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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090701
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】可変圧縮比機構の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20240627BHJP
   F02D 15/02 20060101ALI20240627BHJP
   F02D 15/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
F02D45/00 345
F02D15/02 A
F02D15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206761
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】篠▲崎▼ 祐也
(72)【発明者】
【氏名】羽野 誠己
(72)【発明者】
【氏名】早乙女 博斗
【テーマコード(参考)】
3G092
3G384
【Fターム(参考)】
3G092AA12
3G092AB02
3G092CA01
3G092EA17
3G092FB03
3G092FB06
3G092HE01Z
3G384AA01
3G384BA22
3G384CA23
3G384DA42
3G384DA48
3G384ED06
3G384ED11
3G384FA56Z
(57)【要約】
【課題】内燃機関の仕様変更等に伴って可変圧縮比機構の診断条件に変更が生じても、適切に可変圧縮比機構を駆動することができるようにする。
【解決手段】車両の内燃機関の制御装置と通信可能に接続され、内燃機関の制御装置から受信する信号に基づきアクチュエータの回転軸に連結された制御シャフトの位置を制御することにより内燃機関の圧縮比を可変とする可変圧縮比機構の制御装置が、次のように構成される。すなわち、車両のイグニッションスイッチがオフにされたことを検知した後に、内燃機関の制御装置からの可変圧縮比機構の診断処理の要求を待機するとともに、当該検知から所定時間が経過したか否かを判定する。そして、当該検知から所定時間が経過したときに、診断処理の要求の有無に関わらず、自装置の電源をオフにする。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の内燃機関の制御装置と通信可能に接続され、前記内燃機関の制御装置から受信する信号に基づきアクチュエータの回転軸に連結された制御シャフトの位置を制御することにより前記内燃機関の圧縮比を可変とする可変圧縮比機構の制御装置であって、
前記車両のイグニッションスイッチがオフにされたことを検知した後に、前記内燃機関の制御装置からの前記可変圧縮比機構の診断処理の要求を待機するとともに、前記検知から所定時間が経過したか否かを判定し、
前記検知から前記所定時間が経過したときに、前記診断処理の要求の有無に関わらず、自装置の電源をオフにするように構成された、可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項2】
前記所定時間は、前記診断処理の要求があった場合、バッテリからの電力供給性能に基づく制約によって定められる前記可変圧縮比機構の制御装置の電源をオンにしておくことが可能な許容時間から、前記診断処理に要する最長実施時間を差し引いた時間である、請求項1に記載の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項3】
前記診断処理の要求に応じて前記診断処理を実施し、前記最長実施時間を経過したときに、前記診断処理を停止して、前記制御シャフトを前記可変圧縮比機構の次回始動時における圧縮比の位置になるように移動する処理を開始する、請求項2に記載の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項4】
前記所定時間は、前記診断処理の要求がない場合、バッテリからの電力供給性能に基づく制約によって定められる前記可変圧縮比機構の制御装置の電源をオンにしておくことが可能な許容時間から、前記内燃機関の制御装置において前記診断処理の要否を判断するのに要する最長判断時間または前記内燃機関の制御装置の電源がオフになるまでの最短電源オフ時間のいずれかを差し引いた時間である、請求項1に記載の可変圧縮比機構の制御装置。
【請求項5】
前記最長判断時間または前記最短電源オフ時間のいずれかが経過したときに、前記診断処理の要求の待機を停止して、前記制御シャフトを前記可変圧縮比機構の次回始動時における圧縮比の位置になるように移動する処理を開始する、請求項4に記載の可変圧縮比機構の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の可変圧縮比機構の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮比を可変とする可変圧縮比(VCR:Variable Compression Ratio)機構を備えた内燃機関が従来から用いられている。このようなVCR機構の異常診断を実施する技術の一例として、燃料カット処理を実行しているときの圧縮上死点近傍と所定クランク角度とにおける回転速度差を算出し、当該回転速度差に基づいて可変圧縮比機構の異常診断を行うものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-028311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、VCR機構の異常診断をする方法の一例として、VCR機構側の認識圧縮比と実際の圧縮比との間に乖離が生じている状態を検知するべく、VCR機構とアクチュエータとのリンク機構の圧入箇所において滑りがないかを診断する方法がある。最近では、電動モータと連動して駆動する内燃機関等において従来と異なる動力性能が要求されることがあるため、このような診断を行うタイミング等の診断条件に変更が生じている。
【0005】
本発明の1つの態様では、内燃機関の仕様変更等に伴ってVCR機構の診断条件に変更が生じても、VCR機構の駆動を適切に行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様では、車両の内燃機関の制御装置と通信可能に接続され、内燃機関の制御装置から受信する信号に基づきアクチュエータの回転軸に連結された制御シャフトの位置を制御することにより内燃機関の圧縮比を可変とする可変圧縮比機構の制御装置が、次のように構成される。すなわち、車両のイグニッションスイッチがオフにされたことを検知した後に、内燃機関の制御装置からの可変圧縮比機構の診断処理の要求を待機するとともに、当該検知から所定時間が経過したか否かを判定する。そして、当該検知から所定時間が経過したときに、診断処理の要求の有無に関わらず、自装置の電源をオフにする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の1つの態様によれば、内燃機関の仕様変更等に伴ってVCR機構の診断条件に変更が生じても、VCR機構の駆動を適切に行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】4サイクルエンジンの制御システムの一例を示す概略図である。
図2】ストッパ機構の一例を示す部分拡大図である。
図3】レゾルバの一例を示す概略構造図である。
図4】VCRコントローラのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図5】VCRコントローラの機能構成の一例を示すブロック図である。
図6】VCRコントローラで実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
図1は、自動車などの車両に搭載された、4サイクルエンジンの制御システムの一例を示している。
【0010】
エンジン100は、シリンダブロック110と、ピストン120と、クランクシャフト130と、コネクティングロッド140と、シリンダヘッド150と、を備えている。シリンダブロック110には、ピストン120が往復動可能に嵌挿されるシリンダボア110Aが形成されている。シリンダブロック110の下部には、図示しないベアリングを介して、シリンダブロック110に対して相対回転可能にクランクシャフト130が配置されている。そして、ピストン120は、コネクティングロッド140を介して、クランクシャフト130に相対回転可能に連結されている。
【0011】
シリンダヘッド150には、吸気を導入する吸気ポート150Aと、排気を排出する排気ポート150Bと、が夫々形成されている。そして、シリンダヘッド150がシリンダブロック110の上面に締結されることで、シリンダブロック110のシリンダボア110A、ピストン120の冠面120A及びシリンダヘッド150の下面によって区画される領域が燃焼室160として機能する。燃焼室160を臨む吸気ポート150Aの開口端には、吸気カムシャフト170によって開閉駆動される吸気バルブ180が配設されている。また、燃焼室160を臨む排気ポート150Bの開口端には、排気カムシャフト190によって開閉駆動される排気バルブ200が配設されている。
【0012】
燃焼室160を臨むシリンダヘッド150の所定箇所には、燃焼室160に燃料を噴射する電磁式の燃料噴射弁(図示せず)と、燃料と吸気との混合気を点火する点火プラグ210と、が夫々取り付けられている。なお、燃料噴射弁は、燃焼室160に燃料を直接噴射する構成に限らず、吸気ポート150Aに燃料を噴射する構成、又はその両方を有する構成であってもよい。
【0013】
また、エンジン100は、燃焼室160の容積を変更して圧縮比を可変とするVCR機構220を更に備えている。以下、VCR機構220の一例について説明する。
【0014】
クランクシャフト130は、複数のジャーナル部130Aと、複数のクランクピン部130Bと、を有している。そして、ジャーナル部130Aは、シリンダブロック110の主軸受(図示せず)に回転可能に支持されている。クランクピン部130Bは、ジャーナル部130Aから偏心しており、ここにコネクティングロッド140のロアリンク140Aが回転可能に連結されている。コネクティングロッド140のアッパリンク140Bは、下端側が連結ピン142によってロアリンク140Aの一端に回転可能に連結され、上端側がピストンピン144によってピストン120に回転可能に連結されている。コントロールリンク222は、上端側が連結ピン224によってロアリンク140Aの他端側に回転可能に連結され、下端側が制御シャフト226を介してシリンダブロック110の下部に回転可能に連結されている。詳細には、制御シャフト226は、回転可能にシリンダブロック110に支持されているとともに、その回転中心から偏心している偏心カム部226Aを有し、この偏心カム部226Aにコントロールリンク222の下端側が回転可能に嵌合している。制御シャフト226は、電動モータを用いた圧縮比制御用のアクチュエータ228によって回転位置が制御される。
【0015】
このような複リンク機構を用いたVCR機構220においては、アクチュエータ228によって制御シャフト226が回転すると、偏心カム部226Aの中心位置、要するに、シリンダブロック110に対する相対位置が変化する。これによって、コントロールリンク222の下端の搖動支持位置が変化すると、ピストン上死点(TDC)におけるピストン120の位置が高くなったり低くなったりして、燃焼室160の容積が増減し、エンジン100の圧縮比を変更することができる。このとき、アクチュエータ228の作動を停止させると、燃焼室160における混合気の燃焼圧力によって、制御シャフト226の偏心カム部226Aに対してコントロールリンク222が回転し、エンジン100の圧縮比が低圧縮比側へと変化する。
【0016】
VCR機構220の所定箇所には、図2に示すように、通常の制御範囲RNG1を超えて制御シャフト226が回転したときに、その変位(角度)を規制して機械的な回転可能範囲RNG2を規定するストッパ機構230が取り付けられている。ストッパ機構230は、一例として、制御シャフト226に要の部分が固定された略扇形状の第1の部材230Aと、シリンダブロック110に固定された板形状の第2の部材230Bと、を有している。第1の部材230Aは、制御シャフト226と一体的に回転する。第2の部材230Bは、通常の制御範囲RNG1である最高圧縮比(上限)又は最低圧縮比(下限)を越えて制御シャフト226が回転したときに、第1の部材230Aの中心角を規定する2辺のいずれかと当接し、制御シャフト226の変位を規制する。ここで、ストッパ機構230は、制御シャフト226が通常の制御範囲RNG1を超えたときに機能するため、通常制御においては第1の部材230Aと第2の部材230Bとが当接することがなく、例えば、異音発生などを抑制することができる。なお、ストッパ機構230は、制御シャフト226の変位を規制するだけでなく、後述するように、制御シャフト226の基準位置を学習するためにも使用される。
【0017】
ストッパ機構230としては、制御シャフト226の回転に関して、最高圧縮比側及び最低圧縮比側の少なくとも一方の変位を規制できればよい。また、ストッパ機構230は、略扇形状の第1の部材230A及び板形状の第2の部材230Bに限らず、任意形状をなす2つ以上に部材によって制御シャフト226の変位を規制できればよい。
【0018】
VCR機構220は、マイクロコンピュータ240Aを内蔵したVCRコントローラ240によって電子制御されている。VCRコントローラ240は、例えば、車載ネットワークの一例として挙げられるCAN(Controller Area Network)250を介して、エンジン100を電子制御する、マイクロコンピュータ260Aを内蔵したエンジンコントローラ(ECM)260に接続されている。従って、VCRコントローラ240及びエンジンコントローラ260は、CAN250を使用して任意のデータを相互に送受信することができる。なお、車載ネットワークとしては、CAN250に限らず、FlexRay(登録商標)などの公知のネットワークを使用することができる。ここで、VCRコントローラ240が、可変圧縮比機構の制御装置の一例として挙げられ、エンジンコントローラ260が、内燃機関の制御装置の一例として挙げられる。
【0019】
エンジンコントローラ260には、エンジン100の回転速度Neを検出する回転速度センサ270、エンジン100のトルクTqを検出するトルクセンサ280、エンジン100の水温(冷却水温度)Twを検出する水温センサ290、排気中の空燃比A/Fを検出する空燃比センサ300、及びエンジン100の油温(潤滑油温度)Toを検出する油温センサ310の各出力信号が入力されている。ここで、エンジンコントローラ260は、エンジン100のトルクTqの代わりに、例えば、吸気流量、吸気負圧、過給圧力、アクセル開度、スロットル開度など、エンジン100のトルクTqと密接に関連する状態量を使用してもよい。なお、エンジンコントローラ260は、CAN250を介して接続された他のコントローラ(図示せず)から、エンジン100の回転速度Ne、水温Tw、トルクTq、空燃比A/F及び油温Toを読み込んでもよい。
【0020】
エンジンコントローラ260は、回転速度センサ270及びトルクセンサ280から回転速度Ne及びトルクTqを夫々読み込み、回転速度Ne及びトルクTqに基づいてエンジン運転状態に応じた基本燃料噴射量を演算する。また、エンジンコントローラ260は、水温センサ290から水温Twを読み込み、基本燃料噴射量を水温Twで補正した燃料噴射量を演算する。さらに、エンジンコントローラ260は、回転速度Ne、トルクTq及び燃料噴射量に基づいて、燃料噴射タイミング及び点火タイミングを夫々演算する。
【0021】
そして、エンジンコントローラ260は、クランクシャフト130の回転角度が燃料噴射タイミングになったとき、燃料噴射量に応じた制御信号を燃料噴射弁に出力して、燃料噴射弁から燃焼室160に燃料を噴射させる。また、エンジンコントローラ260は、クランクシャフト130の回転角度が点火タイミングになったとき、点火プラグ210に作動信号を出力して、燃料と吸気との混合気を点火する。このとき、エンジンコントローラ260は、空燃比センサ300から空燃比A/Fを読み込み、排気中の空燃比A/Fが目標空燃比に近づくように、燃料噴射弁をフィードバック制御する。
【0022】
エンジンコントローラ260は、燃料噴射弁及び点火プラグ210の制御に加えて、回転速度センサ270及びトルクセンサ280から回転速度Ne及びトルクTqを夫々読み込み、回転速度Ne及びトルクTqに応じたエンジン100の目標圧縮比、要するに、VCR機構220の制御シャフト226の目標角度を演算する。そして、エンジンコントローラ260は、CAN250を介して、目標角度をVCRコントローラ240へと送信する。
【0023】
制御シャフト226の目標角度を受信したVCRコントローラ240は、制御シャフト226の実際の回転角度(実角度)が目標角度に近づくように、VCR機構220のアクチュエータ228に出力する駆動電流をフィードバック制御する。このようにすることで、VCR機構220は、エンジン100の運転状態に応じた目標角度に制御され、例えば、出力及び燃費を向上させることができる。
【0024】
この目的のため、アクチュエータ228には、その回転軸の回転角度を0°~360°の範囲で検出するレゾルバ320が取り付けられている。レゾルバ320は、アクチュエータ228の回転軸の回転角度に応じて相関する2つの信号、具体的には、正弦波信号及び余弦波信号を出力する。レゾルバ320は、図3に示すように、アクチュエータ228の回転軸と一体的に回転するロータ322と、1相の励磁コイル324A並びに2相の出力コイル324B及び324Cが巻かれたステータ324と、を有している。ステータ324の2相の出力コイル324B及び324Cは、アクチュエータ228の回転軸に対して90°の位相差をもって配置されている。そして、ステータ324の励磁コイル324Aに交流電流からなる励磁信号を出力すると、各出力コイル324B及び324Cには、アクチュエータ228の回転軸の回転角度(電気角)に応じて変化する、正弦波信号及び余弦波信号からなる2相電圧が発生する。VCRコントローラ240は、レゾルバ320から出力された正弦波信号及び余弦波信号の逆正接を演算することで、アクチュエータ228の回転軸の回転角度を求めることができ、VCR機構220の制御を実現することができる。
【0025】
ここで、かかるVCR機構220では、リンク機構における圧入箇所等において滑りが生じている場合に、VCRコントローラ240において認識される圧縮比と実際の圧縮比との間に乖離が生じることがある。このような乖離が生じていると、VCR機構220において正常に圧縮比制御を行うことが困難になる。このため、このような状態を検知するために、VCR機構220の診断の一例として、ストッパ機構230において高圧縮比側への押し付け動作を行い、リンク機構における圧入箇所等において滑りがないかを確かめるアームスリップ診断が行われる。
【0026】
従来では、このようなアームスリップ診断は、イグニッションスイッチがオンの状態でストッパ機構230が高圧縮比側に位置している状態(圧縮比14)でのアイドル回転中又はアイドルストップ中のタイミングで実施されていた。しかしながら、昨今、電気自動車等が普及している状況において、例えばエンジン100を電気自動車に搭載してモータと連動して駆動する仕様で開発製造する場合、エンジン100は従来と異なる動力性能要求を満たす必要が生じていた。このような条件下においては、少なくとも、アイドルストップ中の目標圧縮比を、低圧縮比側(圧縮比10.5)の設定とするよう変更が生じる。このような設定においては、従来のようにイグニッションスイッチがオンの状態でのアームスリップ診断を実施できないため、診断の実施頻度を確保できない。このため、当該アームスリップ診断を実施するタイミングを、イグニッションスイッチがオフになった後へと変更する必要が生じている。
【0027】
ここで、従来のようにアームスリップ診断をイグニッションスイッチがオンの状態で実施する場合、VCRコントローラ240は、アームスリップ診断後、所定の終了処理が完了すれば、CAN通信を停止して自装置の電源をオフにすることが可能であった。この場合、すでにアームスリップ診断が終了しているため、VCRコントローラ240側の任意のタイミングでCAN通信の停止及び電源のオフを行っても、誤診断等が発生しないからである。なお、ここでの終了処理とは、例えば、制御シャフト226がVCR機構220の次回始動時の圧縮比の位置になるようにアクチュエータ228を制御する処理である。
【0028】
しかし一方で、アームスリップ診断をイグニッションスイッチがオフになった後に実施する場合、イグニッションスイッチがオフになった後にエンジンコントローラ260からの診断指示を受信する。ここで、イグニッションスイッチがオフになった後にアームスリップ診断を実施するか否かは、エンジンコントローラ260(マスタ)側に決定権がある。このため、VCRコントローラ240(スレーブ)側は、CAN通信を停止するタイミングや自装置の電源をオフするタイミングを判別できない。したがって、VCRコントローラ240による圧縮比制御が終了していても、VCRコントローラ240側の任意のタイミングでCAN通信の停止及び電源のオフを行うことができない。その結果、イグニッションスイッチがオフになった後に、VCRコントローラ240の電源がオンの状態の時間が不要に長くなってしまうことがあり、バッテリの電力を過剰に消耗し得ることとなる。
【0029】
本実施形態のVCRコントローラ240は、上記のような問題に対処し、必要な範囲においてアームスリップ診断や終了処理を実施しつつ、不要な電力消耗を抑制することが可能な構成を有する。以下、本実施形態のVCRコントローラ240についてさらに詳細に説明する。
【0030】
図4は、VCRコントローラ240のマイクロコンピュータ240Aのハードウェア構成について示している。マイクロコンピュータ240Aは、図4に示すように、プロセッサ241、RAM242、ROM243、通信インターフェース244、並びにこれらを相互通信可能に接続する内部バス245を含む。
【0031】
プロセッサ241は、プログラムに記述された命令セット(データの転送、演算、加工、制御、管理など)を実行するハードウェアであって、演算装置、命令や情報を格納するレジスタ、周辺回路などから構成されている。
RAM242は、電源供給遮断によってデータが消失する揮発性メモリ(スタティックRAM等)からなり、プロセッサ241が動作中に使用する一時的な記憶領域を提供する。
ROM243は、電気的にデータを書き換え可能な不揮発性メモリ(フラッシュROM等)からなる。ROM243には、プロセッサ241で動作するプログラムや、当該プログラムの処理に用いる各種データが格納される。
【0032】
通信インターフェース244は、VCRコントローラ240に接続された他の機器との間の通信を実現する。具体的には、通信インターフェース244は、例えばCANコントローラであり、エンジンコントローラ260と接続されるCAN250やVCRコントローラ240における制御処理に関連するセンサ等の車載機器と接続されるネットワークを介したデータの送受信を可能にする。
内部バス245は、各デバイス間でデータを交換するための経路であって、アドレスを転送するためのアドレスバス、データを転送するためのデータバス、アドレスバスやデータバスで実際に入出力を行うタイミングや制御情報を伝送するコントロールバスを含んでいる。
【0033】
なお、エンジンコントローラ260が備えるマイクロコンピュータ260Aも、VCRコントローラ240のマイクロコンピュータ240Aと同様のハードウェア構成を有している。本明細書においては図示及び詳細な説明を省略する。
【0034】
図5は、VCRコントローラ240の機能ブロック図を示している。図5では、VCRコントローラ240の機能全体のうち、特に、前述の診断処理に関連する機能のみを図示している。VCRコントローラ240では、マイクロコンピュータ240Aが備えるプロセッサ241においてプログラムが実行されることによりその機能が実現される、第1処理部241A及び第2処理部241Bを備える。
第1処理部241Aは、車両のイグニッションスイッチがオフにされたことを検知する。そして、第1処理部は、エンジンコントローラ260からのVCR機構220の診断処理の要求を待機するとともに、イグニッションスイッチがオフにされてから所定時間が経過したか否かを判定する。ここでの所定時間については後の処理説明において詳述する。
第2処理部241Bは、イグニッションスイッチがオフにされてから所定時間が経過したときに、エンジンコントローラ260からのVCR機構220の診断処理の要求の有無に関わらず、VCRコントローラ240の電源をオフにする処理(セルフシャットオフ)を実施する。
【0035】
図6は、VCRコントローラ240において実施される処理について示すフローチャートである。以下、本フローチャートを参照しつつ、VCRコントローラ240のマイクロコンピュータ240Aが実行する処理について詳細に説明する。なお、当該処理は、原則としてVCRコントローラ240が最終的にセルフシャットオフを実施するまで継続的に繰り返し実行される。
【0036】
ステップ1(図ではS1と表記する。以下同様)で、第1処理部は、車両のイグニッションスイッチから受信した信号により、イグニッションスイッチがオフになったことを検知したか否かを判定する。検知した場合にはステップ2に進み(Yes)、検知していない場合には処理を終了する(No)。
ステップ2で、第1処理部は、イグニッションスイッチがオフになった後の経過時間をカウントする。
【0037】
ステップ3で、第1処理部は、エンジンコントローラ260からアームスリップ診断を実施する要求信号を受信したか否かを判定する。当該要求信号を受信していない場合にはステップ4に進み(Yes)、当該要求信号を受信した場合にはステップ8に進む(No)。
【0038】
ステップ4で、第1処理部は、イグニッションスイッチがオフになった後の経過時間が、エンジンコントローラ260の電源がオフになるまでの最短時間よりも短いか否かを判定する。換言すれば、第1処理部は、イグニッションスイッチがオフになった後、エンジンコントローラ260の電源がオフになるまでの最短電源オフ時間を未だ経過していないか否かを判定する。当該時間を未だ経過していない場合にはステップ6に進み(Yes)、経過している場合にはステップ5に進む(No)。なお、当該判定では、イグニッションスイッチがオフになった後の経過時間が、エンジンコントローラ260による診断実施の判断に必要な最長判断時間以上であるか否かを判定してもよい。その場合、イグニッションスイッチがオフになった後、エンジンコントローラ260による診断実施の判断に必要な最長判断時間を未だ経過していない場合にはステップ6に進み(Yes)、経過している場合にはステップ5に進む(No)。
【0039】
ステップ5で、第2処理部は、アームスリップ診断の要求の待機(受け付け)を停止する。また、第1処理部は、アームスリップ診断を行うために行っているエンジンコントローラ260との間のCAN通信の診断を停止する。そして、第1処理部は、制御シャフト226が次回のVCR機構220の始動時の圧縮比の位置に移動するようにアクチュエータ228を制御する処理を実施する。
【0040】
ステップ6で、第1処理部は、イグニッションスイッチがオフになった後の経過時間が、VCRコントローラ240の電源をオンにしておく最長許容時間よりも短いか否かを判定する。ここでの最長許容時間とは、バッテリからの電力供給性能に基づく制約によって定められるVCRコントローラ240の電源をオンにしておくことが可能な許容時間から、エンジンコントローラ260の電源がオフになるまでの最短電源オフ時間を差し引いた時間である。換言すれば、第1処理部は、イグニッションスイッチがオフになった後、VCRコントローラ240の電源をオンにしておく最長許容時間が未だ経過していないか否かを判定する。当該時間を未だ経過していない場合にはステップ13に進み(Yes)、経過している場合にはステップ7に進む(No)。
ステップ7で、第2処理部は、制御シャフト226がVCR機構220の次回始動時の圧縮比の位置に移動するようにアクチュエータ228を制御する処理を停止する。
【0041】
ステップ8(ステップ3の判定にて、エンジンコントローラ260からアームスリップ診断の要求信号を受信したと判定された場合の処理)で、第1処理部は、アームスリップ診断を実施する。また、第1処理部は、エンジンコントローラ260との間のCAN通信の診断処理を継続して実施する。
【0042】
ステップ9で、第1処理部は、イグニッションスイッチがオフになった後の経過時間が、アームスリップ診断の最長実施時間よりも長いか否かを判定する。換言すれば、第1処理部は、イグニッションスイッチがオフになった後、アームスリップ診断に要する最長実施時間を経過しているか否かを判定する。当該時間を経過している場合にはステップ10に進み(Yes)、経過していない場合には処理を終了する(No)。
ステップ10で、第2処理部は、アームスリップ診断を停止する。また、第2処理部は、エンジンコントローラ260との間のCAN通信の診断を停止する。そして、第2処理部は、制御シャフト226が次回のVCR機構始動時の圧縮比の位置に移動するようにアクチュエータ228を制御する処理を実施する。
【0043】
ステップ11で、第1処理部は、イグニッションスイッチがオフになった後の経過時間が、VCRコントローラ240の電源をオンにしておく最長許容時間よりも長いか否かを判定する。ここでの最長許容時間とは、バッテリからの電力供給性能に基づく制約によって定められるVCRコントローラ240の電源をオンにしておくことが可能な許容時間から、アームスリップ診断に要する最長実施時間を差し引いた時間である。換言すれば、第1処理部は、イグニッションスイッチがオフになった後、VCRコントローラ240の電源をオンにしておく最長許容時間を未だ経過していないか否かを判定する。当該時間を経過している場合にはステップ12に進み(Yes)、経過していない場合には処理を終了する(No)。
ステップ12で、第2処理部は、制御シャフト226がVCR機構220の次回始動時の圧縮比の位置に移動するようにアクチュエータ228を制御する処理を停止する。
【0044】
ステップ13で、第1処理部は、VCRコントローラ240のセルフシャットオフを実施する要件が成立しているか否かを判定する。セルフシャットオフを実施する要件とは、例えば、制御シャフト226がVCR機構220の次回始動時の圧縮比の位置に移動していること、または、イグニッションスイッチがオフになった後の経過時間がVCRコントローラ240の電源をオンにしておく最長許容時間以上になったこと(すなわち当該最長許容時間を経過したこと)である。ここでの最長許容時間は、エンジンコントローラ260からアームスリップ診断の要求信号を受信していない場合には、ステップ6で例示した最長許容時間であり、アームスリップ診断の要求信号を受信した場合には、ステップ11で例示した最長許容時間である。セルフシャットオフを実施する要件が成立している場合にはステップ9に進み(Yes)、当該要件が成立していない場合には、処理を終了する。
ステップ14で、第2処理部は、VCRコントローラ240のセルフシャットオフを実施する。
【0045】
以上説明した本発明の実施形態によれば、VCR機構においてイグニッションスイッチがオフになってからアームスリップ診断を行う構成で、かつ、当該診断を行うか否かをエンジンコントローラがマスタとして決定する構成において、次のような効果を奏する。すなわち、このような構成においては、前述したように、スレーブ側であるVCRコントローラ側は、CAN通信を停止するタイミングや自装置の電源をオフするタイミングを判断できない。しかし、本実施形態によれば、VCRコントローラ240が、車両のイグニッションスイッチがオフにされてからの経過時間をカウントする。そして、イグニッションスイッチがオフにされてから所定時間が経過したときに、セルフシャットオフを実施する。なお、このとき、アームスリップ診断や、制御シャフト226をVCR機構220の次回始動時の圧縮比の位置にする処理を実施している場合には、セルフシャットオフに先行してこれらの処理を全て停止する。これにより、当該所定時間を適切に設定することで、イグニッションスイッチがオフにされてからVCRコントローラの電源をオフにするまでの最長時間を、CAN通信の誤診断等の発生を回避しつつ、短くすることが可能である。したがって、本実施態様によれば、内燃機関の仕様変更に伴ってVCR機構の診断がイグニッションスイッチのオフ後に実施されることになっても、VCRコントローラにおける不要な電力消費という問題の発生を抑制しつつ、VCR機構の駆動を適切に行うことができるようになる。
【0046】
具体的には、本実施形態においては、VCRコントローラ240は、アームスリップ診断の要求をエンジンコントローラ260から受信した場合には、所定時間を次のように設定する。すなわち、この場合においては、バッテリからの電力供給性能に基づく制約によって定められるVCRコントローラ240の電源をオンにしておくことが可能な許容時間から、アームスリップ診断に要する最長実施時間を差し引いた時間とする。こうすることにより、アームスリップ診断に必要な時間を考慮しつつ、不要な電力の消耗を抑制することができる。
【0047】
さらに、本実施形態によれば、このようにアームスリップ診断の要求をエンジンコントローラ260から受信した場合には、セルフシャットオフの前段階として、次のような処理を実施する。すなわち、VCRコントローラ240は、イグニッションスイッチがオフになった後にアームスリップ診断の最長実施時間が経過したときには、アームスリップ診断を停止する。そして、制御シャフト226をVCR機構220の次回始動時の圧縮比の位置に移動させる処理を開始する。これにより、電源がオンの状態を不要に継続することを回避しつつ、次回始動時への準備動作をより確実に実施することが可能となる。
【0048】
また、本実施形態では、アームスリップ診断の要求をエンジンコントローラ260から受信していない場合には、所定時間を次のように設定している。すなわち、バッテリからの電力供給性能に基づく制約によって定められるVCRコントローラ240の電源をオンにしておくことが可能な許容時間から、エンジンコントローラ260において診断処理の要否を判断するのに要する最長判断時間を差し引いた時間とする。こうすることにより、エンジンコントローラ260からアームスリップ診断の要求が送信される可能性があるうちにVCRコントローラの電源をオフしてしまうことを回避しつつ、不要な電力の消耗を抑制することができる。なお、この場合、診断処理の要否を判断するのに要する最長判断時間の代わりに、エンジンコントローラ260の電源がオフになるまでの最短電源オフ時間を差し引いた時間を差し引いてもよい。こうすることにより、エンジンコントローラの電源がオフにされた可能性があるタイミングにまでVCRコントローラの電源をオンにし続けることを回避することができ、不要な電力の消耗を抑制することができる。
【0049】
さらに、本実施形態によれば、このようにアームスリップ診断の要求を受信していない場合には、セルフシャットオフの前段階として、次のような処理をする。すなわち、VCRコントローラ240は、イグニッションスイッチがオフになった後にエンジンコントローラ260の電源がオフになるまでの最短電源オフ時間が経過した場合には、アームスリップ診断の要求の待機を停止する。そして、制御シャフト226をVCR機構220の次回始動時の圧縮比の位置に移動する処理を開始する。これにより、次回始動時への準備動作をより確実に実施することが可能となる。
【0050】
なお、本実施形態で示した、次回始動時への準備処理やセルフシャットオフを行う判断基準としての所定時間は一例に過ぎず、他の時間を判断基準としてもよい。また、本実施形態で示した、アームスリップ診断の要求の待機や診断処理を停止するための判断基準も一例に過ぎず、他の時間を判断基準としてもよい。
また、アームスリップ診断は、VCR機構の診断の一例に過ぎず、本発明はVCR機構で実施する他の診断においても適用することが可能である。
【0051】
以上説明した本発明の実施形態は、本発明の技術的範囲で考え得る実施態様の一部に過ぎず、本発明の例示として開示されるものであって、本発明の技術的範囲を制限するものではない。また、各実施形態における機能的構成及び物理的構成は、前述の態様に限定されるものではなく、例えば、各機能や物理的資源を統合して実装したり、逆に、さらに分散して実装したり、さらには、構成の一部について他の構成の追加、削除、置換等をすることも可能である。
【符号の説明】
【0052】
100…エンジン、220…VCR機構、226…制御シャフト、228…アクチュエータ、240…VCRコントローラ、241A…第1処理部、241B…第2処理部、260…エンジンコントローラ
図1
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図3
図4
図5
図6