(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009059
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】構造体の制振システム
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240112BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
E04H9/02 341D
F16F15/02 A
F16F15/02 C
E04H9/02 341C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023192616
(22)【出願日】2023-11-10
(62)【分割の表示】P 2019134011の分割
【原出願日】2019-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】518462765
【氏名又は名称】株式会社Laboro.AI
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青山 優也
(72)【発明者】
【氏名】山中 昌之
(72)【発明者】
【氏名】中塚 光一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴博
(72)【発明者】
【氏名】佐野 剛志
(72)【発明者】
【氏名】椎橋 徹夫
(72)【発明者】
【氏名】井澤 敦
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 琢
(57)【要約】
【課題】制振性能の向上を図る。
【解決手段】支持端と、前記支持端と所定方向に並ぶ第1質点と、前記支持端と前記第1質点を結ぶ第1バネ要素であって、前記所定方向と直交する直交方向に沿って作用する弾性反力を発生する第1バネ要素と、前記第1質点に対して前記直交方向に相対変位可能な第2質点と、前記第1質点に接続され、前記第2質点を前記直交方向に加振する加振器と、を有する質点モデルで表現される構造体の制振システムであって、前記加振器の加振力を制御する制御則を、強化学習を用いて定めた。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持端と、
前記支持端と所定方向に並ぶ第1質点と、
前記支持端と前記第1質点を結ぶ第1バネ要素であって、前記所定方向と直交する直交方向に沿って作用する弾性反力を発生する第1バネ要素と、
前記第1質点に対して前記直交方向に相対変位可能な第2質点と、
前記第1質点に接続され、前記第2質点を前記直交方向に加振する加振器と、
を有する質点モデルで表現される構造体の制振システムであって、
前記加振器の加振力を制御する制御則を、強化学習を用いて定め、
前記第2質点を前記第1質点の振動を抑制するマスダンパーのマスとし、
前記強化学習における報酬を、前記第1質点の保存量に基づいて定める、
ことを特徴とする構造体の制振システム。
【請求項2】
請求項1に記載の構造体の制振システムであって、
前記保存量がエネルギーである、
ことを特徴とする構造体の制振システム。
【請求項3】
請求項2に記載の構造体の制振システムであって、
前記エネルギーは、少なくとも運動エネルギーを含む、
ことを特徴とする構造体の制振システム。
【請求項4】
請求項3に記載の構造体の制振システムであって、
前記エネルギーは、バネ系の位置エネルギーをさらに含む、
ことを特徴とする構造体の制振システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の構造体の制振システムであって、
前記加振器と並列に設けられ、バネ方向が前記直交方向である第2バネ要素を有する、
ことを特徴とする構造体の制振システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の構造体の制振システムであって、
前記所定方向は鉛直方向であり、
前記直交方向は水平方向であり、
前記第1質点の上に、前記第2質点を前記水平方向に転がり可能に支承する転がり支承を有する、
ことを特徴とする構造体の制振システム。
【請求項7】
請求項1に記載の構造体の制振システムであって、
前記強化学習における報酬を、以下の式(16)で表すような対戦型とする、
ことを特徴とする構造体の制振システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体の制振システムに関する。
【背景技術】
【0002】
各種外乱に起因する建築物の水平振動や、床の上下振動など、構造体の振動を低減させる手法として、質量体(マス)を能動的に動かすことによって制振するAMD(Active Mass Damper)が知られている(例えば、特許文献1参照)。AMDでは、一般的に、制御工学に基づく制御則に従って制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
制御工学に基づく制御則では、制御理論が必要であり、AMDの能力を最大限に発揮させること(すなわち、マスを最適に動かすこと)が困難であった。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、制振性能の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、支持端と、前記支持端と所定方向に並ぶ第1質点と、前記支持端と前記第1質点を結ぶ第1バネ要素であって、前記所定方向と直交する直交方向に沿って作用する弾性反力を発生する第1バネ要素と、前記第1質点に対して前記直交方向に相対変位可能な第2質点と、前記第1質点に接続され、前記第2質点を前記直交方向に加振する加振器と、を有する質点モデルで表現される構造体の制振システムであって、 前記加振器の加振力を制御する制御則を、強化学習を用いて定め、前記第2質点を前記第1質点の振動を抑制するマスダンパーのマスとし、前記強化学習における報酬を、前記第1質点の保存量に基づいて定める、ことを特徴とする。
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、制振性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】アクチュエータ40の制御部分の構成を示すブロック図である。
【
図3】比較例におけるAMD制御システム構築のフロー図である。
【
図4】本実施形態におけるAMD制御システム構築のフロー図である。
【
図5】
図5Aは、第2実施形態に係る構造体の制振システム構成を示す図である。
図5Bは
図5Aをモデル化した図である。
【
図6】
図6Aは、第3実施形態に係る構造体の制振システム構成を示す図である。
図6Bは
図6Aをモデル化した図である。
【
図9】
図9Aは、第4実施形態に係る構造体の制振システム構成を示すである。
図9Bは
図9Aをモデル化した図である。
【
図11】第4実施形態の別の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0010】
支持端と、前記支持端と所定方向に並ぶ第1質点と、前記支持端と前記第1質点を結ぶ第1バネ要素であって、前記所定方向と直交する直交方向に沿って作用する弾性反力を発生する第1バネ要素と、前記第1質点に対して前記直交方向に相対変位可能な第2質点と、前記第1質点に接続され、前記第2質点を前記直交方向に加振する加振器と、を有する質点モデルで表現される構造体の制振システムであって、前記加振器の加振力を制御する制御則を、強化学習を用いて定めたことを特徴とする構造体の制振システムが明らかとなる。
このような構造体の制振システムによれば、制御理論に基づく制御則(例えば最適制御)よりも優れた制御則を実現できる。これにより、加振器によって第2質点を加振することによる制振(AMD)の能力を高めることができ、制振性能の向上を図ることができる。
【0011】
かかる構造体の制振システムであって、前記強化学習における報酬を、前記第1質点の保存量に基づいて定めることが望ましい。
このような構造体の制振システムによれば、優れた制御則を得ることができる。
【0012】
かかる構造体の制振システムであって、前記保存量を対戦型とすることが望ましい。
このような構造体の制振システムによれば、優れた制御則を得ることができる。
【0013】
かかる構造体の制振システムであって、前記保存量がエネルギーであることが望ましい。
このような構造体の制振システムによれば、さらに優れた制御則を得ることができる。
【0014】
かかる構造体の制振システムであって、前記エネルギーは、少なくとも運動エネルギーを含むことが望ましい。
このような構造体の制振システムによれば、制振性能を高めることができる。
【0015】
かかる構造体の制振システムであって、前記エネルギーは、バネ系の位置エネルギーをさらに含むことが望ましい。
このような構造体の制振システムによれば、制振性能をより高めることができる。
【0016】
かかる構造体の制振システムであって、前記加振器と並列に設けられ、バネ方向が前記直交方向である第2バネ要素を有していてもよい。
このような構造体の制振システムによれば、第2バネ要素を有していても制振性能を高めることができる。
【0017】
かかる構造体の制振システムであって、前記所定方向は鉛直方向であり、前記直交方向は水平方向であり、前記第1質点の上に、前記第2質点を前記水平方向に転がり可能に支承する転がり支承を有していてもよい。
このような構造体の制振システムによれば、第1質点の上で第2質点を水平方向に加振する(転がす)ことで第1質点の水平方向の振動を制振できる。
【0018】
かかる構造体の制振システムであって、前記所定方向は鉛直方向であり、前記直交方向は水平方向であり、前記第2バネ要素は、前記第1質点の上で前記第2質点を支承する積層ゴムであってもよい。
このような構造体の制振システムによれば、第1質点の上に積層ゴムで支承された第2質点を水平方向に加振することで第1質点の水平方向の振動を制振できる。
【0019】
かかる構造体の制振システムであって、前記所定方向は水平方向であり、前記直交方向は鉛直方向であってもよい。
このような構造体の制振システムによれば、例えばブリッジなどの鉛直方向の振動を制振できる。
【0020】
===第1実施形態===
<<制振システム構成について>>
図1Aは、第1実施形態に係る構造体の制振システム構成を示す図であり、
図1Bは、
図1Aをモデル化した図であり、
図1Cは、
図1Bの等価図である。また、
図2は、アクチュエータ40の制御部分の構成を示すブロック図である。
【0021】
図1Aに示すように第1実施形態の制振対象となる構造体は、長手方向の両端(支持端12)が固定され、水平方向に掛け渡されたブリッジ10である。このブリッジ10の長手方向の中央部に、バネ30とアクチュエータ40を介して、マス20が設けられている。また、
図2に示すように、ブリッジ10及びマス20の状態を検出するセンサ群60(例えば、加速度を検出する加速度センサ、変位(相対変位等)を検出する変位センサ等)と、センサ群60の各センサの出力に基づいて状態量の計算やアクチュエータ40の加振の制御を行うコントローラ70が設けられている。
【0022】
図1Aを質点モデルにモデル化すると
図1Bに示す2質点のモデルとなり、さらに簡易化すると
図1Cのようになる。
図1B、
図1Cでは、ブリッジ10とマス20がそれぞれ質点で示されている。このうち、ブリッジ10を示す質点は第1質点に相当し、マス20を示す質点は第2質点に相当する。
【0023】
図1B及び
図1Cの質点モデルにおいて、ブリッジ10は、支持端12と水平方向に並んでいる。また、
図1B及び
図1Cの質点モデルに示すバネ要素14(第1バネ要素に相当)は、ブリッジ10の剛性に相当する。バネ要素14は、支持端12とブリッジ10(第1質点)を結んでおり、ブリッジ10と支持端12の並ぶ方向(ここでは水平方向)と直交する方向(ここでは鉛直方向)に沿って作用する弾性反力を発生する。
【0024】
マス20は、AMD制御を行うための錘(質量体)であり、バネ30を介してブリッジ10の上に設けられている(ブリッジ10と鉛直方向に並んでいる)。これにより、マス20はブリッジ10に対して、鉛直方向に相対変位可能である。
【0025】
バネ30(第2バネ要素に相当)は、バネ方向が鉛直方向となるように、ブリッジ10とマス20の間に配置(アクチュエータ40と並列に配置)されてマス20を支えている。
【0026】
アクチュエータ40(加振器)は、ブリッジ10に接続されており、コントローラ70による制御に基づいてマス20を鉛直方向に加振する。
【0027】
このアクチュエータ40の加振力(制御力)を調整(制御)することにより、ブリッジ10の上を人が歩行することに起因するブリッジ10の縦揺れ(上下振動)を抑制することができる。
【0028】
図1Cに示すように、本実施形態の構造体の制振システムは2質点系のモデルであり、次式(1)の状態方程式を数値解析により解くことで挙動をシミュレーションできる。
【0029】
なお、式(1)の各項について以下の式(2)~式(5)に示す。
ここで、
【0030】
<<AMD制御(比較例)>>
図3は、比較例におけるAMD制御システム構築のフロー図である。ここでは、アクティブ制御の一例として知られる最適制御を用いている。
【0031】
まず、各パラメータの設定を行う(S001)。ここでは、[マス20,ブリッジ10]の[変位,速度]および制御力の絶対値を、各ステップでできるだけ小さくすることを目的として、評価関数Jを以下の式(6)に示すように、[マス20,ブリッジ10]の[変位,速度]および制御力の2乗に重みをかけて足し合わせたものとして定義する。
【0032】
式(6)において、x(t)は上述の式(4)、u(t)は制御力、εは制御力にかかる重みである。また、Qはx(t)にかかる重みであり、
である。
【0033】
【0034】
【0035】
次に、制御則のフィードバックゲインを計算する(S002)。評価関数Jを最小にするx(t)のフィードバックゲインを理論的に求めると、制御力u(t)は、次式(9)で表される。
ここで、Pは次式(10)で表されるリカッチ方程式の解である。
【0036】
【0037】
次に、歩行加振力を入力するシミュレーションにより、得られた制御則の効果を確認する(S003)。
【0038】
制御則の確認結果が不良であれば(S004でNo)、ステップS001に戻り、パラメータを再設定する。一方、制御則の確認結果が良好であれば(S004でYes)、実装を行う(S005)。すなわち、センサ群60の各センサ(加速度センサや変位センサなど)からリアルタイムに取得・計算したx(t)を基に、制御力u(t)を計算しアクチュエータ40に与える。
【0039】
なお、この例では最適制御(最適フィードバック制御、LQ制御、LQR制御、最適レギュレータ制御も同義)について説明したが、これ以外のアクティブ制御として、LQG制御、双線形最適制御、瞬間最適制御、準最適制御、準最適併合制御、極配置制御、スカイフック制御、H∞制御、PID制御、スライディングモード制御、On/Off制御、EF(Energy Function)制御、ファジィ制御、予測制御、履歴制御、直接出力フィードバック制御、直接速度フィードバック制御(DVFB制御)、外乱相殺制御、μシンセシス制御、ゲインスケジュールド制御などの制御方法(制御則)が知られている。
【0040】
但し、上述したような制御則を用いてもAMDの能力を最大限に発揮した制御が行えないおそれがあった。具体的には、上述の最適制御では状態量の線形結合で表される制御力を前提としているため、各種制約に対して安全率を見込んで設計せざるを得ず、非効率な制御則となるおそれがあった。また、物件ごとに異なる各種制約を満足するように、設計者が複数のシミュレーションによりパラメータを試行錯誤的に調整する必要があった。そのため、設計者の経験による所が大きく、必ずしも最適な解が得られない上、設計に時間と労力を要していた。また、理論解を求める必要があるため、評価関数の自由度が低く、特定の外乱に対して最適化することが困難であった。また、主にコンクリート構造物のように、非線形な復元力を有する構造物に対して線形の理論を適用することは困難であった。
【0041】
そこで、本実施形態ではAMD制御に人工知能(artificial intelligence: 以下AI)を用いることにより、制振性能の向上を図っている。なお、AIによる機械学習は、教師あり学習、教師なし学習、強化学習の3つに分類されるが、本実施形態では、このうち強化学習を用いた。
【0042】
<<AMD制御(本実施形態)>>
図4は、本実施形態におけるAMD制御システム構築のフロー図である。本実施形態では、上述したようにAIによる強化学習を用いている。強化学習とは、教師データが無くても、試行錯誤を通じて価値を最大化するような行動を学習するものである。また、強化学習のアルゴリズムとしては、Q-Learning及びDQN(Deep Q-Learning)を用いた。
【0043】
<パラメータ設定>
まず、各パラメータ(状態st、報酬Rt、行動at)の設定を行う(S101)。
【0044】
〔行動at〕
行動atは、時刻tにおいてアクチュエータ40に出力する制御力である。アクチュエータ40の制御力について、離散化数と最大制御力を設定する。本実施形態では以下のように最大制御力100(N)とし、5分割で設定した。
at={-100,-50,0,50,100} ・・・・(12)
【0045】
〔状態st〕
状態stは、時刻tにおけるブリッジ10、マス20の状態量であり、何を入力として行動atを決定するかを設定するものである。状態量を小さくした行動に報酬を与えたい所であるが、バネに起因する振動においては、状態量が小さくなったのが、振動により自然に小さくなったものなのか、アクチュエータ40の制御により小さくなったものなのかを区別する必要がある、特に、本実施形態のように対戦型の報酬設定(後述)とした場合、両者の振動数がずれていると、両者の応答中の位相差によって振動の影響が顕著になる。
【0046】
これを明確にするために、振動による影響をできるだけ排除し、応答中の位相に関わらない状態量として以下の式(13)で定義する保存量S(t)を考える。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
本実施形態で設定した報酬を拡張すると、以下の式(16)で表すような対戦型とすることができる。
【0051】
・対戦相手は、マスなし、パッシブ制御(減衰ありでも減衰なしでも良い)、既往のアクティブ制御、自分自身のアクティブ制御(自己対戦型)などについて、事前の応答解析を行った上でS(t)を計算したものでもよいし、適宜設定した時間tに関する関数F(t)でもよい(0や定数も含む)。
・学習対象がセミアクティブの場合、対戦相手をセミアクティブとしても良いし、前述の対戦相手としてもよい。
・ε=δが標準であるが、εの値をδよりも小さくすることで、より強い対戦相手を設定できる。
・最初からあまり強い相手をターゲットにすると学習が収束しない。徐々に対戦相手を強くしていくとよい。
【0052】
また、その他の即時報酬srtとして、以下の例が挙げられる(〔〕内は複合任意)。
・S(t)を直近nタイムステップの〔ブリッジ10・マス20〕の〔変位・速度・加速度〕の〔絶対値・そのままの値・逆数・逆数の絶対値〕の〔平均値・総和・最大値〕の線形結合とする。
・S(t)の〔差分・2回差分・微分・2回微分・逆数〕を報酬とする(この場合、対戦相手はなし)。
・S(t)に、マス20の項を入れても良い。
・収束するまでステップ毎にマイナスの報酬を与えてもよい。
・クリアランスを超えた場合に、マイナスの報酬を与えても良い。
・報酬のclippingを行っても良い。
【0053】
・一定ステップ毎(終了時のみも含む)に、時系列の揺れの大きさを表す特殊な指標に応じた報酬を与える。なお、特殊な指標とは、居住性能評価ランク、計測震度、Unity等を用いて室内環境やラックのシミュレーションをし、被災状況や積荷落下状況を評価した値などである。
【0054】
<学習の実行>
次に、学習を実行する(S102)。前述したように本実施形態では強化学習を実行する。強化学習とは、ある環境におかれたエージェントが、環境との相互作用を通じて、最適な行動規則を獲得するための枠組みである。ここでは、学習波を入力とする質点モデルのシミュレーションを複数回繰り返し、以下に従い学習を行う。
【0055】
〔Q学習〕
Q学習(Q-learning)は、行動価値関数(Q関数)を用いて最適方策を獲得する強化学習の代表的手法である。Q関数は、ある状態にてある行動を選択し続けた時に将来にわたり得られる累積報酬の期待値を、全ての状態と行動の組み合わせについてテーブル形式で定義したものである。次式に従ってQ関数の更新を繰り返すことにより、累積報酬が最大化される最適方策を獲得する。
ここで、αは学習率(0<α<1)で、Q関数の更新スピードを調整する係数、γは割引率(0<γ<1)で、将来におけるQ値(報酬)をどれだけ割り引いて考慮するかを定める係数である。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
そして、その結果の良否を判定する(S104)。結果が不良であれば(S104でNO)、ステップS101に戻り再度パラメータを設定する。
【0060】
結果が良好であれば、(S104でYES)、実装を行う(S105)。すなわち、センサ群60の各センサ(加速度センサ、変位センサ等)からリアルタイムに取得・計算したstを基に、式(19)又は式(20)にて計算した制御力u(t)をアクチュエータ40に与える。
【0061】
このような本実施形態(AI制御)によると、ステップS103のシミュレーション、及び、ステップS105の実装(実験)での検証において、比較例(最適制御)と比べて、高い制振効果が得られた。特に、強化学習のアルゴリズムとしてDQNを用いた場合に高い制振効果が得られた。
【0062】
等とすればよい(条件3とする)。この条件3と、前述の条件1及び条件2を比較した場合、条件2(力学的エネルギー+減衰項)、条件1(力学的エネルギー)、条件3の順で振動を適切に制振できることが確認された。このように、強化学習における報酬をブリッジ10の力学的エネルギーに基づいて定めることで優れた制御則を得ることができ、これにより制振性能を高めることができる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態では、AMD制御を行う制御則(アクチュエータ40の加振力を制御する制御則)をAIによる強化学習で獲得している。これにより、AMDの能力を最大限に発揮させることができ、制振性能の向上を図ることができる。
【0064】
また、AI制御では、最大制御力やクリアランス等の各種制約を、状態や報酬の形で定義することができる上、ニューラルネットワークを用いた非線形な制御が可能であるため、各種制約の中で制御効果を最大限に高めた制御則が得られる。
【0065】
また、状態や報酬の設定方法、各種ハイパーパラメータを定めておけば、物件ごとの試行錯誤は少なくて済む。そのため、安定した制御則が得られる上、設計に要する時間と労力が短縮される。
【0066】
また、繰り返しのシミュレーションにより最適な制御則を逐次更新するため(理論解を得る必要がないため)、自由度の高い制御則の設計が可能である。例えば対戦型の報酬設定を考えると、優れた制御を対戦相手として更に制御効果を高めたり、制御効果はそのままに装置の制約を加味したカスタマイズを加えたりすることができる。また、外乱をインパルスにして自由振動に対して制御を最適化することも可能であるし、例えば、構造物に生じやすいと考えられる外乱に対して制御を最適化することも可能である。これにより、比較例(最適制御)よりも制振効果が優れた制御則や、より固有の環境に特化した制御則が得られる。
【0067】
===第2実施形態===
図5Aは、第2実施形態に係る構造体の制振システム構成を示す図である。また、
図5Bは
図5Aをモデル化した図である。
【0068】
図5Aに示すように、第2実施形態の制振対象となる構造体は建物100であり、建物100の頂部にマス200が水平方向に転がり可能に配置されている(転がり型の頂部AMD)。また、第1実施形態と同様に、建物100とマス200の状態を検出する各センサ(不図示)や、センサの出力に基づいてアクチュエータ400を制御するコントローラ(不図示)が設けられている(第3実施形態、第4実施形態についても同様)。
【0069】
図5Aを質点モデルにモデル化すると
図5Bに示す2質点のモデルとなる。
図5Bでは、建物100とマス200がそれぞれ質点で示されている。このうち、建物100を示す質点は第1質点に相当し、マス200を示す質点は第2質点に相当する。
【0070】
図5Bの質点モデルにおいて、建物100は支持端102(ここでは地盤)と鉛直方向(所定方向に相当)に並んでいる。また、
図5Bのバネ要素104は、建物100の剛性に相当する。バネ要素104は、支持端102と建物100(第1質点)を結んでおり、建物100と支持端102の並ぶ方向(ここでは鉛直方向)と直交する方向(ここでは水平方向)に沿って作用する弾性反力を発生する。
【0071】
マス200は、AMD制御を行うための錘(質量体)であり、建物100の頂部に配置されている。また、建物100の上(建物100とマス200の間)には、マス200を水平方向に転がり可能に支承する転がり支承500(ローラー等)が設けられている。これにより、マス200は、建物100に対して水平方向に相対変位可能となっている。
【0072】
アクチュエータ400(加振器)は、建物100に接続されて、マス200を水平方向に加振する。このアクチュエータ400の加振力(制御力)を調整(制御)することにより、建物100の横揺れ(水平振動)を抑制することができる。
【0073】
この第2実施形態の場合においても、第1実施形態と同様に、アクチュエータ400をAIによる制御則で制御することにより、制振性能の向上を図ることができる。
【0074】
なお、ここでは転がり型(転がり支承)のAMDであったが、これには限られず、滑り型(滑り支承)のAMDであっても同様に制振することができる。
【0075】
===第3実施形態===
図6Aは、第3実施形態に係る構造体の制振システム構成を示す図である。また、
図6Bは
図6Aをモデル化した図である。なお、第2実施形態(
図5A、
図5B)と同一構成の部分には同一符号を付し説明を省略する。
【0076】
第3実施形態では、建物100とマス200との間に積層ゴム301が設けられている。積層ゴム301は、マス200を水平方向に変位可能に支承している。また積層ゴム301は、マス200が水平方向に変位した場合、元の位置に復元させる。これにより、
図6Bに示すように、建物100とマス200との間には、積層ゴム301の水平方向の剛性であるバネ要素300がアクチュエータ400と並列に設けられていることになる。この
図6Bは、第1実施形態の
図1Cと同じ質点モデル(但し方向は異なる)となるので、この場合も、アクチュエータ400をAIによる制御則で制御することにより、制振性能の向上を図ることができる。
【0077】
<変形例>
図7は、第3実施形態の変形例を示す図である。
図7では、建物100の頂部において、マス200が振り子302によって吊り下げられている。これにより、マス200は、建物100に対して水平方向に相対変位可能となっている。また、振り子302の水平方向の剛性はバネ要素300に相当する。
【0078】
また、
図8は、第3実施形態の別の変形例を示す図である。この変形例では、建物100の頂部に台303が設けられている。台303の上面は、緩い勾配を持つすり鉢状に構成されている。そして、台303上には、転がり支承500によって転がり可能に支承されたマス200と、アクチュエータ400が設けられている。これにより、マス200が水平方向に変位した場合に、中央に戻る復元力(剛性:バネ要素300)を発生する構造となっている。
【0079】
これらの変形例(
図7及び
図8)の場合も、モデル化すると
図6Bと同じモデルになる。よって、アクチュエータ400をAIによる制御則で制御することにより、制振性能の向上を図ることができる。
【0080】
===第4実施形態===
図9Aは、第4実施形態に係る構造体の制振システム構成を示す図である。また、
図9Bは
図9Aをモデル化した図である。なお、第3実施形態(
図6A、
図6B)と同一構成の部分には同一符号を付し説明を省略する。
【0081】
第4実施形態では、建物100とマス200との間にマス150が設けられている。マス150は、建物100の頂部に積層ゴム161を介して設けられており、建物100の揺れに同調して建物100の振動を抑制するTMD(Tuned Mass Damper)として機能する。
【0082】
また、マス150の上には、転がり支承500により支承されたマス200と、アクチュエータ400が設けられている。マス200は、転がり支承500によって、マス150に対して水平方向に転がり可能(水平変位可能)に支承されており、アクチュエータ400は、マス150と接続され、マス200を水平方向に加振する(AMD)。
【0083】
図9Aを質点モデルにモデル化すると
図9Bに示す3質点のモデルとなる。
図5Bでは、建物100とマス150とマス200がそれぞれ質点で示されている。マス150と建物100との間には、積層ゴム161の水平方向の剛性(バネ要素160)が付与されているこの場合においても、建物100とマス150が同調して動くため、一つの質点(第1質点に相当)としてみなすことができる。また、バネ要素104とバネ要素160を一つのバネ要素(第1バネ要素に相当)とみなすことができる。よって、前述の実施形態と同様に、この第4実施形態においても、前述の実施形態と同様に、アクチュエータ400をAIによる制御則で制御することにより、制振性能の向上を図ることができる。
【0084】
<変形例>
図10は、第4実施形態の変形例を示す図である。この例では、建物100の頂部に振り子162(バネ要素160)によってマス150が吊り下げられている。そして、マス150の上には、転がり支承500により転がり可能に支承されたマス200と、アクチュエータ400が設けられている。マス200は、マス150に対して水平方向に相対変位可能であり、アクチュエータ400は、マス200を水平方向に加振する。
【0085】
また、
図11は、第4実施形態の別の変形例を示す図である。この例では、建物100の頂部には、上面に緩い勾配を持つすり鉢状の台163(バネ要素160)が配置されており、その上には転がり支承600により転がり可能に支承されたマス150が配置されている。さらに、マス150の上には転がり支承500で支承されたマス200と、アクチュエータ400が配置されている。マス200は、マス150に対して水平方向に相対変位可能であり、アクチュエータ400は、マス200を水平方向に加振する。
【0086】
これらの変形例(
図10及び
図11)の場合も、モデル化すると
図9Bと同じモデルになる。よって、アクチュエータ400をAIによる制御則で制御することにより、制振性能の向上を図ることができる。
【0087】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。例えば、以下に示すような変形が可能である。
【0088】
前述の実施形態では、強化学習のアルゴリズムとして、Q学習(Q-learning)とDQN(Deep Q-Learning)を用いていたが、これには限られず、他の強化学習アルゴリズム(例えば、Sarsa、モンテカルロ法など)を用いても良い。
【0089】
前述の実施形態では、構造体(第1質点)として、理解を容易にするためブリッジ10や建物100を記載していたが、柱、梁、壁、床等により構成されてもよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0090】
10 ブリッジ、12 支持端、14 バネ要素(第1バネ要素)、
20 マス、
30 バネ(第2バネ要素)、40 アクチュエータ、
60 センサ群、70 コントローラ、
100 建物、102 支持端、104 バネ要素(第1バネ要素)、
150 マス、160 バネ要素、
161 積層ゴム、162 振り子、163 台、
200 マス、
300 バネ要素(第2バネ要素)、301 積層ゴム、
302 振り子、303 台、
400 アクチュエータ、
500 転がり支承、600 転がり支承、