(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090540
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】吊り込み装置と吊り込み方法
(51)【国際特許分類】
B66C 1/10 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
B66C1/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206514
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】鷺 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】遠山 正恭
(72)【発明者】
【氏名】幸田 聡
【テーマコード(参考)】
3F004
【Fターム(参考)】
3F004EA26
3F004KA01
(57)【要約】
【課題】構造体を安定した姿勢で吊り込むことができ、ワイヤの本数を可及的に低減して、効率的なワイヤ掛けを実現できる、吊り込み装置と吊り込み方法を提供する。
【解決手段】揚重機12により構造体50を吊り込んで移動させる際に適用される、吊り込み装置100であり、複数の第1係止具35と、複数の第2係止具37とを備えている吊り天秤30と、揚重機12から垂下されたフック15と、複数の第1係止具35とを繋ぐ複数の第1ワイヤ20と、構造体50に取り付けられている複数の第3係止具55と、複数の第2係止具37と複数の第3係止具55に対して交互にジグザグ状に係止される第2ワイヤ40と、吊り天秤30と構造体50の少なくとも一方に設けられて、第2ワイヤ40の2つの端部が固定される複数の固定部39とを有し、第2ワイヤ40の2つの端部が、吊り天秤30と構造体50の少なくとも一方にあるそれぞれの固定部39に固定される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
揚重機により構造体を吊り込んで移動させる際に適用される、吊り込み装置であって、
複数の第1係止具と、複数の第2係止具とを備えている、吊り天秤と、
前記揚重機から垂下されたフックと、前記複数の第1係止具とを繋ぐ、複数の第1ワイヤと、
前記構造体に取り付けられている、複数の第3係止具と、
前記複数の第2係止具と前記複数の第3係止具に対して、交互にジグザグ状に係止される、第2ワイヤと、
前記吊り天秤と前記構造体の少なくとも一方に設けられて、前記第2ワイヤの2つの端部が固定される、複数の固定部とを有し、
前記第2ワイヤの2つの端部が、前記吊り天秤と前記構造体の少なくとも一方にあるそれぞれの前記固定部に固定されることを特徴とする、吊り込み装置。
【請求項2】
前記第2ワイヤの線形は、
(1)前記第2係止具と前記第3係止具に対して交互に連続的に係止される形態、
(2)前記第2係止具と前記第3係止具に対して交互に連続的に係止される箇所の他に、複数の異なる該第2係止具に対して連続的に係止される箇所、もしくは、複数の異なる該第3係止具に対して連続的に係止される箇所の少なくとも一方を有し、平面視において前記第2ワイヤが交差しないように、一方の前記固定部から他方の前記固定部にかけて、複数の該第2係止具と複数の該第3係止具のそれぞれに対して順番に係止される形態、
のいずれか一種であることを特徴とする、請求項1に記載の吊り込み装置。
【請求項3】
前記吊り天秤が、前記構造体の平面視における外郭線形と同一もしくは略同一の線形を備えている枠桟と、該枠桟の複数箇所を繋ぐ補強桟とを有し、
前記複数の第1係止具と前記複数の第2係止具が、前記枠桟の長手方向に間隔を置いて設けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の吊り込み装置。
【請求項4】
前記第2係止具と前記第3係止具は、ローラシャックル、もしくはシャックルとローラシャックルの第1係合ユニットであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の吊り込み装置。
【請求項5】
前記固定部には、複数のシャックルが相互に係合してなる第2係合ユニットが設けられ、該第2係合ユニットが、前記第2ワイヤの長さ不足を調整する、長さ調整手段を形成していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の吊り込み装置。
【請求項6】
前記構造体が、堰柱の周囲に配設される仮締め切り体を形成する、複数の箱体の積層体であり、
最下段の前記箱体の側壁の外周面と内周面に、前記複数の第3係止具が取り付けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の吊り込み装置。
【請求項7】
揚重機により構造体を吊り込んで移動させる、吊り込み方法であって、
複数の第1係止具と、複数の第2係止具とを備えている、吊り天秤を用意し、
前記揚重機から垂下されたフックと、前記複数の第1係止具とを複数の第1ワイヤで繋ぎ、
前記複数の第2係止具と、前記構造体に取り付けられている複数の第3係止具に対して、第2ワイヤを交互にジグザグ状に係止させ、前記吊り天秤と前記構造体の少なくとも一方にある複数の固定部に対して、前記第2ワイヤの2つの端部を固定する、吊り込み準備工程と、
前記揚重機により前記構造体を吊り込んで移動させる、吊り込み移動工程とを有することを特徴とする、吊り込み方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊り込み装置と吊り込み方法に関する。
【背景技術】
【0002】
比較的平面規模が大きく、重量の大きな構造体をクレーン等の揚重機にて吊り上げ、吊り回して吊り下ろす場合や、起重機船の備える揚重設備にて岸壁等にある構造体を吊り上げて吊り下ろす場合等においては、構造体を安定的にバランスさせながら吊り上げや吊り下ろしといった吊り込みを行うことが重要である。
また、比較的平面規模の大きな構造体の吊り込みであることから、一般には多数本のワイヤが必要になり、ワイヤ掛けに手間と時間を要することから、構造体を吊り込むワイヤの本数を可及的に低減して、効率的なワイヤ掛けを実現できる吊り込み装置や吊り込み方法が望まれる。
【0003】
ここで、特許文献1には、平坦な作業ヤード上に配置した土台に下端を嵌合して立設する複数本の吊込支柱および地組支柱と、吊込支柱を吊り込むための吊枠とを備え、吊込支柱と地組支柱には、鉤状の支持金具を最下段の高さをそろえ、高さ方向に鉄筋ユニットの配筋間隔と同じ間隔を隔てて並設し、吊込支柱の支持金具を並設した側の下端に切り欠きを形成する、鉄筋地組装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の鉄筋地組装置では、吊枠から垂下された複数の吊りワイヤの各下端が鉄筋ユニットに直接取り付けられて鉄筋ユニットを吊り上げることから、鉄筋ユニットの平面規模が大きくなるにつれて吊りワイヤの本数も自ずと多くなることから、上記するように、ワイヤの本数を可及的に低減して効率的なワイヤ掛けを実現することは難しい。
【0006】
本発明は、比較的平面規模が大きく、重量の大きな構造体の吊り込みに際して、構造体を安定した姿勢で吊り込むことができ、ワイヤの本数を可及的に低減して、効率的なワイヤ掛けを実現できる、吊り込み装置と吊り込み方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明による吊り込み装置の一態様は、
揚重機により構造体を吊り込んで移動させる際に適用される、吊り込み装置であって、
複数の第1係止具と、複数の第2係止具とを備えている、吊り天秤と、
前記揚重機から垂下されたフックと、前記複数の第1係止具とを繋ぐ、複数の第1ワイヤと、
前記構造体に取り付けられている、複数の第3係止具と、
前記複数の第2係止具と前記複数の第3係止具に対して、交互にジグザグ状に係止される、第2ワイヤと、
前記吊り天秤と前記構造体の少なくとも一方に設けられて、前記第2ワイヤの2つの端部が固定される、複数の固定部とを有し、
前記第2ワイヤの2つの端部が、前記吊り天秤と前記構造体の少なくとも一方にあるそれぞれの前記固定部に固定されることを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、揚重機から垂下されたフックに対して複数の第1ワイヤにて繋がれる吊り天秤を備え、吊り天秤と構造体の備えるそれぞれの係止具に対して第2ワイヤを交互にジグザグ状に係止することにより、吊り天秤にて構造体を安定した姿勢で吊り込むことができ、第2ワイヤの本数を可及的に低減できることで効率的なワイヤ掛けを実現できる。
ここで、揚重機は、クレーンの他、起重機船の備える揚重設備(起重機)も含まれる。
また、第1ワイヤは、その両端がフックと第1係止具に係止されることの他に、第1ワイヤが複数の第1係止具に挿通されて、その両端がフックに係止される形態であってもよく、後者のワイヤ掛けによれば、第1ワイヤの本数も低減することが可能になる。
また、吊り天秤には様々な形態があり、一例として、直線状の形態や枠状の形態、平面状の形態、ドーム状の形態等を挙げることができる。
吊り天秤においては、例えばその上面に複数の第1係止具が設けられ、その下面に複数の第2係止具が設けられていることで、第1ワイヤと第2ワイヤが相互に錯綜しないことから好ましい。
【0009】
また、「第2ワイヤが複数の第2係止具と複数の第3係止具に対して、交互にジグザグ状に係止される」とは、吊り天秤に設けられている複数の第2係止具と構造体に設けられている複数の第3係止具に対して、第2ワイヤが交互に連続的に係止される形態や、例えば、第2ワイヤが複数の第2係止具に連続的に係止された後に第3係止具に係止される形態、複数の第3係止具に連続的に係止された後に第2係止具に係止される形態等を含んでいる。
【0010】
ここで、第2ワイヤは、例えば1本であってもよいし、複数本であってもよい。前者の形態では、1本の第2ワイヤが、全ての第2係止具と第3係止具に交互に連続的に係止される。また、後者の形態でも、例えば第2係止具と第3係止具が多数ある場合に、まとまりのあるエリアごとに分けて、各エリアにある複数の第2係止具と複数の第3係止具に対して1本の第2ワイヤが係止されることにより、第2ワイヤの本数は格段に低減される。
【0011】
また、「第2ワイヤの2つの端部が固定される、複数の固定部が吊り天秤と構造体の少なくとも一方に設けられる」とは、1本の第2ワイヤは2つの端部を有することから、この2つの端部が固定される2つの固定部が、いずれも吊り天秤に設けられている形態、いずれも構造体に設けられている形態の他に、一方の固定部が吊り天秤に設けられ、他方の固定部が構造体に設けられている形態を含んでいる。また、2本以上の第2ワイヤが適用される場合に、全ての第2ワイヤの端部の数は4以上になることから、「複数の固定部」には、2つの固定部、4つの固定部、6つの固定部といった具合に、偶数個の固定部が含まれる。
【0012】
さらに、構造体が箱体である場合は、第3係止具が箱体の側壁の内周面と外周面の双方に設けられていて、第2ワイヤが箱体の内周面と外周面の双方の第3係止具に係止されることにより、箱体をより一層安定した姿勢で吊り込むことができて好ましい。
【0013】
また、本発明による吊り込み装置の他の態様において、
前記第2ワイヤの線形は、
(1)前記第2係止具と前記第3係止具に対して交互に連続的に係止される形態、
(2)前記第2係止具と前記第3係止具に対して交互に連続的に係止される箇所の他に、複数の異なる該第2係止具に対して連続的に係止される箇所、もしくは、複数の異なる該第3係止具に対して連続的に係止される箇所の少なくとも一方を有し、平面視において前記第2ワイヤが交差しないように、一方の前記固定部から他方の前記固定部にかけて、複数の該第2係止具と複数の該第3係止具のそれぞれに対して順番に係止される形態、
のいずれか一種であることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、第2ワイヤの線形が、第2係止具と第3係止具に対して交互に連続的に係止される形態の他に、平面視において第2ワイヤが交差しないように、一方の固定部から他方の固定部にかけて、複数の第2係止具に対して連続的に係止される箇所、もしくは複数の第3係止具に対して連続的に係止される箇所のいずれか一方もしくは双方をさらに備えている形態を有することにより、複数の係止具に係止される第2ワイヤが途中で交錯して絡まることが防止される。
例えば、後者の形態では、1本の第2ワイヤが係止される複数の第2係止具と複数の第3係止具のそれぞれに対して、第2ワイヤが係止される順番に番号が付され、番号順に第2ワイヤが係止されるのがよい。
【0015】
また、本発明による吊り込み装置の他の態様において、
前記吊り天秤が、前記構造体の平面視における外郭線形と同一もしくは略同一の線形を備えている枠桟と、該枠桟の複数箇所を繋ぐ補強桟とを有し、
前記複数の第1係止具と前記複数の第2係止具が、前記枠桟の長手方向に間隔を置いて設けられていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、吊り天秤が、構造体の平面視における外郭線形と同一もしくは略同一の線形を備えた枠桟を有し、複数の第2係止具が枠桟の長手方向に間隔を置いて設けられていることにより、第2係止具と第3係止具に係止される第2ワイヤを、鉛直方向や鉛直方向から若干傾斜した略鉛直方向に延びた状態として構造体を吊ることができるため、第2ワイヤに作用する張力の過度な水平成分の発生を抑制することができ、構造体を安定姿勢にて吊り込むことが可能になる。また、枠桟が複数の補強桟にて補強されることにより、吊り天秤の剛性を高めることができ、軸状の枠桟であっても重量のある構造体を安定的に吊り込むことが可能になる。
ここで、「構造体の平面視における外郭線形と略同一の線形」とは、構造体の平面視の外郭線形に対して、枠桟の線形が僅かに異なるものの、全体としてはほぼ同様の線形であることを意味している。
また、吊り天秤を形成する枠桟と補強桟は、例えばH形鋼等の形鋼材の他、鋼管や角鋼管等により形成される。
【0017】
また、本発明による吊り込み装置の他の態様において、
前記第2係止具と前記第3係止具は、ローラシャックル、もしくはシャックルとローラシャックルの第1係合ユニットであることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、第2係止具と第3係止具として、ローラシャックルや、シャックルとローラシャックルの第1係合ユニットが適用されることにより、ローラシャックルを介して第2ワイヤをスライド(移動)自在に係止することができる。ここで、吊り天秤には複数の鋼製の吊り輪が例えば溶接接合され、各吊り輪に対してローラシャックルや第1係合ユニットを形成するシャックルが係合される。すなわち、第2係止具や第3係止具は、より詳細には、吊り天秤や構造体に直接接合されている吊り輪と、吊り輪に係合されるローラシャックルや第1係合ユニットを含んでいる。
【0019】
ここで、第1係止具は、例えば、吊り天秤に溶接接合される吊り輪と、吊り輪に係合されるシャックルを含んでいる。また、吊り天秤もしくは構造体に設けられる固定部も、吊り天秤等に溶接接合される吊り輪と、吊り輪に係合されるシャックルを含んでいる。
【0020】
また、本発明による吊り込み装置の他の態様において、
前記固定部には、複数のシャックルが相互に係合してなる第2係合ユニットが設けられ、第2係合ユニットが、前記第2ワイヤの長さ不足を調整する、長さ調整手段を形成していることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、複数のシャックルからなる第2係合ユニットが固定部に設けられて、第2ワイヤの長さ不足を調整する長さ調整手段を形成していることにより、第2ワイヤの長さが不足する場合でも、必要数のシャックルを相互に係合させることで容易に第2ワイヤの長さ不足を解消することができる。
【0022】
また、本発明による吊り込み装置の他の態様において、
前記構造体が、堰柱の周囲に配設される仮締め切り体を形成する、複数の箱体の積層体であり、
最下段の前記箱体の側壁の外周面と内周面に、前記複数の第3係止具が取り付けられていることを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、構造体が堰柱の周囲に配設される仮締め切り体を形成する、複数の箱体の積層体であり、最下段の箱体の側壁の外周面と内周面に複数の第3係止具が取り付けられていることにより、複数の箱体の積層体を安定した姿勢で吊り上げることができる。ここで、「堰柱の周囲に配設される仮締め切り体」とは、ダムや水門、樋門等を含む、堰を構成する堰柱の補修工事や改修工事において、堰柱の周囲に複数の箱体の積層体を設置し、堰柱を包囲する仮締切り体を形成した後に、堰柱と仮締切り体の間にドライ区間を形成し、ドライ空間を利用して堰柱の補修工事等を行うための仮設構造体である。
【0024】
より詳細には、箱体は、最下段の箱体と、最下段の箱体の上に搭載される、1段もしくは複数段の中段の箱体と、中段の箱体の上に搭載される最上段の箱体とを有し、少なくともいずれか1つの箱体が、中空部と注排水管と注排水バルブと給排気管と給排気バルブと圧力空気供給部とを備えている形態を一例として挙げることができる。このように、積層体が複数の箱体によって形成されていることにより、例えば積層体の規模が大きい場合に、工場から各箱体を接続ヤードに陸上搬送等する際の搬送性が良好になり、接続ヤードにおける箱体の吊り下ろしの際に利用する揚重機の大型化を抑制でき、吊り下ろし性や積層体の製作性も良好になって好ましい。さらに、製作された積層体を本態様の吊り込み装置にて吊り上げる際の、吊り上げ性や吊り回し性も良好になって好ましい。
【0025】
また、本発明による吊り込み方法の一態様は、
揚重機により構造体を吊り込んで移動させる、吊り込み方法であって、
複数の第1係止具と、複数の第2係止具とを備えている、吊り天秤を用意し、
前記揚重機から垂下されたフックと、前記複数の第1係止具とを複数の第1ワイヤで繋ぎ、
前記複数の第2係止具と、前記構造体に取り付けられている複数の第3係止具に対して、第2ワイヤを交互にジグザグ状に係止させ、前記吊り天秤と前記構造体の少なくとも一方にある複数の固定部に対して、前記第2ワイヤの2つの端部を固定する、吊り込み準備工程と、
前記揚重機により前記構造体を吊り込んで移動させる、吊り込み移動工程とを有することを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、本発明の吊り込み装置を適用して構造体を吊り込むことにより、構造体を安定した姿勢で吊り込むことができ、第2ワイヤの本数を可及的に低減できることで効率的なワイヤ掛けを実現できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の吊り込み装置と吊り込み方法によれば、比較的平面規模が大きく、重量の大きな構造体の吊り込みに際して、構造体を安定した姿勢で吊り込むことができ、ワイヤの本数を可及的に低減して、効率的なワイヤ掛けを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施形態に係る吊り込み装置を形成する吊り天秤を、複数の第1ワイヤが起重機船の揚重設備から垂下されたフックに繋いでいる状態を示す斜視図である。
【
図2】吊り天秤における複数の第1係止具の位置と、揚重設備から垂下されるフックと各第1係止具とを繋ぐ複数の第1ワイヤを示す模式図である。
【
図3】吊り天秤の上面に接合されている吊り輪にシャックルが係合され、シャックルに第1ワイヤの端部が係合してなる、第1係止具の一例を示す斜視図である。
【
図4】複数の第2ワイヤが取り付けられている吊り天秤が、複数の第1ワイヤを介して揚重設備にて吊り上げられている状態を示す斜視図である。
【
図5A】第2係止具と第3係止具の一例を示す斜視図である。
【
図5B】長さ調整手段を有する固定部の一例を示す斜視図である。
【
図6】実施形態に係る吊り込み装置の一例が構造体を吊り下げ、揚重設備にて吊り回されている状態を示す斜視図である。
【
図7】吊り天秤における複数の第2係止具の位置と、構造体における複数の第3係止具の位置と、複数の第2ワイヤが第2係止具と第3係止具に対して交互にジグザグ状に係止されている状態を示す模式図である。
【
図8】起重機船の揚重設備にて構造体が起重機船に吊り下ろされている状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、実施形態に係る吊り込み装置と吊り込み方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0030】
[実施形態に係る吊り込み装置と吊り込み方法]
図1乃至
図8を参照して、実施形態に係る吊り込み装置と吊り込み方法の一例について説明する。
ここで、
図1は、実施形態に係る吊り込み装置を形成する吊り天秤を、複数の第1ワイヤが起重機船の揚重設備から垂下されたフックに繋いでいる状態を示す斜視図であり、
図2は、吊り天秤における複数の第1係止具の位置と、揚重設備から垂下されるフックと各第1係止具とを繋ぐ複数の第1ワイヤを示す模式図である。また、
図3は、吊り天秤の上面に接合されている吊り輪にシャックルが係合され、シャックルに第1ワイヤの端部が係合してなる、第1係止具の一例を示す斜視図であり、
図4は、複数の第2ワイヤが取り付けられている吊り天秤が、複数の第1ワイヤを介して揚重設備にて吊り上げられている状態を示す斜視図である。また、
図5Aは、第2係止具と第3係止具の一例を示す斜視図であり、
図5Bは、長さ調整手段を有する固定部の一例を示す斜視図である。また、
図6は、実施形態に係る吊り込み装置の一例が構造体を吊り下げ、揚重設備にて吊り回されている状態を示す斜視図であり、
図7は、吊り天秤における複数の第2係止具の位置と、構造体における複数の第3係止具の位置と、複数の第2ワイヤが第2係止具と第3係止具に対して交互にジグザグ状に係止されている状態を示す模式図である。さらに、
図8は、起重機船の揚重設備にて構造体が起重機船に吊り下ろされている状態を示す斜視図である。
【0031】
図示例は、ドックDの岸壁Gにおいて、複数(図示例は3つ)の箱体51,52,53が組み立てられた積層体からなる構造体50を吊り上げ、岸壁Gの側方に広がる水域Wに停泊している起重機船10に積み込む(吊り下ろす)状況を取り上げて説明する。
【0032】
起重機船10は、揚重設備12(揚重機の一例)を備えており、岸壁Gに載置されている構造体50を吊り込み装置100(
図6参照)を用いて吊り上げ、起重機船10に吊り下ろして積載するものであり、本明細書では、構造体の吊り上げと吊り下し、さらには吊り上げた状態での吊り回しを含めて、「吊り込み」と称する。
【0033】
ここで、最上段の箱体51、中段の箱体52、及び最下段の箱体53の積層体50は、不図示の堰柱の周囲に配設される仮締め切り体を形成する構造体であり、比較的平面規模が大きく、重量の大きな構造体である。
【0034】
堰柱は、ダムや水門、樋門等を含む、堰の構成要素であり、この堰柱の補修工事や改修工事において、堰柱の周囲に複数の積層体50を設置して堰柱を包囲する仮締切り体を形成した後に、堰柱と仮締切り体の間にドライ区間を形成し、ドライ空間を利用して堰柱の補修工事等を行うための仮設構造体である。尚、吊り込み装置100にて吊り込まれる構造体には、図示例の箱体の積層体50の他にも、様々な形態が含まれる。
【0035】
図1に示すように、揚重設備12から垂下されるフック15と、岸壁Gに載置されている吊り天秤30の備える複数の第1係止具35とが、複数の第1ワイヤ20にて繋がれる。
【0036】
図2に示すように、吊り天秤30は、矩形枠状の枠桟31と、枠桟31の中央の長手方向に沿って配設される長手補強桟32(補強桟の一例)と、枠桟31の短手方向に沿って配設される複数(図示例は2本)の短手補強桟33(補強桟の他の例)と、さらに、枠桟31と長手補強桟32と短手補強桟33によって形成された複数の小矩形枠の対角線に配設される水平ブレース34(補強桟のさらに他の例)とを備えており、各部材が相互に溶接接合やボルト接合によって接合されている。
【0037】
枠桟31と長手補強桟32と短手補強桟33はいずれもH形鋼により形成され、水平ブレース34は山形鋼により形成されているが、各部材が鋼管や角鋼管、溝形鋼等の他の形鋼材によって形成されてもよい。
【0038】
図2において、吊り天秤30の下方には、吊り込み対象の積層体50の平面視形状を示している。吊り天秤30の枠桟31は、積層体50の平面視における外郭線形Lと略同一の線形を備えている。すなわち、積層体50の平面視形状が、矩形の各隅角部がテーパー状に切り欠かれている形状であるのに対して、枠桟31は平面視矩形であるものの、全体としては積層体50の平面視形状とほぼ同一である。ここで、平面視形状が略同一であることには、平面視寸法が略同一であることも含まれる。
【0039】
吊り天秤30における各部材の交点部にそれぞれ、第1ワイヤ20の一端が係止される第1係止具35が設けられている。
図3に示すように、第1係止具35の枠桟31の上面31aには、鋼製の吊り輪35aが溶接接合されており、この吊り輪35aにシャックル35bが係合されることにより、第1係止具35が形成される。
【0040】
図4に示すように、吊り天秤30の下面には、複数の第2係止具37が設けられており、複数の第2係止具37に対して、1本の第2ワイヤ40が交互にジグザグ状に係止されている。
【0041】
図5Aに示すように、第2係止具37は、枠桟31の下面31bに溶接接合されている鋼製の吊り輪37aと、吊り輪35aに係止されているシャックル37bと、シャックル37bに係止されているローラシャックル37cとを有し、シャックル37bとローラシャックル37cは第1係合ユニット37dを形成する。
【0042】
尚、以下で説明する積層体50を形成する最下段の箱体53の側壁50aの外周面50bと内周面50cにも、第2係止具37と同様の構成の第3係止具55が設けられている。具体的には、外周面50bと内周面50cに対して鋼製の吊り輪55aが溶接接合されており、この吊り輪55aにシャックル55bが係合され、シャックル55bにローラシャックル55cが係合されて第3係止具55が形成されており、シャックル55bとローラシャックル55cが第1係合ユニット55dを形成する。
【0043】
図4に戻り、吊り天秤30の備える複数の第2係止具37がローラシャックル37cを備えていることで、各ローラシャックル37cを介して1本の第2ワイヤ40が移動自在に係止される。
【0044】
そして、
図5Aに示すように、ローラシャックル37cのローラ37eに第2ワイヤ40が挿通されることで、第2ワイヤ40に荷重がかかった状態で、各第2係止具37における荷重のバランスをとるべく、ローラ37eがX1方向に回転し、各第2係止具37と箱体50にある各第3係止具との間にジグザグ状に係止される第2ワイヤ40の長さが自然に調整される、自己長さ調整機能が発揮される。
【0045】
図4に示すように、複数の第2係止具37に係止されている第2ワイヤ40の垂れ下がり下端には、第3係止具55を形成するローラシャックル55cが挿通されている。積層体50を構成する最下段の箱体53の側壁50aの外周面50bと内周面50cには、第3係止具55を形成する吊り輪55aが溶接接合され、吊り輪55aにはシャックル55bが係合されている。
【0046】
吊り天秤30が揚重設備12によって吊られ、吊り回されることによって、岸壁Gに載置されている積層体50に対して位置合わせされる。そして、対応するシャックル55bに対して第2ワイヤ40に挿通されているローラシャックル55cを係合することにより、最下段の箱体53の側壁50aの外周面50bと内周面50cにおいて、複数の第3係止具55が形成されることになる。また、このように、第2ワイヤ40に予めローラシャックル55cを挿通しておき、吊り天秤30と積層体50の位置合わせの後にシャックル55bにローラシャックル55cを係合する方法により、積層体50の吊り込み準備段階での作業性が極めて良好になる。
【0047】
図示例の吊り天秤30には、計3本の第2ワイヤ40が係止されており、各第2ワイヤ40の両端部は、吊り天秤30の下面に設けられている2箇所の固定部39に固定される。ここで、各第2ワイヤ40の両端を固定する2つの固定部は、いずれも構造体50に設けられてもよいし、一方の固定部が吊り天秤30に設けられ、他方の固定部が構造体50に設けられてもよい。
【0048】
図5Bに示すように、固定部39は、枠桟31の下面31bに溶接接合されている鋼製の吊り輪39aと、吊り輪39aに係合される1つもしくは複数(図示例は3つ)のシャックル39cにより形成される。
【0049】
ここで、図示例の固定部39には、3つのシャックル39cが交互に係合されて第2係合ユニット39bを形成している。この第2係合ユニット39bは、第2ワイヤ40の長さが短すぎる場合の長さ調整手段である。従って、第2ワイヤ40の両端の2つの固定部39に関し、一方の固定部39は1つのシャックル39cのみを備える形態であってよく、他方の固定部39は図示例のように第2係合ユニット39bを備える形態が適用される。ここで、第2ワイヤ40の長さの不足程度に応じて、2つもしくは4つ以上のシャックル39cが適用される場合もある。
【0050】
3本の第2ワイヤ40の各垂れ下がり下端に挿通されているローラシャックル55cを、対応するシャックル55bに係合して複数の第3係止具55を形成することにより、積層体50の吊り上げ準備が完了する(以上、吊り込み方法における、吊り込み準備工程)。
【0051】
図6に示すように、揚重設備12のブームを持ち上げることにより、複数の第1ワイヤ20にて垂下されている吊り天秤30を介し、複数の第2係止具37と複数の第3係止具55に対して交互にジグザグ状に係止される複数(図示例は3本)の第2ワイヤ40を介して、積層体50が吊り上げられる。ここで、
図6には、複数の第1係止具35と複数の第2係止具37を備えている吊り天秤30と、揚重設備12から垂下されたフック15と複数の第1係止具35とを繋ぐ複数の第1ワイヤ20と、構造体50に取り付けられている複数の第3係止具55と、複数の第2係止具37と複数の第3係止具55に対して交互にジグザグ状に係止される第2ワイヤ40とを有する、吊り込み装置100が示されている。
【0052】
図7には、3本の第2ワイヤ40A,40B,40Cのジグザグ状の張設態様と、それぞれの両端を固定する固定部39の位置を示している。
【0053】
最下段の箱体53の側壁50aでは、外周面50bにおける第3係止具55よりも、内周面50cにおける第3係止具55の箇所数が多く設定されているが、側壁50aの外周面50bと内周面50cの双方を第2ワイヤ40にて吊り込むことにより、箱体53の安定した吊り込みが実現され、安定的な積層体50の吊り込みに繋がる。
【0054】
図7において、吊り天秤30に付記している数字や、積層体50に付記している数字は、小さい方から順に、共通する第2ワイヤ40の係止される順番となっている。
【0055】
1つ目の第2ワイヤ40Aでは、その両端の固定部39A,39Bに番号1'、18'が付記され、吊り天秤30に設けられている複数の第2係止具37に対して番号2'~17'が付記され、積層体50に設けられている複数の第3係止具55に対して番号1~14が付記されている。
【0056】
図7からも明らかなように、平面視において、第2ワイヤ40Aが交差しないように、一方の固定部39Aから他方の固定部39Bにかけて、複数の第2係止具37と複数の第3係止具55のそれぞれに対して第2ワイヤ40が順番に係止されるように、各番号(係止順序)が設定されている。
【0057】
具体的には、第2ワイヤ40が第2係止具37と第3係止具55に対して交互に連続的に係止される箇所がある他に、第2ワイヤ40が複数の異なる第2係止具37に対して連続的に係止される箇所があることにより、複数の第2係止具37と第3係止具55に係止される第2ワイヤ40が途中で交錯して絡まることが防止される。
【0058】
2つ目の第2ワイヤ40Bでは、その両端の固定部39C,39Dに番号19'、38'が付記され、吊り天秤30に設けられている複数の第2係止具37に対して番号20'~37'が付記され、積層体50に設けられている複数の第3係止具55に対して番号15~26が付記されている。さらに、3つ目の第2ワイヤ40Cでは、その両端の固定部39E,39Fに番号39'、56'が付記され、吊り天秤30に設けられている複数の第2係止具37に対して番号40'~55'が付記され、積層体50に設けられている複数の第3係止具55に対して番号27~40が付記されている。
【0059】
第2ワイヤ40B,40Cも第2ワイヤ40Aと同様に、平面視において各第2ワイヤ40が交差しないように、一方の固定部39から他方の固定部39にかけて、複数の第2係止具37と複数の第3係止具55のそれぞれに対して順番に係止される。
【0060】
ここで、図示例は3本の第2ワイヤ40を備えている形態であるが、2本や4本以上の第2ワイヤ40を備えている形態の他、1本の第2ワイヤ40のみを備えている形態であってもよい。
【0061】
吊り込み装置100を介して積層体50を揚重設備12により吊り上げた後、
図8に示すように、揚重設備12を回動させて吊り込み装置100とともに積層体50を起重機船10のデッキ上に吊り回し、さらに吊り下ろすことにより、起重機船10への積層体50の移載が完了する(以上、吊り込み方法における、吊り込み移動工程)。
【0062】
吊り込み装置100と、この吊り込み装置100を用いた吊り込み方法によれば、揚重機12から垂下されたフック15に対して複数の第1ワイヤ20にて繋がれる吊り天秤30を利用し、吊り天秤30と構造体50の備えるそれぞれの係止具(第2係止具37と第3係止具55)に対して第2ワイヤ40を交互にジグザグ状に係止することにより、比較的平面規模が大きく、重量の大きな構造体50を吊り天秤30にて安定した姿勢で吊り込むことができ、第2ワイヤ40の本数を可及的に低減できることで効率的なワイヤ掛けを実現できる。
【0063】
また、多点式の吊り込み方式により、構造体50において吊られる箇所が1箇所や少ない箇所である場合に集中荷重が作用し、この集中荷重に抗し得る構造体としたり、補強対策を講じることにより、結果として構造体の重量が重くなり、吊り荷重が大きくなる等の課題が生じることはない。
【0064】
また、第2係止具37と第3係止具55がいずれもローラシャックル37c、55cを備え、各ローラシャックル37c、55cに第2ワイヤ40が挿通されていること、さらには、平面視において、第2ワイヤ40が交差しないように、一方の固定部39から他方の固定部39にかけて、複数の第2係止具37と複数の第3係止具55のそれぞれに対して第2ワイヤ40が順番に係止されていることにより、各第2係止具37と箱体50にある各第3係止具との間にジグザグ状に係止される第2ワイヤ40の長さが自然に調整されるとともに、第2ワイヤ40が途中で交錯して絡まることが防止される。
【0065】
さらに、構造体50が複数の箱体51,52,53の積層体である場合に、第3係止具55を最下段の箱体53に設けることにより、第3係止具55が例えば最上段の箱体51に設けられる場合と比べて、構造体50を吊り上げた際に箱体51,52,53のそれぞれの接続部に作用する荷重を低減することができるため、当該接続部におけるボルトの本数低減に繋がる。尚、第3係止具55を最上段の箱体51に設ける場合は、構造体50の重心位置よりも吊り位置が高くなることから、より安定的な吊り込みを実現できる。
【0066】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0067】
10:起重機船
12:揚重機(揚重設備)
15:フック
20:第1ワイヤ
30:吊り天秤
31:枠桟
31a:上面
31b:下面
32:長手補強桟(補強桟)
33:短手補強桟(補強桟)
34:水平ブレース(補強桟)
35:第1係止具
35a:吊り輪
35b:シャックル
37:第2係止具
37a:吊り輪
37b:シャックル
37c:ローラシャックル
37d:第1係合ユニット
37e:ローラ
39,39A~39F:固定部
39a:吊り輪
39b:第2係合ユニット(長さ調整手段)
39c:シャックル
40,40A,40B,40C:第2ワイヤ
50:積層体(構造体)
50a:側壁
50b:外周面
50c:内周面
51:最上段の箱体(箱体)
52:中段の箱体(箱体)
53:最下段の箱体(箱体)
55:第3係止具
55a:吊り輪
55b:シャックル
55c:ローラシャックル
55d:第1係合ユニット
100:吊り込み装置
L:外郭線形
W:水域
D:ドック
G:岸壁