(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090390
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】フッ化水素酸含有水の処理装置、及びフッ化水素酸含有水の処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 24/02 20060101AFI20240627BHJP
C02F 1/42 20230101ALI20240627BHJP
【FI】
B01D23/10 A
C02F1/42 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206274
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 徹
【テーマコード(参考)】
4D025
4D116
【Fターム(参考)】
4D025AA09
4D025AB06
4D025BA09
4D025BA10
4D025BA14
4D025BA15
4D025BB03
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4D025BB08
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4D025DA10
4D116AA01
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4D116FF02A
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4D116GG06
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4D116GG24
4D116GG27
4D116GG28
4D116KK04
4D116QA42B
4D116QA42E
4D116QA46C
4D116QA46E
4D116RR05
4D116RR16
4D116VV09
(57)【要約】
【課題】フッ化水素酸含有水を処理する際、ろ材の溶解によるろ材の減少を抑え、装置を安定的に運転できるフッ化水素酸含有水の処理装置を提供する。
【解決手段】pH4未満のフッ化水素酸含有水の処理装置1であって、ろ材が充填されたろ過装置12と、ろ過装置12の後段に配置され、イオン交換体が充填された脱イオン装置16と、を有し、前記ろ材は、合成樹脂製ろ材から構成されること、合成樹脂製ろ材と炭素系ろ材の組合せから構成されること、又は炭素系ろ材から構成されるを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH4未満のフッ化水素酸含有水の処理装置であって、
ろ材が充填されたろ過装置と、前記ろ過装置の後段に配置され、イオン交換体が充填された脱イオン装置と、を有し、
前記ろ材は、合成樹脂製ろ材から構成されることを特徴とするフッ化水素酸含有水の処理装置。
【請求項2】
pH4未満のフッ化水素酸含有水の処理装置であって、
ろ材が充填されたろ過装置と、前記ろ過装置の後段に配置され、イオン交換体が充填された脱イオン装置と、を有し、
前記ろ材は、合成樹脂製ろ材と炭素系ろ材の組合せから構成されることを特徴とするフッ化水素酸含有水の処理装置。
【請求項3】
pH4未満のフッ化水素酸含有水の処理装置であって、
ろ材が充填されたろ過装置と、前記ろ過装置の後段に配置され、イオン交換体が充填された脱イオン装置と、を有し、
前記ろ材は、炭素系ろ材から構成されることを特徴とするフッ化水素酸含有水の処理装置。
【請求項4】
前記ろ材は、有効径および比重の異なる少なくとも2種類の前記炭素系ろ材から構成され、前記ろ過装置は、前記少なくとも2種類の前記炭素系ろ材が複層で充填されていることを特徴とする請求項3に記載のフッ化水素酸含有水の処理装置。
【請求項5】
前記フッ化水素酸含有水は半導体工場の除害設備の排水であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のフッ化水素酸含有水の処理装置。
【請求項6】
前記合成樹脂製ろ材は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリエステル、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のいずれかを主成分とするろ材のうち、有効径および比重の異なる少なくとも2種類のろ材を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のフッ化水素酸含有水の処理装置。
【請求項7】
前記合成樹脂製ろ材は、繊維状ろ材であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフッ化水素酸含有水の処理装置。
【請求項8】
pH4未満のフッ化水素酸含有水の処理方法であって、
ろ材が充填されたろ過装置に前記フッ化水素酸含有水を通水して、ろ過水を得るろ過工程と、
イオン交換体が充填された脱イオン装置に前記ろ過水を通水して、イオン交換処理水を得る脱イオン工程と、を有し、
前記ろ材は、合成樹脂製ろ材から構成されることを特徴とするフッ化水素酸含有水の処理方法。
【請求項9】
pH4未満のフッ化水素酸含有水の処理方法であって、
ろ材が充填されたろ過装置に前記フッ化水素酸含有水を通水して、ろ過水を得るろ過工程と、
イオン交換体が充填された脱イオン装置に前記ろ過水を通水して、イオン交換処理水を得る脱イオン工程と、を有し、
前記ろ材は、合成樹脂製ろ材と炭素系ろ材の組合せから構成されることを特徴とするフッ化水素酸含有水の処理方法。
【請求項10】
pH4未満のフッ化水素酸含有水の処理方法であって、
ろ材が充填されたろ過装置と、前記ろ過装置の後段に配置され、イオン交換体が充填された脱イオン装置と、を有し、
前記ろ材は、炭素系ろ材から構成されることを特徴とするフッ化水素酸含有水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化水素酸含有水の処理装置、及びフッ化水素酸含有水の処理方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各産業において生産拠点での取水量および排水量を低減するため、排水から水回収を行って水を再利用するケースが増えている。この水回収を行う水処理システムは原水水質に応じて様々であるが、例えば凝集沈殿、除濁膜、砂ろ過などの濁質除去工程の後、RO膜やイオン交換などの脱イオン工程を行うことが一般的である。
【0003】
例えば半導体工場においては、HFガス成分をスクラバーで処理したフッ化水素酸含有排水(例えば、除害系設備の排水:除害系排水)が排出されるが、このようなフッ化水素酸を含む水から水回収を行う場合、フッ化水素酸によって、各材料が溶解されることが問題となる。半導体工場においては、高い水回収率が求められる場合が多いため、脱イオン工程をRO膜でなくイオン交換体により行うことも多い。
【0004】
例えば、特許文献1には、フッ素含有排水から水回収を晶析+砂ろ過+イオン交換樹脂で行うフローが開示されている。水回収を行う際、砂ろ過のろ材は主成分がSiO2である砂と炭素系のアンスラサイトを用いた2層ろ過であることが多いが、フッ化水素酸のまま通水すると、砂の部分がHFによってケイフッ化物イオンとなって溶解して消失するという課題がある。
【0005】
また、ろ材から溶出したSiO2やFe、Al等の成分が、後段の処理に影響を与えるという課題もある。具体的には、イオン交換樹脂への負荷量を増大させたり、Feによって処理水が着色して、見た目を悪化させたりするという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、フッ化水素酸含有水を処理する際、ろ材の溶解によるろ材の減少を抑え、装置を安定的に運転できるフッ化水素酸含有水の処理装置及び処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態は、pH4未満のフッ化水素酸含有水の処理装置であって、ろ材が充填されたろ過装置と、前記ろ過装置の後段に配置され、イオン交換体が充填された脱イオン装置と、を有し、前記ろ材は、合成樹脂製ろ材から構成されることを特徴とする。
【0009】
また、本実施形態は、pH4未満のフッ化水素酸含有水の処理装置であって、ろ材が充填されたろ過装置と、前記ろ過装置の後段に配置され、イオン交換体が充填された脱イオン装置と、を有し、前記ろ材は、合成樹脂製ろ材と炭素系ろ材の組合せから構成されることを特徴とする。
【0010】
また、本実施形態は、pH4未満のフッ化水素酸含有水の処理装置であって、ろ材が充填されたろ過装置と、前記ろ過装置の後段に配置され、イオン交換体が充填された脱イオン装置と、を有し、前記ろ材は、炭素系ろ材から構成されることを特徴とする。
【0011】
また、前記フッ化水素酸含有水の処理装置において、前記ろ材は、有効径および比重の異なる少なくとも2種類の前記炭素系ろ材から構成され、前記ろ過装置は、前記少なくとも2種類の前記炭素系ろ材が複層で充填されていることが好ましい。
【0012】
また、前記フッ化水素酸含有水の処理装置において、前記フッ化水素酸含有水は半導体工場の除害設備の排水であることが好ましい。
【0013】
また、前記フッ化水素酸含有水の処理装置において、前記合成樹脂製ろ材は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリエステル、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のいずれかを主成分とするろ材のうち、少なくとも2種類のろ材を含むことが好ましい。
【0014】
また、前記フッ化水素酸含有水の処理装置において、前記合成樹脂製ろ材は、繊維状ろ材であることが好ましい。
【0015】
また、本実施形態は、pH4未満のフッ化水素酸含有水の処理方法であって、ろ材が充填されたろ過装置に前記フッ化水素酸含有水を通水して、ろ過水を得るろ過工程と、イオン交換体が充填された脱イオン装置に前記ろ過水を通水して、イオン交換処理水を得る脱イオン工程と、を有し、前記ろ材は、合成樹脂製ろ材から構成されることを特徴とする。
【0016】
また、本実施形態は、pH4未満のフッ化水素酸含有水の処理方法であって、ろ材が充填されたろ過装置に前記フッ化水素酸含有水を通水して、ろ過水を得るろ過工程と、イオン交換体が充填された脱イオン装置に前記ろ過水を通水して、イオン交換処理水を得る脱イオン工程と、を有し、前記ろ材は、合成樹脂製ろ材と炭素系ろ材の組合せから構成されることを特徴とする。
【0017】
また、本実施形態は、pH4未満のフッ化水素酸含有水の処理方法であって、ろ材が充填されたろ過装置と、前記ろ過装置の後段に配置され、イオン交換体が充填された脱イオン装置と、を有し、前記ろ材は、炭素系ろ材から構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、フッ化水素酸含有水を処理する際、ろ材の溶解によるろ材の減少を抑え、装置を安定的に運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係るフッ化水素酸含有水の処理装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は、本実施形態に係るフッ化水素酸含有水の処理装置の一例を示す模式図である。
図1に示すフッ化水素酸含有水の処理装置1は、原水槽10、ろ過装置12、処理水槽14、脱イオン装置16、配管18a,18b,18c,18d、供給ポンプ20a,20b、逆洗配管22a,22b、逆洗ポンプ24、再生剤配管26a,26b、再生剤ポンプ28、再生剤貯留槽30を備えている。
【0022】
配管18aの一端は原水槽10に接続され、他端は供給ポンプ20aを介してろ過装置12に接続されている。配管18bの一端はろ過装置12に接続され、他端は処理水槽14に接続されている。配管18cの一端は処理水槽14に接続され、他端は供給ポンプ20bを介いて脱イオン装置16に接続されている。配管18dは脱イオン装置16に接続されている。
【0023】
逆洗配管22aの一端は処理水槽14に接続され、他端は逆洗ポンプ24を介してろ過装置12に接続されている。逆洗配管22bはろ過装置12に接続されている。また、再生剤配管26aの一端は再生剤貯留槽30に接続され、他端は再生剤ポンプ28を介して脱イオン装置16に接続されている。再生剤配管26bは脱イオン装置16に接続されている。
【0024】
ろ過装置12は、ろ材が充填されている。ろ過装置12は、逆洗時のろ材の流出を抑制するために、例えば、ろ材をパッキングしたり、目板を設置してろ材を上から押さえつけたり、ろ過装置12の出口側から配管22bの適切な場所にフィルターを設置したりしてもよい。ろ材は、合成樹脂製ろ材から構成される第1の形態、合成樹脂製ろ材と炭素系ろ材の組合せから構成される第2の形態、又は炭素系ろ材から構成される第3の形態が挙げられる。ここで、第1形態の合成樹脂製ろ材から構成されるとは、実質的に合成樹脂製ろ材以外のろ材を含有していなければよく、ろ材中の合成樹脂製ろ材以外のろ材の含有量が、例えば、5質量%以下であり、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0質量%である。また、第2形態の合成樹脂製ろ材と炭素系ろ材の組合せから構成されるとは、実質的に合成樹脂製ろ材及び炭素系ろ材以外のろ材を含有していなければよく、ろ材中の合成樹脂製ろ材及び炭素系ろ材以外のろ材の含有量が、例えば、5質量%以下であり、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0質量%である。また、第3形態の炭素系ろ材から構成されるとは、実質的に炭素系ろ材以外のろ材を含有していなければよく、ろ材中の炭素系ろ材以外のろ材の含有量が、例えば、5質量%以下であり、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0質量%である。
【0025】
ろ過装置12は、ろ材が単層又は複層で充填されている。前述の第1~第3の形態のいずれも、ろ材が単層又は複層で充填されていてよい。単層とは、1種類のろ材のみが充填されており、複層とは、有効径、比重が異なる複数(例えば2種類または3種類)のろ材が充填されていることをいう。また、第1の形態において繊維状のろ材を用いる場合は、単層ろ過のみが行われてもよい。
【0026】
複層の場合には、有効径および比重の異なる少なくとも2種類のろ材が充填される。例えば、第1の形態や第3の形態の場合、有効径および比重の異なる少なくとも2種類の合成樹脂製ろ材から構成され、又は有効径および比重の異なる少なくとも2種類の炭素系ろ材から構成される。また、例えば、第2の形態の場合、有効径および比重の異なる合成樹脂製ろ材と炭素系ろ材から構成され、これらが複層で充填される。より良好な処理水質を得る点で、通水方向の上流側から下流側に向かって1層目には2層目よりも有効径が大きく、比重が小さいろ材を、2層目には1層目よりも有効径が小さく、比重が大きいろ材を充填することが望ましい。例えば、有効径Aを有するろ材を上流側に充填し、有効径Aより小さい有効径Bを有するろ材を下流側に充填する。複層の場合、ろ材の混合を抑える点で、上流側に比重の小さいろ材を使用し、下流側に比重の大きいろ材を使用することが好ましい。また、ろ材の混合を抑制する点で、ろ材の層間に(例えば、上流側の層と下流側の層との間に)多孔の仕切り板を設けてもよい。
【0027】
ろ材の有効径は、例えば、粒状や円筒状のろ材の場合、ろ材の篩分け計算図(対数グラフ)対正規分布確率線上において、細かい粒子から累積した通過質量百分率が10%になる粒子の大きさをmmで示したものを言う。
【0028】
合成樹脂製ろ材は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリエステル、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のいずれかを主成分とするろ材が挙げられる。粒状または円筒形状の合成樹脂製ろ材は、より良好な処理水質を得る点で、例えば、上記のろ材のうち、少なくとも2種類のろ材を含むことが好ましい。繊維状の合成樹脂製ろ材は、1種類のみで使用される。なお、主成分とは、ろ材を構成する成分のうち、最も含有量の多い成分を意味する。
【0029】
合成樹脂製ろ材の形状は特に制限はないが、例えば、粒状、円筒状、繊維状等が挙げられる。例えば、線速度(LV)を高くすることができる点で、合成樹脂製ろ材は繊維状ろ材を用いることが望ましい。繊維状の合成樹脂製ろ材は、複層で使用されてもよいが、単層で使用されるのが好ましい。
【0030】
繊維状の合成樹脂製ろ材を使用する場合には、定期的に空気洗浄(エアスクラビング)を行うこと好ましい。具体的には、圧縮空気をろ過装置12の下部から導入し、ろ過装置12の上部側へ供給する。このように圧縮空気の流入によりろ過装置12内部の水が攪拌されるとともに、繊維状の合成樹脂製ろ材が振動して、繊維状の合成樹脂製ろ材に捕捉されていた懸濁物質が剥離される。空気洗浄は、後述するように、逆洗と共に行ってもよい。
【0031】
炭素系ろ材とは、例えば炭素を90質量%以上含有するろ材であり、具体的には、アンスラサイトや活性炭等が挙げられる。なお、活性炭は、有機物の吸着を目的とはしないため、他用途で使用済みの活性炭を適用してもよい。石炭系やヤシガラ炭などが挙げられるが、特に制限は無い。炭素系ろ材の形状は特に制限されないが、例えば、粒状、円筒状等が挙げられる。炭素系ろ材を使用する場合、ろ材は、合成樹脂製ろ材と炭素系ろ材の組合せから構成されてもよいし、炭素系ろ材から構成されてもよいし、有効径および比重の異なる少なくとも2種類の炭素系ろ材から構成されてもよい。
【0032】
粒状のろ材は、例えば、有効径が0.5~2.5mmのろ材が好ましく、0.7~1.5mmのろ材がより好ましい。有効径が0.5mm未満だと、0.5mm以上の場合と比較して、目詰まりによる逆洗頻度が多くなる場合がある。また、有効径が2.5mmを超えると、2.5mm以下の場合と比較して、濁質処理の性能が低下する場合がある。円筒状のろ材は、粒状のろ材と同等の有効径を有するろ材が好ましい。繊維状のろ材は、例えば、繊維径(長径)が500mm以上3000mm未満のろ材が好ましく、1000mm以上1500mm未満のろ材がより好ましい。繊維状ろ材の充填密度は、例えば、15~200kg/m2が好ましく、30~100kg/m2がより好ましい。繊維状のろ材は、例えば、繊維太さが10~80μmであって、繊維長が500~3000mm程度の繊維を束ねたものが使用される。
【0033】
脱イオン装置16としては、例えば、イオン交換体が充填されたイオン交換塔を用いることができる。脱イオン装置16は、少なくともフッ化水素酸含有水中のフッ素(フッ化物イオン)を除去できればよいが、好ましくは必要とされる回収水質を満たすために必要な仕様が選定される。脱イオン装置16は、フッ素(フッ化物イオン)を除去する点で、少なくとも陰イオン交換樹体が充填されたイオン交換塔であればよい。より良好な水質を得る点で、脱イオン装置16は、強酸性樹脂、弱酸性樹脂等の陽イオン交換体が充填された陽イオン交換塔、強塩基性樹脂、弱塩基性樹脂等の陰イオン交換体が充填された陰イオン交換塔を備え、陽イオン交換塔、陰イオン交換塔の順に通水する装置や、陽イオン交換体及び陰イオン交換体の混床の樹脂塔を備える装置等が好ましい。フッ化水素酸含有水が除害系排水の場合には、再生剤使用量を削減する観点から、強酸性樹脂+弱酸性樹脂の混床式陽イオン交換体が充填された陽イオン交換塔、脱炭酸塔、及び強塩基性樹脂+弱塩基性樹脂の混床式陰イオン交換体が充填された陰イオン交換塔を用いた、いわゆる2B3T型の装置が好ましい。
【0034】
フッ化水素酸含有水のpHは4未満であり、3.5未満でよく、又は1以上3未満でよい。pHを酸性のまま通水することによって、中和薬品を削減し、後段のイオン交換体への負荷を低減することができる。フッ化水素酸含有水中のフッ素濃度は、例えば、10~1000mg/Lが好適である。フッ化水素酸含有水は、例えば、半導体工場の除害設備の排水等が挙げられる。
【0035】
図1に示すフッ化水素酸含有水の処理装置1の動作の一例について説明する。
【0036】
供給ポンプ20aを稼働させて、原水槽10内のpH4未満のフッ化水素酸含有水を配管18aからろ過装置12に供給する。フッ化水素酸含有水をろ過装置12に通水して、ろ過水を得る(ろ過工程)。ろ過工程では、フッ化水素酸含有水中の濁質を除去することができる。ろ過装置12におけるフッ化水素酸含有水の線速度(LV)は特に限定されないが、例えば、粒状のろ材を使用した場合には、2~20m/hの範囲が好ましく、繊維状のろ材を使用した場合には、5~100m/hの範囲が好ましい。この範囲よりも小さいとろ過器が必要以上に大きくなり、この範囲よりも大きいと濁質が処理水にリークする可能性が高くなる。
【0037】
濁質が除去されたフッ化水素酸含有水(ろ過水)を配管18bから処理水槽14に供給する。供給ポンプ20bを稼働させて、処理水槽14内のろ過水を配管18cから、脱イオン装置16に供給する。ろ過水を脱イオン装置16に通水して、イオン交換処理水を得る(脱イオン工程)。脱イオン工程では、ろ過水中のフッ素(フッ化物イオン)を除去することできる。また、フッ化水素酸含有水中に、ナトリウム、カルシウム、アンモニウム等の陽イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、重炭酸イオン等の陰イオン、或いはシリカ等が含まれる場合には、それらを除去することが好ましい。フッ素が除去されたろ過水(脱イオン水)を配管18dから回収する。
【0038】
ろ過装置12内のろ材を逆洗する際には、供給ポンプ20a,20bを停止して、逆洗ポンプ24を稼働させて、処理水槽14内のろ過水を逆洗配管22aからろ過装置12に供給する。ろ過水をろ過装置12に通水し、ろ材を洗浄する。そして、ろ過装置12から排出される逆洗排水を逆洗配管22bから系外へ排出する。なお、上記逆洗と共に又は逆洗とは別に、ろ過装置12内に空気を供給して、エアスクラビングを行い、ろ材を洗浄してもよい。逆洗やエアスクラビングのタイミングは特に限定されないが、例えば、ろ過装置12の差圧が0.1MPaに到達後に逆洗等を行うことが好ましい。濁質を含む逆洗排水は、凝集沈殿等の処理をした後、放流したり、再度ろ過装置12によるろ過処理をして、ろ過水として回収したりしてもよい。逆洗時には、ろ材の殺菌のために、ろ過水に次亜塩素酸ナトリウム等を添加してもよい。この場合、塩素ガスの発生を防ぐために、逆洗時の系内は中性に維持しつつ実施する。なお、本実施例では逆洗にろ過水を用いているが、図示しない別の水処理系列から純水や用水などを配水し、逆洗に用いてもよい。
【0039】
脱イオン装置16内のイオン交換体を再生する際には、供給ポンプ20a,20bを停止して、再生剤ポンプ28を稼働させて、再生剤貯留槽30内の再生剤を再生剤配管26aから脱イオン装置16に供給する。再生剤を脱イオン装置16に通水し、イオン交換体を再生処理する。そして、脱イオン装置16から排出される再生排水を再生剤配管26bから系外へ排出する。再生剤は、イオン交換体を再生するために使用される従来公知のものでよく、例えば、イオン交換水、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウム等が使用される。脱イオン装置16のイオン交換体は任意のタイミングで再生されればよい。
【0040】
(本実施形態の効果)
(1)従来の濁質除去には、コスト的に優位である砂ろ過を使用するが、砂の主成分はSiO2であるため、pH4未満のフッ化水素酸含有水中のHFによって、ろ材が溶解して、減少・消失する。また、水処理に一般的に使われるガーネットやセラミックなどのろ材は、主成分が砂と同様であるため、程度の違いはあるがHFによって溶解して同じ問題が起こる。一方、本実施形態では、ろ材を炭素系ろ材、合成樹脂製ろ材或いはこれらの組合せから構成されているため、ろ材の溶解によるろ材の減少を抑えることができ、装置を安定的に運転することができる。
(2)pH4未満のフッ化水素酸含有水を中和して処理する方法では、フッ化水素酸含有水を中和するための中和剤の量が膨大となり、フッ化水素酸含有水中の塩負荷が増大する。一方、本実施形態では、pH4未満の酸性のままで処理を行うため、中和剤等の薬品や中和用の設備を削減することができ、低コスト化を図ることが可能となる。なお、イオン交換体が充填された脱イオン装置は酸性のフッ化水素酸含有水を通水しても良好な処理水質が得られるが、RO膜を用いた脱イオン装置では、酸性のフッ化水素酸含有水を通水すると処理水質不良が生じる場合があり、前段で中和処理が必要となる。
(3)最終的な水回収率を高める点では、繊維状の合成樹脂製ろ材から構成されるろ材を使用すること、有効径および比重の異なる合成樹脂製ろ材と炭素系ろ材の組合せから構成され、これらのろ材を複層で充填すること、或いは有効径および比重の異なる少なくとも2種類の炭素材料又は合成樹脂製ろ材から構成され、少なくとも2種類の炭素材料又は合成樹脂製ろ材を複層で充填することが好ましい。繊維状の合成樹脂製ろ材を使用した場合は、逆洗時に水を主とする洗浄ではなく、空気を主とする洗浄とすることができるため、逆洗水量を減らして回収率を高めることができる。また、有効径および比重の異なる合成樹脂製ろ材あるいは炭素系ろ材あるいはその組み合わせを複層ろ過で用いることにより、上向流での逆洗時に、平均径が大きく比重の小さいろ材が上層部に、平均径が小さく比重の大きいろ材が下層部になるようにすることができるため、ろ材の深部まで濁質を補足することができ、濁質の捕捉量に対する差圧の上昇が抑えられるため、ろ過水による逆洗頻度が減少し、装置の水回収率が増加する。半導体工場などにおいては高い水回収率が求められるため、この逆洗頻度の減少による水回収率の増加は大きな利点となる。なお、ここでいう比重とは嵩比重(見かけ比重)であり、測定方法は日本水道協会規格JWWA A 103 2006に従う。
(4)従来、濁質を除去する方法としては、MF膜やUF膜等の膜処理を用いる方法があるが、当該方法は、ろ材を用いたろ過に比べて装置コストが高くなる。すなわち、本実施形態のように、ろ材を用いた濁質除去を採用することにより、装置コストを抑えることが可能となる。
【実施例0041】
以下、実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
実施例及び比較例では、ろ材を充填したカラム(ろ過装置)にフッ化水素酸含有水を下向流で通水して、ろ過工程を実施した。フッ化水素酸含有水としては、表1に示す除害系排水を用いた。ろ材を充填するカラムは、φ40mm×1000mmの大きさのカラムを使用した。実施例及び比較例のその他の条件を以下に示す。
【0043】
【0044】
<比較例>
ろ材の充填形態:通水方向の上流側(以下、上部)と下流側(以下、下部)の2層充填
上部のろ材:株式会社トーケミ製アンスラサイト、有効径1.0mm、均等係数1.4
上部ろ材の充填高さ:250mm
下部のろ材:ろ過砂、有効径0.6mm、均等係数1.4
下部ろ材の充填高さ:250mm
通水線速度(LV):10m/h
ろ過水による逆洗:30m/h、10分
エアスクラビング:50Nm3/m2/h、10分
逆洗及びエアスクラビンの間隔:12時間
【0045】
<実施例1>
ろ材の充填形態:単層充填
ろ材:株式会社トーケミ製アンスラサイト、有効径1.0mm、均等係数1.4
ろ材の充填高さ:250mm
通水線速度(LV):10m/h
ろ過水による逆洗:30m/h、10分
エアスクラビング:50Nm3/m2/h、10分
逆洗及びエアスクラビングの間隔:8時間(12時間では、差圧上昇により運転継続不可)
【0046】
<実施例2>
ろ材の充填形態:上部と下部の2層充填
上部のろ材:富士ケミカル株式会社製、プラスチック焼結多孔体、高密度ポリエチレン製、比重0.96、有効径0.6mm
上部ろ材の充填高さ:250mm
下部のろ材:株式会社トーケミ製アンスラサイト、有効径1.0mm、均等係数1.4
下部ろ材の充填高さ:250mm
通水線速度(LV):10m/h
ろ過水による逆洗:30m/h、10分
エアスクラビング:50Nm3/m2/h、10分
逆洗及びエアスクラビングの間隔:12時間
実施例2では、上部のろ材層と下部のろ材層との間に、ろ材の浮上防止のため、目板を設置した。
【0047】
<実施例3>
ろ材の充填形態:単層充填
ろ材:繊維状、ポリエステル製、繊維径39μm、ろ材長(長径)500mm
ろ材の充填量:50kg/m2
通水線速度(LV):50m/h
ろ過水による逆洗LV:100m/h
エアスクラビングによるLV:200m/h
ろ材洗浄方法:エアスクラビング45秒→ろ過水逆洗及びエアスクラビング90秒→ろ過水逆洗60秒
逆洗及びエアスクラビングの間隔:6時間
【0048】
表2に、比較例及び実施例1~3の通水1000時間後におけるろ材の減少率、ろ過水濁度、水回収率の結果をまとめた。ろ材の減少率は、通水前後のろ材充填高さを実測し、以下の式で算出した。複層の場合は、ろ材全体の充填高さから減少率を算出した。
ろ材の減少率(%)=(1-通水1000時間後のろ材充填高さ/通水前のろ材充填高さ)×100
【0049】
【0050】
ろ材にろ過砂を使用した比較例では、通水1000時間後におけるろ材の減少率は25%に達した。一方、炭素系ろ材から構成される実施例1、合成樹脂製ろ材と炭素系ろ材との組合せから構成される実施例2、合成樹脂製ろ材から構成される実施例3のいずれも、通水1000時間後におけるろ材の減少率は3%以下に抑えられ、装置を安定して運転することができた。実施例1~3におけるろ過水の回収率(水回収率)は、炭素系ろ材を単層充填した実施例1、平均粒径の異なる2種類のろ材を複層充填した実施例2、繊維状の合成樹脂製ろ材を単層充填した実施例3の順で水回収率が高くなった。
【0051】
[付記]
(1)
pH4未満のフッ化水素酸含有水の処理装置であって、
ろ材が充填されたろ過装置と、前記ろ過装置の後段に配置され、イオン交換体が充填された脱イオン装置と、を有し、
前記ろ材は、合成樹脂製ろ材から構成されることを特徴とするフッ化水素酸含有水の処理装置。
(2)
pH4未満のフッ化水素酸含有水の処理装置であって、
ろ材が充填されたろ過装置と、前記ろ過装置の後段に配置され、イオン交換体が充填された脱イオン装置と、を有し、
前記ろ材は、合成樹脂製ろ材と炭素系ろ材の組合せから構成されることを特徴とするフッ化水素酸含有水の処理装置。
(3)
pH4未満のフッ化水素酸含有水の処理装置であって、
ろ材が充填されたろ過装置と、前記ろ過装置の後段に配置され、イオン交換体が充填された脱イオン装置と、を有し、
前記ろ材は、炭素系ろ材から構成されることを特徴とするフッ化水素酸含有水の処理装置。
(4)
前記ろ材は、有効径の異なる少なくとも2種類の前記炭素系ろ材から構成され、前記ろ過装置は、前記少なくとも2種類の前記炭素系ろ材が複層で充填されていることを特徴とする上記(3)に記載のフッ化水素酸含有水の処理装置。
(5)
前記フッ化水素酸含有水は半導体工場の除害設備の排水であることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれか1つに記載のフッ化水素酸含有水の処理装置。
(6)
前記合成樹脂製ろ材は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリエステル、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のいずれかを主成分とするろ材のうち、少なくとも2種類のろ材を含むことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のフッ化水素酸含有水の処理装置。
(7)
前記合成樹脂製ろ材は、繊維状ろ材であることを特徴とする上記(1)、(2)又は(6)に記載のフッ化水素酸含有水の処理装置。
(8)
pH4未満のフッ化水素酸含有水の処理方法であって、
ろ材が充填されたろ過装置に前記フッ化水素酸含有水を通水して、ろ過水を得るろ過工程と、
イオン交換体が充填された脱イオン装置に前記ろ過水を通水して、イオン交換処理水を得る脱イオン工程と、を有し、
前記ろ材は、合成樹脂製ろ材から構成されることを特徴とするフッ化水素酸含有水の処理方法。
(9)
pH4未満のフッ化水素酸含有水の処理方法であって、
ろ材が充填されたろ過装置に前記フッ化水素酸含有水を通水して、ろ過水を得るろ過工程と、
イオン交換体が充填された脱イオン装置に前記ろ過水を通水して、イオン交換処理水を得る脱イオン工程と、を有し、
前記ろ材は、合成樹脂製ろ材と炭素系ろ材の組合せから構成されることを特徴とするフッ化水素酸含有水の処理方法。
(10)
pH4未満のフッ化水素酸含有水の処理方法であって、
ろ材が充填されたろ過装置と、前記ろ過装置の後段に配置され、イオン交換体が充填された脱イオン装置と、を有し、
前記ろ材は、炭素系ろ材から構成されることを特徴とするフッ化水素酸含有水の処理方法。
1 フッ化水素酸含有水の処理装置、10 原水槽、12 ろ過装置、14 処理水槽、16 脱イオン装置、18a,18b,18c,18d 配管、20a,20b 供給ポンプ、22a,22b 逆洗配管、24 逆洗ポンプ、26a,26b 再生剤配管、28 再生剤ポンプ、30 再生剤貯留槽。