(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090434
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】分析デバイス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20240627BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20240627BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20240627BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
B81B1/00
B81C1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206349
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】592068200
【氏名又は名称】学校法人東京薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森岡 和大
(72)【発明者】
【氏名】東海林 敦
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼田 顕郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 好花
【テーマコード(参考)】
2G058
3C081
【Fターム(参考)】
2G058DA07
3C081AA01
3C081AA17
3C081BA11
3C081BA23
3C081BA30
3C081CA02
3C081CA31
3C081CA32
3C081DA10
3C081EA27
3C081EA39
(57)【要約】
【課題】容易に、かつ、低コストで製造でき、さらに、圧着部材によって加圧することなく液漏れを防止できる分析デバイス及びその製造方法を提供する。
【解決手段】分析デバイス10は、第1積層部材20と、第1積層部材の下位側に積層される第2積層部材30と、を有する。第1積層部材は、導入部21aと、検出部21bとを有する第1ケーシング21内に、親水性の紙基板50から形成される第1流路22を配置した構成を有する。第2積層部材は、第1ケーシングに重ね合わせ可能な第2ケーシング31内に、親水性の紙基板から形成される第2流路32を配置した構成を有する。第1ケーシング及び第2ケーシングは、自己吸着性を有する樹脂材料から形成されている。第1積層部材及び第2積層部材は、第1ケーシングと第2ケーシングとを重ね合わせることによって接合され、2次元の第1流路及び第2流路によって3次元の流路パターンが形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象成分を含む検体溶液が導入される導入部と、前記分析対象成分との反応結果が示される検出部とを有する第1ケーシング内に、親水性の紙基板から形成される第1流路を配置してなる第1積層部材と、
前記第1積層部材の下位側に積層される少なくとも1つの第2積層部材であって、前記第1ケーシングに重ね合わせ可能な第2ケーシング内に、親水性の紙基板から形成される第2流路を配置してなる第2積層部材と、を有し、
前記第1ケーシング及び前記第2ケーシングは、自己吸着性を有する樹脂材料から形成され、
前記第1積層部材及び前記第2積層部材は、前記第1ケーシングと前記第2ケーシングとを重ね合わせることによって接合され、2次元の前記第1流路及び前記第2流路によって3次元の流路パターンが形成されてなる、分析デバイス。
【請求項2】
前記第1積層部材及び前記第2積層部材は、接合状態からの剥離が自在である、請求項1に記載の分析デバイス。
【請求項3】
前記第1流路は、前記導入部に臨む導入流路と、前記導入流路に対して隔離され前記検出部に臨む導出流路と、を有し、
前記第2流路は、前記導入流路から供給された前記検体溶液を前記導出流路に輸送するように伸びている形状を有する、請求項1に記載の分析デバイス。
【請求項4】
前記第1ケーシングは、少なくとも1つの窓部をさらに有し、
前記第1流路は、前記導入流路及び前記導出流路に対して隔離され前記窓部に臨む中間流路をさらに有し、
前記第2流路は、前記導入流路と前記中間流路とを連通する上流側流路と、前記上流側流路に対して隔離され前記中間流路と前記導出流路とを連通する下流側流路、とを有する、請求項3に記載の分析デバイス。
【請求項5】
前記自己吸着性を有する樹脂材料は、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリエチレン樹脂、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の分析デバイス。
【請求項6】
分析対象成分を含む検体溶液が導入される導入部と、前記分析対象成分との反応結果が示される検出部とを有し自己吸着性を有する樹脂材料から形成される第1ケーシング内に、親水性の紙基板から形成される第1流路を配置してなる第1積層部材を形成し、
前記第1積層部材の下位側に積層される少なくとも1つの第2積層部材であって、自己吸着性を有する樹脂材料から形成され前記第1ケーシングに重ね合わせ可能な第2ケーシング内に、親水性の紙基板から形成される第2流路を配置してなる第2積層部材を形成し、
前記第1ケーシングと前記第2ケーシングとを、前記導入部及び前記検出部を外方に向け、前記第1流路と前記第2流路とが向かい合うように重ね合わせることによって、前記第1積層部材と前記第2積層部材とを接合し、2次元の前記第1流路及び前記第2流路によって3次元の流路パターンを形成する、分析デバイスの製造方法。
【請求項7】
前記紙基板に染み込ませた前記自己吸着性を有する樹脂材料を構成する成分を含む液を光硬化させることによって疎水性部を形成し、前記疎水性部によって前記第1流路、前記第2流路、前記第1ケーシング、及び前記第2ケーシングを形成し、
前記第1積層部材及び前記第2積層部材は、前記疎水性部から形成された前記第1ケーシングと前記第2ケーシングとを直接的に貼り合わせることによって接合する、請求項6に記載の分析デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記自己吸着性を有する樹脂材料は、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリエチレン樹脂、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項6又は請求項7に記載の分析デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野において、中小規模の医療施設、居宅、災害発生時の避難所などで、高度な医療検査を実施するポイントオブケア検査(POCT:Point-of-care testing)が求められている。このような検査を実現する場合、安価な分析デバイスの提供が必要となる。安価な分析デバイスを提供するため、マイクロ紙基板分析デバイス(Microfludic Paper-based Analytical Devices:μPAD)の開発が進められている。
【0003】
μPADは、以下のような利点を有する。(a)紙なので入手が容易である。(b)低コストで製造が可能である。(c)毛細管現象を利用したポンプレス送液をできる。(d)紙基板に試薬を塗布乾燥できる。(e)使い捨ての使用が可能であり、廃棄も容易である。(f)微少量の試料・試薬で分析できる。(g)測定時間の短縮が可能である。(h)多項目検査に応用できる。(i)医療分野の分析以外にも、環境分析や食品分析にも応用可能である、等々である。
【0004】
さらに、平面(2次元:2D)形状の紙基板流路を複数枚重ねて構成する3次元マイクロ紙基板分析デバイス(3DμPAD)の開発も進められている。
【0005】
3DμPADは、上記の2DμPADの利点に加えて、以下のような利点をさらに有する。(a)平面方向だけでなく垂直方向にも流路を形成できる。これによって、多段の操作を要する分析を一枚の紙基板で達成可能である。(b)鉛直方向に紙基板流路を積層できる。これによって、2DμPADと比較して小さなフットプリントで多項目検査を実施できる。また、デバイスをダウンサイズ化できる。(c)溶液同士の接触面積を大きくできる。これによって、溶液混合や化学反応を効率化できる、等々である。
【0006】
従来の3DμPADの製造方法に関して、以下のような技術が知られている。
【0007】
ワックスプリントによって疎水性部を形成し、紙基板流路を作製する。ラミネート加工によって、作製した複数枚の2D紙基板流路を接着させる。その後、複数枚の紙基板流路の外部を圧着部材(ホッチキスなど)によって圧着させ、3DμPADを製造する(特許文献1を参照)。
【0008】
フォトリソグラフィー技術を用いてフォトレジストであるSU-8をパターンニングすることによって疎水性部を形成し、紙基板流路を作製する。貫通孔の開いた両面粘着テープによって、作製した複数枚の2D紙基板流路同士を貼り合わせ、3DμPADを製造するる(非特許文献1を参照)。
【0009】
フォトリソグラフィー技術を用いてフォトレジストであるSU-8をパターンニングすることによって疎水性部を形成し、紙基板流路を作製する。複数枚の紙基板流路を外付けの圧着部材(アルミニウム製クランプ)によって圧着させ、3DμPADを製造する(非特許文献2を参照)。
【0010】
3Dプリンターによって、紙基板流路や3次元構造体を作製する。一枚の紙基板の両面にプリントすることによって、一枚の紙基板によって3DμPADを製造する(非特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Martinez et al.,PNAS,2008,105,19606-19611
【非特許文献2】Liu et al.,J.Am.Chem.Soc.,2011,133,17564-17566
【非特許文献3】Park et al.,Lab Chip 2018,18,1533-1538
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、作製に多段の操作を要するとともに、圧着機器(ラミネータなど)や圧着部材(ホッチキスなど)が必要である。このため、3DμPADを量産することが困難である。また、圧着にムラがあると、紙基板を重ねることによって接触している疎水性部の隙間から、検体溶液が漏出する恐れがある。
【0014】
非特許文献1の技術は、紙基板流路は、高額な設備と多段の操作が必要なフォトリソグラフィーによって作製される。また、貫通孔を有する両面粘着テープは、厳密に位置を調整して貼り合わせる必要がある。このため、安価かつ手軽に分析デバイスを製造できない。また、粘着剤が溶出し、分析性能の低下を引き起こす恐れがある。
【0015】
非特許文献2の技術は、紙基板流路を接続するために圧着部材(アルミニウム製クランプ)が必要である。このため、3DμPADを量産することが困難である。また、圧着にムラがあると、紙基板を重ねることによって接触している疎水性部の隙間から、検体溶液が漏出する恐れがある。
【0016】
非特許文献3の技術は、一枚の紙基板によって3DμPADを製造するため、3DμPADを量産することが困難である。
【0017】
これらのように、これまで開発されてきた3DμPADの分析デバイス及びその製造方法は、製造プロセスが複雑で厳密な操作を必要とする。さらに、圧着部材(両面粘着テープ、接着剤などの溶剤、ホッチキス、クランプなど)や圧着機器(ラミネータなど)が必要で、製造工程を単純化できない。これらのために、3DμPADの進展が遅れ、実用化が進まない原因となっている。
【0018】
従来の紙基板流路にあっては、疎水性部の形成材料として、紙基板の内部を満たすこと、十分な機械的強度を有すること、取り扱いが容易であること等の条件を満たす材料(ワックスやSU-8など)が使用されている。μPAD開発に取り組む者にとって、これらの材料から構成された紙基板流路を複数枚重ねて3DμPADを製造する場合、液漏れを防止するためには紙基板同士を接着させるための圧着部材や圧着機器が必要不可欠である、という固定観念がある。
【0019】
本件発明者は、このような固定観念を打破するために鋭意研究した結果、自己吸着性を有する樹脂材料から形成した疎水性部によって紙基板流路を構成し、この紙基板流路を複数枚直接的に貼り合わせることによって、容易に製造でき、液漏れを防止することが可能な分析デバイスを開発するに至った。
【0020】
そこで、本発明は、紙基板から形成される3次元の流路パターンを有する分析デバイスであって、容易に、かつ、低コストで製造でき、さらに、圧着部材によって加圧することなく液漏れを防止できる分析デバイス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の上記目的は、下記(1)~(5)のいずれか1つの分析デバイス、及び下記(6)~(8)の分析デバイスの製造方法によって達成される。
【0022】
(1)分析対象成分を含む検体溶液が導入される導入部と、前記分析対象成分との反応結果が示される検出部とを有する第1ケーシング内に、親水性の紙基板から形成される第1流路を配置してなる第1積層部材と、
前記第1積層部材の下位側に積層される少なくとも1つの第2積層部材であって、前記第1ケーシングに重ね合わせ可能な第2ケーシング内に、親水性の紙基板から形成される第2流路を配置してなる第2積層部材と、を有し、
前記第1ケーシング及び前記第2ケーシングは、自己吸着性を有する樹脂材料から形成され、
前記第1積層部材及び前記第2積層部材は、前記第1ケーシングと前記第2ケーシングとを重ね合わせることによって接合され、2次元の前記第1流路及び前記第2流路によって3次元の流路パターンが形成されてなる、分析デバイス。
【0023】
(2)前記第1積層部材及び前記第2積層部材は、接合状態からの剥離が自在である、上記(1)に記載の分析デバイス。
【0024】
(3)前記第1流路は、前記導入部に臨む導入流路と、前記導入流路に対して隔離され前記検出部に臨む導出流路と、を有し、
前記第2流路は、前記導入流路から供給された前記検体溶液を前記導出流路に輸送するように伸びている形状を有する、上記(1)又は(2)に記載の分析デバイス。
【0025】
(4)前記第1ケーシングは、少なくとも1つの窓部をさらに有し、
前記第1流路は、前記導入流路及び前記導出流路に対して隔離され前記窓部に臨む中間流路をさらに有し、
前記第2流路は、前記導入流路と前記中間流路とを連通する上流側流路と、前記上流側流路に対して隔離され前記中間流路と前記導出流路とを連通する下流側流路、とを有する、上記(3)に記載の分析デバイス。
【0026】
(5)前記自己吸着性を有する樹脂材料は、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリエチレン樹脂、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つである、上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の分析デバイス。
【0027】
(6)分析対象成分を含む検体溶液が導入される導入部と、前記分析対象成分との反応結果が示される検出部とを有し自己吸着性を有する樹脂材料から形成される第1ケーシング内に、親水性の紙基板から形成される第1流路を配置してなる第1積層部材を形成し、
前記第1積層部材の下位側に積層される少なくとも1つの第2積層部材であって、自己吸着性を有する樹脂材料から形成され前記第1ケーシングに重ね合わせ可能な第2ケーシング内に、親水性の紙基板から形成される第2流路を配置してなる第2積層部材を形成し、
前記第1ケーシングと前記第2ケーシングとを、前記導入部及び前記検出部を外方に向け、前記第1流路と前記第2流路とが向かい合うように重ね合わせることによって、前記第1積層部材と前記第2積層部材とを接合し、2次元の前記第1流路及び前記第2流路によって3次元の流路パターンを形成する、分析デバイスの製造方法。
【0028】
(7)前記紙基板に染み込ませた前記自己吸着性を有する樹脂材料を構成する成分を含む液を光硬化させることによって疎水性部を形成し、前記疎水性部によって前記第1流路、前記第2流路、前記第1ケーシング、及び前記第2ケーシングを形成し、
前記第1積層部材及び前記第2積層部材は、前記疎水性部から形成された前記第1ケーシングと前記第2ケーシングとを直接的に貼り合わせることによって接合する、上記(6)に記載の分析デバイスの製造方法。
【0029】
(8)前記自己吸着性を有する樹脂材料は、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリエチレン樹脂、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つである、上記(6)又は(7)に記載の分析デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、第1積層部材及び第2積層部材は、外付けの圧着部材(両面粘着テープ、接着剤などの溶剤、ホッチキス、クランプなど)や圧着機器(ラミネータなど)を使用することなく、第1ケーシング及び第2ケーシングの自己吸着力を利用して貼り合わせることができる。これにより、紙基板から形成される3次元の流路パターンを有する分析デバイスを容易に、かつ、低コストで製造できる。さらに、圧着部材によって加圧することなく、液漏れを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1(A)は、本発明の実施形態に係る分析デバイスを示す断面図、
図1(B)は、分析デバイスにおける3次元の流路パターンを模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2(A)及び
図2(B)は、第1積層部材と第2積層部材との両者を接合する前の状態を示す正面図及び背面図である。
【
図3】
図3(A)は、
図2(A)の3A-3A線に沿う断面図、
図3(B)は、
図2(A)の3B-3B線に沿う断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る分析デバイスの製造方法を示す工程図である。
【
図5】
図5(A)は、本発明の変形例に係る分析デバイスを示す断面図、
図5(B)は、変形例に係る分析デバイスにおける3次元の流路パターンを模式的に示す斜視図である。
【
図6】
図6(A)~
図6(E)は、親水性の紙基板に染み込ませた自己吸着性を有する樹脂材料を構成する成分を含む液を光硬化させることによって疎水性部を形成し、疎水性部によって流路及びケーシングを形成する手順を示す図である。
【
図7】
図7(A)~
図7(D)は、液漏れに関する評価の概要を示す図である。
【
図8】クレアチニンの測定で得られた実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ここで示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明を限定するものではない。よって、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、実施例及び運用技術などは全て本発明の範囲、要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0033】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。
【0034】
また、本明細書に添付する図面は、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺、縦横の寸法比、形状などについて、実物から変更し模式的に表現される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0035】
なお、本明細書において、「第1」、「第2」などの序数詞を付すこともある。しかしながら、これら序数詞に関する特段の説明がない限りは、説明の便宜上、構成要素を識別するために付したものであって、数又は順序を特定するものではない。
【0036】
[分析デバイス10]
図1~
図3に示すように、実施形態の分析デバイス10は、概説すると、第1積層部材20と、第1積層部材20の下位側に積層される少なくとも1つの第2積層部材30と、を有する。第1積層部材20は、分析対象成分を含む検体溶液40が導入される導入部21aと、分析対象成分との反応結果が示される検出部21bとを有する第1ケーシング21内に、親水性の紙基板50から形成される第1流路22を配置した構成を有する。第2積層部材30は、第1ケーシング21に重ね合わせ可能な第2ケーシング31内に、親水性の紙基板50から形成される第2流路32を配置した構成を有する。第1ケーシング21及び第2ケーシング31は、自己吸着性を有する樹脂材料から形成されている。第1積層部材20及び第2積層部材30は、第1ケーシング21と第2ケーシング31とを重ね合わせることによって接合され、2次元の第1流路22及び第2流路32によって3次元の流路パターンが形成されている。以下、実施形態の分析デバイス10について詳述する。
【0037】
なお、説明の便宜上、第1積層部材20及びその構成要素(第1ケーシング21、第1流路22)に関して、第1積層部材20と第2積層部材30との積層方向に沿って、導入部21a及び検出部21bが形成された側に位置する面を表面といい、表面に対向する反対側の面を裏面という。同様に、第2積層部材30及びその構成要素(第2ケーシング31、第2流路32)に関して、第1積層部材20が積層される側に位置する面を表面といい、表面に対向する反対側の面を裏面という。
【0038】
実施形態の分析デバイス10は、親水性の紙基板50に染み込ませた自己吸着性を有する樹脂材料を構成する成分を含む液を所定のパターンで光硬化させることによって疎水性部60(
図1(B)を参照)を形成し、この疎水性部60によって第1流路22、第2流路32、第1ケーシング21、及び第2ケーシング31を形成している。流路(第1流路22及び第2流路32)は、紙基板50のうち、疎水性部60を形成せずに、親水性を保った部分によって形成される。ケーシング(第1ケーシング21及び第2ケーシング31)は、疎水性部60によって形成される。紙基板50のうち疎水性部60を形成した部分も、ケーシングを形成する。このため、
図1(A)、
図3(A)、及び
図3(B)の断面図においては、紙基板50のうち疎水性部60を形成した部分は、樹脂を示すハッチングを付している。
図1(B)においては、疎水性部60を灰色によって表し、親水性を保った部分(第1流路22及び第2流路32)を白色によって表す。
【0039】
紙基板50の形成材料は、親水性を有し、滴下された検体溶液40を毛細管現象によって輸送できる3次元ネットワーク構造を有するものであれば特に限定されない。例えば、紙基板50は、セルロース、ガラスファイバーなどから形成されるろ紙、吸水パッドなどを適用できる。実施形態の分析デバイス10では、第1流路22及び第2流路32は同じ種類(同じ形成材料、同じ厚み、同じ坪量など)の紙基板50を使用している。浸透速度を調整する等のために、第1流路22及び第2流路32は異なる種類(異なる形成材料、異なる厚み、異なる坪量など)の紙基板50を使用できる。
【0040】
自己吸着性を有する樹脂材料は、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリエチレン樹脂、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つである。自己吸着性を有する樹脂材料は、好ましくは(メタ)アクリル系樹脂またはシリコーン系樹脂であり、より好ましくは(メタ)アクリル系樹脂である。なお、(メタ)アクリルは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味し、(メタ)アクリレートは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0041】
本明細書中、自己吸着性とは、圧着部材(例えば、両面粘着テープ、接着剤などの溶剤、クランプ、ステープラー)、圧着機器(例えば、ラミネータ)を使用せず、樹脂自体の吸着機構により貼付性を有することを意味する。
【0042】
(メタ)アクリル系樹脂とは、(メタ)アクリレートに由来する構成単位を有し、その他の重合性化合物に由来する構成単位を含んでもよい。
【0043】
一実施形態では、(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系樹脂としては、例えば(メタ)アクリルアミドモノマーと(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーとの混合物の重合体などが挙げられる。
【0044】
(メタ)アクリルアミドモノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-tert-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-メチル-N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0045】
(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーとしては、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、芳香族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーなどのウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、(メタ)アクリルエステルオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーなどが挙げられる。これら(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーは、(メタ)アクリロイル基を1~6個有する。
【0046】
一実施形態では、(メタ)アクリル系樹脂は、その構造中にウレタン構造を有する(メタ)アクリル系樹脂であり、好ましくは(メタ)アクリルアミドモノマーとウレタンアクリレートオリゴマーとの混合物の重合体であり、より好ましくは(メタ)アクリロイルモルホリンと脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとの混合物の重合体である。
【0047】
シリコーン系樹脂としては、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)、シリコーンゴムなどが挙げられる。
【0048】
分析デバイス10は、第1積層部材20と第2積層部材30とを予め接合した形態で分析を実施する場所に提供できる。あるいは、第1積層部材20と第2積層部材30とを接合する前の形態で分析を実施する場所に提供しておき、その場所において第1積層部材20と第2積層部材30とを接合した後に使用できる。
【0049】
図1(B)、
図2(A)、及び
図2(B)に示すように、分析デバイス10は、多数列の流路を有することができる。各列の流路は、3次元の同じ流路パターンを有することができ、又は3次元の異なる流路パターンを有することができる。実施形態の分析デバイス10は、3列の流路を有する。各列の流路は、3次元の同じ流路パターンを有する。
【0050】
各列の流路ごとに、異なる分析対象成分を同時に分析できる。また、標準添加法によって分析するために、ある列の流路は、目的とする分析対象成分を既知量添加した検体溶液40を分析し、他の流路は、何も添加しない検体溶液40を分析できる。
【0051】
第1積層部材20の第1流路22は、導入部21aに臨む導入流路22aと、導入流路22aに対して隔離され検出部21bに臨む導出流路22bと、を有する。第2流路32は、導入流路22aから供給された検体溶液40を導出流路22bに輸送するように伸びている形状を有する。
【0052】
分析デバイス10の第1ケーシング21は、導入部21a及び検出部21bの他に、少なくとも1つの窓部をさらに有することができる。実施形態の分析デバイス10では、第1ケーシング21は、1つの窓部21cをさらに有する。第1流路22は、導入流路22a及び導出流路22bに対して隔離され窓部21cに臨む中間流路22cをさらに有する。第2流路32は、導入流路22aと中間流路22cとを連通する上流側流路32aと、上流側流路32aに対して隔離され中間流路22cと導出流路22bとを連通する下流側流路32bと、を有する。
【0053】
図1(A)及び
図1(B)に示す矢印は、検体溶液40の流れ方を示している。導入部21aに導入した検体溶液40は、第1流路22の導入流路22aを構成する紙基板50に毛細管現象によって浸透し、第2流路32の上流側流路32aに供給される。次に、検体溶液40は、上流側流路32aを構成する紙基板50に浸透し、第1流路22の中間流路22cに供給される。次に、検体溶液40は、中間流路22cを構成する紙基板50に浸透し、第2流路32の下流側流路32bに供給される。次に、検体溶液40は、下流側流路32bを構成する紙基板50に浸透し、第1流路22の導出流路22bに供給される。そして、検体溶液40は、導出流路22bを構成する紙基板50に浸透する。
【0054】
検体溶液40の分析対象成分に対して反応する分析用試薬は、導出流路22bを構成する紙基板50に、予め塗布乾燥したり、分析時に塗布したりできる。中間流路22cを構成する紙基板50には、分析用試薬の他、pHの調節などの前処理を行う薬剤を塗布乾燥したり、分析時に塗布したりできる。第2流路32を構成する紙基板50にも、前処理を行う薬剤を塗布乾燥したり、分析時に塗布したりできる。検出部21bや窓部21cに示される分析対象成分との反応結果は、目視で検出できることが好ましい。目視以外にも、検出機器を用いて反応結果を検出できる。
【0055】
第1積層部材20及び第2積層部材30は、第1ケーシング21及び第2ケーシング31を自己吸着性を有する樹脂材料から形成することによって、接合状態からの剥離が自在に構成されている。このため、第2流路32を構成する紙基板50に分析用試薬を塗布乾燥したり、第1積層部材20と第2積層部材30とを接合する前に塗布したりできる。この場合、反応結果が検出部21bに示された後、第1積層部材20と第2積層部材30とを剥離して第2流路32を露出させる。そして、第2流路32の分析用試薬において示される反応結果を検出できる。第1積層部材20と第2積層部材30とを剥離できることから、中間流路22cの裏面、導出流路22bの裏面、第2流路32の表面に生じさせた結晶成分を分析することも可能となる。
【0056】
図2(A)及び
図2(B)には、第1積層部材20と第2積層部材30との両者を接合する前の状態が示される。
図2(A)は正面図、
図2(B)は背面図である。分析デバイス10は、紙基板50を介して、第1積層部材20と第2積層部材30とが接続された状態で製造できる。
図2(A)には、第1積層部材20の裏面、第2積層部材30の表面が示され、
図2(B)には、第1積層部材20の表面、第2積層部材30の裏面が示される。
【0057】
図3(B)に矢印によって示すように、分析デバイス10として使用するときには、第1積層部材20の裏面と、第2積層部材30の表面とを重ね合わせるように折りたたむ。第1積層部材20と第2積層部材30とは、第1ケーシング21と第2ケーシング31とを、導入部21a及び検出部21bを外方に向け、第1流路22と第2流路32とが向かい合うように重ね合わせることによって接合する。実施形態の分析デバイス10は、第1積層部材20と第2積層部材30とが直接的に接合される。本明細書において「直接的」とは、第1積層部材20と第2積層部材30とが形成材料の特性(自己吸着性)のみによって接合され、接合するために他の部材の使用を必要としないことを意味する。「他の部材」には、例えば、両面粘着テープ、接着剤などの溶剤、圧着状態を維持する加圧力を加えるホッチキスやクランプなどの機械的部品が含まれる。また、樹脂部品同士の接触面に熱を加えて物理的に接合するために利用される例えばレーザーや超音波も「他の部材」に含まれる。
【0058】
第1積層部材20及び第2積層部材30は、紙基板50を介して接続した形態に限られない。第1積層部材20及び第2積層部材30は、分離した形態にできる。さらに、第1ケーシング21及び第2ケーシング31は、折り曲げ自在なヒンジ部を介して接続した形態にできる。この場合、第1ケーシング21及び第2ケーシング31は、ヒンジ部を介して折り曲げて重ね合わせる。このため、第1流路22と第2流路32との位置合わせが容易になる。
【0059】
[分析デバイス10の製造方法]
図4は、分析デバイス10の製造方法を示す工程図である。まず、第1積層部材20を形成し(ステップS10)、第2積層部材30を形成する(ステップS20)。第1積層部材20及び第2積層部材30は、同時に製造でき、また、個別に製造できる。
【0060】
第1積層部材20は、自己吸着性を有する樹脂材料から形成される第1ケーシング21内に、親水性の紙基板50から形成される第1流路22を配置して構成される。第2積層部材30は、自己吸着性を有する樹脂材料から形成される第2ケーシング31内に、親水性の紙基板50から形成される第2流路32を配置して構成される。
【0061】
そして、第1積層部材20と第2積層部材30とを重ね合わせて接合する(ステップS30)。より詳しくは、第1ケーシング21と第2ケーシング31とを、導入部21a及び検出部21bを外方に向け、第1流路22と第2流路32とが向かい合うように重ね合わせることによって、第1積層部材20と第2積層部材30とを接合する。これによって、2次元の第1流路22及び第2流路32によって3次元の流路パターンが形成される。
【0062】
自己吸着性を有する樹脂材料は、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリエチレン樹脂、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0063】
第1積層部材20及び第2積層部材30の形成は、光造形式3Dプリンターを用いて形成できる。紙基板50に染み込ませた自己吸着性を有する樹脂材料を構成する成分(モノマー、オリゴマーなどの重合性化合物)を含む液を紫外線で光硬化させることによって疎水性部60を形成し、疎水性部60によって第1流路22、第2流路32、第1ケーシング21、及び第2ケーシング31を形成する。形成後、イソプロピルアルコールなどの有機溶剤により洗浄する。第1積層部材20及び第2積層部材30は、疎水性部60から形成された第1ケーシング21と第2ケーシング31とを直接的に貼り合わせることによって接合する。「直接的」とは、上記したように、第1積層部材20と第2積層部材30とが形成材料の特性(自己吸着性)のみによって接合され、接合するために他の部材の使用を必要としないことを意味する。「他の部材」には、例えば、両面粘着テープ、接着剤などの溶剤、ホッチキスなどの機械的部品、レーザーや超音波などが含まれる。
【0064】
自己吸着性を有する樹脂材料を構成する成分を含む液は、光重合開始剤(例えば2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(LUCIRIN(登録商標)TPO)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド)、顔料(例えばカーボンブラック)などを含んでもよい。
【0065】
光造形式3Dプリンターを用いる場合、自己吸着性を有する樹脂材料を構成する成分を含む液として市販品を使用することができる。市販品としては、Black Flexible Resin F69、F39、F39T、F80(RESIONE社)などが挙げられる。
【0066】
実施形態の分析デバイス10は、紙基板流路(第1流路22、第2流路32)を形成する疎水性部60が自己吸着性を有する材料から形成されている点に特徴がある。疎水性部60は、光造形式3Dプリンターを用いて容易に形成できる。説明の便宜上、自己吸着性を有する疎水性部60から構成した紙基板流路を、単に、「自己吸着紙基板流路」という。複数枚の自己吸着紙基板流路を直接的に貼り合わせることによって、液漏れを防止した3DμPADを容易に製造できる。
【0067】
[実施形態の作用]
次に、実施形態の作用を説明する。分析用試薬等を紙基板50に予め塗布乾燥する場合を例に挙げて説明する。
【0068】
分析デバイス10の製造において、紙基板50に染み込ませた自己吸着性を有する樹脂材料を構成する成分を含む液を光硬化させることによって疎水性部60を形成し、この疎水性部60によって第1積層部材20及び第2積層部材30の流路(第1流路22、第2流路32)及びケーシング(第1ケーシング21、第2ケーシング31)が形成されている。
【0069】
図2(A)及び
図2(B)に示すように、第1積層部材20と第2積層部材30との両者を接合する前の状態において、導出流路22bを構成する紙基板50に、分析用試薬を塗布し乾燥する。目的とする分析対象成分に応じて、中間流路22cを構成する紙基板50に、分析用試薬や前処理を行う薬剤を塗布し乾燥する。第2流路32を構成する紙基板50に、分析用試薬や前処理を行う薬剤を塗布乾燥する。
【0070】
図3(B)及び
図1(A)に示すように、第1ケーシング21と第2ケーシング31とを、導入部21a及び検出部21bを外方に向け、第1流路22と第2流路32とが向かい合うように重ね合わせることによって、第1積層部材20と第2積層部材30とを接合する。これによって、
図1(B)に示すように、2次元の第1流路22及び第2流路32によって3次元の流路パターンが形成される。
【0071】
第1積層部材20及び第2積層部材30は、疎水性部60から形成された第1ケーシング21と第2ケーシング31とを直接的に貼り合わせることによって接合される。第1積層部材20と第2積層部材30とは、形成材料の特性(自己吸着性)のみによって接合され、接合するために他の部材の使用を必要としない。「他の部材」には、例えば、両面粘着テープ、接着剤などの溶剤、ホッチキスなどの機械的部品、レーザーや超音波などが含まれる。
【0072】
図1(B)に示すように、分析デバイス10は、3列の流路を有する。各列の流路は、3次元の同じ流路パターンを有する。各列の流路ごとに、異なる分析対象成分を同時に分析できる。また、標準添加法によって分析できる。
【0073】
図1(A)及び
図1(B)に示すように、導入部21aに導入した検体溶液40は、紙基板50の毛細管現象によって、導入流路22a→上流側流路32a→中間流路22c→下流側流路32b→導出流路22bと順に浸透して流れる。
【0074】
導出流路22bを構成する紙基板50において、分析用試薬と分析対象成分とが反応し、反応結果が検出部21bに示される。そして、分析デバイス10の使用者は、検出部21bに示された反応結果を目視で検出する。目視以外にも、検出機器を用いて反応結果を検出できる。
【0075】
第2流路32を構成する紙基板50に分析用試薬を塗布乾燥した場合には、反応結果が検出部21bに示された後、第1積層部材20と第2積層部材30とを剥離して第2流路32を露出させる。そして、第2流路32の分析用試薬において示される反応結果を検出する。第1積層部材20と第2積層部材30とを剥離できることから、中間流路22cの裏面、導出流路22bの裏面、第2流路32の表面に生じさせた結晶成分を分析することもできる。
【0076】
実施形態の分析デバイス10は、特別な検査機器を使用することなく、簡便な操作で検査を実施できる。適用例として、居宅で患者が自分自身で簡単に実施できる、ヒト血清中の尿酸、クレアチニン及び尿素窒素の同時測定による慢性腎疾患診断が挙げられる。また、医療分野だけでなく、環境、食品、農水産等幅広い分野における分析に利用できる。
【0077】
[実施形態の効果]
次に、実施形態の効果を説明する。
【0078】
以上説明したように、実施形態の分析デバイス10は、第1積層部材20と、第1積層部材20の下位側に積層される1つの第2積層部材30と、を有する。第1積層部材20は、分析対象成分を含む検体溶液40が導入される導入部21aと、分析対象成分との反応結果が示される検出部21bとを有する第1ケーシング21内に、親水性の紙基板50から形成される第1流路22を配置した構成を有する。第2積層部材30は、第1ケーシング21に重ね合わせ可能な第2ケーシング31内に、親水性の紙基板50から形成される第2流路32を配置した構成を有する。第1ケーシング21及び第2ケーシング31は、自己吸着性を有する樹脂材料から形成されている。第1積層部材20及び第2積層部材30は、第1ケーシング21と第2ケーシング31とを重ね合わせることによって接合され、2次元の第1流路22及び第2流路32によって3次元の流路パターンが形成されている。
【0079】
このように構成することによって、第1積層部材20及び第2積層部材30は、外付けの圧着部材(両面粘着テープ、接着剤などの溶剤、ホッチキス、クランプなど)や圧着機器(ラミネータなど)を使用することなく、第1ケーシング21及び第2ケーシング31の自己吸着力を利用して貼り合わせることができる。これにより、紙基板50から形成される3次元の流路パターンを有する分析デバイス10を容易に、かつ、低コストで製造できる。さらに、圧着部材によって加圧することなく、液漏れを防止できる。
【0080】
第1積層部材20及び第2積層部材30は、接合状態からの剥離が自在である。このように構成すれば、第2流路32を構成する紙基板50に分析用試薬を塗布した場合であっても、第1積層部材20と第2積層部材30とを剥離して、第2流路32の分析用試薬において示される反応結果を検出できる。また、導出流路22bの裏面や第2流路32の表面に生じさせた結晶成分を分析することもできる。
【0081】
第1流路22は、導入部21aに臨む導入流路22aと、導入流路22aに対して隔離され検出部21bに臨む導出流路22bと、を有する。第2流路32は、導入流路22aから供給された検体溶液40を導出流路22bに輸送するように伸びている形状を有する。このように構成すれば、2次元の第1流路22及び第2流路32によって3次元の流路パターンが形成される。
【0082】
第1ケーシング21は、1つの窓部21cをさらに有する。第1流路22は、導入流路22a及び導出流路22bに対して隔離され窓部21cに臨む中間流路22cをさらに有する。第2流路32は、導入流路22aと中間流路22cとを連通する上流側流路32aと、上流側流路32aに対して隔離され中間流路22cと導出流路22bとを連通する下流側流路32b、とを有する。このように構成すれば、2次元の第1流路22及び第2流路32によって3次元の流路パターンが形成され、目的とする分析対象成分に応じて、分析用試薬や前処理を行う薬剤などを塗布する領域数を増やすことができる。
【0083】
自己吸着性を有する樹脂材料は、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリエチレン樹脂、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つである。このように構成すれば、分析デバイス10を容易に製造でき、外付けの圧着部材や圧着機器を使用することなく液漏れを防止することが可能な分析デバイス10を提供できる。
【0084】
実施形態の分析デバイス10の製造方法は、自己吸着性を有する樹脂材料から形成される第1ケーシング21内に第1流路22を配置してなる第1積層部材20を形成する。自己吸着性を有する樹脂材料から形成される第2ケーシング31内に第2流路32を配置してなる第2積層部材30を形成する。そして、第1ケーシング21と第2ケーシング31とを、導入部21a及び検出部21bを外方に向け、第1流路22と第2流路32とが向かい合うように重ね合わせることによって、第1積層部材20と第2積層部材30とを接合し、2次元の第1流路22及び第2流路32によって3次元の流路パターンを形成する。
【0085】
このように構成することによって、第1積層部材20及び第2積層部材30は、外付けの圧着部材(両面粘着テープ、接着剤などの溶剤、ホッチキス、クランプなど)や圧着機器(ラミネータなど)を使用することなく、第1ケーシング21及び第2ケーシング31の自己吸着力を利用して貼り合わせることができる。これにより、紙基板50から形成される3次元の流路パターンを有する分析デバイス10を容易に、かつ、低コストで製造できる。さらに、圧着部材によって加圧することなく、液漏れを防止できる。
【0086】
紙基板50に染み込ませた自己吸着性を有する樹脂材料を構成する成分を含む液を光硬化させることによって疎水性部60を形成し、疎水性部60によって第1流路22、第2流路32、第1ケーシング21、及び第2ケーシング31を形成する。第1積層部材20及び第2積層部材30は、疎水性部60から形成された第1ケーシング21と第2ケーシング31とを直接的に貼り合わせることによって接合する。このように構成すれば、汎用的な光造形式3Dプリンターを用いて、自己吸着性を有する材料から疎水性部60を容易に形成できる。そして、自己吸着性を有する疎水性部60から構成した複数枚の紙基板流路を直接的に貼り合わせることによって、液漏れを防止した3DμPADを容易に製造できる。
【0087】
自己吸着性を有する樹脂材料は、(メタ)アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリエチレン樹脂、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つである。このように構成すれば、外付けの圧着部材や圧着機器を使用することなく液漏れを防止することが可能な分析デバイス10を容易に製造できる。
【0088】
[変形例]
図5(A)は、本発明の変形例に係る分析デバイス11を示す断面図、
図5(B)は、変形例に係る分析デバイス11における3次元の流路パターンを模式的に示す斜視図である。
【0089】
第1積層部材20の下位側に1つの積層部材(第2積層部材30)を積層した分析デバイス10の実施形態について説明したが、本発明はこの場合に限定されるものではない。分析デバイスは、第1積層部材の下位側に複数の積層部材を積層できる。
【0090】
図5(A)及び
図5(B)に示すように、変形例に係る分析デバイス11は、積層部材が3段にわたって積層され、第1積層部材70と、第1積層部材70の下位側に積層される第2積層部材80と、第1積層部材70の下位側であって第2積層部材80の下位側に積層される第3積層部材90と、を有する。第1積層部材70は、導入部71aと、検出部71bとを有する第1ケーシング71内に、第1流路72を配置した構成を有する。第2積層部材80は、第1ケーシング71に重ね合わせ可能な第2ケーシング81内に、第2流路82を配置した構成を有する。第3積層部材90は、第2ケーシング81に重ね合わせ可能な第3ケーシング91内に、第3流路92を配置した構成を有する。第1ケーシング71、第2ケーシング81及び第3ケーシング91は、自己吸着性を有する樹脂材料から形成される。第1積層部材70、第2積層部材80及び第3積層部材90は、第1ケーシング71と第2ケーシング81と第3ケーシング91とを重ね合わせることによって接合され、2次元の第1流路72、第2流路82及び第3流路92によって3次元の流路パターンが形成される。
【0091】
図5(B)に示す矢印は、検体溶液40の流れ方を示している。導入部71aに導入した検体溶液40は、第1流路72の導入流路72aを構成する紙基板50に毛細管現象によって浸透し、第2流路82の上流側流路82aに供給される。次に、検体溶液40は、上流側流路82aを構成する紙基板50に浸透し、第3流路92に供給される。次に、検体溶液40は、第3流路92を構成する紙基板50に浸透し、第2流路82の下流側流路82bに供給される。次に、検体溶液40は、下流側流路82bを構成する紙基板50に浸透し、第1流路72の導出流路72bに供給される。そして、検体溶液40は、導出流路72bを構成する紙基板50に浸透する。
【0092】
このように、積層部材を3段以上にわたって積層することによっても、紙基板50から形成される3次元の流路パターンを有する分析デバイス11を容易に製造でき、外付けの圧着部材や圧着機器を使用することなく液漏れを防止することが可能な分析デバイス11を提供できる。
【実施例0093】
以下に具体例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
【0094】
[分析デバイス10の作製]
図6(A)~
図6(E)は、親水性の紙基板50に染み込ませた自己吸着性を有する樹脂材料を構成する成分を含む液を光硬化させることによって疎水性部60を形成し、疎水性部60によって流路及びケーシングを形成する手順を示す図である。
【0095】
3D CAD ソフトウェア(Autodesk製 Fusion 360)を用いて
図1(A)、
図1(B)、
図2(A)、
図2(B)、
図3(A)及び
図3(B)に示した分析デバイス10のデザインを設計し、プリンター専用のソフトウェアでスライス画像を作製した。このスライスデータを、光造形式3Dプリンター(Anycubic製 Anycubic Photon Mono 4K)に読み込ませ、レジン(RESIONE社、Black Flexible Resin F69)を入れたプリンター専用コンテナーをプリンターにセットし、積層ピッチ0.3mmで分析デバイス10を造形した。前記レジンは、重合性化合物として、脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー(CAS番号:68987-79-1)及び4-アクリロイルモルホリン(CAS番号:5117-12-4)、光重合開始剤として、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(CAS番号:75980-60-8)、顔料として、カーボンブラック(CAS番号:1333-86-4)を含む。
【0096】
図6(A)、
図6(B)に示すように、1~3層目の露光(40秒)で、プリンターのビルドプラットフォーム100にレジンのみの層101、102、103を形成した。
【0097】
図6(C)に示すように、3層目の露光後、ビルドプラットフォーム100が上昇した状態でプリンターの動作を停止し、プリンターにセットされているコンテナーを取り出し、レジンを染み込ませた紙基板104(吸収パッド(ガラスファイバー))を備えたコンテナーをセットした。
【0098】
図6(D)に示すように、プリンターの動作を再開し、4層目の露光(20秒)で紙基板流路104aを形成した。
【0099】
その後、再度ビルドプラットフォーム100が上昇した状態でプリンターの動作を停止し、1~3層目で使用したコンテナーに取り換えた。
図6(E)に示すように、5層目の露光(20秒)を行いレジンの層105を形成した。
【0100】
プリント終了後、造形物をビルドプラットフォーム100から取り外し、イソプロピルアルコール(IPA)に浸漬して5分間超音波洗浄を行った。その後、新しいIPAで造形物をすすいだ後、乾燥させた。乾燥後、第1積層部材20と第2積層部材30とを貼り合わせた。この方法により分析デバイス10を作製した。
【0101】
[液漏れに関する評価]
液漏れに関する評価の概要を
図7(A)~
図7(D)に示す。
図7(A)に示される3列の流路について、上から順に、第1列流路111、第2列流路112、第3列流路113という。
【0102】
20μLの1mMアマランス水溶液を上記で作製した分析デバイス10の第1列流路111の導入部111aに滴下した(
図7(B)を参照)。その後、20μLの1mMアマランス水溶液を同じ分析デバイス10の第3列流路113の導入部113aに滴下した(
図7(C)を参照)。5分経過後に分析デバイス10の状態を確認した。
図7(D)に示すように、隣接する第2列流路112及び外部への液漏れは観察されなかった。
【0103】
[クレアチニンの測定]
図8は、クレアチニンの測定で得られた実験結果を示す図である。
【0104】
上記分析デバイス10の作製において、貼り合わせる前の第1積層部材20の検出部21bに50mmol/Lピクリン酸水溶液と、1.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液とを体積比1:1で混合した溶液(試薬溶液)を1.5μL滴下した後、ドライヤーを用いて乾燥させた。その後、第1積層部材20と第2積層部材30とを貼り合わせた。この分析デバイス10の導入部21aに、検体溶液20μLを滴下した。検体溶液は、0、5、10、20、40又は60mg/dLの濃度となるようにクレアチニンを精製水へ溶解させて作製した。滴下した検体溶液は、紙基板50の各流路を流れ、検出部21bを満たした。検体溶液中のクレアチニンは、アルカリ性条件でピクリン酸と反応してクレアチニン-ピクリン酸複合体を形成し、検出部21bの色が黄色(ピクリン酸の色)から橙色に呈色する(ヤッフェ法)。検出部21bに溶液が到達してから5分後、検出部21bの色調を観察したところ、クレアチニンの濃度増加に伴い、色が黄色から橙色に変化していた(
図8を参照)。
【0105】
この結果は、本発明に係る分析デバイス10が分析に利用できる可能性を示唆している。本発明に係る分析デバイス10は、外付けの圧着部材、圧着機器などを使用せず、簡易な操作工程で製造が可能であり、生体試料中のバイオマーカー計測に応用できることが分かる。