(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090465
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】二軸配向ポリエステルフィルムロール
(51)【国際特許分類】
B29C 55/12 20060101AFI20240627BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240627BHJP
C08J 11/06 20060101ALI20240627BHJP
B29K 67/00 20060101ALN20240627BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
B29C55/12
C08J5/18 CFD
C08J11/06 ZAB
B29K67:00
B29L7:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206402
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高木 勝也
(72)【発明者】
【氏名】墨 典幸
(72)【発明者】
【氏名】楠 洋平
【テーマコード(参考)】
4F071
4F210
4F401
【Fターム(参考)】
4F071AA45
4F071AA46
4F071AA88
4F071AB26
4F071AE11
4F071AF53
4F071AF61Y
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
4F210AA24
4F210AA50
4F210AG01
4F210AR12
4F210AR17
4F210AR20
4F210QA02
4F210QA03
4F210QC06
4F210QC14
4F210QG01
4F210QG18
4F210QL16
4F210QM15
4F210QW07
4F210QW12
4F210QW36
4F401AA22
4F401AD07
4F401BA13
4F401BB20
4F401CA14
4F401CA31
4F401CA59
4F401CA86
4F401DC06
(57)【要約】
【課題】二軸延伸ポリエステルフィルムからなるフィルムを使用後に再チップ化した原料を用いたフィルムにおいて、フィルムの幅方向の熱収縮率のバラツキを抑制したポリエステルフィルムロールを提供する。
【解決手段】ポリエステルを主成分とする、二軸配向ポリエステルフィルムを巻取ってなるフィルムロールであって、前記二軸配向ポリエステルフィルムは、二軸配向ポリエステルフィルム全成分に対してリサイクルポリエステル原料を50質量%以上100質量%以下含有してなり、前記二軸配向ポリエステルフィルムのロールの長手方向(MD)および長手方向とは垂直な幅方向(TD)の150℃30分の熱収縮率がいずれも2.0%以下である二軸配向ポリエステルフィルムロール。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを主成分とする、二軸配向ポリエステルフィルムを巻取ってなるフィルムロールであって、前記二軸配向ポリエステルフィルムは、二軸配向ポリエステルフィルム全成分に対してリサイクルポリエステル原料を50質量%以上100質量%以下含有してなり、前記二軸配向ポリエステルフィルムのロールの長手方向(MD)および長手方向とは垂直な幅方向(TD)の150℃30分の熱収縮率がいずれも2.0%以下である二軸配向ポリエステルフィルムロール。
【請求項2】
前記二軸配向ポリエステルの固有粘度が、0.60dl/g以上0.70dl/g以下である請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルムロール。
【請求項3】
前記二軸配向ポリエステルフィルムロールは幅500mm以上の二軸配向ポリエステルフィルムを巻取ってなるフィルムロールであり、前記二軸配向ポリエステルフィルム幅方向に100mm間隔毎に150℃30分の熱収縮率を測定した際の、MDおよびTDそれぞれにおける最大熱収縮率と最小熱収縮率の差が1.0%以下である請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルムロール。
【請求項4】
前記二軸配向ポリエステルフィルムの厚みは、1.5μm以上3.0μm以下である請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルムロール。
【請求項5】
粘着テープ基材として用いられる請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルムロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクル原料を使用した二軸配向ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン-2,6-ナフタレートなどを用いた二軸配向ポリエステルフィルムは、機械特性、耐熱性、寸法安定性、耐薬剤性、コストパフォーマンス性などに優れることから、その性能を活かして多くの用途にベースフィルムとして使用されている。その用途のひとつとして、粘着テープ基材用途が挙げられる。この粘着テープは、携帯電話等の電子機器内の放熱のために設置されるグラファイトシートの固定や保護、意匠性付与を目的として用いられている。近年、携帯電話は表示の拡大化と携帯性とを向上させるために、構成される主要部品それぞれが薄膜化傾向にある。また、携帯電話のCPUでの局所的な発熱を分散させるグラファイトシートでは、基材の厚さはグラファイトの熱分散性を妨げるため粘着テープの薄膜化が必要となり、テープの基材となるフィルムとしても薄膜化が要求されている。上記用途において、電子機器内部に使用される粘着テープ基材フィルムには、フィルムの収縮により生じる部材とのずれを抑制したり、粘着剤の高温保持力を維持するためにフィルムの収縮率を所定の範囲内とすることが要求される。
【0003】
一方、近年、環境負荷低減と資源の有効活用を目的として、二軸延伸ポリエステルフィルムからなるフィルムを使用後に再チップ化したものや、使用済みのPETボトルをポリエステルフィルムに再利用する動きが活発となっている。特許文献1に示すように、一度押出使用されたポリエステル系樹脂を産業廃棄物として廃棄、燃焼させること無くフィルムに回収し、該回収原料を用いて実用に供することのできる複合フィルムを提供することが提案されている。また特許文献2に示すように、ペットボトルからリサイクルされたポリエステル樹脂を50質量%以上含有するポリエステルフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-141573号公報
【特許文献2】特開2017-007175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討したところ、使用済みのフィルム加工品やペットボトルからリサイクルされた原料を使用することは、品質、品位において、使用上問題になることが判った。特許文献1に関しては、ポリエステルフィルム上に、離型剤として設けるシリコーン層は、回収時にかかる熱や、ポリエステルフィルム製造時の溶融・押出時に分解して異臭を発生し、又、粘度を著しく低下させ、製膜性が悪化する。特許文献2に関しては、一定程度の低熱収縮性の効果が得られるものの、粘着テープ基材用フィルムとして用いた際の電子機器内の放熱時に、製膜幅方向の熱収縮率差に起因するフィルムの収縮ムラが生じ、部材とのズレが発生することが判った。
【0006】
そこで、本発明の課題は、二軸延伸ポリエステルフィルムからなるフィルムを使用後に再チップ化した原料を用いたフィルムにおいて、フィルムの幅方向の熱収縮率のバラツキを抑制したポリエステルフィルムロールを提供すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の好ましい一態様は以下の構成をとる。
(1)ポリエステルを主成分とする、二軸配向ポリエステルフィルムを巻取ってなるフィルムロールであって、前記二軸配向ポリエステルフィルムは、二軸配向ポリエステルフィルム全成分に対してリサイクルポリエステル原料を50質量%以上100質量%以下含有してなり、前記二軸配向ポリエステルフィルムのロールの長手方向(MD)および長手方向とは垂直な幅方向(TD)の150℃30分の熱収縮率がいずれも2.0%以下である二軸配向ポリエステルフィルムロール。
(2)前記二軸配向ポリエステルの固有粘度が、0.60dl/g以上0.70dl/g以下である(1)に記載の二軸配向ポリエステルフィルムロール。
(3)前記二軸配向ポリエステルフィルムロールは幅500mm以上の二軸配向ポリエステルフィルムを巻取ってなるフィルムロールであり、前記二軸配向ポリエステルフィルム幅方向に100mm間隔毎に150℃30分の熱収縮率を測定した際の、MDおよびTDそれぞれにおける最大熱収縮率と最小熱収縮率の差が1.0%以下である(1)または(2)に記載の二軸配向ポリエステルフィルムロール。
(4)前記二軸配向ポリエステルフィルムの厚みは、1.5μm以上3.0μm以下である(1)~(3)のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルムロール。
(5)粘着テープ基材として用いられる(1)~(4)のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルムロール。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、二軸延伸ポリエステルフィルムからなるフィルムを使用後に再チップ化した原料を用いたフィルムにおいて、フィルムの幅方向の熱収縮率のバラツキを抑制したポリエステルフィルムロールを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリエステルフィルムロールの好ましい一態様は、ポリエステルを主成分とする、二軸配向ポリエステルフィルムを巻取ってなるフィルムロールであって、前記二軸配向ポリエステルフィルムは、二軸配向ポリエステルフィルム全成分に対してリサイクルポリエステル原料を50質量%以上100質量%以下含有してなり、前記二軸配向ポリエステルフィルムのロールの長手方向(MD)および長手方向とは垂直な幅方向(TD)の150℃30分の熱収縮率がいずれも2.0%以下である二軸配向ポリエステルフィルムロール、である。本態様とすることにより二軸延伸ポリエステルフィルムからなるフィルムを使用後に再チップ化した原料を用いたフィルムにおいて、フィルムの幅方向の熱収縮率のバラツキを抑制したポリエステルフィルムロールを提供することができる。
【0010】
本発明で用いる二軸配向ポリエステルフィルムとは、延伸に伴う分子配向によって二軸方向に配向したポリエステルフィルムである、以下では単にポリエステルフィルムという場合がある。本発明における二軸配向ポリエステルフィルムはポリエステルを主成分とすることが好ましい。フィルムにおいてポリエステルを主成分とするとは、フィルム100質量%中にポリエステル樹脂を60質量%以上含有するすることをいう。また、用いられるポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、もしくはポリエチレン-2,6-ナフタレートを主成分とすることが好ましい。樹脂においてポリエチレンテレフタレート、もしくはポリエチレン-2,6-ナフタレートを主成分とするとは、樹脂100質量%中にポリエチレンテレフタレート、もしくはポリエチレン-2,6-ナフタレートを60質量%以上含有することをいう。これらはポリエステル共重合体であってもよいが、その繰り返し構造単位のうち、好ましくは80モル%以上がエチレンテレフタレートもしくはエチレン-2,6-ナフタレートであることが好ましい。他のポリエステル共重合体成分としては、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、p-キシレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどのジオール成分、またはアジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸成分、ないしはトリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能ジカルボン酸成分やp-ヒドロキシエトキシ安息香酸などを採用することができる。また、上記のポリエステルに、該ポリエステルと反応性のないスルホン酸のアルカリ金属塩誘導体、あるいは該ポリエステルに不溶なポリアルキレングリコールや脂肪族ポリエステルなどのうち一種以上を、5%を超えない程度ならば共重合ないしブレンドしてもよい。
【0011】
本発明に用いられるポリエステルフィルムは、必要に応じて安定剤、着色剤、酸化防止剤、その他の添加剤等を含有してもよい。
【0012】
本発明に用いられるポリエステルフィルムにおけるリサイクルポリエステル原料の含有率の下限は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは65質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上である。50質量%未満であるとリサイクル原料の活用としては、含有率に乏しく、環境保護への貢献の点であまり好ましくない。また、50質量%以上であることにより、熱収縮率は低下する傾向にある。リサイクルポリエステル原料の含有率の上限は好ましくは100質量%であり、より好ましくは95質量%であり、さらに好ましくは90質量%である。リサイクルポリエステル原料の含有率が10質量%、20質量%、30質量%と大きくなっていくと、熱収縮率が高くなる傾向にあるが、含有率を50質量%以上とすると、熱収縮率は低下する傾向にある。この詳細なメカニズムについては不明だが、リサイクルポリエステル原料の含有率が10質量%、20質量%、30質量%と大きくなっていくと熱収縮率が高くなる理由としては、実質的にリサイクルポリエステル原料を含まないポリエステル原料とリサイクルポリエステル原料がフィルム中で混在し、一度溶融し結晶化したリサイクルポリエステル原料は、フィルムの製膜工程中で、リサイクルポリエステル原料の含有率が大きくなると配向が阻害されるためと推測される。また、リサイクルポリエステル原料の含有率が50質量%以上とすると熱収縮率は低下する理由としては、実質的にリサイクルポリエステル原料を含まないポリエステル原料のポリマー鎖がフィルム中に占める割合が低く、配向に影響を与えないためと推測される。一方で、70質量%以上であると、熱収縮率のバラツキが大きくなる。ここで熱収縮率のバラツキとは、フィルムロール幅方向の100mm間隔毎にサンプルを切り出して測定した熱収縮率の最大値と最小値の差のことを表す。バラツキを小さくする方法としては、後述するような製膜条件(延伸倍率、延伸温度、延伸後の熱固定温度や弛緩処理等)により、調整することにより達成できる。
【0013】
本発明において、リサイクルポリエステル原料とは、フィルムを製造した後のフィルムを回収し、ペレット化したものでも良く、また、フィルム上にコーティング層を設けた、コーティングフィルムを回収して、フィルム表面を洗浄しコーティング層を除去した後のフィルムをペレット化、もしくは再チップ化したものでも良い。本発明に用いられるリサイクルポリエステル原料の固有粘度は、0.60dl/g以上0.80dl/g以下であることが好ましい。固有粘度が0.60dl/g未満では、リサイクルポリエステル原料を用いて作成した際のフィルムの機械的強度が弱くなる傾向があり、製膜性が悪化する場合がある。固有粘度が0.80dl/gを超える場合は、溶融粘度が高くなり、押出機に負荷がかかったり、製造コストがかかったりする場合がある。本発明に用いられるリサイクルポリエステル原料のCOOH末端基量は、40eq/t以下であることが好ましい。COOH末端基量が40eq/tを上回る場合、ポリエステルが劣化していることがあり、機械特性や加工特性に劣る場合がある。なお、固有粘度およびCOOH末端基量は実施例に記載の方法で測定するものとする。
【0014】
本発明のポリエステルフィルムの熱収縮率(150℃において30分間熱処理)は、長手方向、幅方向ともに2.0%以下が好ましい。より好ましくは、1.8%以下である。2.0%を超えると粘着基材として使用した時、フィルムの収縮によって部材のずれが生じたり、粘着剤の高温保持力が損なわれたりすることがある。フィルムの熱収縮率は実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0015】
また本発明の二軸配向ポリエステルフィルムロールは、幅500mm以上の二軸配向ポリエステルフィルムを巻取ってなるフィルムロールであって、前記ポリエステルフィルムロールの、幅方向に100mm間隔毎に切り出したサンプルにおいて150℃30分の熱収縮率を測定した際、長手方向および幅方向それぞれにおける最大熱収縮率と最小熱収縮率の差は1.0%以下であり、より好ましくは0.8%以下である。最大熱収縮率と最小熱収縮率の差が1.0%を超えると、ポリエステルフィルムロール幅内での熱による収縮挙動が異なるため、広幅のロールを使用した場合、走行性悪化やシワが発生しやすく、部分的に粘着剤の塗布ムラや抜けが生じ、テープとして用いた際の均一な粘着性が損なわれるため好ましくない場合がある。フィルムロールにおけるフィルムの熱収縮率は実施例に記載の方法で測定するものとする。
【0016】
幅方向に100mm間隔毎に測定した、長手方向および幅方向それぞれにおける150℃30分の熱収縮率の最大熱収縮率と最小熱収縮率の差を1.0%以下とする方法としては、後述するような製膜条件(延伸倍率、延伸温度、延伸後の熱固定温度や弛緩処理等)により、調整することにより達成できる。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムの固有粘度は、0.60dl/g以上0.70dl/g以下が好ましく、より好ましくは0.61dl/g以上0.68dl/g以下である。固有粘度が0.60dl/g未満では、フィルムの機械的強度が弱くなる傾向があり、製膜性が悪化する場合がある。固有粘度が0.70dl/gを超える場合は、溶融粘度が高くなり、押出機に負荷がかかったり、製造コストがかかったりする場合がある。フィルムの固有粘度は実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0018】
本発明のポリエステルフィルムの厚みは、1.5μm以上3.0μm以下であることが好ましい。より好ましくは1.6μm以上2.8μm以下である。ポリエステルフィルムの厚みが3.0μmを超えると、十分な粘着力を備えた粘着層を付与した時に薄膜テープを提供する本発明の目的が達せられない場合がある。厚みが1.5μmより薄くなると走行性悪化やシワが発生しやすく、部分的に粘着剤の塗布ムラや抜けが生じ、テープの均一な粘着性が損なわれるため好ましくない場合がある。
【0019】
本発明のポリエステルフィルムの構成は、単層フィルムに限らず、2層、3層、それ以上の複合フィルムの構成となっても構わない。
【0020】
以下に本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法についての好ましい一態様を記載する。
【0021】
ポリエステル原料を溶融押出し、スリット状のダイを用いてフィルム状に成形した後、表面温度20~70℃のキャスティングドラムに巻き付けて冷却固化させ、未延伸フィルムとする。続いて未延伸フィルムを80~130℃で長手方向(MD)に5.20~5.50倍延伸して、一軸配向フィルムを得る。このとき、多段階延伸をすることにより製膜性を損なわずに長手方向に強く配向したフィルムを得ることができる。特に、3段階での延伸が好ましく、1、2段目の延伸ロール温度を110℃~130℃で計2.00~4.00倍、3段目の延伸を110℃~130℃で2.00~3.50倍、なおかつ1、2段目よりも3段目が低温になるように延伸することで、本発明の物性・効果を満たすポリエステルフィルムを製造することが可能となる。特に、長手方向の熱収縮率が本発明の規定範囲を満たすためには、後工程の熱処理により配向の緩和が起き、熱収縮率が低下するので、上記のような多段延伸法により、長手方向に強く配向させることが必要となる。
【0022】
その後、一軸配向フィルムをテンター内に導入し、100~130℃で予熱する。次に予熱したフィルムを幅方向(TD)に4.00~4.20倍に延伸して二軸配向フィルムとし、200~230℃で熱固定(ヒートセット、HSという場合がある)する。温度が200℃よりも低いと、熱結晶化が十分進まず、結晶性の低いフィルムとなるため好ましくない。温度が230℃より高いと、熱結晶化が進みすぎ、延伸で進行した分子鎖の配向が低下してしまい、本発明の寸法変化率を満たすことが難しくなる。テンター内でのフィルムへの熱伝達は、テンター内のスリットノズルより噴出する熱風により行う。よって、テンターの温度のみならず、テンターの通過時間によっても寸法変化率が変わる。
【0023】
また、二軸延伸後、さらに長手方向ないし幅方向に、または両方向に再度微延伸をしながら熱処理を施すことがフィルムの寸法安定性の観点から好ましい。熱固定後、180~230℃で幅方向に1~3%収縮させてからジャンボロールとして巻き取った後、必要に応じたフィルム幅にてスリットを行い、紙または樹脂のコアに巻き付けてフィルムロールとする。なお、必ずしもここで示した製造方法に限定されるものではない。
【実施例0024】
以下に本実施例で用いた測定方法、評価方法を示す。
【0025】
(1)フィルムの熱収縮率
ポリエステルフィルムを長さ15cm、幅1cmの短冊状に切り出し、長さ方向の両端からそれぞれ2.5cm内側に幅方向と平行な線を引き、2本の平行線間の距離L0を測定した。次いでその短冊状サンプルを150℃の熱風オーブン中にて30分間熱処理し、冷却後、2本の平行線間の距離L1を測定した。処理前の寸法と処理後の寸法から下記式にて熱収縮率(%)を求めた。
熱収縮率(%)=(L0-L1)/L0×100
なお測定はフィルムロール幅方向の100mm間隔毎にサンプルを切り出して測定し、それぞれの平均値をもって熱収縮率とした。また本測定を長手方向(MD)および長手方向に垂直な方向(TD)それぞれにおいて測定を行った。
【0026】
(2)幅方向に100mm間隔毎に150℃30分の熱収縮率を測定した際の、MDおよびTDそれぞれにおける最大熱収縮率と最小熱収縮率の差(熱収縮率ばらつき)
得られたフィルムロールについて、フィルムロール幅方向の100mm間隔毎にサンプルを切り出し、前述の方法に従ってMDおよびTDの熱収縮率を測定した。得られた熱収縮率の最大値と最小値から、下記式にてY(%)を求めた。
Y(%)=熱収縮率最大値(%)-熱収縮率最小値(%)
(3)固有粘度(IV値)
オルトクロロフェノール100mlに測定対象を溶解させ(溶液濃度C=1.2g/dl)、その溶液の25℃での粘度を、オストワルド粘度計を用いて測定する。また、同様に溶媒の粘度を測定する。得られた溶液粘度、溶媒粘度を用いて、下記(c)式により、[η](dl/g)を算出し、得られた値でもって固有粘度(IV値)とした。
(c)ηsp/C=[η]+K[η]2・C
(ここで、ηsp=(溶液粘度(dl/g)/溶媒粘度(dl/g))-1、Kはハギンス定数(0.343とする)である。)。
【0027】
(4)ポリエステルフィルムの厚み(μm)
JIS C2151(2006年)電気用プラスチックフィルム試験方法のマイクロメーター法を用いて指定された方法でポリエステルフィルムの厚み(μm)を測定した。
【0028】
(5)製膜性
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを製膜する際、横延伸工程において破れの発生しやすさを以下の基準にて判定する。なお製膜は、24時間連続操業とする。
○:破れ無く製膜できる。操業可能。
△:破れが1日に1~3回発生するが、操業可能。
×:破れが1日に4回を超える、あるいは横延伸で破れが多発する。操業不可能。
【0029】
続いて実施例に基づき、本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
(6)リサイクルポリエステル原料のCOOH末端基量(単位:eq/t)
Mauriceの方法に準じて測定した。(文献 M.J.Maurice,F.Huizinga,Anal.Chem.Acta、22、363(1960))。すなわち、リサイクルポリエステル原料0.5gを0.001g以内の精度で秤量する。該試料にo-クレゾール/クロロホルムを7/3の質量比で混合した溶媒50mlを加え、加熱して内温が90℃になってから20分間加熱攪拌して溶解する。また混合溶媒のみもブランク液として同様に別途加熱する。溶液を室温に冷却し、1/50Nの水酸化カリウムのメタノール溶液で電位差滴定装置を用いて滴定をおこなう。また、混合溶媒のみのブランク液についても同様に滴定を実施する。
リサイクルポリエステル原料のCOOH末端基量は、以下の式により計算した。
COOH末端基量(eq/t)={(V1-V0)×N×f}×1000/S
ここでV1は試料溶液での滴定液量(mL)、V0はブランク液での滴定液量(mL)、
Nは滴定液の規定度(N)、fは滴定液のファクター、Sはリサイクルポリエステル原料の質量(g)である。
【0031】
(ポリエステルAペレットの作成)
テレフタル酸86.5質量部とエチレングリコール37.1質量部を255℃で、水を留出しながらエステル化反応を行う。エステル化反応終了後、トリメチルリン酸0.02質量部、酢酸マグネシウム0.06質量部、酢酸リチウム0.01質量部、三酸化アンチモン0.0085質量部を添加し、引き続いて、真空下、290℃まで加熱、昇温して重縮合反応を行い、固有粘度0.65dl/gのポリエステルペレットを得た。
(ポリエステルBペレットの作成)
上記と同様にポリエステルを製造するにあたり、エステル交換後、体積平均粒径2.6μm、体積形状係数f=0.51、モース硬度7の球状シリカをそれぞれ添加し、重縮合反応を行い、粒子をポリエステルに対し2質量%含有する、固有粘度0.65dl/gのシリカ含有マスターペレットを得た。体積形状係数は、次式で表される。
体積形状係数f=V/Dm3
ここでVは粒子体積(μm3)、Dmは粒子の投影面における最大径(μm)である。
【0032】
なお、体積形状係数fは粒子が球のとき、最大のπ/6(=0.52)をとる。
【0033】
各実施例及び各比較例では、以下の樹脂等を用いた。
【0034】
<リサイクル原料A’の作成>
一方で、ポリエステルAの処方にて、後述する製法にて製膜したポリエステルフィルムを用い、後述する工程にてコーティング層を付与後に巻き取ったフィルムを用い、リサイクル原料A’を作成する。
【0035】
(リサイクルポリエステルフィルム原料となる二軸配向ポリエステルフィルムの製造)
ポリエステルAを押出機中で285℃で溶融させ、口金からシート状に溶融押し出し、25℃の回転冷却ドラムに密着させて固化させ、未延伸フィルムを得る。この未延伸フィルムを予熱ロールにて70℃に予熱後、上下方向からラジエーションヒーターを用いて90℃まで加熱しつつロール間の周速差を利用して長手方向に3.1倍に延伸し、引き続き冷却ロールにて25℃まで冷却し、一軸配向(一軸延伸)フィルムとした。このフィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、フィルムの表面張力を55mN/mとした。
次いで、後述する塗液を上記一軸延伸フィルムの両面にバーコーターを用いて塗布し、塗液を塗布後の1軸延伸フィルムをクリップで把持してオーブンに導き、温度120℃、風速20m/分の熱風にて加熱乾燥する。引き続き連続的に延伸工程に導き、温度100℃、風速15m/分の熱風にて加熱しながら幅方向に3.7倍延伸する。得られた二軸配向フィルムを引き続き連続的に温度230℃、風速20m/分の熱風にて15秒間熱処理を実施後、230℃から120℃まで冷却しながら幅方向に5%の弛緩処理を施し、続けて50℃まで冷却する。引き続き幅方向両端部を除去した後に巻き取り、厚み100μmのポリエステルフィルム中間製品を得た後、ポリエステルフィルム中間製品を所定の幅にスリットする。
【0036】
(リサイクル原料A’チップの作成)
上記の巻き取ったフィルムを繰り出し、Roll to Rollの装置にて水洗を行う。水洗層中で、回転式の金属製のブラシを用いて、コーティングを掻き落とす。掻き落とし後のフィルムは、吸引器にて水を除去した後、120℃に加熱したオーブンを通過させ水を蒸発させた後に巻き取り、洗浄後のロールを得る。洗浄後のロールを繰り出し、回転刃を有するクラッシャーにて断裁後、スクリーンを通した後に、フレーク貯蔵サイロに貯蔵する。貯蔵サイロ内のフレークを、回収装置上に設置した貯蔵ホッパーに風送する。フレークは、ドラム内に、攪拌翼を有する回転式の円盤上に定量投入し、水平方向に回転させる。円盤はドラム下部に設置した温度計により、フレークの温度が200℃になった時点で押出機のスクリューを起動させる。押出機は単軸であり、スクリューL/Dは35である。シリンダー温度は260℃である。シリンダーに付したベントラインにて真空引きを行い、真空度は1kPa以下とする。溶融したポリマーはスクリーンメッシュからなる目開き300μm、20μm、150μmのフィルターを3枚重ねしたものを使用して、連続的に異物を取り除く。該フィルターは2対有し、異物が詰まった際に切替可能とする。フィルターで濾過したポリマーを口金から吐出し、冷却水をスプレーさせながら、120℃/secの冷却速度にてポリマーを冷却させ、ガットを成形する。ガットを、回転刃を有する切断装置にて切断し、チップ化した後に、脱水後、貯蔵サイロに風送する。ここで得た、固有粘度0.61dl/g、COOH末端基量35eq/tのチップを、リサイクル原料A’チップとする。
【0037】
(リサイクル原料B’チップの作成)
原料種をポリエステルBの処方とする以外は、リサイクル原料A’チップと同様にして、固有粘度0.65dl/g、COOH末端基量37eq/tのリサイクル原料B’チップを得た。
【0038】
(塗液)
以下主剤の固形分を100質量部とした時に、以下の成分を以下の比率で含有し、主剤樹脂固形分換算の濃度が5.0%である水溶液を用いた。
主剤(特開2018-86605号公報に記載のポリエステル樹脂A):100質量部
メラミン系架橋剤(三和ケミカル社(株)製“ニカラック”(登録商標)MW12LF):50質量部(固形分換算)
平均粒径140nmのコロイダルシリカ:1.5質量部
フッ素系界面活性剤(互応化学(株)社製“プラスコート” (登録商標)RY2):1.5質量部。
【0039】
(実施例1)
ポリエステルBを30質量%、リサイクル原料A’を70質量%調合し、ブレンダー内で攪拌した後、押出機中にて285℃で溶融させ、口金からシート状に溶融押し出し、25℃の回転冷却ドラムに密着させて固化させ、未延伸フィルムを得る。加熱したロールの周速差を用いてフィルムの長手方向に124℃で2.25倍に延伸(1段目延伸)を行い、ついで長手方向に124℃で1.11倍に延伸(2段目延伸)、更に長手方向に117℃で2.10倍に延伸(3段目延伸)し、合計で5.25倍に延伸した。
【0040】
このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、110℃で幅方向に4.10倍に延伸し、さらにTDに1.0%微延伸しながらヒートセット(HS)温度230℃の熱風を3秒間当て熱処理し、150℃で幅方向に2.63%弛緩させて、厚み2.0μmの中間製品を得た。この中間製品をスリッターにてスリットし、製品幅500mmの二軸配向ポリエステルフィルムロールを得た。得られたフィルムロールの評価結果を表1に示す。
【0041】
(実施例2~3、比較例1)
実施例1における原料種、および混合比率、製造条件を変更するほかは、実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムロールを得た。
【0042】
[評価結果のまとめ]
実施例1から実施例3は、フィルムの熱収縮率が面内方向均等に等しく、好適な範囲にあり、幅方向の熱収縮率のバラツキを抑制したフィルムが得られた。
【0043】
比較例1は、フィルムの熱収縮率や幅方向の熱収縮率のバラツキが不十分であった。
【0044】