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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090780
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
B41J2/01 305
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206882
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】雙松 保雄
(72)【発明者】
【氏名】千野 走
(72)【発明者】
【氏名】柴田 洋平
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056FA10
2C056HA29
(57)【要約】
【課題】搬送部と案内部との間で媒体が弛むことを抑制でき、印刷品質の低下を抑制できる液体吐出装置を提供する。
【解決手段】液体吐出装置11は、搬送部41、吐出部62、受け溝部71、案内部45、及び支持部46を備える。搬送部41は、第1ローラー42及び第1ローラー42に向けて媒体Mを押圧可能な第2ローラー43によって、媒体Mを挟持して搬送方向D1に搬送する。吐出部62は、搬送方向D1において、搬送部41よりも下流の位置で媒体Mに液体を吐出する。受け溝部71は、搬送方向D1と交差する高さ方向-Zにおいて、吐出部62と対向する。案内部45は、搬送方向D1において、吐出部62よりも下流の位置で媒体Mを案内する。支持部46は、搬送方向D1において受け溝部71よりも上流側に位置し且つ搬送部41よりも下流側の位置で媒体Mを支持可能に設けられる。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ローラー及び前記第1ローラーに向けて媒体を押圧可能な第2ローラーによって、前記媒体を挟持して搬送方向に搬送する搬送部と、
前記搬送方向において、前記搬送部よりも下流の位置で前記媒体に液体を吐出する吐出部と、
前記搬送方向と交差する高さ方向において、前記吐出部と対向する受け溝部と、
前記搬送方向において、前記吐出部よりも下流の位置で前記媒体を案内する案内部と、
前記搬送方向において前記受け溝部よりも上流側に位置し且つ前記搬送部よりも下流側の位置で前記媒体を支持可能に設けられる支持部と、
を備えることを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記支持部は、前記高さ方向において前記案内部と同じ高さで前記媒体を支持可能に設けられることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記第2ローラーの軸心の前記搬送方向における位置は、前記第1ローラーの軸心の前記搬送方向における位置よりも下流の位置に配置されることを特徴とする請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記第1ローラーは、前記高さ方向において前記案内部と同じ高さで前記媒体を支持することを特徴とする請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記媒体において前記吐出部と対向する部分の浮き上がりを規制する規制部材と、
前記規制部材の高さ位置を調整可能に構成される調整機構とを備え、
前記支持部は、前記調整機構を構成する部材のうち前記規制部材と共に前記高さ方向に変位可能に設けられる部材に備えられることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記第1ローラーが前記媒体を支持する高さは、前記案内部が前記媒体を支持する高さよりも低く、
前記支持部は、前記案内部が前記媒体を支持する高さと同じ高さで前記媒体を支持可能とした高さである第1位置と、前記案内部と前記第1ローラーとの間の高さで前記媒体を支持可能とした高さである第2位置との間で変位可能に構成され、
前記支持部を前記第1位置と前記第2位置とに切り替える切替機構を備えることを特徴とする請求項2に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体を搬送する搬送部と、媒体にインク等の液体を吐出する吐出部とを備える液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、布帛等の媒体を搬送するローラー対(搬送部の一例)と、インク等の液体を媒体に向けて吐出する吐出ヘッド(吐出部の一例)とを備えるインクジェット記録装置(液体吐出装置の一例)が開示されている。
【0003】
この記録装置は、鉛直方向において吐出部ヘッドと媒体の搬送路を挟んで反対側となる位置に、上方が開口した凹溝を有するインク受け部(受け溝部の一例)を備える。インク受け部は、媒体を通り抜けて滴下したインク滴を受け入れて回収する凹溝を有する。
【0004】
記録ヘッドと対向する領域は、媒体に印刷する印刷領域(インク吐出領域)となっている。搬送部は、媒体の搬送方向において印刷領域よりも上流の位置に配置される。また、印刷領域よりも下流の位置には搬送ローラー(案内部の一例)が配置される。記録装置は、印刷領域に位置する媒体の部分を搬送部と案内部とで空中に支持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-194332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年、吐出部の搬送方向長さが長くなっている。これに伴い搬送部と案内部との距離も長くなってきている。搬送部と案内部とで媒体を引っ張る構成である場合、例えば、布帛のように柔らかい媒体である場合は、媒体が吐出部の近傍で弛む可能性がある。吐出部が、弛んだ媒体に印刷することは必要な印刷品質を確保するのが困難であるという課題がある。したがって、搬送部と案内部との間で媒体が空中で引っ張られた状態で搬送される構成の液体吐出装置であっても、吐出部の吐出領域における媒体の弛みを抑制したいという要望がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する液体吐出装置は、第1ローラー及び前記第1ローラーに向けて媒体を押圧可能な第2ローラーによって、前記媒体を挟持して搬送方向に搬送する搬送部と、前記搬送方向において、前記搬送部よりも下流の位置で前記媒体に液体を吐出する吐出部と、前記搬送方向と交差する高さ方向において、前記吐出部と対向する受け溝部と、前記搬送方向において、前記吐出部よりも下流の位置で前記媒体を案内する案内部と、前記搬送方向において前記受け溝部よりも上流側に位置し且つ前記搬送部よりも下流側の位置で前記媒体を支持可能に設けられる支持部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態における液体吐出装置を示す模式正断面図である。
図2】液体吐出装置を示す模式側断面図である。
図3】柔らかい媒体を搬送するときの搬送機構を示す模式側面図である。
図4】硬い媒体を搬送するときの搬送機構を示す模式側面図である。
図5】比較例における柔らかい媒体を搬送するときの搬送機構を示す模式側面図である。
図6】比較例における硬い媒体を搬送するときの搬送機構を示す模式側面図である。
図7】第1実施例の吐出部及び媒体支持構造を示す側断面図である。
図8】第2実施形態における柔らかい媒体を搬送するときの搬送機構を示す模式側面図である。
図9】硬い媒体を搬送するときの搬送機構を示す模式側面図である。
図10】第2実施例における柔らかい媒体を搬送するときの搬送機構を示す模式側断面図である。
図11】硬い媒体を搬送するときの搬送機構を示す模式側断面図である。
図12】第3実施例における柔らかい媒体を搬送するときの搬送機構を示す模式側断面図である。
図13】硬い媒体を搬送するときの搬送機構を示す模式側断面図である。
図14】変更例における液体吐出装置を示す模式側面図である。
図15】案内ローラーの接触長と限界軸間距離との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、液体吐出装置の第1実施形態について図面を参照して説明する。
図1図2では、液体吐出装置11が水平面上に置かれているものとして重力の方向をZ軸で示し、水平面に沿う方向をX軸とY軸で示す。X軸、Y軸、及びZ軸は、互いに直交する。以下の説明では、X軸に沿う方向は、後述する吐出部62が走査される方向であるので、走査方向Xともいう。また、Z軸に沿う方向を鉛直方向Zともいう。Y軸に沿う方向は、媒体Mに印刷される印刷位置において媒体Mが搬送される搬送方向であるので、搬送方向Y1ともいう。また、X軸に沿う方向は、媒体Mの幅方向であるので、幅方向Xともいう。
【0010】
<液体吐出装置11の構成>
図1図2に示すように、液体吐出装置11は、媒体Mに液体の一例としてのインクを吐出する吐出部62を備える。液体吐出装置11は、吐出部62が媒体Mにインクを吐出することにより媒体Mに印刷するインクジェット方式の印刷装置である。液体吐出装置11は、例えば、長尺の布帛等の媒体Mに印刷を行う捺染装置である。液体吐出装置11は、例えば、印刷データに基づいて吐出部62がインクを布帛等の媒体Mに吐出するデジタル式の捺染装置である。また、液体吐出装置11は、媒体Mを支持するベース部70(プラテン)を備える。
【0011】
ベース部70は、受け溝部71を有する。つまり、本実施形態の液体吐出装置11は、受け溝部71を有するガタープラテンタイプの捺染装置である。受け溝部71は、搬送方向D1と交差する高さ方向-Zにおいて、吐出部62と対向する。
【0012】
図1図2に示すように、液体吐出装置11は、柱梁構造を有する基台12と、基台12に支持されたハウジング13とを備えてもよい。液体吐出装置11は、媒体Mを搬送する搬送装置20と、媒体Mに印刷する印刷部60とを備える。搬送装置20及び印刷部60は基台12により支持されている。基台12は脚部14により床面に支持される。ハウジング13は、キャリッジ61及び吐出部62が印刷時に走査方向Xに移動する領域である走査領域を覆う。
【0013】
図2に示すように、搬送装置20は、媒体Mを図2に矢印で示す搬送方向D1に搬送する。媒体Mの搬送方向D1と直交する方向(図1では紙面と直交する方向)が幅方向Xである。幅方向Xは、キャリッジ61が移動する走査方向Xでもある。本実施形態において、走査方向X及び搬送方向Y1は互いに交差(例えば、直交)する方向であって、いずれも鉛直方向Zと交差(例えば、直交)する。なお、媒体Mの搬送方向D1は、図2における実線の矢印で示すように搬送経路上の位置に応じて変化する。
【0014】
図2に示すように、搬送装置20は、給送部21、搬送機構22及び巻取部23を備える。給送部21は、第1ロール32から媒体Mを給送する。給送部21は、媒体Mをロール状に巻回した第1ロール32を回転可能に支持するロール体支持軸31と、第1ロール32を回転させる動力を出力する給送モーター33とを備える。給送部21から給送された媒体Mは、湾曲面状の案内面34に案内されることで搬送機構22に給送される。
【0015】
搬送機構22は、給送部21から給送された媒体Mを搬送方向Y1に沿って搬送する。搬送機構22は、吐出部62よりも搬送方向Y1の上流側の位置に搬送部41を備える。搬送部41は、例えば、搬送ローラー対41Pである。搬送部41は、第1ローラー42と、第1ローラー42に向けて媒体Mを押圧可能な第2ローラー43とを備える。搬送部41は、第1ローラー42と第2ローラー43とによって、媒体Mを挟持して搬送方向D1に搬送する。第1ローラー42は駆動ローラーであり、第2ローラー43は従動ローラーである。搬送ローラー対41Pは、駆動ローラーと従動ローラーとが対をなすことで構成される。
【0016】
搬送部41は、搬送ローラー対41Pの駆動源である搬送モーター44を備える。搬送モーター44の動力で、駆動ローラーである第1ローラー42が回転する。これにより、媒体Mは搬送ローラー対41Pにニップ(挟持)された状態で搬送方向Y1の下流に送り出される。
【0017】
液体吐出装置11は、搬送方向Y1において、吐出部62よりも下流の位置で媒体Mを案内する案内部45を備える。案内部45は、例えば、案内ローラー45Rである。案内ローラー45Rは、例えば、不図示のモーター等の駆動部の動力によって回転する駆動ローラーであってもよい。また、案内ローラー45Rは、搬送される媒体Mから受ける摩擦抵抗により回転する従動ローラーであってもよい。
【0018】
受け溝部71は、高さ方向-Zにおいて吐出部62と対向して位置する。吐出部62は、搬送方向Y1において、搬送部41よりも下流の位置で媒体Mに液体を吐出する。吐出部62が液体を吐出する被吐出領域を、印刷領域ともいう。印刷領域は、吐出部62が印刷時に走査方向Xに移動する過程で液体を吐出する領域であり、幅方向Xに長い。受け溝部71は、吐出部62から吐出された液体を受けるため、印刷領域よりも広い開口を有する溝部である。
【0019】
搬送部41は、搬送方向D1において受け溝部71よりも上流の位置で媒体Mをニップする。一方、案内部45は、搬送方向D1において受け溝部71よりも下流の位置で媒体Mを案内する。搬送中の媒体Mは、受け溝部71と対応する印刷領域の部分で、宙に浮いた状態で所定以上の張力が付与されることにより搬送部41と案内部45との間で水平に支持されている。このように、搬送部41と案内部45とによって、受け溝部71の開口よりも上方の高さ位置において媒体Mは水平方向に引っ張られた状態で搬送される。
【0020】
巻取部23は、印刷後の媒体Mを巻き取る。巻取部23は、第2ロール52を回転可能に支持する回転支持軸51と、巻取部23の駆動源である巻取モーター53とを備える。巻取モーター53が駆動されることで、第2ロール52は印刷後の媒体Mを巻き取る。案内ローラー45Rと巻取部23との間には、媒体Mに接触して媒体Mに張力を付与するテンションバー54が配置されている。巻取部23は、テンションバー54により張力が付与された媒体Mを第2ロール52に巻き取る。なお、テンションバー54は、一対のアーム55に支持されている。一対のアーム55は、それぞれの先端がテンションバー54の幅方向Xの両端部に連結されるとともに、その基端部が回動可能な状態で脚部14に支持されている。
【0021】
巻取部23は、案内部45の下方に位置する。よって、案内部45は、印刷領域を水平に搬送される媒体Mを巻取部23が位置する下方へ案内する。このため、案内ローラー45Rの外周面に媒体Mが巻き付けられる巻付け量(巻付け角)が比較的大きい。案内ローラー45Rの外周面に対する媒体Mの巻付け量が大きいほど、媒体Mと案内ローラー45Rとの接触面積が大きい。大きな接触面積は、大きな摩擦抵抗を発生させるため、媒体Mは案内ローラー45Rの外周面に対して滑りにくくなっている。
【0022】
図1図2に示すように、印刷部60は、前述の吐出部62を含む。本例の液体吐出装置11は、シリアル印刷方式である。シリアル印刷方式の場合、印刷部60は、吐出部62を搭載するキャリッジ61を備える。キャリッジ61は、媒体Mの搬送方向Y1と交差する走査方向Xに往復移動する。吐出部62は、キャリッジ61に搭載される。印刷部60は、キャリッジ61が走査方向Xに往復移動するときに、その往動と復動のうち少なくとも一方で吐出部62から媒体Mに向かってインクを吐出する。
【0023】
印刷部60は、キャリッジ61及び吐出部62の他に、キャリッジ61を走査経路に沿って案内するガイド軸63と、キャリッジ61の駆動源であるキャリッジモーター67と、キャリッジモーター67の動力をキャリッジ61に伝達する動力伝達機構64とを備える。動力伝達機構64は、例えば、ベルト式動力伝達機構である。詳しくは、動力伝達機構64は、一対のプーリー65(図1参照)と、一対のプーリー65に巻き掛けられた無端状のタイミングベルト66とを備える。一方のプーリー65は、キャリッジモーター67の出力軸と連結されている。キャリッジ61は、タイミングベルト66の一部に固定されている。
【0024】
キャリッジ61は、キャリッジモーター67の駆動により、ガイド軸63に沿って媒体Mの幅方向Xに往復移動可能に構成される。吐出部62は、キャリッジ61が媒体Mの幅方向Xに移動する過程で、印刷領域に水平に保持された媒体Mに印刷する。シリアル印刷方式では、吐出部62が移動過程で液体を吐出することで行う1ライン(1走査)分の印刷を行う印刷動作と、搬送装置20が次の印刷位置まで媒体Mを搬送する搬送動作とを交互に行うことで、媒体Mに文字又は画像が印刷される。
【0025】
液体吐出装置11は、吐出部62をメンテナンスするメンテナンス装置16を備える。メンテナンス装置16は、非印刷時の待機位置である図1に二点鎖線で示すホーム位置にある吐出部62と対向する下方位置に配置されている。メンテナンス装置16は、キャップ17を備える。キャップ17は、吐出部62のノズル面62A(図3参照)と接触するキャッピング位置と、ノズル面62Aから離間する図1に示す退避位置との間を移動可能に構成される。
【0026】
液体吐出装置11は、吐出部62にインク等の液体を供給する液体供給部(図示略)を備える。吐出部62は、液体供給部から供給されるインク等の液体を吐出するノズル62N(図3参照)を有する。液体収容部は、例えば、ユーザーにより着脱可能な状態で装着される液体カートリッジ又はユーザーによりインク等の液体が補充される液体タンクにより構成される。キャリッジ61は、チューブ(図示略)を通じて液体供給部と接続されている。インク等の液体は、液体供給部からチューブを通じて吐出部62に供給される。液体供給部は、例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、黒を含む複数色のインクをそれぞれ収容する。なお、吐出部62は、印刷ヘッドともいう。
【0027】
液体吐出装置11は、搬送装置20及び印刷部60を制御する制御部100(図2参照)を備える。液体吐出装置11は、表示部15を有する。表示部15には、メニューや、ユーザーに液体吐出装置11の状態等を知らせる各種のメッセージ等が表示される。本例の表示部15には、ユーザーが液体吐出装置11に対して媒体Mの種類を含む印刷条件情報を入力する設定画面が表示される。
【0028】
表示部15は、例えば、タッチパネル機能を有し、ユーザーは表示部15のタッチパネル機能で必要な情報を入力する操作が可能であってもよい。表示部15のタッチ操作機能によって操作部18が構成される。
【0029】
ユーザーは、操作部18を操作することで、液体吐出装置11に対して印刷条件情報の入力や印刷開始をはじめとする各種の指令を与えることが可能である。印刷条件情報には、媒体Mの種類やサイズが含まれる。媒体Mの種類には、布帛、編み物などが含まれてもよい。さらに、媒体Mの種類に、ボード紙が含まれてもよい。布帛には、織物や不織布などが含まれてもよい。ここで、布帛や編み物などは、柔らかい媒体M1に属する。一方、ボード紙は、硬い媒体M2に属する。液体吐出装置11は、媒体Mとして、柔らかい媒体M1のみの印刷に対応可能な機種であってもよいし、柔らかい媒体M1と硬い媒体M2との両方の印刷に対応可能な機種であってもよい。
【0030】
液体吐出装置11は、媒体Mの幅を検出する幅検出部68を備えてもよい。図2に示す例では、幅検出部68は、例えば、キャリッジ61に設けられている。幅検出部68は、キャリッジ61と共に幅方向Xに移動する過程で、媒体Mの幅方向Xの側端を検知する。制御部100は、キャリッジ61の位置(キャリッジ位置)と、幅検出部68から入力する検知信号に基づき媒体Mの幅を特定する。制御部100は、媒体Mの幅を検出することで、実際に搬送された媒体Mが印刷条件情報で指定された媒体サイズと一致するものであるかどうかを判定する。また、制御部100は、媒体Mの幅方向Xのずれを検出し、そのずれた位置に応じて液体を吐出する幅方向Xの領域を調整する。制御部100は、媒体Mが幅方向Xにずれて搬送されても、吐出部62から吐出される液体が媒体Mの外側へはみ出さないように液体の吐出領域を制御する。
【0031】
液体吐出装置11の印刷方式は、シリアル印刷方式に限定されず、ライン印刷方式でもよい。ライン印刷方式である場合、吐出部62は、搬送装置20によって搬送される媒体Mの幅方向全域に一斉に液体を吐出可能な数のノズル62Nを有するラインヘッドにより構成される。ライン印刷方式の吐出部62が、搬送装置20によって所定の搬送速度で搬送される媒体Mに向かって幅全域に亘り液体を一斉に吐出することで、媒体Mに画像等を印刷する。
【0032】
媒体Mは、搬送部41と案内部45との間の部分に一定以上の張力が付与されていないと、弛んでしまう。この種の弛みが発生すると、吐出部62と媒体Mとのギャップがばらつくため、吐出部62が吐出する液滴が媒体Mに着弾する位置が目標位置からずれてしまう。詳しくは、吐出部62は、キャリッジ61と共に走査方向Xに移動する途中で液滴を吐出する。このため、吐出部62から吐出される液滴は、鉛直方向Zの速度成分と走査方向Xの速度成分とを有する。つまり、吐出部62から吐出された液滴は、ノズルの位置から媒体Mの表面に着弾するまでの過程で、鉛直方向Z以外に走査方向Xにも移動する。この走査方向Xへの移動距離は、ギャップに依存する。つまり、ギャップがばらつくと、媒体Mの表面に対する液滴の着弾位置が幅方向Xにずれる。このずれが原因で印刷ドットがずれる印刷不良が発生しやすくなる。このため、媒体Mが弛んでギャップがばらつくと、印刷品質が低下する。
【0033】
本実施形態では、この種の媒体Mの弛みを効果的に抑える構成を提供する。そのための一部として、液体吐出装置11は、搬送方向D1において搬送部41よりも下流かつ受け溝部71よりも上流の位置に支持部46を備える。支持部46は、媒体Mの非印刷面(裏面)を支持可能に高さ方向-Zに突出する凸状部により構成される。支持部46は、幅方向Xの全域又は一部で媒体Mを支持する。支持部46は、幅方向Xに延設されてもよい。
【0034】
搬送方向D1において、搬送部41と案内部45との間の位置でも媒体Mが支持部46で支持されるので、搬送部41と案内部45との2箇所のみで媒体Mが案内支持される構成に比べ、媒体Mの弛みによる垂れが発生しにくい。このため、搬送部41と案内部45との間の部分の媒体Mに付与される張力の割に媒体Mが水平に対して鉛直方向Zに変位する垂れ量が小さく抑制される。
【0035】
<媒体支持構造>
図3に示すように、第1ローラー42が媒体Mを支持する高さ位置と、案内ローラー45Rが媒体Mを支持する高さ位置が、鉛直方向Zにおいて同じ高さに設定されている。また、支持部46が媒体Mを支持する高さ位置は、第1ローラー42の上端及び案内ローラー45Rの上端と同じ高さ位置に設定されている。
【0036】
支持部46は、高さ方向-Zにおいて案内部45と同じ高さで媒体Mを支持可能に設けられる。つまり、支持部46の上端と、案内部45の上端とが、高さ方向-Zにおいて同じ高さに設定されている。ここで、「同じ高さ」とは、支持部46が媒体Mを支持する上端と、案内部45が媒体Mを支持する上端との高さが同じであることを意味する。
【0037】
なお、「同じ」とは、完全に同じでなく、少しのずれ(例えば、1μm~1mmの範囲内のずれ)があるものを含む。同じ高さとは、許容される誤差内で同じ高さであってもよいし、吐出部62のノズル62N(図3参照)から媒体Mの表面までインク滴が飛行する距離に、ノズル62N間で印刷品質に影響を及ぼすほどの差が生じなければ、そのときの媒体Mの異なる二位置は同じ高さとみなせる。案内部45が媒体Mを支持する高さと、支持部46が媒体Mを支持する高さとの間に、例えば、1mmの範囲内の高さの違いがあっても、これら2つの高さは同じ高さとみなせる。
【0038】
図3に示すように、搬送部41は、第1ローラー42及び第2ローラー43との間に媒体Mニップする状態で搬送する。第2ローラー43の軸心は、第1ローラー42の軸心に対して搬送方向D1の下流側に少しずれた位置に配置されている。第2ローラー43は、ばね等の弾性部材47により第1ローラー42に向かう方向に付勢されている。第2ローラー43は、不図示の保持部材の先端部に回転可能な状態で保持されている。保持部材は回動軸を中心に所定角度の範囲内で回動可能に設けられ、保持部材が弾性部材47により第2ローラー43を第1ローラー42に押し付ける方向に付勢されている。そのため、布帛等の柔らかい媒体M1は、第1ローラー42の上端よりも少し低い高さのニップ位置N1でニップされる。つまり、ニップ位置N1は、第1ローラー42の上端よりも低い。
【0039】
案内部45の上端と第1ローラー42の上端は、同じ高さ位置にある。支持部46の上端と第1ローラー42の上端とは同じ高さ位置にある。このため、第1ローラー42の上端と案内部45の上端とを結んだ仮想線は、支持部46の上端とも接する。この仮想線が媒体搬送経路に相当するが、支持部46の上端に接するだけでは媒体Mを支持することにならない。例えば、布帛のような柔らかい媒体M1は、支持部46から浮き上がりやすい。
【0040】
そのため、支持部46の上端から媒体M1を浮き上がりにくくするため、搬送ローラー対41Pのニップ位置N1を第1ローラー42の上端の高さ位置よりも低い位置に設定している。第2ローラー43によってニップ位置N1まで押し下げられた媒体M1は、支持部46に支持されることで案内部45と同じ高さに押し上げられる。このため、ニップ位置N1から支持部46を経て案内部45に至る媒体M1は、支持部46に所定の押圧力で押し付けられる。この押圧力によって媒体Mは支持部46から浮き上がりにくくなっている。
【0041】
また、ニップ位置N1が第1ローラー42の上端よりも低いことから、媒体M1が、第1ローラー42の外周面に巻き付く巻付け量が比較的大きい。大きな巻付け量は、第1ローラー42の外周面と媒体M1との間に大きな摩擦抵抗を生む。よって、搬送ローラー対41Pにおいて媒体M1が滑りにくいので、媒体M1の搬送精度が確保される。媒体M1の搬送精度が確保されれば印刷ずれが抑制されるので、高い印刷品質が確保される。
【0042】
また、搬送ローラー対41Pは、給送部21から給送される媒体M1から搬送方向D1の上流側に向かう張力を受ける。これは、給送部21が媒体M1を繰り出す給送速度と搬送ローラー対41Pが媒体Mを送る搬送速度とが、第1ロール32と搬送ローラー対41Pとの間の部分の媒体M1に所定の張力が付与されるように制御されるためである。搬送ローラー対41Pが媒体M1から受ける搬送方向D1の上流に向かう張力をフロントテンションとも呼ぶ。フロントテンションにより媒体M1が搬送ローラー対41Pで滑ると、媒体M1の搬送精度の低下に繋がる。しかし、前述の第1ローラー42における大きな巻付け量によるフロンテンションに勝る大きな摩擦力により、搬送ローラー対41Pによる媒体M1の搬送精度は確保される。
【0043】
一方、案内部45を構成する案内ローラー45Rは、支持部46と同じ高さで媒体Mを支持する状態で媒体Mを案内する。案内ローラー45Rが従動ローラーである場合、搬送される媒体Mに追従して従動回転する。一方、案内ローラー45Rが駆動ローラーである場合、案内ローラー45Rは、媒体Mに搬送方向D1の搬送力を与える。
【0044】
案内ローラー45Rは、搬送部41と案内ローラー45Rとの間で水平な姿勢で搬送される媒体Mを、巻取部23(図2参照)に向かう下方に案内する。そのため、図3に示すような布帛等の柔らかい媒体M1は、案内ローラー45Rの外周面の一部に巻き付けられる。このため、巻付け角θは比較的大きい。
【0045】
ここで、案内ローラー45Rの直径D、巻付け角θ、媒体Mの幅wとすると、案内ローラー45Rに対する媒体Mの巻付け面積は、D*θ*wで示される。案内ローラー45Rと柔らかい媒体M1との間には、この巻付け面積に応じた摩擦抵抗が発生する。
【0046】
媒体Mにおいて案内部45と巻取部23との間の部分には、テンションバー54(図2参照)の押圧により所定の張力が発生する。テンションバー54による媒体Mの張力は、媒体Mと案内ローラー45Rとの間の摩擦力により、印刷領域に伝播しにくい。このため、印刷領域の媒体Mは過度に搬送方向Y1の下流に引っ張られない。ここで、印刷領域の媒体Mが過度に搬送方向Y1の下流に引っ張られると、搬送ローラー対41Pで媒体M1の滑りが発生する可能性がある。しかし、案内ローラー45Rの比較的大きな摩擦力により、印刷領域で媒体M1が搬送方向Y1の下流に引っ張られにくいので、この点からも搬送ローラー対41Pによる媒体M1の搬送精度が確保される。そして、案内ローラー45Rの直径Dは、媒体M1に対する摩擦抵抗を考慮して設定されている。
【0047】
図4に示すように、媒体Mとして、ボード紙のような硬い媒体M2が搬送されてもよい。例えば、布帛にテスト印刷をする場合、ボード紙に布帛を貼り付けたものを媒体M2とする場合がある。この場合、ボード紙のような硬い媒体M2を、搬送機構22の上流側から水平に搬送させる使い方がされる。
【0048】
第1ローラー42は、高さ方向-Zにおいて案内部45と同じ高さで媒体を支持する。このため、布帛のような柔らかい媒体M1だけでなく、ボード紙のような硬い媒体M2を搬送する際にも、印刷領域においてストレート経路の構成を取ることができる。ストレート経路の構成を取る硬い媒体M2を吐出部62と略平行な経路で搬送できる。よって、柔らかい媒体M1と硬い媒体M2との両方で印刷品質を確保できる。
【0049】
<比較例>
図5図6は、比較例を示す。図5図6は、比較例の搬送機構220を示す。図5は、柔らかい媒体M1を搬送するときの例、図6は、硬い媒体M2を搬送するときの例である。
【0050】
図5に示す比較例の搬送機構220は、搬送ローラー対41P及び案内ローラー45Rのみ備える従来の搬送機構に対して、支持部46を追加したものである。支持部46を追加しているので、従来の搬送機構ではなく、あくまで本実施形態の構成と比較するための非公知の搬送機構220である。
【0051】
図5に示すように、案内部45が媒体Mを支持する高さと同じ高さで媒体Mを支持可能な高さ位置に支持部46を配置する。つまり、案内ローラー45Rの上端と、支持部46の上端とは同じ高さである。一方、搬送ローラー対41Pは、支持部46の上端よりもニップ位置を低くするため、第1ローラーの上端が支持部46の上端よりも低く位置する高さ位置に配置されている。図5に示すように、柔らかい媒体M1を搬送するときは支持部46の上端と案内部45の上端で媒体M1が支持されるので、媒体M1は吐出部62(図2参照)と平行な状態で搬送される。
【0052】
一方、図6に示すように、ボード紙のような硬い媒体M2を搬送するときは、媒体M2が、支持部46の上端よりも低い第1ローラー42の上端と、支持部46の上端とに支持される。このため、図6に示すように、媒体M2は、搬送方向D1の下流側ほど高くなる斜めの姿勢で搬送される。この場合、媒体M1は吐出部62(図2参照)と平行でないので、印刷ずれが発生する。この結果、要求される印刷品質を確保できない。
【0053】
これに対して、本実施形態の搬送機構22は、図3図4に示すように、第1ローラー42の上端と案内ローラー45Rの上端とが同じ高さに設定される。このため、硬い媒体M2を搬送するときも、図4に示すように印刷領域において媒体Mを水平な姿勢で搬送可能な水平なストレート経路を形成できる。なお、ボード紙のような硬い媒体M2を用いない機種の液体吐出装置11においては、図5に示す支持部46を備える搬送機構22を採用してもよい。
【0054】
<媒体支持構造の詳細な構成>
次に、本実施形態の媒体支持構造の詳細な構成を図7を参照して説明する。
図7に示すように、ベース部70は、例えば、板金よりなるベース部材72と、ベース部材72の上側に固定された板金よりなる受け部材73とを備える。ベース部材72は、例えば、平板状の板部材である。受け部材73は、中央に凹部73Aを有する形状に曲げ加工されている。受け部材73は、凹部73Aの周囲に、凹部73Aの底面よりも高さ方向-Zに上方に位置する平坦な面部73Bを有する。凹部73Aは印刷領域よりも少し広い開口を有する。凹部73Aには、液体を受ける受け皿74が着脱可能な状態で収容されている。図7に示す例では、受け皿74により受け溝部71が構成される。媒体Mが布帛等の液体が裏抜けしやすいものである場合、吐出部62から吐出されて媒体Mに付着したインク等の液体のうち裏抜けした液体は、滴下するなどして受け皿74内に回収される。
【0055】
受け部材73において受け溝部71よりも搬送方向Y1の上流側の面部73Bには、第1ブロック部材81が鉛直方向Zに変位可能に支持されている。第1ブロック部材81の下側には、ガイド軸75が鉛直方向Zと軸線を平行にする向きに配置された状態で、ベース部材72と受け部材73とに螺着されている。ガイド軸75の上部は、第1ブロック部材81に挿通されている。第1ブロック部材81は、ガイド軸75に案内されることで鉛直方向Zの変位が可能である。また、第1ブロック部材81は、コイルばねよりなる弾性部材83の弾性力によって上方に付勢された状態で、上側から挿通されたねじ84が受け部材73に螺着されることで、上限位置が規制されている。これら第1ブロック部材81,ガイド軸75、弾性部材83、及びねじ84等により、支持部46の高さを調整する調整機構80が構成される。
【0056】
搬送機構22は、媒体Mにおける吐出部62と対向する部分の浮き上がりを規制する規制部材85と、規制部材85の高さ位置を調整可能に構成される調整機構80とを備える。そして、支持部46は、調整機構80を構成する部材75,81,83,84等のうち規制部材85と共に高さ方向-Zに変位可能に設けられる部材の一例としての第1ブロック部材81に備えられる。
【0057】
ユーザーがねじ84を締め付け方向に回転させると、第1ブロック部材81が下降し、ねじ84を緩める方向に回転させると、第1ブロック部材81が上昇する。この第1ブロック部材81の上面部に支持部46が突出している。この実施形態では、ねじ84は、支持部46の高さ位置を調整する調整ねじである。液体吐出装置11の出荷時、又は設置時あるいはメンテナンス時に、ねじ84の操作で、支持部46が媒体Mを支持する高さ位置が、案内ローラー45Rが媒体Mを支持する高さと同じになるように調整される。この点において、ねじ84は、部品寸法誤差や組付け寸法誤差などに起因する高さのばらつき等に対応する調整ねじである。ねじ84は、媒体Mの種類に応じて調整されるものではない。
【0058】
また、受け部材73には、受け溝部71よりも搬送方向Y1の下流の位置に、第2ブロック部材82が鉛直方向Zに変位可能な状態で支持されている。第2ブロック部材82が鉛直方向Zに変位可能な構成は、第1ブロック部材81が変位可能な構成と基本的に同様である。すなわち、第2ブロック部材82は、ガイド軸75に案内されて鉛直方向Zに変位可能に設けられる。第2ブロック部材82は、コイルばねよりなる弾性部材83の弾性力により上方に付勢された状態で、第2ブロック部材82に挿通されたねじ84が受け部材73の面部73Bに螺着されている。これにより、ユーザーはねじ84を調整することで、第2ブロック部材82を鉛直方向Zに高さ調整可能である。
【0059】
第1ブロック部材81と第2ブロック部材82とは同じ高さ位置に調整される。第1ブロック部材81と第2ブロック部材82は、両者の間に配置された規制部材85の支持板86を保持している。規制部材85は、媒体Mの浮き上がりを所定範囲内に規制する規制部87と、媒体Mの幅方向Xのずれを規制する側板88とを有する。
【0060】
<ニップ荷重の設定について>
次に、搬送ローラー対41Pが媒体Mをニップするニップ荷重の設定について説明する。図3に示すように、布帛のような柔らかい媒体M1のとき、搬送ローラー対41Pが媒体M1をニップできるためには、第2ローラーを付勢する弾性部材47の付勢力が媒体M1に作用するフロントテンションに勝る必要がある。一方、ボード紙のような硬い媒体M2は、図4に示すように、媒体M2が第2ローラー43を弾性部材47の付勢力に抗して持ち上げられることが、媒体M2のストレート経路を形成する条件になる。
【0061】
以上より、第2ローラー43によるニップ荷重NLの設定は、次の(1)式の条件を満たす。
FT<NL<BG …(1)
ここで、FTはフロンテンション(N)、NLはニップ荷重(N)、BGはボード紙の剛性(N/mm)である。
【0062】
ボード紙の種類(厚み)によって、ボード紙の硬さは変化するので、ニップ荷重NLの値をボード紙の種類に応じて変化させる制御が行われてもよい。
例えば、液体吐出装置11は、第2ローラー43を下方に付勢する付勢力を段階的又は連続的に変化させることが可能な付勢力調整機構(図示略)を備える。付勢力調整機構は、第2ローラー43を回転可能に保持する保持部材(図示略)に組み付けられている。保持部材は回動支点を中心に揺動可能に不図示のメインフレームに支持されている。保持部材は、第2ローラー43が下方に付勢される向きに弾性部材47により付勢されている。弾性部材47は、一端が固定され、他端がカムを回して変位可能な可動体に支持されている。不図示のモーターの駆動力によってカムが回動することで、弾性部材の伸び量が段階的又は連続的に変化する。この弾性部材の伸び量によって保持部材が第2ローラーを下方に付勢する付勢力が段階的又は連続的に切り替えられる。制御部100は、付勢力調整機構の駆動源であるモーターを制御することで、ニップ荷重NLを調整する。
【0063】
例えば、制御部100は、印刷データを受信すると、印刷データに含まれる印刷条件情報から媒体に関する種類及びサイズの情報を取得する。制御部100は、媒体の種類からボード紙の種類を判定し、付勢力調整機構の駆動源であるモーターを制御し、弾性部材47による付勢力をボード紙に応じた所定の付勢力に調整することで、ボード紙の種類に応じたニップ荷重NLに調整する。
【0064】
<作用>
次に、液体吐出装置11の作用について説明する。
図7において、支持部46は、予め第1ブロック部材81側のねじ84の調整により、媒体Mを支持する高さが、案内部45が媒体Mを支持する高さと同じ高さになるよう調整されている。
【0065】
まず、図3に示す柔らかい媒体M1は、搬送ローラー対41Pによりニップされた状態で搬送される。このとき、図4に示すように、媒体M1はニップ位置N1から支持部46の上面に向かって斜め上方に向かって延びる経路を通って支持部46に支持される。支持部46が媒体Mを支持する高さと、案内ローラー45Rが媒体Mを支持する高さは同じである。また、搬送ローラー対41Pと案内ローラー45Rとの間の部分の媒体Mには、所定の張力が付与されている。印刷中の媒体Mには張力が付与されているので、媒体Mは宙に浮いた状態で搬送される。このため、媒体Mは印刷領域において吐出部62のノズル面62Aと平行な姿勢で搬送される。
【0066】
このため、吐出部62と媒体M1とのギャップが一定に保持される。吐出部62が走査方向Xに移動する過程でインクを吐出する1ライン(1走査)分の印刷動作と、搬送装置20が次の印刷位置まで媒体Mを搬送する搬送動作とを交互に行うことで、媒体Mに文字又は画像が印刷される。このとき、吐出部62と媒体M1とのギャップが一定に保持されるので、印刷品質が確保される。また、印刷中に媒体Mの裏面に裏抜けしたインクは、受け溝部71に回収される。
【0067】
また、図4に示すボード紙のような硬い媒体M2のとき、媒体M2はその剛性により弾性部材47の付勢力に抗して第2ローラー43を持ち上げる。その結果、媒体M2は第1ローラー42の上端に接する水平な姿勢で搬送される。このとき、図7に示す支持部46は、弾性部材47の付勢力で下方に押さえ付けられた媒体M2から受ける力によって、弾性部材83を縮ませることで下方へ若干変位してもよい。なお、弾性部材83のばね定数は、弾性部材47のばね定数よりも大きな値に設定されている。このため、仮に、支持部46が下降変位しても、その変位量は極僅かな量に抑えられる。
【0068】
第1ローラー42の上端と支持部46の上端とは、同じ高さ位置である。さらに、案内部45の上端と第1ローラー42の上端とは、同じ高さ位置である。よって、硬い媒体M2は、第1ローラー42の上端、支持部46の上端、さらに案内部45の上端に接するストレート経路で搬送される。このため、吐出部62と媒体M2とのギャップが一定に保持される。その結果、ボード紙に貼り付けられた布帛にテスト印刷をした際も印刷品質が確保される。
【0069】
よって、第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)液体吐出装置11は、搬送部41、吐出部62、受け溝部71、案内部45、及び支持部46を備える。搬送部41は、第1ローラー42及び第1ローラー42に向けて媒体Mを押圧可能な第2ローラー43によって、媒体Mを挟持して搬送方向D1に搬送する。吐出部62は、搬送方向D1において、搬送部41よりも下流の位置で媒体Mに液体を吐出する。受け溝部71は、搬送方向D1と交差する高さ方向-Zにおいて、吐出部62と対向する。案内部45は、搬送方向D1において、吐出部62よりも下流の位置で媒体Mを案内する。支持部46は、搬送方向D1において受け溝部71よりも上流側に位置し且つ搬送部41よりも下流側の位置で媒体Mを支持可能に設けられる。この構成によれば、搬送部41と案内部45との間で媒体Mが弛むことを抑制でき、印刷品質の低下を抑制できる。
【0070】
(2)支持部46は、高さ方向-Zにおいて案内部45と同じ高さで媒体Mを支持可能に設けられる。この構成によれば、支持部46が案内部45と同じ高さで媒体Mを支持することによって、媒体Mが吐出部62と略平行な状態となるため、より好適に印刷品質の低下を抑制できる。
【0071】
(3)第2ローラー43の軸心の搬送方向D1における位置は、第1ローラー42の軸心の搬送方向D1における位置よりも下流の位置に配置される。この構成によれば、媒体Mを挟持した際の媒体Mの第1ローラー42及び第2ローラー43への巻付け長さが長くなり、搬送精度が向上する。また、第2ローラー43によって押し下げられた媒体Mは、支持部46に支持されることで案内部45と同じ高さに押し上げられる。よって、搬送精度と印刷品質を両立できる。
【0072】
(4)第1ローラー42は、高さ方向-Zにおいて案内部45と同じ高さで媒体Mを支持する。この構成によれば、布帛のように柔らかい媒体Mだけでなく、ボード紙のように硬い媒体Mを搬送する際にも、ストレート経路の構成を取ることができる。ストレート経路の構成を取る硬い媒体Mを吐出部62と略平行な経路で搬送できる。よって、柔らかい媒体Mと硬い媒体Mとの両方で印刷品質を確保できる。
【0073】
(5)媒体Mにおいて吐出部62と対向する部分の浮き上がりを規制する規制部材85と、規制部材85の高さ位置を調整可能に構成される調整機構80とを備える。支持部46は、調整機構80を構成する部材のうち規制部材85と共に高さ方向-Zに変位可能に設けられる部材の一例としての第1ブロック部材81に備えられる。この構成によれば、支持部46の高さ位置を調整すれば、これに連動して規制部材85の高さも調整される。よって、媒体Mの高さを調整するために高さ調整される支持部46と、媒体Mの高さに合わせて高さが調整される規制部材85との両調整が連動するので、調整操作を簡単に済ませられる。
【0074】
(第2実施形態)
次に、図8図13を参照して、第2実施形態の液体吐出装置11について説明する。なお、液体吐出装置11の基本的な構成は、前記第1実施形態と同様であるので、以下では、搬送機構22の構成を中心に説明する。
【0075】
支持部46は、高さ方向において案内部45と異なる高さで媒体Mを支持可能な高さに配置されてもよい。この場合、媒体Mは水平に対してやや傾いた経路を搬送されるので、吐出部62のノズル面62Aに対して少し傾くので、ノズル62Nの位置によってノズル62Nと媒体Mとのギャップがばらつくことになるが、必要な印刷精度上特に問題なければ、媒体Mの多少の傾きは許容される。例えば、吐出部62のノズル面62Aに対する媒体Mの傾きが、例えば、1~5°の範囲内の値であってもよい。
【0076】
第1ローラー42が媒体Mを支持する高さは、案内部45が媒体Mを支持する高さよりも低くてもよい。
支持部46は、案内部45が媒体Mを支持する高さと同じ高さで媒体Mを支持可能とした高さである第1位置と、案内部45と第1ローラー42との間の高さで媒体Mを支持可能とした高さである第2位置との間で変位可能に構成される。液体吐出装置11は、支持部46を第1位置と第2位置とに切り替える切替機構50を備える。
【0077】
図8図9に示すように、支持部46は、切替機構50により、図8に示す第1位置(図9では二点鎖線)と、図9に実線で示す第2位置との間で、媒体Mを支持する高さが切り替えられる。図8に示す布帛のような柔らかい媒体M1の場合、支持部46を案内部45と同じ高さである第1位置に変位させる。一方、ボード紙のような硬い媒体M2の場合、支持部46を、案内部45と第1ローラー42との間の高さである第2位置に変位させる。
【0078】
次に、支持部46に対して上記の切り替えが可能な切替機構50の構成について複数の例を説明する。
切替機構50には、ねじ方式、D型ローラー方式、突っ張り棒方式などが挙げられる。以下、順番に各方式の切替機構50の具体的な構成について説明する。なお、ねじ方式を第1実施例とし、D型ローラー方式を第2実施例とし、突っ張り棒方式を第3実施例とする。なお、図8図9における支持部46は模式図であり、以下の各実施例で示される具体的な支持部46と形状が異なる場合がある。
【0079】
<第1実施例>
まず、ねじ方式の切替機構50を採用する第1実施例について説明する。ねじ方式は、例えば、前記第1実施形態において支持部46の高さ調整用の調整機構80を切替機構50として利用する。そのため、図7を参照してねじ方式の切替機構50について説明する。なお、この第1実施例における切替機構50は、図7に示す調整機構80と基本的に同様の構成をとる。しかし、支持部46を第1位置と第2位置とに切り替えできるように、支持部46を上下に変位可能な最大変位量が、前記第1実施形態の最大変位量よりも大きく設定されている。また、図7を用いて切替機構50を説明するが、図7における調整機構80とその目的や変位量の違いがあるので、便宜上、切替機構50と称す。
【0080】
図7に示す切替機構50(調整機構80)は、ユーザーがドライバー等の工具を用いてねじ84を手動で回すことで支持部46の高さ位置を調整する。ユーザーがねじ84を調整することで支持部46は、案内部45と同じ高さで媒体Mを支持可能な高さ位置である第1位置に切り替えられる。この支持部46が第1位置にある状態で、ユーザーがねじ84を締め付けることで、支持部46は、媒体Mを支持する高さが案内部45と第1ローラー42との間の高さ位置である第2位置に切り替えられる。
【0081】
また、ねじ84は、ユーザーが操作することを想定して採用したが、駆動部の動力でねじを調整してもよい。この場合、ねじに限らず、ねじと同様のねじ軸(スクリュー軸)を有する構成であればよい。例えば、ねじ又はスクリュー軸の下端部にモーター等の駆動部の回転軸が連結されてもよい。制御部100は、モーター等の駆動部を正逆転制御することで、ねじ又はスクリュー軸を正転方向または逆転方向に軸回転させる。制御部100が、駆動部を正転駆動させると、ねじ又はスクリュー軸が正転方向に軸回転する。これにより、支持部46は上昇する。一方、制御部100が、駆動部を逆転駆動させると、ねじ又はスクリュー軸が逆転方向に軸回転する。これにより、支持部46は下降する。
【0082】
例えば、制御部100は、印刷データを受信すると、印刷データに含まれる印刷条件情報から媒体に関する種類及びサイズの情報を取得する。制御部100は、印刷条件情報から取得した媒体の種類がボード紙のような硬い媒体M2であることを認識すると、切替機構50の駆動源であるモーターを制御し、切替機構50を介して支持部46の高さ位置を第2位置に調整する。一方、制御部100は、印刷条件情報から取得した媒体の種類が布帛のような柔らかい媒体M1であることを認識すると、切替機構50の駆動源であるモーターを制御し、切替機構50を介して支持部46の高さ位置を第1位置に調整する。
【0083】
<第2実施例>
次に、図10図11を参照してD型ローラー方式の切替機構50について説明する。
図10に示すように、ベース部70において受け溝部71よりも搬送方向D1の上流位置で上方に延出した部分の上端部70Aには、支持部46を構成するDカット形状のローラー91(以下、「D型ローラー91」ともいう。)が支持されている。
【0084】
D型ローラー91は、外周面の一部が軸線と平行な面でカットされた形状を呈する。D型ローラー91は、その軸線と直交する仮想面で切断した断面形状が図10図11に示すD字形状を呈する。D型ローラー91は、カット面に相当する平面91Aと、平面91Aと、平面91A以外の凸曲面(円弧面)とを有する。
【0085】
D型ローラー91は、例えば、軸心を中心に回転可能に支持されている。D型ローラー91は、例えば、不図示のストッパーを解除位置に操作することで回転可能になり、その姿勢角を調整後、ストッパーを作動位置に操作することで、その姿勢角に保持される。なお、D型ローラー91は、軸心以外の位置で偏心回転が可能に支持されてもよい。
【0086】
図10に示すように、D型ローラー91を凸曲面が上に位置する第1姿勢角に調整することで、支持部46が案内部45と同じ高さで媒体M1を支持可能な第1位置に切り替えられる。柔らかい媒体M1のときは、D型ローラー91が第1位置に切り替えられる。柔らかい媒体M1は、搬送部41において第1ローラー42の外周面の一部に巻き付けられたニップ位置N1で第1ローラー42と第2ローラー43とにニップされる。このニップ位置は、支持部46の上端よりも低いので、媒体M1は、支持部46の凸曲面に押し付けられる。媒体M1は、支持部46と案内部45とに同じ高さで支持されることで張力が付与された状態の下で略水平な姿勢で搬送される。
【0087】
一方、図11に示すように、ボード紙のような硬い媒体M2である場合、D型ローラー91は、平面91Aが上に位置する第2姿勢角に調整される。これにより、支持部46は、案内部45が媒体Mを支持する高さと第1ローラー42が媒体Mを支持する高さとの間の高さで、媒体M1を支持可能な第2位置に調整される。つまり、硬い媒体M2のときは、D型ローラー91が第2位置に調整される。硬い媒体M2は、搬送部41において第1ローラー42の上端に支持される。このとき、第2ローラー43は、媒体M2の剛性によって弾性部材47の付勢力に抗して上方に持ち上げられる。
【0088】
支持部46の平面91Aは、第1ローラー42と案内部45との中間の高さ位置で媒体M2を支持する。これにより、硬い媒体M2は、第1ローラー42の上端、支持部46の平面91A、及び案内部45の上端に支持された状態で搬送される。この場合、媒体M2は、水平面に対して若干傾くが、その傾きは要求される印刷品質に問題がない範囲内に設定されている。また、硬い媒体M2がボード紙である場合、ボード紙に貼り付けたテスト用の布帛にテスト印刷をする際なので、この点からもさほど問題はない。
【0089】
<第3実施例>
次に、図12図13を参照して突っ張り棒方式の切替機構50について説明する。
図12に示すように、円柱状のガイドロッド92(突っ張り棒)が、その軸線が幅方向Xと平行になる向きに配置された状態で、ばね等の弾性部材93により上方に向かって付勢されている。弾性部材93は、その基端部がベース部70の上面70Bに固定され、その先端部がガイドロッド92に固定された状態にある。ガイドロッド92の高さは、不図示のストッパーに当接することで、媒体Mを支持する高さが、案内部45と同じになるようにその上限高さ位置が制限されている。つまり、支持部46であるガイドロッド92は、弾性部材93により上方に付勢された状態で、媒体M1を案内部45と同じ高さで支持可能な第1位置に配置される。
【0090】
また、案内部45の近傍には、媒体Mにおける案内ローラー45Rよりも搬送方向Y1に少し上流の位置で、浮き上がった媒体Mを下向きに押すことが可能な押圧部材95が回動可能な状態で設けられている。押圧部材95は、回動軸96を中心に回動可能なアーム97と、アーム97の先端部に支持された押圧ロッド98とを有する。押圧ロッド98は、ロッドに限らずローラーであってもよい。
【0091】
よって、図12に示すように、柔らかい媒体M1は、第1ローラー42の外周面の一部に巻き付けられるニップ位置で、第1ローラー42と第2ローラー43とにニップされる。このニップ位置は支持部46の上端よりも低いので、媒体M1は、ガイドロッド92の上端部の曲面に押し付けられる。媒体M1は、支持部46と案内部45とに同じ高さで支持されることで張力が付与された状態の下で略水平な姿勢で搬送される。
【0092】
一方、図13に示すように、ガイドロッド92は硬い媒体M2に押されて上限位置から少し下降する。すなわち、ガイドロッド92は、媒体Mを支持する高さ位置が、案内部45が媒体Mを支持する高さ位置と第1ローラー42が媒体Mを支持する高さ位置との間の高さ位置である第2位置まで下降する。このとき、硬い媒体M2の剛性によってガイドロッド92は弾性部材93の付勢力に抗して押し下げられる。つまり、ガイドロッド92の高さが、媒体M2の剛性によって、案内部45と第1ローラー42との間の高さ位置である第2位置に切り替わる。
【0093】
このとき、第1ローラー42及びガイドロッド92が媒体Mを支持する高さ位置は、案内部45が媒体Mを支持する高さ位置よりも低くなる。このため、媒体Mは、搬送方向D1の下流側ほど位置が高くなる斜めの姿勢に傾く。この媒体M2の搬送方向D1の下流端部側の部分が浮き上がると、あるいは浮き上がろうとすると、押圧部材95が、図13に二点鎖線で示す退避位置から媒体M2の上面を押圧可能な図13に実線で示す押圧位置に回動する。この結果、硬い媒体M2は、第1ローラー42の上端、ガイドロッド92の上端、及び案内部45の上端に支持された状態で搬送される。この場合、媒体M2は、水平面に対して若干傾くが、その傾きは要求される印刷品質に問題がない範囲内に設定されている。また、硬い媒体M2がボード紙である場合は、ボード紙に貼り付けたテスト用の布帛にテスト印刷をする際なので、この点からもさほど問題はない。
【0094】
よって、第2実施形態によれば、前記第1実施形態における前記(1)~(3)の効果が同様に得られる他、以下の効果が得られる。
(5)第1ローラー42が媒体Mを支持する高さは、案内部45が媒体Mを支持する高さよりも低い。支持部46は、案内部45が媒体Mを支持する高さと同じ高さで媒体Mを支持可能とした高さである第1位置と、案内部45と第1ローラー42との間の高さで媒体Mを支持可能とした高さである第2位置との間で変位可能に構成される。支持部46を第1位置と第2位置とに切り替える切替機構を備える。この構成によれば、布帛のように柔らかい媒体Mだけでなく、ボード紙のように硬い媒体Mを搬送する際にも、ストレート経路構成を取ることができる。
【0095】
なお、上記実施形態は以下に示す変更例のような形態に変更することもできる。さらに、上記実施形態および以下に示す変更例を適宜組み合わせたものを更なる変更例とすることもできるし、以下に示す変更例同士を適宜組み合わせたものを更なる変更例とすることもできる。
【0096】
図14に示すように、案内部45の摩擦係数μを、案内部45の直径D及び軸間距離ALの各値に応じて設定してもよい。案内部45の外周面は、案内ローラー45Rの材質そのもの、あるいは案内ローラー45Rの外周面に形成された低摩擦層48によって、媒体Mに対する摩擦係数μが所定の値に設定されている。図14に示す例では、案内ローラー45Rが、その外周面に低摩擦層48を有する。低摩擦層48は、案内ローラー45Rの外周面に、低摩擦テープを貼り付けて形成されてもよいし、低摩擦加工を施して形成されてもよい。
【0097】
ここで、媒体Mは、搬送部41と案内部45との間の部分で、インクの付着に起因するコックリングにより収縮する。コックリングとは、インク中の水分によって媒体Mの繊維が縮むために媒体Mのうち印刷された部分が収縮する現象である。媒体Mの材質によっては、インク中の水分により媒体Mの繊維が膨潤して伸び、この伸びが原因で媒体Mに皺が発生することでコックリングが発生する場合もある。また、加熱部90を有する液体吐出装置11においては、媒体Mのうち加熱部90により加熱された部分は収縮する。媒体Mに付着したインク中の水分が加熱により蒸発するので、媒体Mは収縮する。この種の媒体Mの収縮は、媒体Mの張力を変化させる。媒体Mは、第1ローラー42と案内ローラー45Rとの間の領域である第1領域と、案内ローラー45Rと巻取部23との間の領域である第2領域とで、張力の不均衡が起こる。第1領域は、吐出部62から吐出されたインクにより媒体Mに印刷が施される印刷領域を含む。そのため、第1領域は、コックリングを抑制できる適度な張力が付与されることが好ましい。また、第2領域では、加熱部90により加熱された加熱領域を含む。そのため、媒体Mは第2領域で収縮する。この収縮は、媒体Mの第2領域に皺を発生させる原因になる。案内ローラー45Rと媒体Mとの接触抵抗は、第2領域から第1領域への皺の伝播を抑制する働きがある。
【0098】
案内ローラー45Rと媒体Mとの接触面積が大きいほど、両者の接触部分に大きな摩擦抵抗が発生する。案内ローラー45Rと媒体Mとの接触面積は、案内ローラー45Rに対する媒体Mの巻付け角θと、案内ローラー45Rの直径Dとにより決まる。
【0099】
そこで、第1領域のコックリングに起因する皺を抑制しつつ、第2領域の皺を第1領域へ伝播することを抑制するためには、第1領域の張力と、媒体Mに対する案内ローラー45Rの摩擦抵抗と、第2領域の張力とを適切に調整することが好ましい。そのため、液体吐出装置11においては、軸間距離AL、案内ローラー45Rの直径D、案内ローラー45Rの摩擦係数μとが、図15に示す適切な条件を満たすように設定されている。ここで、軸間距離ALは、液体吐出装置11の機種に応じて決まる。
【0100】
図15に示すグラフは、横軸が案内ローラー45Rの接触長(mm)であり、縦軸が限界軸間距離(mm)である。限界軸間距離とは、1つの条件(直径D)を満たす軸間距離ALがある範囲を有する場合にその範囲の限界を示す。図15のグラフでは、軸間距離ALが小さい機種では、グラフ線L1を採用する。機種から軸間距離ALが属する限界軸間距離の範囲に対応するグラフ線L1が決まる。グラフ線L1は、摩擦係数μをμ=μ1に設定するグラフ線である。このグラフ線L1上の値になるように案内ローラー45Rの接触長が決められている。接触長は、巻付け角θと直径Dとで決まる。図15に示すグラフでは、一例として、グラフ線L1~L4を示しているが、その本数は任意に設定できる。液体吐出装置11では、軸間距離ALに応じて、案内ローラー45Rに対する媒体Mの接触長及び摩擦係数μが、図15にグラフで示す条件を満たすように設定されている。このように、液体吐出装置11において、軸間距離ALと摩擦係数μとに基づいて、コックリングが発生しない適切な接触長CLとなるように設定されてもよい。すなわち、軸間距離ALが決まると、その軸間距離ALに応じた摩擦係数μが決まる。摩擦係数μが決まると、その摩擦係数μに応じた接触長CLが決まる。この接触長CLが得られるように案内ローラー45Rの直径D(但し、巻付け角θは略一定)が設定される。
【0101】
この構成によれば、媒体Mの印刷領域におけるコックリングを抑制できる。また、加熱部90を有する液体吐出装置11においては、媒体Mにおける加熱による収縮が印刷領域に影響することを抑制できる。なお、加熱部90を有しない液体吐出装置11では、自然乾燥になるものの乾燥時の収縮に起因する皺は発生するので、図15に示す条件を満たすことで、同様の効果が得られる。また、図14では、支持部46を模式的に円で描いている。支持部46が媒体Mを支持する部分の摩擦抵抗は、搬送部41及び案内部45における摩擦抵抗に比べると十分小さい。支持部46がない構成でも、同様に、図15に示す条件を満たすことで、同様の効果が得られる。
【0102】
・前記実施形態では、搬送方向D1において受け溝部71よりも上流側の位置に支持部を配置したが、搬送方向D1において受け溝部71よりも下流側に位置し且つ案内部よりも上流側の位置で媒体Mを支持可能に設けられる第2の支持部を設けてもよい。
【0103】
・第1実施形態において、第2ローラー43によって押し下げられた媒体M1の高さが、支持部46が媒体Mを支持する高さ及び案内部45が媒体Mを支持する高さと同じであってもよい。この場合でも、搬送精度と印刷品質を両立できる。なお、媒体Mの支持部46への押し付け力は弱くなるか、又はさほど得られなくなるが、支持部46がない構成に比べ、少なくとも印刷領域での媒体M1の弛みや垂れは抑制し易い。
【0104】
・前記第1実施形態の支持部46は、上端に水平な平坦面を有する形状であったが、円柱形状のロッド又は上端に半円柱状の凸部を有する形状に変更してもよい。さらに、支持部46を、回転可能なローラーに変更してもよい。
【0105】
・第3実施例において、支持部46は、ガイドロッド92に替え、回転可能な状態で弾性部材93により付勢されたガイドローラーであってもよい。
・上記第2実施形態において、駆動部を無くし、手動式としてもよい。手動式である場合、例えば、ユーザーが操作部18を操作して液体吐出装置11に入力した媒体の種類(例えば布又はボード紙)に応じて、支持部46の高さを変更することを促す情報を、ユーザーに報知する報知部を設けてもよい。報知部は、例えば、表示部15であってもよいし、音声発生部でもよい。報知部が表示部15である場合、制御部100の制御に基づいて、表示部15に、支持部46の高さの変更を促す旨の情報を、画像や文字等で表示する。また、報知部が音声発生部である場合、制御部100の制御に基づいて、音声発生部から音声を発生させることでユーザーに支持部46の高さを変更する無念の情報を報知してもよい。さらに、報知部は、スマートフォン等の通信端末であってもよい。この場合、液体吐出装置11の制御部100と通信可能なサーバ装置からスマートフォン等の通信端末への通信を行うことで、ユーザーに支持部46の高さを変更する旨の情報を報知してもよい。
【0106】
・媒体Mは、布や不織布などの布帛又はボード紙等に限定されず、用紙、合成樹脂製のフィルムや、合成樹脂層と金属層とを含むラミネート媒体などでもよい。
・液体吐出装置11は、捺染装置に限定されず、用紙に印刷するインクジェット式の印刷装置(プリンター)でもよい。例えば、紙繊維の隙間が比較的大きい紙や、インクの浸透性の高い紙に印刷する場合、紙に多量のインクを吐出する印刷を行う受け溝部71を有するガタープラテンタイプの印刷装置でもよい。
【0107】
以下、前記実施形態及び変更例から把握される技術思想を効果と共に記載する。
(A)液体吐出装置は、第1ローラー及び前記第1ローラーに向けて媒体を押圧可能な第2ローラーによって、前記媒体を挟持して搬送方向に搬送する搬送部と、前記搬送方向において、前記搬送部よりも下流の位置で前記媒体に液体を吐出する吐出部と、前記搬送方向と交差する高さ方向において、前記吐出部と対向する受け溝部と、前記搬送方向において、前記吐出部よりも下流の位置で前記媒体を案内する案内部と、前記搬送方向において前記受け溝部よりも上流側に位置し且つ前記搬送部よりも下流側の位置で前記媒体を支持可能に設けられる支持部と、を備える。
【0108】
この構成によれば、搬送部と案内部との間で媒体が弛むことを抑制でき、印刷品質の低下を抑制できる。
(B)上記(A)に記載の上記液体吐出装置において、前記支持部は、前記高さ方向において前記案内部と同じ高さで前記媒体を支持可能に設けられてもよい。
【0109】
この構成によれば、支持部が案内部と同じ高さで媒体を支持することによって、媒体が吐出部と略平行な状態となるため、より好適に印刷品質の低下を抑制できる。
(C)上記(B)に記載の上記液体吐出装置において、前記第2ローラーの軸心の前記搬送方向における位置は、前記第1ローラーの軸心の前記搬送方向における位置よりも下流の位置に配置されることを特徴とする請求項2に記載の液体吐出装置。
【0110】
この構成によれば、媒体を挟持した際の媒体の第1ローラー及び第2ローラーへの巻付け長さが長くなり、搬送精度が向上する。また、第2ローラーによって押し下げられた媒体は、支持部に支持されることで案内部と同じ高さに押し上げられる。よって、搬送精度と印刷品質を両立できる。
【0111】
(D)上記(B)又は(C)に記載の上記液体吐出装置において、前記第1ローラーは、前記高さ方向において前記案内部と同じ高さで前記媒体を支持してもよい。
この構成によれば、布のように柔らかい媒体だけでなく、ボード紙のように硬い媒体を搬送する際にも、ストレート経路の構成を取ることができる。ストレート経路の構成を取る硬い媒体を吐出部と略平行な経路で搬送できる。よって、柔らかい媒体と硬い媒体との両方で印刷品質を確保できる。
【0112】
(E)上記(A)~(D)のいずれか一つに記載の上記液体吐出装置において、前記媒体において前記吐出部と対向する部分の浮き上がりを規制する規制部材と、前記規制部材の高さ位置を調整可能に構成される調整機構とを備え、前記支持部は、前記調整機構を構成する部材のうち前記規制部材と共に前記高さ方向に変位可能に設けられる部材に備えられてもよい。
【0113】
この構成によれば、支持部の高さ位置を調整すれば、これに連動して規制部材の高さも調整される。よって、媒体の高さを調整するために高さ調整される支持部と、媒体の高さに合わせて高さが調整される規制部材との両調整が連動するので、調整操作を簡単に済ませられる。
【0114】
(F)上記(A)~(C)のいずれか一つに記載の上記液体吐出装置において、前記第1ローラーが前記媒体を支持する高さは、前記案内部が前記媒体を支持する高さよりも低く、前記支持部は、前記案内部が前記媒体を支持する高さと同じ高さで前記媒体を支持可能とした高さである第1位置と、前記案内部と前記第1ローラーとの間の高さで前記媒体を支持可能とした高さである第2位置との間で変位可能に構成され、前記支持部を前記第1位置と前記第2位置とに切り替える切替機構を備えてもよい。
【0115】
この構成によれば、布のように柔らかい媒体だけでなく、ボード紙のように硬い媒体を搬送する際にも、ストレート経路構成を取ることができる。
【符号の説明】
【0116】
11…液体吐出装置、12…支持台、13…ハウジング、14…脚部、15…表示部、16…メンテナンス装置、17…キャップ、18…操作部、20…搬送装置、21…給送部、22…搬送部、23…巻取部、31…ロール体支持軸、32…第1ロール、33…給送モーター、34…案内面、41…搬送部、41P…搬送ローラー対、42…第1ローラー、43…第2ローラー、44…搬送モーター、45…案内部、45R…案内ローラー、46…支持部、47…弾性部材、48…低摩擦層、50…切替機構、51…巻取軸、52…第2ロール、53…巻取モーター、54…テンションバー、55…アーム、60…印刷部、61…キャリッジ、62…吐出部、62A…ノズル面、62N…ノズル、63…ガイド軸、64…動力伝達機構、65…プーリー、66…タイミングベルト、67…キャリッジモーター、68…幅検出部、70…ベース部、70A…上端部、70B…上面、71…受け溝部、71…受け溝部、72…ベース部材、73…受け部材、73A…凹部、73B…面部、74…受け皿、75…ガイド軸、80…調整機構、81…第1ブロック部材、82…第2ブロック部材、83…弾性部材、84…ねじ、85…規制部材、86…支持板、87…規制部、88…側板、90…加熱部、91…D型ローラー、91A…平面、92…ガイドロッド、93…弾性部材、95…押圧部材、96…回動軸、97…アーム、98…押圧ロッド、100…制御部、220…搬送機構、M…媒体、M1…柔らかい媒体、M2…硬い媒体、N1…ニップ位置、θ…巻付け角、D…直径、X…幅方向、Y…搬送方向、Y1…印刷位置における搬送方向、D1…搬送方向(経路に沿う方向)、Z…鉛直方向、-Z…高さ方向。
図1
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