(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090630
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】水素分離膜構造体の中間層の製膜方法及び水素分離膜構造体
(51)【国際特許分類】
B01D 67/00 20060101AFI20240627BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240627BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240627BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B01D67/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206638
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】712003270
【氏名又は名称】大日機械工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】弁理士法人日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミャグマラジャブ オドツェツェグ
(72)【発明者】
【氏名】野口 弘喜
(72)【発明者】
【氏名】今 肇
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA28
4D006JA25C
4D006KA31
4D006KA33
4D006KB30
4D006KD30
4D006MA02
4D006MA06
4D006MC01
4D006MC03
4D006NA46
4D006NA73
4D006PA01
4D006PB20
4D006PB66
4D006PC69
(57)【要約】
【課題】水素分離膜構造体の製造において、製膜時の液だれ等によりコーティングのムラ、膜厚の厚い部分の剥離、クラック等の発生を防止する。
【解決手段】水素分離膜構造体の基材である多孔質支持体層を回転させながら、ゾルゲル溶液に多孔質支持体層の表面部分のみを浸漬させ、多孔質支持体層の表面にゾルゲル溶液を塗布する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に配置された円筒型多孔質支持体層を回転させながら、該円筒型多孔質支持体層の表面部分をゾルゲル溶液に浸漬し、該ゾルゲル溶液を前記円筒型多孔質支持体層の表面に均等に塗布することを特徴とする水素分離膜構造体の中間層の製膜方法。
【請求項2】
請求項1において、前記円筒型多孔質支持体層がαアルミナ、前記中間層がシリカ又はαアルミナで構成されていることを特徴とする水素分離膜構造体の中間層の製膜方法。
【請求項3】
請求項1または2において、前記円筒型多孔質支持体層を50rpmから200rpmの範囲で回転させることを特徴とする水素分離膜構造体の中間層の製膜方法。
【請求項4】
円筒型多孔質支持体層と、該円筒型多孔質支持体層の外表面に回転製膜法によって製膜された中間層と、該中間層の外表面に製膜された水素分離膜層とから構成された水素分離膜構造体。
【請求項5】
αアルミナから成る円筒型多孔質支持体層と、該円筒型多孔質支持体層の外表面に回転製膜法によって製膜されたシリカ層又はαアルミナ層から成る中間層と、該中間層の外表面に製膜されたシリカ層から成る水素分離膜層とから構成された水素分離膜構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素分離膜構造体の中間層の製膜方法及びそれを用いて製造した水素分離膜構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、水素製造に使用される熱化学法ISプロセス(特許文献1を参照)におけるヨウ化水素(HI)分解反応においては、HIの平衡分解率が20%程度と低いという問題があった。そこで、このHI分解率を向上させるために水素分離膜の研究開発が、これまで行われてきた。
【0003】
現在、一般的な水素分離膜構造体としては、例えば、基材である多孔質支持体層の上にポアサイズの小さい多孔質の中間層を配し、その上に水素分離膜を設けた三層構造のものが知られている(特許文献2を参照)。HI分解用水素分離膜としては、耐熱耐食性の観点から、多孔質アルミナから成る多孔質支持体層上に対向拡散CVD法により緻密なシリカ膜を形成した水素分離膜構造体が採用されている。対向拡散CVD法とは、2種類の原料を多孔質支持体層の両側から供給することにより、多孔質体内部に薄いシリカ層を蒸着させる方法である。このCVD法による緻密なシリカ膜の形成には、多孔質アルミナから成る多孔質支持体層上に形成する中間層(αアルミナ及びシリカ)の構造が重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-177614号公報
【特許文献2】特開2022-151268号公報
【特許文献3】特開2015-171691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、対向拡散CVD法による水素分離膜では、緻密なシリカ膜をCVDにより形成するが、本シリカ膜を緻密に形成するためには、多孔質支持体層上に均一な中間層を形成することが重要である。従来、この水素分離膜構造体の中間層の形成には、ゾルゲル溶液を用いたディップコーティング法が用いられていた。しかし、このような従来の方法では、液だれ等により均一な膜の形成が困難であった。特に粘性が高いゾルゲル溶液を使用する場合には、この液だれ等によりコーティングに顕著なムラが生じ、膜厚の厚い部分に剥離、クラックが生じていた。
【0006】
従って、本発明の目的は、水素分離膜構造体の表面に形成される水素分離膜にクラックや剥離を生じさせない、水素分離膜構造体の中間層の製膜方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、上述の中間層の製膜方法を用いて作製した中間層を備えた、優れた特性を備えた水素分離膜構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においは、水素分離膜構造体の中間層を均一に形成するために、多孔質支持体層を回転させながら、ゾルゲル溶液に浸漬する新たな製膜方法を採用している。本発明に係る製膜方法(回転製膜法とも言う)では、水平方向に配置された多孔質支持体層を回転させながらゾルゲル溶液に多孔質支持体層の表面部分のみを浸すことで多孔質支持体の表面にゾルゲル溶液を塗布し、ゾルゲル溶液の重力落下による液だれを抑え、均一な中間層を形成する。
【0009】
本発明の一つの観点に係る水素分離膜構造体の中間層の製膜方法は、水平方向に配置された円筒型多孔質支持体層を回転させながら、該円筒型多孔質支持体層の表面部分をゾルゲル溶液に浸漬し、該ゾルゲル溶液を前記円筒型多孔質支持体層の表面に均等に製膜することを特徴としている。
【0010】
本方法によれば、従来のいわゆるどぶ付けによる製膜方法とは異なり、水素分離膜にクラックや剥離を生じさせない均一の厚さの中間層を製造することができる。また、多孔質支持体層の表面部のみをゾルゲル溶液に浸漬させることができるので、使用するゾルゲル溶液量を低減させることができる。例えば、後述の実施例に係る製膜の場合、従来方法のディップコーティングでは408mlのコーティング液を必要としたのに対して、はるかに優れた性能の膜を186mlのコーティング液で製膜できた。
【0011】
本発明の別の観点に係る水素分離膜構造体は、円筒型多孔質支持体層と、該円筒型多孔質支持体層の外表面に回転製膜法によって塗膜された中間層と、該中間層の外表面に塗膜された水素分離膜層とから構成される。このような水素分離膜構造体は、水素分離膜にクラックや剥離が生じないため耐久性に優れていると共に、ゾルゲル溶液の使用量が少なくて済むため安価に製造することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、被製膜物を回転させながら製膜するという、画期的な製膜方法(回転製膜法)を採用しているため、液だれを起こすことがなく、クラックや剥離を生じさせない均一な膜厚の製膜が可能となる。
【0013】
本発明は、特に上述の水素分離膜構造体の中間層の形成において有用である。すなわち、中間層が極めて均一な膜となるため、対向拡散CVD法によって最上層の水素分離膜(シリカ膜)を形成する際にクラック等の欠陥のない緻密な膜とすることができる。
【0014】
また、従来のディップコーティング法では基材(多孔質支持体層)をすべて浸漬するために大量の溶液が必要になるが(例えば特許文献3を参照)、本発明に係る製膜方法では多孔質支持体層の表面部分のみを溶液に浸すだけであるため、ゾルゲル溶液の使用量を顕著に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】水素分離膜構造体の全体構成と動作を示す概略説明図。
【
図4】従来のディップコーティング法の製膜結果を示す図。
【
図5】従来のディップコーティング法の製膜結果を示す顕微鏡写真。
【
図7】本発明の回転製膜法の製膜結果を示す顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、端的に言えば、均一な中間層を形成するために、基材である多孔質支持体層を回転させながらゾルゲル溶液に多孔質支持体層の表面部分のみを浸すことによって多孔質支持体層表面にゾルゲル溶液を塗布し、ゾルゲル溶液の重力落下による液だれを抑え、均一な中間層を形成する製膜方法である。
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明を具体的に説明する。初めに、本発明が適用される水素分離膜構造体の全体構成とその動作について、
図1と
図2を用いて説明する。
図1は円筒型の水素分離膜構造体を金属製の円筒型耐圧容器の中央部に設置し、水素分離膜構造体と耐圧容器間に触媒を詰めた構造を持つ、ISプロセスで使用するH
2ガスとHIガス、I
2ガスの分離器の断面を示す図であり、
図2は
図1のA部分の構造を示す拡大図である。
【0018】
図1から理解されるように、円筒型の水素分離膜構造体100の外周部から供給されたHIガスは触媒によってH
2とI
2ガスに分解され、H2ガスが水素分離器構造体100の中央部の空洞から得られるようになっている。
図1のA部分の拡大図である
図2からわかるように、円筒型の水素分離膜構造体100は、内側から多孔質支持体層10、多孔質中間層11、水素分離膜層12が順次積層された構造になっている。
図2では、多孔質中間層11が一層構造になっているが、複数層であればより好ましい。
【0019】
上述した回転製膜法は、
図3に示した回転製膜装置を用いて容易に実現できる。ここで、符号14は速度調整器付電動機で、15は容器に満たされたゾルゲル溶液である。多孔質支持体層の表面部分のみがこのゾルゲル溶液に浸漬されるように配置される。ゾルゲル溶液のバブリング防止にため、表面部分の浸漬は、表面から1mm~1.5mm程度が望ましい。また、電動機4の回転速度は、速度調整器によって0から300rpm程度まで徐々に上げることができるようになっている。
【実施例0020】
多孔質アルミナの支持体層(φ12×400mm)に、ディップコーティング法と回転製膜法を用いてアルミナ中間層を形成した。形成したアルミナ中間層について、100mmごとに切断し、その水素、窒素、SF6の透過速度の測定及び表面観察を行った。ここで、SF6は、分子径がHIガスとほぼ同じためHIガスの模擬流体として使用された。
【0021】
図4と
図5に従来方法のディップコーティングの結果を、
図6と
図7に本発明に係る回転製膜法による結果を示す。従来方法によるディップコーティングでは、
図4に示すように一部分でSF
6、窒素の透過速度が大きくなった。また、表面・断面観察の結果から、従来方法のディップコーティングでは、膜厚にばらつきが生じ、膜厚が厚い部分ではクラックが発生した。このクラックにより、分子径の大きいSF
6、窒素が透過しやすくなったものと考えられる。
【0022】
一方で、本発明の回転製膜法では、
図6に示すように、膜全体で一定の透過度(permeance)であり、また、表面・断面観察の結果から均一な膜を形成できており、クラックも発生していないことが確認できた。従来方法によるディップコーティングでは、欠陥の発生率が50%程度あったが、本発明による回転製膜法では、欠陥の発生率をほぼ0%に抑えられた。
【0023】
ここで、電動機の回転速度(rpm)が膜の透過度に与える影響について調べた。その結果を
図8に示す。回転速度が50rpm、200rpm、300rpmでのデータを採ったところ、回転速度が200rpm程度までは、膜の透過度に影響を与えないことがわかった。