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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090489
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】抗がん剤分解液
(51)【国際特許分類】
   A62D 3/38 20070101AFI20240627BHJP
   A62D 101/22 20070101ALN20240627BHJP
   A62D 101/28 20070101ALN20240627BHJP
   A62D 101/26 20070101ALN20240627BHJP
【FI】
A62D3/38
A62D101:22
A62D101:28
A62D101:26
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206436
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】511101472
【氏名又は名称】プログレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167416
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 佳男
(72)【発明者】
【氏名】山下 智栄子
(57)【要約】
【課題】抗がん剤分解液、特にpH値が7.0~7.5の範囲の抗がん剤分解液を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る抗がん剤分解剤は、抗がん剤を無毒化するために用いられる、pH値が7.0~7.5の範囲の抗がん剤分解液であって、原水と酸性水溶液と次亜塩素酸ナトリウムを含む次亜塩素酸水溶液からなり、次亜塩素酸水溶液における有効塩素濃度が200ppm以上であって、対象となる前記抗がん剤が、シクロホスファミド、フルオロウラシル、パクリタキセル、ゲムシタビンであることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗がん剤を無毒化するために用いられる、pH値が7.0~7.5の範囲の抗がん剤分解液であって、
原水と酸性水溶液と次亜塩素酸ナトリウムを含む次亜塩素酸水溶液からなり、
前記次亜塩素酸水溶液における有効塩素濃度が200ppm以上であって、
対象となる前記抗がん剤が、シクロホスファミド、フルオロウラシル、パクリタキセル、ゲムシタビンであることを特徴とする抗がん剤分解剤。
【請求項2】
貯留タンクに原水を供給する第1工程と、
前記貯留タンク内に供給された前記原水を撹拌しながら、該貯留タンクに酸性水溶液を供給し、原水と酸性水溶液の混合水溶液を生成する第2工程と、
第2工程後に、前記貯留タンク内で、前記混合水溶液を撹拌しながら、該貯留タンク内に次亜塩素酸ナトリウムを供給し、次亜塩素酸水溶液を生成する第3工程と、
第3工程後に、前記次亜塩素酸水溶液のpH値が、1分以上、安定して7.0~7.5の範囲の一定値に維持されるまで、前記酸性水溶液の供給と前記次亜塩素酸ナトリウムの供給を、この順序で繰り返し行う第4工程と、
を備える、抗がん剤分解液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗がん剤分解液、特にpH値が7.0~7.5の範囲の抗がん剤分解液に関する。
【背景技術】
【0002】
抗がん剤は、がん細胞の増殖を抑制し最終的には、その増殖を抑制または死滅させる製剤である。その作用機序は、対象となるがん細胞に浸入し同細胞のDNAの複製や合成の阻害、微小管形成の阻害(細胞分裂阻害)、細胞内代謝の阻害または栄養供給血流の制御等を引き起こす。それゆえ、抗がん剤はがん化した細胞に作用してアポトーシス等の細胞死を引き起こす反面、通常細胞に対しても高い毒性を持つ。このため、抗がん剤の取り扱いには慎重さを要する。
【0003】
現在、各種のがんに対して対応するべく、抗がん剤を使用した化学療法が多く取り入れられている。抗がん剤治療において、抗がん剤については患者個別の用量が医師により決定され、その処方箋に基づき薬剤師により点滴用容器(輸液バッグ)等に分注される。この抗がん剤調製の作業をさらに詳しく見ると、注射針、薬品びん、点滴液等から飛散した抗がん剤の飛沫、エアロゾルが薬剤師等の皮膚に付着すること、またこれらを呼吸器から吸入する一次被曝がある。また、飛散した抗がん剤の液滴に接触した薬剤袋やびん等を介して薬剤師等の皮膚に付着する二次被曝がある。特に、抗がん剤の調製は専門の薬剤師により行われる。そのため、薬剤師や看護師等の医療従事者自身の職業的な抗がん剤被曝の危険性が指摘されている。特に、長期間の作業従事により、医療従事者自身の流産、白血病、膀胱がん等の報告がある。従って、医療従事者の抗がん剤による曝露対策は非常に重要である。
【0004】
この問題に関し、がん薬物療法における曝露対策について作成されたガイドライン(非特許文献1)では、調製後の薬液の運搬・保管時および投与管理時において曝露対策を行うことが強く推奨されている。現状の抗がん剤調製作業においては、防水性のエプロン、二重にした手袋、活性炭入りマスクが着用される。抗がん剤調製作業は調製時に発生するエアロゾルを外部に流出させない生物学的安全キャビネット、閉鎖式調製器具等の薬剤飛散を低減する環境下で行われる。
【0005】
また、抗がん剤の曝露対策については、種々の発明が提案されている。
特許文献1に係る発明は、抗がん剤等の毒性の高い薬剤を含有した尿を吸収し、尿中の薬剤を吸着して患者、医療従事者、病院関係者等の病院内における二次曝露対策に効果的な抗がん剤含有尿吸着シート体を提供する。
特許文献2に係る発明は、輸液バッグの取り扱いの際に医療従事者が誤って薬液に触れてしまう可能性を低減し、投薬を安全かつ容易に行うことのできる袋体を提供する。
特許文献3に係る発明は、漏出すると健康上の悪影響を生じる危険性がある医薬の医薬調合用器具並びに医薬投与用器具からのより効果的な漏出防止対策ならびに漏出予防対策、および、複数の医薬を併用投与する場での溶液漏出部位の特定と漏出防止対策ならびに漏出予防対策を、安全、低コストかつ簡便に行う新たな手段を提供する。
特許文献4に係る発明は、抗がん剤等の毒性の高い薬剤の吸着及び保持に十分な効果を発揮し、医療環境における医療従事者の安全性をより向上させる抗がん剤吸着シート体を提供する。
特許文献5に係る発明は、輸液チューブセットおよびその使用方法の提供であって、抗がん剤等の危険性薬品の曝露のリスクを効果的に低減する。
【0006】
しかしながら、特許文献1ないし5の発明は、被爆の低減ができる効果が器具からの漏出防止に限定されており、実際のところ環境的汚染は完全には防ぎきれていない。また、使用者の人体への影響、すなわち、安全性に配慮した手段とはなっていない。
【0007】
なお、上記ガイドラインP66には、抗がん剤投与後48時間の患者の排泄物・体液の取り扱いについて、「排泄時の周囲への飛散を最小限にするよう注意を促す。例えば、可能なら男女ともに洋式便器を使い、排尿時も男性は座位で行う。水洗便器の蓋を閉めてからフラッシュする。」、同P68には、抗がん剤がこぼれた時の清掃手順として、「抗がん剤がこぼれた区域を洗剤(清掃用)で洗い、水ですすぐを複数回繰り返す。または、抗がん剤を不活化する薬剤がある場合は、拭き取り後、紙か布に染み込ませて拭き洗いし、最後に乾拭きを行う。」と記され、当該薬剤としては、次亜塩素酸ナトリウム溶液や水酸化ナトリウムなどが上げられ、特に、一部の抗がん剤として、5.25%の次亜塩素酸ナトリウムが有効であることが確認されている。
さらに、微酸性の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を抗がん剤分解液として提供している事例もあるが、使用者の人体への影響、すなわち、安全性に配慮した手段とはなっているとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-126316号公報
【特許文献2】特開2018-122023号公報
【特許文献3】特許第6117973号公報
【特許文献4】特許第6092445号公報
【特許文献5】特開2014-217555号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】一般社団法人日本がん看護学会、公益社団法人日本臨床腫瘍学会、一般社団法人日本臨床腫瘍薬学会共編、「がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン2015年版」、金原出版株式会社、2015年10月15日発行、P.66-68
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、使用者の人体への影響、すなわち、安全性に配慮した抗がん剤分解液として、pH値が7.0~7.5の範囲の抗がん剤分解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る抗がん剤分解剤は、抗がん剤を無毒化するために用いられる、pH値が7.0~7.5の範囲の抗がん剤分解液であって、原水と酸性水溶液と次亜塩素酸ナトリウムを含む次亜塩素酸水溶液からなり、次亜塩素酸水溶液における有効塩素濃度が200ppm以上であって、対象となる前記抗がん剤が、シクロホスファミド、フルオロウラシル、パクリタキセル、ゲムシタビンであることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る抗がん剤分解液の製造方法は、貯留タンクに原水を供給する第1工程と、貯留タンク内に供給された原水を撹拌しながら、該貯留タンクに酸性水溶液を供給し、原水と酸性水溶液の混合水溶液を生成する第2工程と、第2工程後に、貯留タンク内で、混合水溶液を撹拌しながら、該貯留タンク内に次亜塩素酸ナトリウムを供給し、次亜塩素酸水溶液を生成する第3工程と、第3工程後に、次亜塩素酸水溶液のpH値が、1分以上、安定して7.0~7.5の範囲の一定値に維持されるまで、酸性水溶液の供給と次亜塩素酸ナトリウムの供給を、この順序で繰り返し行う第4工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る抗がん剤分解液によれば、安全かつ効率的に抗がん剤被爆防止を講ずることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者らは、次亜塩素酸水溶液を活用した抗がん剤分解液について、鋭意研究を重ねた。ついては、次亜塩素酸水溶液のpHを変えながら、種々の抗がん剤の分解試験を行い、出願人が製造した次亜塩素酸水溶液において、水のpHと同じpH略7.0の次亜塩素酸水溶液に特定の抗がん剤の分解に大きな効果があるとの結論を得た。
【0015】
本発明に係る抗がん剤分解剤は、抗がん剤を無毒化するために用いられる、pH値が7.0~7.5の範囲の抗がん剤分解液であって、原水と酸性水溶液と次亜塩素酸ナトリウムを含む次亜塩素酸水溶液からなり、次亜塩素酸水溶液における有効塩素濃度が200ppm以上であって、対象となる抗がん剤が、シクロホスファミド、フルオロウラシル、パクリタキセル、ゲムシタビンであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る抗がん剤分解液の製造方法は、貯留タンクに原水を供給する第1工程と、貯留タンク内に供給された原水を撹拌しながら、該貯留タンクに酸性水溶液を供給し、原水と酸性水溶液の混合水溶液を生成する第2工程と、第2工程後に、貯留タンク内で、混合水溶液を撹拌しながら、該貯留タンク内に次亜塩素酸ナトリウムを供給し、次亜塩素酸水溶液を生成する第3工程と、第3工程後に、次亜塩素酸水溶液のpH値が、1分以上、安定して7.0~7.5の範囲に維持されるまで、酸性水溶液の供給と次亜塩素酸ナトリウムの供給を、この順序で繰り返し行う第4工程と、を備えることを特徴とする。
すなわち、上述の工程で生成される抗がん剤分解液は、pH値が7.0~7.5の範囲に制御され、使用する際には水のpH値とほぼ同じであるため、人体に対する影響がきわめて少なく、安全性に優れていると評価することができる。
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【実施例0017】
実施例1について、詳細に説明する。
本願出願人は、本願に係る抗がん剤分解液について、抗がん剤の一つであるシクロホスファミドについての抗がん薬分解性能確認試験を実施したので、これについて説明する。
【0018】
第1回の試験は、シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)を試験場所とし、2020年9月28日~10月5日に実施された。試験法は、LC/MS/MSを採用した。
まず、被検物質溶液の調製について、シクロホスファミド100mgに生理食塩水5mLを加えて溶かしたものを原液(20mL)とし、原液1mLを正確に量り、精製水を加え、正確に20mLとする。さらに、この液5mLを正確に量り、精製水を加え、正確に50mLとし、被検物質溶液とした(100μg/mL)。
分解液Aとしては、本願に使用するpH5の次亜塩素酸水溶液9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
分解液Bとしては、本願に使用するpH7の次亜塩素酸水溶液9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
なお、分解液A及びBの濃度については、A1とB1は200ppm、A2とB2は250ppmとした。
さらに、対照溶液として、精製水9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
以上の要領で調製した各分解溶液をLC/MS/MSを用いて測定した。そして、分解液Aと分解液Bについて、対照溶液と比較し、それぞれの分解効果を確認した。
当該確認試験の結果として、表1に示すとおり、シクロホスファミドに関して、分解液Aの平均分解率は99.4%、分解液Bの平均分解率は99.5%であった。

試験調査内容:抗がん薬分解性能確認試験
試験受付番号:JF20-J009
試験場所:シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)
試験日:2020年9月28日~10月5日
試験法:LC/MS/MS
検体:シクロホスファミド(注射用エンドキサン100mg)
分解液A1:本願に係る抗がん剤分解液(濃度200ppm、pH5)
分解液B1:本願に係る抗がん剤分解液(濃度200ppm、pH7)
分解液A1:本願に係る抗がん剤分解液(濃度250ppm、pH5)
分解液B1:本願に係る抗がん剤分解液(濃度250ppm、pH7)
【表1】
以上の結果、上記pH7の抗がん剤分解液すべては、平均で99%以上のシクロホスファミドを分解することが証明された。
【0019】
第2回の試験は、シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)を試験場所とし、2021年4月21日~28日に実施された。試験法は、LC/MS/MSを採用した。
まず、被検物質溶液の調製について、シクロホスファミド100mgに生理食塩水5mLを加えて溶かしたものを原液(20mL)とし、原液1mLを正確に量り、精製水を加え、正確に20mLとする。さらに、この液5mLを正確に量り、精製水を加え、正確に50mLとし、被検物質溶液とした(100μg/mL)。
分解液B3としては、本願に使用するpH7の次亜塩素酸水溶液9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。なお、分解液B3の濃度については、100ppmとした。
さらに、対照溶液として、精製水9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
以上の要領で調製した各分解溶液をLC/MS/MSを用いて測定した。そして、分解液B3について、対照溶液と比較し、分解効果を確認した。
当該確認試験の結果として、表2に示すとおり、シクロホスファミドに関して、分解液B3の平均分解率は98.4%であった。

試験調査内容:抗がん薬分解性能確認試験
試験受付番号:JF21-D008
試験場所:シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)
試験日:2021年4月21日~28日
試験法:LC/MS/MS
検体:シクロホスファミド(注射用エンドキサン100mg)
分解液B3:本願に係る抗がん剤分解液(濃度100ppm、pH7)
【表2】
以上の結果、pH7の抗がん剤分解液B3は、平均で98%以上のシクロホスファミドを分解することが証明された。
【0020】
第3回の試験は、シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)を試験場所とし、2021年12月15日~24日に実施された。試験法は、LC/MS/MSを採用した。
まず、被検物質溶液の調製について、シクロホスファミド100mgに生理食塩水5mLを加えて溶かしたものを原液(20mL)とし、原液1mLを正確に量り、精製水を加え、正確に20mLとする。さらに、この液5mLを正確に量り、精製水を加え、正確に50mLとし、被検物質溶液とした(100μg/mL)。
分解液B4としては、本願に使用するpH7.05の次亜塩素酸水溶液9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。なお、分解液B3の濃度については、200ppmとした。
さらに、対照溶液として、精製水9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
以上の要領で調製した各分解溶液をLC/MS/MSを用いて測定した。そして、分解液B4について、対照溶液と比較し、分解効果を確認した。
当該確認試験の結果として、表3に示すとおり、シクロホスファミドに関して、分解液B4の平均分解率は97.7%であった。

試験調査内容:抗がん薬分解性能確認試験
試験受付番号:JF21-M001
試験場所:シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)
試験日:2021年12月15日~24日
試験法:LC/MS/MS
検体:シクロホスファミド(注射用エンドキサン100mg)
分解液B4:本願に係る抗がん剤分解液(濃度200ppm、pH7.05)
【表3】
以上の結果、pH7.05の抗がん剤分解液B4は、平均で97%以上のシクロホスファミドを分解することが証明された。
【実施例0021】
実施例2について、詳細に説明する。
本願出願人は、本願に係る抗がん剤分解液について、抗がん剤の一つであるフルオロウラシルについての抗がん薬分解性能確認試験を実施したので、これについて説明する。
【0022】
第1回の試験は、シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)を試験場所とし、2020年9月28日~10月5日に実施された。試験法は、LC/MS/MSを採用した。
まず、被検物質溶液の調製について、フルオロウラシル100mgに生理食塩水5mLを加えて溶かしたものを原液(20mL)とし、原液1mLを正確に量り、精製水を加え、正確に20mLとする。さらに、この液5mLを正確に量り、精製水を加え、正確に50mLとし、被検物質溶液とした(100μg/mL)。
分解液Aとしては、本願に使用するpH5の次亜塩素酸水溶液9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
分解液Bとしては、本願に使用するpH7の次亜塩素酸水溶液9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
なお、分解液A及びBの濃度については、A1とB1は200ppm、A2とB2は250ppmとした。
さらに、対照溶液として、精製水9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
以上の要領で調製した各分解溶液をLC/MS/MSを用いて測定した。そして、分解液Aと分解液Bについて、対照溶液と比較し、それぞれの分解効果を確認した。
当該確認試験の結果として、表4に示すとおり、フルオロウラシルに関して、分解液A1の平均分解率は77.3%、分解液A1の平均分解率は90%、分解液B1及びB2の平均分解率はどちらも100%であった。

試験調査内容:抗がん薬分解性能確認試験
試験受付番号:JF20-J008
試験場所:シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)
試験日:2020年9月28日~10月5日
試験法:LC/MS/MS
検体:フルオロウラシル
分解液A1:本願に係る抗がん剤分解液(濃度200ppm、pH5)
分解液B1:本願に係る抗がん剤分解液(濃度200ppm、pH7)
分解液A1:本願に係る抗がん剤分解液(濃度250ppm、pH5)
分解液B1:本願に係る抗がん剤分解液(濃度250ppm、pH7)
【表4】
以上の結果、上記pH7の抗がん剤分解液すべては、100%のフルオロウラシルを分解することが証明された。
【0023】
第2回の試験は、シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)を試験場所とし、2021年4月22日~28日に実施された。試験法は、LC/MS/MSを採用した。
まず、被検物質溶液の調製について、フルオロウラシル100mgに生理食塩水5mLを加えて溶かしたものを原液(20mL)とし、原液1mLを正確に量り、精製水を加え、正確に20mLとする。さらに、この液5mLを正確に量り、精製水を加え、正確に50mLとし、被検物質溶液とした(100μg/mL)。
分解液B3としては、本願に使用するpH7の次亜塩素酸水溶液9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。なお、分解液B3の濃度については、100ppmとした。
さらに、対照溶液として、精製水9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
以上の要領で調製した各分解溶液をLC/MS/MSを用いて測定した。そして、分解液B3について、対照溶液と比較し、分解効果を確認した。
当該確認試験の結果として、表5に示すとおり、フルオロウラシルに関して、分解液B3の平均分解率は99.9%であった。

試験調査内容:抗がん薬分解性能確認試験
試験受付番号:JF21-D009
試験場所:シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)
試験日:2021年4月22日~28日
試験法:LC/MS/MS
検体:フルオロウラシル
分解液B3:本願に係る抗がん剤分解液(濃度100ppm、pH7)
【表5】
以上の結果、pH7の抗がん剤分解液B3は、平均で略100%のフルオロウラシルを分解することが証明された。
【0024】
第3回の試験は、シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)を試験場所とし、2021年12月15日~24日に実施された。試験法は、LC/MS/MSを採用した。
まず、被検物質溶液の調製について、フルオロウラシル100mgに生理食塩水5mLを加えて溶かしたものを原液(20mL)とし、原液1mLを正確に量り、精製水を加え、正確に20mLとする。さらに、この液5mLを正確に量り、精製水を加え、正確に50mLとし、被検物質溶液とした(100μg/mL)。
分解液B4としては、本願に使用するpH7.05の次亜塩素酸水溶液9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。なお、分解液B3の濃度については、200ppmとした。
さらに、対照溶液として、精製水9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
以上の要領で調製した各分解溶液をLC/MS/MSを用いて測定した。そして、分解液B4について、対照溶液と比較し、分解効果を確認した。
当該確認試験の結果として、表6に示すとおり、フルオロウラシルに関して、分解液B4の平均分解率は100%であった。

試験調査内容:抗がん薬分解性能確認試験
試験受付番号:JF21-M001
試験場所:シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)
試験日:2021年12月15日~24日
試験法:LC/MS/MS
検体:フルオロウラシル
分解液B4:本願に係る抗がん剤分解液(濃度200ppm、pH7.05)
【表6】
以上の結果、抗がん剤分解液B4は、100%のフルオロウラシルを分解することが証明された。
【実施例0025】
実施例3について、詳細に説明する。
本願出願人は、本願に係る抗がん剤分解液について、抗がん剤の一つであるパクリタキセルについての抗がん薬分解性能確認試験を実施したので、これについて説明する。
【0026】
当該試験は、シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)を試験場所とし、添加濃度(μg/mL)の異なる2種の被検物質溶液に対する分解液の混合直後の効果比較を行うため、2020年10月1日~13日に実施された。試験法は、LC/MS/MSを採用した。
まず、被検物質溶液の調製について、パクリタキセル100mgに生理食塩水5mLを加えて溶かしたものを原液(20mL)とし、原液1mLを正確に量り、精製水を加え、正確に20mLとする。さらに、この液5mLを正確に量り、精製水を加え、正確に50mLとし、一の被検物質溶液とした(100μg/mL)。そして、これを10分の1に希釈したものを他の被検物質溶液とした(100μg/mL)。
分解液Cとしては、本願に使用する次亜塩素酸水溶液9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
対照溶液として、精製水9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
以上の要領で調製した各分解溶液をLC/MS/MSを用いて測定した。そして、分解液C1についてはpH7で200ppm、分解液C2については、pH7で250ppmとして、被検物質溶液それぞれの混合直後の分解効果を確認した。

試験調査内容:抗がん薬分解性能確認試験
試験受付番号:JF20-J011
試験場所:シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)
試験日:2020年10月1日~13日
試験法:LC/MS/MS
検体: パクリタキセル
分解液C1:本願に係る抗がん剤分解液(濃度200ppm、pH7)
分解液C2:本願に係る抗がん剤分解液(濃度250ppm、pH7)
以下に示す表7は、パクリタキセルの被検物質溶液それぞれの混合直後の分解効果を示す。
【表7】
当該確認試験の結果として、表7に示すとおり、パクリタキセルに関して、分解液Cの平均分解率は1.5~9.1%であった。
【0027】
また、別の確認試験として、被検物質溶液の調製について、パクリタキセル100mgに生理食塩水5mLを加えて溶かしたものを原液(20mL)とし、原液1mLを正確に量り、精製水を加え、正確に20mLとする。さらに、この液5mLを正確に量り、精製水を加え、正確に50mLとし、一の被検物質溶液とした(100μg/mL)上で、これを100分の1に希釈したもの(1μg/mL)と1000分の1に希釈したものを被検物質溶液とした(0.1μg/mL)。
以下に示す表8は、パクリタキセルの被検物質溶液それぞれの混合直後の分解効果を示す。
【表8】
当該確認試験の結果として、表8に示すとおり、パクリタキセルに関して、分解液Cの混合直後の平均分解率は13.2~17.7%であった。
【0028】
本願出願人は、抗がん剤の一つであるパクリタキセルについての上記とは別の抗がん薬分解性能確認試験を実施したので、これについて説明する。
【0029】
当該試験は、シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)を試験場所とし、添加濃度(μg/mL)の異なる2種の被検物質溶液に対する分解液の混合から24時間後の効果比較を行うため、2020年10月2日~13日に実施された。試験法は、LC/MS/MSを採用した。
まず、被検物質溶液の調製について、パクリタキセル100mgに生理食塩水5mLを加えて溶かしたものを原液(20mL)とし、原液1mLを正確に量り、精製水を加え、正確に20mLとする。さらに、この液5mLを正確に量り、精製水を加え、正確に50mLとし、一の被検物質溶液とした(100μg/mL)。そして、これを10分の1に希釈したものを他の被検物質溶液とした(100μg/mL)。
分解液Cとしては、本願に使用する次亜塩素酸水溶液9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
対照溶液として、精製水9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
以上の要領で調製した各分解溶液をLC/MS/MSを用いて測定した。そして、分解液C1についてはpH7で200ppm、分解液C2については、pH7で250ppmとして、被検物質溶液それぞれの混合直後の分解効果を確認した。

試験調査内容:抗がん薬分解性能確認試験
試験受付番号:JF20-K004
試験場所:シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)
試験日:2020年10月2日~13日
試験法:LC/MS/MS
検体: パクリタキセル
分解液C1:本願に係る抗がん剤分解液(濃度200ppm、pH7)
分解液C2:本願に係る抗がん剤分解液(濃度250ppm、pH7)
以下に示す表9は、パクリタキセルの被検物質溶液それぞれの混合から24時間後の分解効果を示す。
【表9】
当該確認試験の結果として、表9に示すとおり、パクリタキセルに関して、分解液Cの混合から24時間後の平均分解率は、添加濃度100μg/mLに対しては62~72.3%、添加濃度10μg/mLに対しては99%以上であった。
【実施例0030】
実施例4について、詳細に説明する。
本願出願人は、本願に係る抗がん剤分解液について、抗がん剤の一つであるゲムシタビンについての抗がん薬分解性能確認試験を実施したので、これについて説明する。
【0031】
試験は、シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)を試験場所とし、2021年4月23日~28日に実施された。試験法は、LC/MS/MSを採用した。
まず、被検物質溶液の調製について、ゲムシタビン100mgに生理食塩水5mLを加えて溶かしたものを原液(20mL)とし、原液1mLを正確に量り、精製水を加え、正確に20mLとする。さらに、この液5mLを正確に量り、精製水を加え、正確に50mLとし、被検物質溶液とした(100μg/mL)。
分解液D1としては、本願に使用するpH7の次亜塩素酸水溶液9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。なお、分解液D1の濃度については、100ppmとした。
さらに、対照溶液として、精製水9mLに、上述被検物質溶液1mLを加えて振り混ぜたものを試料溶液とする。この液を、調製後速やかに測定し、この操作を3回繰り返す。
以上の要領で調製した各分解溶液をLC/MS/MSを用いて測定した。そして、分解液D1について、対照溶液と比較し、分解効果を確認した。
当該確認試験の結果として、表5に示すとおり、ゲムシタビンに関して、分解液D1の平均分解率は99.9%であった。

試験調査内容:抗がん薬分解性能確認試験
試験受付番号:JF21-D010
試験場所:シオノギファーマ株式会社(大阪府摂津市三島2丁目5番1号)
試験日:2021年4月23日~28日
試験法:LC/MS/MS
検体:ゲムシタビン
分解液D1:本願に係る抗がん剤分解液(濃度100ppm、pH7)
【表10】
以上の結果、pH7の抗がん剤分解液D1は、平均で99.7%のゲムシタビンを分解することが証明された。
【0032】
以上の結果、pHが略7.0の本願発明に係る抗がん剤分解液は、抗がん剤のうち、シクロホスファミド、フルオロウラシル、パクリタキセル、ゲムシタビンの分解に効果があることがわかった。
【実施例0033】
実施例5について、詳細に説明する。
本発明に係る抗がん剤分解液の製造方法を説明する。
その工程は、a)貯留タンクに原水を供給する第1工程(S01)と、b)貯留タンク内の原水を撹拌しながら酸性水溶液を供給し、原水と酸性水溶液の混合水溶液を生成する第2工程(S02)と、c)第2工程後に、貯留タンク内の混合水溶液を撹拌しながら次亜塩素酸ナトリウムを供給し、次亜塩素酸水溶液を生成する第3工程(S03)と、d)第3工程後に、次亜塩素酸水溶液のpH値が、1分以上、安定して7.0~7.5の範囲の一定値に維持され、かつ、有効塩素濃度が200ppm以上に維持されるように、酸性水溶液の供給と次亜塩素酸ナトリウムの供給を、この順序で繰り返し行う第4工程(S04)とを備えることを特徴とする。
【0034】
a)第1工程(S01)
第1工程は、貯留タンクに原水を供給する工程である。
原水は特に制限されることはないが、不純物の混入を防止するため、イオン交換水や蒸留水などの純水を用いることが好ましい。
原水の総供給量は、撹拌のし易さや酸性水溶液および次亜塩素酸ナトリウムの供給量を考慮すると、貯留タンクの容量の20%~40%とすることが好ましく、20%~30%とすることがより好ましく、20%~25%とすることがさらに好ましい。
また、第1工程(S01)においては、原水の温度やpH値を均一な状態とするため、貯留タンク内の原水量が、貯留タンクの容量の20%以上となった時点で貯留タンク内の原水の撹拌を開始することが好ましい。
撹拌方法は、特に制限されることはなく、たとえば、プロペラ状の撹拌翼を貯留タンク内で回転させる方法やポンプを用いる方法などを採用することができる。これらの中でも、循環ポンプを用いて、貯留タンク内の下部から原水を引き抜いた後、貯留タンク内の上部から、引き抜いた原水を再供給する方法が好ましい。このような方法であれば、貯留タンク内の原水に上下方向の対流を生じさせることができるため、原水の均一な撹拌が可能となる。
なお、循環ポンプの吐出量は50L/分以上であることが好ましく、100L/分以上であることがより好ましい。これは、循環ポンプの吐出量が50L/分未満では、原水が十分に対流しない場合があるからである。
【0035】
b)第2工程(S02)
第2工程(S02)は、第1工程の終了後に、貯留タンク内の原水を撹拌しながら酸性水溶液を供給し、原水と酸性水溶液の混合水溶液を生成する工程である。
第2工程(S02)で供給する酸性水溶液は、特に制限されることなく、希塩酸、酢酸水溶液および希硫酸などを用いることができる。これらの中でも、コストや取扱い性を考慮すると、希塩酸を用いることが好ましく、6質量%~8質量%の希塩酸を用いることがより好ましく、6質量%~7質量%の希塩酸を用いることがさらに好ましい。
酸性水溶液として希塩酸を用いる場合、第2工程における希塩酸の総供給量は、原水の供給量を100として、1/650~1/550とすることが好ましく、1/620~1/580とすることがより好ましく、1/600とすることがさらに好ましい。希塩酸の総供給量が上記範囲から外れると、十分な殺菌作用が得られない場合がある。
なお、希塩酸の単位時間当たりの供給量は、28mL/分~38mL/分とすることが好ましく、33mL/分~38mL/分とすることがより好ましい。単位時間当たりの供給量をこのような範囲とすることにより、均一な混合水溶液を生成することができるため、十分な殺菌作用を確保することができる。
【0036】
c)第3工程(S03)
第3工程(S03)は、第2工程(S02)の終了後に、貯留タンク内の混合水溶液を撹拌しながら次亜塩素酸ナトリウムを供給し、次亜塩素酸水溶液を生成する工程である。
上述したように、次亜塩素酸ナトリウムと酸性水溶液を混合すると、下記の反応によって、毒性および腐食性を有する塩素ガスが発生する。特に、酸性領域では、塩素ガスが大量に発生し、労働災害や製造設備の腐食などの原因となる。
これに対して、本発明では、原水に酸性水溶液を供給した後に、次亜塩素酸ナトリウムを供給することにより、塩素ガスの発生を低減している。すなわち、本発明の方法では、上記反応を抑制することで塩素ガスの生成を低減し、安全性を確保するとともに、製造設備の腐食を効果的に防止することを可能としている。
次亜塩素酸ナトリウムの供給方法は、特に制限されることはないが、通常、次亜塩素酸ナトリウム水溶液として供給される。この際、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の濃度を、6質量%~7質量%に調整することが好ましく、6質量%~6.5質量%に調整することがより好ましい。
また、第3工程(S03)における次亜塩素酸ナトリウムの供給量は、原水の総供給量を100として、1/650~1/550とすることが好ましく、1/620~1/580とすることがより好ましく、1/600とすることがさらに好ましい。次亜塩素酸の総供給量が上記範囲から外れると、十分な殺菌作用が得られない場合がある。
なお、次亜塩素酸水溶液の単位時間当たりの供給量は、28mL/分~38mL/分とすることが好ましく、33mL/分~38mL/分とすることがより好ましい。単位時間当たりの供給量をこのような範囲とすることにより、均一な次亜塩素酸水溶液を生成することができるため、十分な殺菌作用を確保することができる。
【0037】
d)第4工程(S04)
第4工程(S04)は、第3工程(S03)の終了後に、貯留タンク内に生成された次亜塩素酸水溶液のpH値が、1分以上、安定して7.0~7.5の範囲の一定値に維持されるまで、酸性水溶液の供給と次亜塩素酸ナトリウムの供給を、この順序で繰り返し行う工程である。
すなわち、本発明では、第1工程(S01)から第3工程(S03)により、一旦、次亜塩素酸水溶液を生成した後、pH値が、一定時間、安定して特定範囲に維持されるまで、この次亜塩素酸水溶液を撹拌しつつ、酸性水溶液および次亜塩素酸ナトリウムの供給を、この順序で、複数回、好ましくは5回~15回、より好ましくは8回~12回繰り返して行うこととしている。このような製造方法では、最終製品である抗がん剤分解液を、酸性水溶液や次亜塩素酸ナトリウムの供給量ではなく、これらの混合後から一定時間が経過するまでのpH値によって管理しているため、気象条件などによるpH値の変動が問題となることはない。また、この方法で得られる抗がん剤分解液は、これを構成する各成分が、分子レベルで均一に分散した状態となるため、経時的なpH値の変動を大幅に抑制することができる。
第4工程(S04)において、pH値の変動を測定する時間(測定時間)は、1分以上、好ましくは2分以上、より好ましく3分以上とする。この測定時間が1分未満では、得られる抗がん剤分解液のpH値のばらつきや経時的な変動を十分に抑制することができない。なお、測定時間の上限は特に制限されることはないが、あまり長時間としても、それ以上の効果が得られることはなく、生産性の悪化を招く。このため、概ね、5分以内とすることが好ましく、4分以内とすることがより好ましい。
また、最終的に得られる抗がん剤分解液のpH値は、7.0~7.5の範囲の一定値に調整することが必要となる。また、有効塩素濃度が200ppm以上に維持されるようにして、抗がん剤の有効な分解作用も担保する必要がある。抗がん剤分解液のpH値をこのような範囲の一定値に調整することにより、高い安全性や分解作用を確保しつつ、品質のばらつきを抑制することができる。
【0038】
以上、本発明に係る抗がん剤分解液の構成例における好ましい実施形態を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る抗がん剤分解液は、安全かつ効率的に抗がん剤被爆防止を講ずることができるので、病院等の医療施設のみならず、高齢者施設や住居の居住空間やトイレ、また動物病院等における抗がん剤被爆防止に広く適用することができる。