(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090755
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】摺動式等速自在継手
(51)【国際特許分類】
F16D 3/227 20060101AFI20240627BHJP
F16D 3/2245 20110101ALI20240627BHJP
F16D 3/20 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
F16D3/227 G
F16D3/2245
F16D3/20 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206846
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大輝
(72)【発明者】
【氏名】小林 正純
(57)【要約】 (修正有)
【課題】外側継手部材、内側継手部材の選択組合せを可能にし耐久性、強度、NVH特性を確保できるダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を提供すること。
【解決手段】トラック溝7を有する外側継手部材2と、トラック溝9を有する内側継手部材3と、複数のボール4と、ボール4を収容するケージ5とからなり、ケージの球状外周面と球状内周面が、継手中心Oに対して軸方向の反対側にオフセットした摺動式等速自在継手1において、外側継手部材の継手軸方向のスライド範囲中央部Cに対して奥側に10mmから開口側に10mmの範囲を中央範囲Wとし、当該中央範囲に、外側継手部材の円筒状内周面6の内径が最小となる部位6aを形成し、中央範囲における外側継手部材の円筒状内周面とケージ5の球状外周面との間のすきまGの最小値を0.010mm~0.160mmとすると共に、当該すきまの最大値を0.210mm以下としたことを特徴とする。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状内周面に直線状の複数のトラック溝が軸方向に沿って形成された外側継手部材と、球状外周面に前記外側継手部材の直線状の複数のトラック溝に対向する直線状の複数のトラック溝が軸方向に沿って形成された内側継手部材と、前記外側継手部材の直線状の複数のトラック溝と前記内側継手部材の直線状の複数のトラック溝間に組込まれ、トルクを伝達する複数のボールと、前記ボールをポケットに収容し、前記外側継手部材の円筒状内周面と前記内側継手部材の球状外周面にそれぞれ接触案内される球状外周面と球状内周面を有するケージとからなり、前記ケージの球状外周面の曲率中心と球状内周面の曲率中心が、継手中心に対して軸方向の反対側にオフセットした摺動式等速自在継手において、
前記外側継手部材の継手軸方向のスライド範囲中央部に対して奥側に10mmから開口側に10mmの範囲を中央範囲とし、当該中央範囲に、前記外側継手部材の円筒状内周面の内径が最小となる部位を形成し、
前記中央範囲における前記外側継手部材の円筒状内周面と前記ケージの球状外周面との間のすきまの最小値を0.010mm~0.160mmとすると共に、当該すきまの最大値を0.210mm以下としたことを特徴とする摺動式等速自在継手。
【請求項2】
前記中央範囲を除く領域における前記外側継手部材の円筒状内周面と前記ケージの球状外周面との間のすきまの最小値を0.010mm~0.260mmとすると共に、当該すきまの最大値を0.310mm以下としたことを特徴とする請求項1に記載の摺動式等速自在継手。
【請求項3】
前記外側継手部材の円筒状内周面とトラック溝が塑性加工で成形された表面であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摺動式等速自在継手。
【請求項4】
前記複数のボールの個数を6~8個としたことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の摺動式等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械などの動力伝達系、例えば、自動車のドライブシャフトやプロペラシャフトに使用される摺動式等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のドライブシャフトに適用される等速自在継手には、大別すると、2軸間の角度変位のみを許容する固定式等速自在継手と、角度変位および軸方向変位を許容する摺動式等速自在継手がある。自動車のドライブシャフトは、通常、駆動車輪側(アウトボード側ともいう)に固定式等速自在継手が用いられ、デファレンシャル側(インボード側ともいう)に摺動式等速自在継手が用いられ、これらの2つの等速自在継手を中間シャフトで連結して構成されている。等速自在継手は、それぞれ使用条件や用途などに応じて各種選択される。
【0003】
摺動式等速自在継手としては、ダブルオフセット型等速自在継手(DOJ)やトリポード型等速自在継手(TJ)が代表的である。DOJタイプの摺動式等速自在継手は、製造コストが安価なことや、継手内部の回転方向ガタが少ないことで広く用いられている。また、DOJタイプの摺動式等速自在継手は、ボールの個数が6個のものや8個のものが知られており、特許文献1には、ボール個数を8個としたコンパクトな設計のDOJが記載され、特許文献2には、作動角の高角化と、より軽量・コンパクト化を図った、最大作動角が30°以上とれるDOJが記載されている。
【0004】
DOJタイプの摺動式等速自在継手は、外側継手部材、内側継手部材、ケージ、ボールから構成され、各部のすきまが適切な値となるように組み合わせて使用されることが特許文献3に提案されている。各部のすきまとは、外側継手部材、内側継手部材のトラック溝とボールとの間のすきま(PCDすきま)、外側継手部材の円筒状内周面とケージの球状外周面との間のすきま、ケージの球状内周面と内側継手部材の球状外周面との間のすきま、ケージのポケットとボールとの間のすきま(ポケットすきま)である。
【0005】
DOJタイプの摺動式等速自在継手は、円筒状内周面に直線状の複数のトラック溝が軸方向に沿って形成された外側継手部材と、球状外周面に外側継手部材の直線状の複数のトラック溝に対向する直線状の複数のトラック溝が軸方向に沿って形成された内側継手部材と、外側継手部材の直線状の複数のトラック溝と内側継手部材の直線状の複数のトラック溝間に組込まれた複数のボールと、ボールをポケットに収容し、外側継手部材の円筒状内周面と内側継手部材の球状外周面に接触案内される球状外周面と球状内周面を有するケージとからなり、ケージの球状外周面の曲率中心と球状内周面の曲率中心が、継手中心に対して軸方向の反対側にオフセットした構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-73129号公報
【特許文献2】特開2007-85488号公報
【特許文献3】特開2010-19288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
DOJタイプの摺動式等速自在継手は、製造コストを安価にするために、外側継手部材のカップ部内を冷間鍛造で仕上げ、熱処理後、カップ部内を研削加工等による仕上げ加工を施さないことが一般的である。そのため、冷間鍛造の精度の影響に加えて、さらに、カップ内部の熱処理によって生じる熱処理変形により、外側継手部材の円筒状内周面の内径(直径)が円周方向と軸方向でばらつきが生じ、円筒状内周面の内径がばらつくことで、ケージの球状外周面との間のすきまに影響が出る。外側継手部材の球状内周面とケージの球状外周面との間のすきまが過大になった場合、ケージの位置が不安定となり、等速性、耐久性、NVH特性が悪化することが懸念される。また、工程上では適正なすきまを確保するために、外側継手部材のカップ部の円筒状内周面の内径寸法に応じてケージを選択組合せすることが一般的であるが、この選択組合せの効率的な実用を可能にすることが生産性、製造コストの面で重要である。
【0008】
特許文献3では、必要最低限のマッチングで機能低下を抑える内部すきま仕様が提案されている。しかしながら、最近のEVや高常用角で使用されるSUVに対しては、規定されたすきまレベルでは、等速性、耐久性、NVH特性に懸念が残る。
【0009】
上記のような問題に鑑み、本発明は、鍛造、熱処理の実用精度レベルを基に、外側継手部材に対するケージの選択組合せを可能にし、かつ等速性、耐久性、NVH特性を高性能に確保できるダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成するために、鍛造、熱処理の限界にある精度、選択組合せの効率的な実用の可能性、耐久性、強度、NVH特性(振動特性)の高性能な確保という多面的な項目を種々検討した。その結果、ダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を装着した実車で最も使用頻度の高いスライド範囲であるトラック溝の継手軸方向の中央範囲における外側継手部材の円筒状内周面とケージの球状外周面との間のすきまに焦点を当ることが解決の鍵になることに到達し、当該中央範囲における前記すきまの最小値を設定するという新たな着想により、本発明に至った。
【0011】
前述の目的を達成する技術的手段として、本発明は、円筒状内周面に直線状の複数のトラック溝が軸方向に沿って形成された外側継手部材と、球状外周面に前記外側継手部材の直線状の複数のトラック溝に対向する直線状の複数のトラック溝が軸方向に沿って形成された内側継手部材と、前記外側継手部材の直線状の複数のトラック溝と前記内側継手部材の直線状の複数のトラック溝間に組込まれ、トルクを伝達する複数のボールと、前記ボールをポケットに収容し、前記外側継手部材の円筒状内周面と前記内側継手部材の球状外周面にそれぞれ接触案内される球状外周面と球状内周面を有するケージとからなり、前記ケージの球状外周面の曲率中心と球状内周面の曲率中心が、継手中心に対して軸方向の反対側にオフセットした摺動式等速自在継手において、前記外側継手部材の継手軸方向のスライド範囲中央部に対して奥側に10mmから開口側に10mmの範囲を中央範囲とし、当該中央範囲に、前記外側継手部材の円筒状内周面の内径が最小となる部位を形成し、前記中央範囲における前記外側継手部材の円筒状内周面と前記ケージの球状外周面との間のすきまの最小値を0.010mm~0.160mmとすると共に、当該すきまの最大値を0.210mm以下としたことを特徴とする。上記の構成により、鍛造、熱処理の実用精度レベルを基に、外側継手部材に対するケージの選択組合せを可能にし、かつ等速性、耐久性、NVH特性を高性能に確保できるダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を実現することができる。
【0012】
また、上記の中央範囲を除く領域における上記の外側継手部材の円筒状内周面と上記のケージの球状外周面との間のすきまの最小値を0.010mm~0.260mmとすると共に、当該すきまの最大値を0.310mm以下とすることが望ましい。これにより、継手を車両に組み付ける際や、走行中滑らかにスライドすることができる。
【0013】
上記の外側継手部材の円筒状内周面が塑性加工で成形された表面であることにより、製造コストを安価にすることができる。
【0014】
上記の複数のボールの個数を6~8個としたことにより、自動車や各種産業機械などの動力伝達系に好適なダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を構成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鍛造、熱処理の実用精度レベルを基に、外側継手部材に対するケージの選択組合せを可能にし、かつ等速性、耐久性、NVH特性を高性能で確保できるダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を実現することができる。
【0016】
本発明によれば、等速性、耐久性、NVH特性を高性能で確保できるので、最近のEVや高常用角で使用されるSUVに対しても、好適なダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る摺動式等速自在継手の縦断面図で、
図2のB-N-B線における縦断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る摺動式等速自在継手の横断面図で、
図1のA-A線における横断面図である。
【
図3】
図1のA-A線およびD-O1線における1つのトラック溝、ボールおよびケージを拡大して示す横断面図である。
【
図4】
図5のC-C線における外側継手部材の横断面図である。
【
図5】本実施形態の摺動式等速自在継手のスライド範囲中央部を示す縦断面図である。
【
図6】スライド範囲中央部を解説する模式図である。
【
図7】外側継手部材の円筒状内周面の内径を測定する測定機の概要図である。
【
図8】外側継手部材の円筒状内周面の最小内径を測定する測定機の概要図である。
【
図9】外側継手部材の円筒状内周面の最小内径を測定する原理図である。
【
図10】ケージの球状外周面の最大外径を測定する測定器の概要図である。
【
図11】本発明の第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の縦断面図で、
図12のB-N-B’線における縦断面図である。
【
図12】本発明の第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の横断面図で、
図11のA-A線における横断面図である。
【
図13】本発明の第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組合せ体の第1の変形例の縦断面図である。
【
図14】本発明の第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組合せ体の第2の変形例の縦断面図である。
【
図16】本発明の第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組合せ体の第3の変形例の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1の実施形態に係るダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を
図1~
図10に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の摺動式等速自在継手の縦断面図で、
図2のB-N-B線における縦断面図である。
図2は、本実施形態の摺動式等速自在継手の横断面図で、
図1のA-A線における横断面図である。
図3は、
図1のA-A線およびD-O1線における1つのトラック溝、ボールおよびケージを拡大して示す横断面図である。
【0019】
図1、
図2に示すように、摺動式等速自在継手1は、いわゆる、ダブルオフセット型の摺動式等速自在継手(DOJと略称することもある。)であり、外側継手部材2、内側継手部材3、トルクを伝達するボール4およびケージ5を主な構成とする。外側継手部材2の円筒状内周面6には、8本のトラック溝7が円周方向に等間隔で、かつ軸方向に沿って直線状に形成されている。内側継手部材3の球状外周面8には、外側継手部材2のトラック溝7と対向するトラック溝9が円周方向に等間隔で、かつ軸方向に沿って直線状に形成されている。外側継手部材2のトラック溝7と内側継手部材3のトラック溝9との間に8個のボール4が1個ずつ組み込まれている。ボール4はケージ5のポケット5aに収容されている。
【0020】
ケージ5は、球状外周面11と球状内周面12を有し、球状外周面11は外側継手部材2の円筒状内周面6と嵌合して接触案内され、球状内周面12は内側継手部材3の球状外周面8と嵌合して接触案内される。ケージ5の球状外周面11は曲率中心をO1とする曲率半径Rc1で形成され、球状内周面12は曲率中心をO2とする曲率半径Rc2で形成されている。内側継手部材3の球状外周面8は曲率中心をO2とする曲率半径Riで形成されている。曲率中心O1、O2は、軸線N上に位置し、継手中心Oに対して軸方向の反対側に等距離Fでオフセットされている。これにより、継手が作動角を取った場合、外側継手部材2と内側継手部材3の両軸線がなす角度を二等分する平面上にボール4が常に案内され、二軸間が等速回転で伝達される。
【0021】
外側継手部材2の円筒状内周面6とケージ5の球状外周面11との間にすきまGが設けられている。このすきまGは、継手の直径で表した値である。本明細書および特許請求の範囲における外側継手部材の円筒状内周面とケージの球状外周面との間のすきまは、前記すきまGを意味する。
図1においては、すきまGを誇張して図示している。
【0022】
外側継手部材2の開口側端部に止め輪溝15が設けられ、この止め輪溝15に止め輪17が装着されて、
図1に示す内側継手部材3、ボール4、ケージ5からなる内側組合せ体Iが、外側継手部材2の開口側端部から抜け出すのを防止する。外側継手部材2の開口側端部の外周にブーツ装着溝16が設けられている。外側継手部材2の反開口側にはステム部(軸部)2bが一体に形成され、デファレンシャル(図示省略)に連結される。
【0023】
内側継手部材3の球状外周面8に直線状のトラック溝9が形成されているので、内側継手部材3の軸方向の中心から両端に行くにつれてトラック溝9の溝深さが浅くなる。内側継手部材3の連結孔13にスプライン(セレーションを含む、以下同じ)14が形成され、中間シャフト(図示省略)の軸端部がスプライン嵌合され、内側継手部材3に対して、中間シャフト肩部と止め輪(図示省略)によって軸方向に固定される。
【0024】
図1のA-A線で示すケージ5の軸方向中心に8個のポケット5aが円周方向に等間隔で設けられ、隣接するポケット5a間は柱部5b(
図2参照)となっている。ケージ5の大径側端部の内周に内側継手部材3を組み込むための切欠き5cが設けられている。ケージ5のストッパ面5dは、球状外周面11に接線として接続する円すい状に形成されている。本実施形態の摺動式等速自在継手1では、最大作動角は、例えば25°に設定されている。ケージ5は、継手が作動角を取った場合、外側継手部材2と内側継手部材3の両軸線がなす角度の半分だけ傾くので、ストッパ面5dの傾斜角度Sは12.5°に設定されている。これにより、摺動式等速自在継手1の最大許容角度を規制することができる。
【0025】
図3に基づいて、外側継手部材2のトラック溝7、内側継手部材3のトラック溝9とボール4とのアンギュラ接触やトラック溝のピッチ円直径、主なすきまについて説明する。
図3は、
図1のA-A線およびD-O1線における1つのトラック溝7、9、ボール4およびケージ5を示す。
図3の矢印Aの範囲は、
図1のA-A線における横断面図であり、
図3の矢印Dの範囲は、
図1のD-O1線における横断面図である。
【0026】
図3の矢印Aの範囲に示すように、外側継手部材2のトラック溝7と内側継手部材3のトラック溝9の横断面は、2つの円弧を組合せたゴシックアーチ形状に形成されている。このため、ボール4は、トラック溝7、9に対して各2つの点C1、C2、C3、C4でアンギュラコンタクトする。トラック溝7、9の横断面形状は、前述したゴシックアーチ形状に限られず、楕円形状であってもよい。
【0027】
ピッチ円直径、主なすきまについて説明する。外側継手部材2のトラック溝7のピッチ円直径と内側継手部材3のトラック溝9のピッチ円直径を区別して表記する場合は、外側継手部材2のトラック溝7のピッチ円直径をToPCDと表記し、内側継手部材3のトラック溝9のピッチ円直径をTiPCDと表記する。ToPCDは、TiPCDより、中央値で例えば、0.050mm程度大きく設定されている。その結果、ボール4の中心Obは、ToPCDとTiPCDとの間の径方向中間に位置し、無負荷状態において、ボール4と外側継手部材2のトラック溝7および内側継手部材3のトラック溝9との間にトラック接触角α方向にトラックすきまが形成される。トラック接触角α方向のトラックすきまに基づく半径方向のすきま成分がPCDすきまΔである。
【0028】
PCDすきまΔに基づいて、円周方向ガタが生じる。本実施形態の摺動式等速自在継手1では、トラック溝7、9の横断面形状がゴシックアーチ形状に形成されているので、継手内部の回転方向ガタ量を確実に抑制でき、EVにおけるトルク負荷応答性も良好である。
図3では、TiPCDとToPCDとの寸法差やPCDすきまΔを誇張して図示している。
【0029】
トラック接触角αは、
図3の直線Laと直線Lbとの間の角度αである。直線Laはトラック溝7、9の横断面の中心線で、
図2のB-N線に対応する。直線Lbは、トラック溝7、9の側面におけるボール4の接触点C1、C2、C3、C4とボール4の中心Obを結ぶ直線である。
【0030】
本実施形態の摺動式等速自在継手1では、ボール4とトラック溝7、9とがアンギュラコンタクトとするものを例示したが、アンギュラコンタクトに限定されるものではなく、外側継手部材2および内側継手部材3のトラック溝7、9の横断面形状を円弧形状とし、ボール4とトラック溝7、9とがそれぞれ1点で接触するサーキュラコンタクトとしてもよい。
【0031】
図3の矢印Dの範囲に示すように、外側継手部材2の円筒状内周面6とケージ5の球状外周面11との間にはすきまGが設けられている。すきまGは、前述したように、継手の直径で表した値である。前述したように、PCDの寸法差やPCDすきまΔ等が存在の中で、外側継手部材2の円筒状内周面6とケージ5の球状外周面11との間のすきまGに着目し、このすきまGの取り扱いが本実施形態の摺動式等速自在継手1の特徴的な構成に導いた。詳細は後述する。
【0032】
本実施形態のダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1の全体的な構成は以上のとおりである。次に特徴的な構成を説明する。特徴的な構成は次の(1)~(3)である。
(1)外側継手部材の継手軸方向のスライド範囲中央部に対して奥側に10mmから開口側に10mmの範囲を中央範囲とし、当該中央範囲に、前記外側継手部材の円筒状内周面の内径が最小となる部位を形成したこと。
(2)中央範囲における外側継手部材の円筒状内周面とケージの球状外周面との間のすきまの最小値を0.010mm~0.160mmとしたこと。
(3)前記すきまの最大値を0.210mm以下としたこと。
【0033】
上記の特徴的な構成(1)~(3)は以下の検討経過を経て到達した。すなわち、本発明者らが、(a)鍛造、熱処理の限界にある精度、(b)選択組合せの効率的な実用の可能性、(c)耐久性、強度、NVH特性(振動特性)を高性能に確保するという多面的な項目を種々検討した結果、ダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を装着した実車で最も使用頻度の高いスライド範囲であるトラック溝の継手軸方向の中央範囲における外側継手部材の円筒状内周面とケージの球状外周面との間のすきまに焦点を当ることが解決の鍵になることに辿り着き、当該中央範囲における外側継手部材の円筒状内周面とケージの球状外周面との間のすきまの最小値、最大値を設定するという新たな着想によって、上記の特徴的な構成(1)~(3)に到達した。
【0034】
図面を参照して、特徴的な構成を順次説明する。特徴的な構成(1)は、ダブルオフセット型の摺動式等速自在継手を装着した実車で最も使用頻度の高いスライド範囲である外側継手部材の継手軸方向の中央範囲に外側継手部材の円筒状内周面とケージの球状外周面との間のすきまを精度よく形成するために、中央範囲に、外側継手部材の円筒状内周面の内径が最小となる部位を形成したものである。特徴的な構成(1)について、
図4~
図6に基づいて具体的に説明する。
図4は、
図5のC-C線における外側継手部材の横断面図で、
図5は、本実施形態の摺動式等速自在継手のスライド範囲中央部を示す縦断面図である。
図6は、スライド範囲中央部を解説する模式図である。
【0035】
ダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1の外側継手部材2は、一般的には、鍛造工程、切削工程、焼入れ工程、研削工程により製作され、カップ部内は冷間鍛造で仕上げられる(焼入れ工程後の研削工程等での仕上げ加工は施さない)。また、ケージ5は、一般的には、熱間鍛造工程、旋削工程、窓抜き工程、ミーリング又はブローチ工程、焼入れ工程、研削又は焼入れ鋼切削による仕上げ工程により製作される。
【0036】
図5に示すように、外側継手部材2のトラック溝7の継手軸方向のスライド範囲中央部C(セット位置でもある)を基準にして、スライド範囲中央部Cに対して、奥側にw(=10mm)から開口側にw(=10mm)の範囲を中央範囲Wとする。そして、鍛造工程と熱処理工程にて、図示のように、中央範囲Wに外側継手部材2の円筒状内周面6の内径が最小となる部位6aを形成する。外側継手部材2のトラック溝7は、円筒状内周面6の中央範囲Wおよび中央範囲Wを除く領域の輪郭に沿って軸方向に形成される。
【0037】
図4に示すように、外側継手部材2の円筒状内周面6は、トラック溝7の存在によって、8つに分離した円筒状内周面区分6’で形成される。直径方向に対向する円筒状内周面区分6’の内径は、対角4位相に形成される。ここで、本明細書および特許請求の範囲における中央範囲Wに、外側継手部材の円筒状内周面の内径が最小となる部位を形成したとは、中央範囲Wに、外側継手部材の全ての円筒状内周面区分のそれぞれについて内径が最小となる部位を形成したことを意味する。
【0038】
外側継手部材2の円筒状内周面6の内径は、カップ部2aの開口側からスライド範囲中央部C(中央範囲W)にかけて徐々に小さくなり、スライド範囲中央部C(中央範囲W)から奥側にかけて徐々に大きくなる形状としている。
【0039】
スライド範囲中央部Cについて説明する。スライド範囲中央部Cは、摺動式等速自在継手1の組立体が車両に取り付けられた後の摺動式等速自在継手1の継手中心Oの軸方向位置であり、セット位置でもある。
図5に示すように、ダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1は、外側継手部材2の開口側端部には、内側継手部材3、ボール4、ケージ5からなる内側組合せ体Iの脱落防止のために止め輪17が取り付けられることが多く、摺動式等速自在継手1は、スライド範囲中央部C(セット位置)を中心に
図6に示すスライド範囲の領域で使用される。具体的には、カップ部2aの開口側は、ボール4と止め輪17(
図5参照)とが
図6に示す線X1の位置で干渉することにより、開口側の軸方向スライドが規制される。一方、カップ部2aの奥側は、ケージ5とカップ部2aの底部とが線X2の位置で干渉すること、又はシャフト(図示省略)とカップ部2aの開口部2c(
図5参照)とが線X3の位置で干渉することにより、奥側の軸方向スライドが規制される。図示のように、作動角の増加につれて、線X1~X3に囲まれた軸方向スライド量は減少する。
【0040】
ここで、スライド範囲中央部Cを定義する。スライド範囲中央部Cは、車両の使用条件で任意に設定される。つまり、スライド範囲中央部Cは、カップ部2aの開口部からカップ部2aの底部までの線X1~X3で囲まれた軸方向の中心位置からずれる場合がある。したがって、一般的な車両走行時の摺動式等速自在継手1の継手中心Oの軸方向の変位の中心をスライド範囲中心部Cと定義する。スライド範囲中心部Cを基準に、一般的な車両走行時に常時使用される領域を包含できるのが、「スライド範囲中心部C±10mm」であり、この領域において、円筒状内周面6の内径寸法Dに着目した。本明細書および特許請求の範囲における外側継手部材のトラック溝の継手軸方向のスライド範囲中央部は、上記の意味を有する。
【0041】
図5の中央範囲Wにおける外側継手部材2の円筒状内周面6の内径寸法の状態を
図4に基づいて説明する。
図4に示すように、8個のボールを組込んだ本実施形態の摺動式等速自在継手1では、外側継手部材2の直径上に円筒状内周面区分6’が4つずつ形成される。直径方向に対向する円筒状内周面区分6’の内径寸法は、対角4位相の内径寸法となる。円筒状内周面区分6’の対角4位相の内径寸法にD1、D2、D3、D4の符号を付す。
【0042】
外側継手部材2の円筒状内周面6(円筒状内周面区分6’)の内径寸法D1、D2、D3、D4は、鍛造精度および熱処理変形により、ばらつきを生じる。中央範囲Wにおける外側継手部材2の円筒状内周面6の内径寸法D1、D2、D3、D4の測定方法を
図7に基づいて説明する。
図7に示すように、測定機20は、一対のアーム22に設けられた測定端子21とマイクロメータ23を主な構成とする。2つの測定端子21を外側継手部材2の円筒状内周面区分6’に当接させて4位相の内径寸法D1、D2、D3、D4を測定する。
【0043】
ケージ5の球状外周面11と摺動篏合する外側継手部材2の円筒状内周面6の内径寸法D1、D2、D3、D4のばらつき(相互差V)は厳しい傾向にあるが、近年の生産技術開発により、外側継手部材2の円筒状内周面6の内径寸法D1、D2、D3、D4の相互差Vは上限Vmaxで0.050mmの水準に到達した。外側継手部材2の円筒状内周面6の内径寸法D1、D2、D3、D4の相互差Vの上限Vmax0.050mmは、後述する外側継手部材2の円筒状内周面6とケージ5の球状外周面11との間のすきまGの最大値に影響するので、外側継手部材2の円筒状内周面6の内径寸法D1、D2、D3、D4の相互差Vが0.050mmを超えるものは選択組合せの工程の前に不良品として排除する。ケージ5の球状外周面11は、熱処理後、仕上げ加工されるので、ケージ5の球状外周面11の外径寸法の相互差Vはほとんどなく、5μm以下である。その結果、選択組合せの取り扱い上、好適であることが判明した。これらの知見が解決手段の糸口になった。
【0044】
特徴的な構成(2)は、中央範囲における外側継手部材2の円筒状内周面6とケージ5の球状外周面11との間のすきまGの最小値を0.010mm~0.160mmとしたことである。
【0045】
中央範囲Wにおける外側継手部材2の円筒状内周面6とケージ5の球状外周面11との間のすきまGの最小値の下限値を0.010mm以上としたことで、外側継手部材2のカップ部2a内は、鍛造仕上げで、かつ熱処理後、研削加工等の仕上げ加工を施さない状態による鍛造肌の面粗さやうねり、また、熱処理スケール残り等の凹凸が存在するが、これらの凹凸を吸収して、ケージ5が干渉なく滑らかにスライドできる。
【0046】
また、中央範囲Wにおける外側継手部材2の円筒状内周面6とケージ5の球状外周面11との間のすきまGの最小値の上限値を0.160mm以下とする。中央範囲Wにおける外側継手部材2の円筒状内周面6とケージ5の球状外周面11との間のすきまGが大きくなると、これによるケージ5の径方向への遊びが大きくなり、それによって特に高作動角時にケージ5による外側継手部材2の円筒状内周面6への打音(異音)が懸念されるが、中央範囲Wにおける外側継手部材2の円筒状内周面6とケージ5の球状外周面11との間のすきまGの最小値の上限値を0.160mm以下としたことで、ケージ5による外側継手部材2の円筒状内周面6への打音(異音)を抑制できる。
【0047】
さらに、中央範囲Wにおける外側継手部材2の円筒状内周面6とケージ5の球状外周面11との間のすきまGの最小値を0.010mm以上とし、0.160mm以下とすることで、外側継手部材2の円筒状内周面6に対するケージ5の選択組合せの実用を可能にする。すなわち、外側継手部材2の円筒状内周面6とケージ5の球状外周面11との間のすきまGの最小値の下限値0.010mmと上限値0.160mmとの間には0.150mmの幅が設けられている。ケージ5の球状外周面11の外径寸法の相互差Vは5μm以下の僅かな値であるので、ケージ5の球状外周面11の外径寸法を狙い寸法に仕上げ可能であり、例えば、0.030mm程度のランク幅で区分した適宜ランク数のケージ5と外側継手部材2との選択組合せの実用を可能にする。
【0048】
具体的に、外側継手部材2の円筒状内周面6に対するケージ5の選択組合せ方法を説明する。選択組合せの作業の前に、外側継手部材2の円筒状内周面6の中央範囲Wにおける内径寸法の最小値およびケージ5の球状外周面11の外径寸法の最大値を測定する。ただし、ケージ5の球状外周面11の外径寸法の相互差Vは5μm以下のごく僅かな値であるので、ケージ2の球状外周面11の外径寸法の最大値と最小値とはほぼ同等の値である。選択組合せの作業の流れの一例として、測定済のランク幅で区分けされたケージ5を複数貯留しておき、中央範囲Wにおける円筒状内周面6の内径寸法の最小値を測定した外側継手部材2の測定データと照合し、中央範囲Wにおける外側継手部材2の円筒状内周面6とケージ5の球状外周面11との間のすきまGの最小値の範囲(0.010mm~0.160mm)を満たすケージ5を選択組合せする。
【0049】
外側継手部材2の円筒状内周面6の内径寸法の最小値を測定する測定方法を
図8、
図9に基づいて説明する。また、ケージ5の球状外周面11の外径寸法の最大値を測定する測定方法を
図10に基づいて説明する。
図8は外側継手部材2の円筒状内周面6の最小内径を測定する測定機の概要図で、
図9は外側継手部材2の円筒状内周面6の最小内径を測定する原理図である。
図10はケージ5の球状外周面11の最大外径を測定する測定機の概要図である。
【0050】
図8に示すように、外側継手部材2の円筒状内周面6の内径寸法の最小値を測定する測定機30は、ベース31、テーブル32、測定用ボール33、ボール保持部34、テーパ軸部材35、操作レバー36およびマイクロメータ37を主な構成とする。ボール保持部34はテーブル32上に固設され、測定用ボール33をポケット34a内に半径方向、円周方向に移動可能に収容している。テーパ軸部材35は、円錐状外周面35aを有し、ボール保持部34に収容された測定用ボール33の内接円の半径方向内側に配置されている。テーパ軸部材35は、操作レバー36により、上下方向(外側継手部材2の軸方向)に移動可能に構成され、テーパ軸部材35の上下方向の移動により、測定用ボール33の外接円は半径方向に拡縮する。テーパ軸部材35の上下方向の移動量がマイクロメータ37と連携した構成となっている。
【0051】
外側継手部材2の円筒状内周面6の中央範囲Wにおける内径寸法の最小値の測定方法を説明する。測定機30の測定用ボール33の外接円が半径方向に縮径した状態で、外側継手部材2の円筒状内周面区分6’を測定用ボール33に位相を合わせて被せ、外側継手部材2をテーブル32上に載置する。
図8に示すように、テーパ軸部材35を下方向に移動させ、円錐状外周面35aを測定用ボール33に当接させ、測定用ボール33を円筒状内周面区分6’に押し付ける。円筒状内周面6(円筒状内周面区分6’)の内径寸法はばらついているので、
図9に測定原理を示すように、8個の測定用ボール33の内、散点表示した3個のボール33が、テーパ軸部材35の円錐状外周面35aと当接させることにより、外側継手部材2の円筒状内周面6の内径寸法の最小値Dminが測定される。
【0052】
図10に示すように、ケージ5の球状外周面11の外径寸法の最大値を測定する測定器40は、ベース41、テーブル42、測定端子43、マイクロメータ47を主な構成とする。ベース41上のテーブル42にケージ5の球状外周面11を載置し、矢印で示すように、ケージ5をその軸心回りに回転させて外径寸法の最大値dmaxを測定する。
【0053】
外側継手部材2の円筒状内周面6の内径寸法の最小値Dminとケージ5の球状外周面11の外径寸法の最大値dmaxとの差が中央範囲Wにおける外側継手部材2の円筒状内周面6とケージ5の球状外周面11との間のすきまGの最小値Gminである。すきまGの最小値Gminは次式で表される。
すきまGの最小値Gmin=Dmin-dmax
以上の方法で測定したすきまGの最小値Gminが、中央範囲Wにおける外側継手部材2の円筒状内周面6とケージ5の球状外周面11との間のすきまGの最小値Gminの範囲(0.010mm~0.160mm)を満たすケージ5を選択組合せする。
【0054】
中央範囲Wにおける外側継手部材2の円筒状内周面6とケージ5の球状外周面11との間のすきまGの最小値Gminが0.010mm~0.160mmを満たすケージ5を選択組合せすると、外側継手部材2の円筒状内周面6の内径寸法の相互差Vの上限Vmaxは、前述したように、0.050mmであるので、次の特徴的な構成(3)が導かれる。
【0055】
特徴的な構成(3)は、中央範囲におけるすきまGの最大値が0.210mm以下としたことである。
【0056】
中央範囲Wにおける外側継手部材2の円筒状内周面6とケージ5の球状外周面11との間のすきまGの最小値Gmin(0.010mm~0.160mm)に外側継手部材2の円筒状内周面6の内径寸法の相互差Vの上限値Vmax0.050mmを加算すると、中央範囲におけるすきまGの最大値Gmaxが0.210mm以下となる。すきまGの最大値Gmaxは次式で表される。
すきまGの最大値Gmax=Gmin+Vmax
【0057】
中央範囲WにおけるすきまGの最大値Gmaxを0.210mm以下とする。外側継手部材2のカップ部2a内は、鍛造仕上げで、かつ熱処理後、研削加工等の仕上げ加工を施さない状態のため、円筒状内周面6は、熱処理変形により円筒断面が楕円形状に変形する。そのため、この楕円変形量が大きいと、外側継手部材2の円筒状内周面6とケージ5の球状外周面11の接触は、特定位置に集中し、それにより部分摩耗等を引き起こす恐れがあり、また、回転バランス性能が悪化するが、中央範囲WにおけるすきまGの最大値Gmaxを0.210mm以下としたことで、上記のような問題を防止することができる。
【0058】
また、上記の中央範囲Wを除く領域における上記の外側継手部材の円筒状内周面と上記のケージの球状外周面との間のすきまGの最小値Gmin’を0.010mm~0.260mmとすると共に、当該すきまGの最大値Gmax’を0.310mm以下とすることが望ましい。これにより、継手を車両に組み付ける際や、走行中滑らかにスライドすることができる。
【0059】
以上を要約すると、上記の特徴的な構成(1)~(3)が相俟って、鍛造、熱処理の実用精度レベルを基に、外側継手部材に対するケージの選択組合せを可能にし、かつ等速性、耐久性、NVH特性を高性能に確保できる。
【0060】
本発明の第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手を
図11、
図12に基づいて説明する。本実施形態のダブルオフセット型の摺動式等速自在継手は、ボールの個数が6個であり、第1の実施形態の摺動式等速自在継手とはボールの個数が異なる。その他の構成については、第1の実施形態と同じであるので、同様の機能を有する部位には同一の符号を付し、要点のみを説明する。
図11は本実施形態に係る摺動式等速自在継手の縦断面図で、
図12のB-N-B’線における縦断面図である。
図12は本実施形態に係る摺動式等速自在継手の横断面図で、
図11のA-A線における横断面図である。
【0061】
図11、
図12に示すように、本実施形態に係るダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1は、外側継手部材2の円筒状内周面6には、6本のトラック溝7が円周方向に等間隔で、かつ軸方向に沿って直線状に形成されている。内側継手部材3の球状外周面8には、外側継手部材2のトラック溝7と対向するトラック溝9が円周方向に等間隔で、かつ軸方向に沿って直線状に形成されている。外側継手部材2のトラック溝7と内側継手部材3のトラック溝9との間に6個のボール4が1個ずつ組み込まれている。
【0062】
ケージ5は、球状外周面11と球状内周面12を有し、球状外周面11は外側継手部材2の円筒状内周面6と嵌合して接触案内され、球状内周面12は内側継手部材3の球状外周面8と嵌合して接触案内される。ケージ5の球状外周面11は曲率中心をOc1とする曲率半径Rc1で形成され、球状内周面12は曲率中心をOc2とする曲率半径Rc2で形成されている。内側継手部材3の球状外周面8は曲率中心をOi2とする曲率半径Riで形成され、曲率中心Oi2は曲率中心Oc2と一致している。曲率中心Oc1、Oc2は、軸線N上に位置し、継手中心Oに対して軸方向の反対側に等距離オフセットされている。これにより、継手が作動角を取った場合、外側継手部材2と内側継手部材3の両軸線がなす角度を二等分する平面上にボール4が常に案内され、二軸間が等速回転で伝達される。
【0063】
本実施形態に係るダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1においても、前述した第1の実施形態に係るダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1と同様に、次の特徴的な構成(1)~(3)を備えている。
(1)外側継手部材の継手軸方向のスライド範囲中央部に対して奥側に10mmから開口側に10mmの範囲を中央範囲Wとし、当該中央範囲Wに、前記外側継手部材の円筒状内周面の内径が最小となる部位を形成したこと。
(2)中央範囲Wにおける外側継手部材の円筒状内周面とケージの球状外周面との間のすきまGの最小値Gminを0.010mm~0.160mmとしたこと。
(3)前記すきまGの最大値Gmaxを0.210mm以下としたこと。
【0064】
上記の特徴的な構成(1)~(3)が相俟って、鍛造、熱処理の実用精度レベルを基に、外側継手部材に対するケージの選択組合せを可能にし、かつ等速性、耐久性、NVH特性を高性能に確保できる。上記の特徴的な構成(1)~(3)について第1の実施形態のダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1で説明した内容は、本実施形態のダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1でも同様であるので準用する。
【0065】
また、第1の実施形態のダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1と同様に、上記の中央範囲Wを除く領域における上記の外側継手部材の円筒状内周面と上記のケージの球状外周面との間のすきまGの最小値Gmin’を0.010mm~0.260mmとすると共に、当該すきまGの最大値Gmax’を0.310mm以下とすることが望ましい。これにより、継手を車両に組み付ける際や、走行中滑らかにスライドすることができる。
【0066】
本発明の第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組合せ体の第1の変形例を
図13に基づいて説明する。本変形例の内側組合せ体は、ケージのポケットとボールとの間に正の軸方向すきまを設けた点が第2の実施形態と異なる。その他の構成については、第2の実施形態と同じであるので、同様の機能を有する部位には同一の符号を付し、要点のみを説明する。
【0067】
図13は、第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組合せ体の第1の変形例の縦断面図である。
図13に示すように、内側組合せ体Iは、内側継手部材3、ケージ5、
ボール4からなり、ケージ5のポケット5aの継手軸方向に対向する壁面5dとボール4との間に正の軸方向すきまδ2が形成されている。ボール4の直径をD
BALL、ケージ5のポケット5aの継手軸方向に対向する壁面5d間の幅をLwとすると、軸方向すきまδ2は、δ2=Lw-D
BALLとなり、+0.001mm~+0.050mm程度である。これにより、ボール4がポケット5a内で滑らかに転がることができ、スライド抵抗の低減が図れる。
【0068】
本発明の第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組合せ体の第2の変形例を
図14、
図15に基づいて説明する。本変形例の内側組合せ体は、ケージのポケットとボールとの間に正の軸方向すきまを設けた点および内側継手部材とケージとの軸方向の相対移動を可能にする軸方向すきまを設けた点が第2の実施形態と異なる。その他の構成については、第2の実施形態と同じであるので、同様の機能を有する部位には同一の符号を付し、要点のみを説明する。
【0069】
図14は、第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組合せ体の第2の変形例の縦断面図であり、
図15は、
図14のE部の拡大図である。
図14に示すように、内側組合せ体Iは、内側継手部材3、ケージ5、ボール4からなり、ケージ5のポケット5aの
継手軸方向に対向する壁面5dとボール4との間に正の軸方向すきまδ2が形成されている。ケージ5の球状外周面11は曲率中心Oc1とする曲率半径Rc1で形成され、球状内周面12は曲率中心Oc2とする曲率半径Rc2で形成されている。内側継手部材3の球状外周面8は曲率中心Oi2とする曲率半径Riで形成されている。曲率中心Oc1、Oi2は、軸線N上に位置し、継手中心Oに対して軸方向に等距離Fでオフセットされている。また、ケージ5の球状内周面12の曲率中心Oc2は、Rc2>Riとなるよう曲率中心Oi2に対して軸線Nより半径方向にオフセットして位置し、継手中心Oに対して軸方向に距離Fでオフセットされている。
【0070】
図15に示すように、内側継手部材3の球状外周面8の軸方向中央部でケージ5の球状内周面12に対して接触案内を可能にする球面すきまδ3が形成され、中央部の両側には、内側継手部材3とケージ5との軸方向の相対移動を可能にする軸方向すきまδ4が形成される。球面すきまδ3は、中央値で0.050mm程度である。軸方向すきまδ4は、1mm程度である。外側継手部材2に対する内側継手部材3の軸方向の移動可能量は、軸方向すきまδ4の1mm程度の2倍の2mm程度となり、この範囲の軸方向の移動可能量で振動が吸収される。すなわち、汎用される振動条件に対してスライド抵抗を低減することができる。球面すきまδ3および軸方向すきまδ4は、それぞれ誇張して図示している。
【0071】
ケージ5と内側継手部材3との間の軸方向すきまδ4と、ケージ5のポケット5aの継手軸方向に対向する壁面5dとボール4との間の正の軸方向すきまδ2とが相俟って、スライド抵抗を低減することができる。
【0072】
本発明の第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組合せ体の第3の変形例を
図16に基づいて説明する。本変形例の内側組合せ体は、ケージの球状内周面の形状が第2の変形例と異なる。その他の構成については、第2の実施形態、第2の変形例と同様であるので、同様の機能を有する部位には同一の符号を付し、要点のみを説明する。
【0073】
図16は、第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組合せ体の第3の変形例の縦断面図である。
図16に示すように、ケージ5の球状内周面12は、曲率中心Oc2とする曲率半径Rc2の球面部12aと、曲率中心Oc3とする曲率半径Rc2の球面部12bと、球面部12aと球面部12bとの間を接線で結ぶ円筒部12cとから構成されている。曲率中心Oc2、曲率中心Oc3は、軸線N上に位置し、曲率中心Oc2と曲率中心Oc3との軸方向の中心点が継手中心Oに対してFだけオフセットされている。内側継手部材3の球状外周面8は、曲率中心Oi2とする曲率半径Riで形成されている。
図16の配置状態では、ケージ5の球状内周面12の曲率中心Oc2と曲率中心Oc3との軸方向の中心点は、内側継手部材3の球状外周面8の曲率中心Oi2と一致している。
【0074】
内側継手部材3の球状外周面8の軸方向中央部でケージ5の円筒部12cに対して接触案内を可能にする球面すきまδ3が形成され、中央部の両側には、内側継手部材3とケージ5との軸方向の相対移動を可能にする軸方向すきまδ4が形成される。円筒部12cの長さは1mm程度であり、軸方向すきまδ4は円筒部12cの長さに対応する。外側継手部材2に対する内側継手部材3の軸方向の移動可能量は、円筒部12cの長さ1mm程度の2倍の2mm程度となり、この範囲の軸方向の移動可能量で振動が吸収される。すなわち、汎用される振動条件に対してスライド抵抗を低減することができる。
【0075】
本変形例では、ケージ5の球状内周面12は、曲率中心Oc2とする曲率半径Rc2の球面部12aと、曲率中心Oc3とする曲率半径Rc2の球面部12bと、球面部12aと球面部12bとの間を接線で結ぶ円筒部12cとから構成されている。曲率半径Rc2と曲率半径Riとが実質的に同じであるので、ケージ5の球状内周面12と内側継手部材3の球状外周面8との間の接触案内が滑らかで、かつ安定する。第1、第2の変形例と同様、ケージ5のポケット5aの継手軸方向に対向する壁面5dとボール4との間に正の軸方向すきまδ2が形成されている。
【0076】
第1~3の変形例の内側組合せ体からなるダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1においても、前述した第1の実施形態に係るダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1と同様に、次の特徴的な構成(1)~(3)を備えている。
(1)外側継手部材の継手軸方向のスライド範囲中央部に対して奥側に10mmから開口側に10mmの範囲を中央範囲Wとし、当該中央範囲Wに、前記外側継手部材の円筒状内周面の内径が最小となる部位を形成したこと。
(2)中央範囲Wにおける外側継手部材の円筒状内周面とケージの球状外周面との間のすきまGの最小値Gminを0.010mm~0.160mmとしたこと。
(3)前記すきまGの最大値Gmaxを0.210mm以下としたこと。
【0077】
上記の特徴的な構成(1)~(3)が相俟って、上記の特徴的な構成(1)~(3)が相俟って、鍛造、熱処理の実用精度レベルを基に、外側継手部材に対するケージの選択組合せを可能にし、かつ等速性、耐久性、NVH特性を高性能に確保できる。上記の特徴的な構成(1)~(3)について第1の実施形態のダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1で説明した内容は、本実施形態のダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1でも同様であるので準用する。
【0078】
また、上記の中央範囲Wを除く領域における上記の外側継手部材の円筒状内周面と上記のケージの球状外周面との間のすきまGの最小値Gmin’を0.010mm~0.260mmとすると共に、当該すきまGの最大値Gmax’を0.310mm以下とすることが望ましい。これにより、継手を車両に組み付ける際や、走行中滑らかにスライドすることができる。
【0079】
第2の実施形態に係る摺動式等速自在継手の内側組合せ体Iの第1~3の変形例は、ボール4の個数を6個から8個に変更して、第1の実施形態のダブルオフセット型の摺動式等速自在継手1に適用することができる。
【0080】
本発明は前述した実施形態、変形例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々の形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0081】
1 摺動式等速自在継手
2 外側継手部材
3 内側継手部材
4 ボール
5 ケージ
5a ポケット
6 円筒状内周面
6a 円筒状内周面の内径が最小となる部位
7 トラック溝
8 球状外周面
9 トラック溝
11 球状外周面
12 球状内周面
C スライド範囲中央部
DBALL ボール径
F オフセット量
G すきま
Gmin すきまの最小値
Gmax すきまの最大値
O 継手中心
O1 曲率中心
O2 曲率中心
PCD ピッチ円直径
W 中央範囲
Δ PCDすきま
δ2 ボールとポケット間の正の軸方向すきま
δ3 球面すきま
δ4 ケージと内側継手部材間の軸方向すきま