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特開2024-90553グラフェンを含む複合構造体、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090553
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】グラフェンを含む複合構造体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20240627BHJP
   C01B 32/18 20170101ALI20240627BHJP
   B22F 1/054 20220101ALI20240627BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20240627BHJP
   H01M 4/90 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
B22F1/00 M
C01B32/18
B22F1/054
B22F1/14 600
H01M4/90 M
H01M4/90 X
H01M4/90 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206531
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】522499678
【氏名又は名称】株式会社双日イノベーション・テクノロジー研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】宮越 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】小寺 史浩
(72)【発明者】
【氏名】安食 嘉晴
【テーマコード(参考)】
4G146
4K018
5H018
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AD17
4G146AD35
4G146BA12
4G146BC15
4G146BC42
4G146BC46
4G146CB22
4G146DA03
4G146DA25
4G146DA31
4G146DA44
4K018BA04
4K018BB05
4K018BC28
4K018BD10
5H018BB01
5H018BB16
5H018DD10
5H018EE04
5H018EE06
5H018HH05
(57)【要約】
【課題】 高い触媒活性を有するグラフェンを含む複合構造体、及びその製造方法の提供。
【解決手段】 炭素を固溶するNiナノ粒子の表面に不純物をドープされたグラフェン多層膜を与えたグラフェンを含む複合構造体である。かかる複合構造体は、Niからなるナノ金属粉体、マイクロ波によって加熱される金属炭化物、及び、ゼオライト系触媒を混合した混合物と、不純物を与える不純物源を含みマイクロ波によって加熱されるサセプタと、を隣接して積層させ、マイクロ波を照射しつつ、炭化水素を含む反応ガスを流通させることで製造される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を固溶するNiナノ粒子の表面に不純物をドープされたグラフェン多層膜を与えたことを特徴とするグラフェンを含む複合構造体。
【請求項2】
前記不純物は、シリコン又はホウ素であることを特徴とする請求項1記載のグラフェンを含む複合構造体。
【請求項3】
前記グラフェン多層膜は、内部から表面に向けて前記不純物の濃度を低くする勾配を有することを特徴とする請求項2記載のグラフェンを含む複合構造体。
【請求項4】
前記グラフェン多層膜はエッチングによるエッチング表面を有することを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載のグラフェンを含む複合構造体。
【請求項5】
前記グラフェン多層膜のラマンスペクトルのG/D比が1.30よりも大であることを特徴とする請求項4記載のグラフェンを含む複合構造体。
【請求項6】
炭素を固溶するNiナノ粒子の表面に不純物をドープされたグラフェン多層膜を与えた複合構造体の製造方法であって、
Niからなるナノ金属粉体、マイクロ波によって加熱される金属炭化物、及び、ゼオライト系触媒を混合した混合物と、前記不純物を与える不純物源を含みマイクロ波によって加熱されるサセプタと、を隣接させ、マイクロ波を照射しつつ、炭化水素を含む反応ガスを流通させることを特徴とするグラフェンを含む複合構造体の製造方法。
【請求項7】
前記サセプタは炭化ケイ素からなることを特徴とする請求項6記載のグラフェンを含む複合構造体の製造方法。
【請求項8】
前記反応ガスは硫化水素を含むことを特徴とする請求項7記載のグラフェンを含む複合構造体の製造方法。
【請求項9】
前記サセプタは酸化ホウ素からなることを特徴とする請求項6記載のグラフェンを含む複合構造体の製造方法。
【請求項10】
前記反応ガスの流通を停止後、前記Niナノ粒子の表面の前記グラフェン多層膜の表面をエッチングするエッチング工程を含むことを特徴とする請求項6記載のグラフェンを含む複合構造体の製造方法。
【請求項11】
前記エッチング工程は二酸化炭素による気相化学エッチングによることを特徴とする請求項10記載のグラフェンを含む複合構造体の製造方法。
【請求項12】
前記炭化水素は、メタンであることを特徴とする請求項6乃至11のうちの1つに記載のグラフェンを含む複合構造体の製造方法。
【請求項13】
前記金属炭化物及び前記ゼオライト系触媒は、それぞれモリブデンの炭化物及びNZSM-5であることを特徴とする請求項6乃至11のうちの1つに記載のグラフェンを含む複合構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い触媒活性を有するグラフェンを含む複合構造体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水電解装置や燃料電池、空気二次電池等の電気化学セルでは、電極に触媒が用いられ、一般的には、白金が使用されている。一方、金属資源の枯渇の観点から代替となる触媒が所望され、グラフェンを用いた触媒が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、粒子状のニッケルの表面にグラフェンの多層膜を与えたニッケル-カーボンナノオニオン(Ni-CNO)を用いた水電解用電極の触媒を開示している。かかる触媒をアイオノマーとの混合液としてガス拡散層を構成するカーボンクロス片面に塗布し水電解用電極とすることで、高いエネルギー変換効率を得られ、かつ電極を安価に製造できるとしている。
【0004】
また、特許文献2では、上記したような、Ni-CNOからなる複合構造体をマイクロ波の照射を利用して製造する方法を開示している。それぞれ粒子である炭化ケイ素、ニッケル及びゼオライトを含み触媒として作用する組成物に、マルチモードでのマイクロ波を照射し活性化させた上で、メタンのような炭化水素ガスを接触させ、この炭化水素ガス中に含まれる炭素化合物を基質とする反応を進行させて、組成物中のニッケル表面にグラフェンを担持させるとしている。ここで、グラフェンの生成過程の1つの機構としては、炭化ケイ素がマイクロ波を吸収して自己発熱しニッケルを熱活性させ炭素化合物の熱分解を促進するとともに、芳香環程度の細孔径を有するゼオライトの鋳型構造によってグラフェン骨格をなす炭素構造体の合成が誘導され、ニッケルの炭素成長作用によりグラフェンの6員環炭素構造物の成長が促されるとしている。
【0005】
ここで、非特許文献1では、ナノ材料に広く存在する欠陥が触媒活性を与える局所領域となること、ゼロ次元の点欠陥としてのヘテロ原子(不純物)の添加(ドープ)がこのような触媒活性を与える欠陥となることを述べた上で、ホウ素をドープしたカーボンナノオニオン(CNO)の触媒活性の実験結果について論じている。かかるCNOは、超分散ナノダイヤモンド粒子と非晶質ホウ素とを熱処理して得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-46585号公報
【特許文献2】特開2016-64369号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Grzegorz S. Szymanski, Yuka Suzuki, Tomonori Ohba, Bogdan Sulikowski, Kinga Gora-Marek, Karolina A. Tarach, Stanislaw Koter, Piotr Kowalczyk, Anna Ilnicka, Monika Zieba, Luis Echegoyen, Artur P. Terzyk, and Marta E. Plonska-Brzezinska; ACS Appl. Mater. Interfaces 2021, 13, 51628-51642
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
グラフェンに欠陥を導入することで触媒活性を与え得る。上記したようなNi-CNOでは、Niナノ粒子上に曲率を与えてグラフェンを多層構造に形成することで欠陥が発生し、触媒活性を得られる。しかしながら、その触媒活性は不安定で十分ではない。そこで、不純物をグラフェンへドープし触媒活性をより高め得ることが考慮できる。
【0009】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、高い触媒活性を有するドープされたグラフェンを含む複合構造体、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるグラフェンを含む複合構造体は、炭素を固溶するNiナノ粒子の表面に不純物をドープされたグラフェン多層膜を与えたことを特徴とする。
【0011】
かかる特徴によれば、Ni-CNOにおいて高い触媒活性を得られるのである。
【0012】
上記した発明において、前記不純物は、シリコン又はホウ素であることを特徴としてもよい。また、前記グラフェン多層膜は、内部から表面に向けて前記不純物の濃度を低くする勾配を有することを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、Ni-CNOにおいて安定した高い触媒活性を得られるのである。
【0013】
前記グラフェン多層膜はエッチングによるエッチング表面を有することを特徴としてもよい。また、前記グラフェン多層膜のラマンスペクトルのG/D比が1.30よりも大であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、Ni-CNOのグラフェン多層膜に新生面を与えて、安定した高い触媒活性を得られるのである。
【0014】
また、本発明による製造方法は、炭素を固溶するNiナノ粒子の表面に不純物をドープされたグラフェン多層膜を与えた複合構造体の製造方法であって、Niからなるナノ金属粉体、マイクロ波によって加熱される金属炭化物、及び、ゼオライト系触媒を混合した混合物と、前記不純物を与える不純物源を含みマイクロ波によって加熱されるサセプタと、を隣接させ、マイクロ波を照射しつつ、炭化水素及び二酸化炭素を含む反応ガスを流通させることを特徴とする。
【0015】
かかる特徴によれば、高い触媒活性を有するNi-CNOからなる触媒を安定して得られるのである。
【0016】
上記した発明において、前記サセプタは炭化ケイ素からなることを特徴としてもよい。更に、前記反応ガスは硫化水素を含むことを特徴としてもよい。又は、前記サセプタは酸化ホウ素からなることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、高い触媒活性を有するNi-CNOからなる触媒をより安定して得られるのである。
【0017】
上記した発明において、前記反応ガスの流通を停止後、前記Niナノ粒子の表面の前記グラフェン多層膜の表面をエッチングするエッチング工程を含むことを特徴としてもよい。更に、前記エッチング工程は二酸化炭素による気相化学エッチングによることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、より高い触媒活性を有するNi-CNOからなる触媒を安定して得られるのである。
【0018】
上記した発明において、前記炭化水素は、メタンであることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、高い触媒活性を有するNi-CNOからなる触媒をより安定して得られるのである。
【0019】
上記した発明において、前記金属炭化物及び前記ゼオライト系触媒は、それぞれモリブテンの炭化物及びNZSM-5であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、高い触媒活性を有するNi-CNOからなる触媒をより安定して得られるのである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】Ni-CNOのTEM像である。
図2】反応管内の構成を示す断面図である。
図3】STEM-EDX法によって測定されたグラフェン多層膜のNiナノ粒子表面からの距離とSiの濃度との関係を示すグラフである。
図4】X線光電子分光法によって得た光電子スペクトルである。
図5】COエッチング後のグラフェン多層膜のTEM像である。
図6】COエッチング後のグラフェン多層膜のラマンスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明による1つの実施例としての複合構造体について、図1乃至図6を用いて説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施例による複合構造体1は、炭素を固溶したNiナノ粒子2の表面に不純物をドープされたグラフェン多層膜3を備えるものである。つまり、Niナノ粒子2を中心核としてその周囲に不純物をドープさせたグラフェン多層膜3を殻状に与えたニッケルカーボンナノオニオン(Ni-CNO)構造を有する。不純物としては、例えば、シリコン又はホウ素を好適に用い得る。
【0023】
複合構造体1は、グラフェン多層膜3に曲率を与えることでグラフェン構造に欠陥を生じさせるとともに不純物をドープさせることでグラフェン構造の欠陥をさらに増加させ又は発生させたものである。複合構造体1は、安定した多数の欠陥を有する構造によって、安定して高い触媒活性を得ることができる。
【0024】
図2に示すように、このような複合構造体1の製造方法としては、反応管10を用い得る。反応管10の内部には、触媒層11とサセプター層12とが隣接するように交互に積層される。触媒層11は、Niからなるナノ金属粉体、マイクロ波によって加熱される金属炭化物、及び、ゼオライト系触媒を混合した混合物を含む。また、サセプター層12は、不純物を与える不純物源とマイクロ波によって加熱されるサセプタとを含む。
【0025】
反応管10はその内部のサセプター層12等をマイクロ波によって加熱できるように、例えば、シングルモード又はマルチモード式の0.3~3.0GHzの周波数、典型的には、2.45GHzのマイクロ波反応器の内部に設置される。また、反応管10には、上部から、反応ガスを導入し内部に流通させ、下部から排出させることができる。反応ガスとしては、炭化水素を含むものとする。炭化水素としてはメタンを好適に使用し得る。反応ガスを流通させるため、触媒層11とサセプター層12は、それぞれ反応ガスを流通可能な形状とされる。例えば、それぞれの材料を礫状にしたものを敷き詰めると反応ガスを流通可能な層を比較的簡単に得ることができる。なお、反応ガスは反応管10内部で部分的に対流し拡散するため、必ずしも上方から下方に向けて流通させる必要はなく、例えば、側方から導入させるなど他の流通方向としてもよい。
【0026】
反応管10にマイクロ波を照射してサセプター層12を加熱しつつ、反応ガスを導入すると、不純物源が加熱されて分解されて不純物原子が遊離されるともに、触媒層11によって反応ガス中の炭化水素が分解される。すると、分解されたCが不純物原子を取り込みつつ、ナノ金属粉体の表面にグラフェンの多層膜を形成する。すなわち、熱環境下で核となるNiナノ粒子2に固溶できなかった炭化水素由来の炭素をドーパントである不純物とともに層状に形成させるのである。これによって、グラフェン多層膜3に不純物をドープさせた複合構造体1を得ることができる。
【0027】
なお、マイクロ波の照射による加熱源となるサセプター層12を触媒層11の内部に配置したり、混合させたりするなど、適宜、互いに隣接するように与えてもよい。
【0028】
例えば、不純物としてシリコン(Si)をドープさせて複合構造体1を得た例について詳細を説明する。
【0029】
触媒層11において、ナノ金属粉体としては粒径150nm以下(例えば20~150nm)のNi粉体を用い、金属炭化物としてはモリブデンの炭化物である炭化モリブデンを用いた。ここで、ナノ金属粉体の粒径は次の方法で求めることができる。すなわち、測定対象のナノ金属粉体の粒子を走査透過型電子顕微鏡で観察し、一個の粒子の短径と長径を測定してその平均値を当該一個の粒子の粒径とした。同様にして100個の粒子の粒径を求め、その平均の値をナノ金属粉体の粒径とした。
【0030】
また、ゼオライト系触媒としては、H型ZSM-5(二酸化ケイ素/アルミナの重量比が23)を用いた。サセプター層12において、サセプタには炭化ケイ素(β-SiC)を用いた。炭化ケイ素はドーパントとなる不純物元素であるシリコンを含んでおり、炭化ケイ素がシリコンを供給する不純物源を兼ねる。反応管10としては石英管を使用した。これらのような構成で、触媒層11とサセプター層12を内部に隣接させ積層させた反応管10を、マイクロ波反応器内に設置した。マイクロ波反応器には、マルチモード型マイクロ波発生装置(四国計測工業株式会社製、μ-Reactor-Ex、マグネトロン発信周波数:2.45GHz、最大発信電力:1kW)を用いた。
【0031】
反応ガスとしてメタンを反応管10の上部から導入しつつ、マイクロ波反応器でマイクロ波を反応管10に照射した。これによって、シリコンをドープさせたグラフェン多層膜を有する複合構造体1(以下、Ni-CNO)を得ることができた。
【0032】
なお、得られたNi-CNOは、触媒層11に用いた金属炭化物及びゼオライト系触媒からなる触媒成分と混合された状態となっており、これらから分離され得る。例えば、液-液界面を用いた洗浄と酸洗によって分離可能である。詳細には、蒸留水とトルエンによって液-液界面を形成させた混合液中に触媒成分を伴ったNi-CNOを分散させ、蒸留水を除去する工程を数回繰り返す。そして、トルエンによる油相に取り込まれたNi-CNOをろ過して、蒸留水及びエタノールで洗浄し乾燥させる。更に、湯浴中で加温した30%過酸化水素水に投入し30分間攪拌する。その後、ろ過して蒸留水及びエタノールで洗浄することで、Ni-CNOを触媒成分から分離できる。
【0033】
他方、不純物としてホウ素(B)をドープさせて複合構造体1を得る場合、サセプター層12には固体酸化ホウ素(B)を用い、この酸化ホウ素から不純物であるホウ素を供給させる。反応ガスとしてはメタンを用いるが、二酸化炭素を混合させることが好ましい。二酸化炭素は酸化ホウ素をエッチングすることにより、酸化ホウ素の分解及びホウ素のドープを促す。その他は上記と同様にして、ホウ素をドープさせた複合構造体1を得ることもできる。なお、同様に、不純物としてホウ素を供給するためのサセプタとしては、炭化ホウ素や窒化ホウ素も用い得る。また、反応ガスが炭化水素(好ましくはメタン)と二酸化炭素との両方を含む場合、炭化水素と硫化水素との合計体積に対する二酸化炭素の含有量は、20~80体積%が好ましく、40~60体積%がより好ましい。
【0034】
以下、シリコンをドーパントとして得たNi-CNOについて、さらに詳細に調査した結果について説明する。
【0035】
ここで、図3に示すように、反応ガスとして、メタンと硫化水素をそれぞれ体積比で50%ずつ混合した場合における不純物の濃度を調査した。Ni-CNOのうち、Niナノ粒子2の表面(Ni側)からグラフェン多層膜3(CNO)の表面(CNO側)までの範囲におけるシリコンの量を走査透過型電子顕微鏡内にてエネルギー分散型X線分光分析法(STEM-EDX法)にて測定を行った。同図によると、反応ガス(導入ガス)に硫化水素を含めた場合に、硫化水素を含めなかった場合と比べ、ドープされたシリコンの量が約3倍に増加した。これは、硫化水素で炭化ケイ素をエッチングすることにより、ドーパントであるシリコンの供給量が増加したためである。これにより、シリコンのNi-CNOへのドープを促進させて、結果としてシリコンのドープ量が増加する。つまり、反応ガスとして硫化水素が含まれることも好ましい。なお、反応ガスが炭化水素(好ましくはメタン)と硫化水素との両方を含む場合、炭化水素と硫化水素との合計体積に対する硫化水素の含有量は20~80体積%が好ましく、40~60体積%がより好ましい。
【0036】
なお、同図に示すように、シリコンの濃度は、Niナノ粒子2の表面からグラフェン多層膜3の表面に向けて低くなる傾向にあった。このように、グラフェン多層膜3は、内部から表面に向けて不純物の濃度を低くする勾配を有していてもよい。
【0037】
また、グラフェン多層膜3はエッチングによるエッチング表面を有していることも好ましい。つまり、上記の製造方法にさらにエッチング工程を追加することでエッチング表面を有するNi-CNOを得ることができる。具体的には、シリコンをドープしたNi-CNOを常温の次亜塩素酸水溶液に数十時間程度浸漬する。このようにしてエッチングしたNi-CNOとエッチングしなかったNi-CNOについて、X線光電子分光法によるエネルギー分析を行って、光電子スペクトルを得た。
【0038】
図4に示すように、得られた光電子スペクトルによると、エッチングなしの場合には明確なピークがほとんど観察されなかった一方、エッチングした場合には不純物であるSiに対応する明確なピークが観察された。エッチングによってCNOの新生面が生じ、かかる表面に性状変化が現れたものと考えられる。すなわち、炭素の析出によって規則的に成長して形成されるCNOの表面と、化学的に選択された部位から順に浸食されて形成されるエッチング表面とでは性状が異なり得るのである。結果として、エッチングによって表面のシリコン濃度を高めることができて、安定したより高い触媒活性を得ることができる。また、上記したようにシリコンの濃度はCNOの内部に向けて高くなる傾向にあり、CNOの内部に向けて表面を移動させるようにエッチングすることで新生面のシリコンの濃度を高めることが出来て好ましい。加えて、Niナノ粒子の表面に近づくほどグラフェンの曲率は高くなり、単位面積当たりの欠陥の数も増加する。この点においてもエッチングによって触媒活性を高め得るものと考えられる。
【0039】
なお、エッチング工程は、熱混酸などを用いた公知のウェットエッチング以外にも、ドライエッチングとすることもできる。例えば、二酸化炭素による気相化学エッチングであってもよい。上記したNi-CNOの製造方法において、Ni-CNOの形成後、反応ガスの流通を停止させ、続いて、二酸化炭素を反応管10に流通させてマイクロ波を照射する。すると、ブードア(Boudouard)反応によってCNOが表面からエッチングされる。
【0040】
図5に示すように、二酸化炭素の流通時間によるエッチングの状況を比較した。ここでは、触媒層11の質量が約20g程度であり、二酸化炭素を50mL/minで流通させた。同図(a)のように、流通時間を50分とすると、CNOのグラフェンの層を60~80層残存させ50~100nm程度の層厚さとなり、Niナノ粒子の粒径にもよるが、約100~200nmの粒径を有する球状となった。また、同図(b)のように、流通時間を150分とすると、CNOのグラフェンの層を30~50層残存させ数十nmの層厚さ、かつ、約50~100nmの粒径を有する球状となった。更に、同図(c)のように、流通時間を300分とすると、CNOのグラフェンの層を10~30層残存させ、Niナノ粒子の径に比して薄い10nm程度の層厚さで約20~100nmの粒径を有する球状となった。これにより、加熱して二酸化炭素を流通させることでエッチングを進行させていることが判る。なお、Ni-CNOの粒径は、ナノ金属粉体の粒径と同様の方法で測定できる。
【0041】
図6に示すように、上記した3通りの流通時間におけるCNOのラマンスペクトルを計測し、1,350cm-1近傍の振動モードであるD-bandとグラファイトのラマン活性モードと同種の振動モードとなるG-bandのピーク強度比(G/D比)を算出し導入された欠陥量を評価した。二酸化炭素の流通時間を増加させるとG/D比が大きくなっている。この結果から、ドライエッチングによるエッチング表面も、CNOの表面性状を変化させ得ることが判る。安定した高い触媒活性を得る上では、エッチングによって、CNOのラマンスペクトルにおけるG/D比を1.10よりも大、好ましくは1.30よりも大、より好ましくは1.50よりも大とすることが望まれる。また、G/D比の上限は、特に制限されないが、例えば、2.50以下である。
【0042】
ここまで本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれらの例に限定されるものではない。また、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0043】
1 複合構造体
2 Niナノ粒子
3 グラフェン多層膜
10 反応管
11 触媒層
12 サセプター層

図1
図2
図3
図4
図5
図6