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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090649
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】アクリルゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/02 20060101AFI20240627BHJP
   C08K 5/31 20060101ALI20240627BHJP
   C08K 5/3465 20060101ALI20240627BHJP
   C08L 39/02 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C08L9/02
C08K5/31
C08K5/3465
C08L39/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206677
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】森田 貴大
(72)【発明者】
【氏名】平戸 元基
(72)【発明者】
【氏名】平井 亮
(72)【発明者】
【氏名】野田 将司
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC071
4J002BG041
4J002BJ002
4J002ER026
4J002EU136
4J002FD142
4J002FD156
4J002GJ02
4J002GM01
4J002GQ01
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】二次架橋を施さなくても、耐圧縮永久歪み性に優れ、貯蔵安定性にも優れるアクリルゴム組成物を提供する。
【解決手段】下記(A)~(C)成分を含有し、(A)成分100質量部に対する(B)成分の含有量が1~10質量部であり、(C)成分に対する(B)成分の含有量比(B/C)が0.8~5.9である、アクリルゴム組成物。
(A)カルボキシ基含有アクリルゴム。
(B)グアニジン骨格またはアミジン骨格を有する架橋促進剤。
(C)数平均分子量600~10000の分岐状ポリアミン化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(C)成分を含有し、(A)成分100質量部に対する(B)成分の含有量が1~10質量部であり、(C)成分に対する(B)成分の含有量比(B/C)が0.8~5.9である、アクリルゴム組成物。
(A)カルボキシ基含有アクリルゴム。
(B)グアニジン骨格またはアミジン骨格を有する架橋促進剤。
(C)数平均分子量600~10000の分岐状ポリアミン化合物。
【請求項2】
上記(C)成分が、数平均分子量600~5000の分岐状ポリアミン化合物である、請求項1記載のアクリルゴム組成物。
【請求項3】
上記(C)成分が、分岐状ポリアルキレンイミンである、請求項1または2記載のアクリルゴム組成物。
【請求項4】
上記(C)成分のアミン価が、18~20mmol/gである、請求項3記載のアクリルゴム組成物。
【請求項5】
上記(B)成分が、1,3-ジ-o-トリルグアニジンである、請求項1または2記載のアクリルゴム組成物。
【請求項6】
上記(B)成分が、ジアザビシクロウンデセンまたはその塩である、請求項1または2記載のアクリルゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルゴム組成物に関する。より詳細には、二次架橋を施さなくても、耐圧縮永久歪み性および貯蔵安定性に優れるアクリルゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルゴムは、耐熱性、耐油性、機械的特性、耐圧縮永久歪み性等の物性に優れているため、例えば、これらの特性が強く要求されている自動車用関連部品、例えば、ホース部品、シール部品、防振ゴム部品等の材料として広く活用されている。
【0003】
このようなアクリルゴムの優れた特性を十分に発現させるため、その架橋工程においては、原料であるアクリルゴム組成物に対して一次架橋を施した後、更に二次架橋を施すのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。とりわけ、二次架橋を施さない場合、架橋反応が不十分になる傾向があり、未反応残渣に起因する架橋反応が進展し、耐圧縮永久歪み性を満足させることが困難であるため、二次架橋を施すことは特に重要である。したがって、アクリルゴムの製造現場においては、耐圧縮永久歪み性を向上させる観点から、スチーム架橋、インジェクション架橋、プレス架橋などの一次架橋を施した後、オーブン等を用いて二次架橋を施しているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2003/004563号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような二段階の架橋を施す場合、二次架橋を施すための設備投資や製造工数の増加に伴って製造コストが高まる。しかも、二段階の架橋を施す場合、一段階の架橋に比して熱エネルギーを多量に消費するため、経済的に不利であるばかりか、近年の脱炭素化やカーボンニュートラルの要請に十分に応えることができない。
【0006】
また、一般に、アクリルゴムはスコーチタイムが比較的短い傾向があるため、アクリルゴムの製造工程においては、ハンドリング性の低下や成形不良が発生する頻度が高まる等の課題もある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、二次架橋を施さなくても、耐圧縮永久歪み性に優れ、貯蔵安定性にも優れるアクリルゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記事情に鑑みて、耐圧縮永久歪み性を向上させる観点から、架橋剤および架橋促進剤に着目して鋭意研究を重ねた。その研究過程において、カルボキシ基含有アクリルゴムに対して、分岐状ポリアミン化合物と、グアニジン骨格またはアミジン骨格を有する架橋促進剤とを併用することにより、一次架橋後の耐圧縮永久歪み性を向上し得ることを知得した。本発明者らは、かかる知見に基づいて更に研究を重ねた結果、分岐状ポリアミン化合物のなかでも特定分子量の分岐状ポリアミン化合物と、グアニジン骨格またはアミジン骨格を有する架橋促進剤とを特定の含有割合で併用することにより、上記耐圧縮永久歪み性に優れると共に、貯蔵安定性にも優れるアクリルゴム組成物が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]を、その要旨とする。
[1]
下記(A)~(C)成分を含有し、(A)成分100質量部に対する(B)成分の含有量が1~10質量部であり、(C)成分に対する(B)成分の含有量比(B/C)が0.8~5.9である、アクリルゴム組成物。
(A)カルボキシ基含有アクリルゴム。
(B)グアニジン骨格またはアミジン骨格を有する架橋促進剤。
(C)数平均分子量600~10000の分岐状ポリアミン化合物。
[2]
上記(C)成分が、数平均分子量600~5000の分岐状ポリアミン化合物である、[1]記載のアクリルゴム組成物。
[3]
上記(C)成分が、分岐状ポリアルキレンイミンである、[1]または[2]記載のアクリルゴム組成物。
[4]
上記(C)成分のアミン価が、18~20mmol/gである、[3]記載のアクリルゴム組成物。
[5]
上記(B)成分が、1,3-ジ-o-トリルグアニジンである、[1]~[4]のいずれかに記載のアクリルゴム組成物。
[6]
上記(B)成分が、ジアザビシクロウンデセンまたはその塩である、[1]~[4]のいずれかに記載のアクリルゴム組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐圧縮永久歪み性に優れ、貯蔵安定性にも優れるアクリルゴム組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態について詳しく説明する。但し、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0012】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」または「メタクリル」を示すものである。
【0013】
本発明の一実施形態に係るアクリルゴム組成物(以下、「本アクリルゴム組成物」という場合がある)は、(A)~(C)成分を含有し、(A)成分100質量部に対する(B)成分の含有量が1~10質量部であり、(C)成分に対する(B)成分の含有量比(B/C)が0.8~5.9であることを特徴とする。
(A)カルボキシ基含有アクリルゴム。
(B)グアニジン骨格またはアミジン骨格を有する架橋促進剤。
(C)数平均分子量600~10000の分岐状ポリアミン化合物。
【0014】
本アクリルゴム組成物は、特定の(A)~(C)成分を、特定含有割合で配合することにより、貯蔵安定性に優れるものとなる。そして、本アクリルゴム組成物を架橋して得られた硬化物は、耐圧縮永久歪み性に優れると共に、引張強度にも優れるものとなる。
【0015】
そして、本アクリルゴム組成物は、一次架橋を施した後、二次架橋を省略したとしても(二次架橋レス)、得られた硬化物は、耐圧縮永久歪み性および引張強度に優れるものとなる点において有用である。また、二段階架橋を施す場合に比べて、製造コストを削減することができ、更に、熱エネルギーの消費をも削減できるため、その有用性は高い。
とりわけ、アクリルゴムは耐熱性に優れるが故に、架橋反応を十分に促進するために多量の熱エネルギーを必要とする原料であるところ、本アクリルゴム組成物によれば、熱エネルギーの消費を大きく削減することによって、脱炭素化やカーボンニュートラルの要請に大きく寄与できる。かかる各観点から、本アクリルゴム組成物は、その技術的価値が高いのみならず、経済的ないし社会的価値も非常に高い。
【0016】
以下、本アクリルゴム組成物を構成する各成分について説明する。
【0017】
《(A)カルボキシ基含有アクリルゴム》
(A)カルボキシ基含有アクリルゴムは、カルボキシ基を架橋点に持つアクリルゴムであれば特に限定されず、従来公知のカルボキシ基含有アクリルゴムを適宜用いることができる。
【0018】
(A)カルボキシ基含有アクリルゴムとしては、例えば、少なくとも(メタ)アクリル酸エステル単位と、カルボキシ基含有モノマー単位とを有する重合体が挙げられる。
【0019】
上記(メタ)アクリル酸エステル単位は、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位である。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル等が挙げられる。
【0020】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、以下に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。
上記(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、以下に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-メトキシブチル等が挙げられる。
これらの(メタ)アクリル酸エステルは、単独または2種以上を併用することができる。
【0021】
上記(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は、特に限定されないが、(A)カルボキシ基含有アクリルゴムの総量基準において、例えば、40質量%以上であり、好ましくは45~99質量%であり、より好ましくは50~97質量%、更により好ましくは55~75質量%である。
【0022】
上記カルボキシ基含有モノマー単位は、カルボキシ基含有モノマーに由来する構成単位である。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2-ペンテン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、不飽和ジカルボン酸モノエステル等が挙げられる。
上記不飽和ジカルボン酸モノエステルとしては、例えば、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、マレイン酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘキシル等が挙げられる。より具体例には、マレイン酸モノn-ブチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、フマル酸モノn-ブチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノメチル等が挙げられる。
これらは、単独または2種以上を併用することができる。
【0023】
上記カルボキシ基含有モノマー単位の含有量は、特に限定されないが、(A)カルボキシ基含有アクリルゴムの総量基準において、例えば、0.5~10質量%、好ましくは1~7質量%である。
【0024】
(A)カルボキシ基含有アクリルゴムは、上記以外の他のモノマー単位を更に有していてもよい。他のモノマー単位としては、例えば、エチレン性不飽和化合物が挙げられる。エチレン性不飽和化合物としては、例えば、酢酸ビニル、アルキルビニルケトン、ビニルエチルエーテル、アリルメチルエーテル等のビニル又はアリルエーテル、スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン等のビニル芳香族化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル、アクリルアミド、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、エチレン、プロピオン酸ビニル、マレイン酸ジメチル等のマレイン酸ジエステル、フマル酸ジメチル等のフマル酸ジアルキルエステル、イタコン酸ジメチル等のイタコン酸ジアルキルエステル、シトラコン酸ジメチル等のシトラコン酸ジアルキルエステル、メサコン酸ジメチル等のメサコン酸ジアルキルエステル、2-ペンテン二酸ジメチル等の2-ペンテン二酸ジアルキルエステル、アセチレンジカルボン酸ジメチル等のアセチレンジカルボン酸ジアルキルエステル等のエチレン性不飽和化合物が挙げられる。
【0025】
また、上記他のモノマー単位として、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-オクテン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。これらのなかでも、耐熱性の観点から、エチレンが特に好ましい。
【0026】
(A)カルボキシ基含有アクリルゴムは、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、バルク重合法、溶液重合法等の公知の方法により製造される。また、開始剤、溶剤等も公知の成分の中から適宜選択して使用される。
【0027】
(A)カルボキシ基含有アクリルゴムとしては、(メタ)アクリル酸エステル単位、カルボキシ基含有モノマー単位、およびエチレン単位を有する重合体が好ましく(AEM系ゴム)、また、アクリル酸メチルまたはアクリル酸エチル、アクリル酸、およびエチレンを有するモノマー組成物を重合して得られる重合体が好ましい。
【0028】
(A)カルボキシ基含有アクリルゴムのムーニー粘度(100℃、ML1+4)は、特に限定されないが、例えば、10~70であり、好ましくは15~65、より好ましくは15~40である。なお、前記ムーニー粘度は、例えば、JIS K6300等に準じて測定される。
【0029】
(A)カルボキシ基含有アクリルゴムは、単独または2種以上を併用することができる。
【0030】
(A)カルボキシ基含有アクリルゴムの市販品としては、以下に限定されないが、例えば、デュポンエラストマー社製の「Vamac G」(AEM)、「Vamac GLS」(AEM)、日本ゼオン社製の「Nipol AR12」(ACM)等が挙げられる。
【0031】
本アクリルゴム組成物全量(100質量%)に対する(A)カルボキシ基含有アクリルゴムの含有量は、例えば、35質量%以上であり、40~80質量%が好ましく、より好ましくは42~70質量%、更により好ましくは45~65質量%である。
【0032】
《(B)グアニジン骨格またはアミジン骨格を有する架橋促進剤》
本アクリルゴム組成物は、架橋促進剤として、グアニジン骨格を有する架橋促進剤およびアミジン骨格を有する架橋促進剤の少なくとも一方を含有する。
【0033】
グアニジン骨格を有する架橋促進剤としては、例えば、グリニジン、アミノグアニジン、1-フェニルグアニジン、1,3-ジフェニルグアニジン、トリフェニルグアニジン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、1,1,3,3-テトラエチルグアニジン、1-ベンジル-2,3-ジメチルグアニジン、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、n-デシルグアニジン、メチロールグアニジン、ジメチロールグアニジン、シアノグアニジン、1,6-グアニジノヘキサン、グアニル尿素、ビグアニジド等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、1,3-ジ-o-トリルグアニジンが好適に用いられる。
【0034】
アミジン骨格を有する架橋促進剤としては、例えば、ジアザビシクロウンデセン(1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン-7)、ジアザビシクロノネン(1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン-5)、およびこれらの塩が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なかでも、ジアザビシクロウンデセンまたはその塩が好適に用いられる。
【0035】
(B)成分の含有量は、本発明の効果を奏する観点から、(A)カルボキシ基含有アクリルゴム100質量部に対して、1~10質量部の範囲に特定することが重要である。(B)成分の含有量が少なすぎると、耐圧縮永久歪み性が不十分になる傾向がある。また、(B)成分の含有量が多すぎると、貯蔵安定性が不十分になる傾向がある。
【0036】
《(C)分岐状ポリアミン化合物》
本アクリルゴム組成物は、架橋剤として、特定のポリアミン化合物を、特定の含有量比にて含有する。すなわち、本アクリルゴム組成物は、架橋剤として、(C)数平均分子量(Mn)が600~10000の分岐状ポリアミン化合物を含有し、更に当該(C)成分および(B)成分の含有量比(B/C)を0.8~5.9の範囲に特定することが重要である。
【0037】
(C)分岐状ポリアミン化合物は、前述のとおり、その数平均分子量(Mn)を、600~10000の範囲に特定することが重要である。本発明の効果を顕著に奏する観点からは、以下に限定はされないが、600~5000が好ましく、より好ましくは600~2500、更により好ましくは600~2000である。かかる数平均分子量(Mn)が高すぎると、架橋点の粗密差が大きくなり、引張強度や耐圧縮永久歪み性が不十分になる傾向がある。また、かかる数平均分子量(Mn)が低すぎると、毒性が発現するため安全性が低下する傾向がある。
なお、上記数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるものである。
【0038】
(C)成分の含有量に対する(B)成分の含有量比(B/C)は、0.8~5.9の範囲に特定することが重要である。(C)成分に対する(B)成分の含有量比(B/C)が小さすぎると、耐圧縮永久歪み性が不十分になる傾向がある。含有量比(B/C)が大きすぎると、貯蔵安定性が不十分になる傾向がある。
なお、上記含有量比(B/C)は0.8~5.9の範囲内において適宜設定することができ、例えば、以下に限定はされないが、含有量比(B/C)は、1~5.5、1.5~4等であってもよい。
【0039】
(C)分岐状ポリアミン化合物としては、特定の窒素原子部分で分岐が形成される分岐状ポリアルキレンイミンが好適である。とりわけ、特定の窒素原子部分(N1)から分岐する第1の分岐構造と、上記窒素原子部分(N1)から分岐した鎖に結合した他の窒素原子部分(N2)から更に分岐する第2の分岐構造を有する分岐状ポリアルキレンイミンが好適である。
【0040】
上記アルキレンイミンとしては、例えば、エチレンイミン、プロピレンイミン、1,2-ブチレンイミン、2,3-ブチレンイミン等のブチレンイミン、1,1-ジメチルエチレンイミン等が挙げられる。なかでも、エチレンイミン、プロピレンイミン、ブチレンイミンが好ましく、エチレンイミンが特に好ましい。
【0041】
分岐状ポリアルキレンイミン等の分岐状ポリアミン化合物の分岐の程度は、例えば、分子骨格中に存在する第1級アミノ基、第2級アミノ基および第3級アミノ基の比で表すこともできる。各アミノ基の比は、特に限定されないが、全体のアミノ基に対して、第1級アミノ基が30~45モル%、第2級アミノ基が35~45モル%、第3級アミノ基が20~35モル%であることが好ましい。特に、第1級アミノ基が30~40モル%、第2級アミノ基が30~40モル%、第3級アミノ基が25~35モル%が好ましい。
なお、アミノ基の存在比は、13C-NMR測定により得られたスペクトルから算出することができる。
【0042】
分岐状ポリアルキレンイミン等の分岐状ポリアミン化合物のアミン価は、特に限定はされないが、本発明の効果を顕著に奏する観点から、例えば、18~20mmol/gが好ましく、より好ましくは19~20mmol/gである。かかるアミン価が小さすぎると、十分な架橋反応速度が得られない傾向がある。また、かかるアミン価が大きすぎると、貯蔵安定性が低下する傾向がある。
なお、上記アミン価とは、例えば、分岐状ポリアルキレンイミン1gに含まれるアミノ基のモル数(mmol)である。例えば、ポリエチレンイミンのアミン価は、メタノール溶液中において0.5mol/Lのp-トルエンスルホン酸標準溶液を用いた電位差滴定によって算出することができる。
【0043】
(C)成分の含有量は、以下に限定されないが、例えば、(A)カルボキシ基含有アクリルゴム100質量部に対して、0.5~5質量部であり、1~4質量部が好ましく、より好ましくは1~3質量部である。
【0044】
《その他の成分》
本アクリルゴム組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、上記(A)~(C)成分以外に、充填剤、可塑剤、老化防止剤、加工助剤、シランカップリング剤、カルボキシ基含有アクリルゴム以外のゴム等の任意材料を必要に応じて配合してもよい。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0045】
(充填剤)
充填剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム等が挙げられる。なかでも、耐久性向上の観点から、カーボンブラック、シリカが好ましく、カーボンブラックが特に好ましい。
【0046】
カーボンブラックとしては、例えば、SAF級、ISAF級、HAF級、MAF級、FEF級、GPF級、SRF級、FT級、MT級等の種々のグレードのカーボンブラックが挙げられる。なかでも、FEF級のカーボンブラックが好ましい。
【0047】
カーボンブラックのBET比表面積は、特に限定されないが、例えば10~150m2/gであり、好ましくは15~100m2/g、より好ましくは20~80m2/gである。
なお、カーボンブラックのBET比表面積は、例えば、試料を200℃で15分間脱気した後、吸着気体として混合ガス(N2:70%、He:30%)を用いて、BET比表面積測定装置(マイクロデータ社製、4232-II)により測定することができる。
【0048】
カーボンブラックのヨウ素吸着量は、特に限定されないが、例えば、10~150mg/gであり、好ましくは20~100mg/g、より好ましくは20~65mg/gである。また、カーボンブラックのDBP(フタル酸ジブチル)吸収量は、特に限定されないが、例えば、20~180mL/100gであり、好ましくは60~150mL/100gである。
なお、カーボンブラックのヨウ素吸着量は、JIS K 6217-1(A法)に準拠して測定された値であり、カーボンブラックのDBP吸収量は、JIS K6217-4に準拠して測定された値である。
【0049】
充填剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、(A)カルボキシ基含有アクリルゴム100質量部に対して、40~150質量部が好ましく、より好ましくは50~120質量部、更により好ましくは60~100質量部である。
【0050】
(可塑剤)
可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、アジピン酸誘導体系可塑剤、アゼライン酸誘導体系可塑剤、セバシン酸誘導体系可塑剤、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル等が挙げられる。
【0051】
可塑剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、(A)カルボキシ基含有アクリルゴム100質量部に対して、5~30質量部であり、好ましくは8~25質量部であり、より好ましくは10~20質量部である。
【0052】
(老化防止剤)
老化防止剤としては、例えば、カルバメート系老化防止剤、フェニレンジアミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、フェニルアミン系老化防止剤、ジフェニルアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、ワックス類等が挙げられる。
【0053】
老化防止剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、(A)カルボキシ基含有アクリルゴム100質量部に対して、0.5~10質量部であり、好ましくは0.8~8質量部であり、より好ましくは1~5質量部である。
【0054】
(加工助剤)
加工助剤としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸、ステアリン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩、ステアリン酸アミド等の高級脂肪酸アミド、オレイン酸エチル等の高級脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0055】
加工助剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、(A)カルボキシ基含有アクリルゴム100質量部に対して、1~12質量部であり、好ましくは2~10質量部であり、より好ましくは3~8質量部である。
【0056】
なお、本アクリルゴム組成物には、本発明の効果を阻害しない限り、グアニジン骨格またはアミジン骨格を有する架橋促進剤を除く他の架橋促進剤を含有してもよいが、耐圧縮永久歪み性の観点から、チウラム系架橋促進剤は、実質的に含有しないことが好ましい。
【0057】
(アクリルゴム組成物の調製)
本アクリルゴム組成物は、例えば、(B)成分および(C)成分以外の成分を、ニーダーやバンバリーミキサー等の混練機を用いて混練した後、ロール等に移して、(B)成分および(C)成分を添加して混合することにより、調製することができる。
【0058】
(アクリルゴム組成物の架橋)
本アクリルゴム組成物の架橋工程は、一次架橋のみ(架橋を1回のみ)の一段階架橋とすることができる。例えば、従来のように、プレス架橋等による一次架橋の後に、オーブン架橋等による二次架橋を行わなくてもよい。但し、二次架橋を施すことを妨げるものではない。
一次架橋における加熱方法は、特に限定されないが、例えば、プレス架橋、スチーム架橋、オーブン架橋等が挙げられる。一次架橋における加熱温度は、例えば、140~180℃の範囲内で適宜設定することができる。また、一次架橋における加熱時間は、例えば、10~60分間の範囲内で適宜設定することができる。
【0059】
(本アクリルゴム組成物の一次架橋物)
本発明の実施形態としては、二次架橋を省略することが可能であるため、例えば、(A)~(C)成分を含有し、(A)成分100質量部に対する(B)成分の含有量が1~10質量部であり、(C)成分に対する(B)成分の含有量比(B/C)が0.8~5.9であるアクリルゴム組成物からなる一次架橋物(一次硬化物)が好適である。
【0060】
また、前記一次架橋物の圧縮永久歪み(%)は、60%未満であることが好ましい。なお、前記圧縮永久歪み(%)は、後記実施例に記載の方法により測定されるものである。
【0061】
また、前記一次架橋物の引張強度(MPa)は、9.0MPaを超えるものであることが好ましい。なお、前記引張強度(MPa)は、後記実施例に記載の方法により測定されるものである。
【0062】
また、前記アクリルゴム組成物のムーニースコーチ時間(t5)は、3.0分間を超えるものが好ましい。なお、前記ムーニースコーチ時間(t5)は、後記実施例に記載の方法により測定されるものである。
【0063】
(一次架橋のみを行う製造方法)
また、本発明は、他の実施形態として、二次架橋を省略することが可能であるため、一次架橋のみを行う製造方法を提供するものである。すなわち、(A)~(C)成分を含有し、(A)成分100質量部に対する(B)成分の含有量が1~10質量部であり、(C)成分に対する(B)成分の含有量比(B/C)が0.8~5.9であるアクリルゴム組成物を調製する工程と、前記アクリルゴム組成物を温度140~180℃、10~60分間の条件下において加熱する一次架橋工程とを有する、アクリルゴム(硬化物)の製造方法である。上記製造工程は、二次架橋工程を有さないものとすることができる。
【0064】
(用途)
本アクリルゴム組成物および架橋物(硬化物)の用途は、特に限定されないが、例えば、燃料ホース、フィラーネックホース、ベントホース、ベーパーホース、オイルホース等の燃料タンク等の燃料油系ホース、ターボエアーホース、ミッションコントロールホース等のエアー系ホース、ラジエターホース、ヒーターホース、ブレーキホース、エアコンホース等の各種ホース類に好適に用いられる。
また、例えば、O-リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシース、メカニカルシール、ウエルヘッドシール、電気・電子機器用シール、空気圧縮機器用シール等のシール材;シリンダブロックとシリンダヘッドとの連結部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダヘッドあるいはトランスミッションケースとの連結部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板および負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着された燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケット等の各種ガスケット;緩衝材、防振材;電線被覆材;工業用ベルト類;シート類;等として好適に用いられる。
【実施例0065】
次に、実施例について比較例と併せて説明する。但し、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0066】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
【0067】
<(A)カルボキシ基含有アクリルゴム>
・カルボキシ基含有アクリルゴム(a1)
ACM:日本ゼオン社製、Nipol AR12
・カルボキシ基含有アクリルゴム(a2)
AEM:デュポン社製、VAMAC GLS
【0068】
<(B)架橋促進剤>
・グアニジン骨格含有架橋促進剤(b1)
1,3-ジ-o-トリルグアニジン:三新化学工業社製、サンセラー DT
・アミジン骨格含有架橋促進剤(b2)
ジアザビシクロウンデセン:Safic Alcan社製、VULCOFAC ACT55
【0069】
<(C)架橋剤>
・分岐状ポリアミン化合物(c1)
分岐状ポリエチレンイミン:日本触媒社製、エポミン SP-006、数平均分子量600
・分岐状ポリアミン化合物(c2)
分岐状ポリエチレンイミン:日本触媒社製、エポミン SP-018、数平均分子量1800
・分岐状ポリアミン化合物(c3)
分岐状ポリエチレンイミン:日本触媒社製、エポミン SP-200、数平均分子量10000
・分岐状ポリアミン化合物(c’1)
分岐状ポリエチレンイミン:日本触媒社製、エポミン SP-1000、数平均分子量70000
・ヘキサメチレンジカーバメート(c’2)
Chemours社製、Viton VC-1
【0070】
<充填剤>
・カーボンブラック
東海カーボン社製、シーストSO、FEF級
【0071】
<加工助剤>
・ステアリン酸
花王ケミカル社製、ルナック S-90V
【0072】
<老化防止剤>
・4,4'-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン
SI Group社製、NAUGARD 445
【0073】
<可塑剤>
・エーテルエステル系可塑剤
ADEKA社製、アデカサイザー RS-107
【0074】
〔実施例1~10、比較例1~6〕
後記の表1に示す各成分のうち、架橋促進剤(B)および架橋剤(C)を除く成分を同表に示す割合で配合し、1.7Lのバンバリーミキサーで混練し、更に8インチロールにて、架橋促進剤(B)および架橋剤(C)を同表に示す割合で配合して混錬し、未架橋のアクリルゴム組成物を調製した。得られた実施例および比較例のアクリルゴム組成物を用いて、以下の評価を行った。その結果を、後記の表1に併せて示す。
【0075】
≪貯蔵安定性試験:ムーニースコーチ時間(t5)試験≫
各例に係る未架橋のアクリルゴム組成物について、JIS K6300に準拠して、L形ローターを使用し、試験温度121℃、1分間予熱後、ローターを回転させ、最小ムーニー粘度から5ムーニー粘度上昇した時点の時間(t5)[分]を測定した。ムーニースコーチ時間(t5)を下記基準にて評価した。
[評価基準]
〇・・・3.0分間超
×・・・3.0分間以下
【0076】
≪圧縮永久歪み試験≫
各例に係る未架橋のアクリルゴム組成物を用いて、160℃×45分間の熱プレスにより、JIS K6262に準拠する大型試験片を作製した。得られた試験片について、JIS K6262に準拠して、150℃×72時間の熱老化後の圧縮永久歪み率(%)を求め、下記基準に評価した。
[評価基準]
〇・・・60%未満
×・・・60%以上
【0077】
≪引張強度試験≫
各例に係る未架橋のアクリルゴム組成物を用いて、6インチミキシングロールにより厚さ2mmの未架橋ゴムシートを作製し、これに160℃×45分間の熱プレスを施して、シート状のゴム試験片を得た。得られた試験片について、JIS K6251に準拠して、引張強度(MPa)を測定し、下記基準にて評価した。
[評価基準]
◎・・・9.5MPa超
〇・・・9.0MPa以上、9.5MPa以下
×・・・9.0MPa未満
【0078】
【表1】
【0079】
上記表1の結果から、本発明の実施例にかかるアクリルゴム組成物は、貯蔵安定性に優れると共に、アクリルゴム組成物を一次架橋して得られた硬化物は、耐圧縮永久歪み性および引張強度に優れるものであった。
【0080】
これに対し、比較例1および2は、本発明の(C)成分を含有しないため、耐圧縮永久歪み性等に劣るものであった。
比較例3は、(B)成分の含有量が本発明の規定範囲の下限値を大きく下回る等により、耐圧縮永久歪み性に劣るものであった。
比較例4は、質量比(B/C)が、本発明の規定範囲の下限値を下回ることにより、耐圧縮永久歪み性に劣るものであった。更に、比較例5は、質量比(B/C)が、本発明の規定範囲の上限値を上回ることにより、貯蔵安定性に劣るものであった。
また、比較例6は、本発明の(C)成分に規定する数平均分子量の範囲外であるため、耐圧縮永久歪み性等に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のアクリルゴム組成物および硬化物は、例えば、燃料ホース、フィラーネックホース、ベントホース、ベーパーホース、オイルホース等の燃料タンク等の燃料油系ホース、ターボエアーホース、ミッションコントロールホースなどのエアー系ホース、ラジエターホース、ヒーターホース、ブレーキホース、エアコンホース等の各種ホース類に好適に用いられる。