(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090684
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】対向ピストン型ディスクブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 55/228 20060101AFI20240627BHJP
F16D 65/02 20060101ALI20240627BHJP
F16D 65/097 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
F16D55/228
F16D65/02 A
F16D65/097 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206729
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏崎 裕
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA66
3J058AA73
3J058AA77
3J058AA84
3J058AA87
3J058BA16
3J058CA47
3J058CA50
3J058CA65
3J058CC22
3J058DD05
3J058FA01
(57)【要約】
【課題】パッドクリップを他の部材と干渉させることなく、パッドクリップにより、パッドに対してロータから離間させるのに十分な力を付与できる、対向ピストン型ディスクブレーキ装置を実現する。
【解決手段】キャリパ5のガイド壁部19aに備えられたガイド凹溝22に、パッド6aの耳部32を軸方向に移動可能に係合させる。パッドクリップ7として、軸方向視で略コ字形状をなし、かつ、耳部32を囲むようにしてガイド凹溝22に嵌め込まれた基部34と、一方側の端部が基部34に接続されており、ガイド凹溝22のうちで基部34よりも周方向外側に配置された弾発部35と、弾発部35の他方側の端部から周方向内側に向けて延出し、弾発部35の弾性力によって、パッド6aを軸方向に関してロータ4から離れる方向に押圧する押圧部36とを有するものを使用する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上のシリンダを有し、懸架装置に固定されるキャリパと、
前記キャリパに対し軸方向に移動可能に支持されたパッドと、
前記キャリパと前記パッドとの間に配置された金属板製のパッドクリップと、を備え、
前記キャリパは、前記パッドの周方向外側に隣接した部分に、前記パッドと周方向に対向する周方向側面及びロータと軸方向に対向する軸方向側面をそれぞれ備えた、ガイド壁部を有し、
前記ガイド壁部は、周方向に伸長し、かつ、前記周方向側面に開口した周方向開口部及び前記軸方向側面に開口した軸方向開口部をそれぞれ備えた、ガイド凹溝を有し、
前記パッドは、前記ガイド凹溝に対し軸方向に移動可能に係合した耳部を有し、
前記パッドクリップは、軸方向視で略コ字形状をなし、かつ、前記耳部を囲むようにして前記ガイド凹溝に嵌め込まれた基部と、一方側の端部が前記基部に接続されており、前記ガイド凹溝のうちで前記基部よりも周方向外側に配置された弾発部と、前記弾発部の他方側の端部から周方向内側に向けて延出し、前記弾発部の弾性力によって、前記パッドを軸方向に関して前記ロータから離れる方向に押圧する押圧部と、を有する、
対向ピストン型ディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記弾発部は、径方向視で略C字形状をなす部分筒状に構成されている、請求項1に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記基部は、前記ガイド凹溝のうちで径方向内側を向いた外周壁面に沿って配設された外周側板部と、前記ガイド凹溝のうちで径方向外側を向いた内周壁面に沿って配設された内周側板部と、前記外周側板部及び前記内周側板部のそれぞれの周方向外側の端部同士を接続する接続板部と、を有し、
前記弾発部の前記一方側の端部は、前記接続板部のうちで軸方向に関して前記ロータから遠い側の端部に接続されている、
請求項1に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ装置。
【請求項4】
前記パッドクリップは、前記外周側板部の周方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった外向折曲板部と、前記内周側板部の周方向内側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった内向折曲板部と、をさらに有する、
請求項3に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ装置。
【請求項5】
前記ガイド凹溝の前記外周壁面に、周方向に伸長した外側周方向溝が備えられ、かつ、前記外周側板部に、前記外側周方向溝と係合する爪部が備えられているか、又は、前記ガイド壁部の前記周方向側面のうちで前記ガイド凹溝の前記周方向開口部よりも径方向外側部分に、径方向に伸長した外側径方向溝が備えられ、かつ、前記外向折曲板部に、前記外側径方向溝と係合する爪部が備えられている、
請求項4に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ装置。
【請求項6】
前記ガイド凹溝の前記内周壁面に、周方向に伸長した内側周方向溝が備えられ、かつ、前記内周側板部に、前記内側周方向溝と係合する爪部が備えられているか、又は、前記ガイド壁部の前記周方向側面のうちで前記ガイド凹溝の前記周方向開口部よりも径方向内側部分に、径方向に伸長した内側径方向溝が備えられ、かつ、前記内向折曲板部に、前記内側径方向溝と係合する爪部が備えられている、
請求項4に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ装置。
【請求項7】
前記ガイド壁部の前記周方向側面のうちで前記ガイド凹溝の前記周方向開口部よりも径方向外側部分に、径方向に伸長した外側径方向溝が備えられ、かつ、前記外向折曲板部に、前記外側径方向溝と係合する爪部が備えられており、
前記ガイド凹溝の前記内周壁面に、周方向に伸長した内側周方向溝が備えられ、かつ、前記内周側板部に、前記内側周方向溝と係合する爪部が備えられている、
請求項4に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ装置。
【請求項8】
前記ガイド壁部の前記周方向側面のうちで前記ガイド凹溝の前記周方向開口部よりも径方向外側部分に、径方向に伸長した外側径方向溝が備えられ、かつ、前記外向折曲板部に、前記外側径方向溝と係合する爪部が備えられており、
前記ガイド壁部の前記周方向側面のうちで前記ガイド凹溝の前記周方向開口部よりも径方向内側部分に、径方向に伸長した内側径方向溝が備えられ、かつ、前記内向折曲板部に、前記内側径方向溝と係合する爪部が備えられており、
前記外側径方向溝の溝底面と前記内側径方向溝の溝底面とが、同一の仮想円筒面上に配置されている、
請求項4に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ装置。
【請求項9】
前記接続板部は、軸方向に関して前記ロータに近い側の端部に切り欠きを有しており、
前記弾発部の一部又は前記押圧部の一部は、前記切り欠きの内側に配置されている、
請求項3記載した対向ピストン型ディスクブレーキ装置。
【請求項10】
前記内向折曲板部又は/及び前記外向折曲板部は、制動時に前記パッドに作用するトルクを受ける受圧部を有する、請求項4に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ装置。
【請求項11】
前記弾発部及び前記押圧部のそれぞれは、前記ガイド凹溝の前記軸方向開口部から軸方向に関して前記ロータ側にはみ出ていない、請求項1に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ装置。
【請求項12】
前記弾発部は、除肉部を備えている、請求項1に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ装置。
【請求項13】
前記押圧部は、前記パッドの前記耳部の軸方向側面を押圧する、請求項1に記載した対向ピストン型ディスクブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向ピストン型ディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキ装置は、放熱性に優れるとともに、走行時における制動力の細かな調節が可能であるなどの理由から、広く使用されている。
【0003】
ディスクブレーキ装置は、車輪とともに回転するロータの軸方向両側に配置された1対のパッドを、ピストンによりロータの軸方向両側面に押し付けることによって制動力を発生させる。制動解除時には、ピストンシールの弾性復元力によってピストンをシリンダの奥側に引き戻すとともに、回転振れするロータの軸方向側面によってパッドをロータから離れる方向に押圧する。これにより、パッドをロータから離間させて、パッドとロータとの間にクリアランスを確保する。
なお、軸方向、径方向及び周方向とは、特に断らない限り、ロータの軸方向、径方向及び周方向をいう。
【0004】
パッドは、ロータの軸方向側面によって押圧された場合にも、ロータから離れる方向にスムーズに移動せず、傾く場合がある。このようにパッドが傾いた場合には、パッドをロータから十分に離間させることができず、パッドとロータとの引き摺りが問題になる可能性がある。
【0005】
このような事情に鑑みて、ディスクブレーキ装置にパッドクリップを組み込み、制動解除時に、パッドクリップの弾力を利用してパッドをロータから離間させることが考えられている。
【0006】
国際公開第2014/097098号(特許文献1)には、対向ピストン型ディスクブレーキ装置を対象として、パッドの径方向外側に配置したパッドクリップを利用して、制動解除時にパッドをロータから離間させる構造が開示されている。具体的には、パッドクリップのうちでパッドの外周縁部を押圧する部分をテーパ面とすることにより、パッドを、径方向内側に向けて押圧するとともに、軸方向に関してロータから離れる方向に押圧するようにしている。
【0007】
特開2016-28216号公報(特許文献2)には、フローティング型ディスクブレーキ装置を対象として、パッドの裏面に固定したパッドクリップを利用して、制動解除時にパッドをロータから離間させる構造が開示されている。具体的には、径方向視で略コ字形状のパッドクリップをパッドの裏面側に配置し、パッドクリップの一方側の端部をパッドの裏面に固定し、かつ、パッドクリップの他方側の端部を、サポートのうちで軸方向に関してロータとは反対側を向いた面に突き当てている。これにより、制動時に弾性変形したパッドクリップの弾性力を利用して、制動解除時に、パッドをロータから離れる方向に引っ張るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2014/097098号
【特許文献2】特開2016-28216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
国際公開第2014/097098号に記載された構造は、パッドクリップのテーパ面を利用した分力によってパッドを軸方向に押圧するため、軸方向への押圧力が不足し、パッドをロータから十分に離間させることが難しい。
【0010】
これに対し、特開2016-28216号公報に記載された構造によれば、パッドに対してロータから離間させるのに十分な引張力を付与することができる。ただし、パッドクリップをパッドの裏面側に配置する必要があるため、対向ピストン型ディスクブレーキ装置のように、パッドの裏面側にキャリパのボディが近接して配置され、パッドの裏面側にパッドクリップを配置する空間を確保できない構造に採用することは困難である。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、パッドクリップを他の部材に干渉させることなく配置でき、かつ、パッドクリップにより、パッドに対してロータから離間させるのに十分な軸方向の押圧力を付与できる、対向ピストン型ディスクブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置は、キャリパと、パッドと、パッドクリップとを備える。
前記キャリパは、2つ以上のシリンダを有し、懸架装置に固定される。
前記パッドは、前記キャリパに対し軸方向に移動可能に支持されている。
前記パッドクリップは、金属板製で、前記キャリパと前記パッドとの間に配置されている。
前記キャリパは、前記パッドの周方向外側に隣接した部分に、前記パッドと周方向に対向する周方向側面及びロータと軸方向に対向する軸方向側面をそれぞれ備えた、ガイド壁部を有する。
前記ガイド壁部は、周方向に伸長し、かつ、前記周方向側面に開口した周方向開口部及び前記軸方向側面に開口した軸方向開口部をそれぞれ備えた、ガイド凹溝を有する。
前記パッドは、前記ガイド凹溝に対し軸方向に移動可能に係合した耳部を有する。
前記パッドクリップは、軸方向視で略コ字形状をなし、かつ、前記耳部を囲むようにして前記ガイド凹溝に嵌め込まれた基部と、一方側の端部が前記基部に接続されており、前記ガイド凹溝のうちで前記基部よりも周方向外側に配置された弾発部と、前記弾発部の他方側の端部から周方向内側に向けて延出し、前記弾発部の弾性力によって、前記パッドを軸方向に関して前記ロータから離れる方向に押圧する押圧部と、を有する。
【0013】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記弾発部を、径方向視で略C字形状(U字形状を含む)をなす部分筒状(半円筒状、半長円筒状、半楕円筒状)に構成することができる。
あるいは、前記弾発部を、径方向視で、略J字形状、略V字形状、又は略M字形状などに構成することもできる。
【0014】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記基部を、前記ガイド凹溝のうちで径方向内側を向いた外周壁面に沿って配設された外周側板部と、前記ガイド凹溝のうちで径方向外側を向いた内周壁面に沿って配設された内周側板部と、前記外周側板部及び前記内周側板部のそれぞれの周方向外側の端部同士を接続する接続板部と、を有するものとし、前記弾発部の前記一方側の端部を、前記接続板部のうちで軸方向に関して前記ロータから遠い側(反ロータ側)の端部に接続することができる。
【0015】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記接続板部のうちで軸方向に関して前記ロータから遠い側の端部を、前記外周側板部及び前記内周側板部のうちで、軸方向に関して前記ロータから遠い側の端部よりも、前記ロータ側に配置することができる。
この場合にはさらに、前記弾発部の前記一方側の端部を、前記外周側板部及び前記内周側板部のうちで軸方向に関して前記ロータから遠い側の端部よりも、前記ロータ側に配置することができる。
【0016】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記パッドクリップを、前記外周側板部の周方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった外向折曲板部と、前記内周側板部の周方向内側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった内向折曲板部とを、さらに有するものとすることができる。
あるいは、本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記外向折曲板部と前記内向折曲板部とのいずれか一方のみを備えることもできるし、前記外向折曲板部及び前記内向折曲板部をいずれも備えないこともできる。
【0017】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記外向折曲板部を前記外周側板部に対して直角に折り曲げるとともに、前記内向折曲板部を前記内周側板部に対して直角に折り曲げることができる。あるいは、前記外周側板部に対する前記外向折曲板部の曲げ角度と、前記内周側板部に対する前記内向折曲板部の曲げ角度とを互いに異ならせることもできる。
また、前記外向折曲板部と前記内向折曲板部とを、同じ周方向位置に配置することもできるし、周方向にオフセットして配置することもできる。
【0018】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記ガイド凹溝の前記外周壁面に、周方向に伸長した外側周方向溝を備え、かつ、前記外周側板部に、前記外側周方向溝と係合する爪部を備えることができる。又は、前記ガイド壁部の前記周方向側面のうちで前記ガイド凹溝の前記周方向開口部よりも径方向外側部分に、径方向に伸長した外側径方向溝を備え、かつ、前記外向折曲板部に、前記外側径方向溝と係合する爪部を備えることができる。
【0019】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記外側周方向溝を、周方向に直線状に伸長し、周方向位置にかかわらず軸方向位置が変化しないものとすることもできるし、周方向外側に向かうほど軸方向に関してロータ側又は反ロータ側に向かう方向に傾斜したものとすることもできる。また、前記外側周方向溝の溝幅及び溝深さは、周方向の全長にわたり一定とすることもできるし、周方向位置に応じて異ならせることもできる。
【0020】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記外側径方向溝を、径方向に直線状に伸長し、径方向位置にかかわらず軸方向位置が変化しないものとすることもできるし、径方向外側に向かうほど軸方向に関してロータ側又は反ロータ側に向かう方向に傾斜したものとすることもできる。また、前記外側径方向溝の溝幅及び溝深さは、径方向の全長にわたり一定とすることもできるし、径方向位置に応じて異ならせることもできる。
【0021】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記ガイド凹溝の前記内周壁面に、周方向に伸長した内側周方向溝を備え、かつ、前記内周側板部に、前記内側周方向溝と係合する爪部を備えることができる。又は、前記ガイド壁部の前記周方向側面のうちで前記ガイド凹溝の前記周方向開口部よりも径方向内側部分に、径方向に伸長した内側径方向溝を備え、かつ、前記内向折曲板部に、前記内側径方向溝と係合する爪部を備えることができる。
【0022】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記内側周方向溝を、周方向に直線状に伸長し、周方向位置にかかわらず軸方向位置が変化しないものとすることもできるし、周方向外側に向かうほど軸方向に関してロータ側又は反ロータ側に向かう方向に傾斜したものとすることもできる。また、前記内側周方向溝の溝幅及び溝深さは、周方向の全長にわたり一定とすることもできるし、周方向位置に応じて異ならせることもできる。
【0023】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記内側径方向溝を、径方向に直線状に伸長し、径方向位置にかかわらず軸方向位置が変化しないものとすることもできるし、径方向内側に向かうほど軸方向に関してロータ側又は反ロータ側に向かう方向に傾斜したものとすることもできる。また、前記内側径方向溝の溝幅及び溝深さは、径方向の全長にわたり一定とすることもできるし、径方向位置に応じて異ならせることもできる。
【0024】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記ガイド壁部の前記周方向側面のうちで前記ガイド凹溝の前記周方向開口部よりも径方向外側部分に、径方向に伸長した外側径方向溝を備え、かつ、前記外向折曲板部に、前記外側径方向溝と係合する爪部を備えることができる。
また、前記ガイド凹溝の前記内周壁面に、周方向に伸長した内側周方向溝を備え、かつ、前記内周側板部に、前記内側周方向溝と係合する爪部を備えることができる。
【0025】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記ガイド壁部の前記周方向側面のうちで前記ガイド凹溝の前記周方向開口部よりも径方向外側部分に、径方向に伸長した外側径方向溝を備え、かつ、前記外向折曲板部に、前記外側径方向溝と係合する爪部を備えることができる。
また、前記ガイド壁部の前記周方向側面のうちで前記ガイド凹溝の前記周方向開口部よりも径方向内側部分に、径方向に伸長した内側径方向溝を備え、かつ、前記内向折曲板部に、前記内側径方向溝と係合する爪部を備えることができる。
そして、前記外側径方向溝の溝底面と前記内側径方向溝の溝底面とを、同一の仮想円筒面上に配置することができる。
【0026】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記接続板部を、軸方向に関して前記ロータに近い側の端部に切り欠きを有するものとし、前記弾発部の一部又は前記押圧部の一部を、前記切り欠きの内側に配置することができる。
【0027】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記内向折曲板部又は/及び前記外向折曲板部を、制動時に前記パッドに作用するトルクを受ける受圧部を有するものとすることができる。
前記内向折曲板部に、前記爪部と前記受圧部との両方を備える場合には、前記受圧部を前記爪部よりも径方向内側に配置することができる。
前記外向折曲板部に、前記爪部と前記受圧部との両方を備える場合には、前記受圧部を前記爪部よりも径方向外側に配置することができる。
【0028】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記弾発部及び前記押圧部のそれぞれを、前記ガイド凹溝の前記軸方向開口部から軸方向に関して前記ロータ側にはみ出さないようにすることができる。
【0029】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記弾発部を、除肉部を備えたものとすることができる。
前記除肉部は、前記弾発部に作用する応力を緩和する機能を有し、例えば、前記弾発部の幅方向中間部に形成したスリット、又は、前記弾発部の幅方向両側の端部に形成した切り欠きなどを採用することができる。
【0030】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記押圧部により、前記パッドの前記耳部の軸方向側面を押圧することができる。
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置では、前記押圧部の周方向内側の端部に、軸方向に関して前記ロータとは反対側の面が凸面になった屈曲部を備えることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の一態様にかかる対向ピストン型ディスクブレーキ装置によれば、パッドクリップを他の部材に干渉させることなく配置でき、かつ、パッドクリップにより、パッドに対してロータから離間させるのに十分な軸方向の押圧力を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、実施の形態の第1例のディスクブレーキ装置を示す正面図である。
【
図2】
図2は、実施の形態の第1例のディスクブレーキ装置を示す平面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態の第1例のディスクブレーキ装置を回入側から見た側面図である。
【
図4】
図4は、実施の形態の第1例のディスクブレーキ装置を示す底面図である。
【
図5】
図5は、実施の形態の第1例のディスクブレーキ装置を径方向外側かつ回入側から見た斜視図である。
【
図6】
図6は、実施の形態の第1例のディスクブレーキ装置を径方向内側かつ回出側から見た斜視図である。
【
図11】
図11の(A)は、実施の形態の第1例に関して、インナボディの回出側に備えられたガイド壁部を周方向内側から見た斜視図であり、
図11の(B)は、
図11の(A)のガイド壁部のガイド凹溝にパッドクリップを装着した状態を示す斜視図である。
【
図12】
図12は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置からインナパッドを取り出して示す正面図である。
【
図13】
図13は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置からインナパッド及びパッドクリップを取り出して示す正面図である。
【
図15】
図15は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置から軸方向内側かつ回出側に配置されたパッドクリップを取り出して示す図であり、(A)は正面図であり、(B)は平面図であり、(C)は底面図であり、(D)は右側面図であり、(E)は左側面図である。
【
図16】
図16は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置から軸方向内側かつ回出側に配置されたパッドクリップを取り出し、軸方向外側の4方向から見た斜視図である。
【
図17】
図17は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置から軸方向内側かつ回出側に配置されたパッドクリップを取り出し、軸方向内側の4方向から見た斜視図である。
【
図19】
図19は、実施の形態の第2例に関して、
図18の(B)のガイド壁部及びパッドクリップを径方向内側から見た斜視図である。
【
図22】
図22は、実施の形態の第4例に関して、インナボディの回出側に備えられたガイド壁部の一部を、軸方向外側から見た模式図である。
【
図23】
図23の(A)は、実施の形態の第5例に関して、インナボディの回出側に備えられたガイド壁部のガイド凹溝にパッドクリップを装着した状態を示す斜視図であり、
図23の(B)は、
図23の(A)のガイド凹溝にインナパッドの耳部を係合させた状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、
図1~
図17を用いて説明する。
【0034】
本例の対向ピストン型のディスクブレーキ装置1は、サービスブレーキとして機能する油圧式の対向ピストン型ブレーキ機構部2に、パーキングブレーキとして機能する電動式のフローティング型ブレーキ機構部3を組み合わせて成る、ハイブリッドタイプのディスクブレーキ装置である。ただし、本発明は、フローティング型ブレーキ機構部を備えない、従来から広く知られた対向ピストン型ディスクブレーキ装置にも適用可能である。
【0035】
以下、本例のディスクブレーキ装置1の全体構造を説明した後、パッドクリップ7とその周辺構造について詳しく説明する。
【0036】
本明細書及び特許請求の範囲で、軸方向、周方向及び径方向とは、特に断らない限り、車輪とともに回転する円板状のロータ4(
図2参照)の軸方向、周方向及び径方向をいう。また、軸方向内側とは、車両に組み付けた状態での車両の幅方向中央側をいい、軸方向外側とは、車両に組み付けた状態での車両の幅方向外側をいう。また、周方向内側とは、ディスクブレーキ装置1の周方向中央側をいい、周方向外側とは、ディスクブレーキ装置1の周方向両側をいう。また、回入側とは、周方向外側のうち、車両の前進走行時に、ロータ4がキャリパ5の内側に入り込む側を言い、回出側とは、周方向外側のうち、車両の前進走行時に、ロータ4がキャリパ5の外側に抜け出す側をいう。
【0037】
[ディスクブレーキ装置の全体構造]
ディスクブレーキ装置1は、キャリパ5と、1対のパッド6a、6bと、4個のパッドクリップ7とを備える。
【0038】
本例のディスクブレーキ装置1は、複数個(図示の例では4個)のピストン8、9と、クランプ部材10と、電動アクチュエータ11とをさらに備える。
【0039】
キャリパ5は、アルミニウム系合金製又は鉄系合金製で、全体が舟型形状を有している。キャリパ5は、対向ピストン型ブレーキ機構部2を構成し、ナックルなどの懸架装置に固定される。キャリパ5は、複数(図示の例では4つ)のシリンダ12を有している。
【0040】
具体的には、キャリパ5は、ロータ4よりも軸方向内側に配置されたインナボディ13と、ロータ4よりも軸方向外側に配置されたアウタボディ14とに、それぞれ2つずつシリンダ12を有している。インナボディ13に備えられた2つのシリンダ12とアウタボディ14に備えられた2つのシリンダ12は、互いに同軸に配置されている。インナボディ13とアウタボディ14とは、軸方向に伸長した複数本(図示の例では3本)の連結部15a、15b、15cにより連結されている。
【0041】
シリンダ12のそれぞれには、ピストン8、9が軸方向に変位可能に嵌装されている。キャリパ5に備えられた4つのシリンダ12のうち、3つのシリンダ12には、サービスブレーキによる制動時にのみ作動するサービス専用ピストン8が嵌装されており、残り1つのシリンダ12には、サービスブレーキ及びパーキングブレーキのいずれの制動時にも作動する兼用ピストン9が嵌装されている。兼用ピストン9は、4つのシリンダ12のうちで軸方向内側かつ回入側に配置されたシリンダ12に嵌装されている。
【0042】
1対のパッド6a、6bは、ロータ4の軸方向両側に配置されており、キャリパ5に対し軸方向に移動可能に支持されている。具体的には、ロータ4の軸方向内側に配置されたインナパッド6aは、インナボディ13に対し軸方向に移動可能に支持されている。ロータ4の軸方向外側に配置されたアウタパッド6bは、アウタボディ14に対し軸方向に移動可能に支持されている。
【0043】
パッドクリップ7は、金属板製で、インナパッド6aの周方向両外側の端部とインナボディ13との間部分、及び、アウタパッド6bの周方向両外側の端部とアウタボディ14との間部分にそれぞれ配置されている。パッドクリップ7は、インナパッド6a及びアウタパッド6bをそれぞれ保持し、インナパッド6a及びアウタパッド6bがキャリパ5に固着することを防止して、インナパッド6a及びアウタパッド6bの軸方向の円滑な移動を確保する機能を有する。
【0044】
クランプ部材10は、フローティング型ブレーキ機構部3を構成し、1対のパッド6a、6bを径方向外側から跨ぐようにして、キャリパ5に対し軸方向に移動可能に支持されている。クランプ部材10は、軸方向外側の端部に爪部16を有している。爪部16は、アウタパッド6bの軸方向外側面とキャリパ5のアウタボディ14の軸方向内側面との間に配置されており、パーキングブレーキによる制動時に、アウタパッド6bを軸方向内側に向けて押圧する。
【0045】
電動アクチュエータ11は、クランプ部材10の軸方向内側に固定された電動駆動装置(MGU)17と、電動駆動装置17によって駆動され、回転運動を直線運動に変換する図示しない回転直動変換機構とを備えている。
【0046】
本例のディスクブレーキ装置1は、キャリパ5に備えられたすべてのシリンダ12に、作動油であるブレーキオイルを送り込むことによって、サービスブレーキによる制動力を得る。具体的には、すべてのシリンダ12にブレーキオイルを送り込むことによって、すべてのピストン8、9をシリンダ12から押し出す。そして、1対のパッド6a、6bによりロータ4を軸方向両側から挟持することで、サービスブレーキによる制動力を得る。
【0047】
更に、本例のディスクブレーキ装置1は、電動アクチュエータ11を駆動することによって、パーキングブレーキによる制動力を得る。具体的には、電動駆動装置17により回転直動変換機構を駆動することで、兼用ピストン9をシリンダ12から押し出し、インナパッド6aをロータ4の軸方向内側面に押し付ける。また、押し付けに伴う反力によって、クランプ部材10をキャリパ5に対し軸方向内側に変位させ、爪部16により、アウタパッド6bをロータ4の軸方向外側面に押し付ける。これにより、1対のパッド6a、6bによりロータ4を軸方向両側から挟持し、パーキングブレーキによる制動力を得る。
【0048】
本例のディスクブレーキ装置1は、サービスブレーキ及びパーキングブレーキによる制動力を解除した際に、パッドクリップ7により、インナパッド6a及びアウタパッド6bをロータ4から軸方向に離間させる。具体的には、軸方向内側に配置された2つのパッドクリップ7により、インナパッド6aを軸方向内側に向けて押圧し、インナパッド6aをロータ4から離間させる。また、軸方向外側に配置された2つのパッドクリップ7により、アウタパッド6bを軸方向外側に向けて押圧し、アウタパッド6bをロータ4から離間させる。
【0049】
次に、本例のパッドクリップ7とその周辺構造について詳しく説明する。
前述した通り、パッドクリップ7は、インナパッド6aの周方向両外側の端部とインナボディ13との間部分、及び、アウタパッド6bの周方向両外側の端部とアウタボディ14との間部分にそれぞれ配置される。このため、パッドクリップ7の周辺構造として、インナボディ13及びアウタボディ14の構造、並びに、インナパッド6a及びアウタパッド6bの構造を詳しく説明する。
【0050】
[インナボディ及びアウタボディ]
インナボディ13は、インナパッド6aの周方向両外側に隣接した部分に、ガイド壁部19aをそれぞれ有する。ガイド壁部19aは、インナボディ13の軸方向外側面の周方向両外側部に備えられている。
【0051】
アウタボディ14は、アウタパッド6bの周方向両外側に隣接した部分に、ガイド壁部19bをそれぞれ有する。ガイド壁部19bは、アウタボディ14の軸方向内側面の周方向両外側部に備えられている。
【0052】
ガイド壁部19a、19bは、インナパッド6a又はアウタパッド6bと周方向に対向する周方向側面20と、ロータ4と軸方向に対向する軸方向側面21とをそれぞれ備えている。具体的には、インナボディ13に備えられたガイド壁部19aは、インナパッド6aと周方向に対向する周方向側面20、及び、ロータ4の軸方向内側面と軸方向に対向する軸方向側面21を有する。これに対し、アウタボディ14に備えられたガイド壁部19bは、アウタパッド6bと周方向に対向する周方向側面20、及び、ロータ4の軸方向外側面と軸方向に対向する軸方向側面21を有する。
【0053】
周方向側面20及び軸方向側面21のそれぞれは、平坦面状に構成されている。周方向側面20と軸方向側面21とは、略直角に配置されている。
【0054】
ガイド壁部19a、19bは、径方向中間部に、周方向に伸長したガイド凹溝22を有する。ガイド凹溝22は、例えばフライスカッターなどの切削工具を利用して形成されている。ガイド凹溝22は、軸方向側面21に直交する断面において矩形状の矩形溝であり、ガイド壁部19a、19bの周方向側面20に開口した周方向開口部23、及び、ガイド壁部19a、19bの軸方向側面21に開口した軸方向開口部24をそれぞれ有する。ガイド凹溝22は、インナパッド6a及びアウタパッド6bに備えられた後述する耳部32を軸方向に移動可能に支持するために備えられている。
【0055】
ガイド凹溝22の径方向の溝幅は、周方向にわたりほぼ一定である。また、ガイド凹溝22の軸方向の溝深さは、周方向にわたりほぼ一定である。
【0056】
ガイド凹溝22は、径方向内側を向いた平坦面状の外周壁面25を有し、かつ、径方向外側を向いた平坦面状の内周壁面26を有する。外周壁面25と内周壁面26とは、互いに略平行に配置されている。また、ガイド凹溝22は、平坦面状の軸方向底面27を有している。
【0057】
ガイド壁部19a、19bは、周方向側面20のうちでガイド凹溝22の周方向開口部23よりも径方向外側部分に、径方向に伸長した外側径方向溝28(
図11(A)参照)を備えている。
【0058】
外側径方向溝28は、径方向に直線状に伸長しており、径方向位置にかかわらず軸方向位置が変化しない。外側径方向溝28の軸方向の溝幅は、径方向にわたりほぼ一定であり、周方向側面20の軸方向幅の1/8~1/3程度である。また、外側径方向溝28の周方向の溝深さは、径方向にわたりほぼ一定である。外側径方向溝28は、径方向内側及び周方向内側にそれぞれ開口している。なお、外側径方向溝の周方向の溝深さは、径方向位置に応じて異ならせることができる。また、外側径方向溝は、周方向内側にのみ開口させることもできる。
【0059】
ガイド凹溝22の内周壁面26は、周方向に伸長した内側周方向溝29(
図11(A)参照)を備えている。
【0060】
内側周方向溝29は、周方向に直線状に伸長しており、周方向位置にかかわらず軸方向位置が変化しない。内側周方向溝29の軸方向の溝幅は、周方向にわたりほぼ一定であり、内周壁面26の軸方向幅の1/8~1/3程度である。また、内側周方向溝29の軸方向の溝幅は、外側径方向溝28の軸方向の溝幅とほぼ同じである。また、内側周方向溝29の径方向の溝深さは、周方向にわたりほぼ一定である。内側周方向溝29は、径方向外側及び周方向内側にそれぞれ開口している。なお、内側周方向溝の径方向の溝深さは、周方向位置に応じて異ならせることができる。また、内側周方向溝は、径方向外側にのみ開口させることもできる。
【0061】
本例では、ガイド壁部19a、19bの周方向側面20のうちでガイド凹溝22の周方向開口部23のよりも径方向内側部分が、制動時にインナパッド6a及びアウタパッド6bに作用するトルクを支承するトルク受面として機能する。
【0062】
[インナパッド及びアウタパッド]
インナパッド6aは、軸方向に関してロータ4とインナボディ13との間に配置されている。アウタパッド6bは、軸方向に関してロータ4とアウタボディ14との間に配置されている。インナパッド6a及びアウタパッド6bのそれぞれは、ライニング30と、該ライニング30の裏面を支持した金属製のプレッシャプレート31とを備えている。
【0063】
プレッシャプレート31は、周方向両側の端部の径方向中間部に、ライニング30よりも周方向外側に向けてそれぞれ突出した耳部32を備えている。
【0064】
耳部32は、略矩形板状に構成されている。耳部32の径方向幅は、ガイド凹溝22の径方向の溝幅よりも少しだけ小さい。また、耳部32の軸方向厚さ(板厚)は、ガイド凹溝22の軸方向の溝深さよりも小さい。
【0065】
インナパッド6aは、周方向両外側の端部に備えられた1対の耳部32を、インナボディ13に備えられた1対のガイド凹溝22に対し軸方向に移動可能に係合させている。同様に、アウタパッド6bは、周方向両外側の端部に備えられた1対の耳部32を、アウタボディ14に備えられた1対のガイド凹溝22に対し軸方向に移動可能に係合させている。これにより、インナパッド6a及びアウタパッド6bは、キャリパ5に対して、軸方向の変位を可能に、かつ、周方向及び径方向の変位を不能に支持されている。
【0066】
プレッシャプレート31は、周方向両外側の端部の径方向内側部に、ライニング30よりも周方向外側に向けてそれぞれ張り出したトルク伝達部33を有する。トルク伝達部33の周方向外側の端面は、平坦面状であり、耳部32の周方向外側の端面よりも周方向内側に位置している。
【0067】
プレッシャプレート31の裏側には、プレッシャプレート31の裏面を覆うようにシム板54が取り付けられている。
【0068】
[パッドクリップ]
前述したように、本例のディスクブレーキ装置1は、4個のパッドクリップ7を使用しているが、ロータ4よりも軸方向内側に配置された2個のパッドクリップ7同士は、周方向に関して対称形状を有しており、ロータ4よりも軸方向外側に配置された2つのパッドクリップ7同士は、周方向に関して対称形状を有している。また、回入側に配置された2個のパッドクリップ7同士は、軸方向に関して対称形状を有しており、回出側に配置された2個のパッドクリップ7同士は、軸方向に関して対称形状を有している。このように4個のパッドクリップ7の形状は、相互に軸方向又は/及び周方向に対称の関係にあるため、パッドクリップ7についての詳しい説明は、軸方向内側かつ回出側に配置されたパッドクリップ7のみを対象に行い、残りのパッドクリップ7の説明は省略する。
【0069】
パッドクリップ7は、基部34と、弾発部35と、押圧部36とを備えている。パッドクリップ7は、ステンレス鋼板などの弾性及び耐食性を有する金属板にプレス加工を施すことにより造られており、全体の板厚が一定である。
【0070】
基部34は、軸方向視で略コ字形状をなし、パッドクリップ7の径方向中間部の周方向内側半部に備えられている。基部34は、インナパッド6aの耳部32を囲むようにしてガイド凹溝22に嵌め込まれている。基部34は、インナパッド6aの耳部32を保持し、キャリパ5に対するインナパッド6aの軸方向の円滑な移動を確保する。
【0071】
基部34は、ガイド凹溝22の外周壁面25に沿って配設された外周側板部37と、ガイド凹溝22の内周壁面26に沿って配設された内周側板部38と、外周側板部37及び内周側板部38のそれぞれの周方向外側の端部同士を接続する接続板部39とを有する。
【0072】
基部34は、外周側板部37を外周壁面25に弾性的に押し付け、かつ、内周側板部38を内周壁面26に弾性的に押し付けることで、ガイド凹溝22の内側にがたつきなく嵌め込まれている。
【0073】
外周側板部37は、平板形状を有しており、外周壁面25とほぼ同じ大きさの軸方向幅を有する。
【0074】
内周側板部38は、平板形状を有しており、内周壁面26とほぼ同じ大きさの軸方向幅を有する。内周側板部38の周方向長さは、外周側板部37の周方向長さと同じである。内周側板部38は、外周側板部37と略平行に配置されている。
【0075】
本例では、内周側板部38は、舌片状の爪部40を有する。爪部40は、内周側板部38の周方向中間部に略コ字形の切れ目を形成し、該切れ目の内側部分を径方向内側に曲げ起こすことで形成されている。爪部40は、軸方向外側に向かうほど径方向内側に向かう方向に伸長している。爪部40は、基部34をガイド凹溝22の内側に嵌め込んだ状態で、内周壁面26に備えられた内側周方向溝29と軸方向に係合する。これにより、内周側板部38が内周壁面26に対して軸方向外側に相対変位することを防止する。
【0076】
接続板部39は、平板形状を有している。接続板部39の径方向外側の端部は、外周側板部37の周方向外側の端部に対し略直角に接続されており、接続板部39の径方向内側の端部は、内周側板部38の周方向外側の端部に対し略直角に接続されている。
【0077】
接続板部39は、軸方向に関してロータ4に近い側に位置する軸方向外側の端部に、特許請求の範囲に記載した切り欠きに相当するロータ側切り欠き41を有し、軸方向に関してロータ4から遠い側に位置する軸方向内側の端部に、反ロータ側切り欠き42を有している。ロータ側切り欠き41及び反ロータ側切り欠き42は、接続板部39の径方向内側の端部から径方向外側の端部にわたる範囲に形成されている。ロータ側切り欠き41の径方向長さは、押圧部36の径方向幅よりも大きい。
【0078】
接続板部39の軸方向幅は、ロータ側切り欠き41及び反ロータ側切り欠き42を接続板部39に形成することにより、外周側板部37及び内周側板部38のそれぞれの軸方向幅よりも小さく、外周側板部37及び内周側板部38のそれぞれの軸方向幅の1/3~2/3程度である。図示の例では、ロータ側切り欠き41の軸方向幅を、反ロータ側切り欠き42の軸方向幅よりも大きくしているが、互いに同じ大きさとすることもできる。
【0079】
弾発部35は、サービスブレーキ及びパーキングブレーキによる制動時に、インナパッド6aにより弾性変形させられて、インナパッド6aをロータ4から離間させるのに利用する弾発エネルギーを蓄える。
【0080】
弾発部35は、パッドクリップ7の径方向中間部の周方向外側半部に備えられており、パッドクリップ7の装着状態において、ガイド凹溝22のうちで基部34よりも周方向外側に配置されている。つまり、本例では、パッドクリップ7のうちで、耳部32を保持する基部34だけでなく、弾発エネルギーを蓄える弾発部35についても、ガイド凹溝22に収容されている。
【0081】
本例では、弾発部35は、径方向視で略C字形状をなし、部分円筒状(略半円筒状)に構成されている。弾発部35は、基部34を構成する接続板部39の軸方向内側の端部から周方向外側に向けて伸長した周方向延出部35aと、周方向延出部35aの周方向外側の端部から周方向外側に向かうほど軸方向外側に向かう方向に円弧状に湾曲した後、軸方向外側に向かうほど周方向内側に向かう方向に円弧状に湾曲した湾曲部35bとから構成されている。ただし、弾発部の形状は、上記形状に限定されず、径方向視で、略J字形状、略V字形状、又は略M字形状などに構成することもできる。
【0082】
弾発部35の一方側の端部を構成する周方向延出部35aの周方向内側の端部は、接続板部39の軸方向内側の端部に接続されている。周方向延出部35aの周方向内側の端部は、基部34を構成する外周側板部37及び内周側板部38のそれぞれの軸方向内側の端部よりも軸方向外側に位置している。このため、基部34を構成する外周側板部37及び内周側板部38のそれぞれの軸方向内側の端部を、ガイド凹溝22の軸方向底面27に突き当てた状態で、周方向延出部35aの軸方向内側面と軸方向底面27との間には、隙間が形成される。本例では、外周側板部37及び内周側板部38のそれぞれの軸方向内側の端部の周方向中間部に備えられた舌片状の突き当て片53a、53bを、ガイド凹溝22の軸方向底面27に突き当てているが、突き当て片は省略することもできる。
【0083】
弾発部35の他方側の端部を構成する湾曲部35bの周方向内側の端部は、押圧部36の周方向外側の端部に接続されている。湾曲部35bの周方向内側の端部は、接続板部39の軸方向外側の端部よりも軸方向外側に配置されている。
【0084】
押圧部36は、弾発部35の他方側の端部から周方向内側に向けて延出している。本例では、パッドクリップ7(弾発部35)の自由状態で、押圧部36は、周方向内側に向かうほど軸方向内側に向かう方向にわずかに傾斜している。このため、押圧部36は、パッドクリップ7の自由状態で、周方向内側に向かうほどガイド凹溝22の軸方向底面27に近づいている。
【0085】
本例では、押圧部36の周方向外側部は、接続板部39に備えられたロータ側切り欠き41の内側に配置されている。つまり、押圧部36は、ロータ側切り欠き41を通って周方向に伸長している。このため、押圧部36の大部分は、径方向に関して外周側板部37と内周側板部38との間部分に配置されている。押圧部36は、弾発部35の弾力によって、インナパッド6aを軸方向に関してロータ4から離れる方向である軸方向内側に向けて押圧する。
【0086】
本例では、押圧部36の周方向内側部の軸方向内側面が、インナパッド6aの耳部32の軸方向外側面を軸方向内側に向けて押圧する。
【0087】
押圧部36は、径方向視で略L字形(J字形状を含む)を有しており、軸方向内側部に屈曲部43を備えている。本例では、屈曲部43の軸方向内側面により構成される凸面を、インナパッド6aの耳部32の軸方向外側面に当接させて、該耳部32を軸方向内側に押圧する。
【0088】
弾発部35の一方寄り部分から押圧部36の周方向内側部にわたる範囲には、除肉部44が形成されている。除肉部44は、弾発部35及び押圧部36に作用する応力を緩和する機能を有している。本例では、除肉部44は、弾発部35及び押圧部36の幅方向中間部に形成されたスリット(貫通孔)により構成されている。
【0089】
弾発部35及び押圧部36のそれぞれは、ガイド凹溝22の軸方向開口部24から軸方向外側にはみ出していない。つまり、弾発部35は、制動時と非制動時とで形状が変化し、押圧部36は、制動時と非制動時とで軸方向位置が変化するが、弾発部35及び押圧部36は、制動時及び非制動時のいずれの状態でも、ガイド凹溝22の軸方向開口部24から軸方向外側にはみ出さない。
【0090】
本例のパッドクリップ7は、外向折曲板部45と、内向折曲板部46とをさらに備える。
【0091】
外向折曲板部45は、基部34を構成する外周側板部37の周方向内側の端部から径方向外側に向けて略直角に折れ曲がり、ガイド壁部19aの周方向側面20のうちで周方向開口部23よりも径方向外側部分を覆っている。外向折曲板部45の軸方向幅は、外周側板部37の軸方向幅よりも小さく、外周側板部37の軸方向幅の1/4~2/3程度である。本例では、外向折曲板部45は、外周側板部37の周方向内側の端部の軸方向内側の端部に接続されている。
【0092】
内向折曲板部46は、基部34を構成する内周側板部38の周方向内側の端部から径方向内側に向けて略直角に折れ曲がり、ガイド壁部19aの周方向側面20のうちで周方向開口部23よりも径方向内側部分を覆っている。内向折曲板部46の軸方向幅は、内周側板部38の軸方向幅と同じである。
【0093】
本例では、外向折曲板部45と内向折曲板部46とは、互いに略平行に配置されており、同じ周方向位置に配置されている。すなわち、外向折曲板部45の周方向外側面と、内向折曲板部46の周方向外側面とは、同一の仮想平面上に位置している。
【0094】
本例では、外向折曲板部45は、舌片状の爪部47を有する。爪部47は、外向折曲板部45の径方向外側の端部から軸方向外側に向けて延出している。爪部47は、軸方向外側に向かうほど周方向外側に向かう方向に伸長している。爪部47は、基部34をガイド凹溝22の内側に嵌め込み、外向折曲板部45によりガイド壁部19aの周方向側面20を覆った状態で、周方向側面20に備えられた外側径方向溝28と軸方向に係合する。これにより、外向折曲板部45が周方向側面20に対して軸方向外側に変位することを防止する。
【0095】
本例では、内向折曲板部46は、制動時にインナパッド6aに作用するトルクを受ける受圧部48を有する。受圧部48は、ガイド壁部19aの周方向側面20に備えられたトルク受面を覆っており、制動時に、インナパッド6aのトルク伝達部33の周方向端面が突き当てられる。
【0096】
以上のような構成を備えた本例のパッドクリップ7は、常に、押圧部36に備えられた屈曲部43が、インナパッド6aの耳部32の軸方向外側面又はアウタパッド6bの耳部32の軸方向内側面に対し当接している。
【0097】
本例のパッドクリップ7は、サービスブレーキ及びパーキングブレーキによる制動時、ピストン8、9によってインナパッド6a及びアウタパッド6bを、軸方向に関してロータ4に近づく方向に押圧すると、耳部32に当接した押圧部36がロータ4に近づくように軸方向に変位し、弾発部35に弾性変形が生じる。具体的には、弾発部35は、一方側の端部と他方側の端部との軸方向間隔が広がるように弾性変形する。これにより、弾発部35に弾発エネルギーが蓄えられる。
【0098】
本例のパッドクリップ7は、制動解除時に、図示しないピストンシールの弾性復元力によってピストン8、9がシリンダ12の奥側に引き戻されると、弾発部35の弾性復元力によって、押圧部36を介して、インナパッド6a又はアウタパッド6bを軸方向に関してロータ4から離れる方向に押圧する。これにより、インナパッド6a及びアウタパッド6bを、ロータ4との引き摺りを防止できる位置まで移動させる。
【0099】
以上のような本例の対向ピストン型のディスクブレーキ装置1によれば、パッドクリップ7を他の部材に干渉させることなく配置でき、かつ、パッドクリップ7により、インナパッド6a及びアウタパッド6bのそれぞれに対してロータ4から離間させるのに十分な軸方向の押圧力を付与できる。
すなわち、本例のディスクブレーキ装置1によれば、パッドクリップ7を構成する弾発部35の弾性力により、押圧部36を介して、インナパッド6a又はアウタパッド6bを軸方向に関してロータ4から離れる方向にのみ押圧できる。このため、前述した従来構造のように、分力を利用して軸方向に押圧する構造に比べて、インナパッド6a又はアウタパッド6bに対して大きな軸方向の押圧力を付与できる。
【0100】
特に本例のディスクブレーキ装置1では、パーキングブレーキによる制動力を解除した際に、軸方向外側に配置された2つのパッドクリップ7は、アウタパッド6bを軸方向外側に移動させる際に、クランプ部材10をキャリパ5に対して軸方向外側に移動させる必要がある。このため、アウタパッド6bを軸方向外側に移動させるには大きな力が必要になるが、本例のパッドクリップ7によれば、アウタパッド6bに対して大きな軸方向の押圧力を付与できるため、アウタパッド6bをロータ4から十分に離間させることが可能になり、アウタパッド6bとロータ4との引き摺りを有効に防止できる。
【0101】
また、パッドクリップ7の装着状態で、耳部32を保持する基部34だけでなく、弾発部35についてもガイド凹溝22の内側に配置している。さらに、押圧部36を弾発部35から周方向内側に向けて延出させることで、押圧部36についてもガイド凹溝22の内側に配置している。このように弾発部35及び押圧部36をいずれも、耳部32を係合させるためのガイド凹溝22に収容しているため、インナパッド6aの裏面側(軸方向内側)にインナボディ13が近接して配置され、かつ、アウタパッド6bの裏面側(軸方向外側)にアウタボディ14が近接して配置される構成であるにもかかわらず、パッドクリップ7を他の部材に干渉させずに配置できる。
【0102】
また、本例では、弾発部35及び押圧部36のそれぞれが、ガイド凹溝22の軸方向開口部24から軸方向外側にはみ出さないように各部の形状及び寸法を規制しているため、パッドクリップ7がロータ4と干渉することも防止できる。
【0103】
また、弾発部35を、ガイド凹溝22のうちで基部34よりも周方向外側に配置しているため、弾発部35から耳部32までの周方向距離を長くできる。このため、制動時に、弾発部35が弾性変形することによって生じる応力を抑えることができる。これにより、ライニング30が新品の状態から摩耗が進行した状態まで、パッドクリップ7に塑性変形を生じさせずに済むため、インナパッド6a又はアウタパッド6bに安定して押圧力を付与することができる。
【0104】
さらに本例では、弾発部35及び押圧部36の一部に、スリットからなる除肉部44を備えているため、弾発部35及び押圧部36に生じる応力をより効果的に抑えられる。
【0105】
また、本例では、外向折曲板部45に備えられた爪部47を、ガイド壁部19a、19bの周方向側面20に備えられた外側径方向溝28に軸方向に係合させるとともに、内周側板部38に備えられた爪部40を、ガイド凹溝22の内周壁面26に備えられた内側周方向溝29に軸方向に係合させている。このため、押圧部36によってインナパッド6a又はアウタパッド6bを押圧する際の反力によって、パッドクリップ7が傾く(回転する)ことを防止できる。したがって、パッドクリップ7の姿勢を安定させることができ、インナパッド6a又はアウタパッド6bに安定して押圧力を付与することができる。
【0106】
さらに本例では、制動解除時に、パッドクリップ7の押圧部36の屈曲部43によって、耳部32の軸方向側面を押圧することができるため、耳部32と押圧部36との当接位置を一定にできる。このため、インナパッド6a及びアウタパッド6bに付与する押圧力の方向及び大きさがばらつくことを抑制できる。
【0107】
本例では、ガイド凹溝22に、耳部32を保持する基部34だけでなく、弾発部35も収容しているため、ガイド凹溝22の周方向寸法が、弾発部35を備えないパッドクリップを使用した場合に比べて長くなり、その結果、インナボディ13及びアウタボディ14のそれぞれの周方向外側の端部の肉厚が減少する。ただし、インナボディ13及びアウタボディ14のそれぞれの周方向外側の端部の肉厚は、キャリパ5の剛性及び強度に与える影響が十分に小さいため、ガイド凹溝22の周方向寸法が、弾発部35を収容する分だけ長くなった場合にも、キャリパ5の強度及び剛性を十分に確保できる。
【0108】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、
図18及び
図19を用いて説明する。本例では、実施の形態の第1例と同様の構成要素には、実施の形態の第1例と同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0109】
本例では、パッドクリップ7aの構造及びガイド壁部19a(19b)の構造のみが、実施の形態の第1例の構造とは異なる。
【0110】
本例では、ガイド壁部19a(19b)の周方向側面20に、径方向に伸長した外側径方向溝28(
図11(A)参照)を備えない代わりに、ガイド凹溝22の外周壁面25に、周方向に伸長した外側周方向溝49を備えている。
【0111】
外側周方向溝49は、周方向に直線状に伸長し、周方向位置にかかわらず軸方向位置が変化しない。外側周方向溝49の軸方向の溝幅は、周方向にわたりほぼ一定であり、外周壁面25の軸方向幅の1/8~1/3程度である。また、外側周方向溝49の軸方向の溝幅及び軸方向位置は、内側周方向溝29の軸方向の溝幅及び軸方向位置とほぼ同じである。また、外側周方向溝49の径方向の溝深さは、周方向にわたりほぼ一定である。外側周方向溝49は、径方向内側及び周方向内側にそれぞれ開口している。なお、外側周方向溝の径方向の溝深さは、周方向位置に応じて異ならせることができる。また、外側周方向溝は、径方向内側にのみ開口させることもできる。
【0112】
本例のパッドクリップ7aの外向折曲板部45aは、爪部47(
図11(B)参照)を備えておらず、全体が平板状に構成されている。外向折曲板部45aの軸方向幅は、外周側板部37aの軸方向幅と同じである。
【0113】
本例のパッドクリップ7aは、外周側板部37aに、舌片状の爪部50を有する。爪部50は、外周側板部37aの周方向中間部に略コ字形の切れ目を形成し、該切れ目の内側部分を径方向外側に曲げ起こすことで形成されている。爪部50は、軸方向外側に向かうほど径方向外側に向かう方向に伸長している。爪部50は、基部34をガイド凹溝22の内側に嵌め込んだ状態で、外周壁面25に備えられた外側周方向溝49と軸方向に係合する。これにより、外周側板部37aが外周壁面25に対して軸方向外側に相対変位することを防止する。
【0114】
以上のような本例では、外周側板部37aに備えられた爪部50を、ガイド凹溝22の外周壁面25に備えられた外側周方向溝49に軸方向に係合させるとともに、内周側板部38に備えられた爪部40を、ガイド凹溝22の内周壁面26に備えられた内側周方向溝29に軸方向に係合させている。このため、押圧部36によってインナパッド6a又はアウタパッド6bを押圧する際の反力により、パッドクリップ7aが傾くことを防止できる。このため、パッドクリップ7aの姿勢を安定させることができ、インナパッド6a又はアウタパッド6bに押圧力を安定して付与することができる。
【0115】
また、外側周方向溝49及び内側周方向溝29を、切削加工により同時に加工することもできるため、加工コストの低減を図る上で有利になる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0116】
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、
図20を用いて説明する。本例では、実施の形態の第1例と同様の構成要素には、実施の形態の第1例と同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0117】
本例では、パッドクリップ7bの構造及びガイド壁部19a(19b)の構造のみが、実施の形態の第1例の構造とは異なる。
【0118】
本例では、ガイド壁部19a(19b)のガイド凹溝22の内周壁面26に内側周方向溝29(
図11(A)参照)を備えない代わりに、周方向側面20のうちでガイド凹溝22の周方向開口部23よりも径方向内側部分に、径方向に伸長した内側径方向溝51を備えている。
【0119】
内側径方向溝51は、径方向に直線状に伸長し、径方向位置にかかわらず軸方向位置が変化しない。内側径方向溝51の軸方向の溝幅は、径方向にわたりほぼ一定であり、周方向側面20の軸方向幅の1/8~1/3程度である。また、内側径方向溝51の軸方向の溝幅及び軸方向位置は、外側径方向溝28の軸方向の溝幅及び軸方向位置とほぼ同じである。また、内側径方向溝51の周方向の溝深さは、径方向にわたりほぼ一定である。内側径方向溝51は、径方向外側及び周方向内側にそれぞれ開口している。なお、内側径方向溝の周方向の溝深さは、径方向位置に応じて異ならせることができる。また、内側径方向溝は、周方向内側にのみ開口させることもできる。
【0120】
本例のパッドクリップ7bの内周側板部38aは、爪部40(
図11(B)参照)を備えておらず、全体が平板状に構成されている。
【0121】
本例のパッドクリップ7bは、内向折曲板部46aに、舌片状の爪部52を有する。爪部52は、内向折曲板部46aの径方向内側の端部から軸方向外側に向けて延出している。爪部52は、軸方向外側に向かうほど周方向外側に向かう方向に伸長している。爪部52は、基部34をガイド凹溝22の内側に嵌め込み、内向折曲板部46aによりガイド壁部19aの周方向側面20を覆った状態で、周方向側面20に備えられた内側径方向溝51と軸方向に係合する。これにより、内向折曲板部46aが周方向側面20に対して軸方向外側に変位することを防止する。内向折曲板部46aは、爪部52を備えているが、平板状の受圧部48(
図23(A)参照)は備えていない。
【0122】
以上のような本例では、外向折曲板部45に備えられた爪部47を、ガイド壁部19a、19bの周方向側面20に備えられた外側径方向溝28に軸方向に係合させるとともに、内向折曲板部46aに備えられた爪部52を、周方向側面20に備えられた内側径方向溝51に軸方向に係合させているため、押圧部36によってインナパッド6a又はアウタパッド6bを押圧する際の反力により、パッドクリップ7bが傾くことを防止できる。このため、パッドクリップ7bの姿勢を安定させることができ、インナパッド6a又はアウタパッド6bに押圧力を安定して付与することができる。
【0123】
また、外側径方向溝28及び内側径方向溝51を、切削工具を径方向に直線的に移動させることで加工できるため、加工工数の低減を図る上で有利になる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0124】
[実施の形態の第4例]
実施の形態の第4例について、
図21及び
図22を用いて説明する。本例では、実施の形態の第1例と同様の構成要素には、実施の形態の第1例と同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0125】
本例は、実施の形態の第3例の変形例である。本例では、ガイド壁部19a(19b)の周方向側面20に備えられた外側径方向溝28a及び内側径方向溝51aのそれぞれの溝底面が、部分円筒面状に構成されている。さらに、外側径方向溝28a及び内側径方向溝51aの溝底面は、同一の仮想円筒面C上に配置されている。
【0126】
以上のような本例では、フライス加工などの切削加工により、外側径方向溝28a及び内側径方向溝51aを同時に加工できるため、加工工数及び加工コストの低減を図れる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例及び第3例と同じである。
【0127】
[実施の形態の第5例]
実施の形態の第5例について、
図23を用いて説明する。本例では、実施の形態の第1例と同様の構成要素には、実施の形態の第1例と同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0128】
本例は、実施の形態の第3例の変形例である。本例のパッドクリップ7cは、内向折曲板部46bに、舌片状の爪部52だけでなく、受圧部48を備えている。
【0129】
爪部52は、内向折曲板部46bの径方向外側部に備えられており、軸方向外側に向かうほど周方向外側に向かう方向に伸長している。受圧部48は、内向折曲板部46bの径方向内側部に備えられている。
【0130】
以上のような本例では、パッドクリップ7cの内向折曲板部46bに、受圧部48を備えているため、受圧部48により、ガイド壁部19aの周方向側面20を保護することができる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例及び第3例と同じである。
【0131】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【0132】
本発明を実施する場合には、パッドクリップを構成する弾発部、爪部などの形状は、実施の形態の各例の構造に限定されず、適宜変更することができる。また、外側径方向溝、内側径方向溝、外側周方向溝、及び内側周方向溝の全長、深さ、形成位置などは、実施の形態の各例の構造に限定されず、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0133】
1 ディスクブレーキ装置
2 対向ピストン型ブレーキ機構部
3 フローティング型ブレーキ機構部
4 ロータ
5 キャリパ
6a インナパッド
6b アウタパッド
7、7a、7b、7c パッドクリップ
8 サービス専用ピストン
9 兼用ピストン
10 クランプ部材
11 電動アクチュエータ
12 シリンダ
13 インナボディ
14 アウタボディ
15a、15b、15c 連結部
16 爪部
17 電動駆動装置
19a、19b ガイド壁部
20 周方向側面
21 軸方向側面
22 ガイド凹溝
23 周方向開口部
24 軸方向開口部
25 外周壁面
26 内周壁面
27 軸方向底面
28、28a 外側径方向溝
29 内側周方向溝
30 ライニング
31 プレッシャプレート
32 耳部
33 トルク伝達部
34 基部
35 弾発部
35a 周方向延出部
35b 湾曲部
36 押圧部
37、37a 外周側板部
38、38a 内周側板部
39 接続板部
40 爪部
41 ロータ側切り欠き
42 反ロータ側切り欠き
43 屈曲部
44 除肉部
45、45a 外向折曲板部
46、46a、46b 内向折曲板部
47 爪部
48 受圧部
49 外側周方向溝
50 爪部
51、51a 内側径方向溝
52 爪部
53a、53b 突き当て片
54 シム板