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特開2024-90651需要家システム用のコントローラ、配電電圧制御方法及び配電電圧算出プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090651
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】需要家システム用のコントローラ、配電電圧制御方法及び配電電圧算出プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/12 20060101AFI20240627BHJP
   H02J 3/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
H02J3/12
H02J3/00 170
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206682
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】000222037
【氏名又は名称】東北電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 洋一
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 仁
(72)【発明者】
【氏名】有松 健司
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AE09
5G066DA06
5G066LA02
5G066LA10
(57)【要約】
【課題】電圧制約条件逸脱による需要家設備の不具合発生を抑制しつつ、需要家設備の合計損失を小さくする。
【解決手段】電力系統1の系統電圧を電力変換装置5により所定の配電電圧Vinに変換し、電圧制約条件の異なる複数の需要家設備10~30に配電する需要家システム用のコントローラ50であって、各需要家設備10~30の電圧制約条件を満足する電圧範囲内において、需要家設備10~30の合計損失Σを小さくする配電電圧Vinを算出し、前記電力変換装置5に出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の系統電圧を電力変換装置により所定の配電電圧に変換し、電圧制約条件の異なる複数の需要家設備に配電する需要家システム用のコントローラであって、
各需要家設備の電圧制約条件を満足する電圧範囲内において、需要家設備の合計損失を小さくする配電電圧の指令値を算出し、前記電力変換装置に出力する、需要家システム用のコントローラ。
【請求項2】
請求項1に記載の需要家システム用のコントローラであって、
設備稼働中に各需要家設備から運転状態の情報を取得し、前記配電電圧の指令値を、取得した運転状態の情報に基づいて更新する、需要家システム用のコントローラ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の需要家システム用のコントローラであって、
前記需要家設備は、可変速交流負荷を含み、
前記コントローラは、前記運転状態の情報として、前記可変速交流負荷から運転速度の情報を取得する、需要家システム用のコントローラ。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の需要家システム用のコントローラであって、
前記需要家設備は、直流負荷を含み、
前記コントローラは、前記運転状態の情報として、前記直流負荷から動作中か否かの情報を取得する、需要家システム用のコントローラ。
【請求項5】
請求項2に記載の需要家システム用のコントローラであって、
前記需要家設備の損失特性の近似式の係数テーブルを記憶したメモリを備え、
前記係数テーブルから需要家設備の運転状態に対応する近似式の係数を選択し、前記需要家設備の損失を算出する、需要家システム用のコントローラ。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の需要家システム用のコントローラであって、
前記電力変換装置は、無停電電源装置である、需要家システム用のコントローラ。
【請求項7】
電力系統の系統電圧を電力変換装置により所定の配電電圧に変換し、電圧制約条件の異なる複数の需要家設備に配電する需要家システム用の配電電圧制御方法であって、
各需要家設備の電圧制約条件を満足する電圧範囲内において、需要家設備の合計損失を小さくする配電電圧の指令値を算出し、前記電力変換装置に出力する、需要家システム用の配電電圧制御方法。
【請求項8】
電力系統の系統電圧を電力変換装置により所定の配電電圧に変換し、電圧制約条件の異なる複数の需要家設備に配電する需要家システム用の配電電圧算出プログラムであって、
各需要家設備の電圧制約条件を満足する電圧範囲内において、需要家設備の合計損失を小さくする配電電圧の指令値を算出する処理を、コンピュータに実行させる、需要家システム用の配電電圧算出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、需要家設備の損失を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
需要家内の負荷設備や電源設備等の需要家設備について、省エネルギー化の検討、技術開発が進められている。この種の技術を開示する文献として、特許文献1がある。
【0003】
特許文献1は、「1以上の負荷に、該負荷を動作させる際の所定の下限電圧値と該下限電圧値よりも高い所定の上限電圧値との間の電圧を出力する電力変換装置を備えている電力供給システムであって、前記電力変換装置は、前記負荷と前記電力変換装置との間の電流を検知しながら、前記負荷への出力電圧を前記下限電圧値と前記上限電圧値との間で段階的に変化させて、前記負荷の消費電力が最も低くなる供給電圧を決定して、該供給電圧を前記負荷へ出力」する点を開示する。特許文献1の電力供給システムによれば、接続された負荷、または、複数の負荷を総合した合成負荷に対して、消費電力が最も少なくなる電圧値で電力供給を行うことができて、消費電力の低減が図れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-147265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
需要家設備の電圧制約条件は、需要家設備ごとに異なる場合がある。需要家の配電電圧が電圧制約条件から逸脱すると、需要家設備に異常が発生する、寿命を短くする等の不具合が発生する可能性がある。
【0006】
本発明の課題は、電圧制約条件の異なる複数の需要家設備を有する需要家システムにおいて、需要家設備の不具合発生を抑制しつつ、需要家設備の合計損失を小さくする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
電力系統の系統電圧を電力変換装置により所定の配電電圧に変換し、電圧制約条件の異なる複数の需要家設備に供給する需要家システム用のコントローラであって、各需要家設備の電圧制約条件を満足する電圧範囲内において、需要家設備の合計損失を小さくする配電電圧を算出し、前記電力変換装置に出力する。需要家設備は、負荷設備に加え、再生可能エネルギーにより発電する発電装置や蓄電装置を含んでもよい。
【発明の効果】
【0008】
電圧制約条件逸脱による需要家設備の不具合発生を抑制しつつ、需要家設備の合計損失を小さくすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】需要家システムのブロック図
図2】第1負荷設備の損失特性
図3】第2負荷設備の損失特性
図4】第3負荷設備の損失特性
図5】第1負荷設備のブロック図
図6】誘導モータの回路定数
図7】第1負荷設備~第3負荷設備の損失特性
図8】近似式の係数テーブル
図9】最適化処理のフローチャート
図10】運転状態の説明図
図11】電圧制約条件テーブル
図12】勾配法の説明図
図13】配電電圧の指令値を示す図
図14】需要家システムのブロック図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本実施形態の概要)
(1)本発明の一実施形態に係る需要家システム用のコントローラは、電力系統の系統電圧を電力変換装置により所定の配電電圧に変換し、電圧制約条件の異なる複数の需要家設備に供給する需要家システムに用いられる。需要家システム用のコントローラは、各需要家設備の電圧制約条件を満足する電圧範囲内において、需要家設備の合計損失を小さくする配電電圧の指令値を算出し、前記電力変換装置に出力する。
【0011】
本発明の一実施形態に係る需要家システム用のコントローラによれば、電圧制約条件逸脱による需要家設備の不具合発生を抑制しつつ、需要家設備の合計損失を小さくすることが出来る。
【0012】
(2)上記(1)に記載の需要家システム用のコントローラにおいて、設備稼働中に各需要家設備から運転状態の情報を取得し、前記配電電圧の指令値を、取得した運転状態の情報に基づいて更新してもよい。
【0013】
(2)に記載の需要家システム用のコントローラによれば、設備稼働中、需要家設備の運転状態の変化に応じて、配電電圧を動的に変更できる。配電電圧を動的に変更することにより、需要家設備の運転状態の変化に依存せず、需要家システムの損失を最適化できる。
【0014】
(3)上記(1)又は(2)に記載の需要家システム用のコントローラにおいて、前記需要家設備は、可変速交流負荷を含んでもよい。前記コントローラは、前記運転状態の情報として、前記可変速交流負荷から運転速度の情報を取得してもよい。
【0015】
(3)に記載の需要家システム用のコントローラによれば、可変速交流負荷の運転速度変化に依存せず、需要家システムの損失を最適化できる。この構成は、可変速交流負荷を有する需要家システムの損失低減に有効である。
【0016】
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の需要家システム用のコントローラにおいて、前記需要家設備は、直流負荷を含んでもよい。前記コントローラは、前記運転状態の情報として、前記直流負荷から動作中か否かの情報を取得してもよい。
【0017】
(4)に記載の需要家システム用のコントローラによれば、直流負荷の動作、非動作に依存せず、需要家システムの損失を最適化できる。この構成は、直流負荷を有する需要家システムの損失低減に有効である。
【0018】
(5)上記(2)に記載の需要家システム用のコントローラにおいて、前記需要家設備の損失特性の近似式の係数テーブルを記憶したメモリを備えてもよい。前記係数テーブルから前記需要家設備の運転状態に対応する近似式の係数を選択し、前記需要家設備の損失を算出してもよい。
【0019】
(5)に記載の需要家システム用のコントローラによれば、需要家設備の運転状態に応じた損失計算が可能となる。
【0020】
(6)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の需要家システム用のコントローラにおいて、前記電力変換装置は、無停電電源装置でもよい。
【0021】
(6)に記載の需要家システム用のコントローラによれば、電力変換装置に無停電電源装置を用いることで、需要家システムに対する電力の安定供給を図りつつ、需要家システムの損失を最適化できるメリットがある。
【0022】
<実施形態1>
1.需要家システムS1の説明
図1は需要家システムS1のブロック図である。需要家システムS1は、電力系統1に連系する。電力系統1は、電気事業者が運営する系統であり、三相の系統電源3を有している。
【0023】
需要家システムS1は、電力変換装置5、複数の負荷設備10~30及びコントローラ50を含む。
【0024】
電力変換装置5は、整流器5A、平滑用コンデンサ5B、インバータ回路5C及び制御装置5Dを備える。
【0025】
整流器5Aは、電力系統3の系統電圧Vgを整流し、平滑用コンデンサ5Bは、整流後の電圧を平滑する。インバータ回路5Cは、平滑後の電圧を交流に変換する。
【0026】
電力変換装置5は、電力系統1の系統電圧Vgを所定の配電電圧Vinに変換し、配電線Lvを通じて需要家システムS1の各負荷設備10~30に配電する。
【0027】
制御装置5Dは、インバータ回路5Cを介して、需要家システムS1の配電電圧Vinを制御することが出来る。
【0028】
需要家システムS1は、需要家設備として、3つの負荷設備10~30を有している。第1負荷設備10は、第1変換器11と誘導モータ15である。誘導モータ15は可変速交流負荷の一例である。
【0029】
第1変換器11は、整流器11A、平滑用コンデンサ11B、インバータ回路11Cからなる。第1変換器11は、誘導モータ15に印加する電圧、周波数の制御に用いられる。
【0030】
第2負荷設備20は、第2変換器21と同期モータ25である。同期モータ25は可変速交流負荷の一例である。第2変換器21は、整流器21A、平滑用コンデンサ21B、インバータ回路21Cからなる。第2変換器21は、同期モータ25に印加する電圧、周波数の制御に用いられる。
【0031】
第3負荷設備30は、PFCコンバータ回路31と直流負荷35である。PFCコンバータ回路31は、高力率のAC-DCコンバータであり、整流器31A、スイッチング回路31Bからなる。直流負荷35は、例えば、照明やエアコンディショナ、OA機器等のことであり、直流で動作する負荷である。
【0032】
コントローラ50は、CPU51、メモリ55を有する。コントローラ50は、各負荷設備10~30と通信可能に接続されており、各負荷設備10~30との間で、種々の情報を通信する。
【0033】
通信される情報には、各負荷設備10~30の運転状態(例えば、モータの回転速度など)に関する情報が含まれる。各負荷設備10~30は、運転状態の管理やコントローラ50との通信のため、管理部(図略)を備えてもよい。
【0034】
コントローラ50は、各負荷設備10~30との通信により、各負荷設備10~30の状態を監視する。コントローラ50は、各負荷設備10~30の状態に基づいて、需要家システムS1の配電電圧Vinを決定する。より具体的には、コントローラ50は、各負荷設備10~30の運転状態を取得し、取得した運転状態と、各負荷設備10~30の損失特性とに基づいて配電電圧Vinの指令値を算出する。コントローラ50は、電力変換装置5の制御装置5Dに対して、配電電圧Vinの指令値を出力する。制御装置5Dは、コントローラ50から入力された配電電圧Vinの指令値に基づいて、配電電圧Vinを制御する。制御の詳細は後に説明する。
【0035】
メモリ55は、需要家システムS1の配電電圧Vinを最適化する最適化処理(図9参照)の実行プログラムや実行プログラムの実行に必要なデータを記憶している。実行プログラムの実行に必要なデータは、図8に示す係数テーブルや、図11に示す電圧制約条件テーブルが含まれる。
【0036】
2.負荷設備の損失特性
図2は配電電圧Vinに対する第1負荷設備10の損失特性、図3は第2負荷設備20の損失特性、図4は第3負荷設備30の損失特性である。
【0037】
損失特性は、需要家システムS1の配電電圧Vinを変化させて、負荷設備10~30の損失Qをシミレーション(計算)したものである。損失Qは、熱損失(主に銅損や鉄損)であり、負荷設備10~30を構成する各機器(変換器やモータ、直流負荷)の回路定数や特性等から算出することが出来る。
【0038】
例えば、第1負荷設備10の場合、図5に示すように、配電線Lvの線間に配電電圧Vinを与え、整流器11Aの熱損失Q1、インバータ回路11Cの熱損失Q2及び誘導モータ15の熱損失Q3を、回路定数等を用いてそれぞれ算出し、各熱損失の合計値Q1+Q2+Q3を求めている。図6は、第1負荷設備10の熱損失計算に使用した回路定数や素子の諸元、特性である。第2負荷設備20、第3負荷設備30も同様の方法で、算出することが出来る。
【0039】
図2に示す4本の損失特性LIM-1~LIM-4は、誘導モータ15の回転速度が異なっており、LIM-1は低速時の損失特性、LIM-2は中速時の損失特性、LIM-3は高速時の損失特性、LIM-4は超高速時の損失特性である。
【0040】
図3に示す4本の損失特性LPM-1~LPM-4は、同期モータ25の回転速度が異なっており、LPM-1は低速時の損失特性、LPM-2は中速時の損失特性、LPM-3は高速時の損失特性、LPM-4は超高速時の損失特性である。
【0041】
図7は、第1負荷設備10の4本の損失特性LIM-1~LIM-4、第2負荷設備20の4本の損失特性LPM-1~LPM-4、第3負荷設備30の1本の損失特性LPFCを1つのグラフにまとめた図である。
【0042】
各負荷設備10~30の損失特性LIM、LPM、LPFCは、近似式により近似することが出来る。例えば、配電電圧Vinを変数とする、2次式により近似することが出来る。
【0043】
【数1】
【数2】
【数3】
【0044】
数1は、第1負荷設備10の損失特性LIMの近似式、数2は、第2負荷設備20の損失特性LPMの近似式、数3は、第3負荷設備30の損失特性LPFCの近似式である。
【0045】
第1負荷設備10は、可変速交流負荷であり、モータ回転速度に応じて損失特性LIMが異なる。そのため、損失特性LIMの近似式の係数a~cを、モータ回転速度に応じて設定している。この例では、低速、中速、高速、超高速の4つの回転速度パターンに応じて、4種の係数a~cを設定している。
【0046】
損失特性LPMの近似式についても同様であり、4つの回転速度パターンに応じて、4種の係数a~cを設定している。第3負荷設備30は、直流負荷であることから、損失特性LPFCの近似式の係数a~cは、1種である。
【0047】
図8は、近似式の係数テーブルである。係数テーブルは、各近似式について、モータの回転速度パターンと、近似式に使用される係数a~cと、を対応付けたデータである。係数テーブルは、例えば、メモリ55に記憶されている。
【0048】
図9は、需要家システムS1の配電電圧Vinを最適化する最適化処理のフローチャートである。最適化処理は、S10~S70の7つのステップから構成されており、負荷設備10~30の稼働中、所定周期Tで実行される。最適化は、全負荷設備10~30の合計損失Σを最小化する、または小さくするという意味である。なお、以下の実施形態においては、最適化処理として、全負荷設備10~30の合計損失Σを最小化する例を用いて説明する。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。すなわち、最適化処理とは、配電電圧Vinが初期値(たとえば三相200V)である場合の合計損失Σに比べて、合計損失Σが小さくなるように配電電圧Vinの指令値を決定する処理である。
【0049】
電力変換装置5は、コントローラ50から出力指令を受けると、系統電圧Vgを、配電電圧Vinの初期値(たとえば三相200V)に変換して出力する。これにより、電力が供給され、各負荷設備10~30は運転を開始する。
【0050】
その後、最適化処理がスタートすると、コントローラ50は、S10にて、各負荷設備10~30から各負荷設備10~30の運転状態の情報を取得する。具体的には、図10に示すように、コントローラ50は、第1負荷設備10から第1負荷設備10の運転速度を表す誘導モータ15の回転速度の情報を取得する。また、コントローラ50は、第2負荷設備20から第2負荷設備20の運転速度を表わす同期モータ25の回転速度の情報を取得する。また、コントローラ50は、第3負荷設備30から、直流負荷35の動作、非動作の情報を取得する。
【0051】
運転情報の取得後、S20に移行する。S20に移行すると、コントローラ50は、各負荷設備10~30の損失計算に用いる近似式の係数a~cを決定する。
【0052】
具体的には、コントローラ50は、メモリ55にアクセスし、図8に示す係数テーブルを読み出す。そして、S10で取得した運転情報を係数テーブルに参照して、各損失特性LIM、LPM、LPFCの近似式(数1~数3)について、運転情報に対応した係数a~cを選択する。
【0053】
第1負荷設備10の場合、誘導モータ15の回転速度が中速であれば、中速に対応する3つの係数a~cが選択される。第2負荷設備20も同様に、同期モータ25の回転速度に応じた係数が選択される。第3負荷設備30の係数a~cは1種であるため、係数テーブルに登録されている係数a~cがそのまま選択される。
【0054】
係数の選択後、S30に移行する。S30に移行すると、コントローラ50は、電力変換装置5から需要家システムS1の配電電圧Vinの現在値を取得する。その後、S40に移行する。
【0055】
S40に移行すると、コントローラ50は、S20で選択した係数a~cを数式1~3にそれぞれ適用し、S30で取得した配電電圧Vinの現在値に基づいて、各負荷設備10~30の現在の損失を算出する。直流負荷35が非動作の場合、第3負荷設備30の損失はゼロとして計算される。
【0056】
S50に移行すると、コントローラ50は、S40で算出した各負荷設備10~30の損失から全負荷設備10~30の合計損失Σを算出する。そして、合計損失Σが最小か判定する。初回の判定では、NO判定となり、S60に移行する。
【0057】
S60に移行すると、コントローラ50は、各負荷設備10~30の電圧制約条件を逸脱しない範囲内で、現在値を基準として、配電電圧Vinを変更する。配電電圧Vinの変更は、降圧だけでなく、昇圧も行われる。
【0058】
電圧制約条件は、負荷設備10~30の性能を保証し得る配電電圧Vinの範囲である。電圧制約条件は、負荷設備10~30ごとに異なり、また、同じ負荷設備10~30でも、モータ回転速度等の運転状態により、異なる場合がある。
【0059】
図11は、電圧制約条件テーブルである。電圧制約条件テーブルは、メモリ55に記憶されている。コントローラ50は、メモリ55から電圧制約条件テーブルを読み出すことで、各負荷設備10~30の電圧制約条件を取得することが出来る。
【0060】
例えば、第1負荷設備10、第2負荷設備20とも中速の場合、3つの負荷設備10~30の電圧制約条件を満足する電圧範囲は、120V~220Vであり、コントローラ50は、その範囲で、配電電圧Vinを変更する。
【0061】
120V≦Vin≦220V
【0062】
配電電圧Vinの変更後、S40に移行する。S40に移行すると、コントローラ50は、変更後の配電電圧Vinに基づいて、各負荷設備10~30の損失を再算出する。その後、S50に移行する。
【0063】
S50に移行すると、コントローラ50は、全負荷設備10~30の合計損失Σを算出し、合計損失Σは最小か判断する。
【0064】
合計損失Σの最小値は、例えば、勾配法により求めることが出来る。勾配法は、関数を最小にする変数を算出する方法である。
【0065】
図12は、勾配法を説明する図である。図12において、横軸は、配電電圧Vin、縦軸は、合計損失Σを表している。この例では、配電電圧Vinを変更させつつ、図12に示すように、関数の勾配(この例では、合計損失Σの勾配)がゼロになる点Pを求めることで、合計損失Σの最小値と、合計損失Σを最小にする配電電圧Vinを得ることが出来る。
【0066】
S40~S60の処理を複数回繰り返した結果、勾配法等により、合計損失Σを最小にする配電電圧Vinの最適値が得られると、S70に移行する。
【0067】
S70に移行すると、コントローラ50は、配電電圧Vinの最適値を、電力変換装置5に指令値として出力する。
【0068】
電力変換装置5は配電電圧Vinの指令値を受けると、インバータ回路5Cを介して、需要家システムS1の配電電圧Vinを現在値から指令値に調整する。これにより、需要家システムS1の配電電圧Vinは、全負荷設備10~30の合計損失Σを最小にする最適値に調整される。
【0069】
S10~S70からなる最適化処理を所定周期(例えば、数秒間隔や数分間隔)で実行し、配電電圧Vinの指令値を更新することで、各負荷設備10~30の運転状態の変化に伴い、需要家システムS1の配電電圧Vinを動的に変更することが出来る。
【0070】
そのため、各負荷設備10~30の運転状態に依存せず、全負荷設備10~30の合計損失Σを最小化できる。
【0071】
図13は配電電圧の時間変化を示す図である。図13の実線は最適化処理により算出した配電電圧Vin、破線は配電電圧Vinを200Vに固定した例(比較例)である。
【0072】
全負荷設備10~30の合計損失Σを比較すると、配電電圧Vinを200Vに固定した場合は9.00[Wh]、最適化処理を実行した場合に比べて、最適化処理の実行により、全負荷設備10~30の合計損失Σは10.5%低減し、効果を確認することができた。
【0073】
3.効果
この構成は、電圧制約条件逸脱による負荷設備10~30の不具合発生を抑制しつつ、負荷設備10~30の合計損失Σを最小化することが出来る。需要家システム全体の省エネルギー化が推進できるため、需要家システムS1のランニングコストの低減に貢献できる。
【0074】
また、最適化制御の実行により合計損失Σの変動を抑えることが可能となり、需要家システムS1の受電端の電力変動や高調波抑制が期待できる。これらの抑制効果が得られた場合、蓄電装置等を有する需要家システムにおいて、蓄電装置の容量削減につなげることが期待される。
【0075】
<実施形態2>
実施形態2の需要家システムS2は、実施形態1の需要家システムS1に対して、電力変換装置5に無停電電源装置7を用いた点が相違する。
【0076】
図14に示すように、無停電電源装置7は、コンバータ回路7A、スイッチ7B、蓄電部7C、インバータ回路7D及び制御装置7Eを含む。無停電電源装置7は、電力系統1が停電した場合、蓄電部7Cを放電することにより、需要家システムS2に対して所定期間、電力供給を継続することが出来る(バックアップ動作)。
【0077】
需要家システムS2の電力変換装置5に、無停電電源装置7を用いることで、停電時のバックアップ動作と配電電圧Vinの最適制御の実行が可能となる。そのため、需要家システムS2に対する電力の安定供給を図りつつ、需要家システムS2の損失を低減できる出来るメリットがある。
【0078】
また、電力のバックアップと配電電圧Vinの制御を1台の無停電電源装置7で実行できるから、需要家システムS2のシステム構成を簡素化することが出来る。
【0079】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0080】
(1)実施形態1、2の需要家システムS1、S2は、負荷設備10~30以外に、再生可能エネルギーを使用した発電装置や、蓄電装置等を備えてもよい。また、負荷設備は、変換器を介さない誘導機を含んでもよい。負荷設備、発電設備、蓄電装置は、需要家設備の一例である。
【0081】
(2)実施形態1、2の需要家システムS1、S2は、コントローラ50を、CPU51とメモリ55により構成した。コントローラ50はPLC(プログラブルロジックコントローラ)でもよい。
【0082】
(3)実施形態1、2の需要家システムS1、S2において、負荷設備10~30の運転状態を把握するため、コントローラ50は負荷設備10~20からモータ回転速度の情報を取得した。回転情報に代えて、又は併用して、高トルク、低トルクなどの情報を取得してもよい。
【0083】
(4)実施形態1、2の需要家システムS1、S2は、配電電圧Vinの最適値を勾配法により算出した。配電電圧Vinの最適値は、最急降下法など、他の方法で求めてもよい。
【0084】
(5)実施形態1の需要家システムS1においては、コントローラ50が、電力変換装置5と別に設けられている例を示した。しかしながら、コントローラ50は、電力変換装置5内に設けられていてもよく、また電力変換装置5の制御装置5Dが、コントローラ50の機能を備えていてもよい。
また、実施形態2の需要家システムS2においては、コントローラ50が、無停電電源装置7と別に設けられている例を示した。しかしながら、コントローラ50は、無停電電源装置7内に設けられていてもよく、また無停電電源装置7の制御装置7Dが、コントローラ50の機能を備えていてもよい。
【0085】
(6)実施形態1の需要家システムS1においては、系統電源が3相交流であり、需要家内での配電も3相交流である例を示した。しかしながら、本発明に係る需要家システムは、需要家内の配電が直流であってもよい。そのような場合には、例えば、電力変換装置5のインバータ5Cに代えて、DC-DCコンバータを使用することで、配電電圧を変化させることができる。また、実施形態2の需要家システムS2においては、無停電電源装置7に代えて直流電源装置を使用することができる。
【0086】
(7)実施形態1、2の需要家システムS1、S2は、コントローラ50のメモリ55が、各負荷設備10~30の損失特性を記憶している例を示した。しかしながら、配電電圧Vinの指令値の決定に使用する各負荷設備10~30の損失特性の取得方法はこれに限られるものではない。すなわち、各負荷設備10~30の損失特性は、コントローラ50以外の外部機器に保存されていてもよい。例えば、各負荷設備10~30のそれぞれが損失特性を記憶しており、コントローラ50が配電電圧Vinの指令値を算出する際に、コントローラ50が各負荷設備10~30から配電電圧Vinの算出時点での各負荷設備10~30の運転情報に応じた損失特性を取得してもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 電力系統
3 系統電源
5 電力変換装置
10 第1負荷設備
20 第2負荷設備
30 第3負荷設備
50 コントローラ
Vg 系統電圧
Vin 配電電圧
S1~S2 需要家システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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図14