(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090645
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】理想ダイオード用の半導体装置及び理想ダイオード装置
(51)【国際特許分類】
H03K 17/687 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
H03K17/687 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206670
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和智 貴嗣
【テーマコード(参考)】
5J055
【Fターム(参考)】
5J055AX21
5J055AX39
5J055AX64
5J055CX07
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5J055GX01
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5J055GX07
(57)【要約】
【課題】理想ダイオード装置において、負電圧の入力に対し適正に対応する。
【解決手段】入力電圧(Vin)が加わる入力端子(TM1)と、出力電圧(Vout)が加わる出力端子(TM2)と、基準電位(GND)が加わる基準電位端子(TM3)と、入力電圧及び出力電圧に基づき入力端子及び出力端子間に設けられた出力トランジスタのゲート電位を制御する制御回路(20)を備える。制御回路は半導体基板上の半導体集積回路により形成される。基板電位調整回路(30)は、入力電圧の電位が基準電位よりも高い第1状態において半導体基板の電位(SUB)を基準電位に設定し、入力電圧の電位が基準電位よりも低い第2状態において半導体基板の電位を入力電圧に応じて基準電位より低下させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電圧が加わるよう構成された入力端子と、
出力電圧が加わるよう構成された出力端子と、
基準電位が加わるよう構成された基準電位端子と、
前記入力電圧及び前記出力電圧に基づき、前記入力端子及び前記出力端子間に設けられた出力トランジスタのゲート電位を制御するよう構成された制御回路と、
基板電位調整回路と、を備え、
前記制御回路は、半導体基板上の半導体集積回路により形成され、
前記基板電位調整回路は、前記入力電圧の電位が前記基準電位よりも高い第1状態において、前記半導体基板の電位を前記基準電位に設定し、前記入力電圧の電位が前記基準電位よりも低い第2状態において、前記半導体基板の電位を前記入力電圧に応じて前記基準電位より低下させる
、理想ダイオード用の半導体装置。
【請求項2】
前記基板電位調整回路は、前記基準電位を有する第1ノードと前記半導体基板の電位を有する第2ノードとの間に設けられたスイッチング素子を有し、前記第1状態において前記スイッチング素子をオンとすることで前記半導体基板の電位を前記基準電位に設定し、前記第2状態において前記スイッチング素子をオフとし且つ前記半導体基板の電位を前記入力電圧に連動させる
、請求項1に記載の理想ダイオード用の半導体装置。
【請求項3】
前記基板電位調整回路は、前記第1ノード及び前記第2ノード間に設けられた抵抗と、前記第2ノード及び前記入力電圧の電位を有する第3ノードに接続され且つ前記第2ノードから前記第3ノードに向かう順方向を持つ整流素子と、を有し、
前記第2状態において前記半導体基板の電位は前記入力電圧の電位よりも前記整流素子の順方向電圧だけ高い
、請求項2に記載の理想ダイオード用の半導体装置。
【請求項4】
前記第1状態では、前記入力電圧が前記基準電位から見て所定の下限電圧以上高い
、請求項1~3の何れかに記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第2状態では、前記入力電圧が前記基準電位から見て規定電圧以上低い
、請求項1~3の何れかに記載の理想ダイオード用の半導体装置。
【請求項6】
前記制御回路は、前記入力電圧が前記出力電圧より高いとき、前記ゲート電位の制御を通じて前記出力トランジスタを導通させることで前記入力電圧に応じた前記出力電圧を発生させ、前記入力電圧が前記出力電圧より低いとき、前記ゲート電位の制御を通じて前記出力トランジスタをオフにする
、請求項1~3の何れかに記載の理想ダイオード用の半導体装置。
【請求項7】
前記制御回路は、前記入力電圧が前記出力電圧より高いとき、前記入力電圧及び前記出力電圧間の差が所定電圧に保たれるよう前記ゲート電位を制御する
、請求項6に記載の理想ダイオード用の半導体装置。
【請求項8】
請求項1~3の何れかに記載の理想ダイオード用の半導体装置と、
前記出力トランジスタと、を備えた
、理想ダイオード装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、理想ダイオード用の半導体装置及び理想ダイオード装置
に関する。
【背景技術】
【0002】
理想ダイオード装置が実用化されている。理想ダイオード装置では、入力電圧及び出力電圧に基づき出力トランジスタのゲート電位を制御することにより低損失で整流機能を実現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
制御回路を含む装置に対して0Vのグランド電位が与えられ、入力電圧は基本的に正の極性を持つ。しかしながら、バッテリの逆接続時などにおいて負の入力電圧が発生することもある。負電圧の入力に対して適正に対応することが求められる。
【0005】
本開示は、負電圧の入力に対して適正に対応することが可能な理想ダイオード用の半導体装置及び理想ダイオード装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る理想ダイオード用の半導体装置は、入力電圧が加わるよう構成された入力端子と、出力電圧が加わるよう構成された出力端子と、基準電位が加わるよう構成された基準電位端子と、前記入力電圧及び前記出力電圧に基づき、前記入力端子及び前記出力端子間に設けられた出力トランジスタのゲート電位を制御するよう構成された制御回路と、基板電位調整回路と、を備え、前記制御回路は、半導体基板上の半導体集積回路により形成され、前記基板電位調整回路は、前記入力電圧の電位が前記基準電位よりも高い第1状態において、前記半導体基板の電位を前記基準電位に設定し、前記入力電圧の電位が前記基準電位よりも低い第2状態において、前記半導体基板の電位を前記入力電圧に応じて前記基準電位より低下させる。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、負電圧の入力に対して適正に対応することが可能な理想ダイオード用の半導体装置及び理想ダイオード装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係る理想ダイオード装置の構成図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施形態に係る制御装置の外観斜視図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施形態に係り、制御装置に設けられる半導体チップの概略構成図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施形態に係り、負のパルス状電圧が印加されたときにおける入力電圧等の波形を示す図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施形態に属する第1実施例に係り、基板電位調整回路の構成図である。
【
図6】
図6は、本開示の実施形態に属する第1実施例に係り、プラス入力状態における基板電位調整回路の動作説明図である。
【
図7】
図7は、本開示の実施形態に属する第1実施例に係り、マイナス入力状態における基板電位調整回路の動作説明図である。
【
図8】
図8は、本開示の実施形態に属する第1実施例に係り、負パルス印加試験を行ったときの入力電圧及び基板電位の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態の例を、図面を参照して具体的に説明する。参照される各図において、同一の部分には同一の符号を付し、同一の部分に関する重複する説明を原則として省略する。尚、本明細書では、記述の簡略化上、情報、信号、物理量、機能部、回路、素子又は部品等を参照する記号又は符号を記すことによって、該記号又は符号に対応する情報、信号、物理量、機能部、回路、素子又は部品等の名称を省略又は略記することがある。
【0010】
まず、本開示の実施形態の記述にて用いられる幾つかの用語について説明を設ける。グランドとは、基準となる0V(ゼロボルト)の電位を有する基準導電部を指す。基準導電部は金属等の導体を用いて形成されて良い。本開示の実施形態において、特に基準を設けずに示される電圧はグランドから見た電位を表す。
【0011】
MOSFETを含むFET(電界効果トランジスタ)として構成された任意のトランジスタについて、オン状態とは、当該トランジスタのドレイン及びソース間が導通している状態を指し、オフ状態とは、当該トランジスタのドレイン及びソース間が非導通となっている状態(遮断状態)を指す。FETに分類されないトランジスタについても同様である。MOSFETは、特に記述無き限り、エンハンスメント型のMOSFETであると解される。MOSFETは“metal-oxide-semiconductor field-effect transistor”の略称である。また、特に記述なき限り、任意のMOSFETにおいて、バックゲートはソースに短絡されていると考えて良い。以下、任意のトランジスタについて、オン状態、オフ状態を、単に、オン、オフと表現することもある。
【0012】
任意の回路素子、配線、ノードなど、回路を形成する複数の部位間についての接続とは、特に記述なき限り、電気的な接続を指すと解して良い。
【0013】
対比されるべき任意の2つの電圧V1及びV2について、“V1>V2”は電圧V1が電圧V2よりも高いことを表し、“V1<V2”は電圧V1が電圧V2よりも低いことを表す。電圧以外の物理量を含む他の式についても同様である。
【0014】
図1に本実施形態に係る理想ダイオード装置1の構成を示す。理想ダイオード装置1は、いわゆる理想ダイオードを実現する装置である。理想ダイオード装置1は出力トランジスタM1及び制御装置10を備える。出力トランジスタM1はNチャネル型のMOSFETである。
図1に示されるダイオードD1は出力トランジスタM1に付加される寄生ダイオードである。寄生ダイオードD1は、出力トランジスタM1のソースからドレインに向かう向きに順方向を有する。
【0015】
制御装置10は、理想ダイオードを実現するための制御装置(理想ダイオード用の制御装置)である。出力トランジスタM1のゲート電位が制御装置10によって制御されることで出力トランジスタM1が実質的に理想ダイオードとして機能する。
【0016】
図2は制御装置10の外観斜視図である。
図3は制御装置10に設けられる半導体チップ40の概略構成図である。半導体チップ40は、半導体基板41と、半導体基板41上に形成された半導体集積回路42を有する。制御装置10は、半導体チップ40と、半導体チップ40を収容する筐体と、筐体から制御装置10の外部に対して露出する複数の外部端子と、を備えた半導体装置(理想ダイオード用の半導体装置)である。半導体チップ40を樹脂にて構成された筐体内に封入することで制御装置10が形成される。尚、
図2に示される制御装置10の外部端子の数及び制御装置10の筐体の種類は例示に過ぎず、それらを任意に設計可能である。
図1には、制御装置10に設けられる複数の外部端子の内、4つの外部端子である端子TM1~TM4が示される。これら以外の外部端子も制御装置10に設けられ得る。半導体基板41が有する電位を基板電位と称し、記号“SUB”にて参照する。
【0017】
端子TM1は入力端子である。端子TM1は入力配線WRinに接続される。入力配線WRinに入力電圧Vinが加わり、従って端子TM1に入力電圧Vinが加わる。
【0018】
端子TM2は出力端子(出力電圧印加端子)である。端子TM2は出力配線WRoutに接続される。出力配線WRoutに出力電圧Voutが加わり、従って端子TM2に出力電圧Voutが加わる。
【0019】
端子TM3はグランド端子である。端子TM3は0Vの基準電位を有するグランドに接続される。以下、0Vの基準電位をグランド電位と称し、記号“GND”にて参照する。尚、
図1には出力電圧Voutを受ける負荷LDも示される。負荷LDはグランド電位GNDを基準に出力電圧Voutに基づき駆動する。入力電圧Vinは原則として正の電圧を有し、基本的には正の直流電圧である(例外については後述)。以下では、特に記述無き限り、入力電圧Vinが後述の動作下限電圧VLより高いものとする(VL>0)。
【0020】
端子TM4はゲート接続端子である。端子TM4は出力トランジスタM1のゲートに接続される。出力トランジスタM1のソースは入力配線WRinに接続され、入力配線WRinを通じて端子TM1に接続される。故に、出力トランジスタM1のソースには入力電圧Vinが加わる。出力トランジスタM1のドレインは出力配線WRoutに接続され、出力配線WRoutを通じて端子TM2に接続される。故に、出力トランジスタM1のドレインには出力電圧Voutが加わる。
【0021】
尚、端子TM2は出力トランジスタM1のドレインに接続されるため、端子TM2をドレイン接続端子と称することもできる。端子TM1とは別に、出力トランジスタM1のソースに接続されるソース接続端子(不図示)を、外部端子の1つとして制御装置10に設けておいても良い。
【0022】
制御装置10は制御回路20及び基板電位調整回路30を備える。制御回路20は端子TM1、TM2及びTM4に接続される。制御回路20は、端子TM1の電圧(即ち入力電圧Vin)及び端子TM2の電圧(即ち出力電圧Vout)に基づき、端子TM4を通じて出力トランジスタM1のゲート電位を制御する。
【0023】
制御回路20は半導体集積回路42内に設けられる回路であり、半導体集積回路42内において基板電位SUBを有する配線に接続される。制御回路20はアンプ21、電圧発生回路22、昇圧回路23及びコンデンサ24を備える。
【0024】
昇圧回路23は端子TM1に接続され、入力電圧Vinを受ける。昇圧回路23は入力電圧Vinを昇圧することで入力電圧Vinより高いブート電圧Vbtを生成する。昇圧回路23は例えばチャージポンプ回路により構成される。ブート電圧Vbtと入力電圧Vinとの電位差は出力トランジスタM1のゲート閾電圧よりも高い。ブート電圧Vbtが加わる配線と端子TM1との間にコンデンサ24が設けられる。
図1ではコンデンサ24が制御装置10に内蔵されているが、コンデンサ24は制御装置10に外付け接続されていても良い。
【0025】
電圧発生回路22はアンプ21の反転入力端子と端子TM2との間に接続される。電圧発生回路22は、ブート電圧Vbt又は入力電圧Vinに基づき所定の電圧ΔVを発生させる。電圧ΔVは所定の正の直流電圧値(例えば数mV~数10mV)を有する。電圧発生回路22は電圧(Vout+ΔV)をアンプ21の反転入力端子に供給する。電圧(Vout+ΔV)は出力電圧Voutよりも電圧ΔVだけ高い電圧を表す。
【0026】
アンプ21は、非反転入力端子、反転入力端子及び出力端子を有する。上述したように、アンプ21の反転入力端子には電圧(Vout+ΔV)が供給される。アンプ21の非反転入力端子は端子TM1に接続される。従って、アンプ21の非反転入力端子には入力電圧Vinが供給される。アンプ21の出力端子は端子TM4に接続され、従って端子TM4を通じて出力トランジスタM1のゲートに接続される。
【0027】
アンプ21は入力電圧Vinと電圧(Vout+ΔV)とを比較し、比較結果に基づき自身の出力端子と出力トランジスタM1のゲートとの間で電流を入出力することにより出力トランジスタM1のゲート電位を制御する。アンプ21はトランスコンダクタンスアンプであって良い。アンプ21は、“Vin>Vout+ΔV”であるときには出力トランジスタM1のゲート電位が上昇するように、且つ、“Vin<Vout+ΔV”であるときには出力トランジスタM1のゲート電位が低下するように、出力トランジスタM1のゲート電位を制御する。負荷LDが一定電力を消費しているとの前提の下、出力トランジスタM1のゲート電位の上昇は出力電圧Voutの上昇をもたらし、出力トランジスタM1のゲート電位の低下は出力電圧Voutの低下をもたらす。このため、アンプ21により入力電圧Vin及び出力電圧Vout間の差が所定の電圧ΔVに保たれることになる。
【0028】
つまり、入力電圧Vinが出力電圧Voutより高いとき(詳細には出力電圧Voutより電圧ΔV以上高い電圧が入力電圧Vinとして端子TM1に加わったとき)、アンプ21は、出力トランジスタM1のゲート電位の制御を通じて出力トランジスタM1のドレイン及びソース間を導通させることで入力電圧Vinに応じた出力電圧Voutを発生させる。このとき、アンプ21は、入力電圧Vin及び出力電圧Vout間の差が所定の電圧ΔVに保たれるよう、出力トランジスタM1のゲート電位を制御する。これにより、入力電圧Vinに基づく電流を低損失で負荷LDに供給することができる。
【0029】
一方、アンプ21は、入力電圧Vinが出力電圧Voutより低いときには、出力トランジスタM1のゲート電位の制御を通じて出力トランジスタM1をオフ状態とする。これにより、出力配線WRoutから入力配線WRinへ向かう電流(いわゆる逆流電流)を抑止できる。
【0030】
アンプ21には、正側の電源電圧としてブート電圧Vbtが供給され、負側の電源電圧として入力電圧Vinが供給される。これらの電源電圧に基づき、アンプ21は出力トランジスタM1のゲート電位を入力電圧Vinからブート電圧Vbtまでの範囲内で制御できる。出力トランジスタM1のゲート電位を入力電圧Vinの電位又はそれに近い電位に制御すれば出力トランジスタM1はオフとなる、即ち出力トランジスタM1のドレイン及びソース間は遮断される。出力トランジスタM1のゲート電位をブート電圧Vbtの電位又はそれに近い電位に制御すれば出力トランジスタM1はオンとなる、即ち出力トランジスタM1のドレイン及びソース間は導通する。
【0031】
尚、出力トランジスタM1に流れる電流の値を所定の過電流閾値以下に制限する過電流リミッタ機能が制御回路20に設けられていて良い。過電流リミッタ機能に係る制御回路20は、出力トランジスタM1に流れる電流の値を検出し、検出値が過電流閾値を超えることが無いよう、出力トランジスタM1のゲート電位を制御する。
【0032】
制御装置10の仕様において入力電圧Vinの範囲が定められている。仕様にて定められた入力電圧Vinの範囲は動作下限電圧VLから動作上限電圧VHまでの範囲である。動作下限電圧VLは正の所定電圧(例えば1V)であり、動作上限電圧VHは動作下限電圧VLより高い。制御装置10は“VL≦Vin≦VH”を満たす入力電圧Vinが供給されたときに正常動作し、アンプ21、電圧発生回路22及び昇圧回路23に関して上述した動作は正常動作に属する。但し、“VL≦Vin≦VH”が不成立であっても、入力電圧Vinによっては正常動作が実現され得る。
【0033】
入力電圧Vinは理想ダイオード装置1の外部に設けられた電圧源(不図示)から供給される。理想ダイオード装置1及び負荷LDは自動車等の車両に搭載されて良く、この場合、当該電圧源は車両に設けられたバッテリであり得る。車載用のECU(Electronic Control Unit)に関し、ISO7637の規定に沿ってECU機器からバッテリへの逆流を防止するため、TVS(Transient Voltage Suppressor)などの逆流防止回路が設けられることが一般的である。但し、逆流防止回路で生じる電圧ドロップは損失の増大要因となる。理想ダイオードの導入により損失軽減が図られる。
【0034】
上述の制御回路20及び出力トランジスタM1にて理想ダイオードを実現できる。ここで、本実施形態に係る制御装置10とは異なる構成である仮想構成について考察する。仮想構成に係る理想ダイオードは制御回路20及び出力トランジスタM1を備えるが、基板電位SUBがグランド電位GNDに固定されている。複数のMOSFETを含む多数の回路素子が半導体基板41上に集積化されることで制御回路20が構成され、制御回路20には本来の動作とは関係のない寄生ダイオード及び寄生トランジスタが多数存在する。制御回路20は基本的に基板電位SUBが制御回路20内の最低電位となることを前提に設計及び集積化されており、入力電圧Vinの電位が基板電位SUB以上であれば寄生ダイオード及び寄生トランジスタが動作することは無い。
【0035】
仮想構成において負の入力電圧Vinが加わる場合を考える。仮想構成において入力電圧Vinが基板電位SUBよりも低くなると、それらの電位差にもよるが、制御回路20内の寄生ダイオード及び寄生トランジスタが動作する。寄生ダイオード及び寄生トランジスタの動作は、制御回路20の構成上、発生してはならない動作であり、寄生ダイオード及び寄生トランジスタの動作によって制御回路20の構造に不可逆的な悪影響が生じ得る。
【0036】
他方、車載機器に対する規定において各電子機器及び各電子部品に負の入力電圧に対する耐性が要求される。車載機器に対する規定の充足又は不充足は負パルス印加試験にて評価される。負パルス印加試験では、入力配線WRinに負のパルス状電圧が印加される。入力配線WRinにおける電圧が0Vよりも十分に高い状態を起点に、入力配線WRinに対して負のパルス状電圧が印加されたときの入力電圧Vin及びブート電圧Vbtの波形を、
図4に示す。入力配線WRinに接続されるクランプ回路(不図示)の機能により、負のパルス状電圧が印加されたときにおける入力電圧Vinの最低電位を、クランプ電圧Vclpに制限することができる(“Vclp<0”)。しかしながら、クランプ電圧Vclpの分、入力電圧Vinの電位がグランド電位GNDよりも低くなるため、仮想構成では寄生ダイオード及び寄生トランジスタの動作による影響が懸念される。尚、負のパルス状電圧の印加中においても、コンデンサ24の蓄積電荷に基づき、ブート電圧Vbtは入力電圧Vinよりも高く維持されることが見込まれる。
【0037】
制御回路10には負の入力電圧Vinに対応するために基板電位調整回路30が設けられる。基板電位調整回路30は端子TM1及びTM3に接続されると共に半導体基板41に接続される。このため、基板電位調整回路30には、入力電圧Vinの電位と、グランド電位GNDと、基板電位SUBと、が加わる。
【0038】
入力電圧Vinの電位がグランド電位GNDよりも高い状態(以下、プラス入力状態と称する)において、基板電位調整回路30は基板電位SUBをグランド電位GNDに設定する。一方、入力電圧Vinの電位がグランド電位GNDよりも低い状態(以下、マイナス入力状態と称する)において、基板電位調整回路30は基板電位SUBを入力電圧Vinに応じてグランド電位GNDよりも低下させる。
【0039】
これにより、負電圧の入力に対して適正に対応することが可能となる。具体的には、負の入力電圧Vinが印加されたとしても、制御回路20内の寄生ダイオード及び寄生トランジスタが動作することが抑制され、制御回路20の構造に不可逆的な悪影響が生じるといったことが回避される。
【0040】
以下、複数の実施例の中で、理想ダイオード装置1に関わる具体的な構成例及び変形技術等を説明する。本実施形態にて上述した事項は、特に記述無き限り且つ矛盾無き限り、以下の各実施例に適用される。各実施例において、上述の事項と矛盾する事項がある場合には、各実施例での記載が優先されて良い。また矛盾無き限り、以下に示す複数の実施例の内、任意の実施例に記載した事項を、他の任意の実施例に適用することもできる(即ち複数の実施例の内の任意の2以上の実施例を組み合わせることも可能である)。
【0041】
<<第1実施例>>
第1実施例を説明する。
図5に第1実施例に係る基板電位調整回路30の構成を示す。
図5の基板電位調整回路30は、スイッチング素子としてのトランジスタ31と、整流素子としてのダイオード32と、抵抗33~35と、を備える。トランジスタ31はNチャネル型のMOSFETである。
【0042】
図5に示されるノードND3は端子TM1(
図1参照)に接続される。故にノードND3は入力電圧Vinの電位を有する。抵抗34の第1端はノードND3に接続され、抵抗34の第2端は抵抗35の第1端に接続されると共にトランジスタ31のゲートに接続される。抵抗35の第2端はグランドに接続される。即ち、抵抗35の第2端は端子TM3(
図1参照)に接続され、故に抵抗35の第2端はグランド電位GNDを有する。抵抗34及び35により入力電圧Vinの分圧が得られ、得られた分圧がトランジスタ31のゲートに加わる。
【0043】
トランジスタ31のドレイン及び抵抗33の第1端はノードND1に接続される。ノードND1はグランドに接続され、グランド電位GNDを有する。即ち、トランジスタ31のドレイン及び抵抗33の第1端は端子TM3(
図1参照)に接続され、故にトランジスタ31のドレイン及び抵抗33の第1端にはグランド電位GNDが加わる。
【0044】
トランジスタ31のソース及び抵抗33の第2端はノードND2に接続される。ノードND2は半導体基板41(
図3参照)に接続される。従って、ノードND2は基板電位SUBを有する。
【0045】
ダイオード32のアノードはノードND2に接続される。ダイオード32のカソードはノードND3に接続される。短絡されたゲート及びソースを有するMOSFETの寄生ダイオードにてダイオード32を形成しても良い。
【0046】
図6を参照し、入力電圧Vinが正の電圧Vpであるときの基板電位調整回路30の動作を説明する。電圧Vpは上述の動作下限電圧VL以上である。即ち、電圧Vpはグランド電位GNDから見て動作下限電圧VL以上高い。“Vin=Vp”である状態は上述のプラス入力状態に属する。
【0047】
“Vin=Vp”であるとき、トランジスタ31のゲート及びソース間電圧(ソース電位から見たゲート電位)がトランジスタ31のゲート閾電圧以上となり、トランジスタ31がオン状態となる。このため、“Vin=Vp”であるときには、基板電位SUBはグランド電位GNDと同じとなる。
【0048】
図7を参照し、入力電圧Vinが負の電圧Vmであるときの基板電位調整回路30の動作を説明する。ここで、電圧Vmはグランド電位GNDから見て規定電圧以上低い。規定電圧はダイオード32の順方向電圧より大きい正の所定電圧値(例えば1.0V)を持つ。従って、電圧Vmの大きさはダイオード32の順方向電圧Vfより大きい。“Vin=Vm”である状態は上述のマイナス入力状態に属する。
【0049】
“Vin=Vm”であるとき、トランジスタ31のゲート電位が負になることでトランジスタ31がオフ状態となる。“Vin=Vm”であるとき、グランドから抵抗33及びダイオード32を介しノードND3に向けて電流が流れ、結果、基板電位SUBは入力電圧Vinよりダイオード32の順方向電圧Vfだけ高い電位となる。つまり、マイナス入力状態においては、トランジスタ31がオフとされた上で基板電位SUBが入力電圧Vinに連動し、入力電圧Vinの低下につれて基板電位SUBも低下することになる。
【0050】
図8に、第1実施例に係る理想ダイオード装置1に対して上述の負パルス印加試験を行ったときの入力電圧Vin及び基板電位SUBの波形を示す。但し、両者の波形を区別して図示するために、
図8では両者の波形を左右方向に若干ずらして示している。プラス入力状態では基板電位SUBが0Vのグランド電位GNDと一致するが、マイナス入力状態において基板電位SUBが入力電圧Vinに追従して負の電位を持つことが分かる。
【0051】
<<第2実施例>>
第2実施例を説明する。出力トランジスタM1が制御装置10の外部に設けられる構成を上述したが、出力トランジスタM1を制御装置10に内蔵させても良い。出力トランジスタM1が制御装置10に内蔵される場合、制御装置10が単体で理想ダイオード装置として機能する。また、出力トランジスタM1が制御装置10に内蔵される場合、端子TM4は制御装置10内に設けられる内部端子であると解される。
【0052】
<<第3実施例>>
第3実施例を説明する。
【0053】
上述されたFET(電界効果トランジスタ)のチャネルの種類は例示である。上述の主旨を損なわない形で、任意のFETのチャネルの種類はPチャネル型及びNチャネル型間で変更され得る。
【0054】
従って例えば、出力トランジスタM1をPチャネル型のMOSFETにて構成しても良い。出力トランジスタM1をPチャネル型のMOSFETにて構成する場合、アンプ21は、“Vin>Vout+ΔV”であるときには出力トランジスタM1のゲート電位が低下するように、且つ、“Vin<Vout+ΔV”であるときには出力トランジスタM1のゲート電位が上昇するように、出力トランジスタM1のゲート電位を制御すれば良い。また、出力トランジスタM1をPチャネル型のMOSFETにて構成する場合、昇圧回路23及びコンデンサ24は不要である。
【0055】
車載機器に対する規定を例に挙げて負の入力電圧Vinへの対応の必要性を上述したが、本実施形態に係る理想ダイオード装置1及び制御装置10は、車載用途に限らず、任意の用途に適用可能である。
【0056】
不都合が生じない限り、上述の任意のトランジスタは、任意の種類のトランジスタであって良い。例えば、MOSFETとして上述された任意のトランジスタを、不都合が生じない限り、接合型FET、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)又はバイポーラトランジスタに置き換えることも可能である。任意のトランジスタは第1電極、第2電極及び制御電極を有する。FETにおいては、第1及び第2電極の内の一方がドレインで他方がソースであり且つ制御電極がゲートである。IGBTにおいては、第1及び第2電極の内の一方がコレクタで他方がエミッタであり且つ制御電極がゲートである。IGBTに属さないバイポーラトランジスタにおいては、第1及び第2電極の内の一方がコレクタで他方がエミッタであり且つ制御電極がベースである。
【0057】
本開示の実施形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。以上の実施形態は、あくまでも、本開示の実施形態の例であって、本開示ないし各構成要件の用語の意義は、以上の実施形態に記載されたものに制限されるものではない。上述の説明文中に示した具体的な数値は、単なる例示であって、当然の如く、それらを様々な数値に変更することができる。
【0058】
<<付記>>
上述の実施形態にて具体的構成例が示された本開示について付記を設ける。
【0059】
本開示の一側面に係る理想ダイオード用の半導体装置(10)は、入力電圧(Vin)が加わるよう構成された入力端子(TM1)と、出力電圧(Vout)が加わるよう構成された出力端子(TM2)と、基準電位(GND)が加わるよう構成された基準電位端子(TM3)と、前記入力電圧及び前記出力電圧に基づき、前記入力端子及び前記出力端子間に設けられた出力トランジスタ(M1)のゲート電位を制御するよう構成された制御回路(20)と、基板電位調整回路(30)と、を備え、前記制御回路は、半導体基板(41)上の半導体集積回路(42)により形成され、前記基板電位調整回路は、前記入力電圧の電位が前記基準電位よりも高い第1状態(プラス入力状態)において、前記半導体基板の電位(SUB)を前記基準電位に設定し、前記入力電圧の電位が前記基準電位よりも低い第2状態(マイナス入力状態)において、前記半導体基板の電位を前記入力電圧に応じて前記基準電位より低下させる構成(第1の構成)である。
【0060】
これにより負電圧の入力に対して適正に対応することが可能となる。具体的には、基準電位から見て負の入力電圧が供給されたとしても、制御回路内の寄生ダイオード及び寄生トランジスタが動作することが抑制される。結果、それらの動作に基づく望ましくない影響が抑止される。
【0061】
上記第1の構成に係る理想ダイオード用の半導体装置において、前記基板電位調整回路は、前記基準電位を有する第1ノード(ND1)と前記半導体基板の電位を有する第2ノード(ND2)との間に設けられたスイッチング素子(31)を有し、前記第1状態において前記スイッチング素子をオンとすることで前記半導体基板の電位を前記基準電位に設定し、前記第2状態において前記スイッチング素子をオフとし且つ前記半導体基板の電位を前記入力電圧に連動させる構成(第2の構成)であっても良い。
【0062】
上記第2の構成に係る理想ダイオード用の半導体装置において、前記基板電位調整回路は、前記第1ノード及び前記第2ノード間に設けられた抵抗(33)と、前記第2ノード及び前記入力電圧の電位を有する第3ノード(ND3)に接続され且つ前記第2ノードから前記第3ノードに向かう順方向を持つ整流素子(32)と、を有し、前記第2状態において前記半導体基板の電位は前記入力電圧の電位よりも前記整流素子の順方向電圧だけ高い構成(第3の構成)であっても良い。
【0063】
これにより、簡素な構成にて、基板電位調整回路における所望の機能を実現できる。
【0064】
上記第1~第3の構成の何れかに係る理想ダイオード用の半導体装置において、前記第1状態では、前記入力電圧が前記基準電位から見て所定の下限電圧(VL)以上高い構成(第4の構成)であっても良い。
【0065】
上記第1~第4の構成の何れかに係る理想ダイオード用の半導体装置において、前記第2状態では、前記入力電圧が前記基準電位から見て規定電圧以上低い構成(第5の構成)であっても良い。
【0066】
上記第1~第5の構成の何れかに係る理想ダイオード用の半導体装置において、前記制御回路は、前記入力電圧が前記出力電圧より高いとき、前記ゲート電位の制御を通じて前記出力トランジスタを導通させることで前記入力電圧に応じた前記出力電圧を発生させ、前記入力電圧が前記出力電圧より低いとき、前記ゲート電位の制御を通じて前記出力トランジスタをオフにする構成(第6の構成)であっても良い。
【0067】
上記第6の構成に係る理想ダイオード用の半導体装置において、前記制御回路は、前記入力電圧が前記出力電圧より高いとき、前記入力電圧及び前記出力電圧間の差が所定電圧(ΔV)に保たれるよう前記ゲート電位を制御する構成(第7の構成)であっても良い。
【0068】
本開示の一側面に係る理想ダイオード装置は、上記第1~第7の構成の何れかに係る理想ダイオード用の半導体装置と、前記出力トランジスタと、を備えた構成(第8の構成)である。
【符号の説明】
【0069】
1 理想ダイオード装置
10 制御装置
20 制御回路
21 アンプ
22 電圧発生回路
23 昇圧回路
24 コンデンサ
30 基板電位調整回路
31 トランジスタ
32 ダイオード
33~35 抵抗
40 半導体チップ
41 半導体基板
42 半導体集積回路
M1 出力トランジスタ
D1 寄生ダイオード
TM1~TM4 端子
Vin 入力電圧
Vout 出力電圧
WRin 入力配線
WRout 出力配線
LD 負荷
GND グランド電位
SUB 基板電位
ND1~ND3 ノード