(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090398
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】火災報知器
(51)【国際特許分類】
G08B 17/10 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
G08B17/10 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206286
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】足立 成紀
【テーマコード(参考)】
5C085
【Fターム(参考)】
5C085AA03
5C085AA18
5C085AB09
5C085AC18
5C085BA33
5C085CA04
5C085CA08
5C085CA15
(57)【要約】
【課題】火災の発生に関する誤報知を抑制させることができる火災報知器を得る。
【解決手段】火災報知器(10)は、煙を検知したときに煙検知信号を出力する煙検知部(1)と、ニオイを検知し、検知したニオイに対応する物理量を、ニオイ検知信号として出力するニオイ検知部(2)と、火災が発生したことを発報する発報部(4)と、煙検知部(1)からの煙検知信号、及びニオイ検知部(2)からのニオイ検知信号に基づいて、発報部(4)による発報を制御する制御部(3)と、を備え、制御部(3)は、煙検知部(1)から煙検知信号が出力された際に、ニオイ検知部(2)から出力されるニオイ検知信号をモニタし、ニオイ検知信号に、煙検知部(1)による誤検出要因を特定するためのニオイ検知対象パターンが検出された場合には、発報部(4)による発報を抑止する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
煙を検知したときに煙検知信号を出力する煙検知部と、
ニオイを検知し、検知したニオイに対応する物理量を、ニオイ検知信号として出力するニオイ検知部と、
火災が発生したことを発報する発報部と、
前記煙検知部からの前記煙検知信号、及び前記ニオイ検知部からの前記ニオイ検知信号に基づいて、前記発報部による発報を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部には、前記煙検知部による誤検出要因を特定するためのニオイに関する前記物理量が、ニオイ検知対象パターンとしてあらかじめ記憶されており、
前記制御部は、前記煙検知部から前記煙検知信号が出力された際に、前記ニオイ検知部から出力される前記ニオイ検知信号をモニタし、
前記ニオイ検知信号に前記ニオイ検知対象パターンが検出された場合には、前記発報部による発報を抑止し、
前記ニオイ検知信号に前記ニオイ検知対象パターンが検出されない場合には、前記発報部に発報させる、火災報知器。
【請求項2】
前記ニオイ検知部は、複数種類の感応膜を備えており、各前記感応膜によって検知されたニオイのパターンを前記ニオイ検知信号として出力する
請求項1に記載の火災報知器。
【請求項3】
前記制御部に記憶されている前記ニオイ検知対象パターンは、前記ニオイ検知部を用いて、線香、焼香及び蝋燭の各ニオイに対応するニオイ検知信号を事前に学習した学習済みデータであり、
前記制御部は、前記学習済みデータを用いることにより、前記ニオイ検知信号に前記ニオイ検知対象パターンが検出されたか否かを判定する、請求項1または2に記載の火災報知器。
【請求項4】
前記制御部に記憶されている前記ニオイ検知対象パターンは、前記ニオイ検知部を用いて、石鹸、ボディソープ、およびシャンプーを含む、入浴時に用いられる洗剤のニオイに対応するニオイ検知信号を事前に学習した学習済みデータであり、
前記制御部は、前記学習済みデータを用いることにより、前記ニオイ検知信号に前記ニオイ検知対象パターンが検出されたか否かを判定する、請求項1または2に記載の火災報知器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、火災報知器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火災を早期に検知するためには、火災報知器の煙の検知感度を高く設定することが一般的である。一方、火災報知器の煙の検知感度を高く設定すると、タバコの煙などの火災に起因せずに発生する非火災性の煙を検知してしまい、誤って報知する可能性が高くなる。
【0003】
従来技術として、以下のような火災報知器がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に係る火災報知器には、煙を検出する煙検出部と、煙検出部からの出力信号に基づいて火災か否かを判断し、火災時に火災信号を出力する火災判断部とが備えられている。また、特許文献1に係る火災報知器には、ニコチン臭を検出するニオイ検出部と、ニオイ検出部からの出力信号に基づいて喫煙の発生を判断する喫煙判断部とがさらに備えられている。
【0004】
このような構成により、喫煙判断部が喫煙の発生を判断している時には、火災判断部に対して喫煙信号を出力し、火災信号の出力を停止させることができる。この結果、特許文献1に係る火災報知器においては、タバコの煙に起因する火災の誤報知を抑止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には、以下のような問題がある。
火災報知器が誤報知する非火災性の煙としては、タバコの煙以外にも、例えば、寺院における線香、焼香、蝋燭の燃焼時の煙を挙げることができる。また、シャワーを利用しているときの水蒸気なども、誤報知の要因となる。
【0007】
これに対し、特許文献1に係る火災報知器は、タバコの煙という特定のニオイのみを検知対象としている。このため、タバコの煙以外の非火災性の煙が発生した場合には、これを識別して検知することができず、誤って報知してしまうおそれがあり、種々の非火災性の要因に対して誤報知を抑制させることができる火災報知器が望まれる。
【0008】
本開示は、上記の課題を解決するためになされたものであり、火災の発生に関する誤報知を抑制させることができる火災報知器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る火災報知器は、煙を検知したときに煙検知信号を出力する煙検知部と、ニオイを検知し、検知したニオイに対応する物理量を、ニオイ検知信号として出力するニオイ検知部と、火災が発生したことを発報する発報部と、煙検知部からの煙検知信号、及びニオイ検知部からのニオイ検知信号に基づいて、発報部による発報を制御する制御部と、を備え、制御部には、煙検知部による誤検出要因を特定するためのニオイに関する物理量が、ニオイ検知対象パターンとしてあらかじめ記憶されており、制御部は、煙検知部から煙検知信号が出力された際に、ニオイ検知部から出力されるニオイ検知信号をモニタし、ニオイ検知信号にニオイ検知対象パターンが検出された場合には、発報部による発報を抑止し、ニオイ検知信号にニオイ検知対象パターンが検出されない場合には、発報部に発報させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、火災の発生に関する誤報知を抑制させることができる火災報知器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の実施の形態1における火災報知器の全体構成を示したブロック図である。
【
図2】本開示の実施の形態1における、線香、焼香、蝋燭に関するニオイのパターンを例示する図である。
【
図3】本開示の実施の形態1における制御部による一連動作を示したフローチャートである。
【
図4】本開示の実施の形態1における、製造メーカまたは銘柄の異なる線香についてのニオイのパターンを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の火災報知器の好適な実施の形態につき、図面を用いて説明する。
本開示に係る火災報知器は、煙検知部とニオイ検知部を併用し、煙検知部による誤検出要因を特定するためのニオイに関するニオイ検知対象パターンを、あらかじめ記憶しておく。そして、本開示に係る火災報知器は、煙検知部で煙が検知された際に、ニオイ検知部から出力されたニオイ検知信号を確認し、ニオイ検知対象パターンが信号内に検出された場合には、発報部による発報を抑止する構成を備えていることを技術的特徴としている。
【0013】
以下の実施の形態においては、寺院の屋内に火災報知器を設置するものとし、火災に起因せずに発生する非火災性の煙として、線香、焼香、及び蝋燭の煙を検知した場合、発報部による発報を抑止する態様を具体例として、詳細に説明する。
【0014】
実施の形態1.
図1は、本開示の実施の形態1における火災報知器の全体構成を示したブロック図である。本実施の形態1に係る火災報知器10は、上記のとおり、寺院の屋内に設置されている。
【0015】
火災報知器10は、煙検知部1と、ニオイ検知部2と、制御部3と、発報部4とを備えて構成される。
【0016】
煙検知部1は、周囲に煙が発生しているかどうかをモニタしている。
【0017】
煙検知部1は、例えば光電式スポット型感知器であり、筐体内部の空間に、発光部及び受光部を備えている。設置場所である寺院の屋内に煙が発生し、この煙が煙検知部1の筐体内部に流入すると、発光部からの光が煙の粒子に当たり乱反射する。煙検知部1は、この特性を利用し、受光部が規定を超えた乱反射光を検知した場合、煙を検知したことを示す信号を、制御部3に出力する。この信号を、煙検知信号と称する。
【0018】
ニオイ検知部2は、周囲のニオイをモニタしている。本実施の形態1においては、トランスデューサ及び複数種類の感応膜を備えた水晶振動子式のセンサを、ニオイ検知部2の一例として採用する。また、以下の説明においては、一例として、16種類の感応膜がニオイ検知部2に備えられているものとする。
【0019】
感応膜は、ニオイ成分を吸着すると感応するセンサである。感応膜は、水晶基板の面上に、電極とともに設けられており、電極に電圧が加えられることにより振動する。この感応膜の振動周波数は、ニオイ成分が吸着すると、当該ニオイ成分の重量に応じて変化する。
【0020】
トランスデューサは、感応膜に生ずる振動周波数の変化を検知し、この変化量を、デジタル処理可能な形式のデータに変換する。
【0021】
ニオイ検知部2は、各感応膜に応じたニオイの検出値を、規定の周期によって取得することにより、検出値の時間的な変化をあらわす波形を生成する。ここでは、16種類の感応膜がニオイ検知部2に備えられていることから、ニオイ検知部2は、感応膜の種類に対応して16チャネルの波形を生成することができる。この16チャネルの波形を組み合わせたパターンを、ニオイのパターンまたは単にパターンと称する。
【0022】
図2は、本実施の形態1における、線香、焼香、蝋燭に関するニオイのパターンを例示する図である。
図2において、ニオイ検知部2は、線香、焼香のニオイに関しては、16チャネルのうち1、2番のチャネルが大きく反応し、その他のチャネルについては中程度、若しくは小さく反応するパターンを得ることができる。
【0023】
また、ニオイ検知部2は、蝋燭のニオイに関しては、5、15、16番のチャネルが大きく反応し、その他のチャネルについては中程度、若しくは小さく反応するパターンを得ることができる。
【0024】
このように、ニオイ検知部2は、反応の大きいチャネル、反応の小さいチャネルなどの組み合わせのパターンに基づいて、寺院の屋内で発生しているニオイ成分を識別することができる。
【0025】
すなわち、本実施の形態1において、ニオイ検知部2は、寺院の屋内で発生しているニオイの中に、煙検知部1による誤検出要因を特定するためのニオイとして、線香、焼香、蝋燭のニオイが検出されたか否かをモニタすることができる。
【0026】
このように、本実施の形態1においては、線香、焼香、及び蝋燭のニオイが、ニオイ検知部2によって捕捉すべき検知対象のニオイである。また、線香、焼香、及び蝋燭の少なくともいずれかが燃焼したときのニオイのパターンが、ニオイ検知対象パターンである。
【0027】
ニオイ検知対象パターンは、上記のとおり、煙検知部1による誤検出要因を特定するためのニオイに関するパターンである。加えて、ニオイ検知対象パターンは、複数種類の感応膜によって検知されるニオイのパターンである。
【0028】
ニオイ検知部2は、各感応膜によって検知されたニオイのパターンを、ニオイ検知信号として、制御部3に出力する。
【0029】
なお、ニオイ検知部2によるニオイの検知感度は、煙検知部1による煙の検知感度よりも一般的には高い。すなわち、煙検知部1による煙の検知スピードよりも、ニオイ検知部2によるニオイの検知スピードの方が早いことが期待できる。
【0030】
図1の説明に戻り、制御部3は、煙検知部1からの煙検知信号、及びニオイ検知部2からのニオイ検知信号に基づいて、発報部4による発報を制御するマイコンである。制御部3は、発報制御部3A及びニオイ特定部3Bを備えている。
【0031】
ニオイ特定部3Bは、誤検出要因を特定するためのニオイに関するパターンがニオイ検知部2によって検知されていない通常時においては、発報部4による発報を許可することを示す信号を、発報制御部3Aに出力している。この信号を、許可信号と称する。
【0032】
一方、ニオイ特定部3Bは、ニオイ検知部2から出力されるニオイ検知信号に、線香、焼香、及び蝋燭のニオイのパターンが検出された場合、発報制御部3Aに出力している許可信号をオフにする。
【0033】
本実施の形態1においては、線香が燃焼したときのニオイのパターン、焼香が燃焼したときのニオイのパターン、及び蝋燭が燃焼したときのニオイのパターンを、ニオイ検知部2を用いて事前に学習しておく。
【0034】
また、本実施の形態1においては、線香と焼香とが同時に燃焼したときのニオイのパターンなど、2つの物品が同時に燃焼したときのニオイのパターンを、ニオイ検知部2を用いて事前に学習しておくこともできる。
【0035】
さらに、本実施の形態1においては、線香、焼香及び蝋燭の3つの物品が同時に燃焼したときのニオイのパターンを、ニオイ検知部2を用いて事前に学習しておくこともできる。
【0036】
そして、これらの学習済みデータを、ニオイ特定部3Bに記憶させる。ニオイ特定部3Bは、これらの学習済みデータを用いることにより、ニオイ検知信号に、線香、焼香、及び蝋燭のニオイのパターンが検出されたか否かを判定する。ニオイ特定部3Bは、ニオイ検知信号に、線香、焼香、及び蝋燭のニオイのパターンが検出された場合、許可信号をオフにする。
【0037】
ここでは、学習済みデータを用いて、AI(Artificial Intelligence)によって線香、焼香、及び蝋燭のニオイのパターンを検出する方法を採用している。この方法に代えて、事前に定められたルールに基づき、線香、焼香、及び蝋燭のニオイのパターンを検出する方法を採用してもよい。この場合、例えば、線香、焼香、及び蝋燭のニオイの基準となるパターンをニオイ特定部3Bに記憶しておく。そして、ニオイ特定部3Bは、この基準となるパターンとニオイ検知部2から得られたニオイのパターンとの相違が許容範囲内であるかを判定することにより、線香、焼香、及び蝋燭のニオイのパターンを検出する。
【0038】
発報制御部3Aは、煙検知信号がオンであり、且つ、許可信号がオンである場合、火災が発生した旨を示す信号を、発報部4に出力する。この信号を、発報指令信号と称する。一方、発報制御部3Aは、煙検知信号または許可信号のいずれか一方または両方がオフである場合、発報指令信号の出力をオフにする。
【0039】
発報部4は、火災警報を発報する警報機であり、アンプ及びスピーカを含んでいる。発報部4は、制御部3からの発報指令信号がオフからオンに切り替わると、火災警報を発報する。発報部4は、制御部3からの発報指令信号がオンからオフに切り替わると、火災警報を停止する。
【0040】
なお、発報部4には、無線通信または有線通信を可能にする通信機器が備えられていてもよい。通信機器を備えている場合、発報部4は、発報指令信号がオフからオンに切り替わると、火災が発生した旨の電文を、遠方に設置されている図示しない外部装置に送信する。一方、発報部4は、発報指令信号がオンからオフに切り替わると、火災が収まった旨の電文を、外部装置に送信する。
【0041】
図3は、本開示の実施の形態1における制御部3による一連動作を示したフローチャートである。なお、制御部3は、火災報知器10の電源がオフになるまで、
図3に示すフローチャートを繰り返し実行する。
【0042】
制御部3は、ステップS101において、煙検知部1から煙検出信号が入力されたか否かを判定する。制御部3は、煙検知信号が入力されていない場合、ステップS103において、発報指令信号をオフにして、一連処理を終了する。このステップS103により、発報部4は、発報していない状態である場合はその停止状態を維持し、発報している状態である場合はその発報動作を停止する。
【0043】
一方、制御部3は、ステップS101において、煙検知信号が入力された場合、寺院の屋内において煙が検知されたとして、ステップS102に処理を進める。
【0044】
制御部3は、ステップS102において、ニオイ検知対象パターン、すなわち、線香、焼香及び蝋燭の少なくともいずれかに起因するニオイのパターンが、ニオイ検知信号に検出されたか否かを判定する。ここで、線香、焼香及び蝋燭による煙のニオイは、火災に起因する煙のニオイとは異なり、煙検知部1による誤検出要因が発生した際のニオイに相当する。
【0045】
制御部3は、ニオイ検知対象パターンがニオイ検知信号に検出された場合、ステップS103に処理を進める。そして、制御部3は、ステップS103において、発報指令信号をオフにして、一連処理を終了する。
【0046】
一方、制御部3は、ニオイ検知対象パターンがニオイ検知信号に検出されない場合、線香、焼香及び蝋燭による誤検出要因は発生していないとして、ステップS104に処理を進める。
【0047】
制御部3は、ステップS104において、発報指令信号をオンにして、火災が発生したことを、発報部4に発報させる。このステップS104により、発報部4は、発報している状態である場合はその発報状態を維持し、発報していない状態である場合は発報動作を開始する。
【0048】
制御部3は、ステップS104の後、一連処理を終了する。
【0049】
なお、ニオイの検知精度を高くするために、火災報知器10を設置する寺院において常用されている特定メーカ、特定銘柄の線香、焼香、及び蝋燭を用意し、ニオイ検知部2を用いて、これらのニオイのパターンを学習させておくことが考えられる。すなわち、誤検出要因となり得る、より多くのニオイ検知対象パターンを事前に学習させておくことが考えられる。
【0050】
図4は、本開示の実施の形態1における、製造メーカまたは銘柄の異なる線香についてのニオイのパターンを例示する図である。
【0051】
たとえ同じ線香同士であっても、メーカまたは銘柄が異なれば、含有している成分が異なる。このため、
図4に示すように、メーカまたは銘柄によって、検知されるニオイのパターンに差異が生じる。ここでは線香を例示したが、焼香及び蝋燭においても、同様である。
【0052】
このため、設置する寺院が常用しているメーカ及び銘柄の線香、焼香、及び蝋燭を用意し、これらのニオイを学習させることにより、常用しているメーカ及び銘柄の全てのニオイを考慮して、ニオイの検知精度をさらに高めることができる。
【0053】
なお、煙の検知に関しては、光電式スポット型感知器以外の全ての煙検出装置を対象とすることができる。このような煙検出装置としては、例えば、光電式分離型感知器、イオン化式スポット型感知器、吸引式煙感知器、画像監視煙検知装置を挙げることができる。
【0054】
また、ニオイの検知に関しては、ニオイ成分の検出濃度範囲を広範囲なものにするため、感度の異なる複数種類のトランスデューサをニオイ検知部2に備えてもよい。この場合、トランスデューサごとに、複数種類の感応膜が備えられる。
【0055】
また、ニオイ検知対象パターンとして、線香、焼香及び蝋燭のニオイに替えて、または、これらのニオイに加えて、タバコの各銘柄のニオイのパターンを学習し、当該学習済みデータを用いてもよい。これにより、本実施の形態1の態様を、喫煙ルームにも適用させることができる。
【0056】
また、ニオイ検知対象パターンとして、線香、焼香及び蝋燭のニオイに替えて、または、これらのニオイに加えて、ニオイ検知部2を用いて、石鹸、シャンプー、ボディソープ、その他の入浴時に用いられる洗剤のニオイのパターンを、事前に学習しておく。そして、この学習済みデータを、火災報知器10の制御部3に記憶させ、宿泊施設の客室に設置してもよい。これにより、煙検知部1が入浴後の水蒸気を検知しても、火災が発生したものと誤って報知しないようにすることができる。
【0057】
上記の各例のように、検知対象パターンを設置場所に応じてカスタマイズすることにより、火災報知器10は、設置場所に応じた検知動作を行うことができる。すなわち、線香、焼香及び蝋燭のニオイ、タバコのニオイ、シャンプー、ボディソープなどの洗剤のニオイなど、火災に起因する煙のニオイとは異なる、煙検知部1による誤検出要因が発生した際のニオイを、設置場所に応じてニオイ検知対象パターンとして事前に学習させておくことができる。
【0058】
また、誤検出要因を特定するための各ニオイのパターンを学習する代わりに、本来の検知対象である、火災に起因する煙のニオイのパターンを学習させてもよい。この場合、ニオイ特定部3Bは、通常時においては、許可信号の出力をオフにし、検知対象である火災に起因する煙のニオイを検知した場合、許可信号をオンにする。
【0059】
これにより、
図3のフローチャートにおいて、検知対象のニオイが検知された場合に発報指令信号がオンになり、検知対象のニオイが検知されない場合に発報指令信号がオフになる。換言すると、煙検知部1での煙検知に加え、火災に起因する煙のニオイを検出できたことをAND条件として加味することで、火災の発生に関する誤報知を抑制させることが可能となる。
【0060】
また、火災に起因する煙のニオイのパターンと、誤検出要因を特定するためのパターンとの両方を学習させておき、両方の学習済みデータを相互に切り替えることができるようにしてもよい。この場合、許可信号のオン及びオフの出力内容も相互に切り替わるものとする。
【0061】
また、火災に起因する煙のニオイを検知対象にする場合において、許可信号のオン及びオフの制御に代えて、煙検知部1の煙の検知感度を調整するようにしてもよい。この場合、制御部3は、火災に起因する煙のニオイが検知されたときは、煙の検知感度を高く設定するようにすることができる。
【0062】
この結果、常に検知感度を高くすることにより誤検知する可能性を高めてしまうことを抑制しつつ、ひとたび、火災に起因する煙のニオイが検知された後には、検知感度を高めることで煙検知部1により迅速に煙検知することが可能となる。
【0063】
なお、上述した実施の形態1では、ニオイ検知部として、複数種類の感応膜を備えており、各感応膜によって検知されたニオイのパターンをニオイ検知信号として出力するセンサを採用する場合を具体例として説明したが、本開示に係るニオイ検知部は、このような複数種類の感応膜を備えた構成を有するセンサに限定されるものではない。
【0064】
例えば、ニオイ検知部として、以下のような半導体式センサを用いることも可能である。半導体式センサとは、半導体表面におけるニオイ分子の吸着と表面反応によって半導体の抵抗値が変化することを利用する方式を採用するものである。センサ部の上面には、感ガス材料である酸化物半導体SnO2(酸化錫)がアルミナ基板上に形成される。一方、センサ部の下面には、加熱用のヒータが取り付けられる。
【0065】
清浄な空気中に置かれた場合、感ガス素子の表面上に酸素が吸着する。酸素は、電子親和力があるため、感ガス素子中の電子をとらえる。このとき、電子の流れが妨げられることから、感ガス素子内部の電気抵抗が増大する。
【0066】
一方、臭気ガス中に置いた場合、感ガス素子の表面で臭気ガスと吸着酸素との酸化反応が起こり、吸着酸素が取り去られる。そのため、電子は動きやすくなり、電気抵抗が低下する。
【0067】
ニオイ分子の多くは、還元性のガス体であり、ガスが感ガス素子に接触することで電気抵抗か低下する。従って、大気中に含まれるニオイ分子に応じて電気抵抗が変化するので、電気抵抗の変化を電圧に変換した値をニオイ検知信号として用いることで、ニオイを電気的に識別して検出できる。
【0068】
すなわち、本開示に係るニオイ検知部としては、監視エリアで発生したニオイを検知し、検知したニオイに対応する物理量をニオイ検知信号として出力することができる任意の方式を適用することが可能であり、設置現場、用途等に応じて所望の方式のニオイ検知部を採用することができる。また、複数方式のニオイ検知部を併用することも可能である。
【0069】
複数の感応膜を用いる方式では、感応膜の種類を増やし、より多くのチャネル数に基づくニオイのパターンを採用することで、ニオイの識別力を向上させることができる。また、半導体式センサを用いた場合には、ヒータにより加熱されているため、湿度の影響を極めて少なくできるメリットがある。
【0070】
このような火災報知器10の特徴を整理すると、以下のような構成を有し、効果を実現できることとなる。
【0071】
火災報知器10は、煙を検知したときに煙検知信号を出力する煙検知部1と、ニオイを検知し、検知したニオイに対応する物理量を、ニオイ検知信号として出力するニオイ検知部2とを備える。また、火災報知器10は、火災が発生したことを発報する発報部4と、煙検知部1からの煙検知信号、及びニオイ検知部2からのニオイ検知信号に基づいて、発報部4による発報を制御する制御部3とを備える。
【0072】
また、制御部3には、煙検知部1による誤検出要因を特定するためのニオイに関する物理量が、ニオイ検知対象パターンとしてあらかじめ記憶されている。制御部3は、煙検知部1から煙検知信号が出力された際に、ニオイ検知部2から出力されるニオイ検知信号をモニタする。制御部3は、ニオイ検知信号にニオイ検知対象パターンが検出された場合には、発報部4による発報を抑止し、ニオイ検知信号にニオイ検知対象パターンが検出されない場合には、発報部4に発報させる。
【0073】
このような構成を有する火災報知器10を採用することにより、煙を検知した際、周囲に発生しているニオイに応じた発報制御を行うことができる。また、複数種類の感応膜を備えることにより、複数種類のニオイを区別して検知することができ、検知精度を向上させることができる。このため、火災の発生に関する誤報知を抑制させることができる。
【0074】
また、制御部3に記憶されているニオイ検知対象パターンは、ニオイ検知部2を用いて、火災に起因する煙のニオイとは異なる、煙検知部1による誤検出要因を特定するための各ニオイのパターンを事前に学習した学習済みデータである。制御部3は、当該学習済みデータを用いることにより、ニオイ検知信号にニオイ検知対象パターンが検出されたか否かを判定する。
【0075】
このような火災報知器10を得ることにより、設置場所に応じて発生する誤検出要因のニオイを考慮して発報制御を行うことができ、種々の設置環境において火災の発生に関する誤報知を抑制させることができる。
【符号の説明】
【0076】
1 煙検知部、2 ニオイ検知部、3 制御部、3A 発報制御部、3B ニオイ特定部、4 発報部、10 火災報知器。