(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090543
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】地山補強構造と地山補強方法
(51)【国際特許分類】
E21D 20/00 20060101AFI20240627BHJP
E21D 9/04 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
E21D20/00 N
E21D9/04 A
E21D20/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206517
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大村 洋史
(72)【発明者】
【氏名】門脇 欣一郎
(72)【発明者】
【氏名】井本 厚
(72)【発明者】
【氏名】間野 真至
(72)【発明者】
【氏名】瀧 穂高
(72)【発明者】
【氏名】小野 航
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AB07
2D054AC20
2D054FA02
2D054FA07
(57)【要約】
【課題】薬液の補強体の内部への逆流を防止でき、薬液注入の際の圧力管理を不要にでき、工費の高騰と施工時間が長くなることを抑制しながら、ボアホールからの固結材の漏洩を防止することのできる、地山補強構造と地山補強方法を提供する。
【解決手段】地山補強構造100において、補強体30には、内部の中空34と外周面35とを連通する連通孔36がその基端33側に設けられ、先端側には中空34がボアホール20に通じる開口37が設けられ、連通孔36を包囲するメッシュシート40とメッシュシート40を包囲するパッカー50が補強体30に装着されており、メッシュシート40は、液状の固結材70の通過を許容し、通過した液状の固結材70が発泡してなるポリマーセルの通過を許容しない開き目を備え、パッカー50は、発泡した固結材70によって膨張され、ボアホール20入り口22側において隙間25を閉塞している。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山において水平方向よりも上方に向かって形成されているボアホールに対して、軸状で管状の補強体がその先端を該ボアホールの奥側に配設され、その基端を該ボアホールの入り口側に配設されるようにして挿入され、該補強体と該ボアホールとの間の隙間に対して該補強体の内部から固結材が注入及び発泡され、該補強体と該固結材とにより前記地山を補強する、地山補強構造であって、
前記補強体のうち、前記基端側には、該補強体の内部の中空と外周面とを連通する連通孔が設けられ、さらに、該連通孔よりも前記先端側には、該中空が前記ボアホールに通じる開口が設けられており、
前記補強体には、前記連通孔を包囲するメッシュシートが装着され、該メッシュシートを包囲するパッカーがさらに装着されており、
前記メッシュシートは、液状の前記固結材の通過を許容し、通過した液状の該固結材が発泡してなるポリマーセルの通過を許容しない開き目を備え、
前記パッカーは、発泡した前記固結材によって膨張され、前記入り口側において前記隙間を閉塞していることを特徴とする、地山補強構造。
【請求項2】
前記パッカーは、空気の通過を許容し、前記ポリマーセルの通過を許容しない開き目を備えていることを特徴とする、請求項1に記載の地山補強構造。
【請求項3】
前記パッカーが基布により形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の地山補強構造。
【請求項4】
液状の前記固結材が、発泡性の2液混合材であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の地山補強構造。
【請求項5】
地山において水平方向よりも上方に向かって形成されているボアホールに対して、軸状で管状の補強体を、その先端が該ボアホールの奥側に配設され、その基端が該ボアホールの入り口側に配設されるようにして挿入し、該補強体と該ボアホールとの間の隙間に対して該補強体の内部から固結材を注入及び発泡させ、該補強体と該固結材とにより前記地山を補強する、地山補強方法であって、
前記補強体のうち、前記基端側には、該補強体の内部の中空と外周面とを連通する連通孔が設けられ、さらに、該連通孔よりも前記先端側には、該中空が前記ボアホールに通じる開口が設けられており、該補強体には、該連通孔を包囲するメッシュシートが装着され、該メッシュシートを包囲するパッカーがさらに装着され、該メッシュシートは、液状の前記固結材の通過を許容し、通過した液状の該固結材が発泡してなるポリマーセルの通過を許容しない開き目を備えており、
前記連通孔を介し、前記メッシュシートを介して、液状の前記固結材を注入し、該固結材を発泡させて該パッカーを膨張させ、前記入り口側において前記隙間を閉塞する、閉塞工程と、
前記開口を介して前記隙間に対して液状の前記固結材を注入し、発泡させて、前記補強体と該固結材とにより前記地山を補強する、補強工程とを有することを特徴とする、地山補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山補強構造と地山補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルの切羽面から斜め前方地山に対して、例えば5m程度以下の長さのロックボルトやパイプ等の補強体を打設し、セメントミルク、ウレタン、シリカレジン等の薬液を圧力注入することにより、前方地山の変形に対する拘束力を高め、トンネル天端の安定性を高める工法である、注入式のフォアポーリング工法が地山補強方法(補助工法)として適用される場合がある。
この地山補強方法は特に、亀裂の発達した岩盤やルーズな砂質地盤等に適している。尚、補強体の長さが5m程度以下のものを一般に「フォアポーリング」と称し、補強体の長さが5m程度以上の場合は「ファアパイリング」と称されるが、以下、本明細書ではまとめて、「フォアポーリング」もしくは「フォアポーリング工法」と称する。
【0003】
フォアポーリング工法では、トンネル内から地山に形成したボアホール内に例えば中空構造のロックボルトからなる補強体を挿入し、補強体からボアホール内に薬液等の固結材を注入するが、この固結材の注入の際に、補強体の外周面とボアホールとの間の隙間から固結材が逆流してトンネル内に漏れ出さないように、ボアホールの入り口側(口元近傍)を、コーキングチューブとウエスによって間詰めする施工が一般に行われる。
しかしながら、上記する間詰め施工においては、コーキングが不十分である部分が少なからず存在することから、固結材の注入圧力が高い場合や、固結材が発泡して硬化する過程において、コーキングが不十分な部分から液状の固結材が漏洩してしまうことが往々にして生じ得る。
そこで、このような固結材の漏洩対策として、ボアホールに補強体を挿入してから、入り口側に急結性のモルタルを吹付ける方法や、補強体にパッカーを取り付けて専用の固結材を充填し、パッカーを膨張させて隙間を閉塞する方法などが確立されてきているが、コーキングに専用の固結材や注入ポンプなどが必要となり、これらを要因として地山補強施工における工費の高騰と施工時間が長くなるといった新たな課題が生じ得る。
この施工時間が長くなるといった課題は、施工安全性の低下に直結する。例えば、トンネルの肌落ち災害は、依然としてトンネル施工における大きな課題の一つであるが、上記する地山補強のための補助工法を必要とする地山では、この肌落ち災害のリスクが一層高くなる。このように、トンネル施工における施工安全性の観点からも、施工時間が長くなることは大きな解決課題となる。
以上のことから、工費の高騰と施工時間が長くなることを抑制しながら、ボアホールからの固結材の漏洩を防止できる、地山補強構造と地山補強方法が望まれる。
【0004】
ここで、特許文献1には、注入式ロックボルトを用いた、地山の補強工事の施工方法が提案されている。まず、適用される注入式ロックボルトは、外周面にねじ山が形成されているとともに、地山補強用の薬液が流通可能に管状に形成された鋼製のロックボルト本体と、ロックボルト本体の外周部に装着されるパッカーと、ロックボルト本体の先端部に取着され、所定の圧力で開放される本体バルブとを備えている。
ロックボルト本体のパッカーが装着されている部位には、ロックボルト本体の内側空間と外側空間とを連通する連通孔が形成され、パッカーは、ロックボルト本体内に薬液を流通させる際は、連通孔から流出する薬液により膨張可能とされている。この連通孔には、本体バルブが開放される圧力よりも低い圧力で開放される連通孔バルブが取着されている。
そして、この注入式ロックボルトを用いた地山の補強工事の施工方法は、地山に注入式ロックボルトの外径よりも大きな内径の穿孔(ボアホールに相当)を形成する工程と、穿孔に注入式ロックボルトを挿入する工程と、ロックボルト本体の基端部から薬液を注入してパッカーを膨張させ、パッカーの外周面を穿孔の内壁に定着させる工程と、ロックボルト本体の基端部から薬液を更に注入して本体バルブを開放し、薬液を穿孔内に放出する工程とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の注入式ロックボルトやこれを用いた地山の補強工事の施工方法では、パッカーに薬液を注入する際に、パッカーが膨張するまでの過程で注入された薬液がロックボルト内に逆流する恐れがあるが、特許文献1においてこの薬液の逆流を解決する手段の開示はない。
また、本体バルブが開放される圧力よりも低い圧力で開放される連通孔バルブを介して、ロックボルトからパッカーへ薬液を注入し、パッカーが膨張されてロックボルトとボアホールとの間が閉塞された後に、本体バルブが開放される圧力にて薬液が注入されることから、薬液注入の際の圧力管理が容易でなく、上記するように施工時間が長くなることの抑制には繋がり難い。
【0007】
本発明は、地山に形成されているボアホールに挿入された補強体の内部から、ボアホールと補強体の間の隙間に固結材が注入及び発泡されることによって地山を補強する方法において、薬液の補強体の内部への逆流を防止でき、薬液注入の際の圧力管理を不要にでき、工費の高騰と施工時間が長くなることを抑制しながら、ボアホールからの固結材の漏洩を防止することのできる、地山補強構造と地山補強方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明による地山補強構造の一態様は、
地山において水平方向よりも上方に向かって形成されているボアホールに対して、軸状で管状の補強体がその先端を該ボアホールの奥側に配設され、その基端を該ボアホールの入り口側に配設されるようにして挿入され、該補強体と該ボアホールとの間の隙間に対して該補強体の内部から固結材が注入及び発泡され、該補強体と該固結材とにより前記地山を補強する、地山補強構造であって、
前記補強体のうち、前記基端側には、該補強体の内部の中空と外周面とを連通する連通孔が設けられ、さらに、該連通孔よりも前記先端側には、該中空が前記ボアホールに通じる開口が設けられており、
前記補強体には、前記連通孔を包囲するメッシュシートが装着され、該メッシュシートを包囲するパッカーがさらに装着されており、
前記メッシュシートは、液状の前記固結材の通過を許容し、通過した液状の該固結材が発泡してなるポリマーセルの通過を許容しない開き目を備え、
前記パッカーは、発泡した前記固結材によって膨張され、前記入り口側において前記隙間を閉塞していることを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、ボアホールに挿入される補強体のうち、その基端側には補強体の内部の中空と外周面とを連通する連通孔が設けられ、連通孔よりも先端側には中空がボアホールに通じる開口が設けられ、連通孔を包囲するメッシュシートが補強体に装着され、メッシュシートを包囲するパッカーがさらに補強体に装着されていて、メッシュシートは、液状の固結材の通過を許容し、通過した液状の固結材が発泡してなるポリマーセルの通過を許容しない開き目を備え、パッカーは、発泡した固結材によって膨張され、ボアホールの入り口側において隙間を閉塞することにより、メッシュシートによって、液状の固結材の通過を許容し、通過した液状の固結材が発泡してなるポリマーセルの通過、すなわち補強体内への逆流を防止することができる。
また、パッカーが、発泡した固結材によって膨張されて、入り口側において補強体とボアホールの間の隙間を閉塞することにより、固結材の注入の際の圧力管理を不要にでき、さらには、パッカーを膨張させるコーキング材料と隙間への注入材料が同種の固結材で、単一の注入工程の下でコーキング作業(入り口を閉塞する作業)とボアホール内への注入作業を連続的に行えることによって、工費の高騰と施工時間が長くなることを抑制しながら、ボアホールからの固結材の漏洩を防止することができる。そして、この施工時間の短縮は、施工安全性にも繋がる。尚、ボアホールの入り口を速やかに閉塞する観点から、補強体における連通孔の設置位置は、基端側の中でも基端近傍の位置が好ましい。
さらに、固結材が発泡してパッカーを膨張させること、すなわち、固結材の発泡圧によってパッカーを膨張させることから、例えば、特許文献1に記載の注入式ロックボルトのように、注入圧でパッカーが膨張してパッカー内が5MPa以上の高圧になり得る恐れはない。
【0010】
ここで、「補強体」には、中空を有するロックボルトやパイプ等を適用できる。この補強体が備える連通孔の周囲にあるパッカーにより、補強体の基端側から注入された固結材は連通孔を介して補強体とパッカーの内部に注入され、速やかに発泡して補強体とボアホールの間の隙間が閉塞される。すなわち、補強体において、連通孔よりも先端側にあって中空がボアホールに通じる開口を介して隙間に固結材が注入され、発泡することに先行して、ボアホールの入り口側におけるパッカーによる隙間の閉塞が実行される。そのため、ボアホールが「地山において水平方向よりも上方に向かって形成されている」ことにより、重力によって液状の固結材が下方へ下がり易い本態様においても、上記する固結材の漏洩防止が確実に実行されることになる。
【0011】
また、「ボアホールに通じる開口」とは、中空の補強体の例えば先端に設けられている開口が一例であるが、その他、補強体の側面において、メッシュシートにて包囲されている基端側の連通孔以外の連通孔がさらに設けられている場合は、この連通孔も開口の一例となる。
【0012】
また、メッシュシートには、例えばステンレス等の金属製のメッシュシートが適用できる。さらに、メッシュシートの「開き目」とは、メッシュシートを構成する糸(網)と糸の間の距離を意味している。
【0013】
また、本発明による地山補強構造の他の態様において、
前記パッカーは、空気の通過を許容し、前記ポリマーセルの通過を許容しない開き目を備えていることを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、パッカーが、空気の通過を許容し、ポリマーセルの通過を許容しない開き目を備えていることにより、パッカーからエア抜きを図りながら、パッカー内で固結材を効果的に発泡させ、生成されたポリマーセルによってパッカー内を充満させて、膨張したパッカーによる隙間閉塞性の高い地山補強構造を形成することができる。
【0015】
また、本発明による地山補強構造の他の態様において、
前記パッカーが基布により形成されていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、パッカーが基布によって形成されていることにより、例えばゴム素材等に比べてボアホールの凹凸壁面への追随性が良好になり、膨張したパッカーによる隙間の閉塞性が高められる。
ここで、「基布」とは、織布や不織布等の布であり、ゴム製と異なり、通気性を有している。このことにより、上記するように空気の通過を許容し、膨張したパッカー内にエア残りが生じることを効果的に抑制できる。
【0017】
また、本発明による地山補強構造の他の態様において、
液状の前記固結材が、発泡性の2液混合材であることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、液状の固結材が発泡性の2液混合材であることにより、例えば、セメント系の定着材を注入する場合のように、圧力コントロールが難しく、どの程度パッカーが膨張しているかが不明であるといった問題は生じ難い。すなわち、パッカーをどの程度膨張させることができるかが明確であることから、隙間の大きさに応じてパッカーの大きさを設定することにより、所望する隙間の閉塞度となるようなパッカーの膨張量を予測することができて好ましい。
【0019】
また、本発明による地山補強方法の一態様は、
地山において水平方向よりも上方に向かって形成されているボアホールに対して、軸状で管状の補強体を、その先端が該ボアホールの奥側に配設され、その基端が該ボアホールの入り口側に配設されるようにして挿入し、該補強体と該ボアホールとの間の隙間に対して該補強体の内部から固結材を注入及び発泡させ、該補強体と該固結材とにより前記地山を補強する、地山補強方法であって、
前記補強体のうち、前記基端側には、該補強体の内部の中空と外周面とを連通する連通孔が設けられ、さらに、該連通孔よりも前記先端側には、該中空が前記ボアホールに通じる開口が設けられており、該補強体には、該連通孔を包囲するメッシュシートが装着され、該メッシュシートを包囲するパッカーがさらに装着され、該メッシュシートは、液状の前記固結材の通過を許容し、通過した液状の該固結材が発泡してなるポリマーセルの通過を許容しない開き目を備えており、
前記連通孔を介し、前記メッシュシートを介して、液状の前記固結材を注入し、該固結材を発泡させて該パッカーを膨張させ、前記入り口側において前記隙間を閉塞する、閉塞工程と、
前記開口を介して前記隙間に対して液状の前記固結材を注入し、発泡させて、前記補強体と該固結材とにより前記地山を補強する、補強工程とを有することを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、ボアホールに挿入される補強体のうち、その基端側には補強体の内部の中空と外周面とを連通する連通孔が設けられ、連通孔よりも先端側には中空がボアホールに通じる開口が設けられ、連通孔を包囲するメッシュシートが補強体に装着され、メッシュシートを包囲するパッカーがさらに補強体に装着されていて、メッシュシートは、液状の固結材の通過を許容し、通過した液状の固結材が発泡してなるポリマーセルの通過を許容しない開き目を備え、パッカーを、発泡した固結材によって膨張させて、ボアホールの入り口側において隙間を閉塞することにより、メッシュシートによって、液状の固結材の通過を許容し、通過した液状の固結材が発泡してなるポリマーセルの通過、すなわち補強体内への逆流を防止することができる。
さらに、パッカーを、発泡した固結材によって膨張させて、入り口側において補強体とボアホールの間の隙間を閉塞することにより、固結材の注入の際の圧力管理を不要にできることで、工費の高騰と施工時間が長くなることを抑制しながら、ボアホールからの固結材の漏洩を防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の地山補強構造と地山補強方法によれば、地山に形成されているボアホールに挿入された補強体の内部から、ボアホールと補強体の間の隙間に固結材が注入及び発泡されることによって地山を補強する方法において、薬液の補強体の内部への逆流を防止でき、薬液注入の際の圧力管理を不要にでき、工費の高騰と施工時間が長くなることを抑制しながら、ボアホールからの固結材の漏洩を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態に係る地山補強構造が適用されている山岳トンネルの一例の縦断面図である。
【
図3】実施形態に係る地山補強方法の一例の工程図である。
【
図5】
図3に続いて、実施形態に係る地山補強方法の一例の工程図である。
【
図6】
図5に続いて、実施形態に係る地山補強方法の一例の工程図であって、かつ実施形態に係る地山補強構造の一例の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施形態に係る地山補強構造と地山補強方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0024】
[実施形態に係る地山補強構造と地山補強方法]
はじめに、
図1乃至
図6を参照して、実施形態に係る地山補強構造と地山補強方法の一例について説明する。
ここで、
図1は、実施形態に係る地山補強構造が適用されている山岳トンネルの一例の縦断面図であり、
図2は、
図1のII-II矢視図である。また、
図3,
図5,及び
図6は順に、実施形態に係る地山補強方法の一例の工程図であり、
図6はさらに、実施形態に係る地山補強構造の一例の縦断面図である。
【0025】
図示する山岳トンネル10は、地山Gを不図示のドリルジャンボ等の掘削機にて装薬孔を削孔し、爆薬を装薬して爆破することにより造成される他、自由断面掘削機やブレーカを使用した機械掘削(図示せず)により造成される。
【0026】
発破等により造成された坑壁に対して、H形鋼等からなる鋼製支保工12(鋼製アーチ支保工)の建て込みと、鋼製支保工12を巻き込むようにして1次吹付けコンクリート11が施工される。
【0027】
次に、補助工法として、
図1に示すようにロックボルト16が地山G内に打設される。このロックボルト16は必要に応じて施工されるものであるが、例えば2m乃至6m程度の棒状鋼材(異形棒鋼等)からなり、地山Gの坑内側へ向かう変形に起因する引張力をボルトに負担させ、坑壁の変形を抑制するものである。
【0028】
さらに、図示例の山岳トンネル10では、トンネルの上半において、別途の補助工法である、注入式のフォアポーリング工法による地山補強構造100が施工される。この地山補強構造100に関しては以下で詳説する。
【0029】
ロックボルト16の施工やフォアポーリング工法による地山補強構造100の施工の後、図示例では、2次吹付けコンクリート13が施工され、さらに覆工コンクリート14が施工されるとともに、インバート15が施工されることにより、山岳トンネル10が形成される。ここで、例えば1次吹付けコンクリート11と2次吹付けコンクリート13の間には、必要に応じて不織布等の緩衝層が施工され、防水シート等が敷設されてもよい。
【0030】
地山補強構造100は、
図2に示すように、地山Gにおいて水平方向よりも上方に向かって所定の角度θにて形成されているボアホール20に対して、軸状で管状の補強体30の芯材31がその先端32をボアホール20の奥21側に配設され、芯材31の基端33をボアホール20の入り口22側に配設されるようにして挿入され、補強体30とボアホール20との間の隙間25に対して芯材31の内部から固結材70が注入及び発泡されることにより形成されている。
【0031】
以下、
図3乃至
図6を参照して、地山補強方法を説明しながら、この地山補強方法によって形成される地山補強構造100をより詳細に説明する。
【0032】
まず、地山Gに対するボアホール20の造成は、芯材31の挿入に先行して、地山を削孔することにより行う。
【0033】
図3に示す例では、ボアホール20を先行削孔した後、補強体30を構成する芯材31をボアホール20の内部に挿入する。ここで、芯材31の材質としては、鋼製の他、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)やガラス繊維強化プラスチック(Glass:Fiber Reinforced Plastics)等が挙げられる。尚、図示を省略するが、先行削孔したボアホール20に孔崩れがある場合でも芯材31を円滑に挿入できるように、芯材31の先端に、芯材31と同様に鋼製や炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック等からなる先端コーンを装着しておいてもよい。
【0034】
芯材31には、内部の中空34と外周面35とを連通する連通孔36がその基端33側に設けられており、芯材31の先端32には、中空34がボアホール20に通じる先端開口37(開口の一例)が設けられている。ここで、上記するように先端開口37に先端コーンが装着される場合は、先端コーンの側面において、中空34とボアホール20を連通する側面孔が設けられる。
【0035】
芯材31の外周面35には、連通孔36を包囲するメッシュシート40が装着されており、メッシュシート40を包囲するパッカー50がさらに装着されている。
【0036】
ここで、メッシュシート40は、液状の固結材の通過を許容し、通過した液状の固結材が発泡してなるポリマーセルの通過を許容しない開き目を備えている。一方、パッカー50は、空気の通過を許容し、ポリマーセルの通過を許容しない開き目を備えている。
【0037】
例えば、3m程度の長さの芯材31のうち、基端33から1m乃至1.5m程度の位置に、1つもしくは複数の連通孔36(φ8mm程度)が設けられ、幅50mm乃至80mm程度のメッシュシート40が、
図4に示すように連通孔36を包囲するようにして芯材31の周囲に巻かれ、ビニールテープ61によって芯材31に固定される。
【0038】
メッシュシート40は、例えばステンレス製のシートであり、線径は0.1mm乃至0.4mm程度の範囲で、メッシュ(1インチ内のマスの数)が10乃至80程度であり、開き目(線材と線材の間の距離)が0.1mm乃至0.9mm程度のものを使用できる。尚、以下のメッシュシートの性能確認実験にて説明するように、適用される薬液に応じて、液状の固結材の通過を許容し、通過した液状の固結材が発泡してなるポリマーセルの通過を許容しない開き目を有するシートが選定されることになる。メッシュシート40の一例として、線径:0.16mm、開き目:0.26mm、メッシュ:♯60等を適用できる。
【0039】
一方、パッカー50は基布により形成され、基布の中でも高密度基布の適用が好ましい。パッカー50の素材の一例としては、原糸:Ny66、繊度:470dtex、フィラメント:72f、密度(タテ):51本/インチ(JIS L 1096)、密度(ヨコ):51本/インチ(JIS L 1096)、厚み:0.32mm(JIS L 1096)、重量:194g/m2(JIS L 1096)等の高密度基布が挙げられる。
【0040】
図3に示すように、芯材31の外周面35のうち、例えば幅(芯材31の軸方向の長さ)が600mm程度のパッカー50の取り付け位置にブチルテープ63を貼り、その上にパッカー50の端部を接触させ、その外側をビニールテープ64で固定することにより、芯材31の外周面35にパッカー50が装着される。
【0041】
液状の固結材70は、連通孔36を介し、メッシュシート40を通過してパッカー50の内部に注入されるとともに、先端開口37を介して補強体30とボアホール20の間の隙間25に注入される。この固結材70は、地山改良に適用される通常の注入剤(シリカレジン)でよい。このシリカレジンの一例として、主成分であるA液(珪酸ソーダ)とB液(ポリイソシアネート)の配合比率(容積比)がA液:B液=1:1(±0.1)、自由発泡倍率が7±3倍、圧縮強度が2.5±0.5N/mm2(4倍発泡時)、曲げ強度が2.0±0.5N/mm2(4倍発泡時)、ライズタイム(発泡終了時間)が60±15秒(25℃)等の材料を適用できる。尚、2液が混合されてから発泡が開始するまでの時間をクリームタイム、薬液の硬化開始時間をゲルタイムと称する。
【0042】
ボアホール20に補強体30を挿入した後、
図5に示すように、芯材31の基端33に装着されている注入バルブ39を介して、芯材31の中空34に液状の固結材70をX1方向に注入すると、中空34内に注入された固結材70は、まず、連通孔36を介し、メッシュシート40を通過してパッカー50の内部へX2方向に注入される。
【0043】
パッカー50内に注入された固結材70は、例えば上記する60秒程度のライズタイムで発泡が終了し、発泡により生成されるポリマーセルはメッシュシート40の開き目を通過して芯材31の中空34へY1方向に逆流することが抑制される。
【0044】
また、パッカー50が空気を通過させる布製であることから、注入された固結材70によって内部にあった空気がパッカー50の外側の隙間25へ押し出され、パッカー50の内部にエア溜まりが残るといった問題は生じない。その上で、パッカー50は固結材70が発泡してなるポリマーセルの通過を許容しない開き目を備えていることから、発泡した固結材70によって膨張し、ボアホール20の入り口側において隙間25を閉塞する。
【0045】
さらに、ボアホール20の壁面には多数の凹凸23が存在し得るが、パッカー50が布製(基布)であることから、凹凸23に追随して壁面に密着することができ、高い閉塞性の下でボアホール20の入り口側の隙間25を閉塞する。
【0046】
ここで、液状の固結材70のライズタイムが上記する60秒程度である場合は、固結材70がパッカー50の内部から外側の隙間25へしみ出す前に発泡し始めることから、パッカー50内へ注入された殆どの固結材70はパッカー50内で発泡することになる。仮に、一部の固結材70がパッカー50の外側の隙間25へ滲み出した場合でも、パッカー50が膨張して硬化するのが先行することから、このように外側へ滲み出した固結材70がパッカー50の膨張を阻害する恐れはない(以上、閉塞工程)。
【0047】
膨張したパッカー50がボアホール20の入り口側の隙間25を閉塞した後、
図6に示すように、芯材31の中空34内にさらに注入された液状の固結材70は、芯材31の先端32側へ流入し、芯材31の先端開口37を介して、補強体30とボアホール20の間の隙間25に対してX3方向に注入される。
【0048】
隙間25に注入された固結材70は、膨張しているパッカー50よりも奥側の隙間25の全域に行き渡り、発泡してポリマーセルを生成することによって、ボアホール20と補強体30との間を閉塞し、補強体30と発泡した固結材70とによる地山補強構造100を形成して、地山Gを補強する(以上、補強工程)。
【0049】
図示する地山補強方法と、この地山補強方法によって形成された地山補強構造100によれば、芯材31の基端33側に設けられている連通孔36がメッシュシート40にて包囲され、メッシュシート40が布製のパッカー50にて包囲されていて、メッシュシート40が、液状の固結材70の通過を許容し、通過した液状の固結材70が発泡してなるポリマーセルの通過を許容しない開き目を備え、パッカー50が、発泡した固結材70によって膨張され、ボアホール20の入り口22側において隙間25を閉塞することから、液状の固結材70が補強体30の内部へ逆流することを防止しながら、膨張したパッカー50によってボアホール20の入り口側の隙間25を閉塞することができる。その上で、パッカー50を膨張させた固結材70と同種の固結材70にてパッカー50よりも奥側のボアホール20の内部を閉塞する、換言すると単一の注入工程にてコーキング作業と注入作業を連続的に行えることから、工費の高騰と施工時間が長くなることを抑制しながら、ボアホール20からの固結材の漏洩を効果的に防止して、補強効果の高い地山補強構造100を施工することができる。
【0050】
[メッシュシートの性能確認実験]
本発明者等は、メッシュシートが液状の固結材の通過を許容し、発泡後のポリマーセルの通過を許容しない性能を有するか否かを確認することを目的とした、性能確認実験を行った。ここで、使用するメッシュシートはステンレス製であり、その仕様は以下の表1における4つのケースとした。さらに、固結材には、以下の表2に示す素材を適用した。
【0051】
試験方法は、容器に各ケースのメッシュシートを張り、シリカレジンを混合後、20秒から10秒ごとにメッシュシートに注いでいき、シリカレジンの反応時間とメッシュシートの透過性を観察した。以下、表3には、各ケースの観察結果を示し、表4には、メッシュシートの透過性能と逆流防止性に関する実験結果を示す。ここで、表4において、透過性能が良好な場合を「○」とし、透過性能が良好とは言えない場合を「△」とし、透過性能が不良な場合を「×」としている。さらに、逆流防止性が良好な場合を「○」とし、逆流防止性が不良な場合を「×」としている。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
実験の結果、まず、Case4では、メッシュシートの開き目が0.18mmと狭すぎることから、薬液がメッシュシートを通過しないことが確認されている。そのため、表4に示すように、Case4の逆流防止性の評価はできていない。
【0057】
また、Case1、2では、開き目が1.52mm、0.86mmと広すぎることにより、クリーム状態の薬液(ポリマーセル)がメッシュシートを通過してしまい(逆流する)、パッカー内の圧力(拘束力)が弱まることが確認されている。
【0058】
一方、Case3では、開き目が0.26mmのメッシュシートを液状の薬液は通過するものの、クリーム状の薬液(ポリマーセル)は通過し難いことが確認されており、ポリマーセルがメッシュシートを介して補強体の内部へ逆流することを防止できる試験体であることが分かる。
【0059】
本実験結果より、使用する薬液の種類に応じて、液状の薬液の通過を許容し、発泡後のポリマーセルの通過を許容しない開き目のメッシュシートを適用するのがよいと結論づけることができる。
【0060】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0061】
10:山岳トンネル
11:1次吹付けコンクリート
12:鋼製支保工
13:2次吹付けコンクリート
14:覆工コンクリート
15:インバート
16:ロックボルト
20:ボアホール
21:奥
22:入り口
23:凹凸
30:補強体
31:芯材
32:先端
33:基端
34:中空
35:外周面
36:連通孔
37:先端開口(開口)
39:注入バルブ
40:メッシュシート
50:パッカー
61:ビニールテープ
63:ブチルテープ
64:ビニールテープ
70:固結材
100:地山補強構造
G:地山