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特開2024-90495橋りょう橋脚の健全度評価方法および健全度評価システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090495
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】橋りょう橋脚の健全度評価方法および健全度評価システム
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
E01D22/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206443
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】徳永 宗正
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA03
2D059BB35
2D059GG39
(57)【要約】
【課題】河川等の橋りょうの橋脚基礎の維持管理において、手間やコストを抑制して健全度を評価する評価方法および評価システムを提供する。
【解決手段】橋りょうの橋脚の健全度を評価する方法であって、列車通過時において橋脚の天端の応答変位を測定する工程と、橋脚の構造諸元に基づいて、健全な変位の限界値を算出する工程と、応答変位の測定値と限界値とを比較し、健全度を判定する工程と、を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋りょうの橋脚の健全度を評価する方法であって、
列車通過時において前記橋脚の天端の応答変位を測定する工程と、
前記橋脚の構造諸元に基づいて、健全と判定される変位の限界値を算出する工程と、
応答変位の測定値と前記限界値とを比較し、健全度を判定する工程と、
を有することを特徴とする、橋りょう橋脚の健全度評価方法。
【請求項2】
前記測定値と前記限界値はそれぞれ、橋脚天端の鉛直方向の変位と線路直角方向の変位であることを特徴とする、請求項1に記載の橋りょう橋脚の健全度評価方法。
【請求項3】
前記限界値は、
前記橋脚の構造諸元から、前記橋脚の列車非載荷時の鉛直方向および水平方向の固有振動数を求め、
前記橋脚の固有振動数が低下する際の前記橋脚の支持地盤の劣化状況を想定し、当該想定される劣化状況において列車通過時の橋脚天端の鉛直方向の変位と線路直角方向の変位の少なくともいずれかを算出した値であることを特徴とする、請求項1に記載の橋りょう橋脚の健全度評価方法。
【請求項4】
前記橋脚の支持地盤が均一劣化する場合において、
前記限界値は、鉛直方向の応答変位が下記式(1)を満たすd *1であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の橋りょう橋脚の健全度評価方法。
【数1】
ただし、
:列車による外力
:基礎の線路直角方向幅
h:橋脚高さ
:モード質量
κ:健全度指標値
:固有振動数の標準値
EI:躯体の曲げ剛性
【請求項5】
前記橋脚の支持地盤が局所劣化する場合において、
前記限界値は、鉛直方向の応答変位が下記式(2)を満たすd *2であり、且つ線路直角方向の応答変位が下記式(2)を満たすd *2であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の橋りょう橋脚の健全度評価方法。
【数2】
ただし、
:列車による外力
:基礎の線路直角方向幅
:基礎の線路方向幅
:基礎底面の鉛直ばねの地盤反力係数
ry:洗掘による線路直角方向の喪失幅
h:橋脚高さ
:モード質量
κ:健全度指標値
:固有振動数の標準値
EI:躯体の曲げ剛性
【請求項6】
橋りょうの橋脚の健全度を評価するシステムであって、
列車通過時において前記橋脚の天端の応答変位を測定する変位測定装置と、
前記変位測定装置による測定結果から、橋脚の健全度を判定するデバイスと、を備え、
前記デバイスは、
前記橋脚の構造諸元に基づいて、健全と判定される変位の限界値を算出する限界値導出部と、
前記測定結果と前記限界値とを比較し、健全度を判定する健全度判定部と、
を備えることを特徴とする、橋りょう橋脚の健全度評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川等の橋りょうの橋脚基礎の維持管理において、健全度を評価する方法および評価システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造物の基礎は、通常、地中や水中に構築されており、変状の有無や健全度を直接目視で判断することは困難である。一方で、橋りょうや高架橋において、基礎の支持状態の悪化や、部材に損傷や破壊が生じた場合には、橋りょうや高架橋の固有振動数が大きく低下すると考えられる。
【0003】
そこで、従来、橋脚や高架橋基礎の健全度を測る指標として、固有振動数に着目し、重錘等を用いた衝撃振動試験により強制的に橋脚を加振して自由減衰振動を励起し、この波形から固有振動数を判定する方法が開発されている(例えば非特許文献1~4)。健全度は、実測された固有振動数の値の経時的な変化で判定することを基本としているが、別途用意された標準値との比により健全度を判定する方法も提案されている。標準値は、目視点検などから健全と判断できる多数の個体の衝撃振動試験の結果から、健全であればこの程度の固有振動数を有しているべきであるという固有振動数を統計的に処理して提案された算定式により算定される。
【0004】
橋脚を支持する地盤の支持状態が悪化した場合、固有振動数が大きく低下することから、固有振動数に着目した健全度評価は一定の合理性を有することは確認されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】西村昭彦、棚村史郎:既設橋りょう橋脚の健全度判定法に関する研究、鉄道総研報告、Vol.3、No.8、1989
【非特許文献2】西村昭彦、羽矢洋:橋りょう基礎の健全度判定法と判定例、第21回地震工学研究発表会、1991
【非特許文献3】羽矢洋、稲葉智明:衝撃振動試験における新しい評価基準値、鉄道総研報告、2002
【非特許文献4】羽矢洋、稲葉智明:鉄道における木杭基礎橋脚の健全度診断法、鉄道総研報告、2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、固有振動数に着目した健全度判定は、以下の点において課題がある。
【0007】
まず、20~30kgの重錘を橋脚天端に設置して衝撃振動試験を行い、得られた残留波形から固有振動数を測定するため、測定に要する手間やコストが非常に大きい。近年、簡易な常時微動測定から固有振動数を判定する方法も研究されてはいるものの、一般的に適用可能な技術レベルには至っていない。
【0008】
また、柱剛性が大きい場合や、鋼桁を支持する橋脚のように上部工質量が小さい場合には、衝撃振動試験によって励起される動的応答(自由減衰振動)が小さくなることから、固有振動数の判定が困難となることがある。
【0009】
また、橋りょうは線路方向に連続した振動系を形成しており、橋脚の線路直角方向の振動のみが卓越する場合ばかりではない。例えば、橋脚の固有振動数帯である5~30Hz程度においては、桁の鉛直、線路直角方向の振動モード、橋側歩道の振動モード等、多くの固有振動モードが存在することから、橋脚のみにセンサを設置した場合には、これらの振動モードと区別することができない。
【0010】
さらに、一般的な設計で用いられる性能項目と固有振動数とが結び付けられていないため、固有振動数の変化や標準値との相対的な関係によって健全性を評価せざるを得ないという問題がある。固有値解析と実測された固有振動数・振動モードとの比較により、部材剛性や地盤反力係数を逆解析的に推定して各部位の健全度を評価する方法も考えられるが、コストが大きくなる。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、河川等の橋りょうの橋脚基礎の維持管理において、手間やコストを抑制して健全度を評価する評価方法および評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題を解決するため、本発明は、橋りょうの橋脚の健全度を評価する方法であって、列車通過時において前記橋脚の天端の応答変位を測定する工程と、前記橋脚の構造諸元に基づいて、健全と判定される変位の限界値を算出する工程と、応答変位の測定値と前記限界値とを比較し、健全度を判定する工程と、を有することを特徴としている。
【0013】
前記測定値と前記限界値はそれぞれ、橋脚天端の鉛直方向の変位と線路直角方向の変位でもよい。
【0014】
前記限界値は、前記橋脚の構造諸元から、前記橋脚の列車非載荷時の鉛直方向および水平方向の固有振動数を求め、前記橋脚の固有振動数が低下する際の前記橋脚の支持地盤の劣化状況を想定し、当該想定される劣化状況において列車通過時の橋脚天端の鉛直方向の変位と線路直角方向の変位の少なくともいずれかを算出した値でもよい。なお、ここでは、水平方向は、線路方向と線路直角方向を区別しない。
【0015】
また、前記橋脚の支持地盤が均一劣化する場合において、前記限界値は、鉛直方向の応答変位が下記式(1)を満たすd *1でもよい。
【数1】
ただし、
:列車による外力
:基礎の線路直角方向幅
h:橋脚高さ
:モード質量
κ:健全度指標値
:固有振動数の標準値
EI:躯体の曲げ剛性
【0016】
また、前記橋脚の支持地盤が局所劣化する場合において、前記限界値は、鉛直方向の応答変位が下記式(2)を満たすd *2であり、且つ線路直角方向の応答変位が下記式(2)を満たすd *2でもよい。
【数2】
ただし、
:列車による外力
:基礎の線路直角方向幅
:基礎の線路方向幅
:基礎底面の鉛直ばねの地盤反力係数
ry:洗掘による線路直角方向の喪失幅
h:橋脚高さ
:モード質量
κ:健全度指標値
:固有振動数の標準値
EI:躯体の曲げ剛性
【0017】
また、本発明は、橋りょうの橋脚の健全度を評価するシステムであって、列車通過時において前記橋脚の天端の応答変位を測定する変位測定装置と、前記変位測定装置による測定結果から、橋脚の健全度を判定するデバイスと、を備え、前記デバイスは、前記橋脚の構造諸元に基づいて、健全と判定される変位の限界値を算出する限界値導出部と、前記測定結果と前記限界値とを比較し、健全度を判定する健全度判定部と、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、測定や解析に多大な手間やコストをかけることなく、河川等の橋りょうの橋脚基礎の健全度を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態にかかる健全度評価対象の橋りょうの構成の概略を示す側面図である。
図2】本発明の実施形態にかかる健全度評価システムの構成の概略を示す平面図である。
図3図2の実施形態にかかるデバイスの演算部の構成の概略を示す説明図である。
図4】本発明の実施形態にかかる健全度評価の手順を示すフローチャートである。
図5】κ=1.0、h=5mに対応する列車通過時の応答を示すグラフである。
図6】κ=1.0、h=10mに対応する列車通過時の応答を示すグラフである。
図7】κ=0.85、h=5mに対応する列車通過時の応答を示すグラフである。
図8】κ=0.85、h=10mに対応する列車通過時の応答を示すグラフである。
図9】健全度評価に用いる列車通過時変位の閾値の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
本発明は、列車通過時における橋脚の変位量によって、橋りょうの橋脚基礎の健全度を評価するものである。例えば、豪雨に伴う洗掘により傾斜や沈下が発生した橋脚を再供用する場合には、試験列車通過時の変位量を計測し、有意な変位が発生しないかを確認することで、再供用の可否を判断する。
【0022】
変位は直接的に橋脚基礎の支持性能を評価できる有益な情報を多く含んでいるものの、従来は、基礎の変位の測定は容易ではなく、ワイヤー式変位計等によって変位測定が行われてきた。しかしながら、近年では、測定技術の発達により、画像測定等による変位計測が容易に実施できるようになり、測定精度も向上してきたことから、本発明に至った。
【0023】
<対象構造物>
本実施形態では、橋りょう橋脚の基礎構造物の健全度を評価する。図1は、本発明が対象とする橋りょうの一例の概略を示す側面図である。水中に構築された基礎2の上に、支承3を介して桁4が設けられ、桁4の上に、移動体としての鉄道車両が走行するレール5が敷設されている。本実施形態では、このような橋りょう1の基礎2の天端において、列車通過時の応答変位を測定し、健全度の評価を行う。
【0024】
<健全度評価システム>
図2は、本実施形態にかかる健全度評価システム10の構成の概略を示す説明図である。健全度評価システム10は、計測された橋脚の変位量から、基礎構造物の健全度を評価するものである。
【0025】
健全度評価システム10は、変位測定装置20、アンプ30、AD変換器40、通信装置50、及びデバイス60を有している。
【0026】
本発明において、変位の測定方法は任意であり、画像測定や、非接触式速度計を用いた測定方法等を採用することができる。非接触式速度計等を設置して常時変位をモニタリングしてもよいし、橋脚の変状の発生が疑われる場合のみ、撮像装置を設置して測定してもよい。例えば撮像装置を用いる場合には、橋りょうの基礎の天端の所定位置を撮影できる位置に、変位測定装置20としての撮像装置を設置する。変位測定装置20で得られた変位測定データはアンプ30で増幅され、AD変換器40においてデジタル信号に変換される。アンプ30は、例えばチャージアンプ等を用いることができるが、これに限定されない。
【0027】
AD変換器40はアンプ30に接続され、更に通信装置50を介してデバイス60に接続される。AD変換器40では、変位測定装置20から入力された変位信号をデジタル信号に変換した変位測定データを、通信装置50を介してデバイス60に出力する。
【0028】
通信装置50は、通信を行うことができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば無線LAN、有線LAN、インターネット等が用いられる。
【0029】
デバイス60は、例えばノート型パーソナルコンピュータ(PC)であり、デバイス60の演算部により、通信装置50から入力された変位測定データに基づいて、基礎構造物の健全度を評価する。なお、デバイス60はノート型PCに限定されることはなく、例えばデスクトップ型PCであってもよいし、タブレットやスマートフォンでもよい。
【0030】
図3は、デバイス60の演算部の構成の概略を示す説明図である。
【0031】
デバイス60は、制御部100、記憶部101、応答変位データ取得部102、変位限界値導出部103、健全度判定部104、通信部105、及び表示部106を有している。
【0032】
制御部100は、回路(ハードウェア)又はCPUなどの中央演算処理部である。制御部100は、記憶部101に格納されたプログラム(ソフトウェア)に従って、デバイス60の制御を行う。記憶部101は、RAM、ROM、フラッシュメモリ、HDD、SDD等からなり、各種プログラムやデータを記憶する。
【0033】
応答変位データ取得部102は、AD変換器40から出力された変位測定データに基づいて、計測点における列車通過時における橋脚基礎の応答変位量を取得する。変位限界値導出部103は、対象とする橋脚の諸元に基づいて、後述する方法により、健全と評価できる変位の限界値を算出する。健全度判定部104は、応答変位データ取得部102で取得した応答変位量と、変位限界値導出部103で導出した限界値とを比較して、対象とする橋脚基礎の健全度を評価する。
【0034】
通信部105は、通信装置50との間の通信を媒介する通信インタフェースである。具体的に通信部105は、AD変換器40から出力された変位測定データを受信する。表示部106は、例えばディスプレイ等であり、デバイス60に関する種々の情報を表示する。
【0035】
<健全度評価手順>
図4は、本発明の実施形態にかかる橋脚基礎の健全度の評価方法の主な工程を示すフロー図である。
【0036】
先ず、列車通過時の橋脚天端の応答変位を測定する(ステップS1)。また、その橋脚の構造諸元から、健全と評価することができる応答変位の限界値を算出する(ステップS2)。そして、応答変位の測定値と算出された限界値とを比較し(ステップS3)、デバイス60によって健全度を評価する(ステップS4)。
【0037】
ステップS1では、変位測定装置20を用いて、列車通過時の橋脚天端の鉛直方向の応答変位および線路直角方向の応答変位を測定する。線路方向に関しては、支承の摩擦力等、予測できない要因が多く、後述する限界値との比較が困難であること、また、鉛直方向や線路直角方向に比べて影響が少ないと考え、本実施形態では線路方向の応答変位については考慮しない。本実施形態では、橋脚基礎の健全度を評価する必要があると判断された橋りょうに対して、変位測定装置20を設けて応答変位を測定する。
【0038】
ステップS2では、橋脚の構造諸元や被害状況を想定し、限界値を算出する。ステップS2における限界値の算出方法の例については後述する。
【0039】
ステップS3では、ステップS1で測定された測定値と、ステップS3で算出された限界値とを比較する。
【0040】
ステップS4では、測定値が限界値以下であれば、その橋脚は健全であると判断する。この場合には、そのまま列車走行を継続させることができる。限界値を超えた場合には、健全度が低くなっていると判断される。この場合、さらに衝撃振動試験を行って定量的な評価を実施することが望ましく、その結果に応じて補強等の必要な措置を行う。
【0041】
<限界値の算出>
以下、本実施形態において、デバイス60で評価する橋脚の基礎構造物の健全度の評価指標となる限界値の求め方の例について説明する。
【0042】
[列車非載荷時の橋脚の固有振動数について]
一般に、直接基礎を有する橋脚の固有振動数を数値解析により算出する場合、橋脚の躯体を梁要素、支持地盤をスウェイ・ロッキングばねによりより表現したSRモデルと呼ばれる振動系を仮定することが多い。ここでは線路方向と線路直角方向とを区別せずに、水平方向の1次固有振動モードに着目する。
【0043】
1自由度系の振動系の着目するモードの固有振動数fは、式(3)により算出される。
【数3】
ただし、
:モード剛性
:モード質量
【0044】
(1)鉛直方向の固有モード
先ず、鉛直モードについて説明する。地盤ばねの回転と躯体の変形が支配要因と考え、これらの直列ばねにより表現できると考えると、鉛直方向のモード質量mは式(4a)、鉛直方向のモード剛性kは式(4b)で表される。
【数4】
【数5】
ただし、
:上部工質量
ρ:単位体積質量
A:橋脚の断面積
h:橋脚高さ
EA:躯体の軸剛性
βは躯体と支持地盤との鉛直剛性比であり、
【数6】
で表され、
は支持地盤の鉛直剛性であり、
【数7】
で表される。
:基礎底面の鉛直ばねの地盤反力係数
:モード変形の方向の基礎の底面幅
r1:モード変形の方向の支持地盤の欠損幅
:モード変形の線路直角方向の基礎の底面幅
r2:モード変形の線路直角方向の支持地盤の欠損幅
【0045】
式(4a)の第1項は上部工質量、第2、3項は躯体質量の成分を示している。さらに、第1、2項は基礎の鉛直ばね、第3項は躯体の軸変形の成分を表している。躯体の軸剛性EAが支持地盤の鉛直剛性Kと比較して十分高い(K≪EA)場合は、第3項は0に収束し、支持地盤が十分に硬固(K≫EA)で橋脚高さhが高い場合には、第2項は0に収束する。
【0046】
以上から、鉛直方向の振動モードの固有振動数fは、式(5)で表現できる。
【数8】
【0047】
(2)水平方向の固有モード
次に、水平モードについて説明する。橋脚天端に着目し、躯体変形形状が天端に集中荷重が作用した場合の変形と等しいと仮定する。さらに、桁の拘束効果による連成を無視して、橋脚が独立して振動すると仮定する。前面の水平ばねの存在を、底面の回転ばね剛性の増加と躯体梁の有効長さの減少として考慮する。地盤ばねの回転と躯体の変形が支配要因と考え、これらの直列ばねにより表現できると考えると、水平方向のモード質量mは式(6a)、水平方向のモード剛性kは式(6b)で表される。
【数9】
【数10】
ただし、
h:橋脚高さ
EI:躯体の曲げ剛性
:水平ばねが有効に機能する高さであり、根入れ長と同義である。ここでは、hの半分の長さ分だけ梁の有効長さが減少すると仮定する。
βは躯体と支持地盤の水平剛性比であり、
【数11】
で表される。
【0048】
式(6a)の第1項は上部工質量、第2、3項は躯体質量の成分を示している。さらに、第1、2項は基礎の回転ばね、第3項は躯体の曲げ変形の成分を表している。躯体の曲げ剛性EIが支持地盤の回転剛性Kθと比較して十分高い場合(Kθ≪EI)は、第3項は0に収束し、地盤が十分に硬固で橋脚高さが高い場合(Kθ≫EI)には、第2項は0に収束する。厳密には、洗掘被害が発生し、地盤ばねの支持分布が不均一となった場合、式(4a)、(4b)の係数等が変化し、モード質量mも変化するが、回転剛性Kθの変化と比較するとその影響は小さいと考えられるため、無視することとする。
【0049】
なお、Kθは支持地盤の回転剛性であり、式(7)で表される。
【数12】
ただし、
:基礎底面の鉛直ばねの地盤反力係数
:モード変形の方向の基礎の底面幅
r1:モード変形の方向の支持地盤の欠損幅
:モード変形の線路直角方向の基礎の底面幅
r2:モード変形の線路直角方向の支持地盤の欠損幅
:基礎前面の水平ばねの地盤反力係数
【0050】
支持地盤の欠損は片側から発生すると仮定する。厳密には、地盤ばねの支持分布が不均一となった場合には、P-δ効果により剛性は若干低下するが、その効果は小さいと判断してここでは無視する。式(7)における第2項は橋脚側面の水平地盤ばねの拘束効果を考慮するものであり、このような場合には支持地盤の欠損が発生するような洗掘は発生していないことから、一般的にerx=0,ery=0となる。洗掘による被災により橋脚周辺の土被りが失われるような場合には、前面の水平ばねの拘束効果を表す第2項は0となる。
【0051】
式(7)より、Kθは、kの1乗、(B-er1)の3乗に比例することから、洗掘による有効幅の減少が、Kθの変化に大きく影響することがわかる。例えば、er1がBの10%、20%となる場合の影響度は、kの30%程度、50%程度の減少と同程度の影響度となる。洗掘により底面の支持が一部でも損失された場合には、急激に固有振動数が低下するのは、このためである。
【0052】
以上から、水平方向の振動モードの固有振動数fは、式(8)で表現できる。
【数13】
【0053】
式(8)をKθについて解くと、式(9)が得られる。
【数14】
【0054】
[列車通過時の橋脚天端の応答について]
直線区間で列車からの水平方向の作用が無視できる条件において、地盤の支持状態が健全かつ一様であれば、橋脚の天端は線路直角方向には変位が発生しない。橋りょうの影響線スパンが20m以上、列車速度が160km/h未満の在来線を考えると、その動的応答のほとんどが1Hz以下であることから、列車走行時の振動による動的成分は無視しても差し支えない。具体的に、本発明が対象とするような構造形式を想定した場合、vL -1は、カットオフ周波数を設定したローパスフィルターを通過させた波形となる。特に、本発明が対象とする橋脚のあらゆる固有振動数は、洗掘が大きく進行した場合でも、通常2Hz程度以上となる。スパンが30m以下の鋼桁の固有振動数は通常この領域よりも高い領域に位置することから、桁の共振の可能性も低い。従って、本発明では、列車荷重による静的変位のみに着目し、実測された波形も1Hzのカットオフ周波数を設定したローパスフィルターを通過させた波形を用いることを前提とする。曲線区間や、水平方向の軌道変位が大きい場合には、車両の水平方向の車両動揺の影響による車両横荷重の影響で、これらによる水平方向の変位が発生することから、これらの成分に対する検討が必要となるが、このローパスフィルターはこれらの成分を低減させる役割を果たす点には利益がある。
【0055】
以下、図1に示すようにスパンL、Lの単純桁を支持する橋脚基礎を対象として、天端の鉛直方向および線路直角方向の変位について説明する。
【0056】
(1)列車のモデル化
列車の振動系は考慮せず、輪軸位置に作用する軸重を連行する外力としてモデル化する。列車が等速度vで橋りょう上を通過すると仮定する。jは各輪軸番号、x0,jは輪軸jの初期位置とすると、時刻tにおける構造系に作用する編成列車による外力Pは、各輪軸が及ぼす外力pt,jの線形和として表現される。
【0057】
先頭輪軸の初期位置x、車両長をL、車軸間隔をa、台車中心間隔をbと表すと、各車両j(=1,・・・,n)の4軸の輪軸配置x0,jは式(10)のように表される。
【数15】
【0058】
本実施形態では、式(10)で示すような周期的な列車を想定するが、貨物列車のように不規則な軸配置であっても、x0,jを個々に設定すればよい。
【0059】
(2)鉛直方向の静的応答
橋脚天端の鉛直方向の変位の時刻歴dは、式(11)で表される。
【数16】
ただし、
は支持地盤の鉛直剛性であり、前述の式(4c)で表され、
はモード外力の時刻歴であり、式(12)により表される。
【数17】
ただし、
【数18】
【0060】
(3)線路直角方向の静的変位
橋脚天端の線路直角方向の変位の時刻歴dは、基礎の回転による成分と躯体の曲げ変形による成分の和として、式(13)で表される。
【数19】
ただし、
θry:基礎の回転による線路直角方向の成分
モード外力Mtyの時刻歴は、式(14)で表される。
【数20】
ただし、
pyは橋脚中心から支承までの線路直角方向の距離であり、荷重の偏心載荷を考慮するものである。
ryは洗掘による線路直角方向の喪失幅であり、橋脚中心から地盤ばねの回転中心までの線路方向の距離の2倍の値である。
ここで、Mtyは式(15)に示すように、Pのスカラー倍という性質を持つ。
【数21】
したがって、式(13)は、式(16)で表すことができる。
【数22】
【0061】
[列車通過時の橋脚天端の応答の試算]
(1)想定する橋脚諸元
橋脚の健全度に依存して変化する列車通過時の橋脚天端の応答例を試算する。本実施形態では、一般的な旧式河川橋りょうの構造諸元を想定し、以下の条件を仮定する。
・橋りょうスパンL=5~40m(=L
・上路式プレートガーダーで単位長さ質量:L/20(t/m/単線)
・合成まくらぎを有する直結軌道で単位長さ質量:0.3(t/m/単線)
・橋脚高さ(フーチング底面から主桁重心)h=5,10m
・直接基礎の線路方向幅B=3m、線路直角方向幅B=5m
・躯体の線路方向幅D=2m、線路直角方向幅D=4m
・躯体のヤング率E=25N/mm
・躯体の単位体積質量ρ=2.5t/m
・支持地盤は砂質土
・健全度指標値:κ=1(B~A1ランク),0.85(A1~A2ランク)
・被害シナリオ:シナリオ1は支持地盤の均一劣化を仮定、シナリオ2は支持地盤の局所劣化を仮定
【0062】
(2)固有振動数の標準値
河川橋脚の維持管理において、従来の衝撃振動試験では、線路直角方向の固有振動モードに着目して、得られた固有振動数fと固有振動数の標準値fとの比であるκに基づいて健全度を評価している。κは基礎維持管理標準で定められる健全度指標値で、A1、A2、B、Sランクの閾値はそれぞれ0.75、0.85、1.00である。また、直接基礎に支持される単線橋脚の固有振動数の標準値fは、式(17)により与えられる。なお、式(17)は、専門技術者が健全と判断した旧式橋脚を対象に実施した362基の衝撃振動試験結果に基づいて、多変量解析から求めたものである。
【数23】
ただし、
は上部工反力(tf)(起点側と終点側の桁重量ならびに軌きょう重量等の平均値)、
は橋脚高さ-土被り(m)(現地の状況に関わらず土被りは1mとしている)
【0063】
洗掘により橋脚の固有振動数が低下する事象が起こった場合の、列車通過時の橋脚天端の変位を試算する。簡易化のため、躯体の変形を無視すると、鉛直方向の変位d、線路直角方向の変位dは、式(4c)、式(11)、式(16)から、それぞれ式(18)、式(19)で表される。
【数24】
【数25】
【0064】
洗掘による被災を考える場合、橋脚底面に設置する地盤が一様に劣化するわけではなく、局所的な地盤の損失や軟化が発生する場合が多い。特に、出水による洗掘の場合には下流側と比較して上流側の方の支持地盤が喪失される傾向にある。洗掘により橋脚の固有振動数が低下する事象が起こった場合の支持地盤の変化において、鉛直地盤ばねの反力係数の低下と局所的な喪失による不均一化を考慮する。すなわち、先述した物理モデルにおいて、Kθyの低下、kの低下、eryの増加により表現する。
【0065】
橋脚の固有振動数がκfまで低下した時の回転ばねの回転剛性をKθy とすると、式(9)から式(20)が得られる。
【数26】
【0066】
回転剛性Kθは、式(7)で示すようにk、ery、h等のパラメータにより決定されるが、パラメータの組み合わせは無数に存在することから、シナリオを仮定して答えの分布、その時の列車通過時応答を探る。
【0067】
ここで、kv0は設計で考慮する鉛直地盤反力係数であり、「鉄道構造物等設計標準・同解説 基礎構造物」では、式(21)により与えられている。
【数27】
ここで、ρgkは地盤反力係数に関する地盤修正係数で、列車通過時であることから1.0、Bはフーチング底面の換算幅で√(B)、Eは地盤の変形係数の設計用値で2000N/γgEとする。Nは標準貫入試験のN値で30、γgEは地盤調査係数で1.4とする。
【0068】
(3)A2,Bランクに対応する列車通過時の橋脚天端の応答
はじめにシナリオ1として、支持地盤の局所的な劣化は発生せずに、地盤内の浸透流により橋脚底面の地盤から細粒分が吸い出され、鉛直地盤反力係数が均一に低下する場合を考える。被害事例を見ても、増水後において大きな傾斜を伴わずに沈下した事例が報告されており(例えば隈上川橋りょう)、このシナリオ1に沿った被災メカニズムではないかと推測される。
【0069】
この場合、ery *1=0を仮定して、この時の鉛直地盤反力係数について解くと、式(7)、式(20)より、式(22)が得られる。
【数28】
【0070】
この時の線路直角方向の変位d *1は、式(16)より0であり、局所的な洗掘は発生していないが、吸出し等により地盤の剛性が均一に低下した場合の鉛直変位d *1は、式(1)により表される。なお、式(1)は、シナリオ1の上記条件における鉛直変位の限界値を求める式の一例である。
【数29】
【0071】
次に、より実際の洗掘の状態に近いと思われるシナリオ2として、全体的な地盤状態はそれほど悪化していないが、強い不均一性が発生する場合、すなわち鉛直地盤反力係数は十分に高い値を保っているが、洗掘により底面縁端から支持地盤が局所的に喪失した場合を考える。このシナリオ2における鉛直地盤反力係数をk *2とすると、許容できる有効幅比ery *2/Bは、式(7)、式(9)から、式(23)で表現される。
【数30】
【0072】
したがって、局所的な洗掘により固有振動数が低下した場合の鉛直変位d *2、線路直角方向変位d *2は、式(11)、式(16)、式(20)、式(23)から、式(2)で表される。なお、式(2)は、シナリオ2の上記条件における鉛直変位および線路直角方向変位の限界値を求める式の一例である。
【数31】
【0073】
図5および図6に、固有振動数の標準値との比κ=1.0に対応する列車通過時の応答を、図7および図8に、κ=0.85に対応する列車通過時の応答を、それぞれ示す。また、図5図7はh=5m、図6図8はh=10mの場合である。図5図8の(a)は、シナリオ1を仮定した場合のkv *1/kv0、(b)は、シナリオ2としてkv=10kv0を仮定した場合のery *2/B、(c)、(d)は、それぞれシナリオ1、2の場合における橋脚天端の線路直角方向の応答変位dおよび鉛直方向の応答変位dをそれぞれ示している。ここでは、換算線区を想定して列車荷重24kN/m/単線(M-12相当)の等分布荷重を仮定して計算した。
【0074】
図5図8(a)から、シナリオ1を仮定した場合のkv *1/kv0は、各パラメータに依存して、1~10程度の値を示すことがわかる。スパン、橋脚高さが増加するとともに、また、κの増加とともに、kv *1/kv0は増加する傾向にある。旧式河川橋りょうに多い橋脚高さが10mで、スパンが15m程度の場合には、kv *1/kv0=7程度以下の領域でκが1を下回りA2判定となり、k *1/kv0=5程度以下の領域でκが0.85を下回りA1判定となることがわかる。シナリオ1発生時においては、線路直角方向の変位d は0であるが、鉛直変位d は0.05~0.1mm程度の変位が生じることとなる。
【0075】
また、図5図8(b)から、シナリオ2を仮定した場合のery *2/Bは、各パラメータに依存して0.4~0.7程度、平均的には0.6程度の値を示すことがわかる。旧式河川橋りょうに多い橋脚高さが10mで、スパンが15m程度の場合には、ery *2/B=0.5程度以下の領域でκが1を下回りA2判定となり、ery *2/B=0.6程度以下の領域でκが0.85を下回りA1判定となることがわかる。シナリオ2発生時においては、線路直角方向の変位d のほうが、鉛直変位d よりも大きくなる傾向にある。また、橋脚高さやκに依存したd の変化は小さく、0.01~0.3mm程度の値を示すが、d は0.1~0.8mm程度の間で大きく変化することがわかる。
【0076】
諸々の条件でこれらの値は変化するものの、κとfとの関係を読み替え、kv *2の値を徐々に変化させながらκ=0.85および1.0に対応するdとdとの関係を解析した。図9に、健全度評価に用いる列車通過時変位の閾値の目安として、列車荷重20kN/m/単線、橋脚高さh=5m、単純桁のスパンL=13.5mの場合のdとdとの関係を示す。dおよびdは列車通過時の橋脚天端の変位であることから、列車荷重の大きさに比例した結果となる。図9のd=0は支持地盤が均一に劣化した場合で、偏心支持によるdは発生しない。一方で、dが0に近づく領域が、鉛直地盤反力係数が大きい領域となり、鉛直変位は小さくなる。以上より、本実施形態における健全度評価の目安は、式(24)のように表される。
【数32】
【0077】
以上より、本実施形態において、橋脚の健全度を評価するための列車通過時の変位の閾値は、図9の条件における一例として、鉛直方向には0.1mm、水平方向には0.3mm程度が一つの目安となる。したがって、本発明においては、鉛直方向および線路直角方向の天端の変位を合わせて測定する必要があり、また、これらの目安値に対応した精度を有する測定方法が必要である。
【0078】
本実施形態において、測定された応答変位が図9のSまたはBの範囲であれば、その橋脚は健全であると判断することができる。一方、A2の範囲内にある場合には、健全度が低くなっていると判断され、その橋脚について何らかの措置を行うことが必要となり、例えば従来行ってきた衝撃振動試験等により、定量的な評価を実施することが望ましく、その結果に応じて必要な補強等を行う。
【0079】
以上のように、本発明は、列車通過時の応答変位に着目して、測定結果と限界値とを比較して健全度の評価を行うものである。本発明によれば、固有振動数の判定を必要とせず、技術者の主観によらない評価が可能となる。変位の測定方法は任意の方法でよく、例えば画像測定等により容易に測定することが可能であり、さらに加速度モニタリング等による長期の状態監視も可能となる。
【0080】
なお、図9では、20kN/m/単線(M-12相当)の目安値を示していることから、これよりも軽量な編成の場合には右辺の値は小さくなる。また、EA17荷重(EF65等の機関車相当)のように80kN/m/単線程度となる場合には、概ね4倍程度の結果を示すこととなる。貨物車両が走行する線区の場合は、通勤車両よりも軸重と軸配置が橋りょうにとって厳しいものとなることから、この荷重を用いることで測定誤差の低減を図ることができる。また、式(24)で示した閾値は、橋脚高さやスパン等その他の条件に依存して変化する。
【0081】
本発明は、列車通過時の応答変位を用いることを前提とすること、線形理論の成立を仮定することから、洗掘被害発生後等の列車通過が不可能な場合や、地盤が緩んだ状態に対しては適用できない。このような場合には、従来から実施されてきたように、衝撃振動試験やプレロード等を用いた評価を行うことが必要である。
【0082】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0083】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本開示に係る技術は、上記の効果とともに、又は、上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【0084】
なお、以下のような構成も本開示の技術的範囲に属する。
(1)橋りょうの橋脚の健全度を評価する方法であって、
列車通過時において前記橋脚の天端の応答変位を測定する工程と、
前記橋脚の構造諸元に基づいて、健全と判定される変位の限界値を算出する工程と、
応答変位の測定値と前記限界値とを比較し、健全度を判定する工程と、
を有することを特徴とする、橋りょう橋脚の健全度評価方法。
(2)前記測定値と前記限界値はそれぞれ、橋脚天端の鉛直方向の変位と線路直角方向の変位であることを特徴とする、前記(1)に記載の橋りょう橋脚の健全度評価方法。
(3)前記限界値は、
前記橋脚の構造諸元から、前記橋脚の列車非載荷時の鉛直方向および水平方向の固有振動数を求め、
前記橋脚の固有振動数が低下する際の前記橋脚の支持地盤の劣化状況を想定し、当該想定される劣化状況において列車通過時の橋脚天端の鉛直方向の変位と線路直角方向の変位の少なくともいずれかを算出した値であることを特徴とする、前記(1)に記載の橋りょう橋脚の健全度評価方法。
(4)前記橋脚の支持地盤が均一劣化する場合において、
前記限界値は、鉛直方向の応答変位が下記式(1)を満たすd *1であることを特徴とする、前記(1)~(3)のいずれかに記載の橋りょう橋脚の健全度評価方法。
【数33】
ただし、
:列車による外力
:基礎の線路直角方向幅
h:橋脚高さ
:モード質量
κ:健全度指標値
:固有振動数の標準値
EI:躯体の曲げ剛性
(5)前記橋脚の支持地盤が局所劣化する場合において、
前記限界値は、鉛直方向の応答変位が下記式(2)を満たすd *2であり、且つ線路直角方向の応答変位が下記式(2)を満たすd *2であることを特徴とする、前記(1)~(4)のいずれか一項に記載の橋りょう橋脚の健全度評価方法。
【数34】
ただし、
:列車による外力
:基礎の線路直角方向幅
:基礎の線路方向幅
:基礎底面の鉛直ばねの地盤反力係数
ry:洗掘による線路直角方向の喪失幅
h:橋脚高さ
:モード質量
κ:健全度指標値
:固有振動数の標準値
EI:躯体の曲げ剛性
(6)橋りょうの橋脚の健全度を評価するシステムであって、
列車通過時において前記橋脚の天端の応答変位を測定する変位測定装置と、
前記変位測定装置による測定結果から、橋脚の健全度を判定するデバイスと、を備え、
前記デバイスは、
前記橋脚の構造諸元に基づいて、健全と判定される変位の限界値を算出する限界値導出部と、
前記測定結果と前記限界値とを比較し、健全度を判定する健全度判定部と、
を備えることを特徴とする、橋りょう橋脚の健全度評価システム。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、橋りょうの橋脚基礎の維持管理のための評価方法および評価システムとして有用である。
【符号の説明】
【0086】
1 橋りょう
2 基礎
3 支承
4 桁
5 レール
10 健全度評価システム
20 変位測定装置
30 アンプ
40 AD変換器
50 通信装置
60 デバイス
100 制御部
101 記憶部
102 応答変位データ取得部
103 変位限界値導出部
104 健全度判定部
105 通信部
106 表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9