および前記第3フローティング領域は、互いに離間し、
前記第1フローティング領域および前記第2フローティング領域は、接触している、半導体装置の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(c)工程は、
(c1)前記半導体基板の前記上面上に、第1レジストパターンを形成する工程、
(c2)前記第1レジストパターンをマスクとして、前記半導体基板の前記上面側から第1イオン注入を行うことで、前記半導体基板中に、第1イオン注入層、第2イオン注入層および第3イオン注入層を形成する工程、
(c3)前記第1レジストパターンをマスクとして、前記半導体基板の前記上面側から第2イオン注入を行うことで、平面視で前記第1イオン注入層と重なる位置の前記半導体基板中に第4イオン注入層を形成し、平面視で前記第2イオン注入層と重なる位置の前記半導体基板中に第5イオン注入層を形成し、平面視で前記第3イオン注入層と重なる位置の前記半導体基板中に第6イオン注入層を形成する工程、
(c4)前記(c2)工程および前記(c3)工程の後、前記第1レジストパターンを除去する工程、
(c5)前記(c4)工程後、前記半導体基板に対して第1熱処理を行うことで、前記第1イオン注入層および前記第4イオン注入層に含まれる不純物を拡散させて、前記第1フローティング領域を形成し、前記第2イオン注入層および前記第5イオン注入層に含まれる不純物を拡散させて、前記第2フローティング領域を形成し、前記第3イオン注入層および前記第6イオン注入層に含まれる不純物を拡散させて、前記第3フローティング領域を形成する工程、
を含み、
前記第1イオン注入のエネルギーは、前記第2イオン注入のエネルギーよりも大きく、
前記(d)工程は、前記(c4)工程と前記(c5)工程との間で行われる、半導体装置の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の半導体装置の製造方法において、
(c6)前記(c4)工程と前記(d)工程との間に、前記半導体基板に対して第2熱処理を行うことで、前記第1イオン注入層、前記第2イオン注入層、前記第3イオン注入層、前記第4イオン注入層、前記第5イオン注入層および前記第6イオン注入層の各々に含まれる不純物を活性化させる工程、
を更に備え、
前記第1熱処理は、前記第2熱処理よりも、高温および長時間の条件下で行われる、半導体装置の製造方法。
【請求項13】
請求項11に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(c)工程は、前記(c5)工程前に、
(c7)前記半導体基板の前記上面上に、第2レジストパターンを形成する工程、
(c8)前記第2レジストパターンをマスクとして、前記半導体基板の前記上面側から第3イオン注入を行うことで、前記第1イオン注入層と前記第2イオン注入層との間に位置する前記半導体基板中に、第7イオン注入層を形成する工程、
(c9)前記(c8)工程後、前記第2レジストパターンを除去する工程、
を更に含み、
前記(c5)工程では、前記第1イオン注入層、前記第4イオン注入層および前記第7イオン注入層に含まれる不純物を活性化させて、前記第1フローティング領域が形成され、前記第2イオン注入層、前記第5イオン注入層および前記第7イオン注入層に含まれる不純物を活性化させて、前記第2フローティング領域が形成され、
前記第3イオン注入のエネルギーは、前記第2イオン注入のエネルギーよりも大きく、
前記(d)工程は、前記(c9)工程と前記(c5)工程との間で行われる、半導体装置の製造方法。
【請求項14】
請求項10に記載の半導体装置の製造方法において、
前記(c)工程は、
(c10)前記半導体基板の前記上面上に、第1レジストパターンを形成する工程、
(c11)前記第1レジストパターンをマスクとして、前記半導体基板の前記上面側から第1イオン注入を行うことで、前記半導体基板中に、第1イオン注入層および第3イオン注入層を形成する工程、
(c12)前記(c11)工程後、前記第1レジストパターンを除去する工程、
(c13)前記半導体基板の前記上面上に、第2レジストパターンを形成する工程、
(c14)前記第2レジストパターンをマスクとして、前記半導体基板の前記上面側から第2イオン注入を行うことで、平面視で前記第1イオン注入層と重なる位置の前記半導体基板中に第4イオン注入層および第5イオン注入層を形成し、平面視で前記第3イオン注入層と重なる位置の前記半導体基板中に第6イオン注入層を形成する工程、
(c15)前記(c14)工程の後、前記第2レジストパターンを除去する工程、
(c16)前記(c12)工程および前記(c15)工程の後、前記半導体基板に対して第1熱処理を行うことで、前記第1イオン注入層および前記第4イオン注入層に含まれる不純物を拡散させて、前記第1フローティング領域を形成し、前記第1イオン注入層および前記第5イオン注入層に含まれる不純物を拡散させて、前記第2フローティング領域を形成し、前記第3イオン注入層および前記第6イオン注入層に含まれる不純物を拡散させて、前記第3フローティング領域を形成する工程、
を含み、
前記第1イオン注入層は、前記第2ホールバリア領域が形成される位置と平面視で重なる位置にも形成され、
前記第1イオン注入のエネルギーは、前記第2イオン注入のエネルギーよりも大きく、
前記(d)工程は、前記(c12)工程および前記(c15)工程の後であって、前記(c16)工程の前に行われる、半導体装置の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の半導体装置の製造方法において、
(c17)前記(c12)工程および前記(c15)工程の後であって、前記(d)工程の前に、前記半導体基板に対して第2熱処理を行うことで、前記第1イオン注入層、前記第3イオン注入層、前記第4イオン注入層、前記第5イオン注入層および前記第6イオン注入層の各々に含まれる不純物を活性化させる工程、
を更に備え、
前記第1熱処理は、前記第2熱処理よりも、高温および長時間の条件下で行われる、半導体装置の製造方法。
【請求項16】
請求項11に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第6側面と前記第7側面との間の距離は、前記第2側面と前記第3側面との間の距離よりも短い、半導体装置の製造方法。
【請求項17】
請求項13に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第6側面と前記第7側面との間の距離は、前記第2側面と前記第3側面との間の距離と同じである、半導体装置の製造方法。
【請求項18】
請求項14に記載の半導体装置の製造方法において、
前記第6側面と前記第7側面との間の距離は、前記第2側面と前記第3側面との間の距離と同じである、半導体装置の製造方法。
【請求項19】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
(i)前記(h)工程後、前記第1トレンチ、前記第2トレンチ、前記第3トレンチおよび前記第4トレンチを覆うように、前記半導体基板の前記上面上に、層間絶縁膜を形成する工程、
(j)前記(i)工程後、前記層間絶縁膜上に、ゲート配線およびエミッタ電極を形成する工程、
(k)前記(j)工程後、前記半導体基板の前記下面側において、前記半導体基板中に、前記第2導電型のコレクタ領域を形成する工程、
(l)前記(k)工程後、前記半導体基板の前記下面下に、コレクタ電極を形成する工程、
を更に備え、
前記第1ゲート電極は、前記ゲート配線に電気的に接続され、
前記エミッタ領域、前記第1ベース領域、前記第2ゲート電極および前記第2ベース領域は、前記エミッタ電極に電気的に接続され、
前記コレクタ領域は、前記コレクタ電極に電気的に接続される、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置およびその製造方法に関し、特に、トレンチの内部に形成されたゲート電極を備えた半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのパワー半導体素子を備えた半導体装置が広く使用されている。また、オン抵抗の低いIGBTとして、トレンチの内部にゲート電極を埋め込んだ構造を用いたIGBTが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、IE(Injection Enhancement)効果を利用したGGEE構造のIGBTが開示されている。IE効果とは、IGBTがオン状態の際に、エミッタ電極EE側に正孔が排出され難くすることで、ドリフト領域に蓄積される電荷の濃度を高める技術である。
【0004】
なお、GGEE構造の「G」とは、ゲート電位に接続されたゲート電極が、トレンチの内部に埋め込まれた構造を意味し、ゲートトレンチと呼称される。また、GGEE構造の「E」とは、エミッタ電位に接続されたゲート電極が、トレンチの内部に埋め込まれた構造を意味し、エミッタトレンチと呼称される。従って、GGEE構造とは、一対のゲートトレンチからある程度離れた位置に、一対のエミッタトレンチが形成された構造である。
【0005】
特許文献1にも開示されているように、IE効果を利用するために、一対のゲートトレンチと一対のエミッタトレンチとの間の半導体基板には、p型のフローティング領域が形成されている。このp型のフローティング領域は、一対のゲートトレンチおよび一対のエミッタトレンチの各々の深さよりも深い位置まで形成されている。また、一対のゲートトレンチに挟まれた半導体基板と、一対のエミッタトレンチに挟まれた半導体基板とには、ドリフト領域よりも高い不純物濃度を有するn型のホールバリア領域が形成されている。
【0006】
また、特許文献2には、GGEE構造のセルピッチがシュリンクされたGGEEs構造のIGBTが開示されている。GGEEs構造では、一対のエミッタトレンチの間の距離が、一対のゲートトレンチの間の距離よりも短くされている。すなわち、GGEEs構造の「s」とは、一対のエミッタトレンチの間の距離がシュリンクされていることを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-140885号公報
【特許文献2】特開2017-157733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
IGBTのスイッチング動作時の過渡状態では、p型のフローティング領域内に過剰な正孔が蓄積され易い。それ故、過渡状態において、p型のフローティング領域に制御不能な電位変動が発生し、この電位変動がノイズの発生源となり、IGBTの性能が低下するという問題がある。
【0009】
特許文献1および2では、p型のフローティング領域内の過剰な正孔を排出するために、寄生PMOSトランジスタを利用している。寄生PMOSトランジスタは、p型のフローティング領域をソースとし、n型のホールバリア領域をチャネルとし、p型のベース領域をドレインとして構成される。
【0010】
p型のフローティング領域内へ正孔が注入されると、上記ソースの電位が高まり、ゲート電極と上記ソースとの間に、マイナスの電位差が発生する。その結果、寄生PMOSトランジスタがターンオンし、p型のフローティング領域内の正孔は、上記ドレインへ排出される。
【0011】
この寄生PMOSトランジスタは、一対のゲートトレンチおよび一対のエミッタトレンチの両方に形成される。ここで、本願発明者らは、ショートサーキットを用いた負荷短絡試験、および、RBSOA(Reverse Bias Safe Operating Area)などのロバスト性について、IGBTの検討を行った。その結果、一対のエミッタトレンチの寄生PMOSトランジスタで流れるホール電流を増加させ、一対のゲートトレンチの寄生PMOSトランジスタで流れるホール電流を低減させることができれば、上記ロバスト性を向上させることができることを、本願発明者らは見出した。
【0012】
本願の主な目的は、負荷短絡およびRBSOAなどのロバスト性を向上させることで、IGBTを有する半導体装置の性能を向上させることにある。その他の課題および新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0014】
一実施の形態に係る半導体装置は、上面および下面を有する第1導電型の半導体基板と、前記半導体基板の前記上面側において、前記半導体基板中に形成された第1トレンチ、第2トレンチ、第3トレンチおよび第4トレンチと、第1ゲート絶縁膜を介して前記第1トレンチの内部に形成された第1ゲート電極と、第2ゲート絶縁膜を介して前記第2トレンチの内部に形成された第2ゲート電極と、第3ゲート絶縁膜を介して前記第3トレンチの内部に形成された第3ゲート電極と、第4ゲート絶縁膜を介して前記第4トレンチの内部に形成された第4ゲート電極と、前記半導体基板の前記上面側において、前記第1トレンチと前記第2トレンチとの間の前記半導体基板中に形成された前記第1導電型の第1ホールバリア領域と、前記第1ホールバリア領域内に形成された、前記第1導電型と反対の第2導電型の第1ベース領域と、前記第1ベース領域内に形成された前記第1導電型のエミッタ領域と、前記半導体基板の前記上面側において、前記第3トレンチと前記第4トレンチとの間の前記半導体基板中に形成された前記第1導電型の第2ホールバリア領域と、前記第2ホールバリア領域内に形成された前記第2導電型の第2ベース領域と、前記半導体基板の前記上面側において、前記第2トレンチと前記第3トレンチとの間の前記半導体基板中に形成された前記第2導電型の第1フローティング領域と、を備える。前記第1フローティング領域は、前記第2トレンチの第2底面を覆い、且つ、前記第3トレンチと前記第4トレンチとの間の前記半導体基板に達するように、前記第3トレンチの第3底面を覆い、前記第2ベース領域と前記第1フローティング領域との間の第1距離は、前記第1ベース領域と前記第1フローティング領域との間の第2距離よりも短い。
【0015】
一実施の形態に係る半導体装置の製造方法は、(a)上面および下面を有する第1導電型の半導体基板を用意する工程、(b)前記半導体基板の前記上面側において、前記半導体基板中に、前記第1導電型の第1ホールバリア領域および前記第1導電型の第2ホールバリア領域を形成する工程、(c)前記半導体基板の前記上面側において、前記半導体基板中に、前記第1導電型と反対の第2導電型の第1フローティング領域を形成する工程、(d)前記(b)工程および前記(c)工程後、前記半導体基板の前記上面側において、前記半導体基板中に、第1トレンチ、第2トレンチ、第3トレンチおよび第4トレンチを形成する工程、(e)前記(d)工程後、前記第1トレンチの内部に第1ゲート絶縁膜を形成し、前記第2トレンチの内部に第2ゲート絶縁膜を形成し、前記第3トレンチの内部に第3ゲート絶縁膜を形成し、前記第4トレンチの内部に第4ゲート絶縁膜を形成する工程、(f)前記(e)工程後、前記第1ゲート絶縁膜を介して前記第1トレンチの内部に第1ゲート電極を形成し、前記第2ゲート絶縁膜を介して前記第2トレンチの内部に第2ゲート電極を形成し、前記第3ゲート絶縁膜を介して前記第3トレンチの内部に第3ゲート電極を形成し、前記第4ゲート絶縁膜を介して前記第4トレンチの内部に第4ゲート電極を形成する工程、(g)前記(f)工程後、前記第1ホールバリア領域内に前記第2導電型の第1ベース領域を形成し、前記第2ホールバリア領域内に前記第2導電型の第2ベース領域を形成する工程、(h)前記(g)工程後、前記第1ベース領域内に前記第1導電型のエミッタ領域を形成する工程、を備える。前記第1トレンチは、第1側面、前記第1側面に対向する第2側面、および、前記第1側面と前記第2側面とを繋ぐ第1底面を有し、前記第2トレンチは、第3側面、前記第3側面に対向する第4側面、および、前記第3側面と前記第4側面とを繋ぐ第2底面を有し、前記第3トレンチは、第5側面、前記第5側面に対向する第6側面、および、前記第5側面と前記第6側面とを繋ぐ第3底面を有し、前記第4トレンチは、第7側面、前記第7側面に対向する第8側面、および、前記第7側面と前記第8側面とを繋ぐ第4底面を有し、前記第1トレンチおよび前記第2トレンチは、前記第2側面と前記第3側面とが隣接するように、離間して設けられ、前記第3トレンチおよび前記第4トレンチは、前記第6側面と前記第7側面とが隣接するように、離間して設けられ、前記第1ホールバリア領域は、前記第2側面と前記第3側面との間の前記半導体基板中に形成され、前記第2ホールバリア領域は、前記第6側面と前記第7側面との間の前記半導体基板中に形成され、前記第1フローティング領域は、前記第4側面と前記第5側面との間の前記半導体基板中に形成され、前記第2底面を覆い、且つ、前記第6側面を越えるように前記第3底面を覆い、前記第2ベース領域と前記第1フローティング領域との間の第1距離は、前記第1ベース領域と前記第1フローティング領域との間の第2距離よりも短い。
【発明の効果】
【0016】
一実施の形態によれば、半導体装置の性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施の形態1における半導体装置を示す平面図である。
【
図2】実施の形態1における半導体装置を示す要部平面図である。
【
図3】実施の形態1における半導体装置を示す断面図である。
【
図4】実施の形態1における半導体装置の要部を示す断面図である。
【
図7】実施の形態1における半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図17】実施の形態2における半導体装置を示す断面図である。
【
図18】実施の形態2における半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図21】GGEEs構造およびGGEE構造を示す断面図である。
【
図22】実施の形態3における半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図23】検討例における半導体装置の要部を示す断面図である。
【
図24】検討例における半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0019】
また、本願において説明されるX方向、Y方向およびZ方向は、互いに交差し、互いに直交している。本願では、Z方向をある構造体の上下方向、高さ方向または厚さ方向として説明する。また、本願で用いられる「平面図」または「平面視」などの表現は、X方向およびY方向によって構成される面を「平面」とし、この「平面」をZ方向から見ることを意味する。
【0020】
(実施の形態1)
<半導体装置の構造>
以下に
図1~
図4を用いて、実施の形態1における半導体装置100の構造について説明する。
【0021】
図1は、半導体装置100である半導体チップを示す平面図である。
図1に示されるように、半導体装置100の大部分はエミッタ電極EEで覆われている。ゲート配線GWは、平面視においてエミッタ電極EEを囲むように形成されている。
【0022】
ここでは図示していないが、エミッタ電極EEおよびゲート配線GWは、ポリイミド膜のような保護膜によって覆われている。エミッタ電極EE上およびゲート配線GW上において、上記保護膜の一部には開口部が設けられ、上記開口部で露出している領域が、エミッタパッドEPおよびゲートパッドGPになる。エミッタパッドEP上およびゲートパッドGP上に、ボンディングワイヤまたはクリップ(銅板)などの外部接続用部材が接続されることで、半導体装置100が、他の半導体チップまたは配線基板などに電気的に接続される。
【0023】
半導体装置100は、セル領域と、上記セル領域を囲む外周領域とを備える。上記セル領域には、IGBTのような主要な半導体素子が形成されている。上記外周領域には、ゲート配線GWなどが形成されている。
図1に示される領域1Aは、上記セル領域の一部を示している。
【0024】
図2は、
図1に示される領域1Aに対応した要部平面図である。
図2に示されるIGBTは、IE効果を利用したGGEEs構造のIGBTである。半導体装置100は、IGBTの主動作を行うためのアクティブセルACと、アクティブセルAC以外のインアクティブセルIACとを有する。
【0025】
図2に示されるように、複数のトレンチTRは、Y方向に延在し、X方向で互いに隣接している。アクティブセルACのトレンチTRの内部には、ゲート電極GE1が形成されている。インアクティブセルIACのトレンチTRの内部には、ゲート電極GE2が形成されている。アクティブセルACに形成されたトレンチTRと、その内部に形成されたゲート電極GE1とによって、ゲートトレンチが構成されている。インアクティブセルIACに形成されたトレンチTRと、その内部に形成されたゲート電極GE2とによって、エミッタトレンチが構成されている。
【0026】
アクティブセルACのゲート電極GE1には、ゲート配線GWが電気的に接続され、IGBTの動作時にゲート電位が供給される。インアクティブセルIACのゲート電極GE2には、エミッタ電極EEが電気的に接続され、IGBTの動作時にエミッタ電位が供給される。また、アクティブセルACのベース領域PBおよびエミッタ領域NEと、インアクティブセルIACのベース領域PBとには、エミッタ電極EEが電気的に接続され、IGBTの動作時にエミッタ電位が供給される。
【0027】
図3は、
図2に示されるA-A線に沿った断面図である。半導体装置100は、上面および下面を有するn型の半導体基板SUBを備える。半導体基板SUBは、n型のドリフト領域NVを有する。ここでは、n型の半導体基板SUB自体がドリフト領域NVを構成している。なお、半導体基板SUBは、n型のシリコン基板と、シリコン基板上にエピタキシャル成長法によって燐(P)を導入しながら成長させたn型のシリコン層との積層体であってもよい。その場合、n型のシリコン基板よりも低い不純物濃度を有するn型のシリコン層が、ドリフト領域NVを構成する。
【0028】
半導体基板SUBの下面側において、半導体基板SUB中には、n型のフィールドストップ領域(不純物領域)NSが形成されている。フィールドストップ領域NSの不純物濃度は、ドリフト領域NVの不純物濃度よりも高い。フィールドストップ領域NSは、IGBTのターンオフ時に、半導体基板SUBの上面側のpn接合から延びる空乏層が、p型のコレクタ領域PCに達することを抑制するために設けられている。
【0029】
半導体基板SUBの下面側において、半導体基板SUB中には、p型のコレクタ領域(不純物領域)PCが形成されている。コレクタ領域PCは、フィールドストップ領域NSの下方に位置している。
【0030】
半導体基板SUBの下面下には、コレクタ電極CEが形成されている。コレクタ電極CEは、コレクタ領域PCに電気的に接続され、コレクタ領域PCにコレクタ電位を供給する。コレクタ電極CEは、例えばAu膜、Ni膜、Ti膜またはAlSi膜のような単層の金属膜であるか、これらを適宜積層させた積層の金属膜である。
【0031】
半導体基板SUBの上面側において、半導体基板SUB中には、トレンチTRが形成されている。トレンチTRは、後述するエミッタ領域NEおよびベース領域PBを貫通し、且つ、半導体基板SUBに達している。トレンチTRの深さは、例えば2μm以上且つ5μm以下である。
【0032】
トレンチTRの内部には、ゲート絶縁膜GIが形成されている。ゲート絶縁膜GIを介してトレンチTRの内部には、ゲート電極GE1、GE2が形成されている。ゲート絶縁膜GIは、絶縁膜であり、例えば酸化シリコン膜である。ゲート電極GE1、GE2は、導電性膜であり、例えばn型の不純物が導入された多結晶シリコン膜である。ゲート絶縁膜GIの厚さは、例えば70nm以上且つ150nm以下である。
【0033】
アクティブセルACの半導体基板SUBの上面側において、一対のトレンチTR(一対のゲート電極GE1)の間の半導体基板SUB中には、ホールバリア領域(不純物領域)NHBが形成されている。ホールバリア領域NHBの不純物濃度は、ドリフト領域NVの不純物濃度よりも高い。
【0034】
ホールバリア領域NHB内には、p型のベース領域(不純物領域)PBが形成されている。p型のベース領域PB内には、n型のエミッタ領域(不純物領域)NEが形成されている。エミッタ領域NEの不純物濃度は、ドリフト領域NVの不純物濃度よりも高い。ベース領域PBは、トレンチTRの深さよりも浅くなるように形成され、エミッタ領域NEは、ベース領域PBの深さよりも浅くなるように形成されている。
【0035】
なお、
図2に示されるように、複数のエミッタ領域NEは、一対のトレンチTR(一対のゲート電極GE1)の間に形成され、Y方向に沿って互いに所定の距離で離間して形成されている。ゲート電極GE1に隣接するエミッタ領域NEの下方に位置するベース領域PBが、チャネル領域として使用される。
【0036】
インアクティブセルIACの半導体基板SUBの上面側において、一対のトレンチTR(一対のゲート電極GE2)の間の半導体基板SUB中には、ホールバリア領域NHBが形成されている。また、ゲート電極GE1とゲート電極GE2との間の半導体基板SUB中には、p型のフローティング領域(不純物領域)PFが形成されている。ホールバリア領域NHB内およびフローティング領域PF内には、p型のベース領域PBが形成されている。ベース領域PBの不純物濃度は、フローティング領域PFの不純物濃度よりも低い。
【0037】
フローティング領域PFと、フローティング領域PF内に形成されているベース領域PBとは、ゲート配線GWおよびエミッタ電極EEに電気的に接続されておらず、電位が供給されておらず、電気的にフローティング状態である。
【0038】
アクティブセルACおよびインアクティブセルIACにおいて、半導体基板SUBの上面上には、各トレンチTRを覆うように、層間絶縁膜ILが形成されている。層間絶縁膜ILは、例えば酸化シリコン膜である。層間絶縁膜ILの厚さは、例えば600nm以上且つ1500nm以下である。
【0039】
アクティブセルACにおいて、孔CHは、層間絶縁膜ILおよびエミッタ領域NEを貫通し、且つ、ベース領域PBの内部に達している。孔CHは、エミッタ領域NEおよびベース領域PBに接するように形成されている。
【0040】
孔CHの上部では、層間絶縁膜ILが後退している。すなわち、半導体基板SUBの上面よりも上に位置する孔CHの開口の大きさは、半導体基板SUBの上面よりも下に位置する孔CHの開口の大きさよりも大きい。このため、エミッタ領域NEの上面の一部が、層間絶縁膜ILから露出している。従って、エミッタ電極EEは、孔CHの内部において、エミッタ領域NEの側面に接触するだけでなく、エミッタ領域NEの上面の一部にも接触する。これにより、エミッタ電極EEとエミッタ領域NEとの接触抵抗を低減することができる。
【0041】
インアクティブセルIACにおいて、孔CHは、層間絶縁膜ILを貫通し、且つ、ベース領域PBの内部に達している。また、孔CHは、平面視においてゲート電極GE2に重なるように形成されている。このため、インアクティブセルIACにおける孔CHは、ゲート電極GE2およびベース領域PBに接するように形成されている。
【0042】
アクティブセルACおよびインアクティブセルIACにおいて、孔CHの底部の周囲のベース領域PBには、p型の高濃度拡散領域(不純物領域)PRが形成されている。高濃度拡散領域PRの不純物濃度は、ベース領域PBの不純物濃度よりも高い。高濃度拡散領域PRは、エミッタ電極EEとの接触抵抗を低くするため、および、ラッチアップを防止するために設けられている。
【0043】
孔CHの内部には、プラグPGが埋め込まれている。プラグPGは、バリアメタル膜と、上記バリアメタル膜上に形成された導電性膜とを含む。上記バリアメタル膜は、例えばチタン膜と、上記チタン膜上に形成された窒化チタン膜との積層膜である。上記導電性膜は、例えばタングステン膜である。
【0044】
なお、ここでは図示されていないが、孔CHは、ゲート電極GE1の一部上にも形成され、この孔CHの内部にもプラグPGが形成されている。
【0045】
層間絶縁膜IL上には、エミッタ電極EEが形成されている。エミッタ電極EEは、孔CH(プラグPG)を介して、エミッタ領域NE、ベース領域PB、高濃度拡散領域PRおよびゲート電極GE2に電気的に接続され、これらの領域にエミッタ電位を供給する。なお、ここでは図示されていないが、層間絶縁膜IL上には、エミッタ電極EEと同じ製造工程で形成されたゲート配線GWも形成されている。ゲート配線GWは、孔CH(プラグPG)を介してゲート電極GE1に電気的に接続され、ゲート電極GE1にゲート電位を供給する。
【0046】
このようなエミッタ電極EEおよびゲート配線GWは、バリアメタル膜と、上記バリアメタル膜上に形成された導電性膜とを含む。上記バリアメタル膜は、例えばTiW膜である。上記導電性膜は、例えば、銅またはシリコンが添加されたアルミニウム合金膜である。上記アルミニウム合金膜は、エミッタ電極EEおよびゲート配線GWの主導体膜であり、上記TiW膜よりも十分に厚い。
【0047】
<実施の形態1の主な特徴>
図4は、
図3の断面構造のうち、トレンチTRおよびその周囲の詳細を示す要部断面図である。
【0048】
図4に示されるように、アクティブセルACに形成されている一対のトレンチTRのうち、一方のトレンチTRは、側面SS1、側面SS1に対向する側面SS2、および、側面SS1と側面SS2とを繋ぐ底面BS1を有する。アクティブセルACの他方のトレンチTRは、側面SS3、側面SS3に対向する側面SS4、および、側面SS3と側面SS4とを繋ぐ底面BS2を有する。一方のトレンチTRおよび他方のトレンチTRは、側面SS2と側面SS3とが隣接するように、離間して設けられている。
【0049】
また、インアクティブセルIACに形成されている一対のトレンチTRのうち、一方のトレンチTRは、側面SS5、側面SS5に対向する側面SS6、および、側面SS5と側面SS6とを繋ぐ底面BS3を有する。インアクティブセルIACの他方のトレンチTRは、側面SS7、側面SS7に対向する側面SS8、および、側面SS7と側面SS8とを繋ぐ底面BS4を有する。一方のトレンチTRおよび他方のトレンチTRは、側面SS6と側面SS7とが隣接するように、離間して設けられている。
【0050】
なお、インアクティブセルIACの一対のトレンチTRの間隔は、アクティブセルACの一対のトレンチTRの間隔よりも狭くなっている。言い換えれば、側面SS6と側面SS7との間の距離は、側面SS2と側面SS3との間の距離よりも短い。
【0051】
各フローティング領域PFは、アクティブセルACのトレンチTRの底面BS1、BS2を覆い、インアクティブセルIACのトレンチTRの底面BS3、BS4を覆っている。また、各フローティング領域PFは、アクティブセルACの各トレンチTRの間の半導体基板SUBに達し、且つ、インアクティブセルIACの各トレンチTRの間の半導体基板SUBに達するように、横方向(X方向)へも拡散されている。フローティング領域PFがトレンチTRの底面を覆うだけでなく、更に横方向(X方向)へ伸びていることで、トレンチTR直下の電界集中を緩和することができ、接合耐圧を向上させることができる。
【0052】
言い換えれば、側面SS1側の半導体基板SUB中に形成されているフローティング領域PFは、側面SS2を越えるように底面BS1を覆っている。側面SS4と側面SS5との間の半導体基板SUB中に形成されているフローティング領域PFは、側面SS3を越えるように底面BS2を覆っている。これらのフローティング領域PF(アクティブセルACの一対のトレンチTRの底面を覆うフローティング領域PF)は、接触しておらず、互いに離間している。
【0053】
また、側面SS4と側面SS5との間の半導体基板SUB中に形成されているフローティング領域PFは、側面SS6を越えるように底面BS3を覆っている。側面SS8側の半導体基板SUB中に形成されているフローティング領域PFは、側面SS7を越えるように底面BS4を覆っている。これらのフローティング領域PF(インアクティブセルIACの一対のトレンチTRの底面を覆うフローティング領域PF)は、接触している。
【0054】
なお、アクティブセルACのホールバリア領域NHBは、側面SS2と側面SS3との間の半導体基板SUB中に形成され、インアクティブセルIACのホールバリア領域NHBは、側面SS6と側面SS7との間の半導体基板SUB中に形成されている。
【0055】
図5は、アクティブセルACの一対のトレンチTRの間における不純物濃度のプロファイル(破線)と、インアクティブセルIACの一対のトレンチTRの間における不純物濃度のプロファイル(実線)とを示している。なお、アクティブセルACの不純物濃度のプロファイル(破線)は、側面SS2または側面SS3に近接する位置でのものであり、インアクティブセルIACの不純物濃度のプロファイル(実線)は、側面SS6または側面SS7に近接する位置でのものである。
【0056】
ここで、アクティブセルACおよびインアクティブセルIACの各々の寄生PMOSトランジスタに着目すると、インアクティブセルIACの寄生PMOSトランジスタのチャネル長が、アクティブセルACの寄生PMOSトランジスタのチャネル長よりも短くなっている。
【0057】
すなわち、
図4および
図5に示されるように、インアクティブセルIACにおけるベース領域PBとフローティング領域PFとの間の距離Diacが、アクティブセルACにおけるベース領域PBとフローティング領域PFとの間の距離Dacよりも短い。なお、距離Diacは、側面SS6または側面SS7に沿った距離であり、距離Dacは、側面SS2または側面SS3に沿った距離である。言い換えれば、側面SS6または側面SS7に沿ったホールバリア領域NHBの深さは、側面SS2または側面SS3に沿ったホールバリア領域NHBの深さよりも浅い。
【0058】
また、
図5に示されるように、インアクティブセルIACのホールバリア領域NHBのうち、フローティング領域PFとホールバリア領域NHBとの境界付近の箇所におけるホールバリア領域NHBの不純物濃度は、上記箇所と同じ深さにおけるアクティブセルACのホールバリア領域NHBの不純物濃度よりも薄い。すなわち、インアクティブセルIACの寄生PMOSトランジスタのチャネル領域の一部が、オンし易い状態になっている。
【0059】
以上のようにインアクティブセルIACの寄生PMOSトランジスタが構成されていることで、インアクティブセルIACの寄生PMOSトランジスタの方が、アクティブセルACの寄生PMOSトランジスタよりも、高速で動作する。
【0060】
そのため、IGBTのスイッチング動作時の過渡状態において、寄生PMOSトランジスタがターンオンになった際、インアクティブセルIACの寄生PMOSトランジスタで流れるホール電流が増加し、アクティブセルACの寄生PMOSトランジスタで流れるホール電流が低減する。
【0061】
以下に、
図6、
図23、
図24および
図25を用いて、実施の形態1におけるIGBTと検討例におけるIGBTとの比較を行う。
図23は、本願発明者らが特許文献1などを基にして検討を行った検討例のIGBTを示している。なお、
図23は、実施の形態1の
図4と同様に、トレンチTRおよびその周囲の構成の一部のみを示している。
【0062】
後で詳細に説明するが、実施の形態1では、高エネルギーのイオン注入によって、イオン注入層NHB1~NHB3およびイオン注入層PF1、PF2が、フローティング領域PFおよびホールバリア領域NHBが形成される予定の領域の近くに形成されている。例えば、イオン注入層PF1の不純物濃度ピークの位置が、各トレンチTRの底面BS1~BS4の位置とほぼ同じであるか、各トレンチTRの底面BS1~BS4の位置よりも深い。そして、トレンチTRを形成した後、1100℃のような比較的低温の熱処理によって、フローティング領域PFおよびホールバリア領域NHBが形成される。
【0063】
一方で、検討例では、
図24および
図25に示されるように、低エネルギーのイオン注入によって、イオン注入層PF4およびイオン注入層NHB4を形成した後、トレンチTRを形成している。その後、例えば1200℃および30分の条件下のような、高温および長時間の熱処理を行うことで、イオン注入層PF4およびイオン注入層NHB4に含まれる不純物を拡散させ、フローティング領域PFおよびホールバリア領域NHBを形成している。
【0064】
検討例では、不純物を拡散させる際に、トレンチTRによって横方向の拡散が阻害され易くなる。それ故、一対のトレンチTRの間へのフローティング領域PFの拡散量が、インアクティブセルIACとアクティブセルACとでほぼ同じになる。なお、熱処理を強化し、拡散量を多くすることで、インアクティブセルIACの一対のトレンチTRの底面を覆う2つのフローティング領域PFを接触させることもできる。
【0065】
すなわち、
図23に示されるように、検討例では、距離Diacが、距離Dacとほぼ同じになる。言い換えれば、インアクティブセルIACの寄生PMOSトランジスタのチャネル長が、アクティブセルACの寄生PMOSトランジスタのチャネル長とほぼ同じになる。
【0066】
図6は、一般的なショートサーキットを用いた負荷短絡試験の実験結果を示している。なお、この試験では、電源電圧を400Vとし、ゲート電極GE1に0~15Vの電圧を印加して破壊耐量を評価している。
図6のグラフに示されるように、コレクタ電流Icおよびコレクタ電圧Vcの双方において、実施の形態1の方が、検討例よりも破壊耐量が向上していることが判る。
【0067】
また、
図6の表1は、負荷短絡までのエネルギーを計算した結果である。
図6の表2は、インアクティブセルIACのホール電流値と、アクティブセルACのホール電流値とを計算し、これらの比率を纏めた結果である。実施の形態1の方が、検討例よりも負荷短絡までのエネルギーが多く、破壊耐量が向上していることが判る。また、実施の形態1の方が、検討例よりもインアクティブセルIACのホール電流値が多くなっている。このため、アクティブセルACでのラッチアップ破壊が起こり難くなり、アクティブセルACへの熱負荷の集中が緩和され、RBSOAの改善を図れる。
【0068】
以上のように、実施の形態1によれば、負荷短絡およびRBSOAなどのロバスト性を向上させることができ、IGBTを有する半導体装置100の性能を向上させることができる。
【0069】
<半導体装置の製造方法>
以下に
図7~
図16を用いて、実施の形態1における半導体装置100の製造方法に含まれる各製造工程について説明する。
【0070】
図7に示されるように、まず、上面および下面を有するn型の半導体基板SUBを用意する。上述のように、ここでは、n型の半導体基板SUB自体がドリフト領域NVを構成しているが、半導体基板SUBは、n型のシリコン基板と、シリコン基板上にエピタキシャル成長法によって燐(P)を導入しながら成長させたn型のシリコン層との積層体であってもよい。
【0071】
図8に示されるように、半導体基板SUB中に、イオン注入層NHB1~NHB3を形成する。まず、半導体基板SUBの上面上に、レジストパターンRP1を形成する。レジストパターンRP1は、後にアクティブセルACおよびインアクティブセルIACの各々のホールバリア領域NHBとなる領域を開口するパターンを有する。次に、レジストパターンRP1をマスクとして、半導体基板SUBの上面側から複数回のn型イオン注入を行う。ここでは、3回のn型イオン注入を行う場合を例示する。なお、3回目のn型イオン注入後、アッシング処理によってレジストパターンRP1を除去する。
【0072】
1回目のn型イオン注入は、イオン種を燐(P)とし、エネルギーを1000keVとし、ドーズ量を3.0×1012/cm2とした条件で行われる。これにより、半導体基板SUB中に、イオン注入層NHB1が形成される。
【0073】
2回目のn型イオン注入は、イオン種を燐(P)とし、エネルギーを600keVとし、ドーズ量を3.0×1012/cm2とした条件で行われる。これにより、半導体基板SUB中に、イオン注入層NHB2が形成される。イオン注入層NHB2は、平面視でイオン注入層NHB1と重なる半導体基板SUB中に形成され、イオン注入層NHB1よりも上方に位置する。
【0074】
3回目のn型イオン注入は、イオン種を燐(P)とし、エネルギーを300keVとし、ドーズ量を4.0×1012/cm2とした条件で行われる。これにより、半導体基板SUB中に、イオン注入層NHB3が形成される。イオン注入層NHB3は、平面視でイオン注入層NHB2と重なる半導体基板SUB中に形成され、イオン注入層NHB2よりも上方に位置する。
【0075】
ここで、エネルギーが大きい程に、より深い位置にイオン注入層が形成されるが、イオン注入を行うと、半導体基板SUBに結晶欠陥が発生する。浅い位置から順番にイオン注入層を形成すると、深い位置へのイオン注入を行う際に、浅い位置に発生している結晶欠陥によって不純物濃度のプロファイルが乱れる虞がある。従って、より深い位置へのイオン注入を先に行うことが好ましい。
【0076】
すなわち、1回目~3回目のn型イオン注入のエネルギーは、それぞれ異なっているが、エネルギーが大きいn型イオン注入を先に行うことが好ましい。従って、まず、1回目のn型イオン注入を行い、次に2回目のn型イオン注入を行い、次に3回目のn型イオン注入を行うことが好ましい。
【0077】
また、イオン注入のドーズ量が高いと、結晶欠陥が発生する確率が高くなる。従って、先に行われるイオン注入のドーズ量が低く、後で行われるイオン注入のドーズ量が高い方が好ましい。これにより、結晶欠陥による不純物濃度のプロファイルの乱れを、出来る限り抑制できる。
【0078】
また、1回目~3回目のn型イオン注入は、半導体基板SUBの上面に対して垂直な角度から行われる。深い位置へのイオン注入では、各イオンが互いに衝突し、散乱される可能性が高くなる。そのため、より深い位置に形成されるイオン注入層は、横方向へ広がり易くなる。従って、イオン注入層NHB1の幅は、イオン注入層NHB2の幅よりも広く、イオン注入層NHB2の幅は、イオン注入層NHB3の幅よりも広くなっている。
【0079】
図9に示されるように、半導体基板SUB中に、イオン注入層PF1、PF2を形成する。まず、半導体基板SUBの上面上に、レジストパターンRP2を形成する。レジストパターンRP2は、後にフローティング領域PFとなる領域を開口するパターンを有する。次に、レジストパターンRP2をマスクとして、半導体基板SUBの上面側から複数回のp型イオン注入を行う。ここでは、2回のp型イオン注入を行う場合を例示する。なお、2回目のp型イオン注入後、アッシング処理によってレジストパターンRP2を除去する。
【0080】
1回目のp型イオン注入は、イオン種をボロン(B)とし、エネルギーを1250keVとし、ドーズ量を1.25×1013/cm2とした条件で行われる。これにより、半導体基板SUB中に、イオン注入層PF1が形成される。
【0081】
2回目のp型イオン注入は、イオン種をボロン(B)とし、エネルギーを300keVとし、ドーズ量を2.75×1013/cm2とした条件で行われる。これにより、半導体基板SUB中に、イオン注入層PF2が形成される。イオン注入層PF2は、平面視でイオン注入層PF1と重なる半導体基板SUB中に形成され、イオン注入層PF1よりも上方に位置する。
【0082】
ここでも、1回目および2回目のp型イオン注入のエネルギーは、それぞれ異なっているが、1回目~3回目のn型イオン注入と同様の理由から、エネルギーが大きく、低濃度のp型イオン注入を先に行うことが好ましい。従って、まず、1回目のp型イオン注入を行い、次に2回目のp型イオン注入を行うことが好ましい。また、1回目および2回目のp型イオン注入も、半導体基板SUBの上面に対して垂直な角度から行われる。イオン注入層NHB1~NHB3の各々の幅の関係と同様の理由で、イオン注入層PF1の幅は、イオン注入層PF2の幅よりも広くなっている。
【0083】
なお、イオン注入層PF1、PF2を形成する製造工程は、イオン注入層NHB1~NHB3を形成する製造工程よりも先に行われてもよい。
【0084】
次に、イオン注入層NHB1~NHB3およびイオン注入層PF1、PF2を形成した後、半導体基板SUBに対して熱処理を行う。この熱処理は、例えば、窒素ガスのような不活性ガスが充満された雰囲気中で行われ、700℃以上且つ950℃以下であり、30秒以上且つ150秒以下である条件下で行われる。より好ましくは、この熱処理は、950℃以下であり、30秒である条件下で行われる。
【0085】
この熱処理によって、イオン注入層PF1、PF2の各々に含まれる不純物(B)を活性化させ、イオン注入層NHB1~NHB3の各々に含まれる不純物(P)を活性化させる。また、この熱処理によって、イオン注入時に発生した結晶欠陥が回復する。
【0086】
図10に示されるように、半導体基板SUBの上面側において、半導体基板SUB中にトレンチTRを形成する。まず、半導体基板SUBの上面上に、例えばCVD法によって、例えば酸化シリコン膜を形成する。次に、上記酸化シリコン膜上に、開口部を有するレジストパターンを形成する。次に、上記レジストパターンをマスクとして異方性エッチング処理を行うことで、上記酸化シリコン膜をパターニングし、ハードマスクHMを形成する。次に、アッシング処理によって上記レジストパターンを除去する。
【0087】
次に、ハードマスクHMをマスクとして異方性エッチング処理を行うことで、半導体基板SUB中にトレンチTRを形成する。その後、例えばフッ酸を含む溶液を用いたウェットエッチング処理によって、ハードマスクHMを除去する。
【0088】
図11に示されるように、トレンチTRの内部および半導体基板SUBの上面上に、犠牲酸化膜IF1を形成する。これにより、半導体基板SUB中に形成されたダメージ層が除去される。その後、例えばフッ酸を含む溶液を用いた等方性エッチング処理によって、上記犠牲酸化膜を除去する。
【0089】
なお、犠牲酸化膜IF1は、半導体基板SUBに対して熱処理を行うことで形成される。この熱処理は、
図9の不純物活性化の熱処理よりも、高温および長時間の条件下で行われる。例えば、この熱処理は、酸素ガスが充満された雰囲気中で行われ、1100℃であり、30分以上且つ60分以下である条件下で行われる。これにより、イオン注入層PF1、PF2の各々に含まれる不純物(B)と、イオン注入層NHB1~NHB3の各々に含まれる不純物(P)とを拡散させることで、p型のフローティング領域PFおよびn型のホールバリア領域NHBが形成される。
【0090】
実施の形態1では、
図11の熱処理前の時点で、複数回のイオン注入によって、イオン注入層NHB1~NHB3およびイオン注入層PF1、PF2が、フローティング領域PFおよびホールバリア領域NHBが形成される予定の領域の近くに形成されている。特に、イオン注入層NHB1およびイオン注入層PF1が、予め深い位置まで形成されている。各トレンチTRの底面BS1~BS4の位置が、イオン注入層PF1の位置よりも浅くなるように、トレンチTRは形成される。例えば、イオン注入層PF1の不純物濃度ピークの位置が、各トレンチTRの底面BS1~BS4の位置とほぼ同じであるか、各トレンチTRの底面BS1~BS4の位置よりも深い。検討例では、高温および長時間(1200℃、30分)の条件下で熱処理が行われていたが、実施の形態1では、低温の条件下で熱処理を行うことができる。
【0091】
また、検討例のように、
図11の熱処理時に不純物の拡散がトレンチTRに阻害されないので、各トレンチTRの底部を各フローティング領域PFで覆い易くなる。また、インアクティブセルIACの一対のトレンチTRの間で、2つのフローティング領域PFが接触し易くなる。
【0092】
この時点で、各フローティング領域PFと各トレンチTRとの位置関係は、
図4に示されるような状態になっている。すなわち、各底面BS1~BS4は、各フローティング領域PFによって覆われている。また、インアクティブセルIACの一対のトレンチTRの間では、2つのフローティング領域PFが接触している。また、インアクティブセルIACの一対のトレンチTRの間における半導体基板SUBの上面からのフローティング領域PFの位置は、アクティブセルACの一対のトレンチTRの間における半導体基板SUBの上面からのフローティング領域PFの位置よりも浅い。
【0093】
図12に示されるように、トレンチTRの内部に、ゲート絶縁膜GIおよび導電性膜CF1を形成する。まず、トレンチTRの内部および半導体基板SUBの上面上に、熱酸化法によって、ゲート絶縁膜GIを形成する。ゲート絶縁膜GIは、例えば950℃、60分の条件下で、酸素ガスおよび水素ガスを用いた熱処理によって形成された酸化シリコン膜である。
【0094】
次に、ゲート絶縁膜GIを介してトレンチTRの内部を埋め込むように、トレンチTRの内部および半導体基板SUBの上面上に、例えばCVD法によって、導電性膜CF1を形成する。導電性膜CF1は、例えばn型の不純物が導入された多結晶シリコン膜である。
【0095】
図13に示されるように、トレンチTRの内部に、ゲート絶縁膜GIおよびゲート電極GE1、GE2を形成する。まず、異方性エッチング処理によって、トレンチTRの外部に形成されていた導電性膜CF1を除去する。トレンチTRの内部に形成されていた導電性膜CF1が、ゲート電極GE1、GE2として残される。次に、等方性エッチング処理若しくは異方性エッチング処理、または、これらを組み合わせたエッチング処理によって、トレンチTRの外部に形成されていたゲート絶縁膜GIを除去する。
【0096】
図14に示されるように、フォトリソグラフィ技術およびイオン注入法によって、半導体基板SUBの上面側において、半導体基板SUB(フローティング領域PFおよびホールバリア領域NHB)内に、p型のベース領域PBを形成する。次に、フォトリソグラフィ技術およびイオン注入法によって、アクティブセルACのベース領域PB内に、n型のエミッタ領域NEを選択的に形成する。その後、ベース領域PBおよびエミッタ領域NEに含まれる不純物を活性化させるための熱処理を行う。
【0097】
なお、この時点で、各フローティング領域PFおよび各ベース領域PBは、
図4に示される距離Diacおよび距離Dacの関係を有するように形成されている。また、
図5に示されるような不純物濃度のプロファイルが構成される。
【0098】
図15に示されるように、まず、アクティブセルACおよびインアクティブセルIACにおいて、各トレンチTRを覆うように、例えばCVD法によって、半導体基板SUBの上面上に、層間絶縁膜ILを形成する。層間絶縁膜ILは、例えば酸化シリコン膜である。
【0099】
次に、フォトリソグラフィ技術および異方性エッチング処理によって、アクティブセルACにおいて、層間絶縁膜IL、エミッタ領域NEおよびベース領域PBに、孔CHを形成する。孔CHの底部は、ベース領域PBの内部に位置する。
【0100】
ここで、インアクティブセルIACにも孔CHが形成され、この孔CHは、平面視においてゲート電極GE2に重なるように形成されている。このため、インアクティブセルIACにおける孔CHは、ゲート電極GE2およびベース領域PBに接するように形成される。なお、図示はしていないが、孔CHは、ゲート電極GE1の一部上にも形成される。
【0101】
次に、フォトリソグラフィ技術およびイオン注入法によって、孔CHの底部において、ベース領域PBに、p型の高濃度拡散領域PRを選択的に形成する。次に、層間絶縁膜ILに対して等方性エッチング処理を行うことで、層間絶縁膜ILを後退させる。これにより、半導体基板SUBの上面上に位置する孔CHの開口幅は、半導体基板SUBの内部に位置する孔CHの開口幅よりも大きくなる。
【0102】
図16に示されるように、孔CHの内部にプラグPGを形成する。まず、孔CHの内部および層間絶縁膜IL上に、バリアメタル膜を形成する。例えばスパッタリング法によって孔CHの内部および層間絶縁膜IL上にチタン膜を形成し、例えばスパッタリング法によって上記チタン膜上に窒化チタン膜を形成することで、上記バリアメタル膜を形成できる。次に、孔CHの内部を埋め込むように、例えばCVD法によって、上記バリアメタル膜上に、例えばタングステン膜からなる導電性膜を形成する。次に、異方性エッチング処理によって、孔CHの外部に形成されている上記導電性膜および上記バリアメタル膜を除去する。これにより、孔CHの内部を埋め込むように、プラグPGが形成される。
【0103】
次に、層間絶縁膜IL上に、エミッタ電極EEを形成する。まず、例えばスパッタリング法によって、層間絶縁膜IL上にTiW膜を形成し、例えばスパッタリング法によって、上記TiW膜上にアルミニウム合金膜を形成する。次に、フォトリソグラフィ技術およびドライエッチング処理によって、上記TiW膜および上記アルミニウム合金膜をパターニングすることで、エミッタ電極EEを形成する。なお、ここでは図示していないが、エミッタ電極EEを形成する工程と同じ工程で、ゲート配線GWも層間絶縁膜IL上に形成される。
【0104】
その後、以下の製造工程を経て、
図3の構造が得られる。まず、半導体基板SUBの下面側からイオン注入を行うことで、n型のフィールドストップ領域NSおよびp型のコレクタ領域PCを形成する。これらのイオン注入の後に、レーザアニールを行うことで、フィールドストップ領域NSおよびコレクタ領域PCに含まれる不純物を活性化させる。次に、半導体基板SUBの下面下に、例えばスパッタリング法によって、例えばAu膜、Ni膜、Ti膜またはAlSi膜のような金属膜を形成する。この金属膜が、コレクタ電極CEとなる。コレクタ電極CEは、上述の金属膜を適宜積層させた積層膜であってもよい。
【0105】
(実施の形態2)
以下に
図17~
図21を用いて、実施の形態2における半導体装置100およびその製造方法について説明する。なお、以下の説明では、実施の形態1との相違点について主に説明し、実施の形態1と重複する点については説明を省略する。
【0106】
実施の形態2では、インアクティブセルIACの寄生PMOSトランジスタのチャネル長が、より確実に短くなるように、フローティング領域PFの製造工程に工夫が施されている。そのため、実施の形態2では、
図17に示されるように、インアクティブセルIACの一対のトレンチTRの間における半導体基板SUBの上面からのフローティング領域PFの位置は、実施の形態1よりも浅くなっている。従って、
図4で説明した距離Diacが、実施の形態1よりも短くなっている。
【0107】
【0108】
図18に示されるように、半導体基板SUB中に、複数のイオン注入層PF1を形成する。まず、半導体基板SUBの上面上に、レジストパターンRP3を形成する。レジストパターンRP3は、アクティブセルACを覆い、インアクティブセルIACを開口するパターンを有する。
【0109】
次に、レジストパターンRP3をマスクとして、半導体基板SUBの上面側から1回目のp型イオン注入を行う。この1回目のp型イオン注入は、
図9で説明したものと同様である。これにより、インアクティブセルIACの半導体基板SUB中に、複数のイオン注入層PF1が形成される。実施の形態2では、実施の形態1と異なり、イオン注入層PF1は、ホールバリア領域NHB(イオン注入層NHB1~NHB3)が形成される位置と平面視で重なる位置にも形成される。その後、アッシング処理によってレジストパターンRP3を除去する。
【0110】
図19に示されるように、半導体基板SUB中に、複数のイオン注入層PF2を形成する。まず、半導体基板SUBの上面上に、レジストパターンRP2を形成する。次に、レジストパターンRP2をマスクとして、半導体基板SUBの上面側から2回目のp型イオン注入を行う。レジストパターンRP2および2回目のp型イオン注入は、
図9で説明したものと同様である。これにより、半導体基板SUB中に、イオン注入層PF2が形成される。イオン注入層PF2は、平面視でイオン注入層PF1と重なる半導体基板SUB中に形成され、イオン注入層PF1よりも上方に位置する。その後、アッシング処理によってレジストパターンRP2を除去する。
【0111】
図20に示されるように、イオン注入層NHB1~NHB3およびイオン注入層PF1、PF2を形成した後、トレンチTRを形成し、犠牲酸化膜IF1を形成する。犠牲酸化膜IF1を形成するための熱処理は、
図10で説明した熱処理と同様である。
【0112】
図20の熱処理によって、イオン注入層PF1、PF2の各々に含まれる不純物(B)を拡散させて、p型のフローティング領域PFを形成し、イオン注入層NHB1~NHB3の各々に含まれる不純物(P)を拡散させて、n型のホールバリア領域NHBを形成する。
【0113】
このように、インアクティブセルIACの一対のトレンチTRの間に対応する位置にもイオン注入層PF1を形成しておくことで、側面SS5側のフローティング領域PFと、側面SS8側のフローティング領域PFとが、確実に接触するようになる。
【0114】
また、イオン注入層PF1は、イオン注入層NHB3の一部と重なる深さに形成されている。そのため、インアクティブセルIACの一対のトレンチTRの間における半導体基板SUBの上面からのフローティング領域PFの位置は、実施の形態1よりも浅くなる。
【0115】
2つのフローティング領域PFを確実に接触させるという観点では、実施の形態2の方が実施の形態1よりも優れている。しかし、実施の形態2では、レジストパターンRP3を必要とするので、実施の形態1の方が、実施の形態2よりも製造コストの増加を抑制できる。
【0116】
また、実施の形態2で説明した技術は、GGEEs構造でも有効であるが、GGEE構造において特に有効である。
【0117】
図21に示されるように、GGEEs構造では、インアクティブセルIACの一対のトレンチTRの間の距離Wiacは、アクティブセルACの一対のトレンチTRの間の距離Wacよりも短い。言い換えれば、側面SS6と側面SS7との間の距離Wiacは、側面SS2と側面SS3との間の距離Wacよりも短い。一方で、GGEE構造では、距離Wiacは、距離Wacと同じである。
【0118】
実施の形態1で説明した技術では、距離Wiacが大きい程に、インアクティブセルIACの一対のトレンチTRの間で、2つのフローティング領域PFを接触させることが困難になる。しかし、実施の形態2で説明した技術を用いれば、GGEE構造のように距離Wiacが大きい場合でも、2つのフローティング領域PFをより確実に接触させることができる。
【0119】
(実施の形態3)
以下に
図22を用いて、実施の形態3における半導体装置100およびその製造方法について説明する。なお、以下の説明では、実施の形態1および実施の形態2との相違点について主に説明し、実施の形態1および実施の形態2と重複する点については説明を省略する。
【0120】
実施の形態3では、実施の形態2と同様に、インアクティブセルIACの寄生PMOSトランジスタのチャネル長が、より確実に短くなるように、フローティング領域PFの製造工程に工夫が施されている。実施の形態3の最終的な構造は、実施の形態2の
図17の構造とほぼ同じであるので、その説明を省略する。実施の形態3でも、
図4で説明した距離Diacが、実施の形態1よりも短くなっている。
【0121】
以下に
図22を用いて、このようなフローティング領域PFの製造工程について説明する。
図22の製造工程は、
図10の熱処理の前に行われる。
【0122】
まず、
図9で説明した2回のp型イオン注入によって、イオン注入層PF1、PF2を形成する。これらイオン注入層PF1、PF2の形成前後に、
図22の製造工程を行う。
【0123】
図22に示されるように、まず、半導体基板SUBの上面上に、レジストパターンRP4を形成する。レジストパターンRP4は、ホールバリア領域NHB(イオン注入層NHB1~NHB3)が形成される位置を開口するパターンを有する。次に、レジストパターンRP4をマスクとして、半導体基板SUBの上面側からp型イオン注入を行う。これにより、半導体基板SUB中に、イオン注入層PF3が形成される。その後、アッシング処理によってレジストパターンRP4を除去する。
【0124】
イオン注入層PF3は、ホールバリア領域NHB(イオン注入層NHB1~NHB3)が形成される位置と平面視で重なる位置に形成される。言い換えれば、イオン注入層PF3は、2つのイオン注入層PF1の間に位置する半導体基板SUB中に形成される。
【0125】
なお、イオン注入層PF3用のp型イオン注入は、イオン種をボロン(B)とし、エネルギーを1250keVとし、ドーズ量を1.25×1013/cm2とした条件で行われる。
【0126】
その後、トレンチTRを形成し、
図10で説明した熱処理を行うことで、イオン注入層PF1~PF3の各々に含まれる不純物(B)を拡散させて、p型のフローティング領域PFを形成し、イオン注入層NHB1~NHB3の各々に含まれる不純物(P)を拡散させて、n型のホールバリア領域NHBを形成する。
【0127】
このように、インアクティブセルIACの一対のトレンチTRの間に対応する位置にイオン注入層PF3を形成しておくことで、実施の形態3でも、実施の形態2と同様の効果を得ることができる。
【0128】
また、2つのフローティング領域PFを確実に接触させるという観点では、実施の形態3の方が実施の形態1よりも優れている。しかし、実施の形態3では、レジストパターンRP4を必要とするので、実施の形態1の方が、実施の形態3よりも製造コストの増加を抑制できる。
【0129】
また、実施の形態3で説明した技術は、実施の形態2と同様に、GGEEs構造でも有効であるが、GGEE構造において特に有効である。すなわち、
図21で説明したように、GGEE構造のように距離Wiacが大きい場合でも、2つのフローティング領域PFをより確実に接触させることができる。
【0130】
以上、本発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0131】
100 半導体装置
1A 領域(セル領域の一部)
AC アクティブセル
BS1~BS4 トレンチの底面
CE コレクタ電極
CF1 導電性膜
CH 孔
EE エミッタ電極
EP エミッタパッド
GE1、GE2 ゲート電極
GI ゲート絶縁膜
GP ゲートパッド
GW ゲート配線
HM ハードマスク
IAC インアクティブセル
IF1 犠牲酸化膜
IL 層間絶縁膜
NE エミッタ領域
NHB ホールバリア領域
NHB1~NHB4 イオン注入層
NS フィールドストップ領域
NV ドリフト領域
PB ベース領域
PC コレクタ領域
PF フローティング領域
PF1~PF4 イオン注入層
PG プラグ
PR 高濃度拡散領域
RP1~RP4 レジストパターン
SS1~SS8 トレンチの側面
SUB 半導体基板
TR トレンチ