(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090451
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】ブリーディング制御方法、ソイルセメントの設計方法、埋戻し部の築造方法、埋戻し材の二酸化炭素排出量削減方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/18 20060101AFI20240627BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20240627BHJP
C04B 16/02 20060101ALI20240627BHJP
C04B 18/10 20060101ALI20240627BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
E02D5/18 103
E02D3/12 102
C04B16/02 Z
C04B18/10 B
C04B28/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206372
(22)【出願日】2022-12-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2022年度日本建築学会大会学術講演梗概集 第347頁から第348頁 発行日 令和4年7月20日
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗本 悠平
(72)【発明者】
【氏名】浅香 美治
【テーマコード(参考)】
2D040
2D049
4G112
【Fターム(参考)】
2D040AB07
2D040BB01
2D040BD06
2D040CA01
2D040CA10
2D049GC11
2D049GG08
4G112PA25
(57)【要約】
【課題】ソイルセメントのブリーディングを容易に制御することができるブリーディング制御方法、ソイルセメントの設計方法、埋戻し部の築造方法、埋戻し材の二酸化炭素排出量削減方法を提供する。
【解決手段】セメントと、水と、土質材料とを含有するソイルセメントのブリーディングを制御する方法であって、ソイルセメントに粉末状のバイオ炭を添加してブリーディングを制御するようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、水と、土質材料とを含有するソイルセメントのブリーディングを制御する方法であって、
ソイルセメントに粉末状のバイオ炭を添加してブリーディングを制御することを特徴とするブリーディング制御方法。
【請求項2】
セメントと、水と、土質材料とを含有するソイルセメントのブリーディングを設計する方法であって、
予め取得されたソイルセメントのブリーディング率の変化率とバイオ炭の添加量の関係に、目標とするソイルセメントのブリーディング率の変化率を当てはめることで、ブリーディング率の変化率に応じたバイオ炭の添加量を求めるステップと、求めた添加量に基づいて、ソイルセメントに対するバイオ炭の添加量を設定することでブリーディングを設計するステップとを有することを特徴とするソイルセメントの設計方法。
【請求項3】
予め取得されたソイルセメントのフロー値およびバイオ炭の吸水率の経時変化に基づいて、ソイルセメントに対するバイオ炭の添加量を設定することでブリーディングを設計することを特徴とする請求項2に記載のソイルセメントの設計方法。
【請求項4】
地盤に埋戻し部を築造する方法であって、
請求項2または3に記載のソイルセメントの設計方法により設定された添加量のバイオ炭をソイルセメントに添加して埋戻し材を作製し、作製した埋戻し材を用いて埋戻し部を築造することを特徴とする埋戻し部の築造方法。
【請求項5】
埋戻し材からの二酸化炭素の排出量を削減する方法であって、
埋戻し材を作製する際に、請求項2または3に記載のソイルセメントの設計方法により設定された添加量のバイオ炭をソイルセメントに添加して埋戻し材を作製することを特徴とする埋戻し材の二酸化炭素排出量削減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、既存杭を撤去した後の杭孔の埋戻し材などに使用されるソイルセメントのブリーディング制御方法、ソイルセメントの設計方法、埋戻し部の築造方法、埋戻し材の二酸化炭素排出量削減方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ソイルセメントは、土、セメントおよび水で構成され、地盤材料とコンクリート材料の中間的な材料として、地盤改良工事や埋戻し工事などに利用される。例えば、既存杭撤去・埋戻し工事では、新設構造物と近接あるいは重なる既存構造物の一部を予め撤去し、その撤去領域(以下、埋戻し部という。)の埋戻し材にソイルセメントである流動化処理土や貧配合セメントミルクを用いる(例えば、特許文献1を参照)。ただし、貧配合セメントミルクは、水、セメントおよびベントナイトで構成されるが、撤去孔に削孔時の泥土水が堆積しているため、結果的にソイルセメントになる。
【0003】
ソイルセメントの水セメント比は、コンクリート材料と比較して高いため、流動化処理土にはブリーディングと呼ばれる材料分離が生じやすくなる。材料分離とは、構成材料の密度の違いに起因して、構成材料が分離・沈降することである。流動化処理土のブリーディング率の目標値は、東京都建設局基準配合に基づいて、一般的に1%未満に設定することが多い。しかし、既存杭撤去・埋戻し工事の撤去対象が長尺になると、埋戻し部も深度方向に長くなり、埋戻し部の物性に対するブリーディングの影響が顕著になる(例えば、非特許文献1、2を参照)。
【0004】
図5は、埋戻し部の原位置強度の深度分布を示した事例である(非特許文献2を参照)。埋戻し部は深度方向に55m、埋戻し材はブリーディング率の目標値を1%未満とした流動化処理土である。この事例では、原位置から採取した埋戻し部のコア試験体の強度は、材齢に依らず、G.L.0m~-20mの範囲で設計基準強度200kN/m
2を満足していない。これは、埋戻し材の凝結、硬化過程において、ブリーディング水が発生したことに起因する。埋戻し部の原位置強度が設計基準強度を満足しない場合、新設杭施工時に孔曲がりや孔壁崩壊、杭芯ずれ等の不具合を生じる可能性が高く、新設杭の設計に用いる地盤物性値の見直しが求められる。これらを回避するためには、埋戻し部を再掘削し、再施工する方法があるが、工期圧迫および施工費、材料費の増加に繋がるという問題がある。
【0005】
このため、深度方向に品質の安定した埋戻し部を築造するには、埋戻し材の材料分離抵抗性を向上させ、ブリーディングを抑制する必要がある。ブリーディングを抑制する従来の方法としては、例えば、(1)原土の細粒分含有率を調整し、材料分離抵抗性の向上を図る方法(例えば、特許文献2を参照)、(2)流動化処理土の単位セメント量を増加する(あるいは水セメント比を減少する)方法、(3)減水剤や分離抵抗剤などの混和剤を添加する方法(例えば、特許文献3、4を参照)が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「既存杭撤去後の掘削孔に埋戻された流動化処理土の品質調査」、崎浜博史、堀井宏謙、八重樫光、2014年度日本建築学会大会学術講演梗概集、pp.435-436、2014
【非特許文献2】「既存杭・地中障害物撤去後の埋戻し部の物性調査 その1:流動化処理土による埋戻し」、栗本悠平、浅香美治、2021年度日本建築学会大会学術講演梗概集、pp.555-556、2021
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-169749号公報
【特許文献2】特願2021-113726号(現時点で未公開)
【特許文献3】特開2015-178762号公報
【特許文献4】特開2006-143913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記の(1)の方法では、流動化処理土の原土が建設発生土を主体とするため、製造プラントでの細粒分含有率の調整に手間と費用を要するという問題がある。また、細粒分含有率の調整のためにベントナイトを利用することが考えられるが、フロー低下を生じやすいことから、フロー保持性が求められる流動化処理土には不適である。(2)の方法では、埋戻し材の流動性が低下することによって、打設が困難となるおそれがある。(3)の方法では、混和剤は一般に高額であるため、工事費用が上昇するおそれがあり、埋戻し体積の総量によっては適用が難しい。
【0009】
このような問題を解決するため、本発明者は、流動化処理土の流動性を保持しながらブリーディングを容易に抑制可能な方法について検討した。その結果、バイオ炭の添加がブリーディング水の抑制に効果的なことを見出し、以下の本発明に至った。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ソイルセメントのブリーディングを容易に制御することができるブリーディング制御方法、ソイルセメントの設計方法、埋戻し部の築造方法、埋戻し材の二酸化炭素排出量削減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るブリーディング制御方法は、セメントと、水と、土質材料とを含有するソイルセメントのブリーディングを制御する方法であって、ソイルセメントに粉末状のバイオ炭を添加してブリーディングを制御することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るソイルセメントの設計方法は、セメントと、水と、土質材料とを含有するソイルセメントのブリーディングを設計する方法であって、予め取得されたソイルセメントのブリーディング率の変化率とバイオ炭の添加量の関係に、目標とするソイルセメントのブリーディング率の変化率を当てはめることで、ブリーディング率の変化率に応じたバイオ炭の添加量を求めるステップと、求めた添加量に基づいて、ソイルセメントに対するバイオ炭の添加量を設定することでブリーディングを設計するステップとを有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る他のソイルセメントの設計方法は、予め取得されたソイルセメントのフロー値およびバイオ炭の吸水率の経時変化に基づいて、ソイルセメントに対するバイオ炭の添加量を設定することでブリーディングを設計することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る埋戻し部の築造方法は、地盤に埋戻し部を築造する方法であって、上述したソイルセメントの設計方法により設定された添加量のバイオ炭をソイルセメントに添加して埋戻し材を作製し、作製した埋戻し材を用いて埋戻し部を築造することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る埋戻し材の二酸化炭素排出量削減方法は、埋戻し材からの二酸化炭素の排出量を削減する方法であって、埋戻し材を作製する際に、上述したソイルセメントの設計方法により設定された添加量のバイオ炭をソイルセメントに添加して埋戻し材を作製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るブリーディング制御方法によれば、セメントと、水と、土質材料とを含有するソイルセメントのブリーディングを制御する方法であって、ソイルセメントに粉末状のバイオ炭を添加してブリーディングを制御するので、ソイルセメントのブリーディングを容易に制御することができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係るソイルセメントの設計方法によれば、セメントと、水と、土質材料とを含有するソイルセメントのブリーディングを設計する方法であって、予め取得されたソイルセメントのブリーディング率の変化率とバイオ炭の添加量の関係に、目標とするソイルセメントのブリーディング率の変化率を当てはめることで、ブリーディング率の変化率に応じたバイオ炭の添加量を求めるステップと、求めた添加量に基づいて、ソイルセメントに対するバイオ炭の添加量を設定することでブリーディングを設計するステップとを有するので、ブリーディング率の変化率とバイオ炭の添加量の関係を用いることで、材料分離抵抗性を確保したソイルセメントを容易に設計することができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係る他のソイルセメントの設計方法によれば、予め取得されたソイルセメントのフロー値およびバイオ炭の吸水率の経時変化に基づいて、ソイルセメントに対するバイオ炭の添加量を設定することでブリーディングを設計するので、材料分離抵抗性、施工性および充填性を確保したソイルセメントを容易に設計することができるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明に係る埋戻し部の築造方法によれば、地盤に埋戻し部を築造する方法であって、上述したソイルセメントの設計方法により設定された添加量のバイオ炭をソイルセメントに添加して埋戻し材を作製し、作製した埋戻し材を用いて埋戻し部を築造するので、材料分離抵抗性が向上し、深度方向に品質の安定した埋戻し部を築造することができるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明に係る埋戻し材の二酸化炭素排出量削減方法によれば、埋戻し材からの二酸化炭素の排出量を削減する方法であって、埋戻し材を作製する際に、上述したソイルセメントの設計方法により設定された添加量のバイオ炭をソイルセメントに添加して埋戻し材を作製するので、添加材として炭素を固定したバイオ炭を利用することで、埋戻し材の二酸化炭素排出量を削減することができる。埋戻し材を地盤に埋め戻すことで、地盤内に二酸化炭素を固定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明に係るソイルセメントの設計方法の実施の形態を示す概略手順図である。
【
図2】
図2は、粒状のバイオ炭の吸水率とソイルセメントのフロー値の経時変化の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、流動化処理土の配合と練上がり時のフロー値、ブリーディング測定結果を示すテーブル図である。
【
図4】
図4は、固化材添加量に対するブリーディング率の低減率とバイオ炭の添加量の関係を示す図である。
【
図5】
図5は、従来の流動化処理土の一軸圧縮強さの一例を示す図である(出典:非特許文献2)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係るブリーディング制御方法、ソイルセメントの設計方法、埋戻し部の築造方法、埋戻し材の二酸化炭素排出量削減方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0023】
(ブリーディング制御方法)
まず、本発明に係るブリーディング制御方法の実施の形態について説明する。
本実施の形態に係るブリーディング制御方法は、セメントと、水と、土質材料とを含有するソイルセメントのブリーディングを制御する方法であって、ソイルセメントに粉末状のバイオ炭を添加してブリーディングを抑制するものである。ソイルセメントは、例えば流動化処理土、貧配合セメントミルク、セメント系地盤改良材、セメント系山留め材などである。
【0024】
図2は、粒状のバイオ炭の吸水率の経時変化の一例を示している。この図に示されるように、バイオ炭は吸水効果が高く、ソイルセメント中の凝結・硬化時の余剰水を効果的に吸水可能である。このため、本実施の形態によれば、ソイルセメントに粉末状のバイオ炭を添加することで、ソイルセメントのブリーディングを容易に抑制することができる。これにより、ソイルセメントの材料分離抵抗性を確保することができる。また、本実施の形態は、従来技術のように、原土の細粒分含有率の調整やベントナイトと減水剤の使用、単位セメントと水セメント比の調整を必要としない。
【0025】
(配合試験によるバイオ炭の添加効果の検証)
次に、ソイルセメントとして流動化処理土を用いた配合試験によるバイオ炭の添加効果の検証について説明する。
【0026】
流動化処理土は、気中乾燥状態の珪砂7号と、粘土(木節粘土とカオリン粘土を質量比1:1で作製)と、水を質量比4:1:2.15で混合した調整泥水に、外割換算のセメント系固化材(固化材添加量80、120kg/m3)と水を混合したセメントミルクを注入し、作製した。セメント系固化材には、高炉セメントB種を使用した。また、調整泥水の含水比とソイルセメントの水セメント比は、共に43%を目標に調製した。ブリーディング率の目標値は、東京都建設局基準配合に基づいて、1%未満とした。
【0027】
バイオ炭には、粉粒径が5mm以下の粉末状のバイオ炭を使用した。このバイオ炭は、針葉樹と広葉樹の製材時に排出されたおがくずを原料とし、炭素を固定した材料である。そして、セメント系固化材のCO2(二酸化炭素)排出量を50、100、150、200、250、300、350、400%削減可能なバイオ炭を計量し、流動化処理土を作製した後に外割で添加した。セメント系固化材のCO2排出量は、下記の参考文献1に基づいて、0.5g-CO2/gを採用した。また、バイオ炭のCO2固定量は、下記の参考文献2の計算方法を参考に、CO2固定量=炭素含有率(0.77)×100年後の炭素残存率(0.89)×44/12=2.51g-CO2/gと仮定した。固化材とバイオ炭の添加量は、調整泥水1m3に対する添加量である。
【0028】
[参考文献1] 「建設施工分野における地球温暖化対策について(平成19年2月)」、国土交通省、[online]、[2022年11月7日検索]、インターネット<URL:https://www.mlit.go.jp/singikai/infra/kankyou/6/images/04.pdf>
[参考文献2] 「バイオ炭の農地施用を対象とした方法論について(令和2年11月9日)」、農林水産省環境政策室、[online]、[2022年11月7日検索]、インターネット<URL:https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/climate/biochar/attach/pdf/top-4.pdf>
【0029】
ブリーディング率は、JSCE-F522-2013((社)土木学会:コンクリート標準示方書[規準編])に準じて測定した。具体的には、配合した試料の24時間経過後のブリーディング率(練り混ぜ完了直後からの経過時間に応じて試料から分離した水の体積を練り混ぜ完了直後の試料の体積で除した値)を測定した。
【0030】
図3に、流動化処理土の配合と練上がり時のフロー値とブリーディング率の結果を示す。
図3中の配合名は、固化材添加量(BB)の数値と、固化材のCO
2排出量の削減率(カーボンニュートラル率:CN率)の数値の組み合わせで示している。例えば、試料番号2の配合名「BB80-CN50」は、固化材添加量(BB)が80kg/m
3で、固化材のCO
2排出量の削減率(CN率)が50%であることを意味する。
【0031】
図3の表によれば、バイオ炭を添加した流動化処理土(CN50~CN400)のブリーディング率は、目標値の1%未満を満足している。また、バラつきは見られるものの、バイオ炭の添加量の増加に伴い、流動化処理土(CN0)を基準に最大で70%(固化材添加量80kg/m
3、CN200)、100%(固化材添加量120kg/m
3、CN400)低下している。以上の結果より、流動化処理土の材料分離抵抗性は、バイオ炭を添加することで向上すると言える。さらに、バイオ炭を添加することの副次的な効果として、流動化処理土のCO
2排出量が削減され、環境負荷低減に繋がる。
【0032】
以上より、バイオ炭を添加することによって、従来技術と同程度以下の費用と手間で、確実にブリーディング水を抑制することができる。また、バイオ炭を利用することによって埋戻し材としてカーボンを吸収することができる。
【0033】
(ソイルセメントの設計方法)
次に、本発明に係るソイルセメントの設計方法の実施の形態について説明する。
【0034】
<実施の形態1>
まず、実施の形態1について説明する。
図1に示すように、本実施の形態1に係るソイルセメントの設計方法は、上記の配合試験を行って(ステップS1)、配合試験からブリーディング率の低減率(変化率)とバイオ炭の添加量の関係を予め取得しておく(ステップS2)。次に、埋戻し工事などの現場で目標とするブリーディング率の低減率を設定し(ステップS3)、設定したブリーディング率の低減率をステップS2の関係に当てはめることで、バイオ炭の添加量を求め、これに基づいてバイオ炭の添加量を設定する(ステップS4)。こうすることで、ブリーディングを抑制して材料分離抵抗性を確保したソイルセメントを容易に設計することができる。
【0035】
図4に、上記の配合試験で得られた固化材添加量に対するブリーディング率の低減率(変化率)とバイオ炭の添加量の関係を示す。この図では、配合試験から求めたブリーディング率の低減率とバイオ炭の添加量のプロットと、プロットの回帰直線を破線で示している。ブリーディング率の低減率は、各ブリーディング率をCN率が0%の流動化処理土(CN0)のブリーディング率で正規化した値である。
【0036】
図4中の回帰直線(破線)、または回帰直線に対応する関係式から、ブリーディング率の低減率に対応したバイオ炭の添加量を容易に求めることができる。すなわち、任意の現場において設定された目標ブリーディング率に対して、バイオ炭の必要投入量を算定することができる。例えば、流動化処理土の材料分離抵抗性の向上を目的に、ブリーディング率を60%低下させる場合(=ブリーディング率の低減率0.4)、固化材添加量に依らず、流動化処理土の調整泥水1m
3に対して、57.4kgのバイオ炭を添加すればよい。ただし、CN率は固化材添加量で異なり、80kg/m
3に対して360%、120kg/m
3で240%となる。
【0037】
<実施の形態2>
次に、実施の形態2について説明する。
本実施の形態2に係るソイルセメントの設計方法は、上記の実施の形態1において、ソイルセメントの施工性と充填性を考慮するようにした方法である。上記の
図2には、バイオ炭の吸水率とソイルセメント(
図3の試料番号3)のフロー値の経時変化を併せて示してある。この図に示すように、バイオ炭の吸水率は時間の経過とともに増加するが、ソイルセメントのフロー値は練上がりから1~2時間後に大きく低下する。このため、ソイルセメントのワーカビリティー(施工性と充填性)は、練上がりから所定時間経過後(
図3の例では、1~2時間後)に大きく低下すると考えられる。また、練上がりから1~2時間後からのバイオ炭の吸水率の増加は、余剰水の吸水に効果を示し、ブリーディングを抑えることができる。
【0038】
そこで、本実施の形態2では、ソイルセメントの施工性と充填性を確保するために、配合試験のいくつかの試料について
図2のような関係(バイオ炭の吸水率およびソイルセメントのフロー値の経時変化)を予め取得しておく。そして、上記の実施の形態1のステップS4において、このような関係を考慮することで、ソイルセメントの施工性と充填性を確保可能なバイオ炭の添加量を設定する。このようにすれば、材料分離抵抗性、施工性および充填性を確保したソイルセメントを容易に設計することができる。
【0039】
ソイルセメントの施工性と充填性は、練上がり時のソイルセメントのフロー値に基づいて評価することができる。例えば、東京都建設局で示される流動化処理土のフロー値を参考にして、練上がり時のソイルセメントのフロー値が180~300mmであれば施工性と充填性は良好と評価してもよい。例えば、
図2のソイルセメントの例では、練上がり時のフロー値が180~300mmであるため、施工性と充填性は良好と評価される。
【0040】
上記の
図3の表には、練上がり時の流動化処理土のフロー値が示されている。この表の例では、試料番号18を除いて、フロー値は180~300mmの範囲を満足している。したがって、試料番号18以外は、練上がり直後の流動化処理土の施工性と充填性は良好であると評価することができる。一方、試料番号18は、流動化処理土にバイオ炭を多く含む配合設計であることから、フロー値が180mm以下となり、練上がり直後の流動化処理土の施工性と充填性は良好ではないと評価することができる。試料番号18のようなバイオ炭過多の配合は、ワーカビリティーが低く、埋戻し材などの配合としては好ましくないため、ソイルセメントの設計対象から除外することが望ましい。ワーカビリティーの低下を防ぐために、バイオ炭の添加量と吸水率とフロー値を考慮してソイルセメントの設計を行うことが望ましい。
【0041】
なお、フロー値の経時変化において、フロー値が所定の閾値(例えば180mm)以下となる経過時間を施工限界時間として取得してもよい。そして、取得した施工限界時間に基づいて、ソイルセメントの設計を行ってもよい。例えば、取得した施工限界時間が所定の閾値(例えば0.5時間)以下の場合には、ソイルセメントの設計対象から除外してもよい。
図2の例において、フロー値の閾値を180mmに設定した場合、施工限界時間は1~2時間であることから、施工限界時間の閾値を0.5時間に設定した場合、
図2のソイルセメントは、設計対象となり得る。
【0042】
なお、上記の配合試験では、ソイルセメントとして流動化処理土の場合を例にとり説明したが、本発明のソイルセメントはこれに限るものではない。バイオ炭の添加対象は貧配合セメントミルクやセメント系地盤改良材を含めたソイルセメントであってもよく、流動化処理土に限定されない。
【0043】
以上説明したように、本発明に係るブリーディング制御方法によれば、セメントと、水と、土質材料とを含有するソイルセメントのブリーディングを制御する方法であって、ソイルセメントに粉末状のバイオ炭を添加してブリーディングを制御するので、ソイルセメントのブリーディングを容易に制御することができる。
【0044】
また、本発明に係るソイルセメントの設計方法によれば、セメントと、水と、土質材料とを含有するソイルセメントのブリーディングを設計する方法であって、予め取得されたソイルセメントのブリーディング率の変化率とバイオ炭の添加量の関係に、目標とするソイルセメントのブリーディング率の変化率を当てはめることで、ブリーディング率の変化率に応じたバイオ炭の添加量を求めるステップと、求めた添加量に基づいて、ソイルセメントに対するバイオ炭の添加量を設定することでブリーディングを設計するステップとを有するので、ブリーディング率の変化率とバイオ炭の添加量の関係を用いることで、材料分離抵抗性を確保したソイルセメントを容易に設計することができる。
【0045】
また、本発明に係る他のソイルセメントの設計方法によれば、予め取得されたソイルセメントのフロー値およびバイオ炭の吸水率の経時変化に基づいて、ソイルセメントに対するバイオ炭の添加量を設定することでブリーディングを設計するので、材料分離抵抗性、施工性および充填性を確保したソイルセメントを容易に設計することができる。
【0046】
また、本発明に係る埋戻し部の築造方法によれば、地盤に埋戻し部を築造する方法であって、上述したソイルセメントの設計方法により設定された添加量のバイオ炭をソイルセメントに添加して埋戻し材を作製し、作製した埋戻し材を用いて埋戻し部を築造するので、材料分離抵抗性が向上し、深度方向に品質の安定した埋戻し部を築造することができる。
【0047】
また、本発明に係る埋戻し材の二酸化炭素排出量削減方法によれば、埋戻し材からの二酸化炭素の排出量を削減する方法であって、埋戻し材を作製する際に、上述したソイルセメントの設計方法により設定された添加量のバイオ炭をソイルセメントに添加して埋戻し材を作製するので、添加材として炭素を固定したバイオ炭を利用することで、埋戻し材の二酸化炭素排出量を削減することができる。埋戻し材を地盤に埋め戻すことで、地盤内に二酸化炭素を固定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上のように、本発明に係るブリーディング制御方法、ソイルセメントの設計方法、埋戻し部の築造方法、埋戻し材の二酸化炭素排出量削減方法は、埋戻し工事などに有用であり、特に、ソイルセメントのブリーディングを容易に制御するのに適している。
【0049】
なお、2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施の形態に係るブリーディング制御方法、ソイルセメントの設計方法、埋戻し部の築造方法、埋戻し材の二酸化炭素排出量削減方法は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「11.住み続けられるまちづくりを」の目標などの達成に貢献し得る。