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特開2024-90679合成構造部材、複合梁材、及び、その製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090679
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】合成構造部材、複合梁材、及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   E04C 3/26 20060101AFI20240627BHJP
   E01D 1/00 20060101ALI20240627BHJP
   E04C 3/293 20060101ALI20240627BHJP
   E01D 2/04 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
E04C3/26
E01D1/00 G
E04C3/293
E01D2/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206723
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000200367
【氏名又は名称】川田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107375
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 明広
(72)【発明者】
【氏名】栗山 浩
(72)【発明者】
【氏名】年代 翔一
(72)【発明者】
【氏名】岩田 龍也
(72)【発明者】
【氏名】藤林 博明
(72)【発明者】
【氏名】大野 克紀
【テーマコード(参考)】
2D059
2E163
【Fターム(参考)】
2D059AA11
2D059GG61
2E163FA12
2E163FF12
(57)【要約】
【課題】プレストレスを均等に導入することができ、また、コンクリートの充填作業も容易に実施することができる合成構造部材、複合梁材、及び、それらの製造方法を提供する。
【解決手段】底部と左右の側部とからなる断面がU字形又はC字形の鋼殻部2と、鋼殻部2内に配置され、PC鋼材31によってプレストレスが導入されたコンクリート部3とによって構成され、鋼殻部2は、閉断面となるように左右の側部を連結する天板が配置された閉断面端部と、上方が開放された複数の開断面部と、左右一対のストラット22が、左右の側部から内側へ向かってそれぞれ突出し、隙間を置いて対向するように配置された複数のストラット部とを有し、ストラット部において鋼殻部2の左右の側部同士が連結され、鋼殻部2とコンクリート部3とが一体化されていることを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部と左右の側部とからなる断面がU字形又はC字形の鋼殻部と、鋼殻部内に配置され、PC鋼材によってプレストレスが導入されたコンクリート部とによって構成され、
鋼殻部は、上方が開放された開断面部と、一方の側部から反対側の側部へ向かって突出するストラットが配置されたストラット部とを有し、
ストラット部において鋼殻部の左右の側部同士が連結され、
鋼殻部とコンクリート部とが一体化されていることを特徴とする合成構造部材。
【請求項2】
鋼殻部が、閉断面となるように左右の側部を連結する天板が配置された閉断面端部を有していることを特徴とする、請求項1に記載の合成構造部材。
【請求項3】
コンクリート部の内部に埋設されたPC鋼材が、鋼殻部の両端部に配置されたエンドプレートに対して定着され、
鋼殻部の左右の側部同士の連結、及び、PC鋼材の定着によって、鋼殻部とコンクリート部とが一体化されていることを特徴とする、請求項1に記載の合成構造部材。
【請求項4】
ストラット部において、左右一対のストラットが、鋼殻部の左右の側部から内側へ向かってそれぞれ突出し、隙間を置いて対向するように形成されるとともに、それらのストラット同士が連結されることにより、鋼殻部の左右の側部同士が連結されていることを特徴とする、請求項1に記載の合成構造部材。
【請求項5】
底部と左右の側部とからなる断面がU字形又はC字形の鋼殻部であって、閉断面となるように左右の側部を連結する天板が配置された閉断面端部と、上方が開放された開断面部と、一方の側部から反対側の側部へ向かって突出するストラットが配置されたストラット部とを有する鋼殻部の内側へコンクリートを打設して、鋼殻部とコンクリート部とからなる合成構造部材を製造する方法であって、
鋼殻部に充填するコンクリートよりも硬化時間が長くなるように設定した遅延硬化性樹脂を、鋼殻部の閉断面端部の底部の上面、及び、閉断面端部の両側部の内側面に塗布し、
鋼殻部の内側に挿通させたPC鋼材を緊張させた状態で、開断面部の上方から鋼殻部の内側へコンクリートを打設し、
鋼殻部内においてコンクリートが硬化した後、遅延硬化性樹脂が硬化する前に、PC鋼材の緊張力を開放し、コンクリート部に圧縮力を導入し、
ストラット部において鋼殻部の左右の側部同士を連結して、コンクリート部と鋼殻部とを一体化することを特徴とする合成構造部材の製造方法。
【請求項6】
ストラット部において、左右一対のストラットが、鋼殻部の左右の側部から内側へ向かってそれぞれ突出し、隙間を置いて対向するように形成され、それらのストラット同士を連結することによって、鋼殻部の左右の側部同士を連結して、コンクリート部と鋼殻部とを一体化することを特徴とする、請求項5に記載の合成構造部材の製造方法。
【請求項7】
遅延硬化性樹脂を、鋼殻部の閉断面端部の底部の上面、開断面部の底部の上面、ストラット部の底部の上面、及び、閉断面端部の両側部の内側面に塗布することを特徴とする、請求項5又は6に記載の合成構造部材の製造方法。
【請求項8】
鋼殻部の内面に対して、コンクリートのせん断付着強度を低減する表面処理を行った後、遅延硬化性樹脂の塗布を行うことを特徴とする、請求項5又は6のいずれかに記載の合成構造部材の製造方法。
【請求項9】
コンクリートのせん断付着強度を低減する表面処理として、鋼殻部の内面にエッチングプライマーを塗布することを特徴とする、請求項8に記載の合成構造部材の製造方法。
【請求項10】
底部と左右の側部とからなる断面がU字形又はC字形の鋼殻部であって、閉断面となるように左右の側部を連結する天板が配置された閉断面端部と、上方が開放された開断面部と、一方の側部から反対側の側部へ向かって突出するストラットが配置されたストラット部とを有する鋼殻部の内側へコンクリートを打設して、鋼殻部とコンクリート部とからなる合成構造部材を製造する方法であって、
鋼殻部の内面に対して、コンクリートのせん断付着強度を低減する表面処理を行い、
鋼殻部の内側に挿通させたPC鋼材を緊張させた状態で、開断面部の上方から鋼殻部の内側へコンクリートを打設し、
鋼殻部内においてコンクリートが硬化した後、閉断面端部に対して加温処理を行い、+11.8℃以上の温度差を与えて鋼殻部にひずみを生じさせ、閉断面端部におけるコンクリート部と鋼殻部の接触圧力を低下させ、
その後、PC鋼材の緊張力を開放し、コンクリート部に圧縮力を導入し、
ストラット部において鋼殻部の左右の側部同士を連結して、コンクリート部と鋼殻部とを一体化することを特徴とする合成構造部材の製造方法。
【請求項11】
鋼殻部の内面に対して、コンクリートのせん断付着強度を低減する表面処理を行った後、コンクリートを打設する前に、鋼殻部に充填するコンクリートよりも硬化時間が長くなるように設定した遅延硬化性樹脂を、鋼殻部の閉断面端部の底部の上面、及び、閉断面端部の両側部の内側面に塗布することを特徴とする、請求項10に記載の合成構造部材の製造方法。
【請求項12】
遅延硬化性樹脂を、鋼殻部の閉断面端部の底部の上面、開断面部の底部の上面、ストラット部の底部の上面、及び、閉断面端部の両側部の内側面に塗布することを特徴とする、請求項11に記載の合成構造部材の製造方法。
【請求項13】
請求項1~4のいずれかに記載の合成構造部材が、鋼材に固定されていることを特徴とする複合梁材。
【請求項14】
鋼材と、合成構造部材とからなる複合梁材を製造する方法であって、
底部と左右の側部とからなる断面がU字形又はC字形の鋼殻部であって、閉断面となるように左右の側部を連結する天板が配置された閉断面端部と、上方が開放された開断面部と、一方の側部から反対側の側部へ向かって突出するストラットが配置されたストラット部とを有する鋼殻部を鋼材に接合し、
鋼殻部に充填するコンクリートよりも硬化時間が長くなるように設定した遅延硬化性樹脂を、鋼殻部の閉断面端部の底部の上面、及び、閉断面端部の両側部の内側面に塗布し、
鋼殻部の内側に挿通させたPC鋼材を緊張させた状態で、開断面部の上方から鋼殻部の内側へコンクリートを打設し、
鋼殻部内においてコンクリートが硬化した後、遅延硬化性樹脂が硬化する前に、PC鋼材の緊張力を開放し、コンクリート部に圧縮力を導入し、
ストラット部において鋼殻部の左右の側部同士を連結して、コンクリート部と鋼殻部とを一体化することを特徴とする複合梁材の製造方法。
【請求項15】
底部と左右の側部とからなる断面がU字形又はC字形の鋼殻部であって、閉断面となるように左右の側部を連結する天板が配置された閉断面端部と、上方が開放された開断面部と、一方の側部から反対側の側部へ向かって突出するストラットが配置されたストラット部とを有する鋼殻部の閉断面端部の底部の上面、及び、閉断面端部の両側部の内側面に、鋼殻部に充填するコンクリートよりも硬化時間が長くなるように設定した遅延硬化性樹脂を塗布し、
鋼殻部の内側に挿通させたPC鋼材を緊張させた状態で、開断面部の上方から鋼殻部の内側へコンクリートを打設し、
鋼殻部内においてコンクリートが硬化した後、遅延硬化性樹脂が硬化する前に、PC鋼材の緊張力を開放し、コンクリート部に圧縮力を導入し、
ストラット部において鋼殻部の左右の側部同士を連結して、コンクリート部と鋼殻部とを一体化させて合成構造部材を製造し、
この合成構造部材を鋼材に接合することを特徴とする複合梁材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の梁材、橋梁の桁部材等として用いられる構造部材に関し、特に、鋼材とコンクリートとによって構成される合成構造部材、及び、これを利用した複合梁材(橋梁の桁部材を含む)、並びに、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材とコンクリートを組み合わせた合成構造部材の一つとして、鋼管内にコンクリートを充填することによって構成されたコンクリート充填鋼管材が知られている。コンクリート充填鋼管材は、従来、主として構造物の柱材として利用されていたが、近年では梁材への適用も検討されている(特許文献1、2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-082041号公報
【特許文献2】特開2021-113485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンクリート充填鋼管材を梁材に応用する場合、高い曲げ剛性が得られるように、合成断面として、鋼管、及び、鋼管内のコンクリート部(鋼管内にコンクリートを充填し、硬化させて形成したコンクリート部分)の双方にプレストレスを導入することが望ましい。しかしながら、配置できる限られたPC鋼材では、鋼管とコンクリート部の双方に高いプレストレスを導入することは困難である。このため、コンクリート部のみにプレストレスを導入することが現実的であると考えられるが、そのためには、導入に際し、鋼管内においてコンクリート部の長手方向へのずれが許容される必要がある。但し、コンクリート部のみを対象とするプレストレスの導入に際しては、次のような問題がある。
【0005】
例えば、PC鋼材を使用したプレテンション方式によってコンクリート部にプレストレスを導入する場合、まず、鋼管内に挿通したPC鋼材を引っ張って緊張させ、この状態で鋼管内にコンクリートを充填し、硬化後にPC鋼材の緊張力を解放してコンクリート部に圧縮力を導入することになるが、コンクリート部は、周囲(角鋼管の場合、上面、下面、及び、両側面の4面)が鋼管に密に包囲されているため、ポアソン効果により、及び、コンクリート部と鋼管の付着により、コンクリート部と鋼管との長手方向へのずれが拘束され、プレストレスを長手方向の全体にわたって均等に導入することができないという問題がある。
【0006】
また、鋼管内へのコンクリートの充填作業は、PC鋼材を緊張させる設備との関係で、鋼管を横向きに寝かせた状態で行う必要があるが、鋼管内は、細長い閉鎖空間であるため、鋼管内の隅々までコンクリートを確実に充填することが難しいという問題がある。
【0007】
本発明は、このような従来技術における問題を解決しようとするものであって、プレストレスを均等に導入することができ、また、コンクリートの充填作業も容易に実施することができる合成構造部材、複合梁材、及び、それらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る合成構造部材は、底部と左右の側部とからなる断面がU字形又はC字形の鋼殻部と、鋼殻部内に配置され、PC鋼材によってプレストレスが導入されたコンクリート部とによって構成され、鋼殻部は、上方が開放された開断面部と、一方の側部から反対側の側部へ向かって突出するストラットが配置されたストラット部とを有し、ストラット部において鋼殻部の左右の側部同士が連結され、鋼殻部とコンクリート部とが一体化されていることを特徴としている。
【0009】
尚、この合成構造部材においては、鋼殻部が、閉断面となるように左右の側部を連結する天板が配置された閉断面端部を有していることが好ましい。また、コンクリート部の内部に埋設されたPC鋼材が、鋼殻部の両端部に配置されたエンドプレートに対して定着され、鋼殻部の左右の側部同士の連結、及び、PC鋼材の定着によって、鋼殻部とコンクリート部とが一体化されていることが好ましい。
【0010】
更に、この合成構造部材においては、ストラット部において、左右一対のストラットが、鋼殻部の左右の側部から内側へ向かってそれぞれ突出し、隙間を置いて対向するように形成されるとともに、それらのストラット同士が連結されることにより、鋼殻部の左右の側部同士が連結されていることが好ましい。
【0011】
本発明に係る合成構造部材の製造方法は、底部と左右の側部とからなる断面がU字形又はC字形の鋼殻部であって、閉断面となるように左右の側部を連結する天板が配置された閉断面端部と、上方が開放された開断面部と、一方の側部から反対側の側部へ向かって突出するストラットが配置されたストラット部とを有する鋼殻部の内側へコンクリートを打設して、鋼殻部とコンクリート部とからなる合成構造部材を製造する方法であって、鋼殻部に充填するコンクリートよりも硬化時間が長くなるように設定した遅延硬化性樹脂を、鋼殻部の閉断面端部の底部の上面、及び、閉断面端部の両側部の内側面に塗布し、鋼殻部の内側に挿通させたPC鋼材を緊張させた状態で、開断面部の上方から鋼殻部の内側へコンクリートを打設し、鋼殻部内においてコンクリートが硬化した後、遅延硬化性樹脂が硬化する前に、PC鋼材の緊張力を開放し、コンクリート部に圧縮力を導入し、ストラット部において鋼殻部の左右の側部同士を連結して、コンクリート部と鋼殻部とを一体化することを特徴としている。
【0012】
尚、この合成構造部材の製造方法においては、ストラット部において、左右一対のストラットが、鋼殻部の左右の側部から内側へ向かってそれぞれ突出し、隙間を置いて対向するように形成され、それらのストラット同士を連結することによって、鋼殻部の左右の側部同士を連結して、コンクリート部と鋼殻部とを一体化することが好ましい。
【0013】
また、遅延硬化性樹脂を、鋼殻部の閉断面端部の底部の上面、開断面部の底部の上面、ストラット部の底部の上面、及び、閉断面端部の両側部の内側面に塗布することが好ましく、更に、鋼殻部の内面に対して、コンクリートのせん断付着強度を低減する表面処理を行った後、遅延硬化性樹脂の塗布を行うことが好ましい。尚、コンクリートのせん断付着強度を低減する表面処理として、鋼殻部の内面にエッチングプライマーを塗布することが好ましい。
【0014】
本発明に係るもう一つの合成構造部材の製造方法は、底部と左右の側部とからなる断面がU字形又はC字形の鋼殻部であって、閉断面となるように左右の側部を連結する天板が配置された閉断面端部と、上方が開放された開断面部と、一方の側部から反対側の側部へ向かって突出するストラットが配置されたストラット部とを有する鋼殻部の内側へコンクリートを打設して、鋼殻部とコンクリート部とからなる合成構造部材を製造する方法であって、鋼殻部の内面に対して、コンクリートのせん断付着強度を低減する表面処理を行い、鋼殻部の内側に挿通させたPC鋼材を緊張させた状態で、開断面部の上方から鋼殻部の内側へコンクリートを打設し、鋼殻部内においてコンクリートが硬化した後、閉断面端部に対して加温処理を行い、+11.8℃以上の温度差を与えて鋼殻部にひずみを生じさせ、閉断面端部におけるコンクリート部と鋼殻部の接触圧力を低下させ、その後、PC鋼材の緊張力を開放し、コンクリート部に圧縮力を導入し、ストラット部において鋼殻部の左右の側部同士を連結して、コンクリート部と鋼殻部とを一体化することを特徴としている。
【0015】
この合成構造部材の製造方法においては、鋼殻部の内面に対して、コンクリートのせん断付着強度を低減する表面処理を行った後、コンクリートを打設する前に、鋼殻部に充填するコンクリートよりも硬化時間が長くなるように設定した遅延硬化性樹脂を、鋼殻部の閉断面端部の底部の上面、及び、閉断面端部の両側部の内側面に塗布することが好ましい。尚、遅延硬化性樹脂は、開断面部の底部の上面、ストラット部の底部の上面にも塗布することができる。
【0016】
本発明に係る複合梁材は、上述の合成構造部材が、鋼材に固定されていることを特徴としている。
【0017】
本発明に係る複合梁材の製造方法は、底部と左右の側部とからなる断面がU字形又はC字形の鋼殻部であって、閉断面となるように左右の側部を連結する天板が配置された閉断面端部と、上方が開放された開断面部と、一方の側部から反対側の側部へ向かって突出するストラットが配置されたストラット部とを有する鋼殻部を鋼材に接合し、鋼殻部に充填するコンクリートよりも硬化時間が長くなるように設定した遅延硬化性樹脂を、鋼殻部の閉断面端部の底部の上面、及び、閉断面端部の両側部の内側面に塗布し、鋼殻部の内側に挿通させたPC鋼材を緊張させた状態で、開断面部の上方から鋼殻部の内側へコンクリートを打設し、鋼殻部内においてコンクリートが硬化した後、遅延硬化性樹脂が硬化する前に、PC鋼材の緊張力を開放し、コンクリート部に圧縮力を導入し、ストラット部において鋼殻部の左右の側部同士を連結して、コンクリート部と鋼殻部とを一体化することを特徴としている。
【0018】
本発明に係るもう一つの複合梁材の製造方法は、底部と左右の側部とからなる断面がU字形又はC字形の鋼殻部であって、閉断面となるように左右の側部を連結する天板が配置された閉断面端部と、上方が開放された開断面部と、一方の側部から反対側の側部へ向かって突出するストラットが配置されたストラット部とを有する鋼殻部の閉断面端部の底部の上面、及び、閉断面端部の両側部の内側面に、鋼殻部に充填するコンクリートよりも硬化時間が長くなるように設定した遅延硬化性樹脂を塗布し、鋼殻部の内側に挿通させたPC鋼材を緊張させた状態で、開断面部の上方から鋼殻部の内側へコンクリートを打設し、鋼殻部内においてコンクリートが硬化した後、遅延硬化性樹脂が硬化する前に、PC鋼材の緊張力を開放し、コンクリート部に圧縮力を導入し、ストラット部において鋼殻部の左右の側部同士を連結して、コンクリート部と鋼殻部とを一体化させて合成構造部材を製造し、この合成構造部材を鋼材に接合することを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る合成構造部材は、コンクリート部が、ストラット等によって鋼殻部と一体化されているため、高い曲げ剛性を期待することができる。また、鋼殻部は、上方が広く開放された構造となっているため、コンクリートの充填作業を容易に実施することができる。
【0020】
本発明に係る合成構造部材の製造方法によれば、コンクリート部に対する鋼殻部の拘束力を低減でき、かつ、圧縮力導入時のポアソン効果によって拘束力が増加することを好適に回避することができる。更に、コンクリート部と鋼殻部とのせん断付着強度を低減できる。その結果、コンクリート部に対してプレストレスを均等に導入することができる。
【0021】
また、本発明に係る合成構造部材の製造方法によって製造した合成構造部材は、両端部(閉断面端部)が管状に形成されているため、プレストレスを導入する際に、両端部のコンクリートにおいて縦方向(長手方向)に沿ってひび割れが発生することを好適に防止することができる。
【0022】
更に、本発明に係る合成構造部材の製造方法によって製造した合成構造部材は、鋼殻部内においてコンクリート部が、ストラット等によって拘束され、また、閉断面端部等に塗布された遅延硬化性樹脂の硬化後においては、高い圧縮強度が発現し、コンクリート部と鋼殻部とが一体化されるため、長手方向の全体にわたって高い曲げ剛性を期待することができる。
【0023】
また、本発明に係る複合梁材は、鋼殻部内にコンクリートが充填されているため、耐火性能に優れており、また、鋼材(形鋼、溶接鋼)のみによって構成される梁材と比較して、高い曲げ剛性を有しているため、振動数が低減し、防振、防音性能の向上を期待することができる。また、靱性が向上し、高い耐震性能を期待することができる。更に、鋼材のみによって構成される梁材よりも、桁高を小さく設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る合成構造部材1の平面図である。
図2図2は、図1に示すA-A線による合成構造部材1(開断面部2b)の断面図である。
図3図3は、図1に示すB-B線による合成構造部材1(ストラット部2c)の断面図である。
図4図4は、本発明の第1実施形態の合成構造部材1に用いられる鋼殻部2の端部付近の斜視図である。
図5図5は、本発明の第2実施形態の合成構造部材1に用いられる鋼殻部2の端部付近の斜視図である。
図6図6は、本発明の第2実施形態に係る合成構造部材1(開断面部)の平面図である。
図7図7は、本発明の第2実施形態に係る合成構造部材1(ストラット部)の平面図である。
図8図8は、本発明の第3実施形態に係る合成構造部材の製造方法の説明図である。
図9図9は、本発明の第6実施形態に係る複合梁材4の垂直断面図である。
図10図10は、本発明の第7実施形態に係る複合梁材4の製造方法において使用される鋼殻部2のストラット部の斜視図、及び、垂直断面図である。
図11図11は、本発明の第7実施形態に係る複合梁材4の製造方法の説明図であって、鋼殻部2及びウェブ51の部分的な垂直断面図である。
図12図12は、本発明の第7実施形態に係る複合梁材4の製造方法の説明図であって、鋼殻部2及びウェブ51の部分的な垂直断面図である。
図13図13は、本発明の第8実施形態に係る複合梁材4を構成する鋼殻部2及びウェブ51の部分的な垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、「合成構造部材」として実施することができるほか(第1~2実施形態)、「合成構造部材の製造方法」として実施することができる(第3~5実施形態)。また、この合成構造部材を用いた「複合梁材」、及び、「複合梁材の製造方法」として実施することができる(第6~8実施形態)。以下、添付図面に沿って、本発明の各実施形態について説明する。
【0026】
(第1実施形態:合成構造部材)
図1は、本発明の第1実施形態に係る合成構造部材1の平面図、図2は、図1に示すA-A線による合成構造部材1(開断面部2b)の断面図、図3は、図1に示すB-B線による合成構造部材1(ストラット部2c)の断面図である。これらの図に示すように、本実施形態の合成構造部材1は、長尺の鋼殻部2と、コンクリート部3とによって構成されている。
【0027】
鋼殻部2は、鋼板をプレス加工することにより(又は、三枚の鋼板を溶接することにより)、長手方向と直交する断面がU字形となるように形成されており、コンクリート部3は、鋼殻部2の内側に配置され、鋼殻部2と一体化されている。尚、コンクリート部3の内部には、PC鋼材31が埋設され、これらのPC鋼材31によって、コンクリート部3にプレストレスが導入されている。
【0028】
図4は、本実施形態の合成構造部材1に用いられる鋼殻部2の端部付近の斜視図である。上述した通り鋼殻部2は、基本的には断面がU字形となるように形成されている(水平な底部と左右の垂直な側部とによって構成されている)が、両端部(図4に示す手前側の端部、及び、図示しない反対側の端部)には天板21(長さ200~500mm)が配置されており(左右の側部を連結するように鋼板が溶接されており)、閉断面となるように(部分的に管状となるように)構成されている(閉断面端部2a)。両端部以外の部分は、上方が広く開放された状態となっているが(開断面部2b)、長手方向へ所定の間隔(1500~3000mm)を置いて、左右一対のストラット22(鋼板の小片)が配置されている(ストラット部2c)。
【0029】
各ストラット部2cにおけるストラット22は、天板21と同じ高さ位置において、鋼殻部2の左右の各側部からそれぞれ反対側の側部へ向かって突出するように(左右の側部からそれぞれ内側へ向かって)突出するように形成されている。尚、合成構造部材1の製造前においては、左右のストラット22同士は、図4に示すように一定の隙間を置いて非接触で対向する構造となっているが、合成構造部材1の製造に際し、鋼殻部2内にコンクリート部3が形成された後、図1図3に示すように、添接板23(継手)が装着され、ストラット22同士、及び、鋼殻部2の左右の側部同士が連結される。
【0030】
尚、本実施形態では、各ストラット部2cにおいて、左右一対のストラット22が対向するように配置されているが、鋼殻部2の一方の側部のみにストラット22を固定(溶接)し、添接板、その他の継手、又は、他の連結手段によって、ストラット22と反対側の側部とを(即ち、鋼殻部2の左右の側部同士を)直接、又は、間接的に連結できるように構成してもよい。
【0031】
鋼殻部2内に配置されたコンクリート部3は、鋼殻部2によって両側部及び底部が保持されるとともに、鋼殻部2の両端部(閉断面端部2a)においては、天板21によって上部が保持され、更に、添接板23によって連結されたストラット22により、上部の一部が保持されている。また、図1に示すように、コンクリート部3の内部に埋設されたPC鋼材31が、鋼殻部2の両端部のエンドプレート27に対し、定着具32によって定着されている。このように、本実施形態の合成構造部材1は、天板21、ストラット22、及び、鋼殻部2の両端部に定着したPC鋼材31等により、コンクリート部3が鋼殻部2に拘束され、一体化されているため、高い曲げ剛性を期待することができる。
【0032】
また、鋼殻部2は、上方が広く開放された構造(鋼殻部2の平面投影面積の80%以上が開放された構造)となっているため、コンクリートの充填作業を容易に実施することができる。この点について具体的に説明すると、鋼管のような細長い閉鎖空間内にコンクリートを充填する場合、隅々にまで確実にコンクリートを送り込むためにポンプ圧送が必要となるほか、バイブレータによる締固め作業も、内部へのアクセスが困難であるため、非常に煩雑で手間がかかるが、本実施形態の合成構造部材1は、開断面部2bの上方から、シュート打設等によって簡単かつ確実に充填することができ、また、締固め作業も容易に実施することができる。
【0033】
(第2実施形態:合成構造部材)
図5は、本発明の第2実施形態の合成構造部材1に用いられる鋼殻部2の端部付近の斜視図である。第1実施形態においては、鋼板をプレス加工することによって断面がU字形となるように形成された鋼殻部2が用いられているが、本実施形態においては、角鋼管の上面(角鋼管を長手方向が水平となるように載置した場合に上方となる面)を加工した鋼殻部2、より具体的には、両端部に天板21(長さ200~500mm)が残存し、図4の鋼殻部2と同様のストラット22が形成されるように、角鋼管の上面を切り欠いて、上方が大きく開放された、断面がC字形となるように形成された鋼殻部2が用いられている。
【0034】
図6は、本実施形態に係る合成構造部材1(開断面部)の断面図、図7は、本実施形態に係る合成構造部材1(ストラット部)の断面図である。本実施形態においても、第1実施形態と同様に、鋼殻部2内にコンクリート部3が形成された後、図6図7に示すように、左右のストラット22が添接板23によって連結されており、コンクリート部3が鋼殻部2に拘束され、一体化されているため、高い曲げ剛性を期待することができる。また、鋼殻部2は、上面が広く開放された構造となっているため、コンクリートの充填作業を容易に実施することができる。
【0035】
(第3実施形態:合成構造部材の製造方法)
第1実施形態として説明した合成構造部材1(図1図4参照)は、次のような方法によって製造することができる。まず、図4に示す鋼殻部2の内面の全面(底部の上面24、両側部の内側面25、天板21の下側面、ストラット22の下側面)に対して、コンクリートのせん断付着強度を低減する表面処理を行う。本実施形態においては、この表面処理方法として、エッチングプライマー(長ばく形エッチングプライマー等)を塗布する。これにより、コンクリートのせん断付着強度を0.1N/mm程度に低減することができる。
【0036】
尚、コンクリートのせん断付着強度を低減する表面処理として、他の塗料(例えば、長油性フタル酸樹脂塗料、変性エポキシ樹脂塗料、合成樹脂調合ペイント、落書き防止・貼紙防止塗料等)、或いは、型枠剥離剤を塗布することもできる。また、塗料等を塗布する前に、鋼殻部2の内面に対して研掃材を吹き付けて、鋼殻部2と塗料等との付着性を確保するための処理(スウィープブラスト処理)を行ってもよい。
【0037】
塗布したエッチングプライマーが乾いたら、底部の上面24(閉断面端部2a、開断面部2b、及び、ストラット部2cの底部の上面24)と、閉断面端部2aの両側部の内側面に遅延硬化性樹脂を塗布する。
【0038】
遅延硬化性樹脂としては、例えば、常温硬化型のエポキシ樹脂等を使用することができる。この遅延硬化性樹脂は、未硬化時にはゲル状に維持される。また、硬化剤の添加量を加減することによって、硬化時間を適宜調整することができる。本実施形態においては、硬化時間が、鋼殻部2に充填するコンクリートよりも長くなるように設定した遅延硬化性樹脂を使用する。
【0039】
次に、図8に示すように、鋼殻部2の内側にPC鋼材31を挿通し、鋼殻部2の外側においてPC鋼材31の両端部を強く引っ張って緊張させる。この状態で鋼殻部2の開断面部2bの上方から、鋼殻部2の内側へコンクリートを打設する。尚、鋼殻部2の両端には、PC鋼材31を通過させることができる穴を有するエンドプレート27を予め配置して、端部開口部28(図4参照)を閉鎖した状態でコンクリートを打設する。
【0040】
鋼殻部2内においてコンクリートが硬化して、コンクリート部3(図1図3参照)が形成されたら、PC鋼材31の緊張力を開放し、コンクリート部3に圧縮力を導入する。次に、エンドプレート27の外側において、PC鋼材31を、定着具32(図1参照)を用いてエンドプレート27に定着させ、コンクリート部3と鋼殻部2とを一体化させる。尚、PC鋼材31の余剰部分については、切断して除去する。
【0041】
次に、図3に示すように、各ストラット22の上面に溶接されているスタッドボルト29を利用して、左右のストラット22の隙間を跨ぐように添接板23を取り付けて(各スタッドボルト29を添接板23の貫通孔に挿通させて)、ナットを締めつけて左右のストラット22同士を連結し、鋼殻部2の左右の側部同士を連結する。
【0042】
尚、ストラット22と添接板23の間には、必要に応じて(例えば、スタッドボルト29の溶接ビードを回避するため)フィラープレート26を配置する。
【0043】
本実施形態に係る方法によって合成構造部材1を製造した場合、コンクリート部3に導入されるプレストレスを好適に均等化することができる。この点について具体的に説明すると、閉断面の鋼管内に充填したコンクリートに対し、PC鋼材によってプレストレスを導入する場合において、鋼管内で硬化したコンクリートが鋼管内面に付着してしまうと、コンクリート部と鋼管とのずれが拘束されてしまい、プレストレスを均等に導入することができないという問題がある。
【0044】
コンクリートを打設する前に、鋼管内面に対し、コンクリートのせん断付着強度を低減する表面処理(エッチングプライマーの塗布等)を予め行った場合には、表面処理を行わなかった場合と比較して、コンクリート部に対する鋼管の拘束力を低減できることになるが、鋼管内で硬化したコンクリートは、周囲(角鋼管の場合、上面、下面、及び、両側面の4面)が密に包囲されているため、圧縮力導入時に、ポアソン効果によって膨張しようとするコンクリートと、それを許容しない鋼管との間で、依然として大きな拘束力が作用することになり、その結果、導入されるプレストレスを均等化することが困難となってしまう。
【0045】
本実施形態においては、図4に示すように、コンクリートを充填する鋼殻部2として、基本的に断面がU字形となるように形成されたものが使用されており、開断面部2bにおいては上方が広く開放され、また、ストラット部2cにおいては、左右のストラット22同士が隙間を置いて非接触で対向する構造となっているため、コンクリート部3に対して圧縮力を導入する際に、ポアソン効果によるコンクリート部3の膨張を許容することができる。
【0046】
より詳細には、上方が開放されている開断面部2bにおいては、コンクリート部3の上方への膨張が許容されるとともに、鋼殻部2の両側部が外向きに変形することによって、側方への膨張も許容される。また、ストラット部2cにおいても、左右のストラット22が上方へ変形することにより、また、鋼殻部2の両側部が外側へ変形することによって、コンクリート部3の膨張が許容される。このため、コンクリート部3に対する鋼殻部2の拘束力が、圧縮力導入時のポアソン効果によって増加するという事態を好適に回避することができる。
【0047】
また、底部の上面24、及び、閉断面端部2aの両側部の内側面25に、鋼殻部2に充填するコンクリートよりも硬化時間が長くなるように設定された遅延硬化性樹脂が塗布されており、この遅延硬化性樹脂は、未硬化時にはゲル状に維持されるため、塗布された部位において、コンクリート部3に対する拘束力を低減することができる。
【0048】
このように、本実施形態に係る方法によれば、コンクリート部3に対する鋼殻部2の拘束力を低減でき、かつ、ポアソン効果によって拘束力が増加することを好適に回避することができる。その結果、コンクリート部3に対してプレストレスを均等に導入することができる。
【0049】
尚、図4に示すような天板21が配置されていない鋼殻部(図示せず)を使用して合成構造部材を製造した場合、プレストレスを導入する際に、両端部のコンクリートにおいて縦方向(長手方向)に沿ってひび割れが発生する可能性があるが、図4に示すように天板21が配置され、両端部が管状(閉断面)に形成された鋼殻部2を使用することにより、そのようなひび割れの発生を防止することができる。
【0050】
また、本実施形態に係る方法によって製造した合成構造部材1は、コンクリート部3が、天板21、及び、添接板23によって連結されたストラット22等によって鋼殻部2内にしっかりと拘束され、また、閉断面端部2a等に塗布された遅延硬化性樹脂の硬化後においては、高い圧縮強度が発現し、コンクリート部3と鋼殻部2とが一体化されるため、長手方向の全体にわたって高い曲げ剛性を期待することができる。更に、鋼殻部2は、上方が広く開放された構造となっているため、コンクリートの充填作業を容易に実施することができる。
【0051】
(第4実施形態:合成構造部材の製造方法)
第3実施形態においては、遅延硬化性樹脂を、鋼殻部2の底部の上面24の全面(閉断面端部2a、開断面部2b、及び、ストラット部2cにおける底部の上面24)、及び、閉断面端部2aの両側部の内側面25に塗布しているが、開断面部2b及びストラット部2cにおける遅延硬化性樹脂の塗布を省略し、閉断面端部2a(底部の上面24、及び、両側部の内側面25)のみにおいて遅延硬化性樹脂を塗布するようにしても良い。
【0052】
(第5実施形態:合成構造部材の製造方法)
第3実施形態及び第4実施形態においては、図4に示す鋼殻部2の閉断面端部2aの底部の上面24、及び、両側部の内側面25に遅延硬化性樹脂を塗布することにより、コンクリート部3に対する鋼殻部2の拘束力を低減させているが、本実施形態においては、遅延硬化性樹脂を塗布する代わりに、閉断面端部2aに対して加温処理を行う。
【0053】
具体的には、鋼殻部2内にコンクリートを充填し、コンクリートが硬化した後、プレストレスの導入前に、閉断面端部2aの外側をヒーター(例えば、面状発熱体、ラバーヒーター等)で覆って閉断面端部2aを加温する。本発明の発明者らが行った実験によると、鋼殻部2を加温することにより、+11.8℃以上の温度差を与えることができれば、鋼殻部2に生じるひずみ(膨張)により、閉断面端部2aにおけるコンクリート部3と鋼殻部2の接触圧力を低下できることが確認されている。
【0054】
この加温処理を行うことにより、閉断面端部2aにおいて、コンクリート部3に対する鋼殻部2の拘束力を低減でき、コンクリート部3に対し、プレストレスを均等に導入することができる。尚、内面に遅延硬化性樹脂を塗布した閉断面端部2aに対して加温処理を行うこともできる。この場合、拘束力をより効果的に低減することができる。
【0055】
(第6実施形態:複合梁材、及び、その製造方法)
図9は、本発明の第6実施形態に係る複合梁材4の垂直断面図である。図示されているようにこの複合梁材4は、I形断面の鋼材5と、二つの合成構造部材1(第1実施形態の合成構造部材1)とによって構成されている。尚、本発明を適用することができる鋼材5は、断面がI形のものには限定されず、H型、或いは、T型の断面を有するものを適用することもでき、また、形鋼及び溶接鋼のいずれであっても適用することができる。
【0056】
本実施形態において使用される鋼材5は、垂直なウェブ51と、その上下にそれぞれ形成された水平な上フランジ52及び下フランジ53とによって構成され、二つの合成構造部材1は、ウェブ51の左右両側において、下フランジ53の上方位置(ウェブ51と下フランジ53との入隅部)にそれぞれ配置され、合成構造部材1の各鋼殻部2の下側面と下フランジ53とが接合(溶接)されるとともに、各鋼殻部2の側面とウェブ51とが接合(溶接)されることにより、鋼材5に対して固定されている。
【0057】
この複合梁材4は、鋼材5に対して、図4に示す鋼殻部2を接合した後、鋼材5に接合された状態の鋼殻部2に対して、第3実施形態に係る方法を適用することによって製造することができる。また、第3実施形態に係る方法を実施して予め製造した合成構造部材1を、鋼材5に接合することによって製造することもできる。
【0058】
本実施形態に係る複合梁材4は、鋼殻部2内にコンクリートが充填されているため、耐火性能に優れており、また、鋼材5のみによって構成される梁材と比較して、高い曲げ剛性を有しているため、振動数が低減し、防振、防音性能の向上を期待することができる。また、靱性が向上し、高い耐震性能を期待することができる。更に、鋼材5のみによって構成される梁材よりも、桁高を小さく設計することができる。
【0059】
(第7実施形態:複合梁材の製造方法)
図10は、本発明の第7実施形態に係る複合梁材4の製造方法において使用される鋼殻部2のストラット部の斜視図、及び、垂直断面図である。本実施形態においては、図示されているような形状のストラット22を有する鋼殻部2が使用される。具体的には、鋼殻部2は、第1実施形態と同様に、長手方向と直交する断面がU字形となるように形成されているが、ストラット22は、第1実施形態とは異なり、水平部22aと垂直部22bとを有するL字形に形成されている。
【0060】
このストラット22は、水平部22aの先端部22cが、鋼殻部2の一方の側部の内側面25に溶接され、水平部22aが、当該一方の側部から反対側の側部へ向かって突出するように、かつ、垂直部22bが、当該反対側の側部の近傍位置から上方へ向かって突出するように構成されている。尚、垂直部22bには、ボルト孔22dが形成されている。
【0061】
本実施形態に係る複合梁材4の製造方法においては、まず、図11に示すように、鋼材5のウェブ51の左右両側において、下フランジ53の上方位置(ウェブ51と下フランジ53との入隅部)に、図10に示す鋼殻部2を、ストラット22の垂直部22bがウェブ51に近接する向きで(先端部22cが外側となる向きで)それぞれ配置し、各鋼殻部2の下側面と下フランジ53とを接合(溶接)するとともに、各鋼殻部2の側面とウェブ51とを接合(溶接)して、鋼殻部2を鋼材5に固定する。尚、ウェブ51には、左右の垂直部22bのボルト孔22dと重なる位置に、予めボルト孔51aを形成しておく。
【0062】
次に、第3実施形態と同様に、鋼殻部2の内面に対して、コンクリートのせん断付着強度を低減する表面処理を行い、更に、底部の上面24等に対する遅延硬化性樹脂の塗布を行った後、鋼殻部2の内側にPC鋼材31(図8参照)を挿通し、鋼殻部2の外側においてPC鋼材31の両端部を強く引っ張って緊張させ、この状態で鋼殻部2の開断面部2b(図8参照)の上方から、鋼殻部2の内側へコンクリートを打設する。
【0063】
図12に示すように、鋼殻部2内においてコンクリートが硬化して、コンクリート部3が形成されたら、PC鋼材31の緊張力を開放し、コンクリート部3に圧縮力を導入し、PC鋼材31を、定着具32(図8参照)を用いてエンドプレート27(図8参照)に定着させ、コンクリート部3と鋼殻部2とを一体化させる。
【0064】
最後に、ウェブ51の左右の垂直部22bのボルト孔22d、及び、ウェブ51のボルト孔51aに、高力ボルト54を挿通し、ナットを締めつけて、ウェブ51に対して垂直部22bを添接する。このようにして、ストラット22により、鋼殻部2の左右の側部同士を間接的に(ウェブ51を介して)連結する。尚、垂直部22bとウェブ51との間には、適切な厚さ寸法を有するフィラープレート55を配置することが好ましい。
【0065】
(第8実施形態:複合梁材)
図13は、本発明の第8実施形態に係る複合梁材4を構成する鋼殻部2及びウェブ51の部分的な垂直断面図である。図9及び図12に示す複合梁材4は、一つの鋼材5に対し二つの鋼殻部2を接合することによって形成されているが、本実施形態に係る複合梁材4は、一つの鋼材5に対し一つの鋼殻部2を接合することによって形成されている。
【0066】
より詳細には、この複合梁材4は、図9及び図12に示す鋼殻部2の約2倍の幅寸法を有する一つの鋼殻部2の底部の上面24の中央に、鋼材5の下フランジ53を接合(溶接)し、鋼殻部2内にコンクリートを打設して、ウェブ51の左右両側にコンクリート部3を形成し、鋼殻部2の一方の側部2dとウェブ51とをL字形のストラット22により連結するとともに、反対側の側部2eとウェブ51とを、もう一つのストラット22によって連結する(鋼殻部2の左右の側部2d,2eを、ウェブ51を介して間接的に連結する)ことによって形成されている。
【0067】
図12に示す複合梁材4(第7実施形態)、及び、図13に示す複合梁材4(第8実施形態)も、図9に示す複合梁材4(第6実施形態)と同様に、耐火性能に優れ、また、鋼材5のみによって構成される梁材と比較して、高い曲げ剛性を有し、更に、鋼材5のみによって構成される梁材よりも、桁高を小さく設計できるという効果を期待することができる。
【符号の説明】
【0068】
1:合成構造部材、
2:鋼殻部、
2a:閉断面端部、
2b:開断面部、
2c:ストラット部、
2d,2e:側部、
3:コンクリート部、
4:複合梁材、
5:鋼材、
21:天板、
22:ストラット、
22a:水平部、
22b:垂直部、
22c:先端部、
22d:ボルト孔、
23:添接板、
24:底部の上面、
25:側部の内側面、
26:フィラープレート、
27:エンドプレート、
28:端部開口部、
29:スタッドボルト、
31:PC鋼材、
32:定着具、
51:ウェブ、
51a:ボルト孔、
52:上フランジ、
53:下フランジ、
54:高力ボルト、
55:フィラープレート、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13