(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090394
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】容器詰紅茶飲料、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23F 3/16 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
A23F3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206280
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】391058381
【氏名又は名称】キリンビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】岩城 正治
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 眞也
(72)【発明者】
【氏名】戸倉 藍
(72)【発明者】
【氏名】福井 美帆
【テーマコード(参考)】
4B027
【Fターム(参考)】
4B027FB08
4B027FB13
4B027FC01
4B027FC02
4B027FE08
4B027FK02
4B027FP85
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、紅茶の香味の厚みが向上した容器詰紅茶飲料、及びその製造方法等を提供することにある。
【解決手段】タンニンの含有濃度が620ppm以下であり、かつ、イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbである、容器詰紅茶飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンニンの含有濃度が620ppm以下であり、かつ、イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbである、容器詰紅茶飲料。
【請求項2】
タンニンの含有濃度が200~620ppmである、請求項1に記載の容器詰紅茶飲料。
【請求項3】
フェネチルアルコールの含有濃度が500ppb未満である、請求項1に記載の容器詰紅茶飲料。
【請求項4】
タンニンの含有濃度が620ppm以下である容器詰紅茶飲料の製造において、イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbとなるように調製することを特徴とする、前記容器詰紅茶飲料の製造方法。
【請求項5】
タンニンの含有濃度が620ppm以下である容器詰紅茶飲料の製造において、イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbとなるように調製することを特徴とする、前記容器詰紅茶飲料において紅茶の香味の厚みを向上する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰紅茶飲料、及びその製造方法等に関する。より詳細には、紅茶の香味の厚みが向上した容器詰紅茶飲料、及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
茶飲料は、独特な香気と、苦味、渋味が醸し出す爽やかな風味から、古くから嗜好飲料、健康飲料として親しまれてきた代表的な飲料である。茶飲料には、緑茶、半発酵茶(烏龍茶)、発酵茶(紅茶)等、各種の茶から調製されたものがあり、近年は、缶詰、ペットボトル詰、又は紙パック等の容器詰飲料として、流通に供されている。紅茶飲料は、紅茶の独特な香気と、苦味、渋味をもつ味覚から、嗜好の面から或いは健康志向の面から、茶飲料の中でも特に愛用されている飲料の一つであり、各種香味バリエーションに調製された紅茶飲料が、缶やペットボトルなどに充填された容器詰紅茶飲料として提供されている。
【0003】
一方、これらの容器詰め茶飲料は、大量生産に適応させるため、工業的方法で抽出工程を行い、また長期保存に耐えられるように微生物安定性を高めるため、強い殺菌を行う必要がある。その結果、その工業的製造工程および殺菌工程により、香気の散逸、加熱による香味の劣化を伴い、家庭や喫茶店にて急須などで淹れたお茶と比べて十分に満足のいく風味の製品を得ることが困難であった。例えば特許文献1には、茶類原料の水による抽出液であって、固形分濃度として屈折糖度(20℃)でBx5°~Bx80°である抽出液を100℃~180℃にて10分~5時間加熱処理したものを、茶含有飲食品に添加することによって、茶含有飲食品の茶葉感をアップし、味の厚みやボディ感などの呈味を増強する方法が開示されている。しかし、簡便性などの多様な観点から、他の手段で、紅茶の味の厚みを向上させる方法が依然として求められていた。
【0004】
一方、イソバレルアルデヒドは、ムレ臭というオフフレーバーを有することが知られている(特許文献2)。
【0005】
しかしながら、所定濃度以上のタンニンを含有する容器詰紅茶飲料に、所定濃度のイソバレルアルデヒドを含有させることや、所定濃度のイソバレルアルデヒド含有組成物を含有させるによって紅茶の香味の厚みを向上できることはこれまでに知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許5981234号公報
【特許文献2】特開2008-054560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、紅茶の香味の厚みが向上した容器詰紅茶飲料、及びその製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意検討した結果、タンニンの含有濃度が620ppm以下である容器詰紅茶飲料の製造において、イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbとなるように調製することによって、紅茶の香味の厚みを向上できることを見いだし、本発明を完成するに至った。イソバレルアルデヒドはムレ臭の原因として知られていたことを考慮すると、イソバレルアルデヒドの含有濃度を100~1000ppbにすることによって、紅茶の香味の厚みを向上できることは、当業者にとってきわめて予想外であった。
【0009】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)タンニンの含有濃度が620ppm以下であり、かつ、イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbである、容器詰紅茶飲料;
(2)タンニンの含有濃度が200~620ppmである、上記(1)に記載の容器詰紅茶飲料;
(3)フェネチルアルコールの含有濃度が500ppb未満である、上記(1)又は(2)に記載の容器詰紅茶飲料;
(4)タンニンの含有濃度が620ppm以下である容器詰紅茶飲料の製造において、イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbとなるように調製することを特徴とする、前記容器詰紅茶飲料の製造方法;
(5)タンニンの含有濃度が620ppm以下である容器詰紅茶飲料の製造において、イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbとなるように調製することを特徴とする、前記容器詰紅茶飲料において紅茶の香味の厚みを向上する方法;
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、紅茶の香味の厚みが向上した容器詰紅茶飲料、及びその製造方法等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、
[1]タンニンの含有濃度が620ppm以下であり、かつ、イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbである、容器詰紅茶飲料(以下、「本発明の飲料」とも表示する。);
[2]タンニンの含有濃度が620ppm以下である容器詰紅茶飲料の製造において、イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbとなるように調製することを特徴とする、前記容器詰紅茶飲料の製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも表示する。);
[3]タンニンの含有濃度が620ppm以下である容器詰紅茶飲料の製造において、イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbとなるように調製することを特徴とする、前記容器詰紅茶飲料において紅茶の香味の厚みを向上する方法(以下、「本発明の向上方法」とも表示する。);
等の実施態様を含む。
【0012】
(紅茶抽出物)
紅茶飲料には紅茶抽出物が含まれる。本明細書において、「紅茶抽出物」とは、紅茶葉を抽出処理に供することにより得られる抽出物を意味する。また、本明細書において紅茶抽出物には、紅茶葉からの抽出液(紅茶抽出液)それ自体や、その加工品類(例えば、紅茶抽出液を濃縮処理や粉末化処理等した紅茶抽出物エキス)等が含まれる。
【0013】
紅茶抽出物の原料として利用できる紅茶葉は特に限定されず、例えばCamelliasinensisの中国種(var.sinensis)、アッサム種(var.assamica)又はそれらの雑種から得られる茶葉から発酵工程を経て製茶されたものが挙げられる。茶期、茶葉の形状、産地、品種、等級、及び発酵条件等も特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。また、紅茶葉を抽出する際の茶葉の量、溶媒の量、抽出温度、抽出時間等の条件も特に限定されず、通常紅茶葉を抽出する際の条件を用いることができる。
【0014】
(紅茶飲料)
本発明において「紅茶飲料」としては、紅茶抽出物を含む飲料を意味する。
【0015】
(タンニン)
本発明の飲料におけるタンニンの含有濃度としては、620ppm以下である限り、特に制限されないが、例えば600ppm以下が挙げられ、厚みの向上効果をより多く得る観点から、好ましくは300ppm以下が挙げられる。
また、本発明の飲料におけるタンニンの含有濃度の下限としては、特に制限されないが、例えば200ppm以上、250ppm以上が挙げられる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができる。
【0016】
本発明において、飲料中のタンニン濃度は、例えば、紅茶抽出液を調製する際の、紅茶葉の使用量や、紅茶抽出液の加工品の使用量を調整すること等により調整することができる。
【0017】
本発明の飲料中のタンニン濃度は、酒石酸鉄吸光光度法(好ましくは、日本食品分析センター編「五訂 日本食品標準成分分析マニュアルの解説」(日本食品分析センター編、中央法規、2001年7月、p.252)に記載の公定法)を用いて測定することができる。
【0018】
(イソバレルアルデヒド)
本発明の飲料におけるイソバレルアルデヒドの含有濃度としては、100~1000ppbであれば特に制限されないが、紅茶の香味の厚みをより多く向上させる観点から、好ましくは150ppb以上、より好ましくは250ppb以上、さらに好ましくは300ppb以上、より好ましくは400ppb以上が挙げられる。また、紅茶らしい香味調和を保持する観点から、イソバレルアルデヒドの含有濃度の上限として、1000ppb以下、900ppb以下、800ppb以下、750ppb以下が挙げられる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができる。
【0019】
また、紅茶の香味の厚みをより多く向上させることと、紅茶らしい香味調和を保持することとのバランスの観点から、イソバレルアルデヒドの含有濃度として、好ましくは100~1000ppb、100~900ppb、100~800ppb、又は、100~750ppbが挙げられ、より好ましくは150~1000ppb、150~900ppb、150~800ppb、又は、150~750ppbが挙げられ、さらに好ましくは250~1000ppb、250~900ppb、250~800ppb、又は、250~750ppbが挙げられ、より好ましくは300~1000ppb、300~900ppb、300~800ppb、又は、300~750ppbが挙げられ、さらに好ましくは400~1000ppb、400~900ppb、400~800ppb、又は、400~750ppbが挙げられる。
【0020】
本発明において、飲料中のイソバレルアルデヒド濃度は、例えば、イソバレルアルデヒド又はイソバレルアルデヒド含有組成物を飲料に含有させる量を調整すること等により調整することができる。イソバレルアルデヒドやイソバレルアルデヒド含有組成物は市販されているものを用いることができる。
【0021】
本発明の飲料中のイソバレルアルデヒド濃度は、ガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーを用いた方法など、公知の方法によって測定することができる。
【0022】
(任意成分)
本発明の飲料は、例えば、酸味料、色素、甘味料、酸化防止剤(ビタミンC等)、保存料、増粘安定剤、乳成分、乳化剤、及び、pH調整剤(重曹など)のいずれか1つ又は2つ以上を含んでいなくてもよいが、含んでいてもよい。
【0023】
上記の「甘味料」としては、果糖、ブドウ糖、タガトース、アラビノース等の単糖、乳糖、トレハロース、麦芽糖、ショ糖等の二糖、粉末水あめ中の単糖、二糖等といった結晶性糖類;や、マルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等のオリゴ糖;水あめ、異性化液糖(例えば果糖ブドウ糖液糖)等の非結晶性糖類;マルチトール、ラクチトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール等の糖アルコール;スクラロース、ステビア、甘草抽出物、ソーマチン、グリチルリチン、サッカリン、アスパルテーム、アセスルファムK等の高甘味度甘味料;を挙げることができ、甘味の自然さの観点から、糖類(結晶性糖類及び非結晶性糖類)が好ましく挙げられ、また、カロリーの低さの観点から、糖アルコールや高甘味度甘味料が好ましく挙げられる。甘味料を用いる場合、本発明の飲料における甘味料の濃度としては特に制限されないが、甘味料が糖類である場合、例えば、0.1~10重量%や、0.5~8重量%が挙げられ、甘味料が糖アルコールや高甘味度甘味料の場合、ショ糖換算の甘味度で0.1~10重量%や、0.5~8重量%となる濃度が挙げられる。
【0024】
(乳成分)
本明細書において「乳成分」とは、乳脂肪及び/又は無脂乳固形分を意味する。乳成分や、乳成分含有組成物として、具体的には、生乳又はその加工品(例えば、濃厚牛乳、低脂肪乳、脱脂乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、全脂粉乳、調製粉乳、脱脂粉乳、練乳、発酵乳、クリーム、チーズ、バター、ホエイパウダー、バターミルクパウダー等)が挙げられる。乳成分は含んでいなくても、含んでいてもよいが、本発明の課題がより顕著となり、発明の意義をより多く享受し得るため、含んでいないことが好ましい。
【0025】
本発明の他の一態様として、本発明の容器詰紅茶飲料は、フェネチルアルコールを500ppb以上含有してもよいが、好ましくは500ppb未満、より好ましくは400ppb以下、300ppb以下、又は、200ppb以下であることが好適に挙げられる。フェネチルアルコールを500ppb以上含有する紅茶飲料では、香粧品様の花香が強く感じられ、紅茶らしい香味の調和が損なわれるからである。本発明の飲料中のフェネチルアルコール濃度は、ガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーを用いた方法など、公知の方法によって測定することができる。
【0026】
(本発明の飲料)
本発明の飲料としては、タンニンの含有濃度が620ppm以下であり、かつ、イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbである、容器詰紅茶飲料である限り特に制限されない。
【0027】
単に、タンニンの含有濃度が620ppm以下である容器詰紅茶飲料は従来から公知である。本発明の飲料は、タンニンの含有濃度が620ppm以下であることに加えて、イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbであること以外は、用いる製造原料、製造方法並びに製造条件において、通常の容器詰紅茶飲料と特に相違する点はない。
【0028】
本発明の飲料は、「容器詰紅茶飲料」の一般的な製造方法において、いずれかの段階で、イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbとなるようにする(好ましくは、満たすように調製する)ことによって製造することができる。
【0029】
本発明の飲料は、容器詰飲料である。かかる容器としては、ペットボトル、ポリプロピレンボトル、ポリ塩化ビニルボトル等の樹脂ボトル容器;ビン容器;缶容器;等の容器が挙げられる。
【0030】
本発明の飲料は、加熱殺菌処理がなされていなくてもよいが、保存性向上の観点から、加熱殺菌処理がなされていてもよい。加熱殺菌処理の方法や条件としては、容器詰飲料などの飲料に使用される通常の方法や条件を用いることができる。
【0031】
(本発明の製造方法)
本発明の製造方法としては、タンニンの含有濃度が620ppm以下である容器詰紅茶飲料の製造において、イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbとなるように調製することを特徴とする、前記容器詰紅茶飲料の製造方法である限り特に制限されない。
【0032】
本発明の飲料は、タンニンの含有濃度を620ppm以下とし、かつ、イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbとなるように調製すること以外は、容器詰紅茶飲料の一般的な製造方法により製造することができる。容器詰紅茶飲料の一般的な製造方法は公知であり、例えば、紅茶抽出液を調製し、調合工程、充填工程、加熱殺菌工程を経て紅茶飲料を製造することができる。本発明の飲料の製造においては、前述の任意成分を添加してもよく、これら任意成分の添加時期は特に制限されない。
【0033】
本発明における「イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbとなるように調製する」方法としては、本発明の飲料において、イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbとなるように調製する容器詰紅茶飲料の製造工程のいずれかで、イソバレルアルデヒド、又は、イソバレルアルデヒド含有組成物を紅茶飲料に含有させる方法が挙げられ、例えば、紅茶抽出液に、イソバレルアルデヒド、又は、イソバレルアルデヒド含有組成物を含有させる方法が挙げられる。
【0034】
本発明の製造方法においては、任意成分として、例えば、酸味料、色素、甘味料、酸化防止剤(ビタミンC等)、保存料、増粘安定剤、乳成分、乳化剤、及び、pH調整剤(重曹など)のいずれか1つ又は2つ以上をさらに含有させてもよい。
【0035】
本発明の製造方法においては、本発明の飲料を製造し得る限り、製造原料を含有させる順序等は特に制限されない。製造原料が混合されている液を調製した後、容器に充填して密封し、本発明の飲料を得ることができる。
【0036】
(加熱殺菌)
本発明の製造方法は、紅茶飲料を加熱殺菌する工程を含んでいてもよい。かかる加熱殺菌する方法としては、容器詰飲料における通常の加熱殺菌方法を特に制限なく用いることができる。例えば、金属缶のように充填後に加熱殺菌できる場合にあっては、食品衛生法に定められた殺菌条件等で殺菌処理を行うことができる。また、PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、充填前に該飲料を、あらかじめ上記と同等の殺菌条件で、例えばプレート式熱交換器等を用いて高温短時間殺菌(UHT殺菌)した後、一定の温度まで冷却し、殺菌済み容器に充填する等の方法を採用することができる。
【0037】
(本発明の向上方法)
本発明の向上方法としては、タンニンの含有濃度が620ppm以下である容器詰紅茶飲料の製造において、イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbとなるように調製することを特徴とする、前記容器詰紅茶飲料において紅茶の香味の厚みを向上する方法である限り特に制限されない。
【0038】
タンニンの含有濃度が620ppm以下である容器詰紅茶飲料の製造において、イソバレルアルデヒドの含有濃度が100~1000ppbとなるように調製する方法は、上記の(本発明の製造方法)に記載した方法と同様の方法を用いることができる。
【0039】
(紅茶の香味の厚みが向上した容器詰紅茶飲料)
本発明の飲料は、紅茶の香味の厚みが向上した容器詰紅茶飲料である。本発明における「紅茶の香味の厚み」とは、紅茶の味のコク、ボディ感または飲みごたえを意味する。
【0040】
本明細書において、「紅茶の香味の厚みが向上した」容器詰無糖紅茶飲料としては、イソバレルアルデヒドの含有濃度が30ppb以下であること以外は、同種の原料を同じ最終濃度となるように用いて同じ製法で製造した飲料(以下、「コントロール飲料」とも表示する。)と比較して、紅茶の香味の厚みが向上した飲料などが挙げられる。ある紅茶飲料において、紅茶の香味の厚みが向上しているかどうかは、コントロール飲料における紅茶の香味の厚みを基準として、例えば複数人のパネルの評価の平均を採用してもよい。
【0041】
(紅茶らしい香味が調和した容器詰紅茶飲料)
本発明の飲料は、紅茶らしい香味が調和した飲料であることが好ましい。本発明において、「紅茶らしい香味」とは、紅茶特有の風味を意味し、「紅茶らしい香味が調和した」とは、紅茶らしい香味が保持されていることを意味する。ある紅茶飲料において、紅茶らしい香味が保持されているかどうかは、パネルによって、容易かつ明確に決定することができる。なお、紅茶らしい香味が保持されていない容器詰紅茶飲料としては、イソバレルアルデヒド濃度が5000ppb以上である容器詰紅茶飲料や、フェネチルアルコール濃度が500ppb以上である容器詰紅茶飲料などが挙げられる。
【0042】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【実施例0043】
試験1.[紅茶の香味の厚みに対する、イソバレルアルデヒドの影響]
紅茶の香味の厚みに対して、イソバレルアルデヒドがどのような影響を与えるかを、以下の実験により調べた。
【0044】
(1.紅茶飲料の調製)
紅茶葉を80℃のお湯に入れて7.5分間抽出し固液分離を行い、紅茶抽出液を作製した。これらの紅茶抽出液のタンニン値を、日本食品分析センター編「五訂 日本食品標準成分分析マニュアルの解説」(日本食品分析センター編、中央法規、2001年7月、p.252)に記載の公定法(酒石酸鉄吸光度法)にて測定した。紅茶抽出液のタンニン濃度を、表2記載のタンニン濃度となるように調整した。
上記の各紅茶抽出液に、ビタミンC及び重曹(炭酸水素ナトリウム)でpH調整後、表2記載の濃度となるようにイソバレルアルデヒドを含有させた後、容器内に充填し、レトルト殺菌(加熱加圧殺菌)処理して、試験例1~5の各サンプル飲料を調製した。また、コントロール飲料として、イソバレルアルデヒド無添加の各サンプル飲料(タンニン濃度200ppm、300ppm、600ppm、620ppm、及び、650ppm)も調製した。
【0045】
(2.官能評価試験)
コントロール飲料と比較した、試験例1~5のサンプル飲料における「紅茶の香味の厚み」(本明細書において、単に「厚み」とも表示する)の向上の程度について、訓練した専門パネル3名によって、以下の表1に記載されるような5段階の評価基準で官能評価試験を行った。なお、1点と2点の厚みの向上の程度の差、2点と3点の厚みの向上の程度の差、3点と4点の厚みの向上の程度の差、4点と5点の厚みの向上の程度の差は、それぞれ同程度とした。また、各試験例のサンプル飲料における厚みの向上の程度の評価としては、各パネルの評価点の平均値の小数第2位を四捨五入した値を採用した。
【0046】
【0047】
なお、表1の評価基準において、紅茶の香味の厚みの向上した紅茶飲料として、評価が2点以上である飲料が挙げられる。
【0048】
試験例1~5のサンプル飲料についての官能評価試験の結果を表2に示す。
【0049】
【0050】
表2の結果から、タンニン濃度が620ppm以下である場合、100ppbのイソバレルアルデヒドによって、紅茶の香味の厚みの向上効果が得られることが示された。尚、各タンニン濃度においてイソバレルアルデヒド無添加の場合をコントロールとした。
【0051】
試験2.[紅茶の香味の厚みに対する、イソバレルアルデヒド濃度の影響]
イソバレルアルデヒド濃度が、紅茶の香味の厚みの向上の程度にどのような影響を与えるかを、以下の実験により調べた。
【0052】
(1.紅茶飲料の調製)
タンニン濃度とイソバレルアルデヒド濃度が表4記載の濃度となるように、試験1に記載の調製法にしたがって、試験例6~11のサンプル飲料をそれぞれ調製した。また、コントロール飲料として、イソバレルアルデヒド無添加の各サンプル飲料(タンニン濃度300ppm)も調製した。
【0053】
(2.官能評価試験)
コントロール飲料と比較した、試験例6~11のサンプル飲料における、紅茶の香味の厚みの向上の程度(すなわち、「厚みの向上の程度」)について、訓練した専門パネル3名によって、上記の表1に記載されるような5段階の評価基準で官能評価試験を行った。
【0054】
また、試験例6~11のサンプル飲料における「紅茶らしい香味の調和」(すなわち、「香味調和」)について、訓練した専門パネル3名によって、以下の表3に記載されるような2段階の評価基準で官能評価試験を行った。なお、各試験例のサンプル飲料における香味の調和の評価としては、各パネルの評価のうち、最も多数が選択した評価を採用した。
【0055】
【0056】
試験例6~11のサンプル飲料についての官能評価試験の結果を表4に示す。
【0057】
【0058】
表4の結果から、イソバレルアルデヒド濃度が100ppb以上の場合には、紅茶の香味の厚みの向上効果が得られることが示された。なお、イソバレルアルデヒド濃度が5000ppbである場合は、イソバレルアルデヒド由来の蒸れ臭が強すぎて、紅茶らしい香味調和がとれなくなることが示された。これらのことから、好ましいイソバレルアルデヒド濃度として、100~1000ppbなどが挙げられることが示された。
【0059】
試験3.[さらにフェネチルアルコールを含む場合の、紅茶の香味への影響]
さらにフェネチルアルコールを含む場合に、紅茶の香味にどのような影響を与えるかを、以下の実験により調べた。
【0060】
(1.紅茶飲料の調製)
タンニン濃度、イソバレルアルデヒド濃度、及び、フェネチルアルコール濃度が表5記載の濃度となるように、試験1に記載の調製法にしたがって、試験例12~13のサンプル飲料をそれぞれ調製した。また、コントロール飲料として、イソバレルアルデヒド無添加かつフェネチルアルコール無添加の各サンプル飲料(タンニン濃度300ppm)も調製した。なお、試験3では、試験1と異なり、イソバレルアルデヒド及びフェネチルアルコールをさらに添加している。
【0061】
また、試験例12~13のサンプル飲料における「紅茶らしい香味の調和」(すなわち、「香味調和」)について、訓練した専門パネル3名によって、上記の表3に記載されるような2段階の評価基準で官能評価試験を行った。
【0062】
試験例12~13のサンプル飲料についての官能評価試験の結果を表5に示す。
【0063】
【0064】
表5の結果から、フェネチルアルコール濃度が500ppb以上であると、香粧品様の花香が強く感じられ、紅茶らしい香味の調和がとれなくなることが示された。これらのことから、容器詰紅茶飲料においては、フェネチルアルコール濃度が好ましくは500ppb未満、より好ましくは400ppb以下であることが示された。