(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090464
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 7/025 20190101AFI20240627BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240627BHJP
C08J 7/044 20200101ALI20240627BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B32B7/025
B32B27/36
C08J7/044
C08J5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206400
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三石 剛司
(72)【発明者】
【氏名】奥田 昌寛
【テーマコード(参考)】
4F006
4F071
4F100
【Fターム(参考)】
4F006AA35
4F006AB19
4F006AB24
4F006AB43
4F006AB65
4F006AB76
4F006BA07
4F006CA07
4F006CA08
4F006DA04
4F006EA03
4F071AA46
4F071AB26
4F071AE11
4F071AF38
4F071AG12
4F071AG17
4F071AG28
4F071AH04
4F071AH12
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F100AA20A
4F100AA20B
4F100AH08B
4F100AK17B
4F100AK25B
4F100AK36B
4F100AK41A
4F100AK42A
4F100AT00A
4F100BA02
4F100CA02B
4F100CA18B
4F100EJ38A
4F100JB04B
4F100JG01B
4F100JG03
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】静電気障害が少なく、しかもフィルムの二次加工工程で塗布されるグラビアインキ、オフセットインキ、紫外線硬化インキ(UVインキ)等の各種の印刷インキや塗料に対して優れた密着性を有する帯電防止フィルムを提供こと。
【解決手段】基材フィルムの少なくとも片面に、湿度65%RHの環境下で測定される表面抵抗率が1×104Ω/□以上、1×1013Ω/□未満の層(層A)を有する積層体であって、当該層Aにおける剥離面積領域比率が0.2~25%である積層体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも片面に、湿度65%RHの環境下で測定される表面抵抗率が1×104Ω/□以上、1×1013Ω/□未満の層(層A)を有する積層体であって、当該層Aにおける剥離面積領域比率が0.2~25%である積層体。
【請求項2】
前記層Aがフッ素樹脂を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記層A層が架橋剤を含む、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記基材フィルムがポリエステルフィルムである、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項5】
印刷基材用である、請求項1または2に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材フィルムの少なくとも片面に、層を有する積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルムは、軽くて、機械的性質にも優れることなどから、工業材料用途、磁気材料用途、包装用途など各種用途の基材フィルムとして広く使用されている。しかし、熱可塑性樹脂は一般に絶縁性であるため、それをそのまま用いたフィルムとしては帯電防止性が全くないという欠点を有している。帯電防止性がないと、フィルムにほこりが付着しやすく、またフィルム同士の密着によりハンドリング性が悪く、また静電気放電あるいは電子回路の破壊といった静電気障害が発生することもある。そのため、フィルムの帯電を防止する方法が求められている。
【0003】
従来の帯電防止方法として、フィルムの少なくとも片面にフッ素系帯電防止層を設ける方法が開示されている(特許文献1)。例えば、特許文献1では、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸からなる組成物と架橋剤からなる組成物を帯電防止層に用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、帯電防止層を設ける方法では、帯電防止層の上に各種のコーティングを行う場合や、印刷加工などをする際におけるインキや塗料等に対する密着性が低下することがある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、静電気障害が少なく、しかもフィルムの二次加工工程で塗布されるグラビアインキ、オフセットインキ、紫外線硬化インキ(UVインキ)等の各種の印刷インキや塗料に対して優れた密着性を有する帯電防止フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明の好ましい一態様は以下の構成をとる。
(1)基材フィルムの少なくとも片面に、湿度65%RHの環境下で測定される表面抵抗率が1×104Ω/□以上、1×1013Ω/□未満の層(層A)を有する積層体であって、当該層Aにおける剥離面積領域比率が0.2~25%である積層体。
(2)前記層Aがフッ素樹脂を含む、(1)に記載の積層体。
(3)前記層A層が架橋剤を含む、(1)または(2)に記載の積層体。
(4)前記基材フィルムがポリエステルフィルムである、(1)~(3)のいずれかに記載の積層体。
(5)印刷基材用である、(1)~(5)のいずれかに記載の積層体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、静電気障害が少なく、しかもフィルムの二次加工工程で塗布されるグラビアインキ、オフセットインキ、紫外線硬化インキ(UVインキ)等の各種の印刷インキや塗料に対して優れた密着性を有する帯電防止フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の好ましい一態様は、基材フィルムの少なくとも片面に、湿度65%RHの環境下で測定される表面抵抗率が1×104Ω/□以上、1×1013Ω/□未満の層(層A)を有する積層体であって、当該層Aにおける剥離面積領域比率が0.2~25%である積層体、である。
【0010】
本発明の積層体の基材フィルムとして用いられる樹脂は、特に限定されるものではなく、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられ、特に、熱可塑性樹脂フィルムの代表的なものとして、ポリエステル、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系、ポリスチレン、ナイロンなどのポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、フッ素系、ポリフェニレンスルフィドフィルムなどを用いることができる。これらのうち、機械的特性、寸法安定性、透明性などの点で、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリアミドフィルムなどが好ましく、更に、機械的強度、汎用性などの点で、ポリエステルフィルムが特に好ましい。なお、熱可塑性樹脂フィルムは、ホモポリマーでも共重合ポリマーであってもよい。本発明の積層体の基材フィルムに用いられるポリエステルは、ジカルボン酸類とグリコール類を重合して得られる熱可塑性の樹脂が挙げられる。
【0011】
本発明の積層体の基材フィルムに好ましく用いられるポリエステルとは、二塩基酸とグリコールを構成成分とするポリエステルであり、芳香族二塩基酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、ナトリウムスルホイソフタル酸、ジブロモテレフタル酸などを用いることができる。脂環族二塩基酸としては、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸などを用いることができる。グリコールとしては、脂肪族ジオールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコールなどを用いることができ、芳香族ジオールとして、ナフタレンジオール、2,2ビス(4-ヒドロキシジフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ハイドロキノンなどを用いることができ、脂環族ジオールとしては、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオールなどを用いることができる。
【0012】
本発明の積層体の基材フィルムに好ましく用いられるポリエステルは公知の方法で製造することができ、固有粘度は下限0.5、上限0.8の範囲のものを用いることが好ましい。さらに好ましくは下限0.55、上限0.70である。なお、固有粘度の測定は、オルトクロロフェノール中、25℃で測定した溶液粘度から、下式で計算した値を用いる。
【0013】
ηsp/C=[η]+K[η]2・C
ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)-1であり、Cは、溶媒100mlあたりの溶解ポリマー質量(g/100ml、通常1.2)、Kはハギンス定数(0.343とする)である。また、溶液粘度、溶媒粘度はオストワルド粘度計を用いて測定する。単位は[dl/g]で示す。
【0014】
本発明の積層体の基材フィルムは、単層フィルムであってもよく、2層以上の積層構成であってもよい。好ましくは3層以上の層構成を有することである。この際、フィルム表面の特性に悪影響を与えない範囲で、製膜工程で発生するエッジ部分の回収原料、あるいは他の製膜工程のリサイクル原料などを適時混合して使用でき、石油資源の消費を減らすことが可能となるとともに、コストメリットを得ることが可能である。
【0015】
更に、本発明の積層体の基材フィルムの中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などが、その特性を悪化させない程度に添加されていてもよい。
【0016】
また、本発明の積層体の基材フィルムの中に、無機の粒子、例えば、シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナゾル、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カーボンブラック、ゼオライト、酸化チタン、金属微粉末などを添加した場合には、易滑性が向上するので好ましい。無機粒子の一次粒子経は、0.005~3μmが好ましく、より好ましくは0.05~1μmである。また、無機粒子の添加量は、基材フィルム樹脂の100質量部に対して0.001~5質量部が好ましく、より好ましくは0.1~2質量%部である。なお、本発明における一次粒子径とは、動的光散乱法によって得られるモード径のことをいう。
【0017】
本発明における基材フィルムの厚みは、特に限定されるものではなく、本発明の積層体が使用される用途に応じて適宜選択されるが、機械的強度、ハンドリング性などの点から、好ましくは1~500μm、より好ましくは5~250μm、更に好ましくは9~125μmである。
【0018】
本発明は、基材フィルムの少なくとも片面に、湿度65%RHの環境下で測定される表面抵抗率が1×104Ω/□以上、1×1013Ω/□未満の層(層A)を有することが好ましい。表面抵抗率が、1×104Ω/□未満の場合、インラインでの工業的製造が困難となる場合があり、静電気が発生した際に、一気に放電が起こり悪影響を及ぼす原因を生じることがある。一方、表面抵抗率が、1×1013Ω/□以上であると、積層体にさらに加工工程を設ける場合に、帯電による集塵が発生しやすくなり、製品の品質を悪化させる場合がある。同様の観点から前記表面抵抗率は、より好ましくは、1×105Ω/□以上、1×1012Ω/□未満、さらに好ましくは、1×106Ω/□以上、1×1011Ω/□未満である。
【0019】
本発明の積層体は、前記層Aにおける剥離面積領域比率が0.2~25%であることが好ましい。層Aの剥離面積領域比率を0.2~25%とすることで、静電気障害がなく、しかも各種の印刷インキや塗料に対して密着性が向上する。層の剥離面積領域比率が0.2%未満の場合は、静電気障害はないが、各種の印刷インキや塗料に対して密着性が低下しやすい。一方、層の剥離面積領域比率が25%を超える場合は、各種の印刷インキや塗料に対して密着性が向上するが、静電気障害が発生しやすい。同様の観点から剥離面積領域比率はより好ましくは0.5~18%、更に好ましくは1.5~12%である。
【0020】
前記層Aの厚みは、1~100nmであることが好ましい。1nm未満であると、層の厚みが薄すぎるため帯電防止性能が十分に発揮できなくなる場合がある。また、100nmを越えると、層の厚みが厚すぎるため、塗料が乾燥不足となり、帯電防止性不良となる場合や、最終的に得られるフィルム表面の塗布ムラが発生する場合がある。また、塗布を厚く塗りすぎると、フィルム中に易滑剤を有する場合は、含まれる易滑剤が表面に析出しないため、加工工程において搬送ロールに層が転写しやすくなり、工程を汚染する可能性がある。さらには、後述するフィルムの製膜工程でインラインコートした際の層Aの割れも発生しやすくなる。帯電防止性能と塗布ムラの観点から、好ましい層Aの厚みは、3nm~60nmであり、さらに好ましくは、5~40nmである。
【0021】
また、本発明においては、層Aの基となる塗液を塗布する前に、基材フィルムの表面にコロナ放電処理などを施し、該基材フィルム表面の濡れ張力を、好ましくは47mN/m以上、より好ましくは50mN/m以上とするのが、層Aと基材フィルムとの接着性を向上させたり、塗布性を向上させることができるので好ましい。
【0022】
前記層Aは積層体に帯電防止性を付与するため、帯電防止剤を含有することが好ましい。帯電防止剤としてはアンモニウム基含有化合物に代表されるカチオン系帯電防止剤、ポリエーテル化合物、シロキサン化合物に代表されるノニオン系化合物、フッ素系化合物、スルホン酸化合物に代表されるアニオン系化合物、ベタイン化合物に代表される両性化合物等のイオン導電性高分子化合物や、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリイソチアナフテン、ポリチオフェンなどのπ電子共役系の高分子化合物、イオン性液体などが挙げられ、中でもフッ素系化合物が好ましい。
【0023】
本発明の基材フィルムの少なくとも片面に設ける層に含まれるフッ素系化合物は、特に限定されるものではないが、例えばフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸塩、パーフルオロアルキル4級アンモニウム塩、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノールポリテトラフルオロエチレン、デカフルオロビフェニル、デカフルオロベンゾフェノン、ペンタフルオロフェニル酢酸、4,4′-ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタリックアンヒドリド、ジメチルテトラフルオロサクシネート、1,2-ビス-4-フルオロフェニル-1,1,2,2-テトラフルオロエタン、2,3,4,5,6-ペンタフルオロビフェニル、2,3,4,5,6-ペンタフルオロベンズアミド、4,4′-ジメチルオクタフルオロビフェニル、4,4′-ジフルオロジフェニルサルフォン、1,4-ビス-2-ヒドロキシヘキサフルオロイソプロピルベンゼン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、エチレン-四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化エチレン(PFA)等が挙げられる。
【0024】
層Aが含有するフッ素系化合物の含有量は、層Aを構成する樹脂100質量部に対して0.01~2.0質量部が好ましい。層を構成する樹脂100質量部に対してフッ素系化合物が0.01~2.0質量部を含有する事で、静電気障害が少なく、しかも各種の印刷インキや塗料に対してより密着性が向上する。層Aを構成する樹脂100質量部に対してフッ素系化合物が0.01未満の場合は、各種の印刷インキや塗料に対して密着性が向上するが、静電気障害が発生しやすくなる場合がある。一方、層を構成する樹脂100質量部に対してフッ素系化合物が2.0質量部以上の場合は、静電気障害は少ないが、各種の印刷インキや塗料に対して密着性が低下しやすくなる場合がある。
【0025】
前記層Aには、架橋剤を含有させてもよい。用いることのできる架橋剤としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物が挙げられる。中でも、イソシアネート基は水と反応し易いため、塗剤のポットライフの点で、イソシアネート基をブロック剤などでマスクしたブロックイソシアネート系化合物などを好適に用いることができる。この場合、基材フィルムに塗料組成物を塗布した後の乾燥工程において熱がかかることで、ブロック剤が解離し、イソシアネート基が露出する結果、架橋反応が進行することになる。また、イソシアネート基は単官能タイプでも多官能タイプでもよいが、多官能タイプのブロックポリイソシアネート系化合物の方が樹脂層の架橋度を上げやすく、表面層に対する剥離力を軽剥離としやすいため好ましい。
【0026】
前記層Aにおける架橋の有無については、本発明の積層体を5cm×5cmサイズに切り出し、メチルエチルケトン100mLに浸漬させ、24時間50℃の環境下に置き、溶解せずに残ったゲル状物の有無を確認することで判断する。層Aに架橋が存在すると、膜が強固となり溶剤に溶解しなくなるため、ゲル状物を十分に乾燥させた後の質量を測定する事で、架橋量も確認する事が出来る。
【0027】
前記層Aにおける粒子の含有量は5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、実質的に粒子を含有しないことがさらに好ましい。また、本発明の積層体の基材となるフィルムは粒子を含有することが好ましい。層Aに粒子を含有すると、粒子が脱落する場合があり、フィルムの製造、加工において工程内を汚染する可能性があるためである。そのため、本発明では、易滑性を付与するために、基材となるフィルムに粒子を含有することが好ましい。含有する粒子は特に限定されるものではないが、無機粒子が好ましく用いられる。本発明の基材となるフィルムに含有する粒子は、無機粒子であれば、平均粒子径は、0.005~3μmが好ましく、より好ましくは0.05~1μmである。た、無機粒子の含有量は、0.001~5質量%が好ましく、より好ましくは0.1~2質量%である。
【0028】
本発明の積層体の表面粗さSRaは、1~100nmであることが好ましい。1nm未満であると、易滑性を付与することが難しくなり、表面の易滑性が低くフィルムの搬送工程にシワがより品質が低下する場合がある。また、100nmを越えると積層体の透明性が悪化する場合がある。透明性を必要としない用途であれば、問題がないが、光学用などの用途では透明性が要求されるため、100nm以下であることが好ましい。本発明の積層体の表面粗さSRaは、より好ましくは、2~100nmであり、さらに好ましくは、5~100nmである。表面粗さSRaが高くなればなるほど、静摩擦係数が低くなるため、易滑性が良好になるからである。
【0029】
本発明の積層体の表面を上述した発明の構成とするための手法は特に限られるものではないが、例えば後述するフィルムの製膜工程の巻き取り工程において、巻き取り側の巻き取り張力検出ローラで張力を検出しながら、所定の巻き取り張力でフィルムをロール状に巻き取りコアに巻き取る。また、巻き取り面圧については、巻き取りロールをコンタクトロールに接圧させながら調整することができ、巻き取り面圧を50N/m以上250N/mの以下の範囲にコントロールすることが好ましい。この範囲にすることによって、巻き取られた積層体同士が擦れ合うことにより、層Aの一部が剥離し、剥離面積領域比率を0.2~25%とすることができる。面圧が50N/mよりも低い場合、フィルムが巻きズレを起こすことや、巻き姿の欠点が発生することがある。また、巻きズレにより作業性も悪くなる場合がある。面圧が250N/mより高い場合、フィルム同士の静摩擦係数(μs)が高いため異物巻き込みが発生しなくともフィルムの滑りの関係で核なしのツブが発生し、ツブ状隆起欠点が発生しやすい。好ましい条件としては、面圧を80N/m以上220N/m以下、より好ましくは、100N/m以上200N/m以下、の範囲にすることである。
【0030】
本発明の積層体は、例えば次のように製造される。以下、ポリエステルとしてポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた例を代表例として説明するが、本発明は特にこれらに限定されるものではない。
【0031】
粒子を含有したポリエステルペレット、及び粒子等を実質的に含有しないポリエステルペレットを所定の割合で混合し、乾燥した後、公知の溶融積層用押出機に供給し、ポリマーをフィルターにより濾過する。
【0032】
続いてスリット状のスリットダイからシート状にポリマーを押し出し、キャスティングロール上でこのポリマーを冷却固化させて未延伸フィルムとする。すなわち、複数の押出機、複数のマニホールド又は合流ブロック(例えば矩形合流部を有する合流ブロック)を用いて必要な層数を積層させ、口金からシートを押し出して、キャスティングロールで冷却させて未延伸フィルムを得る。この場合、背圧の安定化及び厚さ変動の抑制の観点からは、ポリマー流路にスタティックミキサーやギアポンプを設置することが有効である。
【0033】
続いて、上記未延伸フィルムを長手方向と幅方向の二軸に延伸した後、熱処理する。延伸方法は、同時二軸延伸であっても、逐次二軸延伸であってもよい。同時二軸延伸においてはロールによる延伸を伴わないため、フィルム表面の局所的な加熱が発生せず、表面性が制御しやすく、延伸方法としてより好ましい。同時二軸延伸においては、未延伸フィルムを、まず長手方向及び幅方向に、延伸温度を例えば80~160℃、好ましくは85~130℃、さらに好ましくは90~120℃として同時に延伸する。また、延伸ムラを防止する観点から、長手方向及び幅方向の合計延伸倍率は、例えば8~30倍、好ましくは9~28倍、さらに好ましくは10~26倍とすることが好ましい。延伸倍率を8倍以上とすることにより、十分な強度が得られるので好ましい。また、延伸倍率を30倍以下とすることにより、製造過程でフィルムが破れてしまうのを抑制できるので好ましい。その後、例えば180~235℃で、好ましくは190~220℃で、例えば0.5~20秒間、好ましくは1~15秒間熱固定を行う。熱固定温度が180℃以上であることにより、フィルムの結晶化が進んで構造を安定にできるので好ましい。また、熱固定温度を235℃以下とすることにより、ポリエステル非晶鎖部分の緩和が進むことに伴うヤング率の低下を抑制できるので、十分な強度を得る観点から好ましい。その後長手方向及び/又は幅方向に0.5~7.0%の弛緩処理を施し冷却し得られたポリエステルフィルムを巻き取りコアに巻き取ってフィルムロールとすることができる。
【0034】
本発明の積層体の好ましい一態様は、基材フィルムを押出す工程、層Aの基となる塗剤を塗工する工程、加熱しながら延伸する工程、巻き取りを行う工程をこの順で有し、前記巻き取りを行う工程において、巻き取りロールをコンタクトロールに接圧させながら面圧を調整し、巻き取られた積層体同士が擦れ合うことにより、層Aの一部を剥離させる工程を有することが好ましい。本態様とすることにより、効率よく積層体を製造できつつ、剥離面積領域比率を好ましいものとすることができる。
【0035】
本発明の積層体は、静電気障害が少なく、しかもフィルムの二次加工工程で塗布されるグラビアインキ、オフセットインキ、紫外線硬化インキ(UVインキ)等の各種の印刷インキや塗料に対して優れた密着性を有することから、印刷基材用に好適に用いることができる。なお、印刷基材とは、積層体の表面の一部や全面に塗工などをして加工する基材を含むものである。
【実施例0036】
本発明における特性の測定方法および効果の評価方法は次の通りである。
【0037】
(1)湿度65%RHでの表面抵抗率
表面抵抗率の測定は、23℃、相対湿度65%に調湿された部屋にて24時間放置後、その雰囲気下で、デジタル超高抵抗/微小電流系R8340A(アドバンテスト(株)製)を用い、測定プローブとしてレジスティビティ・チェンバ 12704Aを用いて、印加電圧100Vで測定を行った。測定は層A側の表面について行った。単位は、Ω/□である。
【0038】
(2)湿度65%RHでの粉塵付着性評価方法
23℃、相対湿度65%に調湿された部屋にて24時間放置後、その雰囲気下で、ティッシュペーパーを燃やして細かく砕いた灰を近づけ、積層体100cm2当たりの灰の付着個数を数えた。同様に3回実施し、平均値により、3段階評価を行った。×は実用上問題のあるレベル、〇は実用レベルであり、◎は良好とした。
◎:30個未満で、ほとんど灰が付着しない。
〇:31~99個の灰が付着する。
×:100個以上の灰が付着する。
【0039】
(3)印刷インキ層との密着性の評価方法
積層体の層A側に、下記の割合でインキ、溶剤、硬化剤を混合した熱硬化型インキを、硬化後の膜厚が約5μmとなるよう均一に塗布した。
インキ:帝国インキ製造(株)製INQスクリーンインキ(971):100質量部
溶剤:帝国インキ製造(株)製F-003:10質量部
硬化剤:帝国インキ製造(株)製240硬化剤:3質量部。
【0040】
次いで、熱硬化型インキを塗布した積層体を、90℃の熱風オーブンで60分乾燥し、熱硬化型インキを硬化させ、インキを積層した積層体を得た。
【0041】
インキ積層面に、1mm2の領域にクロスカットを100個入れ、“セロテープ”(登録商標)(ニチバン(株)製CT405AP)を貼り付け、ハンドローラーで1.5kg/cm2の荷重で押しつけた後、インキを積層した積層体に対して90度方向に急速に剥離した。密着性は残存したクロスカットの個数を数えた。同様に3回実施し、平均値により、3段階評価を行った。×は実用上問題のあるレベル、〇は実用レベルであり、◎は良好とした。
◎:80~100個残存
〇:50~79個残存
×:0~50個未満残存。
【0042】
次に、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0043】
(実施例1)
平均粒径0.4μmのコロイダルシリカを0.015質量%、平均粒径1.5μmのコロイダルシリカを0.005質量%を含有するPETペレット(固有粘度0.63dl/g)を充分に真空乾燥した後、押出機に供給し285℃で溶融し、T字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化させた。この未延伸フィルムを92℃に加熱して長手方向に3.3倍延伸し、一軸延伸フィルムとした。このフィルムの片面に空気中でコロナ放電処理を施し、基材フィルムの濡れ張力を55mN/mとし、その処理面に下記の積層膜形成塗液を塗布した。塗布された一軸延伸フィルムをクリップで把持しながら予熱ゾーンに導き、90℃で乾燥後、引き続き連続的に90℃の加熱ゾーンで幅方向に3.8倍延伸し、更に、225℃の加熱ゾーンで熱処理を施し、150N/mのコンタクトロールの巻き取り面圧で巻き取りコアに二軸延伸フィルムを巻き取り、積層体を得た。このとき、基材PETフィルム厚みが125μm、積層膜(層A)の厚みが40nmであった。得られた積層体(フィルム)は、帯電防止性、インク密着性に優れるものであった。
【0044】
「積層膜形成塗液」
(A):予め水酸化カリウムで中和したアシッドホスホオキシ(ポリオキシエチレングリコール)モノメタクリレート(オキシエチレングリコールの繰り返し単位数n=5)/ブチルアクリレート/アクリル酸を70/25/5(質量%)の比率で乳化重合させた分子量約15万の帯電防止ポリマ水分散体
(B):メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/アクリル酸を55/35/10(質量%)の比率で共重合したアクリルエマルジョン
(C):ヘキサメチロール化メラミン(架橋剤)
(D):フッ素系界面活性剤(互応化学(株)社製“プラスコート”(登録商標)RY2)
(E):チタンラクテート(マツモトファインケミカル(株)製“オルガチックス”(登録商標)TC-310)
(F)粒径140nmのコロイダルシリカ
(G)粒径300nmのコロイダルシリカ
(A)/(B)/(C)/(D)/(E)/(F)/(G)を固形分質量比で35/50/8/1/2/3/1に混合し、更に水で希釈して3質量%液としたもの。
【0045】
(実施例2~8)
両面に積層膜形成塗液を塗布したり、コンタクトロールの巻き取り面圧を変えたり、T字型口金よりシート状に押出す際のリップ開度を変えたり、積層膜形成塗液の固形分濃度を変えたり、積層膜形成塗液のフッ素樹脂含有量・架橋剤の含有量を変えたりすることにより、表1に記載のようにすること以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。得られた積層体(フィルム)は、帯電防止性、インク密着性に優れるものであった。
【0046】
(比較例1、3、4)
コンタクトロールの巻き取り面圧を変えたり、積層膜形成塗液のフッ素樹脂含有量を変たりすることにより、表1に記載のようにすること以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。得られた積層体(フィルム)は、インク密着性に優れるものであったが、帯電防止性が不良であった。
【0047】
(比較例2)
コンタクトロールの巻き取り面圧を変え、積層膜形成塗液の固形分濃度を変えることにより、表1に記載のようにすること以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。得られた積層体(フィルム)は、帯電防止性に優れるものであったが、インク密着性が不良であった。
【0048】
本発明によれば、静電気障害がなく、しかもフィルムの二次加工工程で塗布されるグラビアインキ、オフセットインキ、紫外線硬化インキ(UVインキ)等の各種の印刷インキや塗料に対して優れた密着性を有する帯電防止フィルムを提供することができる。