(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090404
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】光半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/227 20060101AFI20240627BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
H01S5/227
H01S5/343
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206296
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】夫馬 宗一郎
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA26
5F173AA48
5F173AH02
5F173AH12
5F173AP13
5F173AP32
5F173AP37
5F173AR87
(57)【要約】
【課題】製造工程中にAl系クラッド層が大気中に暴露されないようにし、Al系クラッド層の酸化による光半導体素子の特性劣化が生じない光半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】n型半導体基板10上に、少なくとも活性層11と保護層13とを含む半導体層群を順次積層する工程と、半導体層群の上にマスク層14を形成する工程と、半導体層群およびn型半導体基板をエッチングしてマスク層の下にメサ部21を形成する工程と、メサ部の両側面側に電流ブロック部22を形成し、メサ部を埋め込む工程と、マスク層を除去した後、電流ブロック部は残したまま半導体層群を活性層の近傍まで選択エッチングする工程と、選択エッチングされた箇所と電流ブロック部の上部を共通に覆うAl系p型半導体クラッド層18を形成し、続けてAl系p型半導体クラッド層の上にp型半導体クラッド層19を形成する工程とを含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型半導体基板(10)の上に、少なくとも活性層(11)と保護層(13)とを含む半導体層群(20)を順次積層する積層工程と、
前記半導体層群の上にマスク層(14)を形成するマスク形成工程と、
前記半導体層群および前記n型半導体基板をエッチングして前記マスク層の下にメサ部(21)を形成するメサ形成工程と、
前記メサ部の両側面(21a,21b)側に電流ブロック部(22)を形成し、前記メサ部を埋め込む埋め込み工程と、
前記マスク層を除去した後、前記電流ブロック部は残したまま前記半導体層群を前記活性層の近傍まで選択エッチングする選択エッチング工程と、
前記選択エッチングされた箇所と前記電流ブロック部の上部を共通に覆うAl系p型半導体クラッド層(18)を形成し、続けて前記Al系p型半導体クラッド層の上にp型半導体クラッド層(19)を形成するクラッド層形成工程と、
を含む光半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記半導体層群は、前記活性層の上に真性半導体層(12)と前記真性半導体層とは組成の異なる前記保護層(13)とがこの順で積層されて構成されている、請求項1に記載の光半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記保護層は、前記半導体層群のうち最大の層厚を有する、請求項2に記載の光半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記選択エッチング工程では、前記保護層を除去し、前記真性半導体層を維持する、請求項2に記載の光半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記積層工程で積層される前記真性半導体層は、10nm以上20nm以下の厚みを有する、請求項4に記載の光半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記n型半導体基板は、n型InPを含み、前記Al系p型半導体クラッド層は、p型InAlAsまたはp型InGaAlAsを含み、前記p型半導体クラッド層は、p型InPを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の光半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記メサ形成工程で形成される前記メサ部は、前記n型半導体基板に平行でかつ前記メサ部の前記両側面に平行な方向である長手方向に垂直な断面で見て等脚台形である、請求項1に記載の光半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体素子の製造方法に関し、特に埋め込みヘテロ構造を有する光半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、埋め込みヘテロ構造の光半導体素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
埋め込みヘテロ構造の光半導体素子は、例えば、n型半導体基板上にn型半導体クラッド層と、活性層と、p型半導体クラッド層とをこの順に積層して構成されるメサ部が、その両側の側面をp型半導体埋め込み層とn型半導体埋め込み層とで埋め込まれた埋め込みヘテロ構造を有している。p型半導体埋め込み層とn型半導体埋め込み層によりpnpn接合を形成し、埋め込み層側を流れる電流を阻止し、活性層に効率よく電流が流れるようにしている。
【0004】
図1は、活性層の両側にn型半導体クラッド層とp型半導体クラッド層が形成された光半導体素子の伝導帯のエネルギーレベルを示している。
図1の活性層は、MQW(Multi Quantum Well)層とその両側のSCH(Separated Confinement Heterostructure)層とを含んでいる。n型半導体クラッド層およびp型半導体クラッド層は、活性層よりも伝導帯のエレルギーレベルが高く、かつ活性層よりも屈折率が小さくなっているので、キャリア(電子)および光は活性層に閉じ込められるようになっている。しかしながら、
図1に示すように、活性層の温度上昇に伴い、活性層のキャリア電子がp型半導体クラッド層側からオーバーフローし、活性層での発光に寄与するキャリア再結合効率が低下する問題があった。
【0005】
このキャリアのオーバーフローを抑止するための主なアプローチとして、以下の2つが考えられる。
(i)p型不純物のドーピング濃度を上げたキャリアブロック層をp型クラッド層に導入してポテンシャル障壁を設け、キャリアオーバーフローを抑止する手法(
図3参照)、および
(ii)p型半導体クラッド層よりポテンシャルエネルギーの高いアルミニウム(Al)系半導体クラッド層を導入する手法。
【0006】
図3は、p型半導体クラッド層38にキャリアブロック層36が導入された光半導体素子の構造を示す。n型半導体クラッド層30とp型半導体クラッド層38とに挟まれた活性層31は、多重量子井戸構造(MQW)層33とその上下に設けられた光閉込構造(SCH)層32および34とを含んでいる。p型半導体クラッド層38は、例えば、活性層31側から順に不純物濃度の低いp
--InP層35と、不純物濃度の高いp
+-InPキャリアブロック層36と、p-InP層37とを含んでいる。
【0007】
(i)および(ii)の手法により、p型半導体クラッド層よりポテンシャル障壁の高いキャリアブロック層またはAl系半導体クラッド層を導入すると、
図2に示すように、p型半導体クラッド層のポテンシャル障壁を持ち上げることができ、キャリアオーバーフローを抑止することができる。
【0008】
しかしながら、(i)の手法では、キャリアブロック層36のp型不純物のドーピング濃度を上げればIVBA(Inter Valence Band Absorption)効果による光損失が増大してしまうという問題があった。
【0009】
(ii)の手法に関しては、特許文献1に、p型半導体クラッド層において活性領域に接する側の境界に、p型インジウム・アルミニウム・ヒ素(InAlAs)またはp型インジウム・ガリウム・アルミニウム・ヒ素(InGaAlAs)からなる第2の半導体クラッド層を設けることが記載されている。第2の半導体クラッド層は、p型半導体クラッド層よりもさらにエネルギーギャップが大きくかつ活性領域から見て少なくとも伝導帯のヘテロ接合障壁エネルギーレベルが、活性領域とp型半導体クラッド層とを直接接合した時の伝導帯のヘテロ接合障壁エネルギーレベルよりも高くなる材料であり、かつp型半導体クラッド層よりも屈折率が大きい材料から構成されている。
【0010】
ここで、特許文献1に記載のような埋め込みヘテロ構造の光半導体素子の従来の製造方法を、
図6および
図7を参照しつつ説明する。
【0011】
図6(a)に示すように、まず、例えばn型InPからなるn型半導体基板110の上に活性層111および複数の半導体層(以下、半導体層群という)をこの順でエピタキシャル成長させる。
図6(a)において半導体層群120は、活性層111とAl系p型半導体クラッド層118とp型半導体クラッド層112と保護層113とを含む。p型半導体クラッド層112は、例えばp型インジウム・リン(p-InP)から構成され、Al系p型半導体クラッド層118は、p型InAlAsまたはp型InGaAlAsから構成され、保護層113は、例えばインジウム・ガリウム・ヒ素・リン(InGaAsP)やインジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)から構成されている。
【0012】
次に、
図6(b)に示すように、半導体層群120上に、例えば二酸化ケイ素(SiO
2)からなるマスク層114を形成し、その上にフォトレジスト115を塗布する。次に、
図6(c)に示すように、フォトリソグラフィ技術などにより露光・現像を行なって同図紙面に垂直な方向に細長いストライプ状のマスク層114を形成し、エッチングによりストライプ状のマスク層114下に細長いストライプ状のメサ部121を形成する。メサ部121は、n型半導体基板110の一部と、活性層111と、Al系p型半導体クラッド層118と、p型半導体クラッド層112と、保護層113とを含む。メサ部121は、メサ部121の長手方向(同図紙面に垂直な方向)に垂直な断面で見て等脚台形になっている。断面が等脚台形のメサ部121は、ウエットエッチングにおいて縦方向(積層方向)のエッチングレートと横方向(積層方向とストライプ延在方向の両方に垂直な方向)のエッチングレートが異なることによって形成される。
【0013】
次に、
図7(d)に示すように、メサ部121の対向する両側面121a、121b側にp型電流ブロック層116とn型電流ブロック層117とからなる電流ブロック部122を再成長させ、埋め込みヘテロ構造を形成する。p型電流ブロック層116は、例えばp型InPで構成され、n型電流ブロック層117は、例えばn型InPで構成されている。
【0014】
次に、
図7(e)に示すように、ストライプ状のマスク層114を除去した後、電流ブロック部122は残したまま、保護層113をp型半導体クラッド層112の表面まで選択エッチングする。
【0015】
最後に、
図7(f)に示すように、選択エッチングされた箇所および
図7(d)に示す工程で再成長させたp型電流ブロック層116およびn型電流ブロック層117の上からp型半導体クラッド層119をエピタキシャル成長させる。p型半導体クラッド層119は、例えばp型InPから構成される。このようにして製造した埋め込みヘテロ構造の光半導体素子では、電流ブロック部122に流れる電流を阻止することで活性層111に効率よく電流を流すことができるとともに、Al系半導体クラッド層により活性層111からのキャリアオーバーフローを抑止することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
特許文献1に記載のようにAl系半導体クラッド層を導入する場合、
図6(a)に示す活性層111等の積層工程で、Al系p型半導体クラッド層118を含む半導体層群120をn型半導体基板110上に予め積層しておき、その積層基板からエッチングによりメサ部121を形成するのが一般的である。
【0018】
しかしながら、従来の製造方法では、
図6(c)に示す工程においてストライプ状のマスク層114下に、ウエットエッチングによりメサ部121を形成すると、エッチング液から基板を引き上げたときメサ部121の側面121a、121bに露出したAl系p型半導体クラッド層118の部分が大気中に暴露されてしまうため、Al系p型半導体クラッド層118の酸化により光半導体素子の特性劣化が生じるという問題があった。この問題はドライエッチングでも同様に起こり得る。特許文献1においても、Al系p型半導体クラッド層118の酸化による光半導体素子の特性劣化については、何ら考慮されていなかった。
【0019】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、製造工程中にAl系クラッド層が大気中に暴露されないようにし、Al系クラッド層の酸化による光半導体素子の特性劣化が生じない光半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の光半導体素子の製造方法は、n型半導体基板(10)の上に、少なくとも活性層(11)と保護層(13)とを含む半導体層群(20)を順次積層する積層工程と、前記半導体層群の上にマスク層(14)を形成するマスク形成工程と、前記半導体層群および前記n型半導体基板をエッチングして前記マスク層の下にメサ部(21)を形成するメサ形成工程と、前記メサ部の両側面(21a,21b)側に電流ブロック部(22)を形成し、前記メサ部を埋め込む埋め込み工程と、前記マスク層を除去した後、前記電流ブロック部は残したまま前記半導体層群を前記活性層の近傍まで選択エッチングする選択エッチング工程と、前記選択エッチングされた箇所と前記電流ブロック部の上部を共通に覆うAl系p型半導体クラッド層(18)を形成し、続いて前記Al系p型半導体クラッド層の上にp型半導体クラッド層(19)を形成するクラッド層形成工程と、を含むことを特徴とする。
【0021】
上述のように、本発明の光半導体素子の製造方法では、メサ形成工程の後に、選択エッチング工程で電流ブロック部は残したまま半導体層群を活性層の近傍まで選択エッチングし、クラッド層形成工程にて選択エッチング箇所と電流ブロック部の上部を共通に覆うAl系p型半導体クラッド層を形成し、続けてAl系p型半導体クラッド層上にp型半導体クラッド層を形成するようにしている。従来のように始めの積層工程にて活性層11上にAl系p型半導体クラッド層を予め積層していないので、メサ形成工程にて半導体層群およびn型半導体基板の一部をエッチングしてマスク層下にメサ部を形成したときに、Al系p型半導体クラッド層が大気中に暴露されることがない。これにより、製造工程中にAl系p型半導体クラッド層が酸化することで起こる光半導体素子の特性劣化が生じることがない。
【0022】
本発明の光半導体素子の製造方法において、前記半導体層群は、前記活性層の上に真性半導体層(12)と前記真性半導体層とは組成の異なる前記保護層(13)とがこの順で積層された構成であってもよい。
【0023】
この構成により、活性層上に真性半導体層を形成しているので、クラッド層形成工程でAl系p型半導体クラッド層を形成する際に活性層に不純物が拡散して活性が劣化することを防止することができる。
【0024】
本発明の光半導体素子の製造方法において、前記保護層は、前記半導体層群のうち最大の層厚を有する構成であってもよい。
【0025】
この構成により、選択エッチング工程で除去すべき半導体層群の部分のうち最も厚い部分を占める保護層を除去することで、効率よくエッチングすることができる。
【0026】
本発明の光半導体素子の製造方法において、前記選択エッチング工程では、前記保護層を除去し、前記真性半導体層を維持するようにしてもよい。
【0027】
この構成では、例えば、真性半導体層とは組成の異なる保護層だけを全部除去し真性半導体層を残すようにエッチング液を適切に選択することにより、削除する層の厚みが大きい場合でも選択エッチングを確実に行うことができる。
【0028】
本発明の光半導体素子の製造方法において、前記積層工程で積層される前記真性半導体層は、10nm以上20nm以下の厚みを有する構成であってもよい。
【0029】
この構成により、選択エッチングにて保護層のみを削除し、薄層の真性半導体層を残すことで、半導体層群を活性層の近傍まで確実に選択エッチングすることができる。
【0030】
本発明の光半導体素子の製造方法において、前記n型半導体基板は、n型InPを含み、前記Al系p型半導体クラッド層は、p型InAlAsまたはp型InGaAlAsを含み、前記p型半導体クラッド層は、p型InPを含む構成であってもよい。
【0031】
この構成により、キャリア損失を抑えるためにp型クラッド層の不純物のドーピング濃度を上げた場合に比べて、IVBA効果による光損失が増大することを防ぎつつ、p型クラッド層のポテンシャル障壁を上げて、キャリアの損失を防止することができる。
【0032】
本発明の光半導体素子の製造方法において、前記メサ形成工程で形成される前記メサ部は、前記n型半導体基板に平行でかつ前記メサ部の両側面に平行な方向である長手方向に垂直な断面で見て等脚台形であってもよい。
【0033】
本発明の光半導体素子の製造方法では、半導体層群をエッチングしてマスク層下にメサ部を形成するメサ形成工程において、半導体層群にAl系の半導体層が含まれていないので、メサ部の側面に凹凸が生じ難く、メサ部を等脚台形の断面形状に成形するのが容易である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、製造工程中にAl系クラッド層が大気中に暴露されないようにし、Al系クラッド層の酸化による光半導体素子の特性劣化が生じない光半導体素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】光半導体素子の伝導帯のエネルギーレベルを示す。
【
図2】p型クラッド層にキャリアブロック層またはAl系クラッド層が導入された光半導体素子の伝導帯のエネルギーレベルを示す。
【
図3】p型クラッド層にキャリアブロック層が導入された光半導体素子の構造を示す。
【
図4】本発明の実施形態に係る光半導体素子の製造工程を示す図である。
【
図5】
図4に続く光半導体素子の製造工程を示す図である。
【
図6】従来の光半導体素子の製造工程を示す図である。
【
図7】
図6に続く光半導体素子の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態に係る光半導体素子の製造方法について、図面を参照して説明する。本発明の実施形態に係る光半導体素子の製造方法は、以下で説明するように、(A)~(G)の7工程を含む。
【0037】
(A)積層工程:n型半導体基板10の上に、少なくとも活性層11と上部に保護層13とを含む複数の半導体層(以下、半導体層群20という)を順次積層する(
図4(a))。
【0038】
n型半導体基板10は、例えば化合物半導体材料から構成され、例えば、n型インジウム・リン(InP)からなる基板が好ましい。活性層11は、レーザ、光増幅器、SLD(Super Luminescent Diode)などの機能を実現する層であり、例えば、ノンドープのInGaAsまたはノンドープのInGaAsPまたはこれらの組合せからなる多重量子井戸構造を有している。半導体層群20は、活性層11と真性半導体層12と保護層13とをこの順で含んでもよい。真性半導体層12は、ノンドープの真性半導体または超低ドープのp型半導体からなり、例えば、i型(すなわちノンドープ)InPで構成される。保護層13の材料は、例えば、発光波長がInPより長いインジウム・ガリウム・ヒ素・リン(InGaAsP)やインジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)といった四元ないしは三元混晶半導体が用いられ、比較的厚い層で構成される。保護層13をInGaAsPやInGaAsの四元ないしは三元混晶半導体で構成すると、後で説明する選択エッチング工程において、例えばInPで構成された真性半導体層12には作用せず保護層13に選択的に作用するエッチング液を用いて、選択エッチング(ウエットエッチング)を行うことができる。半導体層群20は、活性層11の下側に、n型半導体基板10と組成の異なる化合物半導体材料から構成されたn型半導体クラッド層を含んでもよい。
【0039】
積層方法としては、例えば、有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)等の気相エピタキシャル成長法、液相エピタキシャル成長法、固相エピタキシャル成長法、分子線エピタキシャル成長法(Molecular Beam Epitaxy:MBE)等を用いることができる。積層工程では、例えば、n型InPの半導体基板10上に活性層11、i型InPの真性半導体層12、およびInGaAsPの保護層13をこの順でエピタキシャル成長させる。この段階で、従来技術のようにAl系p型半導体クラッド層は形成しない。
【0040】
(B)マスク形成工程:半導体層群20の保護層13の上面にストライプ状のマスク層14を形成する(
図4(b)、(c))。
【0041】
マスク層14は、例えば、二酸化ケイ素(SiO
2)、窒化シリコン(SiNx)等で構成することができる。マスク形成工程では、半導体層群20の保護層13の上に、例えば、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によりSiO
2から構成されたマスク層14を全面に堆積させ、その上にフォトレジスト15を塗布し、フォトリソグラフィ技術により露光・現像を行なってストライプ状のマスク層14を形成する。ストライプ状のマスク層14は、
図4(c)の紙面に垂直な方向に細長く延びた形状を有している。
【0042】
(C)メサ形成工程:ストライプ状のマスク層14をエッチングマスクとして、半導体層群20およびn型半導体基板10の一部をウエットエッチングまたはドライエッチングし、マスク層14の下にストライプ状のメサ部21を形成する(
図4(c))。
【0043】
ウエットエッチングのエッチング液としては、例えば、塩酸系エッチャント、硫酸系エッチャント等、半導体層群20およびn型半導体基板10に作用するものを用いることができる。半導体層群20およびn型半導体基板10の一部をウエットエッチングまたはドライエッチングして、
図4(c)の紙面に垂直な方向に細長いストライプ状のメサ部21を形成する。
図4(c)に示すメサ部21の断面形状は等脚台形であるが、これに限定されず、
図4(c)と上下が逆の台形であったり、長方形、正方形などであったりしてもよい。この段階ではまだAl系p型半導体クラッド層は形成されていないので、従来技術のようにAl系p型半導体クラッド層が大気中に露出することはない。
【0044】
(D)埋め込み工程:メサ部21の対向する両側面21a、21b側にp型半導体層16とn型半導体層17とを含む電流ブロック部22を形成し、メサ部21を埋め込んで埋め込みヘテロ構造を形成する(
図5(d))。
【0045】
p型半導体層16は、例えばp型InPで構成することができ、n型半導体層17は、例えばn型InPで構成することができる。埋め込み工程では、マスク層14を成長阻害マスクとして利用して、メサ部21の両側に、例えば、MOCVD法等により、例えばp-InPからなるp型半導体層16とn-InPからなるn型半導体層17とをこの順で再成長させ、埋め込みヘテロ構造を形成する。埋め込み工程で用いるエピタキシャル成長法は、積層工程(A)と同じであるが、異なる方法を用いてもよい。
【0046】
(E)選択エッチング工程:マスク層14を除去した後、電流ブロック部22は残したまま半導体層群20を活性層11の近傍まで選択エッチングする(
図5(e))。
【0047】
選択エッチング工程では、マスク層14をフッ酸等の溶剤で除去した後、選択エッチングにより、p型半導体層16およびn型半導体層17は残したまま、活性層11の近傍まで保護層13および必要に応じて真性半導体層12の一部または全部を除去する。活性層11の近傍とは、活性層11の表面からの距離が、例えば5nm以上40nm以下、好ましくは10nm以上30nm以下、より好ましくは10nm以上20nm以下である。活性層11の近傍というときは、活性層11の表面からの距離が0nmの場合、すなわち真性半導体層12を全部除去する場合も含むものとする。選択エッチングは、ウエットエッチングまたはドライエッチングで行うことができ、ウエットエッチングでは、例えば、硫酸系エッチャント等、保護層13に作用するものを用いることができる。選択エッチングにより、保護層13は全部削除されるが、真性半導体層12は例えば10nm以上20nm以下程度の厚みの薄膜として残すのが好ましい。
【0048】
(F)クラッド層形成工程:選択エッチングされた箇所と電流ブロック部22の上部を共通に覆うAl系p型半導体クラッド層18を形成し、続けてAl系p型半導体クラッド層18上にp型半導体クラッド層19を形成する(
図5(f))。
【0049】
Al系p型半導体クラッド層18は、例えば、InAlAsまたはInGaAlAs等で構成することができる。本工程では、選択エッチング工程(E)で選択エッチングされた箇所および埋め込み工程(D)で形成したp型半導体層16とn型半導体層17の上に、例えば、MOCVD法等の気相エピタキシャル成長法や液相エピタキシャル成長法等により、Al系p型半導体クラッド層18をエピタキシャル成長させる。
【0050】
エピタキシャル成長させたAl系p型半導体クラッド層18の上に続けて同じ方法あるいは異なる方法でp型半導体クラッド層19をエピタキシャル成長させることで、選択エッチングされた箇所にAl系p型半導体クラッド層18を埋め込むようにする。p型半導体クラッド層19は、例えば、p型InPで構成することができる。クラッド層形成工程で用いるエピタキシャル成長法は、積層工程(A)と同じであるが、異なる方法を用いてもよい。Al系p型半導体クラッド層18を大気に露出しないようにする観点から、Al系p型半導体クラッド層18とp型半導体クラッド層19は同じ装置で続けて積層させるのが好ましい。
【0051】
(G)電極形成工程:必要に応じて、p型半導体クラッド層19の上面にp電極を形成し、n型半導体基板10の下面にn電極を形成する。
【0052】
最後に、必要に応じて、(A)から(G)までの工程を経て製造された光半導体素子のn型半導体基板10等を含むウエハを劈開、ダイシング等の分離方法を用いて、個々の光半導体素子に分離する。このようにして製造した埋め込みへテロ構造の光半導体素子は、電流ブロック部22に流れる電流を阻止することで活性層11に効率よく電流を流すことができ、Al系p型半導体クラッド層18によって活性層11からのキャリアオーバーフローを抑止することができるとともに、製造工程中にAl系半導体クラッド層18が大気中に暴露されないので、Al系半導体クラッド層18の酸化により光半導体素子の特性劣化が生じることがない。
【0053】
(作用・効果)
作用・効果について説明する。
【0054】
上述のように、本発明の実施形態に係る光半導体素子の製造方法は、メサ形成工程の後に、選択エッチング工程で電流ブロック部22は残したまま半導体層群20を活性層11の近傍まで選択エッチングし、クラッド層形成工程にて選択エッチング箇所と電流ブロック部22の上部を共通に覆うAl系p型半導体クラッド層18を形成し、続けてAl系p型半導体クラッド層18上にp型半導体クラッド層19を形成するようにしている。従来のように始めの積層工程にて活性層11上にAl系p型半導体クラッド層を予め積層していないので、メサ形成工程にて半導体層群20およびn型半導体基板10の一部をエッチングしてマスク層14下にメサ部21を形成したときに、Al系p型半導体クラッド層18が大気中に暴露されることがない。これにより、製造工程中にAl系p型半導体クラッド層18の酸化により電流ブロック部22等の結晶成長において結晶性の劣化が生じることを防止することができる。
【0055】
また、本実施形態において、半導体層群20は、活性層11の上に真性半導体層12と真性半導体層12とは組成の異なる四元混晶半導体からなる保護層13がこの順で積層されて構成されている。このように、活性層11上に真性半導体層12を形成しているので、クラッド層形成工程でAl系p型半導体クラッド層18を形成する際に活性層11に不純物が拡散して活性が劣化することを防止することができる。
【0056】
保護層13は、半導体層群20のうち最大の層厚を有する構成であってもよい。この構成により、選択エッチング工程で除去すべき半導体層群20の部分のうち最も厚い部分を占める保護層13を除去することで、効率よくエッチングすることができる。
【0057】
また、本実施形態において、選択エッチング工程では、保護層13を除去し、真性半導体層12を維持するようにしている。例えば、真性半導体層12とは組成の異なる保護層13だけを全部除去し真性半導体層12を残すようにエッチング液を適切に選択することにより、除去する層の厚みが大きい場合でも選択エッチングを確実に行うことができる。
【0058】
積層工程で積層される真性半導体層12は、例えば10nm以上20nm以下程度の厚みを有する構成であってもよい。この構成により、選択エッチングにて保護層13のみを削除し、薄層の真性半導体層12を残すことで、半導体層群20を活性層11の近傍まで確実に選択エッチングすることができる。
【0059】
本実施形態において、n型半導体基板10は、n型InPを含み、Al系p型半導体クラッド層18は、p型InAlAsまたはp型InGaAlAsを含み、p型半導体クラッド層19は、p型InPを含んでいる。この構成により、キャリア損失を抑えるためにp型クラッド層の不純物のドーピング濃度を上げた場合に比べて、IVBA効果による光損失が増大することを防ぎつつ、p型クラッド層のポテンシャル障壁を上げて、キャリアの損失を防止することができる。
【0060】
活性層11は、
図3に示す活性層31と同様に、n型半導体基板10の側から第1の光閉込構造層32と多重量子井戸構造層33と第2の光閉込構造層34とがこの順で積層された構成であってもよい。この構成により、多重量子井戸構造層33にキャリアを、第1および第2の光閉込構造層32、34に光を効果的に閉じ込めることができる。
【0061】
本実施形態において、電流ブロック部22は、n型半導体基板10およびメサ部21の側からp型半導体層16とn型半導体層17とがこの順で積層された構成である。この構成により、p型半導体層16とn型半導体層17とのpn接合を有する埋め込みヘテロ構造により、電流ブロック部22に流れる電流を阻止し、活性層11に効率よく電流が流れるようにすることができる。電流ブロック部22については高抵抗となり効率よく活性層に電流を流すことができれば、この構成に限らない。
【0062】
メサ形成工程で形成されるメサ部21は、n型半導体基板10に平行でかつメサ部21の両側面21a、21bに平行な方向である長手方向に垂直な断面で見て等脚台形であってもよい。本実施形態に係る光半導体素子の製造方法では、半導体層群20をエッチングしてマスク層14下にメサ部21を形成するメサ形成工程において、半導体層群20にAl系の半導体層が含まれていないので、メサ部21の側面21a、21bに凹凸が生じ難く、メサ部21を等脚台形の断面形状に成形するのが容易である。
【0063】
上記実施形態では、半導体基板上にストライプ状、すなわち縞状に複数のマスク層14およびメサ部21が形成されるものとして説明したが、これに限定されず、半導体基板上にそれぞれ単一の細長い帯状のマスク層14およびメサ部21が形成される場合であっても本発明は適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上説明したように、本発明は、製造工程中にAl系クラッド層が大気中に暴露されないようにし、Al系クラッド層の酸化による光半導体素子の特性劣化が生じないという効果を有し、光半導体素子の製造方法の全体に有用である。
【符号の説明】
【0065】
10、110 n型半導体基板
11、31、111 活性層
12 真性半導体層
13、113 保護層
14、114 マスク層
15、115 レジスト
16、116 p型電流ブロック層
17、117 n型電流ブロック層
18、118 Al系p型半導体クラッド層
19、38、112、119 p型半導体クラッド層
20、120 半導体層群
21、121 メサ部
22、122 電流ブロック部
30 n型クラッド層
32、34 光閉込構造層
33 多重量子井戸構造層
35 p-InP層
36 p+-InP層(キャリアブロック層)
37 p--InP層