(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090556
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】炭酸感増強剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20240627BHJP
A23L 27/20 20160101ALI20240627BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20240627BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20240627BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/20 D
A23L27/10 C
A23L2/00 B
A23L2/00 T
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206537
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】591011410
【氏名又は名称】小川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】足立 謙次
(72)【発明者】
【氏名】長田 晃典
【テーマコード(参考)】
4B047
4B117
【Fターム(参考)】
4B047LB03
4B047LB08
4B047LB09
4B047LF07
4B047LG05
4B047LG06
4B047LG14
4B047LG37
4B047LP01
4B047LP20
4B117LC14
4B117LG18
4B117LK06
4B117LP01
(57)【要約】
【課題】炭酸刺激飲食品における炭酸感増強方法を提供することである。
【解決手段】スピラントールに加え、エチルプロピオネート、エチルブチレート、エチル2-メチルブチレート、エチルヘキサノエート、イソアミルアセテート、リナリルアセテート、メチルアンスラニレート、イソアミルアルコール、メントール、シトラール、シトロネロール、リモネン、酢酸、プロピオン及び酪酸からなる群より選択される1種又は2種以上の香料成分からなることを特徴とする炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピラントール及び、
エチルプロピオネート、エチルブチレート、エチル2-メチルブチレート、エチルヘキサノエート、イソアミルアセテート、リナリルアセテート、メチルアンスラニレート、イソアミルアルコール、メントール、シトラール、シトロネロール、リモネン、酢酸、プロピオン及び酪酸からなる群より選択される1種又は2種以上の香料成分からなることを特徴とする、炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強剤。
【請求項2】
スピラントール及び、
下記(a)~(c)群から選択される1種以上の香料成分からなる炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強剤。
(a)イソアミルアセテート、メントール、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シトラールから選択される1種以上の香料成分
(b)エチルプロピオネート、エチルブチレート、エチル2-メチルブチレート、リナリルアセテート、リモネンから選択される1種以上の香料成分
(c)イソアミルアルコール、メチルアンスラニレート、エチルヘキサノエート、シトロネロールから選択される1種以上の香料成分
【請求項3】
スピラントール及び、
下記(a)~(c)群から選択される2種以上の香料成分からなり、かつそのうち少なくとも2種の香料成分は下記(a)~(c)群の異なる群から選択されることを特徴とする炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強剤。
(a)イソアミルアセテート、メントール、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シトラールから選択される1種以上の香料成分
(b)エチルプロピオネート、エチルブチレート、エチル2-メチルブチレート、リナリルアセテート、リモネンから選択される1種以上の香料成分
(c)イソアミルアルコール、メチルアンスラニレート、エチルヘキサノエート、シトロネロールから選択される1種以上の香料成分
【請求項4】
請求項1~3に記載の炭酸感増強剤を含有することを特徴とする炭酸感増強用の香料組成物。
【請求項5】
請求項1~3に記載の炭酸感増強剤を含有することを特徴とする炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品。
【請求項6】
請求項4に記載の炭酸感増強用の香料組成物を含有することを特徴とする炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品。
【請求項7】
炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品を製造する工程において、
スピラントール及び、
エチルプロピオネート、エチルブチレート、エチル2-メチルブチレート、エチルヘキサノエート、イソアミルアセテート、リナリルアセテート、メチルアンスラニレート、イソアミルアルコール、メントール、シトラール、シトロネロール、リモネン、酢酸、プロピオン及び酪酸からなる群より選択される1種又は2種以上の香料成分を炭酸感増強剤として添加することを特徴とする炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品の製造方法。
【請求項8】
スピラントール及び、
エチルプロピオネート、エチルブチレート、エチル2-メチルブチレート、エチルヘキサノエート、イソアミルアセテート、リナリルアセテート、メチルアンスラニレート、イソアミルアルコール、メントール、シトラール、シトロネロール、リモネン、酢酸、プロピオン及び酪酸からなる群より選択される1種又は2種以上の香料成分からなることを特徴とする、炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強方法。
【請求項9】
スピラントール及び、
下記(a)~(c)群から選択される1種以上の香料成分を含有し、かつそのうち少なくとも1の香料成分は下記(a)~(c)群の異なる群から選択される香料成分を含有する炭酸刺激飲食品であって、炭酸刺激飲食品中の濃度が(a)成分0.5ppb~100ppm、(b)成分0.5ppb~100ppm、(c)成分0.05ppb~100ppmであることを特徴とする炭酸刺激飲食品。
(a)イソアミルアセテート、メントール、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シトラールから選択される1種以上の香料成分
(b)エチルプロピオネート、エチルブチレート、エチル2-メチルブチレート、リナリルアセテート、リモネンから選択される1種以上の香料成分
(c)イソアミルアルコール、メチルアンスラニレート、エチルヘキサノエート、シトロネロールから選択される1種以上の香料成分
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピラントールに加え、エチルプロピオネート、エチルブチレート、エチル2-メチルブチレート、エチルヘキサノエート、イソアミルアセテート、リナリルアセテート、メチルアンスラニレート、メントール、シトラール、シトロネロール、リモネン、酢酸、プロピオン及び酪酸からなる群より選択される1種又は2種以上の香料成分からなる炭酸刺激飲食品の炭酸感増強剤、炭酸感増強用の香料組成物、炭酸感が増強された飲食品の製造方法、飲食品の炭酸感増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸刺激飲食品を代表とする炭酸飲料は、清涼飲料として長年親しまれてきた飲料であるが、特有の炭酸感を有する点で、果実飲料など他の清涼飲料と大きく異なり、開栓時に生じる炭酸ガスによる爽快で強烈な刺激のあるのど越し、あるいは炭酸ガスとフレーバーが相俟って生み出される清涼感、フレッシュ感を呈する点に特徴がある。
しかし、近年、炭酸飲料は、これまでのサイダーやコーラだけではなく、炭酸水のみ、炭酸水に香料で風味づけをしたフレーバード炭酸飲料やエナジードリンクのようなに幅広い商品群に炭酸飲料市場が拡大した。
【0003】
このように幅広い商品群を有する炭酸飲料において、炭酸飲料を摂取する場面が多岐に渡るようになり、従来の様に炭酸飲料に強い炭酸感だけを求めるだけではなく、多様な炭酸飲料の種類に適した炭酸感の質も求められる。
【0004】
これまでに、微量の添加で炭酸刺激飲食品の炭酸感だけを増強できるような炭酸感増強剤の開発が期待され、これまでにも多くの炭酸感増強剤が提案されている。
【0005】
炭酸感増強剤については、スピラントール又はスピラントールを含有する植物抽出物を有効成分とする炭酸飲料用添加剤(特許文献1)、ロタンドンを有効成分とすることを特徴とする、炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強剤。(特許文献2)、ポリゴジアールを有効成分とする炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強剤(特許文献3)、6,8,10-ウンデカトリエン-2-オン、6,8,10-ウンデカトリエン-3-オン、6,8,10-ウンデカトリエン-4-オン、6,8,10-ウンデカトリエン-3-オール、6,8,10-ウンデカトリエン-4-オール、1,3,5-ウンデカトリエンおよび1,3,5,7-ウンデカテトラエンから選択される1種または2種以上からなる炭酸刺激増強剤(特許文献4)などが提案されている。
【0006】
飲食品については、リモネン、リナロール、ゲラニオールおよびシトラールからなる群より選択される1以上の成分を含む香料と、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含む乳化剤と容器詰め炭酸飲料(特許文献5)、シトラール及び/又はシネオールを含む、炭酸ガスを含有する容器詰めゼリー飲料(特許文献6)などが提案されている。
【0007】
しかしながら、上記の提案では、炭酸感増強剤として辛味成分のみの使用では、炭酸感を増強のために添加量を増やすと、同時に辛味も増強されることにより、炭酸感のみを増強することが難しい。また、炭酸感増強剤は、炭酸感の増強のみを目的とし、多様な炭酸飲料の種類の質(初発性のある炭酸感、ボリュームのある炭酸感、余韻のある炭酸感など)を変化させられないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-166870号公報
【特許文献2】特開2021-94024号公報
【特許文献3】特再公表2020-22179号公報
【特許文献4】特開2015-47148号公報
【特許文献5】特開2017-12016号公報
【特許文献6】特開2021-101649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、炭酸刺激飲食品に不要な香味を与えることなく、炭酸感の増強と共に、炭酸感の質(初発性のある炭酸感、ボリュームのある炭酸感、余韻のある炭酸感など)も改善できる炭酸感増強剤、炭酸感増強用の香料組成物、及び増強方法を提供することである。
【0010】
本技術によれば、炭酸刺激飲食品、例えば、炭酸水、炭酸入り清涼飲料水、様々な香味バリエーションの炭酸入り清涼飲料水、炭酸入りアルコール飲料(チューハイ、ハイボール等)などの炭酸感増強を必要とする炭酸飲料に広く適用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、炭酸刺激飲食品にスピラントールに加え、エチルプロピオネート、エチルブチレート、エチル2-メチルブチレート、エチルヘキサノエート、イソアミルアセテート、リナリルアセテート、メチルアンスラニレート、イソアミルアルコール、メントール、シトラール、シトロネロール、リモネン、酢酸、プロピオン及び酪酸からなる群より選択される1種又は2種以上の香料成分を添加するだけで、不要な香味を与えることなく、炭酸感を増強するだけでなく、炭酸感の質(初発性のある炭酸感、ボリュームのある炭酸感、余韻のある炭酸感など)を改善できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
すなわち本発明は、以下に示すとおりである。
〔1〕スピラントール及び、
エチルプロピオネート、エチルブチレート、エチル2-メチルブチレート、エチルヘキサノエート、イソアミルアセテート、リナリルアセテート、メチルアンスラニレート、メントール、シトラール、シトロネロール、リモネン、酢酸、プロピオン及び酪酸からなる群より選択される1種又は2種以上の香料成分からなることを特徴とする、炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強剤。
〔2〕スピラントール及び、
下記(a)~(c)群から選択される1種以上の香料成分からなる炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強剤。
(a)イソアミルアセテート、メントール、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シトラールから選択される1種以上の香料成分
(b)エチルプロピオネート、エチルブチレート、エチル2-メチルブチレート、リナリルアセテート、リモネンから選択される1種以上の香料成分
(c)イソアミルアルコール、メチルアンスラニレート、エチルヘキサノエート、シトロネロールから選択される1種以上の香料成分
【0013】
〔3〕スピラントール及び、
下記(a)~(c)群から選択される2種以上の香料成分からなり、かつそのうち少なくとも2種の香料成分は下記(a)~(c)群の異なる群から選択されることを特徴とする炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強剤。
(a)イソアミルアセテート、メントール、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シトラールから選択される1種以上の香料成分
(b)エチルプロピオネート、エチルブチレート、エチル2-メチルブチレート、リナリルアセテート、リモネンから選択される1種以上の香料成分
(c)イソアミルアルコール、メチルアンスラニレート、エチルヘキサノエート、シトロネロールから選択される1種以上の香料成分
【0014】
〔4〕請求項1~3に記載の炭酸感増強剤を含有することを特徴とする炭酸感増強用の香料組成物。
〔5〕請求項1~3に記載の炭酸感増強剤を含有することを特徴とする炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品。
〔6〕請求項4に記載の炭酸感増強用の香料組成物を含有することを特徴とする炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品。
【0015】
〔7〕炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品を製造する工程において、
スピラントール及び、
エチルプロピオネート、エチルブチレート、エチル2-メチルブチレート、エチルヘキサノエート、イソアミルアセテート、リナリルアセテート、メチルアンスラニレート、イソアミルアルコール、メントール、シトラール、シトロネロール、リモネン、酢酸、プロピオン及び酪酸からなる群より選択される1種又は2種以上の香料成分を炭酸感増強剤として添加することを特徴とする炭酸感が増強された炭酸刺激飲食品の製造方法。
〔8〕スピラントール及び、
エチルプロピオネート、エチルブチレート、エチル2-メチルブチレート、エチルヘキサノエート、イソアミルアセテート、リナリルアセテート、メチルアンスラニレート、イソアミルアルコール、メントール、シトラール、シトロネロール、リモネン、酢酸、プロピオン及び酪酸からなる群より選択される1種又は2種以上の香料成分からなることを特徴とする、炭酸刺激飲食品用の炭酸感増強方法。
【0016】
〔9〕スピラントール及び、
下記(a)~(c)群から選択される1種以上の香料成分を含有し、かつそのうち少なくとも1の香料成分は下記(a)~(c)群の異なる群から選択される香料成分を含有する炭酸刺激飲食品であって、炭酸刺激飲食品中の濃度が(a)成分0.5ppb~100ppm、(b)成分0.5ppb~100ppm、(c)成分0.05ppb~100ppmであることを特徴とする炭酸刺激飲食品。
(a)イソアミルアセテート、メントール、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シトラールから選択される1種以上の香料成分
(b)エチルプロピオネート、エチルブチレート、エチル2-メチルブチレート、リナリルアセテート、リモネンから選択される1種以上の香料成分
(c)イソアミルアルコール、メチルアンスラニレート、エチルヘキサノエート、シトロネロールから選択される1種以上の香料成分
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、前記の炭酸感増強剤を添加することにより、炭酸刺激飲食品に不要な香味を与えることなく、炭酸感を増強するだけでなく、炭酸感の質(初発性のある炭酸感、ボリュームのある炭酸感、余韻のある炭酸感)を改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明を詳細に記載する。
〔1〕炭酸感増強剤
(1)スピラントール
本発明で用いるスピラントール(Spilanthol、IUPAC名(2E,6Z,8E)-N-Isobutyl-2,6,8-decatrienamide)は、分子式C
14H
23NO、分子量221.34、融点23℃の化合物であり、以下の構造を有する脂肪酸アミドである。
【化1】
【0019】
本発明で使用するスピラントールは、化学的な手法で合成された合成品の他、動植物から抽出されたものでもよい。
本発明ではいずれの方法により得られたスピラントールであっても使用でき、また、本発明の効果が得られる限り、純度が高いものである必要はない。
飲食品の香味に影響を与えない限り、スピラントールを含有する植物の抽出物や精油等を精製することなく使用してもよい。
【0020】
飲食品に使用する場合,安全性の観点からは食経験のある植物から得られる抽出物又は精油を使用することが好ましく、また、供給、価格等の実用性の観点から、スピラントール含量の多いオランダセンニチ(Spilanthes acmella)又はキバナオランダセンニチ(Spilanthes acmella var. oleracea)の抽出物又は精油を使用するのが特に好ましい。
【0021】
スピラントールの抽出法を例示すると、オランダセンニチ又はキバナオランダセンニチの花頭を乾燥・粉砕した後、有機溶媒で抽出してスピラントールを含有する抽出液を得る方法が挙げられる。
抽出に使用する有機溶媒は特に制限はなく、メタノール、エタノール、プロパノール、プロピレングリコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、ジエチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素類を適宜単独で、又は混合して使用することができる。
中でも、アルコール類のような極性有機溶媒が好ましく、安全性の観点から特にエタノールが好ましい。得られた抽出液から溶媒を留去し、スピラントール含有抽出物が得られる。
【0022】
(2)香料成分
本発明で使用する香料成分であるエチルプロピオネート、エチルブチレート、エチル2-メチルブチレート、エチルヘキサノエート、イソアミルアセテート、リナリルアセテート、メチルアンスラニレート、イソアミルアルコール、メントール、シトラール、シトロネロール、リモネン、酢酸、プロピオン及び酪酸は、合成または天然の由来や純度等は関係なく、一般的に市場に流通しているものであればよい。
【0023】
(3)炭酸感増強剤における有効成分の配合割合
炭酸感増強剤において、スピラントールと香料成分の配合割合は以下のとおりである。
スピラントール100質量部に対して、香料成分を0.00001~100質量部、好ましくは香料成分を0.0001~10質量部、より好ましくは香料成分を0.001~1質量部の割合である。
【0024】
本発明の炭酸感増強剤は、上記有効成分を溶媒に溶解させて調製する。
炭酸感増強剤の調製に使用する溶媒は、特に限定されるものではないが、水、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール、グリセリン、プロピレングリコールなどの多価アルコールの他、トリアセチン、トリエチルシトレート、食用油脂、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどを、単独又は混合して使用することができる。
【0025】
本発明の炭酸感増強剤は、添加する対象の飲食品の形態に応じて適宜、剤形を変えて使用することができる。例えば、乳化剤を利用して乳化組成物として、又、賦形剤を利用して粉末として飲食品に添加することができる。
また、本発明の炭酸感増強剤は、飲食品製造における各工程で常法に従い、適宜添加することができる。
【0026】
〔2〕炭酸感増強用の香料組成物
本発明の炭酸感増強剤と各種の飲食品用香料と組み合わせ、炭酸感増強剤を含有する炭酸感増強用香料組成物として、炭酸刺激飲食品に適用することができる。
組み合わせる香料として、例えば、「特許庁公報 周知慣用技術集(香料) 第II部 食品用香料」(平成12(2000)年1月14日発行、日本国特許庁)等に記載された香料原料(精油、エッセンス、コンクリート、アブソリュート、エキストラクト、オレオレジン、レジノイド、回収フレーバー、炭酸ガス抽出精油、合成香料)、各種植物エキス、酸化防止剤等が例示される。
本発明の炭酸感増強用香料組成物は、添加する対象の飲食品の形態に応じて適宜、剤形を変えて使用することができる。例えば、乳化剤を利用して乳化組成物として、又、賦形剤を利用して粉末として飲食品に添加することができる。
【0027】
炭酸感増強用の香料組成物におけるスピラントールの含有量は、0.1ppm~10質量%、好ましくは0.1ppm~5質量%、より好ましくは1ppm~1重量%である。
含有量が1ppm未満では炭酸感増強効果が発揮できず、一方、1質量%を超えると辛味、異味がわずかに感じられ飲食品本来の香味特徴が損なわれる恐れがあるからである。
【0028】
〔3〕炭酸刺激飲食品
炭酸刺激飲食品とは、炭酸特有の刺激を呈する飲食物であれば特に限定は無く、炭酸飲料、炭酸入りアルコール飲料のほか、炭酸刺激性(感)が付与された冷菓、キャンディ、ゼリー、グミ、錠菓、チュイーンガムなどを例示することができる。
非飲料の固形食品の態様では重曹(炭酸水素ナトリウム)と酸味料(クエン酸など)を共存させておき、口腔内で両成分が溶ける際に炭酸ガスが発生することで特有の発泡感を呈する食品(サイダー、ラムネ風の錠菓子など)、内部の空洞に炭酸ガスを封入したキャンディなどを例示することができる。
【0029】
炭酸刺激飲食品におけるスピラントールの含有量は、0.1ppb~100ppm、好ましくは1ppb~10ppm、より好ましくは10ppb~5ppmである。
【0030】
炭酸刺激飲食品における(a)イソアミルアセテート、メントール、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シトラールから選択される1種以上の香料成分の含有量は、0.005ppb~1重量%、好ましくは0.05ppb~1000ppm、より好ましくは0.5ppb~100ppmである。(b)エチルプロピオネート、エチルブチレート、エチル2-メチルブチレート、リナリルアセテート、リモネンから選択される1種の香料成分の含有量は、0.005ppb~1重量%、好ましくは0.05ppb~1000ppm、より好ましくは0.5ppb~100ppmである。(c)イソアミルアルコール、メチルアンスラニレート、エチルヘキサノエート、シトロネロールから選択される1種以上の香料成分の含有量は、0.0005ppb~1重量%、好ましくは0.005ppb~1000ppm、より好ましくは0.05ppb~100ppmである。
【0031】
炭酸飲料とは「炭酸飲料品質表示基準」(平成12年12月19日農林水産省告示第1682号)では、飲用に適した水に二酸化炭素を圧入したもの、及び、これに甘味料、酸味料、フレーバリング等を加えたものをいうが、本発明においてはさらに炭酸入りアルコール飲料も炭酸飲料に含まれる。
【0032】
炭酸飲料の具体例は、以下のとおりであるが、これらに限定されるものではない。
(1)非アルコール系炭酸飲料
炭酸入りナチュラルミネラルウォーター、炭酸水(ソーダ水)、トニックウォーター、レモン、レモンライム、ライム、オレンジ、グレープフルーツ、グレープ、アップル等の香味を付与した炭酸飲料(サイダー、ラムネ、クリームソーダ等)、ジンジャエール、コーラ、ガラナ飲料等の炭酸飲料、果汁入り炭酸飲料、乳類入り炭酸飲料、ビール風味のノンアルコール炭酸飲料、シャンパン風味のノンアルコール炭酸飲料、缶チューハイ風味のノンアルコール炭酸飲料、ハイボール風味のノンアルコール炭酸飲料、エナジードリンク等の炭酸入り栄養ドリンク、炭酸入りコーヒー、炭酸入り紅茶、ルートビア、メッコールなどが挙げられる。
【0033】
(2)アルコール系の炭酸飲料
焼酎、ウイスキー、ジン、ウォッカ、テキーラ等の蒸留酒を炭酸水で割った酒類(例えば、缶チューハイ、サワー、ハイボール、カンパリソーダ等)、スパークリングワイン(発泡性ワイン)、発泡日本酒、クワス;ビール、発泡酒、ビール風味の発泡アルコール飲料などが挙げられる。
【0034】
本発明の炭酸感増強剤は、上記の炭酸飲料に含まれる炭酸によってもたらされる炭酸感あるいは炭酸刺激食品を口腔内に入れて発生する炭酸ガスによる炭酸刺激感を増強するだけでなく、炭酸感の質(初発性のある炭酸感、ボリュームのある炭酸感、余韻のある炭酸感)を改善できる。
【0035】
炭酸飲料においては、容器中において炭酸ガスが加圧により飲料に溶解しているが、開栓して常圧に戻るときに溶け込んでいた二酸化炭素が飲料からガス状の炭酸ガスの気泡となって発生する。
ヒトが感じる炭酸感は口腔内でその気泡がはじける際に舌の感覚細胞の圧覚又は痛覚を刺激して、独特のシュワシュワした感覚を生じさせるという説があり、飲料の味にも影響を与える感覚であるとも考えられている。
【0036】
また、溶存する二酸化炭素が味覚や体性感覚を刺激することで、我々が炭酸感と感じる感覚が誘起されるとする説もある。
炭酸感は、甘味、苦味のように感覚受容器やその作用機構の研究が進んでいる感覚に比べて、正確な科学的根拠はいまだ明らかにされておらず、一義的な定義も困難である。従って、炭酸感増強効果の評価についても、専門パネリストによる官能評価に頼らざるを得ないのが現状である。
【実施例0037】
〔製造例1〕(スピラントールの調製)
オランダセンニチの花頭乾燥品300gを95容量%エタノール3200gで1時間還流抽出した。抽出液を冷却し固液分離した後、珪藻土を加えろ過した。濾液を減圧濃縮によりエタノールを留去後、水300gを加え、ヘキサン300mlで3回抽出した。抽出したヘキサン層を合わせ減圧濃縮によりヘキサンを留去し粗抽出物8.4gを得た。収率2.8%(スピラントール含量9.5%)。
【0038】
粗抽出物8.4gをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル200g、Φ5cm)により分画(n-ヘキサン:酢酸エチル=8:2で溶出)し、スピラントール画分(Rf値=0.2~0.3:n-ヘキサン:酢酸エチル=7:3)を分取し、溶剤を減圧下留去することにより、2.76gの粗スピラントール画分1を得た。続いてその粗スピラントール画分1を減圧下(0.1mmHg)でクーゲルロー蒸留装置を用いて単蒸留精製(180℃)し、0.98gの粗スピラントール画分2を得た。収率0.33%(スピラントール含量41.9%)。
【0039】
さらにその粗スピラントール画分2 0.98gをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル200g、Φ5cm)により分画(n-ヘキサン:酢酸エチル=95:5~90:10で溶出)し、スピラントール画分(Rf値=0.2:n-ヘキサン:酢酸エチル=7:3)を分取し、溶剤を減圧下留去することにより、精製スピラントール0.52gを得た。収率0.17%。スピラントール含量98質量%。スピラントールの構造はプロトン及びカーボン13NMRを測定し既知の文献データと比較することにより確認した。
この精製スピラントール0.104gを50質量%のエタノール溶液2000gで希釈し、スピラントール濃度50ppm(w/w)の精製スピラントール溶液を調製した。
【0040】
〔実施例1〕(初発性のある炭酸感)
市販の炭酸水(原料:水、炭酸)に、製造例1で製造したスピラントールと市販品の香料成分を表1に記載された濃度にそれぞれ混合し、熟練したパネリストにて官能評価を行った。その結果を表1に示した。
評価基準(炭酸感の増強、炭酸感の質の変化)
×:炭酸感も増強せず、初発性のある炭酸感も感じられない
△:炭酸感は増強するが、初発性のある炭酸感は感じられない
○:炭酸感も増強し、初発性のある炭酸感も感じられる
◎:炭酸感も増強し、初発性のある炭酸感も顕著に感じられる
【0041】
【0042】
スピラントールに香料成分を加えることで、更に炭酸が増強し、初発性のある刺激感と口に含んだ瞬間のインパクトが増強した。
【0043】
〔実施例2〕(ボリュームのある炭酸感)
市販の炭酸水(原料:水、炭酸)に、製造例1で製造したスピラントールと市販品の香料成分を表2に記載された濃度にそれぞれ混合し、熟練したパネリストにて官能評価を行った。その結果を表2に示した。
評価基準(炭酸感の増強、炭酸感の質の変化)
×:炭酸感も増強せず、ボリュームのある炭酸感も感じられない
△:炭酸感は増強するが、ボリュームのある炭酸感は感じられない
○:炭酸感も増強し、ボリュームのある炭酸感も感じられる
◎:炭酸感も増強し、ボリュームのある炭酸感も顕著に感じられる
【0044】
【0045】
スピラントールに香料成分を加えることで、炭酸感が増強し、更に刺激感の底上げとボリュームが増強した。
【0046】
〔実施例3〕(余韻のある炭酸感)
市販の炭酸水(原料:水、炭酸)に、製造例1で製造したスピラントールと市販品の香料成分を表3に記載された濃度にそれぞれ混合し、熟練したパネリストにて官能評価を行った。その結果を表3に示した。
評価基準(炭酸感の増強、炭酸感の質の変化)
×:炭酸感も増強せず、余韻のある炭酸感も感じられない
△:炭酸感は増強するが、余韻のある炭酸感は感じられない
○:炭酸感も増強し、余韻のある炭酸感も感じられる
◎:炭酸感も増強し、余韻のある炭酸感も顕著に感じられる
【0047】
【0048】
スピラントールに香料成分を加えることで、炭酸感が増強し、更に刺激感の余韻と飲み込んでからも残る刺激感が増強した。
【0049】
〔実施例4〕(初発性のある炭酸感)
市販の炭酸水(原料:水、炭酸)に、製造例1で製造したスピラントールと市販品の香料成分を表4に記載された濃度にそれぞれ混合し、熟練したパネリストにて官能評価を行った。その結果を表4に示した。
評価基準(炭酸感の増強、炭酸感の質の変化)
×:炭酸感も増強せず、初発性のある炭酸感も感じられない
△:炭酸感は増強するが、初発性のある炭酸感は感じられない
○:炭酸感も増強し、初発性のある炭酸感も感じられる
◎:炭酸感も増強し、初発性のある炭酸感も顕著に感じられる
【0050】
【0051】
スピラントール10~1000ppbに、香料成分を0.001ppm~10ppm加えることで、更に炭酸感が増強し、初発性のある刺激感と口に含んだ瞬間のインパクトが増強した。
【0052】
〔実施例5〕(ボリュームのある炭酸感)
市販の炭酸水(原料:水、炭酸)に、製造例1で製造したスピラントールと市販品の香料成分を表5に記載された濃度にそれぞれ混合し、熟練したパネリストにて官能評価を行った。その結果を表5に示した。
評価基準(炭酸感の増強、炭酸感の質の変化)
×:炭酸感も増強せず、ボリュームのある炭酸感も感じられない
△:炭酸感は増強するが、ボリュームのある炭酸感は感じられない
○:炭酸感も増強し、ボリュームのある炭酸感も感じられる
◎:炭酸感も増強し、ボリュームのある炭酸感も顕著に感じられる
【0053】
【0054】
スピラントール10~1000ppbに、香料成分を0.001ppm~10ppm加えることで、炭酸感が増強し、更に刺激感の底上げとボリュームが増強した。
【0055】
〔実施例1〕(余韻のある炭酸感)
市販の炭酸水(原料:水、炭酸)に、製造例1で製造したスピラントールと市販品の香料成分を表6に記載された濃度にそれぞれ混合し、熟練したパネリストにて官能評価を行った。その結果を表6に示した。
評価基準(炭酸感の増強、炭酸感の質の変化)
×:炭酸感も増強せず、余韻のある炭酸感も感じられない
△:炭酸感は増強するが、余韻のある炭酸感は感じられない
○:炭酸感も増強し、余韻のある炭酸感も感じられる
◎:炭酸感も増強し、余韻のある炭酸感も顕著に感じられる
【0056】
【0057】
スピラントール10~1000ppbに、香料成分を0.0001ppm~10ppm加えることで、炭酸感が増強し、更に刺激感の余韻と飲み込んでからも残る刺激感が増強した。
【0058】
〔実施例7〕
市販の炭酸水(原料:水、炭酸)に、製造例1で製造したスピラントールと市販品の香料成分を表7に記載された濃度にそれぞれ混合し、熟練したパネリストにて官能評価を行った。その結果を表7に示した。
評価基準(炭酸感の増強、炭酸感の質の変化)
×:炭酸感も増強せず、炭酸感の質の変化も感じられない
△:炭酸感は増強するが、炭酸感の質の変化は感じられない
○:炭酸感も増強し、炭酸感の質の変化も感じられる
◎:炭酸感も増強し、炭酸感の質の変化も顕著に感じられる
【0059】
【0060】
スピラントールに2種以上の香料成分を加えることで、炭酸感が増強し、更に初発性のある炭酸感、ボリュームのある炭酸感、余韻が残る複数の炭酸感の質も増強した。