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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090412
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】矢板の打設方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/08 20060101AFI20240627BHJP
   E02D 13/04 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
E02D5/08
E02D13/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206313
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】片山 晃
(72)【発明者】
【氏名】黒田 健二
(72)【発明者】
【氏名】榊原 務
【テーマコード(参考)】
2D049
2D050
【Fターム(参考)】
2D049FB03
2D049FB14
2D049FC02
2D050AA08
2D050EE10
(57)【要約】
【課題】矢板の打設作業の施工精度をより向上させることができる矢板の打設方法を提供する。
【解決手段】打設対象の矢板20の他方側の継手部22bに嵌合可能なガイド継手部3aを備えた打設ガイド治具1を、打設対象の矢板20の打設目標位置の他方側に配置して、打設ガイド治具1を水平方向に延設されている導材6に対して着脱可能に固定した状態にする。そして、導材6に沿わせて打設対象の矢板20を配置し、打設対象の矢板20の打設目標位置の一方側に既に打設されている既設の矢板20の継手部22bに打設対象の矢板20の一方側の継手部22aを嵌合させ、打設ガイド治具1のガイド継手部3aに打設対象の矢板20の他方側の継手部22bを嵌合させた状態で、打設対象の矢板20を地盤Gに打設する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既に打設されている既設の矢板の継手部に、打設対象の矢板の一方側の継手部を嵌合させた状態で、水平方向に延設されている導材に沿わせて前記打設対象の矢板を地盤に打設する矢板の打設方法において、
前記打設対象の矢板の打設目標位置の他方側に、前記打設対象の矢板の他方側の継手部に嵌合可能なガイド継手部を備えた打設ガイド治具を前記導材に対して着脱可能に固定して、前記ガイド継手部に前記打設対象の矢板の前記他方側の継手部を嵌合させた状態で、前記打設対象の矢板を地盤に打設することを特徴とする矢板の打設方法。
【請求項2】
水平方向に延設された導材に沿わせて打設対象の矢板を地盤に打設する矢板の打設方法において、
前記打設対象の矢板の打設目標位置の一方側に、前記打設対象の矢板の一方側の継手部に嵌合可能なガイド継手部を備えた第一の打設ガイド治具を前記導材に対して着脱可能に固定し、前記打設目標位置の他方側に、前記打設対象の矢板の他方側の継手部に嵌合可能なガイド継手部を備えた第二の打設ガイド治具を前記導材に対して着脱可能に固定して、
前記打設目標位置の一方側に配設した前記第一の打設ガイド治具の前記ガイド継手部に、前記打設対象の矢板の前記一方側の継手部を嵌合させ、前記打設目標位置の他方側に配設した前記第二の打設ガイド治具の前記ガイド継手部に、前記打設対象の矢板の前記他方側の継手部を嵌合させた状態で、前記打設対象の矢板を地盤に打設することを特徴とする矢板の打設方法。
【請求項3】
前記打設ガイド治具が、前記打設対象の矢板と横断面形状が同じであり、前記打設対象の矢板よりも長手方向の長さが短い模擬矢板を有して構成されている請求項1または2に記載の矢板の打設方法。
【請求項4】
前記導材の延在方向に所定の間隔をあけて複数の位置決め部を配設しておき、前記打設ガイド治具が有する固定部を前記位置決め部に係合することで、前記打設ガイド治具を前記導材に着脱可能に固定する請求項1または2に記載の矢板の打設方法。
【請求項5】
前記打設ガイド治具を前記導材に着脱可能に固定する際に、前記打設ガイド治具が有していて、前記導材の延在方向と水平方向において交差する方向に延在する架設部を、前記導材で支持した状態にする請求項1または2に記載の矢板の打設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、矢板の打設方法に関し、さらに詳しくは、矢板の打設作業の施工精度をより向上させることができる矢板の打設方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の矢板を地盤に順次打設して隣接した矢板どうしが連結された矢板壁を構築する工事が行われている。この工事では、予め計画した打設目標位置に対して打設した矢板の位置や向きがずれると矢板の継手部の位置や向きがずれるため、その影響を受けて次に打設する矢板の位置や向きも予め計画した打設目標位置からずれてしまう。そのため、矢板壁を計画通りに精度よく構築するには、それぞれの矢板を予め計画した打設目標位置に正確な向きで打設することが重要となる。
【0003】
従来では、矢板壁を構築する延在方向に沿って導材を水平方向に延設している。そして、導材に沿わせて矢板を配置し、既に打設されている既設の矢板の継手部に打設対象の矢板の一方側の継手部を嵌合させた状態で、打設対象の矢板を地盤に打設している(例えば、特許文献1参照)。矢板の継手部どうしの連結部分にはある程度の遊びがあるため、打設対象の矢板の一方側の継手部を既設の矢板の継手部に嵌合させるだけでは、打設目標位置に対して打設対象の矢板の位置や向きがずれることがあった。矢板の打設作業では、クレーンに吊り下げられた打設機により矢板の上端部を把持した状態で、打設機による打撃や振動により矢板を地盤に打設していく。そのため、打設機による打撃や振動により、矢板の打設中に打設目標位置に対して矢板の位置や向きがずれることもあった。それ故、矢板の打設作業の施工精度を向上させるには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-169469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、矢板の打設作業の施工精度をより向上させることができる矢板の打設方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の矢板の打設方法は、既に打設されている既設の矢板の継手部に、打設対象の矢板の一方側の継手部を嵌合させた状態で、水平方向に延設されている導材に沿わせて前記打設対象の矢板を地盤に打設する矢板の打設方法において、前記打設対象の矢板の打設目標位置の他方側に、前記打設対象の矢板の他方側の継手部に嵌合可能なガイド継手部を備えた打設ガイド治具を前記導材に対して着脱可能に固定して、前記ガイド継手部に前記打設対象の矢板の前記他方側の継手部を嵌合させた状態で、前記打設対象の矢板を地盤に打設することを特徴とする。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の別の矢板の打設方法は、水平方向に延設された導材に沿わせて打設対象の矢板を地盤に打設する矢板の打設方法において、前記打設対象の矢板の打設目標位置の一方側に、前記打設対象の矢板の一方側の継手部に嵌合可能なガイド継手部を備えた第一の打設ガイド治具を前記導材に対して着脱可能に固定し、前記打設目標位置の他方側に、前記打設対象の矢板の他方側の継手部に嵌合可能なガイド継手部を備えた第二の打設ガイド治具を前記導材に対して着脱可能に固定して、前記打設目標位置の一方側に配設した前記第一の打設ガイド治具の前記ガイド継手部に、前記打設対象の矢板の前記一方側の継手部を嵌合させ、前記打設目標位置の他方側に配設した前記第二の打設ガイド治具の前記ガイド継手部に、前記打設対象の矢板の前記他方側の継手部を嵌合させた状態で、前記打設対象の矢板を地盤に打設することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の前者の矢板の打設方法によれば、打設目標位置の一方側に既に打設されている既設の矢板の継手部に打設対象の矢板の一方側の継手部を嵌合させ、打設目標位置の他方側に固定した打設ガイド治具のガイド継手部に打設対象の矢板の他方側の継手部を嵌合させた状態で、打設対象の矢板を地盤に打設する。本発明の後者の矢板の打設方法によれば、打設目標位置の一方側に固定した第一の打設ガイド治具のガイド継手部に打設対象の矢板の一方側の継手部を嵌合させ、打設目標位置の他方側に固定した第二の打設ガイド治具のガイド継手部に打設対象の矢板の他方側の継手部を嵌合させた状態で、打設対象の矢板を地盤に打設する。これにより、本発明の両者の矢板の打設方法では、打設ガイド治具を用いることで、打設対象の矢板の両側の継手部の位置を予め計画された打設目標位置に正確に位置決めできる。さらには、打設対象の矢板の両側の継手部を拘束した状態にすることで、打設中の矢板の移動や回転を抑制できる。それ故、矢板を予め計画された打設目標位置に正確な向きで精度よく打設するには有利になり、矢板の打設作業の施工精度をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の矢板の打設方法により、既設の矢板に隣接させて打設対象の矢板を打設する前の状況を側面視で例示する説明図である。
図2図1のA矢視図である。
図3図2の打設ガイド治具を拡大して例示する説明図である。
図4】打設機により打設対象の矢板を地盤に打設している状況を側面視で例示する説明図である。
図5図4のB矢視図である。
図6】打設対象の矢板を地盤に打設し終えた状況を側面視で例示する説明図である。
図7図6のC矢視図である。
図8】本発明の矢板の打設方法により、基準となる1本目の矢板を地盤に打設している状況を側面視で例示する説明図である。
図9図8のD矢視図である。
図10】本発明に係る別の実施形態の打設ガイド治具を平面視で例示する説明図である。
図11】本発明に係るさらに別の実施形態の打設ガイド治具を平面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の矢板の打設方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
本発明の矢板の打設方法は、複数の矢板を地盤に順次打設して隣接した矢板どうしが連結された矢板壁を構築する種々の工事で採用できる。図1および図2に例示するように、この実施形態では、本発明の矢板の打設方法により、岸壁Qの側方の水域の地盤に複数の矢板20を打設して矢板壁を構築する場合を例示する。本発明の矢板20の打設方法は、陸上に矢板壁を構築する工事に採用することもできる。図中では、構築する矢板壁の水平方向における延在方向をX方向、水平方向において矢板壁の延在方向と直交する方向をY方向、上下方向をZ方向としている。
【0012】
矢板20には、円管状の鋼管矢板や屈曲した板状の鋼矢板など様々な種類がある。図1図3に例示するように、この実施形態では、矢板20として鋼管矢板を用いる場合を例示している。本発明の矢板20の打設方法は、鋼管矢板を用いる場合に限らず、鋼矢板などのその他の種類の矢板20を用いる場合にも採用できる。
【0013】
図3に例示するように、矢板20は、本体部21の一方側と他方側にそれぞれ継手部22a、22bを有している。矢板20の一方側の継手部22aに、その矢板20に隣接して打設する別の矢板20の他方側の継手部22bを嵌合させることで、隣り合う矢板20どうしが連結された状態になる。この実施形態で使用している矢板20(鋼管矢板)は、円管状の本体部21の一方側に平面視でT字形状の継手部22aが設けられていて、本体部21の他方側に円管体の他方側の先端にスリットが形成された構造の継手部22bが設けられている。矢板20の本体部21の形状や矢板20のそれぞれの継手部22a、22bの形状などは、この実施形態に限定されず、他にも様々な構成の矢板20を用いることができる。
【0014】
矢板壁を構築する工事では、まず、矢板壁を構築する延在方向に沿ってガイドとなる導材6を水平方向に延設する。導材6は例えば、H形鋼や溝形鋼などの形鋼で構成される。この実施形態では、複数本の支持杭7を水底の地盤Gに打設し、水上に突出したそれぞれの支持杭7の上部にY方向に延在する支持桁8を固定している。そして、それぞれの支持桁8の上に導材6を載置して固定することで、導材6を水上に延設している。
この実施形態では、矢板壁を構築する領域の両側にそれぞれ導材6を配設している。例えば、矢板壁を構築する領域の片側だけに導材6を配設することもできる。また、例えば、岸壁Qの上面の高さが導材6の設置高さよりも低い場合には、支持杭7に固定している岸壁Q側の支持桁8を岸壁Qまで延設して、支持桁8の一方側を岸壁Qに対して固定する構成にすることもできる。
【0015】
本発明では、打設対象の矢板20の打設時にその打設対象の矢板20を打設目標位置に拘束した状態にする打設ガイド治具1を使用する。以下では、矢板20の打設時に打設ガイド治具1を設置する向きを基準にして打設ガイド治具1の構成を説明する。打設ガイド治具1は、本体部2と、本体部2のX方向の一方側と他方側にそれぞれ設けられたガイド継手部3a、3bとを有している。打設ガイド治具1は、さらに、本体部2を導材6に対して着脱可能に固定する固定部4と、本体部2の荷重を導材6に支持させる架設部5と、クレーンによって打設ガイド治具1を吊る際に使用する吊金具10とを有して構成されている。
【0016】
打設ガイド治具1の本体部2の一方側に設けられているガイド継手部3aは、打設対象の矢板20の他方側の継手部22bに嵌合可能な構成になっている。本体部2の他方側に設けられているガイド継手部3bは、打設対象の矢板20の一方側の継手部22aに嵌合可能な構成になっている。この実施形態では、打設ガイド治具1の本体部2およびガイド継手部3a、3bを、打設対象の矢板20と横断面形状が同じであり、打設対象の矢板20よりも長手方向の長さが短い模擬矢板で構成している。
【0017】
即ち、この実施形態の打設ガイド治具1は、矢板20の本体部21と同じ円管状の本体部2を有し、その本体部2の一方側に平面視でT字形状のガイド継手部3aが設けられている。本体部2の他方側には円管体の他方側の先端にスリットが形成された構造のガイド継手部3bが設けられている。この模擬矢板は、例えば、打設対象の矢板20と同じ型の矢板20を切断加工することで簡易に作製できる。後に別の実施形態で例示するが、打設ガイド治具1の本体部2およびガイド継手部3a、3bは、模擬矢板とは異なる構成にすることもできる。
【0018】
この実施形態では、打設ガイド治具1の本体部2のY方向の両側方にそれぞれ平面視でT字形状の固定部4が突設されている。それぞれの導材6の矢板20を打設する側の側面に、打設ガイド治具1の固定部4が係合可能な位置決め部9が設けられていて、位置決め部9に打設ガイド治具1の固定部4を係合させることで、本体部2を導材6に対して着脱可能に固定できる構成になっている。この実施形態の位置決め部9は、平面視で四角形状の管状金具の内側にスリットが形成された構造になっている。それぞれの導材6にX方向に一定の間隔をあけて複数の位置決め部9が配設されている。
【0019】
この実施形態では、打設ガイド治具1の本体部2の上部にY方向に延在する架設部5が設けられている。架設部5は例えば、H形鋼や溝形鋼などの形鋼で構成される。この実施形態では、本体部2の上部に2本の架設部5がX方向に間隔をあけて配設されている。それぞれの架設部5は本体部2に接合されている。架設部5を一対の導材6に架け渡して一対の導材6の上に架設部5を載置した状態にすることで、打設ガイド治具1の荷重が導材6に支持される構成になっている。この実施形態では、それぞれの架設部5に吊金具10が配設されていて、吊金具10にクレーンから懸下されたワイヤロープを連結できる構成になっている。
【0020】
この実施形態の打設ガイド治具1は、ガイド継手部3a、3b、固定部4、架設部5および吊金具10が設けられた本体部2を複数有していて、本体部2のガイド継手部3a、3bどうしを嵌合させることで、X方向に複数の本体部2を着脱可能に連結した構成になっている。ガイド継手部3a、3b、固定部4、架設部5および吊金具10が設けられた本体部2どうしの連結を解除することで、複数の打設ガイド治具1に分離することも可能な構成になっている。
【0021】
図1図3に例示するように、既に打設されている既設の矢板20の隣に打設対象の矢板20を打設する作業では、打設対象の矢板20の他方側の継手部22bに嵌合可能なガイド継手部3aを備えた打設ガイド治具1を、打設対象の矢板20の打設目標位置の他方側に配置して、打設ガイド治具1を導材6に対して着脱可能に固定した状態にする。言い換えると、打設対象の矢板20の次に打設する矢板20の打設目標位置に打設ガイド治具1を着脱可能に固定した状態にする。図1図3では、打設対象の矢板20の打設目標位置を破線で示している。
【0022】
より具体的には、この実施形態では、クレーンから懸下されたワイヤロープを吊金具10に連結して、クレーンにより打設ガイド治具1を一対の導材6の上方に吊上げる。そして、打設ガイド治具1の本体部2を一対の導材6の間に下降させて、本体部2のY方向の両側方に設けられている固定部4をそれぞれの導材6に設けられている位置決め部9に係合させるとともに、架設部5を一対の導材6の上に載置した状態にする。これにより、打設ガイド治具1が一対の導材6に着脱可能に固定された状態になる。打設ガイド治具1が一対の導材6に固定された状態では、打設ガイド治具1の一方側のガイド継手部3aは、打設対象の矢板20を打設目標位置に正確に打設したときに、打設対象の矢板20の他方側の継手部22bが嵌合する位置に配置された状態になる。
【0023】
次いで、図4および図5に例示するように、クレーンに吊り下げられたバイブロハンマなどの打設機30により打設対象の矢板20の上端部を把持した状態で、打設対象の矢板20を打設目標位置の上方に吊上げた状態にする。そして、打設対象の矢板20を打設目標位置に向かって降下させて、打設対象の矢板20の打設目標位置の一方側に既に打設されている既設の矢板20の他方側の継手部22bに、打設対象の矢板20の一方側の継手部22aを嵌合させた状態にし、打設対象の矢板20の打設目標位置の他方側に配置している打設ガイド治具1の一方側のガイド継手部3aに、打設対象の矢板20の他方側の継手部22bを嵌合させた状態にする。そして、打設対象の矢板20の下端部が水底の地盤Gに接地する位置まで打設対象の矢板20を降下させる。
【0024】
打設対象の矢板20の一方側の継手部22aが既設の矢板20の他方側の継手部22bに嵌合し、打設対象の矢板20の他方側の継手部22bが打設ガイド治具1の一方側のガイド継手部3aに嵌合していることで、打設対象の矢板20の両側の継手部22a、22bの位置が予め計画された打設目標位置に拘束された状態となる。そして、打設ガイド治具1により、打設対象の矢板20の移動や回転を抑制した状態で、打設機30による打撃や振動により打設対象の矢板20を地盤Gに打設する。以上により、打設対象の矢板20の打設作業は完了する。
【0025】
次の打設対象の矢板20を打設する作業では、クレーンを使用して打設ガイド治具1を一対の導材6の上方に吊上げて、打設した矢板20の他方側の継手部22bと打設ガイド治具1の一方側のガイド継手部3aとの嵌合を解除する。そして、図6および図7に例示するように、先ほど打設した矢板20を既設の矢板20として、同様に、打設ガイド治具1を、次に打設する打設対象の矢板20の打設目標位置の他方側に配置して、打設ガイド治具1を導材6に対して着脱可能に固定した状態にする。そして、前述した作業手順と同様の手順で順次矢板20を打設していくことで、導材6に沿って複数の矢板20を連結した矢板壁を構築する。
【0026】
図8および図9に例示するように、打設対象の矢板20に隣接する既設の矢板20が無い状態で、打設対象の矢板20を打設する場合には以下の作業手順で矢板20の打設を行う。この場合には、図8および図9に例示するように、2組の打設ガイド治具1を使用する。前述したようなX方向に複数の本体部2を着脱可能に連結した構成の打設ガイド治具1を用いる場合には、本体部2どうしの連結を解除することで、2組の打設ガイド治具1に分離して使用することができる。
【0027】
図8および図9に例示するように、打設対象の矢板20の一方側の継手部22aに嵌合可能なガイド継手部3bを備えた第一の打設ガイド治具1を、打設対象の矢板20の打設目標位置の一方側に配置して、第一の打設ガイド治具1を導材6に対して着脱可能に固定した状態にする。そして、打設対象の矢板20の他方側の継手部22bに嵌合可能なガイド継手部3aを備えた第二の打設ガイド治具1を打設対象の矢板20の打設目標位置の他方側に配置して、第二の打設ガイド治具1を導材6に対して着脱可能に固定した状態にする。それぞれの打設ガイド治具1を導材6に着脱可能に固定する方法は前述した方法と同じである。
【0028】
第一の打設ガイド治具1の他方側のガイド継手部3bは、打設対象の矢板20を打設目標位置に正確に打設したときに、打設対象の矢板20の一方側の継手部22aが嵌合する位置に配置された状態になる。第二の打設ガイド治具1の一方側のガイド継手部3aは、打設対象の矢板20を打設目標位置に正確に打設したときに、打設対象の矢板20の他方側の継手部22bが嵌合する位置に配置された状態になる。
【0029】
そして、クレーンに吊り下げられた打設機30により打設対象の矢板20の上端部を把持した状態で、打設対象の矢板20を打設目標位置の上方に吊上げた状態にする。そして、打設対象の矢板20を打設目標位置に向かって降下させて、打設対象の矢板20の打設目標位置の一方側に配設した第一の打設ガイド治具1の他方側のガイド継手部3bに、打設対象の矢板20の一方側の継手部22aを嵌合させた状態にし、打設目標位置の他方側に配設した第二の打設ガイド治具1の一方側のガイド継手部3aに、打設対象の矢板20の他方側の継手部22bを嵌合させた状態にする。そして、打設対象の矢板20の下端部が水底の地盤Gに接地する位置まで打設対象の矢板20を降下させる。
【0030】
打設対象の矢板20の一方側の継手部22aが第一の打設ガイド治具1の他方側のガイド継手部3bに嵌合し、打設対象の矢板20の他方側の継手部22bが第二の打設ガイド治具1の一方側のガイド継手部3aに嵌合していることで、打設対象の矢板20の両側の継手部22a、22bの位置が予め計画された打設目標位置に拘束された状態となる。そして、第一の打設ガイド治具1と第二の打設ガイド治具1により、打設対象の矢板20の移動や回転を抑制した状態で、打設機30による打撃や振動により打設対象の矢板20を地盤Gに打設する。
【0031】
このように、本発明の矢板20の打設方法では、既設の矢板20の隣に矢板20を打設する場合には、打設目標位置の一方側に既に打設されている既設の矢板20の継手部22bに打設対象の矢板20の一方側の継手部22aを嵌合させ、打設目標位置の他方側に固定した打設ガイド治具1のガイド継手部3aに打設対象の矢板20の他方側の継手部22bを嵌合させた状態にすることで、打設対象の矢板20の両側の継手部22a、22bの位置を予め計画された打設目標位置に正確に位置決めできる。さらには、既設の矢板20の継手部22bと打設ガイド治具1のガイド継手部3aによって、打設対象の矢板20の両側の継手部22a、22bが拘束された状態になるので、打設中の矢板20の移動や回転を効果的に抑制できる。それ故、矢板20を予め計画された打設目標位置に正確な向きで精度よく打設するには有利になり、矢板20の打設作業の施工精度をより向上させることができる。
【0032】
打設対象の矢板20に隣接する既設の矢板20が無い状態で打設対象の矢板20を打設する場合には、打設目標位置の一方側に固定した第一の打設ガイド治具1のガイド継手部3bに打設対象の矢板20の一方側の継手部22aを嵌合させ、打設目標位置の他方側に固定した第二の打設ガイド治具1のガイド継手部3aに打設対象の矢板20の他方側の継手部22bを嵌合させた状態にすることで、打設対象の矢板20の両側の継手部22a、22bの位置を予め計画された打設目標位置に正確に位置決めできる。さらには、第一の打設ガイド治具1のガイド継手部3bと第二の打設ガイド治具1のガイド継手部3aにより、打設対象の矢板20の両側の継手部22a、22bが拘束された状態になるので、打設中の矢板20の移動や回転を効果的に抑制できる。それ故、矢板20を予め計画された打設目標位置に正確な向きで精度よく打設するには有利になり、矢板20の打設作業の施工精度をより向上させることができる。
【0033】
この実施形態のように、打設ガイド治具1が、打設対象の矢板20と横断面形状が同じであり、打設対象の矢板20よりも長手方向の長さが短い模擬矢板を有する構成にすると、打設ガイド治具1を非常に簡易に作製できる。また、模擬矢板を有する打設ガイド治具1を用いると、打設対象の矢板20の次に打設する矢板20の打設目標位置と模擬矢板との位置関係を確認することで、打設ガイド治具1が正確な位置に配置されているか否かを確認し易くなる。
【0034】
打設ガイド治具1を複数の本体部2が連結された構成にすると、打設ガイド治具1を導材6に対して安定して固定するには有利になり、打設機30による振動や衝撃が矢板20を介して打設ガイド治具1に伝達された場合にも、打設ガイド治具1が導材6に対してがたつき難くなる。さらに、打設ガイド治具1を複数の本体部2が着脱可能に連結された構成にすると、本体部2どうしの連結を解除することで、複数の打設ガイド治具1に分離して使用することが可能になり、より利便性が高くなる。
【0035】
導材6の延在方向に所定の間隔をあけて複数の位置決め部9を配設しておき、打設ガイド治具1が有する固定部4を位置決め部9に係合することで、打設ガイド治具1を導材6に着脱可能に固定する構成にすると、打設ガイド治具1を容易に精度よく位置決めできる。また、打設ガイド治具1の固定部4を位置決め部9に係合することで、導材6に対して打設ガイド治具1を少ない作業工数で簡易に固定できる。この実施形態では、矢板20を打設する際に、導材6の側面に設けている位置決め部9と矢板20の本体部21の外周面とが当接しない構成にしている。前述した構成にすると、矢板20を打設する際に、位置決め部9に矢板20の本体部21が接触しないので、矢板20や位置決め部9が損傷するリスクを低くするには有利になる。一方で、例えば、矢板20を打設する際に、位置決め部9の側面と矢板20の本体部21の外周面とが当接するように、導材6の側面に位置決め部9を設けることもできる。前述した構成にすると、矢板20を打設する際に、一対の位置決め部9によって矢板20の本体部21の外周面の両側の側面が挟まれた状態になるので、矢板20のY方向のブレを抑制するには有利になる。なお、位置決め部9は必須の構成ではなく、例えば、打設ガイド治具1をクランプなどの固定具を用いて導材6に固定する構成にすることもできる。
【0036】
打設ガイド治具1を導材6に着脱可能に固定する際に、打設ガイド治具1が有していて、導材6の延在方向と水平方向において交差する方向に延在する架設部5を、導材6で支持した状態にすると、架設部5により打設ガイド治具1の荷重が安定して支持されるので、導材6に対して打設ガイド治具1を安定して固定するには有利になる。打設ガイド治具1に吊金具10を設けると、クレーンにより打設ガイド治具1を移設する作業を非常に効率よく行える。
【0037】
この実施形態のように、水域に矢板20を打設する場合には、打設ガイド治具1を水中に埋没しない位置に配置することが好ましい。打設ガイド治具1を水上に配置することで、打設ガイド治具1が水域の波や水流の影響を受け難くなり、導材6に対して打設ガイド治具1を安定して固定するには有利になる。
【0038】
本発明で使用する打設ガイド治具1や導材6に設ける位置決め部9は、図10に例示するような構成にすることもできる。
【0039】
図10に例示するように、この実施形態では、導材6にX方向に一定の間隔をあけて架設部5のY方向の端部が係合可能な複数の位置決め部9が配設されていて、打設ガイド治具1の架設部5の端部を位置決め部9に係合させることで、打設ガイド治具1の本体部2を導材6に対して着脱可能に固定できる構成になっている。即ち、この実施形態で使用している打設ガイド治具1は、架設部5を構成する部材が固定部4としても機能する構成になっている。
【0040】
より具体的には、この実施形態ではそれぞれの導材6の上に、架設部5のY方向の端部が嵌合する溝を有するコの字状の位置決め部9が配設されている。導材6の上に架設部5を載置して架設部5の両側の端部をそれぞれの導材6の上に設けられている位置決め部9の溝に嵌合させることで、打設ガイド治具1の本体部2を導材6に対して着脱可能に固定できる構成になっている。この実施形態では、矢板20を打設する際に、それぞれの導材6の側面と矢板20の本体部21の外周面とが当接するように、一対の導材6どうしの離間距離を矢板20のY方向の幅と略同一に設定している。このような構成にすると、矢板20を打設する際に、一対の導材6によって矢板20の本体部21の外周面の両側の側面が挟まれた状態になるので、矢板20のY方向のブレを抑制するには有利になる。その他の構成は、図1図9で例示した実施形態と同じである。
【0041】
この実施形態の打設ガイド治具1を用いた場合にも図1図9で例示した実施形態と同じ作業手順で矢板20の打設作業を行うことで、同様の効果を奏することができる。この実施形態のように、打設ガイド治具1が、固定部4の機能と架設部5の機能を兼ね備えた部材を備えた構成にすると、打設ガイド治具1をより簡素に構成することができる。また、導材6に対する打設ガイド治具1の位置決めと固定作業をより行いやすくなる。
【0042】
なお、この実施形態では、図1図9で例示した実施形態とは異なる形状の矢板20の継手部22a、22bと打設ガイド治具1のガイド継手部3a、3bを例示している。この実施形態の矢板20の継手部22a、22bと打設ガイド治具1のガイド継手部3a、3bはそれぞれ円管体にスリットが形成された構造になっている。
【0043】
この実施形態では、導材6の上に複数の位置決め部9を接合している場合を例示したが、例えば、板状部材の上に位置決め部9を接合したテンプレート材を作製しておき、施工現場において、そのテンプレート材を導材6の上に載置して、挟締金具などの固定具によって導材6に対してテンプレート材を固定する構成にすることもできる。この場合には、導材6の配置精度に寄らず、テンプレート材の配置を調整することで位置決め部9の配置精度を向上させることができる。また、テンプレート材の設置位置を変えて繰り返し利用できるので、導材6に対して多くの位置決め部9を設ける必要がなくなる。それ故、テンプレート材を用いると利便性がより高くなる。
【0044】
本発明で使用する打設ガイド治具1や導材6に設ける位置決め部9は、図11に例示するような構成にすることもできる。
【0045】
図11に例示するように、この実施形態で使用している打設ガイド治具1の本体部2は模擬矢板ではなく、四角形状の板状部材で構成されている。この実施形態では、導材6にX方向に一定の間隔をあけて本体部2のY方向の端部が係合可能な複数の位置決め部9が配設されていて、打設ガイド治具1の架設部5を位置決め部9に係合させることで、打設ガイド治具1の本体部2を導材6に対して着脱可能に固定できる構成になっている。即ち、この実施形態で使用している打設ガイド治具1は、本体部2を構成する部材が、固定部4としても架設部5としても機能する構成になっている。
【0046】
より具体的には、この実施形態ではそれぞれの導材6の上に、本体部2のY方向の端部が嵌合する溝を有するコの字状の位置決め部9が配設されている。導材6の上に本体部2の端部を載置して、本体部2の両側の端部をそれぞれの導材6の上に設けられている位置決め部9に嵌合させることで、打設ガイド治具1の本体部2を導材6に対して着脱可能に固定できる構成になっている。この実施形態では、本体部2の上に吊金具10が配設されている。この実施形態では、矢板20を打設する際に、それぞれの導材6の側面と矢板20の本体部21の外周面とが当接するように、一対の導材6どうしの離間距離を矢板20のY方向の幅と略同一に設定している。その他の構成は、図1図9で例示した実施形態と同じである。
【0047】
この実施形態の打設ガイド治具1を用いた場合にも、図1図9で例示した実施形態と同じ作業手順で矢板20の打設作業を行うことで、同様の効果を奏することができる。この実施形態のように、打設ガイド治具1の本体部2が、固定部4の機能と架設部5の機能を兼ね備えた構成にすると、打設ガイド治具1をより簡素に構成できる。また、導材6に対する打設ガイド治具1の位置決めと固定作業をより一層行いやすくなる。この実施形態の場合にも、例えば、板状部材の上に位置決め部9を接合したテンプレート材を作製しておき、施工現場において、そのテンプレート材を導材6の上に載置して、挟締金具などの固定具によって導材6に対してテンプレート材を固定する構成にすることもできる。
【0048】
なお、打設ガイド治具1のガイド継手部3a、3bの形状や構造は、上記に例示した実施形態に限定されず、打設対象の矢板20の継手部22a、22bに嵌合可能な構造であれば、他にも様々な構成にすることができる。また、打設ガイド治具1の本体部2や固定部4、架設部5、吊金具10、導材6に設ける位置決め部9などの形状や構造は、それぞれが上記で説明した機能を発揮できる構成であれば他にも様々な構成にすることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 打設ガイド治具
2 本体部
3a、3b ガイド継手部
4 固定部
5 架設部
6 導材
7 支持杭
8 支持桁
9 位置決め部
10 吊金具
20 矢板
21 本体部
22a、22b 継手部
30 打設機
G 地盤
Q 岸壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11