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特開2024-90642真空ポンプ、ジャケット型ヒータおよびジャケット型ヒータの固定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090642
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】真空ポンプ、ジャケット型ヒータおよびジャケット型ヒータの固定方法
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
F04D19/04 Z
F04D19/04 H
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206658
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004244
【氏名又は名称】弁理士法人仲野・川井国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091225
【弁理士】
【氏名又は名称】仲野 均
(74)【代理人】
【識別番号】100096655
【弁理士】
【氏名又は名称】川井 隆
(72)【発明者】
【氏名】武田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 春樹
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131BA06
3H131BA09
3H131BA14
3H131CA35
3H131CA37
3H131CA41
(57)【要約】
【課題】ジャケット型ヒータの回転変位を抑制することで、ジャケット型ヒータの電線への張力(テンション)の発生を防止する真空ポンプ、ジャケット型ヒータおよびジャケット型ヒータの固定方法を提供すること。
【解決手段】ジャケット型ヒータ300に帯状のストラップ310を設け、このストラップ310の端部を固定具315により、例えばターボ分子ポンプ100のアウターウォール170に固定する。このストラップ310により、ジャケット型ヒータ300の一定以上の回転変位を規制することができ、リード線600の付け根部分に張力(テンション)が掛かることを防止することができる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、
前記ケーシングに配置され、ガスを吸入または排気する為に用いられる配管部と、
前記配管部に配置されるジャケット型ヒータと、を備えた真空ポンプにおいて、
前記ジャケット型ヒータは、ヒータの電熱線に対し電力を供給するリード線を有し、
前記配管部に対する回転により生じる前記リード線に掛かるテンションを防止するため、前記回転を抑制する回転抑制手段が設けられていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記回転抑制手段は、前記回転によって生じる回転変位が、以下の式1の関係となるように回転を規制していることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
(式1) 前記ジャケット型ヒータの回転変位<前記リード線の余裕長さ
【請求項3】
前記回転抑制手段は、回転抑制部を有し、
前記回転抑制部が前記ケーシングに固定されることで、前記回転を抑制することを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記ケーシングは、土台を構成するベース部と、それ以外の外装部とからなり、前記回転抑制部が前記ベース部に固定されていることを特徴とする請求項3に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記回転抑制部は、耐熱素材で構成される帯状部品であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記帯状部品は、一端が前記ジャケット型ヒータに固定され、他端には前記ケーシングに対する固定具が設けられており、該固定具により固定されていることを特徴とする請求項5に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
内部の電熱線に対し電力を供給するリード線を有する、ガス配管を加熱するジャケット型ヒータであって、
前記ガス配管に対する回転により生じる前記リード線に掛かるテンションを防止するため、前記回転を抑制する回転抑制手段が設けられていることを特徴とするジャケット型ヒータ。
【請求項8】
前記回転抑制手段は、回転抑制部を有し、
前記回転抑制部が固定部に固定されることで、前記回転を抑制する構造であり、
前記回転抑制部は、耐熱素材で構成される帯状部品であることを特徴とする請求項7に
記載のジャケット型ヒータ。
【請求項9】
内部の電熱線に対し電力を供給するリード線を有する、ガス配管を加熱するジャケット型ヒータの固定方法であって、
前記ジャケット型ヒータに設けられた回転抑制手段の回転抑制部の他端に設けられた固定具を固定部に固定する際、
前記ジャケット型ヒータの回転によって生じる回転変位が、以下の式2の関係となるように前記回転抑制部を固定することを特徴とするジャケット型ヒータの固定方法。
(式2) 前記ジャケット型ヒータの回転変位<前記ジャケット型ヒータの前記リード線の余裕長さ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ、ジャケット型ヒータおよびジャケット型ヒータの固定方法に関する。
詳しくは、真空ポンプの排気口や配管などに反応副生成物が固化、堆積するのを防止するために取り付けられるジャケット型ヒータが回転して、接続されているリード線(電線)の付け根部分にテンションが掛かることを防止することに関する。
【背景技術】
【0002】
配設される真空室内の真空排気処理を行うための真空ポンプは、種々のガスを排気するため、真空ポンプ内や配管の内部などに該ガスに起因する反応副生成物が不可避的に固化、堆積する。このような状態が発生し、放置すると真空ポンプの性能に種々の深刻な悪影響を及ぼすこととなる。
そこで、反応副生成物が堆積する恐れのある箇所をヒータで加熱して堆積を未然に防いでいる。特許文献1記載の発明は、真空ポンプをヒータで加熱して反応生成物の堆積を防止する技術に関する。
ところで、真空ポンプの配管は、通常円筒形であるため、図8に示すようなジャケット型ヒータ300(マントルヒータ)を後付けで巻き付けて固定し、該当箇所を加熱するようにしている。このジャケット型ヒータ300は、リード線(電熱線)600から給電を受け加熱するようになっている。このジャケット型ヒータ300を巻き付けて取り付ける際は、面ファスナー320で固定するため、比較的容易に着脱が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2020/255300号
【0004】
このように、ジャケット型ヒータ300は、面ファスナー320により取り付けられているため、面ファスナー320の設置面と配管の間は強固に固定されているわけではない。そのため、円周方向に容易に移動可能となっている。
なお、この面ファスナー320には、センサ線500やリード線600などの電線が接続されている。これらの電線は、面ファスナー320の円周方向への回転変位に対して、通常一定の余裕長さをもって接続されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ジャケット型ヒータ300が、円周方向に回転変位を起こした場合、電線の一定の余裕長さの範囲内であれば、問題は生じないが、余裕長さの範囲を越えて回転変位を起こした場合、電線の接続部分(ジャケット型ヒータ300と電線の接合部分)に張力(テンション)が掛かり、破損する可能性があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、ジャケット型ヒータの回転変位を抑制することで、ジャケット型ヒータの電線への張力の発生を防止する真空ポンプ、ジャケット型ヒータおよびジャケット型ヒータの固定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の本願発明では、ケーシングと、前記ケーシングに配置され、ガスを吸入または排気する為に用いられる配管部と、前記配管部に配置されるジャケット型ヒータと、を備えた真空ポンプにおいて、前記ジャケット型ヒータは、ヒータの電熱線に対し電力を供給するリード線を有し、前記配管部に対する回転により生じる前記リード線に掛かるテンションを防止するため、前記回転を抑制する回転抑制手段が設けられていることを特徴とする真空ポンプを提供する。
請求項2記載の本願発明では、前記回転抑制手段は、前記回転によって生じる回転変位が、以下の式1の関係となるように回転を規制していることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプを提供する。(式1)前記ジャケット型ヒータの回転変位<前記リード線の余裕長さ
請求項3記載の本願発明では、前記回転抑制手段は、回転抑制部を有し、前記回転抑制部が前記ケーシングに固定されることで、前記回転を抑制することを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプを提供する。
請求項4記載の本願発明では、前記ケーシングは、土台を構成するベース部と、それ以外の外装部とからなり、前記回転抑制部が前記ベース部に固定されていることを特徴とする請求項3に記載の真空ポンプを提供する。
請求項5記載の本願発明では、前記回転抑制部は、耐熱素材で構成される帯状部品であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の真空ポンプを提供する。
請求項6記載の本願発明では、前記帯状部品は、一端が前記ジャケット型ヒータに固定され、他端には前記ケーシングに対する固定具が設けられており、該固定具により固定されていることを特徴とする請求項5に記載の真空ポンプを提供する。
請求項7記載の本願発明では、内部の電熱線に対し電力を供給するリード線を有する、ガス配管を加熱するジャケット型ヒータであって、前記ガス配管に対する回転により生じる前記リード線に掛かるテンションを防止するため、前記回転を抑制する回転抑制手段が設けられていることを特徴とするジャケット型ヒータを提供する。
請求項8記載の本願発明では、前記回転抑制手段は、回転抑制部を有し、前記回転抑制部が固定部に固定されることで、前記回転を抑制する構造であり、前記回転抑制部は、耐熱素材で構成される帯状部品であることを特徴とする請求項7に記載のジャケット型ヒータを提供する。
請求項9記載の本願発明では、内部の電熱線に対し電力を供給するリード線を有する、ガス配管を加熱するジャケット型ヒータの固定方法であって、前記ジャケット型ヒータに設けられた回転抑制手段の回転抑制部の他端に設けられた固定具を固定部に固定する際、前記ジャケット型ヒータの回転によって生じる回転変位が、以下の式2の関係となるように前記回転抑制部を固定することを特徴とするジャケット型ヒータの固定方法を提供する。(式2)前記ジャケット型ヒータの回転変位<前記ジャケット型ヒータの前記リード線の余裕長さ
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ジャケット型ヒータの回転変位を抑制することができるので、ジャケット型ヒータの電線の取付部への張力の発生を防止し、断線による不具合を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るターボ分子ポンプの概略構成例を示した図である。
図2】本発明の実施形態で用いるアンプ回路の回路図を示した図である。
図3】本発明の実施形態における電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
図4】本発明の実施形態における電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
図5】本発明の実施形態に係るジャケット型ヒータを取り付けた状態を示した図である。
図6】本発明の実施形態に係るジャケット型ヒータの回転変位の規制を説明するための図である。
図7】本発明の実施形態に係るジャケット型ヒータを取り付けた状態を示した図である。
図8】本発明の実施形態で用いるジャケット型ヒータを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(i)実施形態の概要
本発明の実施形態に係るターボ分子ポンプ(真空ポンプ)では、ヒータスペーサ140に排気口133が設けられている。この排気口133に反応生成物が付着、堆積することを防止するためジャケット型ヒータ300が巻き付けられて配置されている。このジャケット型ヒータ300は、面ファスナー320により固定されているため、排気口133の円周方向に移動(回転変位)を起こしやすい。
【0011】
このジャケット型ヒータ300には、電力を供給するリード線600が回転変位に対して、所定の余裕長さで接続されている。ところが、この余裕長さを越えて回転変位が起こると、リード線600の付け根部分に張力(テンション)が掛かり、場合によっては破損してしまう恐れがある。そこで、ジャケット型ヒータ300に帯状のストラップ310を設け、このストラップ310の端部を固定具315により、例えばターボ分子ポンプ100のアウターウォール170に固定する。このストラップ310により、ジャケット型ヒータ300の一定以上の回転変位を規制することができ、リード線600の付け根部分に張力(テンション)が掛かることを防止することができる。
【0012】
(ii)実施形態の詳細
以下、本発明の好適な実施形態について、図1から図8を参照して詳細に説明する。
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を図1に示す。図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
【0013】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104の近接に、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応されて4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0014】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0015】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。係る調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0016】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0017】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0018】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0019】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0020】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0021】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。
【0022】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0023】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。
外筒127の下部にはヒータスペーサ140、アウターウォール170が設けられており、底部にはベース部129が配設されている。これらの外筒127、ヒータスペーサ140、アウターウォール170およびベース部129により、ターボ分子ポンプ100のケーシング(外郭)を形成している。このケーシングにより、ターボ分子ポンプ100内部の真空形成域と外気とを完全に遮断している。
ヒータスペーサ140には排気口133が配置され、外部に連通されている。ヒータスペーサ140には、ヒータ160が設置され、高温に維持されることにより、後述するネジ付スペーサ131を加熱する。
チャンバ側から吸気口101に入ってターボ分子ポンプ100内に移送されてきた排気ガスは、ヒータスペーサ140で加熱された状態で排気口133へと送られる。
そして、この排気口133には、内部を加熱して反応副生成物の堆積を防ぐため、ジャケット型ヒータ300が設置されている。
なお、排気口133は、ベース部129に配置するようにしてもよい。
【0024】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0025】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0026】
係る構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0027】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0028】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0029】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0030】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0031】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0032】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0033】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0034】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0035】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を図2に示す。
【0036】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0037】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0038】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0039】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0040】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0041】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0042】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(或いは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0043】
係る構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0044】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0045】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0046】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0047】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0048】
図5は、本実施形態に係るジャケット型ヒータを取り付けた状態を示した図である。
図1に示したように、ヒータスペーサ140に排気口133が配置されている。ヒータスペーサ140には、ヒータ160が設置され、ネジ付スペーサ131を加熱する。さらに、排気口133には、この排気口133内部でも反応副生成物が堆積するのを防ぐため、ジャケット型ヒータ300を巻き付けて取り付けてある。
排気口133は、ターボ分子ポンプ100のケーシング(外筒127、アウターウォール170およびベース部129)を貫通して(本実施形態ではアウターウォール170)、外部に連通(展延)している。
【0049】
このジャケット型ヒータ300は、展開時に帯状の形状をしており、面ファスナー320で固定されている。そのため、着脱は容易であるが、一方で排気口133の円周方向に簡単に移動(回転変位)してしまう。
ジャケット型ヒータ300には、センサ線500やリード線600が接続されており、リード線600により電力が供給されている。
ここで、センサ線500やリード線600は、ジャケット型ヒータ300の回転変位に対して、一定の余裕長さをもって接続されているが、それを越えて回転変位が生じた場合、その接続部分に張力(テンション)が掛かり、場合によっては破損する恐れがある。
【0050】
そこで、本実施形態では、ジャケット型ヒータ300の回転変位を一定の範囲内に抑制するために、帯状のストラップ310を設けている。
このストラップ310は、一端をジャケット型ヒータ300に縫い付けて固定されており、他端をアウターウォール170に固定具(ネジ)315で固定(ネジ止め)されている。ネジ止めする箇所は、できるだけ近い場所が好ましいが、外筒127やベース部129であってもよい(ケーシングの何れかの箇所であればよい)。
【0051】
ストラップ310の材料は、耐熱性と絶縁性を兼ね備えた材料を用いる。具体的には、テフロン(登録商標)フィルムの布やガラスクロスの布が挙げられる。また、ジャケット型ヒータ300と同一の材料を用いてもよい。さらに、金属製の材料を用いてもよい。
図5に示す実施形態では、単数のストラップ310を設けているが、複数のストラップ310を設けるようにしてもよい。
【0052】
このストラップ310とジャケット型ヒータ300の固定は、ジャケット型ヒータ300の端部に、回転の周方向と平行に縫い付けるのが好ましいが、例えば、両者に互いに係合する部材を設け、着脱自在に取り付けるようにしてもよい。
ストラップ310の他端、即ちケーシングと固定する箇所にはネジ止めまたはピン留めするための孔などを設けておくことが望ましい。そして、固定後、リジッドに固定するのではなく、若干の余裕をもって周方向に動くことが望ましい。
【0053】
図6は、本実施形態に係るジャケット型ヒータ300の回転変位の規制を説明する図である。
本実施形態に係る発明の目的が、ジャケット型ヒータ300のリード線600の取付部に掛かる張力(テンション)を防止することなので、リード線600の余裕長さは下記式(式1)の関係となるようにする。
ジャケット型ヒータの回転変位<リード線の余裕長さ・・・(式1)
【0054】
そして、ストラップ310の長さ(L)がより長くなれば、ストラップ310の回転可能角度(回転許容角度)Aは、より大きくなる関係にある。よって、ストラップ310の長さ(L)の長さを調節することで、ジャケット型ヒータ300の回転角度(回転変位)Bを調整可能となる。
よって、回転角度(回転変位)Bを許容できるリード線600の余裕長さLhとなるようにストラップ310の長さ(L)を調節する。こうすることで、ジャケット型ヒータの回転変位<リード線の余裕長さとなる。
【0055】
図7は、本実施形態に係るジャケット型ヒータ300の構造を示した図である。
ジャケット型ヒータ300には、センサ用コネクタ510からセンサ線500および電源コネクタ610からリード線600が接続されている。例えば、このリード線600は、耐熱250℃である。また、電源コネクタ610には、アース線700が設置されている。
このジャケット型ヒータ300には、ストラップ310が、縫製部390で縫い付けられている。ストラップ310の他端は、固定具(リベット)315でアウターウォール170に固定されている。
【0056】
センサ線500は、ジャケット型ヒータ300の内部の取付部で、ジャケット型ヒータ300に取り付けられており、引出部520から外部に展延している。また、リード線600は、ジャケット型ヒータ300の内部の取付部で、ジャケット型ヒータ300に取り付けられており、引出部620から外部に展延している。
本実施形態に係る発明は、この部分(取付部)に張力(テンション)が掛かることを防止している。
ジャケット型ヒータ300には、さらに、サーミスタ330やサーモスタット340が設けられている。また、外周部には、断熱樹脂フィルム360、その内側には断熱材370が配置されている。さらに、その内側には、ヒータとして加熱するための発熱線380およびガラスクロス385が配置されている。発熱線380は、リード線600からの電力供給を受けて発熱するようになっている。
【0057】
本実施形態は、ターボ分子ポンプ100の排気口133にジャケット型ヒータ300を取り付ける例を説明したが、これに限定されることはなく、例えば、真空ポンプと除害装置をつなぐ配管など、各種配管に応用することができる。
なお、本発明の実施形態および各変形例は、必要に応じて各々を組み合わせる構成にしてもよい。
【0058】
また、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができる。そして、本発明が当該改変されたものに及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0059】
100 ターボ分子ポンプ
101 吸気口
102 回転翼
102d 円筒部
103 回転体
113 ロータ軸
123 固定翼
125 固定翼スペーサ
127 外筒
129 ベース部
131 ネジ付スペーサ
131a ネジ溝
133 排気口
140 ヒータスペーサ
170 アウターウォール
200 制御装置
300 ジャケット型ヒータ
310 ストラップ
315 固定具
320 面ファスナー
500 センサ線
520 引出部
600 リード線
620 引出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8