(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090388
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】電池用電極材
(51)【国際特許分類】
H01M 4/46 20060101AFI20240627BHJP
C22C 23/02 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
H01M4/46
C22C23/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206272
(22)【出願日】2022-12-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.発行日:令和4年(2022年)10月11日,一般社団法人軽金属学会第143回秋期大会講演概要 (1)「レーザー加工によるマグネシウム蓄電池用負極材料の電気化学活性向上」No.45 (2)「大気中急冷凝固法によるマグネシウム蓄電池用Mg-6%Al-3%Ca合金負極材料薄帯の製造条件検討」No.48 (3)「急冷凝固法によるマグネシウム蓄電池用Mg-Al-Ca系負極材料薄帯のミクロ組織」No.49 2.開催日:令和4年(2022年)11月12日,一般社団法人軽金属学会(東京工業大学 第岡山キャンパス),第143回秋期大会講演「大気中急冷凝固法によるマグネシウム蓄電池用Mg-6%Al-3%Ca合金負極材料薄帯の製造条件検討」及び「急冷凝固法によるマグネシウム蓄電池用Mg-Al-Ca系負極材料薄帯のミクロ組織」
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(71)【出願人】
【識別番号】591267855
【氏名又は名称】埼玉県
(71)【出願人】
【識別番号】390036593
【氏名又は名称】中越合金鋳工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】附田 之欣
(72)【発明者】
【氏名】木倉 健成
(72)【発明者】
【氏名】山田 陽太
(72)【発明者】
【氏名】福家 幸佑
(72)【発明者】
【氏名】福井 俊作
(72)【発明者】
【氏名】福田 祥隆
(72)【発明者】
【氏名】栗原 英紀
(72)【発明者】
【氏名】沖 真理
(72)【発明者】
【氏名】田畑 裕信
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真由美
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA15
5H050CB11
5H050GA02
5H050HA01
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】電気化学活性に優れるとともに、繰り返し充放電特性に優れる電池用電極材の提供を目的とする。
【解決手段】Mg-Al-Ca系合金であって、結晶粒子内部に、前記結晶粒子径より小さい粒径の微小セルが形成された微細セル構造を有していることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg-Al-Ca系合金であって、
結晶粒子内部に、前記結晶粒子径より小さい粒径の微小セルが形成された微細セル構造を有していることを特徴とする電池用電極材。
【請求項2】
Mg-Al-Ca系合金であって、
前記結晶粒子は平均結晶粒径が2μm~30μmであり、
前記微小セルは平均粒径が50nm~2000nmであることを特徴とする請求項1記載の電池用電極材。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電池用電極材の製造方法であって、
Mg-Al-Ca系合金の溶湯を急冷凝固法により急冷し製造することを特徴とする電池用電極材の製造方法。
【請求項4】
前記Mg-Al-Ca系合金は、
質量%でAl:6%を超え14%以下、Ca:2~5%であることを特徴とする請求項3記載の電池用電極材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次又は二次電池の負極材に用いられるマグネシウム合金からなる電池用電極材に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムは体積当たりの理論電気容量が大きく材料枯渇の心配がないことから、リチウムイオン電池を凌駕する次世代電池として注目されている。
しかし、マグネシウムを一次又は二次の電池の負極材に用いた場合に、充分な電気化学活性が得られていない技術的課題がある。
【0003】
特許文献1には、結晶方位をランダム配向することにより、Mg合金の電気化学活性が向上することが開示されている。
特許文献2には、Cuを添加し、Mg合金中にMg2Cuが粒子状に点在することにより、Mg合金の電気化学活性が向上することが開示されている。
【0004】
非特許文献1には、Strukturbericht C36型化合物が形成されるMg-6%Al-3%Ca合金が従来のMg-Al-Zn系合金に比べて電気化学活性が著しく向上したことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2020/013327号公報
【特許文献2】WO2020/013328号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tadayoshi Tsukeda et.al 「Materials Transactions」 Vol. 63, NO.4 (2022) pp.408-414.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に開示するC36型非化学量論組成により、Mg合金の電気化学活性が向上したものの、リチウムイオン電池における高容量合金系電極と同様に高速高容量の充放電を行うと、電極材に微粉化による崩壊が進行し、サイクル特性が低下することが判明した。
そこで本発明は、電気化学活性に優れるとともに、繰り返し充放電特性に優れる電池用電極材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
Mg-Al-Ca系合金であって、結晶粒子内部に、前記結晶粒子径より小さい粒径の微小セルが形成された微細セル構造を有していることを特徴とする。
ここで、Mg-Al-Ca系合金であって、前記結晶粒子は平均結晶粒径が2μm~30μmであり、前記微小セルは平均粒径が50nm~2000nmであるのが好ましい。
微細セル構造を有することより、優れた電気化学活性を示すとともに、高速高容量の充放電サイクルにおいて電極材の微粉化を抑えることができる。
このような微細セル構造は、Mg-Al-Ca系合金の溶湯を急冷凝固法により急冷し製造することで得られる。
【0009】
微細セル構造が形成される金属組織は準安定な中間相であることから、Mg-Al-Ca系合金の溶湯を非平衡状態で凝固させる必要がある。
そこで本発明は、所定の組成のMg-Al-Ca系合金の溶湯を用いて急冷凝固法により、電極材を製造する。
溶湯からの凝固速度が速い製造方法としては急冷高圧鋳造や単ロール式等のロール式急冷凝固法が例として挙げられる。
【0010】
Mg-Al-Ca系合金の組成としては、質量%でAl:6%を超え14%以下、Ca:2~5%であるのが好ましい。
このような組成は、非特許文献1に記載の組成よりもさらにAlが過剰になっている。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、結晶粒子内部に微小セルを形成し、好ましくは平均結晶粒径が2μm~30μmの結晶粒子内部に平均粒径が50nm~2000nmの微細なセルがランダムに形成された微細セル構造にすることで、電極内でのMg2+イオンの挿入・脱離反応が高速化でき、電気化学活性が優れるとともに、充放電の繰り返しによる電極材の微細化を抑える効果がある。
【0012】
本発明のセルの境界には、共晶化合物が存在する。
この共晶化合物は、マグネシウム、アルミニウム、カルシウムを含む金属間化合物相(C36,C15)である。
また、共晶化合物の厚さは、10~250nmである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】Mg-Al-Ca系合金薄帯の電気化学活性の測定結果を示す。
【
図2】深い充放電(活性化試験の5倍の容量)試験結果を示し、(a)はAX63、(b)はAX93を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
電池の負極材として、各種Mg合金サンプルを作製し、比較評価したので以下、説明する。
【0015】
出発原料としては、99.9%高純度マグネシウム、99.9%高純度アルミニウム、Mg-30%Ca母合金のインゴットを用い、各合金の融点に対して過熱度50℃となるように溶湯温度を設定し、金型温度200℃で円柱状の金型に鋳造した後に、
図6に示した単ロール式急冷凝固装置にて、厚み0.05mmの薄帯からなる試験片を作製した。
単ロール式急冷凝固装置は、無酸素銅製冷却ロールを用い、SUS430製ノズル付き坩堝内の原料を高周波コイルにより加熱溶解し、高速回転ロールにArガスで噴射して薄帯を作製した。
【0016】
電気化学活性は、3極式ビーカーセルを用い、定電流充放電試験により評価した。
作用極は薄帯試験片(4mm×5mm)、対極(正極)は活性炭電極、参照極は高純度マグネシウム箔、電解液は環状酸無水物である無水コハク酸:SAとMgTFSA2をDMAに溶解したものを用いた。
セル組立後のエージング(酸化皮膜除去)は、酸化15μAで6hr、還元5μAで18hrを3回繰り返してから定電流充放電試験を行い、サイクル数とともに電流値を増大し、このときのMg合金の電位変化を測定した。
【0017】
図1のグラフにMg-0~14%Al-3%Ca合金からなる薄帯試験片の電気化学活性(Charge:1.2mA/cm
2)を示す。
グラフ中、X3はMg-3%Ca、AX33はMg-3%Al-3%Ca、AX63はMg-6%Al-3%Ca、AX93はMg-9%Al-3%Ca、AX143はMg-14%Al-3%Caを示す。
この結果から、3%Ca単独添加のX3は急激な分離抵抗の増大が見られるが、AlとCaとの複合添加(AX33,AX63)により過電圧が小さくなり、特にMg-9%Al-3%Caでは優れた電気化学活性を示した。
なお、AX143のMg-14%Al-3%Caでは分離抵抗が増加することから、Alの添加量は14%以下が良いことがわかる。
図3に充放電試験後における試験片の状況を示す。
図3にてAX93はMg-9%Al-3%Ca、AX63はMg-6%Al-3%Ca、AX33はMg-3%Al-3%Caからなるマグネシウム合金を示す。
厚み0.05mm、大きさ4mm×5mmの試験片において、AX63及びAX33では微粉化が進行し、電極材の一部が崩壊したが、AX93では崩壊しなかった。
【0018】
次に、活性化試験の5倍の容量からなる深い充放電試験を行った結果を
図2に示す。
図2(a)は、AX63合金、(b)はAX93合金の結果を示す。
図3に示した充放電試験後の試験片の微粉化状況と照らし合せて
図2の結果を見ると、AX93合金の方がAX63合金よりも深い充放電特性が安定していた。
これは、AX63合金は微粉化が進行して導電パスが失われたためとみられる。
【0019】
次に、単ロール式急冷凝固法にて作製した薄帯の自由表面と、ロール接触側表面近傍の断面を電界放出型透過電子顕微鏡(FE-TEM)、結晶方位分布を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)による電子後方散乱回折法(EBSD)にて観察、解析した。
図4は、AX63、AX93のTEM断面組織写真を示す。
(a)はMg-6%Al-3%Caの自由凝固面(自由表面近傍)、(b)はMg-9%Al-3%Caの自由凝固面(自由表面近傍)、(c)はMg-6%Al-3%Caのロール接触面側、(d)はMg-9%Al-3%Caのロール接触面側を示す。
Al及びCaの添加により、無数の微小セルからなる微細なセル組織が形成されているのが分かる。
【0020】
図5に上記試験片の断面のSEM-EBSD解析結果を示す。
図4との比較により、結晶粒のサイズは微細なセルのサイズよりも遥かに大きいことから、このセル組織は結晶粒の内部に形成されていることが分かる。
図5(c)に示すように、(0001)面の結晶方位分布は、ほぼランダムであった。
Mg-9%Al-3%Ca合金は、ロール接触側表面近傍、自由表面近傍の双方にセル組織が認められたことから、結晶方位分布効果に加え、異相界面が増加したことで電気化学特性が向上したと考えられる。
【0021】
以上のことから、Mg-Al-Ca系合金において、急冷凝固法により電極材を製造すると、金属組織が結晶粒の内部に微小セルが形成された微細セル構造になる。
これにより、電気化学活性に優れる。
また、Mg-6%Al-3%Ca合金よりもMg-9%Al-3%Ca合金の方が深い充放電特性に優れていることから、Mg-6%Al-3%Ca合金よりも化学量論組成に対してさらにAl過剰合金の方が、電極の微粉化が抑えられていることが判明した。
そこで、より好ましい合金組成は、Alが6%を超え14%以下であり、Caが2~5%の範囲である。
それ以外の成分は、不可避的不純物であり、電気化学特性や充放電特性に影響しない範囲での混入は許容される。