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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090423
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】艶消しコート形成用塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20240627BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240627BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240627BHJP
   C09D 7/42 20180101ALI20240627BHJP
   C09D 175/06 20060101ALI20240627BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20240627BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C09D175/04
B32B27/30 A
B32B27/20 Z
C09D7/42
C09D175/06
C09D133/00
C09D5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206336
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】結城 駿三
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AH02C
4F100AH03C
4F100AK01B
4F100AK01C
4F100AK25C
4F100AK51B
4F100AK51C
4F100AK52C
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA23B
4F100CA23C
4F100CB00B
4F100EH46
4F100EJ65B
4F100JK08
4F100JN26
4F100YY00C
4J038CG142
4J038CJ182
4J038DG002
4J038DG111
4J038DG262
4J038DL102
4J038KA03
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA20
4J038NA01
4J038NA05
4J038PA07
4J038PB02
4J038PB05
4J038PB06
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】艶消しコートを与えるための、好ましくは艶消し性に加えて、耐汚染性、耐傷付性、延伸性、耐クラック性に優れた艶消しコートを得るための新規な塗料を提供する。
【解決手段】(A)シリコーン変性アクリル樹脂50~98質量部、(B)ポリエステルポリオール2~50質量部、(C)水酸基を含有する樹脂ビーズ1~80質量部、および(D)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物1~100質量部を含む塗料であって、前記(A)シリコーン変性アクリル樹脂、前記(B)ポリエステルポリオール、前記(C)水酸基を有する樹脂ビーズ、および前記(D)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物の各成分量は、前記(A)シリコーン変性アクリル樹脂および前記(B)ポリエステルポリオールの合計量を100質量部として算出される量である、上記塗料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)シリコーン変性アクリル樹脂50~98質量部、
(B)ポリエステルポリオール2~50質量部、
(C)水酸基を含有する樹脂ビーズ1~80質量部、および
(D)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物1~100質量部
を含む塗料であって、
前記(A)シリコーン変性アクリル樹脂、前記(B)ポリエステルポリオール、前記(C)水酸基を有する樹脂ビーズ、および前記(D)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物の各成分量は、前記(A)シリコーン変性アクリル樹脂および前記(B)ポリエステルポリオールの合計量を100質量部として算出される量である、上記塗料。
【請求項2】
前記(A)シリコーン変性アクリル樹脂が、ラダーシリコーン構造を有するシリコーン変性アクリル樹脂を含む、請求項1に記載の塗料。
【請求項3】
前記(C)水酸基を含有する樹脂ビーズが、水酸基を含有する架橋ウレタン樹脂ビーズを含む、請求項1または2に記載の塗料。
【請求項4】
表層側から順に、トップコート層、アンカーコート層および基材フィルム層を含む積層体であって、
前記トップコート層が請求項1に記載の塗料から形成されている積層体。
【請求項5】
前記アンカーコート層が水酸基を含有する樹脂を含む塗料から形成されている、請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
前記アンカーコート層が水酸基を含有する架橋ウレタン樹脂ビーズを含む塗料から形成されている、請求項4または5に記載の積層体。
【請求項7】
70℃での加熱延伸試験によるクラック非生成延伸率が100%以上である、請求項4または5に記載の積層体であって、
この加熱延伸試験は、前記積層体をマシン方向に50mmかつこれに対して垂直の方向に150mmの大きさにカットして70℃にて1分間静置し、次いでカット済み積層体であるサンプルを標線間50mmで挟み、このサンプルの温度を70℃に維持しながらこれを引張速度30mm/分でマシン方向に対して垂直な方向に延伸したときに、サンプルの中央部にてクラックが生じないことが観察される最大延伸率(クラック非生成延伸率)を測定することにより行われる、積層体。
【請求項8】
請求項4または5に記載の積層体を含む物品。
【請求項9】
請求項4または5に記載の積層体を含む化粧シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、艶消しコートを形成するための塗料に関する。より詳細には、本発明は、艶消し性に加えて、延伸性(特には加熱延伸性)に優れた艶消しコートを形成するための塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、モバイルフォン、及びパソコンなどの家電製品;飾り棚、収納箪笥、食器戸棚、及び机などの家具;あるいは床、壁、及び浴室などの建築部材として、木材、合板、集成材、パーチクルボード、及びハードボードなどの木質系材料からなる基材;ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート、及びポリエステルなどの樹脂系材料からなる基材;あるいは鉄、アルミニウムなどの金属系材料からなる基材の表面に化粧シートを貼合して加飾化粧されたものが使用されている。近年、商品の差別化ポイントとして、その意匠性がますます重視されるようになっている。そこで化粧シートの表面層に、艶消し剤を含む塗料からハードコートを形成することにより、化粧シートに艶消し意匠を付与することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、これらの技術には、ハードコートの耐汚染性や耐傷付性、特に耐汚染性が不十分であるという不都合がある。またこれらの技術では、複雑な曲面を有する被着体の加飾化粧に適用することは難しい。
【0003】
艶消し意匠を付与すると共に、耐汚染性や耐傷付性を改善し、さらに耐クラック性、耐屈曲性および成形性を付与するために、アクリル系硬化性樹脂に、特定範囲の平均粒子径を有する樹脂粒子およびシリコーン・アクリル共重合体系撥油剤を配合した塗料を用いて艶消しハードコートを形成する技術が報告されている(特許文献2参照)。しかし、艶消し性に加えて、耐汚染性や耐傷付性だけでなく、延伸性、特に加熱時に延伸する際にも(すなわち成形加工および延伸した後でも)クラック発生が抑制され得る高度な延伸性・成形性を有する艶消しハードコートを得るための技術は開発されていない。
【0004】
一方、基材上に艶消し意匠を付与するハードコート(トップコート層)を形成する際には、艶消し機能を与える樹脂粒子が基材との接着性を低減させる可能性がある。そこで、トップコート層と基材との間に介在してこれらの接着性を改善し、同時に艶消し性を補強するために、トップコート層と基材との間に樹脂粒子を含むアンカーコート層を含む積層体を形成する手法が一般的に行われている。しかし、このような積層体において、トップコート層に所望される諸特性を低下させることなく、基材との接着性を改善し、かつ十分な延伸性、耐クラック性を有するトップコートおよびアンカーコートの組み合わせは開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-066731号公報
【特許文献2】再表2019/077930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、艶消しコートを形成することができる新規な塗料を提供することである。
本発明の他の目的は、上記塗料を用いた艶消しコートであるトップコートおよびアンカーコートを含む新規な積層体を提供することである。
本発明の更なる他の目的は、艶消し性に加えて、延伸性、耐クラック性に優れた艶消しコートを得るための塗料、あるいは、このような塗料を用いた艶消しコートであるトップコートおよびアンカーコートを含む積層体を提供することである。
本発明の更なる他の目的は、艶消し性に加えて、耐汚染性、耐傷付性だけでなく、延伸性、耐クラック性に優れた艶消しコートを得るための塗料、あるいは、このような塗料を用いた艶消しコートであるトップコートおよびアンカーコートを含む積層体を提供することである。
本発明のまた更なる他の目的は、艶消し性に加えて、耐汚染性、耐傷付性だけでなく、加熱時に延伸する際にも(すなわち成形加工および延伸した後でも)クラック発生が抑制され得る高度な延伸性・成形性を有する艶消しコートを得るための塗料、あるいは、このような塗料を用いた艶消しコートであるトップコートおよびアンカーコートを含む積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に包含され得る諸態様及び実施形態は、以下のとおりである。
[1].
(A)シリコーン変性アクリル樹脂50~98質量部、
(B)ポリエステルポリオール2~50質量部、
(C)水酸基を含有する樹脂ビーズ1~80質量部、および
(D)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物1~100質量部
を含む塗料であって、
前記(A)シリコーン変性アクリル樹脂、前記(B)ポリエステルポリオール、前記(C)水酸基を有する樹脂ビーズ、および前記(D)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物の各成分量は、前記(A)シリコーン変性アクリル樹脂および前記(B)ポリエステルポリオールの合計量を100質量部として算出される量である、上記塗料。
[2].
前記(A)シリコーン変性アクリル樹脂が、ラダーシリコーン構造を有するシリコーン変性アクリル樹脂を含む、上記[1]項に記載の塗料。
[3].
前記(C)水酸基を含有する樹脂ビーズが、水酸基を含有する架橋ウレタン樹脂ビーズを含む、上記[1]または[2]項に記載の塗料。
[4].
表層側から順に、トップコート層、アンカーコート層および基材フィルム層を含む積層体であって、
前記トップコート層が上記[1]~[3]項のいずれか1項に記載の塗料から形成されている積層体。
[5].
前記アンカーコート層が水酸基を含有する樹脂を含む塗料から形成されている、上記[4]項に記載の積層体。
[6].
前記アンカーコート層が水酸基を含有する架橋ウレタン樹脂ビーズを含む塗料から形成されている、上記[5]項に記載の積層体。
[7].
70℃での加熱延伸試験によるクラック非生成延伸率が100%以上である、上記[4]~[6]項のいずれか1項に記載の積層体であって、
この加熱延伸試験は、前記積層体をマシン方向に50mmかつこれに対して垂直の方向に150mmの大きさにカットして70℃にて1分間静置し、次いでカット済み積層体であるサンプルを標線間50mmで挟み、このサンプルの温度を70℃に維持しながらこれを引張速度30mm/分でマシン方向に対して垂直な方向に延伸したときに、サンプルの中央部にてクラックが生じないことが観察される最大延伸率(クラック非生成延伸率)を測定することにより行われる、積層体。
[8].
上記[4]~[7]項のいずれか1項に記載の積層体を含む物品。
[9].
上記[4]~[7]項のいずれか1項に記載の積層体を含む化粧シート。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、艶消しコートを形成することができる新規な塗料、および上記塗料を用いた艶消しコートであるトップコートおよびアンカーコートを含む新規な積層体を提供することができる。
本発明に係る好ましい塗料を用いることによって、艶消し性に加えて、耐汚染性、耐傷付性だけでなく、延伸性、耐クラック性に優れ、特には加熱時に延伸する際にもクラック発生が抑制され得る高度な延伸性・成形性を有する艶消しコートを得ることができる。
また、本発明に係る好ましい塗料を用いることによって、艶消し性に加えて、耐汚染性、耐傷付性だけでなく、延伸性、耐クラック性に優れ、特には加熱時に延伸する際にもクラック発生が抑制され得る高度な延伸性・成形性、とりわけ3次元成形性を兼ね備えた艶消しハードコートを得ることができる。
さらに、本発明に係る好ましい積層体によれば、トップコート層に所望される艶消し性、耐汚染性、耐傷付性などの諸特性を低下させることなく、基材との接着性を改善し、かつ延伸性、耐クラック性に優れ、特には加熱時に延伸する際にもクラック発生が抑制され得る高度な延伸性・成形性を有するトップコートおよびアンカーコートの組み合わせを与えることができる。
またさらに、本発明に係る好ましい積層体を含む物品、特に化粧シートは、艶消し意匠を与えることに加え、複雑な曲面を有する被着体の加飾・化粧に好首尾に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態に係る塗料は、(A)シリコーン変性アクリル樹脂、(B)ポリエステルポリオール、(C)水酸基を含有する樹脂ビーズ、及び(D)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物を含む。
本発明の好ましい一実施形態において、塗料は、(A)シリコーン変性アクリル樹脂および(B)ポリエステルポリオールの合計量を100質量部とするとき、50~98質量部の(A)シリコーン変性アクリル樹脂、2~50質量部の(B)ポリエステルポリオール、1~80質量部の(C)水酸基を有する樹脂ビーズ、および1~100質量部の(D)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物を含む。
以下、各成分について説明する。
【0010】
(A)シリコーン変性アクリル樹脂
シリコーン変性アクリル樹脂は、塗料から形成された塗膜に硬度、耐傷付性を付与する機能を有する。本明細書における「アクリル樹脂」には、メタクリル樹脂も包含するものとする。
シリコーン変性アクリル樹脂は、アクリル樹脂の少なくとも一部がシリコーン基によって変性されたものである限り、特に限定されない。
【0011】
シリコーン変性アクリル樹脂は、例えば、アクリル系単量体(a1)及び加水分解性シリル基含有単量体(a2)を共重合させたものが挙げられる。
【0012】
アクリル系単量体(a1)とては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アクリルクロライド等が挙げられる。これらの中でも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートが好ましい。これらのアクリル系単量体の1種または2種以上を用いることができる。
【0013】
加水分解性シリル基含有単量体(a2)としては、γ-(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリプロピオキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロピオキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシブチルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシペンチルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシヘキシルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシヘキシルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシオクチルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシデシルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシドデシルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシオクタデシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジプロポキシシラン、ビニルトリ(2-メトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。これらの中でも、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(2-メトキシエトキシ)シラン等が好ましい。これらの加水分解性シリル基含有単量体の1種または2種以上を用いることができる。
加水分解性シリル基含有単量体(a2)の配合量は、塗膜に硬度、耐傷付性を十分付与すると共に、塗膜のその他の所望特性を阻害しない観点から、通常、アクリル系単量体(a1)および加水分解性シリル基含有単量体(a2)の合計量に対して0.1~50質量%であってよく、好ましくは0.5~30質量%、より好ましくは1~20質量%であってよい。
【0014】
シリコーン変性アクリル樹脂は、例えば、アクリル系単量体(a1)及び加水分解性シリル基含有単量体(a2)に加えて、その他の架橋性単量体(a3)を共重合させてものであってよい。
そのようなその他の架橋性単量体(a3)としては、特に限定されないが、エチレン性不飽和基を1分子中に2個以上含む多官能性モノマー、カルボキシル基含有単量体、水酸基含有単量体、エポキシ基含有単量体、アミド基やメチロール基、カルボニル基、アセトアセチル基を含有する単量体等の官能基を有する単量体が挙げられる。
その他の架橋性単量体(a3)を用いる場合の配合量は、通常、加水分解性シリル基含有単量体(a2)の配合量以下であってよい。
【0015】
好ましい一態様において、シリコーン変性アクリル樹脂は、ラダーシリコーン構造を有するシリコーン変性アクリル樹脂を含んでいてよい。(A)成分のシリコーン変性アクリル樹脂に占めるラダーシリコーン構造を有するシリコーン変性アクリル樹脂の配合量は、通常10~100質量%であってよく、好ましくは50~100質量%であってよく、より好ましくは80~100質量%であってよく、最も好ましくは全てがラダーシリコーン構造を有するシリコーン変性アクリル樹脂であってよい。
ラダーシリコーン構造を有するシリコーン変性アクリル樹脂を用いることによって、塗料から形成された塗膜に、更に向上した耐傷付性を付与すると共に、耐汚染性を改善することが可能になる。
【0016】
ラダーシリコーン構造を有するシリコーン変性アクリル樹脂は、アクリル樹脂の少なくとも一部がラダー状のシリコーン構造によって変性されている限り、特に限定されない。
ラダーシリコーン構造を有するシリコーン変性アクリル樹脂は、例えば、以下の一般式(1)で示されるラダー構造を少なくとも一部(例えば3~50質量%)含み、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも一種を共重合モノマーとする共重合体であってよい。
【化1】

(式中、Rは、水素、炭素数1~18のアルキル基、置換アルキル基、フェニル基、置換フェニル基から選択される少なくとも一種の基と、10モル%~80モル%のビニル基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロキシアルキル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、メチロールアミド基、アルコキシメチロールアミド基を含む基から選択される少なくとも一種(ただし(メタ)アクリル基および/または(メタ)アクリロキシアルキル基を少なくとも一部に含み、好ましくは(メタ)アクリル基および/または(メタ)アクリロキシアルキル基を過半モル割合で含む)の反応性置換基を示す。)
【0017】
ラダーシリコーン構造を有するシリコーン変性アクリル樹脂は、ラダーシリコーン構造を有するシリコーンオリゴマーと(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも一種とを共重合させることによって得ることができる。ラダーシリコーン構造を有するシリコーン変性アクリル樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。シリコーンオリゴマーと共重合させる(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルなどを用いることができる。
ラダーシリコーン構造を有するシリコーン変性アクリル樹脂は、特に限定されないが、例えば、約10000以上、約20000以上、約30000以上、約40000以上、また約50000以上であって、約50万以下、約40万以下、または約30万以下の重量平均分子量を有していてよい。本明細書での重量平均分子量(または数平均分子量)は、溶離液THFのゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる測定結果に基づいてポリスチレン換算で算出した重量平均分子量(または数平均分子量)の値である。
【0018】
ラダーシリコーン構造を有するシリコーン変性アクリル樹脂を構成するラダー構造を表す上記式(1)において、Rに占める反応性置換基の割合は、通常10モル%~80モル%であり、好ましくは20モル%~70モル%であり、より好ましくは30モル%~70モル%であり、さらにより好ましくは40モル%~70モル%であってよい。また、上記式(1)において、Rの反応性置換基に占める(メタ)アクリル基および/または(メタ)アクリロキシアルキル基に割合は、通常50モル%以上であり、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらにより好ましくは80モル%以上であってよい。
【0019】
ラダーシリコーン構造を有するシリコーン変性アクリル樹脂を形成するためのラダーシリコーン構造を有するシリコーンオリゴマーは、例えばトリアルコキシシラン又はトリクロロシランを加水分解縮合したオリゴマーであって、約500~5000の重量平均分子量を有するものである。トリアルコキシシラン、トリクロロシランの置換基の種類によって、アクリル基および/またはメタクリル基、ならびに任意選択でアルキル基、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、アミノ基などの側鎖を有する所望のラダーシリコーンオリゴマーを得ることができる。
【0020】
ラダーシリコーン構造を有するシリコーン変性アクリル樹脂を得るためのラダーシリコーン構造を有するシリコーンオリゴマーと(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも一種との共重合は、付加重合、縮合重合のいずれによって行ってもよい。その反応温度、時間、使用触媒等については特に限定されず、任意の条件を採用することができる。
【0021】
ラダーシリコーン構造を有するシリコーンオリゴマーと(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも一種とを共重合させる際の質量割合は、塗膜に硬度、耐傷付性を十分付与すると共に、塗膜のその他の所望特性を阻害しない観点から、通常3~50:97~50であり、好ましくは3~45:97~55、3~40:97~60、5~50:95~50、5~45:95~55、5~40:95~60、10~50:90~50、10~45:90~55、または10~40:90~60であってよい。
【0022】
ラダーシリコーン構造を有するシリコーン変性アクリル樹脂を各構造単位の含有量は、例えば、13C-NMRを使用して求めることができる。13C-NMRスペクトルは、例えば、試料60mgをクロロホルム-d1溶媒(ケミカルシフト基準用)0.6mLに溶解し、125MHzの核磁気共鳴装置を使用し、以下の条件で測定することができる。ピークの帰属は、「高分子分析ハンドブック(2008年9月20日初版第1刷、社団法人日本分析化学会高分子分析研究懇談会編、株式会社朝倉書店)」や「独立行政法人物質・材料研究機構材料情報ステーションのNMRデータベース(http://polymer.nims.go.jp/NMR/)」を参考に行い、ピーク面積比から各構造単位の割合を算出することができる。
【0023】
(B)ポリエステルポリオール
ポリエステルポリオールは、塗料から形成された塗膜に柔軟性、延伸性、ひいては被着物に対する密着性・接着性を付与する機能を有する。
ポリエステルポリオールは、複数の水酸基を持つポリエステル樹脂である限り、その構造および分子量等について特に限定されない。
【0024】
ポリエステルポリオールは、多価アルコール、好ましくは二価アルコールの、ポリカルボン酸、好ましくはジカルボン酸又はそれと対応する無水物とのヒドロキシル末端反応生成物、ならびに、ラクトンの開環重合のいずれかから得られるものである。
【0025】
ポリエステルポリオールの形成に使用可能なポリカルボン酸は、脂肪族、脂環式、芳香族及び/又は複素環であってよい。また、ポリカルボン酸は、置換型、飽和型又は不飽和型であってよい。
ジカルボン酸の例としては、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソ-フタル酸、テトラクロロフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、テトラヒドロフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸及びピロメリット酸、又は、それらの混合物が挙げられる。
【0026】
ポリエステルポリオールの形成に使用可能な多価アルコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジブチレングリコール、2-メチル-1,3-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,4-シクロへキサンジメタノール、ビスフェノールA又は水素添加ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジ-トリメチロールエタン、ジ-トリメチロールプロパン及びペンタエリスリトールなどのポリオールも使用され得る。
【0027】
ポリエステルポリオールの例としては、ポリ(エチレンアジペート)、ポリ(ブチレンアジペート)、ポリ(ネオペンチルアジペート)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)、ポリ(ブチレンアゼラエート)、ポリ(ブチレンセバケート)、及びポリカプロラクトンなどを挙げることができる。
これらのポリエステルポリオールは、1種または複数種の混合物として使用することができる。
【0028】
ポリエステルポリオールは、通常、100~400mgKOH/gの水酸基価を有していてよい。あるいは、ポリエステルポリオールは、100~350mgKOH/gまたは150~350mgKOH/gまたは150~300mgKOH/gの水酸基価を有していてよい。
水酸基価とは、試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数のことである。本明細書において、水酸基価は、JIS K0070「化学製品の酸価,けん化価,エステル価,よう素価,水酸基価及び不けん化物の試験方法」の、「7.1中和滴定法」に規定された方法に従って測定および算出した値である。
また、ポリエステルポリオールは、通常1,000~200,000の重量平均分子量を有し、好ましくは1,000~100,000、2,000~200,000、または2,000~100,000の重量平均分子量を有していてよい。
【0029】
本発明に係る塗料における成分(B)のポリエステルポリオールの配合量は、塗膜に柔軟性、延伸性、ひいては被着物に対する密着性・接着性を十分に付与しつつ、塗膜のその他の所望特性の阻害を抑制する観点から、(A)シリコーン変性アクリル樹脂および(B)ポリエステルポリオールの合計量を100質量部として、通常、2~50質量部であってよく、好ましくは3~50質量部、2~40質量部または3~40質量部であってよく、より好ましくは4~40質量部、5~40質量部、4~35質量または5~35質量部であってよく、さらにより好ましくは6~35質量部、7~35質量部、6~30質量部または7~30質量部であってよく、最も好ましくは8~30質量部、9~30質量部、10~30質量部、8~25質量部、9~25質量部、または10~25質量部であってよい。
(C)水酸基を含有する樹脂ビーズ
水酸基を含有する樹脂ビーズは、塗料から形成された塗膜に艶消し意匠性を付与することに加え、水酸基を有することによって塗膜に延伸性、耐クラック性を与えると共に、塗膜を含む積層体の成形性(加工性)を向上させ、更には硬度・耐傷付性を向上させ得る機能を有する。
水酸基を含有する樹脂ビーズは、水酸基を含有する樹脂から形成されていることおよびビーズ形状を有する樹脂であることを満たす限り、特に限定されない。
【0030】
水酸基を含有する樹脂ビーズの例としては、特に限定されないが、水酸基を含有するウレタン系樹脂、水酸基を含有する架橋ウレタン樹脂(例えば、ビウレット結合、アロファネート結合、および/またはイソシアヌレート結合を介して二次元架橋および/または三次元架橋したもの)、水酸基を含有するスチレン系樹脂、水酸基を含有するアクリル系樹脂、水酸基を含有する弗素系樹脂、水酸基を含有するポリカーボネート系樹脂、水酸基を含有するエチレン系樹脂、及びアミノ系化合物とホルムアルデヒドとの硬化樹脂であって水酸基を含有する樹脂などの樹脂ビーズを挙げることができる。これらの水酸基を含有する樹脂ビーズのうち、塗膜の艶消し意匠性、耐クラック性、成形性(加工性)、硬度をバランス良く向上させる観点から水酸基を含有するウレタン系樹脂、特に水酸基を含有する架橋ウレタン樹脂が好ましい。また、これらの水酸基を含有する樹脂ビーズのうち、低比重、分散性、耐溶剤性等の観点から、水酸基を含有するウレタン系樹脂に加えて、水酸基を含有するシリコーン系樹脂、水酸基を含有するアクリル系樹脂、及び水酸基を含有する弗素系樹脂の粒子が好ましい。また効率的に塗膜に艶消し意匠を付与する観点から、真球状のものが好ましい。樹脂ビーズとしては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0031】
水酸基を含有する樹脂ビーズは、塗料から得られる塗膜に延伸性、耐クラック性を十分に与え、塗膜を含む積層体の成形性(加工性)を向上させると共に、塗膜のその他の所望特性の阻害を抑制する観点から、通常5~100mgKOH/gの水酸基価を有していてよい。樹脂ビーズの水酸基価は、好ましくは5~80mgKOH/g、5~60mgKOH/g、5~40mgKOH/g、5~30mgKOH/g、8~100mgKOH/g、8~80mgKOH/g、8~60mgKOH/g、8~40mgKOH/g、8~30mgKOH/g、10~100mgKOH/g、10~80mgKOH/g、10~60mgKOH/g、10~40mgKOH/g、10~30mgKOH/g、12~100mgKOH/g、12~80mgKOH/g、12~60mgKOH/g、12~40mgKOH/g、または12~30mgKOH/gであってよい。水酸基価の測定法は、成分(B)について上述したものと同様の方法を用いることができる。
【0032】
水酸基を含有する樹脂ビーズの平均粒子径は、塗膜に十分に艶消し意匠を付与する観点から、通常0.5μm以上、好ましくは1μm以上である。一方、この平均粒子径は、塗料から得られる塗膜の白濁感を抑制する観点、及び良好な触感を付与する観点から、通常50μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。
一実施形態において、水酸基を含有する樹脂ビーズの平均粒子径は、通常0.5μm以上50μm以下、好ましくは0.5μm以上30μm以下、0.5μm以上20μm以下、1μm以上50μm以下、1μm以上30μm以下、または1μm以上20μm以下であってよい。
【0033】
なお、本明細書において、水酸基を含有する樹脂ビーズの平均粒子径は、レーザー回折・散乱法で測定した粒子径分布曲線にて、樹脂ビーズの小さい方からの累積が50質量%となる粒子径である。レーザー回折・散乱法による粒子径分布曲線の測定は、例えば、日機装株式会社のレーザー回折・散乱式粒度分析計「MT3200II」(商品名)を使用して行うことができる。上記樹脂ビーズの平均粒子径の測定のために、他の供給源から得られるレーザー回折・散乱式粒度分析計を用いてもよい。すなわち、当業者は、上記定義に基づき、かつ技術常識を参考にすることにより、上記樹脂ビーズの平均粒子径を測定することができる。
【0034】
本発明に係る塗料における成分(C)の水酸基を含有する樹脂ビーズの配合量は、塗料から形成された塗膜に艶消し意匠性を付与すると共に、塗膜の耐クラック性、成形性(加工性)、硬度・耐傷付性のバランスの観点から、(A)シリコーン変性アクリル樹脂および(B)ポリエステルポリオールの合計量を100質量部として、通常1~80質量部であってよく、好ましくは3~80質量部、1~75質量部、または3~75質量部、より好ましくは5~70質量部、8~70質量部、5~65質量部、または8~65質量部、さらにより好ましくは8~60質量部、10~60質量部、8~55質量部、または10~55質量部、最も好ましくは12~55質量部、15~50質量部、12~55質量部、または15~50質量部であってよい。
【0035】
(D)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物
1分子中に2個以上のイソシアネート基(-N=C=O)を有する化合物は、上記成分(B)および成分(C)の水酸基と反応してウレタン結合を形成し、塗料から得られる塗膜の耐傷付性、延伸性および耐クラック性を良好にする働きをする。また、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物は、塗膜と基材または他層との密着性を良好にする働きをする。
【0036】
1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、及びメチレンビス-4-シクロヘキシルイソシアネート;トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体等のポリイソシアネート;及び、上記ポリイソシアネートのブロック型イソシアネート等のウレタン架橋剤などを挙げることができる。
【0037】
1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物としては、塗料から得られる塗膜の耐傷付性、延伸性および耐クラック性のバランスの観点から、1分子中に3個のイソシアネート基を有する化合物が好ましい。
また、ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体でありかつイソシアネート環構造をもつもの(下記式(1))、ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体でありかつトリメチロールプロパンアダクト体であるもの(下記式(2))、及びヘキサメチレンジイソシアネートの3量体でありかつビウレット体であるもの(下記式(3):式中、Rは-(CH-である。)を用いてもよい。これらの中でも、特にヘキサメチレンジイソシアネートの3量体でありかつビウレット体であるもの(下記式(3):式中、Rは-(CH-である。)が好ましい。
【0038】
【化1】
【0039】
【化2】
【0040】
【化3】
【0041】
理論に拘束される意図はないが、これらはヘキサメチレン鎖の先の互いに離れた位置にイソシアネート基が存在するという構造上の特徴があるため、得られる塗膜は、耐傷付性、延伸性および耐クラック性に優れるものになると考察される。従って、同様にアルキル鎖の先の互いに離れた位置にイソシアネート基が存在するという構造上の特徴を有する上記以外の1分子中に2以上のイソシアネート基(-N=C=O)を有する化合物もまた、同様に好ましく用いることができると考えられる。
【0042】
1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。また、本発明の目的に反しない限度において、所望により、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジエチルヘキソエートなどの触媒を添加してもよい。
【0043】
本発明に係る塗料における成分(D)の1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物の配合量は、塗料から得られる塗膜の耐傷付性、延伸性および耐クラック性の改善、ならびに塗膜と基材または他層との密着性の向上のバランスの観点から、(A)シリコーン変性アクリル樹脂および(B)ポリエステルポリオールの合計量を100質量部として、通常1~100質量部であってよく、好ましくは5~100質量部、1~95質量部、または5~95質量部、より好ましくは10~95質量部、15~95質量部、10~90質量部、または15~90質量部、さらにより好ましくは15~85質量部、20~85質量部、15~80質量部、または20~80質量部、最も好ましくは20~75質量部、25~75質量部、20~70質量部、または25~70質量部であってよい。
【0044】
本発明の塗料には、本発明の目的に反しない限度において、所望により、上記成分(A)~(D)以外の成分、例えば、上記成分(A)以外の硬化性樹脂、上記成分(B)以外のウレタン樹脂形成用ポリオール、上記成分(C)以外の樹脂ビーズ、上記成分(D)以外のイソシアネート基を有する化合物、熱可塑性樹脂、帯電防止剤、界面活性剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、汚染防止剤、印刷性改良剤、酸化防止剤、耐候性安定剤、耐光性安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、撥水剤/撥油剤、及び着色剤などの任意成分を1種、又は2種以上含ませることができる。このような任意成分の配合割合は、限定されないが、例えば塗料の全量100質量部に対して0質量部以上であって、10質量部以下、5質量部以下、または1質量部以下であってよい。
【0045】
本発明の塗料には、塗工し易い濃度に希釈するため、所望により、溶剤を含ませてもよい。上記溶剤は上記成分(A)~(D)、及びその他の任意成分と反応したり、これらの成分の自己反応(劣化反応を含む)を触媒(促進)したりしないものであれば、特に制限されない。上記溶剤としては、例えば、1-メトキシ-2-プロパノール、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ダイアセトンアルコール、及びアセトンなどを挙げることができる。上記溶剤としてはこれらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。溶剤の配合量は、特に限定されないが、例えば上記成分(A)~(D)及びその他の任意成分の合計100質量部に対して10質量部以上2000質量部以下、20質量部以上1000質量部以下、または30質量部以上600質量部以下であってよい。
本発明の塗料は、上記成分(A)~(D)及びその他の任意成分、ならびに必要に応じて溶剤を混合、攪拌することにより得られる。
【0046】
本発明の塗料を用いて塗膜を形成する方法は特に制限されず、任意のウェブ塗布方法を使用することができる。この塗布方法としては、例えば、ロッドコート、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、キスリバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、エアナイフコート、及びダイコートなどの方法を挙げることができる。これらの方法の中で安定した膜厚の塗膜を形成する観点から、ロッドコートが好ましく、ロッドとしてメイヤーバーを用いるロッドコート(以下、「メイヤーバー方式」と略すことがある)がより好ましい。
【0047】
積層体
本発明の一実施形態に係る積層体は、表層側から順に、少なくともトップコート層および基材フィルム層を含み、好ましくはトップコート層、アンカーコート層および基材フィルム層を含み、トップコート層が、(A)シリコーン変性アクリル樹脂、(B)ポリエステルポリオール、(C)水酸基を含有する樹脂ビーズ、及び(D)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物を含む塗料から形成されている。
本発明の好ましい一実施形態において、積層体は、表層側から順に、少なくともトップコート層および基材フィルム層を含み、好ましくはトップコート層、アンカーコート層および基材フィルム層を含み、トップコート層は、(A)シリコーン変性アクリル樹脂および(B)ポリエステルポリオールの合計量を100質量部とするとき、50~98質量部の(A)シリコーン変性アクリル樹脂、2~50質量部の(B)ポリエステルポリオール、1~80質量部の(C)水酸基を有する樹脂ビーズ、および1~100質量部の(D)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物を含む塗料から形成されている。この塗料は、上述した本発明の好ましい塗料に当たる。
なお、ここで「表層側」とは、積層体を含んで形成された物品が、現場での使用に供される際の外面(例えば化粧シートの視認面)により近いことを意味する。また、本明細書において、ある一層を他の層の「表層側」に配置することは、それらの層が直接的に接すること、および、それらの層の間に別の単数又は複数の層が介在することの両方を含む。
【0048】
表層側から順にトップコート層、アンカーコート層および基材フィルム層を含む積層体を構成し、上記(A)~(D)成分を含む塗料、好ましくは上記特定範囲の配合量の(A)~(D)成分を含む塗料を用いてトップコート層を形成することによって、表層に高度な艶消し性、耐汚染性、耐傷付性などの諸特性を与えつつ、基材との接着性を改善し、かつ延伸性、耐クラック性に優れ、特には加熱時に延伸する際にもクラック発生が抑制され得る高度な延伸性・成形性を有するトップコートおよびアンカーコートの組み合わせを与えることができる。
【0049】
トップコート層を形成するための塗料の通常および好ましい諸実施形態については、本発明の塗料について上述したとおりのものを採用することができる。
【0050】
積層体におけるトップコート層の塗布量(すなわちトップコート層形成用塗料の塗布・乾燥・硬化後の固形分量)は、特に限定されないが、艶消し性、耐汚染性、耐傷付性を確実に与える観点から、および効率性・経済性とのバランスの観点から、通常0.5g/m以上20g/m以下、好ましくは0.5g/m以上15g/m以下、0.5g/m以上10g/m以下、0.8g/m以上20g/m以下、0.8g/m以上15g/m以下、0.8g/m以上10g/m以下、1g/m以上20g/m以下、1g/m以上15g/m以下、1g/m以上10g/m以下であってよく、より好ましくは1.5g/m以上9g/m以下、1.5g/m以上8.5g/m以下、1.5g/m以上8g/m以下、2g/m以上9g/m以下、2g/m以上8.5g/m以下、2g/m以上8g/m以下であってよく、さらにより好ましくは2.5g/m以上7.5g/m以下または3g/m以上7g/m以下であってよい。
【0051】
上記アンカーコート層を形成するための塗料は、特に限定されず、任意のアンカーコート剤を含む塗料を用いることができる。
アンカーコート剤としては、例えば、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂、及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体系樹脂のいずれか又は複数種を用いることができる。
【0052】
アンカーコート層形成用塗料のアンカーコート剤として、水酸基を含有する樹脂を用いることによって、トップコート層及び基材の各々との密着性を向上させると共に、塗膜に延伸性、耐クラック性を与えることで、積層体を成形(例えば三次元成形)した後に、トップコート層及びアンカーコート層を構成する塗膜が基材から剥離することを効果的に抑制することができる。水酸基を含有する樹脂としては、特に限定されないが、上で例示した樹脂に水酸基を導入したもの、すなわち、水酸基を含有するポリエステル系樹脂、水酸基を含有するアクリル系樹脂、水酸基を含有するポリウレタン系樹脂、水酸基を含有するアクリルウレタン系樹脂、水酸基を含有するポリエステルウレタン系樹脂、水酸基を含有するエチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂、及び水酸基を含有する塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体系樹脂のいずれか又は複数種を挙げることができる。
【0053】
特に、アンカーコート層形成用塗料がアンカーコート剤として水酸基を含有する架橋ウレタン樹脂ビーズを含むことによって、トップコート層及び基材の各々との密着性をより一層向上させ、塗膜に十分な延伸性、耐クラック性を与えてトップコート層及びアンカーコート層の基材からの剥離をさらに効果的に防止することができる。アンカーコート層形成用塗料に用いられるこのような水酸基を含有する架橋ウレタン樹脂ビーズとしては、例えば、ビウレット結合、アロファネート結合、および/またはイソシアヌレート結合を介して二次元架橋および/または三次元架橋していると共に、水酸基を有するウレタン樹脂ビーズが挙げられる。
【0054】
アンカーコート層形成用塗料がアンカーコート剤として水酸基を含有する樹脂および水酸基を含有する架橋ウレタン樹脂ビーズを含む場合、水酸基を含有する樹脂100質量部に対する水酸基を含有する架橋ウレタン樹脂ビーズの配合量(以降、配合量(b)と称する)は、好ましくは100質量部以上、より好ましくは110質量部以上、さらに好ましくは120質量部以上、さらにより好ましくは130質量部以上、より一層好ましくは140質量部以上、最も好ましくは150質量部以上であってよい。これらの好ましい配合割合は、トップコート層形成用塗料である本発明に係る塗料における(A)シリコーン変性アクリル樹脂および(B)ポリエステルポリオールの合計量100質量部に対する(C)水酸基を含有する樹脂ビーズの配合量(以降、配合量(a)と称する)1~80質量部を上回っている。このように、アンカーコート層形成用塗料における水酸基を含有する架橋ウレタン樹脂ビーズの配合量(b)を、トップコート層形成用塗料における水酸基を含有する樹脂ビーズ(好ましくは水酸基を含有する架橋ウレタン樹脂ビーズを含む)の配合量(a)よりも相対的に大きくすることによって、換言すれば、配合量(a)を配合量(b)よりも相対的に小さくすることによって、艶消し意匠を十分に付与すると同時に、トップコート層に求められる耐汚染性および耐傷付性の低下を防止してそれらを高度に維持することが可能になる。
このような観点から、トップコート層形成用塗料における水酸基を含有する樹脂ビーズの配合量(a)に対するアンカーコート層形成用塗料における水酸基を含有する架橋ウレタン樹脂ビーズの配合量(b)の相対比率:(b)/(a)は、好ましくは1.25以上、より好ましくは2以上、さらにより好ましくは3以上、より一層好ましくは4以上、さらにより一層好ましくは5以上、最も好ましくは6以上であってよい。
【0055】
アンカーコート層形成用塗料に用いられる水酸基を含有する架橋ウレタン樹脂ビーズの水酸基価および平均粒子径は、本発明に係る塗料の(C)成分である水酸基を含有する樹脂ビーズについて説明されたのものであってよい。
すなわち、アンカーコート層形成用塗料に用いられる水酸基を含有する架橋ウレタン樹脂ビーズの水酸基価は、上述した所望の特性の観点から、通常5~100mgKOH/gの水酸基価を有していてよい。樹脂ビーズの水酸基価は、好ましくは5~80mgKOH/g、5~60mgKOH/g、5~40mgKOH/g、5~30mgKOH/g、8~100mgKOH/g、8~80mgKOH/g、8~60mgKOH/g、8~40mgKOH/g、8~30mgKOH/g、10~100mgKOH/g、10~80mgKOH/g、10~60mgKOH/g、10~40mgKOH/g、10~30mgKOH/g、12~100mgKOH/g、12~80mgKOH/g、12~60mgKOH/g、12~40mgKOH/g、または12~30mgKOH/gであってよい。水酸基価の測定法は、成分(B)について上述したものと同様の方法を用いることができる。
また、アンカーコート層形成用塗料に用いられる水酸基を含有する架橋ウレタン樹脂ビーズの平均粒子径は、塗膜に加えてアンカーコートにも十分に艶消し意匠を付与する観点から、通常0.5μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上である。一方、この平均粒子径は、アンカーコート層の白濁感を抑制する観点から、通常50μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは10μm以下である。一実施形態において、アンカーコート層形成用塗料に用いられる水酸基を含有する架橋ウレタン樹脂ビーズの平均粒子径は、通常0.5μm以上50μm以下、好ましくは0.5μm以上30μm以下、0.5μm以上20μm以下、0.5μm以上10μm以下、1μm以上50μm以下、1μm以上30μm以下、1μm以上20μm以下、1μm以上10μm以下、2μm以上50μm以下、2μm以上30μm以下、2μm以上20μm以下、または2μm以上10μm以下であってよい。
【0056】
また、上記アンカーコート層形成用塗料には、本発明の目的に反しない限度において、所望により、酸化防止剤、耐候性安定剤、耐光性安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、帯電防止剤、界面活性剤、着色剤、赤外線遮蔽剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、及びフィラー等の添加剤を1種、又は2種以上含ませてもよい。このような任意成分の配合割合は、限定されないが、例えばアンカーコート形成用塗料の全量100質量部に対して0質量部以上であって、10質量部以下、5質量部以下、または1質量部以下であってよい。
【0057】
アンカーコート形成用塗料には、塗工し易い濃度に希釈するため、所望により、溶剤を含ませてもよい。上記溶剤は上記アンカーコート剤及びその他の任意成分と反応したり、これらの成分の自己反応(劣化反応を含む)を触媒(促進)したりしないものであれば、特に制限されない。上記溶剤としては、例えば、1-メトキシ-2-プロパノール、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ダイアセトンアルコール、及びアセトンなどを挙げることができる。上記溶剤としてはこれらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。溶剤の配合量は、特に限定されないが、例えば上記アンカーコート剤及びその他の任意成分の合計100質量部に対して10質量部以上2000質量部以下、20質量部以上1000質量部以下、または30質量部以上600質量部以下であってよい。
【0058】
上記アンカーコート剤を用いて上記アンカーコートを形成する方法は特に制限されず、任意のウェブ塗布方法を使用することができる。この塗布方法の例としては、本発明の塗料を用いて塗膜を形成する方法について上述された各方法と同じものが挙げられる。
【0059】
積層体におけるアンカーコート層の塗布量(すなわちアンカーコート層形成用塗料の塗布・乾燥・硬化後の固形分量)は、特に限定されないが、トップコート層及び基材の各々との密着性、延伸性およびそれによる剥離抑制、艶消し付与の観点から、および効率性・経済性とのバランスの観点から、通常0.2g/m以上12g/m以下、好ましくは0.2g/m以上10g/m以下、0.2g/m以上8g/m以下、0.4g/m以上12g/m以下、0.4g/m以上10g/m以下、0.4g/m以上8g/m以下、0.8g/m以上12g/m以下、0.8g/m以上10g/m以下、0.8g/m以上8g/m以下、1g/m以上12g/m以下、1g/m以上10g/m以下、または1g/m以上8g/m以下であってよく、より好ましくは1.2g/m以上6g/m以下、1.2g/m以上5g/m以下、または1.2g/m以上4g/m以下であってよく、さらにより好ましくは1.4g/m以上3.5g/m以下または1.6g/m以上3g/m以下であってよい。
【0060】
積層体の基材フィルム層は、特に限定されないが、一般的には熱可塑性樹脂フィルムを用いることができる。
基材フィルム層を構成する熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂;芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステルなどのポリエステル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリメチルペンテンなどのポリオレフィン系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体、及びスチレン・エチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体などのスチレン系樹脂;セロファン、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、及びアセチルセルロースブチレートなどのセルロース系樹脂;ポリ塩化ビニリデン系樹脂;ポリフッ化ビニリデンなどの含弗素系樹脂;その他、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエーテルイミド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォンなどの樹脂フィルムを挙げることができる。これらのフィルムは、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、及び二軸延伸フィルムを包含する。またこれらの1種以上を2層以上積層した積層フィルムを包含する。
【0061】
上記熱可塑性樹脂フィルムは、無色であっても着色されていてもよい。熱可塑性樹脂フィルムの着色に用いる着色剤は、特に限定されない。着色剤としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラックなどを挙げることができる。これらの着色剤の1種又は2種以上の混合物を用いることができる。着色剤の配合量は、例えば、熱可塑性樹脂フィルムに用いられる基材樹脂を100質量部に対して通常0.1~40質量部程度であってよい。
【0062】
基材フィルム層の厚みは、特に制限されないが、積層体生産時の取扱性の観点から、通常50μm以上、好ましくは80μm以上、または100μm以上であってよい。一方、積層体を物品に被着させる際の作業性の観点から、通常1000μm以下、好ましくは800μm以下、または500μm以下であってよい。一実施形態において、基材フィルム層の厚みは、通常50μm以上1000μm以下、好ましくは50μm以上800μm以下、50μm以上500μm以下、80μm以上1000μm以下、80μm以上800μm以下、80μm以上500μm以下、100μm以上1000μm以下、100μm以上800μm以下、または100μm以上500μm以下であってよい。
【0063】
積層体において、トップコート層と基材フィルム層、または、トップコート層とアンカーコート層と基材フィルム層とは直接接合されていてよいし、あるいは、これらの層間のいずれかに他の任意の機能層、意匠層(1つまたは複数)が介在してもよい。
【0064】
積層体は、延伸性に優れ、特には加熱時に延伸する際にもクラック発生が抑制され得る高度な延伸性・成形性を有するトップコートおよびアンカーコートの組み合わせを与えることが好ましい。
このような加熱延伸時の成形性の尺度として、積層体の70℃での加熱延伸試験によるクラック非生成延伸率が、通常100%以上であってよく、好ましくは110%以上、より好ましくは120%以上、さらにより好ましくは130%以上、より一層好ましくは140%以上、最も好ましくは150%以上であってよい。
この加熱延伸試験は、積層体をマシン方向に50mmかつこれに対して垂直の方向に150mmの大きさにカットして70℃にて1分間静置し、次いでカット済み積層体であるサンプルを標線間50mmで挟み、このサンプルの温度を70℃に維持しながらこれを引張速度30mm/分でマシン方向に対して垂直な方向に延伸したときに、サンプルの中央部にてクラックが生じないことが観察される最大延伸率(クラック非生成延伸率)を測定することにより行われる。
【0065】
物品、化粧シート
本発明に係る積層体は、被着体、非限定的な例示としては、冷蔵庫、洗濯機、エアコン、モバイルフォン、及びパソコンなどの家電製品;飾り棚、収納箪笥、食器戸棚、及び机などの家具;あるいは床、壁、及び浴室などの建築部材、木材、合板、集成材、パーチクルボード、及びハードボードなどの木質系材料からなる基材;ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート、及びポリエステルなどの樹脂系材料からなる基材;あるいは鉄、アルミニウムなどの金属系材料からなる基材等の被着体の表面に、保護層等の機能層として、あるいは化粧シートとして貼着した物品の形態で使用することができる。
【0066】
本発明の積層体を、上で例示したような被着体に貼着した物品の形態で使用するとき、被着体との密着性を向上させる観点から、基材フィルムのアンカーコート層/トップコート層と反対側の面の上に、直接又はアンカーコートを介して粘着剤層又は接着剤層又はプライマーコート層を形成してもよい。
【0067】
積層体を化粧シートに用いる場合、本発明の塗料を用いて形成される塗膜は、通常は、化粧シートの正面(実使用状態において通常視認される側の面)の表面保護層として形成される。また、積層体の基材フィルム層は、化粧シートの基材をなす。ここで実使用状態とは、化粧シートが各種物品の表面の化粧・加飾に用いられた状態をいう。積層体の基材フィルム層が、例えば着色された熱可塑性樹脂フィルムである場合、被着体を隠蔽することで意匠性の向上に寄与し得る。
【0068】
積層体を化粧シートに用いる場合、積層体の適当な位置に、例えば基材フィルムの正面側に(すなわち基材フィルムと上記アンカーコート層との間に)、高い意匠性を付与するための印刷層を設けることができる。印刷層は、任意の模様を任意のインキと任意の印刷機を使用して印刷することにより形成することができる。
印刷層を形成する方法は特に制限されず、任意のウェブ塗布方法を使用することができる。この塗布方法の例としては、本発明の塗料を用いて塗膜を形成する方法について上述された各方法と同じものが挙げられる。
【0069】
例えば、このような印刷層は、直接又は任意のアンカーコートを介して、基材フィルムの正面側の面の上に、全面的に又は部分的に、施すことができる。模様としては、ヘアライン等の金属調模様、木目模様、大理石等の岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、寄木模様、及びパッチワークなどを挙げることができる。印刷インキとしては、バインダーに顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、及び硬化剤等を適宜混合したものを使用することができる。上記バインダーとしては、例えば、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合体樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル・アクリル系共重合体樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ブチラール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、及び酢酸セルロース系樹脂などの樹脂、及びこれらの樹脂組成物を使用することができる。また金属調の意匠を施すため、アルミニウム、錫、チタン、インジウム及びこれらの酸化物などを、直接又は任意のアンカーコートを介して、基材フィルムの正面側の面の上に、全面的に又は部分的に、公知の方法により蒸着してもよい。
【0070】
本発明の積層体を含む物品、特に化粧シートは、好ましくは、艶消し意匠を与えることに加え、延伸性、耐クラック性に優れ、特には加熱時に延伸する際にもクラック発生が抑制され得る高度な延伸性・成形性を与えることにより、成形加工が容易であるため、複雑な曲面を有する被着体の加飾・化粧に好首尾に適用することができる。
【実施例0071】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
測定方法
(i)60度光沢値(艶消し性)
JIS Z8741:1997に準拠し、コニカミノルタ株式会社のマルチアングル光沢計「GM-268」(商品名)を使用し、積層体の塗膜面について60度光沢値を測定した。
【0073】
(ii)加熱延伸性(加熱下でのクラック非生成の最大延伸率:成形性の尺度)
積層体をマシン方向に50mmかつこれに対して垂直の方向に150mmの大きさにカットして70℃にて1分間静置した。次いで、カット済み積層体のサンプルを標線間50mmで挟み、このサンプルの温度を70℃に維持しながらこれを引張速度30mm/分でマシン方向に対して垂直な方向に延伸したときに、サンプルの中央部にてクラックが生じないことが観察される最大延伸率(クラック非生成延伸率)を測定した。ここでの延伸は最初の長さに対して10%増分刻みで行った。例えば、延伸率が100%に達するまでクラックが生成せず、延伸率が110%まで増大された時点で初めてクラックが生成した場合には、最大延伸率(クラック非生成延伸率)は100%であるという測定結果が記録される。このように測定される最大延伸率の範囲に対する加熱延伸性、すなわち成形性の良否を以下の基準で評価した。
◎(非常に良好): 最大延伸率が120%以上であった。
○(良好): 最大延伸率が100%以上120%未満であった。
△(やや不良): 最大延伸率が90%以上100%未満であった。
×(不良): 最大延伸率が90%未満であった。
【0074】
(iii)耐汚染性(赤インキに対する耐汚染性)
積層体のトップコート層表面に、株式会社パイロットの赤色インキ「パイロットインキレッド」(商品名)1mgを直径20mmの円形に塗布した後、水道水で洗い流した。水洗は、1リットル/10秒の流量の流水を、水道蛇口から10cm下の位置において、上記の塗布された汚染物に直接当てるのみの方法で20秒間行った。このとき汚れ除去性が良好であれば、汚染物が塗膜から浮き剥がれ落ちるのを観察することができる。汚染物の塗布箇所を目視観察し、以下の基準で評価した。
◎(非常に良好):汚染物は完全に除去され、塗布跡が全く残らなかった。
○(良好):汚染物は除去されたが、塗布跡が僅かに残っていた。
△(やや不良):汚染物の一部が除去されず、塗布箇所に残存していた。
×(不良):汚染物の多くが除去されず、塗布箇所に塗布されたときのまま残存していた。
【0075】
(iv)耐傷付性(爪スクラッチに対する耐傷付性)
卓上に厚みが5mmのフロートガラス板を置き、その面の上に、縦150mm、横100mmの大きさで、積層体のトップコート層のマシン方向が試験片の縦方向となるように採取した試験片を、積層体のトップコート層が表面となるように置き、上記フロートガラス板、上記試験片の何れも動かないように固定した。温度23±2℃、相対湿度50~65%の環境で24時間状態調節をした後、同環境下において、上記試験片の評価面(ハードコート面)に利き腕の手の人差し指を垂直に強く押し当て、直径が2cmの螺旋擦過を素早く行った。このとき評価面と利き腕の手の甲とが面平行となるように、利き腕の手の人差し指が評価面に対する垂線となるようにした。螺旋擦過による傷の痕跡を目視観察し、以下の基準で評価した。
◎(非常に良好):方向を変化させながら光を反射させて間近に観察しても傷が認められなかった。
〇(良好):方向を変化させながら光を反射させて間近に観察すると傷が認められた。
△(やや不良):方向を変化させながら光を反射させて観察するまでもなく、傷が認められた。
×(不良):積層体の削れた箇所、ないし脱落した箇所が認められる。
【0076】
(v)耐テカリ性
上記(iv)耐傷付性に示したとおり試験片に対して擦過を行った後、試験片の表面のテカリを目視観察し、以下の基準で評価した。
◎(非常に良好):方向を変化させながら光を反射させて間近に観察してもテカリが認められなかった。
〇(良好): 方向を変化させながら光を反射させて間近に観察するとテカリが認められた。
△(やや不良): 方向を変化させながら光を反射させて観察するまでもなく、テカリが認められた。
×(不良): 方向を変化させながら光を反射させて観察するまでもなく、非常に目立つテカリがあった。
【0077】
(vi)プロテクトブロッキング性
積層体のトップコート層の表面上に、粘着層が添着されたプロテクト層(株式会社サンエー化研製「サニテクトMA34」:ポリプロピレンフイルム/プライマー層/粘着層の構成を備える表面保護フィルム)をその粘着層を介して積層することで得られたプロテクト層付き積層体から、縦100mm、横100mmの大きさで切断・採取した試験片を用意した。この試験片を2枚のガラス板で挟んで、プロテクト層側のガラス板の上から5kgの重りを乗せ、温度50℃の条件に17時間静置した。次いで、常温に戻した後、試験片からプロテクト層を手で剥がした。プロテクト層が剥離された積層体の表面上にて、プロテクト層に添着されていた粘着層が凝集破壊して糊残りするかどうかを目視で確認し、下記基準で評価した。
〇(良好):糊残りがなかった。
×(不良):糊残りがあった。
【0078】
(vii)耐寒衝撃性
積層体に対して、JIS K5600-5-3:1999に従ってデュポン式衝撃試験を行った。試験条件は以下のとおりとした:重量1kgの錘を用い、受け型1/4インチおよび撃ち型1/2インチとし、0℃環境下で高さ20cmから錘を落として丸く打ち抜き、錘の落下箇所の周囲における割れの発生の有無を目視で確認した。
〇(良好):錘の落下箇所の周囲に割れが無かった。
△(良好):錘の落下箇所の周囲にわすかに割れがあった。
×(不良):錘の落下箇所の周囲に複数の明確な又は大きな割れがあった。
【0079】
使用した原材料
1.トップコート層形成用塗料の原材料
(A)シリコーン変性アクリル系硬化性樹脂
(A-1)ラダーシリコーン(梯子型構造ポリシロキサン/シルセスキオキサン)骨格含有アクリル樹脂
株式会社トクシキ製「SQ150」(商品名)
(A’)比較用アクリル樹脂(シリコーン変性なし)
(A’-1)DICグラフィックス株式会社製「NH-NTクリヤー」(商品名)
【0080】
(B)ポリエステルポリオール
(B-1)水酸基価230のポリエステルポリオール
楠本化成株式会社製「FLEXOREZ188」(商品名)
【0081】
(C1)水酸基を含有する樹脂ビーズ
(C1-1)水酸基を含有する架橋ウレタン樹脂ビーズ(水酸基価18mgKOH/g)
(C’1)比較用:水酸基を含有しない樹脂ビーズ
(C’1-1)架橋ポリメタクリル酸ブチル組成の真球状微粒子
積水化成株式会社製「BM30X-5」(商品名)
【0082】
(D1)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物
(D1-1)ビウレット型イソシアネート化合物
旭化成株式会社製「デュラネート24A-100」(商品名)
(D1-2)イソシアヌレート型イソシアネート化合物
DICグラフィックス製「FG700」(商品名)
【0083】
(S)溶剤
(S-1)酢酸エチル
【0084】
2.アンカーコート層形成用塗料の原材料
(E)アンカーコート剤1
(E-1)水酸基を含有する塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体系樹脂
株式会社トクシキ製「AD1430」(商品名)、モル組成-塩ビ/酢ビ/PVOH=93/2/5、ガラス転移温度76℃、Mw/Mn(×10)=5.3/2.7、淡黄色透明の外観。
(E-2)架橋点を有しないポリウレタン樹脂
東ソー株式会社製「ニッポラン5253」(商品名)
【0085】
(C2)アンカーコート剤2
(C2-1)水酸基を含有する架橋ウレタン樹脂ビーズ(水酸基価18mgKOH/g)
(C’2-1)架橋ポリメタクリル酸ブチル組成の真球状微粒子(水酸基を含有しない)
積水化成株式会社製「BM30X-5」(商品名)
【0086】
(D2)1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物
(D2-1)イソシアヌレート型イソシアネート化合物
DICグラフィックス製「FG700」(商品名)
【0087】
(S)溶剤
(S-2)酢酸ブチル
【0088】
基材フィルム
(a)ポリ塩化ビニル(PVC)製フィルム
リケンテクノス株式会社製の灰色に着色されたPVC系樹脂フィルム「S17495 FC26747」(商品名)、厚み300μm 、ハードコート形成面の60度光沢値30% 。
(b)ポリエスエル製フィルム
リケンテクノス株式会社製「SET793/FZ14173」(商品名)、厚み300μm
【0089】
実施例1
上記(A-1)82質量部、上記(B-1)18質量部、上記(A-1)および(B-1)の合計100質量部に対して上記(C1-1)22.5質量部、上記(D1-1)44.5質量部、ならびに(S-1)150質量部を混合攪拌してトップコート層形成用塗料を得た。
メイヤーバー方式の塗工装置を使用し、上記基材フィルム(a)の面上に、塗布量(硬化後の質量)が5g/mとなるように上記塗料を塗布・乾燥・硬化してトップコート層を形成し、トップコート層/基材フィルムからなる積層体を得た。
この積層体の物性の測定・評価のため上記試験(i)~(vii)を行った。結果を表2に示す。
【0090】
実施例2
上記(E-1)100質量部、上記(C2-1)167質量部、上記(D2-1)24.3質量部および(S-2)150質量部を混合攪拌してアンカーコート層形成用塗料を得た。
メイヤーバー方式の塗工装置を使用し、上記基材フィルム(a)の面上に、塗布量(硬化後の質量)が2g/mとなるように上記塗料を塗布・乾燥・硬化してアンカーコート層を形成し、次いでこのアンカーコート層の面上に、塗布量(硬化後の質量)が5g/mとなるように実施例1で得た上記塗料を塗布・乾燥・硬化してトップコート層を形成し、トップコート層/アンカーコート層/基材フィルムからなる積層体を得た。
この積層体の物性の測定・評価のため上記試験(i)~(vii)を行った。結果を表2に示す。
【0091】
実施例3~7および比較例1~8
表1に示すように、トップコート層形成用塗料およびアンカーコート層形成用塗料の成分の種類及び配合量、ならびに基材フィルムを変更した以外は実施例2と同様に、トップコート層/アンカーコート層/基材フィルムからなる積層体を得た。
この積層体の物性の測定・評価のため上記試験(i)~(vii)を行った。結果を表2に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
メンブレン試験(成形性評価)について
(1)有限会社徳永NCのミディアムデンシティファイバーボード(以下、「MDF」という)である「MDF加工品」(商品名)(表面の平滑なMDF)を、縦300mm、横200mm、厚み18mmにカットし、曲面加工(3~10R)を施し、更に天面に装飾の溝を彫り込み、被着体を得た。
(2)得られた被着体の全面にKLEIBERIT社の接着剤「630.2」(商品名)をスプレー塗付した。
(3)WEMHONER社のメンブレン成形機「PRESSEN KT-M-139/280-24」(商品名)の所定の位置に台座(大きさ縦290mm、横180mm、厚み18mmの表面の平滑なMDF製)を置き、該台座の上に、上記被着体を、その天面とは反対側の面が台座側となるように、上記台座の縦方向と上記被着体の縦方向とが一致するように、及び上記台座の縦横面の対角線の交点と上記被着体の縦横面の対角線の交点とが一致するように置いた。更にその上に、裁断した実施例1の積層体(マシン方向450mm、横方向350mmの大きさ)を、そのトップコート層側の面とは反対側の面が貼着面となるように、上記被着体の縦方向と上記積層体のマシン方向とが一致するように、及び上記被着体の縦横面の対角線の交点と上記裁断した積層体の縦横面の対角線の交点とが一致するように載せた。
(4)上記メンブレン成形機のメンブレンの表面温度が80℃となるように予熱した後、温度110℃、押圧時間60秒、及び圧力0.39MPaの条件で、メンブレン成形を行い、成形体を得た。
(5)上記で得た成形体の外観を肉眼(矯正視力1.0)で、又はルーペ(拡大倍率25倍)を用いて目視観察したところ、被着体の立体形状に積層体が均一に追従し、色柄が均一に伸びていた。
さらに、実施例2~7の各々の積層体についてもこれと同じ試験を行ったところ、同様に、被着体の立体形状に積層体が均一に追従し、色柄が均一に伸びていた。
【0095】
本発明に係る好ましい塗料を用いることによって、艶消し性に加えて、耐汚染性、耐傷付性だけでなく、加熱時に延伸する際にもクラック発生が抑制され得る高度な延伸性・成形性を兼ね備えた艶消しハードコートを得ることができることが分かった。
また、本発明に係る好ましい積層体によれば、トップコート層の艶消し性、耐汚染性、耐傷付性などの諸特性を低下させることなく、基材との接着性を改善し、かつ加熱時に延伸する際にも(すなわち成形加工および延伸した後でも)クラック発生が抑制され得る高度な延伸性・成形性を有するトップコートおよびアンカーコートの組み合わせを与えることができることが分かった。
従って、本発明に係る好ましい積層体を含む物品は、例えば化粧シートとして用いる場合に、艶消し意匠を与えることに加え、複雑な曲面を有する被着体の加飾・化粧に好首尾に適用することができる。