IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 理想科学工業株式会社の特許一覧

特開2024-90690活性エネルギー線硬化型インクジェットインク
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090690
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化型インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/36 20140101AFI20240627BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240627BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C09D11/36
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206739
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】今 翔太郎
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA13
2C056FC01
2H186AB11
2H186BA08
2H186DA09
2H186FB04
2H186FB11
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB36
2H186FB38
2H186FB44
2H186FB46
2H186FB55
2H186FB58
4J039AD21
4J039BA04
4J039BC07
4J039BC20
4J039BC50
4J039BC60
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE22
4J039BE27
4J039CA07
4J039EA04
4J039EA36
4J039EA44
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】インクの貯蔵安定性が良好であり、硬化性、擦過性、及び油ハキが良好な塗膜を形成可能な活性エネルギー線硬化型インクジェットインクを提供する。
【解決手段】色材、重合性化合物(A)、重合開始剤(B)、及び非水溶性有機溶剤(C)を含み、重合性化合物(A)は、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項δPが4.0MPa1/2以上10MPa1/2以下である重合性化合物(D)を含み、重合性化合物(D)は重合性化合物(A)全量に対し50質量%以上であり、非水溶性有機溶剤(C)はインク全量に対し3質量%以上9質量%以下であり、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項δPが10MPa1/2超である重合性化合物を含まない、活性エネルギー線硬化型インクジェットインクである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材、重合性化合物(A)、重合開始剤(B)、及び非水溶性有機溶剤(C)を含み、
前記重合性化合物(A)は、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項δPが4.0MPa1/2以上10MPa1/2以下である重合性化合物(D)を含み、前記重合性化合物(D)は前記重合性化合物(A)全量に対し50質量%以上であり、
前記非水溶性有機溶剤(C)はインク全量に対し3質量%以上9質量%以下であり、
ハンセン溶解度パラメータにおける極性項δPが10MPa1/2超である重合性化合物を含まない、活性エネルギー線硬化型インクジェットインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化型インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線等の活性エネルギー線の照射により硬化可能なインクは、活性エネルギー線によって高感度で硬化し、塗膜の擦過性に優れることが望まれる。特に、活性エネルギー線硬化型インクジェットインクでは、印刷速度の向上から、塗膜の硬化性及び擦過性が要求される。
【0003】
活性エネルギー線硬化型インクジェットインクは、重合性化合物を主成分とし、インクが基材に付与され基材上で重合性化合物が重合反応し、硬化塗膜を形成する。活性エネルギー線によって硬化するインクにおいて、重合性化合物としてN-ビニルラクタムを用いることが知られている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-169419号公報
【特許文献2】特開2008-19408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、活性エネルギー線硬化型インクジェットインクを用いて硬化塗膜を形成する場合、塗膜のスリップ性が低く、擦過性に劣ることがある。一方で、重合性化合物と非水溶性有機溶剤を併用すると、擦過性は改善する傾向があるが、塗膜の表面に非水溶性溶剤が流出して油ハキの問題が生じることがある。さらに、インクの貯蔵安定性の問題も生じ得る。
【0006】
本発明の一実施形態は、インクの貯蔵安定性が良好であり、硬化性、擦過性、及び油ハキが良好な塗膜を形成可能な活性エネルギー線硬化型インクジェットインクを提供することを一目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、色材、重合性化合物(A)、重合開始剤(B)、及び非水溶性有機溶剤(C)を含み、前記重合性化合物(A)は、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項δPが4.0MPa1/2以上10MPa1/2以下である重合性化合物(D)を含み、前記重合性化合物(D)は前記重合性化合物(A)全量に対し50質量%以上であり、前記非水溶性有機溶剤(C)はインク全量に対し3質量%以上9質量%以下であり、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項δPが10MPa1/2超である重合性化合物を含まない、活性エネルギー線硬化型インクジェットインクが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、インクの貯蔵安定性が良好であり、硬化性、擦過性、及び油ハキが良好な塗膜を形成可能な活性エネルギー線硬化型インクジェットインクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を、一実施形態を用いて説明する。以下の実施形態における例示が本発明を限定することはない。
【0010】
一実施形態による活性エネルギー線硬化型インクジェットインクは、色材、重合性化合物(A)、重合開始剤(B)、及び非水溶性有機溶剤(C)を含み、重合性化合物(A)は、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項δPが4.0MPa1/2以上10MPa1/2以下である重合性化合物(D)を含み、重合性化合物(D)は重合性化合物(A)全量に対し50質量%以上であり、非水溶性有機溶剤(C)はインク全量に対し3質量%以上9質量%以下であり、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項δPが10MPa1/2超である重合性化合物を含まないことを特徴とする。これによれば、インクの貯蔵安定性が良好であり、硬化性、擦過性、及び油ハキが良好な塗膜を形成可能な活性エネルギー線硬化型インクジェットインクを提供することができる。以下、活性エネルギー線硬化型インクジェットインクを単にインクとも称する。
【0011】
一実施形態によれば、塗膜に非水溶性有機溶剤が含まれることから、塗膜の擦過性を改善することができ、塗膜のスリップ性を得ることができる。一実施形態によれば、インクに重合性化合物(A)と非水溶性有機溶剤とが組み合わせられて含まれる場合において、塗膜に油ハキが発生しないように、塗膜表面に存在する非水溶性有機溶剤の量を調節可能である。
【0012】
重合性化合物(D)の極性項δPが10.0MPa1/2以下であることで、非水溶性有機溶剤と重合性化合物(D)との相溶性を維持し、インクの貯蔵安定性を良好にすることができる。重合性化合物(D)の極性項δPが4.0MPa1/2以上であることで、塗膜において非水溶性有機溶剤が重合性化合物(D)に過剰に溶解しないようにし、塗膜の擦過性の低下を防止することができる。
【0013】
「重合性化合物(A)」
インクは、重合性化合物(A)を含む。重合性化合物(A)は、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項δPが4.0MPa1/2以上10MPa1/2以下である重合性化合物(D)含むものである。なお、重合性化合物(A)は、重合性化合物(D)以外の重合性化合物を含んでもよい。しかし、インクは、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項δPが10MPa1/2超である重合性化合物を含まないことが好ましい。
【0014】
重合性化合物(D)のハンセン溶解度パラメーターにおける極性項δPは、10.0MPa1/2以下が好ましく、8.0MPa1/2以下がより好ましく、6.0MPa1/2以下がさらに好ましい。これによって、塗膜の硬化性及び擦過性をより改善することができる。これによって、インクの貯蔵安定性及び塗膜の油ハキをより改善することができる。
【0015】
重合性化合物(D)のハンセン溶解度パラメーターにおける極性項δPは、4.0MPa1/2以上が好ましく、4.5MPa1/2以上がより好ましく、5.0MPa1/2以上がさらに好ましい。これによって、塗膜の硬化性及び擦過性をより改善することができる。
【0016】
インクは、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項δPが10MPa1/2超である重合性化合物を含まないことが好ましい。これによって、インクの貯蔵安定性及び塗膜の油ハキをより一層改善することができる。
【0017】
重合性化合物(A)は、重合性化合物(D)以外に他の重合性化合物を含んでもよい。例えば、重合性化合物(A)は、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項δPが4.0MPa1/2未満の重合性化合物を含んでもよい。
【0018】
ハンセン溶解度パラメーター(HSP値)の算出方法を以下に説明する。本開示では、1967年にHansenが提唱した3次元ハンセン溶解度パラメータを用いる。
ハンセン溶解度パラメータは、Hildebrandによって導入されたハンセン溶解度パラメータを分散項δ、極性項δ、水素結合項δの3成分に分割し、3次元空間で表したものである。分散項は、分散力による効果、極性項は、双極子間力による効果、水素結合項は、水素結合力の効果を示す。より詳細には、POLYMER HANDBOOK.FOURTH EDITION.(Editors.J.BRANDRUP,E.H.IMMERGUT,andE.A.GRULKE.)等に説明されている。
【0019】
具体的には、Charles.M.Hansenらによるハンセン溶解度パラメータ計算ソフト「HSPiP:Hansen Solubility Parameters in Practice」ver.5.3を用いて計算した。以下同じである。
【0020】
重合性化合物(D)は、重合性化合物(A)全量に対し、50質量%以上が好ましく、60質量%以上、又は80質量%以上であってもよい。これによって、塗膜の硬化性及び擦過性をより改善することができる。重合性化合物(D)は、重合性化合物(A)全量に対し、特に限定されないが、98質量%以下、95質量%以下、又は90質量%以下であってよい。この場合、重合性化合物(A)全量に対し、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項δPが4.0MPa1/2未満の重合性化合物を2~10質量%、又は2~5質量%で含んでもよい。重合性化合物(A)は、インク全量に対し、10~90質量%、40~80質量%、又は50~70質量%であってよい。
【0021】
重合性化合物(A)は、ラジカル重合性化合物及びカチオン重合化合物の少なくとも一方を用いることが好ましい。重合性化合物(A)は、重合性基を1分子内に1個又は2個以上有する化合物であることが好ましい。重合性基としては、例えば、アクリロイルオキシ基、ビニル基、エポキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。
【0022】
重合性化合物として(メタ)アクリレートを用いることができる。(メタ)アクリレートとしては、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチルカルビトールアクリレート等が挙げられる。重合性化合物としてビニル化合物を用いることができる。ビニル化合物として、N-ビニルカプロラクタム等が挙げられる。N-ビニルカプロラクタムとしては、N-ビニル-ε-カプロラクタム等が挙げられる。
【0023】
重合性化合物(A)は、例えば、上記した化合物の中から1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。重合性化合物(D)は、例えば、上記した化合物の中からハンセン溶解度パラメータにおける極性項δPが4.0MPa1/2以上10MPa1/2以下である化合物を1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。重合性化合物(D)としては、エチルカルビトールアクリレート、N-ビニル-ε-カプロラクタム、又はこれらの組み合わせが好ましく、N-ビニル-ε-カプロラクタムを単独で用いるか、又はエチルカルビトールアクリレートとN-ビニル-ε-カプロラクタムとを組み合わせて用いることがより好ましい。この場合、塗膜の擦過性及び硬化性の観点から、N-ビニル-ε-カプロラクタムは、重合性化合物(A)全量に対し20~40質量%であることが好ましい。
【0024】
「重合開始剤(B)」
インクは、重合開始剤(B)を含む。
重合開始剤(B)としては光ラジカル重合性の重合開始剤(以下、「光重合開始剤」という。)が好ましい。光重合開始剤としては、例えば、アシルフォスフィンオキサイド系化合物、チオキサントン系化合物、アセトフェノン系化合物及びベンゾフェノン系化合物等が挙げられる。
【0025】
アシルフォスフィンオキサイド系化合物としては、例えば、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、エチル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィネート及びビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。チオキサントン系化合物としては、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、1-クロロ-4-プロピルチオキサントン、3-[3,4-ジメチル-9-オキソ-9H-チオキサントン-2-イル-オキシ]-2-ヒドロキシプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド及びフルオロチオキサントン等が挙げられる。アセトフェノン系化合物としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタン-1-オン、ジエトキシアセトフェノン、オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(1-メチルビニル)フェニル〕プロパノン}及び2-ヒドロキシ-1-{4-〔4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル〕フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]1-ブタノン等が挙げられる。ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、メチル-o-ベンゾイルベンゾエート、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルスルファイド及び1-[4-(4-ベンゾイルフェニル)チオ]フェニル]-2-メチル-2-[(4-メチルフェニル)スルホニル]-1-プロパノン等が挙げられる。
【0026】
重合開始剤(B)は、1つを単独で、または2以上を組み合わせて用いてもよい。重合開始剤(B)の含有量は、インク全量に対し、0.1~20質量%が好ましく、1~15質量%がより好ましい。
【0027】
インクは、印刷物の擦過性及び硬化性をより高める観点から、重合開始剤(B)として、アシルフォスフィンオキサイド系化合物を含むことが好ましい。さらに、インクは、印刷物の擦過性及び硬化性をより高める観点から、重合開始剤(B)として、アシルフォスフィンオキサイド系化合物を含み、かつ、重合性化合物(A)として、N-ビニル-ε-カプロラクタムを重合性化合物(A)全量に対し20~40質量%含むことが好ましい。
【0028】
「非水溶性有機溶剤(C)」
インクは、非水溶性有機溶剤(C)を含む。非水溶性有機溶剤(C)の含有量は、インク全量に対し3~9質量%であることが好ましい。非水溶性有機溶剤(C)の含有量がインク全量に対し3質量%以上、より好ましくは3.5質量%以上であることで、塗膜の擦過性を改善することができる。非水溶性有機溶剤(C)の含有量がインク全量に対し9質量%以下、より好ましくは8.5質量%以下であることで、塗膜の油ハキを抑制することができる。
【0029】
非水溶性有機溶剤(C)としては、非極性有機溶剤及び極性有機溶剤の何れも使用できる。これらは、単独で使用してもよく、組み合わせて使用することもできる。
【0030】
非極性有機溶剤としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤、芳香族炭化水素溶剤等の石油系炭化水素溶剤を好ましく挙げることができる。脂肪族炭化水素溶剤及び脂環式炭化水素溶剤としては、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系等の非水溶性有機溶剤を挙げることができ、市販品としては、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、カクタスノルマルパラフィンN-10、カクタスノルマルパラフィンN-11、カクタスノルマルパラフィンN-12D、カクタスノルマルパラフィンN-13、カクタスノルマルパラフィンN-14、カクタスノルマルパラフィンYHNP、カクタスノルマルパラフィンSHNP、アイソゾール300、アイソゾール400、テクリーンN16、テクリーンN20、テクリーンN22、AFソルベント4号、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号、ナフテゾール160、ナフテゾール200、ナフテゾール220(いずれもENEOS株式会社製の商品名);アイソパーG、アイソパーH BHT、アイソパーL、アイソパーM、エクソールD40、エクソールD60、エクソールD80、エクソールD110、エクソールD130(いずれもエクソンモービル社製の商品名)等を好ましく挙げることができる。芳香族炭化水素溶剤としては、ソルベッソ100、ソルベッソ150、ソルベッソ200、ソルベッソ200ND(いずれもエクソンモービル社製の商品名)等を好ましく挙げることができる。石油系炭化水素溶剤の蒸留初留点は、100℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることがいっそう好ましい。蒸留初留点はJIS K0066「化学製品の蒸留試験方法」に従って測定することができる。
【0031】
極性有機溶剤としては、脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等を好ましく挙げることができる。例えば、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソデシル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸ヘキシル、パルミチン酸イソオクチル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、オレイン酸ヘキシル、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノール酸イソブチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ヘキシル、ステアリン酸イソオクチル、イソステアリン酸イソプロピル、ピバリン酸2-オクチルデシル、大豆油脂肪酸メチルエステル、大豆油脂肪酸イソブチルエステル、トール油脂肪酸メチルエステル、トール油脂肪酸イソブチルエステル等の1分子中の炭素数が13以上、好ましくは16~30の脂肪酸エステル系溶剤;イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、イソエイコシルアルコール、デシルテトラデカノール等の1分子中の炭素数が6以上、好ましくは12~20の高級アルコール系溶剤;ラウリン酸、イソミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、α-リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の1分子中の炭素数が12以上、好ましくは14~20の高級脂肪酸系溶剤等が挙げられる。脂肪酸エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等の極性有機溶剤の沸点は、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましい。なお、沸点が250℃以上の非水溶性有機溶剤には、沸点を示さない非水溶性有機溶剤も含まれる。
【0032】
非水溶性有機溶剤(C)は、単独で使用してもよく、単一の相を形成する限り2種以上を組み合わせて使用することもできる。非水溶性有機溶剤(C)を2種以上組み合わせて使用する場合は、インク全量に対する非水溶性有機溶剤(C)の含有量は2種以上の非水溶性有機溶剤(C)の合計量である。
【0033】
非水溶性有機溶剤(C)は極性有機溶剤を用いることが好ましい。非水溶性有機溶剤(C)は、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項δPが1MPa1/2以上3.5MPa1/2以下であることが好ましい。これによって、得られる印刷物において塗膜の擦過性をより改善することができる。
【0034】
「色材」
インクは、色材として顔料、染料、又はこれらの組み合わせを含むことができる。顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料、及び、カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0035】
インク中における顔料粒子の平均粒子径は、吐出安定性と保存安定性の観点から、動的光散乱法により測定した粒度分布における体積基準の平均値として、300nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。
【0036】
染料としては、アゾ染料、金属錯塩染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カーボニウム染料、キノンイミン染料、キサンテン染料、シアニン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、フタロシアニン染料、金属フタロシアニン染料等の油溶性染料を挙げることができる。これらは単独で、または複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
色材の含有量は、印刷濃度とインク粘度の観点から、インク全量に対して0.1~20質量%であることが好ましく、1~15質量%であることがより好ましく、5~10質量%であることがさらに好ましい。
【0038】
色材として顔料を用いる場合、インク中で顔料を安定して分散させるために顔料分散剤を用いてもよい。顔料分散剤としては、顔料をインク中に安定して分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、ビニルピロリドンと長鎖アルケンとの共重合体、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリエステルポリアミン等が挙げられる。
【0039】
顔料分散剤は、顔料1に対し0.2~1.0の質量比で含まれていることが好ましい。顔料分散剤のインク総量における含有量としては、0.5~15質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。
【0040】
インクには、本発明の効果を損なわない限り、上記した各成分に加え各種添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、ノズルの目詰まり防止剤、酸化防止剤、導電率調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸素吸収剤、界面活性剤、抗菌剤、防カビ剤、重合禁止剤、pH調整剤、保湿剤、レべリング剤、ワックス等を適宜添加することができる。これらの種類は、特に限定されることはなく、当該分野で使用されているものを用いることができる。
【0041】
インクの製造方法は特に限定されないが、一方法としては、各成分を一括ないし分割して混合及び撹拌してインクを作製することができる。具体的には、ビーズミル等の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等のろ過機を通すことにより作製することができる。他の方法としては、顔料インクを作製する場合は、顔料を含む顔料分散体を用意しておき、顔料分散体と重合性化合物と非水溶性有機溶剤と各種添加剤とを混合し、インクを得ることができる。顔料分散体は顔料と重合性化合物とを含むものであってよい。
【0042】
インクジェットインクとしての粘度は、インクジェット記録システムの吐出ヘッドのノズル径又は吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5~30mPa・sであることが好ましく、5~15mPa・sであることがより好ましく、7~13mPa・sであることが、一層好ましい。
【0043】
インクジェットインクを用いた印刷方法としては、特に限定されず、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよい。インクジェット記録装置を用いる場合は、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドから一実施形態によるインクを吐出させ、吐出されたインク液滴を基材に付着させるようにすることが好ましい。
【0044】
インクが付与された基材に活性エネルギー線を照射することで塗膜を硬化することができる。活性エネルギー線としては、紫外線、X線、電子線、可視光等が挙げられるが、中でも、紫外線が好ましい。紫外線を照射する光源としては、350~420nmの紫外線を出射するUV-LED、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を挙げることができる。
【0045】
一実施形態において、基材は、特に限定されるものではなく、普通紙、コート紙、特殊紙等の印刷用紙、布、無機質シート、フィルム、OHPシート等、これらを基材として裏面に粘着層を設けた粘着シート等を用いることができる。フィルムとしては、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等のプラスチックフィルム等が挙げられる。
【0046】
ここで、普通紙とは、通常の紙の上にインクの受容層、フィルム層等が形成されていない紙である。普通紙の一例としては、上質紙、中質紙、PPC用紙、更紙、再生紙等を挙げることができる。普通紙は、数μm~数十μmの太さの紙繊維が数十から数百μmの空隙を形成しているため、インクが浸透しやすい紙となっている。
【0047】
また、コート紙としては、マット紙、光沢紙、半光沢紙等のインクジェット用コート紙や、いわゆる塗工印刷用紙を好ましく用いることができる。ここで、塗工印刷用紙とは、従来から凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷等で使用されている印刷用紙であって、上質紙、中質紙の表面にクレー、炭酸カルシウム等の無機顔料と、澱粉等のバインダーを含む塗料により塗工層を設けた印刷用紙である。塗工印刷用紙は、塗料の塗工量、塗工方法により、微塗工紙、上質軽量コート紙、中質軽量コート紙、上質コート紙、中質コート紙、アート紙、キャストコート紙等に分類される。
【実施例0048】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
<活性エネルギー線硬化型インクジェットインクの作製>
表1にインクの処方を示す。表中に示す顔料分散体の配合割合にしたがって、顔料と、顔料分散剤と、重合性化合物とを混合し、混合物をロッキングミル(メディアとして直径0.5mmのジルコニアビーズを使用)を用いて分散処理し、顔料分散体を得た。得られた顔料分散体と、表中に示す後添加成分とを、表中に示す配合割合にしたがって混合しインクを得た。表中に示すδPはハンセン溶解度パラメータにおける極性項δPを示し、単位はMPa1/2である。
【0050】
用いた成分は以下の通りである。
[顔料]
・カーボンブラック「MOGAL L」(商品名):キャボットスペシャリティーケミカルズ社製。
・フタロシアニンブルー「リオノールBGFJ」(商品名):東洋インキ株式会社製。
【0051】
[顔料分散剤]
・「アジスパーPB821」(商品名):味の素ファインテクノ株式会社製。
【0052】
[モノマー]
・イソボルニルアクリレート「IBXA」(商品名):大阪有機化学工業株式会社製。
・アクリロイルモルホリン「ACMO」(商品名):KJケミカルズ株式会社製。
・エチルカルビトールアクリレート「V190」(商品名):大阪有機化学工業株式会社製。
・N-ビニル-ε-カプロラクタム「NVC」(商品名):東京化成工業株式会社製。
・1,6-ヘキサンジオールジアクリレート「V230」(商品名):大阪有機化学工業株式会社製。
【0053】
[重合開始剤]
・「TPO」(商品名):2,4,6,-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド:IGM Resins B.V.製。
・「DETX」(商品名):ジエチルチオキサントン、日本化薬株式会社製。
【0054】
[界面活性剤]
・「BYKUV3530」(商品名):BYK社製。
【0055】
[非水溶性有機溶剤]
・オレイン酸エチル:東京化成工業株式会社製。
・オレイルアルコール:富士フイルム和光純薬株式会社製。
【0056】
<評価>
得られたインクを用いて以下の評価を行った。結果を表中に併せて示す。
【0057】
[インクの貯蔵安定性]
得られたインクを密封して60℃環境下にて1か月静置し、粘度変化率を評価した。
○:粘度変化率±20%未満である。
△:粘度変化率±20以上±40%未満である。
×:粘度変化率±40%以上である。
【0058】
次に、塗膜の評価について説明する。まず、ピエゾ型インクジェットノズルを備えたインクジェット記録装置に、得られたインクをそれぞれ充填し、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に連続して印刷した。塗膜の擦過性及び油ハキの評価では、得られた印刷物上で、ウシオ電機株式会社製UVランプ(波長385nm)を用いてインクを硬化させ、塗膜を形成した。インク塗膜の厚さは10μmであった。
【0059】
[塗膜の硬化性]
得られた印刷物について、ウシオ電機株式会社製UVランプ(波長385nm)を用いて、ランプとの距離5mm、電流値200mA、搬送速度300mm/secにて印刷物上のインク画像を硬化させる際に、硬化後の塗膜においてタックがなくなるまでのパス回数を観察した。このパス回数から、塗膜の硬化性を以下の基準で評価した。
○:1~2パス。
△:3~4パス。
×:4パス以上。
【0060】
[塗膜の擦過性]
得られた塗膜について、手で触った際の感触から、塗膜の擦過性を以下の基準で評価した。
○:手で触ってスリップ性がある。
△:手で触ってやや引っ掛かりがある。
×:手で触って引っかかる。
【0061】
[塗膜の油ハキ]
得られた塗膜について、塗膜表面に発生する油ハキを観察し、塗膜の油ハキを以下の基準で評価した。
○:油ハキ無し。
×:油ハキあり。
【0062】
【表1】
【0063】
表中に示す通り、各実施例のインクは貯蔵安定性が良好であり、塗膜の硬化性、擦過性、及び油ハキが良好であった。